H20.7
2012 年度司法試験知的財産法(著作xx)
1
問 題
音楽家であるA及びBは,共同で楽曲αを創作し,楽曲αについての著作権を共有している.平成20年7月に,レコード会社Cは,A及びBとの間で,期間を3年とする楽曲αの日本国における利用許諾契約を結び,その後,同契約に基づいて,楽曲αの演奏を録音したレコード
(以下「Cレコード」という.)の製造販売を開始した.また,A及びBは,X国のレコード会社Dに対して,X国における楽曲αについての著作権を譲渡した.レコード会社Dは,X国において,楽曲αの演奏を録音したレコード(以下「Dレコード」という.)を製造し販売している.映画会社Eは,レコード会社Dから利用許諾を得て,X国において,楽曲αをエンディング・テーマとした劇場用映画(以下「E映画」という.)を製作し,映画xxにおいて上映した後,E映画のDVDを製造し販売している.
平成23年5月に,AとCは,上記利用許諾契約を更新しようと考えていたが,Bは,Aとの人間関係のもつれからAを困らせたいと思い,この更新を拒絶した.そのため,Cは,Cレコードの製造を中止し,同年7月までに,その製造したCレコードを全て販売した.しかしながら,Cは,Aからの強い要望を受けて,同年9月に,Bの許諾を得ないまま,Cレコードの製造販売を再開した.レコード店を経営するFは,平成24年2月から,Bの許諾がないという事情を知らずに,CからCレコードを購入していたところ,同年4月に当該事情を知り,その後はCレコードを新たに購入することはやめたが,現在,それ以前に購入したCレコードを消費者に販売している.
以上の事実関係を前提として,以下の設問に答えよ.
[設問]
1.Bは,Cに対してCレコードの製造販売の差止請求をする場合,どのような主張をすべきかについて,Cの反論を想定しつつ,述べよ.
2.Bは,Fに対してCレコードの販売の差止請求をする場合,どのような主張をすべきかについて,Xの反論を想定しつつ,述べよ.
3.Gは,X国においてDレコードを購入し,これを日本に輸入し販売している.Aは,Gに対して,Dレコードの輸入及び販売の各行為につき差止請求をすることができるか.
4.Hは,X国においてE映画のDVDを購入し,これを日本に輸入し販売している.Aは, Hに対して,E映画のDVDの輸入及び販売の各行為につき差止請求をすることができるか.
2
参 考 概 念 図
音楽家
A
共同著作
H20.7
日本国内期間 3 年
レコード会社
C
Cレコード
楽曲
α
製造・販売
楽曲 α
著作権共有
H23.5
B、Aを困らせる意図
更新拒絶
H23.7 終了
A 許諾 H23.9
B 不合意
販売再開
レコード店
Cレコード
F
H24.2
情を知らず購入
H24.4
知情 在庫販売継続
公衆
音楽家
B
著作権譲渡
X
国
レコード会社
D
Dレコード
許
諾 映画会社
E
G
製造・販売
購入
輸入、販売
E 映画
上映
日本
E 映画
H
E DVD
販売 輸入、販売
購入
DVD
3
解 答 例
1【設問1】
(1) B の C に対する請求
B の C に対する請求は,共有著作権(複製権・譲渡権)に基づく妨害排除請求権としての製造
(複製)・販売(譲渡)差止請求権である.
楽曲αは,A と B との共同著作物であり(著作xx 2 条 1 項 12 号),B は,楽曲αの著作権の共有者である(17 条 1 項).C は,B の許諾なく楽曲αを複製して C レコードとして販売し, B の楽曲αに関する共有著作xxの複製権(21 条)及び譲渡権(26 条の 2 第 1 項)を侵害している.B は,単独で差止めを求めることができるので(117 条 1 項),C に対して,C レコードの製造(複製),販売(譲渡)の差止めを請求し(112 条 1 項),その廃棄を求めることができる(同条 2 項).
(2) 予想される C の主張(抗弁)
共同著作権の積極的権利行使は,その共有者全員の合意によらなければできないが(65 条 2項),各共有者は正当な理由がない限り合意の成立を妨げることができない(同条 3 項).これによって,共有者の一人が正当な理由なく合意の成立を妨げた場合は,他の共有者は,反対共有者の合意なく著作権を行使できるとする見解がある.C の反論としてこの主張が検討されることになる.
この見解によるとした場合,C は,平成 23 年 5 月に,楽曲αの著作権の共有者である A と Bに対して,利用許諾契約更新を求めたが,B は A を困らせたいと思い,この更新を拒絶した.この題意により B が正当な理由なく利用許諾契約締結の合意を妨げたのであるから,A の許諾と B が正当な理由なく合意をしない事実があいまって利用許諾契約を締結したのと同じ状況
(利用につき違法性を阻却する抗弁)が認められ,C の行為は楽曲αに関する著作権を侵害するものではないという一応の結論が得られる(この考えを「抗弁説」という.).
(3) C の主張を踏まえた B の主張
C の上記見解に対しては,共有者の一人が正当な理由なく合意の成立を妨げた場合は,意思表示を命ずる判決によって合意を成立させるべきであるという通説的見解を主張することになる(「意思表示判決説」という.).
主張すべき意思表示判決説の論拠として抗弁説の不当性を以下のとおり主張する.抗弁説は,共有著作権者間に合意が形成されない場合に,一人の共有者によって許諾が先行されてしまうことになり,これに対処するためには反対共有者は,著作物の利用者に対し差止請求訴訟を提起せざるを得なくなる.この状況は,本来許諾をするか否かの自由を有する権利者に不当な負担を負わせることになる.
本件では,B の意思表示を命ずる判決はなされておらず,B の合意なきまま A が締結した Cの利用許諾契約だけでは C の利用につき違法性は阻却されず,B の C に対する共有著作権に基づく(1)記載の請求は,認容されることになる.
2【設問2】
(1) B の F に対する請求
ア 意思表示判決説に立った主張
B の F に対する請求権は,共有著作権(譲渡権)に基づく妨害排除請求権としての販売差止請求である.
F は,共有著作権者B の許諾なきまま楽曲αの複製物たるC レコードを消費者に販売し, B の楽曲αに対する共有著作権の譲渡権(26 条の 2 第 1 項)を侵害している.C は,B の共有著作権の関係において,許諾を得た者ではないから,C から F に対する C レコードの譲渡は,26 条の 2 第 2 項 1 号の要件を充足しておらず,B の譲渡権は消尽していない.
よって,B は,F に対して,C レコードの販売の差止め等を請求することができる(26条の 2,117 条 1 項,112 条 1 項,2 項).
イ 抗弁説に対する対抗
F が,1【設問1】における抗弁説を主張してきたとき,1 で述べた B の法的主張に加えて,26 条の 2 第 2 項 1 号の準用が不当であること,さらに消尽理論によってこれを補うことができないことも主張する.B において利得の機会を得ていない状況であるから,消尽規定の準用又は消尽理論が適用になる場合でないことを主張することになる.
(2) 予想される F の主張
F は,C レコードの譲渡を受けた平成 24 年 2 月に,B の許諾がないことを知らなかったのであるから,26 条の 2 第 2 項 1 号の消尽規定が適用されないことを知らず,かつ,C は従前許諾を受けて C レコードを販売していたのであるから,F は,許諾のないことを知らないことにつき過失もなかった者である.したがって,F がC レコードを消費者に譲渡する行為は, 113 条の 2 により B の譲渡権を侵害するものでないという主張が予想される.
(3) みなし著作権侵害による請求
以上のとおり,譲渡権の権利行使に対する抗弁としては,113 条の 2 が機能するが,違法に複製された複製物が譲渡される場合には,別途,113 条 1 項 2 号が問題となる.
C レコードは,B の許諾なく複製された違法複製物である.そして,F は,平成 24 年 4 月に違法複製物であることを知った後も C レコードの消費者への販売を続けているのであるから,「情を知って,頒布」(113 条 1 項 2 号)する者にあたる.したがって,F の行為は,B の複製権を侵害する行為とみなされる.本条により F は B の共有著作権(複製権,譲渡権)を侵害したものとみなされ,F の販売が差止められて,その所有する C レコードの廃棄を求められることになる(113 条 1 項 2 号,117 条 1 項,112 条 1 項,2 項).
3【設問3】
(1) A の G に対する請求
A の G に対する請求権は,共有著作権(譲渡権)に基づく妨害排除請求権としての輸入・販売差止請求権である(26 条の 2 第 1 項,117 条 1 項,112 条 1 項,輸入の差止めは,侵害の停止に必要な措置として許容される(同条 2 項).).
(2) 国際消尽
D レコードは,X 国において,A 及び B からX 国の著作権を譲り受けたD によって適法に複製・譲渡されたものであるから,A の D レコードに対する譲渡権は消尽し(26 条の 2 第 2項 5 号),A の G に対する(1)記載の輸入・販売差止請求は,この点から棄却されるという主張が考えられる.
26 条の 2 第 2 項 5 号は,日本の著作権者と外国における著作権者が同一の場合にそのまま
適用されるけれども,これが区々に分かれた場合には適用の限界がある.これについては 4
【設問 4】(4)と同じ論旨であるからこれに譲る.
なお国際消尽が肯定される場合であっても,113 条 5 項の商業用レコードの環流防止規定に該当する場合には,輸入が差止められる場合がある.D レコードは,C レコードと異なるというのが題意であるから本問はこの場合ではない.
4【設問4】
(1) A の H に対する請求
A の H に対する請求権は,共有著作権(頒布権)に基づく妨害排除請求権としての輸入・販売差止請求権である(26 条 2 項,117 条 1 項,112 条 1 項,2 項).
著作者は,映画の著作物において複製されているその著作物を,当該映画の著作物の複製物により頒布する権利を専有するから(26 条 2 項),A の H に対するE DVD の日本への輸入・販売の差止めは,頒布権に基づくことになる.頒布権は,前述の譲渡権と異なり消尽規定が設けられていないことから,H の国際消尽の抗弁の成否が問題になる.
(2) 消尽理論
頒布権は消尽しない権利として規定されていることになるが,これは,映画の上映を配給ルートを特定することによってコントロールするために規定されたものと考えるべきであって,DVD のようなバッケージソフトについては,別異の考察が求められる.
第 1 譲渡によってその後の当該複製物についての譲渡をコントロールする権利が消尽するという法理は,知的財産xx共通の法理というべきで,特許権,商標権において,夙に論じられ,著作xxにおいてもこれが肯定されるに至っている.「中古ゲームソフト事件」最高裁判決がこの法理を肯定した(国内消尽に関する判例である.).配給を前提としないパッケージソフトの形態をとる複製物においては,当該複製物に関する頒布権は,一旦適法に譲渡されたことによりその目的を達したものとして消尽し,もはや著作権(頒布権)の効力は,当該複製物の再譲渡には及ばない.
(3) 国際消尽
上記(2)で述べたことは,第 1 譲渡が国外で行われた場合も同じであるか.著作権は,創
作と同時に,世界的に 1 つの権利として生じるものであり,国ごとに保護の態様等が異なる
にすぎない.そうすると,ある国における適法な第 1 譲渡によって,国際的に著作権は消尽すると考えられないわけではない.しかし,このように解することは,国ごとに著作物の利
用を許諾等することが多い著作権者の正当な利益を害することにもなりかねない.そこで,国際消尽の場合には,各国ごとの利得の機会の独立性を確保すべきか否かで決すべきで,これを認めうる特段の事情がある場合には消尽しないと考える.
(4) 国ごとに著作権者が異なる場合の考察
そもそも国際消尽が論じられる通常の場面は,権利者が同一又は同一と評価できる場合である.
権利者が国ごとに分かれた場合には,発生の属地性によってこれを分ける特許権,商標権とは異なるものの,著作権の譲渡によってこの帰属が 2 分される場合がある(国を分けての著作権譲渡の有効性について異論がない.著作権譲渡の登録実務もこれに沿っている.).この場合には,特許xxと同様に考えることができる.著作権者が日本の著作権と外国の著作権をそれぞれ別々に譲渡した場合がそれである.
しかし,【設問 4】は日本の著作権者 A,B が日本の著作権をそのままに,X 国の著作権を D に譲渡したケースであって,定形的に各国ごとの利得の機会の独立性を肯定しうる場合ではない.むしろ,A・B が D に著作権を譲渡する際に,利用許諾をした場合と同様に契約によって利得の機会の独立性を確保しうる状況を自ら作ることができた場合ということができよう.そこで,【設問 4】は,国際消尽がない場合に該当するのではなく,E のH に対する E DVD の第 1 譲渡によって国際消尽が生じる事案であると考える.
A の H に対する,輸入・販売差止請求は棄却される.
4
補 追 解 説
本問は,著作物の商品流通に関する総合的知識とその適用能力を問う問題である.簡単に答えようとすればそれなりに,能力のある応試者にとっては極めて高度に難しい問題として答えることになったであろう.著作物の流通(伝達)中,商品(有体物としての)流通は,映画の著作物と映画の著作物において複製されているその著作物について頒布権(著作xx 26 条),その他一般的著作物について譲渡権(26 条の 2)が規律するところである.この両権利には,流通関与者との利益調整のための種々の規定と理論が存在する.これらを統合しつつ両権利の理解に至っているかが問われるところである.能力ある応試者にとってかえって難問となったのではなかろうか.
この総合的知識と統合的理解については,xx『著作xxプラクティス』(勁草書房,2009 年) 41 頁「第 2 講 著作物の商品流通と譲渡権・頒布権」に事例は異なるものの,本問と論点を同じくする「設例と設問」「解答例」が示され,また,私の編著にかかる『著作xxの実務』(経済産業調査会,2010 年)121 頁「著作物の商品流通に関する実務」[拙著]に解説を公表しているところである.
本問は,【設問】1 と 2 は,共有著作権者の積極的権利行使である許諾とこれに関する不合意の共有著作権者の問題を含み(65 条 2 項,3 項の効力を問う問題),善意者に係る譲渡権の特例(113条の 2)と違法複製物の頒布目的所持に関する侵害とみなす行為(113 条 1 項 2 号)の関係を問うものである.【設問】3 と 4 は,譲渡権の国際消尽と頒布権の国際消尽を問うものである.
大きく分けて,65 条 2 項,3 項の効力の問題と著作物の商品流通に関する問題に分けられる.前者は小問で,後者が主たる問題ということになろうか.本4補追解説においては,前者を第 1
とし,後者を第 2 として解説をする(なお,第 2 の解説中に「省略」としたところがある.本問に限った解説とするためであるが,頒布権・譲渡権を総合的かつ統合的に学ぶためにはこれらも必要である.前掲『著作xxの実務』121 頁以下を読むことを推奨する.).
頒布権,譲渡権の総合的・統合的理解を得るために多くの解説を加えた(第 2,1~8).すでにこの理解に到達している者は,第 1 及び第 2,9~11 を読まれたい.
第 1 共有著作権の行使
1 著作xx 65 条 2 項の趣旨
共有著作権は,その共有者全員の合意によらなければ,行使することができない.ここにいう「行使」とは,積極的権利行使をいう.利用許諾契約の締結,出版権の設定,支分権の譲渡及び著作権の譲渡がこれにあたる.65 条 1 項が持分の譲渡に他共有者の同意を得なければならないとされていることからすると,全一体としての権利譲渡である上記の支分権の譲渡及び著作権の譲渡は,全員の合意でこれを行なうことが求められると考えるべきである.
65 条 2 項「行使」には,消極的権利行使(侵害者に対する差止請求権の行使)を含まない.
117 条 1 項に「第 112 条〔差止請求権〕の規定による請求」は,「他の著作権者の同意を得ないで」これを行なうことができるとされているからである.117 条 1 項のこの部分は,民法の共有理論と付合するところである(民法 252 条但書,264 条).この限りで異論のない見解である
1).
共有著作権の積極的権利行使を全員の合意にかからしめた所以は,共同著作でない場合であっても,共有関係にある共有著作権者は,当該著作物の利用について利害が相反することになりかねないことから,統一して権利行使をさせて,利益を調整することにある.
2 合意がない場合の法的効果
(1) 合意の意思表示を命ずる判決
合意なき共有著作権の行使は,著作者人格権の行使と同様(64 条 1 項)利用者の利用行為の違法性を阻却しないと解するのが通説的見解である2).
この説によれば,合意をしない共有者が正当な理由を有しない場合には(65 条 3 項),積極的権利行使をする共有者は反対共有者を相手方として,合意の意思表示をするよう訴訟を提起し,民事xxx 174 条の規定による判決の効果(判決の確定によって意思表示をしたものとみなされる.)をもって合意とすることになる(これを「意思表示判決説」という.).判決確定までの間,一共有著作権者の単独の権利行使は,反対共有者と利用者間において効力を有しないという結論になる(権利行使をした一共有著作権者とこれを受けた利用者との間の有償契約は,全く無効というのではなく権利の一部が他人に属する場合における売主の担保責任によって律せられることになる(民法 559 条,563 条).).合意をするか否かは本来どの共有者にとっても自由な(選択権を有する)のであるから,この請求において正当理由の不存在を請求原因事実と解するのが相当であろう(正当理由の評価根拠事実を抗弁とすべきではない.).本問の事実に沿って考えると,以下のブロック図になる.
(訴訟物)A の B に対する A の許諾合意意思表示請求権
A の C に対する楽曲αに関する利用許諾と同旨の許諾に合意せよという債務名義を求めることになるのであろう.
(い)につき正当理由不存在
評価障害事実
オ
A→B Kg E
あ | A C 楽曲α利用許諾 | |
い | B(あ)につき不合意 | |
(い)につき正当理由不存在評価根拠事実 | ||
う | (い)は A を困らせる意図 | |
え | 従前B はC に利用許諾をしていた |
(オ)が不存在であるから,A の B に対する合意の意思表示を求める請求は,認容されることになる.
(2) 抗弁説
これに対して,65 条 2 項にいう著作権の「行使」とは,権利の積極的な実現というよりは,他の共有者が積極的な権利行使に及ぶ場合の消極的な容認であると理解したうえで,まず,他共有者の権利行使をとりあえず適法なものとして取扱い,反対共有者が差止請求権を提起して来たときに,その不合意が正当理由のないものであることを抗弁として提出しうるという見解が生じている.この抗弁は,反対共有者が合意を拒否する正当理由がないことをもって同人から当該著作物の利用者に対する差止請求権は権利濫用として許されないという構成を取るものもある3.正当理由の不存在を抗弁とするところから,「抗弁説」ということができよう.問題に沿って整理すると以下のようになるであろう.
(訴訟物)B の C に対する共有著作権(複製権,譲渡権)に基づく妨害排除請求権としての
C レコード製造・販売差止請求権
(エ)につき正当理由
不存在 評価障害事実
き
あ | A・B 楽曲α共同著作 |
い | C C レコード製造 (複製)・販売(公衆 へ譲渡) |
ウ | A C 楽曲α利用許諾 | |
エ | B(ウ)につき不合意 | |
(エ)につき正当理由不存在評価根拠事実 | ||
オ | (エ)は A を困らせる意図 | |
カ | 従前 B はC に利用許諾をしていた |
B→C Kg E R
C の抗弁が成立して,B の C に対する差止請求は棄却されることになる.
(3) 両説の検討
通説の意思表決を命ずる判決を得て,民事xxx 174 条による執行(意思表示の擬制)によってはじめて,A の許諾が有効(B の合意に変わる判決の確定と相俟って,A,B の許諾が成立すると考える.)になるとする論拠は,以下のとおりである.
① 共有著作権は,本来それぞれ権利行使を選択する自由を有するのであるから,一人の共
有者が先行して積極的権利行使をしてしまった場合に,反対共有者が第三者である利用者を相手として差止請求訴訟を提起しなければならないという抗弁説は,あまりにも反対共有者に負担が大きすぎる.この結果,反対共有者に正当理由がある場合であっても,先行する共有者の権利行使が許容されてしまうという不都合が生じる.
② 抗弁説は,65 条 2 項の「行使」を積極的権利行使とは読まず,消極的な許容であるという前提に立つのであるが,64 条,65 条中にある「行使」は積極的権利行使をいい,特に 65 条の「行使」の典型例は許諾であることに異論はない.抗弁説の解釈には無理がある.
③ 意思表示判決説によると,一人の反対者によって著作物の利用が頓挫することから,他の共有者からみれば,自己の特分に対する著作権侵害となるという.しかし,この論は,逆に言うならば先行共有者による行使(許諾)を有効とする場合には,反対共有者の特分に対する侵害であるということになる.本問のように,B の正当理由が決定的に不存在の場合ならば,抗弁説が妥当性を有するように見えるのであるが,現実の事案は,相応に理由があるものである.問題は正当理由による調整を訴訟手続上どのように完結させるかの問題である.先行共有者の行使を適法として第三者の利用が生じてしまう抗弁説にはこの調整的機能がない.第三者の利用を違法としつつ,これをあえて先行させても反対共有者の不合意が許されるべきでないとする先行共有者が意思表示を命ずる判決を求めて訴訟を提起させることの方が正当理由の強・弱を調整しているのではなかろうか.正当事由不存在が強い場合,先行共有者はxxによる利用を断行するであろう.正当事由不存在が弱い場合,先行共有者はまず意思表示判決を得るようになるであろう.意思表示判決説に立ちつつも,正当事由不存在が顕著な場合に権利濫用を使って抗弁とする場合も考えられよう.また,意思表示判決説に立って判決確定までの第三者の利用を不法行為としない(遡及して適法とみなす)見解を取るべきである.これらの諸検討によって,意思表示判決説が妥当であると考える.
(4) 【設問 1】の解答の仕方
本問においては,抗弁説に立って解答するときに,C の C レコードの製造・販売も,F の販売もともに適法ということになる.そうすると,F が情を知るか否かにかかわらず,B は販売を差止められないということになる.善意者に係る譲渡権の特例(113 条の 2)と侵害とみなす行為(113 条 1 項 2 号)の知情を問疑する必要がないということになる.出題の意図は明白にこの両条の知情の時期を問うところであるのに,抗弁説を取ってしまうと,論点の大きな 1 つを失うという問題があるように思われる.【設問 1】は,B の立場で C の反論(抗弁説)を想定しつつ意思表示判決説を主張せよという趣旨になることに留意しなければならない.
第 2 著作物の商品流通(頒布権・譲渡権)
はじめに
表 1 著作物を公衆に伝達する 3 つの方法
著作物を公衆に伝達する方法 | 定義規定 | 著作者の権利(支分権),著作者が設定する権利 | |||
①直接著作物を人の行為によって公衆に伝達する方法 | 実演 (2 条 1 項 3 号)上演 (2 条 1 項 16 号)上映 (2 条 1 項 17 号)口述 (2 条 1 項 18 号)録音・録画物の再生 (2 条 7 項) | 上演権及び演奏権 (22 条)上映権 (22 条の 2)口述権 (24 条) | |||
展示権 (25 条)(展示権は,原作品の占有を移転することなく公衆に伝える方法である) | |||||
②電気通信又は有線電気通信の設備を介して著作物を公衆に伝達する方法 | 公衆送信 (2 条 1 項 7 号の 2)放送 (2 条 1 項 8 号)有線放送 (2 条 1 項 9 号の 2)自動公衆送信 (2 条 1 項 9 号の 4) | 公衆送信権 (23 条 1 項)放送権 有線放送 自動公衆送信権 | |||
送信可能化 (2 条 1 項 9 号の 5) | 公衆伝達権 (23 条 2 項)送信可能化権 (著作隣接権 92 条の 2,96 条の 2,99 条の 2,100 条の 4)* | ||||
頒布権・譲渡権の外延を画する法理と規定 | |||||
③著作物の複 | 頒布 | 頒布権 | ・頒布権の消尽理論(最判平成 14 年 4 月 25 日) ・譲渡権の制限規定(47 条の 9) ・侵害となるべき行為によって作成された複製物の輸入(113 条 1 項 1 号) ・違法複製物の頒布・頒布目的の所持(113 条 1 項 2 号) ・還流レコードについての特例措置 (113 条 5 項) ・善意者に係る譲渡権の特例(113条の 2) | ||
製物の占有 を移転する | (2 条 1 項 19 号) | (26 条) 譲渡権 | |||
ことにより 公衆に伝達 | 貸与(2 条 8 項) | (26 条の 2 第 1 項) 貸与権 | |||
する方法 | (26 条の 3) 出版権 | ||||
(79 条~88 条)(出版権は複製と譲渡を設定する制限物権である) |
著作権法は,文化の発展に寄与することを目的とすることから(著 1 条),著作物を公衆に伝達する行為を支分権として捕捉するとともに,この伝達機能を阻害する状況を回避するという調整機能を果たさなければならない.
著作物の伝達方法は大きく分けて 3 つある.表 1①ないし③のようになる(*以外は著作隣接権の関係条文を除く).
著作権法上著作物を複製物として公衆に提供する方法は,複製物の譲渡と貸与である.著作権法は,一般の著作物の著作者がこれを専有する権利として,譲渡権(著 26 条の 2)と貸与権(著 26 条の 3)を定めている.映画の著作物の著作者については,譲渡権と貸与権を一まとめにしたような頒布権を定めている.
図 1 頒布概念と頒布権
2 条 1 項 19 号(頒布の定義) | 26 条(頒布権) |
①頒布の一般的概念: 公衆に譲渡し,又は貸与すること | |
②映画の著作物と映画の著作物において複製されている著作物における頒布概念: 公衆に提示することを目的として譲渡し,又は貸与 することを含む たとえば,公に上映,公衆送信するために映画の著作物を 1 つ譲渡することも頒布に含まれる. |
(注)①頒布の一般的概念は,著作権法上所々で使用されている頒布の概念(ex.3 条発行の定義,113 条 1 項 2
号頒布・頒布目的所持のみなし侵害)である.
なぜこのような立法をしなければならなかったのか,複製物を公衆に提供するという場面において映画の著作物の特性を反映させなければならないことによる.これは,頒布概念と消尽論の適用に現れるところである.消尽論は著作権法に限らず知的財産権法上の法理であって,なかなか難しい問題を提起している.頒布権のそれと譲渡権のそれを対比して学ぶこと,すなわち頒布・譲渡に関する関係条文を一括して学ぶことが理解を深めることになる.
本稿では,③に示す頒布権と譲渡権を論ずることとなる,そこで,これらの権利の実質的拡大・縮小とみることのできる消尽論,制限規定,侵害とみなす行為と侵害する行為でないものとみなす規定について下記に示す.これが本稿で論ずる頒布権,譲渡権の外延を画する法理と規定ということになる.
本稿において「消尽論」は,知的財産権の法理としての「消尽理論」と法定されている「消尽規定」の両者を含む意味で使用する.
譲渡権は著作物の原作品又は複製物に関する権利として規定されている,本稿においては原作品を考察することに格別の意味がないので(後記注 1),「複製物」として論述する.
本稿において,「映画の著作物」と「映画の著作物において複製されている著作物」を区別して扱う必要のないところは単に「映画の著作物」として記述する.
1. 著作権法上の頒布と譲渡
(1) 頒布概念と頒布権
著作権法は,頒布を次のように定義している.
「頒布 有償であるか又は無償であるかを問わず,複製物を公衆に譲渡し,又は貸与することをいい,映画の著作物又は映画の著作物において複製されている著作物にあっては,これらの著作物を公衆に提示することを目的として当該映画の著作物の複製物を譲渡し,又は貸与することを含むものとする.」(著 2 条 1 項 19 号)
ここには 2 つの頒布概念が示されていることになる.
① 一般の著作物に関する頒布であって,公衆に譲渡し又は貸与する行為をいう.たとえば出版物を公衆に販売するなどの行為がこれにあたる.特定の 1 人に複製物を 1 っ譲渡することは頒布に含まれないことを示している.
② 映画の著作物に関する頒布概念である.映画の著作物において複製されている著作物は,映画に使用されている音楽,映画の映像として取り込まれている美術の著作物がこれに入る,アニメ映画の場合は既存のキャラクターや設定画として創作された乗物などが考えられる.映画の著作物は,①の頒布の他に,公衆に提示することを目的として特定の 1 人に複製物を譲渡し又は貸与することが含まれることになる.ここに公衆に提示するとは,無形の利用すなわち公衆に上映(著 2 条 1 項 17 号)し公衆送信(著 2 条 1 項 7 号の 2)する
ことである.映画の著作物の複製物たる 1 本のフィルムやデジタルデータを上映の目的,
放送の目的を有する 1 人に譲渡することは,頒布に該当することを意味している.頒布権は,映画の著作物の著作者のそれと,映画の著作物において複製されている著作物の著作者のそれとがあり,定義規定である 2 条 1 項 19 号を介して,頒布を専有する権利であると
いうことになる(著 26 条).
以上を図 1 に示すと前頁のとおりである.
(2) 譲渡概念と譲渡権
譲渡について著作権法上定義規定がない.前述の頒布概念(著 2 条 1 項 19 号)は,「譲渡又は貸与すること」とあるように「譲渡」の文言をそのまま使用している.譲渡は一般法概念として定着しているのでこれをそのまま使用したことになる.譲渡とは,有償・無償を問
わず有体物たる複製物の所有権を移転することである.
譲渡権は,複製物4)を「譲渡により公衆に提供する権利」であるから,公衆提供が生じない 1 人だけに少数の複製物を譲渡することを含まない.その第 1 類型は,相当部数の複製物を直接公衆に譲渡することであり(図 2-1),第 2 類型は,特定・少数に対して相当部数(公衆の要求を満たすことができる相当程度の部数,参考著 3 条 1 項)の複製物を譲渡することである(図 2-2).従って,出版社が出版物を出版取次 1 社に譲渡することも「譲渡により公衆に提供する」ことになる,「公衆に提供する」とは,複製物が公衆の占有に移転すること(譲渡と貸与がこれにあたる)と観念することができる.
図 2-1 26 条の 2(譲渡権)の対象となる譲渡(第 1 類型)
図 2-2 26 条の 2(譲渡権)の対象となる譲渡(第 2 類型)
上記の譲渡権の対象となる第 1・第 2 類型の譲渡は,頒布権の頒布の内,公衆に譲渡(著 2
条 1 項 19 号)にもあてはまる.
(3) 映画・映像の著作物において翻案・複製されている著作物の頒布について(省略)
2. 頒布権と譲渡権の差異
(1) 消尽規定の有無
次に頒布権と譲渡権の差異を明確にしておく.この差異があることによって法律効果が異なり,映画の著作物に関する頒布権と一般の著作物に関する譲渡権に二分した意味が理解できることになる.
譲渡権は,一般の著作物に認められる権利で,その複製物の譲渡により公衆に提供する権利である(著 26 条の 2 第 1 項),
この譲渡権は,26 条の 2 第 2 項に定める場合に消尽する権利として定められており,頒布権にはこれらの規定がないことから,文理上は消尽しない権利として定められていることになる(表 2).26 条の 2 第 2 項は後に解説するので,ここでは譲渡権者が複製物を譲渡したその複製物については,その後譲渡権は機能しないという理解に止めておいてよい.
表 2 頒布権と譲渡権の差異 消尽規定の有無
映画の著作物の著作者の頒布権 | 一般の著作物の著作者の譲渡権 |
頒布権には,26 条の 2 第 2 項に該当する規定がない. 頒布権は,文理上は消尽しない権利として規定されていることになる. | 譲渡権(26 条の 2 第 1 項) 譲渡(有償・無償を問わない所有権の移転)により公衆に提供する権利 譲渡権の消尽(同条第 2 項) |
(2) 消尽理論(First sale doctrine)
消尽理論とは,権利者又は権利者から許諾を得た者が権利を実現した物(ex.著作物の複製物,発明の実施品,商標を付した商品)を適法に譲渡(第 1 譲渡)した後は,その後の譲
渡(第 2 譲渡)について権利行使ができない(権利が第 1 譲渡(First sale)によって使い尽くされて(消尽 Exhausted)しまって第 2 譲渡(Second sale)に権利が及ばない)ことを説明する法理ということができる(図 4).著作権法に限らない知的財産法の一般法理である.特許法,商標法において論じられて来た法理であって,並行輸入との関係で国際消尽論として論じられてきた.
甲は,乙に販売する段階で販売の客体たる複製物の対価を取得できるので(取得できる機会を得る.従って First sale が無償の譲渡でも同じ),当該複製物については,譲渡に関する権利は使い切ってしまったと考える.そこで乙から丙に対する販売につき譲渡権は,行使しえないということになる.これは,たとえ条文がなくとも法理として当然に認められる5).
図 4 消尽理論
これには次項以下の 2 つの事案につき消尽の成否が考察されなければならない.
3. 特許権・商標権の国際消尽と著作権の国際消尽
(1) 特許権の国際消尽
特許法・商標法は,出願,審査,登録を経て各国ごとに権利が発生することから,同一発明,同一商標についても各国ごとに複数の権利が生じることになる(属地主義),そこで,First sale が海外で行われ,これが日本に並行輸入される(Second sale)場合に消尽を認めるべきか否かが論じられてきた.特許権に関する BBS アルミホイール並行輸入事件において,最高裁は,実質的に国際消尽を認め,ただし,ドイツにおいて販売先ないし使用地域から我が国を
除外する旨を譲受人と合意して転得者においてもこれを承知しうるように当該製品に表示している場合には,特許権者は日本に輸入することの差止めを求めることができるとした(図 5)6).
この判決において,特許発明実施品の並行輸入に完全の国際消尽の法理を認めなかった所以は,特許権の属地主義(ドイツの特許権と日本の特許権はそれぞれ別の手続により付与されて 2 個存在している)ことと無関係ではないように思われる.
図 5 特許権の国際消尽(BBS タイヤホイール並行輸入事件 最高裁判決)
日本市場用輸出
ドイツ
特許権者 A
B
日本
販売
BBS タイヤホイール
並行輸入
差止
日本の特許権: 国際消尽
ドイツ国内に限る合意・表示
ドイツの特許
消尽しない!
B 輸出
(注)特許権者A による日本向けの輸出が,日本の代理店に対するライセンス契約のケースもある.
我が国を除外する合意とその旨を当該製品に明示することによって,特許権が消尽しない理由として,最高裁判所は,「特許権者の権利に目を向けるときは,特許権者が国外での特許製品の譲渡に当たって我が国における特許権行使の権利を留保することは許されるというべきであり,特許権者が,右譲渡の際に,譲受人との間で特許製品の販売先ないし使用地域から我が国を除外する旨を合意し,製品にこれを明確に表示した場合には,転得者もまた,製品の流通過程において他人が介在しているとしても,当該製品につきその旨の制限が付されていることを認識し得るものであって,右制限の存在を前提として当該製品を購入するかどうかを自由な意思により決定することができる.」と判示している.
(2) 商標権の国際消尽
商標権の国際消尽について,最高裁判所は,真正商品(商標権者又はこの許諾を得た者による登録商標が付された商品)の並行輸入について,商標権の国際消尽を肯定する(裁判所は,「実質的違法性を欠く」として並行輸入の我が国商標権に基づく差止請求を棄却する.真正商品につき商標権の国際消尽を肯定したものと思料する.)7).
(3) 著作権の国際消尽
著作権法上,映画の著作物に関する頒布権によっては並行輸入を差止めることができるとする判例がある(101 匹ワンちゃん事件)8).論拠は,①映画館での上映用のフィルムだけではなく,ビデオカセットについても映画の頒布権が及ぶ.②米国で著作権者の許諾を受けて正規に製造販売された映画のビデオカセットを,著作権者の許諾を受けずに日本国内にて輸入し販売する行為は,著作権者が日本国内にて有している頒布権を侵害する違法な行為である.②については,米国での頒布の際の許諾料には,米国外での頒布の許諾料が含まれているとは認められないから,日本国内での頒布権は,消尽していないとの判示がなされている.
図 6 著作権の国際消尽(101 匹ワンちゃん事件 東京地裁判決)
日本市場用輸出
米国
映画の著作者
著作権者 A B
販売
日本
「101 匹ワンちゃん」
並行輸入
差止 ○
米国著作権者 A の頒布権消尽しない
B 輸出
後述するとおり,頒布権の国内消尽についてすでに最高裁判決が出されるに至り,平成 11年以降の著作権法改正において,頒布権,譲渡権に関連する規定の整備がなされるに至っている.これらを踏まえて,「101 匹ワンちゃん事件」の再評価が求められている(後述 10 にこの考察をする.).
4. 中古ゲームソフトの販売と頒布権の消尽
次に,映画の著作物の複製物(PC 用ゲームソフトのパッケージプロダクト)の頒布権がファーストセールで消尽するか否かが争われたケースが生じ,最高裁は文理に拘泥することなく,一般法理としての消尽論を肯定した9)10).
ゲーム開発会社は,ゲームの出力たる映像について,映画の著作物としての著作権を有していて,この消尽しない頒布権によって中古ゲーム販売業者の中古ゲームソフトの販売を差止めうると主張した.
下級審の判断は区々に分かれ,ゲーム出力の映像について映画の著作物性を肯定したもの否定したもの,この映画の著作物について頒布権を肯定するものと否定するもの(一般の著作物と同様に譲渡権を適用するもの),肯定するものであっても消尽するとするものと消尽しないとするものの判決が出るに至り,最高裁の判断が待たれた(図 7).
最高裁は,ゲームソフトの出力映像を映画の著作物であることを肯定し,さらに映画の著作物に認められる頒布権(著 26 条 1 項)を肯定し,そのうえでこの頒布権は知的財産法一般法理としての消尽理論によって消尽するものであることを判示した,最高裁の考えは,頒布権(著 26 条)に消尽規定がないのは,劇場用映画の上映を配給ルートでコントロールするためであって(図 8),たとえ映画の著作物であってもパッケージプロダクトとして販売に供された複製物に関して,権利者又はこの許諾を得て販売する者から販売されたときに(First sale),頒布権は消尽するというものである.
最高裁判所の考え方は,劇場用映画の上映をともなう頒布につき,頒布権は消尽しないが,その余の頒布については,特許権等の国内消尽と同様の解釈に委ねられるという結論になる,この最高裁判後は,101 匹ワンちゃん事件において判示されたパッケージプロダクトの並行 輸入について国際消尽しない(輸入を差止められる)という東京地方裁判所判決の判断が変更
されたのかという問題を提起している(中古ゲームソフト最高裁判決の射程).
小売店
販売
(First sale)
消
費者
ゲーム
頒布権 パッケージ商品
中古販売
(Second sale)
差止請求
下級審の判断から見る議論の可能性と最高裁判所の判断
ゲーム開発会社ゲームの出力影像を映画の著作物として頒布権を有すると主張
図 7 中古ゲームソフトの販売と頒布権の消尽
ゲームの出力影像は映画の著作物か否か | 頒布権か譲渡権か | 消尽の有無 | 中古ゲームソフト販売差止請求 |
否 定 (影像に連続性がないものは否定される) | 譲渡権 (26 条の 2) | 消尽規定により消尽する (26 条の 2 第 2 項 1 号) | 請求棄却 |
肯 定 (影像に連続性のあるものは肯定されている) | 譲渡権 (26 条の 2) | 消尽規定により消尽する (26 条の 2 第 2 項 1 号) | 請求棄却 |
頒布権 (26 条) | 一般消尽理論によって消尽する | 請求棄却 | |
26 条の頒布権は消尽しない | 請求認容 |
図 8 劇場用映画の上映と配給
譲
A1→A2
↑ ↓
A4←A3
渡
上映館
B ルート
B1→B2
↑ ↓
B4←B3
指定ルート外への配給 B3→C
上映の対価を配給ルートをコントロールすることによって確保する
頒布権による差止請求
映画の 著作物の著作者
上映館
A ルート
5. 譲渡権の消尽(著 26 条の 2 第 2 項)
26 条の 2 は,平成 11 年改正により設けられた規定である.これまでは映画の頒布権に関する規定が存在したものの,一般の著作物の譲渡に関する規定はなく,譲渡前の複製を捉え・複製権の侵害又は複製権を侵害する複製物の所持・頒布に関するみなし侵害規定(著 113 条 1 項
2 号)によって規律されていたところである.WIPO 著作権条約 6 条が一般の著作物に関する譲渡権の保護を規定したことにより本条が設けられ,合わせて First sale 後の譲渡権の消尽について明文規定を置くこととした(著 26 条 2 項第 2 項).
譲渡権はどのような場合に消尽するのかを見てみよう.
① 1 号は,典型的な First sale doctrine を示すものである.譲渡権者又はその被許諾者により公衆に譲渡された著作物の複製物については,その後の譲渡について頒布権による差止めはできないことを規定する.
図 9-1 譲渡権の消尽規定(国内消尽)
譲渡権者
被許諾者
公衆に譲渡
First sale
第一譲受人
譲渡により公衆に提供
譲渡権
差止 ×
消尽
② 2 号から 4 号は,省略する.
③ 5 号は,譲渡権の国際消尽を規定したものである.1 号と同様の First sale が国外において存在する場合に,日本国内における Second sale(輸入を含む)について譲渡権による差止めができないことを規定する.
図 9-4 譲渡権の消尽規定(国際消尽)
日本市場用輸出
米国プログラム
開発会社 A B
販売
日本
ex. コンピュータ・プログラム
並行輸入
差止 ×
米国著作権者 A
譲渡権消尽
B 輸出
頒布権の国際消尽を否定した 101 匹ワンちゃん事件と同じ案件については本号によって定ま
るものではないことに留意を要する(図 6 と図 9-4 を対比して検討されたい.),
6. 消尽しない譲渡権の善意取得者の特例(著 113 条の 2)
本条は,違法譲渡について善意無過失である者が行う公衆への譲渡を譲渡権侵害でないものとみなす特例を規定したものである.著作物の複製物の円滑な流通を確保するための調整の観点から,譲渡権・譲渡権の消尽とともに平成 11 年改正で設けられた.
そもそも譲渡と複製は一連の利用行為として行われることが多いことから,複製権と譲渡権が同一人に帰属し,複製許諾契約と譲渡許諾契約が同時に締結される場合が多いと考えられる上に,権利の消尽(著 26 条の 2 第 2 項)の適用により,市場に流通する複製物について譲渡権が単独で問題となる場面は多くはない.しかしながら,最初の譲渡が適法に行われなかった場
合には,当該著作物の複製物について譲渡権が消尽しないから,いつでも譲渡権に基づく差止請求などの救済措置を求めることが可能となるわけである.このように最初の譲渡が適法に行われなかった場合にいつでも譲渡権が行使できることとなると,複製物の所有という外形を信頼して取引を行った善意無過失の者の行う譲渡にも譲渡権を及ぼすことが可能となり,取引の安全の確保の見地から適当でない,複製物を取得した第三者が不当に不利益を被ることがないよう,譲渡権が消尽していないことを知らず,かつ知らないことについて過失のない者を保護する規定である.
この最初の譲渡が適法に行われなかった場合とは,例えば,著作権者(譲渡権者)あるいは複製と譲渡ともに許諾を得た者(ex.著作者から出版の許諾を得た出版社)が複製を完了した段階で(出版物の完成),譲渡のみが無許諾者によって行われた場合(ex.出版物の横流し,出版物の盗取による譲渡)が考えられる(図 10).この場合の First sale は違法であって 26 条の 2第 2 項の適用を受けない.譲渡権者は,譲渡権によって Second sale に対する差止請求権を有することになる,そこで下記要件の下で Second sale を許容することとした.
本条の適用が認められる要件は,公衆への譲渡を行う主体が,複製物の譲渡を受けたときに善意無過失であることである.この善意無過失の判断を行う時点を譲渡を受けたときとしたのは,違法譲渡であるか否かは違法複製物であるか否かとは異なり,外形上判断することが困難であると考えられることから,著作物の円滑な流通に配慮する必要があると考えられることによる.
これにより,違法譲渡物を譲り受けた時点で善意無過失であれば,その後更に公衆に譲渡を行う場合に悪意となっていたとしても,譲渡権侵害ではないものとみなされることとなる(この点で,情を知って違法複製物を頒布することをみなし侵害とする著 113 条 1 項 2 号と異なる).なお,これは譲渡権侵害でないことを擬制するものであるから,譲渡権は消尽しておらず,その後の著作物の複製物の流通の過程において違法譲渡について譲受時に悪意又は善意有過失の者がいれば,その者に対しては,譲渡権を行使することが可能である.
図 10 消尽しない譲渡権の善意取得者の特例
(注)日本の出版物の流通形態から,流通業者は特定されていることが多く,それ以外の者による第一次販売は,第一次譲受人の有過失が立証されうる場合が多いと考えられる.
7. 譲渡権の制限規定(著 47 条の 9)(省略)
8. 頒布に関するみなし侵害規定
113 条のみなし侵害規定を見ると,頒布に関連してみなし侵害行為となる 3 つの規定が存在する.頒布権,譲渡権の実質的拡大であるだけでなく,条文相互の関係を理解するために重要であるから,ここでこれらの解説を加えることとする.
(1) 侵害となるべき行為によって作成された複製物の輸入(113 条 1 項 1 号)(省略)
(2) 違法複製物の頒布,頒布目的の所持(著 113 条 1 項 2 号)これについても,複製と頒布の関係で捉え,解説をする.
複製権を侵害する行為によって作成された物をそれと知って頒布し,又は頒布の目的をもって所持する行為は著作権を侵害する行為とみなされる.
著作権者(A)の著作物を複製権を侵害する者(B)が複製物としたうえでこれを譲受人(C)に譲渡した場合,C は`この限りにおいて著作権を侵害していない(譲受けは情を知っていても何らの支分権侵害を構成しない).しかし,C がその複製物を情を知って頒布すれば,違法複製物が公衆に提供される結果になることから,この頒布を著作権侵害としたのである.こ こに「情を知って」は,譲受時ではなく頒布時である(この点著 113 条の 2 善意取得者に係る譲渡権の特例が譲受け時に情を知らなければ,その後これを知っても特例の保護を受けるのと異なる.).従って,譲受人 C が譲受け後,頒布までの間にその所持する複製物が違法複製物である旨を著作権者が通知すれば(情を知るに至る具体的根拠を示すことになる.),その後の頒布を禁止することができる.
さらに,本条の重要な点は,頒布の目的をもって所持する行為を著作権侵害とみなすとこ
ろにある.権利者が上述の通知を発し譲受人を情を知る者にしておくことによって,その者が所持をする複製物について頒布の禁止を請求できて(著 112 条 1 項),所持する違法複製物
の廃棄を求めることができることになる(著 112 条 2 項)(図 13).
さらに,譲受人 C があらかじめ B の違法行為を承知して,譲り受けるなど悪質な場合(海賊版複製業者と業を分けて販売を担当する者)には,このみなし侵害とされる行為が著作権法 119 条 1 号の著作権を侵害した者に該当することになることから,刑事責任を追求することもできることになる.海賊版の所持をする者を逮捕し海賊版を差押さえることもできるということになる.この抑止効果によって,海賊版販売業者を市場から排除する効果は大きいと言われている.
図 13 違法複製物の頒布・頒布目的の所持
(3) 還流レコードについての特例措置(著 113 条 5 項)
一般の著作物に関する譲渡権は国際消尽(著 26 条の 2 第 2 項 5 号)することについてすでに述べたとおりである(5,④).従って,この限りであれば,日本の著作権者が外国において複製,頒布することを許諾した複製物を被許諾者又はこの者から譲り受けた者が日本国内に複製物を輸出し,これを日本国内において輸入することができる(この輸出行為が著作権者との間における許諾契約に違反することがあるのは別論である.).
平成 16 年の法改正において,113 条 5 項の規定が設けられ,国内で発行されている商業用レコードと同一のものを,専ら国外での頒布目的で権利者が自ら又は他社にライセンスを付与して国外で発行している場合において,そのような国外頒布目的専用の商業用レコードであると知りながら日本国内に輸入する行為,国内で頒布する行為又は頒布目的で所持する行為を著作権を侵害するものとみなしている.これは,国内外の価格差により,国外で安価に製造販売されている商業用レコードが国内で流通することによる関係権利者の経済的な利益の損失を防ぐことを目的とするものである.また,我が国の音楽文化を諸国に普及させるためには,商業用レコードの国外での製造販売のライセンス付与を促進することが望まれるという事情もあった.
前述した現行法の国際消尽(著 26 条の 2 第 2 項 5 号)を,いわゆる還流レコードの防止のために再度転換することは,国際的な著作物(複製物)の円滑な流通に対する影響や他の知的財産権法制との関連などから,到底できるものではない.そこで,国際消尽を維持しつつ,還流レコードに限って,これを防止するという特別の政策目的を達成するため,113 条 5 項の規定が設けられた.国際消尽を原則としつつ,還流レコードについては,消尽をしない例
外の穴を空けたような形になっている(図 14).
113 条 5 項を著作権,複製,頒布の関係で捉え,以下のように 3 つの要件に分けて読むと判りやすい.
① 「(日本)国内において頒布することを目的とする商業用レコード(国内頒布目的商業用レコード)を(著作権者が)自ら発行し,又は他の者(日本のライセンシー)に発行させている著作権者が,当該国内頒布目的商業用レコードと同一の商業用レコードであって,専ら国外において頒布することを目的とするもの(国外頒布目的商業用レコード)を国外において(著作権者)自ら発行し,又は他の者(外国のライセンシー)に発行させている場合において,」
② 「情を知って,当該国外頒布目的商業用レコードを(日本)国内において頒布する目的をもって輸入する行為又は頒布し,若しくは(日本)国内において頒布する目的をもって所持する行為は,」
図 14 還流レコードについての特例措置
日本
ライセンス
外国
ライセンシー
輸入
頒布所持
差止 ○
著作権者
国内頒布目的商業用レコードの利益を不当に害される場合
国外頒布目的 商業用レコード
国内頒布目的 商業用レコード
(注)国外頒布目的商業用レコードには,当該外国においてのみ頒布される旨の表示が付されている.
(注)国内頒布目的商業用レコードの利益を不当に害される場合とは.内外価格差が大きい場合ということになる.本条が適用になりうる外国とは,中国等のアジア諸国ということになると考えられる.
③ 「当該国外頒布目的商業用レコードが(日本)国内で頒布されることにより当該国内頒布目的商業用レコードの発行により当該著作権者の得ることが見込まれる利益が不当に害されることになる場合に限り,」
著作権を侵害する行為とみなす.ただし日本で国内頒布目的商業用レコードが発行された日から起算して 4 年を経過した後はこの規定が適用にならない(著 113 条 5 項但書き,著施
令 66 条).
9. 頒布権の国際消尽
(1) 国際消尽の潮流
ここで本稿で説明をした一般の著作物の譲渡権と映画の著作物の頒布権を対比して整理する
(表 3).
パッケージ商品として映画の著作物の複製物が並行輸入される場合,我が国の当該著作物の著作権は国際消尽するものと考える.前掲「101 匹ワンちゃん事件」の東京地裁判決は,その射程について再評価されるべきである.その理由は以下のとおりである.パッケージ商品の国内消尽は,最高裁判決によって肯定されるに至っているもので(前掲「中古ゲームソフト事件」最高裁判決),商標権に関し原則的に国際消尽するという判決が出ていて(前掲「フレッドペリ
ー並行輸入事件」最高裁判決),特許権については実質的に国際消尽するのと同様の効果を認めている(前掲「BBS アルミホイール事件」最高裁判決).これらの判例は,国際的知的財産商品市場の潮流に沿うものである.
特許権等の属地主義的権利について然りとするならば,この性質を有しない著作権はより国際消尽が肯定しやすいところであり,映画の著作物の頒布権も原則として国際消尽すると考える.この原則に立ちつつ消尽をしない場合の例外を特許権(「BBS アルミホイール事件」最高裁判決)と同様に考察しうるか.還流レコードについての特例措置と同じような要件を付しうるかなど上級審の判断が待たれるところである.
表 3 一般の著作物と映画の著作物の商品流通に関する規範の対照表
一般の著作物 | 映画の著作物 | ||
1 | 26 条の 2 譲渡権 | 26 条 | 頒布権 |
2 | 26 条の 2 第 2 項 1~4 号 | 国内消尽 | 劇場用映画の頒布権は消尽しないが,ゲームソフトは消尽するところから(「中古ゲームソフト事件」最判平成 14 年 4 月 25 日),映画のパッケージビデオソフトについても消尽する ことになる. |
26 条の 2 第 1 項 5 号 国際消尽 | 映画のパッケージ商品の並行輸入において頒 | ||
布権は国際消尽するかについて最高裁の判例 | |||
3 | はない.消尽しないとする「101 匹ワンちゃん事件」東京地裁判決がある. 私見は,国際消尽を原則としつつ,例外とし | ||
頒布権の消尽理論と同様に消尽しない特段の | て消尽しない特段の事由を考察する.この判 | ||
事由がある場合を想定することになるであろ | 断要素は,各国における利得の機会の独立性 | ||
う. | である. | ||
4 | 47 条の 9 複製権の制限規定の適用を受ける複製による複製物に関する譲渡権の制限 但し,目的外の譲渡は譲渡権が制限されない. | 頒布権は制限されない. 47 条 9 の準用はない.同条は明確に映画の著作物を除外している. | |
5 | 113 条の 2 善意者に係る譲渡権の特例 | 映画のパッケージ商品について,国内消尽が肯定されることになるから(上記「中古ゲームソフト事件最判)),頒布権について 113 条 の 2 が準用されることになるであろう. | |
6 | 113 条 1 項 1 号 侵害となるべき行為によって作成された複製物の輸入 | ||
7 | 113 条 1 項 2 号 違法複製物の頒布・頒布目的の所持 | ||
8 | 商業用レコードに関する音楽の著作物 |
113 条 5 項 商業用レコードの還流防止に関する特別措置 | 適用,準用はない. |
(2) 国際消尽をしない場合
原則,例外をどう捉えるかは,各国における利得の機会の独立性を確保すべきか否かで決すべきである.学説において国際消尽として考察すべき場合として,下記①②③が考えられている(前掲注 11)の⑦⑧を参照されたい.).下記①と②の場合,国際消尽しないという見解が一般的見解になりつつある.さらに,日本国内における映画の「流通」の保護(上映,放映,DVD化,ネット配信などの段階的提供による利益の確保)を認めて,③にまで至ることも考えられよう.
① 我が国と外国における著作権者が分かれる場合には(著作権の譲渡によって権利者が分かれる場合がある.),特許権の属地主義と同様に考えて,頒布権は消尽しないと考えることができるか(「帰属の属地性によるコントロール」ということができる.なお,一般の著作物の譲渡権に関する国際消尽 26 条の 2 第 1 項 5 号についても,同様の考察が想定される.).
権利の帰属が我が国と外国に分かれる場合にも 2 つの態様があるのではなかろうか.
①-1 日本の権利者(又は外国の権利者)が日本の著作権と外国の著作権を 2 分させてそれぞれ別の譲受人に譲渡する場合である(図 15).
図 15 著作権者が国ごとに分かれる場合(①-1)
譲受人
日本
丙
映画の著作物
著作権者・譲渡人
甲
外国
日本の著作権譲渡
外国の著作権譲渡
譲受人
乙
この場合には,帰属の属地性は,特許権,商標権の帰属の属地性と同様に考えうるのではなかろうか.特許権,商標権の場合には,発生の属地性から権利者が分かれる場合と同一権利者が 2 つの国の権利を区々に譲渡することによって権利者が分かれる場合がある.著作権
については,後者の場合に権利者が 2 分されることになる.このいずれの場合にも,現在の帰属としては,それぞれ独立した権利を有し,いわばイーブンにそれぞれの権利行使をすることができるというべきである.利得の機会の独立性を認めうる場合ということになる.日本の著作権者(丙)の頒布権は消尽せず,外国権利者(乙)による複製物の日本への輸入・販売を差し止めることができるという結論になる.
①-2 日本の権利者(又は外国の権利者)が外国の著作権(又は日本の著作権)を他者に譲渡する場合である(図 16,17).
図 16 著作権者が国ごとに分かれる場合,日本からの著作権譲渡(①-2)その 1
日本
映画の著作物
著作権者・譲渡人
甲
外国
外国の著作権譲渡
譲受人
乙
日本の権利者が外国の著作権を譲渡する場合(16 図の場合)には,著作権者・譲渡人(甲)は,外国著作権者(乙)の権利行使の範囲を契約で定めうるのであるから,甲が並行輸入品からの利得を得る機会を有していたと見ることができる.甲が乙に対し外国における利用を許諾する場合と同様に考えうるのではなかろうか.したがって,日本の著作権者甲,外国の著作権者乙と分かれた場合であっても,この状況だけで国際消尽しないと断ずることはできない.この場合には,当該著作権の譲渡は,甲が乙に著作物の利用を許諾した場合と同様に,後述の②又は③の考察(許諾による並行輸入に関する考察)が求められることになる.
外国著作権者が日本の著作権を譲渡する場合には(図 17 の場合),外国の著作権者(乙)の権利行使の範囲(日本に並行輸入品を輸入することを許容するか否かを含む.)を契約で定めうるのであるから(但し,前掲図 16 の場合に比べて日本側が譲受人になることから外国の著作権者に制限を加えにくい事情がある.),甲が並行輸入品からの利得を得る機会を有していないとはいえない.結局,この場合も上(図 16)と同様に考えることができる.
図 17 著作権者が国ごとに分かれる場合,外国からの著作権譲渡(①-2)その 2
外国
日本
譲受人
甲
日本の著作権譲渡
映画の著作物
著作権者・譲渡人
乙
② 外国における複製物の譲渡において我が国を除外する合意がありその旨を当該複製物に明示している場合は,頒布権は消尽しないと考える(「地域的コントロール」ということができる.).
③ 我が国で劇場上映中に複製物が輸入される場合,頒布権は消尽しないと考える.上映と複製物の頒布を段階的に許諾していく映画産業界の利得の構造を担保とすることは頒布権の本来の機能である(「時系的コントロール」ということができる.)11).
10. 「101 匹ワンちゃん事件」東京地裁判決の再評価
(1) 国際消尽の要件
前述 3,(3)に「101 匹ワンちゃん事件」東京地裁判決(注 8))の論拠を示した.論拠の①映画館での上映用のフィルムだけでなく,ビデオカセットについても映画の頒布権が及ぶとい
う判断は,「中古ゲームソフト事件」最高裁判決(前述 4,注 10))と同旨と考えることができ よう.【設問 4】に沿っていうならば,E DVD の公衆への譲渡は,譲渡権(26 条の 2 第 1 項)によって律せられるのではなく,頒布権(26 条)によるということになる.論拠の②米国で著作権者の許諾を受けて正規に製造販売された映画のビデオカセットを,著作権者の許諾を受けずに日本国内において輸入し販売する行為は,著作権者が日本国内において有している頒布権を侵害する違法な行為であるといい,頒布権は国際消尽しないということを示すところである.さらに,同判決が国際消尽をどのような要件のもとで考察したかについて精査することによ
って,同判決において消尽する場合のあることが考察されていて,全面的に国際消尽の肯定論を説くものでないことが判る.同判決の並行輸入についての判旨は以下のとおりである.
第 1 点(著作権者によるリリース時期設定の利益)
「映画の著作権者である映画会社は,現在では,世界各国における映画の劇場公開時期,自ら又は他人に許諾して行うビデオカセットの販売時期等を計画的に決め,映画製作のために費やした多額の資金の回収及び利潤の確保を図っているところ,例えば,ある国において劇場公開後に発売されたビデオカセットが劇場未公開ないし劇場公開中の国へ大量に並行輸入されると,当該国における劇場公開による映画の興行に大きな打撃を与える結果となったり,当該国において著作権者に対価を支払って映画のビデオカセットを製造販売する事業を営む者に対しても看過できない損害を与える結果となる可能性があることが認められ」る.
第 2 点(国外における販売と国内における頒布権)
「本件ビデオカセットは,アメリカ合衆国で本件映画の著作権者の許諾を得て製造販売されたものであるから,同国著作権法 109 条(a)項あるいはファーストセイルドクトリンの法理の適用により,同国の国内においてはその後の頒布,流通に制限はなかったものと解されるが,右許諾が我が国内での頒布を含んだ許諾で,我が国における頒布も予測した対価 が支払われていることを認めるに足る証拠はない以上,アメリカ合衆国における前記許諾を理由に,並行輸入された本件ビデオカセットの頒布が我が国における頒布権を侵害しないとすることはできない」.
第 3 点(著作権法 1 条目的との関係)
「並行輸入される映画のビデオカセットの通商を制限し,同じビデオカセットの価格競争を限られたものとし,我が国内でその映画のビデオカセットに接することのできる時期が他の国よりも遅くなり,我が国内で通常接することのできる映画のビデオカセットの版が限定される等の状況を一部においてもたらすことも予想されるが,それらの状況が著作権者の権利の保護を図るあまり文化的所産の公正な利用に対する配慮を欠いたことになるとも,文化の発展に寄与しない結果を生ずるものとも解されない」.
第 1 点は,並行輸入と映画興行との関係,及び並行輸入と国内で許諾を得て対価を支払う事 業者によるビデオカセットの製造・販売との関係において,並行輸入が国内利益に大きな損害 を与える結果となる可能性のあることを判示している.第 3 点において,並行輸入が日本国内 における価格競争をもたらすこと,及び多様性のある版(Version)が日本国内で入手可能にな るということが予想されても,著作権が行使されることによって著作物の公正な利用が害され るとか文化の発展に寄与せずとして頒布権に制限を加えるべきということにはならないとする.
第 1 点と第 3 点を実質的理由として,第 2 点は,国内頒布の許諾を含んだものとして合意されていること,及び許諾によって国内頒布を予想した対価の支払いがなされていることが認められる場合は,頒布権は国際消尽するというのである.
すなわち,頒布権の国際消尽の成否を決定する要件は,①許諾が国内の頒布を含むもので,
②その頒布を予測した対価が支払われている,か否かである.
(2) 挙証責任
次に,この国際消尽の 2 要件の挙証責任を輸入業者に負わせているのではなかろうか.第 2点において,「これを(2 要件)認めるに足る証拠はない以上,」頒布権は消尽しないと言っている.これは,国際消尽の抗弁を主張する輸入業者側に挙証責任を負わす趣旨である.この考えに立って,本問の事案に沿ったブロック図を示せば,下記のとおりとなる(「101 匹ワンちゃん事件」は,日本の権利者が差止めを求めが事案ではない.これを差止請求権に構成しなおした場合のブロック図と理解されたい.).
(訴訟物 1)
頒布権に基づく妨害排除請求権としての販売差止請求権(26 条の 2,112 条 1 項)
(訴訟物 2)
頒布権に基づく妨害排除請求権としての販売差止請求に必要な措置請求権としての輸入差止請求権(26 条の 2,112 条 2 項)
図 18 東京地方裁判所の考え方に立ったブロック図
あ | A・B 楽曲α共同著作 |
い | E DVD は楽曲αを複製した映画著作物の複製物 |
う | H (い)を公衆に販売 (頒布) |
A→H 販売差止請求
A→H 輸入差止請求
Kg1
○
○
○
国際消尽の抗弁 E
カ | A・B 楽曲αのX 国著作権を D に譲渡 |
キ | D E に楽曲αの利用許諾 |
ク | E (い)を製作 |
ケ | D H に(い)を譲渡 (First sale) |
コ | (カ)につき日本国内頒布を含む合意 |
サ | (コ)の頒布を予想した対価の支払い |
○
○
○
○
(上記(あ)~(う)に加えて)Kg2
え | H(い)を輸入 |
お | (う)を禁止するため(え)禁止の必要性 |
×
○
○ ×
(以下抗弁Kg1 と同じ)
東京地裁判決は,国際消尽をしない原則に立ちつつ,(コ),(サ)を国際消尽の抗弁の積極的要件に加えることによって,例外的に国際消尽をする場合を予定していたと考えるべきなのではなかろうか.この考えは,映画の頒布権を消尽しない権利として立法された経由に忠実に要件を考察したことの帰結のように思われる.
(3) 現在の考察
すでに見たように,映画の著作物の頒布権は,消尽理論の適用を受けて First Sale によって消尽することが肯定されているというべきではなかろうか.頒布権の国内消尽を肯定した前掲「中古ゲームソフト事件」最高裁判決(注 9),特許権の実質的国際消尽を肯定した前掲「BBS アルミホイール並行輸入事件」最高裁判決(注 6),及び商業用レコードの環流防止に関する特別措置(113 条 5 項)を総合勘案するならば,現在の国際消尽理論は,First Sale によて消尽が成立することを原則として,国際消尽をしない特段の事情がある場合には,例外的にこれが否定されると考えるべきではなかろうか.BBS の最高裁判決に見るような日本国内で頒布しない合意とこれに関する表示の存在は,例外的に国際消尽しない場合ということになる.この考えに立って再度前記ブロック図の構成を考察するならば下記のとおりになる.
図 19 現在の考察によるブロック図
A→H 販売差止請求
Kg1
あ | A・B 楽曲α共同著作 |
い | E DVD は楽曲αを複製した映画著作物の複製物 |
う | H (い)を公衆に販売 (頒布) |
○
○
○
国際消尽の抗弁 E
カ | A・B 楽曲αのX 国著作権を D に譲渡 |
キ | D E に楽曲αの利用許諾 |
○
○
○
○
国際消尽しない特段の事情 R
こ
(カ)につき日本国内で
頒布しない合意
×
ク E (い)を製作
ケ D H に(い)を譲渡
(First sale)
A→H 輸入差止請求
え | H(い)を輸入 |
お | (う)を禁止するため(え)禁止の必要性 |
(上記(あ)~(う)に加えて)Kg2
○
さ | (キ)に日本国内頒布を禁止する表示 |
○
×
(以下抗弁・再抗弁Kg1 と同じ)
東京地裁判決と現在の国際消尽理論の差異は,日本国内で頒布する合意を国際消尽の抗弁の積極的要件と見るか日本国内で頒布しない合意を国際消尽しない特段の事情の再抗弁に回すかの差異のように思える(東京地裁判決のブロック図,抗弁の(サ)は,対価の支払いが含まれた合意ということであろ.そうすると(サ)は(コ)の合意に含まれるか間接的事実として評価するくらいで良いのかも知れない.).
日本国内において頒布を含む合意又は頒布しない合意は,抗弁と再抗弁に現れ表裏の関係に あることが判る.東京地裁判決は,頒布権が消尽しないものとする立法意思に沿って国際消尽 しない原則に立脚して,しかも国際消尽のあるべきことを充分考察に入れた判例というべきで ある.前掲諸判例が出るに至った後の解決としては,原則 First Sale で国際消尽し(抗弁),例 外的に国際消尽をしない特段の事情を利得の機会の独立性によって考察する方法が相当である.この場合 BBS 最高裁判決が示す国際消尽をしない場合の要件(前掲(こ)(さ)をもって再抗 弁とすることになる.
11【設問 4】の当て嵌め
(1) 国際消尽
では,【設問 4】のように,著作権者が異なる場合(日本の著作権者 A・B,X 国の著作権者 D)にはどう考えるべきなのであろうか(9. 末尾①「帰属の属地性コントロール」の当て嵌めの問題である.).
国際消尽は権利者が同一か同一と同視することができる程度に利益が一体と見られる場合
(たとえば日本の著作権者が親会社で X 国の著作権者がその子会社の場合)に原則肯定され,特段の事情がある場合にこれが否定される.一方,権利者が国ごとに分かれる場合,一律に,国際消尽が否定されるというのではない.帰属の属地主義の視点においてそれぞれ利得の機会の独立性を考察することになる.
特許権,商標権の国際消尽を論じる場合にも日本における権利者と外国における権利者が同一又は同一と評価できる場合について論じられるところである.そもそもこれらの権利は,権利者が明確に 2 分される場合が生ずる(発生の属地性).この場合に国際消尽を論ずるべきでないことは明かである.それぞれの権利者が固有の権利として当該国の権利を行使することが許されることは当然だからである.同一権利者が日本と外国の 2 つの特許権,商標権を有していて外国の権利を譲渡した場合も,それぞれ固有の権利として(帰属の属地性)判断すれば足りるということになる.発生の属地性によって 2 つの権利は別個の権利と考えられているからである.
著作権の場合には,これと同様に考えうるかの問題がある.著作権は 1 個の権利として生じ条約上の保護等によって各国国内法上の保護を受けるという構成になっているからである.これは審査主義を取る特許権,商標権との顕著な差異ということができる.しかし,また著作権は国ごとに分けて著作権を別異の主体に帰属させることが許されていることに顧みれば,特許権,商標権の帰属の属地性と同じ状況が生じることになる.この場合については,場合を分けて考察することが求められる.この場合分けは前述 9 ①に①-1 と①-2 に分けて示したとおりである.
図 20 著作権者が分かれる場合の国際消尽の考え方
① 著作権の譲渡によって日本の著作権者と外国の著作権者が分かれる場合
(帰属の属地性)
①-1 著作権者が日本の著作権と外国の著作権を 2 分
国際消尽しない
させてそれぞれ別の譲受 人に譲渡する場合
(図 15)
国際消尽しない特段の事情
(再抗弁)により消尽しない
(図 19R)
First Sale(抗弁)によって
国際消尽する
(図 19E)
①-2 日本の著作権者が外国の著作権を他者に譲渡する場合
(図 16)
外国の著作権者が日本の著作権を他社に譲渡する場合
(図 17)
(2) 国際消尽しない特段の事情
【設問 4】は,前掲の場合分け①-2 に該当する(図 16).この場合,日本の著作権者の頒布権は,原則国際消尽することになる(図 19 現在の考察によるブロック図 E (カ)ないし
(ケ)).
この場合,次に例外的に国際消尽をしない特段の事情(再抗弁)があるかを考察することになる(前掲図 19 の R の存否である.).
ここで想起されるのが「BBS アルミホール事件」最高裁判決が示した国際消尽しないことになる要件であって,日本国内で頒布しない合意があることとこれを当該製品に表示していることの 2 つである.【設問 4】の題意によるとこの合意はないものと考える.A・B が D に著作権を譲渡する契約において,C レコードとの競合を避ける意図があって X 国の著作権を譲渡することとしたことは充分に推認しうるところで日本に輸入することの禁止を黙示に合意したと言えるかも知れないが,競合商品のない E DVD の日本輸入までも禁止する合意があるということはできない.またE DVD に合意を示す表示が付されていない.
よって,【設問 4】には,A の再抗弁を認めることはできないから,国際消尽の抗弁が立って,
A の H に対する輸入・販売差止請求は,棄却されることになる.
(余論)
本項を終わるにあたって,【設問 4】の題意について触れておきたい.出題者は,A・B が D に X 国著作権を譲渡した場合でもまったく許諾と同じように国際消尽論を論じさせることをもって足ると考えていたのであろうか.譲渡の場合であっても許諾と同様に論ずることができる場合とそもそも消尽論になじまない場合があることを論ずる者があればそれは優れた分析というべきであるが,応試者の多くは,譲渡と許諾を峻別せずに国際消尽論の要件を論じるに止まってるのではなかろうか(この場合,「BBS アルミホール事件」最高裁判決の要件を考察したのではなかろうか.).これがはじめに述べた「能力ある応試者にとってかえって難問となった」という所似である.
1) 共有著作者、共有著作権者の権利行使(117 条、64 条、65 条の関係)については拙著『著作権法プラクティス』
(勁草書房、2009 年)355 頁を参照されたい。共有著作権が自ら著作物を利用する場合には、民法を適用して単独でできるという説(民法 249 条、264 条、特許法 73 条 2 項)と著作権法 65 条 2 項を適用して共有者全員の合意を要するという説がある。本問の事案のように他者に対する利用許諾契約などの積極的権利行使については、65 条 2 項をそのまま適用すればよいことになる。
2) 加戸・逐条講義 394 頁、半田=松田編『著作権法コンメンタール(第 2 巻)』(勁草書房、2009 年)634 頁[長
塚真琴]
3) 特野利秋=飯村敏明編『著作権関係訴訟法[新・裁判実務体系 22]』(青林書院、2004 年)279 頁[三村量一].この抗弁説に立つとしても、私見としては、65 条 3 項に正当理由の不存在という評価概念があるのだから、さらに権利濫用の評価概念を構成に入れる必要はないと考える。
4) 26 条の 2 譲渡権は,「原作品又は複製物」を対象としているのに対し,26 条の頒布権,26 条の 3 貸与権は,「複
製物」だけを対象としている(頒布権については,2 条 1 項 19 号の頒布の定義による).これは WIPO 著作権条約において譲渡権の対象が「原作品又は複製物」とされていることによる,原作品が相当部数に及ぶことが理論的にあり得ないわけではないだろうが,通常は 1 つであることから考えれば,「原作品又は複製物」と「複製物」を区別して考察する実益はない.参考資料,岸本織江「著作権法の一部を改正する法律について(後編)」コピライト 36 巻 461 号 49 頁(1999 年)
5) 法理の簡略な解説として,北川善太郎=斉藤博監修『知的財産権辞典』256 頁(三省堂,2001 年)
6) 「BBS アルミホイール並行輸入事件」最判平成 9.7,1 民集 51 巻 6 号 2299 頁,裁時 1198 号 230 頁,判タ 951
号 105 頁,判時 1612 号 3 頁。本判決は、「国際消尽する」と明示しているのではない。実質的にこれと同じ効果を認めたものである。解釈論は分かれている。
7) 「フレッドペリー並行輸入事件」最判平成 15.2.27 民集 57 巻 2 号 125 頁,判タ 1117 号 216 頁.この判決の
事案は,商標権者が許諾する製造国・下請工場以外の者によって製造された商品に被許諾者が商標を付していた事案であって,真正商品の並行輸入に該当しないとしたものである.
8) 「101 匹ワンちゃん事件」東京地判平成 6.7.1 知裁集 26 巻 2 号 510 頁,判タ 854 号 93 頁
9) 「中古ゲームソフト販売差止請求事件」最判平成 14.4.25 判タ 1691 号 80 頁
10) ビデオソフトの中古販売に関し,注 7 の最高裁判例と同旨の判決がある.東京地判平成 14.1.31,東京高判平成 14.11.28 判タ 1113 号 239 頁,判時 1791 号 142 頁
11) 映画の著作物の国際消尽に関する文献は下記のとおりである.
① 斉藤=半田・百選 3 版 134 頁〔島並良〕は,大量・無制限に流通する有体物については,流通段階における特別の投資回収手段を与える必要性を欠くということから,国内・国際ともに消尽するという.
② 斉藤博「映画のビデオカセットを並行輸入し販売する行為と頒布権の侵害」判例時報 1531 号 207 頁(1995年)は,実質上我が著作権法制の認めていない「輸入権」を著作権の一内容に加えることになり,妥当でないとして.消尽するという.
③ 久々湊伸一「頒布に関する権利の法改正と著作物の構造についての考察」半田・古稀 277 頁は,上映期間中にビデオカセットの輸入を禁止しうるとするようである.なお,ビデオカセット貸与は消尽しないというのが当然である.
④ 駒田泰士「合衆国で違法に販売されたビデオカセットの輸入,販売の許否」ジュリスト 1117 号 211 頁(1997
年)は,26 条の頒布権はビデオカセットにも適用されるべきであるとして,消尽しないという.
⑤ 作花・詳解 638 頁は,ビデオカセットのうち,本来劇場公開用に作成された映画がビデオ化されて流通するものについては,いまだ劇場上映中の地域との関係では映画配給制度の観点から頒布権を行使すべき実質的理由があるといい,劇場上映の予定のない複製物については,頒布権は原則消尽するという.
⑥ 早稲田祐美子「Q&A(著作権相談から)著作物の輸入」コピライト 45 巻 530 号 44 頁(2005 年)は,家庭用テレビゲームソフトの中古品の頒布権を消尽するとした最高裁判決では劇場用映画のビデオカセットに関する国際消尽の結論は出ていないという.
⑦ 大塚章男「最近の日米の並行輸入問題の判例動向」国際商事法務 32 巻 1 号 6 頁(2004 年)は,我が国での頒布を含む許諾であって我が国における頒布も予測した対価が支払われていることが認められない本件
(101 匹ワンちゃん事件)において,消尽しないとした判決であるという,また,国内外の権利者が別個の場合については,判旨は何も述べていないと解されるともいう.論者は,著作権の譲渡につき属地主義を肯定し,この場合消尽しないという考えになるのであろう.
⑧ 小泉直樹「並行輸入をめぐる経済と法(下)ベーベーエス事件控訴審判決(東京高裁平成 7.3.23)」NBL567号 35 頁(1995 年)は,101 匹ワンちゃん事件の判決が示唆する国際消尽をする場合とは,同一人が両国において権利者であり,輸出制限条項付きでないライセンスを受けている場合に限られるという.