Contract
大阪、平11不49、平13.5.29
命 令 書
申立人 全国金属機械労働組合港合同
申立人 全国金属機械労働組合港合同寿鋼管支部被申立人 寿鋼管株式会社
被申立人 平成鋼管株式会社
被申立人 破産者寿鋼管株式会社破産管財人被申立人 住金物産株式会社
主 文
1 申立人の被申立人平成鋼管株式会社及び同住金物産株式会社に対する申立てを却下する。
2 申立人の被申立人寿鋼管株式会社及び同破産者寿鋼管株式会社破産管財人Eに対する申立てを棄却する。
理 由
第1 認定した事実
1 当事者等
(1) 被申立人寿鋼管株式会社(以下「寿鋼管」という)は、肩書地に本社を置き、鋼管類の卸売等を業としていた株式会社であるが、後記4(16)のとおり、平成11 年5 月20日、大阪地方裁判所に自己破産の申立てを行い(以下「本件破産申立て」という)、同月31日、大阪地方裁判所により破産宣告(以下「本件破産宣告」という)を受け、本件審問終結時、破産手続中である。平成11年 4月末における寿鋼管の従業員数は7名であった。
(2) 被申立人平成鋼管株式会社(以下「平成鋼管」という)は、肩書地に本社を置き、鋼管類の卸売等を業とする株式会社であり、その従業員数は本件審問終結時55 名である。なお、後記5(2)のとおり、平成11年10月1日、平成鋼管は、本件申立時に被申立人であったxx鋼管株式会社(以下「xx鋼管」という)を合併した。
(3) 被申立人破産者寿鋼管株式会社破産管財人E(以下「管財人」という)は、本件破産宣告に伴い、平成11年5 月31日に大阪地方裁判所により選任された破産管財人である。
(4) 被申立人住金物産株式会社(以下「住金物産」という)は、肩書地に本社を置き、鋼材、繊維製品等の卸売を業とする株式会社であり、その従業員数は本件審問終結時約1,300名である。
(5) 申立人全国金属機械労働組合港合同(以下「組合」という)は、主として大阪府の金属機械関係の職場で働く労働者で組織された労働組合で、その組合員数は本件審問終結時約800 名である。
(6) 申立人全国金属機械労働組合港合同寿鋼管支部(以下「支部」という)は、組合の下部組織として、寿鋼管で働く従業員により組織された労働組合で、その組合員数は本件審問終結時3名である(以下、組合と支部を併せて「組合等」という)。
2 寿鋼管とxx鋼管の関係等
(1) 寿鋼管は、主として、住金物産の総代理店であるxx鋼管等から鋼管類の供給を受け、販売先の注文に応じてこれを切断し、配達する業務を営んでいた。本件破産申立時において、寿鋼管の仕入れの約6割がxx鋼管からであったが、寿鋼管は独自に販売先を決定しており、寿鋼管とxx鋼管間には資本関係や人事面での交流はなかった。
(2) 寿鋼管は、xx鋼管と商品売買基本契約書(以下「売買契約 書」という)を締結し、これに基づき取引を行なっていた。なお、 平成5 年10月1 日付けの売買契約書の概要は別紙のとおりである。
(3) 寿鋼管と住金物産間には資本面及び人事面の関係はなく、直接の商取引もない。
3 支部結成とそれ以降の経緯
(1) 昭和49年7 月13日、支部が結成され、同月18日、支部と寿鋼管は、経営計画及び労働条件の変更については事前に組合と協議し、同意を要する旨の協定(以下「事前協議同意約款協定」という)を締結した。支部の構成員は、本社事務所とは別の場所にある倉庫に勤務する従業員であり、鋼管類の切断等に従事していた。
なお、支部結成直後、xx鋼管が寿鋼管に対し、労働組合対策として、寿鋼管の利益を少なく見せるために、xx鋼管から寿鋼管への販売価格の引上げを提示したことがあった。
(2) 昭和51年の賃上げの時期、寿鋼管代表取締役のC(以下「C社長」という)は、同社の従業員に対して、xx鋼管から寿鋼管従業員の賃上げは、xx鋼管の賃上げが決定した後、同社の水準を超えないようにと言われているので、賃上げの時期を延期すると説明したことがあった。また、同じ頃、xx鋼管がC社長に対し、勤務年数の短い者から退職させるよう求めたことがあった。
(3) 昭和53年頃、寿鋼管は取引先の倒産等の影響で経営が悪化し、
倉庫勤務の従業員(全て支部組合員)4名のうち2 名を解雇する再建案を支部に示した。その当時、寿鋼管は、xx鋼管から、倉庫勤務の従業員の解雇による再建を提案されていた。
寿鋼管と支部は、再建案について協議を行い、倉庫勤務の従業員1名の運送担当への配置転換、倉庫勤務の従業員の営業部門への応援、及び解雇提案の撤回で合意した。なお、この配置転換直後にxx鋼管の管理職が組合関係者を同社に近づけないようにと発言したことがあった。
(4) C社長は、支部との昭和54年年末一時金を議題とする団体交渉(以下、団体交渉を「団交」という)で、22 万円の第一次回答をした。なお、C社長は、従前、業績が好転しており、同一時金として25万円は出す旨発言していた。
支部が協議のなかで、同一時金の回答にxx鋼管の意向が影響しているのかとC社長に尋ねたところ、同社長は、xx鋼管に同一時金を20 万円くらいだと報告しているので、同一時金として許される範囲は最大25万円までであるが、労使関係を考慮して1万円を上積みし26 万円を再提案したいとし、加えて、銀行との関係も若干厳しくなっているので、資金繰りについてもxx鋼管に面倒をみてもらわなければならず、そこをよく考えてほしい等と発言した。同一時金は、結局、26万円で妥結した。
(5) 昭和56年頃から、xx鋼管は、寿鋼管の要請により、xx鋼管への支払期日の到来した一定の金額の支払を猶予し、これを別途、長期の分割で返済する債権の棚上げ(以下、これを「一時猶予」という)を始めた。この一時猶予の額は、平成10年頃までを通じ、常時、5,000万円程度であった。
また、一時猶予とは別に、昭和47年から、xx鋼管は、寿鋼管に対し、個別の協議により、手形決済期日直前の手形の書換え等により、実質的に期日を延期する手形ジャンプも行っていた。
(6) 寿鋼管は、鋼管を切断する機械の買換えに関して、昭和56年
6月10日付けで、xx鋼管に対して許可を求める文書を送付した。
(7) 昭和60年2月、寿鋼管は取引先の倒産により、約900万円の債権が回収困難になった。
(8) 昭和60年11月18日、xx鋼管の常務取締役(当時)G(以下「G常務」という)は、書類を届けにxx鋼管に赴いた支部委員長(当時)H(以下「H委員長」という)を呼び止め、約1 時間半、喫茶店に帯同した。G常務は、支部は組合から脱退できないのか、また、
H委員長だけでも組合から脱退できないのか等と述べた。さらに、同常務は、寿鋼管は3名の人員削減が必要であり、削減される従 業員が組合を脱退するのであれば再就職先をあっせんする、現 状のままの寿鋼管にはもう支援はできない、と述べた。
(9) 昭和60年11月19日、xx鋼管はC社長に対し、寿鋼管の再建計画を提案した。上記計画の主な内容は、① 寿鋼管は、鋼管類の切断等の加工をせず、xx鋼管から仕入れた商品のみを販売する、② 取引先への商品の配達はxx鋼管がする、③ 資金繰りはxx鋼管がする、④ 従業員のうち3 名を削減する、であった。
しかし、同年12月、C社長が住友金属株式会社のJ部長と会談し、寿鋼管が主導で再建を図ることに同意を得たため、結局、xx鋼管からの上記再建計画は実行されず、寿鋼管従業員の解雇等は行われなかった。
なお、xx鋼管は、住金物産に対し、昭和61年10月15日付け文書で、寿鋼管主導での再建計画について報告し、承認を求めた。同文書には、人員削減を含む合理化計画を早急に検討するよう寿鋼管に指示したこと、寿鋼管には少人数とはいえ、過激な従業員組合があり、これらの対策を踏まえた上で、計画が作成されたことが記載されていた。
(10) 平成4 年頃から、住金物産はxx鋼管の株式を取得し、同 5年、住金物産関係者のK(以下「K社長」という)がxx鋼管代表取締役に就任した。
(11) 平成7 年5 月、寿鋼管が同年7 月からの1 年間の経営計画案をxx鋼管に提示したところ、xx鋼管は、同年5月までの経営実績等と矛盾があり、一般管理費の更なる削減及び経営の黒字体質への転換が必要であるとして計画案の変更を要請した。住金物産から派遣されたxx鋼管部長のL(以下「L部長」という)は寿鋼管の黒字体質への転換には一般管理費の削減が必要で、それができないのであれば人員を削減すべきであり、とりあえず、パートタイムの女性従業員を削減してはどうかと発言した。
その後、寿鋼管と支部との協議において、C社長は経費削減策として、社会保険料の使用者負担割合の引下げを提案した。
結局、寿鋼管は、修正した計画案をxx鋼管に提示して同意を得たが、人件費と法定福利費の減少に関して、L部長が人員削減を意味するのかどうか尋ねたところ、C社長は人の問題であり、この場では言えないけれども必ずやりますと発言した。
なお、平成6年7月から1年間、寿鋼管は126万円の当期利益を計上していた。
4 本件破産宣告に至る経緯
(1) 平成8 年頃から、寿鋼管は支部に対し、経費削減等のために本社事務所と倉庫を統合することを繰り返し提案したが、支部は当初からこれに反対し、結局、統合は行われなかった。
(2) 寿鋼管の平成9年7月1日から翌年6月30日までの決算では、売上高は約 6 億円、 当期利益が約 200 万円、当期末処理損失が約
6,300万円であった。
なお、この頃、寿鋼管は減価償却を行っておらず、C社長は支部との団交で、寿鋼管が当期で利益を計上しているのはxx鋼管の支援によるものであり、寿鋼管の資産勘定には不渡手形等も含まれており、本来は債務超過に至っている等と発言したことがあった。
(3) 平成10年6 月頃から、寿鋼管は支部に対し、売上げの悪化等を理由に鋼管類の切断等の加工業務を縮小し、倉庫勤務の従業員(全て支部組合員)3名のうちの2 名を指名解雇することを提案した。支部はこれに応じず、この提案は実施されなかった。
(4) 寿鋼管は、平成10年6 月17日付けで、xx鋼管に対する債務の担保として、寿鋼管の取引先に対する債権等をxx鋼管に譲渡する旨の契約(以下「債権譲渡予約契約」という)をxx鋼管と締結した。上記の契約で譲渡の対象となる債権は総額3億円の範囲内とされていた。
(5) 平成11年1月6日、C社長は支部委員長Bに対して、倉庫勤務の従業員( 全て支部組合員) のうち2 名の希望退職募集を提案する旨の文書を提示した。同文書には、大幅な収益減により経営を見直さなければ寿鋼管の存続は不可能であること、同10年11月 30 日現在で労働分配率( 総利益に占める人件費の割合) が 81.2%になっていること、人件費が経費中最大の割合を占めており人件費の見直しを避けて通れないこと、等が記載されていた。
なお、寿鋼管と支部間の希望退職募集に関する協議等は行われず、希望退職の募集はなかった。
(6) 平成11年4月7日、支部と寿鋼管間の団交で、C社長は、過去3年間の売上総利益の数値とともに、同10年7 月から同11年2 月までの8 か月間で約750 万円の赤字が生じていることを説明し、現状のままでの経営続行は不可能である旨述べ、本社事務所と倉庫の統合及び支部組合員の賃金カットへの協力を要請した。支部は、倉庫への統合を了承するが、賃金カットについては検討すると返答した。なお、C社長は、この団交開催以前に、xx鋼管に対して、従業員の賃金カットをすると報告していた。
(7) 平成11年4 月21日、C社長はxx鋼管のK社長及び役員等と会談し、手形ジャンプを依頼したが、xx鋼管は、同社が保有している寿鋼管の手形が資金繰りを圧迫しており、このままではxx鋼管の経営が成り立たなくなる危険があるとして、今回の手形ジャンプに応じられない旨返答した。
(8) 平成11年4 月末現在で、xx鋼管が保有する寿鋼管振出しの手形の額は、約2 億5,000 万円であり、これらの手形は、銀行で割引のできない状況にあるにもかかわらず、xx鋼管の決算上、
資産として計上されてきたが、このうち約1 億3,000万円が手形ジャンプ若しくは一時猶予によるものであった。なお、xx鋼管が保有する寿鋼管振出しの手形の額は、当時までに年間2,000万円から3,000万円程度ずつ増加していた。
一方、平成6年度から同10年度の5年間のxx鋼管の寿鋼管に対する年平均の売上高は、約2 億5,000万で、利益率は約4.0% であった。
ただし、同9年度の売上高は2億4,000万円で利益率は約3.5%であったのに対し、同10年度の売上高は1 億8,000万円で利益率は約7.1%であった。
なお、同11年3月末の決算によると、xx鋼管の売上高は約35億円、当期損失は約9,000万円、当期末処理損失は約2 億円、借入金は約13億円であった。
(9) 平成11年4月23日、支部と寿鋼管の団交で、C社長は、xx鋼管から手形ジャンプを断られたことを明らかにした。一方、支部は、賃金カットに応じるか否かを同月26日に返答する旨述べ、同日、カットに応じる旨回答した。
(10) 平成11年4月26日、xx鋼管は寿鋼管に、今後の鋼管供給をしない旨伝達した(以下、この件を「本件供給停止」という)。 (11) 平成11年4 月28日、支部と寿鋼管の団交で、C社長は、本件
供給停止を明らかにし、寿鋼管は破産を申し立てる以外にない旨述べた。支部は、xx鋼管が対応を変えれば和議により寿鋼管の事業存続は可能であるとして、組合等がxx鋼管に働きかける旨述べたが、C社長はおそらく無理であると述べた。C社長から組合等に対して、本件供給停止の撤回の説得等を依頼するような発言はなかった。
なお、C社長は銀行に融資を依頼したが、融資は得られず、 4月30日及び5月10日の寿鋼管の手形が不渡りになった。
(12) 平成11年4月30日、組合等はxx鋼管を訪ね、本件供給停止等に関して抗議し、今後の対応について組合等とxx鋼管との協議を求めた。
(13) 平成11年5 月6 日、組合等はxx鋼管に協議を申し入れ、本件供給停止等により寿鋼管は経営の存続が不可能になったとして抗議した。組合等は、本件供給停止は、売買契約書の解約の際には3か月前に通知するとした規定に違反しており、また、債権譲渡予約契約の譲渡額を 3 億円の範囲内とする規定は与信枠を3億円と定めたものと解され、これにも違反している等と主張した。さらに、組合等は、寿鋼管はxx鋼管の完全な下請けに当たり、xx鋼管は経営不振であっても寿鋼管を支援する責務があると述べた。一方、xx鋼管は、寿鋼管とは一般的な取引
関係にあり、xx鋼管はこれ以上寿鋼管を支援する能力はない旨述べた。これに対し、組合等は、和議等により寿鋼管を存続させることを検討するよう要請した。
(14) 平成11年5 月7 日、組合等は再度、xx鋼管と会談したが、xx鋼管は組合等の要請には応じられない旨返答した。
(15) 寿鋼管は、平成11年5月14日までに、同日付けの解雇を従業員全員に文書で通知した。
(16) 平成11年5月20日、寿鋼管は、大阪地方裁判所に自己破産の申立てを行い、同月31日本件破産宣告がなされた。
(17) 平成11年5月27日、組合等は当委員会に、組合員の解雇撤回等を求めて、不当労働行為救済申立てを行った。
(18) 寿鋼管の取締役兼営業部長のM( 以下「M部長」という)は、寿鋼管の破産申立後、住金物産の取引先の双葉鋼管に就職し、寿鋼管のこれまでの取引先を担当することとなった。
5 平成鋼管によるxx鋼管の吸収合併等
(1) 組合等は、平成11年6 月3 日付け文書で、xx鋼管に対して、本件供給停止に至る経過の説明と組合員の雇用確保等を議題とする団交を申し入れた。
同月8日、組合等がxx鋼管と会談した際、組合等は、同年10月1 日付けでxx鋼管は平成鋼管に吸収合併される予定であることに言及し、xx鋼管は、合併に向けて寿鋼管を切り離すために、住金物産からの指示によって本件供給停止を行ったのではないかと質した。また、組合等が、xx鋼管に対して組合等との団交を認めるかどうかを質したところ、xx鋼管は、団交に応ずる義務はなく、協議を行うつもりはない旨返答した。
組合等は、平成11年9月22日付け申入書で、xx鋼管に団交を申し入れたが、xx鋼管は応じず、本件審問終結時点まで、xx鋼管若しくは平成鋼管は組合等との団交に応じていない。
(2) 平成11年7 月末、住金物産からの資金投入により、xx鋼管
の資本金の額は2,100万円から4億2,300万円に増え、同年8月2日、xx鋼管の株主総会で平成鋼管との合併を承認する決議がなさ
れた。なお、9月17日付けで、xx鋼管の資本金の額は減資により2,000万円になった。
従前よりxx鋼管と住金物産は連結決算を採用する関係にあり、平成11 年3 月末現在で、住金物産はxx鋼管の株式の62.5%を所有していたが、同年8月2日現在では、100%の所有となった。なお、xx鋼管は、平成11年10月1日付けで平成鋼管に吸収合併されたが、この時点で、平成鋼管の株式は全て住金物産の所
有するところであった。
(3) 平成12年5 月16日、組合等は同日付け文書で、寿鋼管の破産
は住金物産の責任であるとして、寿鋼管の破産にかかわる住金物産と平成鋼管との関係及び組合員の雇用等を議題とする団交を申し入れたが、住金物産は、組合等と団交に応じる地位にないとしてこれに応じなかった。5月30日にも組合等は住金物産に再度団交を申し入れたが、本件審問終結に至るまで住金物産は団交に応じていない。
なお、5月30日の申入時に応対した同社の常務取締役は、xx鋼管の平成鋼管への吸収合併は住金物産からの指示による旨発言した。
6 請求する救済の内容
組合が請求する救済の内容の要旨は、次のとおりである。
(1) 寿鋼管、平成鋼管及び住金物産の誠実団交応諾
(2) 組合員に対する解雇撤回
(3) 寿鋼管、平成鋼管及び住金物産の組合員に対するバック・ペイ
(4) 平成鋼管及び住金物産の事業再開への協力及び組合員の雇用確保
(5) 平成鋼管及び住金物産の謝罪文の掲示第2 判断
1 当事者の主張要旨
(1) 組合等は、次のとおり主張する。
寿鋼管の破産申立てと組合員解雇は、事前協議同意約款協定に違反し、寿鋼管社長の不当労働行為意思に基づくものである。同社長は、平成10年の1年間を通じ、寿鋼管の人員整理がうまく進めば、xx鋼管は寿鋼管を抱え続けるであろうとの見込みの下に、人員整理の圧力を組合等にかけ続けたが、組合等は人員整理に反対し、賃金切下げに応じるとの姿勢を取った。そのため、xx鋼管は、住金物産の指導で、xx鋼管を平成鋼管に難なく吸収合併させるには、組合の排除が不可欠であると考え、手形ジャンプの拒否等により寿鋼管を支部もろとも切り捨て、寿鋼管を倒産に追い込んだものである。この倒産に至る過程での組合等と寿鋼管との協議で、組合等はxx鋼管への働きかけにより和議等の企業存続の方法もあると説得したが、寿鋼管はこれを拒否し、自己破産を申し立て、協議の続行を拒否した。
ところで、xx鋼管と寿鋼管との関係は母店とサブ店のそれであり、寿鋼管は、実質的にxx鋼管の一部として営業活動を行っているのだから、xx鋼管が寿鋼管の経営全体を掌握しているのは明らかである。
xx鋼管は組合等に対し、支部結成直後の仕入価格の上乗せに始まり、昭和51年の春闘における賃上げ及び人事への介入、同
53年及び同60年の組合員の解雇請求、同54年年末一時金の金額等への介入及び同 60 年のH委員長への脱退慫慂等の数々の不当労働行為を行ってきた。K社長就任後においても、xx鋼管が、組合員である倉庫要員の人員削減を請求した等の事実がある。
平成8年以降、寿鋼管は、倉庫問題や人員整理等の合理化を繰り返し提案したが、これらは、従前の経過からしてxx鋼管の圧力によるもので、さらに、xx鋼管に役員を派遣している住金物産の圧力によるものである。
平成鋼管及び住金物産は、寿鋼管を取引先からはずさなければ、xx鋼管が倒産する状況であり、xx鋼管と平成鋼管との合併 は、寿鋼管の不良債権を抱えるxx鋼管を救済するために寿鋼 管の倒産後に決定されたもので、寿鋼管の倒産とは無関係であ る旨主張する。しかし、住金物産が、当該合併の前提としてx x鋼管の手によって寿鋼管を切らせ、住金物産100% 出資子会社 である平成鋼管と合併させたことは明らかであり、寿鋼管を取引先からはずし、不良債権として表面化した債務を消すために xx鋼管を合併させるという既定方針があったというべきであ る。
平成9年から翌10年のxx鋼管の寿鋼管に対する売上高等の変化をみると、売上高は2 億4,000万円から1 億8,000万円に減少しているものの、利益は841 万円から1,291 万円に増加し、利益率も3.4% から7.1% に急増しており、寿鋼管が経営難に瀕している時期にも、xx鋼管は寿鋼管から利益を得ていたことは明らかである。
また、xx鋼管の長期・短期借入総額13億円は、住金物産が設定したxx鋼管の各銀行との与信枠総額内であり、寿鋼管の事実上の倒産以降にxx鋼管が住金物産から融資を受けていることからみて、xx鋼管は、寿鋼管を倒産させなくとも除々に債権回収を図ることが十分可能であったと思われる。
さらに、寿鋼管の救済のために必要なのは手形ジャンプであり、これはxx鋼管に支援や負担を拡大するものではない。また、 本件供給停止は、寿鋼管とxx鋼管間の売買契約書に違反して いる。
寿鋼管のM部長が、寿鋼管より格上の住友系の双葉鋼管に就職できたのは住金物産の指示があったためであり、再就職先がxx鋼管でなく、双葉鋼管であることに組合を意識した住金物産の政治的配慮が存在する。
また、xx鋼管は、組合等からの団交申入れに誠実に応じず、住金物産も協議を拒否している。
以上の被申立人らの行為は、不当労働行為に該当する。
(2) 寿鋼管及び管財人は、次のとおり主張する(なお、寿鋼管は 最終陳述を予定した審問において、最終陳述書を提出しなかっ たが、管財人が提出した最終陳述書と同様に主張する旨述べた)。
慢性的な赤字体質にあった寿鋼管は、これまで事業継続に向けて努力を重ねるとともに、このような状況下でも組合等と十分に話合いを行い、団交には誠実に応じていた。しかし、鉄鋼業界は極めて厳しい状況下にあり、xx鋼管から手形ジャンプの要請を断られた寿鋼管は、事業継続は不可能と判断して、破産を申し立てたものである。
本来、使用者は企業を続けるか否かを自由に決定できるものであり、事業廃止が決定されれば、被用者も企業の継続を強要することはできない。もちろん、会社解散等が偽装である場合には、不当労働行為が成立する余地はあるが、本件は、xx、経済的に立ちいかなくなったゆえの破産であり、反組合的意思とは無関係で、不当労働行為に該当しないことは明らかである。
なお、管財人は従業員に対し、早急に配当を行う意思を有しており、組合等との協議にも誠実に応じている。
(3) 平成鋼管は、次のとおり主張する。
xx鋼管及び同社を吸収合併した平成鋼管が使用者の立場にないことは以下のとおり明らかである。
寿鋼管とxx鋼管間には、資本関係、人的関係はなく、寿鋼管の仕入れのうち、xx鋼管が占める割合は57%程度で、xx鋼管は、単なる仕入先の関係であった。なるほど、昭和47年頃から、寿鋼管の経営悪化に伴い、xx鋼管は一時猶予や手形ジャンプ等、経営上の支援を行なっており、この過程で、寿鋼管の経営に関して、コスト削減のための人員削減を助言したこともあった。しかし、平成5 年にK社長が就任してからは、組合等との関係について要求したり、寿鋼管の人事に介入した事実は一切ない。
以上のとおり、xx鋼管は組合員の労働条件を決定又は具体的に指揮命令する地位にないのであるから、xx鋼管を吸収合併した平成鋼管とともに、組合員の使用者には当たらない。
なお、組合等は、xx鋼管が手形ジャンプを断ったこと及び売買契約書に違反して商品の供給を断ったことが組合に対する嫌悪によるもので不当労働行為に該当すると主張する。しかし、xx鋼管は、寿鋼管との間に長期的に手形ジャンプを行う旨の約束はなく、これに応じる義務はない。さらに、売買契約書は、取引条件を包括的に定めたもので、個別取引に応じるか否かは自由にxx鋼管が決定しうる事項である。当該契約の3か月の予告期間に関しても、そもそも、当時、xx鋼管は、新規の受注
を断っただけで、契約解除の意思表示はなされていないし、寿鋼管の財産状態が悪化した場合、直ちに解除できる旨の条項が存しており、何ら、問題はない。
xx鋼管は、寿鋼管に対する債権が実質的には不良債権であるのに、保有手形として処理しているため、実際には資金面の余裕がないにもかかわらず、金融機関から追加融資を受けられない事態に至った。このため、自らの経営を守るため、支援を打ち切らざるを得なくなったものであり、これは不当労働行為に該当しない。
(4) 住金物産は、次のとおり主張する。
住金物産は、組合等及び寿鋼管と直接の関係は一切なく、寿鋼管とxx鋼管間の手形ジャンプの停止等に関する意思決定に関与した事実もない。なお、組合等は、住金物産が平成鋼管とxx鋼管を合併させたことを問題とするが、これは、親会社として経営不振の子会社を救済するためのものであり、組合等の活動とは全く無関係で、組合等の住金物産に対する申立ては、失当である。
2 不当労働行為の成否
(1) 被申立人の使用者性について
ア 合併前のxx鋼管及び平成鋼管の使用者性について
組合等は、本件に関して、xx鋼管の関与を問題とするので、以下、xx鋼管の使用者性について検討する。
まず、寿鋼管とxx鋼管の関係については、前記第1.2(1)、 3(5)及び(6)認定のとおり、両者間には資本関係や人事面での 交流がないこと、及び、販売先も寿鋼管が独自に決定していた ことが認められる。一方、両社の取引関係等をみると、寿鋼管 はxx鋼管から商品を供給されており、仕入れの約6割がxx鋼管からであったこと、寿鋼管が機械の買換えに関してxx鋼 管の許可を求めたことがあること、及び、xx鋼管は寿鋼管に 対する債権につき、一時猶予や手形ジャンプを行っていたこと、がそれぞれ認められ、寿鋼管は、経営面等において、xx鋼管 の影響下にあったとみるのが相当である。
しかしながら、xx鋼管の寿鋼管従業員の労働条件等への関与の状況をみると、前記第1.3(2)、(3)、(9)及び(11)認定のとおり、xx鋼管が寿鋼管に対して数回にわたって従業員の人員削減を提案しているものの、寿鋼管は、xx鋼管の提案どおり解雇等を行うことなく、配置転換等による再建案を独自に決定し実施したことが認められる。
また、組合等は、xx鋼管が一時金の額の決定に介入していた旨主張するが、この点に関しても、前記第1.3(4)認定のとお
り、C社長が一時金交渉において、「xx鋼管に一時金は20万円くらいと報告しており、資金繰りについてもxx鋼管に面倒を見てもらわなければならず、そこをよく考えてほしい」等と発言しているものの、当該一時金は26万円で妥結していることが認められる。したがって、上記の発言は、寿鋼管が経営的にxx鋼管の影響下にあることに言及し、組合等の協力を求めたものに過ぎないとみるのが相当である。
さらに、 組合員の労働条件の決定方法をみると、 前記第 1.3(3)及び(4)認定のとおり、寿鋼管の再建案及び一時金の額に関しては、組合等と寿鋼管の協議に基づき決定していることが認められ、xx鋼管の介入を認めるに足る疎明もない。
これらのことからすると、寿鋼管が使用者として組合員の労働条件を決定していたことは明らかであり、xx鋼管が寿鋼管従業員の労働条件を現実的かつ具体的に支配していたとみることはできない。
なお、本件供給停止等の措置と組合等に対する嫌悪意思との関連については、前記第1.3(1)、(3)、(8)及び(9)認定のとおり、① 昭和49年の支部設立直後にxx鋼管が労働組合対策として販売価格の引上げを提示したこと、② 昭和53年頃、xx鋼管提案に係る解雇提案の撤回を労使で合意したところ、xx鋼管の管理職が組合関係者を同社に近づけないようにと発言したこと、③ 昭和60年にxx鋼管常務取締役が支部委員長に組合脱退を慫慂したこと、及び、④ 同61年のxx鋼管の文書に、寿鋼管には過激な従業員組合があり、これらの対策をふまえた上で再建計画が作成された旨記載されていること、がそれぞれ認められ、これらのことからすると、昭和61年以前、xx鋼管は組合等に対して嫌悪意思を有していたことが推定される。
しかしながら、前記第1.4(8)認定のとおり、本件供給停止当時には、 xx鋼管は手形ジャンプ又は一時猶予による約 1 億 3,000万円の寿鋼管振出しの手形を保有する一方、約2億円の未処理損失を有し、厳しい経営環境下にあったこと及びxx鋼管が寿鋼管の平成8年以降の合理化提案に直接関与したと認めるに足る疎明もないことを勘案すると、かつては、xx鋼管が組合等に対する嫌悪意思を有していたとしても、本件手形ジャンプ拒否及び供給停止は、経営上の理由によるものとみることが相当である。また、仮に、本件供給停止が売買契約及び債権譲渡予約契約上の問題を有しているとしても、この問題は取引上の問題であり、xx鋼管の使用者性の問題とは無関係であると言うべきである。
以上のとおりであるから、xx鋼管が商品の供給等の経営支
援を通じて寿鋼管に強い影響を及ぼしていたというだけでは、xx鋼管が組合員の労働組合法上の使用者であると認めることはできない。したがって、合併によりxx鋼管の地位を承継した平成鋼管に対する申立ては却下する。
イ 住金物産の使用者性について
組合等は、住金物産が、xx鋼管と平成鋼管との合併の前提として、xx鋼管に寿鋼管との取引を停止させたと主張し、住金物産の関与を問題とするので、以下、住金物産の使用者性について、検討する。
なるほど、前記第1.5(3)認定のとおり、住金物産の常務取締役が、同社の指示によりxx鋼管は平成鋼管に吸収合併された旨発言した事実は認められる。
しかしながら、住金物産と寿鋼管との関係については、前記 第1.2(1)及び(3)認定のとおり、寿鋼管は住金物産総代理店のxx鋼管から商品を供給されてはいるが、住金物産との間では、資本面及び人事面の関係はなく、直接の商取引のないことが認 められる。さらに、寿鋼管の従業員の労働条件は、前記ア判断 のとおり、寿鋼管が決定している。
一方、住金物産が本件供給停止等に具体的に関与したとする疎明はない。また、前記第1.4(18)認定のとおり、寿鋼管のM部長が住金物産の取引先の双葉鋼管に就職したことが認められるが、この点についても、住金物産が具体的に関与していたと認めるに足る疎明はない。
以上のとおりであるから、住金物産が組合員の労働条件を現実的かつ具体的に支配、決定する立場にあるとみることはできず、組合等の住金物産に対する申立ては却下する。
(2) 寿鋼管の破産申立て及び組合員解雇について
寿鋼管が破産申立てに至る経緯をみると、前記第1.2(1)、4(2)、 (10)及び(11)認定のとおり、従前より約6,300万円の累積赤字を 抱えていた寿鋼管が、仕入れの約6割を占めるxx鋼管から本件 供給停止等を受け、銀行に融資を依頼したが成功せず、2回の不 渡手形を出したことが認められる。このため寿鋼管が破産を申 し立てたことは、経営上やむを得ないものである。そして、組 合員の解雇に関しては、上記の状況下で事業の停止を前提とし て行われたとみるのが相当であり、前記第1.4(15)認定のとおり、寿鋼管は従業員全員に対して解雇を通知したことが認められ、 組合員を非組合員に比べ不利益に取り扱ったものでもない。
なお、組合等は、本件破産申立て及び組合員解雇は事前協議同意約款協定に違反する旨主張する。確かに、前記第1.3(1)認定のとおり、寿鋼管と支部との間に経営計画及び労働条件の変更
に関する事前協議同意約款協定が締結されており、本件破産申立ては支部の同意を得たものではないことが認められる。しかし、後記(3)判断のとおり、寿鋼管は支部と協議を行っている上、上記のとおり、寿鋼管の破産申立て及び組合員解雇は組合嫌悪に基づいたものではないのであるから、支部が同意していないからといって、本件破産申立て及び組合員解雇が不当労働行為に該当するとみることは適当ではない。
以上のとおりであり、他に、本件破産申立て及び組合員解雇が、寿鋼管の組合嫌悪によって行われたと認めるに足る疎明もないのであるから、この点に関する組合等の申立ては棄却する。
(3) 組合等と寿鋼管の団交について
寿鋼管の破産申立てに至るまでの寿鋼管と支部との協議等の状況については、前記第1.4(5)、(6)、(9)及び(11)認定のとおり、① 平成11 年1 月6 日、寿鋼管は大幅な収益減により経営を見直さなければ寿鋼管の存続は不可能であることを文書で通知していること、② 同年4月7日の団交で、寿鋼管には8か月間で約750万円の赤字が生じていることを示したこと、③ 同月23 日の団交で、寿鋼管はxx鋼管から手形ジャンプを拒否されたことを明らかにしたこと、及び、④ 同月28日の団交で、寿鋼管は本件供給停止の通告を受けたことを明らかにし、破産申立てに言及したこと、がそれぞれ認められる。以上のとおり、寿鋼管は、支部に対して資料等を提示の上、経営状況を伝えるとともに、手形ジャンプの拒否及び本件供給停止に関しても速やかにこれを通知し、事前に破産申立ての考えを示していることからみて、4月28日までは、組合等との協議に誠実に対応していたとみるのが相当である。
また、寿鋼管の破産申立ての言及時以降、本件破産申立てまでの約20日間については、組合等が寿鋼管に団交を申し入れたと認めるに足る疎明がないのであるから、この期間についても寿鋼管の対応が不誠実であったとみることはできない。
なお、事前協議同意約款協定が締結されている場合に、本件破産申立て及び組合員解雇につき、支部の同意が得られていないことが、直ちに不当労働行為に該当するものではないことは前記(2)判断と同様である。
以上のとおり、本件破産申立て及び組合員解雇を議題とする団交における寿鋼管の対応には、不誠実な点はないと判断され、この点における組合等の申立ては棄却する。
(4) 管財人に対する申立てについて
破産管財人は、破産財団の財産管理を行う限度において労働関係上の諸利益に対して実質的な影響力ないしは支配力を及ぼす
地位にあり、破産宣告前に破産会社がなした不当労働行為に伴うバック・ペイ等の金銭債務について破産会社の責任を引き継ぐものである。
しかるに本件に関しては、前記(2)判断のとおり、寿鋼管がなした解雇は不当労働行為に該当せず、バック・ペイ等の寿鋼管の金銭債務は生じ得ないのであるから、寿鋼管から管財人に引き継がれるべき不当労働行為に係る債務もあり得ず、したがって、管財人に対する申立ては棄却する。
以上の事実認定及び判断に基づき、当委員会は、労働組合法第27条並びに労働委員会規則第34条及び第43条により、主文のとおり命令する。
平成13年5月29日
大阪府地方労働委員会会長 xxx 印
「別紙 略」