POINT
66 第3章 当事者の権利義務
【17】 増改築禁止の特約がなければ借地上の建物の増改築を自由に行える?
Yは、xxXから建物所有目的で土地を賃借し、借地上に建物を所有している(借地契約の締結は平成4年7月以前)。借地契約に増改築を禁止する特約はない。借地契約は旧借地法によって法定更新となっているところ、建物が老朽化し改築をしなければ3年後に建物が朽廃するという状況に至った。そのような状況の下で、YはXが反対しているにもかかわらず、建物を改築し、その結果、建物の耐久年数が20年以上増加することとなった。Yの建物改築は借地契約違反か。また、借地権が消滅するのはxxx。
POINT
・建物を改築した場合の朽廃すべき時期の到来による借地権の消滅
建物の増改築を行うことは借地人の借地契約上の権利であり改築は契約違反ではない。借地権は、借地契約が法定更新されていることから、法定更新後の期間満了時又は改築後の建物が現に朽廃するまで存続する。
誤認例
第3章 当事者の権利義務 67
建物の増改築は自由であり、改築は契約違反ではない。ただ、旧借地法下の借地権では、期間の合意がない場合、建物が朽廃すべきときに消滅する。改築によって朽廃の時期が延びるケースでは、改築をしなければ朽廃すべきであった時期に借地契約が終了し、借地権が消滅するから、Yの借地権は改築から3年後に消滅することになる。
本当は
解 説
1 特約がない場合の建物の維持・増改築
借地契約は、借地上に借地人が建物を所有することを目的として締結される契約です。借地人は建物所有のために借地を利用することができるのであり、借地契約で認められる建物であれば、これを建築し、維持し、さらに増改築を行うことは借地人の権利です。
借地契約において、修繕や増改築に関する特約がない場合には、xxの承諾を得ることなく修繕や増改築を自由に行うことができます。
2 旧借地法の適用がある借地契約
旧借地法の適用がある借地契約(平成4年7月末日までの借地契約)では、借地権について、存続期間の適法な合意がない場合には、法定更新後の存続期間は、堅固建物の場合更新後30年、非堅固建物の場合更新後20年となり、加えて、この期間を経過しなくても、建物が朽廃したときに借地権は消滅するものとされています(朽廃理論)(旧借地 2①但書・5①後段・6①後段)。
68 第3章 当事者の権利義務
この借地権の存続期間を改築との関係でみると、朽廃が近くなっても借地人は建物の改築をすることができますが、他方で、朽廃が間近であるときには、改築を行うと朽廃の時期が延びることになります。そのようなケースでは、改築を行わなければ朽廃すべかりし時期に借地契約が終了し、借地権が消滅するものとされています。
3 朽廃間近な場合、修繕がなされても本来朽廃すべかりし時期に契約終了
最高裁昭和42年9月21日判決(判時498・30)は、相当程度腐朽したアパートで、修繕しなければ3年後には朽廃の状態に達していた時点で耐久年数を20年以上増加させる修繕が行われたケースです。「建物築造後の経過、本件建物の修繕前の状況、本件修繕の実態、修繕当時の老朽の度合など、とくに土地所有者のXが借地人のYに対し工事前に反対の意図を表明しかつ工事完成前にも異議を表明していたことにかんがみると、借地契約は、修繕工事がなければ朽廃すべかりし時期にはおそくとも終了した」と判断されています。
なお、神戸地裁昭和60年5月30日判決(判タ562・134)では、この考え方を引き継ぎつつも、「Yは賃貸人Xの一貫した反対表明をも無視して工事を完成させたものであるが、このような場合における建物が朽廃すべかりし時期とは、工事後の建物の現状により朽廃すべかりし時期を決すべきではなく、また、工事前の本件建物に何んらの修繕をも加えないで放置しておいた状態でその朽廃すべかりし時期を決すべきでもなく、工事前の本件建物に通常加えられるべき補修、修繕を加えてもなお朽廃すべき時期(本件の場合通常の修繕までも禁止した約定はないので)と解するのが相当である」と論じられています。
114 第3章 当事者の権利義務
【29】 保証人が死亡したときには保証人の相続人に未払賃料を請求できる?
賃貸人Xと賃借人Yとの間で締結された賃貸借契約に関し、その委託に基づいて、Aが同契約から生ずるYの債務を連帯保証しているという状況の下で、Aが死亡した。Aの相続人には、妻Bである。Bは、A死亡後に生じるYの賃料不払について保証債務を負うか。
POINT
・民法改正による保証のルールの見直し
保証債務は相続される。賃借人に賃料の不払があれば、保証人の相続人は保証債務を負う。
誤認例
改正前の民法によれば、保証債務は相続されるから、保証人が死亡した時に発生していた賃料に加え、保証人死亡時以降に発生した賃料も保証人の相続人が責任を負う。他方で、改正後の民法の下では、保証人の死亡によって元本が確定することになる。そのために、保証人の
本当は
第3章 当事者の権利義務 115
相続人は、保証人死亡時に既に発生していた賃料の責任
は負うが、相続開始後に生じた債務については、相続人は保証債務を負わないことになる。
解 説
1 改正前の民法における取扱い
改正前の民法の下では、賃借人が死亡しても、保証人の保証債務は従前どおり続き、保証人は賃借人死亡によりその地位を承継した相続人の債務を保証することになりました(東京地判平22・10・25(平22(ワ) 7696))。また、保証人が死亡しても、保証債務に消長を来しません。保証人の相続人によって保証債務が相続され、保証人の相続人が相続開始前に生じた賃借人の債務について相続によって責任を負うのに加え、相続開始後に生じた債務についても、自らが承継した保証人の地位に基づいて責任を負うことになっていました(大判昭9・1・30民集13・ 103、東京地判平22・1・28(平21(ワ)17491))。
2 根保証における元本の確定
不特定ではあるけれども、一定の枠の中に生じる債務を包括的に保証するのが根保証です。民法上、根保証は認められますが、保証人に発生時期無制限の保証債務を負担させることは是認されません。そこで、元本の確定という概念が設けられています。
元本の確定とは、一定の時点において主債務を特定させることです。その後生じた債務は保証によって担保する債務から外れます。
改正民法では、建物賃貸借において、下記の①〜③が元本の確定事由とされました(従前、貸金等の根保証では元本の確定事由だったものが、それ以外の債務の根保証にも拡大されたものです。)(民465の4一
〜三)。
116 第3章 当事者の権利義務
① 債権者が、保証人の財産について、金銭の支払を目的とする債権についての強制執行・担保権の実行を申し立てたとき(1号)
② 保証人が破産手続開始の決定を受けたとき(2号)
③ 主たる債務者又は保証人が死亡したとき(3号)
建物賃貸借も根保証ですから、個人が建物賃貸借の保証人となった場合には、保証人についての金銭債権の強制xxxの申立てがなされたとき、保証人が破産手続開始決定を受けたとき、賃借人又は保証人が死亡したときには、保証債務が確定することになり、保証人はその確定時点での賃料等について保証債務を負うけれども、確定から後に生じた賃料等については、保証債務から外れるということになります。
本件でも、保証契約に改正後の民法が適用される場合には、BはAが死亡した後に生じたYの債務の保証責任は負わないことになります。
① 債権者がその財産について強制xxxを行ったこと | ② 破産手続開始の決定 | ③ 死 亡 | |
主債務者 (賃借人Y) | 元本確定×(a) | 元本確定×(b) | 元本確定〇 (3号) |
保証人A | 元本確定〇(1号) | 元本確定〇(2号) | 元本確定〇 (3号) |
第3章 当事者の権利義務 117
3 建物賃貸借の保証などでは元本確定しないとされた項目
(1) 賃借人の財産への強制xxxの申立て(上記2図(a))
建物賃貸借では、債権者(賃貸人)は主たる債務者(賃借人)の資産状態が悪化しても、賃貸借契約が継続している限り、賃貸を続けなければなりません。主たる債務者(賃借人)の債権者による強制xxxが根保証契約の主債務の範囲に含まれない債務(賃貸借以外の債務)に基づいて申し立てられる場合もありますが、この場合も賃料不払による解除などがなされない限り、賃貸借契約は終了しません。これらの状況が生じても賃貸借は続き、賃料が新たに生じるという事情が考慮され、強制xxxの申立ては貸金等根保証以外の保証の元本確定事由とはされませんでした(法制審議会民法(債権関係)部会資料83 ― 2)。
(2) 賃借人が破産手続開始の決定を受けたこと(上記2図(b))
主たる債務者(賃借人)が破産手続開始の決定を受けたとしても、債権者(賃貸人)はそのことを理由として賃貸借契約を解除することはできず、賃貸借契約が当然に終了することもありません。そのために、主たる債務者(賃借人)が破産手続開始の決定を受けた後であっても、債権者(賃貸人)は、主たる債務者(賃借人)に対し、その目的物を賃貸し続けなければならず、それによって主たる債務も新たに生じます。そこで、主たる債務者が破産手続開始の決定を受けたことについては、これを個人根保証契約一般における元本確定事由としませんでした(法制審議会民法(債権関係)部会資料83 ― 2)。
第5章 契約の解除 185
【46】 賃借人が賃料を支払わなくても家賃債務保証会社が賃料を支払っていれば借家契約の解除はできない?
Xは賃借人Yに住宅を貸している。Yは家賃債務保証会社Zに保証を委託し、XはYが賃貸借契約に基づいてXに対して負担する債務について保証をしている。Yは滞納を繰り返していたが、 Zは、XにYが支払っていなかった賃料について、保証委託に基づいて代位弁済を行っていた。Xは平成24年4月分から同年8月分のYの賃料・共益費の不払を理由として、契約を解除した(この間の賃料もZがXに代位弁済している。)。Xの解除には効力があるか。
POINT
・家賃債務保証会社が賃料を支払っている場合の賃貸借契約解除の可否
ZからXに賃料の代位弁済がなされており、賃料不払の状況は生じていない。Xは、賃料の支払がなされず、債務不履行となっている場合に賃貸借契約を解除できるのであって、Xは賃料を受け取っているから賃貸借契約を解除することはできない。
誤認例
Zの支払によって賃料不払の状況ではなくなっているが、YがXに賃料を支払っていないことにより、XとYの間の信頼関係は失われているから、Xの解除には効力がある。
本当は
186 第5章 契約の解除
解 説
1 家賃債務保証会社の賃料支払
賃貸住宅の賃貸借では、かつては、親族や知人が保証人となって賃借人の信用を補完し、契約の締結がなされていました。しかし、近年では、親戚や知人の関係が希薄になり、また、外国人が住宅を借りる状況も多くなっています。そのような状況を背景に、住宅の賃貸借を中心に、家賃債務保証会社の家賃保証が数多く利用されています。
家賃債務保証会社の家賃保証は、賃借人から家賃債務保証会社への委託及び賃貸人と家賃債務保証会社の保証契約によって成り立ちます。その後、①賃借人の契約上の賃料の支払先は賃貸人であるが賃借人が賃料を支払わない場合に、家賃債務保証会社が賃貸人に賃料を支払う(後日、賃借人が家賃債務保証会社に立替金を支払う)又は②賃借人ではなく家賃債務保証会社が賃貸人に賃料を支払い、賃借人は家賃債務保証会社に賃料相当の立替金を支払うという①又は②のいずれかの方法が採られます。いずれの方法においても、賃借人に家賃債務保証会社への賃料支払(立替金の支払)が義務付けられます。
2 賃借人が賃貸人に賃料を支払わない場合
①の方法が採られる場合、本来は賃借人は賃貸人に対する賃料債務の不履行が生じていますが、家賃債務保証会社が賃貸人に賃料を支払うために賃貸人と賃借人の関係では賃料不払はない、ということになります。そのために、賃借人が賃貸人に賃料を支払わなくても、賃借人に債務不履行はなく、賃貸借契約は解除できないという結論が導かれることにもなってしまいます。かつては実際にそのような判断がなされることもありました。
しかし、賃借人が賃料を支払わないのに契約解除を否定するという
第5章 契約の解除 187
のは、常識に合致しません。大阪高裁平成25年11月22日判決(判時2234・ 40)は、「賃貸借保証委託契約に基づく保証会社の支払は代位弁済であって、賃借人による賃料の支払ではないから、賃貸借契約の債務不履行の有無を判断するに当たり、保証会社による代位弁済の事実を考慮することは相当でない。なぜなら、保証会社の保証はあくまでも保証委託契約に基づく保証の履行であって、これにより、賃借人の賃料の不払という事実に消長を来すものではなく、ひいてはこれによる賃貸借契約の解除原因事実の発生という事態を妨げるものではないことは明らかである」として契約の解除を認めました。上告審である最高裁平成26年6月26日決定(平26(オ)303・平26(受)391)では、上告受理申立てについて、受理しない決定がなされています。
また、②の方法が採られているケースに関しては、東京地裁平成27年7月16日判決(平26(ワ)6525)において、「Y(賃借人)がZ(家賃債務保証会社)に対する支払債務を履行しないことを、賃貸借契約の解除事由として合意したものと解される」として、賃借人が家賃債務保証会社への支払をしなかったことから、賃貸借契約の解除が認められました。
《参考となる判例》
〇家賃債務保証会社の家賃の代位弁済によって賃借人の賃料支払債務は消滅するが、賃借人の賃貸人に対する賃料不払という事実自体が解消されるわけではなく、家賃債務保証会社が賃貸人に対し賃料に相当する額を支払ったとの事実は、賃貸人・賃借人間の信頼関係が破壊されたことに影響を及ぼさないとされた事例(xxx判平28・2・29(平27(ネ)686))
〇賃借人が家賃債務保証会社に対して立替金を支払わなかったことから、賃貸人による賃借人に対する契約の解除が認められた事例(東京地判平28・ 6・30(平28(ワ)2758))
244 第7章 賃貸人の地位の変動
[借 家]
【62】 滞納処分による差押え後の賃借人は建物明渡猶予の保護を受けられない?
Xの所有する建物は税金滞納による滞納処分によって差し押さえられ、平成24年5月に差押登記がなされた。Yは同年10月にXから建物を賃借して引渡しを受け、これを使用している。その後、 Xが債権者Aに対する債務を履行しなかったことから、Aのために建物に設定されていた抵当権(抵当権の設定は平成23年9月)が実行され、平成29年3月に不動産競売が開始となり、差押登記がなされ、同年10月にBが代金を納付して建物を買い受けた。Bの明渡請求に対して、Yは建物明渡猶予を主張し、これを拒むことができるか。
第7章 賃貸人の地位の変動 245
POINT
・滞納処分による差押え後に設定された賃借権への建物明渡猶予制度の適用
滞納処分による差押えの後の賃借人は、建物明渡猶予による保護の対象ではなく、明渡しを拒むことはできない。
誤認例
滞納処分による差押えがされた後の賃借人が抵当権の実行による競売手続の開始前から賃借権に基づき占有していれば、建物明渡猶予による保護を受けるから、明渡しを拒むことができる。
本当は
解 説
1 抵当権に劣後する賃借人の保護
賃貸人が建物の所有権を譲渡したときに、賃借人が所有権移転登記の前に賃借権の登記又は引渡しによって対抗力を取得していれば、賃借人は、新所有者に対して賃借権を対抗することができます。抵当権が実行され建物が買い受けられたケースにおいても、賃借権が対抗力を具備した後に設定された抵当権についてみると、賃借人は買受人に対して賃借権を主張することが可能です。
他方で、賃借人が対抗力を取得する前に登記のなされた抵当権が実行された場合、賃借人は、買受人から明渡しを求められたときには、これを拒むことができません。
しかし、現実的には、建物に抵当権を付けてその価値を活用するのは一般的なことです。抵当権が実行されて、買受人が出現したときに
246 第7章 賃貸人の地位の変動
は直ちに劣後する賃借人が建物の明渡しを強いられるならば賃借人には著しい不利益であり、賃借をしようとする者が賃借をためらうことにもなりかねません。
2 建物明渡猶予制度
そこで、建物賃貸借については、抵当権者に対抗することができない賃貸借により抵当権の目的である建物の使用する者であっても、競売手続の開始前から使用をしていた場合には、競売における買受けの時から6か月を経過するまでは、その建物を買受人に引き渡すことを要しないものとされています(民395①一)。この仕組みが、建物明渡猶予制度です。民法上、建物明渡猶予制度によって、抵当権に劣後する賃借人に一定の保護が与えられることになります。
競売手続開始決定を原因とする差押登記後に建物を賃借して占有を開始した者は、建物明渡猶予制度の適用はありません。賃借人が事情を知らない善意の第三者であったとしても、建物引渡猶予制度による保護を受ける者には該当しません(東京高決平21・9・3金法1896・91)。
3 滞納処分による差押えの後の賃借人
抵当権の実行による競売手続開始の前に賃借人が建物の使用をしていたけれども、賃借人の建物の使用開始前に滞納処分による差押えの登記がなされているというケースがあります。従前は、この場合に建物明渡猶予を認めるかどうかに関して、実務上の取扱いが統一されていなかったといわれています。
しかし、この点に関して、近年、最高裁の判断が出されました。最高裁平成30年4月17日決定(判タ1449・91)では、「抵当権者に対抗することができない賃借権が設定された建物が担保不動産競売により売却された場合において、その競売手続の開始前から当該賃借権により建物
第7章 賃貸人の地位の変動 247
の使用又は収益をする者は、当該賃借権が滞納処分による差押えがされた後に設定されたときであっても、民法395条1項1号に掲げる「競売手続の開始前から使用又は収益をする者」に当たる」として、滞納処分による差押えの後の賃借人であっても、建物明渡猶予制度による保護を受けるという肯定説の採用を明言しています。
決定ではその理由について、「同項は、抵当権者に対抗することができない賃借権は民事xxxに基づく競売手続における売却によってその効力を失い(同法59条2項)、当該賃借権により建物の使用又は収益をする占有者は当該競売における買受人に対し当該建物の引渡義務を負うことを前提として、即時の建物の引渡しを求められる占有者の不利益を緩和するとともに占有者と買受人との利害の調整を図るため、一定の明確な要件を満たす占有者に限り、その買受けの時から6箇月を経過するまでは、その引渡義務の履行を猶予するものであるところ、この場合において、滞納処分手続は民事xxxに基づく競売手続と同視することができるものではなく、民法395条1項1号の文言に照らしても、同号に規定する「競売手続の開始」は滞納処分による差押えを含むと解することができないからである」と説明されています。