Contract
法律で解決!
民事調停の管轄合意。
契約書の落とし穴に注意!
xxxxは、建設工事機械のレンタル業を営んでいます。会社は順調に業績を伸ばしていますが、
3 ヵ月ほど前から、レンタル先のA社から賃料を支払ってもらえていません。 A社の社長とはxx親しくしていたため、なんとか円満に解決したいと思っていますが、連絡に応じてくれず困り果て、xx弁護士に相談することにしました。
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xxさん 当社の建設機械のレンタル先の一つにA社という会社があるのですが、このA社が3ヵ月ほど前から賃料を支払ってく
ります。訴訟は、裁判官が双方の言い分を聴き、証拠を調べたうえで、法律に照らしてどちらの言い分が正しいかを決める制
て、相手方の住所のある地区の裁判を受けもつ簡易裁判所に申し立てることとなりますが、当事者が特定の簡易裁判所または
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September 2018
中小企業
トラブルは
怖くない !
れず、未払分は
万円ほどにな
度ですが、調停は、当事者同士
地方裁判所を管轄することに合
っています。A社の社長とはxx親しくしていたので、なんとか話し合いで解決できないかと思い、電話をしたり、手紙を送ったりしてみたのですが、A社も支払いが難しいようで、いまだ支払いがない状態です。
他方で、金額も金額ですので、長い時間をかけて裁判をして、というのは避けたいと考えてい るのですが、何か手はないもの でしょうか。
今月の
相談
xx 状況はよく理解できました。xxxxのご意向を踏まえれば、民事調停を申し立てるのがよい ように思います。
建設工事機械のレンタル会社の社長
xxさん 民事調停ですか。裁判所 で行う手続きか何かでしょうか。
xxさん
民事調停とは
相談者
xx 裁判所には、民事に関する 紛争の代表的な解決方法として、民事訴訟と民事調停の2つがあ
の合意によって紛争の解決を図ることを目的とするもので、裁判外紛争解決手続・ADRの一つです。民事調停の手続きは非公開で行われるので、他人には知られたくないような場合でも安心して事情を話すことができますし、解決までに要する期間も比較的短く、申立手数料も訴訟に比べて安くなっています。xxxx そうなのですか。そうであれば、ご助言に従い、民事調停を申し立てることにしたいと思います。民事調停を申し立てる場合、どこの裁判所に申し立てをすればよいのでしょうか。 A社はX県に所在する会社で、当社の所在するY県からは非常に遠いので、できればY県で申し立てを行いたいのですが。
民事調停の管轄について
xx 民事調停の場合、原則とし
意したときは、その裁判所も管 轄裁判所となります。本件にお いては、レンタル契約のなかで、管轄の合意がなされていると思 いますが、本日、契約書はおも ちでしょうか。
xxxx もちろんです。2部もってきておりますので、1部お渡しします。合意管轄は……。 xx 契約書の末尾部分ですね。
「この契約に関して疑義または紛争が生じたときは、甲乙協議のうえ、円満に解決します。甲乙は、この契約について訴訟の必要が生じたときは、Y地方裁判所を管轄裁判所とすることに合意します」と記載されています。
xxさん ありがとうございます。そうすると、Y地方裁判所に申し立てを行えばいいということですね。
xx それがそういう訳にもいかない可能性があるのです。
illustration:xxxx
xxさん え、それはどういうこと
ですか?
合意管轄条項の落とし穴
xx 先ほど少しご説明したとおり、民事調停法3条1項は、原則として当事者が合意で定めない限り、調停事件の相手方の住所などを管轄する簡易裁判所を管轄裁判所としています。同条項の趣旨は、合意による紛争解決を目的とする調停事件について、相手方の出頭の便宜に配慮し、調停の円滑な進行に資するところにあるとされています。本件の契約書においては「こ の契約について訴訟の必要が生じたときは」と定められているとおり、訴訟についての管轄を定めるものであることは明らか
xx親しくしていたA社の社長から建設機械のレンタル料金を支払ってもらえず困っているxx社長。円満解決を望んでいるため、xx弁護士から「民事調停」を勧められた
xxxx プロフィール
弁護士。専門分野は、一般企業法務、国際企業取引、企業合併・買収、労働関係、倒産処理/企業再建など多岐にわたる。警察庁退職後、法律事務所での勤務、シカゴ大学ロースクールへの留学などを経て、2004年からTMI総合法律事務所へパートナーとして参画。
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です。先ほどの趣旨に照らせば、この契約書の文言をもって、訴 訟のみならず調停についても管 轄合意があったと解釈すること は、相当ではないと判断される 可能性があります。実際、裁判 所がそのような判断をした事例 があります。そのため、本件に
おいても、契約書では調停に関
健全な企業の力になりたいと願い、研鑽を続ける弁護士
する管轄合意はなされていない と解釈される可能性があります。そうなれば、原則どおり、A社 の所在するX県で申し立てを行 う必要があります。
xx弁護士
回答者
xxxx そうなのですね。本件はともかくとして、契約書のひな型の文言を至急修正したいと思います。どのように修正すればよいでしょうか。
xx 「本契約に起因または関連して生じた紛争については、Y地方裁判所を専属的合意管轄裁判所とする」として、合意管轄の対象を「訴訟」に限定せず「、紛争」とすることでよろしいかと思います。
共同執筆者 xxxx プロフィール
弁護士。訴訟、不正調査、危機管理・コンプライアンス、スポーツ法務、その他一般企業法務に携わる。2016年 1 月にTMI総合法律事務所に入所し、現在に至る。
September 2018
xxxx よくわかりました。ありがとうございました。