Contract
資料4
令和2 年3 月26 日
「かんぽ生命保険契約問題 特別調査委員会」 追加報告書の概要
はじめに
かんぽ生命保険契約問題特別調査委員会(以下「特別調査委員会」という。)は、2019 年 7 月 24 日、株式会社かんぽ生命保険(以下「かんぽ生命」という。)、日本郵便株式会社(以下「日本郵便」という。)及び両社の持株会社である日本郵政株式会社(以下「日本郵政」という。)の依頼を受け、約8 か月間にわたり調査(以下「本調査」という。)を行ってきた。
この間、本調査には、多数の調査補助弁護士及び特別調査委員会事務局職員並びに日本郵政グループの関係社員が関与した。日本郵政グループは、特別調査委員会に協力し、総力を挙げて、今回の不適正募集問題の調査等に取り組んできた。
このような関係者の努力により、不適正募集問題の全容は、概ね解明されたと考えている。 しかしながら、調査全体としては、いまだ完了したとは言えない。被害者の救済も道半ばであ
り、不適正募集に関与した募集人等の調査・処分も、完了していないのである。
詳細は本文中で述べるが、本調査の対象である不適正募集問題は、郵政民営化以前から、様々な対策の網を潜り抜け、伏流水のように存在し続けてきた。8 か月間に及ぶ調査によっても、調査全体が完了していないということ自体、不適正募集問題の深さと広がりを示していると言えよう。
ところで、このように、郵政民営化以前から今日に至るまで、不適正募集が存在し続けてきたのは、その時々の経営陣が、不適正募集の実態をよく把握できなかったために、これを根絶させるに足る対策をとり得なかったからである。
前回報告でも明らかにしているとおり、日本郵政グループでは、不適正募集の実態を正確に把握するための態勢が十分ではなかった。担当部署においては、不適正募集の実態把握につながり得る情報が活用されておらず、担当部署から経営陣らへは、不適正募集の実態把握に資する十分な情報が報告されていなかった。そのため、不適正募集の実態把握に至らず、適切な対応を取ることができなかったのである。
本調査報告書(以下「追加報告書」という。)では、前回報告後も継続実施された特定事案調査 の結果、及び全契約調査の深掘調査として実施されている多数契約調査等の進捗状況等を踏まえ、日本郵政グループにおいて、不適正募集の実態把握が遅れた理由や背景に関わる事実経過等を明 らかにし、不適正募集の実態等についての経営陣の認識なども可能な限り明らかにするよう努め た。なお、併せて、特定事案調査の結果を踏まえ、前回報告において明らかにした原因分析等に つき、念のための検証を行ったが、改善策等の提言の前提となる分析結果等も含めて、特に変更 等すべき点は見られなかった。
第1 追加調査の目的及び対象範囲
追加調査の目的は、かんぽ生命保険商品の募集に係る不適正募集問題について、主に
① かんぽ生命による「契約調査」の範囲・方法等の妥当性を検証するとともに、その調査結果を分析・検討すること
② 「特定事案」等を受理した保険募集人(以下「募集人」)に対する個別的調査を実施すること
③ 不適正募集問題に係るグループ各社の経営陣の認識等を含めた事実経過等の調査を行うこと
④ 前回報告書において特別調査委員会が提言した改善策に関し、日本郵政グループの実施状況及び検討状況に対する評価を行うこと
によって、不適正募集問題の実態、原因及び改善策を、より明確にすることである。第2 追加調査の方法
1 ヒアリングの実施
特別調査委員会は、以下のとおり、日本郵政グループの役職員その他の関係者合計 110 人に対してヒアリングを実施した。
① かんぽ生命、日本郵便及び日本郵政の執行役・執行役員以上の役員(前役員も含む。)28 人
② ①を除く、かんぽ生命、日本郵便及び日本郵政の本社又は支社等の社員46 人
③ 郵便局員である募集人 36 人(以下、これらの募集人に対するヒアリングを「募集人ヒアリング」)
2 関係資料の精査・分析
特別調査委員会は、かんぽ生命、日本郵便及び日本郵政の関係部署及び関係者から提出を受けた書面及び電子データを精査・分析した。
3 デジタル・フォレンジック調査
特別調査委員会によるデジタル・フォレンジック調査の開始は、特別調査委員会設置約 1 か
月後の2019 年8 月下旬である。
かんぽ生命、日本郵便及び日本郵政の3 社につき、外部ベンダーの協力を得て、
① 取締役会等の関係会議体の議事録等の電子データ合計1 万2,203 件
② 関係役職員等合計2,174 人(内訳は、かんぽ生命338 人、日本郵便1,802 人、日本郵政34人)の利用するPC 等に保存されていた電子メール等のデータ合計890 万4,242 件を保全し、分析・検討を行った。
第3 契約調査の検証及び分析結果等
1 全契約調査
(1) 進捗状況等ア 全般
○ かんぽ生命では、2014 年4 月から2019 年3 月までの過去5 年間分の消滅契約を含む、全てのかんぽ生命保険商品の契約者(特定事案を除く約1,900 万人)に対し、2019 年8 月下旬から同年10 月までの間に、かんぽ生命及び日本郵便の連名で、返信用はがきを同封した書面を発送し、意見や要望、不満等がある場合の返送を要請
○ かんぽ生命では、顧客の回答に応じて、訪問や専用コールセンターからの電話による説明を行い、必要に応じて、保険契約に関する手続などの顧客対応を実施
○ その結果、法令違反又は社内規則違反の疑いがあると判断される事案については、品質改善室からコンプライアンス統括部に引き継ぎ、募集人調査を実施
○ 2020 年2 月29 日時点で、約100.8 万件の回答あり。そのうち、訪問による説明、専用コールセンターからの電話による説明、保険契約に関する手続などの顧客対応が完了したものが約 82.8 万件(全体の約 82%)、顧客対応の手続中であるものが約 14.7 万件(約 15%)、顧客からの回答内容を確認中であるものが約3.3 万件(約3%)
○ 顧客対応が完了している事案のうち、法令違反又は社内規則違反の疑いがあると判断される事案については、2020 年4 月以降、コンプライアンス統括部による募集人調査を実施予定
イ 深掘調査(2020 年2 月から実施)
全契約調査対象のうち、顧客に不利益を与えた可能性が高いと疑われる多数契約、多額契約、被保険者を替えた乗換契約等(契約者合計約5.9 万人)について、深掘調査を実施中
(2) 今後の予定
顧客対応のうち、無効処理や合意解除等の契約措置が必要なものについては、2020 年4 月以降も対応を継続する予定
2 特定事案調査結果等の分析結果
(1) 特定事案調査の分析対象データ等ア 分析対象である「違反疑い事案」
2019 年9 月30 日の中間報告時点 6,327 件
2020 年2 月29 日現在 1 万3,396 件
であり、件数は約2.3 倍となり、これが分析の対象である。
イ 調査の進捗に伴う「違反疑い事案」の増加と関与した募集人に関するデータ顧客の意向確認数 6 万8,020 件→15 万5,746 件
違反疑い事案数 6,327 件→1 万3,396 件違反疑い事案中の渉外社員関与割合(件数ベース) 87%→85.5%全募集人中の渉外社員割合 18%
違反疑い事案中の高実績募集人関与割合 25.9%→25.7%
(2) 特定事案調査等(特定事案調査+能動調査)に係る不祥事件等判定結果ア 分析対象である特定事案調査等に係る不祥事件・不祥事故事案
2020 年2 月29 日現在 2,206 件
(関与募集人1,794 人。うち、渉外社員1,605 人、窓口社員189 人)
(内訳)
不祥事件と判定された事案:210 件(特定事案調査対象事案174 件、能動調査対象事案36 件)不祥事故と判定された事案:1,996 件(全て特定事案調査対象事案)
不祥事件等判定については、病休等の理由により調査不能になっている事案や、一部の顧客への再確認が必要な事案等を除き、2020 年3 月末までに判定を完了する予定
イ 特定事案調査等に係る不祥事件・不祥事故に関与した募集人に関するデータ不祥事件・不祥事故事案中の渉外社員関与割合(件数ベース) 91.7%
不祥事件・不祥事故事案中の高実績募集人関与割合 21.5%
(3) 分析結果
ア 特定事案調査
前回報告書において分析・指摘したとおり、意向確認済み事案中の「違反疑い事案」の割合は、9%前後であり、全募集人中2 割に満たない渉外社員が、違反疑い事案のうち9 割弱
に関与しており、「違反疑い事案」のうち、高実績募集人が関与した割合が全体の 4 分の 1程度であったことなどの傾向は、前回報告書の内容とほぼ合致した。
イ 特定事案調査等に係る不祥事件等判定結果
今般、特定事案調査等に係る不祥事件等判定をされた事案(2,206 件)を分析しても、
① 今般不祥事件判定された件数は210 件(うち特定事案調査対象事案174 件)
② 当該不祥事件関与募集人273 人のうち203 人は、特定事案調査対象事案に関与
③ 不祥事件・不祥事故事案合計 2,206 件のうち、渉外社員が関与した割合は 91.7%また、不祥事件・不祥事故事案合計2,206 件のうち、高実績募集人が関与した割合は21.5%
いずれも、上記特定事案調査の分析結果と同様の傾向を示している。
(4) 契約復元等の状況
2020 年2 月29 日時点で
契約復元等に関する説明を希望した顧客 4 万7,968 人
うち契約復元等手続案内を完了した顧客 4 万3,013 人
そのうち、契約復元を希望した顧客 3 万6,721 人
既に契約復元等の措置完了した顧客 3 万5,564 人
契約復元等の措置が未了で、契約復元等を希望する顧客に対しては、顧客の都合による場合を除き、2020 年3 月末までに契約復元等を完了させる予定。同年4 月以降においても、顧客から契約復元等の要望があった場合は対応。
(5) 不祥事件等判定方法の見直し等
募集人調査の調査方法及び不祥事件等判定の方法については、以下のとおり
① 客観的な状況証拠に基づく事実認定及び不祥事件等判定の方法を採用
募集人が不適正募集の事実を否定した場合であっても、外形的に顧客に不利益と認められる契約形態、顧客からの回答内容及び信憑性の高い状況証拠等に基づき、不適正募集に関する事実認定・判定を実施
② 「調査協力(自己申告)制度」(リニエンシー類似の制度)の活用
募集人が、自認して募集人調査に協力した場合は、かんぽ生命による処分を減免する取扱いを開始
③ 外部弁護士による確認・検証等
不祥事件等判定の結果は、全件について、外部弁護士による確認・検証の対象。異議申立制度も設置
なお、個々の事案の不祥事件等判定結果の当否については、追加報告書における検証の対象外
第4 募集人ヒアリングの結果等
販売実績が高く、かつ、募集品質も良好な募集人に共通する募集態様等は、以下のとおり
① 常日頃から、保険知識のみならず幅広い分野についても勉強し、自己研鑽に励んでいる
② 顧客ニーズに合致した商品を提案するため、顧客の状況を入念に調査した上で顧客を訪問している
③ 既契約者である高齢者のみならず、かんぽ生命の保険に加入したことがない青壮年層についても広く募集の対象としている
④ 顧客への訪問が多数回かつ多頻度であり、活動量が多い
⑤ 顧客から青壮年層の家族・友人などを紹介されて新規顧客を獲得している
⑥ 顧客から時間をかけて話を聞き、xxxを把握した上で顧客にとって適切な保険商品を提案し、顧客が判断するまで時間をかけている
⑦ かんぽ生命保険商品の商品性に魅力が乏しいことは、販売実績を挙げる上で障壁にならな
いと感じている
⑧ 顧客が保険加入後には自筆の礼状を送付するなど、事後の手当てにも丁寧に気配りしている第5 日本郵政グループの不適正募集問題への取組み経緯と各社経営陣の事実認識等
1 日本郵政グループにおける「不適正募集」の捉え方
日本郵政グループにおいては、民営化以前から、郵便局における窃盗・詐欺・横領及び郵便物の放棄・隠匿等の「部内犯罪」を撲滅することが最大の関心事であった。
民営化後には、かんぽ生命保険商品の募集に関わる、保険業法違反等に該当する行為は、「不祥事件」として金融庁に届出がなされるようになったが、日本郵政グループ幹部に共通するのは、従来から部内犯罪防止に重点を置いてきた関係もあって、
不祥事件=法令違反=不適正募集という認識であった。
したがって、かんぽ生命保険商品の募集に関しては、典型的な不適正募集は「作成契約」等であり、今回の特定事案調査等が開始されるまで、顧客に不利益を生じさせるような募集態様については、業務品質としての募集には問題があるものの、所定の契約関係書面に顧客の署名・押印があれば違法ではなく、かつ、基本的には顧客の意向にも沿っているはずであると考えていた。
2 不適正募集問題への取組み経緯等
(1) 従来の取組み
かんぽ生命では、2016 年頃から、高齢者苦情が顕在化したこと、また、同年 8 月以降、金融庁から平成26 年改正保険業法履行状況等把握のためのモニタリング実施の可能性を示唆されたこと、さらに、金融庁が、郵便局に所属する募集人の募集品質に強い関心を示していたことなど、様々な事象を契機として、不祥事件判定されていない事案についても、例えば、過去 5 年間に 30 件以上の消滅と新規契約締結を繰り返す契約を受理した募集人を対象にヒアリングを行うなどの調査を、2017 年 1 月頃から、金融庁に調査計画を報告するなどしながら行ってきた。
しかし、当時のかんぽ生命のシステムでは、このような調査の基礎資料である契約者毎のデータを作成するには、相当程度の時間を要した。しかし、調査の結果は、数件程度の不祥事件と不祥事故を発見できる程度であった。
当時、募集人と顧客との関係は、強い信頼関係で結ばれており、仮に契約者に対するヒアリングを実施しても、顧客からは、契約締結には問題ないとの回答が返ってくることが多かった。この状況は、現在のように顧客が募集人に対して不信感を抱くようになった後の状況と大きく異なる。
このように、顧客の協力を得られない状況の下では、当時のかんぽ生命や日本郵便において、今般明らかとなったような、顧客に不利益を与える多数契約などの悪質な事案の実態について把握することは容易でなく、不適正募集には、あくまで少数の募集人が関与するにとどま
るものと考えていた。
(2) 総合対策
かんぽ生命では、募集品質の向上を目指し、植平社長が就任した後の2017 年10 月頃には、日本郵便とも協議し、優績者選奨基準を見直し、募集品質に考慮した選奨を行うこととした。さらに、同年12 月には、民間生保に遜色ない程度に募集品質を引き上げるため、日本郵便xx社長と協力し、苦情、無効・合意解除などのデータを基礎として、募集品質の向上に向けた総合対策を策定し、これを実施することとした。
(3) クローズアップ現代+(クロ現プラス)放送後の状況
かんぽ生命及び日本郵便による募集品質管理は、募集品質データに依存しており、募集実態には迫れなかったことや、各種調査結果でも不祥事件判定数がごく少数であったことなどから、経営陣においては、現場では少数の募集人が不適正募集をしているという認識にとどまり、契約者調査・募集人調査や苦情内容の精査など、不適正募集の抜本的解決を図るために必要な措置を講ずる必要性を強く感じるまでには至らなかった。
これは、クロ現プラス放送後も同様であり、かんぽ生命及び日本郵便経営陣は、クロ現プラスで取り上げられた事例は、当時、既に把握の上、対応済であり、募集品質の問題は、実施中の総合対策によって品質向上に向けた一定の成果が出ていると認識していたため、経営陣の中には、把握済みの例外的な一事例を一般化している偏向的な報道という印象で見ていた者さえいたほどであった。
(4) 金融庁の要請によるサンプル調査
2018 年12 月、かんぽ生命は、金融庁の要請を受け、乗換契約のうち同一商品xxの乗換がなされているものなど、経済合理性に疑問のある契約について調査することとし、同庁と協議の上、その調査対象を 2018 年 11 月中に顧客から新規申込みを受理した乗換契約で契約種類
が同一のものとし、合計422 件を選別した。
かんぽ生命は、対象顧客を訪問等して顧客の加入認識を質問するなどの方式により、不在等のため調査不可能であった 114 件を除く 308 件について調査を実施したが、その結果は、全ての顧客が契約についての加入認識を有していた旨回答しており、不祥事件あるいは不祥事故と判定すべき事案は発見できなかった。
かんぽ生命は、顧客からこのような回答を得たものの、他方において、大半の契約が乗換によって予定利率が下がっていることなどから、顧客が留意事項を認識していたとしても、このような顧客に不利益を生じさせる乗換を抑制する追加対策が必要であると考え、2019年3月、金融庁に対する報告時には、上記調査結果とともに、その方針を報告した。
なお、このサンプル調査は、金融庁との協議に基づいて選択された事例を対象としており、その調査方法も相当である。また、今般の特定事案調査や不祥事件等判定の結果と照合しても、不祥事件又は不祥事故と判定された事案は 1 件もなかったことが判明していることなど
から、サンプル調査の信用性について特に問題はないと思料する。
3 金融庁の報告徴求の可能性に係る日本郵政グループ経営陣の認識
かんぽ生命は、2018 年11 月頃から、金融庁によるモニタリングにおいて、主に乗換契約(転換類似)に関して、各種の指摘やデータ分析、サンプル調査等を通じて、乗換契約に伴い、新規契約につき引受謝絶や支払謝絶が生じるなど、顧客に不利益が生じている事案や、経済合理性の観点から顧客に不利益が生じている可能性のある事案を切り口として、かんぽ生命保険商品に関する郵便局における募集の実態把握、これを踏まえた原因分析及び改善策の実施を自主的に行うよう要請されていた。
これに対して、かんぽ生命は、総合対策の一環として、2019 年 4 月以降、乗換判定対象の拡大、保有率を考慮した募集手当の支給等により、乗換契約抑制を図ろうとしていた。
しかしながら、かんぽ生命が金融庁から指摘を受けていた乗換契約に関する本質的な問題は、顧客本位の原則に則って顧客の真のニーズや意向に沿った募集が行われているかという観点から、郵便局員による募集実態を把握すべきであるにもかかわらず、こうした募集実態を把握しないまま、これまでの制度や手続の拡大・強化といった前例踏襲的な対応にとどまっていた、という点にあった。
かんぽ生命がこのような対応に終始した要因として、乗換契約(転換類似)については、所定の契約関係書面に顧客の署名・押印があるため、外形上経済合理性の乏しい乗換契約が相当数含まれていたとしても、これらの契約は基本的に顧客ニーズや意向に沿っており、法令に違反しておらず、特に問題はないという考え方に固執し、金融庁の問題意識を鋭敏に受け止めることなく、日本郵便と協力して募集実態を把握するなどの抜本的な解決を図ろうとする姿勢や情熱を持ち得なかったことが挙げられる。
さらに、かんぽ生命では、2019 年 2 月下旬に、金融庁からの指摘等を受け、植平社長が関係役員に対し、経済合理性のない乗換契約(転換類似)については、顧客からの苦情がなかったとしても、断固として撲滅していく必要があり、そのために必要な追加の対策を講じること、及び金融庁の指摘を踏まえ、問題点を全て明らかにして、問題を隠すことなく、スピード感をもって改善に取り組んでいくことを、会社の方針として示し、この方針に沿った対応を検討するよう指示したが、役員以下において、この指示に沿ってスピード感を持った対応をしたとは評価し難い。
ところで、かんぽ生命は、結果的に、同年5 月28 日付けで金融庁から報告徴求を受けているが、それに至るまで、植平社長は、金融庁から、報告徴求の捉え方にも軽重の幅があるなどと告げられたことから、報告徴求の可能性も意識こそしていたものの、金融庁の要請に真摯に対応していれば、報告徴求を避けることができるのではないかと考えていた。また、仮に報告徴求を受けたとしても、適切に対応していれば、行政処分にまで至ることはないと考えていた。しかしながら、他方において、仮に将来新商品の認可申請を行う場合などに報告徴求による影響があってはいけないとの思いから、金融庁から報告徴求を受けることは極力回避する必要があると考え、その旨、金融庁に陳情するなどしていた。
日本郵便xx社長も、かねて、担当役員らから、かんぽ生命が金融庁から乗換契約に係る募集に関して、指摘を受けている旨の報告を受けていたところ、同年5 月下旬頃までは、植平社長から伝えられた金融庁の報告徴求に関する見通しや、上記担当役員らの報告を踏まえ、かんぽ生命が報告徴求を受ける可能性は相当低いと考えていた。
日本郵政長門社長は、遅くとも同年4 月頃までには、植平社長から、かんぽ生命が金融庁から 募集に係るヒアリングを受けている旨の報告は受けていたものの、その詳細までは知らされて いなかった。その後、長門社長は、遅くとも同年5 月下旬までには、植平社長から、金融庁から 報告徴求が行われる可能性があること及び報告徴求にも軽重があることなどの報告を受けたが、不適正募集に関わる重要な内容であるとは考えていなかった。
第6 特別調査委員会の提言した改善策の検討及び実施状況等
1 募集状況の可視化(録音録画)
かんぽ生命営業企画部を責任部署とし、日本郵便募集品質改善部とも協議の上、募集状況の録音・保管による募集状況の可視化の仕組みの構築を 2020 年 3 月から試行。同年 8 月以降には、本格実施に移行予定
2 不適正募集のリスクがある契約をシステムにより営業のフロントで簡易に検知できる仕組みの整備
かんぽ生命営業企画部を責任部署とし、2020 年10 月から、かんぽ生命の支店及び郵便局において、顧客の過去の契約の加入・消滅履歴をシステム上、簡易に把握できる仕組みを整備予定
また、顧客の契約の消滅履歴について、同年4 月から、過去24 か月にまで確認範囲を拡大
3 新規契約の獲得に偏った手当及び人事評価の体系の見直し
かんぽ生命営業企画部を責任部署とし、①個人契約の乗換契約についての手当支給等の見直し、②渉外社員の基本給と手当の割合見直しについて、2020 年4 月から実施予定
かんぽ生命人事部及び日本郵便人事部において、窓口・渉外社員や管理者の人事評価に募集品質に係る評価項目等を新設予定
4 不適正募集を行った募集人及び管理者に対する処分の徹底
かんぽ生命コンプライアンス統括部は、2019 年11 月から、募集人の自認に依拠せず、外形的に顧客に不利益と認められる契約形態や、顧客からの回答内容及び信憑性の高い状況証拠に基づく、厳格な事実認定を実施
また、募集人に対する処分について、従前の「業務廃止」と「厳重注意」の二段階を、2020 年 4 月から、「業務廃止」、「業務停止」(一定期間募集を停止させる処分)、「厳重注意」、「注意」の四段階とするとともに、不適正募集を発生させた募集人等に対し、募集再開に向けた研修を実施予定
管理者に対する処分については、2020 年1 月から全ての金融関係管理者を「保険募集品質改善責任者」に指定することでその役割を明確化し、過怠があった場合には厳格な処分を実施
5 募集コンプライアンスに特化した通報制度の設置と通報内容の定期報告
日本郵政は、コンプライアンス統括部を責任部署とし、2020 年3 月末までに、金融営業専用の社外通報窓口を新設予定
また、2019 年10 月から、事業子会社の内部通報窓口の利用状況(件数、通報内容、調査結果等)を取りまとめ、グループコンプライアンス委員会へ報告し、各社間の情報共有を図る取り扱いを実施
なお、顧客向けの社外通報窓口の新設についても別途検討中
6 責任部署と実施時期を明記した具体的改善策とその実施計画を策定し、外部専門家により構成された第三者検証機関のモニタリング等を受けながら、その進捗状況を適時に各社の取締役会に報告し、定期的に公表すること
日本郵政は、2020 年1 月、社長直下にタスクフォースを立ち上げ、同年2 月以降、グループ全体としての改善計画を取りまとめ、第三者によるモニタリングを受けつつ改善策の進捗管理を実施中
さらに、2020 年4 月からは、外部の専門家で構成する第三者機関(アドバイザリーコミッティ)の評価及びアドバイスを受けながら、信頼回復及び顧客本位の業務運営を実現するために必要な取組みを推進する予定
7 その他の改善策の提言
(1) 売上・利益重視の経営から真に「顧客本位の業務運営」を実行する組織への改革
(2) 時代や環境の変化に対応できるビジネスモデルへの転換と保障性商品の営業スキルの向上
(3) 営業の実力に見合った営業目標の設定と配算方法の見直し
(4) 顧客本位の保険募集を実現するための研修・教育の充実化
8 その他の日本郵政グループによる自主的な取組み第7 結語
特別調査委員会が不適正募集問題の調査を開始してから約8 か月が経過した。この間、かんぽ
生命及び日本郵便では、特別調査委員会設置直前の昨年 7 月 14 日から開始したかんぽ生命保険
募集の自粛に引き続き、本年1 月1 日からは、金融庁及び総務省の業務停止処分(本年3 月31 日
まで)により、その募集活動を停止している。また、日本郵政・日本郵便及びかんぽ生命3 社の
社長らが、不適正募集問題に関する経営責任を明確にするため辞任し、本年1 月6 日、日本郵政 xx社長・日本郵便xx社長・かんぽ生命xx社長からなる新体制に移行した。さらに、各社の 役員らについても、それぞれの役職や担当業務に応じて一定の報酬の減額ないし自主返納とした。
一方、かんぽ生命保険の募集を行う全国各地の募集人らは、8 か月余りの長期間にわたり、仕事をすることを許されないという辛く厳しい生活を強いられており、できるだけ早期の募集再開を切望している。また、上記業務停止処分の期間はまもなく満了となる。
しかしながら、今般問題となった不適正募集による被害者らの怒りや苦しみを考える時、その被害回復に道筋を付けぬままの営業再開は考えられないと言うべきである。また、二度と同じ過ちを繰り返すことは絶対に許されない。
郵政グループとしては、明確な改善策とその確実な実施確保のための方策を示し、さらに、被害者対応を速やかに、かつ丁寧に実施するための具体的な手続等をより明確にした上で、募集再開を行わなければならない。
なお、特別調査委員会としては、前回報告書において提示した改善策や、かんぽ生命らにおいて策定した主な対策を着実に実行すれば、これまでのような不適正募集は遠からず根絶できると考えている。その点に照らすと、前回報告後のメディアを始め世間の関心が、提示した改善策にあまり集まらなかったことを残念に思っている。もとより過去の振り返りは重要であるが、かんぽ生命保険募集の今後の在り方についてもう少し前向きに捉えることを期待したい。
さて、特別調査委員会の報告を終えるに当たり、前回報告書の結語にも記載した「郵政組織に身を置くことに誇りと責任を持つ」ことの重要性について、改めて申し述べておく。
今回のような大きな不祥事が起きると、その対策として、目に見える形での改善策を示すことが優先されることは当然である。特別調査委員会の改善策の提示も同様であった。しかし、改善策が効果を挙げるためには、全役職員がそのような職業的自尊心を持つことが不可欠であり、それなしでは、真の業務改革・組織改革にはつながらない。そうした心の持ち方が自然にできるような組織づくりこそが、最も重要な方策なのである。
日本郵政グループにおいては、もとよりご承知のことであろうが、是非この点にご配意の上、日本郵政xx社長が述べられた「愚直、誠実、謙虚」(2020 年1 月9 日記者会見)をモットーに改革を進め、グループxxとなって、この不適正募集問題を抜本的に解決し、新しく生まれ変わることを、特別調査委員会は心から期待するものである。
以上