フランスにおける給与は、団体協約の規定もしくは労働契約に基づいて自由に決定することができる。しかし、団体協約により職位の定義、および職位による最低賃金が定めら れている。団体協約がない場合は、政府が決定する法定最低賃金（SMIC）未満の賃金で雇用することは禁止されている。同法定最低賃金は 2022 年 5 月１日から時給 10.85 ユーロ
フランスの労務知識第 3 回 給与
2022 年 5 月更新
ジェトロ・パリ事務所
フランスにおける給与は、団体協約の規定もしくは労働契約に基づいて自由に決定することができる。しかし、団体協約により職位の定義、および職位による最低賃金が定められている。団体協約がない場合は、政府が決定する法定最低賃金（SMIC）未満の賃金で雇用することは禁止されている。同法定最低賃金は 2022 年 5 月１日から時給 10.85 ユーロ
（月額 1,645.58 ユーロ）と定められている。毎年 1 月に行われる購買力に連鎖した自動引き上げのほか、政府による任意引き上げがある。
雇用主は一方的に給与の計算方法、給与額、賞与額等を変更することはできない。変更は給与の合意がなされた形態により異なる。業界別の合意により給与が決定されている場合は、同合意が変更にならない限り、労働者にとって不利となる変更をすることはできない。企業内合意により決定されている場合は、決定時と同様の手続きを経て変更することができる。労働契約により決定されている場合は、労働者にとって有利、不利に関わらず雇用主と労働者の合意がなければ変更できない。
性別、年齢、家庭環境、人種、組合加入、政治的見解により給与を差別することは禁止されている。また、同じ労働に対しては同じ賃金の支払いが義務付けられている。ポスト、ポストにつくための資格条件、仕事の質および量に関する目標、業務量、責任が同じである場合を「同一労働」とする。
現物給与
食事、住居、住居に付属する水道料金、暖房費、電気代、衣料、車、携帯電話の支給等を現物給与と呼ぶ。現物給与も給与の一部とみなされ、現物給与の相当額を雇用契約に明記しなければならない。現物給与は賃金に値するものとみなされ、社会保障費負担および所得税の対象となる。現物支給の給与算入は実額、定額のどちらも選択できる。
食事定額：食事/日 1 食 5 ユーロ 2 食 10 ユーロ
xxx額：住民税の査定に使用される評価額を実額とし、それに副次的現物給与（水道代、電気代、ガス代、暖房費、駐車場）の実額を加算した金額とする。ただし、従業員個人が住居賃貸契約者の場合は完全な給与とみなされ、雇用主が支払った（もしくは従業員に払い戻しした）家賃等はすべて実額を給与として勘定する。
住居定額：住居/月（水道、ガス、電気料、パーキング含む） 単位：ユーロ
収入 （月額） | 1,714.00 未満 | 1,714.00 ～ 2,056.79 | 2,056.80 ～ 2,399.59 | 2,399.60 ～ 3,085.19 | 3,085.20 ～ 3,770.79 | 3,770.80 ～ 4,456.39 | 4,456.40 ～ 5,141.99 | 5,142.00 以上 |
1 部屋 | 72.30 | 84.40 | 96.30 | 108.30 | 132.70 | 156.60 | 180.80 | 204.70 |
1 部屋以上 の 場 合（1 部屋 に つ き） | 38.70 | 54.20 | 72.30 | 90.20 | 114.40 | 138.20 | 168.50 | 192.60 |
車の現物給与
購入車 | レンタル車 | ||
5 年以下 | 5 年超 | ||
年間定額：雇用主が燃料を負 担しない場合 | 購入費用（税込）の 9％ | 購入費用（税込）の 6％ | レンタルの年間総費用、保険料、保守費合計の 30％ ただし、購入車の場合の金 |
額を上限とする。 | |||
年間定額：雇用主が燃料を負 | 購入費用（税込）の 12％ | 購入費用（税込）の 9％ | レンタルの年間総費用、保険料、保守費合計、個人的 |
担する場合 | もしくは、購入費用の 9％に個人的に使用した燃料費を加え | もしくは、購入費用の 6％に個人的に使用した燃料費を加え | および職業上の燃料費の合計の 40％ もしくはレンタルの年間総 |
た額 | た額 | 費用、保険料、保守費合計の 30％に個人的に使用し た燃料費を加えた額 | |
ただし、購入車の場合の金 | |||
額を上限とする。 | |||
年間実額 | 下記の金額の合計×同一期間中の個人的な走行距離÷全走行距離 | ||
雇用主は燃料を負担しない場合 | - 購入費用（税込）の 20％ - 保険料 - 保守費 | - 購入費用（税込）の 10％ - 保険料 - 保守費 | - 年間総費用額 - 保険料 - 保守費 |
雇用主が燃料を負担する場合 | 個人的に使用した燃料費を上記年間実額に加算。 | 個人的に使用した燃料費を上記年間実額に加算。 | 個人的に使用した燃料費を上記年間実額に加算。 |
2020 年１月１日から 2022 年 12 月 31 日までの期間、雇用主が電気自動車を従業員に支給
する場合、雇用主負担の電気代は現物給与とはならない。加えて、年間 1,800 ユーロを上限として、現物給与の 50％が控除される。
携帯、コンピューター等
完全な業務使用の場合は現物給与とはならない。業務用、私用の両方が想定される場合は、定額、実額のどちらかとなる。定額方式は購買額もしくはレンタル額の 10％を年間の現物給与額とする。実額の場合は請求書の金額および使用時間により実額を計算する。私用の取り扱いについては、契約書、企業内合意、内規、業種別の合意等で定める。常識的な範囲における私用は現物給与とはならない。
特別手当
特別手当とは年末手当、休暇手当、賞与（13 ヵ月目）、業績手当などのことを示す。特別手当は雇用主の任意による手当てと契約による手当ての 2 種類に分けられる。任意手当とは、雇用主がイニシアティブを取り、金額、時期を決定して自由に支給する手当てであり、雇用主は当該手当てを一方的に減額、廃止する権利を有する。
契約による手当てとは、雇用契約や団体協約により取り決められている手当てである。雇用契約内等に明記されていない場合も、定期的に支給、一定の拠出根拠が確立されている、全員に支給されている場合は、給与の一部でxx的なものとみなされる。判例によると、賞与の定期的支給が 5 年間続いた場合、また休暇手当、年末手当支給については支給
が 3 年以上続いた場合はxx的な手当てとみなされる。契約による手当てを減額、廃止する場合は、給与の変更と同様の手続きを踏む必要がある。
団体協約にて定められている賞与であっても、雇用の保護・拡大を目的として企業内合意により減額、廃止することが可能である。合意は期限付きとし、期限が明記されていない場合、5 年間有効とする。
交通費
すべての企業は、従業員に通勤代として自宅から勤務地までの公共交通機関の定期券または公共のレンタル自転車代の半額を支払う義務がある。半額以上支給することも可能である。交通費半額負担は現物給与とはみなされず、社会保障費負担および所得税の対象とはならないが、半額以上の部分については社会保障費負担の対象となる。パートタイム労働者に関しては、労働時間が法定労働時間の半分以上の場合は、フルタイム同様、半額支給される。半分未満の場合は、法定労働時間の半分に対する実質労働時間の割合に準じて支給される。
持続可能な移動に対する任意の定額支給制度が 2020 年 5 月から開始された。通勤で自転車、自動車の相乗り制度、レンタルのキックボード等を使用する従業員に対して、年間で 500 ユーロを上限として支給、社会保障費および所得税が控除される。うち、ガソリン代の
上限は 200 ユーロ。また、通勤手当としてガソリン代あるいは電気自動車、ハイブリット車、水素自動車の充填費用を会社が任意負担することもできる。ただし、勤務地や住居が公共交通手段圏外にある、または勤務時間の関係で公共交通手段を利用できないなどの条件を満たす必要がある。
導入するには企業内合意、業種別合意を必要とするが、合意がない場合は従業員代表組
織である社会経済委員会への諮問後に雇用主の采配で導入することができる。合意内で雇用主の負担に関する内容を定める。雇用主は負担金額の証明、また該当する従業員は宣誓書もしくは請求書などの証明書を提出する義務がある。
食事代支給
フランスでは一般的に、1 カ月 20 枚綴りの Ticket Restaurant（チケ・レストラン）と呼ばれる食券、もしくはカード式の Pass restaurant を食事代として従業員に支給する。1枚あたりの雇用主負担が 5.69 ユーロ以下で、かつ食券額の 50％以上 60％未満であれば社会保障費は免除される。残りは従業員の自己負担となる。雇用主が 60％以上の負担を行なっている場合は、社会保障費負担控除の特権を失い、全支給額に対して社会保障費を支払わなければならない。雇用主負担が 50％以上 60％未満であるものの、雇用主負担が 1 枚あたり 5.69 ユーロの上限を超える場合は、上限を超える金額が社会保障費負担対象となる。
給与明細の発行
雇用主はすべての給与所得者に給与明細書を発行する義務がある。雇用主が個人であっても、例えば家政婦または自宅で子供を預かるxxに対しても発行しなければならない。手取り額が 1,500 ユーロを超える場合は現金での支払いは禁止されており、小切手もしくは銀行振り込みにて支払わなければならない。給与明細への義務的記載事項が定められている。
電子媒体での給与明細は従業員の反対がない限り可能である。明細は 50 年間、もしくは
75 歳までアクセス可能である。転職の際の重労働勘定、研修権利などの個人情報をまとめた就労個人勘定（CPA）の中に電子給与明細が入っている。給与明細の間違いが発覚してから 3 年間は追加支払い、返金を求めることが可能である。
（義務的記載事項）
- 事業所の名称および所在地
- 社会保障負担金の納付機関およびその加入番号、INSEE（国立統計経済研究所）により与えられる事業所目録コンピューターシステム番号（SIRET 番号）および主営業活動コード（APE 番号）を持っている場合はその番号。
- 団体協約の名称。該当する協約がない場合は有給休暇と解雇の予告期間規定の基準となる労働法の出典を明示すること。
- 労働者の氏名、職種/役職、団体協約内で規定される職級
- 労働した期間と労働時間。超過労働時間など労働単価が割増する時間数と通常の労働単価の労働時間がある場合は、単価別に分け、率を明記する必要がある。給与が月極めの場合は理論上の労働時間を明記する。
- 週間、月間、年間労働時間または年間労働日数による定額制の場合は、定額の内容について明記。
- 労働時間が給与計算のベースではない場合、計算のベースを明記。
- 社会保障負担金の対象となる手当ておよび現物給与などの給与に付随する支給を内容別に分けて明記する。
- 給与額面総額
- 社会保障費負担の対象額、負担率、および雇用主/従業員負担額
- その他の支払い、天引きの内容および金額
- 手取り金額
- 給与支払日
- 有給休暇の取得期間および有給休暇手当金額
- 社会保障の負担金額（疾病、労災/職業病、年金、家族手当、失業）
- 社会保障費等の免除金額合計
- 雇用主からの支払額合計（額面給与、社会保障費等の雇用主負担額、社会保障費の免除、軽減額）
- 失業保険、疾病保険の社会保障費廃止による手取り金額の増加額
- 所得税支払前の手取金額と源泉徴収される所得税額
- 源泉徴収の基準となる所得税対象額
- 所得税対象額の 1 月からの合計額
- 一時帰休の場合、手当支給の対象時間数
- 給与明細については xxx.xxxxxxx-xxxxxx.xx の rubrique cotisations salariales を参照する旨を明記。
- 労働者は給与明細を永久的に保存しなければならない旨を明記
（記載禁止事項）
- スト権の行使による減給と明記することは禁止。「無給欠勤」と明記すること。
- 従業員代表組織である社会経済委員会メンバーの活動時間と明記することは禁止。通常の労働時間としてカウントする。