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(公社)沖縄県宅地建物取引業協会 研修会
■ 改正民法(債権法)による
望ましい売買契約書作成のポイント
■ 事例から学ぶ重要事項説明書の留意点
xxxx法律事務所 弁護士 xxxx
1 改正民法(債権法)による望ましい売買契約書作成のポイント
【1】改正民法(債権法)総論 【2】債務不履行 | 3 5 |
【3】危険負担 | 12 |
【4】契約不適合責任[総論・書式] | 14 |
【5】契約不適合責任[特約・容認事項] | 29 |
【6】物件状況確認書・付帯設備表 | 45 |
2 事例から学ぶ重要事項説明書の留意点
【1】重要事項説明に関する基本的留意点 49
【2】売主の表示(相続登記未了物件) 52
【3】土地に関する測量図 54
【4】法令に基づく制限等 56
【5】取引条件に関する事項 58
【6】人の死に関する告知 60
目
次
【1】改正民法(債権法)総論
⑴ 民法(債権法)改正の理由と施行
民法の債権関係の規定は、明治29年に制定されて以来、実質的な改正は行われていませんでした。今回、①判例等を明文化してわかりやすくする、②条文の文言のあり方を理解しやすいものにする、③社会経済の変化に対応する、➃国際的な取引ルールとの整合性を図る、といった理由で、約120年振りの大改正がなされました。改正民法(債権法)は、2020年(令和2年)4月1日から施行されています。
⑵ 改正民法の特徴 ~ 当事者の合意の重視
民法改正の目的は、xxや取引上の常識・慣習に影響されない「当事者の合意」を重視する環境を築くことにあったと言われることがあります。例えば、海外の企業が日本企業と契約する際に、契約書において事細かに合意しておけば、裁判になっても日本の法律や慣習に左右されないという担保を獲得したと言えます。この点は、国内の契約のあり方にも影響を与え、不動産取引の実務面でも契約文言、特約重視の傾向が強まっています。実際、売買契約書が特約・容認事項を事細かに書き入れるスタイルがスタンダードとなりつつあることは、皆様も実感があるところかと思います。
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改正民法(債権法)による望ましい売買契約書作成のポイント
【参考】債務の履行不能(原始的不能)に関する改正 ~「当事者の合意の重視」がよくわかる例
(履行不能)
第412条の2 債務の履行が契約その他の債務の発生原因及び取引上の社会通念に照らして不能であるときは、債権者は、その債務の履行を請求することができない。
2 契約に基づく債務の履行がその契約の成立の時に不能であったことは、第415条(債務不履行による損
害賠償)の規定によりその履行の不能によって生じた損害の賠償を請求することを妨げない。
旧民法の伝統的な考え方では、不動産のような特定物の売買契約が締結された場合、契約締結時にすでに目的物が存在していない場合(原始的全部不能)は、契約そのものが無効であると考え、売主の債務不履行責任が生じる余地もないと考えられていました(有効な契約だと信じた買主の保護は、「契約締結上の過失」という理論によって、例外的に契約のための経費程度の賠償がなされるにすぎませんでした)。
これに対して、改正民法では、当事者の合意をできるだけ重視するという立場から、契約締結時に目的物が存在していなかったとしても、契約自体は有効なものとして、契約内容に従った債務が発生するものと考えます。そのため、買主は、売主に対して、本来の債務の履行を請求することはできなくなるとしても(第412条の2第1項)、債務不履行として損害賠償を請求することが可能となりました(同第2項)。
不動産取引で原始的全部不能が実際に問題となるのは、契約直前に物件が焼失していたため売主も気付かぬまま契約を締結してしまったというようなレアケースに限られるでしょう。ただ、この「できな いことでも約束したことは守らなければならない」という基本的な発想の転換が、「瑕疵担保責任」から「契約不適合責任」への転換に大きな影響を与えています。
【2】債務不履行
⑴ 損害賠償請求
(債務不履行による損害賠償)
第415条 債務者がその債務の本旨に従った履行をしないとき又は債務の履行が不能であるときは、債権者は、これによって生じた損害の賠償を請求することができる。ただし、その債務の不履行が契約その他の債務の発生原因及び取引上の社会通念に照らして債務者の責めに帰することができない事由によるものであるときは、この限りでない。
2 (略)
(賠償額の予定)
第420条 当事者は、債務の不履行について損害賠償の額を予定することができる。
2 賠償額の予定は、履行の請求又は解除権の行使を妨げない。
3 違約金は、賠償額の予定と推定する。
● 履行遅滞・履行不能を問わず、債務不履行について債務者に「帰責事由」がない場合は、債務者は損害賠償義務を負わないことが明文化された。…旧法の判例解釈の明文化です。
● 違約金の定めがあったとしても、裁判所が裁量で損害賠償額を増減する可能性がある。
… 旧法の420条1項は、損害賠償額の予定がある場合、「裁判所はその額を増減することができない」と定めていましたが、改正民法はこれを削除しました。したがって、違約金の定めがあったとしても、裁判所が裁量で額を増減する可能性があるということになります。不動産の売買契約では、売買代金の
1~2割程度の違約金の定めがなされることが多く、上記改正の影響があるかもしれません。
【参考】法定利❹の見直し
金銭債務の遅延損害金を算定する場面などで用いられる法定利率につき、旧法は年5%としていましたが、xxxxを大きく上回ることから、改正民法はこれを年3%に引き下げると共に、3年ごとにこれを見直す変動制を導入しました。
(催告による解除)
第541条 当事者の一方がその債務を履行しない場合において、相手方が相当の期間を定めてその履行の催告をし、その期間内に履行がないときは、相手方は、契約の解除をすることができる。ただし、その期間を経過した時における債務の不履行がその契約及び取引上の社会通念に照らして軽微であるときは、この限りでない。
(催告によらない解除)
第542条 次に掲げる場合には、債権者は、前条の催告をすることなく、直ちに契約の解除をすることができる。一 債務の全部の履行が不能であるとき。
二 債務者がその債務の全部の履行を拒絶する意思を明確に表示したとき。
三 債務の一部の履行が不能である場合又は債務者がその債務の一部の履行を拒絶する意思を明確に表示した場合において、残存する部分のみでは契約をした目的を達することができないとき。
四 契約の性質又は当事者の意思表示により、特定の日時又は一定の期間内に履行をしなければ契約をした目的を達することができない場合において、債務者が履行をしないでその時期を経過したとき。
五 前各号に掲げる場合のほか、債務者がその債務の履行をせず、債権者が前条の催告をしても契約をした目的
を達するのに足りる履行がされる見込みがないことが明らかであるとき。
2 次に掲げる場合には、債権者は、前条の催告をすることなく、直ちに契約の一部の解除をすることができる。一 債務の一部の履行が不能であるとき。
二 債務者がその債務の一部の履行を拒絶する意思を明確に表示したとき。
● 債務不履行について債務者に「帰責事由」がない場合でも、債権者は契約を解除することができる。
… 旧法では、債務不履行があっても、債務者に「帰責事由」がなければ、債権者は契約を解除できないとされていました。しかし、例えば天災で物件が毀損し、売主の物件引渡の目処がたたない状況となった場合、売主に帰責事由がないために買主が契約を解除できないとすると、買主は代金支払債務のリスクを負い続けなければならないことになって不合理だとの批判がありました。
そこで、改正民法は、解除とは、債務者にペナルティを与えるための制度ではなく、債権者を契約の拘束から解放するための制度であると発想を転換し、債務不履行となった場合には、債務者の「帰責事由」の有無にかかわらず、債権者は契約を解除することができることとしました。
● 債務不履行があっても、それが契約及び取引上の社会通念に照らして「軽微」であるときは、債権者は契約を解除することができない。
… そもそも契約の解除は、債務不履行のために契約目的の達成に支障を来す債権者を救済する制度であるので、債務不履行が軽微なものにとどまる場合にまで契約関係を消滅させる必要性に乏しく、旧民法の下でも、判例は、不履行の部分がわずかである場合や付随的な義務の不履行の場合は、契約の解除を認めていませんでした。そこで、改正民法は、債務不履行が軽微であるときは、債権者は契約を解除できないことを明文化しました(541条但書)。
※ 債務不履行が「軽微」かどうかは、「その契約及び取引上の社会通念に照らして」判断されます。したがって、不履行部分が単に量的に少ないかだけではなく、不履行によって契約目的の達成に支 障があるか等も考慮されることになります。解除は必ずしも容易ではないという理解は必要です。
● 債務不履行があった場合、債権者としては、債務の履行を催告したうえで契約を解除するのが原則だ
が、催告をしないで契約を解除できる場合もある。
… 例えば売主が物件引渡の債務を履行しない場合、買主は、相当の期間を定めて物件を引き渡すように履行の催告をし、その期間内に履行がないことを確認したうえで契約を解除するのが原則です
(541条)。しかし、売主に催告して履行の機会を与えることが無意味な場合もあることから、改正
民法はこれを列挙して、無催告解除ができる場合を明確にしました(542条)。
※ ただし、実際の不動産取引においては、債務者が債務履行を拒絶する意思を明確に表示したと評価できるか、不履行のために契約目的を達することができなくなったと評価できるか、といった点については、判断や立証が困難な場合も少なくありません。
実務上は、債権者の立場となった場合、無催告解除は大きなリスクが伴うと認識して、あくまで催告解除を徹底しておくべきでしょう。
★ 違約解除に関する全宅連書式
(■)違約金の額(売買代金の %相当額)(第●条) | 円 |
(契約違反による解除)
第●条 売主又は買主は、相手方がこの契約に定める債務を履行しないとき、自己の債務の履行を提供し、
かつ、相当の期間を定めて催告したうえ、この契約を解除することができる。
2 前項の契約解除がなされた場合、売主又は買主は、相手方に標記の違約金(■)を請求することができる。ただし、債務の不履行がこの契約及び取引上の社会通念に照らして相手方の責めに帰することができない事由によるものであるときは、違約金の請求はできないものとする。
3 前項の違約金に関しては、現に生じた損害額の多寡を問わず、相手方に増減を請求することはできないものとする。
4 違約金の支払いは、次のとおり、遅滞なくこれを行う。
① 売主の債務不履行により買主が解除したときは、売主は、受領済の金員に違約金を付加した額を無利息で買主に支払う。
② 買主の債務不履行により売主が解除したときは、売主は、受領済の金員から違約金を控除した残額を無利息で買主に返還する。この場合において、違約金の額が支払済の金員を上回るときは、買主は、売主にその差額を支払うものとする。
5 買主が本物件の所有権移転登記を受け、又は本物件の引渡しを受けているときは、前項の支払い
を受けるのと引換えに、その登記の抹消登記手続き、又は本物件の返還をしなければならない。
6 本条の規定は、第▲条に定める契約不適合による契約の解除には適用されないものとする。
本書式1項に明記するとおり、売買契約の解除をするためには、相手方が債務の履行をしないときでも、まず自己の債務について「履行の提供」をしなければなりません。売買契約の当事者は、同時履行の抗弁権(民法533条)を有し、相手方の債務の履行(少なくとも提供)があるまで、自己の債務を履行しなくてもよいからです。
※ 決済日に相手方が債務を履行しないからといって、自らの債務の履行を提供しないまま、一方的
に解除通知を送付しても、その解除は無効となってしまうので、注意してください。
ⅱ 違約解除の前提②:履行の催告
本書式1項に明記するとおり、相手方が債務を履行しない場合に、売買契約を解除するためには、相当の期間を定めて履行を催告しなければならないのが原則です(民法541条)。
民法は、催告をせずに直ちに契約を解除することができる例外も定めていますが(民法542条)、実 務上はあくまで催告解除を徹底すべきことから、本書式では、無催告解除の規律について、排除はしないものの、契約条項としてはあえて記載していません。
ⅲ 軽微な債務不履行について
民法では、契約及び取引上の社会通念に照らして債務不履行が「軽微」であるときは、債権者は契約を解除できないとしています(民法541条但書)。ただし、不動産取引においてどの程度の債務不履行が「軽微」と評価されるかは判然としません。また、買主が代金の一部を支払わなかった場合に、それが少額であっても売主に解除の機会を与えるべきとする意見もあります。そこで、本書式では、債務不履行が「軽微」である場合に解除できないとする規律について、排除はしないものの、契約条項としてはあえて記載していません。
違約解除について、実務では違約金を定めることが一般的です(本書式2項)。これは賠償額の予定とされ、実損の大小にかかわらず、相手方に額の増減を請求できないのが原則です(本書式3項)。ただし、著しく不xxな場合に、裁判所が裁量で額を増減する可能性は残ります。
ⅴ 帰責事由について
債務不履行を理由とする損害賠償請求については、債務者に「帰責事由」があることが要件であることから(民法415条1項)、本書式2項但書では、相手方に帰責事由がなければ違約金を請求できないことを明記しています。
これに対して、債務不履行を理由とする解除については、改正民法が債務者の「帰責事由」を解除の要件から外したことから、解除について定める本書式1項では、帰責事由に関する但書はありません。
ⅵ 契約不適合による解除への不適用
本書式6項は、契約不適合による契約の解除には本条が適用されないことを明らかにしています。改正民法は、従来の「瑕疵担保責任」を「契約不適合責任」に改め、物件の引渡し後に欠陥が見つ
かったような場合も債務不履行=違約の状態であると考えます。そのため、契約書の違約解除の条項が契約不適合の場面においても適用される可能性があります。
しかし、全宅連書式では、売主が物件を引き渡さない、買主が代金を支払わないといった典型的な契約違反のケースと、引き渡した物件にたまたま欠陥があったという契約不適合のケースとでは、事態の性格が異なることから、従来の実務に沿って扱いを峻別すべきという立場から、後者のケースについては別に条項を設けることとし、本条を適用しないこととしています。
※ この点、他団体の書式では、違約解除の条項を契約不適合の場面でも適用しており、実務では両書
式が混在していますので、個々の取引で重説や対応を誤らないように注意してください。
【3】危険負担
(債務者の危険負担等)
第536条 当事者双方の責めに帰することができない事由によって債務を履行することができなくなったときは、債権者は、反対給付の履行を拒むことができる。
2 債権者の責めに帰すべき事由によって債務を履行することができなくなったときは、債権者は、反対給付の履行を拒むことができない。この場合において、債務者は、自己の債務を免れたことによって利益を得たときは、これを債権者に償還しなければならない。
債務(物件引渡)
×
?
債務者
(売主)
債権者
(買主)
反対給付債務(代金支払)
● 売主の債務が履行不能となったが、売主・買主双方に帰責事由がない場合、買主は、代金支払を拒絶してもよいし、売買契約を解除してもよい。
… 引渡し前に物件が火災・地震で滅失するなど、売主に帰責事由なく物件引渡しの債務が履行不能となった場合に、売主、買主どちらがその損失を負担するのか(買主の代金支払債務は消滅するのか)が「危険負担」の問題です。
改正民法では、債務が履行不能となった場合、債務者に帰責事由がなくても債権者は契約を解除できることになったため(541条)、債権者はこれにより反対給付債務を消滅させることができることから、双方に帰責事由がない場合の「危険負担」の制度を廃止することも検討されました。
ただ、債権者がわざわざ「解除」の意思表示をするのは実務上の負担が大きいことから、改正民法は、双方に帰責事由なく債務者の債務が履行不能となった場合、債権者は、契約を解除しなくても、反対給付債務の履行を拒むことができることにしました(反対給付債務の履行拒絶権)(536条)。
★ 危険負担に関する全宅連書式
(引渡し前の滅失・損傷)
第●条 本物件の引渡し前に、天災地変その他売主又は買主のいずれの責にも帰すことのできない事由に よって、本物件が滅失し売主がこれを引き渡すことができなくなったときは、買主は売買代金の支払いを拒むことができ、売主又は買主はこの契約を解除することができる。
2 本物件の引渡し前に、前項の事由によって本物件が損傷したときは、売主は、本物件を修補して買主に引渡すものとする。この場合、売主の誠実な修復行為によって引渡しが標記の期日(E)を超えても、買主は、売主に対し、その引渡し延期について異議を述べることはできない。
3 売主は、前項の修補が著しく困難なとき、又は過大な費用を要するときは、この契約を解除することができるものとし、買主は、本物件の損傷により契約の目的が達せられないときは、この契約を解除することができる。
4 第1項又は前項によってこの契約が解除された場合、売主は、受領済の金員を無利息で遅滞なく買主に返還しなければならない。
改正民法では、売主に帰責事由なくその債務が履行不能となった場合、買主は、もしも売主から代金を請求されてもこれを拒むことができるし(536条)、代金支払債務を確定的に消滅させたければ契約を解除してもよいという規律になりましたので(541条)、書式もこれに対応しました。
また、引渡し前に物件が滅失した場合、それについて売主・買主双方に帰責事由がないのであれば、売主からも契約を白紙解除できる方が余計な紛争を防止できてxxでもあることから、売主にも解除権を認めています。
【4】契約不適合責任[総論・書式]
⑴ 契約不適合責任・総論
ⅰ 契約不適合責任とは
契約不適合責任とは、「引渡された目的物が種類、品質又は数量に関して契約の内容に適合しないものであるとき」に、売主が負担する責任です(民法562条参照)。
ただし、全宅連書式では、xx業法の文言も踏まえて、「契約不適合」を「引渡された本物件が種類 又は品質に関してこの契約の内容に適合しないものであるとき」と定義しています。「数量」の不適合も問題となり得ますが、例えば土地の面積については公簿売買か実測売買かの取り決めで処理されるのが通常でしょう
ⅱ 「瑕疵」から「契約不適合」へ
旧民法では、物件の欠陥や不具合は「瑕疵」と呼ばれ、引渡された物件に「隠れた瑕疵」があった場合に、売主は「瑕疵担保責任」として損害賠償や解除の責任を負うとされていました。欠陥や不具合という意味では、「瑕疵」と「契約不適合」が大きく異なるわけではないとされています。
しかし、改正民法では、法律上の文言として「契約の内容に適合するか否か」が問題となるのですか ら、まさに当事者が「契約の内容」としてどのような品質を予定していたかが正面から問題となります。結局は、裁判所が「契約書」の記載においてどのような品質が予定されていたかを確認することは明ら かです。その意味で、契約書の記載内容が重視される傾向が強まっており、紛争予防のためには特約事項・容認事項の詳細化が避けられません。
瑕疵担保責任では、「隠れた」瑕疵であること=買主が契約時点で欠陥を知らないこと(善意無過 失)が要件とされていました。これに対して、契約不適合責任では、外形上明白な欠陥があったとしても、それを契約内容としてどのように解決するかが重要であるとして、買主の善意は要件から外され、買主が欠陥を知っていたとしても売主が責任を回避できるとは言い切れなくなりました。そのため、売主の立場に立った場合、物件の欠陥を単に特約欄に記載するのみではなく、欠陥のある状態が契約で予 定する物件の品質であることがわかるように、容認事項を明確化することが大切になります。
※ ただし、不動産売買の場合には、買主が契約不適合を知りながら売主に不適合責任を問えるとするのはあまりにも取引の安定を害し、実務が混乱することが予想されますので、全宅連の一般売主用の書式では、買主が契約不適合を知っている場合には、売主に責任を問えないことを契約条項に明記しました(後掲)。
ⅳ 契約不適合責任に基づく請求(買主の4つの救済手段)
民法は、不動産のような特定物の売買であっても、売主は、物件を単に現況で引渡すことを約束した のではなく、まともな物件を引き渡すことを約束したことは明らかだから、「契約の内容に適合した物 件」すなわち欠陥のない物件を引渡す契約上の債務を負うという考え方を前提に、引き渡した物件に欠 陥があるだけで売主は債務不履行=違約に陥るという規律を採用しました(契約責任説と呼ばれます)。
売主は契約上の債務として欠陥のない状態で物件を引渡さなければならないのですから、買主は売主に対し、①修補などの追完(民法562条)や、これに代わる②代金減額(民法563条)を請求することができます。また、欠陥のある状態で物件を引渡しても債務の履行を果たしたことにはならないため、買主は、債務不履行の一般原則どおりに、③損害賠償請求(民法415条)や➃契約解除(民法541・542 条)を求めることができます(民法564条)。
【一般売主用】
(■)契約不適合責任の通知期間(第●条)
買主から売主に対する契約不適合責任の通知期間 | 物件引渡し後 間 |
(契約不適合責任)
第●条 引渡された本物件が種類又は品質に関してこの契約の内容に適合しないものであるとき(以下
「契約不適合」という。)は、買主は、売主に対し、本物件の修補を請求することができる。この場合、売主又は買主は、相手方に対し、修補の方法に関し協議の申し入れをすることができる。
2 引渡された本物件に契約不適合があるときは、その契約不適合がこの契約及び取引上の社会通念に照らして売主の責めに帰することができない事由によるものであるときを除き、買主は、売主に対し、修補に代え、又は修補とともに損害賠償を請求することができる。
3 引渡された本物件に契約不適合があるときは、買主は、売主に対し、相当の期間を定めて本物件の修補を催告したうえ、この契約を解除することができる。ただし、その契約不適合によりこの契約を締結した目的が達せられないときに限り解除できるものとする。
4 買主が前項に基づきこの契約を解除し、買主に損害がある場合には、その契約不適合がこの契約及び取引上の社会通念に照らして売主の責めに帰することができない事由によるものであるときを除き、買主は、売主に対し損害賠償を請求することができる。この場合、標記の違約金(▲)の定めは適用されないものとする。
5 買主は、この契約を締結したときに本物件に契約不適合があることを知っていた場合、又は本物件の引渡し後標記(■)に定めた期間を経過するまでに売主に本物件に契約不適合がある旨を通知しなかった場合、売主に対して本条に定める権利を行使できないものとする。
● 本書式1項では、契約不適合がある場合に、買主は、売主に対し、物件の修補を請求することができることを定めています。実務上は紛争拡大の防止のために修補の方法について当事者が協議する機会があることが望ましいことから、その点も規定しています。
● 物件を修補することは、本来の債務の実現であるので、売主に帰責事由があることは要件ではあり ません。
● 買主の追完請求の方法として、改正民法は、①修補、②代替物の引渡し、③不足分の引渡しを列記しています。不動産売買においては、②・③の可能性もゼロではないですが、通常は①修補を請求することになるため、書式でも①修補のみを記載しています。
(買主の追完請求権)
第562条 引き渡された目的物が種類、品質又は数量に関して契約の内容に適合しないものであるときは、買主は、売主に対し、目的物の修補、代替物の引渡し又は不足分の引渡しによる履行の追完を請求することができる。ただし、売主は、買主に不相当な負担を課するものでないときは、買主が請求した方法と異なる方法による履行の追完をすることができる。
2 前項の不適合が買主の責めに帰すべき事由によるものであるときは、買主は、同項の規定による履行の追完
の請求をすることができない。
● 本書式2項では、契約不適合がある場合に、買主は、売主に対し、修補に代え、又は修補とともに損害賠償を請求できることを定めています。
● 債務不履行一般の規律として売主の帰責事由が要件となることから(415条1項但書)、これを明記しています。
● 従来の瑕疵担保責任では、損害賠償の範囲はいわゆる「信頼利益」(欠陥がないと信頼したことにより生じた損害)にとどまり、欠陥による物件の評価減や欠陥の修補・除去費用等が損害として認められる程度でした。
これに対して、契約不適合責任では、債務不履行の一般的規律がそのまま適用されることから、損害賠償の範囲は、転売予定があったときの差額利益など、「履行利益」(債務が履行されていれば得られた利益の損害)にまで及ぶ可能性があると考えられています。
(買主の損害賠償請求及び解除権の行使)
第564条 前二条(追完請求権・代金減額請求権)の規定は、第415条の規定による損害賠償の請求並びに第541条及び第542条の規定による解除権の行使を妨げない。
※ 他団体の書式では、契約不適合はあるものの解除に至るほどではない場合に、買主の救済手段を修補請求に限定して、損害賠償請求を認めないものがあります。実務では両書式が混在していますので、個々の取引で重説や対応を誤らないように注意してください。
● 本書式3項では、契約不適合がある場合に、買主は売買契約を解除できることや、その要件を定めています。
● 買主は売主に対して、解除の前に相当の期間を定めて「修補を催告」しておくことが必要であり
(民法541条参照)、書式でもこれを要件として明記しています。なお、民法上は修補の催告をしないで契約を解除できる場合も認められていますが(民法542条)、その要件をみたすかどうかの判断が現場では難しいことから、全宅連書式では無催告解除の規律を排除はしないものの、契約書の条項 としては記載していません。
● 一般売主用書式では、契約不適合を理由に契約を解除する場合には、その契約不適合により「この契約を締結した目的が達せられないこと」を要件とすることを明記しています。
旧民法では、瑕疵により「契約締結の目的が達せられない」場合でなければ契約を解除できないとしていましたが、現行民法はこの要件を削除しつつ、債務不履行解除一般の要件として契約不適合が
「軽微」な場合に限って契約を解除できないとしています(民法541条但書参照)。しかし、不動産取引、特に一般売主の場合には、買主が契約の目的を達成できるにもかかわらず契約を解除できるとすることは、取引の安定を害し、実務が混乱するとの判断から、本書式では目的不達成の要件を維持することとしたものです。
● 債務不履行解除一般の要件として債務者の帰責事由は不要となったことから、買主が契約不適合を理由に解除する場合も、売主の帰責事由は要件ではありません。
● 本書式4項では、買主が契約不適合を理由に契約を解除した場合も損害賠償を請求できること、ただし、解除と異なり、損害賠償請求については売主の帰責事由の存在が要件となることを明記しています(2項は買主が契約を解除せずに損害賠償を請求する場合を、4項は買主が契約を解除したうえで損害賠償を請求する場合を定めています)。
● また、ここでは、契約不適合を理由に契約を解除したことに伴う損害賠償請求については、標記の
違約金の定めの適用がないことを明らかにしています。
民法は、契約不適合を債務不履行(契約違反)と考えることから、契約違反による解除に伴う違約金の定めがある場合、契約不適合解除の場合もこの定めが適用される余地があります。しかし、従前の違約金の定めは、売主が物件を引き渡さない、買主が代金を支払わないといった場合のいわばペナルティとして定められていた面があり、このような典型的な契約違反のケースと、引渡した物件にたまたま契約不適合があったケースとでは、事態の性格が異なると考えられます。そして、従前の瑕疵担保責任では違約金の定めの適用がなかったことを踏まえると、契約不適合解除に伴う損害賠償請求について違約金の定めを適用することは実務を混乱させる恐れがあることから、全宅連書式では違約金の定めを適用しないことにしました。
したがって、契約不適合を理由に契約が解除された場合、本書式では、売主は、買主が発生や因果 関係を立証できた損害についてのみ賠償責任を負えば足ります。ただし、買主がこれらを立証できるのであれば、売主は違約金の定めの額を超える賠償責任を負う可能性もあります。
※ この点、他団体の書式では契約不適合解除に伴う損害賠償についても違約金の定めを適用しており、
実務では両書式が混在していますので、個々の取引で重説や対応を誤らないように注意してください。
ⅴ 契約不適合責任の制限①:買主が契約不適合があることを知っていた場合
● 本書式5項では、まず、買主がこの契約を締結したときに物件に契約不適合があることを知ってい た場合は、売主に対して契約不適合を理由とする権利を行使できないことを定めています。
現行民法では「隠れた」という要件が削除されたため、買主が契約不適合を知っていたときも売主は契約不適合責任を負う可能性がありますが、不動産取引、特に一般売主の場合には、買主が契約時に契約不適合を知っていたにもかかわらず売主が契約不適合責任を負担しなければならないとすることは、取引の安定を害し、実務が混乱することが予想されますので、全宅連書式では、買主が契約時に契約不適合を知っていた場合には売主に対して権利を行使できないという旧民法の規律を残しています。
ⅵ 契約不適合責任の制限②:通知期間を徒過した場合
● 本書式5項では、次に、買主が、物件の引渡し後、標記欄に定めた期間を経過するまでに売主に契 約不適合がある旨を通知しなかった場合は、売主に対して契約不適合を理由とする権利を行使できないことを定めています。
民法では、買主は、契約不適合を「知った時から1年以内」にその旨を通知しなければならないと定めており(民法566条本文)、逆に契約不適合を知るまでは、物件の引渡し後10年の消滅時効にかかるまでは権利行使する余地が残ります。しかし、買主が契約不適合を発見するまで長期にわたって売主の地位が不安定となることは不動産取引の安定性を害することから、全宅連の一般売主用書式では、この通知期間を物件の引渡し後から一定期間に限定する合意をすることを想定しています。
第566条 売主が種類又は品質に関して契約の内容に適合しない目的物を買主に引き渡した場合において、買主がその不適合を知った時から1年以内にその旨を売主に通知しないときは、買主は、その不適合を理由として、履行の追完の請求、代金の減額の請求、損害賠償の請求及び契約の解除をすることができない。ただし、売主が引渡しの時にその不適合を知り、又は重大な過失によって知らなかったときは、この限りでない。
● 買主が契約不適合がある旨を通知期間内(合意した期間または知った時から1年以内)に通知をしたとしても、消滅時効の進行が止まるわけではないことには注意を要します。
買主は、通知期間内に売主に上記の「通知」をしなければ権利行使できなくなりますが、仮に「通知」をして権利を一旦は保全しても、さらに、契約不適合を知ったときから5年、又は引渡しの時から10年を経過すると、買主の権利は時効により消滅します。買主がこれを回避するためには、時効期間が経過する前に時効対応(訴訟等の時効の完成猶予・更新の措置)をしなければなりません。
【参考】改正民法による債権の消滅時効
改正民法は、複雑だった消滅時効期間を整理し、原則として、
①債権者が権利を行使することができることを知った時から「5年間」
②権利を行使することができる時から「10年間」
で、債権は時効消滅するとしています(166条1項)。
なお、旧法で「時効の中断」と呼ばれていた時効の進行を止める事由(訴訟提起、債務承認等)は、改正民法では、「時効の完成猶予」及び「時効の更新」に整理されています。
(買主の代金減額請求権)
第563条 前条第1項本文に規定する場合において、買主が相当の期間を定めて履行の追完の催告をし、その期間内に履行の追完がないときは、買主は、その不適合の程度に応じて代金の減額を請求することができる。
2 前項の規定にかかわらず、次に掲げる場合には、買主は、同項の催告をすることなく、直ちに代金の減額を請求することができる。
一 履行の追完が不能であるとき。
二 売主が履行の追完を拒絶する意思を明確に表示したとき。
三 契約の性質又は当事者の意思表示により、特定の日時又は一定の期間内に履行をしなければ契約をした目的を達することができない場合において、売主が履行の追完をしないでその時期を経過したとき。
四 前三号に掲げる場合のほか、買主が前項の催告をしても履行の追完を受ける見込みがないことが明らかで
あるとき。
3 第1項の不適合が買主の責めに帰すべき事由によるものであるときは、買主は、前二項の規定による代金の減額の請求をすることができない。
● 改正民法では、契約不適合がある場合の買主の権利として、代金減額請求権を明文化しています。
● 契約不適合部分がある場合、本来の債務の内容が実現される方が望ましいことから、代金減額請求の前に修補を催告することが要件とされました。
ただし、修補が不可能であったり、売主が修補をしない意思を明確に表示したときなど、売主に修補の機会を与える必要がない場合には、買主は催告なしに代金減額を請求することができます(563条2項)。
● 代金減額請求権は修補請求に代わるものであるので、売主に帰責事由があることは要件ではありま せん。
● この「代金減額請求権」は、「取扱い注意の権利」であることに留意する必要があります。
代金減額請求権は「形成権」であるとされており、買主がこの権利を行使した場合、代金が減額さ れることと引換えに契約不適合は解消されてしまうため、その後は買主が支払うべき(あるいは売主が返還すべき)金額のみが問題となって、買主は修補・損害賠償・解除といった他の手段をとれなくなるというのが法務省の見解です(一問一答民法(債権関係)改正・279頁)。そのため、代金減額請求は、かえって買主に不測の損害を与える可能性もあります。
● 代金減額請求権については、上記のとおり取扱い注意の権利であって安易に行使することは危険であるうえに、具体的な減額の算定方法など実務の扱いも定まっていないことから、実務の混乱を避けるため、全宅連の一般売主用書式では、買主の代金減額請求権を排除はしないものの、契約書の条項 としてはあえて記載していません。
※ 全宅連の一般売主用書式では、買主の代金減額請求権を排除まではしていません。これに対して、他団体の書式では、これを明確に排除しているものもあります(契約書上は、買主は修補を請求できるだけで、代金減額や損害賠償といった金銭的解決は求められないとするもの)。実務では両書式が混在していますので、個々の取引で重説や対応を誤らないように注意してください。
【xx業者売主用】
(契約不適合責任)
第●条 [一般売主用書式1項と同じ(修補請求)]
2 [一般売主用書式2項と同じ(損害賠償請求)]
3 引渡された本物件に契約不適合があるときは、その契約不適合がこの契約及び取引上の社会通念に照らして軽微であるときを除き、買主は、売主に対し、相当の期間を定めて本物件の修補を催告したうえ、この契約を解除することができる。
4 [一般売主用書式4項と同じ(契約解除に伴う損害賠償請求)]
5 引渡された本物件に契約不適合があるときは、買主は、売主に対し、相当の期間を定めて本物件の修補を催告したうえ、損害賠償請求や契約解除によらずに、その契約不適合の程度に応じて代金の減額を請求することができる。
6 買主は、本物件の引渡し後2年を経過するまでに売主に本物件に契約不適合がある旨を通知しなかった場合、本条に定める権利を行使できないものとする。
宅地建物取引業法第40条 宅地建物取引業者は、自ら売主となる宅地又は建物の売買契約において、その目的物が種類又は品質に関して契約の内容に適合しない場合におけるその不適合を担保すべき責任に関し、民法(明 治二十九年法律第八十九号)第566条に規定する期間についてその目的物の引渡しの日から2年以 上となる特約をする場合を除き、同条に規定するものより買主に不利となる特約をしてはならない。
2 前項の規定に反する特約は、無効とする。
ⅰ xx業法40条
xx業法40条により、xx業者が自ら売主となる場合(買主は非xx業者の場合)には、契約不適合の通知期間を物件引渡しの日から2年以上とする特約を除いて、契約不適合責任の内容を民法より制限する特約は無効となると解されています(例えば、売主の義務を修補に限って、買主の代金減額請求、 損害賠償請求、契約解除を認めないといった特約は無効となります)。
ⅱ 契約の解除
本書式3項では、契約不適合がある場合に、買主は売買契約を解除できることや、その要件を定めています。
業法40条により、xx業者売主用書式では、一般売主用書式のように「この契約を締結した目的が達せられないこと」を解除の要件とすることはできません。ただ、債務不履行解除一般の要件として不履行が「軽微」である場合には解除できないとされていることから(民法541条但書)、契約不適合につ いても、それが「軽微」な場合には契約を解除できないことを明記しています。
本書式5項では、契約不適合がある場合の買主の代金減額請求権を定めています。xx業者売主用書式では、業法第40条の趣旨から買主の権利を明らかにしておくことが望ましいので、代金減額請求権を明記しています。
民法上、代金減額請求は事前に売主に対して履行の追完を催告したことが要件となっているため(民法563条)、本書式でも、相当の期間を定めて修補を催告したうえで、代金減額を請求できるとしています。
また、法務省の見解によれば、買主が代金減額請求権という形成権を行使した場合、代金が減額されることと引換えに契約不適合は解消されるため、その後に買主は損害賠償請求権や解除権の行使はできなくなることから、本書式でも、代金減額請求権は「損害賠償請求や契約解除によらずに」行使するも のであることを明示しています。
※ 他団体のxx業者売主用書式では、買主の代金減額請求権を認めつつ、上記法務省の見解とは異なって、売主が代金減額を遅滞した場合には、買主が債務不履行解除ができるとする規定を設けています。実務では両書式が混在していますので、個々の取引で重説や対応を誤らないように注意してください。
ⅳ 契約不適合の通知期間
本書式6項では、業法第40条に対応して、買主の売主に対する契約不適合の通知期間を物件引渡し後
2年としています。この期間を長くする特約は可能ですが、短くする特約は無効です。
【消費者契約用】
(契約不適合責任)
第●条 [1項~5項はxx業者売主用書式と同じ]
6 買主は、本物件の引渡し後1年を経過するまでに売主に本物件に契約不適合がある旨を通知しなかった場合、本条に定める権利を行使できないものとする。
消費者契約用書式では、消費者契約法の規制(後掲)があることを踏まえて、契約不適合責任については原則としてxx業者売主用の契約条項を援用しています。
ただし、買主の売主に対する契約不適合の通知期間については、売主がxx業者である場合とのバランスを考慮して、物件引渡し後1年としています。
【5】契約不適合責任[特約・容認事項]
⑴ 契約不適合責任に関する特約・容認事項の作成ポイント
ⅰ 瑕疵担保責任から契約不適合責任への転換
欠陥や不具合という意味では「瑕疵」と「契約不適合」が大きく異なるわけではないとされていますが、契約不適合責任では、法律上の文言として、物件の品質が「契約の内容に適合するか否か」が問題となる のですから、まさに当事者が「契約の内容」としてどのような品質を予定していたかが正面から問題とな ります。
→ 特約・容認事項の作成ポイント①:「契約書で物件の品質を定める」という視点を持つ。
ⅱ 「隠れたる」瑕疵の変更
「隠れた瑕疵」=「買主が契約時点で欠陥を知らないこと」という要件が、契約不適合責任では外されたため、買主が欠陥を知っていたというだけでは売主が責任を回避できるとは言い切れなくなりました。
→ 特約・容認事項の作成ポイント②:「欠陥・不具合のある状態をこの契約で予定する物件の品質にす
る」=「契約不適合を契約適合に転換する」という視点を持つ。
→ 単に告知するのではなく、買主がリスクを負う容認事項として明記することが重要。
ⅲ 契約不適合責任に関する各法令の特則の複雑化
契約不適合責任に関しては複数の法令が特則を定めていることに注意が必要です。
→ 特約・容認事項の作成ポイント③:常に「売主が誰か、買主が誰か」(さらに新築物件か中古物件か)に注意して、適用される法令を見極めて、それに特約・容認事項が抵触しないかを検討する。
事業者
消費者
商人
xx
業者
①xx業者(業法2条3号)= xx業法3条1項の免許を受けて宅地建物取引業を営む者
②商人(商法4条)= ①自己の名をもって商行為をすることを業とする者(固有の商人)+ ②店舗その他これに類似する設備によって物品を販売することを業とする者又は鉱業を営む者(擬制商人)
③事業者(消費者契約法2条2項)= ①法人その他の団体 + ②事業
として又は事業のために契約の当事者となる場合における個人
➃消費者(消費者契約法2条1項)= 個人。ただし、事業として又は事業のために契約の当事者となる場合における個人を除く。
ⅰ【宅地建物取引業法】:売主がxx業者、買主が非xx業者の場合
→ xx業法40条=買主の契約不適合の通知期間を引渡日から2年以上とする特約を除き、民法より買主に不利な特約は無効。
ⅱ【商法】:商人間売買(売主が商人、買主も商人の場合)
→ 商法526条=買主は受領後遅滞なく物件を検査する義務があり、契約不適合を発見したときは直ちに売主に通知しなければならず、直ちに発見できない場合でも6ヵ月以内に発見して直ちに通知しなければならない。これらの検査・通知義務を怠れば、買主は売主に権利行使できなくなる(ただし、売主が契約不適合を知っていた場合は除く)。特約は制約されていない。
ⅲ【消費者契約法】:消費者契約(売主が事業者、買主が消費者の場合)
→ 消費者契約法8条=売主の損害賠償義務を全部免除する特約は無効(同条1項1号)。
売主に故意又は重過失ある場合の損害賠償義務を一部免除する特約も無効(同条1項2号)。ただし、以下の場合には、損害賠償義務を免除する特約は有効。
①当該契約において、売主が追完(修補)義務または代金減額義務を負うとされている場合(同条
2項1号)。
②買主と売主の委託を受けた他の事業者との間の契約または売主と他の事業者との間の買主のためにする契約で、売買契約締結に先立って又はこれと同時に締結されたものにおいて、当該他の事業者が、損害賠償義務または追完(修補)義務を負うこととされている場合(同条2項2号)。
消費者契約法8条の2=買主による契約解除を認めない特約は無効。
消費者契約法10条=消費者の権利を制限し又は義務を加重する消費者契約の条項であって、民法の xxxに反して買主の利益を一方的に害するものは無効。
ⅳ【品確法】:新築物件の主要部分等(当事者が誰かは問わない)
→ 品確法95条=売主は物件引渡し時から10年間は、住宅の「構造耐力上主要な部分又は雨水の浸入を 防止する部分として政令で定めるもの」(主要部分等)の契約不適合(構造耐力又は雨水の浸入に影響のないものを除く)について、契約不適合責任を負う(同条1項)。これに反する特約で買主に不利なものは無効(同条2項)。
ただし、民法566条の契約不適合の通知期間の規律を排除するものではなく、買主は契約不適合を知った時から1年以内に売主に通知しなければ、引渡しから10年を経過しなくとも権利行使できなくなる。
ⅰ シンプルな文例
第●条(契約不適合責任)にかかわらず、売主は、買主に対し、本物件に関する契約不適合責任を負
わないものとする。
※ xx業者売主の契約や消費者契約では使えません。
ⅱ わかりやすい文例
第●条(契約不適合責任)にかかわらず、買主は、引渡された本物件が種類又は品質に関してこの契 約の内容に適合しない場合であっても、売主に対して、履行の追完請求、代金減額請求、損害賠償請求、
契約の解除、錯誤取消しその他一切の法的請求をすることができないものとする。
※ xx業者売主の契約や消費者契約では使えません。
ⅲ わかりやすい文例(現況有姿の文言を使用)
売主は買主に対し本物件を現況有姿にて引き渡すものとし、第●条(契約不適合責任)にかかわらず、買主は、引渡された本物件が種類又は品質に関してこの契約の内容に適合しない場合であっても、売主 に対して、履行の追完請求、代金減額請求、損害賠償請求、契約の解除、錯誤取消しその他一切の法的
請求をすることができないものとする。
※ xx業者売主の契約や消費者契約では使えません。
※ 「現況(現状)有姿」の文言のみでは、契約不適合責任を免責する趣旨までは通常含まないとされ
ています。この文言自体を使用することは構いませんが、その趣旨も明確に定める必要があります。
第●条(契約不適合責任)にかかわらず、売主は、本物件について一切の契約不適合責任(土壌汚染 対策法その他関係行政庁の定める基準を超える土壌汚染、産業廃棄物等地中障害物、油分およびアスベ スト等を含むが、これらに限られない)を負わないものとし、契約不適合が発見された場合であっても、買主は売主に対して、本物件の修補、代替物引渡し、不足分引渡し、代金減額及び損害賠償を請求する
こと、ならびに本契約の解除、取消しその他の民法が認める権利を行使できないものとする。
※ xx業者売主の契約や消費者契約では使えません。
【免責特約に関する注意点】
(ア)免責特約があっても、売主が知りながら買主に告げなかった契約不適合については、責任を免れることはできません(民法572条)。
→ 例えば、売主が雨漏りを知りながら、単純な免責特約を記載しても、雨漏りについては不適合責任を負ってしまいます。雨漏りがあることを買主が物件の品質として容認して購入するものである ことを明記する必要があります(文例は後述)。
(イ)適法な免責特約であっても、裁判所がその効力を制限することがあります。
→ 法律上は有効なはずの免責特約であっても、裁判所が、xx性や買主保護の観点から、免除特約の効力を否定したり、意思解釈によって一部の瑕疵に免除特約の効力を及ばせないといった判断をすることがあります。かかる事態を避けるためには、形式的に免責特約を記載するだけでなく、当 事者にその意味・効果を明確に認識・理解させることが大切です。
【参考判例】ガソリンスタンド跡地の売買において、瑕疵担保責任免除特約につき、地上に一部
が露出した埋設物について免責したにすぎないと認定した事例(札幌地判平成17.4.22)。
(ウ)欠陥や不具合の「可能性」を指摘しておく特約・容認事項の効力については議論があります。
→ すでに判明している欠陥・不具合は特約・容認事項に明記して対応すべきですが、まだ判明していない欠陥・不具合について、例えば「本物件には土壌汚染の存在する可能性があるが、買主はこれを容認して購入する」といった特約・容認事項の記載とすることで、売主が責任を回避できるかという問題があります。
すなわち、物件の品質を「土壌汚染があるかもしれない土地」とすることによって、そもそも
「契約不適合」には当たらないとする手法です。この手法が許されるならば、xx業者売主の契約や消費者契約でも、判明していない欠陥・不具合について責任を回避する余地が生じることになります。
この手法については、有効・無効の議論もありますが、私見としては、結局、この問題は、「当事者が予定していた品質としてどの程度の欠陥・不具合まで容認していたか」という認定の問題になり、ケースバイケースで判断されるものと考えています。とくにxx業者売主の契約や消費者契約では、売主が免責されるためには、欠陥・不具合のリスクが売買代金に適切に反映されていることがわかる事情(値引きが明らかである等)が強く求められるのではないでしょうか。
これらの(ア)、(イ)、(ウ)の注意点を考慮しながら、契約不適合については、
① 単純な免責特約で対応するか、
② 詳細な特約・容認事項の記載で対応するか、
③ きちんと物件の専門調査を実施して対応するか、
を取引ごとに慎重に判断する必要があります。
ⅰ 判明している不具合(例:雨漏り)を容認事項とする特約
本物件建物には複数箇所において雨漏りが発生しているが、買主はそれを容認して本物件を購入するものであり、雨漏りは契約不適合に該当せず、買主は売主に対し、契約不適合責任その他の法的請求を
しないものとする。
雨漏りがすでに判明しており、内覧時に位置や程度もそれなりに特定できているのであれば、上記特約の効力が認められます。ただし、雨漏りの位置や程度が特定されていなかったり、引渡し後に想定外の雨漏りが発生した場合には、物件の種類や規模によっては上記特約の効力が及ばないこともあり得ます。
ⅱ 中古物件の予測できる不具合を容認事項とする特約
本物件は築20年を経過しており、屋根等の躯体・基本的構造部分や水道管、下水道管、ガス管、ポンプ等の諸設備について相当の自然損耗・経年変化が認められる。買主はそれを容認して本契約書所定の 代金で本物件を購入するものである(それらの状況を種々考慮、協議して当初予定していた売買代金から金○○万円を値引きしたものである)。買主は、それぞれの設備等が引渡時に正常に稼働しているこ とを現地で確認したが、引渡後に自然損耗、経年変化による劣化・腐蝕等を原因として雨漏り、水漏れ、設備の故障等が生じたとしても、それらは契約不適合に該当するものではなく、買主の責任と費用で修
補するものとし、売主に法的請求・費用負担等を求めないものとする。
中古物件であるために、引渡し後、遠くない将来に生じることが容易に予測できる不具合について、かかる状態が契約で予定する品質であることを買主に容認させる特約です。
ⅰ 既存不適格建築物であることを容認事項とする特約
本物件建物は建築当時において適法に建築されたが、その後の法令改正等により現行の〇〇を満たしていないため、建替え時には同一規模の建物は建築できない可能性があるほか、増改築、大規模な修 繕・模様替え、用途変更をするときは、現行の法令に適合させる必要がある。買主はこの点を容認するものとし、売主に対し、追完請求、代金減額請求、解除、損害賠償請求、錯誤取消し等の法的請求をし
ないものとする。
建築当時は建築基準法等に適合していたが、その後の法令改正などにより現在の法令(建ぺい率、容積率、用途、高さ制限、(準)防火地域、耐震基準)には適合しない建物を「既存不適格建築物」といいます。建築時に適法であった建物ですから、違反という扱いをしないことになっていますが、増改築や再築の場合には、現在の法令を遵守しなければなりませんので、これを容認事項としています。
ⅱ 旧耐震基準時の建物であることを容認事項とする特約
買主は、本件建物は昭和56年5月31日以前に建築確認を取得した旧耐震基準時の建物であり、現在の耐震基準を満たしていない建物であることを容認して購入するものであり、売主に対し、現在の耐震基準を満たさないことを理由に、追完請求、代金減額請求、解除、損害賠償請求、錯誤取消し等の法的請
求をしないものとする。
旧耐震基準時建築の建物も既存不適格建物の一つであり、これを容認事項とする特約です。
ⅰ 判明している地中埋設物について、売主が撤去義務を負担する特約
売主は、本契約第●条の引渡し日までに、自己の責任と負担において、本物件土地に埋設されている
○○の撤去を完了するものとする。
ⅱ 判明している地中埋設物について、買主の容認事項とする特約
買主は、本物件土地に○○が埋設されていることを容認のうえ本物件を買い受けるものである。したがって、○○が埋設されていることは契約不適合には該当せず、買主は、売主に対し、追完請求、代金
減額請求、解除、損害賠償請求、錯誤取消し等の法的請求をしないものとする。
※ xx業者売主の契約や消費者契約では効力が認められない可能性があります。
ⅲ 土壌汚染・地中埋設物等について、専門家調査未了のまま買主の容認事項とする特約
買主は、本物件土地について土壌汚染、地中埋設物、軟弱地盤等(以下、これらを「土壌汚染等」と 総称する)に関するボーリング調査その他の専門家調査が未了であることを確認し、土壌汚染等が存在 したとしてもこれを容認して本物件土地を現況にて買い受ける。したがって、本物件土地引渡し後に土 壌汚染等の存在が判明したとしても、これは契約不適合には該当せず、買主は、売主に対し、追完請求、
代金減額請求、解除、損害賠償請求、錯誤取消し等の法的請求をしないものとする。
※ 土地売買では事前に専門家調査を入れることが望ましいですが、これをしない場合、単なる免責とせ
ず、専門家調査が未了であることを買主に明確に認識させることが大切です。
※ xx業者売主の契約や消費者契約での使用はなるべく避けた方がよいでしょう(買主が自らのリスクや金銭的負担を明確に認識しているとは評価しにくいケースが多いと思われるためです)。
ⅳ 契約後、物件引渡し前に専門家調査を実施しつつ、負担やリスクをコントロールする特約
1 本物件(土地)は○○年頃まで化学工場の敷地として使用されており、土壌汚染、産業廃棄物埋蔵
の可能性があるため、【□売主は・□買主は】本契約締結後速やかにこれを調査するものとする。
調査の結果、汚染・埋蔵が判明した場合、
□売主は、その責任と負担で、本物件引渡し時までにこれを除去する。
□本物件引渡し後、買主がこれを除去し、その除去費用は売主が負担する。
□売主は、本物件引渡し時までにこれを除去する。ただし、除去費用のうち○○○円までは【□売主が・□買主が】、それを超える費用は【□買主が・□売主が】負担する。
□本物件引渡し後、買主がこれを除去する。ただし、除去費用のうち○○○円までは【□売主が・
□買主が】、それを超える費用は【□買主が・□売主が】負担する。
2 前項にかかわらず、汚染・埋蔵が判明し、その除去に○〇〇○円以上の費用を要する場合は、売主又は買主は本契約を解除できるものとする。この場合、売主は受領済の金員を無利息で遅滞なく買主に返還し、売主及び買主は互いに損害賠償請求その他一切の法的請求をしないものとする。ただし、汚染・埋蔵の調査に要した費用は【□売主の・□買主の】負担とする。
土地売買では契約締結前に専門家調査を入れることが望ましいですが、やむを得ずこれを契約締結後、決済日前に実施する場合に、調査を実施する者や費用の負担について、あらかじめ約定する特約例です。上記の文例では□をチェックして選択するようになっていますが、実際には選択したものを印字すれば足ります。
2項は、除去費用が想定外の高額となる場合に白紙解除を認める特約です。
※ xx業者売主の契約や消費者契約では、買主側の費用負担とする約定は無効となる可能性があります。
ⅴ 物件引渡し後に専門家調査を実施することを前提に、代金の一部支払を留保する特約
1 本物件(土地)は○○年頃まで化学工場の敷地として使用されており、土壌汚染、産業廃棄物埋蔵
の可能性があるため、買主は、本契約第●条に定める残代金支払い時に、残代金○○○円の内、
△△△円(以下「留保金」という)の支払いを留保する。
2 買主は、売主に対し、○年○月○日限り、前項の留保金を支払うものとする。ただし、買主は、本物件の引渡し後、同日までに汚染・埋蔵について調査し、その除去を要することが判明した場合は、留保金からその除去費用(調査費用を含む。以下同じ)を控除して支払うものとする。
3 買主は、前項の調査で汚染・埋蔵が判明した場合、留保金を上限としてその除去費用を留保金から控除することができるのみとし、売主に対し、留保金額を超える損害賠償の請求、契約の解除その他一切の法的請求をしないものとする。
1項・2項は、物件引渡し後に買主が専門家調査を実施することを前提に、売買代金の一部の支払を猶予して、後日土壌汚染等が判明した場合には、その除去費用を留保金から差し引くことができるとする特約です。
3項は、売主の負担を留保金の額を上限とし、土壌汚染等についてそれ以上の法的責任を負わないことを明らかにする特約です。
※ xx業者売主の契約や消費者契約では、3項は無効となる可能性があります。
ⅵ 買主の購入目的に照らして、一定限度で地下埋設物の存在する可能性を容認する特約
本物件(土地)は○○年頃まで商業ビル用地として使用されており、同ビルを解体した際、売主は地下5mまでは基礎杭が取り除かれていることを現地確認したが、それ以下の地層に基礎杭が存在する可能性はある【①物件の履歴と危険性の告知】。
買主は、本物件を木造2階建て4棟のための分譲地とする目的で購入するものであり、地下5m以下に基礎杭が存在したとしても、これを容認して本物件を購入するものである【②買主の購入目的と、それを根拠とした危険性の容認】。
したがって、地下5m以下の地層に基礎杭が存在したとしても、同存在は契約不適合に該当するものでなく、買主は、売主に対し、追完請求、代金減額請求、解除、損害賠償請求、錯誤取消し等の法的請求をしないものとする【③契約不適合に該当しないことの確認】。
売主及び買主は、それらの状況を種々考慮、協議して、当初予定していた売買代金から金○○万円の
値引きがなされたことを確認する【④値引きの確認】
抽象的には物件の価値を下げる事情であっても、買主の購入目的を妨げないのであれば契約不適合には該当しない場合もあるので、それを合意内容として明記する特約です。
「買主の購入目的」は、契約不適合の該当性や軽微性を判断する重要な要素になります。これを明記することによって、上記のように、契約不適合となる不具合を限定する効果を得られることがあります。
ただし、購入目的を明記するということは、「その目的は絶対に達成できる物件でなければならない」
という意味では、売主や媒介業者に、より高度な調査・説明義務が求められることにも留意が必要です。
ⅰ 買主が建物を取り壊す予定であるため、建物・付帯設備に関して免責する特約
買主は本物件引渡し完了後、直ちに建物を取り壊すことを前提に本物件を購入するため、売主は、買主に対し、第●条(契約不適合)にかかわらず、建物及び付帯設備について契約不適合責任を負わないものとし、第▲条に定める物件状況確認書(告知書)の一部を未記入とし、第■条(付帯設備の引渡
し)に定める付帯設備表を交付しないものとする。
※ xx業者売主の契約や消費者契約では、免責部分は無効となる可能性があります。
ⅱ アスベスト使用の可能性のある建物を、買主が取り壊すことが予定されている場合の特約
買主は本物件引渡し後に実施する建物解体工事に際し、工事の請負業者が実施する石綿有無に関する事前調査に協力するものとし、事前調査に伴う費用について適正に負担することを了承する。また、調査の結果、石綿使用が判明した場合には通常の解体工事よりも費用が割高になるおそれがある他、解体工事の期間が長引くおそれがあることについて予め了承する。
したがって、これらの石綿に関する事項は契約不適合には該当せず、買主は、売主に対し、追完請求、
代金減額請求、解除、損害賠償請求、錯誤取消し等の法的請求をしないものとする。
建物の解体工事における規制対象外の建材からの石綿の飛散や、不適切な事前調査による石綿の見落としといった問題に対処するため、令和2年の大気汚染防止法や石綿障害予防規則の改正により、石綿関連の規制が強化されています。この規制強化は解体工事の費用の高額化や工期伸張に直結しており、今後、建物解体時に想定外の負担を強いられたとして、買主と売主・仲介業者との間でトラブルに発展することが懸念されています。上記特約は、この点につき買主にあらかじめ了承してもらう特約です。
ⅲ 売買契約締結後、物件引渡し前に、契約不適合が判明する可能性がある場合の免責特約
売主は買主に対し本物件を契約時の現況有姿にて引き渡すものとし、第●条(契約不適合責任)にかかわらず、買主は、引渡された本物件が種類又は品質に関してこの契約の内容に適合しない場合(本物 件引渡し前に契約不適合が発見された場合を含む)であっても、売主に対して、履行の追完請求、代金減額請求、損害賠償請求、契約の解除、錯誤取消しその他一切の法的請求をすることができないものと
する。
従前の瑕疵担保責任は、契約時を基準に瑕疵の有無を判断したため、免責特約も契約時に発見されていない瑕疵ならば効力が及びました。ところが、契約不適合責任は、債務不履行責任の一種とされたことから、引渡し時を基準に不適合の有無が判断され、免責特約は引渡し前に発見された不適合には効力が及ばないとされる可能性があります。売買契約締結後に売主が建物を解体して更地渡しをする場合や、売買契 約締結後に買主がボーリング調査をするために敷地内に決済前に立ち入ることを認める場合に、免責特約を入れるならば上記のような文例を用いることを検討すべきでしょう。
※ 宅建業者売主の契約や消費者契約では使えません。
ⅳ 建物の契約不適合を限定する特約
本物件建物は建築後相当年数を経過し老朽化が進んでいるため、第●条(契約不適合責任)にかかわらず、売主は、①雨漏り、②シロアリの害、③建築構造上主要な部位の木部の腐食、④給排水管(敷地
内埋設給排水管を含む)の故障を除き、建物に関して契約不適合責任を負わないものとする。
建物に関する契約不適合責任を、①~➃に関するものに限定する特約です。
ⅴ 建物の契約不適合を限定し、かつ、土地建物に関する契約不適合責任の種類を限定する特約
売主及び買主は、第●条(契約不適合責任)を、以下のとおり読み替えるものとする。
1 引渡された本物件が種類又は品質に関してこの契約の内容に適合しないものであるとき(以下「契約不適合」という。)は、買主は、売主に対し、本物件の修補を請求することができる。この場合、売主又は買主は、相手方に対し、修補の方法に関し協議の申し入れをすることができる。ただし、建 物については、①構造耐力上主要な部分の腐蝕、②雨水の侵入を防止する部分の雨漏り、③シロアリの害、④給排水管・排水桝の故障についてのみ、売主は買主に対して責任を負うものとする。
2 売主が買主に負う契約不適合責任の内容は前項の修補に限るものとし、買主はこの契約の無効、取消し、解除、代金減額請求又は損害賠償請求をすることはできないものとする。
3 前項にかかわらず、買主は、本物件の土地の契約不適合によりこの契約を締結した目的が達せられないときに限り、この契約を解除できるものとする。その場合、買主に損害がある場合には、契約不適合がこの契約及び取引上の社会通念に照らして売主の責めに帰することができない事由によるものであるときを除き、買主は、売主に対し損害賠償を請求することができる。この場合、標記の違約金
(■)の定めは適用されないものとする。
4 買主は、この契約を締結したときに本物件に契約不適合があることを知っていた場合、又は本物件の引渡し後標記(▲)に定めた期間を経過するまでに売主に本物件に契約不適合がある旨を通知しなかった場合、売主に対して本条に定める権利を行使できないものとする。
建物に関する契約不適合責任を、①~➃に関するものに限定し、かつ、責任の種類を修補に限るととも に、土地に関する契約不適合責任の種類も、修補と解除(解除に伴う損害賠償請求)に限定する特約です。
ⅵ 商人間売買で、買主の商法526条の検査・通知義務を排除する特約
本契約において、商法第526条の適用はないものとする。
商人間売買(売主が会社+買主も会社、売主が会社+買主が宅建業者など)では、商法526条に注意す
る必要があります。
商法526条により、買主は、①受領後遅滞なく物件を検査する義務があり、契約不適合を発見したときは直ちに売主に通知しなければなりません。②直ちに発見できない場合でも、6ヵ月以内に発見して直ちに通知しなければなりません。これらの検査・通知義務を怠れば、買主は売主に権利行使できなくなります(ただし、売主が契約不適合を知っていた場合は除きます)。
全宅連の書式を用いる場合、商人間売買では一般売主用書式を使うことになりますが、その場合、契約不適合責任については、標記の「通知期間 物件引渡し後 間」の欄に通知期間を記載するのが通常でしょう。ただ、その場合、商法526条の上記②の規律の特約にはなるものの、①の検査義務を当然に排除することになるかどうかははっきりしません。不動産については受領後すぐに検査するというのは現実的でない場合も多いので、上記特約文例を用いて、商法526条を排除し、商人間売買でも契約不適合責任については契約書の記載のみで対応することを明確にしてもよいでしょう。
【6】物件状況確認書・付帯設備表
⑴ 物件状況の告知に関する全宅連書式
(物件状況の告知)
第●条 売主は、本物件の状況について別添「物件状況確認書(告知書)」にて買主に告知するものとする。
ⅰ 全宅連では、①土地建物・土地用と、②区分所有建物用の2種類の物件状況確認書の書式を提供しています。
ⅱ 物件の状況・品質が買主の認識と一致せず、それが契約の内容に適合しないとなれば、売主は契約不 適合責任(民法562条以下)を負ったり、契約を取り消されるリスクを負います(民法95条の錯誤取消、消費者契約法4条の不実告知取消)。
物件状況確認書は、買主の保護になることはもちろん、売主にとっても告知の機会を与えられることで上記紛争を回避できるメリットがあります。また、仲介業者も、売主に告知させることで調査義務違反のリスクを軽減することができます。
※ 物件状況確認書は売主が作成するものであり、仲介業者が自らの目視・判断のみで記載することは想定していませんので、注意してください。
ⅲ もっとも、せっかく売主が物件状況確認書を提供しても、その記載に誤りがあれば、結局は上記の契約不適合責任その他の問題が生じます。特に売主が欠陥や不具合等を知りながら買主に告知しなかった場合は、契約不適合責任について免責特約があったとしても売主は責任を免れません(民法572条)。仲介業者は、売主に正確に記入するように促す必要があります。
ⅰ 一般売主用書式の付帯設備条項
【一般売主用】
(付帯設備の引渡し)
第●条 売主は、別添「付帯設備表(表1・表2)」のうち「有」と記したものを、本物件引渡しと同時に買主に引渡す。
2 売主は、前項の付帯設備の故障や不具合については、修補・損害賠償その他一切の責任を負わな
いものとする。
契約時に存在する付帯設備のうち、何を取り外し、何を残して買主に引き渡すかについて決めておかなければ、物件引渡し時にトラブルとなることから、1項では、「付帯設備表」を作成して引き渡される設備の範囲を明確にすることとしています。
付帯設備についても、売買契約の目的物の一部ではある以上、故障や不具合があれば契約不適合責任の問題が生じます。ただ、不動産取引においては、売買の主たる目的物は土地と建物本体であり、付帯設備は付録的なものと考えられ、また、中古の付帯設備について売主に契約不適合責任を負わせることは実務上適切でないことから、本書式では、2項で、売主の契約不適合責任の対象から付帯設備を除外することとしています。
※ 全宅連の付帯設備表では、「判明している故障・不具合の具体的内容」の欄を設けています。売主がこれを適切に作成せず、付帯設備の故障や不具合を知りながら告げなかった場合は、2項にかかわらず免責されませんので、注意して下さい(民法572条)。
【宅建業者売主用】
(付帯設備の引渡し)
第●条 売主は、別添「付帯設備表(表1・表2)」のうち「有」と記したものを、本物件引渡しと同時に買主に引渡す。
宅建業法40条は、宅建業者売主の場合、契約不適合責任について民法より買主に不利となる特約を原則禁止し、これに反する特約を無効としています。これは付帯設備の契約不適合にも適用されるため、宅建業者売主用の書式では、付帯設備の故障や不具合について売主を免責する条項は設けられていません。
ⅲ 消費者契約用書式の付帯設備条項
【消費者契約用】
(付帯設備の引渡し)
第●条 売主は、別添「付帯設備表(表1・表2)」のうち「有」と記したものを、本物件引渡しと同時に買主に引渡す。
2 前項の付帯設備の故障や不具合については、本物件の引渡し後30日を経過するまでに買主が売主にその旨を通知しなかった場合、売主は修補・損害賠償その他一切の責任を負わないものとする。
消費者契約では、契約不適合責任を全部免責したり、責任期間を極端に短期とすることはできません
(消費者契約法8条、8条の2、10条)。他方で、不動産取引において中古の付帯設備の故障や不具合に ついて長期にわたり紛争の余地を残すことは取引の安定を害することから、全宅連の消費者契約用書式 では、売主の責任を物件の引渡し後30日を経過するまでに買主が売主に通知したものに限定しています。
※ 他団体書式では、7日以内の通知で修補のみするものや、責任を負わないとするものもあります。
● 賃貸中の建物について付帯設備表の交付を省略する特約
本物件建物は現在第三者に賃貸中であるため、各室内部の状況および各室の付帯設備の有無・稼働状況を確認できないことを買主は了承し、 第●条(付帯設備の引渡し)の定めにかかわらず、売主から買主への付帯設備表の交付は行わず、売主は付帯設備の故障や不具合について修補・損害賠償その他一
切の責任を負わないものとする。
付帯設備表の交付を省略しつつ、設備の契約不適合責任を免責する特約です。契約不適合責任の免責を含みますので、宅建業者売主の契約や消費者契約ではそのままの形では使用しないでください。
● 付帯設備表で告知した故障・不具合や経年劣化について容認する特約
1 売主は、別紙「付帯設備表」の「設備の有無」欄に「有」と記載したものを、本物件の引渡しと同時に買主に引き渡すものとする。
2 買主は、本物件の設備について、別紙「付帯設備表」の「判明している故障・不具合の具体的内 容」及び「備考」欄に記載された設備に故障・不具合があること、並びに、経年劣化及び使用に伴う性能低下、傷、汚れ等があることを容認のうえ、本物件を買い受ける。
3 本物件の引渡し後に前項の事情に起因する設備の故障・不具合等が発生したとしても、売主は買主
に対し修補・損害賠償その他一切の責任を負わないものとする。
中古物件の設備については、判明している不具合以外にも、経年劣化・性能低下があることは避けられないことから、これを容認事項とする特約です。付帯設備表の書式自体に同旨の記載がありますが、特約事項欄に記載して買主に十分な理解を得ておくことが、トラブル防止の観点からは有用でしょう。
【1】重要事項説明に関する基本的留意点
⑴ 重要事項説明の誤りは、売買契約自体の効力に直結するようになった
従前は、媒介業者の重要事項説明に誤りがあっても、その説明をした業者の賠償責任や行政指導が問 題となるにとどまり、売買契約自体の効力に影響を与えることは少ないとの認識だったかもしれません。
しかし、消費者契約法(平成13年4月1日施行)は、事業者だけでなく、事業者から「消費者契約の締結について媒介することの委託を受けた第三者」が、不実告知・断定的判断の提供・不利益事実不告知
といった行為に及んだ場合も、消費者は契約そのものを取り消すことができるとしています(同法5条)。
さらに、改正民法(債権法)(令和2年4月1日施行)は、瑕疵担保責任を契約不適合責任に改め、
「物件の品質が契約の内容と適合しない」場合は売主に責任が生じるとしましたが、実は、重要事項説明書は当該物件の品質の説明書でもあるのです。そのため、重要事項説明書に誤りがあれば、それは契約不適合に直結して売主買主間のトラブルとなり、その誤りが軽微でなければ契約解除にすらなりかねません。
また、重要事項説明を誤れば、買主に何らかの誤解を与えることになりますが、それが重要なものであるときは、買主は契約を錯誤で取り消すこともあり得ます。さらに、改正民法(債権法)は、誤解したことについて買主に重大な過失があっても、売主も同じ錯誤に陥っていた場合には、買主は錯誤取消
しが可能だとしています(共通錯誤といいます。民法95条3項2号)。媒介業者が重要事項説明を誤れば、売主・買主双方が共通錯誤に陥る可能性も十分にあるでしょう。
→ 重要事項説明の誤りは、売買契約自体の効力に影響を与え、売主・買主双方の被害が拡大し、宅建
業者の責任もそれに伴って深刻化していくということに留意してください。
2
事例から学ぶ重要事項説明書の留意点
【トラブル事例】売主業者が、元付業者に重要事項説明を任せきりにしていたところ、その説明に誤りがあったために、買主から、他の業者と連帯責任を負うように求められた。売主業者は、元付業者と媒介契約を締結して報酬も払っている立場であり、重要事項説明義務を負わないと主張したが、かかる主張は認められなかった。
売主業者 | 元付業者 | アンコ業者 | 客付業者 | 買主 | ||||
上の図で、買主に対する重要事項説明の義務を負うのは誰かと言えば、宅建業者4名全員です。誰かに任せきりにしたとしても、説明内容に誤りがあれば、4名全員が連帯責任を負います。
元付業者の場合に、売主としか媒介契約を結んでいないからとか、買主から客付業者の説明があればよいという話があったからといった理由で、買主に対する重要事項説明を行わなかった(説明書に記名しなかった)というケースも散見されますが、これも誤りです。
⑶ 説明の相手方
【トラブル事例】媒介業者が、売主に内容を確認してもらえば容易に判明した事項について説明を誤った。
売買の代理・媒介において重要事項の説明をすべき相手方は、「買主となろうとする者」であり、宅建業者は売主に対する重要事項説明は義務付けられていません。
しかし、売主にも重要事項説明書の写しを交付して、その内容を確認してもらうことがトラブル予防の観点からは望ましいことから、多くの売買用の重要事項説明書には売主の署名欄も設けられています
(単に署名させるのではなく、売主に重説の中身をしっかり確認・認識してもらうことが大切です)。
【トラブル事例】媒介業者が、宅建業法35条に基づく重要事項説明を行い、売主買主間で売買契約が締結された。その後、物件の耐震性に大きな疑義があることを媒介業者は知ったが、これを買主に告げずに決済(物件引渡し)手続を終わらせたため、宅建業法47条違反に問われた。
宅建業者が説明すべき重要事項とは、宅建業法35条と同法47条に基づくものがあり、47条の規制は、
契約締結前に限らず、契約締結後も含む業務のあらゆる場面を対象としますので、注意が必要です。
(業務に関する禁止事項)
第47条 宅地建物取引業者は、その業務に関して、宅地建物取引業者の相手方等に対し、次に掲げる行為をしてはならない。
一 宅地若しくは建物の売買、交換若しくは貸借の契約の締結について勧誘をするに際し、又はその契約の申込み の撤回若しくは解除若しくは宅地建物取引業に関する取引により生じた債権の行使を妨げるため、次のいずれかに該当する事項について、故意に事実を告げず、又は不実のことを告げる行為
イ 第三十五条第一項各号又は第二項各号に掲げる事項ロ 第三十五条の二各号に掲げる事項
ハ 第三十七条第一項各号又は第二項各号(第一号を除く。)に掲げる事項
ニ イからハまでに掲げるもののほか、宅地若しくは建物の所在、規模、形質、現在若しくは将来の利用の制限、環境、交通等の利便、代金、借賃等の対価の額若しくは支払方法その他の取引条件又は当該宅地建物取引業者 若しくは取引の関係者の資力若しくは信用に関する事項であつて、宅地建物取引業者の相手方等の判断に重要 な影響を及ぼすこととなるもの
二 不当に高額の報酬を要求する行為
三 手付について貸付けその他信用の供与をすることにより契約の締結を誘引する行為
【2】売主の表示(相続登記未了物件)
【トラブル事例】相続登記未了の物件について、長男から売却の仲介の依頼があった。長男は、売却について次男・三男も異論はないと言うので、「相続人代表長男○○」との売主名で売買契約を締結させた。ところが、契約後に兄弟が遺産分割協議で揉め始め、次男や三男が売買決済に協力しないと言い出した。
● 相続登記未了物件は相続登記が完了してから売買契約を締結するのが大原則です。
● 相続登記未了物件について以下の対応がみられますが、大いにリスクがあるとお考えください。
①長男が、「相続人代表長男○○」との売主名で売買契約を締結する。
→ 契約時点で実際に次男・三男が反対していなかったとしても、遺産分割協議書の作成段階で兄弟間の紛争となるケースは珍しくありません。結局協議がまとまらなければ、決済のできない長男が違約となるだけでなく、媒介業者も権限確認が不十分として責任を負う可能性が高いと言えます。
②長男・次男・三男の全員が売主になる。
③次男・三男が長男に委任状を出す。
→ ②・③は理論上は可能ですが、決済前に揉め始めるリスクは残ります。また、他に相続人がいないかは事前に確認を要します(代襲相続人や、亡父の前妻との間の子の存在が、契約後に発覚することがあります)。遺言書で第三者に遺贈されているケースもあります。
➃遺産分割協議未了の段階で、長男への相続登記を条件として、長男名義で売買契約を締結する。
→ 理論上は可能ですが、遺産分割協議が進まないまま買主が不当に長く契約に拘束されたり、手付金を取り戻せないといったトラブルに発展することがあります。
● 例外的に、遺産分割協議書がすでに作成されていて、すぐに相続登記が可能である場合に、以下の特 約を付して契約することは可能でしょう(重説でも売主と登記名義が異なる理由を記載してください)。
本物件について相続登記は未了であるが、売主は、遺産分割協議により本物件の所有権を取得済みで
あり、本物件引渡しの時までにその責任と負担において相続登記を完了するものとする。
【参考】相続登記の申請義務化(令和6年4月1日施行)
■ 相続登記の申請義務
相続や遺贈により不動産を取得した相続人は、相続開始と所有権取得を知った日から3年以内に相続登記の申請をしなければならない。正当な理由なく申請を怠ったときは、10万円以下の過料に処する。
■ 相続人申告登記制度の創設
相続開始と自らがその相続人である旨を申告してする付記登記。単独で申告が可能であり、上記3年以内にこの申告をすれば、相続登記の申請義務を履行したものとみなされる。
※ この申告をした相続人は、登記簿上では「申告相続人」との表記で付記登記がなされるようです。
第三者に売却等で移転登記をするためには、正式な相続登記が必要となることに注意してください。
■ 経過措置
改正法施行日より前に相続が開始していた相続登記未了の不動産についても、改正法施行日から3年以内に、相続登記の申請or相続人申告登記の申出をしなければならない。
■ 遺産分割成立時の追加的登記申請義務
遺産分割により法定相続分を超えて所有権を取得した者は、遺産分割成立日から3年以内に、その内容を踏まえた相続登記の申請をしなければならない。
【3】土地に関する測量図
【トラブル事例】売買契約のときには確定測量図はなかったが、買主がこれを希望したことから、売主が物件引渡しまでにこれを作成して交付することとし、仲介業者も重説でその旨説明した。しかし、契約後に隣地所有者の協力が得られず、確定測量図を交付できなかったため、買主は売主の違約であるとして契約を解除し、手付金の返還や違約金の支払いを請求した。
⑴ 「土地に関する測量図」の説明
ⅰ 「境界が確定している」と言えるのは「確定測量図」がある場合のみであり、隣接するすべての土地 の境界について隣地所有者立会いのもとに境界確認を行い、これに基づき測量図の署名・押印(実印) がなされている必要があります。官有地に接する場合は、官民査定手続も経ている必要があります(要 件を欠く「現況測量図」に「確定測量図」との表示がなされた図面がありますので、注意して下さい)。
ⅱ 「現況測量図」に基づく境界の明示で済ませるケースも多いですが、手間はかからない反面、境界が確定しているとはいえないので、将来境界紛争が起こる可能性があること、また分筆、地積更正をなし得ない場合があること等を、予め当事者に十分説明してください。
ⅲ 「地積測量図」は、分筆登記等の際に添付される測量図で、登記所に申請書類として保管されるものです。平成17年に残地求積が義務づけられたものの、過去のほとんどの地積測量図は精度が低いとされています。これによる境界明示については、買主の購入目的や分筆等の予定に合わせて、土地家屋調査士に相談するなどして慎重に判断してください。
ⅳ 裁判所は、仲介業者には、売買対象土地の範囲が不明確な場合には境界を明示して買主の損害発生を未然に防止し、境界が明らかでなければその旨を買主に説明する義務があるとしていますので、全宅連の重説書式や売買書式では、売主から交付される測量図の種類を明示する形としています。
売買契約時に確定測量図が作成済みであることが理想ですが、実際には、契約締結後・引渡し時までに売主の責任でこれを作成・交付することを約束するケースが多くあります。
ただ、その場合、隣地所有者の協力が得られないなどの理由で、確定測量図を作成・交付できない可能性があり、実際に交付できなければ売主の違約となるためトラブルとなります(名古屋高判令和
元.8.30は、売主が確定測量図を交付できないというだけで、買主の契約解除を認めています)。
そこで、契約締結後に確定測量図を作成する場合には、以下のような特約事項で対応すべきでしょう。
【確定測量図を交付できない場合に契約を当然に白紙解除とする特約】
1 売主は、その責任と負担において、本件土地引渡し時までに、隣接地所有者立会いにより承認された確定測量図を作成し、買主に交付するものとする。
2 本件土地引渡し時までに、隣地所有者の協力が得られない等、売主の責めに帰すことのできない事由により売主が確定測量図を買主に交付できない場合には、本契約は当然に白紙解除となる。その場合、売主は、受領済の金員を無利息で遅滞なく買主に返還し、買主は売主に対し損害賠償等の請求をしないものとする。
【確定測量図を交付できない場合に一旦は決済日を延期できるとする特約】
1 売主は、その責任と負担において、本件土地引渡し時までに、隣接地所有者立会いにより承認された確定測量図を作成し、買主に交付するものとする。
2 本件土地引渡し時までに、隣地所有者の協力が得られない等、売主の責めに帰すことのできない事由により売主が確定測量図を買主に交付できない場合には、売主及び買主は、協議のうえ、本件土地引渡し及び代金支払の期日(決済日)を延長することができるものとする。延長期間については、別途覚書を締結して定めるものとする。
3 決済日までに前項の覚書締結に至らない場合、又は、覚書で定めた延長期間内に前項と同様の事由により売主が買主に確定測量図を交付できない場合には、売主及び買主は、本契約を白紙解約できるものとする。その場合、売主は、受領済の金員を無利息で遅滞なく買主に返還し、買主は売主に対し損害賠償等の請求をしないものとする。
【4】法令に基づく制限等
⑴ 市街化調整区域内の土地建物の売買に関するトラブル
【トラブル事例】市街化調整区域内の既存戸建物件を、賃貸(収益)目的で購入したいという買主がいたため、宅建業者がその売買を仲介した。ところが、その後、買主は役所から同物件の賃貸を中止するように求められたことから、仲介した宅建業者との間でトラブルとなった。
● 市街化調整区域は「市街化を抑制すべき区域」とされ、原則として建築物を建築できません。開発行為はもちろん、開発行為を伴わない建築行為でも許可が必要です(都市計画法29条又は43条)。更地売買の場合は「原則として建築できない」旨を明確に説明する必要があります。
● 気をつけなければいけないのは、市街化調整区域ですでに建物が建築されている場合です。
・ そもそも許可を得ていない違法建築物の可能性があります。無許可でも建物が建ってしまえば「建
物登記」はなされてしまいますので、登記があるというだけで適法ということにはなりません。
・ 許可を得ている建築物であっても、具体的な利用制限を必ず確認する必要があります。利用制限は、新築だけでなく、増改築や用途変更まで対象になります。
・ 許可基準には、属人性のあるものとないものがあることにも注意が必要です。もし属人性のある許
可基準に基づく建築物であれば、その建物は原則として他人に賃貸することはできません。
→ 上記トラブル事例で、例えば「申請者の自己居住用の住宅」が許可の条件になっていれば、「申請者の」という属人性から買主が建物を利用することができませんし、仮に属人性がなくても、「自己居住用の住宅」という利用制限から、買主が建物を賃貸したり店舗・事務所として利用することができません。
仲介業者としては、必ず都市計画の担当部署で、具体的な利用制限や承継制限を確認してください。
⑵ 建物1階の店舗スペースが駐車場(ピロティ)を改造したものであった場合のトラブル
【トラブル事例】5階建ての収益物件を買主業者が購入した。ところが、1階店舗スペースが、建築確認済証や検査済証の交付時点では駐車場(ピロティ)であった部分を、後日に改造したものであることが判明したため、買主業者が、仲介業者に対して説明義務違反を理由に損害賠償を請求した。
● 1階を駐車場にして容積率を計算して建築確認を申請した後、収益性を上げるために駐車場に外壁を設けて事務所や店舗・倉庫に改造した物件が少なくありません。用途違反となるため店舗等が入居できない(いったん入居しても退去せざるを得ない)、改装工事ができない、容積率等の違反となるため用途変更もできないといった問題が発覚すると、大きなトラブルとなります。
● 上記事例で、東京地裁令和2年2月18日判決は、「建ぺい率及び容積率違反の有無は、本件建物が違法建築物であるか否かを左右する要素である」し、「建築確認申請の状況や本件建物の概況は、その後の利用形態等にも重大な影響を与える事項である」から、買主にとってこれらは重要な事項であるとしました。そして、仲介業者が、1階が駐車場として建築確認等を受けていることを説明せず、本件建物の図面も交付していなかったことから、仲介業者には説明義務違反の債務不履行があるとしました。
本事案では、買主も宅建業者であり、契約書に記載された土地面積や床面積から計算上は容積率違反に気づける可能性もあったのですが、裁判所は、説明義務違反を重視して仲介業者に損害賠償を命じました。
● これに対して、同様の問題を扱った東京地裁令和2年10月23日判決は、買主が宅建業者や宅建士の助言を得られる立場にあり、特約には「竣工図によると1階の用途は事務所・駐車場となっている」旨の記載があり、買主に提供された竣工図には容積率の計算過程も記載されていたという事案において、仲介業者の説明義務は果たされているとして、買主の仲介業者に対する損害賠償請求を棄却しています。
● なお、そもそも用途制限に違反する建物利用を前提に売買や賃貸をすることは避けるべきであり、説
明義務を尽くせば足りる問題ではないことに留意してください。
【5】取引条件に関する事項
⑴ 外国人オーナーからの物件購入と所得税の源泉徴収
【トラブル事例】外国人オーナーから日本の物件を購入した買主は、代金全額を売主に支払ったが、後日、税務署から所得税を源泉徴収すべき義務があったことを指摘され、やむを得ずこれを支払った。買主は、売買の仲介業者に対して、源泉徴収義務に関する説明を怠ったとして損害賠償を請求した。
売主が日本に1年以上居住していない「非居住者」である場合、買主は売買代金から所得税等を源泉徴収しなければなりません(買主が自宅敷地を1億円以下で購入した場合等は除く)。買主がこの源泉徴収義務を知らずに売主に代金全額を支払ってしまい、その後に税務署への二重払いを強いられるためにトラブルとなることがあります。
宅建業者はこの源泉徴収義務について説明義務を負わないとする裁判例はありますが(東京地判平成
22.10.18)、以下の特約例を契約書や重説に記載するなどして慎重に対応してください。
【売主が日本に居住しない場合の買主の源泉徴収義務に関する特約】
1 売主及び買主は、売主が所得税法に定める非居住者(または外国法人)に該当することから、所得税法及び復興財源確保法に基づき、標記(B1)の売買代金(ただし、建物にかかる消費税等相当額を除いた金額。以下同じ。)の10.21%相当額である金○○○,○○○円を、買主が売買代金から源泉徴収することを確認する。
2 買主は、標記(B2)の手付金から源泉徴収額金○○,○○○円を、標記(B4)の残代金から源泉徴収額金○○○,○○○円を、それぞれ控除して売主に支払う。
3 買主は、前項により源泉徴収した金員を、所得税法等所定の期日までに税務署に申告納付する。
⑵ 賃貸中の建物の売買(オーナーチェンジ)における敷金(保証金)の扱い
【トラブル事例】収益マンションを賃借権の負担付きのまま購入した買主は、売買決済日に、売主に対して、入居者から預かっている敷金を自分に引き渡すように求めたが、売主はその旨の記載が契約書にはないとして、敷金の引渡しを拒否した。
いわゆるオーナーチェンジの場合、買主は、賃貸人の地位と共に、敷金返還債務も当然に承継します
(民法605条の2・4項)。
しかしながら、賃借人に対して買主が敷金の返還義務を負うことと、売主から買主に預かり敷金を交 付すべきかとは、全くの別問題であり、売買契約書に特約がなければ、買主が売主に預かり敷金の交付を求める法的根拠はないと言われています。
オーナーチェンジの場合の敷金や保証金の扱いは、契約書や重説に明確に定めておく必要があります。
【特約例①】買主は賃貸人の地位承継に伴い各賃借人に対する敷金返還債務を承継するものとし、売主は、第■条に定める残代金支払時に、各賃借人から預かり保管中の敷金の合計額○○○円を買主に支
払う。
【特約例②】買主は、賃貸人の地位承継に伴い各賃借人に対する敷金返還債務を承継するものとし、第
■条に定める残代金支払時に、売主が各賃借人から預かり保管中の敷金の合計額○○○円を残代金から相殺して売主に支払う。
【特約例③】買主は、賃貸人の地位承継に伴い各賃借人に対する敷金返還債務(預かり敷金合計額
○○○円)を買主が承継することを前提に標記の売買代金額で本物件を購入したものであり、売買代金とは別に預かり敷金の授受をしないことを確認した。
【6】人の死に関する告知
【トラブル事例】約15年前に自殺があった建物について、宅建業者がそれを告知せずに売買を仲介した。後日、その自殺は近所の人間の記憶には残っていたため、買主が知るところとなり、宅建業者の告知義務違反であると行政や裁判所に訴えた。
いわゆる「心理的瑕疵」の扱いについては、国土交通省が令和3年10月に公表した「宅地建物取引業者に
よる人の死の告知に関するガイドライン」が参考になります。
「宅地建物取引業者による人の死の告知に関するガイドライン」
ⅰ 適用される不動産 → 居住用不動産
ⅱ 調査方法 → 通常の情報収集の過程で認識した場合に告知。告知書の活用が有効。特段の事情がなけれ
ば、聞き込みやインターネットサイトの調査などの自発的な調査は不要。
ⅲ 売買取引における告知の要否
① 告知しなくてもよい場合
イ 対象不動産において、自然死又は日常生活の中での不慮の死(転倒事故、誤嚥など)が発生した場合 ※例外:死体放置により特殊清掃や大規模リフォームが行われた場合
ロ 対象不動産の隣接住戸又は買主が日常生活において通常使用しない集合住宅の共用部分において、
イ以外の死(自殺等)が発生した場合又はイの死が発生して特殊清掃等が行われた場合
※ 賃貸借取引の「3年」のように、経過期間のみで告知不要とする扱いは想定されていません。
② 上記①イ・ロ以外の場合(グレーゾーン)は、宅建業者は、取引の相手方等の判断に重要な影響を及ぼすと考えられる場合は告知する。
③ 上記①・②にかかわらず、(a)買主から事案の有無について問われた場合や、(b)その社会的影響の大きさから買主において把握しておくべき特段の事情があると認識した場合等には、告知する。
・ ①発生時期(特殊清掃等が行われた場合には発覚時期)、②場所、③死因(自然死・他殺・自死・事故死等の別。不明である場合にはその旨)、➃特殊清掃等が行われた場合にはその旨、を告げる。
・ 死亡者・遺族等の名誉・生活の平穏に配慮し、氏名、年齢、住所、家族構成や、具体的な死の態様、発見状況等を告げる必要はない 。
・ 売主等に照会した内容をそのまま告げれば足り、不明との回答や無回答の場合にはその旨を告げる。
● このガイドラインはあくまで宅建業者の宅建業法上の義務の解釈基準です。民事上の「契約不適合」や「損害賠償請求」については、このガイドラインを一応の基準としつつ、最終的には個別事情を考慮して慎重に判断する必要があります。
● 売買取引では、賃貸借取引の「3年」のように、経過期間のみで告知不要とする扱いにはなりませんでした。そうすると、トラブル事例にある「15年前の自殺」の告知の要否は、グレーゾーンとなり、個別事情で結論が異なることになります。ただ、仲介業者がすべての個別事情を正確に把握できるわけでもないため、予防法務としては告知しておくのが無難だということになってしまいます。
なお、裁判所は、「近所の人間の記憶に残っている」という点は重視する傾向にあると言ってよいでしょう。
● ガイドラインが示す「告知方法」を参考にすると、特約や重説には以下のように記載することが考えられます。
売主によれば、〇年〇月頃、本物件建物1階和室で住人の自殺が発見され、特殊清掃を行ったとのことである。以上の点について、買主は告知を受けてこれを容認し、契約不適合に該当しないことを予め了承した。
深沢綜合法律事務所 弁護士 大川隆之