(1) 本訴事件は,原告が,テーマパークである a(以下「a」という。)の敷地等の使用を目的とする本件土地1, 本件土地2,本件土地3及び本件土地4(以下これらを併せて「本件各土地」という。その位置等は別紙図 (1) 原告は地方公共団体であり,本件各土地を所有している。被告は,大規模テーマパークの企画・運営等を目的とする株式会社である。なお,被告の従前の商号は b 株式会社であったところ,被告は,本件訴訟の係属中である平成26年4月1日,本件訴訟の当事者であった別法人である株式会社 c
主 文
1 原告と被告の間の別紙物件目録記載の土地1に係る賃貸借契約について,平成22年4月1日の時点の月額賃料が7594万0255円であることを確認する。
2 原告と被告の間の同目録記載の土地2 に係る賃貸借契約について,平成22年4月1日の時点の月額賃料が679万7271円であることを確認する。
3 原告と被告の間の同目録記載の土地3 に係る賃貸借契約について,平成22年4月1日の時点の月額賃料が454万4510円であることを確認する。
4 原告と被告の間の同目録記載の土地4に係る賃貸借契約について,平成22 年4月1日の時点の月額賃料が287万1964円であることを確認する。
5 原告のその余の本訴請求及び被告の反訴請求を棄却する。
6 訴訟費用は,本訴,反訴を通じてこれを2分し,その1を原告の負担とし,その余を被告の負担とする。
事 実 及 び 理 由
第1 請求
1 本訴
(1) 原告と被告の間の別紙物件目録1記載の土地(以下「本件土地1」という。)に係る賃貸借契約について,平成22年4月1日の時点の月額賃料が8868万8408円(1平方メートルあたり516円)であることを確認する。
(2) 原告と被告の間の同目録2記載の土地(以下「本件土地2 」という。)に係る賃貸借契約について,平成22年4月1日の時点の月額賃料が79
3万8334円(1平方メートルあたり516円)であることを確認する。
(3) 原告と被告の間の同目録3記載の土地(以下「本件土地3 」という。)に係る賃貸借契約について,平成22年4月1日の時点の月額賃料が1平方メートルあたり516円(賃料の年額は6368万8806円)であることを確認する。
(4) 原告と被告の間の同目録4記載の土地(以下「本件土地4 」という。)に係る賃貸借契約について,平成22年4月1日の時点の月額賃料が1平方メートルあたり516円(賃料の年額は4024万8990円)であることを確認する。
2 反訴
(1) 原告と被告の間の本件土地1に係る賃貸借契約について,平成22 年4月1日の時点の月額賃料が6393万8154円(1平方メートルあたり372円)であることを確認する。
(2) 原告と被告の間の本件土地2に係る賃貸借契約について,平成22 年4月1日の時点の月額賃料が572万2985円(1平方メートルあたり
372円)であることを確認する。
(3) 原告と被告の間の本件土地3に係る賃貸借契約について,平成22 年4月1日の時点の月額賃料が382万6265円(1平方メートルあたり
372円)であることを確認する。
(4) 原告と被告の間の本件土地4に係る賃貸借契約について, 平成22 年4月1日の時点の月額賃料が241万8059円(1平方メートルあたり
372円)であることを確認する。第2 事案の概要
1 事案の要旨
(1) 本訴事件は,原告が,テーマパークである a(以下「a」という。)の敷地等の使用を目的とする本件土地1, 本件土地2,本件土地3及び本件土地4(以下これらを併せて「本件各土地」という。その位置等は別紙図
面のとおり。)に係る被告との間の各賃貸借契約(以下「本件各賃貸借契約」という。) について, 従前の賃料がいずれも不相当となったと主張して,被告に対し,借地借家法11条1項に基づき,賃料増額の意思表示の後の日である平成22年4月1日の時点における月額賃料が,上記第1・1のとおり(1平方メートルあたり516円)であることの確認を求める事案である。
(2) 反訴事件は,被告が原告に対し,本件各賃貸借契約について,従前の賃料が不相当となったと主張して,原告に対し,借地借家法11条1項に基づき,貸料減額の意思表示の後の日である平成22年4月1日時点における月額賃料が,上記第1・2のとおり(1平方メートルあたり372円)であることの確認を求める事案である。
2 前提事実(当事者間に争いがないか,各項に掲記の証拠等により容易に認定できる事実)
(1) 原告は地方公共団体であり,本件各土地を所有している。被告は,大規模テーマパークの企画・運営等を目的とする株式会社である。なお,被告の従前の商号は b 株式会社であったところ,被告は,本件訴訟の係属中である平成26年4月1日,本件訴訟の当事者であった別法人である株式会社 c
(以下「旧会社」という。)を吸収合併するとともに,商号を株式会社 c に変更した(以下,旧会社を含めて単に「被告」という。)。
(2) 本件各賃貸借契約の内容
原告と被告は,本件各土地(換地処分前の土地を含む。)について,賃貸人を原告,賃借人を被告として,a の敷地等として利用することを目的として本件各賃貸借契約を締結しているところ,その内容は以下のとおりである。なお,本件各賃貸借契約については,いずれについても契約の当初から権利金等の一時金の授受はない。
ア 本件土地1(甲2)
(ア) | 賃貸借の種類 | 事業用借地権(平成19年法律132号による |
改正前の借地借家法(平成3年法律第90号) | ||
第24条に定める事業用借地権をいう。以下同 | ||
じ。) | ||
(イ) | 契約締結日 | 平成19年5月31日 |
(ウ) | 賃貸期間 | 平成19年6月1日から平成39年5月31日 |
までの20年間 | ||
(エ) | 使用目的 | a のテーマパークの事業の用に供するための建 |
物及び付帯施設の用地 | ||
(オ) | 賃料 | 平成19年6月1日から月額6668万818 |
2円(1平方メートルあたり月額388円)
(カ)賃料の見直し時期 初回の見直し時期を平成22年4月1日とし,
以後は3年毎に見直す。
(キ) 支払方法 上半期(4月ないし9月)分を4月20日限り,
下半期(10月ないし3月)分を9月20日限り,原告が発行する納入通知書により支払う。
イ 本件土地2(甲3)
(ア) 賃貸借の種類 事業用借地権
(イ) 契約締結日 平成19年5月31日
(ウ) 賃貸期間 平成19年6月1日から平成39年5月31日
までの20年間
(エ) 使用目的 a のテーマパークの事業の用に供するための建
物及び付帯施設の用地
(オ) 賃料 平成19年6月1日から月額596万9135
円(1平方メートルあたり月額388円)
(カ)賃料の見直し時期 初回の見直し時期を平成22年4月1日とし,
以後は3年毎に見直す。 | ||
(キ) 支払方法 | 上半期(4月ないし9月)分を4月20日限り, | |
下半期(10月ないし3月)分を9月20日限 | ||
り,原告が発行する納入通知書により支払う。 | ||
ウ | 本件土地3(甲4) | |
(ア) 賃貸借の種類 | 一般定期借地権(平成19年法律132号によ | |
る改正前の借地借家法(平成3年法律第90 | ||
号)第22条に定める一般定期借地権をいう。 | ||
以下同じ。) | ||
(イ) 契約締結日 | 平成11年4月1日 | |
(ウ) 賃貸期間 | 平成11年4月1日から平成61年3月31日 | |
までの50年間 | ||
(エ) 使用目的 | a のテーマパーク用施設の建設・運営用地 | |
(オ) 賃料 | 平成18年4月1日から1平方メートルあたり | |
月額388円(年額4789万0032円) | ||
(カ)賃料の見直し時期 | 賃貸料が法令,大阪市財産条例等の改正もしく | |
は経済情勢の変動又は近隣土地の賃貸料に比較 | ||
して不相当となったこと等により賃貸人が必要 | ||
と認めるときはこれを増額する。 | ||
(キ) 支払方法 | 上半期(4月ないし9月)分を7月21日限り, | |
下半期(10月ないし3月)分を12月20日 | ||
限り,原告が発行する納入通知書により支払う。 | ||
エ | 本件土地4(甲5) | |
(ア) 賃貸借の種類 | 一般定期借地権 | |
(イ) 契約締結日 | 平成11年4月1日 | |
(ウ) 賃貸期間 | 平成11年4月1日から平成61年3月31日 |
までの50年間
(エ) | 使用目的 | a のテーマパーク用施設の建設・運営用地 |
(オ) | 賃料 | 平成18年4月1日から1平方メートルあたり |
月額388円(年額3026万4744円) |
(カ)賃料の見直し時期 賃貸料が法令,大阪市財産条例等の改正もしく
は経済情勢の変動又は近隣土地の賃貸料に比較して不相当となったこと等により賃貸人が必要と認めるときはこれを増額する。
(キ) 支払方法 上半期(4月ないし9月)分を9月30日限り,
下半期(10月ないし3月)分を3月31日限り,原告が発行する納入通知書により支払う。
(3) 原告は d を誘致し,平成7年3月29日に告示された原告を事業主体とする大阪都市計画事業 e 地区土地区画整理事業(以下「本件土地区画整理事業」という。)に基づき a に係る事業等が実施されることとなり,被告は,平成13年3月31日に a を開業した。被告は,a の事業用地として,原告以外にも民間企業6社(以下「民間地権者」という。)から別紙図面のとおりの土地(甲6の1ないし20)を賃借し,原告の本件各土地と一体として使用収益しており,その事業用地は全体で54万0074平方メートルである。そのうち,原告の賃貸地が20万4046平方メートルで全体の約40パーセント,民間地権者の賃貸地が33万6027平方メートルで全体の約
60パーセントとなっており,原告が被告に対し,最も広い範囲の土地を賃貸している。
(4) 本件各土地の賃料の最終合意時点及び金額
本件各賃貸借契約に係る賃料の最終合意は,本件土地1及び本件土地2については平成19年6月1日,本件土地3及び本件土地4については平成1
8年4月1日であり,いずれも1平方メートルあたり388円とするという
ものであった。(争いのない事実,弁論の全趣旨)
(5) 賃料増減額請求等の経過
ア 原告は,被告に対し,本件土地1について,平成21年12月16日到達の書面(甲12の1,2)をもって,平成22年4月1日以降の賃料を月額8868万8408円(1平方メートルあたり月額516円)に,本件土地2及び3については同年1月6日到達の書面(甲13の1,2)をもって,同年4月1日以降の賃料を本件土地2については月額793万8
334円(1平方メートルあたり月額516円)に,本件土地3については1平方メートルあたり月額516円(賃料の年額6368万8806円)に,本件土地4については,同年1月15日到達の書面(甲14の1,2)をもって,同年4月1日以降の賃料を1平方メートルあたり月額516円
(賃料の年額は4024万8990円)に,それぞれ増額する旨の各意思表示をした。
イ 他方,被告は,原告に対し,平成22年3月19日付けの書面をもって,本件各土地の賃料を1平方メートルあたり月額372円に減額する旨の意思表示をした(乙3)。
ウ その後,原告は,平成22年4月27日,被告を相手方として,大阪簡易裁判所に対し,本件各土地の賃料の増額を求める民事調停を申し立てた。
エ 上記調停は,同年10月12日,不成立により終了した。
(6) 当事者鑑定の概要
本件各賃貸借契約に係る賃料について,原告及び被告から提出のあった不動産鑑定士による鑑定の概要は以下のとおりである。
ア 甲不動産鑑定士による鑑定(以下「原告鑑定」という。)(甲16)
(ア) 基礎価格
本件土地1及び2の平成19年6月1日時点(従前地代決定時点)の基礎価格を260億2930万円,本件土地3及び4の平成18年4月
1日時点(従前地代決定時点)の基礎価格を23億3320万円,価格時点である平成22年4月1日の全物件共通の基礎価格を261億18
00万円と決定した。
a の敷地の全体が54万ヘクタール余と広大である点については,大規模テーマパークの敷地としての最適な規模であるから,規模過大等の点は減価要因として考慮する必要は全くない。
(イ) 必要諸経費等
公租公課年額2億7090万円に加えて,訴訟の際の弁護士費用や鑑定費用等についても管理費を構成するとし,支払賃料を変数0.36xとしてとらえ,2億7090万円+0.36x円と査定した。
(ウ) 利回り法による試算賃料
従前の地代決定時点における支払地代の基礎価格に対する割合(実績支払賃料利回り)を3.35パーセントと決定する。
価格時点の基礎価格に,採用賃料利回り3.35パーセントを乗じて,月額7291万2750円と算定した。
(エ) スライド法による試算賃料
採用変動率を,大阪市の消費者物価指数の内の家賃指数を採用し,余暇市場における国民総支出,民間最終消費支出の推移並びに遊園地・テーマパークの売上高推移,入場者数推移を総合的に勘案し,平成18年
4月1日については0.947,平成19年6月1日については0.9
40と決定した。
これらを従前支払賃料(月額)に乗じて,4筆合計で月額7446万
5593円と算定した。
(オ) 差額配分法による試算賃料
商業施設系の期待利回りの平均値を中心に,底地系の期待利回りの平均値及び物流関連業務施設系の期待利回りの平均値も斟酌して,期待利
回りを5.4パーセントと決定した。
そして,(ア)の価格時点の基礎価格に期待利回りを乗じ,これに(イ)で求めた必要諸経費を加算して,積算法に基づく正常適正賃料を月額1億4443万9175円と算定した。そのうえで,配分率は2分の1法によるのが最もxxに適するものと判断し,実際賃料との差額賃料に,
2分の1の配分率を乗じて,これを実際賃料に加算し,差額配分法に基づく試算賃料を月額1億1180万4695円と算定した。
(カ) 各試算賃料の調整
従前当事者間で決定された賃料が低廉であり,値上げ圧力が高く,経済合理性に反する状態を可及的速やかに回復させるためにも,経済的な観点から賃料改定の必要性を示唆する差額配分法に高い規範性が認められることから,当該手法に基づく試算賃料に85パーセントのウエイト付けを行った。また,従前の経緯及び地価の下落等の事情を考慮するため,利回り法及びスライド法にそれぞれ7.5パーセントのウエイト付けを行い,平成22年4月1日時点の鑑定評価額を月額1億0608万
7000円(1平方メートルあたり520円)と決定した。
イ 財団法人日本不動産研究所所属の不動産鑑定士乙及び丙作成による鑑定
(以下「被告鑑定」という。)(乙1)
(ア) 基礎価格
a の敷地全体(54万0074.79平方メートル)について,基準となる土地の単価を1平方メートルあたり10万5000円,全体の基礎価格を567億円と査定した。
(イ) 必要諸経費
公租公課の年額として,平成21年度の公租公課をもとに7億166
7万9000円と査定した。
(ウ) 積算法による試算賃料
期待利回りを3.0パーセントと査定し,これを基礎価格に乗じて得た純賃料17億0100万円に必要諸経費を加え,年額実質賃料24億
1767万9000円,月額実質賃料2億0100万円と査定した。
(エ) 以上から,平成22年1月1日時点において,権利金等の一時金の授受がなく,一般定期借地権を締結する場合の新規月額支払賃料(新規月額実質賃料も同じ)は,1平方メートルあたり372円となる。
3 当裁判所が選任した鑑定人による鑑定の概要
当裁判所が鑑定人として選任した不動産鑑定士丁(以下「丁鑑定人」という。)は,公簿及び現況を調査のうえ,平成22年4月1日時点での継続支払賃料としての本件各土地の賃料の適正額を総額9015万4000円(1平方メートルあたり約442円となる。)と算定した(以下,補充意見書による意見を含めて「本件鑑定」という。)。
(1) 本件各土地の概況等
a は,平成13年3月31日に開業した規模約54.0ヘクタールを有する西日本最大のテーマパークである。本件各土地は,a 全体敷地内のxxに位置する4筆合計で約20.4ヘクタールの相互に隣接した土地であり,本件各土地を一体とみた場合には,xxxに欠損のみられる長方形の二方路地かつ平坦地である。本件土地1のxxは大規模工場(f 株式会社 g 製造所)に隣接し,本件土地1の北東及び本件土地1ないし4の南西側で幅員約30メートルの市道 h 線に接面する。
(2) 本件各土地の基礎価格
本件鑑定においては,本件各土地が北東及び南西側で幅員約30メートル市道に接面するxxx画地であり,単独で評価対象とすることが可能であることから,本件各土地を a 全体敷地の一部として継続賃料を査定するのではなく,本件各土地のみによって対象地を確定して基礎価格の把握を行った。ア 従前合意時点の基礎価格
(ア) 本件土地1及び2について
当該地域の標準画地を想定し,同一需給圏内類似地域から収集した取引事例価格に,時点修正及び標準化補正を施し,地域格差を比較検討して,地価公示価格を規準として求めた価格との均衡も考慮し,標準画地価格を1平方メートルあたり19万3000円と決定した。その上で,本件各土地の個別格差率を0.92と査定した上で(二方路地(+2パーセント),規模大による市場性の減退(-10パーセント)により,
1.02×0.9≒0.92),標準画地価格に個別格差率0.92及び地積18万7261.13平方メートルを乗じて,平成19年6月1日時点(従前合意時点)における本件土地1及び2の基礎価格を332億5757万7000円(1平方メートルあたり17万7600円)と算定した。
(イ) 本件土地3及び4について
本件土地3及び4の従前合意時点は平成18年4月1日であるので,平成19年6月1日時点の標準画地価格に時点修正を乗じて標準画地価格を1平方メートルあたり19万3800円と決定した。その上で,上記(ア)の個別格差率を乗じ,平成18年4月1日時点における本件土地3及び4の基礎価格を29億9291万2000円(1平方メートルあたり17万8300円)と算定した。
(ウ) 以上により求められた本件各土地の基礎価格を合計し,従前合意時点の基礎価格を362億5048万9000円と算定した。
イ 価格時点の基礎価格
標準画地の同一需給圏内類似地域から収集した取引事例価格に,事情補正,時点修正及び標準化補正を施し,地域格差を比較検討して,地価公示価格を規準として求めた価格との均衡も考慮し,標準画地価格を1平方メートルあたり18万5000円と決定した。その上で,上記ア(ア)の個
別格差率0.92及び地積20万4046.95平方メートルを乗じ,平成22年4月1日時点における本件各土地の基礎価格を347億2879万1000円(1平方メートルあたり17万0200円)と算定した。
(3) 本件各土地に係る必要諸経費
本件各土地に係る必要諸経費として,a 内の民有地の公課証明書をベースに,従前合意時点(平成18年4月1日及び平成19年6月1日)の公租公課相当額を2億5725万7000円,価格時点(平成22年4月1日)の公租公課相当額を2億7015万8000円と算定した。
(4) 本件各土地の適正賃料 ア 差額配分法による試算賃料
(ア) 経済的純賃料
本件各土地の正常実質賃料につき,上記(2)イにおいて算定した平成22年4月1日時点の基礎価格に期待利回り(年3.5パーセント)を乗じ,12億1550万8000円と算定した。
(イ) 従前純賃料
従前支払賃料である9億5004万3000円から,上記(3)において算定した従前合意時点の必要諸経費を控除し,6億9278万60
00円と算定した。
(ウ) 平成22年4月1日時点における試算賃料
上記(ア)の経済的純賃料から上記(イ)の従前純賃料を控除した差額である5億2272万2000円の2分の1である2億6136万1
000円を賃貸人である原告の負担とするのを妥当と判断し,これに従前純賃料と価格時点での必要諸経費を加えた結果,平成22年4月1日時点における試算賃料を月額1億0202万5000円(1平方メートルあたり約500円となる。)と算定した(本件各賃貸借契約においては一時金の授受がないことから,実質地代と支払地代は一致する。)。
イ スライド法による試算賃料
(ア) スライド指数の査定
i 銀行発表の企業向けサービス価格指数,大阪市家賃指数,余暇市場における民間最終消費支出,遊園地・テーマパークの市場規模及び遊園地・テーマパークの参加人口の各指数に基づき,これらのうち i 銀行発表の企業向けサービス価格指数及び大阪市家賃指数の変動率に2倍のウエイトをおいた加重平均値を採用して,スライド指数を0.953と決定した。
(イ) 平成22年4月1日時点における試算賃料
上記ア(イ)の従前純賃料6億9278万6000円にスライド指数
0.953を乗じた額に,価格時点の必要諸経費2億7015万800
0円を加えて,同日時点における試算賃料を月額7753万2000円
(1平方メートルあたり約380円となる。)と算定した。ウ 積算法による試算賃料
(ア) 本手法は従前合意時点と価格時点間の基礎価格の変動に対応し,かつ,従前合意時点における賃貸借当事者間の合意意思内容を実績利回りで把握(数値化)する手法であり,基本式は次のとおりとなる。
試算改定地代=従前実質地代+基礎価格の変動額×xxの寄与率×実績利回り+必要諸経費の変動額
(イ) 純賃料相当額6億9278万6000円(従前実質賃料9億50
04万3000円-従前合意時点の必要諸経費2億5725万7000円)を,従前合意時点の基礎価格362億5048万9000円で割り,実績利回りを0.0191と算定した。
(ウ) そして,従前実質賃料としての実際支払賃料(年額9億5004万3000円)に,上記(2)ア及びイで査定した価格時点及び従前合意時点の基礎価格の変動額(マイナス15億2169万8000円)を
加算した上,基礎価格の変動分に対するxxの寄与率2分の1(賃貸借状況及び地域の変動状況を勘案して判定)を乗じ,これに上記実績利回り及び上記(3)で査定した価格時点及び従前合意時点の必要諸経費の変動額(1290万1000円)を加えて,積算法における試算賃料を月額7903万4000円(1平方メートルあたり約387円となる。)と算定した。
エ 各試算賃料の調整
本件では a 内の民有地の平均賃料との乖離,本件各土地上で進捗中の新エリア開設に伴う契約当事者の信頼関係の強化をも考慮し,従来保守的に算定されてきた基礎価格により賃料が若干低位に設定されていたことを改善するために,差額配分法による試算賃料を重視すべきであり,差額配分法:スライド法:積算法=2:1:1の割合で考慮し,平成22年4月1日時点での継続実質賃料(鑑定評価額)を月額9015万4000円(1平方メートルあたり約442円となる。)と算定した。
4 争点及び争点に対する当事者の主張
平成22年4月1日時点における本件各土地の現行賃料の不相当性ないし適正賃料額
(1) 原告の主張
ア 本件各土地の従前賃料は,従前賃料の決定時点である平成18年4月1日ないし平成19年6月1日時点から相当期間が経過し,継続適正賃料額及び密接不可分に一体利用されている民間地権者の土地の賃貸料の平均額との比較,被告の経営状況の自立,安定等,原告が果たしてきた役割等の事情の変化により,従前賃料は経済合理性がなくなり,著しく不相当となっているから,平成22年4月1日時点における適正賃料は,1平方メートルあたり月額516円が相当である。
原告鑑定は,本件各土地の継続適正賃料を1平方メートルあたり月額5
20円と算定している。
イ 本件においては,本件各土地の従前賃料が合意された平成18年4月1日ないし平成19年6月1日時点から平成22年3月31日までの間に,以下のとおりの経済事情及びxx的な契約事情の変動が生じるとともに,従前賃料が民間地権者所有の同一目的,同一使用状況の賃貸地の賃料に比較して著しく不相当となっている。
(ア) 経済事情の変動
被告に a の敷地を賃貸している民間地権者の負担する公租公課額は,平成18年度は平均して1平方メートルあたり年間1169円であったが,課税標準額の修正により,平成19年度には1平方メートルあたり年間1269円に上昇し,平成22年度においては1平方メートルあたり年間1324円に上昇した。
(イ) 民間地権者との賃料差額を基礎付けていた事情の変動
原告は,被告との本件賃貸借契約において,以下のような配慮をしていたものの,平成22年4月1日の時点においては,その前提となる事情が全て消滅した。したがって,民間地権者との賃料差額について,原告が不利益を被る合理的な理由は存在しない。
ⅰ 原告による特別の配慮
原告は被告の事業のために広範囲な所有地・保留地を提供し,被告の資本金として100億円(当時の資本金の25パーセント)を拠出した筆頭株主であるとともに,職員を社長や社員として派遣した経営者の立場でもあり,被告は原告の外郭団体として位置づけられていた。原告はこのような関係に基づき,新規賃料を算定するにあたり,通常の時価による鑑定によって決定せず,路線価を採用して基礎価格を抑制したばかりか,出資割合に応じて25パーセントもの賃料減額を行い,さらに,開業前の準備期間であることにより50パーセントもの
減額を行った。これらの特別な配慮の結果,契約当初の賃料は1平方メートルあたり月額97円と合意した。このように,原告は,契約当初から,被告の誘致を主導し,その経営を支援する立場にあったことから,広範囲な底地を提供するとともに,極めて特殊・緊密な人的・資本関係に基づき,被告からの申出を受けて最大限の特別な配慮をして特殊な合意賃料が決定された。
また,上記に加え,原告は,被告から,駐車場部分が収益を伴わない大規模な土地であることを理由に,可能な限りの賃料減額を要請されたため,原告は新たに駐車場部分の面積27.8パーセントについて賃料を90パーセント減額し,1平方メートルあたり月額73円とさらに減額した。
開業前の準備期間であることを理由とする50パーセントの減額及び駐車場部分の減額は,被告の開業後は終了したが,原告は,最終損益の赤字が避けられないとする被告の申出に基づき,平成17年度の賃料を平成16年度と同額に据え置き,平成16年度の支払期限を平成17年度上期分の支払期限まで延長するなど,被告の自立を支援してきた。
このような賃料及び支払時期についての最大限の特別な配慮に加えて,原告は,被告の求めに応じて,平成10年12月10日の20億円の融資を初め,平成17年1月7日までに合計160億円を融資し,利息の返済期限まで延長した。さらに,貸付金を協調融資の弁済に劣後することまで約した。
ⅱ 民間賃料との差額に関する被告の誓約
被告は,原告に対し,平成17年2月28日付けで,平成18年度以降の使用料については民間地権者にかかる賃料と均衡を保つことができるよう最大限の努力をする旨の文書(以下「平成17年文書」と
いう。)を差し入れた。
ⅲ 被告の経営の自立,収益状況の改善
被告は,原告からの自立を目指し,平成17年度において資本市場からの資金調達をするべく,上場又は店頭市場への登録を目指すとの方針をとり,これに伴い,原告は,平成18年3月31日以降,被告への出資比率及び株主の順位をxx低下させた。また,社長の派遣は平成15年度をもって終了させ,職員の派遣は平成18年度をもって終了させた。
被告は,平成19年3月16日,本件土地区画整理事業の終了と前後して,東京証券取引所マザーズ市場に上場した。上場後の被告の営業利益は,平成17年度から黒字に転化し,平成17年度14億94
00万円,平成18年度72億8300万円,平成19年度84億0
200万円,平成20年度85億8600万円,平成21年度44億
7500万円と順調に推移した。被告が上場を達成し,自立経営していくことが可能となり,本件土地区画整理事業が終了し,被告の誘致による e 地区の活性化にも一定の成果が見られたことから,原告は,被告に対する資本的関与を見直すこととし,平成21年5月には出資していた20万株すべてを公開買付けにより売却するとともに,融資額である160億円についても,その全額の返済を受けた。これにより,原告の被告との間の資本関係等は全て解消され,原告の立場は,民間地権者と同様の単なる土地の賃貸人となった。
したがって,平成22年4月1日の時点においては,原告と民間地権者との間に生じている賃料の開差には何ら合理的な理由はなく,是正されるべきものである。
ⅳ 以上により,同日時点において,原告には賃料増額請求権が発生している。
ウ 被告鑑定について
被告鑑定は,本件各土地の継続適正賃料を1平方メートルあたり月額3
72円としているが,被告鑑定は,本件各土地の新規適正賃料を査定するものであり,本件における適正継続賃料額を算定したものではなく,その前提を欠き,失当である。
エ 本件鑑定について
(ア) 本件鑑定は,差額配分法による試算賃料を,アップ率,粗利回り,公租公課倍率の3点から適正と評価しながら,上記3点とは全く別の要素である原告の普通財産貸付料算定基準,周辺民地との開差率の縮減,契約締結の経緯における差異という3つの点を持ち出して,これを大きく下回る鑑定額1平方メートルあたり月額442円を算定している点において,鑑定手法に一貫性が認められず,失当である。
また,普通財産貸付料算定基準は,原告が新規に一時的な賃貸借契約を締結する場合にのみ簡便的に用いることがあるだけの内部基準に過ぎず,本件賃貸借契約における賃料改定の経緯においてこの算定基準が適用されていた経緯もないから,普通財産貸付料算定基準を鑑定額の妥当性の補強根拠とすることは根拠がない。
さらに,本件鑑定は,契約締結の経緯における民間地権者との差異をどのように評価したかが明らかではない。
(イ) 本件鑑定は,従前賃料である1平方メートルあたり月額388円の設定時の基礎価格について,著しく保守的に査定されていたとするが,そうである以上は,従前賃料についても著しく低位であったとの評価をすべきであり,試算賃料を求めた三手法のうち,差額配分法による試算賃料に著しく大きなウエイトを置くべきであったのに,そのようにしていない。
(ウ) 以上から,本件鑑定の鑑定額は,到底,適正な手法によって算出
された評価額とはいえない。なお,被告は本件鑑定が基礎価格の算定にあたり標準画地価格の試算において地域格差に関する補正割合を積算していること等を批判するが,このような方式が鑑定評価基準で禁じられている訳でもなく,補正割合を相乗する方式が強制されているわけでもないから,被告の主張はあたらない。
オ 被告の反訴請求について
原告と被告との間の賃料は,当初から最大限の特別な配慮をもって合意されており,その前提となっていた基本的な条件が平成21年5月には当事者間で完全に崩れ去った状況下において,1平方メートルあたり月額3
88円という従前の低廉,不xxな賃料を平成22年4月1日時点においてさらに減額し,契約当事者間においても民間地権者との間においても不xxをさらに増大させることを必要とするほどの事情は何も生じていないから,被告の主張は不当である。
(2) 被告の主張
ア 平成22年4月1日時点の本件各土地の適正賃料額は,被告鑑定を基礎として,1平方メートルあたり月額372円とするのが相当である。
イ 原告の賃料増額請求は借地借家法に定められた要件を欠き,認められるべきではなく,被告の賃料減額請求が認められるべきである。
(ア) 経済事情の変動
平成22年の本件各土地の近隣地(大阪市 j 区 kl 丁目 m 番 n)の公示価格は,平成18年及び平成19年から下落しており,地価は下落傾向がみられた。また,大阪市の消費者物価指数は,平成18年4月時点及び平成19年6月時点から平成22年4月時点までいずれも減少している。
このような地価の下落及び消費者物価指数の減少に照らせば,賃料減額請求を基礎づける経済事情の変動があるといえる。
(イ) 民間地権者の賃料との差額を基礎付ける事情の変動について
ⅰ 原告と被告との間で合意した本件各土地の賃料額は,原告と民間地権者との間で合意した賃料額より低額であったが,この差異は,当初の賃料決定の際及びその後の賃料変更交渉の経緯の差異から生じたものであり,このような差異を根拠に原告に対する増額を認めるべき合理的根拠はない。しかも,この差異は平成18年及び平成19年の原告との賃料合意の当時すでに存在していたのであるから,原告と被告との間で上記のような賃料に関する合意がされた後に,民間地権者との間の賃料の額が増額し,較差が拡大したという事情もないのであって,前回合意時と比較して不相当となったともいえないことが明らかである。
本件各土地について,平成10年当時,原告は被告との間において,民間地権者に支払われる将来賃料より低い賃料を合意したが,これは,国内外から大阪市への観光客を受け入れて国際集客都市を目指す原告の中核施設としての役割を原告が被告に期待し,また雇用の創出への期待もあって,原告が被告を誘致したという関係があったことによる。被告の事業は,原告の実施する大阪市都市計画 e 地区再開発地区計画の中心的役割を果たしており,原告が賃料を決定するに際して a の公共性,公益性を考慮し,その結果,原告と民間地権者との間に被告に対する賃料について一定の差が生じたとしても,何ら不合理ではない。また,原告の被告に対する出資,貸付け等の支援も,被告の経営が軌道に乗ることが原告,ひいては大阪市民の利益になることから実施していたものにすぎない。
さらに,a の平成22年度における経済波及効果は約1000億円にも及ぶと試算されており,評価によっては年間2000億円にも上ると考えることも可能であるとされている。o 大学の戊教授によれば,
今後10年間で a が近畿地域に与える経済波及効果は約3兆1000億円(年間3100億円)とされ,上記各試算にも概ね沿う内容となっている。このように,a は,原告に対し,平成18年3月以降現在に至るまで,年間1000億円から2000億円もの経済波及効果を及ぼし続け,地域経済の活性化に貢献してきた。
また,原告の税収は,通常の商業施設に本件各土地を賃貸した場合に比較して年間3億7000万円も増加しており,原告は被告に本件各土地を賃貸することによって賃料以外にも直接的な経済的利益を得ているといえる。しかも,被告は年間約2億7700万円もの固定資産税を支払っている。
上記のような経済波及効果及び原告が得ている直接的な経済的利益に照らせば,民間地権者に支払う賃料との間に差があるとしても不合理ではない。
ⅱ 本件各土地の賃貸借契約において,賃借人の経営状況等を理由に民間地権者との賃料を減額するとの特別の合意がされたことはない。
本件各土地の賃料について,平成14年4月1日から平成18年3月31日までの間には,出資割合に応じた減額のみが認められており,単純に経営状態を理由とする減額が認められていたわけではない。原告が被告の主要株主であったということを前提に,出資先の経営を支援するという観点から減額が認められてきたものである。しかし,平成17年8月に p グループが被告に対し600億円の融資を行い,かつ同グループに対して,被告が200億円の優先株式を発行した段階で,原告が被告の経営から実質的に離脱することが決定されていた。そして,平成18年度末には,原告からの出向者はなくなり,その時点で残っていた原告派遣の社外取締役も平成19年6月に開催された株主総会において退任した。このような経緯を踏まえ,平成18年4
月の賃料合意時点では,原告が被告の株主として出資していることを理由として認められていた減額がなくなり,1平方メートルあたり月額388円とすることが合意されたのである。また,平成17年文書は,努力義務に言及するだけであり,民間地権者らに支払う賃料と原告に支払う賃料を同額にする義務を被告に負わせるものではないが,被告は,その均衡を保つよう最大限の努力をしている。
よって,仮に被告の経営状況が改善されていたとしても,これが賃料の増額事情となることはなく,被告の営業利益,経常利益及び当期純利益の額や株主に対する配当の額等を賃料の増額事由とすることはできない。
また,被告の経営状況の改善は,減価償却費の金額が減少したことによって経費の金額が減少したこと,経営努力による入場者の増加及びコスト削減等にもよるのであり,これを賃料増額という形で原告に還元すべき理由はない。
ウ 仮に,原告の賃料増額請求が借地借家法の要件を満たしうるものであるとしても,原告が請求する1平方メートルあたり月額516円や,本件鑑定の結果である1平方メートルあたり月額442円は,高額に過ぎる。原告鑑定の基礎価格を採用して,本件鑑定の算定方法に基づいて試算月額賃料を算出すると,差額配分法による試算月額賃料は1平方メートルあたり
438円となる。そして,上記差額配分法による試算月額賃料を採用し,本件鑑定のウエイト付け(2:1:1)に基づいて,平成22年4月1日時点の本件各土地の賃料額を試算すると,月額賃料は1平方メートルあたり409円となり,適正賃料額がこれを超えることはあり得ない。したがって,同日時点の適正賃料額と現行賃料額の乖離は,未だ僅少というべきである。
(ア) 原告鑑定の不当性
ⅰ 規模過大を理由とする減価(以下「規模過大減価」という。)の必要性について
本件各土地の基礎価格算定のためには,標準画地価格に対して格差修正を施す必要があるところ,原告鑑定が規模過大減価を一切施していないことは不当である。
ⅱ 期待利回りについて
被告鑑定における期待利回りは3.0パーセント,本件鑑定における期待利回りは3.5パーセントとされているところ,原告鑑定における期待利回りは5.4パーセントであり,これらとかけ離れている。原告鑑定の算出方法は,①原告は行政目的の達成を第一の目的とし,直接的な利益の追求を二の次としており,本件賃貸借契約により期待すべき投資利回りは,投資法人が経済的利益の追求のためのみに投資対象として取得し,保有する不動産について期待すべき投資利回りとは異質のものであるにもかかわらず,原告鑑定は投資法人の投資対象不動産の賃貸借市場における還元率を用いていること,②投資法人の投資対象不動産が元々は複合不動産であるにもかかわらず,原告鑑定はこれを土地と建物に分離する手法をとっており,また,仮にあえて分離するとしても建物所有者の事業リスクも考慮した上で土地に分配する利回りを決するべきであるのにそのようにしていないこと,③投資法人の投資対象不動産を,土地と建物に分離するために建物の耐用年数を措定するにあたり,原告鑑定は個々の建物の現状を考慮することなく一律40年としていること等の点において,不合理な内容となっている。
ⅲ 必要諸経費について
原告鑑定は,公租公課に加えて,賃料改定時における民事調停や,訴訟の際の弁護士費用や鑑定費用等までも必要経費として,賃料の3
パーセントを計上していた。こうした原告鑑定の記載は,実質賃料を高額に算定するため,本来必要諸経費に含まれるものと考えられていないものを必要諸経費として計上し,訴訟費用等を一律に賃借人の負担とすべきことを前提とするものであって,xxの見地に反する。
ⅳ 各算定方式のウエイト付けについて
現行賃料は決定当時は適正であったのであるから,現行賃料合意後の経済・社会的要因を最も如実に反映したスライド法を重視すべきであるし,仮に現行賃料が決定当時において適正な金額ではなかったとしても,あえてそのような金額を合意した当事者の意思は重視すべきである。そうであるにもかかわらず,原告鑑定は,三手法による最終的な加重平均にあたり,スライド法にわずか7.5パーセントのウエイトしか置かず,差額配分法に85パーセントものウエイトを置いている点で,不合理である。
(イ) 本件鑑定の問題点
ⅰ 標準画地価格の算定について
(ⅰ) 補正割合の算出方法について
本件鑑定は,本件各土地の基礎価格の算定のための標準画地価格の算定に際し,各取引事例に基づき標準画地価格を試算するにあたって,地域格差につき①街路条件,②交通・接近条件,③環境条件,
④行政的条件,⑤その他条件という5項目の各項目ごとに取引事例と標準画地の違いを数値的に認定し,これを加算した割合を地域格差全体の補正割合としている。しかしながら,このように各補正割合を単純加算することにより地域格差全体の補正割合を算出するという方法は,地域格差全体の補正割合が無限大となり計算不能となる可能性があるし,仮に計算可能であっても一つの項目の差が全体に与える影響が他の項目によるマイナス要素の割合により不合理に
左右されるなど,非常識な価格になり得るから,算定方法として不合理である。この手法を採用した結果,価格時点における本件各土地の基礎価格は過大に評価されている。この点については,公的評価基準や他の裁判所鑑定において採用されている相乗積により算出すべきである。
(ⅱ) 取引事例からの補正割合について
本件鑑定が各取引事例に基づき標準画地価格を試算するにあたって適用している補正割合は,原告鑑定及び被告鑑定において採用されている補正割合に比べて著しく大きい割合となっている。これは,取引事例の諸条件と標準地の地域格差について,取引事例の方が悪いとする割合を大きく認定していることに起因するものである。本件鑑定は,本件各土地より取引価格の低い取引事例のみを抽出し,これらにいずれも高い割合の補正を施しており,客観性が担保されていない。そもそも地域格差によって取引価格の2倍ないし3倍の比準価格となるような多大な補正を必要とする取引事例は,標準画地と地域要因及び個別的要因の比較が可能であることが必要な取引事例比較法における取引事例としては,不適切である。このような補正割合を採用した比準価格に基づいて差額配分法による試算賃料額を算定することは相当ではない。
ⅱ 規模過大減価について
本件鑑定が中間画地として1万平方メートルの土地を設定して比準価格を算定しながら,個別格差率については規模過大減価を10パーセントに留めているのは不適当である。
本件各賃貸借契約は,a というテーマパークの運営を目的として締結されており,本件各土地だけでは a の運営は不可能である。本件各土地は,基礎価格の把握の場面において,民間地権者の所有地と合わ
せた一体の a 敷地の一部として評価されるべきである。しかし,本件鑑定は,本件各土地のみを対象不動産として捉えており,この点で不当である。
上記のとおり,本件各土地は一体の a の敷地の一部として捉えられるべきである以上,10パーセントという減価率はその規模に照らして著しく低いものといわざるを得ない。本件においては,被告鑑定が行ったように,20パーセント程度の規模過大減価を施すのが妥当である。
ⅲ 各評価手法のウエイト付けについて
本件鑑定は差額配分法,利回り法及びスライド法の各評価方式による各試算額のウエイトを2:1:1として本件各土地の適正賃料額を算定しているが,本件鑑定が差額配分法のウエイトを大きくする理由として,①a 内の民間地との平均賃料の乖離及び②a 内の大阪市xxで進捗中の新エリア開設に伴う契約当事者間の信頼関係の強化を考慮している点は不合理である。
すなわち,民間地との平均賃料の乖離(上記①)については,民間地権者と被告は,a の開業に伴う地価上昇の将来予測に基づき,開業日から当初5年間は1平方メートルあたり月額500円,開業後6年目から8年目までは1平方メートルあたり月額800円と合意したところ,想定に反して地価が大幅に下落したため,被告が一部の民間地権者との民事調停において可能な限りの減額を求めたものの,継続賃料の性質上,新規適正賃料まで下げることができず,調停が成立し,他の民間地権者との間でも合意をした結果,平均賃料が1平方メートルあたり月額516円となった経緯を無視するものであって,民有地との平均賃料の乖離を重視することは不合理である。
また,大阪市xxで進捗中の新エリア(上記②),すなわち q エリ
アは,平成22年4月時点には構想さえなかったから,この点を考慮することは不合理である。
したがって,現行賃料を合意した後に賃料の増額要因となるような経済事情の変動がないことを考慮し,急激な賃料増額の負担を求める結果となる差額配分法の偏重を排斥し,ウエイト付けについては三手法を均等とするべきである。
ⅳ 本件鑑定の評価手法について
本件鑑定においては,利回り法の代わりに,その修正バージョンとして積算法なる手法が採用されており,それによる試算賃料は1平方メートルあたり月額387円とされている。この手法は,基礎価格の変動額に実績利回りを乗じて,それをxxの寄与率に応じて配分した上で,必要諸経費の変動を全額加算するが,本件のように土地の基礎価格が下落している場合には,それを貸主・借主間に配分することになるため,利回り法と比して賃借人に不利となるほか,必要経費の上昇等をすべて賃借人の負担とすることとなり,本件においてこれを採用するのは妥当ではない。
第3 当裁判所の判断
1 前提事実,争いのない事実,各項に掲記の各証拠等(争いのない事実についても便宜上掲げている。)及び弁論の全趣旨によれば,以下の事実が認められる。
(1) 原告による a 誘致の経緯
ア 原告は,海遊館に続く大阪全体の活性化につながるプロジェクトとして,大阪市への d の誘致活動を展開し,米国の総合エンターテイメント企業である r 社は,d の e 地区への進出を決定し,また,平成4年12月,議員立法により,大阪湾ベイエリアの総合開発整備を行う大阪湾臨海地域開発整備法が成立・施行された。(争いのない事実)
平成5年12月,原告市長が正式に r 社に対し,大阪進出の要請を行い,さらに平成6年12月,原告と地権者が中心となって「s 株式会社」が設立された。平成7年3月29日,原告を事業主体とする本件土地区画整理事業につき都市計画決定が告示され,同年8月7日,事業計画決定が公告された。そして,対象地区をAないしFの6地域に分け,本件土地区画整理事業及びこれと強い関連性を有する事業として,a 事業,JR桜島線の複線化事業,スーパー堤防事業,客船ターミナル事業及び再開発地区計画等が実施されることとなった。(争いのない事実,乙12)
イ 平成8年2月6日,原告と r 社は,a に参加するための基本的な条件を規定した a に関する基本合意書を取り交わし,これを受け,s 株式会社は,同年3月,a の建設運営を目的とした事業会社である「株式会社 c」に商号変更した。(争いのない事実,甲22)
ウ その後,原告と被告は,原告に仮換地される土地について,平成10年
3月25日,a の工事着工までに,①賃貸期間を工事着工日から30年間,
②賃貸料等の条件は平成8年2月6日付け確認と同じとし,売却前の保留地については,a の敷地としての使用収益を前提として,その管理を被告に委託する,③a 用地全体の平均賃貸料については,民間地権者との賃貸料を前提として,開業後5年間は1平方メートルあたり月額500円,その後3年間は1平方メートルあたり月額700円を上回らないよう取り計らうものとすることを確認した。(争いのない事実)
平成10年10月1日,a の建設工事の着工にあたり,原告と被告は,
①賃貸期間を平成10年10月1日から30年間とすること,②賃貸料等の条件は従前のとおりとし,その他の賃貸借契約及び管理委託契約の条件については,その実施により他の民間地権者の a 用地に関する賃貸借契約の内容に比較して不利益が生じる結果にならないよう取り計らうものとすること,③a 用地全体の平均賃貸料等については民間地権者の賃貸料(開
業日から5年間1平方メートルあたり月額500円,その後3年間1平方メートルあたり月額800円)を前提として,開業日から5年間は月額5
00円,その後3年間は月額700円を上回らないよう取り計らうものとすること等を確認した。(争いのない事実)
エ 平成10年10月1日,a の建設工事が着工され,原告は,本件土地区画整理事業の施行者として,施行地区面積約156.2ヘクタールに対し,平成7年8月7日から平成24年3月31日を事業施行期間として,総事業費966億円を費やし(甲23),都市計画道路4線,公園4か所,緑地5か所等のインフラ設備を行った。(争いのない事実)
(2) 本件各土地の賃料の改定経過
ア 原告と被告は,平成10年9月,本件土地3,4の賃料について,a の開業準備期間中の平成9年1月1日の相続税の路線価に基づき,底地割合を50パーセントとした計算方式により,1平方メートルあたり月額38
8円と算定した。この賃料は,新規に市xxを賃貸する場合の賃料について「1月につき当該土地の時価に1000分の5を乗じて得た額とする」
(利回り6パーセント)とする大阪市普通財産貸付料算定基準が市場における土地の利回り率から乖離していることに鑑み,形式的に50パーセントの底地割合という概念を利用して実質的に利回り3パーセントで賃貸するという,当時大阪市において一般的に用いられていた手法によるものであった。(争いのない事実)
また,本件土地1,2については,保留地予定地として,一時使用許可に基づき本件土地3,4の賃料と同額の使用料が設定された。(争いのない事実)
イ 原告と被告は,平成11年4月1日から開業の前日までの期間については,いまだ準備期間中であること,原告が出資していることによる各減額,駐車場部分に対する減額により,1平方メートルあたり月額73円とし,
開業後については,1年間は経営が安定していないことから出資割合相当分による減額,収益が低い駐車場について当該面積に相当する部分の減額を行い,1平方メートルあたり月額219円とした。a は,平成13年3月31日に開業し,原告と被告は,平成14年4月1日から平成18年3月31日までの間についても,出資割合に応じた減額を継続し,1平方メートルあたり月額291円とした。(争いのない事実)
ウ 被告は,原告に対し,平成17年2月28日付けで施行者使用許可申請書を提出し(甲27),同日付けで,本件各土地の使用料を平成16年度と同様にする旨要望する旨の文書とともに(甲28),同日付けで,平成
18年度以降は平成17年度に比べ減価償却費が大きく減少し,平成18年度の最終損益も黒字を達成できるとして,平成18年度以降の使用料については民間地権者にかかる賃料と均衡を保つことができるよう最大限の努力をする旨を記載した平成17年文書(甲29)を差し入れた。(争いのない事実)
エ その後,被告は,平成17年度3月期に営業損益が黒字に転じ,平成1
8年度の最終損益も黒字を達成できる見込みとなったこと等から,原告と被告は,協議の結果,本件各土地の賃料を見直すこととし,平成18年4月1日から当初の計算方式による1平方メートルあたり月額388円とすることを合意した。(争いのない事実)
オ 被告は,平成17年8月,p グループから600億円の融資を受けるとともに,同グループに対して,200億円の優先株式を発行した。(弁論の全趣旨)
カ 本件土地1,2について,平成19年3月23日,換地処分の公告がされた後,原告と被告は,同月24日から同年5月31日まで1平方メートルあたり月額388円の額によって一時使用目的の借地権を設定した後,新規賃料が1平方メートルあたり月額384円であるとする鑑定書(乙4)
を得,t 不動産評価審議会の評定を経て(甲61),賃料額を本件土地3,
4と同額の1平方メートルあたり月額388円とする事業用借地権設定契約を締結した(甲2,3)。
キ 被告は,平成19年3月16日付けで東京証券取引所マザーズ市場に上場した。被告は,本来経営基盤の安定化を図るため,その敷地である本件土地1,2の所有権を取得する予定であったが,大型アトラクションの建設,大規模イベントの開催など活発な事業展開を予定しており,それらの事業費とxxx負債の返済に多額の資金を投入しなければならず,保留地を取得する資金的余裕はないとして,原告に対し,長期に亘る安定した使用継続を希望し,平成19年3月14日付けで,同月24日から同年6月
30日までを使用期間とする市xx一時賃借申込書を提出した(甲37)。そこで,原告と被告は,本件土地1については同年3月24日付けで同期間について一時使用することを合意する旨の覚書(甲36)及び本件土地
2について,市xx賃貸借契約書を取り交わした(甲38)。さらに,被告は,原告に対し,同年5月15日付けで同年6月1日以降の事業用定期借地の賃借申込書を提出し(甲39),原告はこれを応諾した。(争いのない事実)
(3) 被告は,原告以外にも民間地権者から,a のテーマパークの用地として,20筆の土地(甲6の1ないし20)を賃借し,これを原告の本件各土地と一体として使用収益している。a の事業用地は,すべて大阪市都市計画事業 e 地区土地区画整理事業の対象となっており,平成19年3月23日に換地処分の公告が行われた。(争いのない事実)
また,a の事業用地は全体で54万0074平方メートルであり,そのうち原告の土地が20万4046平方メートルで,全体の約40パーセントを占め,民間地権者の土地が33万6027平方メートルで,全体の約60パーセントを占めており,原告が被告に対し,最も広い範囲の土地を賃貸して
いる。(争いのない事実)
民間地権者と被告との賃貸借契約における賃料は,平成10年の時点では,一般定期借地権設定契約については,平成13年4月1日から平成18年3月31日まで1平方メートルにつき月額500円,同年4月1日から1平方メートルにつき月額800円,事業用借地権設定契約については,平成13年3月31日から5年間は1平方メートルにつき月額500円,平成18年
3月31日からは月額800円と合意されていたが,平成18年9月頃,被告が a の敷地の賃貸借契約に係る地代の減額を求めて大阪簡易裁判所に申し立てた民事調停に基づき,被告と民間地権者のうち3社(u 株式会社,v 株式会社,w 株式会社)との間で,平成18年4月1日から平成23年3月31日までの地代について調停が成立し,その後,被告と民間地権者のうち他の
3社(x 株式会社,y 株式会社,f 株式会社)との間でも合意がされ,6社の平均月額地代は1平方メートルあたり516円となった。(争いのない事実,弁論の全趣旨)
(4) 原告の被告への経営参加及び融資等並びに被告の損益等についてア 原告の被告への資本参加等及びその解消
(ア) 原告の被告に対する持株割合は,従前は25パーセントで,筆頭株主であったところ,平成18年3月末時点で13パーセント,平成1
9年3月末時点で9.33パーセントと低下し,本件各土地の賃料の最終合意の後である平成20年3月末時点では9.24パーセントと次第に低下した後(甲7の1,8,9)(いずれも持株数は20万株であった。),平成21年5月頃,原告が全ての株式を売却したことにより,原告の被告に対する資本関係は完全に解消された。(争いのない事実)
(イ) 原告は,当初から,職員を社長や従業員(最大時は14名)として被告に派遣しており,被告は原告の監理団体でもあったが,平成18年度末までに原告から被告への職員の出向は解消され,役員の派遣につ
いても平成19年6月の株主総会により原告関係者が全て退任した。(争いのない事実)
イ 原告の被告に対する融資
原告は,被告の求めに応じて,平成10年12月の20億円を始めとして,平成17年1月6日までに合計160億円の融資を行い,利息の返済期限の延長をしたほか(甲40ないし55),貸付金を協調融資の弁済に劣後するとの取扱いをした(甲56,57)。(争いのない事実)
ウ 被告の上場及び損益等
(ア) 被告は,平成19年3月16日,東京証券取引所マザーズ市場に上場した。(争いのない事実)
(イ) 被告の損益は次のとおりであった。(争いのない事実,甲7の1
・2,8ないし9)
ⅰ 平成15年3月期(第9期)
営業損失 57億6400万円経常損失 94億3500万円当期純損失 93億1500万円
ⅱ 平成16年3月期(第10期)
営業損失 17億5100万円経常損失 50億6800万円当期純損失 52億0400万円
ⅲ 平成17年3月期(第11期)
営業利益 7300万円経常損失 31億5100万円当期純損失 51億7200万円
ⅳ 平成18年3月期(第12期)
営業利益 14億9400万円
経常損失 5億8200万円当期純損失 46億3400万円
ⅴ 平成19年3月期(第13期)
営業利益 72億8300万円経常利益 52億7300万円当期純利益 37億9300万円
ⅵ 平成20年3月期(第14期)
営業利益 84億0200万円経常利益 70億2800万円当期純利益 67億6600万円
ⅶ 平成21年3月期(第15期)
営業利益 85億8600万円経常利益 79億3500万円当期純利益 69億9900万円
(ウ) 被告は,原告からの自立を目指し,平成17年度において資本市場からの資金調達をするべく,上場又は店頭市場への登録を目指すとの方針をとることとした。他方,原告も,被告が上場を達成し,自立経営していくことが可能となり,本件土地区画整理事業が終了するとともに,被告に対する資本的関与を見直すこととし,平成21年5月には出資していた20万株すべてを公開買付けにより売却し,また,被告に対する融資160億円についても,その全額の返済を受けた。(争いのない事実,弁論の全趣旨)
2 当事者鑑定についての検討
(1) 被告鑑定について
当事者鑑定のうち,被告鑑定は,平成22年4月1日時点における適正賃料は1平方メートルあたり372円であるとするが,被告鑑定は,新規賃料
を査定しており,本件賃貸借契約が継続中の賃貸借契約である以上,相当賃料額が新規賃料相当額とならないことは明らかであるから,被告鑑定は,本件とは前提を異にするものであって,採用できない。
(2) 原告鑑定について
ア 原告鑑定における期待利回りは,底地の還元利回り及び複合不動産の総合還元利回りから土地の還元利回りを導き,これを期待利回りとするものであるところ,投資法人が投資対象として取得し,保有する不動産についての還元利回りは,周辺地価相場より著しく高いのが通常であって,これを本件各土地の期待利回りの算定に用いることは適切ではないというべきである。
イ また, 原告鑑定は,公租公課に加えて,賃料改定時における調停や,訴訟の際の弁護士費用や鑑定費用等を必要経費としているところ,当該費用も管理費として,賃借人の負担とすることは不合理というべきである。
ウ 差額配分法:利回り法:スライド法のウエイト付けについて,原告鑑定は,従前,当事者間で決定された賃料が低廉であり,値上げ圧力が高く,経済合理性に反する状態を可及的速やかに回復させるためにも,経済的な観点から賃料改定の必要性を示唆する差額配分法に高い規範性が認められるとして,これを85:7.5:7.5としている。
原告鑑定が,三手法による試算賃料のウエイト付けにあたり,差額配分法に一定の比重を置くことは後記のとおり相当といえるが,従前当事者間で決定された賃料が低廉であったことのみをもって差額配分法に85パーセントもの著しく大きなウェイトを置くことはxxを欠くというべきである。
(3) 以上によれば,原告鑑定及び被告鑑定のいずれも採用できない。
3 本件鑑定についての検討
本件鑑定は,当裁判所が選任した鑑定人が,原告にも被告にも偏することの
ない,中立かつxxな立場から,その学識経験に基づいて鑑定評価を行ったものであり,その判断内容については基本的に信頼し得るものといえるが,当事者の主張を踏まえ,その妥当性について検討する。
(1) 試算賃料の算定手法について
ア 被告は,本件鑑定の採用する積算法は,本件のように土地の基礎価格が下落している場合にはそれを貸主・借主間に配分することになるため,利回り法と比して賃借人に不利となるほか,必要経費の上昇等をすべて賃借人の負担とすることとなるから,本件において採用するのは妥当ではないと主張する。
イ 不動産鑑定評価基準は,継続賃料評価について差額配分法,利回り法,スライド法,賃貸事例比較法を例示列挙しているが,しかし,その四手法は絶対的なものではなく,例示されている手法以外であっても,鑑定人の裁量により,当該事案において適切と考えられるものを採用することを許容するものというべきである。本件において鑑定人が採用した積算法は,従前合意時点と価格時点間の基礎価格の変動に対応し,従前合意時点における賃貸借当事者間の合意の意思内容を実績利回りによって把握することを主旨とするものであるところ,継続賃料の算定方法として特に不当なものであることは窺えない。
また,被告の指摘する点は,積算法が継続賃料の算定方法として一般的に合理性を有しないというのではなく,つまるところ,本件においてこれを採用すると被告に不利な算定結果となるというにすぎないから,本件鑑定の算定方法が不当であることの根拠とはならない。しかも,丁鑑定人による利回り法に基づく月額試算賃料は7779万円(1平方メートルあたり約381円となる。)であって,本件鑑定における積算法による試算賃料(月額7903万4000円(1平方メートルあたり約387円となる。))に比して著しく低いとはいえず,実際の算定結果に照らしても,
積算法が賃借人にとって不当に不利な算定方法であるとはいえない。以上によれば,被告の上記主張は,本件鑑定の内容が不当であることの根拠とはならないというべきである。
ウ よって,被告の上記主張は採用できない。
(3) 基礎価格の算定について ア 補正割合の算出方法について
被告は,本件鑑定は,標準画地価格の算定において,各取引事例に基づき標準画地価格を試算するにあたって,地域格差につき,各補正割合を加算して地域格差全体の補正割合を算定するという方法は,地域格差全体の補正割合が無限大となり計算不能となる可能性があり,仮に計算が可能であっても,一つの項目の差が全体に与える影響が他の項目によるマイナス要素の割合により不合理に左右されるなど,非常識な価格になり得るから,算出方法として不合理であると主張する。
しかし,被告の主張は,一般的に各補正割合を加算する方法を採用した場合に計算不能となるおそれがあるとするものにすぎず,実際には,本件鑑定は計算不能に陥っていないのであるから,被告の上記主張は前提を欠くというべきである。また,地域格差を考慮するにあたり,各補正割合を加算する方式と相乗する方式のいずれを採用するかは,各補正割合の判定と併せ,不動産鑑定士としての専門的知見及び経験則に基づく総合的な判断として行われるものであって,単に各補正割合が積算されているとか,結果的に算定額が他の鑑定に比して高額となっているとの面からとらえてこれを直ちに不当ということはできない。
よって,被告の上記主張は,本件鑑定の内容が不当であることの根拠となるものではない。
イ 取引事例からの補正割合について
被告は,本件鑑定は,地域格差によって取引価格の2倍ないし3倍の比
準価格となるような多大な補正を必要とする取引事例のみを抽出し,これらにいずれも高い割合の補正を施しているとして,客観性が担保されていないと主張する。
しかし,本件鑑定によれば,xxx人は,平成22年4月1日時点において,1万平方メートルの標準画地を想定の上,取引事例比較法を用いて更地価格を求めることとし,その際,基準地価格を規準として求めた価格
(規準価格)との均衡にも留意したこと,そして,取引事例比較法によって比準価格を求める際には,6つの取引事例地を採用した上で,事情補正,時点修正,標準化補正及び地域格差による修正を行い,そのうち取引事情の正常な5つの取引事例地の各試算値に2倍のウエイトを置いた加重平均値を採用して,標準画地の比準価格を1平方メートルあたり18万50
00円と算定し,また,規準価格を求める際には,「此花(府)9-1」を基準地として採用した上で,事情補正,時点修正,標準化補正及び地域格差による補正を加えて,1平方メートルあたり18万3000円と算定したこと,丁鑑定人は,上記比準価格につき,規準価格とも均衡を得ているとして適正妥当な価格と判断し,標準画地の更地価格を1平方メートルあたり18万5000円と算定した上で,個別的増減価要因を検討して,個別格差率を0.92とし,これを標準画地の更地価格に乗じて,基礎価格を算定したことが認められる。
本件鑑定に係る上記基礎価格の算定過程は,合理性を有するものといえ,被告指摘の基準地の選択の点も,前記のとおり,地域格差による補正が加えられているといえるから,被告の上記主張は採用できない。
ウ 規模過大減価について
被告は,本件鑑定は,中間画地として1万平方メートルの土地を設定して比準価格を算定しながら,個別格差率について規模過大減価を10パーセントに留めているのは不当であり,本件各土地は一体の a 敷地の一部と
して捉えられるべきである以上,20パーセント程度の減価を施すことが妥当であると主張する。
しかし,本件鑑定は,本件各土地がxxx画地であることから単独で評価対象としており,a 全体敷地の一部として評価するという手法を採用していないのであるから,被告の主張は本件鑑定とは前提を異にするものというべきであるし,取引事例や公的ポイントの規模との関係で規模要因格差を考慮するに際し本件鑑定が施した減価が不相当であることも窺えない。また,規模過大減価に関し,原告鑑定は,a の敷地の全体について,最有効使用は大規模テーマパークの敷地としての利用であることを理由に規模過大減価は必要ないとしており,かかる減価が一切必要ないとする点では相当とはいえないものの,原告鑑定の見解にも一定程度合理性があると認められるから,仮に,本件各土地を a の他の敷地と一体として把握するとの手法によったとしても,10パーセントを超える減価が必要とまでは認められないというべきである。
したがって,被告の上記主張は採用できない。
(3) 各評価手法のウエイト付けについて
ア 原告は,本件鑑定が,従前賃料である1平方メートルあたり月額388円を設定した際の基礎価格について,原告鑑定と同様,著しく保守的に査定されていたとする以上は,従前賃料についても著しく低位であったとの評価をすべきであり,試算賃料を求めた三手法のうち,差額配分法による試算賃料に著しく大きなウエイトを置くべきであったと主張する。
他方,被告は,本件鑑定が差額配分法のウエイトを大きくした理由として,①民間地権者との賃料に関する経緯を無視して民有地との平均賃料の乖離を重視していること及び②大阪市xxで進捗中の新エリアすなわち qエリアは平成22年4月時点には構想さえないにもかかわらず,新エリア開設に伴う契約当事者間の信頼関係の強化を考慮している点は不合理であ
って,現行賃料を合意した後に賃料の増額要因となるような経済事情の変動がないことを考慮し,急激な賃料増額の負担を求める結果となる差額配分法の偏重を排斥し,ウエイト付けについては三手法を均等とするべきと主張する。
イ 被告の指摘する点のうち,本件鑑定が新エリア開設を考慮している点については,確かに,平成22年4月1日の時点では,xxxxエリアの開設について具体的な構想がされていたとは認められないから,かかる事情を前提として考慮することは適当とは認められない。また,民間地権者との賃料差額についても,そのこと自体は,従前賃料の合意の際にも存した事情であり,直ちにこれを増額を基礎付ける事情として考慮することまではできない(なお,念のためにいえば,被告は,本件鑑定の「従来保守的に算定されてきた基礎価格により地代が若干低位に設定されていたことを改善するために」との表現をとらえて,契約締結時や地代改定時にされた地代額の合意内容に対する介入であって不当であるなどとも主張するが,上記部分は,三手法のウエイト付けにあたり,従前の経緯,xx等の観点に照らし,賃料改定の方向に働く差額配分法の規範性が高いとの趣旨で述べたものにすぎないと解されるから,被告の批判はあたらない。ただし,三手法によるウエイト付けに関する当裁判所の判断過程が本件鑑定と異なることは後記のとおりである。)。
ウ(ア) しかしながら,原告が被告の主要株主であったこと,そして,原告と被告が,従前賃料の合意に至るまで,被告の経営状態や原告の持株割合を理由として賃料額を変動させてきたことは前記認定のとおりであり,原告と被告との間においては,本件各賃貸借契約の当初より,これらの事情を賃料算定の基礎事情とすることが合意され,又は前提とされていたと認めるのが相当である。
また,被告が,平成17年文書において,平成18年度以降は平成1
7年度に比べ減価償却費が大きく減少し,平成18年度の最終損益も黒字を達成できるとして,平成18年度以降の使用料については民間地権者にかかる賃料と均衡を保つことができるよう最大限の努力をする旨約しているのも,原告が上記のとおり被告の主要株主であることから,被告の経営状態に配慮して,賃料を減額しているところ,平成18年度以降の賃料については,被告の財務内容の改善を見込んで,その後の賃料合意においては民間地権者に対する賃料(当時は1平方メートルあたり
500円)との均衡を保つようにすることを予定していたものと認められる。
(イ) そこで,本件各賃貸借契約に係る賃料の最終合意(本件土地1及び本件土地2につき平成19年6月1日,本件土地3及び本件土地4につき平成18年4月1日)の前後の事情について検討すると,前記認定のとおり,平成18年度末までに原告から被告への職員の出向は解消され,役員についても,平成19年6月の株主総会により原告関係者は全て退任し,その後は,原告の関与を離れ,新たな経営陣によって経営がされることになった。また,原告の持株割合についても,従前,25パーセントであったものが,平成17年8月の p グループに対する200億円の優先株式の発行を経て,平成18年3月末時点で13パーセント,平成19年3月末時点で9.33パーセントと低下していった。そして,その後,同持株割合は,平成20年3月末時点で9.24パーセントと若干低下したものの,なお相当程度維持されていたが,平成21年5月頃,原告が保有株式20万株の全てを売却したことにより(また,同時期に被告に対する融資160億円の全額が返済された。),原告の被告に対する資本関係及び経営への関与は完全に解消された。
(ウ) また,被告の損益については,従前は営業損益,経常損益とも赤字であったものが,平成17年3月期に営業損益が黒字に転じ,平成1
8年度も黒字を達成し又はその見込みであったことから,最終合意時点においては,減額されていた本件各土地の賃料を当初の合意賃料額(1平方メートル当たり月額388円)に増額したものと認められ,さらに,被告は,平成18年3月期は営業損益が黒字,平成19年3月期以降は,営業損益及び経常損益ともに継続的に50億円以上の黒字を計上していたことは前記認定のとおりである。
(エ) 以上の事情に照らせば,原告と被告が,本件各賃貸借契約の賃料の最終合意の時点において,民間地権者の賃料との間に差額が存在することを認識しながら,民間地権者との賃料との均衡を保つまでには至らず,当初の合意賃料額に戻すにとどまったことについては,被告の損益が黒字化して間もないとの事情も存したものと認められる。
そして,前記認定のとおり,その後も被告の損益が黒字を継続し,安定的な経営が可能となったこと,平成21年5月時点で原告が被告の株式を全て売却し,原告の被告に対する資本関係及び経営への関与が完全に解消されたことに照らすと,本件各賃貸借契約に係る賃料について,民間地権者の賃料額との間で顕著に低く定める事情は基本的に消滅したものと認められる。そして,平成22年4月1日時点において,原告に対する増額請求前の賃料は1平方メートルあたり388円であるのに対し,民間地権者に対する賃料は1平方メートルあたり516円というように約1.33倍に達していたところ,本件各賃貸借契約に係る賃料の合意に関する経緯等に照らせば,原告の賃料増額請求の当否等を検討するにあたり,最終合意後,民間地権者に対する賃料と原告に対する賃料の差を設けるべき事情(ただし,後記のとおりの a 事業の公共性等への考慮を除く。)が消滅したとの点を考慮すべきものと認められる(なお,民間地権者の賃料については,平成10年時点で既に平成18年4月以降1平方メートルあたり800円に増額することが合意されていたとこ
ろ,同年9月頃の民事調停等により同年4月に遡って平均して516円となったことが認められるが,原告と被告が民間地権者に対する賃料を減額することにより均衡を保つことを考えていたとは認められないし,平成22年4月1日の時点において賃料の差額が存在することに変わりはない以上,上記認定は左右されない。)。
(オ) 他方において,被告による a の事業が原告の誘致によって開始され,本件土地区画整理事業の一環として行われたものであるなど,公共性,公益性を有し,また,大阪市を含む関西圏の経済に一定の貢献をしていることは認められる(乙16,17,19)。
しかしながら,原告と被告は,本件各賃貸借契約の賃料について合意するに際しては,そうした事情を認識しつつ,その後の賃料合意においては民間地権者に対する賃料との均衡を保つようにすることを予定していたと認められるから,上記の点は前記認定を左右しない。したがって,上記の事情によって民間賃料との差額が正当化されるとの被告の主張は理由がない。
もっとも,従前の賃料に関する合意について,a の事業の公共性や地域経済への貢献等が考慮された面があることもまた否定はできないのであって,民間地権者との賃料額の差が原告が被告の主要株主であることや被告の経営状態のみを理由とするものと認めるには足りないから,原告に対する賃料を民間地権者に対する賃料と同一額にすべきであるとまではいえない。したがって,民間地権者に対する賃料と同一額にすべきとの原告の主張もまた理由がない。
エ 以上諸般の事情を総合すれば,本件鑑定が,差額配分法,スライド法及び積算法のウエイト付けにあたり,差額配分法に一定の重点を置き,各方式による試算賃料を2:1:1の割合で考慮したのは,結論において相当と認められる。
(4) なお,原告は,周辺土地の固定資産税及び都市計画税の上昇自体によって賃料増額が基礎づけられるとも主張するが,原告の所有する本件各土地についてはこれら市町村税は賦課されないから,この点自体によって賃料増額が基礎づけられることにはならない。
そして,原告及び被告の主張するその余の点は,本件鑑定の合理性を否定するに足りるものではないと認められる。
(5) 以上によれば,平成22年4月1日時点での継続実質賃料を総額90
15万4000円(1平方メートルあたり約442円となる。)と算定した本件鑑定の結論は相当と認められる。
4 まとめ
(1) 以上によれば,現行賃料は平成22年4月1日時点において不相当となっており,同時点における本件各土地の適正賃料は,本件鑑定により示された鑑定評価額月額総額9015万4000円と認めるのが相当である。
(2) そうすると,原告の請求は,平成22年4月1日時点の賃料について,本件土地1は月額7594円0255円,本件土地2は月額679万727
1円,本件土地3は月額454万4510円,本件土地4は月額287万1
964円であることの確認を求める限度で理由があり,その余の請求及び被告の反訴請求は理由がない。
5 よって,原告の本訴請求を上記の限度で認容し,その余の本訴請求及び被告の反訴請求を棄却することとして,主文のとおり判決する。
大阪地方裁判所第25民事部
裁判長裁判官 x x 部 x x
裁判官 x x x x
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