(新戦略推進専門調査会 農業分科会取りまとめ)を策定し、また同日付で、慶應義塾大学SFC研究所は、農林水産省「平成27年度農業IT 知的財産活用実証事業」にお ける活動において、農業現場の知的財産のさらなる活用を促すことを目的とした「農業ICT知的財産活用ガイドライン」を策定した。「農業ITサービス標準利用契約ガイド 」は、農業データITサービスの提供者1と、当該提供者との間で当該サービスの利用契約を締結する者とを当事者とした利用契約の文例および考え方を示したものであるが、...
農業分野におけるAI・データに関する契約ガイドライン
-データ利活用編-
令和2年3月農林水産省
改訂履歴
・平成30 年12 月
農業分野におけるデータ契約ガイドライン
・令和 2年 3月
農業分野におけるAI・データに関する契約ガイドライン データ利活用編
農業分野におけるAIに関する契約のガイドラインを策定したことに併せ、利用者の利便性を高めるため一体化したことに伴う改訂。
農業分野におけるAI・データに関する契約ガイドライン
- データ利活用編 -目次
第1 | 総論 | 1 | |
1 | 目的 | 1 | |
2 | 経済産業省「AI・データ契約ガイドライン | データ編」等との関係 | 2 |
(1)経済産業省「AI・データ契約ガイドライン データ編」との関係 | 2 | ||
(2)文部科学省「さくらツール」との関係 | 3 | ||
3 データ流出や不正利用を防止する各種手段 | 3 | ||
(1)契約による保護 | 4 | ||
(2)不正競争防止法による保護 | 4 | ||
(3)民法上の不法行為による保護 | 5 | ||
(4)不正アクセス禁止法による保護 | 5 | ||
(5)不正利用等を防止する技術 | 5 | ||
第2 本ガイドライン(データ利活用編)の対象範囲 | |||
6 | |||
第3 契約当事者および対象読者に関する留意点 | 7 | ||
(1)契約当事者に関する問題点 | 7 | ||
(2)対象読者に関する留意点 | 8 | ||
第4 「データ提供型」契約のモデル契約書案 | 10 | ||
1 データ提供型契約の意義 | 10 | ||
2 定義規定 | 10 | ||
(1)提供データ等の定義 | 10 | ||
(2)提供データ等の利用権限 | 11 | ||
(3)「提供データ等」の特定 | 13 | ||
(4)データの粒度 | 14 | ||
(5)個人情報等の取扱 | 15 | ||
(6)利用目的の特定 | 15 | ||
3 提供データ等の提供方法 | 17 | ||
(1)提供データ等の提供方法の特定 | 17 | ||
(2)「提供データ等」の中に個人情報等が含まれる場合の配慮 | 17 | ||
4 提供データ等の利用許諾または譲渡 | 18 | ||
(1)データ提供型契約の類型 | 18 | ||
(2)一方向利用許諾型 | 18 | ||
(3)譲渡型 | 19 | ||
(4)双方向利用型(共同利用型) | 20 | ||
(5)データ提供者による利用停止措置 | 21 | ||
5 対価・支払条件 | 23 | ||
(1)対価の支払 | 23 | ||
(2)売上を分配する際の留意点 | 24 |
6 提供データ等に関する保証および非保証 25
(1)提供データ等の非保証に関する基本的な考え方 25
(2)提供データ等の非保証の適用範囲 26
(3)提供データ等を有償提供した場合 27
(4)責任制限規定の利用 28
(5)データ提供者の表明保証 28
(6)提供データ等の中に第三者が有していたデータがある場合の措置 28
7 責任の制限等 29
(1)提供データ等を利用したことに起因して生じた損害についての負担 29
8 利用状況の報告および監査 31
(1)利用状況の報告および監査 31
(2)データ受領者側による検討事項 32
(3)監査費用の負担 32
(4)派生データの利用状況の報告・監査等 32
9 提供データ等の管理 33
(1)データ受領者による提供データ等の管理責任 33
(2)データ受領者による状況報告 34
(3)提供データ等をデータ受領者が第三者に提供する場合 34
(4)管理義務違反の場合の損害賠償請求権 35
10 データ漏えい等の場合の対応及び責任 36
(1)データ漏えい等の場合の対応 36
(2)提供データ等に個人情報が含まれている場合の対応 36
(3)損害賠償の制限 37
11 秘密保持義務 40
(1)秘密保持義務 40
(2)データ提供者から、提供データ等に「秘密」と明示されて提供された場合 41
(3)秘密保持義務の存続期間 41
12 派生データ等の取扱 42
(1)派生データの利用権限に関する考え方 42
(2)提供データ等または派生データの利用に基づき生じた知的財産権の帰属について 45
(3)利用権限の行使方法 46
A.派生データの利用方法について知的財産権の共有規定を参考とする考え方 47
B.派生データの利用権限をデータ受領者のみに保持させる場合 48
(4)派生データに対する非保証 50
(5)契約解除後の派生データの利用権限 50
13 有効期間 52
14 契約解除 53
(1)本契約の解除 54
(2)契約終了後の提供データ等の削除等(第6項) 54
(3)データ漏えいの場合の損害賠償の制限(第4項および第7項) 54
15 不可抗力免責 56
16 権利義務の譲渡禁止 57
17 通知 58
(1)主任担当者の指定 58
(2)通知 58
18 存続条項 59
(1)存続条項に関する基本的な考え方 59
(2)いかなる条項を存続することにするのか 59
19 その他の一般規定 60
(1)完全条項について 60
(2)準拠法について 60
(3)紛争解決条項について 61
第5 「データ創出型」契約のモデル契約書案 63
1 「データ創出型」契約の意義 63
2 「データ創出型」契約における課題 63
① 適切な利用権限の調整 63
② 個人情報およびプライバシー権に対する配慮 64
3 定義規定 65
(1)当初データ等の定義 65
(2)当初データ等の特定 66
4 当初データ等の取得 67
(1)当初データ等の取得に関する規定 67
(2)当初データ等に個人情報が含まれている場合 67
(3)当初データ等の中に第三者の知見、実験、発見、農作業その他の活動によって
取得されたデータがある場合の措置 68
5 当初データ等の利用権限等 69
(1)当初データ等の利用権限 69
① 利用目的による制限 70
② 自己利用 70
③ 第三者への提供/利用許諾 71
(2)「当初データ等」に対するデータ提供者のアクセス権について 72
(3)データ提供者による利用停止措置 72
6 派生データの利用権限等 73
(1)派生データの利用権限に関する考え方 73
(2)派生データに関する各自の利用権限 74
① 利用目的による制限 74
② 自己利用 75
③ 第三者への提供/利用許諾 76
(3)派生データの利用に基づき生じた知的財産権の帰属について 77
(4)「派生データ」に対するデータ提供者のアクセス権について 77
7 当初データ等および派生データの非保証 78
8 利用権限の配分に対する対価等 79
9 報告・監査等 81
10 相手方受領データの管理 82
(1)データ受領者およびデータ提供者の管理責任 82
(2)提供データ等の管理 82
(3)当初データ等の管理 83
① 当初データ等の管理責任の考え方 83
② 当初データ等の管理責任をデータ提供者側に負担させるべきか 83
(4)派生データの管理 83
① 派生データの管理責任の考え方 83
② データ提供者に派生データの管理責任を負担させるべきか 83
(5)データ提供者側に法的な管理義務を課さない場合も、管理状況の報告義務を課
すことはできるか。 86
(6)相手方受領データの第三者提供 86
11 データ漏えい等の場合の対応及び責任 87
(1)データ漏えい等の場合の対応 88
(2)第三者の権利により利用が制限される場合の処理 88
12 責任の制限等 90
13 秘密保持義務 91
(1)秘密保持に関する基本的な考え方 91
(2)違約金条項 91
14 新たなデータ創出の場合の対応 93
15 有効期間等その他一般規定 94
16 契約の解除 95
(1)契約終了後の当初データ等の削除等の適用の有無 96
(2)削除等の証明 96
17 不可抗力免責 97
18 権利義務の譲渡禁止 98
19 通知 99
20 存続条項 100
21 その他の一般規定 101
第6 「データ共用型」規約のモデル契約書案 102
1 「データ共用型」契約の意義 102
2 「データ共用型」契約における検討事項 103
(1)契約当事者 103
(2)契約の種類と数 104
(3)データ共用型契約のスコープ 106
(4)データ共用型契約の契約フォーム 106
(5)プラットフォーム事業者の責任 107
(6)利益分配について 108
3 定義規定 109
(1)プラットフォームの定義 110
① 「プラットフォーム」の定義 110
② データ提供者のスコープ 111
③ 複数の事業者の意味 111
(2)本ガイドライン(データ利活用編)が対象とするプラットフォームのスコープ 112
① 同一企業グループ内で構築されるプラットフォームやSNS等 112
② クラウドサービス型およびデータ流通市場型(またはマーケットプレイス型) 112
(3)プラットフォームに提供されるデータの種類 113
(4)プラットフォームの役割 114
(5)参加者の範囲 115
4 プラットフォームの利用許諾 117
(1)プラットフォームの利用許諾 117
(2)プラットフォームに参加が可能な当事者 117
5 提供データの提供方法 118
(1)提供データの提供方法 118
(2)プラットフォーム事業者には、一切の「プライベート・データ」に対するアクセ
ス権限が付与されない場合 118
(3)提供データに個人情報が含まれている場合 119
6 提供データに関する適切な取得および保証/非保証 121
(1)適法かつ適切な取得 121
(2)当初取得者からの同意取得 122
(3)提供データに関するデータ提供者の責任(保証/非保証) 122
7 データ提供者による提供データのデータ利用者への提供 124
(1)プラットフォームの管理画面上での設定 125
(2)アクセス・キーの付与 126
(3)データの利用停止措置 127
(4)プライベート・データの管理責任 128
(5)提供データを利用した結果生じた権利の帰属 129
(6)提供データに関してデータ提供者が創作した著作物がプラットフォーム事業者に
提供されている場合のみなし利用許諾 130
8 データ利用者による提供データの利用 131
(1)データ利用者による利用の範囲 131
(2)データ利用者の関連会社等が関連会社等ではなくなった場合の措置 132
(3)データの利用に基づき生じた権利の帰属 132
9 提供データの管理 134
(1)データ利用者の管理責任 134
(2)プラットフォーム事業者の管理責任 135
10 プラットフォーム事業者の運営責任等 136
(1)プラットフォーム事業者の運営責任等 136
(2)プラットフォーム事業者の責任限定 137
(3)提供データの内容に関するプラットフォーム事業者の非保証 137
(4)プラットフォーム事業者の監査権 139
(5)プラットフォームに対する苦情処理 140
11 プラットフォーム事業者による利用サービスの提供 142
(1)プラットフォーム事業者による利用サービスの提供 142
(2)統計データの提供 142
(3)利用サービスに関する権利の帰属 143
12 責任の制限等 145
(1)責任制限規定 145
13 派生データ等の取扱 146
(1)派生データの作成等におけるプラットフォーム事業者の責任 147
(2)派生データの知的財産権の帰属 147
(3)データ提供者またはデータ利用者が派生データまたは利用サービスを利用して
新たな成果物を作成したり、新たなサービスを構築した場合の権利の帰属 148
14 データ漏えい等の場合の対応 149
(1)データ漏えい等の場合の措置 150
(2)データ漏えい等が発生した場合の責任 150
15 秘密保持義務 152
(1)秘密保持義務を負担する相手方について 152
(2)プラットフォーム型で想定される秘密情報 152
16 規約の解除 154
(1)解除当事者と解除事由 155
(2)参加者が申込フォームに虚偽の記載をした場合 156
(3)プラットフォーム事業者によるアクセスの一時停止措置 156
(4)契約解除時の派生データの利用停止および削除義務等 156
(5)プラットフォーム事業者が規約を解除される場合の解除の効力 156
(6)規約解除または脱退の場合の成果物の帰属について 157
(7)データの削除等の措置との関係について 159
① データ提供者が本規約を解除された場合 159
② データ提供者が脱退した場合/データ提供者が本規約を解除した場合 160
A.提供データ(プライベート・データ)の取扱 161
B.共有となる権利の取扱 162
C.データ提供者に単独に帰属する権利の取扱 163
17 プラットフォームからの脱退 164
(1)プラットフォームからの脱退と脱退時のデータ利用中止義務等 164
(2)脱退時のデータ利用中止義務等 165
(3)データ提供者が脱退した場合のプラットフォーム事業者の提供データ削除義務 165
(4)プラットフォーム参加者が脱退した場合の共有の権利の帰属 165
(5)データ提供者がプラットフォームから脱退した場合のデータ提供者の権利の取扱 165
18 不可抗力免責 167
19 権利義務の譲渡禁止 168
(1)同意を取得する相手方について 168
(2)プラットフォーム事業者の規約の地位の譲渡 169
20 通知 170
21 存続条項 171
22 その他の一般規定 172
(1)合意管轄条項について 172
別添 ユースケースの紹介 | -1- |
【ユースケース1】 | -1- |
【ユースケース2】 | -2- |
【ユースケース3】 | -3- |
第1 総論
1 目的
農業は、幅広い知識と経験の上に成り立つ高度な知的産業である。そして、近年ICTや人工知能(AI)などの最新技術を応用した、農業に関する知識と経験の幅広い利活用により、より高品質で、生産性が高く、かつ国際競争力を有する農業を推進する取組が進められている。これらの取組は、農業における後継者や人材確保の効率化に繋がるとともに、新たなプレーヤーの農業への参入を促し、農業をより大きな魅力あるビジネスへと変貌させる契機となっている。また、これらの取組により、異なる農業ITシステム間で農業データを利活用するなど農業データの相互運用性や可搬性の確保に対するニーズも高まっている。
しかしながら、そのためには、農業従事者または農業団体(以下これらを総称して「農業関係者」という。)による農業データの提供が、ノウハウや技術の流出とならないよう、農業関係者が安心して農業データを提供できる枠組みを提供する必要がある。他方、かかる枠組みの設定には、他の農業関係者や農業分野への新規参入者による農業データの適切な利活用に対する不当な足かせになることがないような適切な配慮をすることも必要である。
これらの観点から、内閣官房は、平成28年3月31日「農業ITサービス標準利用契約ガイド」
(新戦略推進専門調査会 農業分科会取りまとめ)を策定し、また同日付で、慶應義塾大学SFC研究所は、農林水産省「平成27年度農業IT 知的財産活用実証事業」における活動において、農業現場の知的財産のさらなる活用を促すことを目的とした「農業ICT知的財産活用ガイドライン」を策定した。「農業ITサービス標準利用契約ガイド」は、農業データITサービスの提供者1と、当該提供者との間で当該サービスの利用契約を締結する者とを当事者とした利用契約の文例および考え方を示したものであるが、このガイドラインの特に重要な点は、データの種類によるデータの帰属のモデル例が示されたことである。例えば、このガイドラインでは、契約者や利用者がサービス環境に蓄積したデータ(例、作付計画、作業記録(農薬散布、施肥)、センサ取得情報、測位値、環境制御設定、資材購買記録、収量、価格等のデータ)は、当該データを蓄積した者に帰属するとされている。また、「農業ICT知的財産活用ガイドライン」は、栽培ノウハウ等の知的財産を提供する者と、当該知的財産を使って農業データITサービスを開発し、第三者に提供する者の二者間での契約を想定したものであるが、このガイドラインは、栽培ノウハウに代表される農業現場の財産を新しい「知的財産」として捉え、当該知的財産の保有者が当該知的財産の提供範囲を設定することによって、その知的財産の価値に見合った正当な対価を得られるような仕組みを提供するとともに、過度な保護によって知的財産の普及や利活用を妨げることがないように、知的財産の保護と利活用のバランスを考慮した仕組みを提供したものである。
これらの「農業ITサービス標準利用契約ガイド」および「農業ICT知的財産活用ガイドライン」は、いずれも安心できる農業データの提供とその利活用の適切な促進という側面で非常に示唆に富む提案をしている。しかしながら、その後、データの帰属に関する考え方については様々な意見が出るに至り、またデータの種類により保護すべき価値も保護すべき態様も異なることが指摘されるなど、これらのガイドラインに対しても、新たな事項を検討する必要が生じている。また契約の類型も単に、一方当事者が農業データを創出することを前提とした農業データやノウハウ等の提供者とそれを利用した農業データITサービスの開発者間、または農業データITサービスの提供
1 農業データITサービスの開発者から、当該サービスの提供を受け、また気象、地図、市況、肥料、農薬情報等の提供者から当該情報またはデータの提供を受けて、農業データITサービスを提供する者を意味する。
者およびその利用者間の二当事者間の契約というシンプルな形から、複数の当事者が関与することによって新たなに価値を有するデータが創出される場面や、プラットフォームを利用したデータの共有を目的とする場面など様々な場面が想定されるに至っている。したがって、これらの新しい場面に即した、使い勝手の良い、そして農業従事者等にとってわかり易いデータ契約ガイドラインを策定することは、農業関係者からの農業データの提供とそれらの適切な利活用を促進する上で、極めて重要な役割を担うことになる。今般策定する農業分野におけるデータ契約ガイドライン(以下
「本ガイドライン(データ利活用編)」という。)は、これらの新たな考慮事項についても十分に検討をした上で、農業データの迅速かつ適切な利活用を促進することができるようなものとする必要がある。
2 経済産業省「AI・データ契約ガイドライン データ編」等との関係
(1)経済産業省「AI・データ契約ガイドライン データ編」との関係
平成30年6月、経済産業省は、「AI・データ契約ガイドライン データ編」(以下「経産省ガイドライン」という。)を策定した。経産省ガイドラインによれば、このガイドラインは、「契約段階ではその価値がはっきりしないことが多いデータの流通や利用を対象とする契約について、具体的な事案に基づく専門家の議論を踏まえたうえでデータ契約の各当事者の立場を検討し、一般的に契約で定めておくべき事項を改めて類型別に整理した上で列挙するとともに、その契約条項例や条項作成時の考慮要素等を提供するものである。」とされている2。また、経産省ガイドラインは、
「当事者がデータ流通と利活用について低コストで合理的な取引関係を構築する」ことを目指す一方で、「データの利用権限は、契約により当事者の間で自由に定めることができるものであるから、」経産省ガイドラインは、「あくまでも契約で定めておくべき事項等を示すにとどまり、契約の自由を制約するものではない」とし、当事者は、当該ガイドラインを「参考としつつ、データの創出や利活用に対する寄与度等を考慮し、当事者で協議して柔軟に利活用に対する寄与度等を考慮し、当事者で協議して柔軟に利用条件を取り決め、利用権限等の具体的な内容を定めて取引の実状に応じて契約を高度化させていくことが望ましい」と指摘する3。他方、経産省ガイドラインは、「データ契約については、契約の当事者が、取引に関連するデータの有無、種類、価値等について十分な知識を有さず、そのような知識不足を背景として、一方的に不利な条件で契約が締結されてしまうこともあり得る。本ガイドライン(データ編)は、そのようなデータ契約に関する知識格差を補うものとして利用されることも予定している。」とも記されている4。経産省ガイドラインにおけるこれらの視点や機能は、行政庁が作成する契約ガイドラインの位置づけとして極めて重要なものであり、農業分野におけるデータ契約ガイドラインにおいても踏襲されるべきものである。また後述するとおり、データの帰属や利用権限の規律となるべき法律は我が国に存在せず、データの提供または利用に関する契約書は、一旦両当事者で締結されてしまうと、特定の条項が公序良俗に反するなど特段の事由がない限り無効とはならない。したがって、法律に必ずしも明るくない可能性のある農業関係者が一方当事者となることが想定されている本ガイドライン(データ利活用編)では、データ提供契約またはデータ利用契約に関するこのような事情も踏まえ、農業関係者に契約文言の意味するところや背景を正確に伝えて、正しい判断による適切な内容の契約を締結してもらうことを意図している。
2 経産省ガイドライン2頁
3 経産省ガイドライン4頁
4 経産省ガイドライン12頁
また経産省ガイドラインは、契約類型を①【データ提供型】、②【データ創出型】、③【データ共用型】の3類型に分類している。これらの意味については後述するが、農業分野においても、これらの分類はあてはまると言えるので、本ガイドライン(データ利活用編)においても、これらの分類については踏襲をする必要がある。
このように、本ガイドライン(データ利活用編)の策定にあたっては、経産省ガイドラインで示された多くの考え方や規定を踏襲または参考にすることができる。しかしながら、経産省ガイドラインは、「Connected Industries」において重点取組分野として定められている5つの重点分野(①自動走行・モビリティ・物流、②製造・ものづくり、③バイオ・素材、④プラント・インフラ保安、
⑤スマートライフ)を念頭において、各分野におけるユースケースを検討し、それらを反映して分野横断的な契約書の雛形が提示されているに留まる。すなわち、経産省ガイドラインは、「農業I Tサービス」については、「生産者の権利が守られた形で農業ICTサービスの普及を実現という観点が重要となっている。」と述べられるに留まり、農業分野における具体的なユースケースが検討され、それを反映した形で策定されているわけではない5。しかしながら、現実的に農業や農業データには、上記の5分野とは異なる特殊性が存在するのであって、農業関係者や農業ITサービスに新規参入する者にとって使い勝手の良いものとするためには、具体的なユースケースを検討した上で、農業や農業データの特殊性を具体的に反映したものとする必要がある。
したがって、本ガイドライン(データ利活用編)は、経産省ガイドラインにおいて利用できるところは可能な限り利用し、当該ガイドラインとの整合性を可能な限り図りつつも、農業データの特殊性や農業に関するユースケースの検討において挙げられた具体的な事項を念頭に置き、経産省ガイドラインの農業版として、農業関係者や農業ITサービスに新規参入する者にとって理解し易く、かつ納得し易い内容とすることを目指したものである。
(2)文部科学省「さくらツール」との関係
平成29 年3月、文部科学省は、大学等が民間企業と行う共同研究の成果について、大学等または民間企業の単独帰属とする選択肢を含め共同研究契約書のモデルを11 種類提示するとともに、これらの中から特定のモデルを選択する際の考え方を併せて提示する「さくらツール」を公開・提供した6。これにより、契約交渉のスキルが十分でない担当者が所属する大学等に対して柔軟かつ効率的な契約交渉が可能となるように促すとともに、可能な限り共同研究契約前に共同研究等成果の事業化まで想定して契約を締結することにより、共同研究等成果が適切に事業化に繋がる可能性を高めることが期待されている。
「さくらツール」は大学等と民間企業との共同研究に関する契約ガイドラインであり、本ガイドラインと直接的な関係はもたないものの、本ガイドライン(データ利活用編)を農業関係者にとって使いやすいものにするという観点から、「さくらツール」のようにケース毎に複数の契約書モデルを作成したり、その中から特定の契約書モデルを選択する際の考えを示すことは、将来的な検討課題として考えられる。
3 データ流出や不正利用を防止する各種手段
5 経産省ガイドライン別添118頁
6 http://www.mext.go.jp/a_menu/shinkou/sangaku/1383777.htm
提供データに自社の営業秘密やノウハウ等が含まれている場合、データの提供によってデータに対するコントロールを喪失することに伴い、これらの営業秘密やノウハウが社外に流出してしまう、ないし、不正利用され得るという懸念をもつ関係者は多い7。そのような懸念から、データの提供について二の足を踏む事業者もいる。そこで、後記(1)から(5)では、データの流出や不正利用を防止する各種手段として、契約、不正競争防止法、民法上の不法行為による保護、不正アクセス禁止法、不正利用等を防止する技術について例示する。このような各種手段を理解しておくことで、適宜必要な手段を講じてデータの流出や不正利用を防ぎながらデータの流通・利用が可能となりうる。
その説明にあたっては、前述のように、データの保護は原則として利害関係者間の契約を通じて図られることになるため、契約による保護から説明し、その後に、法律に基づく保護等について説明する。
(1)契約による保護
まず、提供データに含まれる営業秘密、ノウハウの流出を防ぐためには、データ受領者に対して秘密保持義務を課すことが重要である。提供データに含まれる営業秘密、ノウハウを保護するために厳しい秘密保持義務を課すためには、たとえば、提供データにアクセスできるデータ受領者の役員および従業員を制限したうえで、当該役員および従業員に秘密保持に関する誓約書を提出させることをデータ受領者に契約上義務付ける方法がある。
また、たとえば、高セキュリティのサーバに保管することや、他のデータとの分別管理を義務付ける等、提供データの保管方法・管理方法について具体的に契約で定める方法も有効である。さらに、提供データの管理状況についてデータ提供者がデータ受領者に対して報告や立入検査を求めることができる旨の規定を設け、その報告の結果または立入検査の結果、データ受領者の提供データの管理状況に問題があれば、データ提供者は提供データの管理方法の是正等を求めることができる旨を規定する方法もある。
その他、営業秘密、ノウハウが流出したことに伴ってデータ提供者に生じた損害額の算定が困難であることを踏まえ、営業秘密、ノウハウがデータ受領者から流出した際の損害賠償額の予定を定めておくことも考えられる。ただし、損害賠償額の予定は、その金額が小さければ契約の拘束力をかえって弱めることもあるため(契約違反を犯して予定された損害額の賠償をしても、営業秘密、ノウハウを流出させたことで得られるメリットのほうが大きければ損害賠償額の予定条項は営業秘密、ノウハウの流出を防止する手段としての意義が乏しくなる)、その点も踏まえた適切な金額を設定する必要があると考えられる。
(2)不正競争防止法による保護
不正競争防止法第2条第6項の「営業秘密」として法的に保護されるためには、①秘密管理性8、
②有用性、③非公知性の3つの要件を充たす必要がある。提供データがこの3つの要件を充足すれ
7 さらにいえば、提供データに営業秘密やノウハウが一見含まれていないように見えるケースであっても、他のデータと組み合わせることで営業秘密やノウハウが推測されるケースもあるとの指摘もある。
8 その情報に合法的かつ現実的に接触することができる従業員や取引先等からみて、その情報が営業秘密保有者にとって秘密としたい情報であることがわかる程度に秘密管理措置がなされていることをいう。具体的には、マル秘マーク、アク
ば、当該データの不正取得、開示等の行為に対して、不正競争防止法に基づく差止請求等の民事措置や刑事措置の適用が可能となる。
また、IoT、AI 等の情報技術が進展する第四次産業革命を背景に、ビッグデータ等の利活用推進を目的として、ID・パスワードによる管理を施し商品として広く提供されるデータや、コンソーシアム内で共有されるデータ等の一定の条件下で相手方を特定して提供されるデータ(「限定提供データ」)の不正取得、開示等の行為が「不正競争」行為に位置付けられ、これに対する差止請求等の民事上の救済措置が平成30年の同法改正により新設された(刑事措置は規定されていない。)。当該改正法の施行(平成31年7月1日)以降は、「限定提供データ」の法的保護も可能となる9。この「限定提供データ」として法的に保護されるためには、①限定提供性、②相当蓄積性、③電磁的管理性の要件(秘密として管理されるものを除く)を満たす必要がある(改正法第2条第7項)。
「営業秘密」「限定提供データ」いずれについても、契約当事者以外の不正取得者や転得者の行為についても差止が可能である。
提供するデータを「営業秘密」、「限定提供データ」のいずれで保護するかといった視点でデータの管理方法を検討しておくことも重要である。
(3)民法上の不法行為による保護
一定の投資と労力を投じた価値のあるデータをデッドコピーするような行為は、著しく不公正な手段を用いて他人の法的保護に値する営業上の利益を侵害する行為といえ、民法709条の不法行為が成立することがあり得る10。
もっとも、最高裁第一小法廷平成23年12月8日判決・判例時報2142号79頁(北朝鮮映画事件)は、著作権法第6条各号所定の著作物に該当しない著作物の利用行為は、同法が規律の対象とする著作物の利用による利益とは異なる法的に保護された利益を侵害する等の特段の事情がない限り、不法行為を構成しないと判示しており、この判例の論理に従えば、データベースの著作物ではないデータベースをデッドコピーしたとしても、不法行為が成立しない場合もあることに注意が必要である。
(4)不正アクセス禁止法による保護
第三者が不正ログインやセキュリティ・ホールを攻撃することによって、データを取得した場合、不正アクセス行為が刑事罰の対象になる(不正アクセス禁止法第2条第4項各号、第3条、第11条)。
(5)不正利用等を防止する技術
提供データの不正利用や不正流出を防止する方法として、提供データの暗号化、アクセス制限、電子透かし技術を用いたデータの出所等を明らかにする方法、ブロックチェーン技術等がある。
セス制限、秘密保持契約等の措置が考えられる。詳細は「営業秘密管理指針
(http://www.meti.go.jp/policy/economy/chizai/chiteki/pdf/20150128hontai.pdf)」を参照。
9 平成30年不正競争防止法改正の概要等は以下に掲載。 http://www.meti.go.jp/policy/economy/chizai/chiteki/kaisei_archive.html#h30
10 東京地裁平成13年5月25日中間判決・判例時報1774号132頁(翼システム事件)
また、データ受領者の手許から提供データの流出を防止するビジネスモデルとして、データ提供者の工場内にデータ受領者の分析システムが入ったサーバを設置して、そのサーバ内で稼働データ等の分析を行い、データ提供者に分析結果を提供する方法がある。このような、データ提供者内でデータの提供と分析が完了する(データをデータ提供者の工場内から外部に基本的には出していない)といった方法もある。
第2 本ガイドライン(データ利活用編)の対象範囲
前述のとおり、経産省ガイドラインは、契約類型を①【データ提供型】、②【データ創出型】、
③【データ共用型】の3類型に分類している。
第1の類型である【データ提供型】は、取引の対象となるデータを一方当事者(データ提供者)のみが保持11しているという事実状態について契約当事者間で争いがない場合において、データ提供者から当該データの提供を受ける他の当事者(例、農業データITサービス開発者および提供者)に対して当該データを提供する際の、他方当事者の当該データの利用権限や利用条件等を取り決めるための契約である。例えば、「熟練知」を有する熟練農業者が、当該「熟練知」を農業データI Tサービス開発業者に提供する場面や、農業経営に参入したベンダが、自社農場に設置した自社センサによって取得した土壌データを蓄積し、他のメーカーに有償譲渡するなどの事例がこの契約類型の対象となる。
農業者A
契約
B社
栽培データ
データ提供
第2の類型である【データ創出型】は、複数当事者が関与することにより、従前存在しなかったデータが新たに創出される場面において、当該データの創出に関与した当事者間で、データの利用権限について取り決めるための契約である。例えば、農業データITサービスベンダが、熟練農業者にウェアラブル端末を装着してもらい、当該端末についているセンサから、その作業と判断に関する「暗黙知」の情報を農業データITサービスベンダに提供してもらい、農業データITサービスベンダが、当該「暗黙知」の情報を集積し分析して、当該熟練農業者の「暗黙知」を一定の「形式知」として誰でもが理解できる形に変換されたノウハウとして加工した場合には、熟練農業者と農業データITサービスベンダはいずれも新しく当該「形式知」を創出させた当事者である。そして、この当事者間で、熟練農業者の「暗黙知」をどの範囲で利用することができるのか、「形式知」をいかなる条件で利用することができるのかを定める場合が、この契約の類型となる。
11 経産省ガイドラインは、「保持」を「データに対して適法にアクセスできる事実状態を指す用語として便宜的に用いている。」と説明している(同ガイドライン10頁、脚注9)。本ガイドラインも「保持」は同じ意味を有する用語として用いることとする。
第3の類型である【データ共用型】は、複数の事業者がデータをプラットフォームに提供し、プラットフォーム事業者が当該データを集約・保管、加工または分析をし、複数の事業者がプラットフォームを通じて、当該データを共用するための契約である。現在、農業の担い手が、データを使って生産性を向上させ、経営の改善に挑戦することができる環境を作るための農業データプラットフォームである「農業データ連携基盤」(通称WAGRI)が立ち上がり、平成31年4月からの本格稼動を目指している。WAGRIは、一定の共通したルールの下で、気象や土地、地図情報等に関する様々なデータを民間企業や官公庁が有償または無償で農業データプラットフォーム(WA GRI)に対して提供するとともに、プライベート・データと呼ばれる農業従事者および農業に関するデータも、農業関係者や農機メーカー等から当該プラットフォームに対して提供してもらうことによって、ICTベンダや農機メーカー等が個別に開発・集積した農業ICTサービスやデータベースを相互に連携させ、またWAGRI上で必要なデータを統合・解析することによって、質の高い分析データをWAGRI参加者に提供することを目的としている。このWAGRIのプラットフォーム上でのデータの利活用条件を定める契約は、この契約の類型となる。
なお、第3類型の【データ共用型】は、WAGRIのような大規模なプラットフォームを用いたものばかりではなく、複数の農業者等のデータを小規模に共用するような場合も含まれる。その際には、プラットフォームはあくまでもデータのやり取りをする「場所」を提供するに過ぎないことが少なくなく、この場合にはプラットフォーム事業者がデータの受領主体や提供主体となることはない。したがって、プラットフォーム事業者がデータ提供・利用契約の契約当事者となることはないが、プラットフォーム事業者が、データ保管契約の契約当事者となることはあり得る(この点については第6・2・(1)を参照すること)。
以上のとおり、経産省ガイドラインが設定したこの3分類は農業分野においてもあてはまると言えるので、本ガイドライン(データ利活用編)においても、この3分類の契約類型を対象として、それぞれの考え方を示すこととする。
第3 契約当事者および対象読者に関する留意点
(1)契約当事者に関する問題点
本ガイドライン(データ利活用編)においてデータ提供者は、個人としての農業者、農業協同組合、農業法人、法人格を持たない生産部会などを想定しており、またデータ受領者としては、株式会社や合同会社等の法人のほか、法人格を有さない協議会や民法上の組合などを想定している。
個人、法人格を有する法人、または法律によって法人格を付与された農業協同組合(農業協同組合法第4条)や農業組合法人(同法第72条の6)は契約主体となることができるので問題はない。しかしながら、法人格を持たない生産部会や法人格を有しない協議会等については、契約の主体となることはできない。
したがって、このような場合、法人格を持たない生産部会や法人格を有しない協議会等の代表者やその代表となる法人が、当該生産部会や協議会を代表し、生産部会や協議会全体に法的拘束力を及ぼすことを目的として契約主体となる。例えば、「ABC生産協議会」が民法上の組合である場合に、かかる協議会の名称を用いて契約を締結する場合には、その業務執行組合員である個人または法人が、「ABC生産協議会業務執行組合員●」名で契約を締結する。そして、その上で、「A BC生産協議会」の構成員(組合員)全員で締結した協議会に関する契約(組合契約)で、「AB C生産協議会業務執行組合員●」名で締結した契約に関しては、各協議会メンバー(組合員)が拘束されることを約束することにする(その他、この組合契約では、出資の方法、業務執行組合員の任期およびその選任、辞任、解任、組合からの脱退、除名、解散等の規定を入れ込むことになる)。
(2)対象読者に関する留意点
経産省ガイドラインは、その読者として「契約に関する全ての契約に関係する全ての者(事業者の契約担当者のみならず、その事業部門、経営層、データの流通や利活用に関連するシステム開発者等を含む。)を幅広く想定している。なぜなら、データ契約が経営全体に及ぼし得る潜在的な影響や、データ契約によってデータ流通と利活用を可能にするシステム開発にも影響が生じ得ること等も踏まえると、契約締結に携わる者以外にも、契約に関係する全ての者を幅広く想定読者として、本ガイドライン(データ編)で提示した問題意識を理解していただくことが望ましいからである。」と説明している12。本ガイドライン(データ利活用編)は、このような読者に加えて、一個人とし ての農業従事者や農業関係者等、従来IT関連契約に馴染みがない者も併せて想定読者としている。熟練農業者や先進的な農業経営者は、栽培ノウハウなどの流出に非常にセンシティブになることが多く、かかる流出をおそれるあまり、当該ノウハウまたはそのノウハウを構成するデータや画像を第三者への提供に対して慎重な姿勢を示すのが一般である。これは、特定の地域だけで共有していた栽培ノウハウ等を、研修目的で来た第三者に提供または開示した結果、無断で他の地域や海外で同種の農作物が栽培されるなど、ノウハウの提供者が意図しない態様で利用された例が多数報告されていることが影響していると考えられる。
したがって、本ガイドライン(データ利活用編)ではこの点に特に注意し、熟練農業者や先進的な農業経営者が、データの提供をすることによって自らの利益ともなり、またノウハウの流出とならないような歯止めがかかった契約雛形となっていると感じてもらうという視点から、経産省のガイドラインを必要な限度で修正している。また、この種の契約に慣れていない読者が想定されていることから、経産省ガイドラインであまり説明がなされていなかった事項(例えば、一般条項)、
12 経産省ガイドライン10頁。
このような想定読者にとって有益と考えられるところについては、本ガイドライン(データ利活用編)で説明を加え、また具体的な条文例を提供している。
第4 「データ提供型」契約のモデル契約書案
1 データ提供型契約の意義
本ガイドライン(データ利活用編)において、【データ提供型】とは、取引の対象となるデータを一方当事者(データ提供者)のみが保持しているという事実状態について契約当事者間で争いがない場合において、「データ提供者」から当該データの提供を受ける「データ受領者」に対して当該データを提供する際の「データ受領者」の当該データの利用権限や利用条件等を取り決めるための契約である。ただし、後述するとおり、「データ提供者」が提供するデータを加工、分析、編集、統合等することによって新たなデータ(派生データ)が生じる場合には、その派生データに関する
「データ提供者」および「データ受領者」の利用権限や利用条件も取り決められることになる。本ガイドライン(データ利活用編)では、以下に条文案を示して、その条文案に関する考え方を提示することとする。
なお、経産省ガイドラインでは、当事者の表示を「甲」「乙」という表記にしているが、本ガイドライン(データ利活用編)では「データ提供者」「データ受領者」と記載している。我が国の契約実務では、当事者の表記を「甲」「乙」で示すことが多いが、この表記の場合、契約を作成する際、誤って「甲」「乙」が入れ替わってしまうことがあり、またそれが明らかな誤記かどうか分からない場合がある。また、農業関係者が契約書を示された際にも、当事者の表記が「甲」「乙」となっているよりも、「データ提供者」「データ受領者」と記載してあったほうが、権利義務の主体と内容が、その条文のみから理解がし易いというメリットもある。したがって、そのような観点から、本ガイドライン(データ利活用編)では「甲」「乙」に代えて、「データ提供者」「データ受領者」という記載を用いた。
2 定義規定
第1条(定義)
本契約において、次に掲げる語は次の定義による。
① 「提供データ等」とは、本契約に基づき、データ提供者がデータ受領者に対して提供するデータ提供者が利用権限を有する情報、データおよび/または画像であって、別紙に詳細に定めるものをいう。
② 「本目的」とは、●をいう。
③ 「加工等」とは、「提供データ等」を加工、分析、編集、統合等することをいい、「派生データ」とは、「提供データ等」を「加工等」することによって新たに生じたデータまたはデータ群をいう。
④ 「売上金額」とは、データ受領者が、派生データを第三者に提供することによって、当該第三者からデータ受領者が受領した金額をいう。
⑤ 「個人情報等」とは、個人情報の保護に関する法律に定める個人情報、個人データおよび匿名加工情報を総称したものをいう。
(1)提供データ等の定義
経産省ガイドラインでは、「提供データ」の定義を、「本契約に基づき、データ提供者がデータ受領者に対して提供するデータ提供者が利用権限を有するデータであって、別紙に詳細に定めるも
のをいう。」としていたが、本ガイドライン(データ利活用編)では、「提供データ等」とし、その定義を「本契約に基づき、データ提供者がデータ受領者に対して提供するデータ提供者が利用権限を有する情報、データおよび/または画像であって、別紙に詳細に定めるものをいう。」とした。データという場合、一般的にコンピュータで処理する情報またはデータベースを構成する情報をいうが、単に情報という場合には、例えば紙媒体などの有形の媒体に記載された情報および事実、何らの媒体にも記載または保存されていない情報および事実も含まれること(したがって、ITベンダなどのデータ受領者が熟練農業者からインタビューすることなどによって取得した情報はこれに含まれる)、我が国の法体系でも「情報」と「データ」はしばしば区別して用いられていること(たとえば、個人情報保護法上における「個人情報」と「個人データ」の区別)から、本ガイドライン
(データ利活用編)では「情報」と「データ」を区別して用いることとした。また画像が画像データの形で提供されなかった場合にも対応できるようにする必要があることから、本ガイドライン(データ利活用編)では、情報やデータ以外の画像も提供対象とすることを明示する意味で、「提供データ等」とし、その定義を前述のとおり情報および画像を含める形に改めることとした。
(2)提供データ等の利用権限
「提供データ等」には、「データ提供者」が利用権限を有するデータが含まれている。ここでいうデータの「利用権限」とは、データの利用権、保持・管理に係る権利、複製を求める権利、販売・権利付与に対する対価請求権、消去・開示・訂正等・利用停止の請求権等の契約に基づいて発生する権利を自由に行使できる権限のことを意味する13。
我が国の法律は、一定の条件を満たす発明や創作をした者に特許を受ける権利や著作権を付与し、特許を受ける権利を行使して特許権を取得した者や著作権を取得した者に対して、当該特許権や著作権の利用権限を付与している。したがって、「提供データ等」に、我が国の法律で認められたこのような特許権や著作権などの「知的財産権」14が存在するのであれば、その保有者に利用権限を 認めることには何らの困難もない。しかしながら、「提供データ等」にそのような「知的財産権」の存在が認められないか、またはその存在を認めるのがかならずしも容易ではない場合に、「データ提供者」にいかなる根拠によりその利用権限を認めるのかは、検討に値する事項である。この点、
「データ提供者」に、「提供データ等」に対する創造的活動は認められないものの、それを生み出したことによる価値を考慮して、「データ・オーナーシップ」なる概念を創出し、それによる利用権限の正当性を考慮するという考え方があり得る。しかしながら、我が国の現行の法体系では、データに所有権等の物権の存在を認めることができないため、「データ・オーナーシップ」という用語を用いて、「データ提供者」に所有権またはこれに類似する物権的な権利を認めるのは困難である。また、「オーナーシップ」は、しばしば「所有権」と訳されてしまうことがあるが、「オーナーシップ」の一般的に意味するところは、「特定の財産権の利用をし、第三者への譲渡をし、特定の財産権からの利益を享受する権利の集合体」であって、我が国で使われている物権的な権利である「所有権」とはその意味内容が合致しない(例えば、諸外国では「特許権のオーナシップ」とい
13 経産省ガイドライン24頁
14 特許権、実用新案権、育成者権、意匠権、著作権、商標権その他の知的財産(これには事業活動に用いられる商品または役務を表示するものおよび営業秘密その他の事業活動に有用な技術上または営業上の情報を含む 。知的財産基本法第
2条第1項)に関して、法令により定められた権利または法律上保護される利益に係る権利をいう。
うような使われ方をするが、特許権は物権ではないことから、これを「所有権」と訳することは誤っている)。したがって、「オーナーシップ」という場合、かえって読み手である農業関係者に、当該データに、法的な意味での「所有権」が存在するとの誤解を与えたり、あるいはこの契約により所有権や排他権を創出できるかのような誤解を与えてしまう可能性もある。したがって、この種の契約においては、「データ・オーナーシップ」という語は使わないのが適切である。なお、この点は経産省ガイドラインも同様であるが、一般的に呼称されている「データ・オーナーシップ」の意味は、「データに適法にアクセスし、その利用をコントロールできる事実上の地位、または契約によってデータの利用権限を取り決めた場合にはそのような債権的な地位」を指すものと考えられると整理している15。
なお、経産省ガイドラインに記載されているとおり、提供されるデータは、「契約段階ではその価値がはっきりしない」ことが少なくない16。例えば、「熟練知」を有する熟練農業者が、当該「熟練知」を農業データITサービス開発業者に提供する場面における「熟練知」なるものは、ノウハウとして一定の財産的価値が認められる可能性がある。これに対し、農業関係者から提供されたと言えるデータであっても、当該農業関係者の知見が反映されていると言えるかどうかが微妙なケース(例えば、データの集積は、トラクタを提供した農機メーカーが自動で行い、農業関係者はいわゆる「熟練知」を有しておらず、当該トラクタを運転しているだけの場合)も存在する。
【農業分野において想定される「提供データ等」の例】
「提供データ等」の例 | 当該データ創出に対するデータ提 供者の寄与度 |
・ 熟練農業者による知見や判断が示された農作業に関するデータ(視認データ、画像データ、その他天 候や時期等を考慮した耕作に関するデータ)。 | 一般的に寄与度は大きい。 |
・ 農機メーカーが開発したトラクタに装着しているセンサを利用して取得されたデータ17。 | 当該農機の稼動や運転にどの程度 農業者の知見や判断が含まれているのかによって異なる。 |
・ ITベンダなどのデータ受領者が熟練農業者からインタビューすることなどによって取得した情報や、熟練農業者が永年に亘り作成してきた写真付の育成日記などに記載されている文字情報や写真画 像。 | 一般的に寄与度は大きい。 |
この点、経産省ガイドラインは、「【データ創出型】の契約の場面では、データの創出に対する一方当事者の寄与度が大きく、かつ、当該データが当該当事者の事業に密接に関連するものである場合には、当該当事者が、他の当事者に対して、当該データに関する利用権限を主張できるという債権的な地位を契約で定めることに合理性が認められる場合があるといえる。もっとも、当事者がデータ創出に果たした寄与度やデータと当事者の事業との関連性を評価する方法は、産業分野やデータの種類等により大きく異なり得るものであり、現時点において、どちらの当事者がデータに関
15 経産省ガイドライン14頁から15頁
16 経産省ガイドライン2頁
17 このデータは提供型というよりは創出型の契約になじむものである。
する債権的地位(データ・オーナーシップ)をもつべきであるという一律の基準を見出すことは困難である。データ創出に対する寄与度や機器所有権等は、(中略)データの利用権限の考慮要素として評価されるべきものであり、個別の利用権限ごとに、データの利用促進とデータを秘匿する必要性の観点からの各考慮要素を評価し、データの利用権限の調整を図ることが望ましい。」と述べている18。しかしながら、この考え方は、【データ創出型】の契約の場面のみならず、農業分野における【データ提供型】契約にもあてはまる。
農業データの源泉となる農業関係者の知見は、農業関係者の永年に亘る不断の努力によって生み出されてきたものであるが、提供された農業データは一旦第三者に対する自由利用を許されると、利用される範囲が無限に拡散し、その価値を毀損するという可能性を秘めている。したがって、農業関係者が安心して農業データの提供をするという環境を作るためには、データ受領者に対する提供データ等の削除等要求(第3条第5項)や利用状況報告要求(第7条第1項)など農業関係者に対して当該データに対する一定のコントロール権を付与することが必要である。また、【データ提供型】においては、取引の対象となるデータを一方当事者(データ提供者)のみが保持しているという事実状態について当事者間に争いがないという状況を前提としている。したがって、「提供データ」に対する当初のアクセス権は「データ提供者」にしかないという事実状態についても争いがないのであるし、前述のとおり、「データ提供者」には、データ創出に対する寄与も認められるから、データ提供者とデータ受領者の関係性において、「提供データ」の利用権限を「データ提供者」が有するということには、合理的根拠もあるといえる。
したがって、農業分野において、農業関係者からデータを取得する場合には、原則として「データ提供者」が利用権限を有する内容の契約雛形の利用を推奨することとし、その価値や農業関係者の知見の寄与度などはロイヤルティや譲渡対価の算定において検討されることが望ましい。
なお、「提供データ等」が農業関係者が提供する農業関連データであって、知識、経験または実験等に基づき意識的または無意識的に選択、取得、発見、発明等した内容、画像およびデータである場合には、かかるデータには一定の財産的価値が認められるべきであるので、当然にその利用権限もみとめられてしかるべきと言える。この点、データ受領者側からは、顧客データや売上データ、あるいは特定の作物の生育に必要なノウハウが網羅され、検索可能となっているパッケージデータなどは、それ自体交換価値が認められるから利用権限が認められてしかるべきであるが、構造化されていないデータ(例えば、特定の農業者の視認データや土壌の様子を示すデータ)のみには交換価値が認められないから、利用権限も認められるべきではないという議論がなされる可能性もある。しかしながら、利用権限は、必ずしもそのデータそれ自体の交換価値のみに紐づくものではなく、前述のとおり、そのデータの創出に対する寄与度や知見等にも紐づくものである。したがって、提供データ等それ自体に交換価値が認められなくても、その利用権限は認められるべきであって、交換価値の有無は前述のとおり、ロイヤルティ額や譲渡対価の算定において反映されればよいと考えられる。
(3)「提供データ等」の特定
データ提供契約においては、取引の対象となる「提供データ等」の対象、範囲(取得時期等も含む。)、項目等の詳細ができるだけ明確になるように契約で定めることが重要である。例えば、「提
18 経産省ガイドライン15頁。
供データ等」の譲渡契約19の場合には、「提供データ等」の範囲や内容が契約上不明確であると、データ受領者は、想定していたデータとは異なるものしか受領できず、契約の目的を達成することができない可能性があるばかりか、かかるデータに対して不本意な対価の支払を余儀なくされてしまう可能性がある。また、「提供データ等」の利用許諾契約の場合に、「提供データ等」の範囲や内容が契約上不明確であると、データ受領者は、利用できる範囲が分からなくなってしまい、結果として取引関係を不安定なものにしてしまうし、また当該データが秘密情報である場合には、データ受領者は、いかなる範囲のデータを秘密として管理すればよいかわからなくなってしまう。したがって、契約当事者は、「提供データ等」の対象、範囲、項目等を、契約書の中で可能な限り特定しておくことが望ましい20,21。
(4)データの粒度22
経産省ガイドラインは、「対象データの範囲と関連して、データから営業秘密やノウハウが流出する可能性を低減するために、創出されるデータの粒度を粗くし、または、範囲・内容を限定することが考えられる。また、対象データが個人に関するものである場合、一部の情報をあえて収集しないことで、個人情報に該当することを避け、また、当該個人のプライバシー権に対する侵害となることを回避するということが考えられる。」と述べた上で、「もっとも、データの加工等は、データの有用性にも影響し得るものであり、データの利用の観点とデータ保護の観点を踏まえたバランスの良い検討が求められるところである。」と説明している。23
熟練農業者は、土作りの手法や施肥の手法を始め、数多くの「熟練知」(ノウハウ)を自助努力により開発し、保有しているが、このような「ノウハウ」は一旦外部に流出してしまうと歯止めがかからず、その価値が大きく毀損される可能性がある。したがって、このようなノウハウの流出を未然に防止するという観点からは、データの粒度を当事者間で明確にし、契約で規定しておくということが考えられる。例えば、農業分野においては作物の生育状況に関する画像データの画素数を下げることや、どの圃場を使ったのかなどを特定しないことなどが一例として挙げられる。そして、このような粒度は、契約書の中では「提供データ等」を特定する場面で、それを特定し、記載することになる。
他方、経産省ガイドラインも指摘しているとおり、あまりにデータの粒度を下げると、データ受領者において当該データを受領する意味がなくなってしまうなどの懸念もある。したがって、この
19 ここは読者の理解に資するものとして「譲渡契約」という用語を使っているが、データには所有権等の物権がないのであるから,所有権の譲渡という意味での譲渡契約は成立しえないことになる。この点、経産省ガイドラインでは、「契約締結後にデータ提供者が提供データに関する一切の利用権限を失い,提供データを利用しない義務を負う類型」を「譲渡」と整理しているが(同24頁、脚注45)、本ガイドラインでもこれと同様の整理をすることとする。
20 秘密情報の範囲を可能な限り特定しておくことは、不正競争防止法における「営業秘密」の秘密管理性の確保に資する措置としても有効である。
21 特定の仕方を含め、秘密情報等の情報資産の適切な管理のための参考として、漏えいリスクへの対策例等を掲載している「秘密情報の保護ハンドブック~企業価値向上に向けて~
(http://www.meti.go.jp/policy/economy/chizai/chiteki/pdf/handbook/full.pdf)」
22 データの細かさを表す用語として一般的に用いられているが、ここではデータの一部の情報を削除したり、またはデータにより特定できる項目を特定できないように加工することを、データの「粒度を粗くする」と言っている。
23 経産省ガイドライン54頁および55頁
点を検討する上では、契約において達成すべき目的を阻害することにならないようなバランスの良い配慮が必要となる。
(5)個人情報等の取扱
本ガイドライン(データ利活用編)の雛形では、提供データの中に個人情報等を含めるかどうか については特段明記はしていないが、「提供データ等」の定義の中で、「個人情報の保護に関する 法律に定める個人情報、個人データまたは匿名加工情報は含まない。」とすることは可能である。 実際「提供データ等」の中には、個人情報の保護に関する法律に定める個人情報等が含まれている 場合がある。例えば、圃場に関するデータの場合、その所有者名が提供データ等に入る場合がある し、熟練農業者が提供する「暗黙知」の場合には、その熟練農業者の氏名または名称、当該熟練農 業者の氏名または名称と容易に紐付けができるブランド/品種名などが含まれている場合がある24。一般に「データ受領者」として想定されている農機メーカーやICTベンダは、「個人情報データ ベース等」(例えば従業員の雇用管理に関するデータベース)を事業の用に供しているから「個人 情報取扱事業者」に該当するが、農業関係者(「データ提供者」)も同様に、「個人情報データベ ース等」を事業の用に供していれば「個人情報取扱事業者」に該当する。そして、その場合には、 データ提供者およびデータ受領者は、個人情報保護法第四章「個人情報取扱事業者の義務等」(個 人情報保護法第15条から第39条)に従った対応をとる必要がある。
なお、「個人情報の保護に関する法律に定める個人情報、個人データまたは匿名加工情報は含まない。」という規定をした場合でも、それは【データ提供型】契約において「提供データ等」の中に「個人情報の保護に関する法律に定める個人情報、個人データまたは匿名加工情報」を含めてはならないことを意味するものではない。したがって、「提供データ等」の中に「個人情報の保護に関する法律に定める個人情報、個人データまたは匿名加工情報」等を含める場合には、①データ提供者において、事前にその旨データ受領者に通知する、②「データ提供者」が、個人情報または個人データを適正に取得したこと、その他その生成や提供に関して、何ら法令に違反する行動をしていないことの表明保証、③データ提供者およびデータ受領者において、個人情報保護法に準拠した取扱をすることなどの条項を追加検討することが望ましい。この点については、提供データ等の取扱に関する箇所で別途具体的な条文案を提供することとする。
(6)利用目的の特定
熟練農業者や先進的な農業経営者は、栽培ノウハウなどの流出をおそれるあまり、当該ノウハウまたはそのノウハウを構成するデータや画像を第三者への提供に対して慎重な姿勢を示すのが一般
24 個人情報取扱事業者とは、「個人情報データベース等を事業の用に供している者」をいい(個人情報保護法第2条第5項)、個人情報データベース等とは、「個人情報を含む情報の集合物であって、次に掲げるもの(利用方法からみて個人の権利利益を害するおそれがないものとして政令で定めるものを除く。)をいう。」とされ、「一、特定の個人情報を電子計算機を用いて検索することができるように体系的に構成したもの」「二、前項に掲げるもののほか、特定の個人情報を容易に検索することができるよう体系的に構成したものとして政令で定めるもの。」とされている。したがって、仮に
「データ受領者」が、「提供データ」の取扱を開始する前は「個人情報取扱事業者」に該当しなかった場合であっても、例えば、取得した「個人情報」がデータ受領者によってデータベース化され、それを事業の用に供している場合には、データ受領者は「個人情報取扱事業者」となる。
である。これは、特定の地域だけで共有していた栽培ノウハウ等を、研修目的で来た第三者に提供または開示した結果、無断で他の地域や海外で同種の農作物が栽培されるなど、ノウハウの提供者が意図しない態様で利用された例が多数報告されていることが影響していると考えられる。
そこで、かかる不安を取り除く第一歩として、かかる栽培ノウハウまたはそのノウハウを構成するデータや画像が、意図していない目的に使われないことを契約で明確に約束させることは非常に重要である。そして、かかる観点からは、農業関係者にとって予測し易い平易な文言で、目的の特定をし、契約書に記載することが望ましい。
なお、この利用目的の特定は、利用目的を制限することとイコールではないことに留意をする必要がある。「利用目的を特定する」とは、利用目的の一つ一つを明瞭に且つわかり易く記載するこことを意味し、「利用目的を制限する」とは、利用できる目的の全体の枠を制限することを意味する。利用目的の一つ一つが明瞭である限りにおいて、その利用目的の枠を広範にするのか、狭い範囲に制限するのかは政策的な判断に委ねられる。利用目的の特定が必要なのは、データ提供者が意図しない利用をデータ受領者がすることを回避し、データ提供者に安心したデータの提供を促すことを目的としている。したがって、利用目的が農業関係者にとって予測し易い平易な文言で特定され、当該特定された利用目的に対する農業関係者の理解と同意が得られているのであれば、利用目的の範囲を広げることについては問題がないし、むしろそうすることで、データ受領者側で、提供データ等を様々な目的に利用することができ、提供データ等の価値を増大させるという役割も期待できる。したがって、この利用目的の特定も、契約の目的との関連性を考慮したバランスの良い記載を心がけることが必要である。
3 提供データ等の提供方法
第2条(提供データ等の提供方法)
データ提供者は、本契約の期間中、データ受領者に対して提供データ等を、別紙に定める提供方法で提供する。ただし、データ提供者は、データ提供の●日前までにデータ受領者に通知することで、別紙に記載の提供方法を変更することができる。
(1)提供データ等の提供方法の特定
データ提供者が契約締結当時既に有しているデータをデータ受領者に提供する場合には、上記のように提供データ等の提供方法について特定することで、データ受領者は、データの受領方法についての準備をし、予測をつけることができ、安定したデータ受領を確保することができる。なお、データ提供者が契約締結当時、提供データ等を有しておらず、契約締結後に提供データ等を創出、取得または撮影して、データ受領者に送付する場合には、提供データ等の特定作業において、データの提供方法も特定されることが多い。したがって、この場合には、提供データ等の提供方法の規定は不要である。
なお、「提供データ等」の中に個人情報等が含まれる場合、第2条の提供データ等の提供方法の中で、以下のような規定を入れることが望ましい。
第2条(提供データ等の提供方法)
1 略
2 データ提供者は、個人情報等を含んだ提供データ等をデータ受領者に提供する場合には、事前にその旨および提供される個人情報等の項目をデータ受領者に明示する。
3 データ提供者が個人情報等を含んだ提供データ等をデータ受領者に提供する場合には、その生成、取得および提供等について、個人情報保護法に定められた手続を履践していることを保証する。
4 データ受領者は、本条第2項にしたがって提供データ等が提供された場合には、個人情報保護法を遵守し、個人情報等の管理に必要な措置を講ずるものとする。
5 データ提供者は、提供データ等の全部または一部を改ざんして、提供データ等をデータ受領者に提供してはならない。なお、「改ざん」とは、事実と異なる改変を加えることをいう。
(2)「提供データ等」の中に個人情報等が含まれる場合の配慮
上記では、事前に明示すべき事項として「提供される個人情報等の項目」を入れたが、これは個人情報保護法において、個人情報、個人データおよび匿名加工情報で適用される条文が異なり、またその取扱に関する義務内容も異なるからである。この規定により、データ提供者に「提供される個人情報等の項目」を明示する義務を課すことによって、データ受領者において、当該提供データ等受領後、個人情報保護法のいかなる規律に服すべきかを明確に理解することができる。
4 提供データ等の利用許諾または譲渡
第3条(提供データ等の利用許諾)
1 データ提供者は、データ受領者に対して、提供データ等を本契約の有効期間中、本目的の範囲内で利用することを許諾する。この利用には、本目的のために、提供データ等を加工等することが含まれる。
2 データ受領者は、本契約で明示的に規定されるものを除き、提供データ等について開示、内容の訂正、追加または削除を行うことのできる権限を有しない。
3 データ受領者は、データ提供者の書面による事前の承諾のない限り、本目的以外の目的で提供データ等を加工等その他の利用をしてはならず、提供データ等および派生データを第三者(データ受領者が法人である場合、その子会社、関連会社も第三者に含まれる。)に開示、提供、漏えいしてはならない。
4 提供データ等に関してデータ提供者が創出した知的財産権(データベースの著作物に関する権利を含むが、これらに限らない)は、データ提供者に帰属する。ただし、提供データ等のうち、第三者に知的財産権が帰属するものはこの限りではない。
(1)データ提供型契約の類型
データ提供型契約において、データ受領者による利用については、データ提供者の選択に基づき、データ受領者に対して、①提供データ等の利用許諾をする場合(一方向利用許諾型)、②提供データ等を譲渡する場合(譲渡型)の2通りが考えられる。
なお、これに加えて、データ提供者がその利用権限を有する提供データ等をデータ受領者に対して利用許諾し、他方、データ受領者が単独で利用権限を有するデータをデータ提供者に利用許諾し、あるいはデータ受領者がデータ提供者と共に利用権限を有するデータの利用条件を定める形のデータの共同利用の形態(双方向利用許諾型または共同利用型)も存在する。なお、双方向利用許諾型
(共同利用型)のうち、データ受領者が単独で利用権限を有するデータをデータ提供者に利用許諾する形(双方向利用許諾型)となるか、あるいはデータ受領者がデータ提供者と共に利用権限を有するデータの利用条件を定める形(共同利用型)となるかは、提供データ等を加工した結果生じたデータまたはデータ群の利用権限を、データ受領者のみが有するとすべきか、あるいはデータ提供者とデータ受領者の双方が有するとすべきかにより異なる。この点については、いずれの当事者が
「派生データ」の利用権限を有するべきかに直結する問題であるので、本項での解説に加えて、後述する「派生データ」に関する利用権限の考え方を参照いただきたい。
また、合意された目的以外にも、例えば災害発生時等の人の生命、身体又は財産の保護のために国の機関又は地方公共団体から協力要請があった時は、必要な範囲でデータを開示・提供する等の対応が求められる場合があることにも留意する。
(2)一方向利用許諾型
一方向利用許諾型の場合、データ提供者は、提供データ等の利用権限を自らにも留保したまま、本目的の範囲内で、契約書に明記した範囲の利用をデータ受領者に許諾することになる。この許諾には、独占的許諾と非独占的許諾があり、独占的許諾をする場合には、データ提供者は、利用許諾をした範囲の提供データ等を、受領当事者以外の第三者に利用許諾することができなくなる。また、独占的許諾をする場合には、利用許諾をした範囲の提供データ等をデータ提供者自らも利用できな
いと解釈される可能性があるので、独占的許諾をする場合には、契約書の中において、「データ提供者が提供データ等の利用権限を自らに留保する」ことを明記しておく必要がある。なお、「利用」については、類似の概念として特許法上の「実施」(特許法第2条第3項)、商標法上の「使用」
(商標法第2条第3項)などがあるが、データに関する利用についてはその意味するところが必ずしも定かではない。したがって、利用権限を有するデータ提供者の立場からすれば、いかなる範囲および内容で、データ受領者が提供データ等を利用することができるのかを特定することは重要である。本ガイドライン(データ利活用編)では、「利用」の定義を設けていないが、第2項で、「開示、内容の訂正、追加または削除を行うことのできる権限を有しない」と規定し、第3項で「データ提供者の書面による事前の承諾のない限り、本目的以外の目的で提供データ等を加工等その他の利用をしてはならず、提供データ等および派生データを第三者(データ受領者が法人である場合、その子会社、関連会社も第三者に含まれる)に開示、提供、漏えいしてはならない。」と規定することによって、これらの行為は「利用」から除かれることを明らかにしている。なお、「第三者」は、通常「当事者以外のすべての者」を意味するので、データ受領当事者の子会社または関連会社は、「第三者」に該当するという解釈が一般的には妥当する。しかしながら、この点については将来争いの種にならないように、「データ受領者が法人である場合、その子会社、関連会社も第三者に含まれる」などと規定し、解釈の余地がないようにしておくことが望ましい。
データ提供者が、本条第2項および第3項に規定する行為以外の行為についても禁止したいと考える場合には、それらの行為を禁止事項に追加してもよいし、また利用できる地域等を制限すること(例えば、「日本国内でのみ利用することを許諾する。」と規定すること)も可能である。
提供データ等に関しては、それをデータ提供者が創出し、かつ当該提供データ等がデータベースの著作権、営業秘密といった知的財産権の対象となることがある。その場合、提供データ等の利用許諾をしたとしても、当該知的財産権の帰属には変更がないはずである。第4項ではこれを確認的に規定したものであり、この規定は、データ提供者に対する安心材料を提供するものであるが、この規定がなくても、提供データ等に関する知的財産権の帰属が変わることはないのであるから、必要不可欠な条文とまでは言えない。なお、経産省ガイドラインにも同様の規定があり、そこでは、
「提供データに関して知的財産権(データベースの著作物に関する権利を含むが、これらに限らない)は、甲に帰属する。ただし、提供データのうち、第三者に知的財産権が帰属するものはこの限りではない。」と規定されていた。しかしながら、農業データに関する限り、提供データ等の提供者は、それを創出した農業従事者ではなく、農業従事者から許諾を受けた農業協同組合等の団体であることがあり、その場合に、提供データに関する知的財産権の創出に寄与していないデータ提供者(農業協同組合等)に知的財産権の帰属を認めるかのような条文は適切ではない。他方、農業従事者から生データの提供を受けて、農業協同組合等の団体が外部の業者に委託して、価値のある派生データを生み出し、それを第三者に提供するケースもあり得る。このようなケースにおいて,その派生データにデータベースの著作権などが発生した場合には、農業協同組合等にデータベースの著作権が帰属させることが適切である(そしてこの場合には、当該派生データが「提供データ」となって、データ受領者に提供されることがあり得る)。したがって、本ガイドライン(データ利活用編)では、このような観点から、適切な結論となるように「データ提供者が創出させた」という文言を入れた。
(3)譲渡型
一方向利用許諾型の場合と異なり、譲渡型の場合に、データ提供者は、提供データ等に関する利用権限を失う。したがって、提供データ等を受領当事者に譲渡した後は、それに対する一切の制限を加えることができない。したがって、一方向利用許諾型で規定した第2項から第4項は、いずれも譲渡型の場合には規定することができず、条文例としては、以下の通りとなる。
第3条(提供データ等の譲渡)
データ提供者は、データ受領者に対して、提供データ等に関する一切の権限(当該提供データ等またはデータ群に対して著作物性が認められる場合には、著作権法第27条および同法第
28条の権利を含むがこれに限られない。)を譲渡する。
なお、「当該提供データ等またはデータ群に対して著作物性が認められる場合には、著作権法第
27条および同法第28条の権利を含むがこれに限られない」と規定したのは、次の理由による。著作権法第61条第2項は、「著作権を譲渡する契約において、第27条または第28条に規定する権利が譲渡の目的として特掲されていないときは、これらの権利は譲渡した者に留保されたものと推定する。」と規定する。したがって、著作権譲渡契約においては、著作権法第27条に規定する権利(翻訳権、翻案権等)および第28条に規定する権利(二次的著作物の利用に関する原著作者の権利)を譲渡対象とする旨明記していないと、これらの権利が譲渡されていないと推測されてしまう。
提供データ等とは、本契約に基づき、「データ提供者」が「データ受領者」に対して提供する「データ提供者」が利用権限を有する情報、データおよび/または画像であるので、それらに写真としての著作物性やデータベースとしての著作物性が発生する場合があり得る。したがって、そのような場合に備えて、「当該提供データ等またはデータ群に対して著作物性が認められる場合には、著作権法第27条および同法第28条の権利を含むがこれに限られない」と規定し、当事者の意思どおり、「提供データ等」に関するすべての利用権限がデータ受領者に移転することを実現させたものである。なお、譲渡型の場合、「一切の権限を譲渡する。」とは言っても、「当該提供データ等またはデータ群に対して著作物性が認められる場合」には、著作者に著作者人格権(著作権法第1
8条~20条)が生じ、かかる権利は譲渡することができず著作者に留保されることになる。この点契約書に、「但し、著作者人格権は譲渡されない。」などと注意書きをすることも考えられるが、当事者の合意いかんにかかわらず、著作者人格権は著作者から第三者に移転されないのであるから、敢えてこの点を契約書で特記する必要はないと考える。
(4)双方向利用型(共同利用型)
一方向利用許諾型を前提とした第3条第1項および同条第3項の規定を総合すると、本目的の範囲内であれば、データ受領者は、データ提供者の書面による事前の承諾を得ることなく、提供データ等について加工、分析、編集、統合その他の利用をすることができることになる。そしてデータの創出に対する一方当事者の寄与度等によって、当該データに対する利用権限の合理性を図る考え方25からすると、加工、分析、編集、統合の意味する内容によっては、派生データ創出に対するデータ受領者側の寄与度が低く(例えば、当該データの加工が、市販のソフトウェアやハードウェア
25 経産省ガイドライン15頁
等を使った単なる機械的作業に過ぎず、その加工作業に何らのデータ受領者側の知見も含まれていない場合がこれに該当する)、加工を行ったデータ受領者に、当該派生データの利用権限を認めるべきでないか、少なくとも単独での利用権限を認めるべきではない場合が存在する。なお、データ受領者による派生データ創出に対する寄与度が低い場合には、原始データの創出者であるデータ提供者に派生データのライセンスバックをすることを条件に、データ受領者に対して限定的な利用権限のみを認める(例えば、第三者に派生データのライセンス供与をする場合には、必ず原始データの創出者であるデータ提供者の許諾を求めるようにすることなど)という考え方もある。そして、このような対応をすることによって、データ提供者が自ら提供した提供データ等の利用権限を奪われるという心配を解消することが可能となる。
データの創出に対する一方当事者の寄与度等によって、当該データに対する利用権限の合理性を図る考え方に依拠する場合、かかる観点からデータ提供者とデータ受領者は、いずれの当事者が派生データの利用権限を有すると考えるべきなのかを検討し、これにしたがって、派生データの利用権限をデータ受領者のみ有することとし、かかる派生データをデータ提供者に利用許諾する形(双方向利用許諾型)にするか、あるいは派生データの利用権限の一部をデータ提供者に留保させ、データ提供者とデータ受領者間でその派生データの利用条件を定める形(共同利用型)とするかを決することになる。
なお、双方向利用型(共同利用型)は、提供データ等の利用許諾に派生データの取扱に関する規定を加えたものとなるので、条文例はそちらで紹介することとする。
(5)データ提供者による利用停止措置
契約により「提供データ等」の定義を「データ提供者が利用権限を有する情報、データおよび/または画像」と規定する場合、当該契約によって、データ提供者に、いつでもその意思により「提供データ等」の提供を中止する権限を付与することが考えられる。この規定を設けることにより、データ提供者は、データ受領者側における「提供データ等」の利用に不安を感じた場合、直ちに「提供データ等」の提供を中止できるので、安心して「提供データ等」の提供を開始し、継続することができることになるのである。ただし、この考え方は、データ提供者が、有償で「提供データ等」をデータ受領者に供与した場合には、必ずしもあてはまらない。何故なら、データ提供者が、有償で「提供データ等」をデータ受領者に供与した場合にまでいつでも「提供データ等」の提供を拒めるとすると、データ受領者の投下資本の回収を不当に阻害する可能性があるからである。
なお、仮にかかる提供の中止措置を契約上で認めるとしても、当該中止措置を「提供データ等」を加工した「派生データ」の利用には及ぼさないようにする配慮が必要である。何故なら、「派生データ」は、提供データ等を加工、分析、編集、統合等することによって新たに生じたデータまたはデータ群を意味するところ、このように「提供データ等」とは異なったものとなった「派生データ」の利用停止や削除要求まで、何ら理由なく認めることは、データ受領者に不測の損害を与えることになるからである。また、今後「派生データ」のように一定程度集積されたデータについては、知的財産権と同様、「公共財」の一種として位置づけ、その価値を不当に毀損することがないような配慮も必要となってくる。そこで、かかる不測の事態を避け、「派生データ」の経済的価値を確保するという観点から、「派生データ」等に対する利用停止および削除要求は、契約解除または終了後であってもできないとすべきかどうかを検討する必要があり、その必要性がある場合には、その旨を契約書において明確にするのが望ましい。
したがって、データ提供者に、自らが提供した「提供データ等」の提供中止権および利用停止請求権を認める場合には、次のような条文となる。
第3条(提供データ等の利用許諾)
1~4(略)
5 データ提供者は、本条第1項に基づく許諾をした後であっても、何らの理由なくして、いつでも、データ受領者に対して提供データ等の削除、消去または利用停止を求めることができる。ただし、この規定は、データ提供者がデータ受領者に対して提供データ等を有償で許諾した場合には適用がない。
6 前項にもとづき、データ提供者がデータ受領者に対して提供データ等の削除または消去を求めた場合には、データ受領者に対し、削除または消去の対象となった提供データ等が削除または消去されたことを証する書面の提出を求めることができる。
7 データ提供者は、本契約で別段の定めがある場合を除き、データ受領者に対して、派生データおよび派生データ内の提供データ等の削除または利用停止を求めることはできない。これは本契約が解除された場合でも同様とする。
この提供データ等削除等の要求は、「何らの理由なくして、いつでも」できるのであるから、本契約が期間満了により終了したとき、または解除されたときにも適用がある。条文に記載されているとおり、この規定は有償で提供データ等が提供された場合には原則として適用がないが、データ受領者側の債務不履行等によってデータ提供契約が解除された場合など、信頼関係が破壊されているような場合にまで、利用許諾権を継続させる必要はないので、その場合には適用がないことにしている。この点については解除の条文とその解説をご参照いただきたい。
なお、データ提供者が、有償で「提供データ等」をデータ受領者に供与した場合であって、データ提供者にかかる提供中止権等を認めるのが妥当ではないと判断された場合には、この規定を入れないことにより対応をするという考え方もあり得る。
5 対価・支払条件
第4条(対価・支払条件) 【従量課金の場合】
1 データ受領者は、提供データ等の利用許諾に対する対価として、データ提供者に対し、別紙1の単位あたり月額●円を支払うものとする。
2 データ提供者は、毎月月末にデータ受領者が利用している単位数を集計し、その単位数に応じた利用許諾の対価を翌月●日までにデータ受領者に書面(電磁的方法を含む。以下同じ。)で通知する。
3 データ受領者は、本契約期間中、第1項に定める金額に消費税および地方消費税額を加算した金額を、前項の通知を受領した日が属する月の末日までにデータ提供者が指定する銀行口座に振込送金の方法によって支払うものとする。なお、振込手数料はデータ受領者の負担とする。
(1)対価の支払
データ提供者が提供データ等のデータ受領者に対する提供を有償で行う場合には、このような対価および支払条件の記載が必要となる。データ提供の対価の計算方法には、①従量課金による方法、
②固定料金による方法、および③売上の配分による方法が代表例として挙げられる。上記は、従量課金の例であるが、固定料金による方法および売上分配による方法は、それぞれ次のとおりとなる。
第4条(対価・支払条件)【固定料金の場合】
1 データ受領者は、提供データ等の利用許諾に対する対価として、毎月月末までに月額●円をデータ提供者が指定する銀行口座に振込送金の方法によって支払うものとする。なお、振込手数料はデータ受領者の負担とする。
2 前項の提供データ等の利用許諾に対する対価の計算は、月の初日から末日までを1月分として計算し、データ受領者による提供データ等の利用可能な期間が月の一部であった場合、対価は利用した期間の日割り計算によるものとする。
第4条(対価・支払条件)【売上の配分の場合】
1 データ受領者は、本契約の有効期間中、各計算期間(4月1日~翌年3月31日とする。)における●●によって生じた売上金額その他データ提供者の指定する事項に関する報告書を作成 し、当該計算期間終了後15日以内にデータ提供者に対して提出しなければならない。
2 データ受領者は、●●によって生じた売上金額の●%を、提供データ等の利用許諾に対する対価として、第1項に定めた報告書を提出した日の翌月末日までに、データ提供者が指定する銀行口座に振込送金の方法によって支払うものとする。なお、振込手数料はデータ受領者の負担とする。
3 データ受領者は、本条第1項の報告書に記載すべき事項に関して適正な帳簿を備えるものとし、これを本契約の有効期間中、保存・保管するものとする。データ提供者またはその代理人は必要に応じて当該帳簿を閲覧および謄写することができる。
4 データ提供者は、前項における帳簿の閲覧および謄写により知り得たデータ受領者の機密事項を第三者に開示・漏えいしてはならない。また、データ提供者は、帳簿の閲覧および検査により知り得たデータ受領者の機密事項を前項以外のいかなる目的・用途にも利用してはならない。
(2)売上を分配する際の留意点
上記の●●には、「提供データ等」である場合や「派生データ」である場合(例えば、「提供データ等」である場合や「派生データ」が第三者に販売された場合には、この●●には、「提供データ等」または「派生データ」が入ることになる)、あるいはそれらを利用してデータ受領者が行ったビジネスの名称が入る場合がある。
また【売上の配分の場合】には、「売上金額」の定義についても規定しておく必要がある。何故なら、「売上金額」が、データ提供者が帳簿上売り上げをたてたときに発生するという考え方を採るならば、データ受領者が当該売上金を回収していなくても、データ提供者に対して「売上金額」の配分義務が生じる。他方、「売上金額」を「受領した売上金額」とする考え方を採るならば、データ受領者は、当該売上金を回収しなければ、データ提供者に対する分配義務を負担しないし、当該売上金額の報告義務も負担しない。いずれを採用するかは、当事者間の協議によるところとなるが、本ガイドライン(データ利活用編)では、例として、「『売上金額』とは、データ受領者が、提供データ等および/または派生データを第三者に提供することによって、当該第三者からデータ受領者が受領した金額をいう。」と定義をし、「売上金額」を「受領した売上金額」とする考え方に基づく契約文例としている。
6 提供データ等に関する保証および非保証
第5条 (提供データ等に関する保証および非保証)
1 データ提供者は、提供データ等が、適法かつ適切な方法によって取得されたものであることを表明し、保証する。
2 提供データ等の中に第三者が有していたデータ(以下「第三者提供データ」という。)がある場合には、データ提供者は、当該第三者から第三者提供データを本契約に基づき利用許諾をする権限を付与されていることを、データ受領者に対して表明し保証する。
3 データ提供者は、提供データ等の正確性、完全性、安全性(提供データ等がウィルスに感染していないことを含む。)、有効性(本目的への適合性を満たしていることを含む。)、提供データ等が第三者の知的財産権および/またはその他の権利を侵害しないこと、提供データ等が本契約期間中継続してデータ受領者に提供されることをいずれも保証しない。また、データ提供者は、本契約において明示的に保証すると記載したものを除き、明示的であるか黙示的であるかを問わず、提供データ等について一切の保証をしない。
4 前項の規定にもかかわらず、以下のいずれかの事由を原因として、データ受領者が損害を被った場合には、データ受領者は、データ提供者に対して損害賠償を請求することができる。
① データ提供者が、提供データ等の全部または一部を改ざんして、データ受領者に提供した場合
② データ提供者が有償で提供データ等をデータ受領者に提供した場合で、提供データ等の正確性、完全性、安全性、有効性のいずれかに問題があること、その他提供データ等が第三者の知的財産権および/またはその他の権利を侵害することを故意により告げずまたは重過失により告げないで、提供データ等をデータ受領者に提供した場合
(1)提供データ等の非保証に関する基本的な考え方
経産省ガイドラインでは、この点に関して、次の説明がなされている。「データ提供型契約において、提供データ等が不正確である、不完全である、有効ではない(契約目的への適合性がない)、提供データ等がウィルスに感染しており安全ではない、第三者の知的財産権を侵害しているといったように、提供データ等の品質に問題があり、データ受領者が契約の目的を達成できず、データ提供者に対して提供データ等の品質について法的責任を追及するということがあり得る。ここでいうデータの正確性とは、時間軸がずれている、単位変換を誤っている、検査をクリアするためにデータが改竄または捏造されているというような事実と異なるデータが含まれていないことを意味し、データの完全性とは、データが全て揃っていて欠損や不整合がないことを意味する。また、データの有効性とは、計画された通りの結果が達成できるだけの内容をデータが伴っていることをいう。」
26
農業は自然環境の影響を受けやすく、自然災害等により営農に支障が生じ、データを継続的に創出できなくなる可能性があるという性質を有する。また、センサが屋外等の厳しい環境に設置されまたはかかる環境で稼動することによって、そのセンサの故障等によるデータ不良を生じさせる可能性があり、相対的にデータの瑕疵(ここでいう瑕疵とは、データの正確性、完全性、安全性、有効性のいずれかに問題があることをいう。)が発生し易いということが言える。そしてこのような
26 経産省ガイドライン30頁から31頁
状況に鑑みれば、データ提供者に、かかる保証やデータに関する瑕疵担保責任を課す場合には、農業者などのデータ提供者に対して、データ提供に対する萎縮的効果を生じさせてしまう可能性がある。また、農業者等のデータ提供者に対して、「第三者の知的財産権その他の権利を侵害しないこと」を保証させる場合にも、同じような効果を生じさせてしまう可能性がある。そこで、本ガイドライン(データ利活用編)においても、経産省ガイドライン同様、データ提供者には、「適法かつ適切な方法によって取得されたもの」だけを約束させ、「提供データ等の正確性、完全性、安全性、有効性(本目的への適合性)、提供データ等が第三者の知的財産権その他の権利を侵害しないこと、提供データ等が本契約期間中継続してデータ受領者に提供されること」のいずれも保証しないような条文とした。また本ガイドライン(データ利活用編)では、「また、データ提供者は、本契約において明示的に保証すると記載したものを除き、明示的であるか黙示的であるかを問わず、提供データ等について一切の保証をしない。」という規定も入れた。これは、確認的なものではあるが、特に有償提供契約の場合に、弱い立場のデータ提供者が、データ受領者から「黙示的な保証」違反を主張されて思いもよらない損害賠償請求を受けることを未然に防ぐという配慮の下、キャッチオール的な非保証条項を入れたものである。この条項を入れることによって、データ提供者は、提供データ等が「適法かつ適切な方法によって取得されたもの」であること以外は保証しないのであるから、例えば、データ受領者が、「提供データ等の正確性、完全性、安全性、有効性」の意味および/または範囲を争い、データ提供者による提供データ等に対する「黙示的な保証」を主張してきたとしても、データ提供者は、この規定を根拠にかかる主張を容易に排斥することが可能となる。なお、経産省ガイドラインは、「上記のモデル契約書案では、提供データ等の安全性についてデ ータ提供者が保証しない内容としているが、提供データ等の安全性が保証されないとデータ受領者のシステム等に直接的な損害が発生しうる可能性があるため、提供データ等の安全性について、データ提供者が保証することが適切な場合が多いと考えられる。」と指摘する27。しかしながら、「安全性」の中には「提供データ等がウィルスに感染していないこと」まで含まれると思われるが、たとえ有償提供や有償譲渡の場合であっても、具体的な事情によっては、データ提供者にそこまで保証させることが酷な場合もあるように思われる。また、工業製品等を制作するためのデータと異なり、農作物の生育の成否には、天候や気温等の様々な要因が密接に影響するため、農業データの場合には、いかなる事態をもって「データが全て揃っていて欠損や不整合がない」と言えるのか不明確なことが多いと思われる。したがって、この点は農業データに関する限り、慎重な配慮が必要である。なお、提供データ等の「安全性」といった場合に、IT業界の用語に精通していない農業関係者の多くが、「提供データ等がウィルスに感染していないこと」という意味を想起するかどうかは分からないので、本ガイドライン(データ利活用編)では、「安全性」の中には、「提供データ
等がウィルスに感染していないこと」が含まれることを明示した。
(2)提供データ等の非保証の適用範囲
経産省ガイドラインは、「データ提供者がこのような提供データの品質について一切保証しない旨の規定を契約書で定めた場合、原則としてその規定は有効であると考えられるが、データ提供者の故意または重大な過失により提供データの品質に問題があった場合には、データ提供者が提供データの品質について責任を負う場合があると考えられる(民法572条類推適用)」と指摘する28。
27 経産省ガイドライン110頁
28 経産省ガイドライン30頁
この考え方は、有償で提供データ等を提供した場合に妥当する規定であり、農業分野におけるデー タ提供契約にもあてはまるものである。しかしながら、仮に無償提供の場合であっても、データ提 供者の故意または重大な過失により提供データ等の品質に問題を発生させることを許容することは、契約の目的を達成できなくしてしまうおそれがあるから、その場合にまで免責を認めることは望ま しくないと考えられるし、そのようなことがないよう、契約書の中で明確に規範として謳っておく ことは有益であると考えられる。したがって、かかる観点から、本ガイドライン(データ利活用編) では第3項を作成し、民法第572条の趣旨および公平の観点からデータ提供者に免責を認めるべ きではないと考えられる一定の場合には、非保証の規定は適用がないこととした。なお、「改ざん」 とは広辞苑によれば、「字句等を改めなおすこと。」を意味するが、これをそのまま使うとすると、 データの粒度を本来のものから改変することも「改ざん」に該当してしまう可能性があるので、本 ガイドライン(データ利活用編)では「改ざん」の定義を「提供データ等に事実と異なる改変を加 えることをいう。」として、データの粒度程度の改変は、「改ざん」に該当しないようにした。
(3)提供データ等を有償提供をした場合
経産省ガイドラインは、「データ提供型契約が有償契約である場合、データの品質について問題があれば民法上の瑕疵担保責任(契約不適合責任)の適用があると考えられる。もっとも、提供データ等の品質についての問題といっても様々な内容があるため、提供データ等の正確性、完全性、有効性、安全性、第三者の知的財産権の非侵害等について、どの範囲でデータ提供者が責任を負うのか契約で明確にしておくことが望ましい(たとえば、表明保証条項を用いることが考えられる)」としている29。したがって、有償提供契約の場合も、無償提供契約の場合と同様、データ提供者にデータの瑕疵担保責任を負担させるのかどうか、負担させる場合どの程度まで負担させるのかを慎重に検討し、契約書に落とし込む作業が必要である。この点、経産省ガイドラインは、「提供データ等の正確性、完全性、有効性、安全性等について、たとえば、『データ提供者は、可能な限り、提供データ等が正確かつ完全であり、契約目的の関係で有効であり安全であるように努める義務を負う。』としてデータ提供者の努力義務とする方法もあり得る。ただし、データの正確性・完全性・有効性・安全性について努力義務とした場合であっても、データ提供者がデータの正確性・完全性・有効性・安全性について何らの努力もしていないような事実があれば、努力義務違反として債務不履行責任を負う可能性はあるということに留意すべきである。」としている30。無償提供の場合にはもちろんのこと、有償提供の場合であっても、このような努力義務を認めるべきかどうかは、契約の目的やデータの取得にデータ受領者側の関与があるかどうか、データを取得するセンサの管理責任や保守責任がどちらにあるのか等によっても異なると考えられるので、そのような事実関係を慎重に考慮して決する必要がある。例えば、農業従事者にウェアラブル端末を装着して、当該端末から発信されるデータを取得する場合で、農業従事者はかかる端末を装着して農業に従事するに過ぎない場合には、かかる端末、センサ等の管理責任や保守責任はデータ受領側にあるのが通常であるから、そのような場合に、たとえ有償提供契約であっても、そのような努力義務をデータ提供者側に求めるべきかどうかは慎重な検討を要する。他方、データ取得者が、自らが取得および開発したデータ群を、パッケージとしてデータ受領者に譲渡するような場合には、当該データの取得にデータ受領者は関与しておらず、通常のデータ売買と同様と考えられるから、一定の範囲で、かかる
29 経産省ガイドライン30頁
30 経産省ガイドライン31頁
データに関する瑕疵担保責任を認める規定を入れたり、努力義務規定を入れることも検討に値すると考えられる。
(4)責任制限規定の利用
経産省ガイドラインは、「データ提供者がデータの品質に関する事項の全部または一部を表明保証する場合、保証責任の範囲(データ提供者が損害賠償義務を負う範囲)を一定金額(たとえば、データ受領者から受け取った対価)を上限とする規定を設ける場合もある。このような規定は原則として有効であると考えられるが、データ提供者が提供データの品質に問題があることにつき悪意または重過失の場合、データ提供者の保証責任の範囲を限定する規定は無効となり、データ提供者は、提供データの品質の問題と相当因果関係のあるデータ受領者に生じた損害について賠償責任を負う場合があることには注意が必要である。」としている31。このような規定は、データ提供者が安心してデータ提供をすることを確保するために積極的な役割を担うと思われることから、データ提供者にデータの正確性や完全性等に関して一定の表明保証責任を負担させる場合には、その活用を検討すべき条項であると言える。
(5)データ提供者の表明保証
本ガイドライン(データ利活用編)の雛形は、データ提供者に、「提供データ等が、適法かつ適切な方法によって取得されたものであること」を表明し、保証させた。「適法」であることを保証させることによって、第三者のノウハウや営業秘密を不当に取得または利用したものではないこと、また「適切」であることを保証させることによって、違法とは言えないまでも第三者を欺くような対応で提供データ等を取得することがなかったことを担保することとしたものである。
なお、経産省ガイドラインは、第1項の表明保証を「データ提供者の知る限りにおいて」表明保証することも可能であるとしており32、検討に値する。
(6)提供データ等の中に第三者が有していたデータがある場合の措置
例えば、データ提供者が農協の場合、農協が組合員からデータを取得しまたは預かり、そのデータをデータ受領者に提供するという場合があり得る。しかしながら、そのような場合、データ受領者側としては、農協が組合員から適切に当該データの利用権限を得ているかどうかが分からなければ、当該データを利用してプロジェクトを進めることができない事態ともなりかねない。
もとより、このようなデータはその利用権限を公示する手段はなく、したがって当該データに誰がいかなる権限を有するのかを判別する術はない。したがってこの場合には農協等に、「当該第三者から第三者提供データを本契約に基づき利用許諾する権限を付与されていることを、データ受領者に対して表明し保証」してもらうことにより対応をすることが検討されてよい。
なお、データ提供者が農業者個人であり、提供データの原始的な創出者である(第三者から当該データを取得したものではない)場合には、この条文(本条第2項)は不要である。
31 経産省ガイドライン110頁
32 経産省ガイドライン30頁
7 責任の制限等
第6条 (責任の制限等)
1 データ提供者は、データ受領者による提供データ等の利用に関連する、または提供データ等のデータ受領者の利用に基づき生じた発明、考案、創作および営業秘密等に関する知的財産権のデータ受領者による利用に関連する一切の請求、損失、損害または費用(合理的な弁護士費用を含み、特許権侵害、意匠権侵害、その他これらに類する侵害を含むがこれに限らない)に関し責任を負わない。
2 データ受領者は、提供データ等の利用に起因または関連して第三者との間で紛争、クレームまたは請求(以下「紛争等」という)が生じた場合には、直ちにデータ提供者に対して書面により通知するものとし、かつ、自己の責任および費用負担において、当該紛争等を解決する。データ提供者は、当該紛争等に合理的な範囲で協力するものとする。
3 データ受領者は、前項に定める紛争等に起因または関連してデータ提供者が損害、損失または費用(合理的な弁護士費用を含み、以下「損害等」という)を被った場合(ただし、当該紛争等がデータ提供者の帰責事由に基づく場合を除く)、データ提供者に対して、当該損害等を補填する。
(1)提供データ等を利用したことに起因して生じた損害についての負担
経産省ガイドラインは、「データ受領者が提供データを利用している際に、第三者から当該データに関する知的財産権の侵害を理由に損害賠償請求がなされるなど、提供データの利用に関連して、データ受領者と第三者との間で法的な紛争が生じるようなケースがあり得る。この場合、その第三者との法的紛争を解決するために必要になった費用や賠償金は、提供データに起因して生じた費
用・賠償金である以上、データ提供者が負担すべきという考え方と、データ提供者は提供データの品質について保証していないことを前提にして提供データに起因して生じた費用・賠償金はデータ受領者が負担すべきという考え方のいずれの考え方も成り立つと思われる。そこで、契約において、提供データの利用に関連して第三者との間で法的な紛争が生じそれによって必要になった費用や賠償金をどちらが負担するのかを規定しておくことが望ましい。もっとも、契約で定められた利用範囲を超えてデータ受領者が提供データを利用した場合にまで(つまり、契約に違反する態様で提供データを利用した場合にまで)、データ提供者が提供データに起因して生じた費用・賠償金を負担する義務はないと考えられる。そのため、データ提供者がかかる義務を負担する場合、契約において「契約で定められた態様での利用に限る」といった限定を付したほうがよいと思われる。また、データ提供者に当該負担を負わせる場合において、データ提供者の責任の範囲を限定するために、データ提供者がデータ受領者から受け取った対価の金額をデータ提供者が責任を負う上限と規定する方法もある。」と説明している33。
この考え方は農業データにもあてはまる。そして、経産省ガイドラインが述べているとおり、データ提供者が提供データ等の品質等について保証していないのであれば、原則として、当該品質に起因して第三者からデータ受領者がクレームを受けたとしても、データ提供者がかかるクレームに対して責任を負担すべき合理的理由はないといえる。
33 経産省ガイドライン31頁
これに対して、特にデータ提供契約が有償契約の場合で、データの瑕疵に起因する損害についてはデータ提供者が負担すべきとする考え方に立つ場合には、以下の文例のとおりとなる。
第6条(責任の負担)【対応責任をデータ提供者が原則負う場合】
1 データ受領者による提供データ等の利用(本契約に違反しない態様での利用に限る)に起因または関連して第三者との間で紛争、クレームまたは請求(以下「紛争等」という)が生じた場合、データ提供者の費用と責任で解決するものとする。また、当該紛争等に起因または関連してデータ受領者が損害、損失または費用(合理的な弁護士費用を含み、以下「損害等」という)を被った場合、データ提供者は損害等を負担するものとする。
2 前項の定めにかかわらず、データ受領者は、本契約に違反する態様での提供データ等の利用に起因もしくは関連して生じた紛争等について、データ受領者の費用と責任で解決するものとする。また、当該紛争等に起因または関連してデータ提供者に損害等が発生した場合、データ受領者は当該損害等を負担するものとする。
なお、この場合、データ提供者が損害賠償等の責任を負う範囲を、第3条に基づき受け取った対価を上限とすることもできる。その場合の条文例は、次のとおりとなる。
3 本条第1項に基づきデータ提供者が負担すべき損害等の賠償額は、本契約に基づきデータ受領者から受領した金額の総額をもって上限とする。
8 利用状況の報告および監査
第7条 (利用状況の報告および監査)
1 データ提供者は、データ受領者に対し、データ受領者による提供データ等の利用が本契約の条件に適合している否かを検証するために必要な利用状況の報告を求めることができる。
2 データ受領者は、データ提供者に対し、データ提供者による派生データ等の利用が本契約の条件に適合している否かを検証するために必要な利用状況の報告を求めることができる。
3 データ提供者またはデータ受領者は、第1項または前項に基づく報告が提供データ等または派生データの利用状況を検証するのに十分ではないと判断した場合、●営業日前に相手方に対して書面による事前通知をすることを条件に、1年に1回を限度として、相手方の営業所において、自らおよび/または自らが指定した第三者をして、提供データ等または派生データの利用状況の監査を実施することができるものとする。この場合、監査を実施するデータ提供者またはデータ受領者は、相手方の情報セキュリティに関する規程その他相手方が別途定める規程を遵守するものとする。
4 前項による監査の結果、データ受領者またはデータ提供者が本契約に違反して提供データ等または派生データを利用していたことが発覚した場合、データ提供者またはデータ受領者は相手方に対し監査に要した費用を支払うものとする。
(1)利用状況の報告および監査
データ提供者は、データを提供することで、それが意図しない利用をされたり、漏えいされたりすることで、貴重なノウハウが流出するという不安にさらされる。意図しない利用を防止するという観点からは、①利用目的の特定と目的外利用の禁止規定が、②漏えいのリスクを回避するという観点からは、データ受領者に提供データ等の管理に関する規定(後述する第8条)がそれぞれ一定の役割を果たすことになるが、かかる規定を実効あるものにするために、データ提供者に対し、データ受領者に利用状況の報告を求めることができる権利等を付与することは極めて有益である。そこで、上記文例では、まずデータ提供者が、データ受領者に必要な報告を求めることができること、その報告内容では利用状況の把握が十分できなかったり、その内容の真実性に疑いがあるなど、データ提供者が「報告が提供データ等の利用状況を検証するのに十分ではないと判断した場合」には、データ受領者による利用状況の監査を実施する権限を付与した。なお、この監査は、データ提供者自らが行う場合のほか、弁護士等の適切な第三者に依頼して実施する場合もあるので、そのような要請ができるよう「自らおよび/または自らが指定した第三者をして、」という文言を入れている。また、この場合、監査の内容としては、データ受領者の営業所への立ち入り、必要なドキュメン トの閲覧やデータへのアクセス並びにそれらの謄写等が含まれると思われるが、「監査を実施」というだけでこれらが全て含まれると解釈できるかどうかは必ずしも明らかではない。特に、データに対するアクセスについては、不必要な営業秘密にアクセスされるリスクをおそれて、データ受領
者側がこれを拒む場合もあり得る。
そこで、必要に応じて、「本条項の監査の中には、データ受領者の営業所への立ち入り、必要なドキュメントの閲覧やデータへのアクセス並びにそれらの謄写、データ受領者の従業員等に対する聞き取り調査が含まれる。データ受領者は、データ提供者の求めに応じて、かかる監査に対して合理的な協力をしなければならない。」などの規定を入れることも検討に値する。
(2)データ受領者側による検討事項
データ受領者によるこのような報告の要請および監査権の行使自体は合理的なものであると言えるが、そのような監査権の行使が頻繁に行われたりした場合や、データ受領者側から突然の対応を迫られる場合には、データ受領者側としては自らの業務に支障を来たすことになる。したがって、通常、監査権の実施に際しては、監査を実施するデータ提供者側に「●営業日前に書面による事前通知」をさせたり、その回数を絞るなどして、業務への支障を最低限に食い止める合理的な工夫が必要である。条文案では「1年に1回を限度として」とあるが、1年に1回とする条文案は実務でもよく見られるものであり、合理性のある回数制限といえる。
また、データ受領者側としては、データ提供者側に、「データ受領者の情報セキュリティに関する規程その他のデータ受領者が別途定める社内規程を遵守」することを約束させて、不必要な営業秘密へのアクセスや営業秘密の漏えいを防ぐ対策をとっておくことも必要である。その他、データ提供者に対し、監査の実施前に「秘密保持契約」を締結することを義務付けるような規定を置くということも検討に値するが、アクセスされる情報が後述する「秘密情報」に該当するような場合には、後述する秘密保持条項で足りるので、別途「秘密保持契約」を締結する必要はないといえる。
(3)監査費用の負担
監査費用の負担は、その実施により利益を受けるデータ受領者側が負担するのが原則である。しかしながら、監査の結果、データ受領者が本契約に違反して提供データ等を利用していたことが発覚した場合には、公平の観点からしても、データ受領者に監査に要した費用および提供データ等の利用に係る追加の対価を負担させるのが合理的である。したがって、本ガイドライン(データ利活用編)では第3項でこのような場合には、データ受領者に監査費用を負担させる旨の規定を置いた。
(4)派生データの利用状況の報告・監査等
第11条に基づき、データ提供者は、データ受領者から提供を受けて派生データを一定の利用条件の下で利用することができる。しかしながら、派生データは、データ受領者にとって貴重な資源であり、データ提供者によってその利用が適切に行われているかどうかを監査する権限をデータ受領者に与えることは適切である。
したがって、このような観点から、本ガイドライン(データ利活用編)では、派生データの利用状況に対する報告・監査権限をデータ受領者側に与えることとし、その旨の条文を本条に入れることとした。なお、派生データの利用に関する条文が第11条にまとめて規定してあることから、派生データの利用状況に対する報告・監査権限に関する規定を第11条でまとめて入れ込むことも可能である。
9 提供データ等の管理
第8条 (提供データ等の管理)
1 データ受領者は、提供データ等および派生データを他の情報またはデータと明確に区別し、我が国において一般にデータ保管のために用いられるシステムで通常利用されるのと同種同等のセキュリティおよびバックアップ体制を備えるなど、善良な管理者の注意をもって管理・保管しなければならない。
2 データ提供者は、提供データ等および派生データの管理状況について、データ受領者に対していつでも書面による報告を求めることができる。この場合において、提供データ等または派生データの漏えいまたは喪失のおそれがあるとデータ提供者が判断した場合、データ提供者は、データ受領者に対して提供データ等および派生データの管理方法・保管方法の是正を求めることができる。
3 前項の報告または是正の要求がなされた場合、データ受領者は速やかにこれに応じなければならない。
(1)データ受領者による提供データ等の管理責任
データ提供者が、データ受領者に対して安心して提供データ等を提供できるように、データ受領者には、善良なる管理者の注意をもって管理・保管する義務を課している。この点は、データ提供者が、提供データ等を有償で提供した場合と無償で提供した場合とで何ら変わることはない。
「善良なる管理者の注意」は法律用語であり(例えば民法644条)、契約書では一般的に用いられている用語であるが、その意味するところが必ずしも明確ではなく、農業関係者には理解しづらい可能性がある。そこで、その例示を示して分かりやすくするために、本ガイドライン(データ利活用編)では「我が国において一般にデータ保管のために用いられるシステムで通常利用されるのと同種同等のセキュリティおよびバックアップ体制を備えるなど、」という例示を示した。なお、データ受領者が海外のサーバー等でデータ保管をする場合には、データ保管先の外国の諸法令の規制を受ける可能性があるし、当該データ内に個人データが含まれている場合には、我が国の個人情報保護法の規制を受ける可能性があるから、データ受領者はこれらの点にも留意し、関連する法律に準拠した適切なデータ保管措置を講ずる必要性がある。
また、経産省ガイドラインでは、データ受領者が管理責任を負担する対象を提供データのみにしている。これは、派生データについては、その利用権限をデータ受領者のみが有するのであるから、データ受領者はその管理責任をデータ提供者に対して負担すべき立場にはないとの考えを前提においたものだと思われる。しかしながら、①派生データの生成に一定の寄与をしたデータ提供者にも派生データに一定のコントロール権を付与することで、安心したデータ提供を確保するという考え方もあり得るし、②派生データであっても、例えば、市販のソフトウェアを使うことによって提供データ等が編集または統合されたに過ぎない場合のように、派生データのその作出にデータ受領者の知見が寄与していないかまたはその寄与度が小さいという場合もあり得る。そしてこのような場合には、むしろ派生データの利用権限をデータ提供者側のみが有する、あるいは派生データの利用権限はデータ提供者側が有するが、その利用権限の一部をデータ受領者にも留保させるという考え方もあり得る。そして農業データに関する限りは、多くの農業関係者に安心してデータ提供をしてもらう必要があるし、派生データの生成に対する農業関係者の寄与は否定できないのであるから、
原則として、契約書の雛形としては、データ提供者にも、派生データの利用権限が留保される方向性のほうが望ましいとも言える。
したがって、本ガイドライン(データ利活用編)では、このような考え方に基づき、データ提供者に派生データに対する一定のコントロール権を付与することを前提とした条文を検討することとした。そして、派生データの生成には提供データ等が寄与しているという事実からすれば、派生データはデータ受領者のみが利用権限を有するものではなく、一部「他人のもの」ということもできるのであるから、派生データについても、データ受領者に「善良な管理者の注意をもって管理・保管」させることが適切であるという考え方はあり得る。そこで、本ガイドライン(データ利活用編)では、提供データ等のみならず派生データについても、データ受領者に「善良な管理者の注意をもって管理・保管」させることとした。そして、これに伴い第2項にも派生データを入れた。
なお、「派生データ」の管理義務をどのレベルに設定するのかについては、「善管注意義務」とするのではなく、「自己のためにするのと同一の注意」(民法第827条)や「自己の財産に対するのと同一の注意」(同法第659条)と同程度とするほうが妥当であるという考え方もあり得る。これに関するさらなる検討は、データ創出型契約における「相手方受領データの管理」に関する部分(第11条)で解説しているので、そちらを参照いただきたい。
(2)データ受領者による状況報告
データ提供者は、提供データ等および派生データの管理状況について、データ受領者に対していつでも書面による報告を求めることができる旨の規定を入れた。第8条第1項では、「利用状況」についての報告義務を課し、本条第2項では、「管理状況」についての報告義務を課したが、「利用状況」は、データ受領者が目的内利用をしているか、あるいは許諾のない第三者提供をしていないかなどを確認するものであるのに対し、「管理状況」は、データ受領者が自らが管理する施設やコンピュータシステム内で、提供データ等および派生データをいかに管理しているか、適切な安全管理措置を講じているかを確認するものである。
なお、第8条第2項では、「この場合において、提供データ等または派生データの漏えいまたは喪失のおそれがあるとデータ提供者が判断した場合、データ提供者は、データ受領者に対して提供データ等および派生データの管理方法・保管方法の是正を求めることができる。」としているが、第3条第5項の条文が採用されれば、データ提供者はこれに加えて、提供データ等の利用停止を請求することも可能である(ただし、第3条第5項の条文によれば、この請求は無償で提供データ等を提供した場合に限られ、派生データの利用停止を請求することはできない)。これに関しては、第8条第2項の条文に「提供データ等および派生データの利用停止を求めることができる。」という条文を追加することで、利用停止措置を確保するという考え方もあり得る。しかしながら、データ受領者が多数の農業関係者から提供データ等の提供を受けている場合に、一当事者からの申出で、事実上他の農業関係者から取得したデータをも利用して作出された派生データの利用を止めてしまうことは、データ受領者に過度な負担を強いることになるばかりか、当該派生データの利用者や他の農業関係者の利益を不当に損なう結果ともなり兼ねないことから、本ガイドライン(データ利活用編)では、派生データの利用停止措置は認めない方向での条文とした。
(3)提供データ等をデータ受領者が第三者に提供する場合
経産省ガイドラインは、「本契約では、提供データをデータ受領者が第三者に開示または利用させることを想定していないが(第3条第3項も参照)、仮に、提供データをデータ受領者が第三者
(許容開示先)に開示または利用することを認める場合、データ受領者は、本契約に基づいてデータ受領者が負う義務と同等の義務を当該第三者に課して、その義務を遵守させるものとし、かつ、当該第三者においてその義務の違反があった場合には、データ受領者による義務の違反として、データ提供者に対して直接責任を負うといった規定を設けることが考えられる。」としている。この点は、本ガイドライン(データ利活用編)も同様である。
(4)管理義務違反の場合の損害賠償請求権
経産省ガイドラインは、「データ受領者が本条のデータ管理義務や、本契約第3条第3項などに違反したことによって、提供データに含まれるデータ提供者のノウハウ等が流出等してしまった場合、データ提供者はデータ受領者に対して契約違反に基づく損害賠償請求をすることができる。もっとも、ノウハウ等が流出したことに伴ってデータ提供者に生じた損害額の算定が困難である場合もあるため、損害賠償額の予定を契約書に規定しておくことが検討に値する。この予定される損害賠償額は、提供データの重要度・規模などを勘案してデータ提供者が管理義務違反等を犯さないための抑止力となる合理的な金額を両当事者の合意に基づき定めることになる。ただし、損害賠償額の予定を契約で規定した場合(「違約金」との表現を用いても、賠償額の予定と推定される(民法
420条第3項))、損害賠償がその予定額に限定されない旨の合意であることを立証しない限り、予定額を超えた損害額を請求することはできないと解されている。そのため、損害賠償額の予定あるいは違約金を契約で規定する場合には、実際の損害額が予定額を超えた場合には、その超えた部分についても請求できることを規定しておく場合もある。」としている。
農業データについていえば、特に非構造化データと言われるデータ単体(例えば、特定の農業関係者のウェアラブル端末から発せられる視認データなど、「暗黙知」とされるノウハウの一部に過ぎないデータで、何らそのデータの分析が行われておらず、「形式知」化されていないもの)については、交換価値の算定が困難であることから、データ提供者において損害を立証するのは難しいといえる。したがって、このような場合、違約金または損害賠償の予定の規定を入れておくことによって、データ提供者は、損害の立証がなくても違約金額を損害賠償の予定として請求することができるし、この規定を入れることによって、データ受領者側も、データの管理について契約を遵守しようというインセンティブを働かせる可能性がある。したがって、この点からしても違約金の規定は有益であると考えられる。ただし、あまりに法外な金額を違約金として入れると、裁判所でその金額が公序良俗違反として無効とされる可能性や、合理的な違約金の金額まで減額される可能性があることから、経産省のガイドラインに記載されているとおり、「提供データの重要度・規模などを勘案してデータ提供者が管理義務違反等を犯さないための抑止力となる合理的な金額」を協議の上入れることが必要となる。なお、違約金の条文案は、以下のとおりである。
【参考:違約金に関する条項例】
提供データ等および/または派生データの漏えい、喪失、データ提供者の許諾を得ない第三者提供、目的外利用等、本契約に違反するデータ受領者の提供データ等および/または派生データの利用により、データ提供者に損害が生じた場合、データ受領者はデータ提供者に対して違約金として
●円を支払う義務を負う。ただし、データ提供者に生じた損害が上記違約金額を上回る場合には、データ提供者は実際に生じた損害額を立証することでデータ受領者に対し当該損害額の賠償を請求することができる。
10 データ漏えい等の場合の対応及び責任
第9条(データ漏えい等の場合の対応及び責任)
1 データ受領者は、提供データ等の漏えい、喪失、データ提供者の許諾を得ない第三者提供、目的外利用等、本契約に違反する提供データ等の利用(以下これらを総称して「提供データ等の漏えい等」という。)を発見した場合、または提供データ等の漏えい等が合理的に疑われる場合、直ちにデータ提供者にその旨を通知しなければならない。
2 データ受領者は、派生データの漏えいまたは喪失(以下これらを総称して「派生データの漏えい等」という)を発見した場合、または派生データの漏えい等が合理的に疑われる場合、直ちにデータ提供者にその旨を通知しなければならない。
3 データ受領者から派生データを受領したデータ提供者が、派生データの漏えい等を発見した場合、または派生データの漏えい等が合理的に疑われる場合、直ちにデータ受領者にその旨を通知しなければならない。
4 本条第1項または第2項に該当する場合、データ受領者は、自己の費用と責任において、提供データ等の漏えい等または派生データの漏えい等の事実の有無を確認し、提供データ等の漏えい等または派生データの漏えい等の事実が確認できた場合は、その原因を調査し、再発防止策について検討しその内容をデータ提供者に報告しなければならない。
5 データ提供者が管理する領域で派生データ等の漏えい等が生じた場合または派生データの漏えい等が合理的に疑われる場合には、データ提供者は、自己の費用と責任において、派生データの漏えい等の事実の有無を確認し、派生データの漏えい等の事実が確認できた場合は、その原因を調査し、再発防止策について検討しその内容をデータ受領者に報告しなければならない。
(1)データ漏えい等の場合の対応
これは経産省ガイドラインにおいて「損害軽減義務」というタイトルで記載されていたものをタイトル変更し、加筆を加えたものである。
データ受領者の管理下において、提供データ等の漏えい等または派生データの漏えい等が発生し、またはその発生が合理的に疑われる場合には、データ受領者において、その情報をデータ提供者に共有させるとともに、損害を最小限に留めるためにも、早期に適切な対応をするよう促す必要がある。そこで、本条では第1項および第2項で、データ受領者に対して、データ提供者への通知義務を課すとともに、第3項で、データ受領者に、①事実確認および②原因調査をさせるとともに、③再発防止策を講じさせて、それをデータ提供者に報告させることとした。なお、経産省のガイドラインでは、「提供データ等の漏えい等」の場面しか規定されていなかったが、データ提供者にも「派生データ」の利用権やコントロール権をもたせるべき場合があるという考え方から、本ガイドライン(データ利活用編)では、派生データ等の漏えい等があった場合にも、同様の対応をとるよう促すこととした。
(2)提供データ等に個人情報が含まれている場合の対応
提供データ等または派生データにデータ提供者側の個人情報または個人データが含まれていた場合に、データ受領者の管理下で当該データの漏えい等が発覚し、またはその漏えい等が合理的に疑われる状況になった場合には、個人情報保護法に基づきデータ受領者は適切な対応をとる必要がある。この点については、第2条第2項で、データ受領者に、個人情報保護法に基づく適切な措置を
とることを約束させたが、当局に対する報告は、個人情報保護法上の義務とはされていない。しかしながら、当局は個人データの漏えい等があった場合には、当局等に報告することを推奨し、報告用のフォームも公開していること、実際にも当局に対して適切な報告をすることによって、有益なアドバイスが得られることが期待できることから、当局に対する報告義務等を課すことも検討に値する。その場合の条文例は次のとおりである。
6 漏えいまたは喪失(以下これらを総称して「漏えい等」という)が発生し、または漏えい等が発生した可能性のある提供データ等または派生データに個人データが含まれている場合には、漏えい等を生じさせたデータ受領者またはデータ提供者は、個人情報保護委員会に対してその旨報告し、その指示に従うものとする。
また、データ漏えい等の場合ばかりではなく、提供データ等または派生データの利用が、第三者の知的財産権その他の権利を侵害したものとのクレームを受ける場合もあり得る。したがって、この場合にも双方当事者が適時かつ適切な対応をとることができるよう、以下のような規定を入れることも検討に値する。
7 データ提供者およびデータ受領者は、相手方に提供したデータに、第三者の知的財産権の対象となるデータが含まれる等、相手方の利用につき制限があり得ることが判明した場合には、速やかに相手方に対してその旨を通知した上、相手方と協議および協力して、当該第三者の許諾を得ることまたは問題とされているデータを除去する措置を講じること等により、相手方が提供を受けたデータの利用権限を行使できるよう努める。
(3)損害賠償の制限
第8条で「本契約に違反するデータ受領者の提供データ等の利用により、データ提供者に損害が 生じた場合」の損害賠償義務について説明をしたが、データ受領者が管理するシステムの保守・点 検、ウィルスの感染、ハッキング、コンピュータのバグ、設備または通信サービスの不備または停 止、停電、誤操作、クラウドサービス等の外部サービスの提供の停止または緊急メインテナンス、 その他データ受領者またはオペレータのコントロールの及ばない事象により提供データ等または派 生データが喪失または毀損され、あるいは意図しない第三者に開示、漏えいされた場合にまで、デ ータ受領に損害賠償義務を負担させることは、損害の公平な分担という観点から適切ではない場合 がある。例えば、データ受領者が派生データを作成してデータ提供者に対して提供することを目的 として(換言すれば、データ提供者のためにも)無償で提供データの管理をしているような場合が これに該当する。したがって、この場合には、データ受領者に対して損害賠償義務を負担させない とか故意または重過失によるデータ喪失等の場合のみ責任を負担させるという条文を入れることも 検討に値する。ただし、かかる損害賠償の制限は、データ受領者において漏えい等が発覚したまた は漏えい等が合理的に疑われる提供データ等および/または派生データを管理するシステムに関し、適切な管理をしていたことを立証した場合にのみ適用させるのが合理的である。条文例としては、 以下のとおりとなる。
8 データ提供者は、データ受領者が管理するシステムの保守・点検、ウィルスの感染、ハッキング、コンピュータのバグ、設備または通信サービスの不備または停止、停電、誤操作、クラウドサービス等の外部サービスの提供の停止または緊急メインテナンス、その他データ受領者のコントロールの及ばない事象により提供データ等または派生データが喪失または毀損され、あるいは意図しない第三者に開示、漏えいされる可能性があることを認識し、それらにより自らまたは第三者に損害が発生した場合であっても、データ受領者に対していかなる損害賠償をも請求しないものとする。ただし、本条項は、データ漏えい等が発生したシステムを管理するデータ受領者が、漏えい等が発覚したまたは漏えい等が合理的に疑われる提供データ等および/または派生データを管理するシステムに関し、我が国において、それと同種同等のシステムで通常利用されるのと同種同等のセキュリティおよびバックアップ体制を備えていたこと(なお、データ受領者が、自らが管理するシステムの全部または一部の運営・管理を第三者に委託していた場合や第三者のサービスを利用していた場合には、当該第三者に対する適切な監督を行っていたことを含む。)を立証した場合に限り、適用されるものとする。
なお、経産省ガイドラインにおいては、類似の条項を「不可抗力免責」の条項とし、以下のとおりデータ提供者およびデータ受領者のいずれも免責することとしている34。
第●条(不可抗力免責)
本契約の契約期間中において、天災地変、戦争、暴動、内乱、自然災害、停電、通信設備の事故、クラウドサービス等の外部サービスの提供の停止または緊急メインテナンス、法令の制定改廃その他データ提供者およびデータ受領者の責に帰すことができない事由による本契約の全部または一部の履行遅滞もしくは履行不能については、データ提供者およびデータ受領者は責任を負わない。
これらは、一般的な不可抗力の免責事由ではあるが、例えば通信設備の事故については、当該設備をデータ受領者が自ら管理していた場合には、当該設備に関する適切な管理をしていなければ安易に免責されるべきではないし、データ受領者が、自らが管理するシステムの全部または一部の運営・管理を第三者に委託していた場合や第三者のサービスを利用していた場合には、当該第三者に対する適切な監督を行っていなかった場合にまで免責されるとなれば、データ提供者は安心して自らのデータをデータ受領者に提供できない可能性がある。したがって、本ガイドライン(データ利活用編)では、経産省ガイドラインが掲げるのと同様の場合に一定の免責があるとしても、その免責は、データ受領者が適切な管理を行っていたことを立証した場合に限るものとした。
なお「データ受領者が管理するシステムの保守・点検」中のデータの喪失、漏えい、毀損については、必ずしも「不可抗力」や「データ受領者のコントロールの及ばない事象」とは言えないと考えられる可能性がある。しかしながら、「システムの保守・点検」中に、保守・点検担当者が相当程度の注意をしていたにもかかわらず、何らかの理由でデータが喪失又は漏えいしてしまうという
34 経産省ガイドライン117頁(契約書案第13条)
事象は散見されるところである。そして、データ受領者が、合理的なセキュリティシステムやバックアップ体制を整えていたにもかかわらず、サーバ等を管理又は所有し、その保守・点検をすることになっていたというだけの理由でデータ喪失等の責任を負担させられるというのは、損害の公平な分担という観点からして適切ではない場合が多いのではないかと思われるし、このような場合には、データ受領者にはデータの喪失や漏えいという事態の結果回避可能性がないまたは小さいと思われることからしても、そもそも過失が認められるのかどうかも疑問と言える。またこのような場合に原則としてデータ受領者にデータ喪失や漏えいの責任を問うとなれば、データ受領者側においてデータ喪失等のリスクを回避するために適切な保守・点検が担保されない懸念も生じる。また更に言えば、この種の契約実務に鑑みると、データ管理者によるシステムの保守・点検に起因したデータ喪失については免責対象としている事案が少なくないと思われる。したがって本モデル条項では、これらの点を踏まえ、この免責条項を敢えて「不可抗力」としては位置づけず、厳密に言えばデータ受領者のコントロールの及ぶ事象と考えられる可能性がある事象についても、特掲された事象に基づくデータ喪失等については原則として免責とし、最後にキャッチオール的にその他データ受領者のコントロールの及ばない事象によりデータ喪失がなされた場合にも同様に免責とする旨規定することとした。
また、派生データについてはデータ提供者(農業関係者)側もデータ受領者より提供を受ける可能性があることから、第6項と同様の規定を入れるということも検討に値する。ただし、その場合に、「派生データ」に関してデータ提供者(農業関係者)側に、データ受領者と同等のセキュリティ体制構築義務を認めることは妥当ではないから、それを前提とした本条ただし書による免責の覆滅を認めることも妥当ではないと言える。したがって、同様の規定を入れるとしても本文のみの掲載に留めることが望ましい。その場合の条文例は、以下のとおりとなる。
9 データ受領者は、データ提供者が管理するシステムの保守・点検、ウィルスの感染、ハッキング、コンピュータのバグ、設備または通信サービスの不備または停止、停電、誤操作、クラウドサービス等の外部サービスの提供の停止または緊急メインテナンス、その他データ提供者のコントロールの及ばない事象により派生データが喪失または毀損され、あるいは意図しない第三者に開示、漏えいされる可能性があることを認識し、それらにより自らまたは第三者に損害が発生した場合であっても、データ提供者に対していかなる損害賠償も請求しないものとする。
11 秘密保持義務
第10条 (秘密保持義務)
1 データ提供者およびデータ受領者は、本契約を通じて知り得た、相手方(以下「開示者」という。)が開示にあたり、書面・口頭・その他の方法を問わず、秘密情報であることを表明した上で開示した情報(以下「秘密情報」という。ただし、提供データ等および派生データは本条における「秘密情報」には含まれない。)を、厳に秘密として保持し、開示者の書面による事前の承諾なしに第三者に開示、提供、漏えいし、また、秘密情報を本契約に基づく権利の行使または義務の履行以外の目的で利用してはならない。ただし、法令上の強制力を伴う開示請求が公的機関よりなされた場合または個人情報保護委員会に対して漏えい等を報告するにあたって個人情報保護委員会から開示を求められた秘密情報については、秘密情報の開示を受けた当事者(以下「被開示者」という。)は、その請求に応じる限りにおいて、開示者への速やかな通知を行うことを条件として開示することができる。
2 前項の規定にかかわらず、次の各号のいずれかに該当する情報は、秘密情報にあたらないものとする。
① 開示の時点で既に被開示者が保有していた情報
② 秘密情報によらず被開示者が独自に生成した情報
③ 開示の時点で公知の情報
④ 開示後に被開示者の責に帰すべき事由によらずに公知となった情報
⑤ 正当な権利を有する第三者から秘密保持義務を負うことなく開示された情報
3 被開示者は、本契約の履行のために必要な範囲内に限り、本条第1項に基づく秘密保持義務を遵守させることを前提に、自らの役職員または法律上守秘義務を負った自らの弁護士、会計士、税理士等に対して秘密情報を開示することができる。
4 本条に基づく義務は、本契約が終了した後も●年間存続する。
(1)秘密保持義務
経産省ガイドラインは、「本条第1項では、書面に限らず、口頭等によって提供された情報も、秘密情報であることが表明される限りは『秘密情報』としているが、秘密情報の範囲を明確にするために『書面に秘密であることが表示されたもの』とする場合もある。逆に、秘密情報であることを積極的に表明しなくても、広く秘密情報の定義に含める場合もある。なお、提供データ等については、第3条第3項において、データ受領者の第三者に対する開示、提供が禁止され、第8条第1項において、データ受領者が、提供データを他の情報と明確に区別して善良な管理者の注意をもって管理・保管すること等が定められているため、提供データについては、本条第1項における秘密表示の有無にかかわらず、データ受領者は適切に管理しなければならない義務を負うことになる。」と説明する35。この説明は、農業データにもそのまま当てはまるので、本ガイドライン(データ利活用編)においても援用をする。
35 経産省ガイドライン115頁
(2)データ提供者から、提供データ等に「秘密」と明示されて提供された場合
データ提供者から、提供データ等に「秘密」と明示されて提供された場合には、当該提供データ等は「秘密情報」となる。そして、このような自体が想定される場合には、第1項は次のとおりとなる。
1 データ提供者およびデータ受領者は、本契約を通じて知り得た、相手方(以下「開示者」という。)が開示にあたり、書面・口頭・その他の方法を問わず、秘密情報であることを表明した上で開示した情報(以下「秘密情報」という。提供データ等および派生データは、原則として秘密情報に該当しないものとするが、データ提供者から提供当時に秘密情報であることが明示されて提供された提供データ等は、秘密情報とする。)を、厳に秘密として保持し、相手方の書面による事前の承諾なしに第三者に開示、提供、漏えいし、また、秘密情報を本契約に基づく権利の行使または義務の履行以外の目的で利用してはならない。ただし、法令上の強制力を伴う開示請求が公的機関よりなされた場合または個人情報保護委員会に対して漏えい等を報告するにあたって個人情報保護委員会から開示を求められた秘密情報については、秘密情報の開示を受けた当事者
(以下「被開示者」という。)は、その請求に応じる限りにおいて、開示者への速やかな通知を行うことを条件として開示することができる。
(3)秘密保持義務の存続期間
本ガイドライン(データ利活用編)では、経産省ガイドライン36と同様、「本条に基づく義務は、本契約が終了した後も●年間存続する」という規定を置いている。当事者の合意で、秘密保持義務を契約終了までとすることや、永久とすることも可能であるが、①契約終了後直ちに秘密情報が開示されることは不都合が生じることが少なくないこと、②他方、永久に秘密保持義務を負担するというのは、実務的にほぼ不可能であること、③実務的にも契約終了後一定期間のみ秘密保持義務を負担すると規定するのが一般的であることから、本ガイドライン(データ利活用編)でもこれにしたがって秘密保持義務の存続期間に関する規定を入れた。どの程度の期間を入れるのかは情報が陳腐化すると想定される期間などに応じてケース・バイ・ケースであるが、契約終了後2年から5年程度が多いのではないかと思われる。
36 経産省ガイドライン114頁
12 派生データ等の取扱
(1)派生データの利用権限に関する考え方
本ガイドライン(データ利活用編)は、これまで経産省ガイドラインと同様に、「データ創出に対する寄与度や機器所有権等」、あるいは当該データ創出に対して誰が知見を提供したのかという点などを参考にして、データの利用権限を誰が有すると考えるべきかを判断する姿勢をとってきた
37。そしてこの考え方を前提とすると、派生データはデータ受領者側で発生することが多いことや、
当該派生データの生成に対する寄与はデータ受領者側でなされていることが多いことから、派生データに事実上アクセスできるデータ受領者には当然に契約上利用権限を付与すべきということになる。経産省ガイドラインのアプローチは、この前提に立った上で、「データ受領者のみが一切の利用権限を有する。」と規定し、その上で契約によってデータ受領者の利用権限をどこまで制限するのか、契約によってデータ提供者に利用権限を認めるか否か,認めるとしてその範囲をどこまでにするのかを決めていくという考え方を採用しているようである38。
このアプローチは理論的整合性という意味では正しいアプローチではある。しかしながら、「データ受領者のみが一切の利用権限を有する。」という文言に対しては、農業関係者からの反発または懸念が予想される。農業関係者は一般に自己が提供する農業データの取扱に対しては非常にセンシティブであり、自己が提供したデータに対する利用権限が奪われたように見える条文が規定された場合には、データの提供を躊躇するという事態が懸念される。そしてその場合には、農業関係者からスムーズかつ大量の農業データを集約することが出来なくなってしまうおそれが懸念される。これに対しては、派生データは提供データとは別個なもので、新たに創作されたデータであるからそのような懸念はないという意見もあり得る。しかしながら、農業関係者の立場からすれば、派生データは、提供データとは別個独立したデータまたはデータ群ではあるが、提供データが利用されたデータまたはデータ群であり、それにもかかわらず原則として、「データ受領者のみが一切の利用権限を有する。」という規定がなされた場合には、自らの知見が含まれているデータの利用権限の一部が奪われたと感ずる可能性は否定できない。また、派生データの生成には、提供データ等が寄与していることも疑いがない事実なのであるから、データ受領者のみが派生データの利用権限を有することが基本となるような条文は、農業データに関する限り、この観点からしても適切ではない。
なお、本ガイドライン(データ利活用編)でも、派生データの定義を、経産省のガイドラインを参考に、「提供データ等を加工、分析、編集、統合等することによって新たに生じたデータまたはデータ群をいう。」と定義した。しかしながら、派生データ創出に対するデータ受領者による知見の提供という観点からすれば、派生データと一口にいっても、その生成過程におけるデータ受領者の知見の提供の有無および程度は異なっているように思える。例えば、仮に「統合データ」の定義を、「『派生データ』の一種類で、一つの派生データに複数の提供データ等または派生データが含まれている場合で、それらが一つのデータ群として密接不可分に統合されているものをいう。」と
37 経産省ガイドラインでは、「一般論でいえば、派生データの利用権限に関する明確な合意がなければ、提供データ(元データ)の性質、提供データ(元データ)を取得する際の出費・労力、営業秘密性、提供データ(元データ)の加工・編集・統合等の程度・費用、提供データ(元データ)の全部または一部が復元可能なものとして派生データに含まれるかどうか等を考慮して、派生データの利用権限がデータ受領者のみにあるのか、それとも派生データの利用権限がデータ提供者にもあるのかを合理的に解釈していことになると思われる。」と述べている(28頁)。
38 経産省ガイドラインの「データ提供型モデル契約書案」第11条(経産省ガイドライン115頁)
定義した場合、統合データの生成には、データ受領者の機器所有権等(ソフトウェアの所有権等)は寄与しているかもしれないが、データ受領者固有の知見が含まれているかどうかは、「統合」作業にそのような知見が含まれているかどうかによるので、ケース・バイ・ケースであると言える。これに対して、「分析」とは、物事をいくつかの要素に分け、その要素、成分、構成などを細かい点まではっきりさせることを言い、その中には、分析者による何らかの知見が利用されているのが通常である。したがって、「分析データ」の定義を、「『派生データ』の一種類で、提供データ等をもとに、データ受領者の独自の知見または独自の知見が反映されたツールによって分析がなされた派生データをいう。」と定義した場合、分析データの生成には、データ受領者の独自の知見が寄与していることになる。このように、派生データの生成過程において、データ受領者の知見が大きく寄与している場合には、派生データの利用権限をデータ受領者のみに認める正当性は相対的に高まるが(特に、提供データ等が熟練農業者等による「暗黙知」のようなものではない場合にはこのように言いやすい)、逆に派生データの生成過程において、データ受領者の知見が大きく寄与していない場合には、派生データの利用権限をデータ受領者のみに認める正当性は相対的に低くなると思われる。そしてこの論理は、特に提供データ等が熟練農業者等による「暗黙知」のようなものであったり、ノウハウと呼べるようなものである場合にはより鮮明になる。
そして、以上のような、派生データに対する知見の寄与度によって利用権限の有無およびその割合を決するという観点と、データ提供者である農業関係者の意識や懸念を考慮すると、少なくとも農業データに関する限り、原則として「派生データ」の利用権限は、データ提供者にも一定程度留保できるようにし、事案に応じて柔軟な対応や規定をするのが適切ということになる。そして、この観点からすれば、農業データに関する限り、そのためのアプローチとしては、
(1) 派生データの利用権限はデータ提供者とデータ受領者で共同で保持することとし、その利用権限の行使方法を具体的に契約書の中に落とし込むことによって妥当な結論を図るというアプローチ
(2) 派生データの利用権限はデータ受領者が保持し、その利用権限をデータ提供者に非独占的にライセンスをした上で、そのライセンス条件の中で妥当な結論を図るというアプローチ
(3) 派生データの利用権限については特段言及することなく、派生データの利用権限を契約に基づいてどのように配分するか(換言すれば、当事者間で派生データの取扱及び利用をどのようにするのか)を規定するというアプローチ
などが考えうる。しかしながら、(1)について言えば、「保持」とは、「データに対して適法にアクセスできる事実状態」を意味するところ、現実問題として派生データを保持しているのは、データ受領者のみであることから、「共同で保持する」という表現には違和感が残る。また、その点から「共同で保持」ではなく「共有」という表現を用いることも考えられる。そして、この表現は、データ提供者(農業関係者)にも利用権限が留保されている趣旨が窺えてわかり易いということは言える。しかしながら、これまで述べてきたとおり、「データ・オーナーシップ」という概念を取り入れることは適切ではないのであるから、所有権の存在を前提としたかのような「共有」という表現をこのガイドラインで取り入れることは適切ではない。他方、(2)のアプローチも、「派生データはデータ受領者が保持している」という事実状態を正しく反映しているものではあるが、「派生データの利用権限」をデータ受領者が単独で保持するという表現を使うことにより、農業関係者が自らのデータに対するコントロール権を喪失してしまったとの意識を持つ可能性があるという点で妥当性を欠く。
したがって、本ガイドライン(データ利活用編)では、誰が派生データの利用権限を保持するのかについては敢えて規定せず、データ提供者もデータ受領者も、その派生データの利用権限を有するということを念頭に置きつつ、その取扱については契約書で規定したとおりに実施することを合意するに留めることとした(上記の(3)のアプローチ)。
この点、経産省ガイドラインは、「派生データの利用権限の有無・配分、提供データ等のデータ受領者の利用に基づいて生じた知的財産権の帰属は法律上当然には定まらなかったり、一義的には明確にならないこともあるので、契約においてその点を明らかにしておくことが望ましい。」とし、
①当事者間で別途合意した場合を除き、派生データの利用権限をデータ受領者のみが有することを前提にデータ提供者に派生データの利用を認めない案【案1】、②派生データの利用権限はデータ受領者が有するとした上で、データ提供者に対して非独占的利用権を許諾する案【案2】、および
③派生データの利用権限について、契約書では明示せず別途協議で定める案【案3】の3つを提示している39。
しかしながら、前述のとおり、農業関係者のデータ提供に対する懸念を払しょくし、農業関係者からスムーズかつ大量の農業データを集約することを実現していくという観点からすると、農業データに関する限り、原則として派生データの利用権限をデータ受領者のみが有するという経産省のモデル契約案を雛形として提供するのではなく、派生データの利用方法についての具体的な指針を与える形の契約案を提供することが望ましいのではないかと思われる。
そして、以上の考え方を前提とすると、派生データの取扱に関する条文は次のとおりとなる。
第11条(派生データ等の取扱)
1 データ提供者およびデータ受領者は、本目的のために自ら派生データを利用することができる。この利用の中には、本目的のために、派生データを加工等することが含まれる。
2 前項の場合、データ提供者およびデータ受領者は、相手方当事者の事前の書面による承諾がない限り、派生データを第三者(データ提供者またはデータ受領者が法人である場合、それらの子会社、関連会社も第三者に含まれる。)に開示、提供、漏えいさせてはならない。
3 データ提供者が、派生データの利用を望む場合には、別途両当事者で定める申込書式に必要事項を記入の上、データ受領者に申請をするものとする。データ受領者は、その利用が利用権限を逸脱しているなど特段の事情がない限り、データ提供者に対して、申請された派生データを提供しなければならない。ただし、データ提供者に対する派生データの提供に費用を要する場合には、データ受領者は別途定める手数料をデータ提供者に請求することができる。
4 提供データ等または派生データの利用に基づき生じた知的財産権(データベースの著作物に関する権利を含むが、これらに限らない。以下本条において同じ。)は、本契約で別段の規定がある場合および当事者間で別途合意をした場合を除き、データ提供者とデータ受領者の共有とする。この場合において、当該知的財産権の創出に出願作業が必要な場合には、データ提供者とデータ受領者が共同で当該出願作業を行うか、相手方当事者の同意を得て、一方当事者が単独で行うものとする。
5 本契約で別段の規定がある場合または当事者間で別途合意をした結果、派生データの利用権限をデータ受領者のみに帰属させる場合には、派生データの利用に基づき生じた知的財産権は、データ受領者のみに帰属する。
39 経産省ガイドライン116頁(モデル契約書第11条)
6 前2項の規定は、提供データ等または派生データに関する知的財産権が第三者に帰属する場合には、適用がないものとする。
7 データ受領者が、派生データを利用して行った事業またはサービスによって売上げを得たときは、受領データが得た売上金額の●%をデータ提供者に対して支払う。その支払条件については、データ提供者とデータ受領者が協議の上決定する。
8 データ受領者は、派生データの正確性、完全性、安全性(派生データ等がウィルスに感染していないことを含む。)、有効性(本目的への適合性を満たしていることを含む。)、派生データが第三者の知的財産権その他の権利を侵害しないこと、派生データが本契約期間中継続してデータ提供者に提供されることをいずれも保証しない。また、データ受領者は、本契約において明示的に保証すると記載したものを除き、明示的であるか黙示的であるかを問わず、派生データ等について一切の保証をしない。
9 前項の規定は、以下のいずれかの場合には適用がないものとする。
① データ受領者が、派生データ等の全部または一部を改ざんして、データ提供者に提供した場合
② データ受領者が有償で派生データ等をデータ提供者に提供した場合で、派生データの正確性、完全性、安全性、有効性のいずれかに問題があること、または派生データが第三者の知的財産権および/またはその他の権利を侵害することを故意により告げずまたは重過失により告げ ないで、派生データ等をデータ提供者に提供した場合
③ データ受領者が、派生データ等をデータ提供者に対して提供する権限がないことを知りながらまたはこれを重過失により知らないで、派生データ等をデータ提供者に提供した場合
10 データ受領者が、第13条第1項から第4項のいずれかに基づき本契約を解除した場合には、データ提供者は、データ受領者の求めにより、派生データの利用を停止し、かつデータ受領者より提供を受けた派生データを削除または消去しなければならない。
(2)提供データ等または派生データの利用に基づき生じた知的財産権の帰属について
提供データ等を使ってデータ受領者が分析作業をすることによって、農業従事者の「暗黙知」を
「形式知」とし、当該「形式知」をソフトウェアの形にして、新規就農者に対するラーニング教材
(ソフトウェア)とする場合、当該ソフトウェアには著作権が発生する。そしてその場合、当該ソフトウェアの著作権は、原則として、当該ソフトウェアを創作したデータ受領者にあるということになる(著作権法第17条1項)。しかしながら、この結論では、農業従事者が提供した「暗黙知」に著作物性が認められない限り、農業従事者の「暗黙知」を「形式知」とし、当該「形式知」をソフトウェアの形にしたものは、二次的著作物にはならないが(著作権法第28条)、「暗黙知」なるものに著作物性が認められることは通常ないと言える。そしてかかる結果は、当該ソフトウェアの利用に対するデータ提供者のコントロール権を奪う結果となる。しかしながら、そのような結論は、前述したようにデータ提供者である熟練農業者によるデータ提供を躊躇させる結果を招来させるリスクがある。したがって、本ガイドライン(データ利活用編)では、提供データ等または派生データの利用に基づき生じた知的財産権も、原則として、データ提供者とデータ受領者の共有とすることとした(法的には、データ受領者が創作したソフトウェアに、データ提供者が重要な寄与をしたとして、データ受領者が保有する著作権の一部をデータ提供者に譲渡することとなる)。ただし、提供データ等が、熟練農業者が保有している「暗黙知」とも言えないようなものであって、そ
こに何らデータ提供者の知見が反映されていないようなものである場合には、必ずしもデータ提供者に知的財産権の利用権限を留保させる必要がない場合も存在する。また、データ提供者から提供を受けたデータによって「統計データ」が作成される場合のように、「統計データ」内にデータ提供者からの知見が残っていないような場合にも、必ずしもデータ提供者に知的財産権の利用権限を留保させる必要がないとも言える。したがって、本ガイドライン(データ利活用編)は、このような場合には当事者が別途協議の上合意することによって、適切な利用権限の分配ができるように「当事者間で別途合意をした場合を除き」という文言を入れた。また、このような場合に、当事者間で別途合意をすることによって、当該合意を本契約内に落とし込む場合もあろうかと思われるので、
「本契約で別段の規定がある場合」も本条項の適用がない一場面として入れている。ただし、この場合には、農業従事者の提供データ等に対する権限を不当に奪う結果とならないように、データ受領者は、慎重に対応する必要がある。
なお、本ガイドライン(データ利活用編)では知的財産権の後に「データベースの著作物に関する権利を含むが、これらに限らない。以下本条において同じ。」という規定を入れたが、これは、
①知的財産権基本法によれば、知的財産権には当然に著作権も含まれるが(同法第2条第2項)、 農業従事者等が、そのように正確に把握できるかどうかは明らかではないこと、②データベースの 著作物のように例示をしたほうがイメージが付きやすいと思われることから記載したものであって、特段必須の記載ではない。同様の記載は経産省ガイドラインにも存在する40。
なお、この知的財産権が特許、実用新案、意匠等であるか、著作権であるかによって、利用可能な態様が異なる。この知的財産権が特許、実用新案、意匠等の場合、データ提供者またはデータ受領者が自己利用をする場合には、他の契約当事者の同意は不要であるが、第三者に実施許諾をする場合には他の契約当事者の同意が必要となる。他方、この知的財産権が著作権であって、その著作権がデータ提供者とデータ受領者の共有に帰属する場合には、当該著作権は契約の一方当事者であるデータ提供者またはデータ受領者が自己利用をする場合であっても、他方当事者からの同意が必要となる。したがって、この点については留意が必要である。
(3)利用権限の行使方法
本ガイドライン(データ利活用編)では、契約書の雛形においては、派生データの利用権限については敢えて触れないものの、その取扱方法を契約書で定めることにしている。そして、この取扱方法をどのように定めるかについては、知的財産に関する共有の規定を参考に検討するのが適切であると考える。派生データの生成には、データ提供者もデータ受領者も寄与しており、かかる事実状態に鑑みると、データ提供者もデータ受領者も、その派生データの利用権限を一定程度有するということを念頭に置くことが適切である。そしてそうだとするならば、その取扱や利用方法については、データと同じ無体財産である知的財産の共有の規定を参考にした上で、双方が納得できる結論に導くことが適切であると考えられるからである。
なお、データ提供型の場合、多くは上記の考え方でよいと思われるが、データ創出型の場合には、派生データに対するデータ受領者の寄与が著しく大きく(それに対して派生データに対するデータ提供者の寄与が著しく小さく)、したがって、派生データの利用権限をデータ受領者のみが有すると考えるべき(そして、農業関係者もそれに対して特段異議を述べることはないだろうと思われる)場面も想定される。
40 経産省ガイドライン106頁(モデル契約書案第3条第4項)
そこで、以下では、まず派生データの利用方法について知的財産権の共有規定を参考とする考え方について解説し、続いて派生データの利用権限をデータ受領者のみが有すると考えるべき場合について解説する。
A.派生データの利用方法について知的財産権の共有規定を参考とする考え方
まず派生データの利用方法については、理屈上、契約当事者に何らの制限もかけないという考え方と何らかの制限をかけるという考え方があり得る。そして、後者については、(1)自己利用に制限をかける(他方当事者の同意を必要とする)、(2)第三者提供に制限をかける(他方当事者の同意を必要とする)という考え方があり得る。そして、これらを整理すると次のとおりとなる。
① 何らの制限もかけず、いずれの当事者も自由に自己利用(その改変や削除等も含む。以下同じ。)も第三者提供(利用許諾も含む。以下同じ。)もできるとする考え方、
② 自己利用については自由とするが、第三者提供については制限をかける考え方、
③ 自己利用についても、第三者提供についてもいずれも制限をかける考え方
このうち、我が国の知的財産法制を参考にすると、共有となる知的財産権について、①を採用するものはないが、②および③を採用するものは存在する。②の考え方は、特許権等の共有の考え方
(特許法第73条など)を踏襲したものであり、③の考え方は、著作権の共有の考え方(著作権法第
65条)を踏襲したものである。なお、①および②については、「派生データ」の利用を、本目的のために利用する場合には自由とする考え方(換言すれば、本目的外の利用は認めないという考え方)と、目的のいかんにかかわらず自由とする考え方があり得るし、③の場合には、本目的のために利用する場合にも制限を加える(換言すれば、相手方の同意なくしては「派生データ」の一切の自己利用を認めない)という考え方も理論上はあり得る。これらを表にまとめると次の通りとなる。
目的による制限 | 自己利用 | 第三者への提供/利用許諾 |
あり/なし | 自由 | 自由 |
あり/なし | 自由 | 制限 |
― | 制限 | 制限 |
しかしながら、本目的のために利用する場合にも制限を加えるという考え方は、本契約の目的の達成を阻害する可能性があるので、かかる考え方を採用することは困難である。また、③の考え方は「派生データ」に対してあらゆる利用制限をかけることになるが、「派生データ」の作成、利用も契約目的を達成するためにはある程度必要であるという現実に鑑みれば、自己利用をすべて制限する③の考え方を採用することは困難である。また、①の考え方は、「派生データ」に対するデータ提供者の「派生データ」に対する利用権限を担保する考え方を採用する一方で、データ受領者による「派生データ」の利用に対するコントロール権を事実上喪失させるものであり、かかる事態に対しては農業関係者が懸念を示すことが考えられることから、この考え方も採用しづらい。
以上のような考慮から、本ガイドライン(データ利活用編)の雛形では、「派生データ」の利用に関する限り、②の考え方を採用し、各当事者が「派生データ」を本目的のために利用する限りにおいては自由に利用できるものとするが、第三者提供については制限をすることとした。なお、本ガイドライン(データ利活用編)の条項案では、「この利用の中には、本目的のために、派生データを加工等をすることが含まれる。」という文言を入れているが、これは自己利用を自由にするこ
との帰結であるし、データ提供者が自分の利用しやすいフォーマットに変更したり、熟練農業者独自の観点から、さらなる内容の分析をしたいという思いを阻害しないように配慮したものである。しかしながら、データ提供者に派生データの加工、分析、編集、統合や、その内容の訂正、追加、削除、消去をすることを許諾することは、例えば派生データが著作物となっている場合には、著作者人格権の観点から問題がある可能性もあるし、またデータ提供者によって修正された派生データが、何らかの理由で修正前の派生データと混在してしまい、データのコンタミネーションが起こる可能性が懸念されるということもあり得る。そのような場合には、「この利用の中には、本目的のために、派生データを加工等をすることが含まれる。」を削除し、「ただし、データ提供者は、派生データをデータ受領者から受領した状態のまま利用しなければならず、本契約で明示的に規定されるものを除き、データ受領者の事前の書面による承諾なくして、派生データを加工、分析、編集、統合し、その内容の訂正、追加、削除、消去をすることはできない。」とすることも検討に値する。
B.派生データの利用権限をデータ受領者のみに保持させる場合
これに対し、当事者の合意等に基づき、派生データの利用権限をデータ受領者のみが有することとした場合には、データ受領者は、データ提供者に対し、本契約期間中、当該派生データを本目的の範囲で利用することを許諾することとした。これは、派生データの利用権限をグラントバックすることで、農業関係者によるデータ提供のインセンティブを確保するとともに、その利用目的を本目的に限ることで、派生データの創作者であるデータ受領者の意図しない利用がなされないような状態を担保することとしたものである。また、この場合、「データ提供者は、本契約で明示的に規定されるものを除き、データ受領者の事前の書面による承諾なくして、派生データの内容の訂正、追加、削除し、加工等し、第三者に開示、提供する権限を有しない。」こととした。派生データの利用権限は、データ受領者のみが有することになるから、派生データの利用が許諾されたデータ提供者にその無断改変を許さないというのは当然の帰結であるが、それを契約書の中で明示することによって、農業関係者に対する規範を提供しようとしたものである。
なお、当事者の合意等に基づき、派生データの利用権限をデータ受領者のみが有することとした場合であっても、派生データの生成にデータ提供者の提供データ等が寄与していることは事実であるので、派生データの利用によってデータ受領者が何らかの利益を受けた場合には、その利益を適切にデータ提供者に対して分配することが望ましい。
そして、以上を反映させた条文例は、次の通りとなる。
第11条(派生データの取扱)
1 本契約で別段の規定がある場合および当事者間で別途合意をした場合を除き、派生データの利用権限は、データ受領者のみが有する。
2 データ受領者は、データ提供者に対し、本契約期間中、[有償/無償で]当該派生データを本目的の範囲で利用することを許諾する。この場合、データ提供者は、本契約で明示的に規定されるものを除き、データ受領者の事前の書面による承諾なくして、派生データの内容の訂正、追加、削除し、加工等し、第三者に開示、提供する権限を有しない。
3 データ提供者が、派生データの利用を望む場合には、別途両当事者で定める申込書式に必要事項を記入の上、データ受領者に申請をするものとする。データ受領者は、その利用が利用権限を逸脱しているなど特段の事情がない限り、データ提供者に対して、申請された派生データを提供
しなければならない。ただし、データ提供者に対する派生データの提供に費用を要する場合には、データ受領者は別途定める手数料をデータ提供者に請求することができる。
4 派生データの利用に基づき生じた知的財産権は、データ受領者のみに帰属する。
5 前各項の規定にもかかわらず、当事者間で別途書面による合意をすることにより、派生データの利用に基づき生じた知的財産権を、データ提供者とデータ受領者の共有とすることができる。
6 前2項の規定は、提供データ等または派生データに関する知的財産権が第三者に帰属する場合には、適用がないものとする。
7 データ受領者が、派生データを利用して行った事業またはサービスによって売上げを得たときは、受領データが得た売上金額の●%をデータ提供者に対して支払う。その支払条件については、データ提供者とデータ受領者が協議の上決定する。
8 データ受領者は、派生データの正確性、完全性、安全性(派生データ等がウィルスに感染していないことを含む。)、有効性(本目的への適合性を満たしていることを含む。)、派生データが第三者の知的財産権その他の権利を侵害しないこと、派生データが本契約期間中継続してデータ提供者に提供されることをいずれも保証しない。また、データ受領者は、本契約において明示的に保証すると記載したものを除き、明示的であるか黙示的であるかを問わず、派生データ等について一切の保証をしない。
9 前項の規定は、以下のいずれかの場合には適用がないものとする。
① データ受領者が、派生データ等の全部または一部を改ざんして、データ提供者に提供した場合
② データ受領者が有償で派生データ等をデータ提供者に提供した場合で、派生データの正確性、完全性、安全性、有効性のいずれかに問題があること、または派生データが第三者の知的財産権その他の権利を侵害することを故意により告げずまたは重過失により告げないで、派生デ
ータ等をデータ提供者に提供した場合
③ データ受領者が、派生データ等をデータ提供者に対して提供する権限がないことを知りながらまたはこれを重過失により知らないで、派生データ等をデータ提供者に提供した場合
10 データ受領者が、第13条第1項から第4項のいずれかに基づき本契約を解除した場合には、データ提供者は、データ受領者の求めにより、派生データの利用を停止し、かつデータ受領者より提供を受けた派生データを削除または消去しなければならない。
なお、本ガイドライン(データ利活用編)の雛形では、「派生データ」に関するデータ受領者の利用権限も「本目的の範囲」にとどめているが、「派生データ」の利用に関する限り、「派生データ」を創出させたデータ受領者の利用権限を、「本目的の範囲」にとどめないという判断をすることは可能である(上記の「派生データの利用方法について知的財産権の共有規定を参考とする考え方」の文例では、データ受領者の利用権限を何ら制限していない)。このようにすることによって、データ受領者による「派生データ」の使い勝手を向上させることができるが、その場合でも、「派生データ」を本目的以外のいかなる目的で使うのかについて、農業関係者への丁寧な説明に努め、その利用方法に関する誤解や懸念を与えないようにすることが望ましい。
ところで、先述した文部科学省の「さくらツール」では、大学等と民間企業との共同研究等の成果として生じた発明の多くが、とりあえず共同出願、共有特許とされており、事業化に繋がってい
ないとの問題意識の下、共同研究等成果を大学等または民間企業の単独帰属する選択肢を含めて、共同研究契約書のモデルが複数提示されているところである。
本ガイドライン(データ利活用編)においては、農業の特殊性を踏まえた上で、データ提供者もデータ受領者も派生データの利用権限を有することと整理したところであるが、「さくらツール」が指摘する共有帰属に係る問題意識については、今後、農業分野におけるICT サービスの進展・普及に伴い農業者自身のノウハウの流出に対する不安が軽減・解消されることをはじめ、農業分野におけるデータ契約をとりまく環境変化を踏まえながら、将来的な課題として整理することが適当と考えられる。(この点は、後述のデータ創出型契約においても同様)
(4)派生データに対する非保証
提供データ等に対する非保証の考え方は派生データの提供の際にも適用されるべきであるから、提供データ等に対する非保証と同様の条文を派生データにも入れることにした。この点、派生データそのものの生成主体はデータ受領者のみであり(例えば、分析データに使うアルゴリズム等はデータ受領者のみが保有しているものが使われている)、その観点から、派生データの提供を受けるデータ提供者は、一般にその完全性等を期待しており、したがってその旨の黙示的保証がみとめられてしかるべきだと考えることもできる。しかしながら、このような黙示的な保証が認められるとすると、データ受領者が派生データの提供を躊躇する可能性があり、その場合、データ提供者のデータ提供のインセンティブが削がれる結果となる可能性がある。したがって、原則として、データ受領者に派生データの非保証を付与することが適切である。
そして、派生データに対する非保証は、データ受領者が派生データの提供を躊躇する可能性を回避するためのものであり、有償提供の場合および無償提供の場合のいずれの場合でも適用されるべきであるから、本ガイドライン(データ利活用編)でも特段区別なく適用される建付けとしている。
(5)契約解除後の派生データの利用権限
本契約がいずれかの当事者によって解除された場合、他方当事者は当該派生データを契約解除後も利用し続けられるのかは一つの検討すべき問題である。
まず、派生データの利用権限は、所有権的な権利ではないのであるから、①契約解除後は、派生データの利用権限は全部消滅するという考え方、②契約解除後は、契約が解除された当事者の利用権限のみ消滅するという考え方、③契約解除後も、派生データの利用権限(自己利用権)は両者にそのまま存続するという考え方のいずれの考え方も理論的には可能である。ただし、①の考え方は、契約の解除権行使を不当に制限する可能性があることから、実務上採用することは困難であると思われる。そして、②の考え方を採用するか、③の考え方を採用するかを検討する際には、政策的な配慮が必要となる。まず、契約の解除がなされる際には、当事者の信頼関係は破壊されている場合が多く、したがって、相手方に派生データの利用権限を残しておくことはできないという解除当事者の意思に考え方に重きを置く場合には②の考え方を採用することとなる。しかしながら、この考え方を採用する場合には、次の点をどのようにクリアするのかを検討する必要がある。
① 派生データの生成には、他の提供データも利用されていることが少なくなく、データ提供者が契約を解除した場合に、データ受領者が派生データを削除する必要があるとなると、当該派生データを利用している他の提供データの提供者に不測の損害を被らせる可能性があること。
② 他方、データ提供者としても、データ受領者が派生データを削除するとなれば、そのデータの継続的な利用やメインテナンス等の観点から不都合となる可能性があること。
③ 派生データについて、「共有される知的財産」に類似した事実状態にあるものと捉えた場合には、仮に自己の責めに帰すべき事由によって、他の共有者から利用権限を調整するための契約が解除されたとしても、派生データの自己利用権が消滅するという考え方には馴染みにくいと思われること。
したがって、派生データの利用に関して知的財産権の共有の規定を参考にする考え方に立つと、原則として「契約解除後も、派生データの利用権限(自己利用権)は両者にそのまま存続する」という考え方が一番抵抗感なく受け入れられるのではないかと思われる。
他方、派生データの利用権限をデータ受領者のみが有すべきとする考え方に立てば、データ・ライセンス契約の場合には、契約解除後にライセンス対象データの消去義務が規定されることが多いことから、データ受領者が解除した場合にデータ提供者の派生データ消去義務を規定することには抵抗感がないと思われるし、むしろ、当事者の合理的意思に合致するともいえる。
したがって、以上の観点から、本ガイドライン(データ利活用編)では、原則として、派生データの利用権限は契約解除後も消滅しないこととした。この点、明文上は、第3条第7項に規定されているが、余後効を規定した第17条で第11条(派生データ等の取扱)を契約終了後も有効にすることにして、派生データは契約終了後もそのまま利用できることとしている。なお、「派生データの利用権限は契約解除後も消滅しない」とは、契約解除後もデータ提供者に派生データに対するアクセス権を与えるということまでは意味しない。契約解除後までデータ受領者にかかる作業を強制することは適切ではないからである。
派生データの利用権限をデータ受領者のみが有するという考え方に立った場合には、「データ受領者が、第13条第1項から第4項のいずれかに基づき本契約を解除した場合には、データ提供者は、データ受領者の求めにより、派生データの利用を停止し、かつデータ受領者より提供を受けた派生データを削除または消去しなければならない。」とした。そしてこの場合、データ提供者の派生データに対する利用権限は契約の解除によって当然に消滅するのではなく、それをデータ受領者が望んだ場合のみ、派生データの利用停止、消去義務が発生するようにしている。
なお、この条文は、派生データの利用権限をデータ提供者にも保持させるという考え方に立ったとしても適用は可能である。何故なら、派生データの利用権限及びその制限は、当事者の契約により定められるものであるが、データ受領者がデータ提供者に対する信頼をなくしてしまったことにより契約を解除した場合(第13条第1項から第4項のいずれかに基づき契約を解除した場合)にまで、データ提供者に派生データの利用権限を保持させることは適切ではないとも考えられるからである。そして、データ提供者がデータ受領者との信頼関係を破壊した場合に、派生データの利用権限を喪失させたとしても、これに対してデータ提供者が異議を述べたり、そのような規定に反発をしてデータ提供を躊躇することも考えにくい。したがって、本ガイドライン(データ利活用編)ではいずれの場合にも、この条文を入れることにした。
13 有効期間
第12条(有効期間)
本契約の有効期間は、本締結日から●年間とする。ただし、本契約の有効期間満了の●ヶ月前までにデータ提供者またはデータ受領者から相手方に対して書面による契約終了の申し出がないときは、本契約と同一の条件でさらに●年間継続するものとし、以降も同様とする。
本契約の雛形では、一定の有効期間を設定しつつ、自動更新の規定を入れた。有効期間の定めを入れることにより、その期間中(更新された場合にはその更新期間を含む。以下同じ。)に限りデータ受領者は提供データ等の利用が可能となり、他方データ受領者から派生データの利用許諾が得られた場合には、その期間中に限りデータ提供者は派生データ等の利用が可能となる。継続的なデータ提供と利用が望まれることを考えると、このような自動更新条項が望ましい。
ただし、具体的なプロジェクトを前提としたデータ提供とその利用の場合には、プロジェクトが終了すればこのデータ提供および利用契約も終了すると考えられる。したがって、その場合には、ただし書き以降の自動更新条項は削除し、「本契約の有効期間は、契約締結日から●年間(または
●ヶ月)とする。」という条文でも良い。
14 契約の解除
第13条(契約の解除)
1 本契約のいずれか一方の当事者(以下「本件当事者」という。)は、本契約の他方当事者(以下「相手方」という。)に以下のいずれかに該当する事由が発生した場合には、何ら催告なくして、本契約を解除することができる。
① 本契約の一に違反し、相当の期間を定めて催告したにもかかわらず、その違反が是正されなかった場合
② 破産、民事再生、特別清算、会社更生手続の開始が申立てられ、あるいはこれに類する手続が申立てられた場合。ただし、これらの申立が債権者によりなされた場合には、裁判所がその手続開始決定をした場合(特別清算の場合には手続開始命令をした場合)とする。
2 本件当事者は、自らが、反社会的勢力(暴力団、暴力団員、暴力団員でなくなった時から5年を経過しない者、暴力団準構成員、暴力団関係企業、総会屋等、社会運動等標ぼうゴロまたは特殊知能暴力集団、その他これらに準ずる者をいう。以下同じ)に該当しないこと、および反社会的勢力と以下の各号の一にでも該当する関係を有しないことを相手方に表明保証する。本件当事者は、相手方が反社会的勢力に該当し、または以下の各号の一にでも該当することが判明した場合には、何らの催告を要せず、本契約を解除することができる。
① 反社会的勢力が経営を支配していると認められるとき
② 反社会的勢力が経営に実質的に関与していると認められるとき
③ 自己、自社若しくは第三者の不正の利益を図る目的または第三者に損害を加える目的をもってするなど、不当に反社会的勢力を利用したと認められるとき
④ 反社会的勢力に対して資金等を提供し、または便宜を供与するなどの関与をしていると認められるとき
⑤ その他役員等または経営に実質的に関与している者が、反社会的勢力と社会的に非難されるべき関係を有しているとき
3 本件当事者は、相手方が自らまたは第三者を利用して以下の各号の一にでも該当する行為をした場合には、何らの催告を要せず、本契約を解除することができる。
① 暴力的な要求行為
② 法的な責任を超えた不当な要求行為
③ 取引に関して、脅迫的な言動をし、または暴力を用いる行為
④ 風説を流布し、偽計または威力を用いて本件当事者の信用を棄損し、または当本件事者の業務を妨害する行為
⑤ その他前各号に準ずる行為
4 データ提供者は、データ受領者が提供データ等または派生データの漏えいまたは喪失をした場合には、何ら催告なくして、本契約を解約することができる。
5 本件当事者は、本契約に別途定める場合のほか、相手方との間で書面による合意をすることにより、本契約を解約することができる。
6 第3条第5項ただし書の規定にもかかわらず、本条第1項から第4項のいずれかに基づき本契約が解除された場合には、データ受領者は、データ提供者の求めに従い、自らのシステムから、提供データ等の全部または一部を削除しなければならない。ただし、この規定は、派生データ内の提供データ等に対しては適用がないものとする。第3条第6項は、本項の場合にも準用する。
7 本条第1項から第3項各号のいずれかを理由として本契約を解除した本件当事者は、本条第1項から第3項各号に該当する相手方に対して、本契約違反または解除に基づいて被った損害の賠償を請求することができる。本条第4項を理由として本契約を解除したデータ提供者の損害賠償請求権の行使は、第9条第8項に規定したとおりとする。
(1)本契約の解除
本契約のようなデータ提供契約および利用契約は、データの提供価値や利用価値を高めるという観点からも、特段の事情がない限りできるだけ継続できる方向の契約条項が望ましい。しかしながら、データの利用継続をさせるのにふさわしくない事情が発生した場合に、その利用継続を中止または停止させる機能と手順を契約書の中に入れ込むことは極めて重要である。なぜなら、そのような機能があるからこそ、データ提供者は、安心してデータ提供を継続することが可能となると言ってよいからである。
したがって、本ガイドライン(データ利活用編)の雛形においても契約解除条項を設定した。 なお、本条第2項および第3項は、いわゆる「暴排条項」(経産省ガイドラインでは「反社会的
勢力の排除」とされているもの)であり、このような取引契約の中に入れることが推奨されている条項である41。
(2)契約終了後の提供データ等の削除等(第6項)
これについては、第3条第5項および第6項で解説したところが本条においてもあてはまるところであるので、そちらを参照されたい。なお、経産省ガイドラインのように、契約終了後の提供データ等の削除に関する条項を契約終了後の措置として別個の条文としてまとめて記載してもよい。第3条第5項は、「データ提供者は、本条第1項に基づく許諾をした後であっても、何らの理由 なくして、いつでも、データ受領者に対して提供データ等の削除、消去または利用停止を求めることができる。ただし、この規定は、データ提供者がデータ受領者に対して提供データ等を有償で許諾した場合には適用がない。」と定めている。したがって、本条第6項本文の規定については、これがあってもなくても、第3条第5項で提供データ等の削除をしなければならないが、これを注意的に規定したものである。また、第3条第5項ただし書によれば、有償提供をした場合には、削除等の要求はできないが、本条第6項で、データ受領者に有償提供をした場合でも、データ受領者が
提供データ等または派生データの漏えいまたは喪失をした場合には、削除要求を認めたものである。なお、合意解約の場合に、その後のデータの削除等の義務を認めるかどうかは、当該合意解約契
約書の中で規定することを想定している。
(3)データ漏えいの場合の損害賠償の制限(第4項および第7項)
データ受領者が故意または過失によってデータ漏えいをさせ、それによってデータ提供者に対して損害を与えた場合には、データ受領者はデータ提供者に対し、その損害を賠償しなければならない。しかしながら、データ漏えいは、ハッキング等必ずしもデータ受領者の責めに帰すべきではない事由により生じることがある。
41 経産省ガイドライン117頁(モデル契約書案第16条)
この場合、仮にデータ漏えいがハッキング等必ずしもデータ受領者の責めに帰すべきではない事由により生じたとしても、データ提供者の立場からすれば、安心できないデータ受領者に継続的に提供データ等を保管させておくことはできないと思われることから、データ漏えいの帰責事由の有無にかかわらず、データ提供者に対する解除権を認めたのが、第4項である。
他方、データ漏えいがハッキング等必ずしもデータ受領者の責めに帰すべきではない事由により生じた場合(換言すれば故意または過失がない場合)にまで、データ提供者からの損害賠償請求を認めることはデータ受領者にとって酷であるし、現行の民商法の体系にもそぐわない。第9条第8項は、このような場合に備えて責任制限を定めたものであるが、本条第7項は、データ受領者が管理する場所でデータ漏えいが発覚した場合の損害賠償にも、この責任制限の規定が適用となることを注意的に規定したものである。
15 不可抗力免責
第14条(不可抗力免責)
1 本契約の契約期間中において、天災地変、戦争、暴動、内乱、自然災害、法令の制定改廃その他データ提供者およびデータ受領者の責に帰すことができない事由による本契約の全部または一部の履行遅滞もしくは履行不能については、データ提供者およびデータ受領者は責任を負わない。
2 前項の規定にもかかわらず、第9条第8項ただし書に基づきデータ受領者に対する免責が認められない場合には、その限りで、前項の適用は排除されるものとする。
本条第1 項は、不可抗力が生じた場合の免責条項であるが、データ受領者において漏えい等が発覚したまたは漏えい等が合理的に疑われる提供データ等および/または派生データを管理するシステムに関し、適切な管理をしていなかった場合にまで免責を認めるとすると、農業関係者等のデータ提供者が安心して提供データ等をデータ受領者に提供することができなくなる懸念がある。したがって、本ガイドライン(データ利活用編)では、経産省ガイドラインの不可抗力条項に一定の制限を加えて、農業関係者等のデータ提供者が安心して提供データ等をデータ受領者に提供する体制を確保することとした。
16 権利義務の譲渡禁止
第15条(契約の地位の譲渡)
データ提供者またはデータ受領者は、相手方の事前の書面による承諾を得なければ、本契約上の地位または本契約に基づく権利義務を第三者に譲渡することができない。ただし、以下の場合にはこの限りではない。
① データ提供者またはデータ受領者が第三者と合併する場合など、その地位が第三者に包括的に承継される場合
② データ提供者またはデータ受領者が、本契約上のまたは本契約に基づく権利義務を親会社、子会社または関連会社に譲渡する場合
本ガイドライン(データ利活用編)でも経産省ガイドライン同様、権利義務の譲渡禁止条項を入れた。これは主に、データの提供を受ける者が、データ提供者が意図しない相手方にデータの提供等や契約上の地位を移転しないようにすることを意図したものである。
ただし、(1)データ提供者またはデータ受領者が第三者と合併する場合など、その地位が第三者に包括的に承継される場合や(2)データ提供者またはデータ受領者が、本契約上のまたは本契約に基づく権利義務を親会社、子会社または関連会社に譲渡する場合など、企業再編に伴う契約上の地位の移転等まで制限する必要性はないと思われるので、これらの場合には、契約上の地位の譲渡等を許容することとした。なお、「本契約上の権利義務」とは、本契約上のデータ提供者としての地位や本契約に記載してある権利義務を意味し、「本契約に基づく権利義務」とは、本契約に基づいて収益が上がった場合の売上金の分配請求権などを意味する。
17 通知
第16条(通知)
1 データ提供者およびデータ受領者は1 名以上の主任担当者を指定し、その主任担当者の氏名、電話番号および/または電子メールアドレスを相手方に対して通知をするものとする。個人データ管理責任者を設置することとした場合には、データ受領者の主任担当者は、個人データ管理責任者を兼ねるものとする。データ提供者およびデータ受領者は、自らの主任担当者を変更する場合には、事前にその旨および新しい主任担当者の氏名、電話番号および/または電子メールアドレスを相手方に通知するものとする。
2 本契約に基づきデータ提供者またはデータ受領者が、相手方に対して通知が必要な場合には、相手方から別途書面で指定を受けた場合を除き、データ提供者またはデータ受領者の主任担当者から相手方の主任担当者の電子メールアドレス宛に電子メールを送付することにより通知すれば足りるものとする。ただし、本契約の解除通知は、書面により行うものとする。
3 本契約に基づきデータ提供者またはデータ受領者が相手方に対して同意または許諾を求める必要があるときにも、別途両当事者で合意がある場合を除き、データ受領者またはデータ提供者の主任担当者から相手方の主任担当者に対して、電子メールまたは書面で同意または許諾を求めるものとする。
(1) 主任担当者の指定
本ガイドライン(データ利活用編)では、まず主任担当者の選任を規定した。本契約の雛形では様々な場合に、相手方に対する通知を求める旨規定されているが、その場合に誰に通知すればよいのか、誰にいかなる方法で通知すれば当該通知の効果が生じるのかが特定されていないと、通知の有無について争いが生じる可能性がある。そこで、本ガイドライン(データ利活用編)ではまず各当事者に主任担当者を選任させるとともに、その主任担当者を相手方に通知させることとした。
個人データ管理責任者は、金融分野を除いて特段設置が求められてはいないので42、設置する必要がある機関ではない。しかしながら、個人データ保護の重要性に鑑みて設置する場合や監督機関の要請等によって設置する場合には、通知先もデータの管理に精通している個人データ管理者に対して行うことが適切な場合が多いと思われる。そこで、本ガイドライン(データ利活用編)では、
「データ受領者の主任担当者は、個人データ管理責任者を兼ねるものとする。」こととした。
(2) 通知
本ガイドライン(データ利活用編)では、本契約に基づき通知または承諾が必要な場合の通知方法および承諾の取得方法について特定することとした。なお、本ガイドライン(データ利活用編)では、電子メールで通知をし、または同意等を求めれば足りることとしているが、例えば解除通知など、電子メールでの送付が相応しくないと思われるものもある。したがって、本ガイドライン(データ利活用編)の雛形では解除通知については書面で行うこととした。
42 金融庁「金融分野における個人情報保護に関するガイドラインの安全管理措置等についての実務指針2-1」
18 存続条項
第17条(存続条項)
本契約に特段の規定がない限り、本契約終了後も、第3条第4項および第7項(提供データ等の利用許諾)、第4条第4項(対価・支払条件)、第5条第2項(提供データ等の非保証)、第6条
(責任の制限等)、第9条(データ漏えい等の場合の対応及び責任)、第11条(派生データ等の取扱)、第13条第6項および第7項(解除)、第14条(不可抗力免責)、本条、第18条(完全条項)、第19条(準拠法)、第20条(紛争解決)の各規定は有効に存続する。
(1)存続条項に関する基本的な考え方
契約は、その終了または解除によって効力を喪失する。したがって、本契約終了または解除後は、本契約の各条項も効力を失い、本契約の当事者を何ら拘束しないというのが原則である。
しかしながら、かかる原則は当事者の合意で覆すことが可能である。また民法上の規定を契約書で覆した場合(例えば民法で規定される責任の範囲より狭い範囲しか責任を負担しないことに合意した場合など)や契約解除後の効力を規定した条文を置いた場合には、それらの条文は契約終了または解除後も効力を生じることを規定しておくことが契約の解釈に関する争いを避けるという意味からも重要である。また、このような存続条項は同種の契約でも散見される条項であるし、経産省ガイドラインでもモデル条項として規定されている43。
したがって、本ガイドライン(データ利活用編)でもこのような観点から存続条項を入れた。なお、経産省ガイドラインでは、秘密保持条項も存続条項として入れているが、本ガイドライン(データ利活用編)では敢えて存続条項からは外した。これは、本ガイドライン(データ利活用編)のモデル条項では、秘密保持義務が本契約が終了した後も●年間存続する旨規定されているが、①秘密保持義務が「本契約終了後も存続する。」という規定とすると、この条項によって永久に存続するのではないかという誤解を生ずるおそれがあること、②モデル条項で、秘密保持義務が本契約が終了した後も●年間存続する旨規定されているのであれば、敢えて秘密保持条項を本条の中に入れ込むことは屋上屋を重ねることになることから、本ガイドライン(データ利活用編)のモデル契約では秘密保持条項を外している。ただし、本モデル条項では、存続条項に「本契約に特段の規定がない限り、」という文言が入っており、そのため「この条項によって永久に存続するのではないかという誤解」を生じてもそれが裁判所で認められる可能性は極めて低いといえるから、秘密保持条項を存続条項の中に入れ込んでも何ら差し支えないといえる。
(2)いかなる条項を存続することにするのか
これについては様々な考え方があり得るが、一般的には、①契約終了後も効力を有すると明記された条項、②民商法や知的財産権法の規定を、それらの法律が許容する範囲で契約書により変更させた条項(例えば、知的財産権の帰属を、創作者等ではなく、他の契約当事者に帰属させる旨規定された条項)、③解除後の効力について規定された条項、④準拠法や紛争解決などの一般条項などの効力を、契約終了または解除後も存続させる旨規定することが多い。
19 その他の一般規定
第18条(完全条項)
本契約は、提供データ等および派生データのデータ受領者またはデータ提供者に対する提供、利用およびそれに伴う責任範囲に関するデータ提供者およびデータ受領者間の完全なる合意を意味 し、本契約成立以前になされたこれに関する協議および合意のすべてにとって代わられるものとする。
第19条(準拠法)
本契約は、日本法を準拠法とし、日本法に基づいて解釈されるものとする。
第20条(紛争解決)
1 本契約に関し、データ提供者およびデータ受領者の間で意見または認識の食い違いその他の紛争が発生した場合には、データ提供者およびデータ受領者は、相手方の主任担当者に通知した上で、誠実に協議し、その解決に務めるものとする。
2 前項の規定にもかかわらず、協議により紛争を解決することができない場合には、データ提供者とデータ受領者は、東京地方裁判所を第一審の専属的管轄裁判所とすることに合意する。
(1) 完全条項について
契約の交渉中、契約当事者が最終的な契約文言と異なる内容を口頭または書面で合意し、その後そのような合意を踏まえて最終的な契約文言とすることが少なくない。しかしながら、そのような場合、しばしば一方当事者から、従前に合意した内容またはその趣旨からすれば、最終的な契約書の文言にもかかわらず、その文言とは異なった合意をする趣旨だったなどという主張がなされることがある。そのような主張は、少なからず時間と労力を使って契約文言を最終化し、かかる最終的な契約書文言により合意を最終化させようとする当事者の合理的意思に反するものであるが、一旦紛争になれば、裁判所等の紛争処理機関はそのような主張に合理性があるのかどうかを一応調べなければならず、このような完全条項がない場合、その紛争処理に無駄な労力と時間を要することにもなり兼ねない。したがって、本ガイドライン(データ利活用編)でもそのような無用な紛争を避けるために、完全条項(完全合意条項ということもある)を置くこととした。
(2) 準拠法について
日本企業同士の国内で実施されるデータ提供契約であれば、特段の合意がなくても契約の準拠法は日本法となるであろうから、特段準拠法を定める必要性はないともいえる。しかしながら、海外企業との取引において、日本法を準拠法とする合意をしておけば、その規定は多くの国で有効と解されており、日本法に基づき本契約が解釈されることになるから、日本の弁護士に依頼することでき、コミュニケーションの負担がなく、紛争の結論の見通しがつきやすくなるというメリットがある44。
したがって、海外の当事者との間でデータ提供契約を締結する場合には、このような準拠法の規定を入れておくことが望ましい。
44 経産省ガイドライン39頁
(3) 紛争解決条項について
本契約雛形では、東京地方裁判所をのみに訴えの提起ができるような定めとした。これを専属的合意管轄の定めといい、多くの契約ではこのような規定がなされている。しかしながら、この管轄裁判所がもっぱらデータ受領者側の所在地であり、データ提供者の所在地ではない場合には、例えば、データ提供者が訴えられる場合に、データ提供者は訴訟遂行のために東京に来ることを余儀なくされたりするなど、データ提供者が不利益を被ることもある。したがって、このような専属的合意管轄裁判所の定めをする場合には、データ提供者に著しく不利になることがないような配慮がなされることが必要である。なお、このような専属的合意管轄裁判所の定めがない場合には、民事訴訟法に別段の管轄の定め45がない限り、訴えられる当事者の所在地を管轄する地方裁判所において訴えを提起することが可能となる(民事訴訟法第4条第1項)。したがって、例えば、データ提供者が大阪府に所在し、データ受領者が東京都港区に所在する場合で、データ提供者が、データ受領者を訴える場合には、東京地方裁判所がその訴えに対する管轄を有することになる。
専属的合意管轄裁判所の定めをする場合、雛形のように、契約書等の書面にて、①裁判所名を特定すること、②専属的合意管轄裁判所であることの2つを規定することが必要である。
また、海外の当事者との間で契約を締結する場合にも、我が国に所在する裁判所を専属的合意管轄裁判所とする合意は有効である(民事訴訟法第3条の7)。したがってそのような合意をすれば、日本の裁判所で紛争解決をすることができ、海外で訴訟を遂行する手間と費用を回避することができるというメリットがある。
ただ、海外企業に対して日本の裁判所で裁判を提起して勝訴判決を得ても、当該海外企業の所在地を管轄する裁判所において、我が国の判決の執行が許されないことがある(例えば中国など)。したがって、このような事態をさけるために、国際仲裁という制度を用いることがある。仲裁を用いれば、ニューヨーク条約加盟国46においては、原則として仲裁判断は執行が可能である。なお、紛争解決手段をこのような国際仲裁に付すには、「仲裁合意」が必要である。我が国の仲裁法によれば、「仲裁合意」とは、「既に生じた民事上の紛争または将来において生ずる一定の法律関係(契約に基づくものであるかどうかを問わない。)に関する民事上の紛争の全部または一部の解決を一人または二人以上の仲裁人にゆだね、かつその判断(以下「仲裁判断」という。)に服する旨の合意をいう。」とされている(仲裁法第2条第1 項)。そして、仲裁合意は、「当事者の全部が署名した文書、当事者が交換した書簡または電報(ファクシミリ装置その他の隔地者間の通信手段で文字による通信内容の記録が受信者に提供されるものを用いて送信されたものを含む。)その他の書面によってしなければならない。」とされ(仲裁法第13条第2項)、契約書に仲裁条項がある場合や電子メールによって仲裁合意がなされた場合も、有効な仲裁合意とされている(仲裁法第13条第3項および第4項)。また、仮に本契約が何らかの理由によりその全部または一部が無効とされた場合も、仲裁条項により合意された仲裁合意は、「当然にはその効力を妨げられない。」とされている。日本商事仲裁協会のホームページに記載されている仲裁条項の例は、「この契約からもしくはこの契約に関連して、当事者の間に生ずることがあるすべての紛争、論争もしくは意見の相違は、日本商事仲裁協会の商事仲裁手続きにしたがって、(都市名―例、日本国東京都)において仲裁により最終的に解決されるものとする。」とされている。このように、仲裁合意を起案する際
45 民事訴訟法第5条から第7条
46 一般社団法人日本国際仲裁協会の資料によれば、2014年1月31日現在で140カ国以上が加盟をしている。
には、①いかなる紛争が仲裁の対象となされるのか(上記の例でいえば「この契約からもしくはこの契約に関連して、当事者の間に生ずることがあるすべての紛争、論争もしくは意見の相違は、」の部分がこれに該当する)、②いかなる仲裁ルールに従うこととするのか(上記の例でいえば、「日本商事仲裁協会の商事仲裁手続きにしたがって、」の部分がこれに該当する)、③どこを仲裁の管轄地とするのか(上記の例でいえば、都市名の記載部分がこれに該当する)、④仲裁による解決が最終的なものであること(上記の例でいえば、「仲裁により最終的に解決されるものとする。」の部分がこれに該当する)の各記載をしなければならない。また、このほか、仲裁合意に、①仲裁人の数(1名または3名)、②仲裁人の選任方法、③仲裁言語(いかなる言語で仲裁を行うか)などを入れることもある。仲裁の場合のモデル文案は、次のとおりである。
2 前項の規定にもかかわらず、協議により紛争を解決することができない場合には、データ提供者とデータ受領者は、この契約からもしくはこの契約に関連して、当事者の間に生ずることがあるすべての紛争、論争もしくは意見の相違を、日本商事仲裁協会の商事仲裁手続きにしたがって、日本国東京都を仲裁地として、仲裁により最終的に解決することに合意する。仲裁人は3名とし、仲裁言語は日本語とする。
仲裁合意がある場合、合意をした当事者から訴訟を提起されても、被告側(訴えられた側)で、仲裁合意の存在を主張立証して、訴えの却下を申し立てれば、訴えは却下される(仲裁法第14条第1 項)。したがって、仲裁合意をすれば、裁判で紛争解決をすることができないので、その点は留意が必要である。
また、まれに仲裁と裁判所のいずれも選択できるかのような紛争解決条項をみかけることがある。しかしながら、そのような条項は「仲裁人の判断に服する旨の合意」(仲裁法第2条第1 項)とは言えない。したがって、我が国の仲裁法上は「仲裁合意」とは認められず、別途当事者間で書面等による合意をするか、仲裁手続中の主張書面の記載によって「仲裁合意が書面によってなされたもの」とみなされるなどしない限り(仲裁法第13条第5項)、紛争を仲裁に付することはできなくなるので、この点も注意が必要である。
第5 「データ創出型」契約のモデル契約書案
1.「データ創出型」契約の意義
本ガイドライン(データ利活用編)において【データ創出型】とは、複数当事者が関与することにより、従前存在しなかったデータが新たに創出される場面において、当該データの創出に関与した当事者間で、データの利用権限について取り決めるための契約である。例えば、農業データITサービスベンダが、熟練農業者にウェアラブル端末を装着してもらい、当該端末についているセンサから、その作業と判断に関する「暗黙知」の情報を農業データITサービスベンダに提供してもらい、農業データITサービスベンダが、当該「暗黙知」の情報を集積し分析して、当該熟練農業者の「暗黙知」を一定の「形式知」として誰でもが理解できる形に変換されたノウハウとして加工した場合には、熟練農業者と農業データITサービスベンダはいずれも新しく当該「形式知」を創出させた当事者である。そして、この当事者間で、熟練農業者の「暗黙知」をどの範囲で利用することができるのか、「形式知」をいかなる条件で利用することができるのかを定める場合が、この契約の類型となる。
【データ提供型】と【データ創出型】の一番の違いは、取引の対象となるデータや情報等が、(1)契約締結前からデータ提供者のみが保持していたと言えるのか(これに該当する場合には、【データ提供型】となる)、それとも(2)契約締結により行われた共同作業によって創出、取得または収集されたものなのか(これに該当する場合には、【データ創出型】となる)という点である。したがって、前述の例のように、農業従事者とIT サービスベンダとの間でプロジェクトが計画され、当該プロジェクトの一環として、農業関係者側にセンサ等をつけることによって、データ受領側が当該センサからデータや画像等を取得するような場合には、この【データ創出型】の契約類型となる。
【データ創出型】に関するガイドラインでは、【データ提供型】で述べたところで【データ創出型】にも該当する項目については可能な限り説明の重複を避け、【データ創出型】に特有の問題または【データ提供型】と共通の問題ではあるが別個の説明を加えるべき点について、解説をすることとする。
2.「データ創出型」契約における課題
① 適切な利用権限の調整
「データ創出型」契約における課題として、経産省ガイドラインは、「①データ創出に複数の当事者が関与するが、利用権限の調整ルールが明確ではないこと」を挙げる47。例えば、農業関係者がウェアラブル端末から発する「当初データ等」について言えば、いかなるセンサをどこに設置するのか、いかなるデータを取得するのが「派生データ」を価値あるものとするために効果的なのか
(データの種類や項目)等について立案・計画した「データ受領者」の貢献度は大きい。他方、当該「当初データ等」については、農業関係者独自の視点や判断が含まれていることも少なくなく、この点を無視することはできない。また「データ提供型」契約のガイドラインでも再三指摘したとおり、農業データの提供を受ける際には、農業関係者が安心して当該データを提供することができ
47 経産省ガイドライン51頁
るような建付けを構築することが必要であり、単に「当初データ等」や「派生データ」の創出や取得に対する貢献度の大小のみで利用権限の有無を決するというアプローチも好ましくない。したがって、本ガイドライン(データ利活用編)ではこのような観点から、適切な利用権限や収益の配分について検討をすることとする。
なお、本項では、データ提供者とデータ受領者のみの契約関係の考察にとどめることとする。実際のサービスとしては、データ受領者からの委託により第三者であるデータの加工・分析を行う事業者も存在すると考えられるが、第三者の存在まで含めると契約関係が複雑になり、読者の理解をかえって阻害するおそれがあると考えられる。第三者との関係でもデータのやり取りは当然存在し、当該データを元に作成された派生データの利用権限や利用サービスの権利の帰属などの問題は存在するが、これらについては本ガイドライン(データ利活用編)が公表され、その考え方に関する議論がある程度落ち着いたところで、必要に応じ、別途検討し作成することとする。なお、より具体的な事例を交えた解説は第6・2・(1)を参照いただきたい。
② 個人情報およびプライバシー権に対する配慮
また、経産省ガイドラインも指摘するとおり、提供される「当初データ等」の中には、個人情報または個人データが含まれることがある48。この点に関する留意点については、既に【データ提供型】でも述べているが、提供される「当初データ等」の中には、個人情報または個人データが含まれる場合には、「データ受領者」は、利用目的の特定およびその通知、公表等、個人情報保護法上求められる対応をする必要があることに留意すべきである。また、「派生データ」の作成に際しては、可能な限り個人情報または個人データを「匿名化」するなどして、個人情報の保護に配慮しつつ、「派生データ」の利活用の幅を拡大することができるように心がけることが適切である。
3 定義規定
第1条(定義)
本契約において、次に掲げる語は次の定義による。
① 「本件事業」とは、「データ受領者」と「データ提供者」の間で行われる事業をいい、その概略は別紙1に記載のとおりとする。
② 「当初データ等」とは、「本件事業」に基づいて、「データ受領者」が「データ提供者」から受領する情報、データおよび/または画像で別紙2で特定されたものをいう。
③ 「本目的」とは、●をいう。
④ 「加工等」とは、「当初データ等」を加工、分析、編集、統合等することをいい、「派生データ」とは、「当初データ等」を「加工等」することによって新たに生じたデータまたはデータ群をいう。
⑤ 「売上金額」とは、データ受領者が、「派生データ」を第三者に提供することによって、当該第三者からデータ受領者が受領した金額をいう。
⑥ 「個人情報等」とは、個人情報の保護に関する法律に定める個人情報、個人データおよび匿名加工情報を総称したものをいう。
(1)当初データ等の定義
経産省ガイドラインは【データ創出型】契約のモデル契約書案において「対象データ」という用語を用い、その定義を「本件事業に基づいて、創出、取得または収集されたデータをいう。」としている49。同ガイドラインは、「対象データ」の創出、取得または収集には、農業関係者である「データ提供者」側もITベンダ等である「データ受領者」側も寄与していると評価できることから、敢えてその主体と特定しないような定義をしたものと思われる。
他方、そのような理解にたつと、経産省ガイドラインの定義では、「対象データ」が「派生データ」を含むのかどうかについて、定義自体からは必ずしも明確とはならないと思われる。何故なら、
「創出、取得または収集」の主体を「データ受領者」と解すると、「本件事業に基づいて、創出、取得または収集されたデータ」の中には、派生データも含まれると解釈することができる余地があるからである。したがって、「対象データ」の創出、取得または収集にいずれの当事者も関与していると評価できるのであれば、当該データの取得経過については敢えて記載しないことにし、文言からして、「派生データ」との違いを鮮明にするアプローチのほうが農業関係者にはわかり易いのではないかとも思われる。
また、経産省ガイドラインを見る限り「対象データ」は、「派生データ」を含む概念として利用されている可能性がある。しかしながら、データ提供者が、「本件事業」のために提供したデータについては、「派生データ」と異なった取扱をすべき場面が想定されるので、そのような場面に適切に対応するためには、データ提供者が、「本件事業」のために提供したデータについて特段の定義をすることが適切であると言える。
そこで本ガイドライン(データ利活用編)では、その通常の意味から「派生データ」とは明確に区別できるよう、「本件事業」に基づいて、「データ受領者」が「データ提供者」から受領する情報、データおよび/または画像を総称して「当初データ等」と定義することとした。また、本類型
では主にウェアラブル端末その他の機械やセンサ等を通じて取得される情報等が念頭におかれており、したがって、データ提供型の場合と異なり、データ提供者が無意識に提供する情報等が主なものになると思われることから、「当初データ等」の定義は、提供にフォーカスするのではなく、受領にフォーカスするような定義とした。なお、「データ受領者」が受領するものの中には、データのみならず、データ化されていない情報や画像も含まれることは、データ提供型契約の場合と同様である。
(2)当初データ等の特定
経産省ガイドラインは、「データには明瞭な外縁がないため、対象データの範囲を明確に定めることは一般的に容易ではない。必要に応じて、サンプルデータ等を分かりやすい形式で掲載する等して、可能な限り「対象データ」の範囲を特定することが望ましい。」としている50。特にデータ提供者がデータ受領者に提供するデータの中に、①「取引の対象となるデータを一方当事者(データ提供者)のみが保持しているという事実状態について契約当事者間で争いがない」データ(データ提供型契約の対象とすべきデータ)と、当該データの「創出、取得または収集」に対してデータ提供者およびデータ受領者のいずれの寄与も認められるようなデータ(データ創出型契約の対象とすべきデータ)のいずれも含まれている場合や、②データ受領者が複数のデータ提供者から「当初データ等」を取得するような場合には、提供される「当初データ等」の範囲が特定できていないと、データ提供者側で、データ受領者側が保持するいかなるデータに対して契約上の主張をすることができるのか定かではなくなる。またこの場合、データ受領者側が保持する当該データにどの契約が適用となるのかも定かではなくなる可能性がある。この点経産省ガイドラインは、「たとえば、対象データを収集する「センサ等」および当該センサ等を設置する「機器等」について別途定義を定め、当該センサ等が当該機器等から取得したデータを対象データとする等と定める方法を取ることが考えられる。」としているが、農業データに関しても、例えば、データ受領者が、データ提供者である農業者等にウェアラブル端末を装着してもらい、かかる端末から送信されるデータや画像が
「当初データ等」となる場合には、「データ受領者がデータ提供者に提供される別紙に定める各機器を通じて、本契約期間中、創出、取得または撮影され、データ受領者に自動的にまたはデータ受領者が設定したアルゴリズムに基づき都度送信される全てのデータおよび画像」などと特定することができる。そして、この場合データ受領者側は、特定の農業関係者から取得したデータをその取得時期、取得センサ等の機器等から特定することになる。
4 当初データ等の取得
第2条(当初データ等の取得)
1 データ受領者は、別紙3に記載の手法、その他データ提供者との間で合意した方法により、当初データ等を取得するものとし、偽りその他不正の手段により当初データ等を取得してはならない。
2 データ受領者は、個人情報等を含んだ当初データ等をデータ提供者から取得する場合および個人情報等を含んだ派生データをデータ提供者に対して提供する場合には、その旨および取得または提供する個人情報の項目について、予めデータ提供者に通知する。なおデータ受領者は、データ提供者から取得した個人情報等を含んだ当初データ等については、個人情報保護法を遵守した取扱をし、かつ個人情報等の管理に必要な措置を講ずるものとする。
3 前項に基づき、データ受領者から個人情報等を含んだ派生データの提供を受ける旨の通知を受けたデータ提供者は、派生データの取得に際し、個人情報保護法を遵守し、個人情報等の管理に必要な措置を講ずるものとする。
4 当初データ等の中に第三者の知見、実験、発見、農作業その他の活動によって取得されたデータ(以下「第三者提供データ」という。)がある場合には、データ提供者は、当該第三者から第三者提供データを本契約に基づき処分をする権限を付与されていることを、データ受領者に対して表明し、保証する。
(1)当初データ等の取得に関する規定
経産省ガイドラインでは同種の条項は入れられなかったが、本ガイドライン(データ利活用編)では、当初データ等の取得に関する規定を入れることとした。農業データITサービスベンダからウェアラブル端末の装着を依頼され、当該端末からのデータ取得に協力を求められる農業関係者は、農業データITサービスベンダからいかなるデータが取得されるのかの説明を受ける場合が多いと思われるが、ITに疎い農業関係者の場合、実際のところいかなるデータがどのようにして取得されているのかを真に把握することは困難である。そして、農業関係者は、いかなる当初データ等がどのような方法によって取得されるのかが分からなければ、安易にデータの取得に協力することもできない可能性がある。
したがって、本契約の雛形では、取得する当初データ等の項目と方法について、契約書で特定するとともに、データ受領者が、データ提供者に開示していない方法で、その他不正な手段で当初データ等を取得するなどができないようにした。
(2)当初データ等に個人情報が含まれている場合
また、当初データ等に個人情報等(個人データ等を含む。)が含まれている場合には、データ受領者側で、個人情報保護法に則ったデータの取得および管理措置をとることが必要となる。個人情報保護法によれば、①個人情報取扱事業者は、本人(データ提供者)との間で契約を締結することに伴って契約書その他の書面(電磁的記録を含む。以下この項において同じ。)に記載された当該本人の個人情報を取得する場合その他本人から直接書面に記載された当該本人の個人情報を取得する場合は、あらかじめ、本人に対し、その利用目的を明示しなければならない。」とされている(個人情報保護法第18条第2項)。また、同法第17条は、「個人情報取扱事業者は、偽りその他不
正の手段により個人情報を取得してはならない。」とされている。その他、データ内容の正確性の確保等(同法第19条)や適切な安全管理措置を講ずること(同法第20条)なども求められており、データ受領者はこれらの義務を遵守しなければならないこととなる。
なお、経産省ガイドラインにおける雛形では、「個人情報の取扱」という個別の条文をたてて、自らが提供するデータに個人情報等が含まれる場合には、相手方に対してその旨明示する等の規定が用意されている51。しかしながら、データ受領者が、データ提供者である農業者等にウェアラブル端末を装着してもらい、かかる端末から送信されるデータや画像が「当初データ等」となる場合には、データ提供者は、いかなるデータがデータ受領者に送信されるのかを事実上コントロールすることができないことがある(例えば、ウェアラブル端末を装着して提供データ等を提供する熟練農業者は、当該ウェアラブル端末等によって、自分の個人情報が取得されているのかどうかを認識すらしていないことがあり得る)。そして、この場合かかる「当初データ等」の項目をコントロールしているのは、通常データ受領者である。したがって、この場合に、データ提供者(農業関係者)側に、個人情報の明示を求めることは少なくとも適切ではない。したがって、本ガイドライン(データ利活用編)では、この規定を採用せず、その他の経産省ガイドラインの規定については、本条に入れ込む形とした。
(3)当初データ等の中に第三者の知見、実験、発見、農作業その他の活動によって取得されたデータがある場合の措置
【データ提供型】のところでも示したとおり、【データ創出型】においても、当初データ等の中に第三者の知見、実験、発見、農作業その他の活動によって取得されたデータがある場合があり得る。したがって、そのような場合に備えて、この契約書雛形でも、データ提供者は、当該第三者から第三者提供データを本契約に基づき処分をする権限を付与されていることを、データ受領者に対して表明保証することとした。なお、この場合も、データ提供者が農業者個人であって、ウェアラブル端末等を装着する主体である場合には、この規定(本条第4項)は不要である。
51 経産省ガイドライン124頁
5 当初データ等の利用権限等
第3条(当初データ等の利用権限等)
1 当初データ等に関する各自の利用権限は、別紙4に定めるとおりとする。
2 データ提供者が、当初データ等の利用を望む場合には、別途両当事者で定める申込書式に必要事項を記入の上、データ受領者に申請をするものとする。データ受領者は、その利用が利用権限を逸脱しているなど特段の事情がない限り、データ提供者に対して、申請された当初データ等を提供しなければならない。ただし、データ提供者に対する当初データ等の提供に費用を要する場合には、データ受領者は別途定める手数料をデータ提供者に請求することができる。
3 データ提供者およびデータ受領者は、別紙4に定める利用権限を超えて、当初データ等を利用および/または処分してはならない。
4 データ受領者は、データ提供者の書面による承諾がない限り、当初データ等を第三者(データ受領者が法人である場合、その子会社、関連会社も第三者に含まれる。)に開示、提供、利用許諾または漏えいしてはならない。
5 当初データ等に関してデータ提供者が創出した知的財産権(データベースの著作物に関する権利を含むが、これらに限らない)がある場合には、当該知的財産権はデータ提供者に帰属する。ただし、当初データ等のうち、第三者に知的財産権が帰属するものはこの限りではない。
(1)当初データ等の利用権限
当初データ等の利用権限は、「必ずしもそのデータそれ自体の交換価値のみに紐づくものではなく、そのデータの創出に対する寄与度や知見等にも紐づくものである」という考えは、データ創出型契約が想定する「当初データ等」にもあてはまるものである。例えば、農業データITサービスベンダが、熟練農業者にウェアラブル端末を装着してもらい、当該端末についているセンサから、その作業と判断に関する「暗黙知」の情報(これが「当初データ等」に該当する)を農業データI Tサービスベンダに提供してもらい、農業データITサービスベンダが、当該「暗黙知」の情報を集積し分析して、当該熟練農業者の「暗黙知」を一定の「形式知」として誰もが理解できる形に変換されたノウハウとして加工する場合を念頭に置くと、「当初データ等」には、特定の農作業、農産物等に関して、熟練農業者がその知識、経験または実験等に基づき、意識的または無意識的に選択、取得、発見、発明等した内容、画像およびデータが含まれることが多い。他方、当該「当初データ等」の取得のために、データ受領者は、当該データ取得計画を立案し、ウェアラブル端末およびそれに紐づくコンピュータシステムおよびデータベースを準備するとともに、いかなる情報やデータを、いかなるタイミングやスパンで取得するのか等を自らの知見に基づき取捨選択するのが通常である。
したがって、このような現実を直視すると、当初データ等の利用は、特段の事情がない限り、データ提供者にも許容されるという形が穏当であると思われる52。もちろん、当事者間で別段の合意をすることは何ら差し支えない。
52この例外としては、「当初データ等」の創出に「データ提供者」の知見が何ら寄与していない場合(例えば、特段熟練
の知見を有しているわけではない農業者がトラクタを運転することによって、農機メーカーが取得することとなるデータなど)が考えられる。しかしながら、実務上はかかる判断(「当初データ等」の創出に「データ提供者」の知見が何ら寄与していないかどうかの判断)は必ずしも容易ではないこと(特に、農業関係者にかかる判断をさせることは困難である)、
「データ受領者」である企業に無条件にかかる主張を許すと、法律に明るくない「データ提供者」である個人の農業者等
そして、当初データ等の利用については、データ提供契約における派生データの取扱と同様、以下のいずれかの考え方があり得る。
目的による制限 | 自己利用 | 第三者への提供/利用許諾 |
あり/なし | 自由 | 自由 |
あり/なし | 自由 | 制限 |
― | 制限 | 制限 |
① 利用目的による制限
まず、「当初データ等」のデータ提供者(農業関係者)の立場からすれば、その知識、経験または実験等に基づき、意識的または無意識的に選択、取得、発見、発明等した内容、画像およびデータが含まれる「当初データ等」の利用を、データ受領者が設定した目的の範囲に限定されることに対しては抵抗感が強いのではないかと思われる。さらに農業関係者としては、「当初データ等」は、いまだ「暗黙知」の段階ではあるものの、自らの長年の知見やノウハウが含まれていると認識しているのが通常であり、特定の利用目的を超えた自由な利用をデータ受領者(プロジェクト・マネジャー)に許諾するということにも抵抗感が強いのではないかと思われる。他方、データ受領者(プロジェクト・マネジャー)側としては、自らが設定したプロジェクトの目的の範囲で、当初データ等を利用すること(この中には派生データの作成および利用目的が含まれる)については抵抗感はないか、極めて少ないものと思われる。
利用目的の記載の仕方はケース・バイ・ケースであるが、例えば「●地域の農業の発展と生産性向上」などという狭い目的設定の方法もあるし、「農業またはこれに関連する事業全体の発展に寄与する研究開発および実証実験、データ提供者が運営する農業関連事業の生産性向上のための分析等(当初データ等の加工等を含む。)」などという広い目的設定の方法もある。前者の目的を設定した場合、特定の地域内で当初データ等を共有することは想定されているが、それ以外の地域の農業関係者と当初データ等の共有をすることは想定されていない。
なお、農業関係者側の了解が得られれば、利用目的の範囲を広げたり、あるいはデータ受領者側に利用目的の制限をかけないような「当初データ等」の利用権限の設定も可能である。
② 自己利用
これについては特段制限する理由はないと思われる。ただし、データのコンタミネーションを避けるために、データ受領者(プロジェクト・マネジャー)側がデータ提供者に対して、「当初データ等」に対して無断で加工等をすることを控えるよう要望することがある。この場合には、データ受領者側からデータ提供者側に適切な説明をした上、協議によりデータ提供者側の「当初データ等」に対する無断での加工等を制限することも可能である。
が萎縮をしてデータの提供をためらうなどのケースが想定されるので、この特段の事情については慎重に判断することが望まれる。
③ 第三者への提供/利用許諾
これについてはいずれの当事者にも抵抗感があるものと思われる。農業関係者としては、自ら長年に亘って積み重ねてきた知見やノウハウが無限定に流出することになってしまう懸念があるし、他方、データ受領者(プロジェクト・マネジャー)としても、当初データ等の取得方法やその選択等に自らの知見やノウハウが反映されていることが多いのであるから、これらがデータ提供者による当初データ等の譲渡やライセンスによって外部に流出してしまうこととなると、プロジェクトの価値を毀損することになる懸念があるからである。
したがって、以上をまとめると、当初データ等の利用権限に対する制限は、概ね以下の考え方がスタンダードになるものと思われる。
契約当事者 | 目的による制限 | 自己利用 | 第三者への提供(譲渡 またはライセンス) |
データ提供者 (農業関係者) | なし | 自由 | 制限 |
データ受領者 (ITベンダ/プロジェクト・マネジャー) | あり | 自由 (ただし、利用目的の範囲内に限る) | 制限 |
その他、利用の場所や期間等によって制限をすることも可能である。そして、これらを総合的に考慮すると、別紙4の記載例としては、次のとおりとなる。
別紙4 当初データ等およびその利用権限
データの概要 | データ項目 | 取得対象期間 | データ提供者の利用権限 | データ受領者の利用権限 |
データ受領者が | 機器名を特定し | [本契約の有効 | 自己利用するこ | 本目的の範囲で |
データ提供者に | た上で、当該機 | 期間中]に取得 | とに限る(ただ | 自己利用するこ |
提供される別紙 | 器で取得できる | されたもの | し、本目的の制 | とに限る(加工 |
1に定める各機 | データおよび情 | 限はなし)。デ | 等を含む。)。 | |
器を通じて、取 | 報の項目を記載 | ータ受領者によ | データ提供者に | |
得または撮影さ | する。 | る事前の書面に | よる事前の書面 | |
れ、データ受領 | よる承諾なく、 | による承諾な | ||
者に自動的に送 | 当初データ等を | く、当初データ | ||
信される全ての | 第三者に譲渡ま | 等を第三者に譲 | ||
データおよび画 | たは利用許諾し | 渡または利用許 | ||
像 | てはならない。 | 諾してはならな | ||
い。 |
なお、「派生データ」の利用権限の考え方や利用権限の範囲については必ずしも「当初データ等」と一致しないので、この点については後述する。
(2)「当初データ等」に対するデータ提供者のアクセス権について
本ガイドライン(データ利活用編)は、当初データ等の利用は、特段の事情がない限り、データ提供者にも許容されるという立場をとっているが、これはデータ受領者が、「当初データ等」を保管または管理しているデータベースに、データ提供者のアクセス権(当該データベースにデータ受領者の許可がなくてもアクセスでき、またはアクセスすることをデータ受領者に求めることができる権利)を付与するものではない。データ受領者は、自らのデータベースで「当初データ等」以外のデータも保管・管理していることがあるし、その中には、データ受領者の営業秘密が含まれていることもある。また、データ受領者は、当該データベースに適切なセキュリティ(完全管理措置)を施していることが通常であるが、外部者であるデータ提供者に、当該データベースへの自由なアクセスを許諾することは、セキュリティ上問題となる可能性もある。
したがって、本ガイドライン(データ利活用編)では、データ提供者に対する当初データ等に対するアクセス権は認めないものの、データ提供者に「当初データ等」の利用権限が留保されているという状況に鑑み、データ提供者が、当初データ等の利用を望む場合には、別途両当事者で定める申込書式に必要事項を記入の上、データ受領者に申請をさせることとし、データ受領者は、その利用が利用権限を逸脱しているなど特段の事情がない限り、データ提供者に対して、申請された当初データ等を提供しなければならないこととした。なお、この場合、データ受領者側において当初データ等を媒体に複製するなどの場合には実費等がかかる場合があり、それをデータ受領者に負担させるのは必ずしも適切ではないので、「ただし、データ提供者に対する当初データ等の提供に費用を要する場合には、データ受領者は別途定める手数料をデータ提供者に請求することができる。」とした。
(3)データ提供者による利用停止措置
データ提供型契約では、データ提供者のみが「当初データ等」の利用権限を有するという前提に立って、データ提供者による提供データ等の利用停止措置を規定した。しかしながら、データ創出型契約においては、「当初データ等」の創出にデータ受領者も大きく寄与しているのがむしろ通常であり、したがって、データ受領者も「当初データ等」の利用権限を有すると解するのが自然であると思われる。そして、そうだとすると、「当初データ等」に関する限り、データ提供者による一方的な利用停止措置を認めることは適切ではないと言える。また、農業データを念頭に置く限り、データ創出型契約における「派生データ」は、契約当事者以外の第三者に対する利用が想定されている場合が少なくなく、したがって、派生データの利用を不合理に制限するような規定を置くことは契約の目的を害する可能性さえある。
したがって、データ創出型契約においては、データ提供者によるデータ利用停止措置の規定は置かないこととした。
なお、上述のとおり、データ提供者もデータ受領者も当初データ等の利用権限を有することと整理したところであるが、文部科学省「さくらツール」が指摘する共有帰属に係る問題意識については、第4・12・(3)を参照すること。
6 派生データの利用権限等
第4条(派生データの利用権限等)
1 本契約で別段の規定がある場合および当事者間で別途合意をした場合を除き、派生データに関する各自の利用権限は、別紙5に定めるとおりとする。
2 データ提供者が、派生データの利用を望む場合には、別途両当事者で定める申込書式に必要事項を記入の上、データ受領者に申請をするものとする。データ受領者は、その利用が利用権限を逸脱しているなど特段の事情がない限り、データ提供者に対して、申請された派生データを提供しなければならない。ただし、データ提供者に対する派生データの提供に費用を要する場合には、データ受領者は別途定める手数料をデータ提供者に請求することができる。
3 データ提供者およびデータ受領者は、別紙5に定める利用権限を超えて、派生データを利用、開示、譲渡、利用許諾および/または処分してはならない。
4 データ提供者は、本契約で明示的に規定されるものを除き、派生データについて、データ受領者の承諾なく、その内容の訂正、追加または削除を行うことのできる権限を有しない。
5 派生データの作成または利用に基づき生じた知的財産権(データベースの著作物に関する権利を含むが、これらに限らない。以下本条において同じ。)は、本契約で別段の規定がある場合および当事者間で別途合意をした場合を除き、データ提供者とデータ受領者の共有とする。この場合において、当該知的財産権の創出に出願作業が必要な場合には、データ提供者とデータ受領者が共同で当該出願作業を行うか、相手方当事者の同意を得て、一方当事者が単独で行うものとする。
6 本契約で別段の規定がある場合および当事者間で別途合意をした結果、派生データの利用権限をデータ受領者のみに帰属させる場合には、派生データの作成または利用に基づき生じた知的財産権は、データ受領者のみに帰属する。
7 前2項の規定は、派生データに関する知的財産権が第三者に帰属する場合には、適用がないものとする。
(1)派生データの利用権限に関する考え方
経産省ガイドラインは、「派生データに対する利用権限を設定する際には、①分析の対象となる生データの創出に対する各当事者の寄与度(コスト負担、機器の所有権、センサ等の設置方法の策定やデータの継続的創出のためのモニタリングの主体はどちらか)、②データの加工等にかかる労力および必要となる専門知識の重要性、③派生データの利用により、当事者が受けるリスク等が考慮要素となる。」としている53。そして、この点は農業データであっても何ら代わりはない。
ところで、経産省ガイドラインは、「どのような派生データが創出され、どのような経済的価値が生じるのかは、契約の締結時点において予測できないことも少なくない」ことから、案1として、派生データの利用権限を加工等の対象となった当初データ等の利用権限に準じるという方法を採用している54。
派生データに対する利用権限を設定する際の考慮要素として、前記①から③の考慮要素を検討すべきという考え方に立てば、「派生データ」と「当初データ等」の利用を同じとする考え方は理解
53 経産省ガイドライン56頁
54 経産省ガイドライン122頁および123頁
し易い。何故なら、「派生データ」生成にあたり「当初データ等」に加えられる付加価値により、
「当初データ等」に対するデータ提供者の利用権限がなくなるわけではなく、その点は「派生データ」の利用権限にも引き継がれるべきだからである。したがって、当事者に特段の合意がない限り、
「派生データ」を生成する際に生み出された付加価値によって、「派生データ」の利用権限をデータ受領者のみが有することになるという考え方は適切ではないと考えられる。この考え方は「当初データ等」の提供に対する農業関係者のセンシティビティによってもサポートされる。
しかしながら、データ提供者のみが「当初データ等」の利用権限を有するという考え方を採用した場合に、「派生データの利用権限を加工等の対象となった当初データ等の利用権限に準じるという方法を採用」する場合には、不都合な結果を生むことがある。何故なら、この場合派生データの利用権限は当初データ等と同様、データ提供者のみが有することになるが、この場合には「②データの加工等にかかる労力および必要となる専門知識の重要性」その他のデータ受領者の貢献度がまったく評価されなくなるからである。確かに、「加工等」といっても様々な態様があるが、少なくとも「当初データ等」をデータベース化し、それを基に何らかの分析や統計データが作られる限りにおいて、「派生データ」を生成するデータ受領者が「派生データ」の利用権限を有するという状況は確保されてしかるべきである。
なお、理屈上「当初データ等」の利用権限をデータ受領者のみが有することとすることは不可能ではないが「農業関係者が安心して当該データを提供することができるような建付けを構築する」という観点からすれば、かかる考え方をデフォルト(基本)とすることも妥当ではなく、「当初データ等」の利用権限は一定程度データ提供者に留保されるべきである。
したがって、以上のような考え方を前提として、本ガイドライン(データ利活用編)では、当事者が別途合意するなど特段の事情がない限り、「派生データ」に関する各自の利用権限を契約書の中で調整するアプローチを採用した。
(2)派生データに関する各自の利用権限
派生データに関する各自の利用権限も、当初データ等の利用権限と同様、以下のいずれかの考え方があり得る。
派生データの帰属およ びそれぞれの考え方 | 目的による制限 | 自己利用 | 第三者への提供(譲渡 またはライセンス) |
共有 | あり/なし | 自由 | 自由 |
あり/なし | 自由 | 制限 | |
― | 制限 | 制限 |
① 利用目的による制限
派生データについては、いずれの当事者に対しても認めるという考え方も、いずれの当事者に対しても利用目的の制限なく利用させるという考え方もあり得る。まず、農業関係者(データ提供者)からすれば、派生データは、自らが提供した「当初データ等」から派生したものではあるが、そこにデータ受領者の一定の知見や貢献等が加わって新たに創出されたデータであるから、データ受領者の意向を無視してまで、自由に使わせるべきだという考え方にはならない。他方、データ受領者からしても、確かに派生データは自らの知見や貢献等によって創出されたデータではあるが、その
根底には農業関係者(データ提供者)の「当初データ等」またはそれに含まれている知見やノウハウ等が存在するのであるから、データ提供者の意向を無視してまで、派生データを自由に使わせるべきだという考え方にもならない。
他方、派生データを農業振興や生産性向上のための一種の公共財と捉え、データ提供者の権限に十分配慮しつつも、可能な限り利活用を促進すべきという考え方にたてば、いたずらに狭い利用目的を設定して、その利用を制限することは、データ受領者が立案したデータ取得のプロジェクトの目的の達成を不当に阻害し、派生データの価値を毀損することにもなりかねない。
したがって、あり得べき方向性として、データ受領者が立案したデータ取得のプロジェクトの目的に合致するような形で、かつデータ提供者の予測可能性を阻害しない程度に派生データの利用目的を広めに設定し、派生データを使い勝手のよいものにしていくというような考え方も検討されてよいと思われる。この点、経産省ガイドラインでは、両当事者の「取決め」として、分析結果を「工作機械の製造業者」(派生データを生成したデータ受領者に該当する)の新製品の研究開発のために使用することはできるが、顧客(当初データ等のデータ提供者に該当する)の競合事業者に対して、ベストプラクティスを提供する目的では使用してはならないとする例が掲げられているが55、農業関係者に安心してプロジェクトに参加してもらうという観点からするならば、このような制限は必要であると考えられる。
なお、「派生データ」に「当初データ等」内の個人情報が残っている状態でデータ提供者または第三者に提供される場合、データ受領者は、「派生データ」の取扱についても「当初データ等」の利用目的に限定して利用しなければならないと解釈される余地があり、その場合「派生データ」にだけ広い利用目的を設定することが困難となる可能性がある。また、その場合「派生データ」の提供にも原則として本人の同意が必要になる(個人情報保護法第23条および第24条)が、そうだとすると、極めて多数の本人から同意を取得することが必要となって、「派生データ」の使い勝手が悪いものとなってしまう可能性がある。
したがって、データ受領者は、「当初データ等」に加工等を施し「派生データ」とする場合には、
「当初データ等」に含まれる個人情報等を匿名化し、個人情報保護法上の「匿名加工情報」として取り扱うことが望ましい。
なお、匿名加工情報の活用については、経産省ガイドライン43頁に解説がなされているので、そちらを参照いただきたい。
② 自己利用
自己利用については、「派生データ」を生成したデータ受領者に関する限り、これを特段制限する理由はないと思われる(ただし、合意した目的内での利用に限られる)。
また「派生データ」の生成に対するデータ提供者の寄与を考慮すれば、データ提供者の自己利用についても制限すべきではないとう考え方もあり得る。しかしながら、データ提供者(農業関係者)は、データ等の取扱や見方に慣れていないことも少なくなく、データ受領者が自らの知見やノウハウ等を使って創出した「派生データ」をむやみに改変することを許してしまうと、当該改変データ
55 経産省ガイドライン56頁。なお、経産省ガイドラインは、顧客であるB1のデータが利用されない限りにおいて、工作機械の製造業者であるA(生データを生成したデータ受領者に該当する)が他の顧客であるB2のデータを活用して、 B2に対して同種のサービスを提供することを制限しないと取り決めることにも合理性があると考えられるとしている
(同ガイドライン56頁、脚注118)。
の利用により、農作物に対して思わぬ被害が発生させてしまうことがあり得る。またデータのコンタミネーションが発生し、派生データの価値を毀損させてしまう懸念もある。したがって、かかる観点からは、「派生データ」に関する限り、データ提供者による無断改変等については禁止するという考え方も合理性を有するといえる。
③ 第三者への提供/利用許諾
派生データは、単数または複数のデータ提供者から提供された当初データ等にデータ受領者の知見やノウハウを使って加工等をすることにより新たに創出されたデータである。したがって、派生データは当初データ等に比して、データ単体としての価値は向上しており、これは農業振興や生産性向上のための一種の公共財と捉えることも可能である。
そしてこのような考え方に立てば、データ提供者の意識に十分な配慮をしつつ、可能な限り派生データの利用が促進されるような制度設計をすることが求められる。この点からすれば、例えば特定の地域Aの熟練農業者「甲」と同じ地域Aの熟練農業者「乙」(例えば、いずれもいちご農家とする。)にウェアラブル端末の装着をお願いし、特定の品種のいちご栽培に関するデータを収集、分析して一定の「形式知」(栽培ノウハウ)を創作した場合を想定すると、熟練農業者「甲」と「乙」は、同じ地域内で当該「形式知」を利用することには抵抗感がない可能性がある。しかしながら、熟練農業者「甲」は、他の都道府県のいちご農家や、ましてや海外のいちご農家に、無断でかかる
「形式知」を使わせることには、相当程度の抵抗感を示す可能性が高い。これに対して、当初データ等が既に統計データ化されているなど、「派生データ」から特定の栽培ノウハウを拾い出すことが困難となった「派生データ」についてまで第三者提供を制限させる必要はないともいえる。ただ、このような切り分けについては様々な考え方が有り得、モデル契約として一つの考え方を示すことは必ずしも適切ではないともいえる。
したがって、データ創作型契約においても、提供型契約と同様、「派生データ」の第三者提供については、原則として「当初データ等」の提供者の同意を求めることとするが、その同意の取得の際に、不合理にデータ提供者が同意の提供を留保しないようにした。
また、その他の考え方としては、データ提供者の同意までは不要とするが、データ提供者に対する事前の通知は必要とし、特定の日数以内にデータ提供者が異議を述べた場合には、その取扱について協議をするというものもあり得る。
契約当事者 | 目的による制限 | 自己利用 | 第三者への提供/利用許諾 |
データ提供者 (農業関係者) | あり | 自由(ただし、派生データの無断改変 等は認めない。) | 制限 |
データ受領者 (ITベンダ/プロジェクト・マネジャー) | あり | 自由 | 制限(ただし、データ受領者 への同意提供を不合理に留保しない。) |
その他、「当初データ等」と同様、「派生データ」も、利用の場所や期間等によって制限をすることも可能である。そして、これらを総合的に考慮すると、別紙5の記載例としては、次のとおりとなる。
別紙5 派生データおよびその利用権限
データの概要 | データ項目 | 取得対象期間 | データ提供者の利用権限 | データ受領者の利用権限 |
データ受領者が | ①加工等のいず | [本契約の有効 | 自己利用するこ | 自己利用するこ |
当初データ等を | れをして創出さ | 期間中]に取得 | とに限る(ただ | とに限る。デー |
加工等して新た | せたデータなの | されたもの | し、派生データ | タ提供者による |
に創出させたデ | か(例、統計デ | の無断改変等は | 事前の書面によ | |
ータ | ータ、分析デー | 認めない。)。 | る承諾なく、派 | |
タ)②データ項 | データ受領者に | 生データを第三 | ||
目等について特 | よる事前の書面 | 者に譲渡または | ||
定する。 | による承諾な | 利用許諾しては | ||
く、派生データ | ならない。デー | |||
を第三者に譲渡 | タ提供者は、デ | |||
または利用許諾 | ータ受領者への | |||
してはならな | 同意提供を不合 | |||
い。 | 理に留保しな | |||
い。 |
(3)派生データの利用に基づき生じた知的財産権の帰属について
これに関する考え方はデータ提供型で説明したものと同じであるので、そちらを参照されたい。
(4)「派生データ」に対するデータ提供者のアクセス権について
派生データに対するデータ提供者のアクセス権を認めないこと等は、「当初データ等に対するデータ提供者のアクセス権について」で記載したところと同じである。ただし、データ提供者が一定の手続を踏むことによって、派生データを利用することは、当初データ等の場合と同様、可能である。
なお、上述のとおり、データ提供者もデータ受領者も派生データの利用権限を有することと整理したところであるが、文部科学省「さくらツール」が指摘する共有帰属に係る問題意識については、第4・12・(3)を参照すること。
7 当初データ等および派生データの非保証
第5条 (当初データ等および派生データの非保証)
1 データ提供者およびデータ受領者は、それぞれ相手方に対し、相手方に対して提供する当初データ等または派生データ(以下「相手方提供データ」という。)の正確性、完全性、安全性、有効性(各利用目的への適合性)および相手方提供データが第三者の知的財産権その他の権利を侵害しないことをいずれも保証しない。
2 データ提供者およびデータ受領者は、それぞれ相手方に対し、創出または提供を予定していた相手方提供データが必ず創出または提供されること、相手方提供データがそれぞれ相手方に継続的に提供されることをいずれも保証するものではない。
当初データ等の非保証に関する基本的な考え方
当初データ等の非保証に関する考え方は、提供型における「提供データ等」の非保証と同一である。しかしながら、一定のセンサから取得されるデータを「当初データ等」とする【データ創出型】の典型例を考えると、「提供データ等」とは異なり、①データ提供者に、当初データ等が、適法かつ適切な方法によって取得されたものであることを表明し、保証させる必要性や、②「提供データ等の保証および非保証」の条文の第3項各号に規定したような非保証の例外規定を設ける必要性は存在しない。したがって、【データ提供型】の契約書雛型には入れていたこれらの条文は、【データ創出型】では入れていない。
8 利用権限の配分に対する対価等
第6条(利用権限の配分に対する対価)
データ提供者およびデータ受領者は、第3条および第4条により、相手方に当初データ等および派生データの利用権限を配分することにつき、相手方に対して、譲渡費用、利用許諾に対する対価その他の対価を請求する権利を有しない。
本件では、データ受領者が立案したプロジェクトに基づき、データ受領者がセットアップしたセンサを通じて、データ受領者がデータ提供者から当初データ等を取得し、それを加工等して派生データを創出し、当該派生データをデータ受領者とデータ提供者で利用するという事態が想定されている。そして、この場合、データ受領者もデータ提供者も、それまで保有していなかったデータの利用が許諾され、それにより経済的価値を取得するということになる。しかしながら、当初データ等および派生データの創出には、程度の差こそあれ、データ提供者もデータ受領者もそれなりの貢献をしたと評価することができる。したがって、このような事情に鑑み、モデル契約では、それぞれ相手方に対して対価の支払をすることなく、当初データ等および派生データの利用をすることができることとした。
第7条(収益の分配)
データ受領者が、派生データを利用して行った事業またはサービスによって売上げを得たときは、データ受領者が得た売上金額の●%をデータ提供者に対して支払う。その支払条件については、本契約に定めのあるものの他は、データ提供者とデータ受領者が協議の上決定する。
この点、経産省ガイドラインでは、次のような説明がなされている。
「データ創出型契約では、データを当事者自らが利用するだけではなく、第三者へ提供する等により、収益をあげることが予定される場合がある。このような収益のモデルとしては、以下のようなモデルを含め、様々な態様が考えられる。
• 対象データそのものを第三者に利用許諾等することにより、ライセンスフィーを受領
• 対象データを用いて分析モデルを作成し、当該分析モデルに基づき開発したASP
(Application Service Provider)サービスを第三者に対して提供56」
農業データに関して幅広い知見を有する研究者やITベンダがデータ受領者となる場合には、それらが創出する派生データの付加価値は相当大きいものとなる可能性がある。そして、そのような場合、データ受領者は一定の対価の支払を約束して、派生データの第三者提供に対する許諾をデータ提供者に求めることがあるし、それに対する同意取得を容易にするために、適切な対価の支払に関するメカニズムを契約書の中で用意しておくことは極めて有益である。そこで、本ガイドライン
(データ利活用編)でも、収益の分配に関するメカニズムを用意した。なお、その収益分配の算定方式は、固定料金、従量制、売上分配など様々な方法があるが、農業関係者に対して透明性を確保するという観点からすれば、売上分配方式が適切なように思われる。したがって、本ガイドライン
(データ利活用編)では、売上分配方式による収益の分配を実現させるようにした。
56 経産省ガイドライン58頁
なお、この規定は、データ提供者が派生データを第三者にライセンスまたは販売して一定の収益をあげることは想定されていない。しかしながら、そのような事態が想定される場合には、データ提供者が得た収益をデータ受領者と分配する旨の規定も必要となる可能性がある。
第8条 (分担金の支払い)
データ受領者は、データ提供者に対して、【データ保管費用】の分担金として、データ受領者およびデータ提供者が別途協議の上定める金員の支払を求めることができる。
本件で想定されるようなプロジェクトの場合、データ受領者がデータ提供者に対して保管費用を請求すべき場合、または保管費用の請求が想定される場合は極めて稀であると思われる。しかしながら、データ提供者がデータ受領者が保管する派生データの提供を受けて、それを第三者にライセンスまたは販売して一定の収益をあげるようなビジネスモデルの場合には、データ受領者が、売上分配の一環として、あるいはそれとは別にデータ保管費用などの分担金を請求することがあり得る。したがって、本ガイドライン(データ利活用編)では、このような場合に備えて分担金の支払規定を置いた。なお、経産省ガイドラインの雛形では、「分担金を支払う。」旨が規定されているが、実際には、このような分担金の支払をデータ受領者が売上の分配とは別に求めることは稀であると思われることから、本ガイドライン(データ利活用編)では、「支払を求めることができる。」という建付けとしている。
9 報告・監査等
第9条(報告等)【売上の配分の場合】
1 データ受領者は、本契約の有効期間中、各計算期間(4月1日~翌年3月31日とする。)における派生データの利用によって生じた売上金額その他データ提供者の指定する事項が記載された報告書を作成し、当該計算期間終了後15日以内にデータ提供者に対して提出しなければならない。
2 データ受領者は、第7条に基づき計算される金額(以下「本分配金」という。)を、本条第1項に定めた報告書を提出した日の翌月末日までに、データ提供者が指定する銀行口座に振込送金の方法によって支払うものとする。なお、振込手数料はデータ受領者の負担とする。
3 データ受領者は、本条第1項の報告書に記載すべき事項に関して適正な帳簿を備えるものとし、これを本契約の有効期間中、保存・保管するものとする。データ提供者またはその代理人は必要に応じて当該帳簿を閲覧および閲覧することができる。
4 データ提供者は、前項における帳簿の閲覧および閲覧により知り得たデータ受領者の機密事項を第三者に開示・漏えいしてはならない。また、データ提供者は、帳簿の閲覧および検査により知り得たデータ受領者の機密事項を前項以外のいかなる目的・用途にも利用してはならない。
第10条 (利用状況の報告および監査)
1 データ提供者は、データ受領者に対し、データ受領者による当初データ等の利用が本契約の条件に適合している否かを検証するために必要な利用状況の報告を求めることができる。
2 データ受領者は、データ提供者に対し、データ提供者による派生データの利用が本契約の条件に適合している否かを検証するために必要な利用状況の報告を求めることができる。
3 データ提供者またはデータ受領者は、第1項または前項に基づく報告が当初データ等または派生データの利用状況を検証するのに十分ではないと判断した場合、●営業日前に相手方に対して書面による事前通知をすることを条件に、1年に1回を限度として、相手方の営業所において、自らおよび/または自らが指定した第三者をして、当初データ等または派生データの利用状況の監査を実施することができるものとする。この場合、監査を実施するデータ提供者またはデータ受領者は、相手方の情報セキュリティに関する規程その他相手方が別途定める規程を遵守するものとする。
4 前項による監査の結果、データ受領者またはデータ提供者が本契約に違反して当初データ等または派生データを利用していたことが発覚した場合、データ提供者またはデータ受領者は相手方に対し監査に要した費用を支払うものとする。
これらについては、データ提供型契約における説明と特段変わるところがないので、そちらをご参照いただきたい。
10 相手方受領データの管理
第11条 (相手方受領データの管理)
1 データ提供者およびデータ受領者は、相手方から受領するデータ(以下「相手方受領データ」という。)を他の情報またはデータと明確に区別し、自己のものを管理するのと同一の注意義務をもって管理・保管しなければならない。
2 データ提供者およびデータ受領者は、相手方受領データの管理状況について合理的な疑義が生じた場合には、データ受領者に対していつでも書面による報告を求めることができる。この場合において、相手方受領データの漏えいまたは喪失のおそれがあると相手方が判断した場合、データ提供者またはデータ受領者は、相手方に対して当初データ等および派生データの管理方法・保管方法の是正を求めることができる。
3 前項の報告または是正の要求がなされた場合、その要求を受けたデータ提供者またはデータ受領者は速やかにこれに応じなければならない。
4 データ提供者およびデータ受領者は、相手方受領データを第三者に提供または開示する場合には、当該第三者との間で適切な秘密保持契約を締結するなどして、当該第三者に対し、適切な相手方受領データに関する秘密保持と保管を履行させなければならない。
(1)データ受領者およびデータ提供者の管理責任
データ提供型契約では、データ受領者側だけに提供データ等および派生データの保管について善 管注意義務を課す条文例を紹介したが、データ創出型契約では、データ提供型契約と異なり、デー タ受領者に加えてデータ提供者にも派生データに対する管理責任を負担させる形の条文を紹介した。実際には、データ提提供型契約でもデータ創出型契約でも、データ提供者側(農業関係者側)にお いて派生データを利用する以上、取扱を大きく異にする理由はない。したがって、この点について は、それぞれの事情に応じて、データ提供型契約で紹介した文例か、データ創出型で紹介した文例 のいずれかを使うことができる。ただ、管理対象データが、「提供データ等」か、「当初データ等」 か、「派生データ」かによってその考え方は若干異なるといえる。
(2)提供データ等の管理
データ提供型契約における「提供データ等」とは、取引の対象となるデータを一方当事者(データ提供者)のみが保持しているという事実状態について契約当事者間で争いがないということを前提として、データ提供者(例、農業関係者)がデータ受領者(例、ITベンダ等)に対して提供するデータである。したがって、データ受領者からみて提供データ等は「他人のもの」と評価することができるから、データ受領者が契約に基づき引き受けるその管理方法については、データ受領者に「善良なる管理者の注意義務」をもって管理させることに馴染むといえる(民法400条、64
4条、656条等参照)。なお、「善良なる管理者の注意義務」(以下「善管注意義務」という。)とは、管理者の属する階層・地位・職業などにおいて一般的に要求されるだけの注意を意味する57。したがって、この義務が課された管理者は、自分の能力からして最大限注意義務を果たしていたということを主張立証しても、管理義務を果たしたことにはならず、同規模の同業者に通常求められている管理義務を果たしたことを主張立証して初めて管理義務を履行したということができる。
57我妻・有泉コンメンタール民法総則・物権・債権(第5版)705頁。
(3)当初データ等の管理
① 当初データ等の管理責任の考え方
これに対して当初データ等は、その創出にデータ提供者側もデータ受領者側も寄与しているデータであり、その一部は「自分のもの」と評価することが可能であるが、他の部分は「他人のもの」と評価されることになる。したがって、この場合、2名以上の共同相続人が相続財産を共同管理している場合に準じて、データ受領者に「自己の固有財産におけるのと同一の注意をもって」当初データ等を管理する責任を負担させるという考え方が一方ではあり得る(民法918条第1項)。この「自己の固有財産におけるのと同一の注意をもって」というのは、「善管注意義務」に対する概念であり、自己の能力に応じた注意で足りるという意味であるので58、「善管注意義務」より低い注意義務で足りる。
他方、この民法の規定は直ちに当初データ等に提供できるものではないことに加え、農業関係者のノウハウ漏えいの懸念を払拭するという観点を重視すれば、当初データ等に関するデータ受領者の管理義務を一段高い「善管注意義務」にまで引き上げるという考え方もあり得る。
② 当初データ等の管理責任をデータ提供者側に負担させるべきか
データ創出型契約においては、データ提供者側にウェアラブル端末を装着するなどし、センサやカメラ等から自動的にまたはデータ受領者が設定したアルゴリズムに基づき取得したデータ等がデータ受領者に送られるということが想定されている。そして、このような場合には、データ提供者側は何ら当初データ等を「管理」する立場にはないといえるので、当初データ等については、データ提供者に管理責任を規定する必要はないものといえる。
(4)派生データの管理
① 派生データの管理責任の考え方
派生データも当初データ等と同様、その創出にデータ提供者側もデータ受領者側も寄与しているデータであるので、「自己の固有財産におけるのと同一の注意をもって」当初データ等を管理する責任を負担させるという考え方があり得る。他方、派生データが分析データや統計データのみである場合のように派生データから当初データ等が窺えない場合はともかく、そうではなく派生データの中に当初データ等が残存している場合(例、単に当初データ等を統合、分類したに過ぎない派生データの場合)には、当初データ等に準じてデータ受領者側に「善管注意義務」を負担させるという考え方はあり得る。
② データ提供者に派生データの管理責任を負担させるべきか
データ提提供型契約でもデータ創出型契約でも、データ提供者側(農業関係者側)において派生データを利用し、その派生データの利用権限がデータ受領者側にも帰属していると考える以上、データ提供者側としても、派生データについて、一定の適切な管理をしていく必要があると言える。しかしながら、データ提供者が個人農家を含めた農業関係者であることに鑑みると、データ受領者として想定されているITベンダや農機メーカーと同程度のセキュリティを要求することは適切で
58 我妻・有泉コンメンタール民法総則・物権・債権(第5版)705頁
はないという考え方が妥当である。なぜなら、農業関係者は通常そのようなセキュリティシステムを備えておらず、高度なセキュリティシステムを備えなければ派生データが使えないとなると、自らのノウハウともなるデータを提供するインセンティブがなくなるし、データ提供者に一定の利用権限を留保させた意味もなくなるからである。また、派生データの利用権限を共有としたのであれば、農業関係者の主観的基準で管理義務の履行を考えることができる「自己のものを管理するのと同一の保管レベル」で保管させれば良いという考え方があり得る。
他方、「自己のものと管理するのと同一の保管レベル」であっても、法的にまたは契約上、そのような管理義務を農業関係者に課すと、データ提供のインセンティブを削ぐことになるという考え方もある。そして、その考え方を採用する場合には、契約上は農業関係者側にそのような保管義務を課さず、データ提供者側にマニュアル等を付与し、適切なトレーニングをするなどして、現実的な運用やデータ受領者側による適切な指導で対応することになる。
以上をまとめると、以下のようなパターンが考えられる。
【データ提供型契約】
当事者 | 提供データ等 | 派生データ |
データ提供者(農業関係者) | - | 「自己のものを管理するのと同一の注意義務」または契約上は保管義務を課さず、実際の運用やデータ受領者側による適切な指導で対応する。 |
データ受領者(ITベンダや農機メーカー等) | 「善管注意義務」 | 「自己のものを管理するのと同一の注意義務」または「善管注意義務」 |
【データ創出型契約】
当事者 | 当初データ等 | 派生データ |
データ提供者(農業関係者) | - | 「自己のものを管理するのと同一の注意義務」または契約上は保管義務を課さず、現実的な運用やデータ受領者側による適切な指導で対応する。 |
データ受領者(ITベンダや農機メーカー等) | 「自己のものを管理するのと同一の注意義務」。ただし、 「善管注意義務」にまで引き上げるという考え方もあり得る。 | 「自己のものを管理するのと同一の注意義務」。ただし、派生データの中に当初データ等が残存しているような場合には、ノウハウ等の流出防止の観点から、「善管注意義務」に引き上げるという考え方もあり得る。 |
したがって、具体的な事情を考慮の上、以上のような考え方を参考に適切に管理義務を規定することが望ましい。
(5)データ提供者側に法的な管理義務を課さない場合も、管理状況の報告義務を課すことはできるか。
データ提供者側に法的な管理義務を課さない場合も、管理状況の報告義務を課すことはできるし適切であると考えられる。本ガイドライン(データ利活用編)は、データ提供者側に法的な管理義務を課さない場合も、データ提供者側において、派生データをずさんに管理してもよいと言っているわけではない。前述のとおり、現実的な運用やデータ受領者側による適切な指導で対応するといっているのであり、その一環として、データ提供者がマニュアル、トレーニングまたは指導にしたがった保管をしているのかを報告させ、不適切な管理をしている場合には、それに対する是正要求をすることができるという手段を残しておくことは必要かつ適切であると思われる。
(6)相手方受領データの第三者提供
相手方の書面による承諾を得て派生データ等を第三者に提供する場合には、当該第三者との間で適切な秘密保持契約を締結するなどして、貴重なノウハウが思わぬ第三者に流出しないような対応をとることが必要である。なお、この秘密保持契約の雛形(フォーム)については、契約書に添付して、契約当事者がそれを使うように合意してもよい。
11 データ漏えい等の場合の対応及び責任
第12条 (データ漏えい等の場合の対応及び責任)
1 データ受領者は、当初データ等の漏えい、喪失、データ提供者の許諾を得ない第三者提供、目的外利用等、本契約に違反する当初データ等の利用(以下「当初データ等の漏えい等」という)を発見した場合、または当初データ等の漏えい等が合理的に疑われる場合、直ちにデータ提供者にその旨を通知しなければならない。
2 データ受領者は、派生データの漏えいまたは喪失(以下「派生データの漏えい等」という)を発見した場合、または派生データの漏えい等が合理的に疑われる場合、直ちにデータ提供者にその旨を通知しなければならない。
3 データ受領者から派生データを受領したデータ提供者が、派生データの漏えい等を発見した場合、または派生データの漏えい等が合理的に疑われる場合、直ちにデータ受領者にその旨を通知しなければならない。
4 本条第1項または第2項に該当する場合、データ受領者は、自己の費用と責任において、当初データ等の漏えい等または派生データの漏えい等の事実の有無を確認し、当初データ等の漏えい等または派生データの漏えい等の事実が確認できた場合は、その原因を調査し、再発防止策について検討しその内容をデータ提供者に報告しなければならない。
5 データ提供者が管理する領域で派生データ等の漏えい等が生じ、または派生データの漏えい等が合理的に疑われる場合には、データ提供者は、自己の費用と責任において、派生データの漏えい等の事実の有無を確認し、派生データの漏えい等の事実が確認できた場合は、その原因を調査し、再発防止策について検討しその内容をデータ受領者に報告しなければならない。
6 漏えいまたは喪失(以下これらを総称して「漏えい等」という)が発生し、または漏えい等が発生した可能性のある当初データ等または派生データに個人データが含まれている場合には、漏えい等を生じさせたデータ受領者またはデータ提供者は、個人情報保護委員会に対してその旨報告し、その指示に従うものとする。
7 データ提供者およびデータ受領者は、相手方提供データに、第三者の知的財産権の対象となるデータが含まれる等、相手方の利用につき制限があり得ることが判明した場合には、速やかに相手方に対してその旨を通知した上、相手方と協議および協力して、当該第三者の許諾を得ることまたは問題とされているデータを除去する措置を講じること等により、相手方が相手方提供データの利用権限を行使できるよう努める。
8 データ提供者は、データ受領者が管理するシステムの保守・点検、ウィルスの感染、ハッキング、コンピュータのバグ、設備または通信サービスの不備または停止、停電、誤操作、クラウドサービス等の外部サービスの提供の停止または緊急メインテナンス、その他データ受領者のコントロールの及ばない事象により当初データ等または派生データが喪失または毀損され、あるいは意図しない第三者に開示、漏えいされる可能性があることを認識し、それらにより自らまたは第三者に損害が発生した場合であっても、データ受領者に対していかなる損害賠償をも請求しないものとする。ただし、本条項は、データ漏えい等が発生したシステムを管理するデータ受領者が、漏えい等が発覚したまたは漏えい等が合理的に疑われる当初データ等および/または派生データを管理するシステムに関し、我が国において、それと同種同等のシステムで通常利用されるのと同種同等のセキュリティおよびバックアップ体制を備えていたこと(なお、データ受領者が、自らが管理するシステムの全部または一部の運営・管理を第三者に委託していた場合や第三者のサ
ービスを利用していた場合には、当該第三者に対する適切な監督を行っていたことを含む。)を立証した場合に限り、適用されるものとする。
9 データ受領者は、データ提供者が管理するシステムの保守・点検、ウィルスの感染、ハッキング、コンピュータのバグ、設備または通信サービスの不備または停止、停電、誤操作、クラウドサービス等の外部サービスの提供の停止または緊急メインテナンス、その他データ提供者のコントロールの及ばない事象により派生データが喪失または毀損され、あるいは意図しない第三者に開示、漏えいされる可能性があることを認識し、それらにより自らまたは第三者に損害が発生した場合であっても、データ提供者に対していかなる損害賠償をも請求しないものとする。
(1)データ漏えい等の場合の対応
データ漏えい等の場合の対応方法に関する考え方は、基本的にデータ提供型契約と同様である。なお、第7項については、派生データについて、データ提供者に契約上の保管義務を課さない場合には、これを入れる必要がないという考え方もあり得る。何故なら、保管義務を課さないのであれば、債務不履行に基づく損害賠償請求は成り立たないからである。
しかしながら、データ漏えいの場合の請求原因としては、債務不履行のみならず不法行為も存在するのであり、契約上保管義務がないとしても、データ提供者側にマニュアル等が付与され、トレーニングがなされるなど、データ受領者側による適切な指導を受けていたにもかかわらず、それを意図的に無視し、あるいは過失によりそのような指導を遵守しなかったような場合には、不法行為による損害賠償ということもあり得る。したがって、それに備えて、第7項を規定しておく意味はあるものと考えられる。
(2)第三者の権利により利用が制限される場合の処理
この点は本条第5項に規定されているが、経産省ガイドラインではデータ創出型契約において別途の条項(第9条)として切り出されている59。本ガイドライン(データ利活用編)では、農業データに関する限り、データ提供型契約とデータ創出型契約とで第12条の規定を異にする必要性はないとの立場から、データ提供型契約と同様の規定を置き、特段第5項を別個の条項として切り出すことはしていない。なお、経産省ガイドラインでは、この対象となるものとして以下のような場合が掲げられている60。
• 第三者の権利の対象となるデータが含まれる場合
o パターンA データの創出に、契約当事者以外の第三者が関与する場合
o パターンB 機材の提供に、契約当事者以外の第三者が関与する場合
o パターンC 分析アルゴリズムが、契約当事者以外の第三者によって提供されている場合
したがって、相手方に提供したデータの生成過程で上記のいずれかのパターンに該当する場合には、第5項が発動される可能性があるということになる。他方、データ創出型に限っていえば、データ提供者(農業関係者)側の関与は、ウェアラブル端末の装着や、データ受領によるインタビュ
59 経産省ガイドライン126頁
60 経産省ガイドライン126頁
ーに応えるだけということがあり得る。そして、そのような場合、当初データ等の生成に関しては、データ提供者(農業関係者)は第三者の許諾を得ることに協力すべき立場にすらないということもあり得る。当初データ等の生成過程で、契約当事者以外の第三者が関与する場合(当初データ等の創出に当該第三者が関与または寄与する場合)があり得るので、第5項の対象を「派生データ」に限ることはできないが、第5項の義務主体をデータ受領者に限定して、以下のような条文に仕立て直すということも検討されてよい。
5 データ受領者は、当初データ等または派生データの創出に本契約当事者以外の第三者が関与する場合や、第三者の知的財産権の対象となるデータが含まれる場合等、その利用につき制限があり得ることが判明した場合には、速やかにデータ提供者に対してその旨を通知した上、データ提供者と協議して、当該第三者の許諾を得ることまたは当該データを除去する措置を講じること等により当該データの利用権限を行使できるよう努める。