○ ADR に係るサービス(役務)の提供の形態 、提供に関係する者 は極めて多様である。
第三 一般的事項
○ ADR に係るサービス(役務)の提供の形態 、提供に関係する者 は極めて多様である。
(サービスの提供形態)
① ADR に係るサービスを提供することを業務とする団体の下で実施される形態(以下「機関 ADR 」という。)
② ADR に係るサービスを提供することを業務とする個人の下で実施される形態(以下「個人 ADR 」という。)
③ ADR に係るサービス提供を業務としない団体や個人がたまたまA DR を実施する形態(以下「アドホック ADR 」という。)
(提供に関係する者)
① 業務としてADR に係るサービスを提供する団体や個人(以下「ADR 機関」という。)
② 上記の各提供形態における主宰者(業としない者も含む。以下同じ。)
③ ADR 機関(①にあるように、個人 ADR では主宰者=ADR 機関となる。)の役職員や主宰者の補助者(以下では、②、③を総称して「担い手」という。)
○ このような多様性のある ADR において、ADR 機関や担い手は、どのようなル ールに従って利用者(紛争当事者)に対して ADR に係るサービスを提供すべきか、また、利用者は、どのような場合にルール違反を問えるかという点については、基本的には、ADR に係るサービス提供者(A DR 機関又は主宰者)と利用 者 との間の合意(契約 )によるべきものと考えられる15 。この場合、実態 としては、手続ごとに結ばれる合意のほか、機関 ADR や個人 ADR にあっては、利用者が原則として従うこととなる ADR 機関規則が大きな役割を果たしている。
○ ただし、これまでの検討では、合意(契約)を基本としつつも、国民は、ADR の選択に当たっての利便性、ADR の提供体制や手続それ自体のxx性・信頼 性が確保されてこそ、安心して ADR を利用した紛争解決を図ることができるの
15 ADR の個々の手続において、A DR に係るサービス提供者(A DR 機関又は主宰者 )と利用者の双方とも、利用に当たって合意(契約 )を結ぶという意識は希薄なのではないかという指摘もあるが、利用者か らの依頼に基づくサービスの提供、さらに、場合によっては、利用料金の支払がある以 上 、観念的には、両者の間には、(準 )委任契約又はそれに類する契約
(無名契約)が成立するものと考えられる。
だから、ADR の健全な発展を図っていくためには、ADR 機関や担い手が遵守すべき最低限のルールを、法令あるいはガイドラインという形で、国として明らかにする必要があるのではないかという指摘もなされている。
○ 以下では、こうした指摘 やこれまでの検討状況を踏まえて、必要と考えられるルールを抽出し、それらを ADR 機関や担い手の義務(努力義務を含む。)とする場合に考えられる義務内容等について、更に検討を深めるべき論点を掲げている。
なお、ADR の多様性を踏まえると、そのすべてを法令上の義務(努力義務を含む。)とするのではなく、A DR 機関規則やガイドラインと適切 な役割分担を図っていくことも必要であると考えられる。
○ また、ADR の現場では、ADR を幅広く支えるものとして、相談が重要な役割を果たしているという実態があり、そのxx性・信頼性の確保・向上は、ADR の健全な発展を図る上で一つの鍵となるという指摘もある。したがって、ADR に関する義務を設ける場合には、必要に応じて、相談 手続への適用 も検討 すべきものと考えられる。
1.xxな手続運営の確保義務(努力義務)
【論点10】
主宰者16 は、手続の全過程を通じて、xxな手続 運営が確保されるように努めなければならないものとすることについて、どう考えるか。
○ 趣旨
ADR のxx性・信頼性を確保する上で最も重要な要素は、手続が当事者間にxxに行われることであり、そのためには、手続を進行させる主宰者が、常に xxな手続運営が確保されることを旨として行動することが必要不可欠であると考えられる。
したがって、その重要性にかんがみ、主宰者が常に遵守すべき行為規範として、
xxな手続運営を確保するよう努めることを法令上の義務として明確化するとい
16 ADR の主宰者のうち仲裁人については、仲裁法に別段の定めがあるので、仲裁法の規定が適用されることとなると考えられる。
う考え方を示 したものである17 。
なお、検討の過程では、主宰者には適正な結果の確保に努めることも求められるべきではないかという点についても議論があった。この点については、紛争解 決の結果が適正なものであることは望ましいものの、主宰者は、必ずしも、すべての ADR において合意内容に関与するわけではないことから、主宰者の義務としては位置付けなかったものである。
○ 内容
(対象となる主宰者)
サービス提供を有償で行うか無償で行うか、業 として行 うか否か、主宰する手続が裁断型であるか調整型であるかにかかわらず、すべての主宰者を対象とした義務とすることが適当ではないかと考えられる。
(xxな手続運営の意義)
xxとは、一般には、「xxで、かつ、誤 りがないこと」であるとされる。
ただし、手続を主宰する全過程でどのような行動をとることがxxな手続運営の確保に努めたことになるのかについては、手続の種類、解決を導 く手法、紛争 当事者間の関係等によって自ずから異なる面があり、一律に示すことは困難である。
(法律上の効果)
主宰者による自主的な取組を促進する観点から、努力義務(訓示規定)として設けることが適当ではないかと考えられる。その場合には、xxな手続運営の確保に努めなかったことによって、直ちに何らかの私法上・行政法上の責任が発生することはない。
17 主宰者に対し、xx性のほかに、紛争当事者双方との関係における中立性・独立性を 求める考え方もある。しかし、①中立性については、厳格に中立性を追求すれば、一方当事者に後見的に関与する ADR を一律に排除しかねないこと、②独立性の考え方如何によっては、例えば、事業者や消費者等の特定の団体が設立・運営に関与する ADR を一律に排除しかねないことから、これらについては盛り込まなかったものである(主宰者が一方当事者の 代理人又は代理人に準ずる者のみで構成されるものは、むしろ相対交渉の一類型と観念することが適当である。)。
2.AD R 機関に関する一般情報の提供義務(努力義務)
【論点11】
① ADR 機関は、ADR を利用しようとする者が適切、円滑に ADR を選択できるように、その ADR 機関に関する一定の情報を提供するよう努めなければならないものとすることについて、どう考えるか。
(考えられる情報の例)
・ 取り扱う紛争の種類
・ 利用可能な手続の種類
・ 標準的な費用
・ 主宰者候補者の経歴・専門分野
・ 組織の運営主体・責任者
・ 過去の利用状況
② 相談機関についても、①に準じた努力義務を負うものとすることについて、どう考えるか。
○ 趣旨
ADR 機関に対して自己に関する情報の提供を求めることによって、ADR を利用して紛争解決を図ろうとする者が多様な手続等の中から自らに適した手続等を提供する ADR 機関を選択できるようにするとともに、利用者の選択を通じて、 ADR の提供体制やサービス内容のxx性・信頼性の向上を図ってい くという考え方を示 したものである。
○ 内容
(対象となる ADR 機関)
サービス提供を有償で行うか無償で行うかにかかわらず、すべての ADR 機関 を対象とした義務とすることが適当ではないかと考えられる。
(提供されるべき情報)
提供されるべき情報 としては、論点に掲げた情報のほか、組織の財政基盤や紛争解決の実績等も対象とすることが考えられる。しかし、これらに対しては、諸 外国の例や利用者のプライバシー・営業秘密等の保護との関係にかんがみると、努力義務とはいえ、情報提供を一律に求めることは適当ではないのではないかという意見もある。
(法律上の効果)
ADR 機関による自主的な取組を促進する観点から、努力義務(訓示規定)と
して設けることが適当ではないかと考えられる。
その場合には、情報提供がなされなかったことによって、直ちに何らかの私法上・行政法上の責任 が発生することはない。
○ その他
情報提供を求める趣旨は相談機関にもあてはまるものであり、ADR 機関に準じ、相談機関を対象 とする努力義務 も設けることが適当ではないかと考えられる。
3.質の高い ADR の担い手の確保に関する義務(努力義務)
【論点12】
① ADR 機関は、必要に応じて相互に連携しつつ、AD R の担い手の能力の確保に努めなければならないものとすることについて、どう考えるか。
② 主宰者 (AD R の主宰を業として18 行 う者に限る。)は、紛争解決に係る専門的能力の習得に努めなければならないものとすることについて、どう考えるか。
③ 相談機関及び相談員についても、①及び②に準じた努力義務を負うものとす
ることについて、どう考えるか。
○ 趣旨
ADR のxx性・信頼性を確保していく上では、十分な紛争解決に係る専門的能力 19 を有する主宰者によって質の高いADR が提供されること、また、的確な業務管理・処理能力を有する ADR 機関の役職員等 により主宰者を支える体制が確立されていることが、極めて重要であると考えられる。
そこで、ADR 機関や主宰者には、必要に応じて相互に連携しつつ、質の高い ADR の担い手を確保するための努力が社会的にも要請されていることを明確にすることによって、種々の方法による ADR の提供体制の充実を期待するという考え方を示 したものである。
○ 義務の内容
(対象となる ADR 機関・主宰者)
18 「業とする」とは、反復継続 して行うことをいい、その行為が有償で行われるか無償で行われるかは問わない。
19 紛争解決に係る専門的能力としては、調整能力 ・調停技術やカウンセリング技術等が考えられる。
すべての ADR 機関及び主宰を業として行う主宰者を対象とした義務とすることが適当 ではないかと考えられる。
(とるべき措置の内容)
人材確保や能力向上の方法・程度については、各々の ADR 機関や主宰者の事情に応じて異なるものと考えられるので、それぞれの自主性に委ねることが適当ではないかと考えられる20 。
(法律上の効果)
ADR 機関や主宰者による自主的な取組を促進する観点から、努力義務(訓示規定)として設けることが適当ではないかと考えられる。その場合には、担い手の確保等に努めなかったことによって、直ちに何らかの私法上・行政法上の責任が発生することはない。
○ その他
質の高い担い手を確保するよう努力を求める趣旨は相談機関や相談員にもあてはまるものであり、ADR 機関や主宰者に準じ、相談機関や相談員を対象とする努力義務も設けることが適当ではないかと考えられる。
20 担い手については、A DR 機関が自ら主宰者等を養成・育成することもあるが、主宰者の能力水準の向上や機関からの独立性保持等の観点からは、主宰者の養成 ・育成は主宰者の団体があたり、ADR 機関は、そのように養成・育成 された者を受け入れるという形の方がよいという指摘もある。このような議論も踏まえ、ここでは、「確保 」という文言を用いているものである。
4.サービス提供に関する重要事項の説明義務
【論点13】
① ADR に係るサービス提供者は21 、利用希望者からの利用申込みがあったときは、その者に対し、一定の ADR に係るサービスの利用条件に関する重要事項 を説明 しなければならないものとすることについて、どう考えるか。
(考えられる説明事項の例)
・ 提供 されるサービス内容
・ サービス提供を受けるために利用者が支払うべき費用
・ 契約締結によって利用者に適用される手続進行 ・主宰者選任等に関する手続の内容
② 相談手続に係 るサービス提供者についても、①に準じた義務を負うものとす
ることについて、どう考えるか。
○ 趣旨
ADR は非定型的であり、ADR 機関の規則に従うことに利用者が同意することによって定まる手続上のルールも多いこと等を踏まえると、利用希望者がその ADR 機関の提供するサービスについて十分理解・納得 した上で利用を決定(契約の締結)することが必要ではないかと考えられる。
契約法上、契約当事者間で情報格差が存在する場合等には、情報を有する側は、xxx上、契約の締結に際して一定の説明義務を負うものとする考え方もある。ここでは、ADR の利用希望者の利益を保護する観点から、契約法上の一般原則に従って ADR 機関が負う利用申込み時の説明義務の内容を明確化することによって、利用者が安心してADR による紛争解決を図ることができるようにするという考え方を示したものである。
○ 義務の内容
(対象となる ADR 機関・主宰者)
サービス提供を有償で行うか無償で行うかにかかわらず、すべての ADR に係るサービス提供者を対象とした義務とすることが適当ではないかと考えられる。
(説明されるべき重要事項)
説明 されるべき重要事項としては、論点に掲げたように、その利用者に提供さ
21 ADR に係るサービス提供者とは、ADR 機関 もしくは主宰者又はその両者をいう。いずれが義務の主体となるかについては、サービス提供に関する契約においていずれが契約当事
れるADR に係るサービスについて、サービス提供の責任体制、主宰者候補者の経歴等のサービスの具体的内容 、利用者が支払を要求される費用の内容・範囲、契約の解除や終了に関する事項、ADR 機関の手続規則等が考えられる。
なお、事後のトラブルを回避するために、説明事項を記載した書面の交付を義務付けることも考えられる。
(法律上の効果)
上記の説明義務については、私法上の義務として設けることが適当ではないかと考えられる(ADR に係るサービス提供者がこの重要事項の説明義務に違反したことによって、利用者に損害が発生したときには、これを賠償する義務が発生することになる。)。
なお、民法上の詐欺(96 条)、錯誤(95 条 )に関する規定や消費者契約法上の消費者契約の申込み又はその承諾の意思表示の取消しに関する規定(第 4条~第 7 条)等の既存規定の適用は排除されないが、今回の法制の整備において、これらのほかに、新たに上記の説明義務が履行されなかったことをサービス提供に係る契約の無効・取消原因としたり、無過失責任の発生原因 としたりする等の特例規定を設けることは基本的には想定していない。また、当該 義務が履行されなかった場合に、行政上の制裁を付与することも想定していない。
○ その他
利用申込み時に一定の重要事項の説明を求める趣旨は相談機関 にもあてはまるものであり、ADR 機関につき義務を設ける場合には、本来的には、それに準じ、相談機関を対象とする義務も設けることが適当ではないかと考えられる。
ただし、相談手続は、電話等を通じて、極めて簡易に、また、短期間で終了するものも多く、義務を明示することによって、かえって実務上の混乱を招くことになるのではないかという懸念があるとの指摘もある。
者となるかによるので一概にはいえない。
5.主宰者22 の有する一定の事実の開示義務
【論点14】
① ADR に係るサービス提供者は23 、別段の合意がある場合を除き、主宰者への就任について利用者からの依頼に応じようとするときには、その利用者に対し、主宰者候補者のxx性又は独立性に疑いを生じさせるおそれのある事実を開示しなければならないものとすることについて、どう考えるか。
② ADR に係るサービス提供者は、別段の合意がある場合を除き、手続 進行中 に、主宰者のxx性又は独立性に疑いを生じさせるおそれのある事実が生じた
ときには、利用者に対し、それを開示しなければならないものとすることについて、
どう考えるか。
○ 趣旨
主宰者が一方当事者と一定の身分関係や利害関係等を有する場合には、手続のxx性が損なわれる結果が現実に生じるか否かは別として、他方当事者に対 して、そのような関係等を有する者を主宰者とする ADR に係るサービスの提供を受けるか否か(受け続けるか否か)を判断する機会を与えることが必要ではないかと考えられる。
契約法上の一般的な考え方によっても、受任者が負う契約締結に際してのxxx上の説明義務や委任契約(準委任契約)における善管注意義務からこのような義務の存在を導き出すことが可能 な場合も多いと考えられる。しかし、現状では、必ずしもこのような義務の存在が普遍的なルールとして確立されているとはいえない状況にある。そのため、委任契約(準委任契約)締結に当 たり、このような開示義務の取扱いが当事者間で意識されず、当事者の意思が不明確である場合も多い。
そこで、利用者の利益を保護する観点から、①就任要請時に契約締結に際してのxxx上 ADR に係るサービス提供者が負う開示義務の内容を明確化するとともに、②就任後に(準)委任契約上 ADR に係るサービス提供者が負う開示
22 ADR の主宰者のうち仲裁人については、仲裁法に別段の定めがあるので、仲裁法の規定が適用される。
23 ADR に係るサービス提供者とは、ADR 機関若しくは主宰者又はその両者をいう。いずれが義務の主体となるかについては、サービス提供に関する契約においていずれが契約当事者となるかによるので一概にはいえない。なお、A DR 機関が義務の主体となる場合には、 ADR 機関は、義務を履行するために、主宰者に一定の事実を開示させるということになる。なお、主宰者が、一定の事実を故意に開示しなかった場合でも、ADR 機関は 、選任上 ・監督上の過失の有無にかかわらず、不履行責任を負うこととなる。
義務につき当事者の意思を補充する規定を設けることによって、利用者が安心して ADR による紛争解決を図ることができるようにするという考え方を示したものである。
○ 義務の内容
(対象となる ADR 機関・主宰者)
サービス提供を有償で行うか無償で行うかにかかわらず、すべての ADR に係るサービス提供者24 を対象とした義務とすることが適当ではないかと考えられる。
(開示されるべき事実)
開示されるべき事実としては、例えば、当事者 との間に親族関係等の身分関係があるという事実、その紛争について当事者の代理人であったという事実等が考えられる。
ただし、xx性又は独立性の内容については、ADR の種類や手続の内容、当事者間の関係等により異なり得るものと考えられ、これを法令上の義務として規定することとなった場合に、「xx性又は独立性に疑いを生じさせるおそれのある事実」という表現を更に具体化できるか否かについては、なお検討を要する。
(開示義務が生ずる時点)
開示義務が生ずる時点は、利用者が主宰者を選任することとされている場合にあっては、利用者からの就任要請に対してその交渉に応じることとした 時から ADR の手続が終了するまでとすることが適当ではないかと考えられる。また、 ADR 機関等が主宰者を指名することとされている場合にあっては、主宰者として指名された時から ADR の手続が終了するまでとすることが適当ではないかと考えられる。
なお、具体的な手続終了の事由や時期は、A DR によって異なるものと考えられるが、本論点の義務との関係でどの程度これを明確化すべきかについては、更に検討を要する。
(法律上の効果)
上記の開示義務については、私法上の義務として設けることが適当と考えられる。これにより、A DR に係るサービス提供者は、私法上の義務として、主宰者 xxx、就任要請時に一定の事実を開示する義務を負い、また、主宰者の就任 後は、明示又は黙示の合意がある場合はもちろん、反対の合意25 のない限り、
24 ただし、契約法上の一般的な考え方から、アドホック ADR の場合のように、ADR に係るサービス提供を業務としない者についてまで、このような義務を負うことが導き出せるかという点については、なお検討を要する。
25 例えば、A DR 機関は、自 らの責任においてxx性・独立性に問題のない者を主宰者に
一定の事実を開示するという義務を負うことになる(ADR に係るサービス提供者がこの一定の事実の開示義務に違反したことによって、利用者に損害が発生したときには、これを賠償する義務が発生することになる。)。
なお、論点13の場合と同様に、今回の法制の整備において、新たに上記の開示義務が履行されなかったことをサービス提供に係る契約の無効・取消原因としたり、無過失責任の発生原因 としたりする等の特例規定を設けることは基本的には想定していない。また、義務が履行 されなかった場合に、行政上の制裁を付与することも想定していない。
また、主宰者のxx性又は独立性に疑いを生じさせる事実がある場合であっても、利用者がそれを認識した上で主宰者となることに同意するのであれば、主宰者に就任することが妨げられるものではない。
指名するので、利用者は個々の主宰者に対しては事実の開示を求めないという ADR 機関の規則に従うことに利用者が同意している場合。
6.秘密の保持義務
【論点15】
① ADR に係るサービス提供者は26 、別段の合意がある場合又は正当な理由がある場合を除き、AD R に係る業務に関して知りえた秘密を漏らしてはならないものとすることについて、どう考えるか。
② 相談手続に係るサービス提供者についても、①に準じた守秘義務を設けるも
のとすることについて、どう考えるか。
○ 趣旨
ADR の手続を円滑・適正に進行させるためには、利用者が、主宰者をはじめとするADR の担い手に対して、たとえ秘密にわたる事項であっても安心して実情を述べられることが必要である。したがって、ADR 機関の規則や利用者との間での明示的な合意がなくとも、ADR に係るサービス提供者は、当然に、ADR に係る業務に関して知りえた秘密を保持すべき義務を負うものと認識されている。
このような義務の存在は、契約法上の一般的な考え方によって、委任契約
(準 委任契約)における善管注意義務から導き出すことが可能 な場合も多いと考えられる。しかし、委任契約(準委任契約)締結 に当たり、このような秘密保持の取扱いが当事者間で意識されず、当事者の意思が不明確であることもある。
そこで、利用者の利益を保護する観点から、委任契約(準委任契約)上 ADR
に係るサービス提供者が負う秘密保持の義務につき当事者間の意思を補充する規定を設けることによって、利用者が安心して ADR による紛争解決を図ることができるようにするという考え方を示すものである。
ただし、秘密を保持しなくともよい旨の合 意がある場合27 のほか、正当な理由がある場合、例えば、時効の中断を主張立証するために必要であるとして求められた場合等には、特定の事件の内容や解決結果等を第三者に開示すること等が許されてもよいのではないかと考えられる。
26 ADR に係るサービス提供者とは、A DR 機関若しくは主宰者又はその両者をいう。いずれが義務の主体となるかについては、サービス提供に関する契約においていずれが契約当事者となるかによるので一概にはいえない。なお、A DR 機関が義務の主体となる場合には、 ADR 機関は、守秘義務を履行するために、主宰者にA DR 機関外に秘密を漏らさないことを求めることとなる。また、A DR 機関の役職員や補助者についても、A DR 機関等の履行補助者として、基本的には同様の義務を負う。
27 例えば、研究等の資料として用いる場合には、手続の過程や解決結果等を第三者に開示することも許されるというA DR 機関規則を設けている場 合等が想定される。
○ 義務の内容
(対象となる ADR 機関・担い手)
サービス提供を有償で行うか無償で行うか、主宰する手続が裁断型であるか調整型であるかにかかわらず、すべての ADR に係るサービス提供者を対象とした義務とすることが適当ではないかと考えられる28 。
なお、このような考え方によると、法人 が守秘義務を負 う場合もあり得るが、この点については、既存制度においては、一般に、個人 (自然人)が守秘義務の主体 とされていること等 との関係で、なお検討を要するのではないかという指摘もある。
(保持されるべき事実)
保持されるべき事実は、ADR の手続過程において開示された事実、A DR の解決結果等のADR に係る業務を通じて知りえた事実のうち、秘密とされるべきもののすべてとすることが適当ではないかと考えられる。
(法律上の効果)
上記の守秘義務については、私法上の義務として設けることが適当と考えられる。これにより、A DR に係るサービス提 供者は、私法上の義務として、利用者 との間で明示又は黙示の合意がある場合はもちろん、反対の合意のない限り、 ADR に係る業務を通じて知りえた秘密を保持するという義務を負うことになる
(ADR に係るサービス提供者がこの秘密を保持するという義務に違反したことによって、利用者に損害が発生したときには、これを賠償する義務が発生することになる。)。
なお、論点13の場合と同様に、今回の法制の整備において、新たに上記の秘密の保持義務が履行されなかったことをサービス提供に係る契約の無効・取消 原因 としたり、無過失責任の発生原因としたりする等の特例規定を設けることは基本的には想定していない。また、義務が履行されなかった場合に、行政上の制裁を付与することも想定していない。
また、医師 の例などに見られるように、秘密保持の義務の違反に対しては刑罰が科されることもあるが、多様な ADR のすべてを対象とする場合には、刑罰法 規とすることには慎重にならざるを得ない。
なお、このように、秘密の保持義務違反に刑罰を科さないこととする場合は、民事訴訟法上の黙秘義務を負う私人の証言拒絶権29 (民訴法第 197 条第 1 項
28 ただし、主宰を業として行うわけではない者についてまで、契約法上の一般的な考え方からこのような義務を負うことが導き出せるかという点については、なお検討を要する。
29 民事訴訟法においては、いかなる者も裁判所によって求められたときには、証人として証 言を義務付けられ、正当な理由なく証言を拒むことに対しては、過料等の制裁が科されるが、
第 2 号)も認めるべきではないと考えられる。
○ その他
ADR に係るサービス提供者に秘密の保持を求める趣旨は相談手続に係るサービス提供者にもあてはまるものであり、ADR につき義務を設ける場合には、本来的には、それに準じ、相談手続を対象とする義務も設けることが適当ではないかと考えられる。
このような証言義務の例外として、一定の場合において証言拒絶権を認めている。同法第 197 条第 1 項第 2 号は、このような証言拒絶権を認める規定の一つで、医師 、弁護士等の法律によって黙秘義務を負う者(私人 )について、職務上知った事実で、かつ、黙秘義務を 負うものについての証言拒絶権の行使を認めている。