※お客さまの企業活動が「環境」「社会」「経済」に与えるインパクトを特定し、そのインパクトを向上させる目標(KPI)の達成状況に応じて、お客さまが地域への感謝の 気持を込めて地域の自治体などに物品等を寄贈するものです。
2023.9.29
山一金属㈱と「寄贈型ポジティブ・インパクト・ファイナンス」の契約を締結
静岡銀行(xx xx x)では、SDGs への取り組みの一環として、山一金属㈱(社長 xxxx)と「寄贈型ポジティブ・インパクト・ファイナンス(※)」契約を締結しましたので、その概要をご案内します。
なお、寄贈型のポジティブ・インパクト・ファイナンスの取扱は、静岡県内金融機関で初めてとなります。
※お客さまの企業活動が「環境」「社会」「経済」に与えるインパクトを特定し、そのインパクトを向上させる目標(KPI)の達成状況に応じて、お客さまが地域への感謝の気持を込めて地域の自治体などに物品等を寄贈するものです。
1.契約日 9 月 29 日(金)
2.融資金額 3 億円
3.資金使途 運転資金
4.山一金属㈱の取り組みについて(詳細は「評価書」をご参照ください)
〇同社は年間 30 億本以上の使用済みアルミ缶を再資源化するリサイクル事業者です。売上のおよそ 8 割を独自技術で製造された「山一グリーンタブレット」が占め、アルミ缶製造過程における電力消費量および温室効果ガス排出量双方の削減に寄与しています。
〇今回、同社の企業活動が社会・環境・経済に与えるインパクトを、以下のとおり評価しました。
環境面 | ・環境経営の実践(環境方針の策定、環境マネジメントシステムの構築、ダイオキシン対策、排水及び水質の管理) ・気候変動対策(脱炭素ロードマップの作成及び推進、CO₂フリー電力の利 用、オフサイトコーポレート PPA によるxxx発電計画) |
|
社会面 | ・人材教育(安全性を高める新人教育、異なる環境下の業務を経験する 3交代ライン研修、外部研修を活用した効果的な従業員教育、幹部候補社員の育成) | |
社会・経済面 | ・地域との関係性強化および環境配慮意識醸成(環境教育機会の提供、啓発活動を通じた地域とのリレーション強化) ・女性の活躍推進(女性の働きやすい職場づくり、女性管理職の実現) |
|
経済面 | ・自社開発体制による競争力強化(アルミ缶リサイクルの技術開発、アルミ箔のリサイクル技術確立) |
|
5.その他
(1)インパクト評価/国連環境計画金融イニシアティブが提唱した「ポジティブ・インパクト金融原則」およびポジティブインパクトファイナンスタスクフォースが提唱した「インパクトファイナンスの基本的考え方」に基づき、一般財団法人静岡経済研究所が㈱日本格付研究所の協力を得て評価を実施
(2)モニタリング体制/一般財団法人静岡経済研究所とともに「ポジティブ・インパクト金融原則」に従い構築した内部管理体制のもと、インパクト評価で特定した KPI について、融資期間中における借入人のインパクトパフォーマンスのモニタリングを実施
【ご参考】山一金属㈱の概要
所 在 地 | xxxxxxxx 000 | 創 業 | 1953 年(昭和 28 年) |
資 本 金 | 9,825 万円 | 売 上 高 | 14,812 百万円(2023 年 4 月期) |
ポジティブ・インパクト・ファイナンス評価書
評価対象企業:山一金属株式会社
2023 年9月 29 日
一般財団法人 静岡経済研究所
目 次
3
4
5
12
22
3-1 UNEP FI のインパクト分析ツールを用いた分析 22
3-3 特定されたインパクト領域とサステナビリティ活動の関連性 23
24
29
29
29
静岡経済研究所は、静岡銀行が、 山一金属株式会社(以下、山一金属)に対してポジティブ・インパクト・ファイナンスを実施するに当たって、山一金属の企業活動が、環境・社会・経済に及ぼすインパクト(ポジティブな影響及びネガティブな影響)を分析・評価しました。
分析・評価に当たっては、株式会社日本格付研究所の協力を得て、国連環境計画金融イニシアティブ(UNEP FI)が提唱した「ポジティブ・インパクト金融原則」及び ESG 金融ハイレベル・パネル設置要綱第 2 項(4)に基づき設置されたポジティブインパクトファイナンスタスクフォースがまとめた「インパクトファイナンスの基本的考え方」に則った上で、中小企業※1に対するファイナンスに適用しています。
※1 IFC(国際金融公社)または中小企業基本法の定義する中小企業、会社法の定義する大会社以外の企業
山一金属は、年間 30 億本以上の使用済みアルミ缶を再資源化するリサイクル事業者である。
売上のおよそ8割を独自技術で製造された「山一グリーンタブレット」が占め、残りのおよそ 2 割が再生塊や、アルミラミネート箔のリサイクルによって抽出したアルミ粒である。タブレットは、アルミ缶リサイクルの溶解工程を省くことを実現しており、再資源化に伴うエネルギー使用量を削減している。
同社の事業活動は、環境面においてはタブレット製造及び普及によりアルミ缶の省エネ性を高めているほか、徹底した不純物除去及び選別技術により廃棄物の発生を抑制している。さらに、環境 マネジメントシステムにより従業員の環境配慮意識を高めるとともに、気候変動対策として脱炭素ロ ードマップ作成や CO₂フリーの電力使用でカーボンニュートラルの実現を推進する。社会面では、人材育成の充実や働きやすい職場づくりに取り組むほか、安全衛生が徹底された工場を整備している。経済面では、継続的な技術研鑽とノウハウ蓄積により高い競争力を維持するとともに、強固なサプ ライチェーンを築くことで、事業の持続性を高めている。また、社会・経済面でリサイクル事業には欠か せない地域との関係性強化にも取り組むほか、女性の活躍を推進する。
山一金属のサステナビリティ活動等を分析した結果、ポジティブ面では「教育」、「雇用」、「資源効率・安全性」、「廃棄物」、「包括的で健全な経済」、「経済収束」が、ネガティブ面では「健康・衛生」、「雇用」、「人格と人の安全保障」、「水(質)」、「大気」、「土壌」、「資源効率・安全性」、
「気候」、「廃棄物」がインパクト領域として特定され、そのうち、環境・社会・経済に対して一定の影響が想定され、山一金属の経営の持続可能性を高める6つのインパクト領域について、KPI が設定された。
今回実施予定の「ポジティブ・インパクト・ファイナンス」の概要
金額 | 300,000,000 円 |
資金使途 | 運転資金 |
モニタリング期間 | 7年0カ月 |
企業名 | 山一金属株式会社 |
所在地 | 本社工場:xxxxxxxxxxx 000 フェニックスプラント:xxxxxxxxxxx 000-0 xxxxxxxx:静岡県駿東xxx町xx 376-1 本社事務所・第5ヤード:xxxxxxxxxxx 000-00 xxヤード:xxxxxxxxxxx 000-0 xxヤード:xxxxxxxxxxx 000-0 xxヤード:xxxxxxxxxx 000-0 |
従業員数 | 83 名 |
資本金 | 9,825 万円 |
業種 | 非鉄金属リサイクル業 |
事業内容 | アルミ缶リサイクル、アルミタブレット・ペレット製造 |
認証など | 取得済み特許 11 件(申請済み 10 件) ISO14001 認証(環境マネジメントシステム) |
主要取引先 | 大手圧延メーカー |
法人組織化、有限会社へ改組
株式会社へ改組
現所在地(xxxx泉町)に本社工場を移転フェニックスプラント工場の稼働が開始 ISO14001 認証取得
本社社屋竣工
フェニックスビル竣工
静岡県xx市にて、非鉄金属問屋として個人創業
1953 年
1961 年
1968 年
1982 年
1991 年
2008 年
2015 年
2023 年
沿革
(2023 年 9 月 29 日現在)
1. 事業概要
山一金属は、使用済みアルミ缶のリサイクル事業者であり、新たなアルミ缶の原材料となる「再生アルミ」を製造している。売上のおよそ8割が独自技術で製造された「山一グリーンタブレット」で、残りのおよそ 2 割が再生アルミニウムインゴット(以下、再生塊)や、アルミラミネート箔のリサイクルによって抽出したアルミ粒である。タブレットや再生塊はアルミ缶の材料として圧延メーカーに、アルミ粒は金属酸化物を還元するための脱酸剤として製鉄所等に供給している。
<製品一覧>
1985 年以来アルミ缶リサイクルに携わってきた同社は、年間 30 億本以上の使用済みアルミ缶をリサイクルしているが、これは国内シェアの約 10~15%を占めている。この規模でアルミ缶をリサイクルするためには、周辺地域だけでは到底まかなえないため、全国各地の業者から仕入れる必要があるが、同社は 30 年以上かけて信頼関係を構築、調達網を確立してきた。さらに、相応の設備を備えていなければ処理できないため、1992 年に本社工場の隣に「フェニックスプラント」を建設し、生産能力を 100~150t/月から 1,000t/月に増強した。その後もアルミ缶需要の伸びに合わせて設備を拡大し続け、2006 年には 3,000 t/月、2015 年には 4,000t/月まで処理できる体制を整えた。
<サプライチェーンにおける位置づけ>
タブレットや再生塊の原料になるのは、家庭や事業所等で消費されたアルミ缶飲料の空き容器である。この使用済みアルミ缶は、自治体が地域で回収するほか、廃棄物処理業者が自動販売機や事業所、工場から回収することで大量に集められる。同社は、全国各地に調達網を構築しており、自治体や業者からアルミ缶スクラップを調達、アルミ缶の材料として適したアルミニウム合金として再資源化している。再資源化された「再生アルミ」は、アルミニウム加工を行う大手圧延メーカーに供給され、圧延メーカーではアルミ缶のボディ材やエンド材(蓋)である缶材に加工している。その後、飲料メーカーで飲料用容器として使用され、アルミ缶飲料として再び消費者の手に渡っている。このよう
なアルミ缶からアルミ缶へ資源を再生する「CAN to CAN」リサイクルは、循環型社会の実現に貢献するものであり、同社は再資源化という重要な役割を担っている。
なお、同社が製品を供給する圧延メーカーのひとつが株式会社 UACJ である。UACJ は、古河スカイと住友軽金属工業が経営統合し発足した世界トップクラスのアルミニウム総合メーカーだが、山一金属は UACJ とアルミ缶の再資源化において深い関係性を築いている。
両社は、2021 年 11 月に「UBC※加工処理の協業に向けた基本合意書」、2023 年 3 月に
「UBC の加工処理に関する合弁契約書」を締結している。新合弁会社は 2025 年4月に稼働予定で、UACJ xx製造所内に設立され、UBC から溶解までの工程を一貫して行う「溶解リサイクルシステム」を構築していく。山一金属と UACJ の協働により、循環型社会実現に向けたよりリサイクル率を高めた製品の提供が可能となる。
※UCB: 使用済み飲料缶(Used Beverage Can)で、本評価書内の使用済みアルミ缶と同義
出典:株式会社 UACJ ホームページ リリース・お知らせ「山一金属と UBC 加工処理の合弁会社を設立し、溶解リサイクルシステムを構築」
<製造工程>
一般的なアルミ缶リサイクルフローは、まず、自治体や業者から使用済みアルミ缶を回収し、シュレッダーで解砕するとともに、アルミ缶の中に入り混じっているスチール缶等を選別していく。次に、破砕されたアルミ缶を焙焼することで不純物を除去する。その後、アルミ缶の純度を高めることと納品先の規格に応じたアルミニウム合金にするため溶解を行い、インゴット状へ鋳造することで再生塊が出来上がる。一方、山一グリーンタブレットは、解砕・選別及び焙焼工程で不純物を徹底して除去することで、溶解工程を省く。不純物が取り除かれたアルミ缶の破片は、工程を経るとともに粒状に変形してペレット化する。その後、ペレットを圧縮してタブレット状に成型することで山一グリーンタブレットが出来上がる。
なお、圧延メーカーでは、これらの再生アルミを使用用途に合わせて再び溶解している。加えて、ア xx缶は製品ライフサイクル(回転率)が速いため、何度も溶解されて使われことになる。そこで、同社は自社における溶解工程を省くため、リサイクル技術を高め続け結果、このタブレット開発に至った。
回収
解砕・選別
焙焼
溶解
※同社でも顧客要望に応じ、一部は再生塊を製造
鋳造
圧縮
ペレット化
山一金属は、企業理念に「共に生き、共に栄える」を掲げている。これは、目標と価値を共有する人々、すべてのステークホルダーとともに、新たなる時代を生き抜くための価値を創造し、互いの相乗効果によりその価値を増幅させたいとの想いがある。アルミニウムという限られた資源に対して有効活用と省エネルギーを達成して環境と共に歩むこと、リサイクル事業を通じて社会や地域が一体となった循環型社会の構築を目指すこと、技術開発によって日本の工業発展と次世代に繋げることを理念としたものである。
<シンボルマーク・ロゴタイプ>
2021 年に設立 60 周年を迎えたことを機に、新たな決意のスタートとしてシンボルマークとロゴタイプを刷新している。誰もがxxして「山一金属」だと認識できるようにすることで、地域住民や顧客に
「山一ブランド」が根付くという狙いがあり、確立された「山一ブランド」が従業員のさらなる自信や山一金属で働いているというプライドに繋がって欲しいという願いが込められている。
【アルミニウム産業の動向】
アルミニウムは自動車や鉄道等の輸送用機器をはじめ、建材や食品向けの缶材・包装材、家電等多岐にわたり使用されている。一方、原料である地金は、バージン材であるボーキサイトから製錬されるxx金はすべて輸入し、スクラップを再生した二次地金でも3割以上を輸入している。
資料:(一社)日本アルミニウム協会「日本のアルミニウム産業概念図」
加工技術についても最終製品の用途に合わせて圧延や押出・引抜、鍛造、鋳造等、幅広い種類がある。アルミ地金メーカーでは、原料から加工用鋳塊を製造しており、たとえば、圧延加工用のスラブ(直方体の鋳塊)や押出加工用のビレット(棒状の鋳塊)、供給先で加工するインゴットを製造して素材を供給している。加えて、アルミニウムは添加元素の種類によって強度や耐食性、耐摩耗性、加工性等が変わる素材であることから使用目的に合った成分調整を実施した上で、アルミニウム合金として出荷している。
このようにアルミニウムは、資源の大半を海外から輸入している上、国内資源となるスクラップはアルミニウム合金の成分が混じり合い、成分調整が欠かせない素材となる。そこで、水平リサイクルによる効率的な利用が求められており、山一金属はアルミ缶リサイクルにおいて水平リサイクルを実現している。
【アルミ缶リサイクルの現況】
アルミ缶は、軽量で錆びにくく、遮光性や密閉性、熱伝導率に優れており内容物の品質を保持することに適している飲料容器である。そのため、アルミ缶の 2021 年度国内年間消費量は、33.1 万トン(217.8 億缶)に上っている。近年は、若者のビール離れや缶飲料のペットボトルへの切替等により頭打ちとなっているが、環境意識への高まりもあり底堅い需要を確保している。
なお、アルミ缶は海外輸出を含めて 31.9 万トンがアルミ缶材や鋳物・脱酸剤等に再生利用されており、リサイクル率は 90%以上を誇っている。アルミ缶へのリサイクル率(CAN to CAN 率)に絞ると 70%程となるが、これはリサイクルを繰り返すと不純物の混入や合金の成分が混じり合うため、再生アルミの純度が低下し、缶材としての再利用が難しい状態になるためである。同社では、不純物除去の徹底と、高度な選別技術を有しておりアルミ缶の水平リサイクルに大きく貢献している。
資料:アルミ缶リサイクル協会「2021 年度 アルミ缶再生利用フロー図」
資料:アルミ缶リサイクル協会「アルミ缶リサイクル率の推移(過去 10 年間)」
注)2021 年度まで実績値、2022 年度は見込み
【第2次長泉町環境基本計画】
山一金属が所在する長泉町では、愛鷹山麓や桃xxxの豊かな自然がある一方、地球温暖化や廃棄物の増大、河川の汚濁といった環境問題に対処する必要があったことから 2010 年に「長泉町環境基本条例」が施行、2012 年に「長泉町環境基本計画」を策定した。その後、計画期間を 2022 年度から 2031 年度までの 10 年間とした「第2次長泉町環境基本計画」を策定し、長期的な視点に立った環境課題、本計画では 30 年後に実現させたい環境像を「望ましい環境像」として、その実現のために 10 年間で実施していく施策や基本的な方向性を示している。
本計画では、環境目標として「脱炭素を実現するまち」や「ごみのない 資源が循環するまち」、
「みんなで取り組み 環境を育むまち」といった目標を掲げている。同社は、省エネルギー化を実現したリサイクル技術を有し、アルミ缶を再資源化するとともに、リサイクル事業者として地域の教育機関で出張授業を実施することで環境教育を施しており、長泉町の計画に大きく寄与している。
自然の恵みを xxへつなぐ 持続可能なまち ながい
環境目標 ①【地球環境】
脱炭素を実現するまち
環境目標 ②【廃棄物】
ごみのない
資源が循環するまち
環境
◦省エネルギーを推進する
◦再生可能エネルギー等を普及・推進する
◦4Rを推進する
◦ごみを適正
環境目標 ④ 【自然環境】
人と自然が 共生するま
◦森林と農地を
◦身近な生
望ましい環境像
資料:長泉町「第2次長泉町環境基本計画」
【第5次xx町総合計画】
同社は長泉町と清水町の町境に立地しており、一部の施設やヤードはxx町にも進出している。xx町は、町の中心部を国指定天然記念物である柿xxが流れているほか、中央を東西に横切るxx川や本xxxの美しい自然が豊富な地域である。
2021 年度に、「第5次xx町総合計画」を策定し、今後 10 年間のまちづくりの指針を示している。同計画の基本目標は6つにあるが、その中では「豊かな自然環境と地域の活力が誇りを育むまちへ」という目標を掲げており、施策として自然環境の保全や、循環型社会形成への取組み等を推進している。特に、循環型社会形成では、3R の推進やリサイクルの強化、廃棄物の適正処理といった事業への取組みを表明しており、同社の事業活動が十分に貢献できるものである。
2. サステナビリティ活動
(1)アルミ缶リサイクルを省エネ化する山一グリーンタブレット
アルミニウムは、加工の容易xx耐食性、軽量な金属であることから幅広く利用されているが、アルミニウムxx金を製錬する際には、莫大な電力(1t あたり約 15,000kWh)を必要とする。一方、使用済みアルミ缶等から再生塊を製造する場合は、xx金を製造する時に比べ、使用されるエネルギーを約3%に抑制できるため、優れたリサイクル資源として認知されている。
山一グリーンタブレットは、再生塊よりも電力使用量を抑えることで、さらなるエネルギー使用量の削減を実現している。具体的には、タブレットのリサイクルフローから一般的なアルミ缶リサイクルで必要とされる誘導炉での溶解工程を独自の焙焼技術によって省き、再資源化のためのエネルギー消費を大幅に抑制した。その結果、タブレット製造における電力使用量は、再生塊の 2.6%程度、xx金の 0.1%程度に、CO₂排出量は、再生塊の 17%程度(表面塗装等の樹脂を考慮した場合は 25%程度)、xx金の 2.7%程度に抑えることを実現した。
資料:同社ホームページ
さらに、破砕や選別技術等を高めたことで、アルミ缶の原料として最適な再生アルミの製造を可能としている。アルミ缶はボディ材(3004 系)とエンド材(5000 系)に使われるアルミニウム合金の含有成分が異なることから、アルミ缶スクラップから作られる再生アルミは成分調整が必要で、新たな資源投入や余分なエネルギー消費が生じていた。山一金属では、破砕や選別等の工程でボディ材とエンド材に分離することができる技術を確立しており、成分調整する必要がない高品質な再生アルミを製造している。このようにアルミ缶リサイクルの技術を高め、業界を牽引し続けた結果、エネルギー及び資源効率に優れた「山一グリーンタブレット」の認知度が浸透、大手圧延メーカーから信頼を勝ち得えたこともあり、年間約 30 億本ものアルミ缶の水平リサイクル、「CAN to CAN」リサイクルを実現している。
(2)廃棄物の削減及び適切な処理
再生アルミの材料は、全国各地から集められた使用済みアルミ缶のスクラップ塊で、不純物が入り混じっている。そのため、一般的にはスクラップ投入量の2割近くがアルミドロス(アルミ成分を含んだ酸化物)として発生してしまうが、このアルミドロスは用途が限定的であるため、過剰に生成されてしまうと産業廃棄物として処分されることになる。そこで、同社は徹底した不純物除去等でアルミペレット溶解時の歩留まり率 98%以上を実現し、アルミドロスの発生を抑制している。加えて、取引先の要望に応じて再生塊を鋳造する際には、フラックス処理や回転炉の制御、熟練工による絞り機操作等によりアルミドロスの削減に努めており、溶湯表面などに不可避的に発生してしまうアルミドロスもある中、わずか2%程に抑えている。なお、発生してしまったアルミドロスはアルミ成分を 70%以上含む純度の高いものにできていることから有価物として扱われ販売している。
焙焼工程はロータリーキルン炉で行われるが、ここで発生する灰についても同社独自の選別技術及び設備によって処理することで有価物として扱えるものにできている。その結果、最終的に廃棄物として排出されるのは、リサイクル前の原料量に対して1%だけであり、こちらについては、産業廃棄物業者に委託してマニフェスト処理を実施している。
また、本社工場に隣接した空きオフィスビルを買い取り、本社と同等の機能を備えるとともに、従業員の休憩施設用にリノベーションを施した「フェニックスビル」を設立した。既存物件を生かしたことに加え、調度品もリユース品やリサイクル品を取り入れていることで、廃棄物の削減と従業員の環境配慮意識の醸成に繋がる建物となっている。
(3)環境経営の実践
30 年以上リサイクル事業に携わっている同社は、企業理念で環境との調和を重要課題としており、社内外に自社の姿勢を明確に示すため環境方針を策定している。2008 年に ISO14001
(2004 年版)を取り入れて環境マネジメントシステムを構築しており、2015 年の改正後も継続して認証を取得している。以降も、国際システム審査株式会社による審査を定期的に受けており、第三者認証を得ている。加えて、社内体制として ISO 事務局を整備しており、毎期、取り組むべき課題を明らかにして様々な環境規制の適合基準を達成している。
また、ISO14001 では、環境方針とともに環境目標を設定している。現在は、①不適合品をゼロにする、②総販売量に占めるタブレットの比率を 80%以上とする、であり PDCA サイクルによって着実に取り組んでいる。このように ISO14001 を通じ、経営層が環境意識を明確に示すことで、環境ガバナンスを会社全体に浸透させている。
環境方針
山一金属株式会社は、非鉄金属スクラップをリサイクルする為に加工、販売している企業です。 主にアルミスクラップ
(アルミ缶、アルミ箔等)を加工し、その原料となる様グローバルに販売しています。
事業活動であるリサイクルを通じて、管理出来る環境への負荷の低減と環境汚染の防止に努めると共に、事業活動が環境と調和することを理念とし、地球環境保護の重要性と資源の有効化を認識し行動します。さらに当社の事業活動の環境側面に関連する法規制及び当社が同意するその他の要求事項を遵守します。環境パフォーマンスを向上させるために、環境マネジメントシステムを構築し継続的改善を図り維持します。
アルミ缶はコーティング剤に樹脂製の塗料が付着しているため、焙焼時にはダイオキシン類が発生してしまう可能性がある。同社では、ダイオキシン類対策として二次燃焼炉を設置、一次燃焼炉で出た排気ガスを昇温し、その後冷却することで無害化している。また、年に1回、ダイオキシン類対策特別措置法に準ずる排ガス等の測定検査を実施し、行政へ結果を報告して大気汚染を引き起してしまうことのないようにしている。
排水についても、環境に悪影響を及ぼさないように徹底している。同社では、燃焼炉内のコンベア等の冷却時に井戸水を利用するが、排水は同社が設置した油水分離槽を通過することで環境への負荷を軽減してから放出するようにしている。また、スクラップを解砕する缶ヤードは、可能な限り雨水が入り込まないよう屋根を備え付けているほか、仮に浸水してしまった場合でも土壌に染み出さな いよう地面をコンクリートで舗装している。なお、この缶ヤードでも油水分離槽を設置している。そのほ かのストックヤード等では、側溝や傾斜によって水路を作ることで、雨水が飛散して敷地外に流れ出ないように管理している。このような取組みの結果、水質汚濁等による行政からの指導は創業以来、一度も受けたことがない。
周辺環境への配慮では、騒音対策も実施している。まず、工場は住環境と離れた立地である上、敷地境界に6mの防音壁を完備している。この防音壁は、高速道路に設置されているものと同じ仕様で、遮音・吸音はもちろん火災時の防火壁やスクラップの飛散防止の役割も担っている。加え て、騒音が発生する設備は原則、個別棟の屋内か地下へ設置し、騒音対策を施している。
(4)気候変動対策
環境経営を掲げる同社では、カーボンニュートラルを達成すべく脱炭素化に積極的に取り組んでおり、実効的に進めるべく「脱炭素化ロードマップ」を作成している。ロードマップを達成した取組みとして、2022 年5月にフェニックスプラント及び小関ヤードで、2023 年5月に本社工場で、CO₂フリー由来の電力に切り替えている。今後は、オフサイトコーポレート PPA による太陽光発電を検討している。
(1)人材育成
外部研修を活用することで多くの従業員を効果的に育成している。まず、従業員が自身で必要なスキルや受講時期を判断できるようにセミナー主催者が発行する年間スケジュールを社内に掲示して様々な選択肢を明示し、継続な参加を推奨している。次に、経営層が積極的に受講し、研修内容によっては一緒に講座を受けていることで、従業員が参加意思を示しやすい環境を醸成している。加えて、正規非正規社員問わず費用を会社が負担している。このような取組みの結果、研修内容が活発に社内還元され、職務や経験に応じた適切なセミナーを自発的に受講する従業員が増えている。なお、従業員の受講比率は、従業員が増えている中でも変わりなく、受講経験がある従業員でも新たに別の研修に参加するため、2022 年度は全従業員 83 名に対して延べ人数 82名となり、実質的にほとんどの従業員が外部研修に参加している。
新人教育についても、外部のフレッシャーズセミナーやマナー研修を利用している。山一金属では、外部のフレッシャーズセミナーは、社外の人材と知り合う貴重な機会と捉えており、配属先に関わらず、全ての新人に参加を促している。その後のフォローアップ研修等も継続して案内することで、同じ境遇・立場の新社会人と垣根なく話せる場を用意し、モチベーションの向上やメンタルケアに役立てても らい自身の成長に繋げてもらっている。また、社会人マナーに関しても、外部で学ぶことで、他業種の人材との関わり方を効果的に学べる機会を提供している。
社内での教育は、現場を知ってもらうことが何よりも重要とし、新人は原則として製造課へ配属し ている。現場では、OJT 教育を施しており、教育担当者は十分な経験と責任感を持つ班長、または副班長に任せている。作業手順やリサイクルフローを教える際は、自身の安全面と製品の品質面 にどのような影響が発生するかしっかりと理解してもらいながら手厚く指導している。たとえば、マニュアルだけでは伝わりきらない騒音や熱が影響する環境下での注意事項や、最終的な製品の歩留まり率にどれほど差が出るのか等を教えている。なお、今後は将来を担う幹部候補社員を育成するため、経営やマネジメントに関する教育にも積極的に取り組んでいく。
(2)労働安全衛生
現場ではスクラップ塊やアルミ溶湯、大型トラックの出入りなどがあることから、新人には入念な安全研修を実施している。たとえば、工場は 24 時間稼働していることから、3交代ライン研修という昼夜で異なる環境下において、作業にどのような影響があるのかを経験する研修を導入している。この研修を行うことで、夜間作業時は視認性が悪くなるためできない作業があることや、日中は気温等に応じてこまめに休憩を挟まないといけないこと、朝方はスクラップや製品が結露している可能性があり品質に悪影響を及ぼすことと滑りやすい状態になっていることなどを学んでいる。
また、工場では焙焼や溶解を行うため設備や溶湯が高温に達するほか、スクラップ置き場では重量物が積み重なり保管されている。そこで、ルールや整理整頓の徹底、設備の自動化によって安全を確保している。まず、スクラップや製品などの重量物を移動させるフォークリフトは、通行帯を設けることで従業員が不用意に侵入しないようにして、接触事故を未然に防いでいる。なお、重量物を運
ぶフォークリフトはわずかな障害物であっても重大な事故に繋がりかねないことから通行帯及び作業区域、工場全体の整理整頓を徹底している。日々の業務においては、ヘルメットのあごひも確認やマスクの正しい着用等、従業員の安全衛生にしっかりと寄与する保護具装着を義務付けており、違反した場合には厳しい指導を行うことで再発を防いでいる。週3回行う全体朝礼時には、安全な作業手順を再確認することで属人化によるアクシデント発生を防止している。加えて、安全衛生委員会を設置し、安全衛生委員と産業医による職場巡視を定期的に行っている。その上で、月1回委員会を開催して職場内の安全衛生について議論することで課題に対して能動的に対処している。直近では、数年ぶりに軽微な労働災害が発生してしまったが、こちらについても臨時の安全衛生委員会を開き、再発防止策を講じてすぐに改善を施している。以降、同様の労働災害は発生していない。
また、自主防災組織を設立しており、災害発生時には、身の安全を確保した上で、設備停止等 を着実に実施できるよう毎年4月に全社員参加の総合防災訓練を実施している。この訓練により、社内での役割が明確化するなど従業員の意識向上に繋がり、備えができている。
さらに、リサイクル設備を自動化することで安全性を高めている。スクラップ投入後は、破砕・選別・焙焼工程まで材料がパイプを自動的に移動するため、人の手を介さずに完了するようになっている。溶解工程でも、人が近づいて作業する必要がないように、遠隔で操作ができる設備を導入し、従業員の安全を確保した労働環境を整備している。
熱中症対策では、水分補給がいつでもできるよう工場内には複数の給水サーバーや経口補水液を設置しているほか、班長の判断だけでこまめな休憩を取れるようにしており、熱中症を予防している。その結果、最近時は熱中症による救急搬送は起きていない。
(3)働きやすい職場づくり
2023 年4月に、従業員の労働環境をより一層良いものにするため、本社工場の隣にオフィスビル「フェニックスビル」を建設した。同施設には、広々とした食堂や仮眠室、気軽に使えるオープンスペース、汗や汚れを落とせるシャワールームが完備されているほか、ビル内の自動販売機では費用の一部を会社が負担し、割引価格で飲み物を購入できる。また、作業着の汚れは家庭用洗剤で落としにくいことを鑑み、家庭の負担を増やさないようすべて会社でクリーニングしている。このような福利厚生を充実させることで、モチベーション高く仕事に従事してもらえるようにしている。このほか、工場で作業する従業員に対しては安全手当を、深夜帯に勤務する従業員に対しては深夜手当を支給し、業務内容や労務負担に報いる適切な処遇を実践している。
▲従業員の働きやすい環境を実現する施設「フェニックスビル」 ▲リユース及びリサイクル品を取り入れたフェニックスビル内のインテリア
働きやすさとして、正当な評価によるモチベーション向上への取組みも行う。同社は、これまで従業員規模もあり人事評価制度を設けずに事業を営んでいたが、規模拡大に伴い必要性を強く認識し、 2023 年5月に制定、運用を開始した。具体的には、職位階層ごとに従業員を評価するための評価シート「ヒューマンシート」の作成や勤続年数や経験スキル等から決まる「等級制度」の制定、評価が正当なものか横串検証を行う「評価調整会議」の導入、従業員の成長を支援するとともに評価の納得性を高めるための「1on1ミーティング」と「評価フィードバック」の実施等を整備しており、今後取り組んでいく。
また、長時間労働を防止するための取組みも行っている。工場は、24 時間稼働しているが、4班3交代制を敷き、綿密なシフト計画を作成することで、工場勤務では残業が発生することはほとんどない上、着実に休日に入れるようにしている。加えて、従業員のワークライフバランスを実現するため、有給休暇の積極的な利用を推進している。工場勤務者は、班で業務にあたるためメンバーへの負担から申請をためらう従業員もいたが、取得が進んでいない従業員に対しては上司が声掛けを行い、有給休暇を利用しやすい環境を醸成しており、会社全体で有休取得率は 80%と高水準となっている。また、事務職においては、RPA の導入を行ったことで作業時間の削減を実現、月の残業時間は平均 10 時間以下となっている。
ハラスメントの防止やコンプライアンス徹底にも力を入れて取り組んでいる。まず、ハラスメント防止だが、幹部社員が外部のハラスメント防止講習を受けているほか、1on1ミーティングを取り入れる
ことでコミュニケーションの機会を増やし、話しかけやすい良好な関係性の構築を図っている。コンプライアンスについては、コンプライアンス委員会の設置やコンプライアンス規程の制定を実施している。委員会は月1回開催しており、社内でのコンプライアンス違反チェックや勉強会を行っている。この委員会には、女性を必ず参加させているほか、独立した組織運営を行い、経営に忖度しない委員会としている。勉強会は、コンプライアンス違反に当てはまる事例共有を学び、どのような行為がコンプライアンス違反に繋がるのかを理解する場となっている。また、内部通報制度も整備しており、意見箱や弁護士への通報手段を従業員に周知徹底することで社内の自浄作用を確立している。
(1)地域との関係性強化及び環境配慮意識醸成
同社が営むアルミ缶リサイクル事業は、家庭や商業施設、自動販売機等から日常的に排出される使用済みアルミ缶が原料である。そのため、人々の環境配慮意識を醸成し、使用済みアルミ缶という資源の回収率を高めることが持続的な事業運営には欠かせない。そこで同社は、少年期及び青年期の将来世代に対して環境教育機会を提供するとともに、地域と強固なリレーションを構築することで自社の持続可能性を高めている。まず、環境教育機会の提供だが、リサイクルに携わる企業として、伊豆総合高校のほか4校以上で SDGs をテーマとした出張授業を実施している。そのほか、産官民協働で実施している「SDGs QUEST みらい甲子園 静岡県大会」への協賛、清水町立清水小学校の「教材園」の再整備事業への寄付を行っており、将来世代の子ども達が環境について学ぶことのできる機会を創出している。
また、このような啓発活動を通じて同社に興味を抱き、入社を希望する地元高校生も現れており、実際、2022 年の新卒生で採用に至っている。環境に配慮することを身近に感じてもらえる活動を継続して行うことで、地域との関係性が強固になるとともに、将来のリサイクル業を担う人材創出へと 繋がり、持続的な事業活動を実現している。
▲地元高校生への出前授業の様子 ▲再整備された清水町小学校・教材園の八つ橋
(2)女性の活躍推進
会社の将来的な発展を見据え、女性の幹部候補社員の育成にも取り組んでいく方針である。事業の持続性を高めるためには女性の活躍が欠かせないが、業種柄、女性従業員が少なく 4 名の雇用に留まっている。そこで、女性でも働きやすく活躍できる職場づくりを推進するべく、フェニックスビルの整備による職場環境のイメージ改善に努めるほか、採用活動も積極的に行っている。管理職になった女性従業員がこれまでいなかったため、今後は、女性従業員がキャリアを意識できるよう女性初の管理職を実現するため積極的に取り組んでいく。
(1)強固なサプライチェーンの構築
年間 30 億本の使用済みアルミ缶をリサイクルする山一金属は、北海道から沖縄まで全国各地
の非鉄問屋や自治体等およそ 200 先からスクラップを調達できる体制を整えている。アルミニウムは、取引市場が形成されており、市場価格が決まっているため、販売者である非鉄問屋や自治体等に とっては販売先がどこであっても金銭面で大きな違いはない。そのため、「売りたい相手」となる必要が あり、同社は常に感謝の気持ちを示すとともに、納品から代金支払いまでスクラップ業界では通常1 カ月ほど要するところ原則3営業日以内に行う等、30 年以上にわたって真摯な姿勢を貫き信頼を 得てきた。その結果、全国からアルミ缶を回収できる調達網を構築できた。
一方、供給先の圧延メーカーは、UACJ といった大企業である。ただし、このような企業と初めから順調に取引開始できたわけではない。「山一グリーンタブレット」は、一般的なインゴット状の再生アルミとは製法や形状が異なり、同社独自の製品である。そのため、提案先は自社設備で利用できるか判断がつかない上、歩留まり率が採算に直結することから、タブレットを採用してくれる取引先はなかなか現れなかった。しかし、セールスビデオによる明瞭な説明や粘り強い営業を続けたことで、安定供給を条件に採用を決定してくれる圧延メーカーが出始めた。そこから、歩留まり率が良く高い品質と溶解工程を省いたことによる低コストな素材として業界内で認知が広まっていった。遂には、UACJ といった大企業でも認められるようになり、今では主要顧客として強固な関係性を築いている。
なお、UACJ とは、アルミ資源の循環型利用を実現するべく、関係性を深化させている。まず、アルミ缶リサイクルを加速させるため、両社で合弁会社を設立し、同社の独自技術を提供した新工場を 2025 年に福井県で稼働させる予定である。次に、UACJ が製造する「アルミカップ」をリサイクルする事業者として協働している。このアルミカップは、使い捨てプラスチックカップの削減を目的に、テーマパークやイベントにてデポジット式で使用される。現在、大手テーマパーク内でテスト運用が行われているほか、2023 年3月にはエコカップを活用してゼロを目指すイベント「ナカメチャレンジコップ 2023」で使用されており、今後の普及拡大が大いに期待されるものである。このほか、UACJ が実施した災害時アルミ缶入り備蓄水「虹の架け橋ネットワークシステム」に賛同するなど、連携の幅も広がっている。
▲株式会社 UACJ と連携しリサイクルするアルミカップ
(2)自社開発体制による競争力強化
アルミ缶リサイクルで再生アルミをより効率的に、より高い品質で製造するため、リサイクル事業に携わって以来、技術開発に取り組んできている。同社の最大の強みは、独自の焙焼技術である。この焙焼工程において、アルミ缶に付着した不純物を完全に燃焼させることで、溶解をする必要のないほど高品質な再生アルミを製造している。焙焼は、すべて異なるスクラップの状態を見極め、その日の湿度や気温に応じて温度を決定するため、長年のノウハウが欠かせない。同社は、30 年以上にわ たり経験を積み重ねており、他のアルミ缶リサイクル事業者には真似できない技術となっている。加え て、この焙焼技術を最大限生かすために、破砕や選別、煤塵除去においても技術開発を行っており、リサイクルフロー全体で、高品質な「山一グリーンタブレット」を製造している。また、選別工程では、アルミ缶のボディ材とエンド材の選別を可能としており、この技術は同社以外は有していない技術であ る。
さらに、同社が実現するまでリサイクル不能と言われていた、アルミ箔のリサイクル技術を実現している。1996 年に、経済産業省(当時の通商産業省)から「廃棄物用途開発・拡大等実施事業」の実施事業者に選定されたことで、アルミ缶リサイクル技術をアルミ箔及びアルミキャップに応用する技術の実証技術研究が進み、1997 年に、静岡県から「中小企業創造活動促進法研究開発」の事業計画として認定を受けたことで、アルミ箔複合材からアルミニウムを再生するリサイクルプラントを建設、課題であった原料回収と量産化システムが確立できたことでアルミ箔のリサイクル技術確立に至った。このような限りあるアルミ資源の有効活用を実現する技術開発に先進的に取り組んできたことで、国内外で取得済み特許は 11 件(その他申請済み 10 件)に上る。これらは特許期限が切れたものであるが、申請時から継続的に技術研鑽を重ねており非常に高い競争力を有する企業となっている。
3. 包括的分析
UNEP FI のインパクト分析ツールを用いて、山一金属のリサイクル事業を中心に、網羅的なインパクト分析を実施した。その結果、ポジティブ・インパクトとして「雇用」、「情報」、「包括的で健全な経済」が、ネガティブ・インパクトとして「雇用」、「水(質)」、「大気」、「土壌」、「資源効率・安全性」、「気候」、「廃棄物」が抽出された。
山一金属の個別要因を加味して、同社のインパクト領域を特定した。その結果、情報通信インフラの提供等の取組みがないことなどから、ポジティブ・インパクトのうち「情報」を削除した。一方で、同社のサスティナビリティ活動に関連のあるポジティブ・インパクトとして「教育」、「資源効率・安全性」、
「廃棄物」、「経済収束」を、ネガティブ・インパクトとして「健康・衛生」、「人格と人の安全保障」を追加した。
【特定されたインパクト領域】
UNEP FI のインパクト分析ツールにより抽出されたインパクト領域 | |||
ポジティブ | ネガティブ | ||
入手可能性、アクセス可能性、手ごろさ、品質 (一連の固有の特徴がニーズを満たす程度) | |||
水 | |||
食糧 | |||
住居 | |||
健康・衛生 | |||
教育 | |||
雇用 | |||
エネルギー | |||
移動手段 | |||
情報 | |||
文化・伝統 | |||
人格と人の安全保障 | |||
正義 | |||
強固な制度・平和・安定 | |||
質(物理的・化学的構成・性質)の有効利用 | |||
水 | |||
大気 | |||
土壌 | |||
生物多様性と生態系サービス | |||
資源効率・安全性 | |||
気候 | |||
廃棄物 | |||
人と社会のための経済的価値創造 | |||
包括的で健全な経済 | |||
経済収束 |
個別要因を加味し 特定されたインパクト領域 | |
ポジティブ | ネガティブ |
3-3 特定されたインパクト領域とサステナビリティ活動の関連性
山一金属のサステナビリティ活動のうち、ポジティブ面のインパクト領域としては、山一グリーンタブレットによるアルミ缶リサイクルが「資源効❹・安全性」や「廃棄物」に該当し、新人教育や外部研修といった人材育成に係る取組みが「教育」や「雇用」に資する取組みと評価される。また、地域での環境配慮意識醸成による事業持続性を向上させる取組みや女性の活躍推進が「雇用」や「包括的で健全な経済」に該当する。さらに、強固なサプライチェーンの構築や自社開発体制による競争力強化は「経済収束」への寄与が認められる。
一方、ネガティブ面においては、環境経営の実践が「水(質)」や「大気」、「土壌」に該当し、気候変動対策が「気候」に該当する。また、廃棄物の削減及び適切な処理は、「資源効❹・安全性」や「廃棄物」への貢献が認められるほか、働きやすい職場づくりに関する取組みが「雇用」や「人格と人の安全保障」に資する取組みと評価できる。さらに、労働安全衛生は、「健康・衛生」や「雇用」への寄与が認められる。
UNEP FI のインパクト評価ツールを用いたインパクト分析結果を参考に、山一金属のサステナビリティに関する活動を同社の HP、提供資料、ヒアリングなどから網羅的に分析するとともに、同社を取り巻く外部環境や地域特性などを勘案し、同社が環境・社会・経済に対して最も強いインパクトを与える活動について検討した。そして、同社の活動が、対象とするエリアやサプライチェーンにおける環境・社会・経済に対して、ポジティブ・インパクトの増大やネガティブ・インパクトの低減に最も貢献すべき活動を、インパクト領域として特定した。
4. KPI の設定
特定されたインパクト領域のうち、環境・社会・経済に対して一定の影響が想定され、山一金属の経営の持続可能性を高める項目について、以下の通り KPI が設定された。なお、モニタリング期間内に KPI の設定年度が到来するものは、その年度において再度 KPI を設定し、測定していく。
インパクトレーダーとの関連性 | 水(質)、大気、土壌 |
インパクトの別 | ネガティブ・インパクトの低減 |
テーマ | 環境経営の実践 |
取組内容 | 環境方針の策定、環境マネジメントシステムの構築、ダイオキシン対策、排水及び水質の管理 |
SDGs との関連性 | 2020 年までに、合意された国際的な枠組みに従い、製品ライフサイクルを通じ、環境上適正な化学物質や全ての廃棄物 12.4 の管理を実現し、人の健康や環境への悪影響を最小化するため、化学物質や廃棄物の大気、水、土壌への放出を大幅に 削減する。 |
KPI(指標と目標) | ISO14001 に継続的に取り組み、環境目標を達成して ① いく |
インパクトレーダーとの関連性 | 気候 |
インパクトの別 | ネガティブ・インパクトの低減 |
テーマ | 気候変動対策 |
取組内容 | 脱炭素ロードマップの作成及び推進、CO₂フリー電力の利用、オフサイトコーポレート PPA による太陽光発電計画 |
SDGs との関連性 | 2030 年までに、世界のエネルギーミックス 7.2 における再生可能エネルギーの割合を大幅に拡大させる。 全ての国々において、気候関連災害や自 13.1 然災害に対する強靱性(レジリエンス)及び適応の能力を強化する。 |
KPI(指標と目標) | 2030 年までに、GHG 排出量を 2019 年比 28%削減 ① する |
教育、雇用 | |
インパクトの別 | ポジティブ・インパクトの増大 |
テーマ | 人材教育 |
取組内容 | 安全性を高める新人教育、異なる環境下の業務を経験する 3交代ライン研修、外部研修を活用した効果的な従業員教育、 幹部候補社員の育成 |
SDGs との関連性 | 2030 年までに、技術的・職業的スキルな ど、雇用、働きがいのある人間らしい仕事 4.4 及び起業に必要な技能を備えた若者と成 人の割合を大幅に増加させる。 |
KPI(指標と目標) | 2024 年までに、外部研修の参加人数について従業員比 ① 100%を達成する |
インパクトレーダーとの関連性 | 雇用、包括的で健全な経済 |
インパクトの別 | ポジティブ・インパクトの増大 |
テーマ | 地域との関係性強化及び環境配慮意識醸成 |
取組内容 | 環境教育機会の提供、啓発活動を通じた地域とのリレーション強化 |
SDGs との関連性 | 2020 年までに、就労、就学及び職業訓 8.6 練のいずれも行っていない若者の割合を大幅に減らす。 気候変動の緩和、適応、影響軽減及び 13.3 早期警戒に関する教育、啓発、人的能力及び制度機能を改善する。 |
KPI(指標と目標) | ① 毎年、地元高校生や地元出身者を 2 名採用する |
インパクトレーダーとの関連性 | 雇用、包括的で健全な経済 |
インパクトの別 | ポジティブ・インパクトの増大 |
テーマ | 女性の活躍推進 |
取組内容 | 女性の働きやすい職場づくり、女性管理職の実現 |
SDGs との関連性 | 政治、経済、公共分野でのあらゆるレベル の意思決定において、完全かつ効果的な 5.5 女性の参画及び平等なリーダーシップの機 会を確保する。 |
2026 年までに、創立以来初めての女性管理職登用を ① 実現する |
経済収束 | |
インパクトの別 | ポジティブ・インパクトの増大 |
テーマ | 自社開発体制による競争力強化 |
取組内容 | アルミ缶リサイクルの技術開発、アルミ箔のリサイクル技術確立 |
SDGs との関連性 | 高付加価値セクターや労働集約型セクタ ーに重点を置くことなどにより、多様化、技 8.2 術向上及びイノベーションを通じた高いレ ベルの経済生産性を達成する。 2030 年までに天然資源の持続可能な 12.2 管理及び効率的な利用を達成する。 |
KPI(指標と目標) | ① 2025 年までに、リサイクルに寄与する新技術を開発する 2025 年までに、既存技術のさらなる向上を実現する ② (歩留まり率の改善等) |
5. 地域経済に与える波及効果の測定
山一金属は、本ポジティブ・インパクト・ファイナンスの KPI を達成することによって、5年後の売上高を 200 億円に、従業員数を 90 人にすることを目標とする。
「平成 27 年静岡県産業連関表」を用いて、静岡県経済に与える波及効果を試算すると、この
目標を達成することによって、山一金属は、静岡県経済全体に年間 290 億円の波及効果を与える企業となることが期待される。
6. マネジメント体制
山一金属では、本ポジティブ・インパクト・ファイナンスに取り組むにあたり、大賀代表取締役社長が陣頭指揮を執り、社内の制度や計画、日々の業務や諸活動などを棚卸しすることで、自社の事業活動とインパクトレーダーやSDGsとの関連性、KPIの設定について検討を重ねた。
本ポジティブ・インパクト・ファイナンス実行後においても、大賀代表取締役社長を最高責任者、大賀専務取締役を実行責任者とし、社内一丸となって取り組んでく。経営企画部が中心となり年始ミーティングや役員会や課長会等、各職位階層の定例会を通じて社内へ浸透させ、KPI の達成に向けて全従業員が一丸となって活動を実施していく。
最高責任者 | 代表取締役社長 大賀 俊和 |
実行責任者 | 専務取締役 大賀 丈久 |
担当部署 | 経営企画部 |
7. モニタリングの頻度と方法
本ポジティブ・インパクト・ファイナンスで設定した KPI の達成及び進捗状況については、静岡銀行と山一金属の担当者が定期的に会合の場を設け、共有する。会合は少なくとも年に1回実施するほか、日頃の情報交換や営業活動の場などを通じて実施する。
静岡銀行は、KPI 達成に必要な資金及びその他ノウハウの提供、あるいは静岡銀行の持つネットワークから外部資源とマッチングすることで、KPI 達成をサポートする。
モニタリング期間中に達成した KPI に関しては、達成後もその水準を維持していることを確認する。なお、経営環境の変化などにより KPI を変更する必要がある場合は、静岡銀行と山一金属が協議の上、再設定を検討する。
以 上
本評価書に関する重要な説明
1.本評価書は、静岡経済研究所が、静岡銀行から委託を受けて実施したもので、静岡経済研究所が静岡銀行に対して提出するものです。
2.静岡経済研究所は、依頼者である静岡銀行及び静岡銀行がポジティブ・インパクト・ファイナンスを実施する山一金属から供与された情報と、静岡経済研究所が独自に収集した情報に基づく、現時点での計画または状況に対する評価で、将来におけるポジティブな成果を保証するものではありません。
3.本評価を実施するに当たっては、国連環境計画金融イニシアティブ(UNEP FI)が提唱した「ポジティブ・インパクト金融原則」に適合させるとともに、ESG 金融ハイレベル・パネル設置要綱第 2 項(4)に基づき設置されたポジティブインパクトファイナンスタスクフォースがまとめた「インパクトファイナンスの基本的考え方」に整合させながら実施しています。なお、株式会社日本格付研究所から、本ポジティブ・インパクト・ファイナンスに関する第三者意見書の提供を受けています。
<評価書作成者及び本件問合せ先>
一般財団法人静岡経済研究所
調査部 研究員 後藤 裕大
〒420-0853
静岡市葵区追手町 1-13 アゴラ静岡 5 階 TEL:054-250-8750 FAX:054-250-8770
第三者意見書
2023 年 9 月 29 日株式会社 日本格付研究所
評価対象: 山一金属株式会社に対するポジティブ・インパクト・ファイナンス |
貸付人:株式会社静岡銀行 |
評価者:一般財団法人静岡経済研究所 |
第三者意見提供者:株式会社日本格付研究所(JCR) |
結論:
本ファイナンスは、国連環境計画金融イニシアティブの策定したポジティブ・インパクト・ファイナンス原則に適合している。
また、環境省のESG 金融ハイレベル・パネル設置要綱第 2 項(4)に基づき設置さ
れたポジティブインパクトファイナンスタスクフォースがまとめた「インパクトファイナンスの基本的考え方」と整合的である。
I. JCR の確認事項と留意点
JCR は、静岡銀行が山一金属株式会社(「山一金属」)に対して実施する中小企業向けのポジティブ・インパクト・ファイナンス(PIF)について、静岡経済研究所による分析・評価を参照し、国連環境計画金融イニシアティブ(UNEP FI)の策定したPIF 原則に適合していること、および、環境省の ESG 金融ハイレベル・パネル設置要綱第 2 項(4)に基づき設置されたポジティブインパクトファイナンスタスクフォースがまとめた「インパクトファイナンスの基本的考え方」と整合的であることを確認した。
PIF とは、SDGs の目標達成に向けた企業活動を、金融機関が審査・評価することを通じて促進し、以て持続可能な社会の実現に貢献することを狙いとして、当該企業活動が与えるポジティブなインパクトを特定・評価の上、融資等を実行し、モニタリングする運営のことをいう。
PIF 原則は、4 つの原則からなる。すなわち、第 1 原則は、SDGs に資する三つの柱(環境・社会・経済)に対してポジティブな成果を確認できるかまたはネガティブな影響を特定し対処していること、第 2 原則は、PIF 実施に際し、十分なプロセス、手法、評価ツールを含む評価フレームワークを作成すること、第 3 原則は、ポジティブ・インパクトを測るプロジェクト等の詳細、評価・モニタリングプロセス、ポジティブ・インパクトについての透明性を確保すること、第 4 原則は、PIF 商品が内部組織または第三者によって評価されていることである。
UNEP FI は、ポジティブ・インパクト・ファイナンス・イニシアティブ(PIF イニシアティブ)を組成し、PIF 推進のためのモデル・フレームワーク、インパクト・レーダー、インパクト分析ツールを開発した。静岡銀行は、中小企業向けの PIF の実施体制整備に際し静岡経済研究所と共同でこれらのツールを参照した分析・評価方法とツールを開発している。ただし、PIF イニシアティブが作成したインパクト分析ツールのいくつかのステップは、国内外で大きなマーケットシェアを有し、インパクトが相対的に大きい大企業を想定した分析・評価項目として設定されている。JCR は、PIF イニシアティブ事務局と協議しながら、中小企業の包括分析・評価においては省略すべき事項を特定し、静岡銀行及び静岡経済研究所にそれを提示している。なお、静岡銀行は、本ファイナンス実施に際し、中小企業の定義を、PIF 原則等で参照しているIFC の定義に拠っている。
JCR は、中小企業のインパクト評価に際しては、以下の特性を考慮したうえでPIF 原則との適合性を確認した。
① SDGs の三要素のうちの経済、PIF 原則で参照するインパクト領域における「包括的で健全な経済」、「経済収れん」の観点からポジティブな成果が期待できる事業主体である。ソーシャルボンドのプロジェクト分類では、雇用創出や雇用の維持を目的とした中小企業向けファイナンスそのものが社会的便益を有すると定義されている。
② 日本における企業数では全体の 99.7%を占めるにもかかわらず、付加価値額では 52.9%にとどまることからもわかるとおり、個別の中小企業のインパクトの発現の仕方や影響度は、その事業規模に従い、大企業ほど大きくはない。1
③ サステナビリティ実施体制や開示の度合いも、上場企業ほどの開示義務を有していないことなどから、大企業に比して未整備である。
II. PIF 原則への適合に係る意見
PIF 原則 1
SDGs に資する三つの柱(環境・社会・経済)に対してポジティブな成果を確認できるかまたはネガティブな影響を特定し対処していること。
SDGs に係る包括的な審査によって、PIF は SDGs に対するファイナンスが抱えている諸問題に直接対応している。
静岡銀行及び静岡経済研究所は、本ファイナンスを通じ、山一金属の持ちうるインパクトを、UNEP FI の定めるインパクト領域および SDGs の 169 ターゲットについて包括的な分析を行った。
この結果、山一金属がポジティブな成果を発現するインパクト領域を有し、ネガティブな影響を特定しその低減に努めていることを確認している。
SDGs に対する貢献内容も明らかとなっている。
PIF 原則 2
PIF を実行するため、事業主体(銀行・投資家等)には、投融資先の事業活動・プロジェクト・プログラム・事業主体のポジティブ・インパクトを特定しモニターするための、十分なプロセス・方法・ツールが必要である。
JCR は、静岡銀行がPIF を実施するために適切な実施体制とプロセス、評価方法及び評価ツールを確立したことを確認した。
(1) 静岡銀行は、本ファイナンス実施に際し、以下の実施体制を確立した。
1 経済センサス活動調査(2016 年)。中小企業の定義は、中小企業基本法上の定義。業種によって異なり、製造業は資本金 3 億円以下または従業員 300 人以下、サービス業は資本金 5 千万円以下または従業員 100 人以下などだ。小規模事業者は製造業の場合、従業員 20 人以下の企業をさす。
①PIFの申込み | ②PIF評価依頼 | レビュー依頼 | ||||
③インパクトの | ||||||
包括分析・特定 | ||||||
お客さま | ⑤目標・KPI等の協議 | 当行 | ④インパクトの還元 | 静岡経済研究所 | コメントバック | JCR |
⑥目標・KPI等の報告 | レビュー依頼 | |||||
⑨融資実行 | ⑦目標・KPI等の | |||||
PIF評価書交付 | 評価 | |||||
⑧PIF評価書作成 | コメントバック |
(出所:静岡銀行提供資料)
(2) 実施プロセスについて、静岡銀行では社内規程を整備している。
(3) インパクト分析・評価の方法とツール開発について、静岡銀行からの委託を受けて、静岡経済研究所が分析方法及び分析ツールを、UNEP FI が定めたPIF モデル・フレームワーク、インパクト分析ツールを参考に確立している。
PIF 原則 3 透明性
PIF を提供する事業主体は、以下について透明性の確保と情報開示をすべきである。
・本PIF を通じて借入人が意図するポジティブ・インパクト
・インパクトの適格性の決定、モニター、検証するためのプロセス
・借入人による資金調達後のインパクトレポーティング
PIF 原則 3 で求められる情報は、全て静岡経済研究所が作成した評価書を通して銀行及び一般に開示される予定であることを確認した。
PIF 原則 4 評価
事業主体(銀行・投資家等)の提供する PIF は、実現するインパクトに基づいて内部の専門性を有した機関または外部の評価機関によって評価されていること。
本ファイナンスでは、静岡経済研究所が、JCR の協力を得て、インパクトの包括分析、特定、評価を行った。JCR は、本ファイナンスにおけるポジティブ・ネガティブ両側面のインパクトが適切に特定され、評価されていることを第三者として確認した。
III. 「インパクトファイナンスの基本的考え方」との整合に係る意見
インパクトファイナンスの基本的考え方は、インパクトファイナンスを ESG 金融の発展形として環境・社会・経済へのインパクトを追求するものと位置づけ、大規模な民間資金を巻き込みインパクトファイナンスを主流化することを目的としている。当該目的のため、国内外で発展している様々な投融資におけるインパクトファイナンスの考え方を参照しなが
ら、基本的な考え方をとりまとめているものであり、インパクトファイナンスに係る原則・ガイドライン・規制等ではないため、JCR は本基本的考え方に対する適合性の確認は行わない。ただし、国内でインパクトファイナンスを主流化するための環境省及びESG 金融ハイレベル・パネルの重要なメッセージとして、本ファイナンス実施に際しては本基本的考え方に整合的であるか否かを確認することとした。
本基本的考え方におけるインパクトファイナンスは、以下の 4 要素を満たすものとして定義されている。本ファイナンスは、以下の 4 要素と基本的には整合している。ただし、要素③について、モニタリング結果は基本的には借入人である山一金属から貸付人である静岡銀行及び評価者である静岡経済研究所に対して開示がなされることとし、可能な範囲で対外公表も検討していくこととしている。
要素① 投融資時に、環境、社会、経済のいずれの側面においても重大なネガティブインパクトを適切に緩和・管理することを前提に、少なくとも一つの側面においてポジティブなインパクトを生み出す意図を持つもの
要素② インパクトの評価及びモニタリングを行うもの
要素③ インパクトの評価結果及びモニタリング結果の情報開示を行うもの
要素④ 中長期的な視点に基づき、個々の金融機関/投資家にとって適切なリスク・リターンを確保しようとするもの
また、本ファイナンスの評価・モニタリングのプロセスは、本基本的考え方で示された評価・モニタリングフローと同等のものを想定しており、特に、企業の多様なインパクトを包括的に把握するものと整合的である。
IV. 結論
以上の確認より、本ファイナンスは、国連環境計画金融イニシアティブの策定したポジティブ・インパクト・ファイナンス原則に適合している。
また、環境省の ESG 金融ハイレベル・パネル設置要綱第 2 項(4)に基づき設置されたポジティブインパクトファイナンスタスクフォースがまとめた「インパクトファイナンスの基本的考え方」と整合的である。
(第三者意見責任者) 株式会社日本格付研究所
サステナブル・ファイナンス評価部長
梶原 敦子
担当主任アナリスト 担当アナリスト
梶原 敦子 川越 広志
本第三者意見に関する重要な説明
1. JCR 第三者意見の前提・意義・限界
日本格付研究所(JCR)が提供する第三者意見は、事業主体及び調達主体の、国連環境計画金融イニシアティブの策定したポジティブ・インパクト金融(PIF)原則への適合性及び環境省 ESG 金融ハイレベル・パネル内に設置されたポジティブインパクトファイナンスタスクフォースがまとめた「インパクトファイナンスの基本的考え方」への整合性に関する、JCR の現時点での総合的な意見の表明であり、当該ポジティブ・インパクト金融がもたらすポジティブなインパクトの程度を完全に表示しているものではありません。
本第三者意見は、依頼者である調達主体及び事業主体から供与された情報及び JCR が独自に収集した情報に基づく現時点での計画又は状況に対する意見の表明であり、将来におけるポジティブな成果を保証するものではありません。また、本第三者意見は、PIF によるポジティブな効果を定量的に証明するものではなく、その効果について責任を負うものではありません。本事業により調達される資金が同社の設定するインパクト指標の達成度について、JCR は調達主体または調達主体の依頼する第三者によって定量的・定性的に測定されていることを確認しますが、原則としてこれを直接測定することはありません。
2. 本第三者意見を作成するうえで参照した国際的なイニシアティブ、原則等
本意見作成にあたり、JCR は、以下の原則等を参照しています。
国連環境計画 金融イニシアティブ ポジティブ・インパクト金融原則
環境省 ESG 金融ハイレベル・パネル内ポジティブインパクトファイナンスタスクフォース
「インパクトファイナンスの基本的考え方」
3. 信用格付業にかかる行為との関係
本第三者意見を提供する行為は、JCR が関連業務として行うものであり、信用格付業にかかる行為とは異なります。
4. 信用格付との関係
本件評価は信用格付とは異なり、また、あらかじめ定められた信用格付を提供し、または閲覧に供することを約束するものではありません。
5. JCR の第三者性
本 PIF の事業主体または調達主体と JCR との間に、利益相反を生じる可能性のある資本関係、人的関係等はありません。
■留意事項
本文書に記載された情報は、JCR が、事業主体または調達主体及び正確で信頼すべき情報源から入手したものです。ただし、当該情報には、人為的、機械的、またはその他の事由による誤りが存在する可能性があります。したがって、JCR は、明示的であると黙示的であるとを問わず、当該情報の正確性、結果、的確性、適時性、完全性、市場性、特定の目的への適合性について、一切表明保証するものではなく、また、JCR は、当該情報の誤り、遺漏、または当該情報を使用した結果について、一切責任を負いません。JCRは、いかなる状況においても、当該情報のあらゆる使用から生じうる、機会損失、金銭的損失を含むあらゆる種類の、特別損害、間接損害、付随的損害、派生的損害について、契約責任、不法行為責任、無過失責任その他責任原因のいかんを問わず、また、当該損害が予見可能であると予見不可能であるとを問わず、一切責任を負いません。本第三者意見は、評価の対象であるポジティブ・インパクト・ファイナンスにかかる各種のリスク(信用リスク、価格変動リスク、市場流動性リスク、価格変動リスク等)について、何ら意見を表明するものではありません。また、本第三者意見は JCR の現時点での総合的な意見の表明であって、事実の表明ではなく、リスクの判断や個別の債券、コマーシャルペーパー等の購入、売却、保有の意思決定に関して何らの推奨をするものでもありません。本第三者意見は、情報の変更、情報の不足その他の事由により変更、中断、または撤回されることがあります。本文書に係る一切の権利は、JCR が保有しています。本文書の一部または全部を問わず、JCR に無断で複製、翻案、改変等をすることは禁じられています。
■用語解説
第三者意見:本レポートは、依頼人の求めに応じ、独立・中立・公平な立場から、銀行等が作成したポジティブ・インパクト・ファイナンス評価書の国連環境計画金融イニシアティブのポジティブ・インパクト金融原則への適合性について第三者意見を述べたものです。
事業主体:ポジティブ・インパクト・ファイナンスを実施する金融機関をいいます。
調達主体:ポジティブ・インパクト・ビジネスのためにポジティブ・インパクト・ファイナンスによって借入を行う事業会社等をいいます。
■サステナブル・ファイナンスの外部評価者としての登録状況等
・国連環境計画 金融イニシアティブ ポジティブインパクト作業部会メンバー
・環境省 グリーンボンド外部レビュー者登録
・ICMA (国際資本市場協会に外部評価者としてオブザーバー登録) ソーシャルボンド原則作業部会メンバー
・Climate Bonds Initiative Approved Verifier (気候債イニシアティブ認定検証機関)
■本件に関するお問い合わせ先
情報サービス部 TEL:03-3544-7013 FAX:03-3544-7026