メ デー 言語: Japanese出版者: 明治大学法律研究所公開日: 2018-03-28キーワード (Ja):キーワード (En):作成者: 松谷, 秀祐メールアドレス:所属: URL http://hdl.handle.net/10291/19276
メ デー | 言語: Japanese 出版者: 明治大学法律研究所公開日: 2018-03-28 キーワード (Ja):キーワード (En):作成者: xx, xxメールアドレス: 所属: |
URL |
法律論叢第 90 巻第 4・5 合併号(2018.2)
【論 説】
x x x x
目 次
Ⅰ.問題の所在
Ⅱ.VAG 第 10a 条
Ⅲ.VVG 第 7 条
Ⅳ.日本法への示唆
Ⅴ.今後の課題
Ⅰ.問題の所在
1.日本法の状況
従前、わが国の保険業法では、保険契約締結の際の保険会社・保険募集人等の情報提供義務は積極的な行為義務としては定めず、保険契約の契約条項のうち、重要な事項を告げない行為が禁止されるという禁止規定の形で情報提供義務が定められていた(平成 26 年改正前保険業法 300 条 1 項 1 号)(1) が、平成 26 年保険業法改正では、情報提供義務が正面から規定されることとなった(2) 。
保険業法で積極的な情報提供義務の規定が置かれた一方で、保険業法における情報提供義務と私法上の情報提供義務との関係は依然として未解決のままである。この点、取締法規における義務と私法上の義務とは別のものとしつつ、取締法規で
(1) xxxx「顧客への情報提供義務」ジュリスト 1490 号(2016 年)14 頁。
(2) xx・前掲注 1・14 頁。
法律論叢 90 巻 4・5 合併号
違法とされていることは、私法上の違法性を判断する上で重要な要素となるとされる(3) 。しかし、その一方で、私法上の説明義務が保険業法上の情報提供義務の範囲内でしか認められないと言い切れるわけではない(4) 、いかなる損害の賠償が認められるのか、損害と因果関係の処理をどうするのかなどの点も検討すべき事項として残っているとされる(5) 。
2.本稿の射程およびドイツ法を参照する理由
⑴ 本稿の対象
日本法ではいかなる場合に保険者の私法上の情報義務違反が認められるのか、また保険者の情報義務違反と認定された場合にどのような法的効果が生ずるのか、必ずしも明らかにはなっていない。本来ならば情報提供義務全般、要件論および効果論に関し幅広く検討すべきであるが、本稿ではそれらを論ずる端緒として消費者を対象とする保険契約において保険者が提供すべき「情報」の内容を中心とした検討を行う。
⑵ 消費者を対象とする保険契約において保険者が提供すべき「情報」の内容を
考察の中心とする理由
保険会社等による顧客の意向把握義務は、平成 19 年 4 月 1 日以降、内閣府令に基づき保険会社等の体制整備を求める保険業法 100 条の 2、社内規則の制定を求める同法施行規則 53 条の 7 第 1 項に基づき、意向確認書面制度として実施されてきた(6) 。本ルールは特に顧客のニーズを確認する必要性が高いと考えられる保険商品、すなわち、投資性商品および保険監督業法上の第一分野(生命保険)並びに保険期間 1 年以下の傷害保険を除く第三分野(傷害・疾病保険)を対象とし、損害保険の場合には、意向確認書面の作成交付を必要とせず、商品がニーズに合致しているかどうか契約締結前に確認する機会を設ける旨の社内規則により対応することとされていた(7) 。平成 26 年改正では、このような適用区分が撤廃され、損害保険
(3) xx・前掲注 1・18 頁、xxxx「保険募集過程上の保険者の情報提供と民事責任」曹時 66 巻 7 号(2014 年)1686 頁参照。
(4) xx・前掲注 1・19 頁。
(5) xx・前掲注 1・19 頁。
(6) xxxx「顧客の意向の把握義務」ジュリスト 1490 号(2016 年)20 頁。
(7) xx・前掲注 6・22 頁。
ドイツ保険契約法における保険者の情報提供義務の内容(xx)
についても意向確認義務が課せられることになった。保険業法上、損害保険についても意向確認義務が課せられるようになったことで、損害保険における情報提供義務違反をめぐる新たな問題が生ずる可能性がある。具体的な問題が生ずる前にいかなる問題が生じ、そのような場合にどのように解決すべきであるかを考えることは必要かつ有益であると考える。
また、わが国の保険法では片面的強行規定など消費者保護の視点もみられ、また、消費者保護の視点から保険契約法を考えることが世界的な趨勢であるとも言えるため、本稿でもまずは消費者を対象とした保険契約を念頭に考察することとする。
⑶ ドイツ法を参照する理由
ドイツ保険契約法(Versicherungsvertragsgesetz、以下 VVG という。)では、助言義務および情報提供義務に関し、xxの規定を有していること、それらに関連して判例・学説の蓄積が見られる(8) 。
具体的には以下の順番で考察する。まず、保険者の情報提供義務に関して初めて実定法上の規定として置かれたドイツ保険監督法(Versichrungsaufsichtsgesetz、以下 VAG という)第 10a 条の規定について概観した上で、現行のドイツ保険契約法(VVG)第 7 条および保険者の情報提供義務に関する法規命令の諸規定について概観し、両者の異同および現行法での特徴的な点について検討を行い、比較法的考察を通して日本法への示唆を得ることを目的とする。
(8) 日本でこれまで保険者の情報提供義務に関して論じた論文は数多くあり、紙幅の都合からその全てを列挙することは困難であるが、ドイツにおける議論を特に参照した主な先行研究として、xxxx「ドイツ保険監督法上の保険者の情報提供義務および契約締結
(一)~(五)」阪大法学 47 巻 2 号 375 頁・3 号 579 頁・6 号 1243 頁・48 巻 1 号 137 頁・ 50 巻 1 号 1 頁、xxx「ドイツ保険監督法における保険者の情報提供義務」筑波法政 25号 249 頁以下、潘阿憲「保険者の情報提供義務―ドイツ保険法を中心として―」文研論集(生命保険文化研究所・2000 年)107 頁以下、xxxx「ドイツ保険契約法における情報・助言義務に関する保険募集規定とわが国の動向」保険学雑誌第 606 号(2009 年) 153 頁以下、財団法人損保ジャパン記念財団『損保ジャパン記念財団叢書 No.77「保険業法に関する研究会」報告書 保険募集関連規制に関する検討』(2010 年)、xxxx「保険者の情報提供義務―ドイツ法理からの示唆を元にして―」法律論叢第 82 巻第 4・5 合併号(2009 年)155 頁以下、同「保険者の情報提供義務と透明性原則」法律論叢 84 巻 1号(2011 年)243 頁以下等がある。本稿ではこれら先行研究を適宜参照した。
Ⅱ.VAG 第10a 条
法律論叢 90 巻 4・5 合併号
1.規定導入の経緯
ドイツでは、1994 年に VAG および VVG についての法改正が行われて、保険者の情報提供義務が実定法上導入されることになった(9) 。すなわち、1994 年 7 月 21 日、欧州域内における保険市場の統合を達成するために出された EC 保険第三指令(生命保険第 3 指令および損害保険第 3 指令)を国内法化するため、第 3 次国内法化実施法が制定された(10) 。この第 3 次国内法化実施法は、VAG 第 5 条を改正し、連邦保険監督庁による事前認可制を廃止するとともに、VAG 第 10a 条の新設によって、保険契約の締結前および保険契約の存続期間中における保険者の情報提供義務を導入した。そして、同時に、VVG 第 5a 条の規定を新設し、保険契約の締結前に情報提供がなされない場合の私法上の効果を規定したものである(11) 。
2.VAG 第 10a 条の規定内容
その規定内容は以下のとおりである(12) 。
①保険契約者が自然人であるときは、保険会社は、別表 D の基準に従い、契約締結前および契約の存続期間中に、保険関係の基礎となる事実および権利についての消費者情報を提供しなければならない。保険契約施行法第 10 条 1 項に定める巨大危険の場合は、準拠法および管轄権を有する監督官庁に関する情報で足りる。
②消費者情報は、書面をもってこれを提供しなければならない。消費者情報は、明確な表現で、わかりやすい構成により、ドイツ語または保険契約者の母国語で理解できるように作成されなければならない。
③申込書面は、明確性、判読可能性および理解可能性が損なわれない限り、法的に独立した保険契約の締結のための複数の申込みを含むことができる。申込者は、書面により、かつ強調された形で、申込をした契約の法的独立性およびこれらの
(9) Pro¨lss/Xxxxxx, Versicherungsvertragsgesetz
(27. Aufl.), 2004, S.140(Pro¨lss); x・前掲注 8・126 頁。
(10) Pro¨lss/Xxxxxx, a.a.O(Fn.9)., S.140(Pro¨lss); x・前掲注 8・126 頁。
(11) Pro¨lss/Xxxxxx, a.a.O(Fn.9)., S.140(Pro¨lss); x・前掲注 8・126 頁。
(12) 本条文訳については、xx・前掲注 8・阪大法学 47 巻 3 号 590 頁。xx・前掲注 8・255
頁の翻訳を参照した。
ドイツ保険契約法における保険者の情報提供義務の内容(xx)
契約に適用する保険約款および個々の契約の申込拘束期間と契約の存続期間を明示されなければならない。
別表 D 消費者情報
第 1 節 保険契約締結前に 10a 条 1 項に基づき保険会社により提供されるべき消費者情報
①全ての保険種目において必要とされる消費者情報
a. 保険者および必要な場合は契約の締結が行われる営業所の名称、住所、法形態、本拠地
b. 保険関係に適用される普通保険約款および料率表、契約準拠法の情報
c. 普通保険約款または料率表が適用されないときは、保険者の給付の種類、範囲、履行に関する情報
d. 保険関係の存続期間に関する情報
e. 保険関係が複数の独立の保険契約を含む際に、保険料を個別に明示する必要がある場合には、保険料の額と保険料の支払い方法に関する情報および必要な付帯手数料、付帯費用に関する情報、および全体として支払われるべき金額の情報
f . 申込者が申込みによって拘束されるべき期間に関する情報
g. 撤回権および解除権に関する教示
h. 保険契約者が保険者に対する苦情申立ての際に相談できる所轄監督官庁の住所
②生命保険および保険料返還付き傷害保険において付加的に必要とされる消費者情報
a. 剰余金の算出および剰余金配当に用いられる計算原則および基準に関する
情報
b. 解約返戻金の額に関する情報
c. 保険料払済み保険への転換のための最低保険金額および保険料払済み保険に基づく給付の情報
d. b 号および c 号に基づく給付が保証される範囲に関する情報
e. 変額保険の場合は保険の基礎となるファンドおよびそれに含まれる資産の
法律論叢 90 巻 4・5 合併号
種類に関する情報
f . 当該保険種目に適用される租税規定に関する一般的情報
③疾病保険において 12a 条に基づき付加的に必要とされる消費者情報
医療費用の増加による将来の保険料への影響に関する情報、高齢時に保険料限度額が設定される可能性に関する指摘
第 2 節 保険契約の存続期間中に 10a 条 1 項に基づき保険会社により提供されるべき消費者情報
①保険者および必要なときは契約の締結が行われる営業所の名称、住所、法形態、本拠地の変更
②第 1 節第 1 項c 号ないし e 号および第 2 項a 号ないし e 号に基づき提供される消
費者情報の変更。ただし、当該変更が法規定の変更によって生じた場合に限る。
③生命保険および保険料返還付き傷害保険において、剰余金の配当状況に関する年次報告
3.若干の検討
VAG 第 10a 条を概観する限り、1994 年の時点で既にドイツにおいては、保険者の情報提供義務に関しきわめて詳細な規定が置かれていたことがわかる。
しかし、本規定は保険監督法に規定されていることから、その法的性質に争いがあった(13) 。すなわち、保険監督法という公法に属する法律に規定されている以上、当該規定は、公法上の規定であるとされ、そのことから保険会社の情報提供義務も監督官庁に対する公法上の義務であると解されていた(14) 。
この点は、我が国においても同様の議論がなされている。
(13) x・前掲注 8・138 頁。
(14) x・前掲注 8・138 頁以下参照。
ドイツ保険契約法における保険者の情報提供義務の内容(xx)
Ⅲ.VVG 第7 条
1.VVG 第 7 条および保険契約の場合の情報提供義務に関する法規命令
VVG 第 7 条および保険契約の場合の情報提供義務に関する法規命令の試訳は以下のとおりである。長くなるが、重要な条文であるので、全訳を載せる。
①保険者は、保険契約者に適時に契約の意思表示の前に、法規命令において 2 項以
下に定める情報の限りで、普通保険約款を含めた契約の条項を、テキストの形で伝えなければならない。その伝達は、組み込まれた伝達手段に応じた方法で明確かつ理解可能な形で伝えられなければならない。契約が保険契約者の求めに応じて電話でまたは、保険契約者の契約の意思表示前にテキストの形で情報を提供できない他の通信手段を用いて締結されるときには、情報は契約締結後遅滞なく後から提供されなければならない。保険契約者が別の書面上の意思表示により、契約の意思表示の前の情報の提供を明確に放棄した場合も同様である。
②連邦司法省は、連邦財務省との合意においておよび連邦食糧・農業省との話し合いにおいて法規命令により連邦参議院の同意なく保険契約者の包括的な情報のため、以下の点について定める権限が与えられている。
1 .撤回権が存在することと並んで、とりわけ保険者について、申込された給付に
ついて、普通保険約款について、いかなる契約の詳細について保険契約者に伝えなければならないか。
2 .生命保険の場合、保険料との差引勘定が生ずる限りで締結費用および販売費用
についておよびその他の費用と並んで、保険契約者にいかなるさらなる情報、とりわけ期待される給付について、伝達と計算、計算モデルについても伝えなければならないか。
3 .疾病保険の場合、締結費用および販売費用と並んで、とりわけ保険料の詳細と
形について、いかなる情報を伝えなければならないか。
4 .保険者が電話でコンタクトを取る場合には保険契約者に何を伝えなければならないか。
5 .どのような方法で保険者は情報を伝えなければならないか。
1 項により伝達を定める場合、指示された情報 (Angaben) は、生命保険に関す
法律論叢 90 巻 4・5 合併号
るヨーロッパ議会および理事会の 2002 年 9 月 5 日付け 2002/83EC 指令と並んで、 EWG73/239 指令、EWG88/357 指令の修正と並んで、直接保険の法的規定および行政的規定の調整のための(生命保険を例外とした)1992 年 7 月 18 日の EWG 指令 92/49 の後の、指示された情報は、EWG90/619 指令、EG97/7 指令、EG98/27指令を修正するための、消費者に対する金融サービス業の遠隔地販売に関するヨーロッパ議会および理事会の 2002 年 9 月 23 日付 2002/65 指令を考慮している。
③法規命令の第 2 項以下において、保険者は、契約が継続している間、テキストの方式で伝達しなければならないとさらに決定できる。保険契約者の請求権の発生に関する余剰金の配分を伴う生命保険の場合と並んで、以前の情報の変更、疾病保険の場合の保険料値上げ、料金表の交換の可能性の場合も同様である。
④保険契約者は、契約の期間中は普通保険約款を含めた契約条項を証書の形で伝達するよういつでも保険者に請求できる。最初の伝達の費用は保険者の負担とする。
⑤第 1 項から第 4 項の規定は、第 210 条 2 項の意味における巨大危険に関する保
険契約の場合には適用しない。当該契約の場合に、保険契約者が自然人のときには、保険者は契約締結前に保険契約者に適用される法律と所管官庁をテキスト方式の形で伝達しなければならない。
保険契約の場合の情報提供義務に関する法規命令第 1 条(全ての保険種類の場合の情報提供義務)
①保険者は保険契約者に VVG 第 7 条 1 項に基づき以下の情報を与えなければならない。
1 .契約を締結されるべき保険者の身元(identita¨ t)および支店。経営者を登録している商業登記簿および該当する登録番号も提供しなければならない。
2 .代理人がいる場合には、保険契約者が居住地を有するヨーロッパ連合加盟国における保険者の代理人の身元、または、保険契約者がその者と取引をしなければならない場合には、勧誘者として他に営業上活動している者の身元、および保険契約者に対して活動している資格
3 .保険者の呼び出しできる住所、および保険者、代理人、または営業上活動して
いる者と保険契約者との間の取引関係を決定する他の住所、法人、人的結合体、人的集団の場合には、代表権を有する者の氏名
ドイツ保険契約法における保険者の情報提供義務の内容(xx)
4 .保険者の主たる営業所
5 .出資金保全体系に関するヨーロッパ議会および理事会 1994 年 5 月 30 日付 EG94/19 指令および出資の賠償のための体系に関するヨーロッパ議会および理事会 1997 年 3 月 3 日付指令に属さない、保証基金の存在または他の賠償規定に関する情報。保証基金の氏名および住所
6 . a) 保険関係に適用される料金規定を含めた普通保険約款
b) 保険給付の本質的特徴、とりわけ保険者の給付の種類、範囲、満期に関する情報
7 .全ての税金および他の価格構成要素を含んだ保険の総額。保険関係が複数の独立した保険契約を含む場合には、保険料は個別に証明されなければならない。正確な価格を提供できない場合には、保険契約者に価格の検算をさせるような計算の基礎の情報
8 .場合によっては、保険者には支払わないか保険者が負担しない、ありうるさら
なる税金、手数料、費用と並んで、全て支払われる金額のもとで追加的に生じた費用。保険契約者が遠隔通信手段を利用するために追加的な費用を負担する場合には、その際に生ずる全ての費用の情報が提供されなければならない。
9 .支払いおよび履行、とりわけ保険料の支払い方法に関する個々の点
10.たとえば、とりわけ保険料に関する期限付き申込みの有効期間、情報の有効期間の期限
11.場合によっては、金融サービスの特有の特徴または特別な危険ともに実行される経過により責任を負うか、その価格が保険者の影響なく、金融市場の変動に服するか、金融機関に関連付けるという指示。過去、経営努力によって獲得した額における将来の利益の指標がないという指示。その時々の状況と危険が示されるべきである。
12.契約はいつ成立するか、とりわけ申込者が拘束される期間および期限と並ん
で、保険および保険保護の期間、始期についての情報
13.撤回権の存否、条件、行使の個別性、とりわけ撤回権を行使する相手方の氏名および所在地。保険契約者が撤回した場合に、場合によっては支払わなければならない金額に関する情報を含めた撤回の法律効果
14.期間、場合によっては契約の最低期間に関する情報
法律論叢 90 巻 4・5 合併号
15.契約の終了とりわけ万が一の違約罰を含めた契約上の解除の条件に関する情報
16.保険者の権利が保険契約の締結前に保険契約者との関係において受け入れの根拠となっているヨーロッパ連合加盟国
17.契約に適用される法、契約に適用される法または管轄権を有する裁判所に関する契約条項
18.保険者が保険契約者の同意に伴って、本契約の間、伝達しなければならない義務を負うのはどの言語でかということと並んで、契約条件において、および本規則において挙げられている事前情報を伝えているのはどの言語か。
19.裁判外の異議申立ておよび法的救済手続きに対する保険契約者の可能な方法、
場合によってはその方法のための要件。その場合、保険契約者にとって法的手段に訴えることができる可能性、およびそのことは侵害されることはないということを明確に指示する必要がある。
20.監督官庁への異議申立ての可能性と並んで所管官庁の名および住所
②普通保険約款を含めた契約条件の伝達による通知があった限りで、第 1 項 3 号、 5 号、15 号による情報は強調され、明確な形となっていなければならない。
第 2 条(生命保険、職業不能保険、保険料払い戻し保証付き傷害保険の場合の情報提供義務)
①生命保険の場合は、保険者は保険契約者に VVG 第 7 条 1 項 1 文に基づき、第 1
項 1 号の規定に挙げられた情報に加えて、以下の情報を与えなければならない。 1 .保険料に算入されている費用の額に関する情報、その場合、統一的な総額とし
て算入されている締結費用および年間保険料の一部として算入されている残りの費用について、その期間ごとの情報を示されなければならない。
2 .その他ありうる費用、とりわけ 1 回のみまたは特別な契機により生じうる費用
に関する情報
3 .利潤の調査および利潤の配分のために適用される計算原則および基準に関する情報
4 .返還金の切上げの考慮に関する情報
5 .保険料が自由のまたは保険料が減額された保険における転換のための最低保険金額に関する情報、および保険料が自由のまたは保険料が減額された保険にお
ドイツ保険契約法における保険者の情報提供義務の内容(xx)
ける給付に関する情報
6 .第 4 号、5 号に基づき保証されている給付の程度
7 .基金により拘束された保険の場合、保険が根拠とする基金および含まれた財産価値の種類に関する情報
8 .本保険種類に適用される税の規則に関する一般的情報
②第 1 項 1 号、2 号、4 号、5 号によると、情報はユーロで示されなければならない。1 項 6 号の場合、第 1 文の規定は、保証の程度はユーロで情報提供されなければならないということにも適用される。
③保険者により伝えられた計算モデルは、VVG 第 154 条 1 項の意味において以下の利息とともに記述されなければならない。
1 .1.67 を掛けた、最も高く計算した利息
2 .第 1 号のものからさらに 1 %を加算したもの
3 .第 1 号のものから 1 %を控除したもの
④職業不能保険の場合には、第 1 項、2 項の規定が準用される。そのことを超えてさらに以下のことが指し示される。保険約款において用いられた職業不能の概念は、社会法の意味における職業不能や収入減少の概念や、疾病日払い保険の保険約款の意味における職業不能の概念とは一致しない。
⑤保険料払戻しをともなう傷害保険の場合には、第 1 項 3 号から 8 号および 2 項の
規定が準用される。
第 3 条(疾病保険の場合の情報提供義務)
①包括的な疾病保険(VAG 第 12 条 1 項)の場合、保険者は保険契約者に VVG 第 7 条 1 項 1 文に基づき、第 1 項 1 号の規定に挙げられた情報に加えて、以下の情報を与えなければならない。
1 .保険料に算入されている費用の額に関する情報、その場合、統一的な総額として算入されている締結費用および年間保険料の一部として算入されている残りの費用について、その期間ごとの情報を示されなければならない。
2 .その他ありうる費用、とりわけ 1 回のみまたは特別な契機により生じうる費用
3 .医療費の上昇の、将来の支払い金額の上昇への影響に関する情報
4 .VAG 第 12 条 1c 項に基づく保険料減額の可能性と並んで、年齢による支払い
法律論叢 90 巻 4・5 合併号
金額の限界の可能性、とりわけ標準料金表、または基礎料金表または、VVG 第
204 条による他の料金表の交換の可能性、および給付排除に関する情報
5 .かなりの高齢では私的な疾病保険と法律上の疾病保険との転換は原則として排除されるという指示
6 .かなりの高齢での私的な疾病保険の転換は高額のものとなり、場合によっては、標準料金表あるいは基礎料金表への交換が制限されるという指示
7 .提案で示された 10 年間における支払金額の上昇に関する概要。保険契約が加入年齢 35 歳の申込者と同等の健康状態で締結されたならば、提案で示された 10年の中で月々の支払いはいくらになるのかということを示さなければならない。提案された料金表は 10 年も存在せず、料金表導入の時点に合わせることになり、また、以下のことが示される。内容は限界づけられ、10 年間存在した比較しうる料金表の上昇は補充される。
第 4 条(商品情報パンフレット)
①保険者が消費者の場合には、保険者は保険契約者に、保険契約締結のため、または履行のために特別の意味を有する情報を含む商品情報パンフレットを提供しなければならない。
②第 1 項の意味における情報とは以下のものを指す。
1 .提案された保険契約の種類に関する情報
2 .契約により保障される危険および除外される危険に関する記述
3 .ユーロでの保険料額、支払いをやめたときまたは遅れたときの結果と並んで満期および保険料払込期間に関する情報
4 .契約に含まれる給付排除の指示
5 .契約締結の際に考慮される責務および考慮しなかった際の法的効果
6 .契約中に考慮される責務および考慮しなかった際の法的効果
7 .保険事故発生の際に考慮される責務および考慮しなかった際の法的効果
8 .保険保護の始期および終期に関する情報
③剰余金配分付きの生命保険の場合、VVG 第 154 条 1 項により保険者により伝えられた計算モデルが追加的に指し示されなければならないという程度において第 2 項 2 号が適用される。
ドイツ保険契約法における保険者の情報提供義務の内容(xx)
④生命保険、職業不能保険、疾病保険の場合、その他の費用(第 2 条 1 項 2 号、第 3 条 1 項 2 号)と並んで、締結および販売費用(第 2 条 1 項 1 号、第 3 条 1 項 1号)がそれぞれ分けてユーロで示さなければならないという程度において第 2 項 2 号が適用される。
⑤商品情報パンフレットは、それ自体、与えられた情報を付するものである。第 1項、2 項により伝えられた情報はわかりやすくかつ理解できる方法で簡潔に記述されなければならない。保険契約者は、情報が排除されていないということを指し示されなければならない。第 2 項で規定されている順序は守らなければならない。情報が契約の合意の内容に該当する限りで契約の重要な規定または契約の根拠となる普通保険約款も指し示されなければならない。
第 5 条(電話の場合の情報提供義務)
①保険者が保険契約者に電話で接触した場合には、会話の最初に自身の身元および接触の営業上の目的を明確に公表しなければならない。
②電話の場合、保険者は保険契約者にこの契機に、第 1 条 1 項 1 号から 3 号、6b
号、7 号から 10 号、12 号から 14 号に従った情報を伝達しなければならない。第 1 文の規定は、保険者が保険契約者に希望によりさらなる情報の提供が可能で、この情報がどのようなものであっても、保険契約者がこの時点で明確にさらなる情報の提供を放棄できるということについて情報提供した場合のみ適用される。
③第 1 条から 4 条に規定されている情報提供義務は侵害していない。
第 6 条(契約期間中の情報提供義務)
①保険者は、保険契約の期間中も保険契約者に対して以下の情報を伝達しなければならない。
1 .身元の変更、契約締結に関する保険者の住所および支店の変更
2 .法改正がなされた限りで、第 2 条 1 項 3 号から 7 号と並んで、第 1 条 1 項 6b
号、7 号から 9 号、14 号に関する情報
3 .契約に従い剰余金の配分が予定されている限りで、剰余金の配当がどの程度保証されているのかということに関する情報と並んで、剰余金の配分の状態に関する毎年の情報。ただし、疾病保険の場合にはこの限りではない。
法律論叢 90 巻 4・5 合併号
②包括的な疾病保険の場合、VAG 第 12 条 1 項に基づき、保険者は、保険料上昇の場合に、法律上の規定の文章を添付して、VVG 第 204 条に基づいた料金表の交換(上昇)の可能性を指し示さなければならない。被保険者が 60 歳になった場合には、保険契約者は、今、合意している料金表と同等の保険保護を提供する料金表、および保険料の減額にもなりうることを指し示されなければならない。その指示は、理解ある評価の場合、上昇のための保険契約者の利益も考慮に入れたという料金表を含まなければならない。第 2 文に挙げられた料金表にとって、いずれにせよ基礎的料金表の例外とともに、過去の営業年度における被保険者の数に応じたもっとも高い新しい道(Neuzugang)を記録するための料金表は重要とみなされる。合計で 10 以上の料金表が挙げられてはならない。その場合は、被保険者にとってどの料金表が全ての料金表の交換の中で重要であるかということが提供される。それを超えて、標準料金表または基礎的料金表への交換の可能性も指し示されなければならない。その場合、標準料金表または基礎的料金表への交換の要件は、VAG 第 12 条 1c 項により基礎的料金表における保険料減額の可能性と並んで、払い込まれる保険料を伝達することである。照会に応じて、 VAG 第 12 条 1 項 5 号により、譲渡価値は保険契約者に伝達される。2013 年 1月 1 日より毎年、譲渡価値は伝達されなければならない。
第 7 条(経過規定、施行)
①保険者は、2007 年 12 月 31 日までに適用される法律の基準に従うことで、本法規命令において規定された情報提供義務を 2008 年 7 月 30 日までは果たしたことになる。
②第 4 条と並んで、第 2 条 1 項 1 号・2 号、同条 2 項、3 条 1 項 1 号・2 号、同条 2項は 2008 年 7 月 1 日より効力を有する。残りの規定は 2008 年 1 月 1 日より効力を有する。
2.VVG 第 7 条の構造
⑴ 立法の趣旨
この VVG 第 7 条は 2008 年の VVG 改正の際に、新たに規定されたもので、新
ドイツ保険契約法における保険者の情報提供義務の内容(xx)
たな種類の情報提供義務を課すものであると考えられている(15) 。
⑵ VVG 第 7 条の概観
まず、第 1 項は、保険者は、保険契約者に対し保険契約者の契約表示の前に普通保険約款を含む契約条件をテキストの形式で知らせるべきこと(1 文)、情報は採用された通信手段に相応する方法で明瞭かつ理解できるように伝達すべきこと(2文)、伝達は、契約が、保険契約者の要求に基づき、電話により、または情報がテキストの方式で与えられないその他の通信手段の使用により、締結されているときは契約締結後に遅滞なく行われるべきこと(3 文)を規定している。
第 2 項は、連邦司法省は、法規命令により、保険者が伝えるべき情報を具体的に定める権限を有していることを規定している。
第 3 項は、2 項に基づく法規命令において、連邦司法省が、保険者が契約期間中にも情報を文書方式で伝えるべきことを定めることにつき規定している。
第 4 項は、保険契約者は契約の期間中いつでも普通保険約款を含む契約条件を保
険者に請求できることを規定している。
第 5 項は、1 項から 4 項の適用が除外される契約(1 文)、巨大危険において保険契約者が自然人であるときには、保険者は契約締結前に準拠法および所轄の監督官庁についてテキストの方式で知らせるべきこと(2 文)を規定している。
⑶ 保険契約の場合の情報提供義務に関する法規命令の概観
その規定を概観すると以下のとおりとなる(16) 。
第 1 条は、全ての保険種類に関する情報提供義務という見出しで、第 1 項において、①保険者名および営業拠点、②保険契約者の住所地がある EU 加盟国内の保険者の代理人名、③保険者等の住所、④保険者の主たる営業活動、⑤倒産補償基金等の存在についての記述、⑥料率規定を含む当該保険関係に適用される普通保険約款、保険給付の重要なメルクマール、特に保険者の給付の種類、範囲、および期限
(15) Bruck/Mo¨ller, Kommentar zum Versicherungsvertragsgesetz, Band1(9. Aufl.), 2008, S.453f(Harald Herrmann); Langheid/Wand(Hrsg.), Mu¨ nchener Kommnentar zum Versichrungsvertragsgesetz, Band1, S.763(Armbru¨ ster); Looschelders/Pohlmann, VVG-Kommentar, 2. Aufl. S.365(Pohlmann); Oliver Meixner/Dr. Rene´ Steinbeck, Allegemeines Versichrungsvertragsrecht, 2. Auflage, S.34.
(16) 以下の内容については、山下友信「保険募集規制等と比較法の状況」前掲注 8・財団法人
損保ジャパン記念財団報告書 4 頁以下を一部改変のうえ引用している。
法律論叢 90 巻 4・5 合併号
についての記述、⑦税金等を含む保険料総額、複数の独立の保険契約を包含するときは個別の契約後との保険料額、正確な保険料額が算出できない場合には保険契約者が価格を検討することができるようにするための計算基礎に関する記述、⑧その他の諸費用、⑨保険料の支払いに関する諸事項、⑩提供される情報の有効期限、⑪金融リスク等の説明、⑫保険契約の成立時期、申込みの有効期間、⑬クーリングオフに関する事項、⑭契約の継続期間、⑮契約の終了関係事項、⑯その法律が契約成立に適用される加盟国、⑰準拠法および裁判管轄地、⑱使用される言語、⑲裁判外紛争処理手続き、⑳所轄監督官庁およびその苦情申し立て先について規定している。さらに、第 2 項において約款を含む契約条項を伝達するときは上記③・⑬・⑮が目立つよう記載することを求めている。
第 2 条は、生命保険等に関する情報提供義務という見出しで、第 1 項において、
①保険料に算入された費用、契約締結費用の総額とその他の費用を明示すること、
②その他の費用、③剰余金算出および分配の計算方法、基準、④買戻し価格、⑤払い済み保険への変更、⑥上記④・⑤により給付が保証される基準、⑦変額保険に関係する事項、⑧当該保険の税務関係事項について情報提供するよう定めている。
第 3 条は、疾病保険の場合の情報提供義務について規定している。
第 4 条は、商品情報パンフレット(Produktioninformationsblatt)についての規定で、第 1 項では、保険契約者が消費者の場合には、保険契約の締結および履行について重要な情報を含む書面を交付しなければならないとし、続けて第 2 項で、全契約種類に対して求められる記載事項を規定している。すなわち、①当該保険契約の種類、②担保危険、免責危険に関する事項、③保険料の払込みに関係する事項、不払いの効果、④給付免責事由、⑤契約締結時の責務と違反の効果、⑥契約継続中の責務と違反の効果、⑦保険事故発生時の責務と違反の効果、⑧保険保護の始期、終期、⑨契約の終了に関係する事項について規定している。続けて、第 3 項で生命保険等の場合に求められる記載事項、第 4 項で書面の要件について規定している。
第 5 条は、電話による募集の場合の情報提供義務に関する規定である。
第 6 条は、契約の継続期間中の情報提供義務に関する規定であり、第 1 項では、全ての保険の場合に、①保険の営業拠点の変更、②法律規定の変更から生ずる限りにおいて、1 条 1 項の第 6b 号、第 7 号、第 8 号、第 9 号、第 14 号、2 条 1 項の第 3 号から第 7 号に関する変更、③有配当保険の毎年の配当の状況等について情報提
ドイツ保険契約法における保険者の情報提供義務の内容(松谷)
供するよう求めている。
3.若干の検討
⑴ 内容面での特徴
特筆すべき点として、第一に、提供すべき内容をきわめて詳細に規定している点が挙げられる。第二の特徴として、契約期間中も継続して情報提供義務を認めている点が挙げられる。
⑵ 派生的な点の特徴
VVG 第 7 条の規定をめぐっては、坂口博士によると、①情報提供義務の法的性質論、②情報提供義務と他の類似諸義務との関係、③契約成立モデル、④「適時」の解釈、⑤明瞭性および理解の容易性の解釈、⑥情報提供義務違反の効果という 6点が特徴的であるとされている(17) が、本稿では特に上記①、③、⑥の点について考察を加える。
ア.情報提供義務の法的性質論
前述のとおり、VAG 第 10a 条をめぐっては、保険監督法に規定されていることから、その法的性質に争いがあった。すなわち、保険監督法という公法に属する法律に規定されている以上、当該規定は、公法上の規定であるとされ、そのことから保険会社の情報提供義務も監督官庁に対する公法上の義務であると解されていた(18) 。
これに対し、VVG 第 7 条は、保険者の情報提供義務が私法上の義務であり、た
だ、追加的な公法上の監督規定ではないことを明らかにした点が特徴的である(19) 。イ.契約成立モデル
ドイツでは保険契約締結のモデルとして、「申込モデル」と「保険証券モデル」という 2 つの類型が存在するとされてきた。その概要は以下のとおりである(20) 。
VVG では保険契約の成立に関する特別規定は存在しないため、保険契約の成立
(17) 坂口・前掲注 8・「保険者の情報提供義務」における分類による。
(18) Bruck/Mo¨ller, a.a.O(Fn.15)., S.454 (Harald Herrmann); Langheid, a.a.O(Fn.15)., S.766(Armbru¨ ster).
(19) Bruck/Mo¨ller, a.a.O(Fn.15)., S.454 (Harald Herrmann); Langheid, a.a.O(Fn.15).,
S.766(Armbru¨ ster).
(20) Bruck/Mo¨ller, a.a.O(Fn.15)., S.474 (Harald Herrmann); Langheid, a.a.O(Fn.15)., S.772(Armbru¨ ster).
法律論叢 90 巻 4・5 合併号
に関しては、一般法であるドイツ民法典(BGB)の諸規定が適用される。すなわち、保険契約は、保険契約者が申込みを行い(BGB145 条)、これに対して、保険者が申込みの承諾期間内に承諾するという方式によって成立する(BGB148 条)。そして、保険契約者の申込みの中に保険者の承諾の判断にとって必要な全ての表示がなされ、申込み時に保険契約者が全ての情報を得ている場合には、保険契約はこの方法で比較的単純に迅速に成立する。このような成立方法を「申込みモデル
(Antragsmodell)」という。
これに対し、保険実務では保険契約者が重要な情報および保険約款を保険者の承諾の意思表示のときに、保険者からの保険証券とともに入手するのが通常である。このような保険契約の締結方法を「保険証券モデル(Policenmodell)」という。保険証券モデルのもとにおいては、保険契約者が情報と保険約款を入手するのは、保険者による承諾の意思表示の時となる。
VVG 第 7 条は契約締結前に適時に必要書類を交付する義務を定めており、また、 VVG 第 5a 条が廃止されたため、旧法下で認められていた証券モデルという形式での保険契約締結は認められなくなった(21) 。また、「契約締結前に適時に」という文言があることから、契約締結時に情報を提供するものでなければならないという点では、従来の申込みモデルも否定されていると考えられている(22) 。
ウ.情報提供義務違反の効果
消費者情報の不伝達は、BGB280 条 1 項に基づく損害賠償請求権を導く(23) 。なぜならば、VVG 第 7 条 1 項および情報法規命令は、私法上の義務を基礎づけるものだからである。
損害賠償請求権の法的根拠は、どの時点での情報提供義務違反かによって分けて考えられている。まず、契約締結前の義務を侵害する場合には、契約締結上の過失の問題となり、信頼利益の賠償が認められる(24) 。これに対して、契約期間中の情
(21) Bruck/Mo¨ller, a.a.O(Fn.15)., S.474 (Harald Herrmann); Langheid, a.a.O(Fn.15)., S.774(Armbru¨ ster).
(22) Bruck/Mo¨ller, a.a.O(Fn.15)., S.476 (Harald Herrmann); Langheid, a.a.O(Fn.15).,
S.772(Armbru¨ ster).
(23) Bruck/Mo¨ller, a.a.O(Fn.15)., S.480 (Harald Herrmann); Langheid, a.a.O(Fn.15)., S.788(Armbru¨ ster).
(24) Bruck/Mo¨ller, a.a.O(Fn.15)., S.480 (Harald Herrmann); Langheid, a.a.O(Fn.15).,
S.789(Armbru¨ ster).
ドイツ保険契約法における保険者の情報提供義務の内容(松谷)
報提供義務違反の場合には、法規命令 6 条に基づいて損害賠償の法的性質は、積極的契約侵害の法的性質を有し(25) 、履行利益の賠償まで認められることとなる。
Ⅳ.日本法への示唆
1.示唆に値する点(1)
立法論の立場から以下の 2 点を挙げる。第一に、本来、「情報」というのは多種多様なものであるが保険者が提供すべき「情報」の内容を保険契約法が明文で詳細に規定し、かつその法的効果として保険契約者の撤回権を認めている点、第二に、契約期間中も情報提供義務は継続するとし、契約期間中も保険者にも一定の義務を課している点である。
2.示唆に値する点(2)
解釈論の立場から以下の点を挙げる。すなわち、契約期間中の情報提供義務違反の場合の損害は何かという点、すなわち、履行利益の賠償まで認め、適切な情報提供がなされていたならば保険契約者が有していたであろう法的地位を保険契約者に与えることを認めている点である。
この点は、わが国において情報提供義務違反の場合に履行利益の損害賠償まで認めるべきとする立場に一定の示唆を与えるものではないか。
Ⅴ.今後の課題
VVG 試行から既に 10 年が経過しており、情報提供義務違反に関する判例の蓄積もみられる。今後は、2008 年改正以降のドイツの判例を検討することで情報提供義務に関しより詳細な検討を行なうことを課題としたい。
(関東学院大学法学部法学科専任講師)
(25) Bruck/Mo¨ller, a.a.O(Fn.15)., S.480 (Harald Herrmann); Langheid, a.a.O(Fn.15)., S.796(Armbru¨ ster).