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有期労働契約で雇用され2回契約更新された短大教員の無期労働契約移行の主張が退けられた事例
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《判例研究》
有期労働契約で雇用され2回契約更新された短大教員の無期労働契約移行の主張が
退けられた事例:
xx学園(九州女子短期大学)事件・最1小判平28・12・1労判1156号5頁,判タ1435号89頁,判時2330号84頁
x x x x
はじめに
本件は,学校法人 Y(被告・控訴人・上告人)と期間1年の有期労働契約を締結し,Y の運営する短期大学の教員として勤務していた X(原告・被控訴人・被上告人)が,Y による契約更新拒否(雇止め)は許されないとして,Y を相手に労働契約上の地位の確認及び雇止め後の賃金の支払いを求めた事件である。一審
(福岡地xxx判平26・2・27労判1094号45頁)が2度にわたる Y の2度の雇止 めの効力を否定し,Y が控訴したところ,原審(東京高判平26・12・12労判1122 号75頁)は,まず X の3年は試用期間であり,特段の事情がない限り,X の有 期労働契約は無期労働契約に移行するという X の合理的期待を認めた上,2度 にわたる雇止めの効力を否定した。その上で,原審は,X は2度目の雇止めの効 力を争い,その後も訴訟を追行しているから無期化の申込みをしたと認められ, また,無期への移行を否定する特段の事情もなかったとして,Y の控訴を棄却し た。この原審の判決は,有期労働契約の更新による存続を肯定した一審と異なり,それが無期労働契約になって存続していることを認めたものである。
本件のように有期労働契約が反復更新された場合,最高裁は,「あたかも期間の定めのない契約と実質的に異ならない状態で存在していた」(東芝xx工場事件・最判昭49・7・22民集28巻5号927頁)とか,「その雇用関係はある程度の継
続が期待されていた」(日立メディコ事件・最判昭62・12・4労判486号6頁)と して,雇止めに解雇権濫用法理を類推適用して,雇止めの効力を否定し,有期労 働契約の更新を認めてきた。その後,同法理は平成24年の労働契約法改正により,同法19条に定める形で明文化され,現在に至っている。しかし,原審のように期 間1年の有期労働契約であることを認めながら,労働者の合理的な期待を理由に 3年の試用期間があったとして,その期間満了後の無期労働契約への転換を肯定 した判決は先例のないものである。これは,上記労xx改正で別途導入された18 条が2つ以上の有期労働契約の通算期間が5年を超えた場合に一定の要件の下に,無期労働契約への転換を可能としたことに照らしても,極めて思い切った判決と いうことができる。これに対するYの上告に応えたものが,本件最高裁判決であ る。
本稿では,一審及び控訴審(原審)が認定した事実関係をやや詳細に紹介し,一審及び控訴審判決の概要をまとめた上,本件最高裁判決を紹介し,その内容と意義を検討する。
1 事実の概要
⑴ X は,平10年3月 P 大学法文学部卒後,平12年3月に Q 大学大学院人間環境学府修士課程を修了し,平22年3月同博士後期課程を修了した。Y は,本件短大,K 大学及び KK 大学(以下,「3大学」)等を運営する学校法人である。Xは,平22年1月,Y の平23年4月1日に新設予定の短大のJ 学科教員募集に応募し,平22年1月27日に採用面接を受けたが,面接において,Y の事務局長 N から,契約期間について勤務は3年で1年ごとに更新をする旨説明された。面接終了後,N 又は Y の人事課員から,契約期間:3年,更新の有無:「ただし,1年ごとの更新とする」,備考:「契約の更新は,契約職員の職務成績,態度及び Yの業務上の必要性により判断する」等,旧規程の各条を読み上げて,本件労働契約について説明された。平22年3月,Y は,X に対し,平成23年4月1日を採用予定日とする内定を通知し,同日,本件契約書により本件労働契約を締結した。これによると,契約期間は平23年4月1日~24年3月31日,給与は年俸で348万円,契約の更新に関しては,①契約更新は,契約職員の勤務成績,態度及び Yの業務上の必要性により判断する。②前項により双方が契約更新の合意に達し,
本件労働契約満了の後,新たな契約を締結する場合があり得る。③本労働契約期間中に次期の契約更新の協議が整わない場合は,契約期間の満了をもって,本件労働契約は当然に終了するとされていた。なお,本件契約書には,X の身分が記載されていないが,短大 J 学科講師として勤務した。
⑵ Y の旧規程(旧就業規則)は,契約職員のうち講師以上の大学教育職員の契約期間は3年。ただし,1年ごとの更新とする。契約の更新は,契約職員の勤務成績,態度及び Y の業務上の必要性により判断する(3条1項)。その契約期間が満了するとき,理事長が定年年齢に達していない者の任用を必要と認め,かつ,本人が希望した場合には,期間の定めのない任用を行うことができる(9条 1項)と定めていた。その後,旧規程を改定し,平成23年4月1日に施行された新規程(新就業規則)には,次のように規定した。雇用期間は,契約職員が希望し,かつ,当該雇用期間を更新することが必要と認められる場合は,3年を限度に更新することがある。この場合において,契約職員に在職中の勤務成績が良好であることを要するものとする(3条1項,2項)。勤務成績を考慮し,Y がその者の任用を必要と認め,かつ,当該者が希望した場合は,契約期間が満了するときに,期間の定めのない職種に異動することができるものとする(9条1項)。なお,X は,新規程が適用されるとか,新規程と旧規程に違いがあるとの説明は受けていない。
⑶ Y は,平24年3月19日,同月31日をもって本件労働契約を終了する旨通知
(本件雇止め)したが,N は,通知に際し,旧規程適用と説明した。さらに,平 25年2月6日付,平25年3月31日をもって終了する旨通知(本件予備的雇止め)した。
⑷ Y においては,期間の定めのない専任職員と期間の定めのある契約職員がおり,平17年度までは教員を期間の定めのない専任職員として採用していたが,平18年度に期間の定めのある契約職員制度を導入し,同年度以降の新規採用者は原則として期間の定めのある契約職員となった。短大J学科は,改組により23年度に新設された学科であり,教員構成は,教授8名,准教授3名,講師5名及び助手1名の合計17名となっていた。その内,4名は期間の定めのない専任職員
(教授2名,准教授1名及び講師1名),4名は特任教員(教授3名,准教授1名),9名は契約職員(教授3名,准教授1名,講師4名,助手1名)であった。
⑸ X は,必修科目を担当し,科目数は,専任職員とほぼ同程度であり,実習係,教務係及び学生募集・入試委員・AO 入試係を担当(契約形態=専任職員,契約職員,特任教員に関わりなく各教員が2,3個の係を担当)し,教務課程委員会,同和教育委員会,ハラスメント防止委員会の委員であり,X の職務内容・勤務時間などの労働条件は専任職員と差異があったとは認められない。
⑹ Y の契約職員は,毎年10月,更新可否の書類が3大学から提出され,翌年 1月人事計画委員会で検討され,更新の際には契約書を作成していた。そして,契約職員の更新実態等は,次のようであった。
⒜3大学で6年間(平18~23年)に新規採用した講師以上の契約職員51名中,退職した者(X と係争中の者1名を含む)22名につき,①業務成績不良を理由に 3年目期間満了雇止めの事例1件(短大),②3年目期間満了後,期間の定めのない任用拒否の事例1件(KK 大)(係争中),③退職勧奨が行われた例が少なくとも2件,④1年目又は2年目の更新時期に明示的な雇止めの事例は X のみ
(短大)。⒝ J 学科開設時,X と同時に採用された講師以上の契約職員5名中,平 24年4月1日付での雇止めは X のみ。⒞上記51名中,平23年度末時点で,3年 を超えて勤務していた者は10名で,8名が期間の定めのない専任職員に移行した。
⒟3年目期間満了後,期間の定めのない専任職員任用を明示的に拒否した事例は,
⒜の①及び②のみ。⒜退職者22名+⒝3年超え勤務10名+⒞3年未満勤務中19名ということになろう。なお,⒜①と②の表現の違いは不明⒜③の退職勧奨が何のためかは不明である。
⑺ 以上の事実に加え,控訴審では,次の付加的な事実が認定されている。すなわち,契約職員は3年目まではヒヤリングもなく更新され,3年経過特に初めて継続の意思を問うヒヤリングがあり,その後は期限の定めのない雇用契約を結ぶことになっており,上記3年は試用期間であるという認識が教職員間に共有されていた。また,Y 作成の平成20年6月4日付け『第7回 xx学園大学教員人事計画委員会資料』の『契約教員等の契約期間満了に伴う任用の移行基準につい
て(再提案)』と題する文書 に「契約職員規程が改正(平成18年4月1日改正)されて以後の教職員の新規採用については,採用当初の3年間を試用期間の観点から『xx学園契約職員に関する規則』に基づき,契約職員として期間を定めて任用し,期間が満了するときに期間の定めのない任用を行う予定である。」と記載されていた。また,Y 作成の平成24年4月11日付「専任教員(幼稚園・保育領域)の公募についての「給与及び待遇」欄には「採用当初の3年間は,年俸契約制による雇用となります。」と記載されていた。
2 本件下級審判決要約
⑴ 一審判決(地位確認請求認容)
1)新設のJ 学科では,複数年にわたる一貫した学生の教育が予定されていたか ら,新規採用教員の更新をすることなくその多くの者が終了するならば学校運営 に重大な支障を生じること,本件契約書等に契約更新及び無期の専任職員への移 行に関する規定があること,3年目の契約期間後,無期の専任職員への移行を拒 否した事例が2件あるものの,1年目又は2年目の更新拒否を受けたのは X の みであり,X と同時に採用された5人中,X 以外は全員更新されたこと,及び X は無期の専任職員と職務内容,労働条件ともに差異はなかったことから,X の本 件労働契約は少なくとも3年間は継続して,その間2回更新されると期待するこ とについて合理的な理由がある。したがって,解雇権濫用法理が類推適用される。そして,X の勤務成績及び勤務態度に不良があったということはできず,本件雇 止めは客観的に合理的な理由を欠き,社会通念上相当とは認められない。 2)本件予備的雇止めの時点でも,X の上記の雇用継続の合理的期待は失われて おらず,X は,本件予備的雇止めの効果を争い,本件訴訟を追行して遅滞なく異 議を述べたといえるから,X は労xx19条の規定する労働契約の更新の申込みを したものと認められる。そして,本件予備的雇止めも,また,合理的な理由を欠 き,社会通念上相当と認められない。
3)したがって,X の本件有期労働契約は,平成24年3月31日の期間満了後も,従前と同一の労働条件で更新されたものとみなされる。
⑵ 原判決(控訴棄却)
1)「本件労働契約は少なくとも3年間は継続するものと期待するものというべきである」から,本件雇止めにより,終了したとのYの主張は認められない(一審判決を維持)。
2)T の陳述,第7回教員人事計画委員会資料などからみた教職員・Y の認識及び3年を超え勤務していた者10名中8名が専任移行したという,「X の認識や更新の実態などに照らせば,上記3年は試用期間であり,特段の事情なき限り期間の定めのない雇用契約に移行するとのXの期待に客観的な合理性がある」。 3)X は,本件予備的雇止めの効果を争い,その後も訴訟を追行して遅滞なく異議を述べたといえる以上,本件予備的雇止めに対する反対の意思表示をして期限の定めのない契約への移行を希望するとの申し込みをしたものと認められる。2度にわたる雇止めが客観的に合理的な理由を欠き,社会通念上相当でなく,特段の事情がない以上,Y はXの上記申し込みを拒むことができず,本件労働契約は無期契約へ移行した。よって,本件予備的雇止めにより,本件労働契約が終了したとの主張も認められない。
3 本件最高裁判旨
最高裁は,次のような理由により,原判決を破棄し,一審判決の平成26年4月 1日以降の地位確認・賃金支払請求認容部分を取消した。
「本件労働契約は,期間1年の有期労働契約として締結されたものであるところ,その内容となる本件規程には,契約期間の更新限度が3年であり,その満了時に労働契約を期間の定めのないものとすることができるのは,①これを希望する契約職員の勤務成績を考慮して Y が必要であると認めた場合である旨が明確に定められていたのであり,X もこのことを十分に認識した上で本件労働契約を締結したものとみることができる。②上記のような本件労働契約の定めに加え, X が大学の教員として Y に雇用された者であり,大学の教員の雇用については一般に流動性のあることが想定されていることや,③ Y の運営する三つの大学において,3年の更新限度期間の満了後に労働契約が期間の定めのないものとならなかった契約職員も複数に上っていたことに照らせば,本件労働契約が期間の定めのないものとなるか否かは,X の勤務成績を考慮して行う Y の判断に委ね
られているものというべきであり,本件労働契約が3年の更新限度期間の満了時に当然に無期労働契約となることを内容とするものであったと解することはできない。そして,前記……の事実関係に照らせば,Y が本件労働契約を期間の定めのないものとする必要性を認めていなかったことは明らかである。また,有期労働契約の期間の定めのない労働契約への転換について定める労働契約法18条の要件を X が満たしていないことも明らかであり,他に本件事実関係の下において,本件労働契約が期間の定めのないものとなったと解すべき事情を見いだすことはできない。」
なお,本判決には,次のようなxx裁判官補足意見が付されている。
本件の無期労働契約締結前に3年を上限とする1年更新の有期契約期間を設け る雇用形態の採用に一定の合理性があった(大学の新設学科で学生獲得の見通し,教員の能力/資質の判定)。ただ,どのような業種,業態,職種でも,こうした 雇用形態は合理性を有するかは,労基法14条や労xx18条の趣旨・目的等を考慮,有期労働者の増加による社会への影響に照らし,考慮すべきである。有期契約の 更新の期待と,無期労働契約への転換の期待を同列に論じることはできない。無 期転換は,正社員採用の性格を有するから,使用者に一定の裁量が留保されてい ることを踏まえて期待の合理性の判断(「客観的にみて法的保護に値する期待」 の存否の判断)が行われなければならない。
4 本件最高裁判決の検討
⑴ 3年間は継続して雇用されるとの判断
本件最高裁判決は,一審及び原判決のうち,3年間は継続して雇用されると期 待する合理的理由があり,本件雇止めは合理的理由を欠き社会通念上相当と認め られず無効とした部分を維持した。なお,一審判決は,本件雇止めについては, 雇用継続の合理的期待に基づく解雇権濫用法理を類推適用し,本件予備的雇止め については,労xx19条を適用しているが,この違いは,本件雇止めの時点では,労xx19条の規定がなかったからに過ぎない。前記1事実の概要⑷の本件の更新 実態等からすると,一審の3年間雇用・2回は更新されるという雇用継続の合理 的期待は問題なく認められるといってよい。さらに進めて,3回目の有期契約更 新の合理的期待を導き出すこともできるかという点についても検討しておきたい。
Yの旧規定(Yは,雇止め通知に際し,旧規定適用と説明している)によると, 契約期間が3年と明示しており,面接時,面接後の同様の説明からみて,期間1 年の有期契約の更新には3年の上限があった。一般に,最初の契約締結時に,更 新回数や雇用期間に上限を設けることが契約内容になっていた場合は,原則とし て,その上限を超えて更新される合理的な期待は生じず(北洋電機事件・大阪地 決昭62・9・11労判504号25頁),就業規則に明記され,かつ,説明を受けていた ような場合には,本人がそのことを明確に認識して契約を締結したといわざるを 得ないからである(ダイキン事件・大阪地判平24・11・1労判1070号142頁,x x学園事件・東京地判平26・10・31労判1110号60頁等)。したがって,このこと からすると,3年を超える雇用継続の合理的期待を導き出すことは容易ではない。しかし,本件の場合,前記1事実の概要⑷のとりわけ⒜の⒞の事実,すなわち, 18~23年に採用された契約職員51名中,3年目期間満了の雇止めは2名しかなく,また平成23年末時点(Xの採用前年末時点)で3年を超えて勤務していた者10名 中8名が無期移行しているが,2名は有期のままであると推定されることから, 旧規程及び面接前後の説明(更新3年)があっても,実態はそれとは異なり,3 回目の有期労働契約としての更新の合理的期待も認めることができたと思われる
(同旨:xxxx・解説・ジュリスト4~5頁)。もっとも,本件では,この点は争点となっていなかった。
⑵ 3年間は試用期間であるとはいえないとの判断
本件判決は,3年満了時に当然無期となる契約ではなく,Y がその必要を認めて初めて無期契約が締結されるものであり,Y がその必要を認めていないから本件予備的雇止めは有効であるとした。すなわち,期間1年の有期契約と認めながら,試用期間と性格決定し,その期間満了を無期労働契約における試用期間満了と同様に処理した二審判決を否定した。確かに,本件の3年という期間は,事実上,試用期間的な性格(労働者の適格性を判断する期間としての性格)を併せ持つと思われる。従来にも,こうした試用期間的な性格を有する一定期間の有期契約の更新が問題とされた判例がなかったわけではない。例えば,次の3件が上げられる。
① 報徳学園事件・神戸地xxx判平20・10・14労判974号25頁,大阪高判平成 22・1・12労判1062号71頁
一審は,1年の有期契約が実質的な試用期間と認めることにより,将来の専任採用を前提に,少なくとも常勤講師としての雇用継続の合理的期待があるから,解雇権濫用法理が準用されるとした上,更新拒否の効力を否定し,有期労働契約が存続しているとした。これに対し,二審は,試用の意味をもっているとしても 1年の有期であり,B 校長の発言で専任登用(無期契約)を期待したが,この期待は常勤講師契約とは別の契約への移行の期待であり,期間の定めのあるものと実質的に同視できず,同発言による期待は主観的なもので,C/G 両校長の契約回数制限伝達等で減弱・消滅したから解雇法理は類推適用されないとした。
要するに,この事件では,一審は,有期契約の1年の期間を実質試用期間と捉えてはいるが,その更新による有期契約の存続を肯定したに過ぎず,二審は,専任登用の期待は主観的,また減弱・消滅し,雇用継続期待の合理的根拠でないとした。
② 日本航空事件・東京地判平23・10・31労判1041号20頁,東京高判平24・11・ 29労経速2194号12頁(最3小決平25・10・22上告棄却/不受理)
一審・二審とも,客室乗務員募集要項(「1年間の有期限雇用。但し,契約の 更新は2回を限度とし,3年経過後は,本人の希望・適性・勤務実績を踏まえて 正社員への切り替えを行います。」)を重視し,将来正社員として採用され,長期 雇用を期待することの合理性を認めて解雇法理を類推適用したが,職務の性格か ら,Y の評価・判断を合理的と認め,X の適格性欠如による雇止めを有効とした。結局,2回目の期間満了時の雇止めを有効としたため,3年経過後,無期転換の 可能性は問題とならなかった。
③ xx火災海上保険事件・福岡地xxx判平4・1・14労判604号17頁
判決は,2年間の研修期間を一貫した一個の雇用契約と捉え,その中の6つの段階の各研修期間を契約存続期間ではなく,各期間満了時点で解約権が留保されているものとした上,第一次研修期間満了時の解約権行使は,客観的に合理的理由があり,社会通念上相当であるとした。本件では,研修期間を一個の雇用契約と解しているが,2年間満了後は独立した専属代理店となるとされており,この研修期間終了後に,別途委任契約締結を予定するものであった。研修期間途中での解除の効力が問題となっているが,研修期間が満了すると当然に委任契約が成
立するか否かは問題となっていない。いわゆる,労働契約の試用期間とは性格が異なっていた。
上記のとおり,これらの判決では,試用期間的な性格を併せ持つとは考えられ ているようであるが,その効果として,本件の原判決ようにその期間満了により,原則として,当該労働契約が有期から無期に移行するとまでは考えられていな かった。その意味で本件の原判決は,極めて異色の判決であったということがで きるが,そのように,期間1年の有期契約を前提としつつ,3年間を試用期間と して,試用期間終了後に無期になるとすることは果たして理論的に可能なのであ ろうか。
まず,明らかにしておきたいのは,原審の上記判決論理は,採用に際し労働者の適性を評価・判断する目的で期間が設定された場合,特段の事情のない限り,その期間は「契約の存続期間」でななく「試用期間」であるとする最高裁判決以降,支配的となった諸判例(神戸xx学園事件・最3小判平2・6・5労判564号7頁,xxx館事件・盛岡地判平13・2・2労判803号26頁,久留米親愛女学院事件・福岡地xxxx判平13・4・27労経速1775号3頁,学校法人聖パウロ学園事件・大津地判平7・11・20労判688号37頁・大阪高判平8・9・18繁多935号 119頁・最3小判平9・2・25労判740号85頁,ケイズ事件・大阪地判平15・6・
3・11労経速1870号24頁等)と直結しないということである。なぜなら,原判決は,本件契約が期間1年の有期契約であることを前提としているからである。すなわち,ここでは,神戸xx学園事件で問題となった一定の期間の合意が,雇用の継続期間か試用期間かの選択ではなく,有期労働契約が2回更新された後の雇用期間満了が試用期間満了と同様の効果を有するかが問題となっているのである
(xx(xx)x・評釈・ジュリスト1507号139~142頁,142頁参照)。本件契約は,初めから無期契約であったということができないから,有期から無期への転換を問題とせざるを得ない。原審は,当初の契約締結時の契約文言,説明,就業規則の文言を前提としながら,認定した文書・陳述による Y の意識と更新実績・専任採用実績から「3年は試用期間であり,特段の事情なき限り無期に移行するとの客観的に合理的な期待がある」とするが,試用期間的性格から無期労働契約が成立するというのはやはり無理であろう。因みに,本件事実関係からは,1年の期間の定めのある契約ではなく,3年の試用期間で1年の各期間満了時点で解約権が留保されていたというような理論構成も取り得ない(前掲xx火災海上保
健事件判決参照)。
⑶ 本件最高裁判決の論理と意義
最高裁は,二審の「3年は試用期間であり,特段の事情のない限り,無期労働契約に移行するとの期待に客観的な合理性があるというべき」との立論を,⑴3年は更新限度に過ぎないこと,⑵①その無期化は「Y が必要であると認めた場合」と明確に定められ,X がそれを十分認識していたことに加えて,②大学教員の雇用の一般的流動性及び③無期化しなかった契約職員が複数いたことに照らして,当然に無期労働契約に移行するとは解されない,として否定した。換言すると,判決は,3年というのは試用期間ではないこと,3年満了時に本件契約が当然無期化するものか否かに関する契約当事者の意思解釈を①から③の事情に基づいて行ったものといえる。本件判決が①に加えて,②及び③に言及していることの意義は必ずしも明らかではないが,xxの規定があり,そのことを労働者が十分認識しているといえても,それが全く実態を反映しないこということであると考えられる。したがって,「に加えて」というのは,本件では,①に反するような事情も存しないということを明らかにするものとして用いられていると解すべきである。その意味では,事情によっては,有期契約の無期契約への移行を認め得る場合もあり得ることを明らかにしているといえる。
因みに,xx裁判官の補足意見は,「本件のように有期労働契約が試用期間的 に先行している場合にあっても,なお使用者側に一定範囲の裁量が留保されてい るものと解される。そのことを踏まえて期待の合理性の判断が行われなければな らない」とする。この補足意見は,本件の3年間の有期契約期間を試用期間的な ものと捉え,その場合には,使用者の裁量が縮減されていると解して,労働者の 無期化への期待の合理性を論じているものと思われる。これが補足意見として付 されているため,本件判決もそのような立場をとっているとの誤解を招く可能性 もある。もし,補足意見のように言えるならば,労働契約法理における労働者の 雇用継続に対する合理的期待の法的意義を格段高める可能性を有するといえる。 しかし,従来の判例が有期契約の更新に対する労働者の合理的期待による有期契 約の更新強制を肯定するのにでさえ,理論的には問題を孕んでいたのであり,合 理的期待に基づく有期から無期への転換は格段そのハードルが高すぎる。実際, 本件判決自体は,Xの合理的期待については何の言及もしていない。本件判決は,
上記のように先行する3年間の雇用とは切り離して,当事者の契約意思解釈を行っているに過ぎないと解すべきである。
本件判決を上記のように解しても,例えば,契約の文言が曖昧であった場合,あるいは,使用者の必要性によることが明確に定められている場合でも専任に任用されなかった者が殆ど皆無であった場合等,諸般の事情から,当事者の契約意思解釈として,有期労働契約から無期労働契約への原則的な移行の合意が肯定される余地は残ると解することができる。しかし,原審の認定事実から,そうした結論を導き出すことは無理だったと思われる。因みに,上記4⑴において検討した通り,3回目の有期労働契約の更新の合理的な期待も認められ得る事実関係があり,本件判決⑴のように本件有期労働契約に明確な3年の更新限度があったといえるかは疑問である。また,今まで,有期契約の雇止めの正当化にしばしば使用されてきた「大学の教員の雇用については一般に流動性のあることが想定されている」との一般的な事実認定が妥当でないことは指摘しておく必要があると思われる(xxxx・評釈・法時89巻12号135~138頁の138頁,xxxx・「有期労働契約の雇止め規制:判例法理と労働契約法19条の解釈」季労255号125~139頁の135頁)。
最後に,若干付け加えると,xx裁判官の補足意見が,どのような業種,業態,職種でも,こうした雇用形態は合理性を有するかとの問題提起を行ったことには,意味があると考える。しかし,短大教員は仕事の性格上3年の試用期間的な有期 労働契約の利用も合理性があるといえるかについては,疑問がある。3年間もの 間様子をみないと,短大教員としての適格性が判断できないといえるのかだろう か。確かに,例えば,前掲日本航空事件の飛行機の客室乗務員のように緊急時の 保安要員として安全に重大な責任を負う職務に就く適格性を有するかを判断する のに1年では不十分といえるかもしれないが,大学教員としての適格性の評価・ 判断に3年も必要はないであろう。そして,有期契約が試用期間的な目的で利用 されている場合,本件のように,適正評価判断(①)と教員数の調整(②)とい う二つの目的を3年後に行う裁量を使用者に委ねる契約職員制度に認めるのは使 用者の利益に偏り過ぎて,xx性に欠けると思われる。
しかし,既に述べたように,有期契約から無期契約への移行は,黙示の合意を 認めるなら兎も角として,合理的期待によって認めるのにはxxxxが高すぎる。このギャップをうめるとすれば,期待利益ないしxxx違反を理由として,慰謝
料請求を広く認める方向であろうか。本件判決もこの途まで否定しているわけではないだろう。また,最高裁が神戸xx学園事件において,適性を評価・判断する目的での有期契約の締結をその趣旨が明確である場合に限定する立場が示されたことを重視して,試用のために有期契約を利用する場合には,特別に労xx18条の「5年を超える」の要件を短縮する立法措置を図る途もあるかもしれない。ただ,その場合には,無期化後の労働条件の均等化も講じる必要があると思われる。xx裁判官の問題提起は重要であるが,具体的な解釈論ないし立法論をどう展開するのは容易ではない。