上田 孝治 Ueda Koji 弁護士
役務提供契約としての請負・委任
民法では、役務を提供するタイプの契約類型がいくつか定められていますが、その中でも、相手方に従属することなく、独立して役務を提供する類型として、請負契約と委任契約があります。
請負契約は、請負人が契約で定められた仕事を完成する義務を負い、注文者は、これに対して報酬を支払う義務を負うものです(632 条)。建物を建てたり、自動車を修理したりするような、完成させた仕事の目的物を引き渡す請負だけでなく、旅客運送のように目的物の引渡しを必要としない請負もあります。
委任契約は、委任者が、法律行為(契約など)をすることを委託する契約(643 条)で、委託を引き受ける者を受任者といいます。また、法律行為ではない事務の委託についても、準委任契約として、委任に関する規定が準用されます(656条)。その結果、他人に事務の処理を委託する
場合全般が(準)委任契約となりますので、不動
さまざま
産取引の仲介や医師への診療の委託などの様々
なサービス契約に関する規律として、委任の規定がかかわってくることになります。
請負は、仕事を完成することがその本質ですので、請負人が仕事の完成という結果を出すことができなければ債務不履行の問題(本連載第 1 回、第2 回参照)となります。これに対して、委任は、受任者が適切に事務を処理することがその本質になりますので、事務処理によってめざしていた成果が得られなかったとしても、そ
れだけでは債務不履行の問題とはなりません。また、請負は仕事を完成すればよいので、必 ずしも自ら仕事をしなければならないわけではなく、原則として自由に下請負というかたちをとることができます。これに対して、委任は、原則として、受任者が自ら事務処理を行わなければならず、委任者の許諾を得たときか、やむを得ない事由があるときでなければ、事務処理を第三者に委託(復受任者の選任)することはでき
請負契約・委任契約
xx xx Xxxx Xxxx 弁護士
日弁連消費者問題対策委員会幹事、国民生活センター客員講師、兵庫県弁護士会住宅紛争審査会紛争処理委員、兵庫県消費者教育推進計画検討会委員、芦屋市都市計画審議会委員などを務める
第 4 回
誌上法学講座
これだけは押さえておきたい改正民法(債権法)
ません(644 条の2 第1 項)。
請負人の担保責任
請負人が仕事を完成したとしても、仕事の目的物が契約の内容に適合しないときは、請負人は注文者に対して担保責任を負います。請負人の担保責任については、売買契約における売主の担保責任の規定が準用されます(559 条)ので、基本的には売買契約の場合と同様に考えることになります。
したがって、請負契約において契約不適合があった場合に、注文者は、請負人に対して、追完請求、報酬の減額請求、損害賠償請求及び契約の解除をすることができます。この点、改正前の民法では、建物のような土地の工作物については解除ができない旨の規定がありましたが、改正によりこの規定は削除されましたので、完成後の建物であっても解除ができることになりました。
請負人の担保責任の具体的な内容は、売主の担保責任と同様に考えればよいので、例えば、具体的な追完方法の選択権は原則として注文者
にありますし、報酬の減額請求をするに 、原則として追完の催告をしておく必要があります。また、契約を解除するために、請負人の帰責事由 必要ありません。
ただし、請負人の担保責任に関して、種類・品質に関する契約不適合のうち、注文者が提供した材料の性質や注文者が与えた指図によって生じた不適合について 、請負人がその材料や指図が不適当であることを知りながら告げなかったときを除いて、追完請求、報酬の減額請求、損害賠償請求及び契約の解除をすること できないという請負特有の規定(636 条)があります。
請負人の担保責任について 、売主の担保責任と同様の期間制限があり、契約内容に不適合であることを注文者が知った時から1 年以内にその旨を請負人に通知しないとき 、注文者 、請負人に担保責任を追及できなくなります(637条1 項)。この通知で、契約不適合の内容が把握できる程度に、不適合の種類と範囲を伝える必要があります。ただし、請負人が目的物を引き渡した時(引渡しを要しない請負の場合 仕事終了時)に不適合があることを知っていたり、知らないことに重過失があったりしたとき、注文者 通知をしなかったとしても担保責任を追及できます(637 条2 項)。なお、この通知による期間制限と 別に、注文者が不適合を知った時から5 年以内、また 、引渡しや仕事終了時から10 年以内に権利行使をしなければ、一般の消滅時効にかかることになります。
注文者による請負契約の任意解除
請負人が仕事を完成しない間、注文者、いつでも損害を賠償して契約の解除をすることができます(641条)。これ 、注文者にとって必要がなくなった仕事を完成させても意味がないことから認められている任意解除権ですので、仕事が完成する前でなければそもそも解除 できません。
この任意解除権 、注文者による無理由での解除になりますので、注文者 請負人の損害を賠償する必要があります。この場合に賠償が必要な損害、請負人が実際に負担した費用(解除までに負担していた費用や、解除によって生じた追加の費用)と、仮に仕事が完成していれば
もう
請負人が得られたであろう儲け分(得べかりし
利益)を合計した額から、解除によって請負人が得た利益(例えば、請負人が既に購入していた材料を売却して得た代金)を差し引いたものになります。
委任契約における当事者の義務
1. 委任者の義務
委任者 、受任者が、委任事務を処理するのに必要と認められる費用を支出したとき 、その費用及び支出の日以後における利息を支払わなければなりません(650 条1 項)。また、受任者が委任事務を処理するに当たって費用が必要なとき 、委任者 、受任者から請求されれば、その前払をしなければなりません(649 条)。
委任契約 、請負契約と 異なり、原則として無償つまり報酬が発生しない契約とされていますが、委任者が受任者に報酬を支払うという特約がある場合に 、委任者 報酬支払義務を負います。また、委任契約において定められる報酬の中に 、委任事務の履行によって得られる成果に対して報酬を支払うとされる場合(成果報酬型の委任)もあり、例えば、弁護士に訴訟案件の処理を依頼し、勝訴すれば成功報酬が発生するようなケースが挙げられます。成果報酬型の委任、請負と 異なりますので、受任者が成果を出さなければならないわけで ありません(成果が出なかったとしても債務不履行になるわけで ありません)が、成果が出なければ報酬 支払われないことになります。
委任の報酬の支払時期 、原則として委任事務を履行した後、つまり後払とされています
(648 条1、2 項)。また、成果報酬型の委任における成果が引渡しを要するとき 、報酬 、その成果の引渡しと同時に支払わなければなりません(648 条の2 第1 項)。
2. 受任者の義務
受任者 、委任の本旨に従って、❹良な管理者の注意をもって、委任事務を処理する義務(いわゆる❹管注意義務)を負います(644 条)。したがって、受任者 、その事務に関する受任者の職業や社会的地位などから考えて、通常期待されるレベルの注意をしながら事務処理をする必要があります。
また、受任者の負う具体的な義務として、委任者の請求があるとき 、いつでも委任事務の処理の状況を報告する義務と、委任が終了した後、遅滞なくその経過及び結果を報告する義務があります(645 条)。逆に言えば、民法上 、受任者が委任者に対して定期的に事務処理状況を報告する義務 ありません。
委任契約の任意解除
委任契約について 、一般的な債務不履行の規定に基づく解除のほか、受任者および委任者のいずれからも、いつでも解除ができるとされており(651条1 項)、これを委任契約の「任意解除権」といいます。
なお、これらの委任契約の解除 、将来に向 かってのみ効力を生ずるとされていますので、契約段階にさかのぼって契約の効力が失われるわけで ありません(652 条[620 条を準用])。委任契約の任意解除権に基づいて解除をする に当たって 、理由 特に必要ありませんので、いわゆる自己都合であっても解除ができること
になります。
もっとも、任意解除権に基づいて委任の解除をしたとき、一定の場合に 、やむを得ない事由があったときを除いて、相手方の損害を賠償しなければなりません。具体的に 、①相手方
に不利な時期に委任を解除した場合、②委任者が、受任者の報酬以外の利益をも目的とする委任を解除した場合に、損害の賠償が必要となります(651条2 項1、2 号)。②の「受任者の報酬以外の利益」の具体例として、X がYに債権を持っている場合に、Yが第三者Aに対して持っている債権を、Y(委任者)から委託を受けたX(受任者)が回収し、回収した金額をX のYに対する債
あ
権の支払いに充てて債権を回収するというXの
利益があります。
結局、委任契約において 、委任者にも受任者にも自由な解除権(任意解除権)が認められています。そして、受任者が委任の対価である報酬を受けること自体「受任者の利益」と されていませんので、報酬を支払う約束があるからといって、委任者が任意解除に伴って損害を賠償する必要 ありません。
このような任意解除権が、様々なサービス契約を規律する(準)委任契約において定められていることから、民法651 条の任意解除権 サービス契約における中途解約権としての性格を持つことになります。もちろん、この規定 任意規定ですので、当事者間で任意解除権を放棄する旨の合意をすることも民法上 有効となります。
任意解除権に基づいて契約が解除された場合、受任者 、既にした履行の割合に応じて報酬を請求することができます(648条3項2号)。また、成果報酬型の委任について 、受任者が既にした事務処理の結果として委任者が利益を受ける部分があれば、その部分を成果とみなして、受任者 、委任者が受ける利益の割合に応じて報酬を請求することができます(648 条の2 第2 項
[634 条を準用])。
次回、「債権譲渡・時効」をテーマとして、債権譲渡における債務者の抗弁や、消滅時効などについて解説します。