学習活動 留意点 導入 ・これまでに契約をしたことがあるかたずねる ・生徒は契約というと企業同士で契約書をとり かわすものという認識しかないであろうが,書 ・ふだん行っている買い物も契約であることを 類がない口約束でも契約は成立すること,ふだ 知る んの買い物も契約であることを確認する。 ・契約が成立するのはどの時点か,契約成立に 伴って生じる権利・義務について知る また,図を使って「○○円で売りたい」という 売り手の意思と「○○円で買いたい」という買 い手の意思が合致したときに契約が成立する...
けいやく
Ⅰ 指導案
1 授業のねらい
(1) 身近な経済活動,消費生活が「契約」によって成り立っていることに気づかせ,契約の意味や基本的なルールについて正しく理解させる。また,どんなトラブルがあり得るのか,トラブルにあったときにはどうしたらよいのかについて考える力を身につけさせる
(2) 身近な経済活動について「契約」という概念でとらえ直し,「契約」を守ることによって権利や利益が保障されること,また,その結果について責任が伴うことに気づかせる。また,「消費者の保護」に関して,消費者も自らの利益の擁護および増進のために自立した消費者となるよう努めなければならないことを理解させる。
(3) 消費者保護などの経済活動に関する問題が法と深く関わっていることを認識させる。
2 子どもに身につけさせたい法教育的な見方・考え方
「契約」と聞くと大人同士の約束,会社同士の約束で自分たちとは縁のないことのように感じている生徒が多いでしょう。しかし,自分たちの日常生活のなかで知らず「契約」をしていることはたくさんあるのです。自分がしている(するかもしれない)行動を「契約」という概念でとらえ直してみようというのがこの時間の趣旨です。
この授業を通して,子どもに身につけてほしい力は次のようなものです。
① なぜ「契約」という制度が必要なのか理解できる。
② どのような状況で「契約」が成立するのか理解できる。
③ 「契約」は守らなければいけないことを理解できる。
④ インターネットの普及により生じた「契約」の問題点・危険性について考えることができる。
⑤ 以上のようなことを日常の社会生活に活かしていくことができる。
3 授業計画
学習活動 | 留意点 | |
導入 | ・これまでに契約をしたことがあるかたずねる | ・生徒は契約というと企業同士で契約書をとり |
かわすものという認識しかないであろうが,書 | ||
・ふだん行っている買い物も契約であることを | 類がない口約束でも契約は成立すること,ふだ | |
知る | んの買い物も契約であることを確認する。 | |
・契約が成立するのはどの時点か,契約成立に | ||
伴って生じる権利・義務について知る | また,図を使って「○○円で売りたい」という | |
売り手の意思と「○○円で買いたい」という買 | ||
い手の意思が合致したときに契約が成立する | ||
ということ,売り手・買い手の権利・義務を整 | ||
理しながら,いったん成立した契約は原則とし | ||
・実際の買い物の場面ではどの時点で契約が成 | て取り消せないことを確認する。 | |
立するかを考え,確認する。 | ・図で確認したことをふまえて考えるようにう | |
ながし,答えを確認しながら理解を深める。 | ||
展開 | ・これまでに無料占いや無料オンラインゲーム | ・インターネットの普及により,相手と顔を合 |
のサイトを使ったことがあるか,携帯やパソコ | わせたり言葉をかわしたりしなくても契約が | |
ンでものを買ったり,サイトに登録してお金を | 成立するケースが増えていることに触れる。 | |
はらったりしたことがあるかなどの体験を発 | ||
表しあう。 | ||
・ワークシートの事例を読み,事例で紹介され | ・導入での学習をふまえて,この事例では,A | |
ている「契約」について有効かどうかを考える。 | さんは何を約束したつもりでいるのか,業者は | |
何を約束したつもりでいるのかを考えさせ,契 | ||
約が成立することになるのかを考えさせる。 | ||
・相手と顔を合わせたり言葉をかわさなかった | ||
・お店で商品を買う「契約」と携帯電話やイン | りするぶん,手軽に契約をしてしまいがちであ | |
ターネットでの「契約」の違いを考える。 | り,そのことから生じるトラブルも増えている | |
・インターネットによる「契約」が可能になっ | ことに気づかせる。 | |
たことで生じた危険性について考える。 | ・法的視点であげられている ⑴ 非対面性・ | |
匿名性 ⑵ 機械取引 ⑶ ペーパーレス化 | ||
についてふれられるようにする。 | ||
まとめ | ・これまでの学習をふまえて,インターネットにより「契約」をするにあたって注意しなければならないことについてまとめる。 |
4 評価
・「契約」がどのような状況で成立するかということ,また,成立に伴って生じる権利・義務について理解している。(知識・理解)
・インターネットの普及により生じた「契約」の問題点・危険性について考え,自分の言葉で表現することができる。(思考・判断・表現)
Ⅱ ワークシート(次ページ)
けいやく
「ワンクリックで契約成立?」ワークシート
組 番 名前:
1. 契約とは?
ジュースを80円で買います。
ジュースを80円で売ります。
買い手
売り手
契約が成立すると・・・ | 相手に求めることができること (権利) | 相手にしなければならないこと (義務) |
売り手 | ||
買い手 |
2. 次の A~D のどの時点で契約が成立するでしょう?
A | B | C | D |
商品をかごに入れたとき | 商品をレジに持って行っ たとき | レジでお金をはらったと き | 商品を受け取ったとき |
事例1 | で契約は成立したといえるでしょうか ( いえる • いえない ) |
理由(あなたがA さんの立場なら,どのようなことを言いたいですか?) |
3.
事例2 | で契約は成立したといえるでしょうか( いえる • いえない ) | |
理由(あなたが B さんの立場なら,どのようなことを言いたいですか?ゲーム会社や携帯電話会社の立場ならどうですか?) |
4.
けいたい
5. スーパーで商品を買う「契約」と,携帯電話やインターネットでの「契約」との違いは何
か考えてみましょう。
6. 携帯電話やインターネットで「契約」をするときに気をつけることは何か考えてみましょう。
Ⅲ 事例
事例1「ワンクリック請求」
高校1年生の A さんは携帯電話の着信音をダウンロードできる無料サイトを友達から
しょうかい
x 介してもらい,携帯電話からアクセスしました。サイトにはってあった無料サイトの
「あなたは 18 歳以上ですか YES」というボタンをクリックしてしまったら,とつぜん
「120 日間見放題で 5 万円の登録料」という画面が表示されました。A さんはサイト業
れんらく
者に「間違って登録になったので取り消してほしい」と連絡したのですが,「登録料を 3
日以内に払わないと7万円の請求になる」と言われて困ってしまいました。
事例 2「無料オンラインゲームは本当に無料?」
テレビでは毎日のように携帯オンラインゲームの宣伝をしています。クラスでもゲームの話でもり上がっています。中学 3 年生の B さんは「無料ならいいか」と思い,「今すぐカンタン!無料登録」というところをクリックして登録することにしました
しばらくやっていると,アイテムを買うとゲームを早くクリアできるということがわかりました。アイテムがないとなかなか先に進めないので,一だけ買ってみようと思い3
00円のアイテムを買ってみました。しかし,安いアイテムではやはりなかなか先に進めないので,少し高いなと思ったのですが,3000 円のアイテムも買ってみました。
そんなことをくり返していたら,パケット通信料として 5 万円,アイテムの代金として
とど
10万円の請求書が届いたのです。びっくりした B さんの母親は「無料だったんじゃない
の?15万円も支払うなんておかしいわよ。払う必要ないわ」とおこっています。
Ⅳ 弁護士からのアドバイス
1 契約って何だろう?
⑴ はじめに
人は生まれながらにして,自分の幸せを求めることが保障されており(個人の尊重,幸福追求権。憲法第13条),国家に干渉されることなく,自分の暮らしを個人の意思で決めることができる自由が認められています(私的自治の原則)。
しかし,誰しもが他の人の自由を制限してはならないということになると,逆に他人(の権利)に影響を与えることは何もできなくなってしまいます。このように,社会では,他人に与える影響,他人との関わりを無視して,自分の生活を送っていくことはできません。そこで,他の人との合意により,それぞれが自分の生活空間をつくっていくことを可能にするための制度が必要となってきます。それが,契約制度です。すなわち,契約とは,自分たちの生活関係を自分たち(当事者)の意思で定めるものといえます。
⑵ 契約はいつ成立するの?
契約が成立するためには,当事者の意思が合致(合意)することが必要です。しかし,人の内心は外からは分からないため,ここでいう意思は,外部に表明された意思(意思表示)を基準に判断するのが原則です。
ワークシートの例でみると,スーパーは,商品に値札をはって陳列することにより「缶ジュースを80円で売ります」という売買の意思を表示しており(申込み),お客さんは,陳列棚から牛乳をとってレジに持っていくことにより「缶ジュースを80円で買います。」という購入の意思を表示することになり(承諾),ここで売買の合意が成立したと判断することになります。
このように,契約は,双方の意思が合致し,合意したときに成立します。
⑶ 契約は守らなければいけないの?
契約(約束)をした以上,それを守らなければならず,契約を守るということがルールとして確立している必要があります。なぜなら,このようなルールが確立していなければ,守られない可能性のある契約を結ぼうとする人はいなくなってしまうからです。また,契約を守らなければならないということを国家が保障し,契約を守らせるための制度が整えられていなければなりません。契約は守らなければならないというルールが確立していても,それを守らない人が出てきてしまうもので,そのような場合に,国家が強制的に守らせるようにしないと,信頼できる相手としか契約が結べなくなってしまうからです。具体的には,相手が契約を守らない場合に,強制的に約束の内容を実現するための制度の整備が必要であり,現代では,裁判,強制執行手続などが定められています。このような法的な拘束力が生じるところに契約制度の意味があり,制度が確立することにより,いちいち裁判に訴えなくても,契約の相手方は簡単には約束を破らなくなることを期待するものといえます。他方,自力救済といって,当事者が自力で契約の履行を強制させること(家賃を滞納した賃借人の部屋の鍵を勝手に家主が変えて追い出してしまうことなど)は,社会秩序が乱れてしまうことになりますので,認められていません。
それでは,いったん成立した契約は,必ず守らなければいけないのでしょうか。合意が成立したかどうかは,表示された意思で判断することは説明したとおりですが,その表示された意思と内心に食い違いがあった場合にも,つねに契約を守らなければならないとするのは,自分の暮らしを自分の意思で決められるという私的自治にそぐわない結果となってしまいます。そこで,法は,言い間違いや書き間違いがあった場合(錯誤)や,相手からだまされたり,おどされたりした場合(詐欺・強迫)には,意思表示が無効であることを主張したり,取り消した
りすることができることを定めています。また,後述するように,未xx者の場合には,その判断能力の未熟さゆえに,親権者等の同意を得ないで行った法的な行為を取り消すことができます。さらに,契約の相手方が,契約した約束を守らない場合には,契約を解除することができます。このように,契約の法的拘束力を維持することが適当でない場合には,法は,契約関係を解消できることを定めています。
2 消費者契約
以上のように,当事者が合意し,契約が成立した場合には,これを守らなければならないのが原則ですが,現代社会では,一般の消費者と,商品やサービスを提供する事業者との間で,有している知識や情報に大きな格差が存在し,また契約を締結する際の交渉能力にも大きな格差があります。そのため,消費者が事業者と契約する場合に誤った情報を与えられたり,不当な圧力を受けたり,一方的に不利益な契約条件をおしつけられてしまうことも少なくありません。
そこで,消費者と事業者との間の格差を解消し,実質的に対等な立場で契約が締結できるよう消費者契約法が制定されています。具体的には,不当な勧誘による契約の取消しが認められ,著しく不当な内容の契約条項は無効とされています。
3 インターネット取引(電子商取引)の特殊性
技術が進歩した現代では,従来の取引形態とは異なった契約があらわれており,とくに,インターネット等を通じた電子商取引では,従来の契約形態と比べて,以下のような特殊性があるといわれています。
① 非対面性・匿名性
インターネット取引では,契約の相手方を直接に確認できないことが多く,「なりすまし」の問題や,ワンクリック詐欺のような不当・架空請求が起こりやすいといわれています。
② 機械取引
インターネット取引における契約の申込みや承諾といった意思表示は,マウスのクリックや Enter キーの入力によって行われることから,誤操作により,真意でない取引が行われる可能性が高くなります。このような誤操作により,真意でない契約が成立するのを避けるため,「電子消費者契約及び電子承諾通知に関する民法の特例に関する法律」は,事業者が消費者の意思の確認を求める措置を講じていなかった場合には,消費者が無効主張できる範囲を拡大しています。
③ ペーパーレス化
インターネット取引では,契約書などの書類が作成されないことが多く,契約の成立や内容について,後日,紛争となった場合に,どのように立証するかが問題となります。
今回の事例でも,子どもがインターネットを利用した行為が問題となっていますが,以下の点を十分理解することが大切であると思われます。
ⅰ 契約の本質(上記1参照)をしっかり理解すること
ⅱ インターネットというあたかも仮想のような空間であっても,実社会と同様に,契約は成立すること
ⅲ むしろインターネットの特殊性から,契約に関するトラブルが発生する可能性が高いので,安易にクリックしたり,怪しいサイトにアクセスしたりしないこと
4 事例について
⑴ 事例 1「ワンクリック請求」
Aさんと業者との間では契約が成立し,Aさんは5万円という登録料を支払わなければいけ
ないのでしょうか?
Aさんがクリックしたのは「あなたは18歳以上ですか YES」というボタンです。このボタンをクリックしたAさんには「5万円の登録料を支払う」との意思があったとは認められず,契約は成立していないことになります。仮に,分かりにくい小さな表示で,「5万円の登録料で120日間見放題」というような細工がされていたとしても,Aさんの意思を確認する措置(例:契約内容を確認する画面が表示され,Aさんが確認ボタンを押さないと申込みができない)が講じられていなければ,錯誤があったとして無効を主張することができます。
いずれにしても,このようなワンクリックで請求がなされるようなケースでは,契約が成立しているとは認められないことが大半であり,Aさんは代金を支払う必要はありません。なお,このような場合には,あわてて業者へ連絡して個人情報を伝えるようなことは避けるようにし,また,安易に料金を支払わないよう注意する必要があります。
⑵ 事例 2「無料オンラインゲームは本当に無料?」
無料ゲームをうたったサイトでも,具体的な料金支払に関する表示がなされないまま,ワンクリックで料金が請求されるサイトもあり,そのような場合には上記⑴と同様に考えることができます。
他方,本事例のようなオンラインゲームでは,ゲームの序盤や基本的な部分では無料でゲームをすることができるものの,アイテムを有料で購入したりすることにより,基本的なサービスでは進めない次のレベルにゲームを進めることができるようなしくみとなっています。このようなゲームでは,最初のユーザー登録の際に,料金支払に関する規約に同意することを求められ,また,具体的な料金が発生するタイミングで,その内容を確認する画面が表示されるしくみとなっていることが多いと思われます。そのような場合には,Bさんもアイテムを取得するには料金が発生することを認識して,これを了解(確認のクリック)した上で,ゲームを行っていたと考えられます。また,パケット通信料についても,Bさんが携帯電話を契約する際に,その料金支払に関する規約に同意しているはずです。したがって,Bさんは,パケット通信料とアイテム料について,携帯電話会社ないしゲーム業者に支払うことに合意していたと考えられますので,その代金を支払わなければいけないことになります。
xxすると,Bさんにとって,酷な結論となってしまうようにも思われますが,Bさんの契約の相手方である携帯電話会社やゲーム業者の立場から考える視点も必要です。契約時,ユーザー登録時,アイテム取得時において,パケット通信料やアイテム料が発生することをきちんと説明し,その了解を得ていたにもかかわらず,後から料金がこんなに発生するとは思わなかったという理由だけで,代金が支払われないとしたら,人件費や設備投資費など様々な経費をかけて,携帯電話事業やオンラインゲーム事業を進めている会社の運営が成り立たなくなってしまいます。そこで,携帯電話会社やゲーム業者と利用者との間で,適切な形で契約が成立している場合には,Bさんには代金を支払う義務が発生していると考えることになります。
それでは,このような場合には,Bさんは常に代金を支払わなければならないのでしょうか。未xx者については,その判断能力が不十分であるため,親権者の同意を得ないで契約を行った場合には,契約を取り消すことができます。ただし,未xx者が,自分はxx者であるとあざむいたような場合には,取消しは認められず,ゲームサイトで年齢確認を求められた際に,
「20歳以上である」とのボタンをクリックしていた場合には,取消しができないことになります。
なお,最近では,テレビコマーシャルなどでことさら無料を強調しているオンライゲームも見受けられ,すべて無料でゲームができると誤解していたケースなどが社会問題化しています。そこで,消費者庁からは,このようなビジネスモデルを採用する事業者に対し,無料で利用できるサービスの具体的内容・範囲を正確かつ明瞭に表示する必要があるとの指摘がなされてい
るところです。
民法
第五条 (未xx者の法律行為)
未xx者が法律行為をするには,その法定代理人の同意を得なければならない。ただし,単に権利を得,又は義務を免れる法律行為については,この限りでない。
2 前項の規定に反する法律行為は,取り消すことができる。
3 第一項の規定にかかわらず,法定代理人が目的を定めて処分を許した財産は,その目的の範囲内において,未xx者が自由に処分することができる。目的を定めないで処分を許した財産を処分するときも,同様とする。
第二十一条 (制限行為能力者の詐術)
制限行為能力者が行為能力者であることを信じさせるため詐術を用いたときは,その行為を取り消すことができない。第九十五条(錯誤)
意思表示は,法律行為の要素に錯誤があったときは,無効とする。ただし,表意者に重大な過失があったときは,表意者は,自らその無効を主張することができない。
第九十六条(詐欺又は強迫)
詐欺又は強迫による意思表示は,取り消すことができる。
2 相手方に対する意思表示について第三者が詐欺を行った場合においては,相手方がその事実を知っていたときに限り,その意思表示を取り消すことができる。
3 前二項の規定による詐欺による意思表示の取消しは,善意の第三者に対抗することができない。
消費者契約法
第一条 (目的)
この法律は,消費者と事業者との間の情報の質及び量並びに交渉力の格差にかんがみ,事業者の一定の行為により消費者が誤認し,又は困惑した場合について契約の申込み又はその承諾の意思表示を取り消すことができることとするとともに,事業者の損害賠償の責任を免除する条項その他の消費者の利益を不当に害することとなる条項の全部又は一部を無効とするほか,消費者の被害の発生又は拡大を防止するため適格消費者団体が事業者等に対し差止請求をすることができることとすることにより,消費者の利益の擁護を図り,もって国民生活の安定向上と国民経済の健全な発展に寄与することを目的とする。
電子消費者契約及び電子承諾通知に関する民法の特例に関する法律第一条 (趣旨)
この法律は,消費者が行う電子消費者契約の要素に特定の錯誤があった場合及び隔地者間の契約において電子承諾通知を発する場合に関し民法 (明治二十九年法律第八十九号)の特例を定めるものとする。
第二条 (定義)
この法律において「電子消費者契約」とは,消費者と事業者との間で電磁的方法により電子計算機の映像面を介して締結される契約であって,事業者又はその委託を受けた者が当該映像面に表示する手続に従って消費者がその使用する電子計算機を用いて送信することによってその申込み又はその承諾の意思表示を行うものをいう。
2 この法律において「消費者」とは,個人(事業として又は事業のために契約の当事者となる場合におけるものを除く。)をいい,
「事業者」とは,法人その他の団体及び事業として又は事業のために契約の当事者となる場合における個人をいう。
3 この法律において「電磁的方法」とは,電子情報処理組織を使用する方法その他の情報通信の技術を利用する方法をいう。
4 この法律において「電子承諾通知」とは,契約の申込みに対する承諾の通知であって,電磁的方法のうち契約の申込みに対する承諾をしようとする者が使用する電子計算機等(電子計算機,ファクシミリ装置,テレックス又は電話機をいう。以下同じ。)と当該契約の申込みをした者が使用する電子計算機等とを接続する電気通信回線を通じて送信する方法により行うものをいう。
第三条 (電子消費者契約に関する民法 の特例)
民法第九十xx xxx書の規定は,消費者が行う電子消費者契約の申込み又はその承諾の意思表示について,その電子消費者契約の要素に錯誤があった場合であって,当該錯誤が次のいずれかに該当するときは,適用しない。ただし,当該電子消費者契約
の相手方である事業者(その委託を受けた者を含む。以下同じ。)が,当該申込み又はその承諾の意思表示に際して,電磁的方法によりその映像面を介して,その消費者の申込み若しくはその承諾の意思表示を行う意思の有無について確認を求める措置を講じた場合又はその消費者から当該事業者に対して当該措置を講ずる必要がない旨の意思の表明があった場合は,この限りでない。一 消費者がその使用する電子計算機を用いて送信した時に当該事業者との間で電子消費者契約の申込み又はその承諾の意思表
示を行う意思がなかったとき。
二 消費者がその使用する電子計算機を用いて送信した時に当該電子消費者契約の申込み又はその承諾の意思表示と異なる内容の意思表示を行う意思があったとき。
第四条 (電子承諾通知に関する民法 の特例)
民法第五百二十六条第一項 及び第五百二十七条 の規定は,隔地者間の契約において電子承諾通知を発する場合については,適用しない。
Ⅴ 授業づくりのポイント
<ねらいをはっきりさせましょう>
この授業では,日常生活のいろいろな場面(とくに消費生活)で「契約」が行われていることに気づくこと,最近ではインターネットの普及により「契約」に関する新たな問題が生じてきていることに気づかせ,その解決に向けてどうしたらよいかを考えさせる授業です。
<指導計画の工夫をしましょう>
学習指導要領の内容(2)私たちと経済「イ 国民の生活と政府の役割」のなかで「消費者保護」について学ぶところでの授業例です。
<授業の進め方>
・導入 ふだんの買い物など,実は自分たちの日常生活のなかで,「契約」という行為をしているということを理解させ,そもそも「契約」とは何かを学んでいきます。売買契約を例にすると,「契約」が成立するのは,「売り手と買い手の意思が合致したとき」であること,契約が成立すると売り手は「商品の代金を請求できる(権利)」「商品をわたさなければならない(義務)」,また,買い手は「商品を引きわたしてもらえる(権利)」,「代金を支払わなければならない(義務)ということを」表に記入しながら確認します。次に,日常生活の中で,契約が成立するのはどういうときかを,スーパーでの事例をもとに考えていきます。この事例の場合は,スーパー側は商品を店に陳列することで,すでに売る意思を表示しているので,お客さんが商品を手にとってレジに持っていくことで買う意思を表示した時点で契約が成立したことになります。
・展開 携帯電話やパソコンからの無料サイトへのアクセスは多くの生徒が経験していることだと思います。発言をうながし関心を高めましょう。自分の失敗談はなかなか出ないと思われますので,事例を使ってトラブルの可能性を知り,どんな問題点があるかを考えさせます。
まず,事例1について A さんとサイト業者がそれぞれ何を「契約」(約束)したつもりでいたのかを考えさせます。A さんは「あなたは18歳以上ですか YES」のボタンをクリックしたときに「5万円の登録料を支払う」という意思はなかったでしょう。それに対し,サイト業者側は,「あなたは18歳以上ですか YES」のボタンをクリックすること=登録
の意思があると解釈し,登録料を請求しています。つまり,両者の意思は合致していないので,契約は成立していないということになります。
事例1では,契約内容を確認する画面が消費者にわかりやすく表示されないまま,契約が成立したという画面が表示され,登録料が請求されています。このように,明らかに悪質なサイトもが存在するのも事実ですが,消費者側がしっかり契約書や利用規約を読まずに簡単に「同意します」とクリックしてしまったことからトラブルが生じることもあることにもふれ,「契約」をしたら守らなくてはならない責任が生じることもしっかり教える必要があるでしょう。
事例2でも,B さんとゲーム会社がそれぞれ何を「契約」(約束)したつもりでいたのかを考えさせます。
事例2は,契約の内容(300円・3000円のアイテムを買う,料金を支払って携帯電話でインターネットを利用する)は理解した上で,画面をクリックしたり,インターネットを利用したりしていますから,契約自体は成立しています。この事例からは,契約をする際には,その内容(例えば「無料」というのはどの範囲までなのか,料金をいくら支払うことになるのかといったこと)をしっかり確認したうえで契約すべきことや,インターネットではクリック等をすることで契約が成立することがあることを理解できるとよいでしょう。
B さん | ゲーム会社 | |
無料登録した場面 | 無料なら登録してみよう | 今すぐカンタン!無料登録 |
アイテムを買った場面 | アイテムを買うとゲームを早く | ゲームを早く進めたければ,ア |
クリアできる,一回だけ買って | イテムを買ってもらう | |
みよう(300円) | ||
安いアイテムではなかなか先に | ||
進めないから3000円のアイ | ||
テムを買ってみよう |
・まとめ インターネットによる「契約」が可能になったことで,これまでなかった危険性が生じていることに気づかせ,被害にあわないためにはどうしたらよいかを考えさせましょう。そのために,まず,スーパーなどでの買い物に伴う「契約」と,携帯電話やインターネットによる「契約」の違いを整理し,そのうえで,携帯電話やインターネットで「契約」をするときに気をつけることは何かを考えていきましょう。最後に,「契約」はここで取り上げた場合以外にもいろいろな場面で発生することにもふれましょう。家庭科で学習する消費者教育との関連をはかってもよいかもしれません。
以上