Contract
賃貸借契約における事故物件の取扱いについて
(事故部屋の事後処理問題)
弁護士法人xxx
弁護士 x x x x
賃借人死亡の場合の賃貸借契約関係
賃貸借契約の契約者が死亡した場合契約関係はどうなる?
心理的瑕疵とは
「売買の目的物に⺠法570条の瑕疵があるというのは、その目的物に物理的欠陥がある場合だけではなく、目的物にまつわる嫌悪すべき歴史的背景に起因する心理的欠陥がある場合も含まれる」(大阪高判平18年12月
19日)
改正⺠法(2020年4月施行)における賃貸借に関する「心理的瑕疵」の取扱い
新⺠法:「瑕疵担保責任」
↓
「契約不適合責任」
令和2年中の自殺の状況
○自殺者数は21,081人となり、対前年比912人(約4.5%)増。
○男性は11年連続の減少、女性は2年ぶりの増加男性の自殺者数は、女性の約2.0倍
○元年と比較して、50歳代及び60歳代以外の各年齢階級で増加
○元年と比較して、60歳代が最も大きく減少し107人の減少 20歳代が最も大きく増加し、404人の増加
(厚生労働省自殺対策推進室 警察庁生活安全局生活安全企画課)
賃貸借において心理的瑕疵が問題とされる場面
① 賃借人の債務不履行
(善管注意義務違反による損害賠償)
② 賃貸人及び仲介業者の説明義務
賃借人は、
自室において自殺しない債務を負うか?
①自殺により心理的な嫌悪感が生じ、一定期間、賃貸に供することができなくなり、相当賃料での賃貸ができなくなることは明らか
②賃貸目的物内で自殺しないようにすることが加重に負担を強いるものとも考えられない
↓
賃貸目的物内で自殺しないようにすることも賃借人の❹管注意義務の対象に含まれる
損害賠償請求の相手方
① 賃借人の相続人
② 連帯保証人
賃貸借契約の更新と保証人の責任
【最判平成9年11月13日】
反対の趣旨をうかがわせるような特段の事情のない限り、保証人が更新後の賃貸借から生ずる賃借人の債務についても保証の責めを負う趣旨で合意されたものと解する
個人の連帯保証人を立てると、連帯保証人の責任の限度額(極度額)の設定が必要となる。
【想定される損害の例】
滞納家賃 4ヶ月分
賃料相当損害金 賃料の12ヶ月分執行費用 賃料の6ヶ月分原状回復費用 賃料の2ヶ月分
(敷金で賄えない部分)
法務省「一問一答⺠法(債権関係改正)」
賃貸借契約の更新時に新たな保証契約が締結され、または合意によって保証契約が更新された場合には、この保証については保証に関する新法の規定が適用される。
既存の普通建物賃貸借契約を合意により更新する場合に、この更新合意書に連帯保証人が署名捺印すると、新法の適用を受ける(極度額の定めがないと無効になる)可能性があるため、注意が必要。
① 未払い賃料
② 原状回復費
③ 逸失利益
(将来賃料の得べかりし利益)
逸失利益(将来賃料の得べかりし利益)
賃料の減少額の認定
・従前の賃料と新契約の賃料の実際の差額をベースにするもの
・従前の賃料の一定割合の減少をベースにするもの
・客観的賃料相当額の一定額の減少をベースにするもの
・新契約が締結されるまでの賃料減少額も加味するもの
賃貸借不能・賃料減額期間
(xxxxが生じると認めるべき期間)
自殺による心理的瑕疵がいつまで存続するかによる。
心理的瑕疵が消滅するとされる期間は、物件の立地条件、物件の利用目的、物件の使用状況、事故の重大性及び世 間へ与えた影響等、様々な要素を考慮して決せられる。
隣室に関する請求
事故部屋以外の部屋への入居者に対しては、事故部屋に居住することとは嫌悪感がかなり違い、逸失利益は発生しない。
もっとも、建物立地、単身者向けか否か等の事情によって結論は異なる可能性あり。
貸室内で賃借人が殺害された場合
賃借人には、貸室の汚損につき故意又は過失がない
↓
賃借人の原状回復義務を否定
自然死の場合について
自然死の場合、通常、入居者に故意や過失は認められず、死亡したこと自体は不法行為にはならない。
よって、⺠法上の損害賠償義務が成立しない原状回復義務についても原則否定
自然死後の腐乱死体発覚
賃借人として債務不履行責任(❹管注意義務違反)や不法行為責任は認められない。
原状回復義務について認めた裁判例はあるが・・・。
改正民法との関係
(賃借人の原状回復義務)第621条
賃借人は、賃借物を受け取った後にこれに生じた損傷
(通常の使用及び収益によって生じた賃借物の損耗並びに賃借物の経年変化を除く。以下この条において同
じ。)がある場合において、賃貸借が終了したときは、その損傷を原状に復する義務を負う。ただし、その損傷が賃借人の責めに帰することができない事由によるものであるときは、この限りでない。
自然死・病死のリスクの分配論(裁判例引用)
人に建物を貸して使用対価をもらう,という構造である以上,中で人が亡くなるということは想定内であるといる。これによるリスクやコストは想定できる以上は賃貸人が負担すべきであると考えられる。通常生じるコストとして賃料に織り込んでおくべきであるともいえる。
告知義務の問題
裁判例の傾向
①自殺
告知義務あり
「心理的瑕疵」に当たらない場合でも、xx業法47条1項ニに規定される「宅地建物取引業者の相手方等の判断に重要な影響を及ぼすことになるもの」に該当
②自然死
告知義務は原則否定
「宅地建物取引業者による人の死に関する心理的瑕疵の取扱いに関するガイドライン」(案)
・心理的瑕疵については、どの程度嫌悪し、取引の判断にどの程度影響を与えるか当事者ごとに異なる。
・告知の要否・告知の内容について判断が困難
・心理的瑕疵に係る対応の負担が過大
・人が亡くなった事実を全て告知対象にしなければならないと思い、特に単身高齢者の入居を敬遠する傾向
↓
xx業者がxx業法上負うべき責務の解釈について、ガイドラインとして取りまとめた
ガイドラインの位置づけ
・xx業者の責務の判断基準としての位置づけ
・「法的拘束力」はないが、行政指導による「事実上の拘束力」は認められる。
民法上の損害賠償責任とは別
①ガイドライン案に反したら損害賠償義務が発生するというわけではない反面、ガイドライン案に従っていれば損害賠償義務を免れるというわけでもない。
②もっとも、ガイドライン案ではxx業者の最低限の義務を定めていると考えらえるため、この程度の調査・説明を怠っている場合には⺠事上も損害賠償責任が認められる可能性は高いと考えられる。
③ガイドライン案は損害賠償に関する裁判例を参照して定められているため、⺠法上の損害賠償の問題と重なる部分は大きい。
適用範囲
ガイドライン案の対象となる「心理的瑕疵」は、かなり限定的であることに注意が必要!
対象とする事案
心理的瑕疵のうち、人の死に関する事案
※ 過去の用途が、住居用不動産として嫌悪される場合
(例えば、過去に葬儀場や性風俗店などに使われていたケース)は含まれない。
※ また、周辺に嫌悪施設がある場合もガイドライン案の対象外(なお、一般的にはこれらは「環境瑕疵」と呼ばれ、心理的瑕疵とは別に分類されることが多い)。
居住用不動産に限定される。
事業用物件の場合は、一般に住居の場合に比べて心理的瑕疵の重要性が低いことに加え、予定される用途の幅が広いため統一的なルールを定めづらいという理由によるもの。
※ なお、いわゆる集合住宅においては、居住の用に供する専有部分・貸室に加え、たとえばベランダ等の専用使用が可能な部分のほか、共用の玄関やエレベーター、廊下・階段のうち、買主・借主が日常生活において通常使用すると考えられる部分も対象とされる点に注意
物件内の事件等に限られる
さらに、事件等が起きた場所について、告知等の対象となるのは当該物件内(ただし共用部分は含む)で事件等が起きた場合に限られている。
裁判例では、同一マンション内の他の部屋や隣の建物で事件が起きた場合などの例もあるが、これらは対象外。
また、ある建物内で事件が起きたがその後その建物を解体した場合も対象外。
① 他殺、自死、事故死(後記②に該当するものを除く)その他原因不明の死は原則告知必要
② 自然死、事故死(階段からの転落、入浴中の転倒、食事中の誤嚥等日常生活の中で生じた不慮の事故による死)は原則告知不要
③ ただし、⻑期間人知れず放置されたこと等により室内外に臭気・害虫等が発生し、いわゆる特殊清掃等が行われた場合は原則告知必要
※ 告知義務の範囲の基準が定められる実益:単身高齢者への貸し渋りに事実上影響
告知対象となる事案が生じたことを疑わせる 特段の事情がないのであれば、このような事 案が発生したか否かを自発的に調査すべきx xまでは宅地建物取引業法上は認められない。
※ これまでの実務と変わりない
売主・貸主に対して、告知書(物件状況確認書)等の書面に記載を求めることにより、調査義務を果たしたものとする。
後日、告知対象となる事案の存在が判明しても、宅地建物取引業者に重大な過失がない限り、調査は適正になされたものとする。
※ 告知書に記載がなくても、事案の存在を疑う事情があるときは確認する必要がある。
※ 告知書について、賃貸においてはこれまで一般的ではないが、求めておく必要がある。
照会先の売主・貸主あるいは管理業者より、事案 の有無及び内容について、不明であると回答され た場合、あるいは回答がなかった場合であっても、宅地建物取引業者に重大な過失がない限り、照会 を行った事実をもって調査はなされたものと解す る。
よって、周辺住⺠への聞き込みやインターネット サイトの調査等の自発的な調査を行う義務はない。
※ インターネットサイトは裏付けがなく正確性の確認が難しいとの理由から
① 事案の発生時期、場所、死因(不明の場合はその旨)
② 賃貸借契約の場合は、事案の発生から概ね3年間は告知する(売買契約の場合にはこのような期間の指定は ない)。
※売買の方が説明の必要性が大きく個別具体的判断が必要
③ 遺族、関係者等のプライバシーに配慮する必要から、氏名、年齢、住所、家族構成、具体的な死亡原因、発見 状況等を告知する必要はない
cf.売買の場合
① 死因(自殺他殺)・死亡の態様・発見時の状況
② 事件のあった不動産の現状(建物取壊しの有無)
③ 事件のあった場所と不動産との関係
④ 買主の購入目的(居住、転売、収益)
⑤ 事件後の時間の経過
⑥ 地域住⺠の記憶・地域性
⑦ 価格に与えた影響(価格に織り込み済みか)などが判断要素とされるので、ケースバイケース
cf. 売主になる場合は注意
仲介の場合と売主の場合では負う責任が異なる点には注意が必要
仲介業者は、調査義務違反または説明義務違反がある場合には、買主に対して債務不履行または不法行為による損害賠償責任を負うが、調査義務を果たした場合には、後に心理的瑕疵が発覚したとしても責任を負わない。
これに対して、売主は、後で心理的瑕疵が発覚した場合、仮に十分な調査をしていたとしても契約不適合責任(代 金減額請求や解除など)を免れることはできない。