Contents
〈2018年6月号〉
Contents
知財高裁(4部)平成30年4月4日判決〔ピタバスタチン製剤事件〕
審決取消訴訟の訴えの利益が認められる条件及び進歩性判断における
知財高裁(特別部)平成30年4月13日判決〔ピリミジン誘導体事件〕
意匠に係る物品をライターとする意匠と公知の意匠の類似性を肯定した事例
知財高裁(3部)平成30年4月12日判決〔ライター意匠事件〕
高等学校の応援団による応援風景の写真の著作物性を肯定した事例
東京地裁(46部)平成30年4月26日判決〔応援団写真事件〕
大阪地裁(21部)平成30年4月17日判決〔堂島プレミアムロール事件〕
知的財産N ewslet ter 2 018 年6月号 1
1.経産省のAI・データ契約ガイドライン検討会により、AI・データの利用に関する契約ガイドラインの原案が作成され、 2018年4月27日から5月26日までの間、パブリックコメントが募集されています。
従前、「データに関する取引の推進を目的とした契約ガイド ライン」(2015年10月)と「データの利用権限に関する契約ガイドラインver.1.0」(2017年5月)が存在しました。今回のガイドラインは、前者を「データ提供型契約1」、後者を「データ創出型契約2」とし、さらに、「データ共用型契約3」という類型を加えて、これらについてのガイドラインを「データ編」としてまとめています。また、「AI編」としては、「AI開発契約」と「AI利用契約」のガイドラインを定めています。別紙を含めると、データ編、AI編共に166頁に及ぶxxなものとなっています。
2.AI編では、AI技術(機械学習、ディープラーニングなど)の簡単な解説やAIに関する契約についての基本的な考え方、
「学習済みモデルの開発契約4」や「AI技術の利用契約5」における考慮要素など、さらに、国際的取引の視点についても解説されています。そして、アセスメント段階の秘密保持契約書、 PoC(概念実証)段階の導入検証契約書、開発段階のソフトウェア開発契約書について、それぞれモデル契約が解説と共に収載されています。また、末尾には、検討会の作業部会で検討された、様々な具体的ケースに応じた相談事項と回答が添付されています。
3.データ編では、データ契約を検討するにあたっての法的な基礎知識の解説があり、データは所有権の対象とならないため、「データ・オーナーシップ」の帰属というのがデータの利用権限を主張することができる債権的な地位であると整理されています。そして、「データ提供型契約」、「データ創出型契約」、
「データ共用型契約」で定めるべき条項についての解説がなさ
れ、「データ提供型契約」と「データ創出型契約」のモデル契約書案が収載されています。また、ここでも、AI編と同様、末尾に相談事項と回答が添付されています
4.契約は、当事者間で様々な状況に応じて、様々な内容で締結されます。したがって、一定の方向性を指針として示すという意味でのガイドラインにはなじまないところがあります。また、このガイドラインは、従前のガイドラインのイメージであるチェックリストとして使えるようなまとまったものではありません。しかし、このガイドラインは、新しい分野である、AIやデータに関する契約書を作成するにあたり、いろいろな視点や考え方を提供してくれることに加え、条項案、モデル契約書、具体的な相談例が大変豊富に提示されており、必ず参考になるものであるということができます。AIとデータに関する様々な種類の契約を対象としていますので、新たに起案される場合に、該当部分について、参照されることをお薦めします。
1 データ提供者から他方当事者に対してデータを提供する際に、他方当事者の利用権限その他提供条件等を取り決める契約
2 データが新たに創出される場面において、データの創出に関与した当事者間で、データの利用権限について合意する必要のある場合の契約
3 プラットフォームを利用したデータの共用を目的とする類型の契約
4 ベンダが学習済みモデルを含むAI技術を利用したソフトウェアを開発し、ユーザ等の委託者に納品する契約
5 ベンダが開発した学習済みモデル等のAI技術を提供し、ユーザがこれを利用する契約
本ニュースレターの発行元は弁護士法人大xx法律事務所です。弁護士法人大xx法律事務所は、1981年に設立された日本の総合法律事務所です。東京、大阪、名古屋、海外は上海にオフィスを構えており、主に企業法務を中心とした法的サービスを提供しております。本ニュースレターの内容は、一般的な情報提供に止まるものであり、個別具体的なケースに関する法的アドバイスを想定したものではありません。本ニュースレターの内容につきま しては、一切の責任を負わないものとさせて頂きます。法律・裁判例に関する情報及びその対応等については本ニュースレターのみに依拠されるべきでなく、必要に応じて別途弁護士のアドバイスをお受け頂ければと存じます。
知財高裁(4部)平成30年4月4日判決(平成29年(ネ)第10090号)裁判所ウェブサイト〔ピタバスタチン製剤事件〕
本件は、本件特許1(特許第5190159号「医薬」)の特許権者である被控訴人(一審原告)が、控訴人(一審被告)による被告製品の製造販売等が請求項2の発明(本件発明)に係る特許権(本件特許権)を侵害するとして、被告製品の製造、販売等の差止め等を求めた事案です。被告製品が本件発明の技術的範囲に属することは当事者間に争いがないところ、原審は、控訴人による先使用権の抗弁及び特許無効の抗弁の主張をいずれも退け、被控訴人の請求を認容したため、控訴人が控訴しました。本判決は、控訴人が主張する先使用権の抗弁を認めず、控訴を棄却しました。医薬の数値限定発明に係る特許権に関し先使用権の成否を詳細に検討した事例判決として、紹介します。
本判決は、①本件特許出願日までに製造されていた被告製品のサンプル薬の水分含量が本件発明の範囲内(1.5~2.9質量%の範囲内)にあったということはできない、②(仮にサンプル薬の水分含量が1.5~2.9質量%の範囲内にあったとしても)、サンプル薬に具現された技術的思想が本件発明と同じ内容の発明であることはできない、との2段階の理由により、先使用権の成立を否定しました。①②に関する判示は、以下のとおりです。
【水分含量(①)について】
・ サンプル薬の測定時の水分含量は、1.5~2.9質量%の範囲内にある。しかし、サンプル薬の製造から測定まで4年以上もの期間が経過しているところ、サンプル薬には極めて吸湿性の高い崩壊剤・添加剤が含まれるから、サンプル薬の水分含量は容易に増加し得る。サンプル薬が、長期間にわたって、
アルミピロー包装下で保管されている間に、湿気の影響を受けて水分含量が増加した可能性も、十分にあり得る。
・ xx産品の水分含量は、1.5~2.9質量%の範囲内にある。しかし、サンプル薬とxx産品が同一工程により製造されたものということはできないから、xx産品の水分含量が本件発明の範囲内であることをもって、サンプル薬の水分含量も本件発明の範囲内であったということはできない。
・ サンプル薬の顆粒の水分含量を基に錠剤の水分含量を推計すると、サンプル薬の水分含量は本件発明の範囲内になかった可能性を否定できない。
【技術的思想(②)について】
・ 先使用権を有するといえるためには、サンプル薬に具現された技術的思想が本件発明と同じ内容でなければならない。
・ 本件発明は、ピタバスチンまたはその塩の固形製剤の水分含量に着目し、これを2.9質量%以下にすることによってラクトン体の生成を抑制し、これを1.5%以上にすることによって5-ケト体の生成を抑制し、さらに、固形製剤を気密包装体に収容することにより、水分の侵入を防ぐという技術的思想を有するものである。
・ 控訴人が、サンプル薬の水分含量が一定の範囲内になるよう管理していたということはできない。また、控訴人は、サンプル薬の水分含量には着目していなかった。したがって、控訴人は、サンプル薬の製造に当たり、サンプル薬の水分含量を 1.5~2.9質量%の範囲内又はこれに包含される範囲内となるように管理していたとも、1.5~2.9質量%の範囲内における一
1 【請求項1】
次の成分(A)及び(B):
(A)ピタバスタチン又はその塩;
(B)カルメロース及びその塩、クロスポビドン並びに結晶セルロースよりなる群から選ばれる1種以上; を含有し、かつ、水分含量が2.9質量%以下である固形製剤が、気密包装体に収容してなる医薬品。
【請求項2】
固形製剤の水分含量が1.5~2.9質量%である、請求項1記載の医薬品。
本ニュースレターの発行元は弁護士法人大xx法律事務所です。弁護士法人大xx法律事務所は、1981年に設立された日本の総合法律事務所です。東京、大阪、名古屋、海外は上海にオフィスを構えており、主に企業法務を中心とした法的サービスを提供しております。本ニュースレターの内容は、一般的な情報提供に止まるものであり、個別具体的なケースに関する法的アドバイスを想定したものではありません。本ニュースレターの内容につきま しては、一切の責任を負わないものとさせて頂きます。法律・裁判例に関する情報及びその対応等については本ニュースレターのみに依拠されるべきでなく、必要に応じて別途弁護士のアドバイスをお受け頂ければと存じます。
・ サンプル薬においては、錠剤の水分含量を1.5~2.9質量%の範囲内又はこれに包含される範囲内に収めるという技術的思想はなく、また、錠剤の水分含量を1.5~2.9質量%の範囲内における一定の数値とする技術的思想も存在しない。そうすると、サンプル薬に具現された技術的思想が、本件発明と同じ内容の発明であるということはできない。
以上のとおり、本判決は、医薬の数値限定発明に係る特許権に関し先使用権の成否を具体的・詳細に説明していることから、先使用権の主張立証にあたり参考になるものと思います。
本ニュースレターの発行元は弁護士法人大xx法律事務所です。弁護士法人大xx法律事務所は、1981年に設立された日本の総合法律事務所です。東京、大阪、名古屋、海外は上海にオフィスを構えており、主に企業法務を中心とした法的サービスを提供しております。本ニュースレターの内容は、一般的な情報提供に止まるものであり、個別具体的なケースに関する法的アドバイスを想定したものではありません。本ニュースレターの内容につきま しては、一切の責任を負わないものとさせて頂きます。法律・裁判例に関する情報及びその対応等については本ニュースレターのみに依拠されるべきでなく、必要に応じて別途弁護士のアドバイスをお受け頂ければと存じます。
における引用発明の認定について判断が示された事案
知財高裁(特別部)平成30年4月13日判決(平成28年(行ケ)第10182号,第10184号)裁判所ウェブサイト〔ピリミジン誘導体事件〕
本件は、被告(特許権者・被請求人)の高コレステロール血症の治療薬に関する特許権(本件特許権)について、原告(請求人)が提起した特許無効審判に関連する審決取消訴訟です。特許庁が請求不成立の審決を下したため、原告が知財高裁に対して審決取消訴訟を提起しました。知財高裁は大合議事件としてこれを審理し、原告の訴えを棄却しました。
争点は多岐にわたりますが、本稿では、重要と考えられる、原告の訴えの利益の有無及び進歩性の判断における引用発明の認定に関する判断を紹介します。
➢ 訴えの利益
まず、訴えの利益についてですが、知財高裁での審理中に本件特許権の存続期間が満了したため、本判決の時点で本件特許権はすでに消滅していました。また、被告の主張によれば、原告は、本件特許権の存続期間中に本件特許権の実施行為を行っていなかったようです。このため、被告は、原告の訴えの利益が消滅したとして却下を求めました。これに対して知財高裁は、「特許無効審判請求を不成立とした審決に対する取消しの訴えの利益は、特許権消滅後であっても、特許権の存続期間中にされた行為について、何人に対しても、損害賠償又は不当利得返還の請求が行われたり、刑事罰が科されたりする可能性が全くなくなったと認められる特段の事情がない限り、失われることはない」と判示し、本件ではそのような特段の事情はないとして、原告の訴えの利益を認めました。
なお、本件は平成26年特許法改正によって、無効審判の請求権者が利害関係人に限定される以前に無効審判が提起された事件ですが、知財高裁は、現行法の下での訴えの利益についても、「訴えの利益が消滅したというためには、客観的に見
て、原告に対し特許権侵害を問題にされる可能性が全くなくなったと認められることが必要であり、特許権の存続期間が満了し、かつ、特許権の存続期間中にされた行為について、原告に対し、損害賠償又は不当利得返還の請求が行われたり、刑事罰が科されたりする可能性が全くなくなったと認められる特段の事情が存することが必要であると解すべき」として、同様に広く認める旨を判示しています。
➢ 進歩性の判断
ついで、進歩性に関する判断を見ます。判断は主として、本件特許の請求項1を巡ってなされました。請求項1は物質特許であり、ある化学式の化合物がクレームされていました。これに対して被告は主引用発明である甲1と副引用発明である甲2の組み合わせによって、進歩性がないと主張しました。本件では、副引用発明である甲2に、請求項1と主引用発明の相違点を埋める構成が開示されているかどうかという点が特に問題となりました。
知財高裁は、引用発明の認定について、「通常、本願発明と技術分野が関連し、当該技術分野における当業者が検討対象とする範囲内のものから選択されるところ、同条(注:特許法29条)1項3号の「刊行物に記載された発明」については、当業者が、出願時の技術水準に基づいて本願発明を容易に発明をすることができたかどうかを判断する基礎となるべきものであるから、当該刊行物の記載から抽出し得る具体的な技術的思想でなければならない。そして、当該刊行物に化合物が一般式の形式で記載され、当該一般式が膨大な数の選択肢を有する場合には、当業者は、特定の選択肢に係る具体的な技術的思想を積極的あるいは優先的に選択すべき事情がない限り、当該刊行物の記載から当該特定の選択肢に係る具体的な技術
本ニュースレターの発行元は弁護士法人大xx法律事務所です。弁護士法人大xx法律事務所は、1981年に設立された日本の総合法律事務所です。東京、大阪、名古屋、海外は上海にオフィスを構えており、主に企業法務を中心とした法的サービスを提供しております。本ニュースレターの内容は、一般的な情報提供に止まるものであり、個別具体的なケースに関する法的アドバイスを想定したものではありません。本ニュースレターの内容につきま しては、一切の責任を負わないものとさせて頂きます。法律・裁判例に関する情報及びその対応等については本ニュースレターのみに依拠されるべきでなく、必要に応じて別途弁護士のアドバイスをお受け頂ければと存じます。
知的財産N ewslet ter 2 018 年6月号 5
そのうえで、判決は、甲2発明がそのような相違点に関する具体的な技術的思想を開示しているかどうか検討を行いました。甲2発明は、本件特許の請求項1と同様に物質発明に関する公開特許公報ですが、極めて多数の化合物が一般式として開示されていました。被告が相違点を埋めることができると主張した化合物は、「殊に好ましい化合物」の一つでしたが、この
「殊に好ましい化合物」に限っても、2000万通り以上の化合物が開示されていました。さらに、被告主張の化合物は、甲2が
「殊に極めて好ましい化合物」として開示していた化合物には含まれておらず、実施例としても開示されていませんでした。知財高裁はこのような事実関係を認定したうえで、当業者が、多数の化合物の中から、被告主張の化合物を積極的あるいは優先的に選択すべき事情は見出すことはできないとして、そもそも甲2には、相違点に関する構成が開示されていないと判断して本件特許の進歩性を肯定しました。
本件は大合議事件であり、審決取消訴訟における訴えの利益がxxに認められたこと、また、引用発明において極めて多数の選択肢が開示されている場合に、そのうちの一つを引用発明とすることができるための条件について判断が示されたという2点で、実務上重要な意義があると考えられます。
本ニュースレターの発行元は弁護士法人大xx法律事務所です。弁護士法人大xx法律事務所は、1981年に設立された日本の総合法律事務所です。東京、大阪、名古屋、海外は上海にオフィスを構えており、主に企業法務を中心とした法的サービスを提供しております。本ニュースレターの内容は、一般的な情報提供に止まるものであり、個別具体的なケースに関する法的アドバイスを想定したものではありません。本ニュースレターの内容につきま しては、一切の責任を負わないものとさせて頂きます。法律・裁判例に関する情報及びその対応等については本ニュースレターのみに依拠されるべきでなく、必要に応じて別途弁護士のアドバイスをお受け頂ければと存じます。
意匠に係る物品をライターとする意匠と公知の意匠の類似性を肯定した事例
知財高裁(3部)平成30年4月12日判決(平成29年(行ケ)第10187号)裁判所ウェブサイト〔ライター意匠事件〕
本件訴訟に至る経緯は次のとおりです。意匠に係る物品を
「ライター」とする意匠(「本件意匠」)について意匠登録出願をした原告Xが、特許庁から拒絶査定を受けたため、これに対する不服審判を請求しました。これに対し、特許庁は請求不成立の審決をしたことから、Xがその取消しを求めて本件訴えを提起しました。審決の理由は、本件意匠が、本件意匠登録出願前に発行された外国雑誌掲載のライターの意匠(「引用意匠」)に類似し、意匠法3条1項3号の意匠に該当するというものでした。なお、本件意匠は蓋を閉めた時の外形がZIPPO社のオイル ライター(「ジッポーライター」)と同様であり、蓋を開けた際の風防の空気穴につき星形にした空気穴が7つ、七曜紋状に並ん
でいることを特徴の一つとするものです。
裁判所は、両意匠の類否判断における観察方法につき、ライターが主として喫煙時に使用されるものであり、使用時は、手に持って蓋を開け、円盤状の発火ドラムを回転させて使用されるのが通常であり、不使用時は、蓋を閉じた状態で、ポケットやカバン、机の引き出し等に収納して保管されるのが通常であるとし、このような物品の性質、用途、使用態様等からすれば、一般需要者である看者は、通常、持ちやすxx使いやすさの観点から、まずその全体的な形態に着目して観察し、次いで蓋や点火部の形状や構成等に着目して観察するものと認めました。そして、①本体と蓋の構成、②蓋を閉じた状態における全体 の形状、③蓋を閉じた状態における縦横の長さの比率、④本体の高さと蓋の高さの比率といった共通点は、物品の全体的な形態に関するものであってまさに看者の注意を強く引く構成態様であると認めた一方で、ⓐ蓋の上面の僅かな膨らみの有無、
ⓑ風防のヒンジ(ライターの蓋と本体を接合する蝶番)側の切れ
目の有無、ⓒ風防の側面に設けられた空気穴の数や形状、並び方の違いといった相違点は、全体からみれば局所的な相違に過ぎないと認めました。
以上より、裁判所は、両意匠の形態における共通点が類否判断に与える影響が大きいのに対して、相違点がこれに及ぼす影響は共通点が与える共通の印象を覆すには至らないとして、両意匠を類似するとした審決の判断には誤りがないとしました。 Xは、上記共通点はジッポーライターとして周知の形態であ るから、一般需要者はこれらの共通点に係る構成をみて商品の類否を判断しないとして、共通点の影響を重視した審決の判断は誤りであると主張していました。これに対し裁判所は、上記共通する構成が周知のライターの形態と基本的に同一であったとしても、看者の注意を強く引く構成態様であると評価される以上、これを特徴的部分として類否判断を行うことは当然であり、このように解さなければ、周知意匠と類似の構成を有する出願意匠がわずかな部分の相違を理由に意匠登録を受ける結果となり、意匠法3条1項3号の趣旨に反すると判断して、Xの主
張を採用しませんでした。
意匠の類否判断は需要者の美感を基準とするところに特徴があり、意匠を全体的に把握した態様である基本的構成態様と、詳細に観察した態様である具体的構成態様のそれぞれにおける共通点と相違点を前提に、相違点の有する差異が共通点の有する美感を凌駕するか否かによって判断されるのが一般的とされます。本件は、事例判断ではありますが、意匠の類否の判断方法について、上記の一般的基準に沿った考えを示した上で、類似を肯定した事案と解され、実務の参考になると考えられますので紹介いたします。
本ニュースレターの発行元は弁護士法人大xx法律事務所です。弁護士法人大xx法律事務所は、1981年に設立された日本の総合法律事務所です。東京、大阪、名古屋、海外は上海にオフィスを構えており、主に企業法務を中心とした法的サービスを提供しております。本ニュースレターの内容は、一般的な情報提供に止まるものであり、個別具体的なケースに関する法的アドバイスを想定したものではありません。本ニュースレターの内容につきま しては、一切の責任を負わないものとさせて頂きます。法律・裁判例に関する情報及びその対応等については本ニュースレターのみに依拠されるべきでなく、必要に応じて別途弁護士のアドバイスをお受け頂ければと存じます。
高等学校の応援団による応援風景の写真の著作物性を肯定した事例
東京地裁(46部)平成30年4月26日判決(平成29年(ワ)第29099号)裁判所ウェブサイト〔応援団写真事件〕
本件は、群馬県の高等学校の卒業生で組織する法人格なき社団である原告Xが、被告Yに対し、Yが高等学校の応援団による応援風景の写真(「本件写真」)を、北海道内の高等学校の校訓や校歌、応援歌の歌詞等を紹介する全8集の書籍(「本件書籍」)に使用し、本件書籍を販売したことが本件写真に係る著作権(複製権、翻案権、譲渡権又は著作xx28条に基づく二次的著作物の利用に関する原著作者の権利)侵害に該当し、Xは本件写真の著作権者から本件写真の著作権及びYに対する上記著作権侵害の不法行為に基づく損害賠償請求権
(譲受日までに発生していた請求権)を譲り受けたと主張して、著作xx112条1項及び2項に基づく本件書籍の印刷、頒布の差止め及び本件書籍のうち本件写真を掲載した部分の廃棄並びに民法709条及び著作xx114条3項に基づく損害賠償を求めた事案です。
本件写真は、春季高等学校野球大会の応援風景を撮影した写真であり、画像の上半分に野球場のフェンス、その土台及びフェンス越しのグラウンド、下半分にスタンドが写っていて、フェンス側及びスタンド側で画面が斜め(右斜め下方向)に分けられているカラー写真です。また、フェンスとスタンドの間に、スタンドに向いて起立し、背中を大きくそらし、両手を上方に広げ、口を大きく開けて応援団を統率している学生服姿の女子生徒、その女子生徒の左側にスタンドの観客席で起立してメガホンを持つなどする学生服姿やユニホーム姿の数名の男子生徒が、女子生徒の右側下部分には試合を観戦する観客数名の後頭部が、それぞれ写されていました。
一方、本件書籍では、本件写真のうち、グラウンドや観客数名の後頭部が写っている部分を削除した上、モノクロ画像にす
る等の加工を施した画像(「本件画像」)が使用されていました。裁判所は、本件写真につき、「撮影者…が、…応援風景を、 被写体、シャッターチャンス、撮影方向(アングル)、撮影角度を変え、全体の構図を考えながら、デジタルカメラで何枚も撮影したうちの1枚であり…被写体の選択や配置、シャッターチャンスの捕捉、アングル、構図等に工夫を加えて撮影しており、撮影者の思想・感情が創作的に表現されている」として、その著作物性を肯定しました。また、裁判所は、本件画像につき、本件写真に依拠し、本件写真の創作的な部分であり本質的特徴といえる部分(フェンスとその土台で画面を右斜め下方向に分け、フェンスの前に応援団を統率している学生服姿の女子生徒を配し、女子生徒の左側に学生服姿やユニホーム姿の男子生徒を配して、女子生徒が起立して背中を大きくそらし、両手を上方に広げ、口を大きく開けた瞬間を斜め上方から俯瞰する角度で捉えた点)を再製したものであるとして、Yが本件画像を本件書籍に掲載し、本件書籍を販売したことによる、本件
写真に係る複製権及び譲渡権の侵害をも肯定しました。
本判決は、写真の著作物性及び著作権侵害を判断した一事例として、参考となるものと思われます。なお、本判決は、本件写真の創作性の程度には触れていませんが、「創作性が微少な場合には…写真をそのままコピーして利用したような場合にほぼ限定して複製権侵害を肯定するにとどめるべき」とした知財高判平成18年3月29日判タ1234号295頁(ホームページ上の広告販売用商品写真の著作物性事件)を踏まえますと、裁判所は、本件写真の創作性の程度は一定以上のものである(少なくとも微少ではない)との理解の下、本件写真を加工した本件画像について複製権侵害を肯定したのではないかと推察されます。
本ニュースレターの発行元は弁護士法人大xx法律事務所です。弁護士法人大xx法律事務所は、1981年に設立された日本の総合法律事務所です。東京、大阪、名古屋、海外は上海にオフィスを構えており、主に企業法務を中心とした法的サービスを提供しております。本ニュースレターの内容は、一般的な情報提供に止まるものであり、個別具体的なケースに関する法的アドバイスを想定したものではありません。本ニュースレターの内容につきま しては、一切の責任を負わないものとさせて頂きます。法律・裁判例に関する情報及びその対応等については本ニュースレターのみに依拠されるべきでなく、必要に応じて別途弁護士のアドバイスをお受け頂ければと存じます。
要部として認定した事例
大阪地裁(21部)平成30年4月17日判決(平成28年(ワ)第6074号)裁判所ウェブサイト〔堂島プレミアムロール事件〕
からすると、「プレミアム」を挟んで分離されているものの、被告標章1及び4からは、プレミアムな、すなわち高品質な「堂島ロール」との観念が生じ、これは原告の商品等表示として周知である「堂島ロール」の観念と類似しているといえるし、また称呼も同様に類似しているといえる。
そうすると、被告標章1及び4と原告標章とは、被告標章4のみならず字体に特徴のある被告標章1を含め、取引者、需要者が外観、称呼又は観念の同一性に基づく印象、記憶、連想等から、両者を全体として類似のものとして受け取るおそれがある
というべきである。
本件は、「堂島ロール」という標準文字からなる標章等(「原告標章」)を使用していた原告(X)が、「堂島プレミアムロール」という標準文字からなる標章等(被告標章1及び4)並びに
「(株)堂島プレミアム/プレミアムロール」という二段組の標準文字からなる標章等(被告標章2、3及び5)を使用していた被告
(Y)に対し、被告標章の使用は不正競争防止法2条1項1号に該当するとして、被告標章の使用差止め等を求め、認容された事例です。
裁判所は、原告標章の周知性について、「遅くとも被告会社が設立された平成24年6月までには、原告標章は、原告商品
の出所を表示する商品等表示として、日本全国で需要者の間に広く認識され、その程度は周知の域を超え著名といえるほどになっていた」とした上で、原告標章と被告標章1及び4の類似性につき、以下のとおり判断しました。
また、裁判所は、被告標章2、3及び5についても、「プレミアム」という語は、上記で判示したとおり、独自の出所識別機能を有しない語であるし、また取引の現場では長い名称の商品名は略して称呼され、観念されることが多いと考えられるから、繰り返される「プレミアム」の部分は一単語に省略され、さらにそれ自体の出所識別機能がないことも合わさって、「堂島プレミアム、プレミアムロール」から、「堂島」と「ロール」という2語が需要者に強く印象付けられると考えられるとして、原告標章との類似性を肯定しています。
被告標章1及び4である「堂島プレミアムロール」は、「堂島」、
「プレミアム」、「ロール」の3語で構成されているが、このうち、
「プレミアム」との語は、優れたあるいは高品質なものを意味する語であり、商品が優れたり、高品質なものであったりすることを表現するため商品名に「プレミアム」という文字が付加される例も多い(乙C7の1、2、乙C8の1参照)ことが一般的に認められるから、「プレミアム」の部分は、これと結合する他の単語で表示される商品の品質を表すものと理解され、商品の出所識別機能があるものとは認められない。他方、「堂島」は地名、「ロール」は「ロールケーキ」の普通名詞の略称を表す語であるが、
「プレミアム」が上記のとおり、品質を示す意味しか有しないこと
「プレミアム」といった語については、商標法において、従前より出所識別能力を有するか否かが争われるなどしていました
(大阪地裁平成21年7月16日判決(裁判所ウェブサイト)等)。本
事例は、「プレミアム」という語に商品の出所識別能力がないことを前提として、3語からなる標章について、中央に配された語を除いた2語を要部として認定した事例として紹介いたします。
本ニュースレターの発行元は弁護士法人大xx法律事務所です。弁護士法人大xx法律事務所は、1981年に設立された日本の総合法律事務所です。東京、大阪、名古屋、海外は上海にオフィスを構えており、主に企業法務を中心とした法的サービスを提供しております。本ニュースレターの内容は、一般的な情報提供に止まるものであり、個別具体的なケースに関する法的アドバイスを想定したものではありません。本ニュースレターの内容につきま しては、一切の責任を負わないものとさせて頂きます。法律・裁判例に関する情報及びその対応等については本ニュースレターのみに依拠されるべきでなく、必要に応じて別途弁護士のアドバイスをお受け頂ければと存じます。
知的財産N ewslet ter 2 018 年6月号 9
特許権侵害紛争の実務 -裁判例を踏まえた解決手段とその展望-
出版社 株式会社 青林書院
発行年月 2018年5月
執筆者 xxxx( 33 間接侵害⑵)
xxxx( 47 冒認出願,共同出願違反)
xxxx( 78 審決取消訴訟⑵― 審決取消訴訟の審理範囲)
執筆情報のご案内
本ニュースレターの発行元は弁護士法人大xx法律事務所です。弁護士法人大xx法律事務所は、1981年に設立された日本の総合法律事務所です。東京、大阪、名古屋、海外は上海にオフィスを構えており、主に企業法務を中心とした法的サービスを提供しております。本ニュースレターの内容は、一般的な情報提供に止まるものであり、個別具体的なケースに関する法的アドバイスを想定したものではありません。本ニュースレターの内容につきま しては、一切の責任を負わないものとさせて頂きます。法律・裁判例に関する情報及びその対応等については本ニュースレターのみに依拠されるべきでなく、必要に応じて別途弁護士のアドバイスをお受け頂ければと存じます。
知的財産N ewslet ter 2 018 年6月号 10