受贈者に一定の給付をすべき債務を課する贈与契約を負担付贈与といいます。たとえば、Aが B に不動産を贈与することを約し、B がこの贈与の負担として、この不動産を収益として得た価額の一定割合を、毎月A に支払うことを約するような場合です。
宅地建物取引士 贈与契約
2020 年度xxx試験をふりかえる
(見出し)贈与契約
(質問)
負担付贈与の贈与者は売主と同じ責任を負う?
(回答)
その負担の限度において、売主と同じく担保の責任を負う
(記事内容)
贈与契約とは~書面で契約しなくても有効?~
贈与契約は、一方当事者(贈与者)が他方当事者(受贈者)に対して、無償つまり対価なしに財産を与える旨の意思を表示し、他方当事者がこれを受諾する意思を表示することによって成立する諾成契約です。書面で契約しなくても有効です。
贈与をする理由には、愛情や感謝の念、人間関係の維持など多様です。慈善目的の寄付のように純粋なものもあれば、謝礼のようにxx的な義務のあるものや、何らかの見返りを期待するものもあります。いずれの場合でも、受贈者に法的な意味での見返り(対価的給付)の義務が存在しないのであれば、片務的で無償の契約である贈与になります。
書面によらない贈与の解除~口約束で贈与した場合は解除できる?~
書面によらない贈与は、各当事者が解除をすることができます(民法 550 条本文)。その趣旨は、①贈与の意思の明確を期すること、及び②軽率な贈与を予防することです(大判明治 40 年 5 月 6 日)。したがって、「書面」といえるためには、贈与があったこと、及び贈与者が確固たる贈与の意思を持っていたことが明確に見てとれるものであればよいとされています(最判昭和 53 年 11 月 30 日)。
ただし、書面によらない贈与であっても、履行の終わった部分については解除できません
(民法 550 条但書)。その趣旨は、書面によらない贈与でも、履行がなされれば贈与者の意思は明確になり、軽率ではなかったことも明らかになるからです。したがって、「履行が終わった」といえるためには、履行が完全に終了していなくても、主要な内容が実行されていればよいとされています。たとえば、目的物が不動産の場合、引渡しがあれば登記は未了でも(大判明治 43 年 10 月 10 日)、逆に、引渡しがなくても登記がなされれば履行終了と解
されています(最判昭和 40 年 3 月 26 日)。つまり、不動産の贈与については、引渡しとx
《重要判例》
・離婚に際し財産を分与する約束には民法 550 条の適用はない(最判昭和 27 年 5 月 6 日)。
・書面には必ずしも贈与という辞句の明記を要しない。贈与者より不動産についての売渡証書が受贈者に交付され、受贈者が代金の受領証を贈与者に交付していても、他の証拠資料に基づき当事者は無償とする意思であったことが認められれば、民法 550 条にいう書面によ
る贈与となる(大判大正 15 年 4 月 7 日)。
・贈与者が贈与の目的たる土地についていまだ前主から所有権移転登記を受けていないため、前主に宛て、右土地は受贈者に譲渡したから前主より受贈者に直接所有権移転登記するよう求めた内容証明郵便を差し出したときの、右内容証明郵便は、民法 550 条の書面によ
る贈与に当たる(最判昭和 60 年 11 月 29 日)。
・書面によらない不動産の贈与において、所有権の移転があっただけでは履行を終わったものとすることはできないが、その占有の移転(占有改定の事例)があればよい(最判昭和 31
年 1 月 27 日)。
・不動産の贈与契約においてその不動産の所有権移転登記がされたときは、引渡しの有無を問わない(最判昭和 40 年 3 月 26 日)。
贈与者の引渡義務~贈与者も契約不適合責任を負うの?~
贈与者には、種類、品質及び数量につき契約の内容に適合した目的物を引き渡す債務が発生します。しかし、売主のように代金を頂くわけではないので(無償性)、その契約不適合責任は、売主に比べると軽減されています。具体的には、贈与者は、贈与の目的である物または権利を、贈与の目的として特定した時の状態で引き渡し、または移転することを約したものと推定されます(民法 511 条 1 項)。つまり、贈与者は現状のままで引き渡せばよいということです。ただし、これは推定規定に過ぎないので、たとえば一定の品質の物の引渡しを贈与すると約したものであることを受贈者が立証した場合には、贈与者はその合意を前提とした義務を負うことになります。その立証がない限りは推定がはたらき、その意味において契約不適合責任は軽減されているといえます。
引き渡された物等が不適合であった場合、受贈者は、債務不履行の一般的な救済である損害
賠償請求、契約解除、または追完請求をすることができます。なお、贈与者の善意・悪意は、適合性の判断には影響しません(2020 年改正点)。
負担付贈与~法的な見返りのある贈与はもらう側にも責任が?~
受贈者に一定の給付をすべき債務を課する贈与契約を負担付贈与といいます。たとえば、Aが B に不動産を贈与することを約し、B がこの贈与の負担として、この不動産を収益として得た価額の一定割合を、毎月A に支払うことを約するような場合です。
受贈者に義務が課される点で双務契約に類似する側面があるので、契約の内容に応じて、双務契約に関する規定が準用されます。具体的には、民法 533 条(同時履行の抗弁)、同 536
条以下(危険負担)及び同 541 条以下(解除)です。
また、負担付贈与については、贈与者は、その負担の限度において、売主と同じく担保の責任を負います(民法 551 条 2 項)。具体的には、負担付贈与の受贈者は、売買に関する民法
562 条(追完請求)、563 条(減額請求)、また、564 条により適用可能と確認される 415 条
(損害賠償請求)、541 条及び 542 条(契約解除)、さらに、565 条(移転した権利が不適合である場合の責任)及び 570 条(目的不動産に抵当xxが存していた場合の費用償還請求)の各条文が定める権利を、負担を履行することによって損失を被らない限度まで、行使できます。
負担を履行することによって損失を被らない限度とは?
たとえば、3,000 万円の価値があるとされる不動産を A が B に贈与し、この贈与に、A の C に対する 1,500 万円を B が引き受けるという負担が付された場合において、この不動産が実際には 1,000 万円の価値しかないとき、B が負うべき負担は 1,000 万円に縮減します。
なお、負担は贈与の対価ではないので、負担付贈与であっても無償契約です。また、主として、合意により義務として受贈者に課される点において、条件とも異なります。
定期贈与~定期贈与の当事者が死亡したら?~
定期の給付を目的とする贈与(定期贈与)は、贈与者または受贈者の死亡によって、その効力を失います(民法 552 条)。定期贈与は、贈与者と受贈者の間の特別な関係(特に、贈与者が受贈者を扶助する関係)に基づくものだからです。
定期贈与とは?
A が B に対し、毎月 15 万円を対価なしに与えることを約するような場合です。
死因贈与~死亡を条件に贈与する契約は遺言と同じ?~
贈与者の死亡によって効力を生ずる贈与を死因贈与といいます。相続財産の中から財産が与えられる点で遺贈に類似しますが、遺贈は単独行為である遺言によりなされるのに対し、死因贈与は契約である点が異なります。したがって、その性質に反しない限り、遺贈に関する規定を準用することになっています。
《重要判例》
・死因贈与の方式について遺贈に関する規定の準用はない(最判昭和 32 年 5 月 21 日)。
(過去問題にチャレンジ!)
【問 9】 A がその所有する甲建物について、B との間で、①A を売主、B を買主とする売買契約を締結した場合と、②A を贈与者、B を受贈者とする負担付贈与契約を締結した場合に関する次の記述のうち、民法の規定及び判例によれば、正しいものはどれか。なお、これらの契約は、令和 2年 7 月 1 日に締結され、担保責任に関する特約はないものとする。(2020 年度問 9)
1 ①の契約において、B が手付を交付し、履行期の到来後に代金支払の準備をして A に履行の催告をした場合、A は、手付の倍額を現実に提供して契約の解除をすることができる。
2 ②の契約が書面によらずになされた場合、A は、甲建物の引渡し及び所有権移転登記の両方が終わるまでは、書面によらないことを理由に契約の解除をすることができる。
3 ②の契約については、A は、その負担の限度において、売主と同じく担保責任を負う。
4 ①の契約については、B の債務不履行を理由としてA に解除権が発生する場合があるが、②の契約については、B の負担の不履行を理由として A に解除権が発生することはない。
正解:3
1× B が履行に着手しているので解除できません。
買主が売主に手付を交付したときは、買主はその手付を放棄し、売主はその倍額を現実に提供して、契約の解除をすることができます。ただし、その相手方が契約の履行に着手した後は解除できません(民法557 条1 項)。本問の場合、B は履行期の到来後に代金支払の準備をしており、履行に着手したといえます。したがって、A は、手付の倍額を現実に提供してしたとしても、契約を解除することができません。
2× 甲建物の引渡しまたは所有権移転登記のいずれかが終われば解除できます。
書面によらない贈与は、各当事者が解除をすることができます。ただし、履行の終わった部分については解除できません(民法 550 条)。これは、書面によらない贈与でも、履行がなされれば贈与者の意思は明確になり、軽率ではなかったことも明らかになるからです。「履行の終わった」とは、この趣旨に照らせば、履行が完全に終了していなくても、主要な内容が実行されていれば足ります。目的物が不動産の場合、引渡しがあれば登記は未了でも(大判明治 43 年 10 月 10 日)、逆
に、引渡しがなくても登記がなされれば履行終了と解されています(最判昭和 40 年 3 月 26 日)。
したがって、A は、甲建物の引渡し、または所有権移転登記のいずれかが終われば、契約を解除することができなくなります。
3 〇 負担付贈与については、贈与者は、その負担の限度において、売主と同じく担保の責任を
負います(民法 551 条 2 項)。したがって、A は、売主と同じく担保責任を負います。なお、売主と同じ担保責任とは、売買に関する 562 条(追完請求)、563 条(減額請求)、また、564 条により適用可能と確認される 415 条(損害賠償請求)、541 条及び 542 条(契約解除)等の権利を、負担付の受贈者は、負担を履行することによって損失を被らない限度まで、行使できると考えられます。
4× B の負担の不履行を理由としてA に解除権が発生することもある。
売買契約の買主の債務(代金不払い等)について不履行があれば解除権が発生する場合はあります(民法 541 条)。それに対して、贈与契約は無償契約・片務契約なので、受贈者に債務は存しないので受贈者の債務不履行は想定できません。しかし、贈与契約に負担が付いていた場合
(たとえば、A が B に不動産を与えることを約し、B がこの贈与の負担として、この不動産を収益して得た価額の 1 割を毎年A に支払うことを約すような場合)は、その性質に反しない限り、双務契約に関する規定が準用されます(民法 553 条)。民法 541 条以下の債務不履行による解除に関
する規定も準用されます(最判昭和 53 年 2 月 17 日)。したがって、受贈者 B の負担の不履行を理由としてA に解除権が発生することもあります。