Contract
個別あっせん事例
事例 1 派遣契約の中途解除に関するもの
○申出者の言い分
申出者は、半年契約の派遣社員として勤務していたが、契約期間の途中で、派遣先の仕事が無くなったため勤務ができなくなった。派遣会社が次の派遣先を用意できなかったので、会社都合退職の手続をとるよう要求したが、会社は退職手続をとらず、休業手当も支払わずに申出者を休業させている。
申出者としては、会社都合退職の手続と休業中の手当を求めたい。
○会社側の言い分
申出者には次の派遣先をいくつか紹介したが、労働条件をめぐって申出者と折り合いがつかず苦慮していた。申出者は優良な社員であり、元の派遣先から再び仕事が来る可能性も残っていると考えて、退職手続を見合わせていた。申出者との雇用関係は、現在も続いていると認識している。
○あっせんの経緯と結果
あっせん委員としては、雇用関係が維持されている以上、休業手当を支払う必要があるにもかかわらず放置していたのは不適切であると考えた。また、会社が類似の派遣先を用意できないことや、申出者が退職を希望していることから、退職条件を調整して解決を図るのが妥当と判断した。
このことを当事者に話して、会社都合退職の手続きを行うとともに、解決金を支払うことで合意に達した。
事例 2 派遣社員の雇い止めに関するもの
○申出者の言い分
申出者は、半年ごとに派遣契約を更新し、同一の派遣先で2年間勤務してきたが、契約満了 1 ヶ月前になって、会社から現契約限りで雇止めにすると通告された。
申出者としては、それまで問題なく勤務していた上、派遣先の仕事は現在も継続しているのだから、派遣契約を更新して申出者を引き続き勤務させるべきだと思っている。会社が申出者を雇止めにする一方で、他の人を新たに採用してこの派遣先に回したのは不当であるから、派遣契約の更新を求めたい。
○会社側の言い分
申出者は、派遣会社との間で事務手続に関するトラブルを何度も起こしており、もう申出者を信用することができなくなった。今後、派遣先でもトラブルを起こす恐れがあると判断して雇止めにしたものである。
また、派遣先には新たに別の人を採用して派遣しているため、雇止めを撤回することは不可能である。
○あっせんの経緯と結果
あっせん委員は、会社の説明では雇止めの理由として不十分であるが、この派遣先に後任者を補充した今となっては、会社が雇止めを撤回することは事実上困難であると判断した。このため、雇止めは撤回しないものの、解決金を支払うことを当事者に話して、合意に達 した。
事例 3 退職金の減額に関するもの
○申出者の言い分
申出者は、正社員として 20 年間勤務した後、定年退職した。途中関連会社に出向した
期間があったが、退職金は勤続 20 年の額で支払われると考えていた。ところが、実際には、出向先から復帰後の期間しか退職金の算定対象になっていなかった。
出向は社命によるものであるから、退職金の減額は不当であり、申出者としては全額の支払を求めたい。
○会社側の言い分
申出者は、10 年前に出向先で重大な失敗をして会社に多大の損害を与えたため、出向先から呼び戻して解雇していた。この際、申出者は退職金を辞退すると言っていた。
申出者に深い反省が窺われたため、会社としても誠意ある対応をしようと考えて正式な解雇手続をとらないまま、改めて雇用していたものである。このため、退職金は解雇後の期間を算定対象としたもので、妥当な処置と考えている。
○あっせんの経緯と結果
申出者は、出向先での失敗は会社のためを思っての行動の結果であった上、会社に与えた損害は弁償済みであるし、処分も受けていないと主張した。
あっせん委員としては、解雇の手続がとられておらず、解雇に該当する事由の存在を今から立証することは困難であることから、勤務した 20 年間全部を退職金の算定対象とする必要があると判断し、当事者に話したところ、会社側がこれを受け入れて残金を支払うことになった。
事例 4 懲戒解雇の無効確認に関するもの
○申出者の言い分
申出者は工場の作業員(正社員)であるが、勤務時間中に、たびたび持ち場を離れていたとして始末書の提出を命じられ、これを拒否したところ懲戒解雇にされた。これは、手が空いた時間に適宜行っていたもので、以前に注意や処分を受けたことはなかった。
申出者としては、突然の懲戒解雇は余りに酷であり、再考してもらいたい。
○会社側の言い分
申出者は、試用期間(半年)が経過した頃から、勤務時間中に長時間無断外出することが多くなり、現場の上司が何度も注意していたが、一向に改まらなかった。他の社員の士気にも影響してきたため、現場責任者は、毅然とした対応が必要になったと考えて始末書の提出を命じた。ところが、申出者はこれさえも拒否したため、もはや改善の見込みは無いと判断し、その場で懲戒解雇を通告したものである。手続面はともかく、懲戒解雇の判断自体は正しいと考えている。
○あっせんの経緯と結果
あっせん委員としては、申出者の行動には問題があったものの、即刻懲戒解雇とするほどの程度であったか疑義があった。また、会社は申出者の問題行動を現場任せにして適切な指導や処分をしていない上、懲戒解雇の決定に至る検討や手続きも不十分であると判断した。
このため、懲戒解雇とするには無理な面もあることを会社に説明し、普通解雇とすることで解決に至った。
事例 5 勧奨退職の補償金額に関するもの
○申出者の言い分
申出者は、重量物の移動を行う工場作業員であったが、体力の衰えを理由に、会社から執拗に退職を求められている。会社は雇用を継続しそうもないので、せめて退職金の増額を求めたい。
○会社側の言い分
申出者の勤務態度には問題がないが、近頃体力の衰えが目立つようになった。重量物の 移動を行う職場であるため、体力の衰えは他の作業員をも巻き込む事故に繋がりかねない。当社にはこの工場以外には少人数の事務所しかないうえ、ここの人手は足りているので、配転によって申出者を雇用し続けることもできない。このため、申出者には気の毒ではあ るが、退職してもらいたい。
○あっせんの経緯と結果
あっせん委員は、会社が示した理由では、申出者を解雇することは難しいことを説明。会社側は、退職してもらえるのであれば退職金の増額を検討する意向を示した。
このため、勧奨退職とし、退職金を増額することで合意に至った。
事例 6 配転の撤回に関するもの
○申出者の言い分
申出者は、勤続 20 年の正社員。去年職長に昇進したが、他の管理者が日勤であるのに自分は一般社員同様に三交代勤務にされている。それに加えて、先月、部下が製造ラインを停止させるミスを起こしたところ、自分がその責任を問われて配転を命じられた。
これらは、不当な処置だと思うので、三交代勤務から日勤への変更と配転の撤回を求めたい。
○会社側の言い分
申出者は職長であるが、まだ管理職ではないので三交代勤務の対象になっており、申出者を差別するものではない。また、申出者に配転を命じたのは、部下のミスとはいえ上司としてのケジメをつけてもらう必要が生じたからであるが、同時に申出者の適性を考えての処置でもあった。
○あっせんの経緯と結果
あっせん委員は、双方の意思疎通が十分でなかったことに問題があったと考え、申出者に会社側の真意を説明して概ね理解を得た。また、会社からは「申出者とは良好な関係を維持してゆきたい。」との発言もあった。
このため、今後は十分な意思疎通を図ることとして、解決に至った。
事例7 社用車で起こした交通事故の損害賠償に関するもの
○申出者の言い分
申出者は、運送会社のトラック運転手である。配送中に自損事故を起こして会社のトラックを大きく破損させ、会社から修理代全額の支払を請求された。
しかし、事故の背景には、休日がほとんど無いという勤務状態もあり、修理代の全額負担は重すぎるから適正な負担にしてほしい。
○会社側の言い分
申出者は、以前にも自損事故を起こしており、会社が損害を全て負担している。会社が実際に被った損害は、修理代だけではない。事故車で運ぶ予定だった荷物の外注や、修理中の代車の費用がかかっているし、事故対応に労力を取られて他の業務に遅れも出た。申出者には、修理代くらい負担してもらいたい。
○ あっせんの経緯と結果
あっせん委員は、裁判実例では、運転手の修理代負担は2割から5割程度に留まっており、その算定には運転手の勤務状態も影響することを会社に説明した。
また、申出者に対しては、短期間に 2 回も事故を起こして会社に損害を与えたことを考慮するよう求めた結果、両者が歩み寄り賠償額の合意に至った。