・比例報酬方式の著作権契約の特徴としての「協働(coopération)」(Ⅲ)
著作権契約にみる「契約像」の問題
xxxx(早稲田大学)
Ⅰ はじめに
▶ 課題
・著作権契約における相当・xx報酬原則(特に、比例報酬原則)の意義
* 政策的な正当化は、直接の課題としない
▶ 著作権の利用を目的とする契約の規律
・典型契約論の有用性
▶ 報告の構成
・売買契約の特徴としての「交換」(Ⅱ)
・比例報酬方式の著作権契約の特徴としての「協働(coopération)」(Ⅲ)
*「売買」型の規律は唯一のものではなく、これと異なる「契約像」があり得るのではないか?
Ⅱ 交換型契約
1 契約法の規律領域
⑴ 給付と反対給付
▶ 著作権契約は、著作権の「移転」(民法 555 条を参照)を生じさせるか?
・法形式の選択は、意思解釈
・考えられる法形式
・著作権の全部・一部の譲渡 → こちらを念頭に置く
・債権的な利用権の設定
▶ 著作権の利用を可能にする給付に組み合わされる報酬支払債務のあり方
・定額払い方式/比例報酬方式
⑵ 典型契約の構造
▶ 典型契約に着目することの意義
・契約の内容を構造化し、一定の手順に従った解決を可能にする
・本質的要素(給付・反対給付)の決定は、当事者の意思に委ねられる
・給付・反対給付の内容に即して、契約の構造が決定される
▶ 給付と反対給付以外の内容の決定
・当事者の合意による決定
・法による補充
・契約類型ごとに定められた法の規定に基づいて確定される
* 対価の支払方法が比例報酬方式であることが、契約の構造に相違をもたらすか?
2 交換型契約の機構
⑴ 対価関係の決定
⒜ 契約による等価性の保障
▶ 主観的等価性
・当事者が企図したとおりに交換の保障
・等価性の評価が適切に行われず、その評価の基礎が失われたとき=利害の再調整
▶ 利害の再調整の方法
・契約締結時における認識の誤り:基礎事情錯誤(95 条 1 項 2 号)
・経済的価値に関する評価の誤りは、原則として自己責任
・契約締結後の事情の変動:事情変更の原則
・例:予測することができなかった新しい著作物利用形態の出現
⒝ 合意の役割
▶ 解決の基準
・錯誤・事情変更の原則の適用=当事者による自主的な取決めが欠ける場合
・当事者による明示的な約定の可能性
・裁判所による「当事者の合理的意思」に基づく解決の可能性
*いわゆる譲渡目的論の位置づけ
▶ 基礎事情錯誤・事情変更の原則の基礎づけ
・「表意者が法律行為の基礎とした事情」(民法 95 条 1 項 2 号)の「表示」(同条 2 項)
・事情変更の原則における契約規範アプローチ
⑵ 契約の構造
▶ 有償性の表現としての交換
・各当事者の利益の源泉=反対給付
・ゼロ和(zero-sum)状況の発生
・当事者の一方が目的物の価値の評価に失敗し、自らにとって不利益な条件での契約締結に応じたときは、それと相関的に、他方の当事者が利益を得る
▶ 個別的な規律における帰結
・財産権移転の完了による契約関係の消滅
・以後の法律関係は、著作権(≠著作権契約)に基づいて規律される
・債務不履行:双務契約の対価的牽連関係
・協力義務が希薄
Ⅲ 協働型契約
* S. XXXXXXXX, Le contrat-coopération : contribution à la théorie générale du contrat, préf. Cl. BRENNER, Economica, 2012.
1 協働型契約の機構
【自費出版】
製作・公表
X
著
Y
出
報 酬
⑴ 比例報酬原則
⒜ 出版を目的とする契約の類型
▶ 自費出版契約(contrat à compte d'auteur)
・著作者が出版者に報酬を支払い、出版者が書籍を製作しこれを公表・頒布(CPI L. 132-2 条 2 項)
【共同出版】
製作・公表/収益・損失
X
著
Y
出
・出版契約ではなく(同条 1 項)、役務提供契約(louage d'ouvrage)(同条 3 項)
▶ 共同出版契約(contrat de compte à demi)
・著作権に基づいて書籍を製作し、その費用を著作者と出版者が収益と損失を折半(CPI L. 132-3 条 2 項)
・出版契約ではなく(同条 1 項)、匿名組合(société en participation)(同条 3 項)
【出 版】
ⓐ 報 酬
ⓑ 製作・公表
X
著
xxxx
Y
出
▶ 出版契約(contrat d'édition)
・著作者が出版者に書籍を製作するための権利を譲渡し、出版者が書籍を製作し、これを公表・頒布(CPI L. 132-1 条)
・出版者の義務:ⓐ権利取得の対価として報酬を支払う義務、ⓑ取得した権利に基づいて出版を行う義務
⒝ 比例報酬方式の機能
▶ 出版契約における比例報酬原則の採用
・「著作者による著作物に対する権利の譲渡」は、「販売又は利用から生ずる収入の比例配分を著作者のために伴わなければならない」(CPI L. 131-4 条 1 項)
・理由
① 著作物の人格由来性
② 些少な代価で権利の全部を譲渡する事態を避ける
▶ 理由②について
・比例報酬方式=給付と反対給付との不均衡は生じない?
・定額払い方式:レジオンまたは著作物の収益(produits de l'œuvre)についての不十分な見通しによる損害を被った場合には、改定請求権あり(CPI L. 131-5 条 1 項)
・比例報酬方式:不適用(同条 2 項) *改正あり
・報酬割合が僅少であることによる損害の可能性 → 一般法が機能する場面?
⑵ 協働型契約の特徴
⒜ 対価の設定
▶ 交換的側面
・有償の出版契約:権利の譲渡と対価の支払
▶ 非交換的側面
・出版の成果として得られた利益が両当事者に均霑される
・書籍の公表・頒布による収益が、出版者・著作者に共通する利益の源泉
・非ゼロ和状況の発生、「相乗的な利益」の獲得
⇒ 協働型契約
⒝ 契約の構造
▶ 著作権の利用による利益の獲得
⇒ 共同の利益が、定型的にみて契約の目的にまで高められている
▶ 個別的な規律における帰結
・著作物を利用する義務
・「手段・目的関係」(≠対価的牽連関係)
⇒「契約をした目的」(民法 542 条 1 項 5 号参照)
・協力義務・誠実義務
2 契約内容の規整
⑴ 対価に関する義務――契約自由の原則の制限
▶ 契約自由の原則の制限
▶ 立法政策的な正当化
・収益=著作者と出版者に帰属/損失=出版者のみに帰属
・正当化:人格由来性?
・対価的不均衡の発生の防止と「弱者の保護」
・定額払いが一概に不利とはいえない
・将来における収益の予測が定型的に困難であることを重視?
⑵ 契約の構造――定型的に課される義務
⒜ 著作物を利用する義務
▶ 著作物を適切に利用する義務=出版の義務(81 条)
・比例報酬方式=出版の実現は、要素たる債務
・「別段の定め」(同条 1 項柱書ただし書)の内容
▶ 権利の利用がされないとき:消滅請求(84 条 1 項、2 項)
・目的的給付の不履行に伴う解除権
・手段・目的関係に立つ給付が「契約をした目的」となる
⒝ 利用状況を知らせる義務――透明化義務の位置づけ
▶ 利益実現の他者依存性
・誠実義務の発生(委任:民法 644 条以下)
・比例報酬方式:著作権の利用に関する状況を報告する義務(委任:民法 645 条)
・著作者による履行状況の確認機会の保障
・出版者の利益を犠牲にしない(非ゼロ和状況)
▶ 透明化義務の位置づけ
Ⅳ おわりに――二つの「契約像」をめぐって
▶ 整理
交換型契約 | 協働型契約 | |
当事者の利害 | ゼロ和状況 | 非ゼロ和状況 |
利益の源泉 | 給付(主観的等価性) | 給付+給付外利益(相乗的) |
契約の構造 | 対価的牽連関係 | 対価的牽連関係+手段・目的関係 |
協力義務 | 消極的 | 積極的 |
▶ 「協働型契約」という問題設定
・契約法学においてもいまだ受け容れられてはいない
・契約像の理解にとっての試金石