2 KC's が本件訴訟を提起した最も重要な目的は,家賃の支払が滞っている賃借人に対して,「指定の期日までに支払わなければ鍵を交換し,施錠をして物件を使えなく する,残された家財道具類は処分をする」といった威迫的な内容を書面(投函又は玄関ドアへの貼り付け)や口頭(直接訪問又は電話)で通知したり,あるいは鍵の交換や家財 道具の処分を実際に行ったりする違法な「追い出し行為」の根拠になり得る契約条項の使用を差し止めることにありました。
平成23年(ワ)第13905号 契約解除意思表示差止等請求事件x x 特定非営利活動法人消費者支援機構関西
被 告 日本セーフティー株式会社
平成24年12月20日
和解に対する弁護団のコメント
第1 和解条項の内容
本件和解条項は,以下の内容を示したものです。
1 「賃借人又は個人の連帯保証人が,xx後見・保佐・補助手続の申立を受けた場合に,被告は,賃貸人に賃料を立替払いする前であっても賃借人に自社が立て替え払いをするであろう金額の支払いを請求できる」という契約条項を, 被告は今後使用しない。また,すでに締結済みの契約書にある同条項は,効力がないものとして取り扱うこととする。
2 「賃貸借契約の解除又は解約日の後7日が経過しても賃借人の明け渡しが完了しない場合に,賃借人は物件内の残置物の所有権を放棄し,賃貸人による処分に異議申し立てや損害賠償請求をしない」という契約条項を被告は今後使用しない。また,すでに締結済みの契約書にある同条項は,効力がないものとして取り扱うこととする。
3 被告が賃貸人に賃料を立替払いする前に,賃借人に自社が立て替え払いをするであろう金額の支払いを請求したのに対して,賃借人は,遅れている賃料を直接賃貸人に支払うことができ,この場合は被告の事前求償権が消滅するという文言を契約条項に追加する。
また,すでに締結済みの契約書にある同条項は,改訂後の条項のとおりに読み替えることとする。
→賃借人が,賃貸人と被告に二重払いを余儀なくされることを防止する意味がある。
4 賃貸借契約時に,賃借人が予め個人の連帯保証人に対して委託するものとされている権限について,現行の契約条項では,無限定に「債務不履行が生じている場合」であれば,連帯保証人が,賃貸借契約を解約したり,賃貸人からの解除を承諾したり,物件の明け渡し・室内確認立会い・原状回復費用の価格決定を承諾したりできることになっているのを改訂し,「賃料等の支払を3か月以上怠り,または度々遅延し,甲の催告によってもその支払をしないときなど乙に債務不履行が生じている場合」と限定する。
また,すでに締結済みの契約書にある同条項は,改訂後の条項のとおりに読み替えることとする。
5 被告は,公益財団法人日本賃貸住宅管理協会の家賃債務保証事業者協議会が定めた「業界適正化に係る自主ルール」及び「自主ルールに関する細則」を遵守する。
→上記自主ルールの具体的な内容として,「貼り紙,文書掲示等により,契約者に賃料債務又は求償債務の滞納が生じている事実を契約者等以外の第三者に明らかにすること」「午後9時から午前8時までに契約者等に電話をかけ, 若しくはファクシミリ装置を用いて送信し,又は契約者等の居宅を訪問する
こと」「契約者等の居宅又は勤務先その他の債務者等を訪問した場所において,契約者等から当該場所から退去すべき旨の意思を示されたにもかかわらず,当該場所から退去しないこと」「正当な理由がないのに,物件への入居を完全に排除する物理的な措置を講じること」「正当な理由がないのに,物件の明渡完了前に動産の搬出・処分を行うこと」などを行ったり,契約条項に記載することが禁止されている。
第2 和解に対する評価(コメント)
1 本件は被告が家賃債務保証会社の事案です。
2 KC's が本件訴訟を提起した最も重要な目的は,家賃の支払が滞っている賃借人に対して,「指定の期日までに支払わなければ鍵を交換し,施錠をして物件を使えなくする,残された家財道具類は処分をする」といった威迫的な内容を書面(投函又は玄関ドアへの貼り付け)や口頭(直接訪問又は電話)で通知したり,あるいは鍵の交換や家財道具の処分を実際に行ったりする違法な「追い出し行為」の根拠になり得る契約条項の使用を差し止めることにありました。
3 前述のとおり,本和解は
①「賃貸借契約が終了した後7日以上経っても物件の明け渡しが完了しない場合には,賃借人は家財道具の所有権を放棄し,賃貸人が処分をしても賠償請求等をしない」という契約条項を,被告が今後使用しないことを約束し,すでに締結済みの契約書にある同条項は効力がないものとして取り扱うことを合意する内容である。
②賃借人の意思を具体的に確認することなく個人の連帯保証人の意思だけで賃貸借契約を解除したり,個人の連帯保証人だけの立ち会いで物件の明け渡しや原状回復費用の決定ができる場合を,単なる債務不履行ではなく,一般の裁判実務においても賃貸借契約の解除が認められる可能性が高い3か月以上の賃料不払いがあるとき等に限定する内容に,契約条項を改訂することを被告が確約している。
③業界の自主ルールを遵守するという形ではあるが,玄関ドアなどへの貼り紙行為や深夜・早朝の電話・訪問などをしないこと,鍵の取り替えなどの「閉めだし」行為や賃借人が明け渡しを行う前に動産を処分しないことなどを, 被告が約束している。
という点において,被告の「追い出し行為」に一定の歯止めをかける内容であると考えられますので,和解による解決を選択しました。
自主ルールを遵守するという表現ではあっても,大手家賃保証業者である被告が,賃借人の平穏な生活を侵害したり,賃借人に損害を及ぼすおそれのある行為はしないという意思を訴訟上の和解で明確に示したことは,業界全体への波及効果も期待でき,意義があるものと考えています。