タイトル 公契約条例に関する調査・研究(Ⅰ):野田市の公契約条例に関する調査・研究 著者 川村, 雅則; KAWAMURA, Masanori 引用 季刊北海学園大学経済論集, 65(3): 71-92 発行日 2017-12-30
タイトル | 公契約条例に関する調査・研究(Ⅰ):xx市の公契約条例に関する調査・研究 |
著者 | xx, xx; XXXXXXXX, Xxxxxxxx |
引用 | 季刊北海学園大学経済論集, 65(3): 71-92 |
発行日 | 2017-12-30 |
《研究ノート》
公契約条例に関する調査・研究(Ⅰ)
xx市の公契約条例に関する調査・研究x x x x
― 71 ―
⚑.は じ め に
工事やサービスの提供などを通じて⽛住民 の福祉の増進を図る⽜にあたって自治体は, 多くの民間事業者・労働者の力を必要とする。このとき自治体は発注者,民間事業者は受注 者となり,両者の間で契約が結ばれる。また,そこで働く労働者は事業者との間で契約を結 ぶ(図表 1-1)。図からも推測されるように,後者は前者に強く規定される。
自治体(や国)がこうした一方の契約当事者となる⽛公契約(以下,本稿では断りがない限り,当事者は自治体に限定する)⽜のあ
図表 1-1 自治体発注の仕事における自治体・事業者・労働者の関係
xxたを適正化することで,自治体が発注す る仕事,すなわち,公共工事や委託事業など の仕事を受注する事業者の経営やそこで働く 労働者の労働条件(賃金を含む)の適正化を ねらう⽛公契約条例⽜に関心が集まっている。自治体の財政難や入札制度へのより一層の競 争政策の導入を背景とした諸問題の発生,す なわち,低価格・悪条件での受発注を引き金 に,受注事業者の経営やそこで働く者の労働 条件が悪化し,さらには,工事やサービスの 質低下で,住民・利用者の安全や生命に害が 及ぶという事態の発生がそこにはある。公契 約条例の説明資料でよく描かれる,⽛悪循環⽜状況を⽛好循環⽜に転換すること(図表 1-2)が,求められている。
そのためにも,公契約条例に関する実証研
自治体
(発注者)
公契約
出所:筆者作成。
事業者
(受注者)
労働契約
労働者
究の積み重ねが必要ではないか。そこで本稿では,xx市の公契約条例に関する調査の結果を取りまとめることとする。
図表 1-2 公契約領域の現状・悪循環状況と,公契約条例制定等で期待される好循環状況
出所:連合⽛公契約条例をつくろうパンフレット⽜2012 年⚒月 22 日より。
公契約条例については文献が少なからず発行されている1。とりわけxx市の公契約条例については,2009 年に全国で初めて制定されたことや,当時の市長であるxxxx
(1992 年⚗月⚔日~2016 年⚗月⚓日在任)が積極的に情報発信しているという事情もあって,関係者にはすでに広く知られていると思われる。筆者自身もそれらに学び,弁護士や労働組合らと,条例の制定を中心とする公契約の適正化運動(以下,公契約運動)を札幌市や旭川市で展開してきた2。そして,そこでの体験から,条例制定自治体における経験や条例の効果・実績などをより深く知りたいと思うに至った。それは例えば次のようなことである。
第一に,なぜ札幌市では,条例制定に対して業界団体の強い反対が示されたのか。
たしかに市の当初の準備は十分でなかった面はあるが,ダンピング受注の発生を防ぎ事業経営にとってもプラスになると思われる条例制定に業界団体がかくも強い反対をした背景には何があったのか,そもそも公契約条例とは業界団体に反対されるような性格のもの
1 xxx(2006),xx(2010)のほか,公契約条例の論点整理がされたxx(2015a)を参照。
2 道内では,札幌市と旭川市で継続的な公契約運動が展開されている。(1)2012 年⚒月に政令市である札幌市で公契約条例案が議会に初めて提案された。だが札幌市の公契約条例案は,業界団体の強い反対を背景に,継続審議扱いが続き,その後,同条例案はいったん取り下げられ,修正案が後に出されたものの,議論は深まらずに,2013 年 10
なのだろうか,ということである。
第二に,条例による政策効果の実際である。先の図表に描かれたとおり,条例は労働者の 賃金の規制,ダンピング受注の防止にとどま らぬ多岐にわたる効果が期待されているもの の,一方で,地域や産業の疲弊を目の当たり にすると,その実現には条例制定だけではす まない,克服すべき諸課題があると感じてい る。条例制定は具体的にどんな政策効果(狭 義の効果,xxの効果)を実現しているのか を冷静に把握する必要がある。
第三に,労働者に最低限支払われるべき賃金の算出根拠(モノサシ)とその賃金額である。
公共工事の予定価格の積算にあたっては,
⽛公共工事設計労務単価⽜3 が用いられている。では,業務委託契約や指定管理協定において はどのような算出根拠が用いられているのだ ろうか。賃金の⽛支払い実態⽜を明らかにす ることも重要であるが,そもそも用いられて いる⽛算出根拠(と金額)⽜の検証作業が必 要だと考える。
第四に,公契約条例を担当する者の⽛負担⽜など体制や運用に関わることである。
端的に言えば,⽛(条例を制定することで)これ以上の負担は増やしたくない⽜という声が自治体の側から率直に,あるいは暗に,聞かれる(自治体の労働組合からさえも,聞かれる)。定数削減で現場が疲弊しているという事情もあるのだろう。公契約条例の制定にあたって自治体職員を最大の⽛抵抗勢力⽜と
せず,最大の⽛推進勢力⽜とする4 には何が
月末日に否決。その直後に議員提案のかたちで条
例案が再提案されるもそれも否決される,という経緯をたどった。詳しくは,xx(2015a),xx
(2015b)を参照。(2)札幌市の条例の否決後,人口規模が道内で二番手である旭川市でも公契約条例の制定運動を活性化させ,2016 年 12 月に,賃金条項をともなわない理念型ではあるものの,北海道で初となる条例が制定されるに至った。旭川での取り組みや制定された条例の課題などについては,xx(2017a)を参照。
3 公共工事では,国土交通省と農林水産省による
⽛公共工事労務費調査⽜に基づき,⽛公共工事設計労務単価⽜が決定され,それが予定価格の積算に用いられる。同単価は,市場価格(賃金の支払い実態)に基づき決定されるため,この間,公共工事の削減など建設投資が減少するなかで,設計労務単価と賃金支払いの双方が,お互いに抑制・削減の方向に機能してきた(負のスパイラル)。
4 公契約条例に造詣の深いxxxx弁護士(多摩市
必要なのだろうか。条例制定自治体ではどんな工夫がされているのだろうか。
以上のような問題意識で実証研究を積み重ね,各地の公契約運動に貢献したい。
⚒.調査の概要
2017 年⚗月 13 日に日弁連貧困対策本部によって主催されたxx市公契約条例調査に同行し,xx市の公契約条例について学んできた(以下,調査団)。
調査に際しては,調査団からの質問事項が同市に事前に伝えられ,回答が準備されていた。また,同市には多くの視察が全国各地から来ていることもあって,資料も準備されていた(⽛行政視察資料⽜)。
調査団による事前質問の内容は,次のように分類される。
公契約条例の実績に関すること
条例改正の内容と経緯
条例の運用に関すること
条例に対する関係者の評価(市の認識)
条例の課題や今後の構想
その他
調査では,事前質問に対する回答・説明が総務部管財課課長によってまず行われ,続く質疑応答では,調査団からの質問に対して,管財課課長と(途中から参加した)副市長による回答が行われた。副市長は,公契約条例の制定作業に関わった中心的なメンバーである(当時は総務部長)。質疑応答時には,公契約条例の業務に携わっている管財課契約係職員(業務を担当して⚓年目)からの説明もあった。
公契約審議会学識経験者委員)の報告によれば,自治体職員は条例制定の最大の推進勢力になる可
本稿で扱う情報・データは以下のとおりである。
xx市から提供された情報・データ
➢行政視察資料
➢調査団による事前質問への回答
➢後日に追加で提供された情報・データ5
xx市⽛公契約条例⽜⽛xx市公契約条例施行規則⽜
xx市⽛xx市公契約条例の手引き(共通)⽜2016 年⚔月
xx市⽛xx市行政改革大綱⽜2015 年⚔月改訂
⚓.xx市の公契約条例のつくりとその改正
賃金条項付きの公契約条例は,自治体を一方の契約当事者とする契約(公契約)において,賃金の適正な支払いを受注業者に義務づけるものである。賃金の支払いができるよう発注価格も当然適正化するものであるから,事業経営の改善にもつながる。また,事業経営や労働条件の改善を通じた,技能労働者の確保,地域経済の活性化,公共サービスの品質確保などが期待されている。本稿では,公契約条例の多岐にわたるこうした効果を念頭におきながらも,差し当たり賃金条項部分に焦点をあててみていく。
⚑)xx市の公契約条例
公契約条例の制度設計でポイントになるのは,(1)条例が適用される事業や労働者の範囲(どこまでの事業や労働者を対象とするのか),(2)支払いを義務づける最低限の賃金の算出根拠と金額及びその決定方法(どういう基準で,いくらの賃金を保障するのか,またそれをどこで誰が決めるのか),(3)労働者へ
能性もあるが,逆に最大の抵抗勢力になるおそれ
も あ る,と の こ と で あ っ た。x x・x x ら
(2017)を参照。
5 現地調査の後に,数度にわたって,追加の情報・データをxx市から提供していただいた。
図表 3-1 xx市の公契約条例前文
地方公共団体の入札は,一般競争入札の拡大や総合評価方式の採用などの改革が進められてきたが,一方で低入札価格の問題によって下請の事業者や業務に従事する労働者にしわ寄せがされ,労働者の賃金の低下を招く状況になってきている。
このような状況を改善し,xxかつ適正な入札を通じて豊かな地域社会の実現と労働者の適正な労働条件が確保されることは,ひとつの自治体で解決できるものではなく,国が公契約に関する法律の整備の重要性を認識し,速やかに必要な措置を講ずることが不可欠である。
本市は,このような状況をただ見過ごすことなく先導的にこの問題に取り組んでいくことで,地方公共団体 の締結する契約が豊かで安心して暮らすことのできる地域社会の実現に寄与することができるよう貢献したいと思う。
この決意のもとに,公契約に係る業務の質の確保及び公契約の社会的な価値の向上を図るため,この条例を制定する。
注:下線は引用者。
出所:xx市ウェブサイトより。
図表 3-2 xx市公契約条例の構成
目的 | 第⚑条 | 損害賠償 | 第13条 |
定義 | 第⚒条 | 違約金 | 第14条 |
受注者等の責務 | 第⚓条 | xx市公契約審議会の設置 | 第14条の⚒ |
公契約の範囲 | 第⚔条 | 組織 | 第14条の⚓ |
労働者の範囲 | 第⚕条 | 委員 | 第14条の⚔ |
適用労働者の賃金等 | 第⚖条 | 会長 | 第14条の⚕ |
適用労働者の申出 | 第⚖条の⚒ | 会議 | 第14条の⚖ |
適用労働者への周知 | 第⚗条 | 意見の聴取等 | 第14条の⚗ |
受注者の連帯責任等 | 第⚘条 | 総合評価一般競争入札等の措置 | 第15条 |
報告及び立入検査 | 第⚙条 | 低入札価格調査制度の拡充等の措置 | 第16条 |
是正措置 | 第10条 | 委任 | 第17条 |
公契約の解除公表 | 第11条第12条 | 水道事業への適用 | 第18条 |
注:第 14 条の⚒から⚗までの公契約審議会に関する条文が 2017 年度から新たに加えられた。公契約審議会については本文を参照。
出所:xx市ウェブサイトより。
の周知方法や支払い賃金の確認方法,遵守されていない場合の是正措置など条例の実効性を担保するための各種の仕組みなどがあげられるだろう。xx市の公契約条例の⽛前文⽜と条例の構成を図表 3-1,図表 3-2 に掲載しておく。
視察での印象を先にまとめると,xx市で は,問題状況の解決の必要性と,一方での 様々な制約状況を考慮しながら,まずは,実 現可能な範囲で条例を制定し,関係者の鋭意 努力によって漸進的な改善(例えば,条例の 適用範囲を広げ,賃金額を改善するなど)を 積み重ねて現在に至る,という印象をもった。
さて,上にあげたポイントにそって条例の特徴を順にあげていくと,第一に,xx市公契約条例の現在の適用範囲は,同条例第⚔条
(図表 3-3)のとおりで,例えば工事であれば予定価格⚔千万円以上の契約,業務委託契約であれば⚑千万円以上の契約で市長が別に定めるもの,加えて,全ての指定管理協定などとなっている。
第二に,支払いが義務づけられた賃金の最低額は,同条例第⚖条(図表 3-4)のとおりで,例えば工事であれば,xx県で定められた公共工事設計労務単価が使われ,現在はその 85%の金額が用いられている。また業務
図表 3-3 xx市公契約条例 第⚔条(公契約の範囲)
この条例が適用される公契約は,一般競争入札,指名競争入札又は随意契約の方法により締結される契約であって,次に掲げるもの及び全ての指定管理協定とする。
(1) 予定価格が 4,000 万円以上の工事又は製造の請負の契約
(2) 予定価格が 1,000 万円以上の工事又は製造以外の請負の契約のうち,市長が別に定めるもの
(3) 前号に定めるもののほか,工事又は製造以外の請負の契約のうち,市長が適正な賃金等の水準を確保するため特に必要があると認めるもの
出所:xx市ウェブサイトより。
①工事又は製造の請負の契約の賃金等の最低額
農林水産省及び国土交通省による公共工事設計労務単価のほか,xx県の積算基準の設計単価を基に設定しています。
工期が複数年度にわたる場合は,原則として契約を締結した年度の賃金等の最低額を適用し,その工期中は,
同じ賃金等の最低額となります。
②業務委託契約及び指定管理協定の賃金等の最低額契約の種類によって,次のとおり定めます。
長期継続契約を締結した業務委託契約及び指定管理協定は,原則として契約又は基本協定を締結した年度の
賃金等の最低額を適用し,その委託期間又は指定期間は同じ賃金等の最低額となります。
職種別設計労務単価÷8(時間)×0.85(定率)※小数点以下切上げ
図表 3-4 賃金等の最低額
契約の種類 | 賃金等の最低額 |
*施設の設備又は機器の運転又は管理に関する契約 *施設の設備又は機器の保守点検に関する契約 | * 建築保全業務労務単価(東京地区)保全技術員補÷8(時間)×0.8(定率) |
*施設の清掃に関する契約 *保健センター,関宿保健センター及びxx市急病センターの清掃に関する契約 | *(A) ×106÷100 (地域手当) ×12 (年月数) ÷2,015 (年間所定労働時間) (A):xx市一般職の職員の給与に関する条例別表第⚑の⚒の⚓の項⚑級の欄に定める額 |
*施設の電話交換,受付及び案内に関する契約 | *既に締結した契約に係る労働者の賃金等を勘案 |
*施設の警備及び駐車場の整理に関する契約 | *建築保全業務労務単価(東京地区)警備員 C÷8 (時間)×0.8(定率) |
*不燃物の処理施設の設備及び機器の運転その他の管理に関する契約 *学校給食の調理及び運搬に関する契約 | *仕様書等に職種ごとに定める額 |
*指定管理協定 | *仕様書等に職種ごとに定める額 |
出所:xx市⽛xx市公契約条例の手引き⽜2016 年⚔月より。
委託や指定管理協定の場合には,建築保全業務労務単価やxx市一般職の職員の給与,臨時職員の給与などが使われている(詳細は後述)。
第三に,賃金最低額の決定は,審議会方式ではなく市長による。
聞き取りによれば,審議会方式を採用して
いる自治体でも,賃金の算出根拠が明示され ているわけでは必ずしもない。それに対して xx市では,算出根拠を明確にしているので,審議会を設ける必要性はとくにないと考えて いる,とのことであった(ただし,2017 年 度から審議会が設けられることになった。こ の点は後述する)。
図表 3-5 xx市行政組織図(総務部)
x x 部 x x 課
人 事 課行 政 x x 課 管 財 課
営 繕 課
庶務係 文書法規係
※市史編さん担当
※工事検査担当
人事研修係 給与厚生係
事務管理係 電子計算係 統計係管財係 契約係
営繕係 庁舎管理係 市営住宅係
出所:xx市ウェブサイトより。
なお,この点に関連して言えば,条例の運用にあたっては労使団体の正式な参加はない
(関係団体に対する市からのヒアリングなどはもちろん行われている)。
第四に,公契約条例に関わる業務は,条例制定に際して増員した契約係職員⚑人が基本的に担当している。xx市の組織図の一部
(総務部部分)を図表 3-5 に示した。
総務省⽛定員管理調査⽜によればxx市の 正職員数は 1000 人超(2016 年⚔月⚑日時点 で 1024 人)である。そのうち総務部には 62 人が配置されており,総務部の一構成組織で ある管財課の職員数は 11 人で,その内訳は,管理職⚒人,契約係⚔人,管財係⚕人である。なお,管財課には臨時・職員は配置されてい ない。
⚒)改正条例の内容と経緯
2009 年に制定されたxx市の公契約条例は,先にも述べたとおり,改正を積み重ねて現在に至る。
条例の改正とは,主には,適用対象の範囲をより広げること,賃金水準を引き上げること,加えて,政策効果をあげてなおかつ事務負担を減らす,という内容にまとめられるだろう。xx市の具体的な改正内容は図表 3-6に整理されている。
主な改正の経緯とその内容は,次のとおりである。
第一に,2010 年⚙月の改正経緯について。まず,施設の設備と機器の運転管理業務及 び保守点検業務については,時間給 829 円を
上回る水準の賃金がもともと支払われており,条例制定の実質的な効果がなかった。そこで 業務委託にも職種別に賃金最低額を設定し, 以下に掲げる⚓項目が勘案されることとなっ た。①xx市一般職の職員の給与,②建築保 全業務労務単価その他の公的機関が定める基 準等,③本市〔xx市〕が既に締結した契約 に係る労働者の賃金等である。
次に,入札で受注者が変わった場合,当該業務に従事する労働者が職を失ったり,仕方なく労働条件を低下させて新受注者に雇用されたりすることが多いことから,従前の受注者に雇用され,当該業務に従事していた労働者を雇用するよう努めなければならないとする努力義務を新受注者に課す規定が追加された。
この点は先行研究でもあげられているとお り,入札で同市の電話交換業者が入れ替わり,労働者も入れ替わったことで,電話交換業務 に支障を来した,という経験が背景にあった。
そして,受注者から下請負者への適正な請負額を確保することが非常に重要であることから,⽛受注者は,建築業法又は下請代金支払遅延等防止法を遵守し,下請負者との契約を締結するに当たっては,各々の対等な立場における合意に基づいたxxな契約としなければならない。⽜という趣旨の規定が条例に追加された。
第二に,2012 年 10 月の改正経緯について。条例拡充の一環として,2010 年度と 2011
年度の⚒か年度分の条例適用の案件の支払い実績を検証した結果,実際に支払われている
図表 3-6 xx市公契約条例の改正の内容
2010 年⚙月
① 業務委託の適用範囲に⽛市長が適正な賃金等の水準を確保するため特に必要があると認めるもの⽜を追加【条例改正及び規則改正】
② 業務委託における適用範囲の拡大【規則改正】
③ 業務委託に職種別の最低額を導入【条例改正】
④ 継続雇用の確保【条例改正】
⑤ 下請者への適正な請負額の確保【条例改正】 2011 年⚙月【条例改正】
① 工事の適用範囲を予定価格⚑億円以上から⚕千万円以上に引き下げ(予定価格⚔千万円以上⚕千円未満のものは 15 条* 適用) *総合評価方式で賃金を評価
2012 年⚘月【規則改正】
① 業務委託における適用範囲の拡大 2012 年 10 月【条例改正】
① 指定管理協定を条例の直接適用に
② 工事の最低額を算出するときに公共工事設計労務単価に乗じる率を 80%から 85%に引き上げ 2013 年⚓月【規則改正】
① 業務委託における適用範囲の拡大 2013 年⚙月【条例改正】
① 工事の適用範囲に水道事業を追加 2014 年⚙月【条例改正】
① 工事の適用範囲を予定価格⚕千万円以上から⚔千万円以上に引き下げ
② 受注者等の条例違反を適用労働者が申出をしたことを理由にした受注者等の当該適用労働者に対する不利益な取り扱いを禁止
2017 年⚓月【条例改正】
① 公契約審議会を設置
出所:xx市提供資料より。
賃金が設計労務単価の 85%未満である労働者は全体の約 13%にとどまったことを受けて,事業者の経営を過度に圧迫することはないと判断し,設計労務単価に対する賃金最低額の割合が引き上げられた。
第三に,2017 年⚓月の改正経緯について。最低賃金が上昇している状況下で,また,
条例の運用を開始して⚘年目を迎えるなかで,様々な課題が見えてきたことから,課題につ いて調査審議するための⽛公契約審議会⽜が 設置されることとなった(詳細は⚕でふれる)。
⚔.公契約条例の実績と運用
⚑)条例の対象となっている契約の件数,労働者数等
xx市から提供された資料によって,図表
4-1 には対象契約件数の推移を,図表 4-2 に は公契約条例の対象となる労働者数の推移を,それぞれまとめた。
2010 年度には 28 件だった条例対象の契約件数は,100 件にまで増大し,同じ期間の対象労働者数は 485 人から約 2000 人(1959人)にまで増大している。
以上を予算規模でまとめたのが図表 4-3 で,条例の対象となる契約の総予算額と,それが xx市の総予算額に占める割合の推移が示さ れている。市発注分でみると,2010 年度に は 6.5%だった,市総予算額に占める割合が, 2016 年度には 14.5%にまで拡大している。
これらの数値の増加には,上で述べたとおり,条例改正による適用範囲・対象の拡大のほか,賃金最低額の上昇などが反映されている。
図表 4-1 対象契約件数の推移 単位:件
2010 年度 | 2011 | 2012 | 2013 | 2014 | 2015 | 2016 | |||
工事請負契約 | 市 | 条例適用注1 | 3 | 5 | 15 | 21 | 20 | 23 | 35 |
第 15 条適用(賃金評価)注2 | 6 | 5 | 1 | 3 | 5 | 適用外 | 適用外 | ||
水道事業 | 条例適用注1 | 適用外 | 3 | 8 | 8 | ||||
第 15 条適用(賃金評価)注2 | 適用外 | 1 | 適用外 | 適用外 | |||||
業務委託契約 | ⚑千万円以上 | 16 | 16 | 17 | 21 | 21 | 21 | 19 | |
業種内訳 | (1)施設の設備又は機器の運転又は管理に関する契約 | 9 | 7 | 7 | 7 | 6 | 6 | 6 | |
(2)施設の設備又は機器の保守点検に関する契約 | 3 | 3 | 3 | 2 | 3 | 3 | 3 | ||
(3)施設の清掃に関する契約 | 0 | 0 | 0 | 0 | 0 | 0 | 0 | ||
(4)施設の電話交換,受付及び案内に関する契約 | 適用外 | 1 | 1 | 1 | 1 | 1 | 1 | ||
(5)施設の警備及び駐車場の整理に関する契約 | 適用外 | 1 | 1 | 1 | 1 | 1 | 1 | ||
(6)xx市文化会館の舞台の設備及び機器の運転に関する契約 | (1)に 区分 | 1 | 1 | 1 | 1 | 1 | 指定管理へ移行 | ||
(7)不燃物の処理施設の設備及び機器の運転その他の管理に関する契約 | 適用外 | 1 | 1 | 1 | 1 | 1 | |||
(8)学校給食の調理及び運搬に関する契約 | 適用外 | 5 | 5 | 5 | 5 | ||||
⚑千万円未満で市長が特別に定める契約 | 適用外 | 1 | 1 | 1 | 1 | 1 | 1 | ||
指定管理協定 | 条例適用 | 適用外 | 4 | 15 | 21 | 23 | |||
2012 年 10 月⚒日までに第 15 条適用し締結した協定 | 3 | 5 | 20 | 20 | 18 | 14 | 14 | ||
年度別合計 | 28 | 32 | 54 | 70 | 84 | 88 | 100 |
注⚑:2010,11 年度は予定価格⚑億円以上。2012~2014 年度は同⚕千万円以上。2015 年度以降は同⚔千万円以上。注⚒:2010,11 年度は予定価格⚕千万円以上⚑億円未満。2012~2014 年度は同⚔千万円以上⚕千万円未満。2015
年度以降は適用無。
出所:xx市提供資料より作成。
図表 4-2 公契約条例の対象となる労働者数の推移 単位:人
2010 年度 | 2011 | 2012 | 2013 | 2014 | 2015 | 2016 | |
工事 | 208 | 587 | 1,389 | 1,146 | 1,089 | 856 | 792 |
業務委託 | 221 | 198 | 275 | 508 | 502 | 498 | 468 |
指定管理者 | 56 | 161 | 404 | 478 | 580 | 629 | 699 |
合計 | 485 | 946 | 2,068 | 2,132 | 2,171 | 1,983 | 1,959 |
出所:xx市提供資料より作成。
ところで,公契約条例が適用される契約についての落札率の推移をまとめた図表 4-4 によれば,落札率が上昇・高止まりしている。この高止まりは条例制定によるものかどうかを尋ねたところ,全てが条例の影響では必ずしもない,とのことである。
聞き取りによれば,例えば,2015,16 年
度には小中学校の耐震工事や空調設備の工事が集中したことが背景としてあげられるという。⚔千万円以上の工事が対象となる総合評価方式では,技術評価点での競争があって,価格を下げたからといって仕事がとれるわけでは必ずしもない。そうした影響もあって工事の落札率が上がっているのではないか
図表 4-3 公契約条例の対象となる契約の総予算額の推移と,その額がxx市の総予算額に占める割合の推移
単位:千円
2010 年度 | 2011 | 2012 | 2013 | 2014 | 2015 | 2016 | ||
市発注分 | 工事 | 2,455,715 | 1,858,994 | 1,629,023 | 2,494,425 | 3,099,676 | 2,632,749 | 4,985,540 |
業務委託 | 423,895 | 401,888 | 413,163 | 988,053 | 981,064 | 977,363 | 952,170 | |
指定管理 | 134,780 | 241,493 | 1,012,515 | 1,323,388 | 1,588,663 | 1,811,007 | 2,064,702 | |
合計(a) | 3,014,390 | 2,502,375 | 3,054,701 | 4,805,866 | 5,669,403 | 5,421,119 | 8,002,412 | |
市の予算(b) | 46,029,238 | 50,187,808 | 51,538,643 | 49,565,048 | 49,419,157 | 51,875,202 | 55,239,161 | |
割合(a/b)(%) | 6.5 | 5.0 | 5.9 | 9.7 | 11.5 | 10.5 | 14.5 | |
水道部発注分 | 工事 | 272,787 | 704,376 | 736,636 | ||||
業務委託 | 186,344 | 186,344 | 191,668 | 191,668 | 191,668 | |||
合計(a) | 186,344 | 186,344 | 464,455 | 896,044 | 928,304 | |||
水道部の予算(b) | 4,164,555 | 4,196,868 | 4,303,472 | 4,894,247 | 4,795,654 | |||
割合(a/b)(%) | 4.5 | 4.4 | 10.8 | 18.3 | 19.4 |
出所:xx市提供資料より作成。
図表 4-4 公契約条例が適用される契約についての落札率(年間の平均的な数字)の推移
(市発注分) 単位:%
施行前 | 施行後 | |||||||
2009 年度 | 2010 | 2011 | 2012 | 2013 | 2014 | 2015 | 2016 | |
工事 | 90.5 | 94.8 | 94.1 | 97.2 | 98.5 | 98.7 | 99.1 | 99.4 |
業務委託 | 95.5 | 97.3 | 90.7 | 89.8 | 91.6 | 89.8 | 90.2 | 94.2 |
注⚑:2012 年 10 月から工事は予定価格を事前公表。
注⚒:工事については,条例第 15 条により賃金評価するものを含む。2010,11 年度は予定価格⚕千万円以上。 2012 年度以降は同⚔千万円以上。
注⚓:工事の 2009 年度の対象範囲は,2010 年度と同じ予定価格⚕千万円以上で設定。注⚔:業務委託の 2009 年度の対象範囲は,2010 年度と同業務で設定。
出所:xx市提供資料より作成。
(2013 年度からは賃金最低額が労務単価比 80%から 85%に変更されていることにも留意),とのことであった。
⚒)賃金等の最低額と,その算出根拠
支払いが義務づけられた賃金最低額の根拠は図表 3-4 で確認したとおりである。賃金額とあわせてもう少し具体的にみてみよう。
第一に,図表 4-5 はxx市の工事における
賃金最低額の推移について,主要 12 職種のそれを取り上げた。2014 年度までは公共工事設計労務単価の 80%だったが,15 年度以降は 85%以上が基準となっている。
聞き取りによれば,現行の労務単価比 85%から 90%を目指す方向性は確認されて
いるが,この間,労務単価が急速に上昇している一方で賃金支払い実績が追いついていないと市では認識している。事業者から提出された資料で調べてみたところ,労務単価比 85~90%で働いている労働者が全体の⚔割以上を占めたので,90%にまで引き上げるのは現時点では難しいと判断している,とのことである。
第二に,図表 4-6 は,業務委託契約におけるそれである。
それぞれの事業や職種ごとに,賃金最低額の算出根拠と賃金額(の推移)が整理されている。最も低い交通誘導員 B で時給額
(2017 年の値)は 1233 円である。⽛不燃物処理施設運転管理業務⽜で働く⽛手選別作業員
図表 4-5 市長が定める賃金等の最低額の推移(xx市の工事における主要 12 職種)
単位:円/時間
2012 年度 | 2013 年度 | 2014 年 2 月 | 2015 年 2 月 | 2016 年 2 月 | 2017 年 3 月 | 参考:北海道 (2017 年⚓月) | |
特殊作業員 | 1,630 | 2,040 | 2,232 | 2,274 | 2,359 | 2,349 | 1,987 |
普通作業員 | 1,340 | 1,743 | 1,839 | 1,924 | 1,987 | 1,977 | 1,637 |
軽作業員 | 1,030 | 1,297 | 1,371 | 1,392 | 1,445 | 1,435 | 1,360 |
とび工 | 1,870 | 2,359 | 2,550 | 2,635 | 2,731 | 2,784 | 2,210 |
鉄筋工 | 1,900 | 2,391 | 1,593 | 2,678 | 2,774 | 2,827 | 2,264 |
運転手(特殊) | 1,680 | 2,115 | 2,221 | 2,264 | 2,349 | 2,338 | 1,966 |
運転手(一般) | 1,510 | 1,892 | 1,987 | 2,019 | 2,094 | 2,083 | 1,669 |
型わく工 | 1,700 | 2,147 | 2,327 | 2,402 | 2,487 | 2,529 | 2,179 |
大工 | 1,930 | 2,434 | 2,635 | 2,710 | 2,540 | 2,582 | 2,338 |
左官 | 1,780 | 2,338 | 2,529 | 2,614 | 2,710 | 2,752 | 2,338 |
交通誘導員 A | 920 | 1,148 | 1,297 | 1,339 | 1,392 | 1,424 | 1,307 |
交通誘導員 B | 840 | 1,042 | 1,137 | 1,159 | 1,212 | 1,233 | 1,105 |
注⚑:2012~14 年度までは(xx県の)公共工事設計労務単価の 80%以上。15 年以降は同単価の 85%以上。注⚒:参考までに北海道の労務単価の 85%も示した。
出所:xx市提供資料より作成。
(障がい者等)⽜にはxx県の最低賃金(地域別最賃)が使われているが,それを除く最も低い賃金最低額は,清掃業務・事務員補助・給食調理員・給食配膳員など複数の職種で使われている 891 円という金額である。その算出根拠に使われているのは,⽛市労務職(用務員)18 歳初任給を勘案⽜,⽛市の臨時職員の賃金単価⽜,⽛市調理員初任給を勘案⽜とのことである。
ところで,条例の適用対象となる業務委託契約の範囲が拡大している。
この点に関する聞き取りによれば,範囲の拡大に際しては,この職種は支払われている賃金がどうも低いのではないか,激しい事業者間競争でダンピング受注が行われ労働者にしわ寄せが生じているのではないか,といった問題意識に基づいて,気になる業種・職種の落札率や支払い賃金の実態などを調べた上で,条例の適用対象としている。やみくもに範囲を拡大しているわけではない,とのことであった。
先にみた工事の賃金最低額の改善にも共通することであるが,具体的なデータに基づい
て政策の改正を図っている点・作業手順は参考にされるべきと思われる。
また図表 4-7 は,現地調査の後日に追加で提供していただいたデータで,指定管理協定で使われている,職種別の賃金最低額と算出根拠である。
情報提供に関するやりとりについて若干説 明を加えると,xx市のウェブサイトに掲載 されている指定管理者導入施設一覧から,コ ミュニティ施設,スポーツ施設,福祉施設, 公園施設,図書館,博物館,駐車場施設など,施設の種類や機能を念頭において,幾つかの 施設を抽出し,当該施設における職種の賃金 算出根拠と賃金額を尋ね,データを提供して いただいた。
以下のことに留意されたい。(1)全数(全 施設の)調査ではないため,ここには含まれ ていない職種がまだ他にもあるであろうこと。 (2)注釈にも示したとおり,適用単価は,当 該施設に 2017 年度現在適用されている市が 定める賃金等の最低額である。当該最低額は,指定期間初年度の単価を指定期間中継続して 適用させているため,同じ職種(つまり同じ
図表 4-6 市長が定める賃金等の最低額(業務委託契約) 単位:円/時間
2010 年度 | 2011 | 2012 | 2013 | 2014 | 2015 | 2016 | 2017 | 算出根拠 | ||
設備の運転管理及び保守点検業務 | 829 | 1,480 | 1,410 | 1,490 | 1,550 | 1,550 | 1,540 | 1,540 | 2010 年度は,市労務職(用務員) 18 歳初任給を勘案。2011 年度以降は,建築保全労務単価・東京地区・保全技術員補の 80% | |
施設の清掃業務 | 829 | 829 | 829 | 829 | 829 | 850 | 882 | 891 | 市労務職(用務員)18 歳初任給を勘案 | |
施設の電話交換,受付及び案内業務 | 適用外 | 1,000 | 1,000 | 1,000 | 1,000 | 1,000 | 1,000 | 1,000 | 実際の賃金水準を勘案 | |
施設の警備及び駐車場整理業務 | 適用外 | 950 | 1,010 | 1,090 | 1,120 | 1,130 | 1,130 | 1,140 | 2011 年度以降は建築保全労務単価・東京地区・警備員 C の 80% | |
xx市文化会館の舞台の設備又は機器の運転業務 | 829 | 1,000 | 1,000 | 1,000 | 1,000 | 1,000 | 適用外 | 適用外 | 2010 年度は,市労務職(用務員) 18 歳初任給を勘案。2011 年度以降は,実際の賃金水準を勘案 | |
不燃物処理施設運転管理業務 | 事務員補助 | 適用外 | 適用外 | 830 | 830 | 830 | 850 | 882 | 891 | 市臨時職員の賃金単価 |
プラント保安要員 | 1,410 | 1,490 | 1,550 | 1,550 | 1,540 | 1,540 | 建築保全労務単価・東京地区・保全技術員補の 80% | |||
中央操作員 | 1,410 | 1,490 | 1,550 | 1,550 | 1,540 | 1,540 | 建築保全労務単価・東京地区・保全技術員補の 80% | |||
重機オペレータ | 1,410 | 1,490 | 1,550 | 1,550 | 1,540 | 1,540 | 建築保全労務単価・東京地区・保全技術員補の 80% | |||
計量業務員 | 830 | 830 | 830 | 850 | 882 | 891 | 市臨時職員の賃金単価 | |||
プラットホーム作業員 | 1,010 | 1,090 | 1,120 | 1,130 | 1,130 | 1,140 | 建築保全労務単価・東京地区・警備員 C の 80% | |||
手選別作業員 | 848 | 848 | 860 | 938 | 938 | 938 | 指定管理者施設において定める生活支援員及び現業指導員の額 | |||
手選別作業員(障がい者等) | 756 | 777 | 798 | 817 | 817 | 842 | xx県の最低賃金 | |||
清掃作業員 | 829 | 829 | 829 | 849 | 882 | 891 | 市労務職(用務員)18 歳初任給を勘案 | |||
除草作業員 | 829 | 829 | 829 | 849 | 882 | 891 | 市労務職(用務員)18 歳初任給を勘案 | |||
学校給食関連業務 | 給食調理員 | 適用外 | 適用外 | 適用外 | 829 | 829 | 849 | 882 | 891 | 市調理員初任給を勘案 |
給食配膳員 | 829 | 829 | 849 | 882 | 891 | 市調理員初任給を勘案 | ||||
給食配送員(運搬員) | 935 | 935 | 957 | 991 | 1,000 | 市自動車運転手(19 歳)初任給を勘案 | ||||
給食設備管理員 | 1,490 | 1,550 | 1,550 | 1,540 | 1,540 | 建築保全労務単価・東京地区・保全技術員補の 80% |
出所:xx市提供資料より作成。
算出根拠)でも,施設によって適用単価が異なる場合がある。(3)上記の理由から,現在のxx県の地域別最賃である 842 円を下回る金額が記載されているケースがある(法律が優先されるので,当然,地域別最賃以上の金額が支払われることになる)。
さて結果は,まず市の職員の初任給が活用 されていることが理解できる。例えば,事務 員という職種には一般行政職(初級)の初任給が,看護師・栄養士・保育士などの医療 職・福祉職にはそれぞれ市の該当する職種の 初任給が,そして,清掃業務に従事する者に は労務職の初任給が,それぞれ使われている。
ただし,介護支援専門員には,市の臨時職員
(介護支援専門員)賃金単価が使われている。また,市の臨時職員の賃金単価の適用も少
なくない。例えば,⽛市の臨時職員(事務補助)⽜を算出根拠とする職種として,受付等事務補助員,事務補助,水泳場救助員・監視員,コミュニティ会館業務に従事する者,学芸員補助員,資料整理員などがあげられている。
ところで,指定管理協定におけるこうした賃金等の最低額や算出根拠はどこで決められるのだろうか。この点を尋ねてみた。
結果は,賃金最低額や算出根拠の設定につ
図表 4-7 市長が定める賃金等の最低額(指定管理協定)
施設名注1 | 担当課 | 職種注2 | 適用単価 (円/時間)注3 | 算出根拠 |
複合老人ホーム施設 | 高齢者支援課 | 施設の維持管理事務員 | 919 | 市一般行政職(初級)初任給 |
受付等事務補助員 | 830 | 市臨時職員(事務補助)賃金単価 | ||
支援員・介護職員 | 860 | 社会福祉法人 A の短大卒初任給を勘案 | ||
生活相談員 | 1,096 | 市一般行政職(上級)初任給 | ||
機能訓練指導員 | 1,031 | 市看護師初任給 | ||
介護支援専門員 | 1,235 | 市臨時職員(介護支援専門員)賃金単価 | ||
看護師(准看護師を含む) | 1,031 | 市看護師初任給 | ||
栄養士 | 991 | 市栄養士初任給 | ||
調理員 | 829 | 市労務職初任給を勘案 | ||
デイサービスセンター | 高齢者支援課 | 施設の維持管理事務員 | 919 | 市一般行政職(初級)初任給 |
介護職員 | 860 | 社会福祉法人 A の短大卒初任給を勘案 | ||
生活相談員 | 1,096 | 市一般行政職(上級)初任給 | ||
機能訓練指導員 | 1,031 | 市看護師初任給 | ||
看護師(准看護師を含む) | 1,031 | 市看護師初任給 | ||
栄養士 | 991 | 市栄養士初任給 | ||
調理員 | 829 | 市労務職初任給を勘案 | ||
運転士 | 935 | 市技能職初任給を勘案 | ||
斎場 | 市民課 | 施設の維持管理事務員 | 919 | 市一般行政職(初級)初任給 |
受付等事務補助員 | 830 | 市臨時職員(事務補助)賃金単価 | ||
清掃業務 | 829 | 市労務職初任給を勘案 | ||
火葬業務 | 912 | 市労務職初任給に近隣の斎場で支給されている特勤手当を加算した額を勘案 | ||
自転車等駐車場 | 市民生活課 | 自転車等駐車場管理業務 | 849 | 市労務職初任給を勘案 |
心身障がい者福祉作業所 | 障がい者支援課 | 施設の維持管理事務員 | 968 | 市一般行政職(初級)初任給 |
生活支援員及び職業指導員 | 938 | 社会福祉法人 B の高卒初任給を勘案 | ||
看護師(准看護師を含む) | 1,113 | 市看護師初任給 | ||
運転士 | 1,000 | 市技能職初任給を勘案 | ||
調理員 | 891 | 市労務職初任給を勘案 | ||
保育所 | 保育課 | 保育士 | 1,059 | 市保育士初任給 |
栄養士 | 1,059 | 市栄養士初任給 | ||
調理員 | 891 | 市労務職初任給を勘案 | ||
看護師 | 1,113 | 市看護師初任給 | ||
事務補助 | 891 | 市臨時職員(事務補助)賃金単価 | ||
用務員 | 891 | 市労務職初任給を勘案 | ||
総合公園 | 社会体育課 | 施設の維持管理事務員 | 958 | 市一般行政職(初級)初任給 |
受付等事務補助員 | 882 | 市臨時職員(事務補助)賃金単価 | ||
トレーニング室トレーナー | 958 | 市一般行政職(初級)初任給 | ||
清掃業務 | 882 | 市労務職初任給を勘案 | ||
看護師 | 1,104 | 市看護師初任給 | ||
水泳場管理業務 | 958 | 市一般行政職(初級)初任給 | ||
水泳場救助員・監視員 | 882 | 市臨時職員(事務補助)賃金単価 |
施設名注1 | 担当課 | 職種注2 | 適用単価 (円/時間)注3 | 算出根拠 |
図書館・コミュニティ会館注4 | 興風図書館 | 図書館業務に従事する者 | 1,096 | 市一般行政職(上級)初任給 |
コミュニティ会館業務に従事する者 | 830 | 市臨時職員(事務補助)賃金単価 | ||
郷土博物館・市民会館注4 | 社会教育課 | 学芸員 | 1,167 | 市一般行政職(上級)初任給 |
学芸員補助員 | 891 | 市臨時職員(事務補助)賃金単価 | ||
資料整理員 | 891 | 市臨時職員(事務補助)賃金単価 | ||
清掃業務に従事する者 | 891 | 市労務職初任給を勘案 | ||
用務員 | 891 | 市労務職初任給を勘案 | ||
夜間管理業務 | 891 | 市労務職初任給を勘案 | ||
事務員 | 968 | 市一般行政職(初級)初任給 | ||
公民館・コミュニティ会館・文化会館注4 | 社会教育課 | 施設の維持管理事務員 | 958 | 市一般行政職(初級)初任給 |
受付等事務補助員 | 885 | 市臨時職員(事務補助)賃金単価 | ||
舞台機器操作業務 | 1,000 | 実際の賃金水準を勘案 | ||
トレーニング室トレーナー | 958 | 市一般行政職(初級)初任給 | ||
コンピュータ指導員 | 958 | 市一般行政職(初級)初任給 | ||
設備の運転管理及び保守点検業務 | 1,540 | 建築保全業務労務単価・東京地区・保全技術員補の 80% | ||
清掃業務 | 882 | 市労務職初任給を勘案 | ||
駐車場整理業務 | 882 | 市労務職初任給を勘案 | ||
駐輪場整理業務 | 882 | 市労務職初任給を勘案 |
注⚑:施設名は,一部を省略して記載している。
注⚒:職種は,当該施設に適用がある職種の全てが記載されている。
注⚓:適用単価は,当該施設に 2017 年度現在適用されている,市が定める賃金等の最低額である。当該最低額は,指定期間初年度の単価を指定期間中継続して適用させているため,同じ職種(つまり同じ算出根拠)でも 施設によって適用単価が異なる場合がある。なお,指定管理期間の開始時期が最も古い施設は 2014 年⚔月
⚑日である(最も新しい施設では 2017 年⚔月⚑日)。
注 4:施設名に複数の施設名が(⽛・⽜でつなげて)記載されているのは,当該複数の施設をもって⚑つの協定を締結していることを意味する。
出所:xx市提供資料より作成。
いては,管財課で設定している。ただし公契 約審議会が設置された今後は,審議会での審 議を経て,管財課で設定することになると思 われる。また,当該施設にどのような職種が 配置されるかの設定は,担当課で設定される,とのことである。
⚓)賃金支払い実績の確認作業の方法
以上のように定められた賃金最低額が適正に支払われているかの確認はどう行われるのか。
⽛手引き⽜によれば,まず事業を受注した
者は,配置する労働者とその労働者に支払う 予定の⚑時間当たりの賃金等を記入した⽛配 置労働者報告書⽜を市に提出する必要がある。
その上で,支払い実績を明らかにするため,適用労働者の氏名,職種,労働日数・時間, 支払賃金額等が記入された⽛労働者支払賃金 報告書⽜(以下⽛賃金報告書⽜)と,その支払 い実績が確認できる資料(以下,確認資料) を市に提出する必要がある。
ここでは,⽛工事又は製造の請負の契約⽜で使われている⽛配置労働者報告書⽜と⽛賃金報告書⽜を図表 4-8,図表 4-9 に掲載して
図表 4-8 配置労働者報告書(工事又は製造の請負の契約)の一部
出所:xx市ウェブサイトより。
図表 4-9 労働者支払賃金報告書(工事又は製造の請負の契約)の一部
出所:xx市ウェブサイトより。
おく。
なお,⽛賃金報告書⽜とあわせて提出させる確認資料とは,労働基準法第 108 条に規定する賃金台帳及び労働者に交付する給与の明細書(給与支払明細書等)の写しである。一人親方など上記の書類を作成していない場合には,請求書等を確認資料としている,とのことである。
以上の賃金支払いの確認作業については,
条例制定当初はもっと煩雑であったのを現在のように改善が図られてきた。この点に関する聞き取りの結果をまとめると,概要以下のとおりである。
すなわち当初は,配置労働者報告書を入札の段階で提出してもらい,そのチェックを行っていたが,提出する事業者の側もチェックする市の側も負担であることから,入札参加者には⽛公契約条例に関する誓約書⽜を提
出してもらうにとどめ,配置労働者報告書は落札者に提出してもらうことに切り替えた。また賃金報告書の提出についても,当初は 最大⚓回にしていたのを現在は最大で⚒回までとしている。例えば,⚑年契約の場合には中間で一度出してもらい,最終段階でもう一度出してもらうという具合である(工期が短
い場合には⚑回だけの提出)。
なお,提出される賃金報告書に記載されているのは,当該月の支払い実績である(年間を通じた賃金の支払い実績ではない)。
⚔)労働者への周知方法
賃金最低額は労働者には周知されているのか,不払いなどの問題が起きたことはないのかを尋ねたところ,回答は概要以下のとおりである。
公契約条例の周知についてもxx市では重視している。
過去に⚑件だけ,第三者からの問い合わせ で立ち入り検査を行ったことがある。検査の 結果,確かに問い合わせのとおり,賃金最低 額を下回る支払いであることが発覚したが, 条例による支払いを組織的に故意に免れよう とした悪質なケースではなく,また,差額分 の支払いを使用者側が約束したこともあって,契約解除には至らず,文書注意でとどめた。 これまでの条例違反事例はこの⚑件だけであ る。
ただ,この事件をうけて,それまでは事業者任せにしていた労働者への周知作業を市としても行うことにした,とのことである(⚕
の担当者の業務内容で再度ふれる)。
⚕)賃金最低額に関する今後の課題
条例の今後の課題に関わって,2017 年度に公契約審議会が設置されている。この点についての聞き取りの結果は概要以下のとおりである。
まず,審議会が設置されるに至った背景には,(1)図表 4-10 のとおり,国の最低賃金
(地域別最賃)が底上げされ,xx市公契約条例による賃金最低額との差が縮小していることと,(2)長期継続契約における賃金最低額を固定しておくことが望ましいのか,という問題意識があげられる。
前者については,当初 100 円近く離れていた差が半分(49 円)にまで縮小してきた。最賃は引き続き上昇傾向にあるのに対して,
(xx市職員の初任給を基準とする)市の賃金最低額はそれほどには上がらないことが予想されるので,近い将来に逆転の可能性がある。市としては,xx県の最賃額を上回る賃金最低額の設定が必要であると考えているため,この事態にどう対応するのかを検討する必要があった,とのことである。
後者について。賃金が下降気味だったときには,契約当初に決めた賃金を事業者に遵守してもらうことで意義があったが,現在のように人手不足で賃金が上昇傾向にあるときには,契約当初に決めた賃金を(例えば指定管理期間である⚕年間ずっと)そのまま継続させることだけでよいのかどうかを検討する必要があった。
図表 4-10 xx県の最低賃金額及びxx市の公契約条例における賃金最低額の推移 単位:円
2010 年 ⚔月 | 10 年 10 月 | 11 年 ⚔月 | 11 年 10 月 | 12 年 ⚔月 | 12 年 10 月 | 13 年 ⚔月 | 13 年 10 月 | 14 年 ⚔月 | 14 年 10 月 | 15 年 ⚔月 | 15 年 10 月 | 16 年 ⚔月 | 16 年 10 月 | 17 年 ⚔月 | |
最低賃金(a) | 728 | 744 | 744 | 748 | 748 | 756 | 756 | 777 | 777 | 798 | 798 | 817 | 817 | 842 | 842 |
増減 | 16 | 4 | 8 | 21 | 21 | 19 | 25 | ||||||||
市の最低額(b) | 829 | 829 | 829 | 829 | 829 | 829 | 829 | 829 | 829 | 829 | 849 | 849 | 882 | 882 | 891 |
増減 | 20 | 33 | 9 | ||||||||||||
差額(b-a) | 101 | 85 | 85 | 81 | 81 | 73 | 73 | 52 | 52 | 31 | 51 | 32 | 65 | 40 | 49 |
出所:野田市提供資料より作成。
もちろんこの点は,事業者の側からみれば,
⚕年後にいくらの賃金支払いが義務づけられるのか分からないような制度設計では入札に対する抵抗感につながることになる。その点には十分な配慮が必要だと市としても認識している,とのことであった。
⚕.関係者とりわけ事業者からの評価
公契約条例に対する関係者からの評価を尋ねた(ここでの評価は,野田市が把握している,関係者からの評価である点に留意されたい)。
札幌での経験をふまえると,とりわけ事業者側の反応 ― 例えば,賃金支払いを規制されることに対する拒否感はそもそもなかったのかどうか,賃金支払い実績の報告書の作成など事務作業負担や,同一事業者に雇われた同じ職種の労働者内で賃金額が異なる事態が発生すること(つまり同じ職種であっても,市の発注する仕事で働く労働者のほうが賃金が高くなること)への苦情などは寄せられていないのかなどを尋ねた。
ただ,結論を先に言えば,すでに先行研究でも述べられているとおり,まず条例の制定に際して,事業者・業界団体からの反対はなかったようである。条例制定後も,条例に対する事業者側からの無理解や違反状況・トラブルはとくにみられないとのことである。
さて,関係者からの評価に関する聞き取り結果をまとめると,概要,以下のとおりである。
第一に,市民からの評価について。公契約 条例の存在は一般市民になじみが薄いためか,市民からの声はあまり聞かれないという。最 初の条例改正時から導入されたパブリックコ メントでも,労働団体からのコメントが中心 で,市民からの声はとくに聞かれないとのこ とであった。
第二に,労働者・労働団体からの評価につ いて。条例制定時には数多くの報道があった。その一つが,清掃業務に従事している人の時 給が 100 円上がったこと。その喜びの声には かなりの反響があった。また,従前より気持 ちよく仕事ができるようになったという声も 聞かれている。労働団体からも評価されてい ると認識している,とのことである。
もっとも市としては,条例の対象範囲が狭くその効果は限られているという限界を認識している,とのことである。
第三に,事業者・業界団体からの評価について。事務手続きが煩雑であるという声は聞くが,制度に対して苦情を言われたことはないので,制度の趣旨などには理解を得ていると市は認識している,とのことである。
同一労働で賃金が異なる点については,たしかにそれは事実として存在する。野田市としては,他の現場でも賃金を上げてもらえればという期待をもって始めた制度であるが,実際にはそこまでの効果をもたらすには至っていない。この点に対する事業者側の対応としては,市の仕事に従事する労働者には手当を支給したり,支払い賃金がすでに高い労働者を派遣するなどして対応していると聞いている。ただそのことで何か問題が生じているとは市としては考えていない(とくにそういう情報も聞かれない),とのことである。
事業者側の負担に関連して,元請けは,下請けからも賃金情報を収集する必要があり,その際に,⽛なぜウチの給与を見せなければならないのか⽜といった下請けからの抵抗があるという話を聞く,とのことである。
もっともこのことについても,入札の段階で,下請け業者からのご理解・ご了解を得てくださいというアナウンスを市で行っているので,トラブルになるケースはない。また,元請けへの提出に抵抗がある場合には,市に直接提出してもらうことも可能にしており,実際,そういうケースもある,とのことであ
る。
⚖.担当者の業務内容や市の負担など
公契約条例の制定に関わって,自治体職員は,条例制定の最大推進勢力にも最大抵抗勢力にも,なりうるとの話を聞く(注釈⚔を参照)。
もちろんその背景には,行財政改革・人員削減にともなう契約行政の現場の疲弊なども考慮する必要があるだろう。あわせて,負担増に対する漠然とした不安があるのかもしれない。そこで,公契約条例に対する自治体職員の理解を促し,各地に公契約条例を広める上でも,担当者の業務内容や負担あるいはやりがいなどの情報を,正確かつ詳細に把握することが有益と考え,市から話を聞いた。
まず,現地調査での聞き取り結果は,概要以下のとおりである。
担当者の主な業務は,事業者側とのやりとり,関係者からのヒアリング,支払い賃金のチェック作業,現場をまわっての労働者への周知の確認作業などである。
条例を制定するにあたって職員⚑人を増員した。その増員で対応しうる範囲内で業務を開始している。
条例の対象件数が 28 件から 100 件に増加
したこと,対象労働者数は 2000 人弱にまで 拡大していることを先に確認した(図表 4-1,図表 4-2)。ただ,そのことで職員数の追加 などは行っていない。増員は条例制定時の⚑ 人のみである。
契約件数が増加しているが一番大変だった のは,最初の年である。事業者側は,調書の 作成が初めてであるから,一つ一つ説明をし ながら作業を進めていく必要があったことに 加え,市の職員も十分な説明・対応ができず,かなりの手間がかかった。しかしながらその 後は,一度経験した事業者は作成方法を熟知 することもあって,市の負担はだいぶ減り,
ある程度の件数が増えても対応ができる状況にある。
市の課題としては,条例の適用対象をさらに広げたい思いがある一方で,対応する職員の負担・マンパワーの問題を考えると,現状程度で留めざるを得ないというジレンマがある。
関連して,視察で野田市に来られる他の自 治体・議員関係者に対しては,可能な範囲で 業務を開始してはどうかとの助言をしている,とのことである。
次に,現地調査の後日にあらためて質問をし,担当職員から以下のような回答を得た。第一に担当職員の業務内容等は次のとおり
である。
(a)条例拡充の検討
野田市では,条例制定当初から条例の拡充を目標に掲げてきたので,毎年度条例の拡充の検討をしている。必要に応じて,事業者からのヒアリングを行う。
(b)関係者からのヒアリング
先の条例拡充の際にヒアリングを行うほか,すでに条例の対象契約(主に業務委託)が契 約の更新を迎える際は,予算編成の段階で現 受注者にヒアリングを行い人件費の精査を行 う。
(c)受注者へ公契約条例に係る事務手続の案内
受注者から各種報告書等が適切に提出され るように,事務手続の案内文を作成したり, 提出時期が近くなったら連絡を入れたりする。
(d)支払賃金の履行確認
適正な賃金が支払われているかどうか確認するため,各種報告書及びのその確認資料の確認作業を行う。これは担当者にとって,一番ウエイトを占める事務になる。
労働者支払賃金報告書を,基本的に年に中間期と完了時の⚒回で提出をお願いしているので,確認作業が集中するのは,10 月と翌年⚔月である。理由は,工事は,案件によっ
図表 6-1 条例が適用された工事で働く労働者への配布資料(チラシ)
出所:野田市作成。
て様々であるとはいえ,それでも,工期の末日は⚓月のものが多く,業務委託及び指定管理協定においては年度を通してのものが多いことによる。
10 月の提出分については,集計の期限がとくにはないので時間外労働をしなくても処理できているが,⚔月の提出分については,決算報告等の関係で期限があり,例えば 2016 年と 2015 年はそれぞれ⚕月に 20 時間程度の時間外労働が発生した。また,同じ係の者に少し手伝ってもらうこともあった。
(e)労働者への周知事項に係る掲示物の現場確認及びチラシの配布
賃金最低額等を労働者に周知するため受注者には周知事項の掲示(又は配布)を義務付けているが,掲示の場合には適切に掲示されているか確認するために全ての条例対象契約の現場を訪れている。⚑つの契約につき,訪問回数は⚑回である。
過去に⚑件,立入検査を行った経験から,周知不足の反省を踏まえ,市でもチラシを配布するようにした。事業者が掲示した掲示物の現場確認のときに合わせて,現場責任者等にチラシを渡し,労働者への配布をお願いしている。図表 6-1 は,工事で働く労働者への配布チラシである。
(f)事業者向け説明会の開催
条例に係る制度等を周知することも目的に,事業者向けに説明会を開催している。2009 年度に⚑回行ったきりとなっていたが,2015 年度以降,毎年度⚑回開催するようにしてい る。
(g)公約審議会の運営
公契約審議会の事務局として,会議資料の作成や委員とのやりとりなど運営のための事務がある。
以上の説明とあわせて,仕事のやりがいに
ついては次のとおりの回答を得た。
労働者全体に占める割合は決して高くはないものの,条例の適用を受ける労働者については,条例によって適正な賃金が支払われ,労働条件が向上されていることにやりがいを感じる。また,野田市ではトップランナーとして,条例を他の自治体の手本となるようなものにしなければならないと考えており,前例のない制度づくりにやりがいを感じる,とのことである。
⚗.まとめに代えて ― 野田市公契約条例の評価と,研究・運動上の課題
野田市から提供された情報・データに基づき,野田市公契約条例の実績や課題などをまとめてきた。研究課題も残ったとはいえ,多くの有益な情報が得られた。
もちろん野田市の公契約条例も,先行研究ですでに指摘されているとおり,万全ではない。問題関心に従い政策的な課題を以下に幾つかあげる。
例えば第一に,条例の対象範囲は限られている。担当職員数・マンパワーという制約もあって対象範囲を大きく広げていくのは難しいと市自身にも認識されていた。
第二に,狭義の政策効果は確認されたが,例えば同じ職種の民間労働者の賃金への波及効果,地場賃金全体の底上げなど,広義の政策効果は,確認されていなかった6。
上で書いたとおり条例の対象は限られていることをふまえても,市が言うように,一つの自治体では限界があって周辺自治体でも公契約条例の制定が続くことが必要であるのだ
ろう。また,賃金・労働条件に関する労働協約を当該地域における業界労使で締結するなどの取り組みも必要ではないだろうか。
補足すれば,そもそも条例制定が多岐にわ たる政策効果(⽛はじめに⽜でみた好循環) を自動的にもたらすかのように主張するのは,とりわけ地方の現状を鑑みると,楽観的に過 ぎるだろう。また,このことに関わって言え ば,住民自治の促進という観点からも,公契 約条例の準備段階や制定後の運用に際しては,関係労使の参加する審議会の設置が有効では ないだろうか。2017 年度から野田市に設置 されることになった⽛公契約審議会⽜におけ る議論にも注目したい。
第三に,市が設定する賃金最低額は,労働者の生計費をふまえると,必ずしも十分な額ではない。
公共工事で使われている公共工事設計労務 単価の 85%という金額設定の妥当性もさる ことながら,とりわけ委託事業や指定管理者 における水準(時給額で 800,900 円台)は,労働者の生計費という観点からはもちろんの こと,一定の技能を身につけていることが予 定されている労働者に支払われる額としても,不十分と思われる(そもそも⽛初任給⽜を算 出根拠にすることは妥当だろうか)。
この点に関連して二点補足する。一つは,公契約条例における賃金設定は横断的な職種別賃金の設定に資すると思われるが,上でみたとおり,労働者の生計費を全ての職種で超えることがまずもって必要な状況に現在はある。この課題は,一つの自治体で取り組むには困難であり,わが国の最賃(地域別最賃)をめぐる問題,すなわち生計費を下回る賃金
6 総務省⽛2015 年国勢調査⽜によれば,野田市の就業者総数は 72,703 人である。条例の対象となった労働者数(2016 年度値)は 1,959 人であった。確かに,地域の賃金相場に影響を与えるには十分ではないだろう。もっとも,同じく⽛国調⽜によれば野田市の建設業の就業者数は 5,896
人である。条例の対象となった⽛工事⽜で働いた人数(2016 年度値)は,792 人であり,それなりのカバー率ではないかと思う(もちろんここには短い工期の工事で働いた者も含まれるだろうし,野田市外の建設労働者も含まれるだろう)。政策効果を図る手法も含めて,研究課題としたい。
水準の低さの克服こそが急がれねばなるまい。二つは,臨時職員の賃金水準が指定管理協
定における賃金最低額の算出根拠となっていることからも分かるように,(これは野田市に限ったことではないが)自治体臨時・非常勤職員の処遇は公契約領域で働く労働者の処遇に連動している。自治体労働組合には,公契約条例の制定はもちろんのこと自治体臨時・非常勤職員の処遇改善の取り組みも,期待したい。野田市の臨時職員の賃金一覧を参考までに掲載する(図表 7-1)。
さて,以上のような諸課題はありながらも今次調査で印象的だったのは,公契約領域における実態を踏まえ,無理はせずに ― 例えば,職員の手が追いつかないほどに対象事業範囲を拡大したり支払困難な賃金最低額を設定したりはせずに,制度や運用で改善を積み重ねている市の姿勢である。条例の前文に書かれた,⽛先導的にこの問題に取り組んでいくことで,地方公共団体の締結する契約が豊かで安心して暮らすことのできる地域社会の実現に寄与することができるよう貢献したい⽜という思いの実践と言えるだろう。
図表 7-1 野田市臨時職員の賃金一覧(2017 年度)
職種 | 賃金支払形態 | 賃金額 |
事務補助 | 時間額 | 891 円 |
事務補助(任期付職員へ移行) | 時間額 | 1,035 円 |
要介護システム入力補助 | 時間額 | 891 円 |
学童指導員 | 月額 | 171,100 円 |
学童指導員代替 | 時間額 | 1,110 円 |
ホームヘルパー(生活援助) | 時間額 | 1,157 円 |
ホームヘルパー(身体介護) | 時間額 | 1,670 円 |
保育士(交代制) | 日額 | 9,000 円 |
保健師 | 時間額 | 1,549 円 |
看護師 | 時間額 | 1,443 円 |
栄養士 | 時間額 | 1,137 円 |
教諭 | 時間額 | 1,132 円 |
中学校数学サポーター | 時間額 | 891 円 |
療休等補助教員 | 時間額 | 1,267 円 |
収集業務補助 | 時間額 | 1,041 円 |
作業員(資料整理) | 日額 | 6,174 円 |
出所:野田市提供資料より作成。
また,エビデンスに基づきながら政策の改善を図ってきた野田市の取り組み姿勢についても参考にされるべきである。公契約条例の制定を目指すのであれば,少なくとも,本稿でみてきたような基礎的な情報の整理は必要である。
公契約条例の制定を活動方針に掲げる労働組合は多いものの,例えば,公契約領域で働く労働者の,賃金の支払い実態の把握はさておくとしても,そもそも賃金の算出根拠さえ整理されていないケースが多数ではないだろうか。自治体の労働組合や議員による貢献が期待される。
ところで,一点の大きな研究課題が残された。それは,野田市の行財政改革全体を視野に入れて同市の公契約条例を評価することである。
というのも,全国の自治体同様に,国からの改革圧力を背景に,野田市においても,行財政改革が進められている。民間でできることは民間にゆだねていくという趣旨の発言が今回の調査のなかでも聞かれた。もちろんそれは,行政サービスの向上を意図(少なくとも,悪化は招かないことを前提と)してのことと思われる(⽛野田市行政改革大綱⽜から引いた図表 7-2,図表 7-3 も参照)。
図表 7-4,図表 7-5 にも示したが,この間,正職員数は適正化(削減)され,一方で,臨 時・非常勤職員や民間事業者・労働者の活用 が進められてきた。公契約条例の制定自体は 高く評価されることであるが,自治体のこう した行財政改革全体も視野に入れた評価が必 要になるのではないか。それは野田市だけに 限らず,後に続く自治体においても必要な視 点であるだろう。今回の調査ではそこまでの 作業は無理なので,別の機会に行う。
先行する自治体の経験や実績などが共有されることによって,公契約の適正化を通じた住民福祉の増進を目指す自治体が増えることと,その中心的な役割を労働組合とりわけ自
図表 7-2 野田市における行政改革大綱の目的と骨子
出所:野田市⽛野田市行政改革大綱⽜(2015 年⚔月改訂)より。
図表 7-3 同,行政改革大綱の検討対象
出所:野田市⽛野田市行政改革大綱⽜(2015 年⚔月改訂)より。
治体労働組合が担ってくれることを期待したい。
(謝辞)
野田市職員のみなさんには,調査団による 現地調査のほか,後日にも資料照会を通じて 貴重な情報やデータをご提供いただきました。お忙しいところ何度もご対応いただきました
ことに心より感謝申し上げます。なお,本文 の内容に関する責任の全ては筆者にあります。
図表 7-4 野田市の正職員数の推移
一般行政 | 教育 | 警察 | 消防 | 普通会計計 | 公営企業等会計 | 合計 | |||
一般管理 | 福祉関係 | 一般行政計 | |||||||
2005 | 437 | 371 | 808 | 186 | 0 | 163 | 1,157 | 104 | 1,261 |
2006 | 436 | 369 | 805 | 173 | 0 | 163 | 1,141 | 98 | 1,239 |
2007 | 437 | 358 | 795 | 154 | 0 | 163 | 1,112 | 98 | 1,210 |
2008 | 424 | 352 | 776 | 137 | 0 | 163 | 1,076 | 96 | 1,172 |
2009 | 410 | 339 | 749 | 132 | 0 | 163 | 1,044 | 93 | 1,137 |
2010 | 407 | 326 | 733 | 133 | 0 | 163 | 1,029 | 94 | 1,123 |
2011 | 405 | 325 | 730 | 130 | 0 | 163 | 1,023 | 93 | 1,116 |
2012 | 391 | 314 | 705 | 130 | 0 | 165 | 1,000 | 91 | 1,091 |
2013 | 381 | 301 | 682 | 129 | 0 | 166 | 977 | 91 | 1,068 |
2014 | 383 | 285 | 668 | 127 | 0 | 165 | 960 | 89 | 1,049 |
2015 | 376 | 273 | 649 | 121 | 0 | 166 | 936 | 91 | 1,027 |
2016 | 376 | 272 | 648 | 115 | 0 | 168 | 931 | 93 | 1,024 |
注⚑:各年⚔月⚑日時点の数値。
注⚒:野田市は,2003 年⚖月に,旧野田市と旧関宿町による合併で誕生。出所:総務省⽛定員管理調査⽜結果より作成。
図表 7-5 野田市における臨時・非常勤職員の推移
臨時的任用職員 | 一般職非常勤職員 | 特別職非常勤職員 | |
2012 | 110 | 344 | 不明 |
2013 | 92 | 377 | |
2014 | 90 | 365 | |
2015 | 101 | 348 | |
2016 | 115 | 345 | |
2017 | 111 | 361 |
注⚑:各年⚔月⚑時点の数値。
注⚒:特別職非常勤職員については,各課で任用されており,人事課で一括して把握されていないため不明。
出所:野田市提供資料より作成。
〈参 考 文 献〉
・旭川ワーキングプア研究会(2016)⽝旭川市の公共工事現場調査報告書⽞旭川ワーキングプア研究会(非売品)
・小畑精武(2010)⽝公契約条例入門 ― 地域が幸
せになる〈新しい公共〉ルール⽞旬報社
・小畑精武(2017)⽛自治体公契約条例の現状と課題 ― 最低賃金を焦点に⽜⽝市政研究⽞第 194 号
・川村雅則(2015a)⽛なくそう官製ワーキングプア
― 札幌の公契約運動から⽜⽝経済⽞第 238 号
・川村雅則(2015b)⽛なくそう官製ワーキングプア,進めよう公契約運動⽜⽝月刊全労連⽞第 223
号
・川村雅則(2017a)⽛旭川市における公契約条例の制定と今後の課題⽜⽝北海道自治研究⽞第 576 号
・川村雅則(2017b)⽛官製ワーキングプア問題の現状と課題⽜⽝社会政策⽞第⚘巻第⚓号
・ 川村雅則・古川景一・中川明雄・小川拓也
(2017)⽛市民シンポジウム 公契約条例を社会に広げよう⽜⽝北海道自治研究⽞第 582 号
・上林陽治(2015a)⽛公契約条例ならびに公契約基本条例をめぐる論点⽜⽝自治総研⽞第 435 号
・上林陽治(2015b)⽛公契約条例という選択肢:雇用の劣化を自治体から変えていく⽜⽝世界⽞第 869 号
・永山利和(2017)⽛公契約条例の今日的意義と経済波及構築の行政課題⽜⽝行財政研究⽞第 98 号
・永山利和,自治体問題研究所編(2006)⽝公契約条例(法)がひらく公共事業としごとの可能性⽞自治体研究社
・原冨悟(2013)⽝公契約条例ハンドブック ― 賃
金破壊とサービスの劣化にストップ⽞新日本出版社
・松井祐次郎,濱野恵(2012)⽛公契約法と公契約
条例 ― 日本と諸外国における公契約事業従事者の公正な賃金・労働条件の確保⽜⽝レファレンス⽞第 62 巻第⚒号