Contract
賃貸借契約の終了と建物買取請求
当社は、20 年前、当社が所有する土地(更地)について、A社との間で契約期間を
30 年とする土地賃貸借契約を締結し、A社はこの土地にビルを建てて営業をしていましたが、A社から契約期間満了前に土地賃貸借契約を解約したいとの申し入れを受けました。
A社は当社に対し、解約にあたってビルを買取るよう請求すると主張していますが、当社としてどのように対応したらいいでしょうか。
1. 土地賃貸借契約の終了原因
本件のように建物所有を目的とする土地の賃借権は、選挙事務所のように一時使用目的であることが明らかな場合を除いて、民法の特別法である借地借家法により借地権として特別な保護が与えられています。
借地権の存続期間は 30 年以上とされており(借地借家法 3 条)、30 年以上の期間を定めた場合はその期間が存続期間とされ、30 年未満の期間を定めた場合や期間を定めなかった場合の存続期間は 30 年とされます。
なお、期間満了時に借地上に建物がある場合で借地人が更新を請求したときは賃貸人自らその土地を使用する必要性など正当の事由をもって遅滞なく異議を述べない限り契約は更新されたものとみなされ(借地借家法 5 条 1 項)、更新の請求がなく期間満了後も借地人が引き続き借地を使用収益している場合で賃貸人がそれを知りながら異議を述べないときも同様に契約は更新されたものとみなされます
(借地借家法 5 条 2 項)。
借地人に賃料不払いなどの債務不履行がある場合や借地人が賃貸人に無断で賃借権の譲渡又は転貸をした場合(民法 612 条)、賃貸人は賃貸借契約を解除して終了させることができ、また、賃貸人と借地人の合意によって賃貸借契約を終了させることができます。
契約時に借地人の解約権を留保した場合は、借地人は解約を申し入れることによって賃貸借契約を終了させることができます(民法 618 条、借地借家法 9 条)。
2. 建物買取請求権
賃貸借契約が終了した場合、賃借人は賃借物を返還する義務を負います(民法 616 条、597 条)。そのため、土地賃貸借契約において、借地人が借地に建物を建てて使用していた場合、原則として、借地人は賃貸人に対し土地を更地にして返還しなければなりません。
このような原則によれば、借地人は賃貸借契約が終了した場合、まだ建物が使用可能であるにもかかわらず建物を取り壊さなければならないことになり、借地人にとっても社会経済にとっても不合理な結果を招くことになります。
そこで、借地人に対し借地上の建物のために投下した資本の回収を保障するとい
う借地人保護の観点及びいったん建築した借地上の建物を保存させ社会的経済的 効用を全うさせるという経済的観点から、借地借家法 13 条は「借地権の存続期間が満了した場合において、契約の更新がないときは、借地権者は、借地権設定者に対し、建物その他借地権者が権原により土地に附属させた物を時価で買い取るべきことを請求することができる」と定め、借地人に建物買取請求権を認めています。建物買取請求権は、請求権者の一方的意思表示により効力を生じる形成権である とされており、借地人が建物買取請求権を行使することにより、直ちに賃貸人に建物の所有権が移転するため、借地人は賃貸人に対し、建物をそのまま引渡すことで
引渡義務を果たしたことになります。
借地人が建物買取請求権を行使した場合、借地人は土地所有者である賃貸人に対する建物の代金請求権を取得します。この賃貸人の代金支払義務は買取請求と同時に直ちに履行期に達するとされており、この代金支払義務と建物明渡義務は同時履行の関係にあるため、借地人は賃貸人から建物代金の支払いを受けるまでは、賃貸人に対する建物の引渡しを拒絶することができます。
土地賃貸借契約が、賃料不払いなど借地人の債務不履行により解除された場合、借地人が建物買取請求権を行使することはできません。
裁判例によれば、「借地法 4 条 2 項(現在の借地借家法 13 条 1 項)の規定は、誠実な借地人保護の規定であるから、借地人の債務不履行による土地賃貸借契約解除の場合には借地人は同条項による買取請求権を有しないと解すべきである」(最高裁昭和 35 年 2 月 9 日判決)とされています。
土地賃貸借契約が賃貸人と借地人の合意により期間の途中で終了した場合に、借地人が建物買取請求権を行使できるかは問題となります。
多くの裁判例は、当事者間において特に借地人における建物買取請求を認める合意が存在しない場合、借地人が地上建物の運命まで顧慮したうえで土地賃貸借契約の終了について合意したものと考えられるため、建物買取請求権の放棄及び建物の収去が前提とされていたと解すべきであると考えています。
3. 本件の場合
当社とA社の賃貸借契約は期間の定めのある契約ですので、賃貸借契約において解約権の留保がない場合、A社が一方的に解約の申し入れにより契約を終了させることはできません。そのため、当社が解約の申し入れに応諾しない限り、土地賃貸借契約は期間満了に至るまで存続することになります。
当社として、A社との土地賃貸借契約を終了させてもいいと考えている場合、A社との合意により賃貸借契約を終了させることになります。
この場合、上記裁判例の考えによれば、合意解約をする場合に当社とA社との間でA社の建物買取請求を認める旨の合意をしない限り、建物買取請求権は発生しないと考えられますが、念のため、当社としてA社の建物買取請求に応じないことを明示しておくべきでしょう。