EXPERT VIEW:代理店契約とテリトリー拘束合意
MARCH 5TH 2014
三菱東京UFJ銀行 国際業務部
EXPERT VIEW:代理店契約とテリトリー拘束合意
中国で代理店を設けて自社の製品を販売する場合には、各代理店と販売地域や主たる販売担当地域を約定することがあります。いわゆる代理店との間の垂直的なテリトリー合意なのですが、こうしたテリトリー合意も、最終的には価格の維持機能があり、競争を阻害するおそれがあることから、市場競争規制に抵触する場合もあります。今回は、中国におけるテリトリー合意に対する規制状況について、検討してみたいと思います。
Q:当社(A 社)は、中国の複数の会社と当社の製品の販売代理店契約を締結しています。当社としては、中国の各地域ごとに主たる販売担当地域を設けて特約代理店を選定し、代理店同士に競業が生じないようにしつつ、各代理店がその規模に応じて最大利益を達成することができるようにし、また、代理店が一定の売上を達成することができない場合には、代理店認定を取り消すことにより当社の代理店を通じた販売政策の適正化を実現していきたいと考えています。中国においては、上記のような販売の地理的範囲を制限する合意は有効でしょうか?
A: 結論的には、A 社が仮に市場において支配的地位を有さず、本ケースで、主たる販売担当地域として、比較的緩やかなテリトリー合意以外に特段の制限的な合意をすることが予定されないということであれば、中国の現行の反独占法等の規制及び司法実務の状況から考えると、上記のテリトリー合意を違法と判断することはできない、即ち、有効な合意と考えてよさそうです。
1、中国のいわゆる垂直的テリトリー制限
本ケースでは、メーカーがその製品の代理店についていわゆるテリトリー制を実施しています。メーカーを起点に見た場合、水平的な競争者間の制限規制ではなく、商流のxxとxxの事業者間の垂直的制限に関する規制が問題となります。
中国の反独占法第 13 条第1項は、競争関係がある事業者がする独占合意、即ち、水平的制限として「販売市場又は原材料の調達市場を分割すること。」を禁じています。反独占法中には、垂直的なテリトリー制を直接規制する規定は見当たりません。また、独占合意に関する規範を定めた部門規則(省令)レベルの規範である「工商行政管理機関の独占合意行為の禁止に係る規定」(以下「カルテル禁止規定」といいます。)中にも垂直的なテリトリー制を直接規制する規定は見当たりません。
カルテル規定が施行された 2011 年 2 月 1 日に先立ち、国家工商行政管理総局は、2009 年 4 月 27日に「独占合意行為の禁止に関する関係規定(意見聴取稿)」を公表し、パブリックコメントを実施しました。この意見聴取稿の第 6 条は、事業者と取引相手との間の垂直的独占合意として「事業者が正当な理由なく取引相手と合意を達成し、取引相手が特定の地域内のみで事業活動に従事することができること。」を禁ずる規定を設けていました。しかし、カルテル禁止規定においては、意見聴取稿に規定された垂直的制限に関する規定自体が削除され、垂直的なテリトリー制に関する規制の条項化は見送られることになりました。
カルテル禁止規定の立法過程において、垂直的なテリトリー制を含む垂直的制限については、さまざまな議論、検討がなされたようです。しかし、結局は、日本における近時のブランド内競争制限に関する議論と同様に、垂直的制限による価格維持効果が実証されていないこと、及び垂直的制限の社会的メリットといわれる、ブランド内競争を実質的に制限することの「ただ乗り」の改善(一部の流通事業者のサービス努力及び評判への便乗が抑止される。)、ダブルマージナリゼーションの改善(メーカーと流通業者の共同利潤の最大化・最適化が促進され、結果として小売価格も引下げ・適正化が実現される。)、情報の不完全性の改善(消費者が品質・内容等に十分な情報を有しない場合に、統一的品質・内容の商品の購入をすることができる。)といった社
会的メリットも考慮を要するとして、立法化は時期尚早と判断されたようです。
結果としては、カルテル禁止規定中では、その第 8 条が「この規定に明確な定めがないその他の独占合意については、価格独占合意を除き、国家工商行政管理総局が法により認定する。」として、明確な規定なき垂直的制限合意は、今しばらくの期間において、他の禁止・制限法規を根拠として個別の事情に応じて規制機関が認定する、という範囲に規制が限定されることになりました。法的には、垂直的なテリトリー制に対する法規制の実行性は強いものではない状況となりました。
2、本ケースにおける考察
本ケースでは、特約代理店間に競業が生じないようにして、各代理店の最大利益を達成することができるようにすることを目的としてテリトリー制を導入することを検討しているようです。上記の法制を前提として考えると、このテリトリー合意自体が直ちに反独占法やカルテル禁止規定の規定に反すると判断することは適当と思われません。当該合意に関する規制は、テリトリー合意に加えて、他の規制に抵触するような事実関係等があるかどうかを検討していく必要がありそうです。
(1)支配的地位の濫用
例えば、A 社が市場(関連市場)において 50%以上の占有率を有する場合、A 社を含む 2 事業者の市場における占有率が合計で 3 分の 2 を超える場合又は A 社を含む 3 事業者の市場における
占有率が合計で 4 分の 3 を超える場合には、A 社は市場において支配的地位を有する事業者に推定されます(反独占法第 19 条)。このような状況にある場合には、A 社がテリトリー合意をすることによって競争を排除、制限する実質的な効果が生ずると判断される場合、例えば、厳格なテリトリー制を代理店の意見等を全く入れずに実行するような場合には、支配的地位の濫用行為として反独占法第 6 条や反不正等競争法第 6 条に違反する、と判断されるおそれがあります
(なお、支配的地位の濫用行為も、違法性の実質的な判断を要するので、上記の占有率を有することから直ちにテリトリー合意が違法な合意となるものではありません。)。
(2)いわゆる抱合販売、不合理な条件付加規制
反不正当競争法第 12 条は、事業者が商品を販売するに際して、購入者の意思に反して商品の抱合販売をし、又はその他の不合理な条件を付加してはならないとして、抱合販売、不合理な条件付加を禁じています。この規制も、「購入者の意思に反すること」や「不合理」といった規範的な要件(法的解釈を要する要件)の下で規制され、更に、同法の目的がxxな競争の維持や不正当な競争行為の規制にあることからその制限規制の適用においては、違法性の実質的な判断を要します。例えば、代理店が「テリトリー合意は不本意であった」としても直ちに上記の
「不合理な条件付加」となるものではなく、当該合意により上記の法目的が阻害される事実があるかどうかが問題となります。
(3)価格拘束規制
本ケースでは、特約代理店に対して製品の販売価格を拘束するような合意をすることを予定していないようです。テリトリー合意を基礎として、「各代理店の最大利益を達成することができるように」、例えば、A 社がその製品の再販価格を指定し、販売価格を推奨し、最低販売価格を設けたりした場合には、価格拘束合意として反独占法第 14 条や反価格独占規定第 8 条に定める違法な「独占合意」と判断されるおそれがあります。ただし、この価格拘束合意も、前回検討したように、いわゆる合理の原則に類似する基準で、その実質的な違法性が判断されることになります。
本ケースでは、A 社製品の市場占有率や、テリトリー合意以外の、特約代理店との間の取引制限の有無等の事情が明らかではないのですが、A 社が仮に市場において支配的地位を有さず、主たる販売担当地域として、比較的緩やかなテリトリー合意以外に特段の制限的な合意をすることが予定されないということであれば、中国の現行の反独占法等の規制及び司法実務の状況から考えると、上記のテリトリー合意を違法と判断することはできない、と考えてよさそうです。
以上
露木・xx法律事務所
弁護士 x x x x外国法研究員 x x
WEEKLY DIGEST
【経済】
◆2013 年 総人口は 13 億 6,072 万人 可処分所得は 1 万 8,311 元
国家統計局の 24 日の発表によると、2013 年末の中国の総人口は 13 億 6,072 万人となり、前年比 668 万
人増加した。一方、自然増加率は 0.492%で、前年末の 0.495%から僅かに低下した。総人口のうち、都市の常住人口は 7 億 3,111 万人で、全体に占める割合は 53.73%と、前年末の数字を 1.16 ポイント上回った。総人口に占める年齢層別の割合を見ると、0-15 歳は 17.5%(2 億 3,875 万人)、16-59 歳の生産年齢人口は 67.6%(9 億 1,954 万人)、60 歳以上は 14.9%(2 億 243 万人)、うち 65 歳以上は 9.7%(1 億 3,161 万人)となっている。また、2013 年末の国民1人当たりの可処分所得は前年比+10.9%の 1 万 8,311 元だった。なお、中国はこれまで、都市と農村の所得について別々に統計を行い、国民全体の所得を反映するデータを公表するのは今回が初めてとなる。国が進める都市と農村の一体的発展政策には、都市と農村を合わせた全体的なデータも必要な為、2012 年以降統計制度の改革に着手したとしている。
【産業】
◆2 月の製造業PMI指数 50.2 春節の影響を受けて低下
中国物流購買連合会、国家統計局の1日の発表によると、2月は春節休暇で生産活動や輸出入が影響を受け、製造業PMI指数は50.2となり、景況感の分岐点となる50は引続き上回ったものの、前月より0.3ポイント低下した。主要項目を見ると、生産高指数は52.6、新規受注指数は50.5と、いずれも50を超えたものの、前月比0.4ポイント低下した。また、新規輸出受注指数が前月比▲1.1ポイントの48.2、輸入指数が同▲1.7ポイントの46.5となった。一方、生産経営活動予期指数は前月比+10.5ポイントと大きく上昇して61.8となり、11ヶ月ぶりの最高値となった。企業規模別では、大企業が前月比▲0.7ポイ
<PMIの推移>
製造業PM I 非製造業PM I | |||||||||||||||||||||||||
1 | 2 | 3 | 4 | 5 | 6 | 7 | 8 | 9 | 10 | 11 | 12 | 1 | 2 | 3 | 4 | 5 | 6 | 7 | 8 | 9 | 10 | 11 | 12 | 1 | 2 |
2012 | 2013 | 2014 |
65
60
55
50
45
(出所):中国物流購買連合会の公表データに基づき作成
ントの50.7、中企業が同▲0.1ポイントの49.4、小企業が同+1.8ポイントの48.9となった。なお、2月の非製造業PMIは55.0と、前月比1.6ポイント上昇した。
【金融・為替】
◆人民元の決済通貨シェア 世界第 7 位に上昇
、
)
SWIFT(国際銀行間通信協会)の 2 月 27 日の発表によると
世界決済通貨取引シェアの 1 月のランキングで、人民元は第7 位(取引シェア 1.39%)となり、前月の第 8 位(同 1.12%から 1 つ順位上げた。また、1 月の世界通貨全体の決済額の伸びが 4.8%だったのに対し、人民元決済額の伸びは 30.6%と全体を大きく上回った。なお、中国本土を除き、人民元決済が行われている上位 9 ヶ国・地域は、香港、英国、シンガポール、台湾、米国、フランス、オーストラリア、ルクセンブルグ、ドイツの順となった。
◆「クロスボーダー資金移動報告」 2013 年は資金流入の圧力に晒される
国家外貨管理局は 2 月 25 日、中国のクロスボーダー資金移動に関する年次報告(「2013 年クロスボーダー資金移動モニタリング報告」)を発表。2013 年については、総じて資金流入の圧力が高まったとした。 1-4 月に大規模な流入超となり、5-8 月に政策調整等で流入の勢いが一旦鈍化したものの、9-12 月に再び流入の勢いが増し、また、2012 年に一時「経常収支黒字、資本収支赤字」に転じた国際収支は、2013 年に再び双方とも黒字に戻った。これは中国経済の好転の兆しが見られた他、国内外の金利差を利用した裁定取引の活発化等によるものと分析している。2014 年については、先進国の景気回復による外需の増加、国内改革の推進による市場機能のxxxの資金流入要因が予測される一方で、米国の量的緩和縮小の不確実なxxx、双方向の資金移動に繋がる要因もあり、特に国内経済運営の一部リスクに対する敏感な反応等により、一時的に不安定な資金の動きが増す可能性もあるとの予想を示した。
人 民 元 の 動 き
今週は、人民元データのみを掲載させていただきます。
(資料)中国外貨取引センター、中国人民銀行、上海証券取引所資料より三菱東京UFJ 銀行国際業務部作成
本邦におけるご照会先 三菱東京UFJ 銀行国際業務部 東京:00-0000-0000(代表)大阪:00-0000-0000 名古屋:052-211-0944(代表)
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