Contract
第7章 投資信託
1.概 説 投資信託は,複数の投資者から資金を集めて大きな基金をつくり,投資の専門機関が株式や債券など様々な資産で運用し,その収益を投資額に応じて投資者に分配する仕組みの商品である。
投資者からみれば,自身の投資資金が少額でも他の投資者の資金と集合して運用されるために規模の経済性が得られ,間接的に様々な資産に投資されることによる分散投資の効果や専門家の運用による情報や投資手法の優位性等を享受できるメリットがある。収益は運用成績に応じて変動するため元本は保証されないが,運用対象や運用方法の違いにより預貯金に近い商品性のものから,リスクをとって大きな収益を狙う派生商品的なものまで様々な種類がある。
日本の投資信託制度の全体的な枠組みは「投資信託及び投資法人に関する法律」で規定されている。また投資信託の運営において中心的役割を果たす投信委託会社の行為規制等については「金融商品取引法(金商法)」において定められており,さらに同法上の自主規制機関である投資信託協会が定めた自主ルールにより投資者保護が図られている。
投資信託は,国民の有力な投資代行の機能を営むものであるとともに,大衆の資金を証券市場に導入することにより,企業の資金調達に資するという国民経済的な意義をもっている。また,機関投資家として証券市場において合理的な価格形成に寄与するという機能も担っている。
わが国の公募証券投資信託の過去20年間の残高推移は右図のとおりである。 2000年代前半から中頃にかけて超低金利下での国民の運用意識の高まり,また株式市況の回復などを受けて一たん拡大した。2008年には世界金融危機により前年比35%減少した後,2009年1月を底に回復し,2015年5月に史上初めて 100兆円の大台を超えた。2022年に欧米の急速な利上げを受けて国内株式の値下がり等により純資産残高は減少したが,2023年に入ると純資産残高は再び増加に転じている。なお,世界全体の公募オープンエンド型投資信託の残高は 2022年末現在で60.1兆ドル(7,886兆円)であるが日本のシェアは3.4%に過ぎない。今後,投資信託は「貯蓄から資産形成へ」の流れを牽引する商品として期待される。
投資信託の概念
〔出所〕「わかりやすい投資信託ガイド」(投資信託協会)
兆円)
200
180
160
140
120
100
80
60
40
20
0
公募投信残高と個人金融資産に占める比率の推移
公募投信純資産残高(左目盛)
家計の金融資産に占める投信の比率(右目盛)
(% 10
9
8
7
6
5
4
3
2
1
0
02 03 04 05 06 07 08 09 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20 21 22 23
(注) 23 年は6月末現在(家計金融資産に占める比率は3月末速報)
〔出所〕 投資信託純資産残高は投資信託協会,家計金融資産に占める投信の比率は日本銀行資金循環統計より筆者作成
2.投資信託の歴史 集団投資スキームとしての投資信託は,19世紀後半にイギリスで始まって以来,世界各国で様々な形態で普及が進んでいる。
わが国の投資信託は,戦前においても存在したが,現行の制度は1951年6月の「証券投資信託法」施行により,信託の形態をとる契約型の単位型株式投信として始まった。欧米のように投資者のニーズに基づいて始まったものではなく,財閥解体で大量に放出された株式の需給調整(証券民主化)や戦後の資金不足時代の産業資金の調達等のために政策的に導入された商品であった。
証券投資信託法は証券恐慌後の1967年に一部改正され,投信委託会社の受益者に対する忠実義務(信認を受けて他人の事務を処理する者は,その他人の利益のためにのみ行動しなければならない義務)の明確化,禁止行為に関する規定の強化・新設など投信委託会社の行為準則が設けられた。1995年には規制緩和とディスクロージャーの強化を主要テーマとする大規模な改革が行われた。そして1998年には「金融システム改革法」施行に伴う大改正が行われた。商 品面では,契約型投信だけが存在していたわが国でも,欧米で主流となっている会社型投信の制度が導入されるとともに,ファンドの設立が承認制から届出制に規制緩和され,投信委託会社のファンド運用指図の外部委託も可能になった。また銀行等の金融機関による窓口販売が認められるなど販売チャネルの拡大も実現した。さらにディスクロージャーについても証券取引法にもとづく開
示の強化が図られた。
次いで2000年には投資対象が有価証券以外のものにまで拡大されて「不動産投資信託」の設定が可能となり,法律名は「証券」の字が取れて「投資信託及び投資法人に関する法律」と改められた。また投信委託会社の行為準則に善管注意義務(善良な管理者の注意をもって信託財産の運用の指図を遂行しなければならない義務)が追加されるなどの改正が行われた。
そして2006年には金商法の制定(2007年9月末施行)にともない,投信委託会社の行為準則に関わる部分を同法に移管する法改正が行われ,また2014年には運用財産についてのリスク規制の導入等も実施された。
近年,NISA(少額投資非課税制度)や iDeCo など確定拠出年金,投信ラップ口座などの整備が進められている。一方で販売業者に「顧客本位の業務運営」を求めるなど投資信託の健全な活用・発展が期待されている。
日本の投資信託の歴史(戦後)
制 度 商 品 販 売 運 用
証券投資信託法施行 単位型株式投信でスター 証券会社で販売
国内株中心
(1951)ト (1951)
追加型株式投信発足
(1952)
委託会社の証券会社から 公社債投信発足(1961)の分離(1960営業開始)
投資信託法改正,「委託会社の受益者への忠実義
国内債組入れ本格化
(1961)
外国証券組入れ開始
務,ディスクロージャー義務」などを規定(1967)
中期国債ファンド発足
外国投信の国内販売自由化 (1972)
(1970)
委託会社が投資顧問業務に進出 (1984)
(1980)
外資系が投信委託業務に MMF 発足 (1992)進出 (1990)
銀行系が投信委託業務に進出 (1993)
投信改革決定 (1994)
1995年に実施 日経300上場投信発足
委託会社の直接販売開始
(1993)
デリバティブのヘッジ目的以外への利用など運用
金融システム改革法施行
(1995)
銀行,保険等が本体で販
規制緩和 (1995)
(1998) 売参入 (1998)
私募投信発足 (1999)
投資信託及び投資法人に 会社型投信発足 (2000)関する法律施行 (2000)
公社債投信も時価評価へ 不動産投信発足 (2001)移行 (2001)
運用対象を不動産を含めた幅広い資産に拡大
(2000)
確定拠出年金制度開始
現物拠出型 ETF 上場
金融商品販売法施行
一部の MMF が元本割れ
(2001)
投資顧問業法の改正により証券会社によるファン
(2001)
(2001)
(2001)
ドラップ等投資一任業務が解禁 (2004)
郵便局での投信販売開始
(2005)
金融商品取引法施行 毎月分配型投信が人気
運用対象資産として商品
(2007)
NISA 開始 (2014)
が加わる (2008)
日銀ETF 買い開始(2010)信用リスク規制の導入
(2014)
つみたて NISA 開始
公募株式投資信託に占め 金融庁が顧客本位の業務 マイナス金利で MMFるインデックス型のシェ 運営を推進 (2017)残高ゼロに (2017)
(2018)アが5割を超える(2020)
確定拠出年金向け投資信 重要情報シートの導入
2024年以降の NISA の拡 託の残高が10兆円を超え充・恒久化・無期限化を る (2021)決定 (2022)
〔出所〕 杉田浩治氏及び明田雅昭氏作成資料に筆者が加筆
(2021)
3.投資信託の形態 投資信託の形態は大別すると契約型と会社型がある。
契約型(投資信託) 契約型には信託形態や組合形態があるが,わが国では信託形態が採用され,委託者指図型と委託者非指図型がある。
委託者指図型は,わが国では一般的な形態で,委託者,受託者および受益者の三者で構成される。委託者は金融庁に登録した資産運用業者(投信委託会社)であり,商品企画,信託約款の作成・当局への届出,受託者への運用指図(運用指図権限の外部委託が可能)等を行う。受託者は信託会社または信託業務を行う銀行であり,信託契約に基づき投資信託財産を保管・管理する。投資者は,受益証券を取得することによって受益者となり,運用の成果を分配金・償還金として受け取る。以上の仕組みを図示すれば右上図のとおりである。
委託者非指図型は,受託者が委託者兼受益者である複数の投資者との間で個別に信託契約を結び,その資金を合同して一つの信託財産としたうえで,自らが(委託者の指図に基づかずに)主として有価証券以外の特定資産で運用するとともに,信託財産の保管・管理も行うものである。
会社型(投資法人) 会社型は株式会社に近い形で運営される。わが国の会社型は法人格を持つ投資法人が設立され,ファンドの運営は投資主総会で選任された役員が行うが,資産運用・保管・一般事務・募集の業務を全て外部に委託しなければならない。投資者は投資法人の発行証券(投資証券)を取得して投資主となり,運用益の分配を受ける。以上の仕組みを図示すれば右下図のとおりである。
なお,世界における投資信託の形態の区分として,契約型と会社型のほかに,発行証券の買取請求権の有無によりオープンエンド型とクローズドエンド型がある。オープンエンド型は投資者からの買取請求に対して,時価により信託財産を取り崩して応じるタイプであり,クローズドエンド型は買取請求に応じないタイプである。後者の場合,発行証券の取引所上場などにより投資者の換金性が図られる。わが国の契約型は原則としてオープンエンド型であり,不動産投信に代表される会社型はクローズドエンド型により運営されている。
委託者指図型投資信託の運営の仕組み
受益者
販売会社
委託者
受託者
買付け・保有 募集の取扱い 運用指図等 保管等 主たる投資対象
投資者
販売解約
有価証券
信託銀行等
投資信託委託会社
証券会社
登録
金融機関
直接販売
投資
信託契約
販売
投資者
販売解約
不動産
契約 投資
投資者
販売解約
その他
投資
〔出所〕 投資信託協会『日本の投資信託2014』掲載図を一部修正
投資法人の運営の仕組み
投資法人
選任
運用委託
監査
選任
一般事務委託
保管委託
募集委託
投資主総会
販売会社
(証券会社及び登録金融機関)
一般事務受託者
資産保管会社
(信託銀行及び証券会社等)
資産運用会社
(金融取引業者)
会計監査人
(公認会計士,監査法人)
役員会
執行役員・監督役員
投資主
〔出所〕 投資信託協会『日本の投資信託2014』
4.投資信託の商品 わが国における広義の投資信託の全体像は右図の様に整理され,以下のような分類により区分される。
公募投信と私募投信 販売対象により,50名以上の不特定多数に販売されるファンドが公募投信であり,金商法で定める適格機関投資家・特定投資家または50名未満の少数に販売されるファンドが私募投信である。私募投信は1998年の投信法改正により設定が可能となった。公募投信に比べて運用規制が緩やかなため,投資者の合意さえ得られれば自由な商品設計が可能となることから機関投資家を中心に大口投資家のニーズをとらえるとともに,変額年金保険の運用対象ファンド等としても規模を拡大している。
株式投資信託と公社債投資信託 わが国の税法において,株式を若干でも組み入れることができるファンドを株式投信,株式を一切組み入れずに公社債等だけで運用するファンドを公社債投信と規定して,それぞれの取り扱いが異なっている。このため,債券を投資対象とする投資信託を株式投信として設定し,投資家が株式投信の長所を享受できるようにするケースも多い。このようなこともあり,株式投信の運用対象は様々で,多様なファンドが含まれている。公社債投信の中には長期債中心に運用するものと,短期金融市場の商品で運用する MRF(マネー・リザーブ・ファンド)などがある。
単位型と追加型 ファンド発足前の募集期間のみに元本価格で資金を受け入れ,その後は追加資金を受け入れないタイプのファンドが単位型(ユニット型とも呼ばれる)である。一方,ファンド発足後も引き続き時価で追加資金を受け入れるファンドが追加型(オープン型とも呼ばれる)である。わが国の投資信託は1951年に貯蓄商品に近い単位型でスタートしたが,現在は諸外国と同様に追加型が主流となっている。
投資対象による分類 投資者のファンド選択を容易にするため,投資信託協会はファンドの投資対象等に応じた商品分類を定めており,各ファンドの目論見書には当該ファンドがどの分類に属するかを記載することとなっている。
ETF(上場投資信託) 追加型投信のうち,その受益証券が取引所に上場され株式と同様に売買できるファンドを ETF(Exchange Traded Fund)と呼んでいる。ETF については次節で詳しく説明する。
広義の投資信託の全体像(純資産総額,ファンド本数) 2023年6月末
上段:純資産総額(単位:百万円)下段:ファンド本数
網掛け部分は証券投資信託
公募投信 199,135,236
(5,988本)
契約型投信 187,454,966
(5,923本)
証券投信 187,454,966
(5,923本)
株式投信 171,678,780
(5,832本)
公社債投信 15,776,186
(91本)
単位型 698,471
(94本)
追加型 170,980,309
(5,738本)
単位型 931
(6本)
追加型 15,775,255
(85本)
ETF
その他
72,752,884
(256本)
98,227,425
(5,482本)
投資信託合計 311,679,331
(14,450本)
私募投信 112,544,095
(8,462本)
投資法人 11,680,270
(65本)
契約型投信 109,247,245
(8,407本)
投資法人 3,296,850
(55本)
証券投信以外の投信
0
(0本)
証券投資法人
0
(0本)
不動産投資法人(注)
11,556,977
(60本)
インフラ投資法人(注)
123,293
(5本)
証券投信 109,245,786
(8,406本)
証券投信以外の投信
1,459
(1本)
証券投資法人
18,784
(1本)
不動産投資法人(注)
3,239,261
(53本)
インフラ投資法人(注)
38,805
(1本)
金銭信託受益権投信
0
(0本)
委託者非指図型投信
0
(0本)
株式投信 105,769,862
(7,000本)
公社債投信 3,475,924
(1,406本)
MRF 15,272,377
(11本)
MMF 0
(0本)
その他 502,878
(74本)
(注) 不動産投資法人及びインフラ投資法人は前月(ひと月遅れ)のデータ
〔出所〕 投資信託協会
5.ETF(上場投資信託) ETF(Exchange Traded Fund)とは,金融商品取引所に上場された投資信託のことで上場投資信託とも呼ばれる。ETFは一般の投資信託とは異なり,市場が開いている間,変動する取引価格にあわせてリアルタイムに売買することが可能である。投資家は価格を指定して売買の発注を行ったり,信用取引を行うことも可能である。また,一般の投資信託と比較すると,信託報酬が安いことが個人投資家にとって大きな特長といえる。 ETF の原則的な組成は現物設定・現物交換によって行われる。これは,具
体的には次の様に行われる。投信委託会社が指定する有価証券の現物バスケットを指定参加者と呼ばれる証券会社や銀行,保険会社,年金基金などの機関投資家が市場で買い付け,投信委託会社に拠出する。投信委託会社はこれをもとに ETF を設定し,ETF の受益証券を拠出された有価証券のバスケットの対価として指定参加者に引き渡す。逆に指定参加者は保有する ETF 受益証券を現物バスケットに交換することもできる。現物バスケットと ETF 受益証券の交換が随時可能なものが多い。このため現物バスケットと ETF 受益証券との間で裁定が可能で,取引所における ETF の売買価格と現物バスケットの時価評価額との乖離が小さく保たれる仕組みになっている。
わが国では,従来,特定の指標に連動するタイプのインデックス運用型 ETF のみが上場対象となっていた。代表例は TOPIX 連動型や日経平均連動型で,この2つのタイプだけで,ETF の純資産残高の9割近くを占めている。そのほかには,国内資産では J リート型やレバレッジ・インバース型があり,海外資産では米国株式型や外国債券型がある。
ETF は日本銀行を含む金融機関が大半を保有しており,2022年7月時点でその割合は93.9%と高い(日本銀行だけでも80%以上を保有しているとみられる)。これに比べ個人による保有は少なく2.2%に留まっている。
ETF の純資産残高は2013年頃から急拡大している。これは日本銀行が金融緩和策の一環として始めた ETF の買い入れが2013年以降本格化されたことが大きな要因となっている。そのほか一般の銀行による保有も増えたことや株価の上昇もあり,2023年6月末現在,ETF の純資産残高は73兆円に達している。
ETF の多様化が進み,2023年9月には連動対象となる指標が存在しないアクティブ運用型の ETF がわが国にも登場し,7銘柄が上場され取引されている。
現物拠出型 ETF の仕組み(株式拠出型 ETF の例)
〔出所〕 投資信託協会
ETF の投資部門別保有割合(2022年7月)
事業法人等 外国法人等 個人・その他
0.6%
証券会社 0.8%
2.5%
2.2%
金融機関 93.9%
兆円)
80
70
60
50
40
30
20
10
注) 金融機関保有分の中に日本銀行の保有分が含まれている出所〕 日本取引所グループ「ETF 受益者情報調査」
ETF(内国ETF)の純資産総額
0 08 09 10 11 12 13 14
15 16
17 18 19
20 21
22 23/6
出所〕 日本取引所グループ「調査月報」
6.投資信託の販売 日本の投資信託の募集・販売は,1951年の発足以来,証券会社のみによって行われてきたが,1998年から銀行等の金融機関が加わり, 2005年10月からは一部の郵便局も参加して急速に販売網が広がった。金融機関経由の公募投信の残高シェアは2000年代後半には一時40%を超えたが2023年6月現在21%に低下している。一方,私募投信の残高シェアは当初から50%近くあり,最近では80%を超えている。投信委託会社による直接販売は,残高シェアでは伸び悩んでいるものの,オンライン取引が一般化する中でネット直販への注目度も高まっている。
販売方法は販売会社の店頭,販売員を通じる方法が一般的であったが,ネット取引も普及してきている。2021年の日本証券業協会調査によれば,投資信託の購入をインターネットで行う個人は証券会社経由が20.6%,金融機関経由が 9.9%と,近年増加している。
販売会社は「金商法」をはじめ「金融サービスの提供に関する法律」や日本証券業協会諸規則の適用を受け,さらに投資信託協会の販売ルールの遵守が義務づけられている。すなわち,顧客の知識・経験,投資目的および財産の状況に照らして不適当と認められる勧誘を行ってはならないという「適合性原則」を守るほか,市場リスク・信用リスクなどのリスク要因,取引の仕組みのうちの重要な部分等の「説明義務」,断定的判断の提供など販売における「禁止行為」を犯さない義務,「顧客への誠実義務」などを負っている。また銀行など預金取扱い金融機関が投信を販売する場合には,預金保険の対象でないことの説明をふくめ,預金との誤認防止措置を取らなければならないとされている。さらに2007年の金商法施行にあたっては説明義務強化の一環として「契約締結内容の事前書面交付義務」が導入されたが,投資信託については適格な目論見書の交付により条件を満たせることとなっている。2021年からは「顧客本位の業務運営」の進展に向けてリスクのある投資商品全般について内容の比較を可能にするための「重要情報シート」の導入が推進されている。
なお,日本の投資信託の販売手数料は,以前はファンド毎に定まっていたが, 1998年の投資信託協会業務規定の変更により自由化された。現在は同一ファンドであっても販売会社により手数料が異なるケースも多く,手数料引下げや手数料体系の多様化も進んでいる。
公募投信の販売チャネル別残高内訳(2023年6月末現在)
公募投信全体
銀行等 20.5%
証券会社 78.8%
直販 0.7%
公募株式投信
直販 0.8%
銀行等 22.3%
証券会社 77.0%
公募投信全体の販売チャネル別残高構成の変化
私募投信全体の販売チャネル別残高内訳の変化
7.投資信託の運用 投資信託の主たる運用対象は「投資信託及び投資法人に関する法律施行令」に定められた「特定資産」(2023年9月現在,有価証券,デリバティブ取引に関する権利,不動産など12種類)である。このうち主として有価証券に投資するファンドは証券投資信託と呼ばれる。
2023年6月現在の公募証券投資信託の運用資産の構成は右最上部の図のとおりである。株式の比率は約6割と高く公社債の比率は1割に満たない。また国内株式の組入業種については電気機器,情報・通信などが中心となっている。投信委託会社は各ファンドの目論見書に記載された投資方針に沿って運用を 行うが,その業務遂行にあたっては金商法の投資運用業に関する特則の適用をうける。すなわち,顧客に対する誠実義務,受益者に対する忠実義務と善管注意義務を負うほか,禁止行為として①自己またはその取締役・執行役との間における取引,②運用財産相互間の取引(一部を除く),③特定の金融商品等について取引に基づく価格等の変動を利用して自己または第三者の利益を図るため正当な根拠を持たない取引を行うこと,④通常の取引と異なる条件で,その条件での取引が受益者の利益を害することとなる取引,⑤運用として行う取引に関する情報を利用して,自己の計算において有価証券の売買その他の取引を行うこと,⑥損失補填・利益追加のため,自己または第三者が受益者または第三者に利益を提供することなどがある。また,弊害防止措置等として,他の業務の利益を図るため,あるいは親法人・子法人等の利益を図るため,運用の方針,運用財産の額,市場の状況に照らして不必要な取引を行うことも禁止されている。このほか,投信法上の制限として,一投信委託会社の運用する全ての委託者指図型投資信託が保有する同一企業の株式が,当該企業の発行株式総数の50%を超えてはならないといった制限がある。また投資信託協会は信用リスク規制のほか,投資対象・投資手法などについての自主ルールを設けている。一方,組み入れ株式にかかる議決権行使などの株主権等については投信委託 会社が行使することが投信法に定められており,各投信委託会社はホームペー
ジ等で議決権行使の基本的考え方,議決権行使結果を公表している。このほか, 2014年に策定された「責任ある機関投資家の諸原則(スチュワードシップ・コード)」に沿って上場企業に対するエンゲージメント活動も進んでいる。
投資信託の運用資産構成(2023年6月末,全公募証券投信合計)
その他 11.3%
投信受益証券・
20.4%
公社債 8.6%
投資証券
株式 59.7%
投資信託組み入れ国内株式の業種別内訳(2023年6月末,公募株式投信)
精密機器 3.0%
食料品 3.4%
銀行業 4.5%
その他 17.9%
電気機器 20.3%
情報・通信 9.1%
サービス 4.8%
医薬品 5.5%
卸売 5.7%
機械 5.9%
小売業 6.9%化学 6.4%輸送用機器
6.7%
出所〕 上掲のいずれも投資信託協会データより筆者作成
投資信託委託会社の株主総会における国内株式の議決権行使状況(2022年6月迄の1年間)
-会社提案の議案に対する行使状況,国内株式を運用対象としている68社合計-
議案名称 | 賛成 (A) | 反対 (B) | 棄権 (C) | 白紙委任 (D) | 反対棄権計(E) (B+C)(A | 議案数 合計(F) +E+D) | 反対等 行使比率 (E/F)% | |
会社機関に関する議案 | 取締役の選解任 | 342,203 | 47,328 | 221 | 39 | 47,549 | 389,791 | 12% |
監査役の選解任 | 30,864 | 3,998 | 5 | 4 | 4,003 | 34,871 | 12% | |
会計監査人の選解任 | 1,392 | 7 | 0 | 1 | 7 | 1,400 | 1% | |
役員報酬に関する議案 | 役員報酬(※1) | 20,175 | 1,906 | 2 | 1 | 1,908 | 22,084 | 9% |
退任役員の退職慰労金の支給 | 673 | 1,457 | 0 | 0 | 1,457 | 2,130 | 68% | |
資本政策に関する議案 (定款に関する議案を 除く) (※ | 剰余金の処分 | 30,335 | 1,480 | 5 | 6 | 1,485 | 31,826 | 5% |
組織再編関連(※2) | 788 | 83 | 2 | 0 | 85 | 873 | 10% | |
買収防衛策の導入・更新・廃止 | 48 | 1,078 | 1 | 0 | 1,079 | 1,127 | 96% | |
その他資本政策に関する議案 3) | 1,493 | 111 | 0 | 0 | 111 | 1,604 | 7% | |
定款に関する議案 | 46,472 | 1,492 | 16 | 6 | 1,508 | 47,986 | 3% | |
その他の合計 | 214 | 75 | 1 | 0 | 76 | 290 | 26% | |
合 計 | 471,998 | 59,019 | 251 | 57 | 59,270 | 531,325 | 11% |
※1…役員報酬額改定,ストックオプションの発行,業績連動型報酬制度の導入・改訂,役員賞与等
※2…合併,営業譲渡・譲受,株式交換,株式移転,会社分割等
※3…自己株式取得,法定準備金減少,第三者割当増資,資本減少,株式併合,種類株式の発行等
〔出所〕 投資信託協会データより筆者作成
8.投資信託の顧客層 日本の投資信託の保有者構成(保有額ベース)は,右最上部の図のとおりである。個人(家計)が3割を,金融機関が4割弱を保有し,これに保険・年金が続いている。米国と比べると個人と保険・年金の保有割合が低い。日本では私的年金による保有が少なく,金融機関は私募投信を中心に多く保有している。日銀の ETF 買い入れにより中央銀行の比率も高い。
個人への投信普及率は低く,日本証券業協会による2021年度の調査によれば,成人人口のうち投信保有者の比率は10.1%に過ぎない。なお,この比率はバブル期の1988年に世帯普及率で16%を超えていた状況から大きく後退したが, 2003年の6.1%を底に徐々に回復してきたものである。年齢別にみると,55歳以上の男性の保有率は高く概ね15%を超えている。これに比べると20代では 10%以下と低いが,NISA やつみたて NISA を利用して新たに投資信託を保有する人が,特に若年層で目立って増えている。なお,米国では投信の世帯普及率は52%と日本より遙かに高く,世代別では若い Z 世代(18~25歳)でも 36%で,ベビーブーマー世代(58~76歳)の場合には57%に達している(2022年現在)。
2022年の投資信託協会アンケートによれば , 保有投資信託の平均購入総額は
403万円である。件数では100万円未満が35.2%,100万円から300万円が19.5%を占めるが,1,000万円以上も11.3%である(不明・回答拒否が11.0%)。
個人投資家の投資信託の購入目的をみると,最近は「老後の生活資金」のため購入する人が増えている。投資信託協会が2022年に実施したアンケートによると54.6%の人が「老後の生活資金」のために投資信託を購入したと回答している。米国では「退職後の資金」にするために投信を購入する個人が日本の現状よりさらに多い。401k など確定拠出年金を通じて継続的に購入するケースが多いためだ。日本でも,つみたて NISA や iDeCo を含む確定拠出年金を通じて投資信託を購入する人が増えている。「老後の生活資金」などの長期的な目的のために投資信託を購入する人が増えていくものと考えられる。
投資信託の保有者構成(2022年12月末)
中央銀行
日本
その他
事業法人
(参考)米国
その他
事業法人 0.9%
17.6%
2.3%
個人 30.6%
金融法人 0.1%
4.9%
9.6%
個人 56.6%
金融機関 35.2%
保険・年金 13.4%
保険・年金 28.9%
〔出所〕 日本銀行『資金循環統計(確報)』 〔出所〕 FRB, Fund of Funds Accounts
投資信託を保有する個人投資家のプロフィール(2021年)
年齢別投信保有率 | 年収別投信保有率 | |||
男性 | 女性 | |||
20~24歳 25~29歳 30~34歳 35~39歳 40~44歳 45~49歳 50~54歳 55~59歳 60~64歳 65~69歳 70~74歳 75~79歳 80~84歳 85~89歳 90歳以上 | 2.9% 7.3% 10.6% 12.8% 12.1% 11.5% 6.9% 18.6% 15.1% 17.0% 14.3% 15.2% 15.2% 3.2% 0.0% | 2.3% 4.7% 7.5% 7.2% 10.4% 8.3% 6.0% 12.0% 11.0% 10.2% 11.4% 7.8% 5.6% 5.3% 3.3% | 100万円未満 100~200万円未満 200~300万円未満 300~400万円未満 400~500万円未満 500~700万円未満 700~1,000万円未満 1,000万円以上 | 5.7% 8.5% 9.4% 11.7% 13.1% 16.8% 20.4% 32.7% |
全体平均 10.1% |
(注) 全体の回答者は7,000人。
〔出所〕 日本証券業協会「証券投資に関する全国調査(個人調査)2021年度(令和3年)」
個人投資家の投資信託の購入目的
日本 | (参考)米国 | ||
老後の生活資金 | 54.6% | 退職後の資金 | 80% |
資産のリスク分散 | 29.8% | 現在の収入の補完 | 6% |
金融・経済・投資の勉強のため | 15.2% | 不時に備えて | 5% |
不測の事態への備え | 11.7% | 住宅または高額商品購入 | 3% |
結婚資金,住宅資金等,ライフイベントの支払いに備えるため | 9.4% | 節税 | 2% |
子供又は孫のための教育などの資金 | 8.3% | 教育資金 | 2% |
レジャー資金 | 6.8% | その他 | 2% |
〔出所〕 投資信託協会「投資信託に関するアンケート調査」2022年,複数回答,上位項目のみ掲載
米国は ICI“Profile of Mutual Fund Shareholders”(2022年),「主たる目的は何か」への単数回答
9.投資信託のディスクロージャー 投資信託についてのディスクロージャー(情報開示)は,1997年までは証券取引法の適用除外とされ投信法の枠組みの中で行われていた。しかし1998年の金融システム改革法の実施により,ファンドの設立が承認制から届出制に規制緩和されたことなどをうけて,株式などと同様に証券取引法(現在は金商法に移行)の適用も受けることとなった。したがって現在は公募証券投資信託のディスクロージャーは金商法と投信法の二つの法の下で行われている。その内容を概説すると次のとおりである。
発行開示 金商法にもとづく募集時の開示は,監督当局向け(公衆縦覧)の
「有価証券届出書」の提出と,個別投資家向けの「目論見書」の交付により行われる。目論見書については,投資信託の販売形態の特殊性(株式が新規公開・増資の時だけに募集が行われ,そのほかの時には投資家は流通市場で既発行株式を取得するのに対し,投資信託は常に新規発行証券の募集が行われること)を踏まえ,2004年に投資家に情報を分かりやすく提供する趣旨から,目論見書の2分冊化が実施された。すなわち購入約定をおこなう全ての投資家に事前交付しなければならない「交付目論見書」と,投資者の請求があった場合に交付する「請求目論見書」の2本建てとなっている。
一方,投信法にもとづく発行開示としては監督当局向けの「約款の内容の届出」と,投資者向けの「約款の内容記載書面の交付」があるが,後者については目論見書に記載することで足りるとされている。
継続開示 ファンド発足後の金商法にもとづく開示は,ファンド決算時における監督当局向け(公衆縦覧)の有価証券報告書の提出(年1回決算の場合は半期報告書も提出)により行われる。
一方,投信法にもとづく継続開示は個別投資家向けの「運用報告書」の交付により行われる。この運用報告書は,上記の目論見書の2分冊化と同様の趣旨から,2014年に全受益者に交付する「交付運用報告書」と,運用会社ホームページに掲載するとともに受益者の請求があった場合に交付する「運用報告書(全体版)」に2段階化された。
この他,投資信託協会では自主ルールとして各投信会社がホームページ等に掲載すべき「適時開示」規定を設けており,各ファンドについて月次開示等が行われている。
日本の公募証券投資信託ディスクロージャー制度
法 定 開 示 | 自主開示 | ||||
監督当局向けと公衆縦覧開示 | 投資家向け個別交付開示 | 投資者向け公衆縦覧開示 | |||
金融商品取引法 | 投資信託法 | 金融商品取引法 | 投資信託法 | 投資信託協会規則等 | |
発行開示 募集時開示) | 有価証券届出書訂正届出書 | 約款の 内容の届出 | 目論見書 (交付目論見書)(目 (請求目論見書) | 約款の内容記載書面 論見書記載で可) | 「目論見書作成に当たってのガイドライン」を規定 |
継続開示 運用中開示) | 有価証券報告書半期報告書 臨時報告書 | 運用報告書 | 運用報告書 (交付運用報告書) (運用報告書全体版) | 各投信会社のホームペ ー ジ に「MMF, MRF の月次開示」 と「適時開示」 |
(
(
〔出所〕 杉田浩治氏作成
公募証券投資信託の交付目論見書(説明書)の主要記載事項
記載項目 | 記載内容 | |
[表紙等に記載する項目] | ||
⑴ | ファンドの名称および商品分類 | 有価証券届出書に記載されたファンド名称と,投資信託協会制定「商品分類に関する指針」における商品分類。 |
⑵ | 委託会社等の情報 | 委託会社名,設立年月日,資本金,運用する投資信託の純資産総額,ホームページアドレス,電話番号,受託会社名等。 |
[本文に記載する項目] | ||
⑴ | ファンドの目的・特色 | 約款の「運用の基本方針」「投資態度」等にもとづくファンドの特色,投資の着目点。また,ファンドの仕組み,運用手法,運用プロセス,投資制限,分配方針等,ファンドの特色となる事項。運用の外部委託をする場合は委託先の名称,委託内容。 |
⑵ | 投資リスク | 基準価額の変動要因,リスクの管理体制,他の資産との比較。 |
⑶ | 運用実績 | ①直近10年間の基準価額・純資産の推移-基準価額は折れ線グラフ,純資産は棒グラフまたは面グラフ。 ②分配金の推移-直近10計算期間。 ③主要資産の状況-組み入れ上位10銘柄,業種別比率,資産別比率など。 ④年間収益率の推移-直近10年間の騰落率を暦年毎に棒グラフにより記載。ベンチマークのあるファンドはベンチマークの騰落率も併記。 |
⑷ | 手続・手数料等 | ①お申し込みメモ(購入価額・申込手続・信託期間,課税関係など)。 ②ファンドの費用(購入時手数料・信託財産留保額・運用管理費用(信託報酬)とその配分,その他の費用,税金等。 |
⑸ | 追加的情報 | ファンドの特色やリスク等をより詳しく説明する必要がある場合(ファンド・オブ・ファンズ,仕組債やデリバティブを利用する場合など)は,その内容。 |
〔出所〕「特定有価証券等の内容等の開示に関する内閣府令」および投資信託協会「交付目論見書の作成に関する規則・細則」より杉田浩治氏作成
10.投資信託を活用したサービス・商品など
証券総合口座 投資家が証券会社で取引する際に用いる証券総合口座の中で追加型公社債投信である MRF が利用されている。株式の配当金や売却代金など証券総合口座に入金された資金は MRF で運用され,証券を購入する際の資金は MRF の解約により捻出される。MRF は証券取引の代金の決済に用いられるため,信用度が高く残存期間が短い金融商品に投資することなど,安全性・流動性に配慮した運用ルールが定められている。2023年6月現在,証券総合口座で運用されているMRFの残高は15.3兆円である(出所:投資信託協会)。
投信ラップ口座 ラップ口座とは,主として個人を対象にした投資一任サービスで,証券会社等が顧客へのヒアリング等によりリスク許容度を判断し,それに基づき資産配分を決め,組入れ銘柄の選択・入替え,運用実績報告など一括して行う資産運用サービスである。日本では,2004年の投資顧問業法の改正により証券会社による投資一任業務が可能となったことを契機にラップ口座の提供が始まった。投信ラップ口座は投資対象を投資信託に絞ったサービスで, 2013年頃より急速に残高が拡大している。投資顧問業協会によると投信ラップ口座の残高は2023年6月現在,15.7兆円に達している。
確定拠出年金制度 確定拠出年金制度は2001年に創設された。確定拠出年金には勤め先がプランを設定し,主として勤め先が掛金を拠出する企業型(従業員による追加拠出も可能)と,個人が自ら金融機関を選択し,主として個人自身が掛金を拠出する個人型(愛称:iDeCo/イデコ)がある。いずれのタイプも個人自らが投資信託や預貯金,保険などの運用対象のなかから自己責任で運用し,それぞれの運用実績により将来受け取る年金額が決まる仕組みになっている。2022年3月現在,確定拠出年金を通じて保有される投資信託は12.6兆円で,同年金資産の58.5%を占めている(出所:運営管理機関連絡協議会)。
変額保険・変額年金保険 変額保険及び変額年金保険は契約者が払い込んだ保険料を投資信託などで運用し,その運用成績により将来受け取る保険金及び年金額が左右される仕組みである。保険会社による直販のほか,証券会社や銀行等が募集代理店として販売している。なお,変額保険・変額年金保険を通じた投資信託への投資は,2022年3月現在,約7兆円と推計される(保険会社各社のディスクロージャー資料を筆者が集計)。
・申込み単位:1円以上
・申込み,換金手数料なし
・即日買付け,解約(正午など一定時刻まで)
・即日引出し(キャッシング)も可能
MRF
証券総合口座のイメージ
顧客の 預金口座等
入出金
買付・売却代金自動振替
株式
債券 への投資投信
〔出所〕 証券会社のホームページの商品紹介を参考に作成
投信ラップ口座のサービスの流れ(例)
資産運用に関するヒアリング
投資方針の見直し
運用スタイルのご提案
定期的な運用報告
投資一任契約の締結
投資一任契約に基づいた運用
資産クラスごとに特定された投資信託群
〔出所〕 大和証券ホームページなどを参考に作成
11.外国投信/外国籍投信 外国の法令に基づいて外国で設定された外国投信の国内販売は1972年に自由化された。当初は国内投信への影響に対する配慮から,外貨建で運用され,円資産の組入比率は50%以下のものとされるなどの規制が行われていた一方,日本の投信法の適用は受けなかったため,当時日本では認められていなかった私募投信なども持ち込まれていた。
しかし1998年の投信法改正にともない,外国投信も投信法の対象となって国内投信と同じ規制が適用されることとなった。すなわち,外国投信を国内で販売する場合にはあらかじめ日本の監督当局に国内投信と同様の届出を行うこと,外国投信の運用が著しく適正を欠き国内投資家の利益が阻害されて投資家の損害拡大を防止する緊急の必要がある場合には,日本の裁判所が国内での募集の禁止または停止命令を出せることなどが盛りこまれた。一方で円建てファンドの国内持ち込みも可能となり,税制も現在は国内投信と同一となった。また,目論見書・運用報告書の作成・交付をふくめディスクロージャー制度も基本的には国内投信と同様になっている。なお,日本証券業協会は「外国証券の取引に関する規則」の中で「外国投信選別基準」を設けて,国内で販売できる外国ファンドの要件を定めている。
最近20年間の外国投信販売残高の推移は右最上部の表のとおりである。基本的に為替動向などの影響を受けて変動してきたが,2000年代前半には,日本の超低金利が継続する中での高利回り外債への投資ニーズの高まりを反映して外国投信の販売は急増した。国内投信と合計した日本の投信市場全体の中での比率で見ても2004年には13%を超えた。その後,国内株ファンドや毎月分配型ファンド等を中心に国内籍の投資信託の残高が拡大していったのに比べ,外国籍ファンドの残高は横ばいが続いている。2023年6月時点の残高は7.4兆円と 10数年ぶりの水準となったが,日本の投信市場全体の比率は3.8%にまで低下している。商品別残高の内訳は右中央部の図のとおりで,大きな傾向的として, MMF を含めた広義の債券型ファンドが過半を占めている。なお,設定国別の内訳では従来ルクセンブルグ籍が圧倒的に多かったが,2005年頃からケイマン諸島籍のファンドが増加しており,2023年3月末現在の純資産総額の内訳を見ると,ケイマン諸島籍52.2%,ルクセンブルグ籍34.3%,その他が13.5%となっている。
日本における外国投信販売残高(単位:億円)と投信全体に占める比率(公募分)
年末 | 外国投信残高(A) | 国内投信残高(B) | 合計(C) | (A)/(C) |
2002 | 47,146 | 360,160 | 407,306 | 11.6% |
03 | 54,424 | 374,357 | 428,781 | 12.7% |
04 | 62,409 | 409,967 | 472,376 | 13.2% |
05 | 79,669 | 553,477 | 633,146 | 12.6% |
06 | 87,102 | 689,276 | 776,378 | 11.2% |
07 | 79,507 | 797,606 | 877,113 | 9.1% |
08 | 51,473 | 521,465 | 572,938 | 9.0% |
09 | 59,306 | 614,552 | 673,858 | 8.8% |
10 | 58,800 | 637,201 | 696,001 | 8.4% |
11 | 52,358 | 573,274 | 625,632 | 8.4% |
12 | 57,839 | 640,638 | 698,477 | 8.3% |
13 | 59,625 | 815,232 | 874,857 | 6.8% |
14 | 62,893 | 935,045 | 997,938 | 6.3% |
15 | 54,248 | 977,562 | 1,031,810 | 5.3% |
16 | 53,540 | 966,415 | 1,019,955 | 5.2% |
17 | 60,913 | 1,111,920 | 1,172,832 | 5.2% |
18 | 54,143 | 1,051,592 | 1,105,735 | 4.9% |
19 | 62,094 | 1,231,723 | 1,293,817 | 4.8% |
20 | 65,735 | 1,394,311 | 1,460,046 | 4.5% |
21 | 68,886 | 1,645,000 | 1,713,885 | 4.8% |
22 | 63,347 | 1,571,992 | 1,460,046 | 4.5% |
23/6 | 74,093 | 1,874,550 | 1,948,643 | 3.8% |
(注) 国内投信残高は証券投資信託の残高である
〔出所〕 外国投信残高は日本証券業協会,国内投信残高は投資信託協会より筆者作成
%) 100
90
80
70
60
50
40
30
20
10
0
日本における外国投信残高の商品分類別内訳
その他 MMF
債券型
(除くMMF)株式型
2002 03 04 05 06 07 08 09 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20 21 22 23/6
%) 100
90
80
70
60
50
40
30
20
10
0
日本における外国投信残高の表示通貨別内訳
その他 | |
ユーロ円 米ドル | |
2002 03 04 05 06 07 08 09 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20
〔出所〕 上記2図は日本証券業協会資料より筆者作成
21 22 23/6