The new contract method of health checkup business
[ 解説]
定期健康診断③務の外部委託化と契約
The new contract method of health checkup business
xx xx* xx x*
xx保健研究,33( 1 ),153 - 157,2015
要旨:健康診断にかかる人件費や採用と支払に関する事務的作業量の増加,臨時職員教育が徹底しない問題,法規上のリスク,義塾での有期労働契約の取り決め等を根拠とし,2014 年から業務の見直しを図り,2015 年度から学生定期健康診断の外部委託化を推進した。健診担当者にとっては,業務仕様書や契約書作成,外部委託業者との交渉は不慣れで当惑することも多いと考えるが,これらコンプライアンスの整理と遵守は,予算も含め,業務整理することにつながり,担当者の管理リスクを守るものであると考える。そこで今回,健康診断業務に関わる教職員向けに,業務委託,契約の種類,性能発注型請負契約や業務仕様書の基本を概説した。
keywords:定期健康診断,業務委託,支払金額算定,性能発注型請負契約
Health checkup,outsourcing,payment,performance ordering-type contract
はじめに
当大学の学生定期健康診断は,従来,大学直雇用の臨時職員を採用し,保健管理センタースタッフが健診物品やシステムを準備して行う形式の作業請負型の委託がほとんどであり,受託者による臨機応変な人員増強や,さまざまな工夫を引き出す仕組みは見当たらなかった。これらの要因は,当センターでの臨時職員の採用から,内部で業務のすべてを決定して臨時職員へ教育し,指示通りに健診業務を行わせる委託スタイルが過去何十年も行われてきたためであった。しかし,近年の人件費や採用と支払に関する事務的作業量の増加,臨時職員教育が徹底しない問題,義塾での有期労働契約の取り決め等を根拠とし,2014 年から業務の見直しを図り, 2015 年度から学生定期健康診断の外部委託化を推進した。
これらの改革にあたっては,当センタースタッフ個々が委託に関する知識を持ち,外部委託化業務のリーダーとなり,性能発注型の健診業務スタイルへパラダイムシフトすることが必須であった。多くの健診担当者にとって委託契約にかかる業者とのやり取りや法務関連業務は初めてであり,現在も業務改革の途上にある。保健管理関連の会議や集会での情報交換か ら,これら諸問題は,大学や学校,職場の健診業務部署においても同様の問題が生じている現状がうかがえる。そのため今回,健康診断における雇用の考え方と外部委託契約についての解
説を行う。
1 .業務委託,臨時職員雇用についての考え方パートタイム労働者について,厚生労働省 は「 1 週間の所定労働時間が同一の事業所に雇用される通常の労働者の 1 週間の所定労働
*慶應義塾大学保健管理センター
(著者連絡先)xx xx x000 - 0000 xxxxxxxxxxxx 0 - 0 - 0
定期健康診断業務の外部委託化と契約
時間に比べて短い労働者」と定義している。短時間労働者の雇用管理の改善等に関する法律の一部を改正する法律 1)による「パートタイム労働者の処遇及び労働条件等について考慮すべき事項に関する指針」では,労働者への労働時間への配慮,期間を定めての労働契約( 1 年を超える期間を定めて雇用契約を結ぶことはできない),社会保険の適応,短時間雇用管理者の選任等について記されている。当大学の人事規定では,アルバイトの雇用期間は原則として 3 年を上限,職務の特殊性・後任採用が困難である等の事情がある場合に限り,3 年を越える任用を可とする場合があるが,その場合でも継続する雇用期間は 5 年を上限としている。たとえ短期契約であっても業務に慣れている者に委託したいというスタッフの要望は理解できるが,5 年を超える臨時職員の雇用については委託する業務内容を含め,見直しを行う必要がある。
一方,業務委託の場合,発注者と受注者の契約は生じるが,業務従事者個人と発注者の雇用関係は発生しない。
2 .健康診断業務の外部委託に関する契約の種類大きく分けると,準委任契約,請負契約の
2 種類がある。いずれの契約方式を採用するのかは,プロジェクトの性質や委託先との交渉による。
( 1 )準委任契約
法律行為ではない事務の委託をする契約である(民法656 条)2 )。契約で合意した内容の業務を行うことは約束するが成果物の完成は約束しない。発注者が期間を定めて何かを依頼し,その期間あることをして,受託者が報告をすることが原則である。
( 2 )請負契約
受託者が相手方に対し仕事の完成を約束し,発注者がこの仕事の完成に対する報酬を支払うことを約束する契約である(民法 632 条)2 )。受託者は仕事の完成義務を負うが,発注者が主体となって実施する工程
についてまで,完成義務を負うという方式は,受託者の立場からは受け入れることが困難である。大規模なシステム開発や業務においては,各工程毎に準委任契約と請負契約を使いわける多段階契約方式が採用されることもある。
3 .当センターおける健康診断委託業務の経緯従来,当センターにおける健康診断委託業 務は,健康診断業務を行ってもらう準委任契約の形式と,健康診断結果を成果物として納品してもらう請負契約の形式が混在していた。どちらの場合も,発注者が方法や手順を指示するだけで業務要求水準を明確に提示せずにいたため,受託者に対して業務の性能や
責任の所在を問うことが難しかった。また,形式的には請負契約や準委託契約であっても,実態としては労働者派遣と解釈される問題もあった(偽装請負;労働者派遣法 3 ),職業安定法 4 )の労働者供給事業の禁止)。
これらを改善するために,2015 年度健康診断の契約は,「性能発注型の請負契約方式」を採用した(図 1 )。発注者は,業務仕様書を作成し,これを達成するために,受託者は実施計画書および業務従事者向けの運用マニュアルを起案する。委託者は,これら過程におけるリハーサル,オリエンテーションの立ち合い・助言を行う。一連の評価は成果物の納品だけでなく,健康診断当日のモニタリングを実施し,対価としての業務連動支払を約束するものである。
4 .業務仕様書の作成
発注者が受託者に要求する事項については,業務仕様書を契約書に添付し,契約書の条項で,「請負する業務○○については,○年○月○日付の業務仕様書に記載のとおりとする」などの文言を入れておく必要がある。これらの内容については,何度か折衝して明確化,明文化した(表 1 )。
この作業については,健診担当である保健師が委託者に求めたい業務のすべての洗い出
慶應保健研究(第33 巻第 1 号,2015)
発注者
受託者
参考資料の提示
承認
実施計画書
スケジュール、設備配置、人員配置、指揮命令系統、緊急時対応方法 等
立ち合い・助言等
立ち合い・助言等
モニタリング支払い
当日業務実施等
オリエンテーション
リハーサル
業務仕様
機能要求、効率性要求
業務分担表業務管理分担x x
図 1 性能発注型の請負契約方式
表 1 委託業務の仕様として明示した項目
機能要求 | |
( 1 )健診前準備 | ※それぞれについて受託者の責任と発注側の責任を明記 |
( 2 )データの貸与およびシステム利用について | 同上(以下同じ) |
( 3 )電源設営,ネットワーク設営 | |
( 4 ) IDSTシステムの利用 | |
( 5 )設営,利用許可施設 | |
( 6 )手洗い場の利用 | |
( 7 )会場内飲食について | |
( 8 )施錠,xx | |
( 9 )掲示物,誘導補助の準備 | |
(10)取扱い帳票類の準備 | |
(11)物品の準備 | |
(12)検査機器の準備,返却 | |
(13)荒天時の対応 | |
(14)地震等災害時の対応 | |
(15)健診会場レイアウト | |
(16)人員,従業者の確保 | |
(17)従業者教育,技術基準 | |
(18)従業者の健康管理,感染対策 | |
(19)健診期間中の労務管理 | |
(20)清掃,環境整備,衛生管理 | |
(21)健康診断未受診者,再検査者等後日検査について | |
(22)医療廃棄物の取り扱い | |
(23)納品 | |
効率性要求 | |
( 1 )健診前打ち合わせ | 3 か月間の協議。1 週間前までに準備完了。 |
( 2 )健診前オリエンテーション | 当日20分前には終了 |
( 3 )緊急時の連絡方法 | 突発の欠勤があったとしても,健康診断開始10分前に配置完了 |
( 4 )健康診断にかかるモニタリングと業務改善 | 学生 1 名あたりの平均所要時間と1 時間あたりの検査処理人数 |
( 5 )業務エラー基準 | 各ブースでの待ち時間,処理時間(ひとりあたり),1 時間あたりの処理人数,盗難事故の件数,クレームの件数 |
定期健康診断業務の外部委託化と契約
しを行った。従来のマニュアル類であれば,
「やってもらう作業の内容」の記述になっていた部分であるが,今回は契約書に紐づく業務仕様書として,「発注者として健康診断業務がどのような結果になるようにしたいのか」という考えで,漏れがないように作成した。
5 .実施計画書,運用マニュアルの作成
受託者の責任を明確にするため,業務実施に至るプロセスとして,発注者が実施計画の立案と,業務従事者が使用する運営マニュアルについて作成を指示し,受注者が作成し,発注者が承認をする手続きとした。実施計画書や運営マニュアルの作成に際しては,発注者が従来使用していたものを「あくまでも参考資料」として開示した。
6 .契約書の構成(表 2 )
今回の外部業者委託化による契約書の構成を整理した。契約の目的及び解釈,本事業の目的や法令等の遵守に加え,個人情報保護の観点から,第三者への委託等に関しても項目を設けた。対価の支払い方法に関しては,モニタリングを義務付け,受託者が実施する業務がそれぞれ委託者の定める業務管理基準等を満たしていることを確認した上で,乙に対し,サービスの対価を支払うこととした。この点については委託業者から不安の意見がきかれたが,サービスの品質維持の客観的指標として理解していただいた。
結語
今回,当センターの例を示し,健康診断に関連する契約についての考え方,契約書の作成方法の基本を概説した。健康診断に関わる医師,保健師の多くは雇用や外部委託契約に関する知識が薄く,担当者が知らぬ間に,民法,労働法や人事規定の違反,偽装請負の引き金になる行為をしてしまうリスクも孕んでいる。
今後,全国の大学,学校関係者の健診担当者に求められる能力として,
①目的を明確に認識する能力
②委託先への教育を含めた連携能力
③手法選択能力
④事業の実現性判断能力
⑤リスク認識と対応能力
⑥(将来につなげる)ノウハウ蓄積と人材育成が必要である。
健診担当者にとっては,業務仕様書や契約書作成,外部委託業者との交渉は不慣れで当惑することも多いと考えるが,これらコンプライアンスの整理と遵守は,予算も含め,業務整理することにつながり,担当者の民事責任や社会的責任を回避するものである。揉め事やトラブルが発生すれば,日常のビジネス活動は大きく滞ってしまう。外部委託にかかる業務を正しく遂行することは,学生や教職員に喜ばれる質の高い健康診断だけでなく,担当者の力を最大限に発揮することにも繋がる。
文献
1 )短時間労働者の雇用管理の改善等に関する法律の一部を改正する法律.厚生労働省. xxxx://xxx.xxxx.xx.xx/xxxx/00-Xxxxxxxxxxxxx- 11900000-Koyoukintoujidoukateikyoku/02_gaiyou. pdf(cited 2015- 3 -23)
2 )民法.法務省.
xxxx://xxx.x-xxx.xx.xx/xxxxxxxx/X00/X00XX000. html(cited 2015- 3 -23)
3 )労働者派遣事業の適正な運営の確保及び派遣労働者の保護等に関する法律.厚生労働省. xxxx://xxx.x-xxx.xx.xx/xxxxxxxx/X00/X00XX000. html(cited 2015- 3 -23)
4 )職業安定法.法務省.
xxxx://xxx.x-xxx.xx.xx/xxxxxxxx/X00/X00XX000. html(cited 2015- 3 -23)
慶應保健研究(第33 巻第 1 号,2015)
表 2 契約書の構成
項目 | 内容等 |
第 1 章 総則 | |
第 1 条(契約の目的及び解釈) | |
第 2 条(本事業の目的) | |
第 3 条(優先関係) | 乙は,本契約書及び付属資料の規定に基づき,本事業を実施。ただし,本契約に規定のある事項について,矛盾が生じた場合には,まず,本書,次に業務仕様書,その他の順に優先される。 2 本契約書に付属する書類は次の通り。 業務仕様書・管理基準マニュアル・管理基準マニュアル資料・システムマニュアル・大地震対応マニュアル 参考資料 ・健康診断期間中における接遇マナーについて ・2014 年度健康診断マニュアル(xx) ・2014 年度健康診断マニュアル(xx)に沿った資料類 ・2014 年度健康診断マニュアル(xx)に沿った具体例 ・2014 年度健康診断(xx)の際の人員配置,物品一覧,レイアウト,記入場所案内 |
第 4 条(法令等の遵守) | |
第 5 条(第三者への委託等) | 乙は,本業務にかかる業務の全部又は一部を第三者に委託又は請け負わせることはできない。 |
第 6 条(特許xxの使用) | 乙は,特許権,実用新案権,意匠権,商標権その他 日本国の法令に基づき保護される第三者の権利の対象を使用するときは,その使用に関する一切の責任を負わなければならない。 |
第 7 条(許認可及び届出等) | 甲が自ら行わなければならないものを除き,乙が本契約を履行するために必要な一切の許認可は,乙が自己の責任及び費用負担とする。 |
第 2 章 健康診断会場の設営 | |
第 8 条(費用負担等) | 本業務の用途となる設備等,本業務に必要な一切の手段については,乙が自己の責任において定める。甲から無償で貸与された医療機器及び備品等を除き,本業務の実施に必要な機器,備品等の調達費用及びこれらに 関連する一切の費用は,本契約に別段の定めがある場合を除き,全て乙が負担する。 |
第 9 条(設営の手順) | 乙は,自己の責任において,本契約書に付属する参考資料を参考とし,本業務に必要な医療機器,設備の配置等を計画し,健康診断会場とする。乙は,健康診断開始予定日の20日前までに,健康診断会場設営計画書を作成し,甲に提出する。 甲は,5 日以内に,乙に対して,承諾通知か修正要求の通知書を交付。 |
第 3 章 健康診断業務 | |
第10条(準備) | |
第11条(業務実施体制の確認) | 20日前までに,本業務に必要な人員を確保し,かつ,本業務の実施に必要な訓練,研修等の研修計画書を作成し,甲に提出する。乙は,前項に規定する研修計画書に従い,必要な訓練,研修等を行う。甲は,乙に総合的なリハーサルを求め,乙に対して是正を求めることができる。 |
第12条(健康診断業務の内容) | 乙は,甲に対し,健康診断業務に関し,業務仕様書等に示された業務内容に対して,業務管理基準等を満たす業務を提供し,甲は乙に対し,所定のサービスの対価を基づき支払う。 |
第13条(業務管理基準等) | 乙は,本事業に際し,甲が提示した健康診断業務にかかる各業務の業務管理基準等を満たす業務を提供しなければならない。 |
第14条(業務計画書) | 乙は,健康診断業務の開始予定日の10日前までに,甲と協議のうえ,健康診断業務にかかる各業務につき,本契約書に付属する参考資料を参考とし,乙の責任において必要な業務管理体制,人員配置,業務実施方法,業務管理方法等の内容をまとめた業務実施計画書を作成し,甲に提出する。業務管理基準等を満たさない と判断した場合,甲は,乙に対し,当該業務実施計画書の該当箇所を特定し,その旨通知する。この場合,乙は,乙の責任及び費用により,当該箇所を修正する。ただし,この手続きが乙の提出した業務実施計画書に基づく業務が当該業務にかかる業務管理基準等を満たすものと認めるものではない。 |
第15条(運用マニュアル) | 乙は,業務実施計画書の内容を具体化し,標準作業書及び業務手順書(以下「運用マニュアル」という。)を作成し,甲に提出する。 xは、承認もしくは修正の指示を通知する。 |
第16条(第三者に及ぼした損害等) | |
第17条(健康診断業務の総合マネジメント) | 乙は,本契約に基づき,さらなる受診者の所要時間の短縮,接遇の向上,甲に生じる費用の縮減を達成すべく,業務の全体を管理するものとする。 |
第18条(モニタリングの実施) | 甲は,乙の提供する業務が各業務について定められた業務管理基準等を満たしていることを確認するため,乙の実施する業務に対 しモニタリングを行う。 |
第19条(モニタリングの費用負担) | モニタリングにかかる費用のうち,甲に生じるものは,甲の負担とする。乙の書類作成等にかかる費用は,乙の負担とする。 |
第20条(モニタリングに対する責任) | 甲は,業務改善勧告等モニタリングに関する行為を理由として,業務の全部又は一部について何らの責任を負担するものではない。 |
第21条(報告・納品) | |
第 4 章 サービスの対価 | |
第22条(サービスの対価の支払い) | 甲は,モニタリングを行い乙の実施する業務がそれぞれ甲の定める業務管理基準等を満たしていることを確認した上で,乙に対し,サービスの対価を支払う。甲がモニタリングを行った結果,乙が提供する維持管理・運営にかかる各業務の全部又はその一部が適用ある業務管理基準等を満たしていないことが判明した場合,甲は,乙に対し,業務改善勧告,減額等の措置を講じることができるものとする。 |
第23条(甲の施設が損傷している場合) | 乙の責めに帰すべき事由により甲の施設が損傷している場合,甲は必要な修繕費を対価から減じて,乙に支払うものとする。 |
第 9 章 契約期間及び契約の終了 | |
第24条(契約期間) | |
第25条(債務不履行に基づく契約の即時終了) | |
第26条(乙の責めに帰すべき事由による契約終了の場合の損害賠償等) | 違約金について定める |
第 5 章 雑則 | |
第27条(秘密保持) | |
第28条(管轄裁判所) |