ASIA & EMERGING COUNTRIES LEGAL UPDATE

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2020 年 10 月

1 【メキシコ】輸出入規制と米国・メキシコ・カナダ協定の概要

2 【シンガポール】Deed 形式の契約の有効性 関する判例

アンダーソン・xx・xx法律事務所のアジア・新興国プラクティス・グループでは、アジア及び新興国（ブラジル・ロシア・トルコ等）の法令規制等のアップデートを定期的 配信しております。皆様の今後の海外展開 関するご検討の一助となれば幸いです。

Contents

1．【メキシコ】輸出入規制と米国・メキシコ・カナダ協定の概要

1. はじめ

米国・メキシコ・カナダ協定（「USMCA」）が 2020 年 7 月 1 日発効した。同日より前取引された商品ついては引き続き北米自由貿易協定（「NAFTA」）が適用されるものの、同日以降は NAFTA 基づく優遇を受けることができなくなる。

日本企業の中は、メキシコで部品や半製品を製造し、米国へ輸出した上で、米国の工場で組み立てて製品化している企業や、さらは当該製品をメキシコへと再輸出している企業も少なくないと思われる。加えて、日本企業の場合、米国の子会社等を通じてメキシコ投資しているケースも多いと思われる。USMCA は、これらの日本企業 も重要な影響を及ぼす。

そこで、本稿では、まず関連するメキシコの輸出入規制の概要ついて説明した上で、USMCA の内容ついて簡単説明したい。また、最後、メキシコも参加している環太平洋パートナーシップ関する包括的及び先進的な協定（「CPTPP」）ついて、ごく簡単触れる。

2. メキシコの輸出入規制

(1) 輸出入規制の管轄当局

A. SAT

メキシコの税務当局（Servicio de Administración Tributaria（SAT）)は、財務省 属する組織である。SAT 内の税関当局が輸出入規制を管轄し、その主な役割は以下のとおりである。

⚫ 税関や関税 関する法令の執行

⚫ 通関申告書様式をはじめとする、貿易関連付属文書の作成

⚫ 貿易基本法（Reglas Generales de Comercio Exterior）基づく関税特典の付与

また、SAT 内は関税法 基づく制裁を課す組織（Administración General de Aduanas）も存在する。かかる制裁は、通常は罰金や商品等の没収である。もっとも、税関関連の犯罪ついては、連邦租税検察官が被疑者の訴追を行う。

B. 経済省

メキシコの経済省（Secretaría De Economía）も、税関及び貿易の分野 おいて重要な役割を果たす。そのうち特筆すべきは、以下記載する PROSEC 及び IMMEX のような貿易プログラムの承認である。

(a) PROSEC

輸入される商品等の輸入関税を減額又は免除するため、メキシコの製造業者（日本企業のメキシコ子会社等である製造業者も含まれる。）は、PROSEC よる恩典を受けることができる。PROSEC より、メキシコの製造業者は原材料、部品、機械・設備等を優遇関税より輸入することができる。但し、かかる輸入品は PROSEC おいて指定されている製品の製造等用いられる必要がある。下記の IMMEX プログラムと異なり、完成品等を輸出することを予定しているか、それともメキシコ国内で販売することを予定しているかは問わない。PROSEC は、製品使用される原材料や部品等を NAFTA/USMCA 非加盟国から輸入し、その製品を米国やカナダ輸出する場面おいて、とりわけ有益な制度である。

(b) IMMEX

IMMEX は、輸出を促進するため経済省が承認するプログラムである。IMMEX より、メキシコ企業（日本企業のメキシコ子会社等を含む。）は、輸出する商品使用される原材料、部品、容器・梱包材、機械・設備等の一時輸入を行った場合、輸入係る租税が免除又は繰り延べの対象となる。一時輸入は輸入後の輸出を前提として認められるため、IMMEX プログラムを利用して一時輸入の状態でメキシコ国内おいて商品を保持できる期間は限定されている。

(2) 輸入品の分類

Harmonized System（HS）は、貿易物品を分類するための名称及び数量ついての国際基準システムである。メキシコも、日本等と同様、HS 関する、商品の名称及び分類ついての統一システム関する国際条約加盟している。

輸入者は、輸入品の関税物品分類従い、関税又は非関税障壁・規制（後述）を遵守する必要がある。商品が適切特定され分類されることより、輸出入の際支払われるべき関税等を決定することが可能となる。

(3) 主な関税等

A. 基本関税及び税率

輸入課される主な関税等は、以下のとおりである。

⚫ 基本輸入税(GIT)

⚫ 付加価値税(VAT)

⚫ アルコール飲料、たばこ、ガソリン等の特定の種類の製品の製造等課される特別税

メキシコの GIT の平均税率は、0%から 100%の間で、輸入品等応じて決まる。もっとも、大多数の輸入ついては、メキシコが当事者である自由貿易協定（FTA）より、GIT は 0%とされている。また、VAT の税率は 16%である。

B. 関税優遇措置

メキシコと FTA を締結した国対しては、関税優遇措置が講じられている。また、メキシコは、輸出入促進プログラム（上述のPROSEC 及び IMMEX 等）基づき、関税優遇措置や関税猶予措置を適用することもある。

通関手数料（Derecho de Tramite Aduanero （DTA））と呼ばれる、税関サービス及び施設の利用のための手数料も存在する。DTA のレートは、通常は商品等の申告額の 0.008%であるが、FTA 基づき別のレートが適用され、又はDTA が免除されることもある。徴収された DTA は、税関施設やインフラの向上のため利用される。

(4) 関税の金額

輸入関税の基準は輸入商品の価額であり、関税法よれば、請求書記載の価額が取引の価額である。但し、取引の価額は、商品の代金加えて税関費用、購入手数料、梱包費用等の費用も含まれる。

関税率は、輸入される商品の種類及び原産地国応じて異なる。輸入者が支払うこととなる関税の金額は、輸入品の分類より決定されるため、輸入者が輸入品を正しく分類し、その価額を決定することが非常重要である。

(5) メキシコへの輸入関する非関税障壁

メキシコおける非関税障壁・規制は特定の商品等適用されるものであり、その内容は公表されている。かかる障壁・規制は、相殺関税やアンチダンピング措置の他、衛生、植物検疫、環境、表示、安全、緊急性等関する要件も含まれる。

一般、輸入品は、メキシコ公式規格（Normas Oficiales Mexicanas （NOMs））と呼ばれる、メキシコの強制力のある技術規格服する。NOMs は、表示ついてのルールも含まれる。

また、農産物等、一部の商品は輸入割当の対象となる。

さら、特定の種類の商標の付された商品等ついては、輸入者は自らが商標権者又はライセンシーであることを証明する必要がある。

したがって、商品等をメキシコ輸入する先立ち、関税のみならず当該商品等が非関税障壁・規制服するか否かを確認する必要がある。

(6) 輸出入のための主な要件

メキシコから輸出をしようとする企業又は個人は、連邦納税者記録簿（Registro Federal de Contribuyentes (RFC)） 登録しなければならない。この RFC は、上述の SAT より運営されている。

加えて、貿易を行うあたり、企業は通関業者を利用しなければならない。この通関業者は、メキシコへの輸入を企業のため取り扱うことついて、租税当局から認可を受けた個人である。

(7) 輸出規制の対象となる商品等

一部の商品等は、SAT 又は経済省より課される輸出規制服する。すなわち、薬物のような特定の商品の輸出は厳しく禁止され、アルコール飲料、プラスチック、鉄等の特定の種類の商品を輸出しようとする場合は、輸出者は、特定のセクター関する SAT の輸出登録簿登録する必要がある。

上述の登録義務加え、化学製品、鉱物、生きている動物等の特定の商品を輸出する場合は、輸出の許可が必要となる。また、武器及び爆発性・発火性のある物質の輸出は防衛省の認可が必要となる。

(8) 輸出規制の違反対する罰則

輸出規制を遵守しない限り、輸出者は、商品等を輸出することができない。

文書の偽造や改竄等を行い、又は原産地、ライセンス、割当等ついての情報の申告を怠った輸出者対しては、行政罰が課されうる。かかる行政罰の金額は、最大で商品等の価額の 2 倍相当する金額である。

輸出規制を遵守しなかった輸出者は刑事罰も科されうる。環境関連対策の違反も、刑事罰の対象となり、例え

ば、保護対象の野生動物等を関連する輸出規制違反して輸出した者は、1 年以上 9 年以下の懲役刑が科されうる。

(9) メキシコ法弁護士の役割

メキシコは、メキシコが加盟する条約等の解釈と適用通じた、貿易分野を専門取り扱う経験豊富な弁護士が多数存在する。この点は、日本とは異なる点であり、メキシコの大手法律事務所の特徴のひとつであるよう思われる。

これらのメキシコ法弁護士は、主以下のような業務等を行っている。

⚫ 税関対応 関する戦略構築の支援

⚫ 関税ついてのアドバイス

⚫ ダンピングやセーフガード等対抗する行政手続の申立て

⚫ 原産地証明の作成及び原産地ついて政府調査が開始された場合の対応

⚫ 輸出入 必要な登録等の支援

⚫ 商品の分類ついてのアドバイス

⚫ NOMs 等の規制を遵守しているかの確認

⚫ PROSEC や IMMEX 等のプログラムの利用ついてのアドバイス

⚫ PROSEC 登録の支援

⚫ Rule8 関する承認（非メキシコ産の原材料つき輸入関税を課さないよう するためメキシコ政府より創設された承認制度）の取得の支援

3. 北米自由貿易協定（NAFTA）の失効

北米自由貿易協定(NAFTA)は、カナダ、米国及びメキシコ（「NAFTA 加盟国」）を含む自由貿易圏を築き、それぞれの NAFTA 加盟国以下のようなメリットをもたらした。

⚫ 関税や貿易障壁の除去と NAFTA 加盟国 おける商品等やサービスの流通の促進

⚫ NAFTA 加盟国おける資本投資及び市場競争の促進

⚫ 知的財産権の十分な保護

⚫ 国家間又はそれぞれの国民間の商業紛争の解決のための効率的な手続の創設

⚫ 地域的な協調政策の導入

しかしながら、2020 年、USMCA とそのプロトコルが締結され、NAFTA はUSMCA 置き換えられる形で失効した。

4. 米国・メキシコ・カナダ協定（USMCA）の概要

USMCA は、貿易影響を与える新ルール又は修正ルールを導入した。その中は、以下のような自動車産業、知的財産権、非課税輸入及びデジタル貿易等の分野おけるルールが含まれる。

(1) 自動車産業

自動車貿易おいて関税ゼロの待遇を受けるためは、自動車部品の 75%以上がカナダ、米国又はメキシコで製造されていなければならない。NAFTA では、62.5%以上とされていたが、この要件が USMCA で引き上げられた。また、2023 年までは、40～45%の部品を時給が 16 米ドル以上の労働者より製造された部品しなければならない。

(2) 知的財産権

著作権の保護期間は、NAFTA では著作者の没後 50 年間以上とされていたが、USMCA よりその没後 70 年間以上延長された。なお、著作者の死亡を保護期間の基準することができない著作物の保護期間は、最初公式発表された時点から最低 75 年となる。

さら、USMCA は、著作権者らが自国内で受けられる保護と同様の保護を他の加盟国でも受けられるようするため、加盟国対し、著作権及びその関連する権利の内国民待遇を要求する。これを受けて、2020 年 7 月 1 日、メキシコでは新たな知的財産権の保護関する連邦法が公布された。

(3) 非課税輸入

USMCA では、貿易を促進するため、非課税輸入の対象となる金額の上限が引き上げられた。すなわち、以下のような輸入は免税措置の対象とされている。

⚫ 米国よる、117 米ドル以下の商品等のカナダ又はメキシコからの輸入

⚫ メキシコ よる、50 米ドル以下の商品等の米国又はカナダからの輸入

⚫ カナダ よる、40 カナダドル以下の商品等の米国又はメキシコからの輸入

(4) デジタル貿易

USMCA では、電子的交付されるデジタル製品（例えば電子書籍、ビデオ、音楽、ソフトウェア、ゲーム等）対する関税や差別的取り扱いが禁止されている。

5. 環太平洋パートナーシップ関する包括的及び先進的な協定（CPTPP）

CPTPP は、2018 年 12 月 30 日締結された。当初の加盟国はオーストラリア、カナダ、シンガポール、日本、ニュージーランド及びメキシコの６カ国であったが、2019 年 1 月 14 日はベトナムが加盟した。残るチリ、ブルネイ、ペルー及びマレーシアは、2020 年 9 月時点でも国内の批准手続が完了していない。CPTPP は、世界の GDP の 15%近くを占める巨大貿易圏となっており、CPTPP 基づき、メキシコは既 77%もの商品等対する輸入関税を免除している。

CPTPP より、メキシコの税関手数料（DTA）も減額された。上述のよう、メキシコでは DTA は一般商品等の申告額の 0.008%であり、本来メキシコ輸入される全ての商品等 DTA が課される。しかし、CPTPP より、日本企業がメキシコへの輸出伴い支払う DTA は減額され、固定額となった。

（注）本稿は、メキシコの法律事務所である Xxxxxx, Xxxxx y Xxxxxx, S.C.の Féxxx Xxxxx-Xxxx Xxxxxx メキシコ法弁護士の協力を得て作成しております。

【メキシコ】

弁護士 xx x 弁護士 xx xx

※メキシコの Basham, Xxxxx y Xxxxxx, S.C.法律事務所勤務中

2．【シンガポール】Deed 形式の契約の有効性関する判例

1. はじめ

イギリス、シンガポールをはじめとするコモンロー（common law）の法体系属する法域特有の法概念として

「deed（捺印証書）」が存在する。コモンローでは、原則として契約の成立は「約因（consideration）」と呼ばれる一定の対価性が必要とされ、約因のない契約を有効成立させるためは deed の形式より契約を締結する必要がある。コモンロー上の deed の形式要件の一つとして、sealing（捺印）が存在する。この sealing の要件は、徐々緩和されてきており、シンガポールで設立された会社ついては、2017 年 3 月 31 日施行された改正会社法より、社印（common seal）を使用しない方法よる deed の締結が現在は認められている（会社法 Section 41B(1)）。これ対して、sealing の要件は、個人等ついては引き続き適用される。シンガポールの上訴裁判所（Cout of Appeal）の 2020 年 9 月 8 日判決（Xxx Xxxxxxx v Seow Suat Thin and another matter [2020] SGCA 89）は、シンガポール国籍の個人が提供した deed 形式の保証契約の有効性が争われた事例であり、実務上の重要性も高い

と思われるので、本稿おいて紹介する。

2. 事案の概要

シンガポールの個人である上訴人（以下「貸付人」という。）は、その知人であるシンガポールの個人（以下「借入人」という。）対して 50 万シンガポールドルの貸付（以下「本件貸付」という。）を行ったが、借入人ついてその後

破産手続が開始されたため、借入人の母親であるシンガポールの個人（以下「保証人」という。）が本件貸付関して保証（以下「本件保証」という。）を提供した。

本件保証関する契約（以下「保証契約」という。）は、Deed of Guarantee というタイトルで作成され、保証人の署名欄は signed, sealed and delivered と記載されていたが、保証人の印は保証契約捺印されていなかった。

保証人は、貸付人対して、4 万シンガポールドルを支払ったが、本件貸付係るその余の債務の支払いは行わなかった。そこで、貸付人は、保証債務の履行を求めて保証人対して訴えを提起した。

本件の原審である高等裁判所（High Court）の 2019 年 4 月 24 日付判決（[2019] SGHC 104）では、保証契約は、保証人よる捺印を欠いているため、deed としての有効性を認めることはできず、本件保証は約因も認められないとの理由で貸付人の請求が棄却された。

3. 上訴裁判所の判決

上訴裁判所は、過去のイギリスの判例（First National Securities Ltd v Jones [1978] Ch 109）等を引用し、契約書物理的捺印がなされていない場合であっても、契約当事者が当該契約を deed として締結する意図であったことが明らかである場合は、当該契約は deed として有効成立し得ることを一般論としては認めつつ、Deed of Guarantee という保証契約のタイトルや保証人の署名欄おけるsigned, sealed and delivered といった記載だけでは十分ではなく、本件おいて保証人が保証契約を deed として締結する意思を有していたと認める足りる十分な証拠はないと判示した。

その上では、上訴裁判所は、保証契約ついての約因の有無を検討し、保証契約の締結は、本件貸付の回収を目的とした貸付人よる借入人対する訴えの提起又は借入人の破産手続おける債権届出の一時的な停止

（forberance）と引き換えなされたものであり、そのような権利行使の一時停止を約因として認めることができるので、保証契約は、deed としての形式要件を満たしていないとしても、法的拘束力を有する有効な契約であると判示し、貸付人の請求を認容した。

4. 実務への示唆

上訴裁判所は、約因の存在を認める形で貸付人の請求を認容したものの、deed の sealing 要件ついては厳格な判断基づき否定していることから、シンガポールおいて deed 形式の契約を締結する場合は、引き続き形式要件の充足を十分確認することが重要である。特、シンガポールで設立された会社以外の者を契約当事者とする deed を締結する場合は、捺印の要否及び有無を確認することが重要なる。

なお、シンガポール国外の法令基づいて設立された外国会社がシンガポール法上の deed を締結する場合捺印が必要かという論点ついては、法令上は明確ではなく、外国会社が deed 署名する場合は、署名の横赤色の丸を印刷したり、赤色の丸いステッカーを貼ったりすることで、捺印がなされたものと扱うことが実務上は多い。このような形式的な対応は違和感を感じないわけではないものの、本件判決を踏まえると引き続きこのような実務的な対応を維持すべきよう思われる。

【シンガポール】弁護士 xx x

【論文】

x xxxxx弁護士が執筆した論文が下記雑誌 掲載されました。ベトナムのコロナ対策成功の要因―プロパガンダの光と影―

掲載誌・刊号：CALE NEWS No.45（2020 年 10 月）

【セミナー】

🙪 xxx弁護士が下記のセミナー て講演を行いました。（2020 年 9 月 24 日）アフターコロナ時代の国際ビジネス紛争解決～訴訟・仲裁・調停～

🙪 xxx、xxxx弁護士が下記のセミナー て講演を行いました。（2020 年 9 月）

インドおける新型コロナウィルス感染症係る法律上の諸問題とディストレスト M&A の可能性

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