そこで、JCAA では、これまで日本企業が当事者となった仲裁事件を処理してきた経験に照らし、国際取引に不慣れな中堅・中小企業が契約書を作成する際に参考にして頂 くべく、本シリーズを発刊することとした。本シリーズでは、各条項の解説の随所で、その条項の説明にとどまらず、その条項が扱っている事項はどのような意味があるのかを 自覚的に考えることができるように工夫している。なお、異なるモデル契約書に登場する類似の条項例や解説は必ずしも同一ではないが、趣旨は同じである。
そのまま使えるモデル英文契約書シリーズ
はじめに
人口減少が続く中、これまで国内市場のみを対象としてきた日本の中堅・中小企業であっても、ビジネスの維持・発展のためには、海外の旺盛な需要を取り込む必要がある。しかし、同じ文化に属する国内取引先と違って、海外企業との取引では思わぬトラブルが発生することがある。これは、早くから国際取引に乗り出してきた日本の大企業が経験してきたことであり、不慣れだったでは済まないほどの大きな損失を被った例も少なくない。これに対して、中堅・中小企業が国際取引において損失を被った場合、それを吸収するだけの体力がないおそれもある。
先人が経験した苦い経験を繰り返す必要はない。これから国際取引に乗り出そうとする企業は、過去の経験に学び、国際取引に伴うトラブルに備えた適切な予防措置をとるべきである。すなわち、外国企業から示された英文契約書案にそのままサインするのではなく、日本企業の立場から様々な事態を想定し、相手方に対して逆提案をし、きちんとした交渉を経た上で契約を締結すべきである。とはいえ、国際取引に不慣れな企業にとって、自ら詳細な英文契約書を作成することは困難であり、またその作成を渉外弁護士に依頼した場合には高額な費用が発生する。
そこで、JCAA では、これまで日本企業が当事者となった仲裁事件を処理してきた経験に照らし、国際取引に不慣れな中堅・中小企業が契約書を作成する際に参考にして頂くべく、本シリーズを発刊することとした。本シリーズでは、各条項の解説の随所で、その条項の説明にとどまらず、その条項が扱っている事項はどのような意味があるのかを自覚的に考えることができるように工夫している。なお、異なるモデル契約書に登場する類似の条項例や解説は必ずしも同一ではないが、趣旨は同じである。
また、国内の取引では紛争解決はいずれかの地方裁判所での裁判により最終的には解決される旨を定めるのが当然と考えてきたかもしれないが、国際取引をめぐる紛争については、外国での裁判を飲まざるを得ないとすれば、それは外国語で外国訴訟法に基づく手続の末に外国人の裁判官が外国語で判決を下すことを意味する。他方、日本での裁判は相手方の外国企業が拒否することになろう。そのため、国際取引紛争の解決のためには仲裁が用いられることが多い。すなわち、日本人と外国人から構成される仲裁廷により最終的な解決を図るのである。本シリーズでは、 JCAA ならではのこととして、仲裁条項のドラフティングについて詳しく説明している。
本シリーズのモデル英文契約書が実際の契約書作成にあたり参考となれば幸いである。最後に、本シリーズの刊行にあたり、丁寧な監修により最新のモデル契約書に刷新して頂いたアンダーソン・xx・xx法律事務所のxxxxx弁護士及びxxxx弁護士に厚く御礼申し上げたい。
2020 年 4 月
日本商事仲裁協会(JCAA)仲裁・調停担当執行理事
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目 次
I. 合弁契約の概要
1. 合 弁 契 約 と は 5
2. 本 条 項 例 5
3. 合 弁 契 約 の ポ イ ン ト 5
II. JOINT VENTURE AGREEMENT(合弁契約)の条項例(英語、日本語)解説
■ Recitals / 前 文 7
Chapter Ⅰ Organization of the New Company(第1章 新会社の組織)
■ Article 1 Establishment / 設 立 9
■ Article 2 Business Purposes / 事 業 目 的 9
■ Article 3 Name / 商 号 10
■ Article 4 Location / 所 在 地 10
■ Article 5 Articles of Incorporation / 定 款 11
■ Article 6 Operation Plan / 運 営 計 画 11
■ Article 7 Capital / 資 本 12
■ Article 8 Payment / 支 払 12
Chapter Ⅱ General Meeting of Shareholders(第2章 株主総会)
■ Article 9 Ordinary and Extraordinary General Meeting /
定 期 お よ び 臨 時 株 主 総 会 13
■ Article 10 Quorum / 定 足 数 14
■ Article 11 Resolution / 決 議 14
■ Article 12 Important Matters / 重 要 事 項 15
Chapter Ⅲ Board of Directors & Officers(第3章 取締役会および役員)
■ Article 13 Election of Directors / 取 締 役 の 選 任 16
■ Article 14 Office of Director / 取 締 役 の 任 期 17
■ Article 15 Quorum and Resolution / 定 足 数 お よ び 決 議 17
■ Article 16 Important Matters / 重 要 事 項 18
■ Article 17 Officers / 役 員 19
■ Article 18 Other Post / 兼 任 20
Chapter Ⅳ Audit(第4章 会計監査)
■ Article 19 Accounting Period / 会 計 期 間 21
■ Article 20 Inspection of Accounting Records and Books / 会 計 監 査 21
Chapter Ⅴ Increase of Capital(第5章 増資)
■ Article 21 Increase of Capital / 増 資 22
Chapter Ⅵ Transfer of Shares(第6章 株式の譲渡)
■ Article 22 Restrictions on Transfer of Shares / 株 式 の 譲 渡 制 限 23
■ Article 23 Option / 選 択 権 23
Chapter Ⅶ Financing(第7章 資金調達)
■ Article 24 Cooperation in Financing / 資 金 x x へ の 協 力 24
Chapter Ⅷ Role of Contracting Parties(第8章 契約当事者の役割)
■ Article 25 Supply of Machinery, etc. / 機 械 等 の 供 給 25
■ Article 26 Technical Assistance / 技 術 援 助 25
■ Article 27 Distributorship / 販 売 権 26
■ Article 28 Non-Competition / 競 合 禁 止 26
Chapter Ⅸ Government Approval(第9章 政府認可)
■ Article 29 Application for Approval / 認 可 申 請 27
Chapter Ⅹ Confidentiality(第10章 秘密保持)
■ Article 30 Confidential Information / 秘 密 情 報 27
Chapter Ⅺ General Provisions(第11章 一般条項)
■ Article 31 Effective Date / 効 力 発 生 日 28
■ Article 32 Termination / 終 了 29
■ Article 33 Force Majeure / 不 可 抗 力 31
■ Article 34 Notice / 通 知 31
■ Article 35 Assignment / 譲 渡 32
■ Article 36 Arbitration / 仲 裁 33
■ Article 37 Difference / 相 違 33
■ Article 38 Governing Law / 準 拠 法 34
■ Article 39 Waiver / x x 放 棄 34
■ Article 40 Entire Agreement / 完 全 合 意 35
■ Article 41 Headings / 表 題 35
■ Article 42 Language / 言 語 36
■ 末 尾 文 言 お よ び 署 名 欄 37
III. 仲裁条項のドラフティング
1. 仲 裁 と は 38
2. 仲 裁 条 項 の ヒ ン ト 39
(1) JCAA の 3 つ の 仲 裁 規 則 に 基 づ く 仲 裁 条 項 40
(2) 機 関 仲 裁 条 項 ( 仲 裁 機 関 を x x す る 仲 裁 条 項 ) 41
(3) 仲 裁 規 則 を 規 定 す る 仲 裁 条 項 42
(4)「商事仲裁規則」の迅速仲裁手続によって仲裁を行う場合の仲裁条項 44
(5) 仲 裁 人 の 要 件 や 数 を 規 定 す る 仲 裁 条 項 44
(6) 仲 裁 手 続 の 言 語 を 規 定 す る 仲 裁 条 項 46
(7) 仲 裁 費 用 の 負 担 を 定 め る 仲 裁 条 項 47
(8) 多 層 的 紛 争 解 決 条 項 48
(9) 交 差 型 仲 裁 条 項 ( ク ロ ス 条 項 ) 49
(10) 準 拠 法 条 項 と 仲 裁 条 項 50
CD-ROM:合弁契約書【英語、日本語】(MS-Word)
I. 合弁契約の概要
1. 合弁契約とは
複数の当事者が共同して事業を行うためにとりかわされるのが合弁契約である。
2. 本条項例
本条項例は、外国において日本の株式会社に相当する組織を新たに設立することを前提とする。これと異なる方式としては、組織を設立しない場合や、既存の組織を利用する(株式譲渡や新株発行など)場合もある。後者の場合には、デューディリジェンス (due diligence) により既存の会社の状況を正確に把握し、株式の売主や会社による表明および保証 (representations & warranties) として契約に規定することが必要となるが、本書では取り扱わない。
3. 合弁契約のポイント
合弁契約において注意すべきポイントは次のようなものである。
(1) 出資比率
出資比率が、50 対 50 の対等か、それとも当方が多数側か少数側かは、合弁契約において最も重要な点である。少数側の場合、一定の重要な事項について「拒否権」を確保する(株主総会の全会一致を要求するなど)のが重要である。
(2) ガバナンス
現地の会社法が定めるガバナンス体制を契約によりどこまで修正できるかを検討し、とくに少数側の場合、当方の利益が守れるような体制にすることが必要である。
(3) 株主の義務
株主が合弁会社との競合する事業を行うのを禁止することがある。この義務の規定する場合、その範囲を具体的に明確にしておく必要がある。
また、株主が合弁会社の費用を負担する(増資や、銀行借入に対する保証)義務を定める場合もあるが、際限なく合弁会社に資金を提供することにならないよう注意すべきである。
(4) 株式の譲渡制限
当事者による株式の譲渡を禁止するのが通例である。例外として、当事者の子会社ないし関連会社への株式譲渡を認める例もあるが、譲渡先やその他の条件に注意が必要である。
(5) 株主と合弁会社との契約
株主は合弁会社からの配当というよりも合弁会社との付属契約によって一定の利益を上げることを企図していることが多い。付属契約の例としては、ライセンス契約、プラント・機械設
備の販売契約、原材料の供給契約、製品・部品の供給契約等がある。これらの付属契約については、合弁契約に添付するか、少なくとも合弁契約の締結時にその骨子を定めておくべきである。
(6) 解消時の処理
合弁契約を解消する場合どうするかを定めておかないと争いになるおそれが高い。一方から他方に株式を譲渡するのであれば、価格の決め方が問題になる。
II. JOINT VENTURE AGREEMENT(合弁契約)の条項例(英語、日本語)・解説
■ Recitals /前文
JOINT VENTURE AGREEMENT
This Agreement made as of this (日) day of ( 月 ), 20 by and between ABC Co., Ltd., a company organized and existing under the laws of Japan and having its principal place of business at ( 住所 ), Japan (hereinafter called “ABC” ) and XYZ Co., Ltd., a company organized and existing under the laws of ( 国または州名 ) and having its principal place of business at ( 住所) (hereinafter called “XYZ” ),
合弁契約
日本国の法に基づき設立され、現存する法人であって、その主たる事務所を日本国(住所)に有する ABC 株式会社(以下「ABC」という。)と、(国または州名) の法に基づき設立され現存する法人であっ て、その主たる事務所を(住所)に有するXYZ カンパニーリミテッド(以下「XYZ」とい う 。 ) の 間 に お い て 20 年 月 日付で締結された本契約は、以下のことを 証するものである。
WITNESSETH THAT
WHEREAS,ABC is engaged in the business, among other things, of manufacturing and selling ( 製品名 ) in ( 地域名 ), and
WHEREAS,XYZ is engaged in the business, among other things, of importing and selling ( 製品名 ) in ( 地域名 ), and
WHEREA S, ABC and XYZ are desirous of organizing a corporation to manufacture and sell ( 製品名 ) and such other products as ABC and XYZ may agree upon from time to time in writing (hereinafter called〝Products “) in (国名)(hereinafter called the〝Territory”). NOW , THEREFORE , in consideration
記
ABC は、(地域名)で(製品名)の製造および販売の事業に特に従事している。XYZ は、(地域名)で(製品名)の輸入および販売の事業に特に従事している。ABC および XYZ は、(国名)(以下「テリトリー」という。)において(製品名)並びに ABC および XYZ が随時書面により合意し得る他の製品(以下「本製品」という。) を製造、販売するために、会社を設立することを希望している。
よって、本契約に含まれる約束および合意を約因として、両当事者は、以下のとおり合意する。
of the mutual co v enants and agreement herein contained ,the parties hereto agree as follows:
解説
※ この契約例では、ABC という日本法人と XYZ という外国法人とが外国に株式会社形態の新会社を設立することを前提としている。
冒頭文
契約締結年月日、契約当事者 ABC と XYZ の名称および住所並びに設立の準拠法を記載する。契約締結場所は、契約の成立、履行、解釈等の準拠法を判断する場合に意味を持つことがある。設立の準拠法は、契約締結能力の有無等の判断の基礎であり、米国のように、その準拠法が州法の場合もあるので注意しなければならない。
前文
契約締結にいたった経過、理由および当事者の意思等について記載するが、法的効力を持たないと言われている。契約書によっては、簡単な表現になっており、全く省略されることもあるが、契約作成時点における当事者の意図を具体的かつ明確にしておくという意味で前文を記載した方がよい。whereas という語から始まるので whereas clause と言われている。
この条項では、契約当事者である ABC と XYZ がどのような製品をどのような地域で製造販売しているかを記載した。この記載自体はさして重要でないが、次の、新会社がどのような製品をどの国で製造販売するかは大変重要な事項である。製品についてはできるだけ具体的に特定した方がよい。これが具体的に特定されれば、新会社の事業範囲も明確になるし、また、反面、ABCと XYZ の負うべき競業禁止義務の範囲も明確となる。新会社が営業活動する国(もちろん地域でも差し支えない。)も同様に特定した方がよい。
契約書作成のテクニックとしては、ここで新会社の取り扱う製品を「本製品」として、また、その活動する国ないし地域を「テリトリー」として、それぞれ定義しておくと便利である。
また、新会社設立後に株主がどのような取引を予定しているのか、すなわち、プラント、機械、原材料、部品、製品等の販売・供給のことや技術援助の供与のことについて記載してもよい。
WHEREAS, ABC is desirous of supplying materials for the Products to such corporation, and WHEREAS, XYZ is desirous of providing to such corporation technical assistance to manufacture the Products, and
ABC は、かかる会社に本製品の原料を供給することを希望しており、XYZ は、本製品を製造するための技術援助を提供することを希望しており、