Contract
報 告 書
(xxx消費者被害救済委員会)
令和4年6月
xxx生活文化スポーツ局
xxxは、6つの消費者の権利のひとつとして、「消費生活において、事業者によって不当に受けた被害から、xxかつ速やかに救済される権利」をxxx消費生活条例に掲げています。
この権利の実現をめざして、xxxは、都民の消費生活に著しく影響を及ぼ し、又は及ぼすおそれのある紛争について、xxかつ速やかな解決を図るため、知事の附属機関としてxxx消費者被害救済委員会(以下「委員会」という。)を設置しています。
知事は都内の消費生活センター等の相談機関に寄せられた相談のうち、委員会による処理が必要であると判断した案件を委員会に付託します。
委員会は、付託された案件について、あっせんや調停により紛争の具体的な解決を図り、個別の消費者の被害を救済するとともに、解決に当たっての考え方や判断を示します。
この紛争を解決するに当たっての委員会の考え方や判断、処理内容等は、xxx消費生活条例に基づき、広く都民の方々や関係者にお知らせし、同種あるいは類似の紛争の解決や未然防止に御活用いただいております。
本書は、令和3年11月30日に知事が委員会へ紛争処理を付託した「全身脱毛エステティックサービス契約に係る紛争」について、令和4年6月21日に委員会から、審議の経過と結果について知事へ報告されたものを、関係機関の参考に供するために発行したものです。
消費者被害の救済と被害の未然防止のために、広く御活用いただければ幸いです。
令和4年6月
xxx生活文化スポーツ局
第1 紛争案件の当事者 1
第2 紛争案件の概要 1
第3 委員会による処理開始と当事者の主張
1 申立人の主張 1
2 相手方の主張 3
第4 委員会の処理結果 6
第5 報告に当たってのコメント
1 あっせん案の考え方について 7
2 同種・類似被害の再発防止に向けて 15
■資 料
1 処理経過 21
2 xxx消費者被害救済委員会委員名簿 22
申立人(消費者)1名 20 歳代前半 女性
相手方(事業者)1社 脱毛エステティック事業者
第2 紛争案件の概要
申立人の主張による紛争案件の概要は、次のとおりである。
令和3年4月頃、SNSの「月額2,990 円」という脱毛エステの広告を見て、この金額なら自分でも払えると思い、無料カウンセリングを予約した。カウンセリングで担当者から、
「回数が少ないとあまり効果がない。」、「一番多いコースだともう生えてこない。」などと説明され、全身脱毛 30 回コースを勧められた。支払いについては説明されたがよく分からなかったので、「お任せします。」と言うと、担当者からクレジットカードが1枚では足りないから、2枚渡すようにと指示され、約 50 万円を決済されてしまった。明細を見て驚き、
「月額2,990 円」というSNS広告を見てきたことを伝えると担当者は、「一番回数が少ない
コースが 2,990 円。」と言った。また、「8日以内ならいつでもやめられる。」と言われたが、クーリング・オフを書面で行うことは説明されなかった。後日、電話や店を訪ねてやめたいと伝えたが、そのたびに引き止められ、結局、続けることを了承してしまった。
それから2回施術を受け、当日キャンセルを1回した。月々の返済に困り、解約を申し出たところ、担当者から「今解約しても約 10 万円しか返金できない。」と言われた。契約書をよく見ると、施術 30 回のうち有料なのは最初の4回のみで、26 回分は無料保証と記載されており、3回分の施術料と違約金の合計約 38 万円は返金されないということだった。そのような説明は受けていないし、返金額には納得できない。
第3 委員会による処理開始と当事者の主張
本件は、令和3年 11 月 30 日、xxx知事からxxx消費者被害救済委員会に付託され、同日、同委員会会長より、その処理が、あっせん・調停第二部会(以下「部会」という。)に委ねられた。
部会における事情聴取時の当事者の主張は、次のとおりである。
1 申立人の主張
(1)令和3年4月頃、SNSに相手方が経営する脱毛エステティックサロン(以下「店」という。)の広告が入ってきた。脱毛はすごく流行していて、自分も興味を持っていたので、「月額2,990 円」、「今だけ初月0円」、「フェイシャル毎回無料」という広告を見て、月々2,990 円なら自分でも払えると思い、無料カウンセリングを申し込んだ。
(2) 4月上旬、無料カウンセリングを受けるために店に行った。担当者の女性は初対面か
- 1 -
ら話しやすく、アルバイトの収入で一人暮らしをしていることなど、個人的な話をすると、「じゃあ、大変だね。」と自分の境遇に共感してくれた。担当者は、自分のために親身になってくれる人だと思った。
(3) 担当者から、全身脱毛の施術内容のほかに、どのコースでもフェイシャルエステが毎回無料で受けられることを説明された。複数のコースがあるが、「回数が少ないコースはあまり効果がない。」、「一番回数が多いコースだと、もう確実に生えてこないから安心。」などと説明を受けた。これまでに、脱毛エステティックや長期のローン契約などはしたことがなく、勧められるまま一番回数の多い 30 回コースを選んだ。このとき、広告に記載されていた「月額2,990 円」の話はされなかった。
(4) 30 回コースの総額についての説明はなかった。ファイルに綴られた表を見せられ、
「分割でこのぐらいだよ。」と言われたが、表のどの部分を見ればよいのか分からず、自分のためにいい方法を選んでもらいたいと思って、「お任せします。」と言ってしまった。支払方法は、クレジットしかないと言われた。
(5) 担当者にクレジットカードを持っているかと聞かれ、甲カードを渡した。さらに、限度額が足りない、もう1枚カードはあるかと言われ、急いで渡さないと申し訳ないような気持ちになって、乙カードも渡した。2枚のクレジットカードを使って、月々2,990 円の支払いをするのだと思った。
(6) 担当者から、クレジットカードの伝票のようなもの2枚(甲カード400,000 円、乙カード 90,710 円)を渡され、驚いて、「毎月 2,990 円と書いてあるのをSNSで見たんですけど、これはどういうことですか。」と尋ねると、担当者は、「コースによって違う。 2,990 円は一番回数が少ないコース。」と言い、さらに、「家に帰って考えて断ることもできるから。8日以内ならいつでもやめられる。」と言った。その場では断りにくかったので、家に帰ってから断ろうと思った。また、支払いは翌月からになると説明されたので、8日以内に断れば、クレジットの引き落としもないと思った。
(7) 担当者から、「これに書いて。」と言われ、契約書と概要書面を一緒に渡された 1。書面の内容については、何も説明はなかった。クーリング・オフについては、書面の記載箇所を示され、「いつでも連絡してきていいから。」と言われた。クーリング・オフを書面で行うことは説明されなかった。店との連絡用にメッセージアプリの登録をしていたので、連絡はメッセージアプリを使えばいいと思った。
(8) 5日後に、メッセージアプリで連絡すると担当者から電話がかかってきた。「一人暮らしで、ちょっとお金がきつい。」と伝えると、店で話そうと言われた。双方の都合があわず、契約から 10 日後に店を訪ねてやめたいと伝えると、「もうクーリング・オフ期間は過ぎているから、解約金がかかるよ。」、「やめたらもったいないよ。」などと説得され、続けることを了承してしまった。
(9) その後、脱毛エステの施術を2回受けた。このほかに、体調不良でキャンセルしたいと連絡すると、当日キャンセルは1回分消化になると言われた。
1 部会が申立人の契約書及び概要書面を確認したところ、各書面に申立人の氏名、生年月日等の記載がある。
(10) 令和3年6月頃、クレジットカードの支払いに困り、解約すると伝えたところ、「この契約は、30 回のうち初回4回が有料、26 回が無料保証となっているため、4回のうち
3回分は払ってもらう。」、「今解約しても約 10 万円しか返金できない。」などと言われた。契約書には、確かに4回の契約と記載されていたが、契約時にそのような説明は受けていないし、精算方法に納得できない。
2 相手方の主張
(1) 当社が経営する脱毛エステティックサロンについて
ア 当社は、脱毛エステティックサロン4店舗(以下「当店」という。)を経営している。
イ 当店が提供する全身脱毛エステティックサービスについて、SNSに広告を出している。
(ア) 広告表示の「月額 2,990 円」は、最安値の全身脱毛6回コースを、36 回の分割払 いにする場合を前提とした1か月当たりの支払額である。ただし、実際は、信販会 社を通して分割払いするため、分割払い手数料が上乗せされて月額 3,700 円となり、
「月額2,990 円」という支払額は存在しない。
(イ) 広告表示の「初月0円」は、分割払いの場合、翌月から支払いがスタートするという意味である。
(ウ) 広告表示の「最短3カ月で脱毛卒業」、「最大2年9カ月短縮可能」等は、2週間に1回のペースで通ってもらう前提で、卒業までの期間を説明したものである。卒業とは、お客様自身が気にならなくなった、納得したというときを指していて、客観的な基準があるわけではない。当店では「施術回数が多いほど効果がある。」とご案内しているが、例えば、他店で施術を受けた後に、当店に乗り換えてきたお客様は、当店での施術回数が少なくなるため、3か月で卒業できる可能性がある。
(2) 全身脱毛コースについて
ア 当店が提供する全身脱毛コースは、大手の脱毛エステティックサロンを参考にして、
6回、12 回、18 回、24 回、30 回の5コース設けている。各コースの違いは回数だけで、施術の内容は同じである。お客様に通いたいコースを選んでもらうが、回数が多いほど効果があると説明している。
イ 各コースとも、4回までが有料の契約、5回目以降は無料保証という取扱いにしている。他社と同じような形にした結果、このような契約内容となった。中途解約は、
4回までに解約したお客様のことを指している。
ウ 契約期間は1年である。1年間で消化できない分は、無料保証としているので、期間を延長して通うことができる仕組みである。
エ 全身脱毛コースを契約しているお客様には、脱毛の施術のときに、毎回、無料でフェイシャルエステを付けている。
(3) 全身脱毛コースの価格について
ア 全身脱毛コースの価格については、勧誘時に各コースの価格等が掲載された価格表 2
を見せて説明している。
イ 回数が多いコースほど、1回当たりの価格は安くなる。例えば、価格表の6回コースと30 回コースを比べると、1回あたりの価格は30 回コースの方が安くなっている。
価格表の内容(抜粋) (税抜き)
6回 | 全身全顔(64 ヶ所脱毛) 6 回コース フェイシャルトリートメント 10,000×6→0 円 | 1 回あたり 16,533 円 | 総額 99,198 円 | 月々(36 回) |
30 回 | 全身全顔(64 ヶ所脱毛) 30 回コース フェイシャルトリートメント 10,000×30→0 円 | 1 回あたり 14,870 円 | 総額 446,100 円 | 月々(36 回) 17,300 円 |
(4) 契約書及び概要書面の様式について
ア 契約書は業界団体が示している様式を使用した。概要書面は他社を参考にして作成した。法律の専門家に相談したことはない。
イ 概要書面の様式に不備があるとの認識は、代表者も現場の担当者にもなかった。
ウ 当日キャンセルについては、施術1回分を消化する旨を記載している。最初の4回までに当日キャンセルした場合は、1回分の料金を支払ってもらうことになる。その金額の妥当性について検討したことはない4。
エ 「役務消化に関しては、1~4回目は有料プランでの消化、5回目以降は無料保証での消化となります」と記載していることについては、5回目以降は無料保証をつけていて、途中で通えなくなった場合も残回数を保証することを示したものである。5回目以降にやめた場合、返金はない。
申立人の契約書の記載内容(抜粋)
【役務提供期間】 2021 年4月〇日 ~2022 年4月〇日
【役務内容】 (税込み)
コース名 | 時間(分) | 単価 | 回数 | 総時間数 | 金額 |
フェイシャル 脱毛 | 60 | 122,677 | 4 | 490,710 | |
フェイシャル 脱毛 | 60 | 0 | 26 | 1,560 | 0 |
合 計 | 490,710 |
2 部会が相手方から提出を受けた価格表を確認したところ、30 回コースについて、各コースの①税抜きの総額、②1回当たりの価格(税抜きの総額を総回数で割った単価)、③36 回の分割払いとした場合の月々の支払額が記載されている。
3 本報告書3ページの「2(1)イ(ア)」参照
4 部会が相手方に1施術当たりの経費の内訳を質問したところ、相手方は、人件費(数千円)のみ回答し、その他の経費については、算出が困難だと説明し、明確には回答しなかった。
5 相手方の記載ミスと考えられる。
(5) 本件の勧誘及び契約について
イ 支払いについては、価格表を示しながら、分割払い手数料を乗せた金額はこちらですと言って、毎月の支払額を説明した。
ウ 契約する前に、概要書面を渡して読んでもらうことで、説明したこととしている。何か質問があるかと尋ねたが、申立人から質問はなかった。解約については、口頭で
「メッセージアプリでもご相談いただけますし、もし言いづらいようでしたら、お客 様センターのほうにお問合せください。」と説明した。クーリング・オフについては、
8日間は可能であること、8日を過ぎてしまうと中途解約手数料がかかることを伝え た。クーリング・オフの方法については、電話してくださいという意味で「連絡して ください。」とだけ伝えた。クーリング・オフは書面で行う必要があることは伝えて いない。キャンセル料については、「キャンセル料はいただいていない。その代わり、お手入れ1回消化という形になってしまいます。」と説明した。
エ 支払方法は、個別信用購入あっせんを勧めたが、申立人がクレジットカード払いを 希望したことから、クレジットカード2枚での支払いとなった。甲カードは、申立人 から「分割払いのやり方が分からない。お姉さんにお任せします。」と言われたので、アプリの使い方を教えた。乙カードは分割払いになっていないが、申立人は大丈夫だ と言った。
オ 契約することになったので、決済して、クレジットカードの伝票へのサインを求め、申立人がサインした 7。決済後、申立人から、月額 2,990 円ではないのかと聞かれたの で、「一番回数が少ないコースが 2,990 円。6回コースを 36 分割した金額です。」と 伝えた。申立人が一人暮らしをしていて、アルバイトの仕事をしていることは知って いたが8、申立人から、こんなに高い金額は払えないというような申し出はなかった。
カ 後日、申立人から、電話や来店により、「ほかのサロンのカウンセリングも行きた い。」、「回数を変更したい。」などの申し出を受けた。担当者から、「お客様に決 めていただいて大丈夫です。」と伝えた上で、「当店はフェイシャルエステも付いて いるのでお得です。」、「回数が多い方がご自身で納得いくようになると思います。」と案内したところ、申立人から、今の状態で続けると話があった。担当者から申立人 に施術の感想を聞くと、「すごくいい。」、「きれいになりたい。」などと言われた ので、「こちらもサポートさせていただきます。」と伝えた。
6 本報告書4ページの「価格表の内容」参照
7 部会が相手方から提出を受けたクレジットカード売上票(2枚)を確認したところ、いずれも申立人による自筆の署名がある。
8 部会が相手方から提出を受けた申立人のカルテを確認したところ、「職業フリーターさん」、「今アルバイト中です!」と記述されている。
キ 令和3年6月頃、申立人から解約するとの連絡を受けた。契約内容について、4回目以降は、無料保証という形となるので、返金はないという契約であることを説明した。そのときは申立人も「分かりました。」と言っていたが、納得していない様子だった。
(6) 当社の考える解決策
本件紛争については、当社のお客様対応の責任者である代表者と現場とで、情報共有ができていなかった。申立人からの解約の申出について、適切な対応ができなかったことを申し訳なく思っている。申立人が望む解決方法で対応したい。
第4 委員会の処理結果
部会は、令和3年 12 月 14 日から令和4年4月 19 日までの5回にわたって開催された。
(処理経過は資料1のとおり)
部会において、あっせん案を作成し、当事者双方へ提示したところ、双方が受諾し、紛争はあっせんの成立により解決した。
合意書の内容は、次のとおりである。
【合意書の内容】
申立人と相手方の間で令和3年4月〇日に締結したエステティックサービス契約(契
約金額 490,710 円。以下「本件契約」という。)は、特定継続的役務提供(特定商取引
に関する法律第 41 条第1項第1号)に該当することから、以下のとおり合意する。
1 相手方が申立人に交付した書面は、特定商取引に関する法律第 42 条第2項に規定
する記載事項を満たしていないことから、第 48 条による解除(クーリング・オフ)
に基づき、相手方は、申立人が相手方に本件契約の代金として支払った 490,710 円を申立人に対し返還する。
2 相手方は、上記1の返還すべき金員 490,710 円を、申立人の指定する銀行口座に令
和4年〇月〇日までに、全額を一括で振り込む方法により支払う。なお、振込手数料は、相手方の負担とする。
3 申立人と相手方は、本件契約に関して、本あっせん条項に定めるほか、何ら債権・
債務のないことを相互に確認する。
第5 報告に当たってのコメント
1 あっせん案の考え方について
(1) 論点の概要
本件のあっせん案は、相手方から申立人に交付された契約書面・概要書面の法定記載事項不備、及び、クーリング・オフ妨害の可能性を理由として、申立人が特定商取引に関する法律(以下「特定商取引法」という。)第 48 条に基づくクーリング・オフ権を依然として行使できるという考え方に基づいている。以下では、まず、この点について詳しく述べる。しかし、本件では、クーリング・オフ以外にも、相手方の勧誘行為において不実告知があったことや、同法第 49 条による中途解約時の精算規定、さらには、予約日当日に消費者からキャンセルがあった場合のキャンセル料を定める規定の消費者契約法第9条第1号該当性といった、見逃せない法的問題が存在している。そこで、以下ではクーリング・オフ権行使とは別に、これらの法的問題についても論じることで、本件のクーリング・オフ権行使以外の法的枠組みによる解決方法、及び、今後の同種事案の予防のための方策について指摘したい。
(2) 特定商取引法違反行為
本件で申立人が相手方との間で締結した脱毛エステティックサービス契約(以下「本件契約」という。)は、いわゆるエステティックという「特定継続的役務」を1か月を超えて受けるものであり、かつ、その役務提供の対価が5万円を超えるものであることから、特定商取引法第 41 条第1項第1号の「特定継続的役務提供」に該当する。その結果、以下のように、特定商取引法の「特定継続的役務提供」に関する規定の適用の有無が問題となる。
ア クーリング・オフの可否
あっせん案は、本件では相手方から申立人へ交付された概要書面及び契約書面に記載不備があることから、いまだクーリング・オフ期間が満了していないとの考え方に基づいている。
本件契約は、特定商取引法第 41 条にいう「特定継続的役務提供」に該当することか
ら、契約締結前に概要書面を交付しなければならない(同法第 42 条第1項)。また、
契約を締結したときには、遅滞なく、契約書面を交付しなければならない(同法第 42
条第2項)。
本件では概要書面及び契約書が交付されている。しかし、概要書面には、特定商取 引に関する法律施行規則(以下「省令」という。)第 32 条で記載すべきとされている 内容のうち、提供される役務の内容、役務の対価、役務の対価の支払の時期及び方法、役務の提供期間が記載されていない。また、契約書面については、省令第 33 条第 1 項で記載すべきとされている「役務提供の形態又は方法」が明確に記載されていない
(本件で言えば、「全身全顔(64 ヶ所脱毛)30 回コース、フェイシャルトリートメン
ト 30 回」)ほか、「役務を提供する時間数の総計」の記載ミスがある。また、同法第
42 条第2項第3号の「支払の時期及び方法」についてはクレジットカード会社二社の
情報や支払方法について記載されていないほか、同法第 42 条第2項第4号の「役務の提供期間」が相手方の説明する施術間隔と契約期間(1年)をふまえると非現実的で不正確な記載となっている。その他にも、本件契約書裏面の中途解約に関する項目が空欄になっている点は、同法第 42 条第2項第6号の要件を満たしていない記載不備と言える。
以上の記載不備は、指示(同法第 46 条)や業務停止命令(同法第 47 条)、さらに
は、刑事罰の対象になる(同法第 71 条第1号)。これに加え、特定商取引法が定める記載事項に不備がある書面を交付しても、同法が要求する書面交付にはあたらない。そのため、クーリング・オフ期間である8日間が進行しないため 9、申立人はいつでもクーリング・オフ権を行使できる(同法第48 条第1項)。
また、本件では相手方がクーリング・オフに関する説明の際に「書面で行う」旨を伝えていなかったのみならず、メッセージアプリやお客様相談センターへの電話による問い合わせをしないと解約ができないかのような説明を行っていた。本来、消費者はクーリング・オフ権を行使する際には書面で行えば足り、事業者に電話等で問い合わせる必要はない。そのため、相手方の行為は、クーリング・オフは書面で行うという事実とは異なることを申立人に対して告げる行為である。とりわけ、契約に関する知識・経験に乏しい若年者にとっては、お客様相談センターに問い合わせをしないとクーリング・オフができないという誤解を与える点で消費者の誤認を導きやすく、ひいては、クーリング・オフを躊躇させる結果となりかねない。このような事業者の行為は、同法第 48 条及び第 49 条に関する事項(同法第 44 条第6号)に関する不実告知
として、行政措置や刑事罰の対象となっている。同法第 48 条第1項括弧書きによれば、これらの事業者の違法行為を受けて消費者が誤認又は困惑してクーリング・オフしな かった場合には、その消費者は、法定書面を受領した日から起算して8日を経過した 場合であっても、いつでもクーリング・オフできる。本件でも以上の相手方の行為に よって申立人が誤認したと言うことができれば、クーリング・オフ妨害に該当する可 能性がある。
イ 不実告知による取消し
本件で申立人は 30 回コースを契約している。その際に、相手方は申立人に対して
「回数が多い方がより効果がある。」と告げて、「全身全顔(64 ヶ所脱毛)30 回コース 約50 万円⇒約44 万円 1回あたり約15,000 円(税抜価格)」旨が記載された価格表 10を示して勧誘している。しかし、実際には4回有料、26 回無料保証の契約であった。このような相手方の行為は、特定商取引法第 44 条第1項第3号にいう、役務の対
9 xxxx=xxxx=xxxx『条解消費者三法(第2 版)』(弘文堂、2021 年)1030 頁
10 本報告書4ページ「価格表の内容」参照
価等についての不実告知に該当し、申立人は、同法第 49 条の2第1号に基づいて、本
件契約の申込みの意思表示を取り消すことができる。その結果、同法第 49 条の2第2項が準用する同法第9条の3第5項に基づき、相手方は申立人から受け取った代金を申立人に返還する義務を負う一方で、申立人は現存利益の限度で返還義務を負う。本件で言えば、申立人がすでに受けた施術相当分の価格返還の有無が問題となる。これについては、役務提供事業者が禁止行為違反の勧誘により締結させた契約から利益を受けることはxxではなく、申込者等にとって提供された役務には価値はないと判断できるので、提供済み役務による利得はないとの考え方をとれば11、本件では申立人に返還義務が発生しない。他方で、申立人が実際に受けた施術が施術として無価値とまでは言えない場合には、申立人はすでに受けた施術分の価格を返還すべきとみることもできる。もっとも、この場合にも、すでに受けた施術の対価を相手方主張の通りに解釈するのは適切ではなく、30 回均等割りで対価を計算すべきである。その理由は後述する。
また、申立人は支払総額や支払方法についての説明も受けていないと主張している。申立人の主張内容が事実であれば、同法第 44 条第2項の故意による事実不告知該当性 が問題となる。もっとも、本件では相手方に事実不告知についての故意、つまり、
「当該事実が当該購入者等の不利益となるものであることを知っており」、かつ、
「当該購入者等が当該事実を認識していないことを知っていること」があったと言えるかどうかが問題となるだろう。
ウ 顧客の知識、経験等に照らして不適当な勧誘
本件では、20 歳代前半の一人暮らしのアルバイト従事者である申立人に対して、収 入が少ないことや長期にわたる契約を結ぶのが初めてであることを知りながら、高額 な契約を勧誘している。この行為は、特定商取引法第46 条第1項第4号、省令第39 条 が定めている「顧客の知識、経験及び財産の状況に照らして不適当と認められる勧誘」にあたり、主務大臣による指示対象行為となる。
エ 誇大広告
本件で相手方は、インターネット上の広告で「月々2,990 円」、「今だけ初月0円」、
「フェイシャル毎回無料」の表示や、「最短3カ月で脱毛卒業!」、「他社3年 当社3カ月 最短2年9カ月短縮可能」等の表示を行っているが、これらの表示は、のちに不当景品類及び不当表示防止法(以下「景品表示法」という。)違反行為該当性の箇所で述べるように、特定商取引法第 43 条及び省令第 37 条の「特定継続的役務の内容又は効果」及び「役務の対価」について「著しく事実に相違する表示」や「実際のものよりも著しく優良であり、若しくは有利であると人を誤認させるような表示」にあたりうる。「著しく」という要件を満たすかについて、立案担当者は、「一般消
11 xx=xx=xx・前掲書553 頁
費者が広告に書いてあることと事実との相違を知っていれば、当然契約に誘い込まれることはない」場合には「著しく」という要件を満たすとしている12。本件のように、特に若年者の場合、月額 2,990 円で、最短で3か月で脱毛卒業であるということが事実と異なることを知っていれば、契約を締結しない可能性が高い。脱毛エステティックサービス契約を結ぶ消費者に若年者が多いことに鑑みても、「著しく」という要件を満たすのではないか。
オ 特定商取引法第49 条による中途解約
本件では、仮に申立人がクーリング・オフ権を行使できないとしても、特定商取引 法第 49 条第1項に基づいて本件契約を解除できる。同条同項に基づく中途解約の場合 には、役務提供事業者が請求できる損害賠償等の額に上限が定められている。本件の ように、「当該特定継続的役務提供契約の解除が特定継続的役務の提供開始後」であ る場合には、特定継続的役務提供事業者である相手方は、「提供された特定継続的役 務の対価に相当する額」と「当該特定継続的役務提供契約の解除によって通常生ずる 損害の額として同法第 41 条第2項の政令で定める役務ごとに政令で定める額」を合算 した額及びこれに対する法定利率による遅延損害金の額を加算した金額を超える額を 申立人に請求することができない(同法第 49 条第2項)。この規定によると、本件で、相手方は、「すでに提供した脱毛エステティックサービス2回分」に、「『契約締結 時の』全体の価格である 30 回コースの金額(約 50 万円) - すでに提供した脱毛エ ステティックサービス2回分(約 16,000 円×2回)に 10/100 を乗じた額、または、
2万円のいずれか低い額」、つまり、本件では「2万円」を加えた金額しか、申立人に請求できない。
もっとも、本件ではすでに提供した脱毛エステサービスの対価がいくらになるかが問題となる。相手方が申立人に交付した契約書面では、「フェイシャル 脱毛」(1回 60 分)が4回目までは1回あたり約 123,000 円となっており、5回目以降はすべて無料となっているが、後述するように、このような単価設定には問題がある。なぜなら、本件で有料で受けられる4回分のサービスと、無料で受けられる5回目以降のサービスの内容は同じだからである。また、申立人は「回数が多い方がより効果がある」と勧誘されて、30 回の施術を受けられる本件契約を締結している。これらの事情をふまえると、30 回の施術すべてが、均等な経済的価値を有する役務であって、4回目までと5回目以降とで対価の有無を区別する合理性はない。特定商取引法の立案担当者が「無償で提供されるとは、単に役務のみが外見上『無償で』提供されることを意味するのではなく、実質的に『無償で』提供されることを意味」するとしており、具体的には、「社会通念上独立して経済的価値を有する役務であって役務の提供を受ける者も当該役務の提供について経済的価値を認識して(すなわち有償であると認識して)いる場合においては、実質的には当該取引全体として有償の役務提供がなされ
12 消費者庁取引対策課ほか編『特定商取引に関する法律の解説(平成28 年版)』(商事法務、2018 年)325 ページ
ているものと考えられる」と述べている点も参考になる13。むしろ、相手方の対価設定をそのまま踏襲すると、提供済み役務の対価が高額となることから、相手方は同法第 49 条第2項に基づく精算や後述する当日キャンセルの場合のキャンセル料を高額にするために本件のような対価を設定しているとみられてしかるべきである。
以上をふまえ、本件では、役務提供1回の単価を、約 50 万円÷30 回で計算した約
16,000 円とすべきである。
また、本件では、すでに提供された役務2回分の対価に加え、当日キャンセルの1回分の代金の徴収をも相手方に認めるか否かが問題となる。本件では、施術当日にキャンセルした場合には、1回分として扱う旨、契約書に書かれている。このキャンセル料規定に基づいて役務を受けてもいない1回分の単価全額を実質的にキャンセル料として没収することの是非が問題となるが、これについては詳しくは次の(3)で述べる。仮に、(単価は相手方主張の単価とは異なり、約 16,000 円とすべきであるとした上で)キャンセル料規定自体は妥当であると言える場合には、提供済み役務2回分にキャンセル分1回分を合算した金額、つまり、約 16,000 円×3回が提供済み役務の対価となる。これに2万円を加えた金額のみを、相手方は申立人に請求でき、それを超える分を請求することは認められない(仮に、その旨を定める規約があっても無効である。同法第 49 条第7項)。
(3) 消費者契約法第9条第1号該当性
本契約では、契約約款第9条で「甲の都合により予約日当日にキャンセルとした場合は、所定のキャンセル料(別紙参照)を乙に支払う」とされ、また、概要書面の「4予約について」において、「予定していた施術料金1回分をキャンセル料として頂戴いたします」と定められている。その上で、(単価設定に問題があることは前述した通りであるが)相手方の単価設定によれば、施術料金1 回分は約123,000 円となり、初回から
4回目までに施術当日にキャンセルした場合には約 123,000 円のキャンセル料を支払うことになる(これに対して、5回目以降の当日キャンセルの場合には、キャンセル料0円となる)。このキャンセル料が、消費者契約法第9条第1号にいう「平均的な損害」を超えるか否かが問題となる。超える場合には、超える部分が無効となり、相手方は消費者に対して無効部分を請求することができない。
同法第9条第1号にいう「当該消費者契約と同種の消費者契約の解除に伴い当該事業者に生ずべき平均的な損害の額」を算定する際には、「当該条項において設定された解除の事由、時期等の区分に応じ」て、具体的には「当該消費者契約の当事者たる個々の事業者に生じる損害の額について、契約の類型ごとに合理的な算出根拠に基づき算定された平均値であり、解除の事由、時期の他、当該契約の特殊性、逸失利益・準備費用・利益率等損害の内容、契約の代替可能性・変更ないし転用可能性等の損害の生じる蓋然
13 消費者庁取引対策課ほか編・前掲書311 ページ
性等の事情に照らし」判断するのが相当であるとされている 14。また、「平均的な損害」は、当該消費者契約の当事者たる個々の事業者に生じる損害の額について、契約の類型 ごとに合理的な算出根拠に基づき算定された平均値である。立案担当者によれば、事業 者には多数の事案について実際に生じる平均的な損害の賠償を受けさせれば足り、それ 以上の賠償請求を認める必要はないからである15。
それでは、本件では、施術当日の解除によって事業者にどのような損害が発生する可能性があるのか。事業者である相手方は当日にキャンセルされることで、施術をしていれば得られたであろう対価を受けることができなくなる。施術日よりも相当前の解除であれば、解除した消費者の予約枠を別の消費者のために転用することで、施術による利益を得られる可能性があるが、当日のキャンセルであると、当該消費者の代わりに別の消費者の施術を行うことで、得られたであろう対価を受ける可能性は低くなる。また、相手方の主張によると、1施術あたりの人件費が数千円かかるとのことであり 16、当日キャンセルされることで、相手方はこの人件費を実際の施術がないにもかかわらず支払わなければならなくなる。しかし、これらの点をふまえた上で、「平均的な損害」の算定に当たっては、次の2点に留意する必要がある。
まず、「平均的な損害」には当該契約が履行されていれば得られたであろう履行利益
も含まれるのか、それとも原状回復を内容とする損害賠償に限定されるのかが、学説・裁判例上問題とされている。契約履行前の解除の場合に、「平均的な損害」には原状回復を内容とするものに限定されるとした裁判例がある一方で(例えば、大阪高判平成 25
年1月25 日判時2187 号30 頁)、履行利益を含めた裁判例もある。学説では、消費者契約が多数の消費者と同種の契約を締結するものであることから、契約の履行前の段階では他の消費者と契約することによって損害を回復することができるのであれば、契約履行前の段階では原状回復賠償に限定されるという説が有力に主張されている 17。本件では、当日に施術をキャンセルされても、他の消費者の施術を引き受けることで相手方が損害を回復できるのであれば、「平均的な損害」に含まれるのは人件費等、契約締結や履行のために必要な費用のみとなろう。
次に、本件では前述したように、施術1回の単価を相手方の主張通りに解するのではなく、役務提供 1 回の単価を、約 50 万円÷30 回で計算した約 16,000 円と解すべきである。そのため、仮に当日キャンセルの場合のキャンセル料徴収が認められる場合にも、約 16,000 円のうち、どれだけの額を事業者が徴収できるかという観点から、「平均的な損害」を算定すべきである。
14 東京地判平成14 年3 月25 日金判1152 号36 頁
15 消費者庁消費者制度課編『逐条解説消費者契約法〔第4 版〕』(商事法務、2019 年)277 ページ
16 本報告書4ページの脚注4参照
17 議論の詳細は、xxx「消費者契約法における不当条項規制の『独自性』と『領分』を求めて」xxxx編著『消費者契約法改正への論点整理』(信山社、2013 年)や、同書67 頁以下を参照。
(4) 景品表示法
本件で相手方は、インターネット上の広告で「月々2,990 円」、「今だけ初月0円」、
「フェイシャル毎回無料」の表示や、「最短3カ月で脱毛卒業!」、「他社3年 当社
3カ月 最短2年9カ月短縮可能」等の表示を行っている。
まず、月額2,990 円で最短3か月の合計8,970 円でサービスを受けられる18かのような 表示をしているが、実際には、本件の申立人がそうであるように、施術回数が多いほど効果があるとして、3か月では終わらないぐらいの多くの回数の施術を申し込むよう勧誘されることから、景品表示法第5条第1号で定められている、商品または役務の内容について、「実際のものよりも著しく優良であると示」す優良誤認表示にもあたりうる。
また、「月額 2,990 円」という表示によって、消費者に対してサブスクリプションの 月額料金と同様、毎月、安価な定額料金を支払えば良いかのような印象を与えているが、この金額は実際には最安値のコース(6回コース)を分割払いにする場合の金額である19。そのことから、同法第5条第2号の「商品又は役務の価格その他の取引条件」について、
「実際のもの又は当該事業者と同種若しくは類似の商品若しくは役務を供給している他の事業者に係るものよりも取引の相手方に著しく有利であると一般消費者に誤認される」表示(有利誤認表示)に該当しうる。
本件のインターネット広告の景品表示法違反該当性を判断する上で参考となるのは、消費者庁が令和4年3月3日に公表した、「セブンエー美容株式会社、株式会社ダイシン及び株式会社エイチフォーに対する景品表示法に基づく措置命令について」である。これによると、「顔・VIO 含む全身脱毛 62 部位が月額 1,409 円」「最短3カ月で脱毛完
了」等の表示につき、実際には3か月で 62 部位の脱毛が完了した場合であっても、本件
役務の対価の総額が 64,790 円以上であったにもかかわらず、あたかも本件役務が最短3か月で62 部位の脱毛が完了するものであって、3か月で62 部位の脱毛が完了した場合の本件役務の対価の総額を 4,227 円であるかのように表示していたとして、同法第5条第
2号の有利誤認に該当すると判断されている。
(5) 本件に特徴的な法的問題ア 価格設定について
本件では、すでに述べたように最初の4回目までが有料役務で、5回目以降は無料 サービスであるという価格設定がされている。このような事業者の設定についての問 題はすでに述べた通りである。しかし、契約自由の原則(民法第 521 条)からすると、契約当事者は契約内容やその対価を強行法規や公序良俗に反しない限り、自由に定め ることができるという点から見て、今回の価格設定をどのように評価できるかが問題 となる。
実際には、例えば、「初回無料」のキャンペーンで消費者に「お試し」してもらう
18 本報告書3ページの「2(1)イ(ウ)」参照
19 本報告書3ページの「2(1)イ(ア)及び(イ)」参照
という価格設定や、本件のようなエステティックサロンで言えば、「カウンセリングは無料」、「カウンセリングは別料金」といった形で細かく価格設定をすることは、経済的に見て全く合理性がないものとは言えない。特に本件のような役務提供契約では、1回の役務提供とその対価の均衡性を判断することや、価格設定のあり方自体が法的に妥当性を欠くかどうかを判断することは必ずしも容易ではない。
しかし、本件の価格設定のあり方は、予約日当日のキャンセル料が高額になり得る 点や、特定商取引法第 49 条の中途解約時の精算規定に基づくと、やはり実質的に提供 済み役務の対価が高額になる点で、事業者が高額なキャンセル料を徴収することが可 能になり、消費者に著しい不利益をもたらすものである。また、すでに述べたように、消費者から見ると、30 回分すべてが均等の金額・役務内容に見える点でも問題がある。このように、価格設定のあり方自体の公序良俗違反性等を問うのが困難であっても、 本件のように、価格設定のあり方によって、キャンセル料・提供済み役務の算定にお いて事業者を不当に利する点や、消費者へ誤解させる勧誘とつながる点で問題が発生 する場合には、価格設定自体の不当性が肯定されうることがわかる。
イ 若年者に対する高額商品購入・役務提供の勧誘について
本件の申立人は若年者であり、本件で相手方が行った勧誘行為には若年者への勧誘行為としては特に問題となる点が多数ある。具体的には、①クーリング・オフをするためには、お客様相談センターに問い合わせなければならないという誤認を与える行為、②若年者の収入に見合わない高額な商品・役務を勧誘する行為、③月額が安いかのような印象を与えたり、施術期間が最短3か月である20かのような誤解を与える広告によって、資産や収入が十分ではない若年者を誘引する行為、④広告や勧誘時の説明で、施術回数あたりの単価や、支払総額、支払方法について十分に説明していない、といった点が問題となる。
①や④については、すでに本報告書でも述べているが、本件の申立人のような若年 者で、高額かつ長期の契約に不慣れな消費者に対しては、特に丁寧な説明が求められ る。この点は、消費者契約法第3条第1項第2号で「消費者契約の締結について勧誘 をするに際しては・・・(略)、個々の消費者の知識及び経験を考慮した上で、消費者の 権利義務その他の消費者契約の内容についての必要な情報を提供する」よう、事業者 に対して努力義務が課されている点をふまえても、留意すべきである。立案担当者も、
また、②や③によって、収入がまだそれほど多くない若年者であっても本件役務提供契約の申込みが可能であるとのイメージを若年者に抱かせながら、実際には本件で
20 本報告書3ページの「2(1)イ(ウ)」参照
21 消費者庁消費者制度課編・前掲書117 ページ
言えば総額 50 万円近くの高額な商品・役務を勧誘する行為の問題性を検討するにあ たっては、金融商品販売で要請されている適合性の原則の考え方にも現れている、当 該消費者に適合しない商品を勧誘することは適切ではないという考え方が参考になる。事業者が、高齢者に対して必要以上に多くの呉服やアクセサリーを購入させたという 事案で、顧客の年齢や職業、収入や資産状況等を考慮した上で、消費者の収入に見合 わない販売契約を締結させる行為が民法第 90 条に反して無効となる可能性を示唆した 判決もある22。本件では、脱毛エステティックが申立人にとって必要性が乏しいと言え るか否かが問題となるため、本件契約を同法第 90 条で無効にするハードルは決して低 くないが、xx年齢引下げに伴い、若年者の取引での保護が一層求められる昨今では、若年者の知識・経験の乏しさにつけ込んで、収入に見合わない取引をさせて過大な利 益を得る行為が暴利行為にあたると言うことができる場面もあるのではないか23。
2 同種・類似被害の再発防止に向けて
(1) 事業者に対して
ア 最初に全額を受け取る料金の設定方法を改善できないのか
近年、特定継続的役務提供案件の中途解約に関するトラブルが目につく。
中でもエステティックサービス契約の中途解約の返金に関するものが多い印象がある。
料金設定が、当初の契約時に継続予定の回数分総額を一括でもらい受け、解約申し出があったとき返金する仕組みに無理はないのか。
中途解約が非常に多い印象である。生活に必至の役務ではないので、通うのが困難な事情が生ずると、やめてしまったり、効果がないと感じて通う熱意が無くなることもあるようである。また、他のエステティックの方がいいと聞くと乗り換えたくなるなど、かなりの割合の顧客が中途解約するようである。
そのため、契約金の入金があっても、その後解約が相次ぐと、返金すべき金額が増え、経営が不安定化すると思われる。そこで、事業者はできるだけ返したくないという気持ちが強くなってトラブルになるようである。
イ 料金に影響する合計の施術回数のうち、恣意的に無料の回を設定すること
通える全体の回数のうち、有料の回と無料の回を区別し、有料の回数を少なくすることで、中途解約時に返金する額を抑えようとする手法が蔓延している。
しかし、この手法も行き過ぎると不合理なものとなり、契約の正当性に疑念が生じかねない。
本件は総額約 50 万円で 30 回通えるコースの契約としながら、そのうち有料の回数
22 高松高裁平成20 年1月29 日判時2012 号79 頁
23 xxx「年齢と取引-若年者をめぐる契約法・消費者法の立法的課題-」xxxx=xxxx『xxxx先生古稀記念・人間の尊厳と法の役割-民法・消費者法を超えて-』(信山社、2018 年)385 頁以下
は4回のみとしていた。そのため有料の回では1回の施術料金が 12 万円を超えるとい
う非常識な料金設定としていた。残りの 26 回は無料だといいながら、結局無料の回数が多くつくことで全体の料金設定は高くされていたのであるから、「26 回分は無料」という表現も欺瞞的である。
このようなことは、中途解約金発生を回避するための脱法的なものと評価されざるを得ないであろう。
ウ 有利誤認・優良誤認の広告について
エステティックサービスの集客は、ほとんどが広告に頼っている。
そのため、広告の表示がつい行き過ぎたものになりやすい傾向は否定できない。
本件でも、月額料金に関する広告は、現実の料金とは合っておらず、また顧客の大半の者が実際に契約するコースについての料金を予想するにも不十分な内容であった。さらに、分割払いが翌月以降の支払いとなることをもって、「今なら初月0円」とうたっていたことも有利誤認となる可能性がある。
さらに、短期間で脱毛の効果が上がるようなこともうたっており、この点は優良誤認となるおそれがある。
有利誤認、優良誤認と認められるような表示の場合は、当然違法であり、場合によっては景品表示法上の課徴金が課される可能性もある。速やかに改善されるべきである。
エ 契約締結時の説明不足
実際の契約の料金が広告に記載されている「月額〇千円」等の表記と乖離し、しかも何種類ものコースや料金が設定されている場合、顧客が自身の結ぶ契約について十分理解できない可能性がある。施術等役務の内容の種類、代金の支払方法、中途解約時の処理など重要なものについては、顧客の理解力の程度に合わせ、理解できるまで時間をかけた丁寧な説明が必要である。理解を助ける分かりやすい説明資料なども必要である。顧客に理解させないまま契約を締結させることのないよう努めなければならない。
オ クーリング・オフの説明
クーリング・オフは、顧客の判断のみで理由無く契約を解約できる制度であり、消費者の重要な権利である。事業者は顧客がクーリング・オフをしづらい状況を作らないよう十分注意しないといけない。そうしないと、クーリング・オフ妨害を問われ、法定書面を交付していても、いつでもクーリング・オフをされてしまう。
クーリング・オフは、顧客がハガキ1枚出すことで完結するものであるのに、その方法を明確に教えず、「事前に電話で相談するように」などというのは、事実上クーリング・オフをしづらくさせる行為になり、クーリング・オフ妨害となる可能性が高い。
カ 顧客が若年層に偏る傾向にあることに留意すべき
脱毛エステティックサービスは、業態上、顧客が 20 歳代以下の若年者に偏る傾向がある。したがって、上記に掲げた料金体系、広告、中途解約の取り決め、説明義務、クーリング・オフの説明などは、若年者であっても理解し適切に行動できるようなものとして定めておかなければならない。
キ 法定書面の不備
本件では事業者が特定商取引法について十分な知識を有しておらず、法定書面の知識も不十分だったことが窺われる。
事業者は、自主規制団体に所属して標準約款を用いる等、契約書に関するトラブルを避ける努力をすべきである。事業者独自の役務を盛り込むなど標準約款を超える規定をおきたいと思うときは、専門家に相談して、不備書面とならないよう注意すべきである。
ク 説明義務の徹底
契約担当者には、特定商取引法の知識等を一定程度身につけさせ、顧客に対し契約内容の説明をする際に、誤ったことや曖昧なことを言わないよう配慮しなければならない。そのために、日頃から、契約担当者の研修を行うなどの努力をしなければならない。
(2) 消費者に対して
ア 脱毛エステティックサービスに対する過剰な期待をしない
そもそも脱毛エステティックサービスがどの程度必要なのか冷静な判断をすべきである。
また、体毛は若い年齢の間は、どうしても次々と生えてくるのが自然であって、脱毛エステティックサービスの効果がどの程度あり、高い費用をかける意味があるのかどうか考えるべきである。
イ 冷静な選択の必要性
脱毛エステティックサービス事業者は、現在街に多数存在する。
それぞれの事業者の施術内容など脱毛の方法にもいくつもの種類があるので、落ち着いて選別すべきである。1度広告を見て「あ、安い!」などと飛びつかないようにすることが肝心である。
料金だけではなく、店舗の場所や施術の日時、方法など様々な要素を何店か比べ、自分が無理なく通えるのかどうかも合わせ考慮して選ぶべきである。
脱毛エステティックサービスでは、途中で止める人がかなりいる。最後まで通いきれるのかどうか慎重に検討すべきである。
ウ 料金の説明を受け、十分理解した上で判断すること
料金設定について、不審に感じることはないか、よく理解した上で考えるべきである。クレジットカードを使って分割で払うと、月額の支払額だけ記憶に残るが、総額がいくらなのか手数料が高額ではないかなど、損をしないよう気を配らなければならない。
また、「毎月分割で払う」という場合も、分割払いの場合とカード債務をリボ払いする場合とでは、発生する手数料・利息などに違いがあるので、その違いをよく理解し、どちらの契約をしようとしているのか、自分が実際にいくら支払わなければならないのか、実感を以て契約をしなければならない。
途中で通えなくなったり、他の店舗に変わりたくなったり、中途解約する人は意外に多い。解約金の扱いがどうなるのか、具体的な金額を確認し、不審なところはないか点検してから契約をするべきである。
エ 業者の施術の技術、健康に与える影響等も留意すること
全身脱毛エステティックサービスは、直接肌に強い刺激を与える施術を行うので、肌トラブルが起きることもある。どういった技術が用いられているのか、十分に熟練したスタッフが従事しているのかなども、契約前に確認しておくのが望ましい。
いったん施術により肌トラブルが生じたとき、店舗側がどのような補償をしてくれるのかなども契約前に確認しておくとよい。そういう場合、スタッフの口約束ではなく、事業者として書面を作って有ることを確認すべきである。
オ 事業者の説明の態度
以上のようなことに関し、事業者が丁寧に説明をしてくれるのかどうか、その態度を見ることも必要である。
料金設定や中途解約時の対応について、分かりやすく説明しないような事業者は、誠実性に疑いがあり、後にトラブルになる可能性が有ることを十分注意しなければならない。
上述のように、現在、街には、非常にたくさんの脱毛エステティックサービスがあふれており、事業者は過当な競争に晒されている。とかく、顧客の利益より自社の利益追及に走りがちである現実が有ることを、頭の隅に入れておかなければならない。
カ 第三者への相談
事業者との間でトラブルが生じたり、疑問点に答えてもらえないなどの不審点が生じたときは、xxな第三者に相談することも重要である。不満を感じながら当該業者に相談しただけだと、結局は事業者の言いなりになってしまうこともある。早め早めに最寄りの消費生活センターに相談すべきである。
(3) 行政に対して
ア 特定継続的役務提供の料金の支払わせ方
最初の契約時に多額の料金を全部支払わせる方法についての規制を考慮できないか。特定継続的役務を巡る問題点として、長期の契約を結んでも、その後中途解約を求
める割合がかなりあることである。最初に料金全額を払うと、その後中途解約時に返金の必要が生じ、事業者の経営も不安定になると思われる。
そのため中途解約金を巡るトラブルが発生するし、また事業者の倒産により多額の被害が顧客に発生する事例も少なくない。
できるだけ施術の都度料金を支払う形式を基本に据えるなど、料金支払い方法の改善がされなければxx的な解決にならないと思われる。
イ 事業者に対する指導等
事業者の中にも特定商取引法の規定について十分な知識が無く、必要な契約書について理解がない例も見られる。専門家に相談することなく、見よう見まねで事業者自身が作成し、さらに自分に都合のいいように修正して使うなど、法が予定する契約とはかけ離れたものが利用されている可能性も高い。
事業内容から、若年者の利用客が多く、今後xx年齢の引き下げで、18 歳の成人が利用客として契約をすることも考えられる。まだ社会経験が乏しく、契約概念などにも通じていないことが想定され、トラブル防止には、丁寧な説明や顧客の意向を事業者側が積極的に聞き取ってあげることが必要になる。
上記のように、事業者の側に法的リテラシーが無く、何のための契約書なのか、特定商取引法の立法目的は何なのかをある程度理解できていないと、若年顧客に誤解させずに契約締結ができないおそれがある。xx年齢の引き下げは、事業者の責任を重くする要素にもなりうるとの意識の元、消費者被害を出さないよう、事業者に対する指導等の対応をしてもらいたい。
ウ 法定書面の電子化
現在、若年者の多くがスマートフォンで広告を見て、さらにその広告に附属されている申し込みのシステムを使って契約申し込みをする場合が多い。
その場合、契約書の電子化が進むと、契約文言は、スクロールして画面を早送りし、よく読まなくなってしまうのではないか。せっかく法定書面の交付を義務づけ、消費 者の注意喚起をしようとしても、肝心の法定書面を消費者が一切読んでいないようで は、目的達成が難しい。
クーリング・オフ規定なども、紙の契約書面を念頭に置いて、字のポイント数や赤字にすることなどが指定されているが、それは本来、消費者の目にとまりやすくするための工夫であった。そうすると、現代のようにスマートフォン画面からの契約申し込みが多く存在する時代にあっては、「消費者の目にとまりやすい」という目的達成の手段が、字のポイント数や赤字であることで達成できるのか、再検討を要する。
時代の変化により契約締結に利用されるツールに変化があるなら、それに応じて特定商取引法上の規定も工夫されるべきである。特に重要なクーリング・オフ規定をスマートフォン画面でどうすれば目にとまるようにするか、技術的な側面からも検討されたい。
特に、令和4年4月より、xx年齢引き下げにより 18 歳から未xx者取消による保護を得られなくなったが、若年者は、脱毛エステティックサービスに対する関心が高いことから、本件のような契約トラブルに巻き込まれやすい。従って、スマートフォン画面からの契約申し込みに対する、法定書面のあり方を、早急に検討されるべきである。
「全身脱毛エステティックサービス契約に係る紛争」処理経過
日 付 | 部会開催等 | x x |
令和3年 11月30日 | 【付託】 | ・紛争の処理を知事から委員会会長に付託 ・あっせん・調停第二部会の設置 |
12月14日 | 第1回部会 | ・紛争内容の確認 ・申立人からの事情聴取 |
令和4年 1月27日 | 第2回部会 | ・相手方からの事情聴取 |
2月22日 | 第3回部会 | ・法的問題点の整理 ・あっせん案の考え方の検討 |
3月16日 | 第4部会 | ・相手方にあっせん案の考え方等を示し、意見交換 ・あっせん案、合意書案の確定 ・報告書骨子の検討 |
3月29日 | (あっせん案) | ・あっせん案を紛争当事者双方に提示 |
4月19日 | 第5回部会 | ・報告書の検討 |
4月26日 | (合意書) | ・合意書の取り交わし |
6月21日 | 【報告】 | ・知事への報告 |
xxx消費者被害救済委員会委員名簿 | |||
令和4年6月21日現在 | |||
学識経験者委員 | (16名) | ||
x x x x | 東京大学 社会科学研究所教授 | ||
xx xxx | 弁護士 | 本件あっせん・調停部会長 | |
x x x | 法政大学 法学部教授 | 本件あっせん・調停部会委員 | |
x x x | 弁護士 | ||
x x x 已 | 東京大学 大学院法学政治学研究科教授 | ||
x x x x | 早稲田大学 大学院法務研究科教授 | 会長代理 | |
xx xxx | 弁護士 | ||
x x x x | xx大学 経済学部教授 | ||
x x x x | 弁護士 | ||
x x x x | 弁護士 | ||
x x x x | 弁護士 | ||
x x x x | 中央大学 大学院法務研究科教授 | ||
x x x 子 | 東京経済大学 現代法学部教授/弁護士 | 会長 | |
xx xxx | 相模女子大学 人間社会学部教授 | ||
x x x x | 早稲田大学 法学学術院教授 | ||
xx xxx | 弁護士 | ||
消費者委員 | (4名) | ||
x x x x | xxx地域消費者団体連絡会 共同代表 | ||
x x x x | 主婦連合会 環境部副部長 | ||
x x x x | xxx生活協同組合連合会 常任組織委員 | ||
x x x 枝 | 特定非営利活動法人xxx地域婦人団体連盟 副会長 | ||
事業者委員 | (4名) | ||
x x x x | 東京商工会議所 産業政策第二部 部長 | ||
x x x | 一般社団法人東京工業団体連合会 専務理事 | ||
x x x | xxx中小企業団体中央会 常勤参事 | ||
x x x | xxx商工会連合会 専務理事 |
-22 -