Contract
諮問第104号
答 申
1 審査会の結論
諮問第104号案件「①平成30年1月1日以降、世田谷区と〇〇弁護士との間に交わされた委任契約書及びその起案書。②平成30年1月1日以降、〇〇弁護士からの請求書。」について、一部開示決定とした文書のうち、金額の部分及び別紙の全部については開示すべきである。
2 審査請求の内容
(1) 審査請求の趣旨
本件審査請求は、平成30年8月25日付けで世田谷区長に対し、審査請求書が提出され、同年8月28日に受理された。
趣旨は、世田谷区情報公開条例(平成13年3月世田谷区条例第6号。以下「条例」という。)に基づき、審査請求人(以下単に「請求人」という。)が行った「①平成30年1月1日以降、世田谷区と〇〇弁護士との間に交わされた委任契約書及びその起案書。②平成30年1月1日以降、〇〇弁護士からの請求書。」の行政情報開示請求に対し、世田谷区長が平成30年8月23日付で行った一部開示決定処分
(以下「本件処分」という。)のうち、金額の部分及び別紙の全部(以下「本件非開示部分」という。)を非開示とする決定処分の取消しを求めるというものである。
なお、本件非開示部分には、世田谷区(以下単に「区」という。)と区から訴訟を受任した弁護士(以下「本件弁護士」という。)とが協議の上、合意した本件弁護士の当該訴訟に係る報酬に関する金額が記載されている。
(2) 審査請求の理由
請求人が、審査請求書、反論書等によって主張している審査請求の主な理由は、次のとおりに要約される。
ア 区は、当該個人の権利等を害するおそれがあり、また区の当該事務の適正な遂 行に支障を及ぼすおそれがあるため、本件非開示部分を非公開とする処分をした。
イ 公にすることにより、本件弁護士及び区に何らかの不利益が生じるおそれがあるというだけでは足りず、本件弁護士の権利等及び区の事務遂行が具体的に侵害されると認められる場合のみに非公開の処分は許容されるものである。しかし、区は、具体的な不利益の根拠を示さず、非公開とする処分は、情報公開制度の趣旨に反して許されるものではない。
ウ 本件非開示部分の公開は、個人の権利、競争上の地位、正当な権利を害するものではなく、むしろ、xxで民主的な区政の運営、適正な財政支出等を区民が知る権利を保障し、区の諸活動に関し区民に説明する責務を全うするため、公開は必要である。
エ 本件弁護士の他の依頼者が、報酬額が異なることなどを理由に本件弁護士との信頼関係を損ねることとなるとあるが、他の依頼者が、経済的利益が10万円(訴額)で区が適正金額として決定した弁護士報酬の額を知ったとしても、適正金額でなければ区に対する不信感を抱くだけで、本件弁護士との信頼関係が損ねることはない。よって、本件弁護士の事業活動上の正当な権利が害されることはないので、公開されるべきである。
オ 京都市情報公開審査会や神戸市情報公開審査会において、弁護士に対して支払った報酬額を公開しても、本件弁護士の事業活動に支障が生じるとは認められないと判断し、明確に弁護士報酬の額は公開すべきと答申している。
カ 葛飾区においても同様の事案を審査しており、審理員意見書において、弁護士報酬の額に係る部分を非公開とする処分は取り消されるべきとの意見が述べられている。その後、葛飾区では、裁決により、弁護士報酬の額を非公開とした処分を取り消している。
キ 区は、条例第7条第3号ロに基づき、〇〇歳の〇〇、会社を潰された従業員、請求人の人権・生命・財産を保護するため、弁護士報酬の額を公開すべきである。
ク 一般に、契約は社会的妥当性(公序良俗に反しない)及び客観的合理性(適正 金額)が要求されるものである。本件の場合は、公金の支出を行う行政契約なの でさらに厳格に適用されるべきである。訴訟委任契約における弁護士報酬の額は、公金の支出に関する情報であり、公開することにより納税者に対して説明責任
(契約の社会的妥当性及び客観的合理性)を果たすことになるので、公開されるべきである。
3 審査請求に対する実施機関の説明
処分庁である実施機関(以下単に「実施機関」という。)が、本件処分について、弁明書及び口頭による説明で主張している内容は、次のとおりに要約される。
ア 条例第7条によれば、「実施機関は、開示請求があったときは、開示請求に係る行政情報に次の各号のいずれかに該当する情報(以下「非開示情報」という。)が記録されている場合を除き、開示請求者に対し、当該行政情報を開示しなければならない。」と規定している。
そして、同条第3号本文によれば、非開示情報を「法人(国、独立行政法人等、地方公共団体及び地方独立行政法人を除く。)その他の団体(以下「法人等」という。)に関する情報又は事業を営む個人の当該事業に関する情報であって公にすることにより、当該法人等又は当該事業を営む個人の権利、競争上の地位その他正当な利益を害するおそれがあるもの。」と規定している。かかる「おそれ」とは、法的保護に値する相当の蓋然性が認められることをいう。
また、同条第6号ロによれば、非開示情報を、実施機関又は国、独立行政法人等、他の地方公共団体若しくは地方独立行政法人が行う事務又は事業に関する情報であって公にすることにより、契約、交渉又は争訟に係る事務に関し、国、独立行政法人等、地方公共団体又は地方独立行政法人の財産上の利益又は当事者
としての地位を不当に害するおそれがあるものと規定している。かかる「おそれ」とは、法的保護に値する相当の蓋然性が認められることをいう。
イ 一般に、弁護士報酬の額は、事件の難易、依頼者の受ける経済的利益の大小、弁護士と依頼者との親疎の程度、報酬規定等の事情を総合的に考慮して、弁護士と依頼者との協議の上、個別に定められるものである。したがって、弁護士報酬の額は、事件の難易や経済的利益等事件の客観的事情が同種の事案であっても、事件の主観的事情たる弁護士又は依頼者によって異なり得るものであって、その結果、それは、個々の弁護士においてどのような訴訟事件をいかなる報酬額で受任するのかという事業活動上の方針を反映するという性格を帯びるものである。
このような性格をもつ弁護士報酬の額が公開されると、本件弁護士が、訴訟事件及び依頼者である区に対してどのような評価をなしたのかが第三者に対して明らかにされることとなり、その結果、これを知った本件弁護士の他の依頼者が、報酬額が異なることなどを理由に本件弁護士との信頼関係を損ねることとなるなど、本件弁護士にとって、事業活動上の正当な利益が害される相当の蓋然性が認められるから、本件非開示部分は、条例第7条第3号本文の非開示情報に該当する。
ウ また、本件非開示部分には、本件訴訟で区が評価した本件弁護士の報酬に関する金額が記載されている。本件非開示部分が開示された場合、区の本件訴訟についての事件の難易や経済的利益等に関する認識及び本件弁護士の弁護活動に対する評価等が明らかになる。そして、区から他の訴訟事件を受任している弁護士が、自己の報酬額と本件弁護士に対する報酬額とを比較することにより、受任事件の難易や経済的利益等が正当に認識されていない、又は自己の弁護活動が正当に評価されていないとして、区に対して不信感を抱くことも十分予想される。このようなことになれば、区が他の訴訟事件の処理を委任している弁護士、ひいては今後争訟事務の処理を委任することとなる弁護士の理解、協力を得ることが困難となり、その結果、区における訴訟事件及び将来の争訟事務の適正な遂行に支障を及ぼす相当の蓋然性が認められるから、本件非開示部分は、条例第7条第6号ロの非開示情報に該当する。
したがって、本件非開示部分につき、実施機関が条例第7条第3号及び第6号ロを根拠に非開示とする本件処分を行ったことは、妥当である。
エ 請求人は、本件弁護士及び区に生じる具体的な不利益が示されていないことを理由に、本件処分が違法である旨主張する。しかし、行政情報一部開示決定通知書の別紙2の理由における「本件弁護士の他の依頼者が当該報酬金額との相違等を理由に、本件弁護士との信頼関係を損ねることとなる」、「争訟事務の処理を委任する弁護士の理解・協力を得ることが困難となる」との記載から、請求人は、具体的な不利益の内容を明確に認識し得るので、請求人の主張に理由はない。
オ さらに、請求人は、本件非開示部分は区民の「知る権利」を保障するため、区 の諸活動に関し区民に説明する責務を全うするため、開示されるべきと主張する。確かに、行政情報の開示制度は、区民の知る権利を保障するとともに、区が区政
に関し区民に説明する責務を全うすることを目的とするものであるから、行政情報は開示を原則とするものである。
しかし、「知る権利」を保障するという理念にあっても、区が保有する行政情報の中には、公にすると個人のプライバシーや企業の利益を侵害したり、行政のxx・適正な運営に支障が生じ、ひいては区民全体の利益を損なうことになるものなどがあり、例外的に非開示とせざるを得ないものもある。そうすると、本件非開示部分は、上記イ及びウのとおり、条例第7条第3号及び第6号ロの非開示情報に該当するとして、開示しないと判断されたものであるから、請求人の主張に理由はない。
カ 以上のことから、本件処分は、条例に基づき適正に行われたものであり、何ら違法又は不当な点はなく、請求人の主張にはいずれも理由がないから、本件審査請求は棄却されるべきである。
4 審査会の判断
審査会は、請求人及び実施機関の主張を検討した結果、以下のように判断する。
(1)本件審査請求対象文書について
本件審査請求に係る開示請求書には、「①平成30年1月1日以降、世田谷区と
〇〇弁護士との間に交わされた委任契約書及びその起案書。②平成30年1月1日以降、〇〇弁護士からの請求書。」と記載されており、実施機関はこれらを開示請求の対象情報としている。そしてその内訳は、①「平成30年2月14日付起案
29世区情第672号「訴訟委任契約の締結について(東京簡易裁判所平成30年
(ハ)第10594号国家賠償請求事件)」」、②「委任契約書(民事事件用)(平成
30年2月19日付)」、③「平成30年3月26日付起案29世区情第795号「訴訟委任契約の締結について」」、④「委任契約書(民事事件用)(平成30年3月28日付)」及び⑤「平成30年度支出命令番号52004「訴訟に係る報酬の支払い」に係る支出負担行為兼支出命令(電子決裁)一式のうち、請求書一式の部分」の5点と認められる。
審査請求書によると、請求人は本件非開示部分を非開示とした処分の取消しを求めており、本件処分のうち、条例第7条第2号で非開示とした部分については争っていない。よって、当審査会は、以下、本件非開示部分を非開示とした条例第7条第3号及び第6号ロの該当性について審査する。
(2)条例第7条第3号の該当性について
本件処分において、実施機関は、弁護士報酬の額は、条例第7条第3号に該当し、公にすることにより、当該事業を営む個人の権利その他正当な利益を害するおそれがあるとしている。
当審査会としては、弁護士報酬の額が条例第7条第3号に該当するか否かについて、以下のとおり判断する。
ア 条例第7条第3号では、法人等に関する情報又は事業を営む個人の当該事業に
関する情報であって公にすることにより、当該法人等又は当該事業を営む個人の権利、競争上の地位その他正当な利益を害するおそれがあるものを非開示情報としている。かかる「おそれ」とは、法的保護に値する相当の蓋然性が認められることをいう。
イ 弁護士は、弁護士の作成する報酬に関する基準に基づいて経済的利益、事案の難易、時間及び労力その他の事情に照らして、適正かつ妥当な弁護士報酬を提示しなければならず、そのうえで弁護士と依頼者が協議の上弁護士報酬の額を決定する。
ウ このようにあくまでも弁護士報酬は弁護士と依頼者との協議により決定するものであることから、実施機関が主張するように、弁護士報酬の額は、依頼者の受ける経済的利益、事件の難易等事件の客観的事情が同種の事案であっても、事件の主観的事情たる弁護士又は依頼者によって異なりうるものであって、その結果、それは、個々の弁護士においてどのような訴訟事件をいかなる報酬額で受任するのかという事業活動上の方針を反映するという性格を帯びるものである。その限りにおいて、本件弁護士の他の依頼者や他の弁護士に対する弁護士業務上の内部管理に属する秘密事項として保護すべき面が無いとは言えない。
エ しかしながら、本件のような地方公共団体である区の公金の支出に関する情報は、区の予算の適正な執行を説明する責任の観点から、公益性が高い情報であり、一般に公にされるべき性質のものであるといえる。上記4(2)ウのとおり、弁護士報酬の額は、事業活動上の方針を反映するという性格を帯びるものの、区との契約に関する情報は公益性が高い情報であり、依頼を受けた本件弁護士は、公金であるがゆえ、一般に公にされるべき性質のものであることを承知の上で契約したものであるといえるものである。
したがって、本件非開示部分を公にすることにより、本件弁護士の事業活動上の正当な利益が害される相当の蓋然性が認められるとまではいえず、第7条第3号本文の非開示情報には該当しない。
(3)条例第7条第6号ロの該当性について
本件処分において、実施機関は、弁護士報酬の額は、条例第7条第6号ロに該当し、公にすることにより、当該事務の適正な遂行に支障を及ぼすおそれがあるとしている。
当審査会としては、弁護士報酬の額が条例第7条第6号ロに該当するか否かについて、以下のとおり判断する。
ア 条例第7条第6号ロでは、実施機関又は国、独立行政法人等、他の地方公共団体若しくは地方独立行政法人が行う事務又は事業に関する情報であって公にすることにより、契約、交渉又は争訟に係る事務に関し、国、独立行政法人等、地方公共団体又は地方独立行政法人の財産上の利益又は当事者としての地位を不当に害するおそれがあるものを非開示情報としている。かかる「おそれ」とは、法的保護に値する相当の蓋然性が認められることをいう。
イ 実施機関は、弁護士報酬の額を公にすることにより、本件訴訟についての事件の難易や経済的利益等に関する認識及び本件弁護士の弁護活動に対する評価等が明らかになり、区から他の訴訟事件を受任している弁護士が、自己の報酬額と本件弁護士に対する報酬額とを比較することにより、受任事件の難易や経済的利益等が正当に認識されていない、又は自己の弁護活動が正当に評価されていないとして、区に対して不信感を抱くことも十分予想されると主張する。また、このようなことになれば、区が他の訴訟事件の処理を委任している弁護士、ひいては今後争訟事務の処理を委任することとなる弁護士の理解、協力を得ることが困難となり、その結果、区における訴訟事件及び将来の争訟事務の適正な遂行に支障を及ぼす相当の蓋然性が認められるとも主張している。
ウ 確かに、弁護士報酬の額は、上記4(2)のとおり、弁護士報酬の額については一定の基準が存在するが、いかなる報酬額で受任するかは受任事件の難易や経済的利益等各種事情を総合的に考慮して、弁護士と依頼者との協議の上で決定される。よって、弁護士によって報酬額が異なる可能性があり、その結果、他の弁護士が自己の報酬額と本件弁護士に対する報酬額とを比較することにより、区に対して不信感を抱く可能性が考えられる。
しかしながら、弁護士報酬は区が執行する公金である以上、その額は適正に執行されているべきであり、弁護士報酬の額が適正に執行されている限りにおいては、たとえ他の弁護士に不信感を抱かれたとしても、区は適正に予算執行している旨を毅然と説明すればよいと考えられる。また、仮に一部の弁護士が区に不信感を抱いた結果、理解や協力を得ることが出来なくなった場合においても、区は、他の弁護士に依頼するなどの手法を選択することができることから、このことをもって、直ちに区における同種の事務を行うにつき支障が生じる事態は発生し得ないというべきである。
したがって、本件非開示部分を公にすることにより、区における訴訟事件及び将来の争訟事務の適正な遂行に支障を及ぼす相当の蓋然性が認められるとまではいえず、第7条第6号ロの非開示情報には該当しない。
以上のことから、実施機関が一部非開示とした本件処分のうち、本件非開示部分を非開示とした決定は妥当ではなく、当該部分を開示すべきである。
よって、「1 審査会の結論」のように判断する。
5 審査会の経過
日 | x | x | 議 | 経 | 過 |
平成30年11月13日 | 審査庁(世田谷区長)から諮問を受けた。 (諮問第104号) | ||||
平成30年12月10日 | (平成30年度第9回審査会) ・事務局から経過概要の説明を受けた。 | ||||
平成31年1月10日 | (平成30年度第10回審査会) ・実施機関から説明を受けた。 ・諮問事項を審査した。 | ||||
平成31年1月21日 | (平成30年度第11回審査会) ・引き続き諮問事項を審査した。 | ||||
平成31年2月14日 | (平成30年度第12回審査会) ・引き続き諮問事項を審査した。 | ||||
平成31年4月4日 | (平成31年度第1回審査会) ・引き続き諮問事項を審査した。 | ||||
令和元年7月16日 | (令和元年度第4回審査会) ・引き続き諮問事項を審査した。 | ||||
令和元年10月17日 | (令和元年度第6回審査会) ・引き続き諮問事項を審査した。 | ||||
令和元年10月17日 | 審査庁(世田谷区長)に答申した。 |