Contract
建築請負契約の目的物の主観的瑕疵と請負人の瑕疵担保責任
x x x x
一 はじめに
二 建築請負契約の目的物の主観的瑕疵とその認定
三 建築請負契約の瑕疵担保責任と建替費用相当額の賠償請求の可否
四 注文住宅の主観的瑕疵を理由とした建替費用相当額の賠償請求の可否五 瑕疵担保責任に基づく損害賠償請求と請負人の帰責事由の要否
六 おわりに
一 は じ め に
近時の欠陥住宅紛争に関する判例の進展はめざましい。理論的にも実務的にも重要な最高裁判決が相次いで下されている1)。ひとつは,請負契約の瑕疵担保責任に基づき欠陥住宅の建替費用相当額の賠償請求を最高裁として初めて認容した 2002(平成14)年9月24日の判決(判時1801号77頁。以下〈A判決〉と略す)。次に,地震に強い建物を建てるために,約定で特に定められた太さの主柱を使うべきであったのにこれを使わなかった点が請負目的物の瑕疵にあたるとして,いわゆる請負目的物の主観的瑕疵を最高裁として初めて認めた 2003(平成15)年10月10日の最高裁判決(判時1840号18頁。以下〈B判決〉と略す)。また,建築確認申請のために名義だけを貸して実際に工事監理をしなかったいわゆる名義貸建築士の不法行為責任を最高裁として初めて認めた 2003(平成15)年11月14日判決
(民集 57・10・2562。以下〈C判決〉と略す)。そのような瑕疵を作り出す,或いは適正な工事監理をしないことが損害賠償責任をもたらすことを
立命館法学 2004 年6号(298号)
明確にしたこれら一連の最高裁判決は,被害の回復にとってばかりか,被 害の予防の点でも重大な意義を持つ。また,この間,欠陥住宅被害につい て慰謝料を認容する判決も数多く蓄積し,慰謝料額も高額化してきている2)。
ところで,〈B判決〉は請負目的物の主観的瑕疵に対する請負人の損害賠償責任を認めたが,そこで争われていたのは,請負人からの残報酬代金の支払請求に対する,注文者からの瑕疵修補に代わる損害賠償請求権を自働債権とした相殺の主張であり,その内容も〈A判決〉の事案のように,瑕疵を理由にした建替費用相当額の損害賠償請求をした事案ではない。しかし,例えば〈B判決〉の事案で問題となったような約定の太さの柱と異なった主柱が使われたような場合に,それを約定通りの太さの柱にするためには,結局建替が必要であるという場合には,注文者は建替費用相当額の賠償請求もできるのであろうか。本稿は,近時の判例動向の進展を契機として検討課題として浮かび上がってきた,このような請負契約目的物の主観的瑕疵と請負人の瑕疵担保責任の問題を,欠陥注文住宅紛争を中心に検討するものである。
二 建築請負契約の目的物の主観的瑕疵とその認定
まず〈B判決〉の事案と判旨を紹介しておこう3)。
1 〈B判決〉の事案
上告審は「原審の確定した事実関係は,次のとおりである。」とする。
「上告人は,平成7年11月,建築等を業とする被上告人に対し,xxxxxxにおいて,学生,特に神戸大学の学生向けのマンションを新築する工事(以下『本件工事』という。)を請け負わせた(以下,この請負契約を『本件請負契約』といい,建築された建物を『本件建物』という。)。
上告人は,建築予定の本件建物が多数の者が居住する建物であり,
建築請負契約の目的物の主観的瑕疵と請負人の瑕疵担保責任(xx)
特に,本件請負契約締結の時期が,同年1月17日に発生した阪神・淡路大震災により,神戸大学の学生がその下宿で倒壊した建物の下敷きになるなどして多数死亡した直後であっただけに,本件建物の安全性の確保に神経質となっており,本件請負契約を締結するに際し,被上告人に対し,重量負荷を考慮して,特にxxの主柱については,耐震性を高めるため,当初の設計内容を変更し,その断面の寸法 300 mm
×300 mm の,より太い鉄骨を使用することを求め,被上告人は,こ
れを承諾した。
ところが,被上告人は,上記の約定に反し,上告人の了解を得ないで,構造計算上安全であることを理由に,同 250 mm×250 mm の鉄骨をxxの主柱に使用し,施工をした。
本件工事は,平成8年3月上旬,外構工事等を残して完成し,本件建物は,同月26日,上告人に引き渡された。
原審は,上記事実関係の下において,被上告人には,xxの主柱に約定のものと異なり,断面の寸法 250 mm×250 mm の鉄骨を使用したという契約の違反があるが,使用された鉄骨であっても,構造計算上,居住用建物としての本件建物の安全性に問題はないから,xxの主柱に係る本件工事に瑕疵があるということはできないとした。」
2 判旨
破棄差戻。最高裁は,「しかしながら,原審の上記判断は是認することができない。」として,次の理由をかかげ,「瑕疵の修補に代わる損害賠償債権額について更に審理を尽くさせるため,本件を原審に差し戻すこととする。」とした。
「前記事実関係によれば,本件請負契約においては,上告人及び被上告人間で,本件建物の耐震性を高め,耐震性の面でより安全性の高い建物にするため,xxの主柱につき断面の寸法 300 mm×300 mmの鉄骨を使用することが,特に約定され,これが契約の重要な内容に
立命館法学 2004 年6号(298号)
なっていたものというべきである。そうすると,この約定に違反して,同 250 mm×250 mm の鉄骨を使用して施工されたxxの主柱の工事 には,瑕疵があるものというべきである。これと異なる原審の判断に は,判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反がある。」
3 請負目的物の瑕疵と約定内容
判例上は,売買契約における目的物の瑕疵(民法570条)について,契約で定められた品質を欠く場合は瑕疵にあたることを認めてきた。大判昭和 8・1・14 民集 12・71 は,一定の性能のある機械(籾摺土臼)の売買について瑕疵を認めたが,その中で次のように判示している。「案スルニ売
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ ・
買ノ目的物ニ或種ノ缺陥アリ之カ為其ノ価額ヲ減スルコト少カラス又ハ其
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ノ物ノ通常ノ用途若ハ契約上特定シタル用途ニ適セサルコト少カラサルト
・
キハコレ所謂目的物ニ瑕疵ノ存スル場合ナリ……瑕疵ナルモノハ以上ノ場
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・合ニ止マラス他無シ夫ノ売買ノ目的物カ或性能ヲ具備スルコトヲ売主ニ於
・・・・・ ・・・・・ ・・・・・・・・・・・・・・・・
テ特ニ保証 (請合フノ意)シタルニ拘ラス之ヲ具備セサル場合則チ是ナリ
・・・蓋斯カル物ハ縦令一般ノ標準ヨリスレハ完璧ナルニモセヨ偶々此ノ具体的
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
取引ヨリ之ヲ観ルトキハ是xxノ缺陥ヲ帯有スルモノニ外ナラサレハナ
リ」(傍点引用者。以下同様)。この判決は売主がその品質を「特ニ保証」した場合にその品質を欠く場合を瑕疵に含めているが,学説も,これを支持して売買目的物の瑕疵について,「 一般には,その種類のものとして通常有すべき品質・性能を標準として判断すべきである。然し, 売主が,見本により,または広告をして,目的物が特殊の品質・性能を有することを示したときは,その特殊の標準によってこれを定むべきである」とするxx説4)や,「売買の目的物に瑕疵があるとは,特定物売買についていえば,物の価値ないし物の通常の用途もしくは契約上予定された用途に対する適性を,減少あるいは消滅させる欠陥のあることをいう。しかし,そればかりでなく,売主が保証した性能を具備しないことをもいう。……要するに,契約当事者間で,ないと前提した欠陥があり,またあると保証
建築請負契約の目的物の主観的瑕疵と請負人の瑕疵担保責任(xx)
した特性がないことである。さらに簡潔に表現すれば,物が契約に適合していないことである」とするxx説が展開されてきた5)。現在では,これらの瑕疵は,客観的瑕疵と主観的瑕疵として次のように整理されている。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「目的物の『瑕疵』には,まず,それを保有すべきことが取引上一般に期
・・・・・・ ・・・・・・・・・・ ・・・・・
待される品質・性能を欠いている場合――客観的瑕疵――が含まれること
・・・・・・・・・・・・・には異論がない。さらに,これだけでなく,契約上予定した使用について
・ ・・・・・・・・・・・・・・・・・ ・・・・・ ・・・・
も,それに対する適性を害するような欠点――主観的瑕疵――をも含むも
・・・・・・・・・・・・
のとされる。また,売主が保証した性質の欠缶欠も,『瑕疵』に含めて理解
されている。」6)このように売買目的物の「瑕疵とは,目的物に何らかの欠陥があることであるが,何が欠陥かは,当該目的物が通常備えるべき品質・性能が基準になるほか,契約の趣旨によっても決まる。」7)と解されてきたのである8)。
他方で,民法は仕事の目的物に「瑕疵」がある場合には,注文者は請負人に対して瑕疵修補請求や瑕疵修補に代え,または瑕疵修補とともに損害賠償を請求できることを定めている(634条2項)。この場合の「瑕疵」について,通説は,売買目的物の「瑕疵」と同じく当該目的物が通常の品質を欠く「客観的瑕疵」と契約で定められた品質を欠く「主観的瑕疵」の両
者が含まれることを認めてきた。xxは言う。「目的物に瑕疵があるとは,
・・・・・・・・・・・・・・・・
完成された仕事が契約で定めた内容通りでなく,――使用価値もしくは交
・・・・・・・・・・・・・・換価値を減少させる欠点があるか,または当事者が予め定めた性質を欠く
など――不完全な点を有することである。」9)同様に,xxxは次のように言う。仕事の「瑕疵の内容は,売買の場合と同じく目的物の有する欠陥で
・・・・・・・・あり,目的物が通常有している品質や性能,あるいは,請負契約において
・・・・・・・・・・・・・・・・・
10)
特に示された品質や性能を基準にして判断される。」
以上のような売買契約における瑕疵に関する判例や請負契約の瑕疵も含めた学説の動向からすれば,今回の〈B判決〉が,「特に約定され,これが契約の重要な内容になっていた」工事仕様に反する施工をしたことが仕事の瑕疵にあたると判断したのは,妥当な結論であったと言えよう11)。そ
立命館法学 2004 年6号(298号)
の上でこの判決には,次に論ずるように,なお残された2つの問題がある。
4 契約違反と瑕疵の認定
〈B判決〉の主観的瑕疵判断における4つの要素
〈B判決〉の事案は,注文者と請負人の間で,「本件建物の耐震性を高め,耐震性の面でより安全性の高い建物にするため,xxの主柱につき断面の寸法 300 mm×300 mm の鉄骨を使用することが,特に約定され,これが契約の重要な内容になっていた」事案である。つまり,「本件建物の耐震性を高め,耐震性の面でより安全性の高い建物にするため」というように,当該請負契約の目的が明確で, 契約内容も,「xxの主柱につき断面の寸法 300 mm×300 mm の鉄骨を使用する」という点で具体的であり, このような契約内容が「特に約定され」ている点で当事者の合意内容となっており,しかも 「これが契約の重要な内容」になっているという事案なのである12)。
まず,こうした4つの要素, 契約目的の明確性, 契約内容の具体性, 当事者の意思の明確性, 契約内容の重要性は,主観的瑕疵の判断要素としての必要条件なのだろうか。
4つの要素は必要条件か
例えば,この事案で,「本件建物の耐震性を高め,耐震性の面でよりx x性の高い建物にするため」という契約目的は明確であったが,そのため にどのような太さの柱を主柱に使うべきかについては,特に指示もなかっ たところ,太さ 250 mm×250 mm の柱が主柱に使用された場合はどうか。この場合,契約内容に反する瑕疵かどうかは,その前提となる契約内容の 確定が必要で,その際,「設計図書が作成されている場合,瑕疵の有無は,設計図書と対象部分の施工との間に齟齬があるか否かによって判断するの が妥当であり,一般的にはそれで十分である」とする指摘がある13)。この 見解によれば,地震に強い建物をつくってくれといわれて,設計図書では,太さ 300 mm×300 mm の柱となっているのを,そのとおり施工せずに
建築請負契約の目的物の主観的瑕疵と請負人の瑕疵担保責任(xx)
250 mm×250 mm と施工した場合には,瑕疵があると判断すべきことになる。設計図書は,本来それにもとづいて施工がなされるための図書であり,一般的には設計図書によって契約内容が確定されるはずであり,〈設計図書違反の施工=瑕疵〉とする上記見解は妥当であろう14)。しかし,その反対に,設計図書に違反していない場合に,常に瑕疵がないといえるかは問題であろう。そもそも地震に強い建物を建築してくれと依頼されているのに,設計自体がそのことを考慮していない場合には,設計の瑕疵を問い得る場合があり得よう。この場合はそのような瑕疵ある設計をした建築士の責任が問われることになろう15)。
問題は,設計図書が存在しない場合である。一般には,柱の太さが太ければ太いほど,耐震性が高いとは言えようが,この太さの柱では安全性に問題があるとまでは言えないのであれば,瑕疵があるとの判断は困難とも言えよう。実は,原審は,前掲のように,約定に反した太さの柱を使用していても,「構造計算上,居住用建物としての本件建物の安全性に問題はないから,xxの主柱に係る本件工事に瑕疵があるということはできない」と判断したのであった。耐震性を高めるためという契約目的が明確であっても,そのためにどのような仕様の柱を使うべきかなどが具体的な契約内容になっていない場合には,相対的に耐震性が高い建物の通常の品質が基準にならざるを得ないのではないだろうか。だとすれば,上記4つの要素が判示されている点は,契約で定められた品質を欠く場合の主観的瑕疵の判断要素として,重要な意味を持つと言えよう。
ただ,請負契約において,仕事の品質についてどの程度の,どのような品質を備えていることが要求されるのかは,契約全体の趣旨によって判断されることになろうから,これら4つの要素を個別的に分解して,それぞ
れの要件が全て充たされているか否かを個別的・形式的に判断するのは妥 当ではなく,全体としての契約の趣旨を総合判断すべきことにはなろう16)。その際,注文者は建築の専門家ではなく素人であるような場合には,完成 した建物の品質について建築請負人がどのような宣伝や説明をしていたの
立命館法学 2004 年6号(298号)
か,また,注文者の要望,xxxに対して,専門家としての建築請負人や建築士が,専門家の立場からどのような説明を尽くすかべきかという説明義務の問題も浮上してこよう。この点は,とくに求める品質の程度が注文者によって異なるような遮音性の問題やシックハウス症候群への対応などの問題で現実の訴訟において重要な争点となっている17)。
もうひとつ残された課題が,主観的瑕疵がある場合の損害賠償の範囲,とくに主観的瑕疵を取り除くためには,建替が必要である場合に,建替費用相当額の損害賠償請求が認められるかという点であるが,これについては,〈A判決〉を検討した上で,あらためて後述四で論じよう。
三 建築請負契約の瑕疵担保責任と
建替費用相当額の賠償請求の可否
1 〈A判決〉の事案18)
Xは本件建物(木造・三世帯居住用建物)の建築の注文者であるが,本件建物には,筋交い仕口の施工不良や構造部分の隙間,基礎の欠陥など構造上,施工上の数々の重大な欠陥があり,建替るしかないとして,本件建物の建設会社であるY1らを相手取り,建替費用相当額の損害賠償請求や慰謝料等総額約4750万円の損害賠償請求をした。これに対してY1らは本件瑕疵は建替なくても修繕可能であるなどとして争った。
一審判決(横浜地裁xxxx判 2001(平成13)・8・9)は,Y1建設会社の請負契約上の瑕疵担保責任に基づき瑕疵修補に代わる損害賠償責任
(民法634条2項),本件工事総括責任者であったY2の不法行為責任(本件建築工事の指揮監督上の注意義務違反)と設計監理会社Y3の債務不履行責任(契約に従った監理業務をしていなかった)に基づき,建替費用については「鑑定によれば」として全額認容し,慰謝料は100万円を一部認容した。これに対してY1側は,民法635条但書は土地工作物に瑕疵があっても注文者の解除権を制限しており,このこととの均衡上解除を認めたに等
建築請負契約の目的物の主観的瑕疵と請負人の瑕疵担保責任(xx)
しい建替費用請求は否定されるべきであるなどとして控訴。
原審判決(東京高判 2002(平成14)・1・23)は,本件建物は建替えざるを得ないのであって,客観的な価値がないとして,一審と同じく建替費用相当額の損害賠償額を認容するとともに,Xが5年あまり本件建物に居住していたことの利益600万円を損害額から控除し,また,財産的損害の賠償を認めることによっても回復されない精神的苦痛を被ったものとまでは認められないとして,慰謝料請求は棄却した。これに対してY1らは建替費用請求の是非等を争って上告した。
2 判 旨
上告棄却。以下の理由で建替費用相当額の賠償請求を認めた原判決は適法とした。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「請負人が建築した建物に重大な瑕疵があって建て替えるほかはな
・・・ ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
い場合に,当該建物を収去することは社会経済的に大きな損失をもた
・・・・・・・・
らすものではなく,また,そのような建物を建て替えてこれに要する
・・・・・・・・・・・・・・・費用を請負人に負担させることは,契約の履行責任に応じた損害賠償
・・・・・・・・・・
責任を負担させるものであって,請負人にとって過酷であるともいえ
ないのであるから,建て替えに要する費用相当額の損害賠償請求をすることを認めても,同条ただし書の規定の趣旨に反するものとはいえ
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ない。したがって,建築請負の仕事の目的物である建物に重大な瑕疵
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ ・・・・ ・・
があるためにこれを建て替えざるを得ない場合には,注文者は,請負
・・・・ ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
人に対し,建物の建て替えに要する費用相当額を損害としてその賠償
・・・・・・・・・・・
を請求することができるというべきである。」本件建物は原審の認定
した事実によれば,「建物全体の強度や安全性に著しく欠け,地震や
・・・・・・・・・・
台風などの振動や衝撃を契機として倒壊しかねない危険性を有するも
のとなっている。このため,本件建物については,個々の継ぎはぎ的な補修によってはxx的な欠陥を除去することはできず,これを除去するためには,土台を取り除いて基礎を解体し,木構造についても全
立命館法学 2004 年6号(298号)
体をやり直す必要があるのであって,結局,技術的,経済的にみても,本件建物を建て替えるほかはない。」
3 従来の判例・学説状況と〈A判決〉の位置づけ
従来の下級審判決の中には,民法635条但書が,土地工作物の場合は,瑕疵があっても契約解除をできないと規定していることを理由に,建築請負目的物に瑕疵があっても,その建替や建替費用相当額の賠償請求を認めることは,建物を取り壊し,再築するということであって,それはとりもなおさず当該請負契約の解除を認めたのと同じか,それ以上の効果を与えることになるから認められないとするものがあった19)。また,学説上も同様の理由で否定説に立つ見解もあった20)。
その中で,欠陥住宅紛争が社会的に着目されるようになる1970年代以降,学説上は民法635条但書の解除制限の規定の適用範囲を制限する議論が有
力化し,その帰結として建替るしかない瑕疵の場合は,建替費用相当額の賠償請求も認められるべきであるとする肯定説も有力化してきた21)。肯定説の議論のポイントは,解除を制限して全く役に立たないような建物を存
置させることの方が社会的経済的に見て問題であるとする社会経済的損失論であった22)。また,下級審判決も肯定説ないし債務不履行構成や不
法行為構成によって実質的に再築費用の賠償を認める裁判例も増加してきた23)。
今回の〈A判決〉も,民法635条但書の趣旨に遡って,建替費用相当額の賠償請求を肯定するものであって,きわめて妥当な判決と言える24)。今後,本判決との関係で言えば,次のような課題が残されていると言えよう。
重大な瑕疵の判断基準 まず本判決は,「請負人が建築した建物に重大な瑕疵があって建て替えるほかはない場合」に建替費用相当額
の賠償を認めたが,このような「重大な瑕疵」とはいかなる基準で判断すべきかが課題となろう25)。本件では,「個々の継ぎはぎ的な補修
建築請負契約の目的物の主観的瑕疵と請負人の瑕疵担保責任(xx)
によってはxx的な欠陥を除去することはできず,これを除去するためには,土台を取り除いて基礎を解体し,木構造についても全体をやり直す必要があるのであって,結局,技術的,経済的にみても,本件建物を建て替えるほかはない」としているが,今後,具体的な事案との関係で当該瑕疵が「重大な瑕疵があって建て替えるほかはない」か否かが争点化することになろう。とくに,本稿が問題とするような主観的瑕疵の場合に,建替費用相当額の賠償請求が認められるかが問題となる。この点は,四で検討する。
請負契約の解除の是非 本件では請負契約の解除の是非は直接の争点となっていない。しかし,本判決は建替費用相当額を認めるに当たり,解除を認めない趣旨の限定をし,その趣旨があてはまらない場
合には建替費用請求可能としているのであるから,そこには解除自体も認め得る論理が含まれているといえる26)。更には,本判決の認める
「『契約の履行責任に応じた損害賠償責任』という命題からは,最終的
には建替え請求自体も認められる可能性が十分ある」とする指摘があるが27),筆者も同意見である。但し,欠陥住宅をつくるような請負人に対して,注文者が再度建替えを請求することを望むかと言えば,それはむしろ疑問である。
原審の〈建替費用請求認容+居住利益控除+慰謝料否定セット論〉 の妥当性 なお原審は前述のように,建替費用請求を認容する代わ りに,居住利益を控除し,また慰謝料を否定している。学説の中には,本判決の原審判断につき,「議論の余地のあるところであると思われ る」としつつも,「建物の瑕疵の程度にもよるが,このような場合は
通常の居住利益の半分から三分の一の利益を享受したとみるべきであ
ろうか。」とする控除肯定説もあるが28),多くの論者は,欠陥住宅の居住利益の控除には疑問を呈している29)。この点についての私見は別稿で詳論したので30),ここでは結論だけ述べておく。
第一に確認すべきことは,本件上告審で争われたのは,建築請負目的物
立命館法学 2004 年6号(298号)
に瑕疵があって建替えるしかない場合に,請負人の瑕疵担保責任に基づき 建替費用相当額の賠償請求が認められるべきか否かという点であって,建 替費用相当額の賠償が認められる場合に,居住利益を控除すべきか,その 場合慰謝料請求は認められるべきかという点は,上告理由とされておらず,したがって本判決もその点についての判断を下していない。その意味で, 本判決は,原審の〈建替費用請求認容+居住利益控除+慰謝料否定セット 論〉を肯定しているわけでもなく,このワンセット論の是非は,本判決の 射程距離外と見るべきである。
第二に,居住利益の控除論の是非であるが,私見はこれを否定する。な ぜなら,欠陥住宅への居住は利益ではなくて,「不利益」そのもののであ り,むしろ,そのような欠陥住宅へ仕方なく居住せざるを得なかった点で,或いは居住できなかった点で〈慰謝料の増額要素〉と解すべきなのである。建替費用相当額の賠償が認められたから精神的苦痛も癒されたというのは,
そもそも当初から請負人は瑕疵のない建物を建築し,引き渡さなければなからなった本来の債務の存在を無視した本末転倒の議論である31)。
四 注文住宅の主観的瑕疵を理由とした建替費用相当額の賠償請求の可否
1 〈A判決〉が内包する二つの論理
注文住宅の主観的瑕疵を理由とした建替費用相当額の賠償請求の可否の問題を論ずるにあたり,すでに一部の学説が注目しているように,前述の
〈A判決〉が建替費用相当額の賠償請求を認めるにあたり展開している2つの論理に着目する必要がある32)。
社会経済的損失論 ひとつは,倒壊しかねない危険性を有するような建物は,それを取り壊しても社会経済的損失は生じないので,請負契約の解除を制限した民法635条但書の趣旨に抵触しないという
〈社会経済的損失論〉である。
建築請負契約の目的物の主観的瑕疵と請負人の瑕疵担保責任(xx)
契約の履行責任に応じた損害賠償責任論 いまひとつは,そのように建替費用相当額の賠償請求を認めても「契約の履行責任に応じた損害賠償責任を負担させるものであって,請負人にとって過酷であるともいえない」という〈契約の履行責任に応じた損害賠償責任論〉である。
問題の所在
請負契約目的物に約定違反の主観的瑕疵があっても,安全性にさほど問題がないのならば,前者の〈社会経済的損失論〉からすれば,建替費用相当額の賠償請求は認められないことになりそうである。しかし,後者の
〈契約の履行責任に応じた損害賠償責任論〉からすれば,やはり約定通りの仕事を完成するために必要な場合は,建替費用相当額の賠償請求も認めるべきことになるのではないだろうか。
この点で想起すべきは,民法上の請負人の瑕疵担保責任の立法過程で議
論になった瑕疵修補の問題と土地工作物の請負契約の解除制限との関係である33)。この点を確認するために,法典調査会での議論にさかのぼって検討してみよう。
2 635条の起草過程での議論
635条の原案
現行635条の原案は,起草委員であるxxxxから,民法642条として次のように提案された。
「第六百四十二條 工作物ニ瑕疵アリテ之カ爲メニ契約ノ目的ヲ達スルコト能ハサルトキハ註文者ハ契約ノ解除ヲ為スコトヲ得但土地ノ工作物ニ付テハ此限ニ在ラス」。
現行法と比べると本文冒頭の「工作物」が現行法では「仕事ノ目的物」に,また,但書の「土地ノ工作物」の前に,現行法では,「建物其他」と付加されている以外は,現行法と同様である。
立法趣旨について,法典調査会でxxは次のように述べている。
立命館法学 2004 年6号(298号)
① 642条(現行635条)本文の起草趣旨
本文については,「売買ノ場合ニ於テモ矢張リ其瑕疵ノ程度ガ契約ノ目的ヲ達スルコトヲ妨ゲルモノデアリマスレバ其契約ノ解除ヲ為スコトガ出来ルト云フ例ヲ此処ニモ用ヒタノデアリマス」34)。つまり,売買における瑕疵担保責任と同様の規定にしたというのである。
なお,法典調査会での議論の過程で,請負人の仕事に瑕疵があれば一般的に債務不履行を理由に解除ができるのだから,本条は不要ではないかと
いう意見も出された。これに対して,xxxxは,次のように答えている35)。
第一に,請負人の瑕疵担保責任として,瑕疵修補と修補に代わるないし修補とともにする損害賠償請求権のみが定められていることになると,「修補ト賠償ハ出来ルガ不履行ト云フモノノ解除ハ出来ヌト云フ疑ヒガ起ル」。
第二に,635条の規定がなく,債務不履行による解除の一般の通則があてはまると,契約目的に反する少しの瑕疵でも債務不履行による解除が認められることになって困る。「若シヤ本文ガナク六百四十x
x(現行635条――引用者注)ガアルニ拘ラス通則ガ当嵌マルト云フ
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・コトニ為ルト苟モ不履行ト云フ名ガ附ケバ目的ガ少シデモ達セラレヌ
・・・・・・・・・・・・・・・
ト云フノデどんどん解除ガ出来ル夫レデハ幾ラ動産ニ付テモ困ル」。
このように現行635条本文にあたる原案は,売買における瑕疵担保責任においてその瑕疵により契約目的が達成不能の場合に,契約解除を限定したこととの均衡をとり,また,現行634条で瑕疵修補請求権と瑕疵修補ないしそれに代わる損害賠償請求権を規定したので,解除は出来ないのかが問題となるので規定したというわけである。それでは,売買の瑕疵担保責任の場合と異なり,請負の瑕疵担保責任においては,何ゆえに瑕疵ある土地工作物の解除が制限されねばならないのか。この点に関するxxxxの最初の趣旨説明は,次のように,解除を認めても実際上原状回復が困難だからというものであった。
建築請負契約の目的物の主観的瑕疵と請負人の瑕疵担保責任(xx)
「土地ノ工作物ニ付テハ契約ノ解除ヲ為シ夫レカラ譬ヘバ家デアリ
・・・・・・・・・・・・・・ ・・・・・・・・・・
マスナラバ其家ヲ壊シテ向フニ持ツテ往ク或ハ池ヲ掘穿ルトカ云フ水
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・道ヲ造ルトカ川渫ヘヲスルトカ云フヤウナ風ノコトハ何ウモ契約ヲ解
・・・・・・・・・・・・・・・・・
除スルト云フコトハ実際上出来xxxxx夫故ニ余儀ナク此場合ニ於
テハ損害賠償丈ケニ止メテ置カナケレバナラヌ必要ガアリマス夫故ニ土地ノ工作物丈ケヲ此処ニ除外シタノデアリマス」36)。
しかし,家を取り壊すことや掘った池を埋め戻すようなことは,いちがいに実際上不可能とはいえないはずである。そこで,xxxxは,結局は
「経済上公益上利益ノナイ」ことを理由にあげているのである。「土地ノ場
合ハ成程井戸ヲ掘ツテ井戸ノ用ヲ為サヌトカ池ヲ掘ルトカ随分手数デアリ
・・・・・・・・・・・マスケレドモ土地ノ上ニ建築ヲシタノデモ夫レハ人力ヲ以テ元トノ通リニ
・・・・・・・・・・・・
直オセヌト云フコトモナイノデアリマス併シ山ヲ堀リ頽シテ或ル湖水ヲ埋
タ夫レヲ復タ湖水ヲ拵ヘテ山ニスルトカ又水道ヲ掘ツタ夫レヲ復タ埋メテ仕舞ナケレバナラヌトカ又川渫ヲシタ丸デ渫ヘ損ツテ復タ夫レヲ埋メナケ
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・レバナラヌト云フヤウナ風ニ実際ニ為ルト跡ニ戻スコトノ出来ナイヤウナ
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・場合ガ多イ又出来テモ夫レヲ為サセルコトハ経済上公益上利益ノナイヤウ
・・・・・・
ナ場合ガ多イノデアリマスカラ何ウモ土地丈ケハ解除ノ方デナク損害賠償
丈ケニ止メテ置イタ方ガ宣カラウト思ツタノデアリマス」37)。 解除制限についての批判論
法典調査会では,土地工作物について瑕疵があるときにも解除を制限した但書の規定が槍玉に挙げられた。xxxxx委員は次のような例を挙げて解除制限規定を削除すべきと主張している。「譬ヘバ私ノ住ム爲メニ煉瓦ノ家ヲ建テ其レガ建テ方ガ悪ルクテ今ニモ頽レルカモ知レヌ是ニ向ツテ
住ムコトハ到底デキナイ話シデ此場合ニモ強テ其家ヲ持ツテ居ナケレバナ
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ラヌ云フノハ甚ダ不xx甚ダ惨酷ナコトデアツテ斯カル場合ニ於テハ解除
・・・・・・・・・
ヲ許ス方ガ大ニ適當ト思ヒマス」として,「此但書ハ削除スル方ガ宜シイ
ト」と主張している38)。
これに続き,xxxx委員も,解除は制限するといっても損害賠償を認
立命館法学 2004 年6号(298号)
めるのならば,解除を認めてもよいではないかという趣旨で次のような発言をしている。「『或仕事ヲ完成スルコトヲ約シ』ダカラ夫レガ出来ヌケレ
・・・・・・・・・・・・・・・・・バ出来ルマデスルト云フノデアルカ契約ハ解除ハシナイガ賠償丈ケスルト
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
云ツテ見タ所ガ夫レデハ解除モ矢xx同ジコトデアラウト思ヒマス何ニモ
・・・・・・・・出来テ居ラヌ役ニ立タヌモノガ其処ニ並ンデ居ル丈ケデ其役ニ立タヌ物ヲ
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
取除ケルコトモ出来ヌケレバ何ウスルコトモ出来ヌト云フヤウナコトニ一
寸見ヘル」39)。
これらの批判のポイントは,瑕疵ある土地工作物に関して請負契約は解除できないというが,それでは役に立たない瑕疵ある工作物がそのままになってしまい不都合である,そもそも請負人は仕事完成義務があるのだから,それが実現できないなら,請負契約の解除を認めて元通りにするのが債務不履行の原則であろうというものである。
解除の制限と瑕疵修補に代わる損害賠償との関係
この議論の前提として注意すべきは,提案された642条の前条である641条(現行の634条)の提案趣旨で,xxxxが次のように,瑕疵が重大な場合には多分の費用がかかっても修補ができなければならないことを強調している点である。
「其家ノ建テ方ガ非常ニ疎末デアツテ其中ヘ住居スルノガ危険デアルト
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・云フサウ云フ場合ニ於テハ多分ノ費用ヲヨウシマセウケレドモ夫レヲ充分
・・・・・・・・・・・・・・・・・・
ニ直スト云フコトガ出来ナケレバ往カヌノデアリマス」ことを認めている
のである40)。xxxxはこうした瑕疵修補に関する考え方を前提に,先ほどのxx,xx委員の解除制限規定削除論に反論している。「解除ノ結果トシテ請負人ガ之ヲ取除テ元トノxxニスルト云フ義務ニ換ヘテ損害賠償譬ヘバ土地ヲ夫レガ爲メニ壊ハシテ之ヲ元トノ通リニ地均シヲスルノハ大変ニ物ガ要リ費用ガ要ル或ハ夫レガ丸デ契約ノ目的ヲ達スルコトガ出来ナ
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
イ,デ今ノ儘ニシテ置ケバ是丈ケノ損害ガアルト云フヤウナ風ノ場合ニ於
・・・・・・・・
テ夫レヲ目的トシテ損害ヲ賠償セシムルコトガ出来ルト云フノデアツテ其
・・・・・・・・・・・・・・・・・・土地ノ所有者,自分ノ土地ナラバ注文主ト云フモノハ其工作物ヲ其後自分
建築請負契約の目的物の主観的瑕疵と請負人の瑕疵担保責任(xx)
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・デ何ウスヤウト夫レハ少シモ構ハヌ取除ケルコトモ出来ヌト云フヤウナ風
・・・・・・
41)
ノコトハナイ積リデアリマス。」
つまり,xxxxの見解では,解除による原状回復義務を請負人に課すことに反対しているのであって,瑕疵ある建物であることから生ずる損害の賠償を請求することは,容認している。xxxxは更に次のような発言もしている。「前カラ土地ノ工作物ハ取除クコトハ出来ヌトハ言ハナイ金ト時トヲ掛ケレバ出来マスガ夫レヲ取除カセルノハ何ウモ経済上不都合デ
・・・・ハアルマイカ夫故ニ其場合ニハ契約ヲ其儘解除ヲサセズシテ置テ拂ウベキ
・・・・・・・・・・・・・・ ・・・・・・・・・・・
モノハ必ズ拂ハナケレバナラヌ而シテ其場合ニ又充分ナ損害賠償ガ取レル
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 42)
カモ知レヌ損害賠償デ此事ヲ片付ケテ仕舞ウ」 。
結局,住むのが危険である家については,費用がかかっても瑕疵の修補 を請求できるとするならば,建替は究極の瑕疵修補であると捉えて建替の 請求或いはそれに代わる建替費用相当額の賠償請求も肯定されるべきでな いだろうか。次にこの点に関連する法典調査会での議論を紹介しておこう。
瑕疵ある土地工作物の除去と再築について
法典調査会では,前述の解除制限規定をめぐる議論に引き続き,完成された土地工作物が役に立たない場合に,契約解除が認められないならば,役に立たないものがそのままになって注文者が困るではないかということが引き続き議論された。例としてあげられたのは,水利のための樋を注文したが役に立たないものであったという場合である。この場合も,xxxxは解除ではなく,損害賠償で解決すべきだとして,次のように言ってい
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・る。「其修補ト云フモノガ若シ重要ナラザル場合ニ於テ過分ノ費用ヲ要ス
・・・・・・・・
ル場合ヲ除ク外ハ修補サセテモ宜シイ……修補ヲ請求スル事ガ修補スベカ
ラザルモノデアリマスレバ何ウモxxノ但書(現行では635条の解除制限
・ 規定――引用者注)ニ依リマシテ損害賠償其間ノ水ヲ他ニ仰グトカ或ハ堀
・・・・・・・・・・・・・・・
リ取ツテ然ウシテ架ケ換ヘル費用トカ何トカ云フヤウナモノガ目安ニ為ル
デゴザイマセウ然ウ云フモノニ付テ損害賠償ヲ請求スルノ外ハアルマイト思ヒマス。」43)また,xxxxのこの発言とそれにつづいて「ヤツテヤリ
立命館法学 2004 年6号(298号)
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
損フタ夫レヲ取ツテ跡ノ損害賠償ヲスルコトガ當リ前デアル」とするxx
xx委員の発言44)を受けて,起草者の一人xxxxも次のように論じている点は注目される。「今ノ場合ニ勿論初メニ請負ヲ致シマシタ人其人ガ
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
マダ約束ノ仕事ヲシナイノダカラ約束通リニ履行ヲセヨト言ツテ責ムルコ
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ ・・
トハ普通ノ契約ノ一般ノ規則債権ノ一般ノ規則デ出来マス即チ向フガ債権
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ノ本旨ニ従フテ履行ヲシテ居ラヌノデスカラヤリ直オサセルコトハ無論出
・・・ ・・・・・・・・・・・・・
来マス夫レデアリマスカラ今ノヤウナ場合ニ此儘デハ役ニ立タヌカラ矢張
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・リヤリ直スコトノ出来ルヤウナ性質ノモノデアルナラバ如何ニモxxxx
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・言ハレタ通リ夫レヲ取除カシテ更ニ大キイ管ナラバ管ヲ以テ架ケ換ヘサセ
・・・・・・・ 45)
ル事ガ出来マス」 。
法典調査会での瑕疵ある土地工作物がそのまま注文者の土地に残るのは困るではないかという議論では,解除をして請負人に原状回復義務を履行させるのは経済上不都合だが,そのような問題は損害賠償で解決すべきであるとしている。また瑕疵があって役に立たない場合には,それを取り壊して目的物を再築することを容認しているようにもとれる発言を起草者はしているのである。この場合のポイントは,瑕疵があるため「役ニ立タヌ」土地の工作物については,解除は認めないが,その除去費用や再築費用を損害賠償として請求できることを容認しているかのように読める点である。この場合の「役ニ立タヌ」という瑕疵については,注文者にとって使用価値がないだけでなく,当該種類の目的物として一般的にも使用価値がない場合が念頭におかれているのではないかと思われる議論が法典調査会では展開されている。次にこの点を紹介しよう。
契約内容に反する注文住宅の瑕疵と契約解除の是非
法典調査会の委員の多くが,請負契約の目的物が土地工作物の場合に解除を制限することに批判的なのに対して,解除制限論に賛成しているのが
・・・・・・・
xxxx委員である。xxxは「私ハ此但書ハ実ニ結構ナ規定ト思ヒマ
ス」として,自分が経験した事件の和解例を出している。事案は,医者が医院件居住用の自宅の建築を注文したところ,その医者にとっては,玄関
建築請負契約の目的物の主観的瑕疵と請負人の瑕疵担保責任(xx)
が注文と違うとか,屋根にはいるべき紋がはいっていないとか,運動場をしつらえる予定がそれができない構造になっているとか,薬取りの出入り口をつくるはずのところに井戸が掘られてそれができないなど「不適当ナル家ヲ拵ヘタ」。そこで医者が「何ウシテモ夫レヲ取壊シテ貰ヒタイ」と請負人に請求したが,請負人はそれは困るといって,訴訟になったというのである。xxxはこうした事案を紹介して次のように言う。「若シ然ウ云フ場合ニ此但書ガアツタナラバ極メテ便利デアラウト思ヒマス。恰度菓子箱見タヤウナ奇麗ナ家デアリマシタ石トナ何トカ,ソンナ物ヲ壊シテ仕舞ウトxxモ値打チガナイペンキカ何ニカ喰付ケテ非常ニ奇麗ニ造ツテアリマシタ毀シテ仕舞ウト何ニモ為ラヌ夫レヲ其儘存シテ置テ其物ヲ直ニ積
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ツテ其往ケナイ所ハ損害ヲ賠償サセ或ハ修補ノ出来ルモノナラバ修補ヲサ
・・・・・・・・・・・ ・・・・・・・・・・・・・・・・・
セルト云フコトハ宜シイト思ヒマス如何ニモ壊ハシテ仕舞ツテモ仕方ガナ
・ 46)
イカラシテ其事件ハ遂ニ和解ヲサセタノデス」 。
要するにxxxは,完成した建物が注文どおりの住宅でないからといって,解除を認めて建物を壊してしまうのではなく,瑕疵修補や損害賠償で解決すべきであるというのである。これに引き続いてなされたxx委員の発言は興味深い。xxは修補して直るような場合はそもそも契約目的が達成不能の瑕疵とはならないので,その意味で契約解除ができないのではないかというのである。
「其家ノ建テ方ガ悪ルクテ住ムコトガ出来ヌ到底目的ヲ達スルコトガ出来ヌト云フコトガアル如何ニモ井戸ガアツテ薬取リガ廻ハラナケ
レバナラヌトカ車ノ這入ルノニ邪魔ニ為ルト云フコトデアリマスガ夫
・・・・・・・・・・・・・レハ埋メテ仕舞ツテ掘リ換ヘレバ宜シイ然ウ云フノヲ以テ目的ヲ達ス
・・・・・・・・・・・・・・・・・ 47)
ルコトガ出来ヌト云フコトハ出来ナイ」 。
これに対して,xxは,xxxとxxとでは,「目的を達する」という点の解釈の「程度ガ大変違ツテ居ル」として,起草者xxはxxxxと同
・・・・・・じだとする。「今ノxxx君ノ言ハレタヤウニ建テタソレヲ住家トシテハ
・・・ ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
宜シイカモ知レヌ併シ医者ガ然ウ云フコトデ註文ヲシテ建テタナラバ矢張
立命館法学 2004 年6号(298号)
・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・
リ目的ヲ達スルコトガ出来ヌト云フコトニ為ラウト思ヒマス其目的如何ハ
・・・・・・・・・・・・・
48)
註文ノ性質如何ニ依テ定マルコトデアラオウト思ヒマス」 。
要するに,ここでのxxxやxxの議論は,注文住宅の契約内容に反する瑕疵のある場合,いわゆる主観的瑕疵の場合は,契約目的の達成不能という場合があり,請負契約の解除が問題となり得るが,他方で,通常の住
・・・・・・・・・・・・・・
宅としては「宜シイ」場合には,「壊ハシテ仕舞ツテモ仕方ガナイ」ので,
解除を制限すべきであるというのである。 法典調査会での議論のまとめ
以上のような法典調査会での議論から,次の点を確認できる。
第一に,起草者は,現行の635条但書にあたる規定を,土地工作物の請負契約の解除によって生ずる土地工作物の除去の原状回復義務の履行の実際上の困難及び経済上公益上の利益を理由に規定したという点である。
第二に,起草者が制限しようとしたのは,あくまで解除による請負人の原状回復義務の履行であって,瑕疵修補や瑕疵修補に代わる損害賠償については,解除制限を根拠に,これらも制限するという発想はないという点である。
第三に,現行634条にあたる641条の起草趣旨の説明で明らかなように,住むのが危険であるような住宅が建てられた場合には,「多分ノ費用」を要しても,その修補がなされなければならないとしている点である。
第四に,土地工作物の瑕疵が重大で「役ニ立タナイ」ような場合には,それを除去して作り直す費用を損害賠償として認容する余地のあることを認めている点である。
第五に,契約内容に違反する主観的瑕疵の場合には,契約目的が達成できない場合でも,壊してしまうのは仕方がないので,解除を制限して,瑕疵の修補や修補に代わる損害賠償のみを認めるとしている点である。
第六に,しかし解除制限の理由としてのいったんできた土地工作物を除去する点については,請負人の原状回復義務としてこれを否定するだけであって,損害賠償を得た注文者が,それによって瑕疵ある土地工作物を除
建築請負契約の目的物の主観的瑕疵と請負人の瑕疵担保責任(xx)
去することは,容認されている点である。
3 瑕疵ある建物の建替費用担当額の賠償請求の可否
起草者の立法意思との関係
以上のような法典調査会での議論をふまえれば,今回の〈A判決〉の事案のように,倒壊の危険性もあるような重大な瑕疵がある建物,すなわち危険性を内在させる重大な客観的瑕疵がある場合は,そもそも「多分ノ費用」がかかっても補修されねばならない場合であり,その補修できない場合にそのまま建っていても本来の住宅の「役ニ立タナイ」のだから,起草者の立法趣旨に従っても,その除去と再築の費用を損害賠償として請求できることになるのではなかろうか49)。従って,〈A判決〉がいうように,このような場合に,建替費用相当額の賠償請求を認めることは,民法635条但書についての少なくとも起草者の立法趣旨に反するものでないことは確かであろう。むしろ,これまでの建替費用相当額の賠償請求否定説が, 635条但書の解除制限の規定を根拠に〈解除制限=再築の損害賠償制限〉としていたこと自体に,論理の飛躍があったのである50)。
しかし,他方で,法典調査会では,単に主観的瑕疵があるだけで,通常
の住宅としては使えるような建物の場合には,解除を認めてその建物を取り壊すことを制限しようとする議論もみられた51)。しかしそのような議論と,他方で,解除が制限されるだけであって,「役に立たない」場合には土地工作物の除去や再築費用も認められる,或いは,充分に損害賠償がなされるべきで,損害賠償を得た注文者がその工作物を取り壊すか否かは問題でないとする議論との相互関係はあいまいである。つまり,結論からいって,立法者は主観的瑕疵の場合には,解除制限を理由に建替費用相当額の賠償請求を明確に否定していたとも,或いは逆に明確に容認していたとも言いがたい。ということは,635条但書に解除制限の規定があるのみでは,主観的瑕疵のある注文住宅の建替費用相当額の賠償請求を否定する法的根拠としては薄弱であることも意味しよう。
立命館法学 2004 年6号(298号)
瑕疵修補に代わる損害賠償と契約本来の履行責任論
ところで民法634条1項は,「仕事ノ目的物ニ瑕疵アルトキハ注文者ハ請負人ニ対シ相当ノ期限ヲ定メテ其瑕疵ノ修補ヲ請求スルコトヲ得但瑕疵カ重要ナラサル場合ニ於テ其修補カ過分ノ費用ヲ要スルトキハ此限ニ在ラス」と規定する。本条との関係で,判例は,瑕疵が比較的軽微で瑕疵修補に著しく多大の費用を要する場合には,瑕疵修補に代わる損害賠償も請求できないとし63),学説もこれを支持する64)。他方で,但書の反対解釈からは,瑕疵が重大な場合には,瑕疵修補に幾ら過分の費用がかかろうと瑕疵修補請求ができて当然であるし,また,瑕疵修補に代わる損害賠償も請求できると解されよう。従来の学説もこの点を肯定するものがある65)。前述した民法典の起草過程での議論,「其家ノ建テ方ガ非常ニ疎末デアツテ其
・・・・・・・中ヘ住居スルノガ危険デアルト云フサウ云フ場合ニ於テハ多分ノ費用ヲヨ
・・・・・・・・・
ウシマセウケレドモ夫レヲ充分ニ直スト云フコトガ出来ナケレバ往カヌノ
デアリマス」という起草者xxxxの議論も肯定説を論拠付ける参考になろう。
問題は,建物の瑕疵が契約違反の主観的瑕疵にとどまり,建物自体の安全性にはさほど深刻な危険性がない場合である。法典調査会でも,「住居スルノガ危険デアルト云フサウ云フ場合」について議論しているのであった。また,〈A判決〉の事案も,「建物全体の強度や安全性に著しく欠け,地震や台風などの振動や衝撃を契機として倒壊しかねない危険性を有するもの」であった。確かに,建物の瑕疵が主観的瑕疵にとどまり,「倒壊しかねない危険性を有する」わけではない場合に,この建物の瑕疵を除去するために建物を取り壊すということになれば,社会経済的には損失があると言えるかもしれない。その意味で〈A判決〉の内包する〈社会経済的損失論〉からすれば,このような主観的瑕疵の場合の建替費用相当額の賠償請求は認められないことになりそうである。しかし,〈A判決〉には,建替費用相当額の賠償請求を認めても「契約の履行責任に応じた損害賠償責任を負担させるものであって,請負人にとって過酷であるともいえない」
建築請負契約の目的物の主観的瑕疵と請負人の瑕疵担保責任(xx)
という〈契約の履行責任に応じた損害賠償責任論〉も内包する。このような〈契約の履行責任に応じた損害賠償責任論〉からすれば,主観的瑕疵であっても,やはり約定通りの仕事を完成するために必要な場合は,建替費用相当額の賠償請求も認めるべきことにならないのだろうか。
以上のように解した場合には,建物の瑕疵の場合に,契約目的達成不能 であっても解除ができないとする民法635条但書との整合性が今一度問題 となろう。この点は,仕事の目的物に瑕疵があって解除が認められた場合 の法的効果という点を再検討する必要がある。請負契約を解除すると,解 除に伴う原状回復の効果からして,注文者の報酬支払義務は消滅する。こ の点に異論はなかろう。他方で既に完成した建物は解除の原状回復義務の 結果,取り壊されるべきことになると言われるが,これはどうであろうか。注文者にとって建物の取り壊しは,請負人に対する原状回復請求権の内容 として,取り壊しを請求できるという権利であって,義務ではない。つま り,請負契約の解除が建物の取り壊しを常に帰結するとは限らず,それは 注文者の意思にかかわっている。解除の効果として常に問題となるのは, 請負人の報酬支払請求権が消滅する点である。建物を取り壊すと社会経済 的に損失だから解除が制限されるといっても,解除は建物の取り壊しと直 結しないし,要するに問題は報酬支払請求権の存続であるとするならば, 請負契約を解除せずに,従って請負人の報酬債権が消滅することなく,瑕 疵の修補或いはそれに代わる損害賠償として建替費用相当額の賠償請求が 認められることに特に問題はないと解すべきではなかろうか。
実は法典調査会においてxxx委員は,煙草盆を注文したが注文したのと違うものができたという場合に,解除を認めても原状回復が困難であることに違いはないのだから,仕事の目的物が動産である場合にも,土地の工作物の場合と同じく解除を制限して損害賠償だけにしてはどうかという
意見を提起した。しかし,これについてxxxxは,解除と損害賠償とは
・・・・・・・・・・・・
「理論ニ於テハ丸デ違ヒマス」として,この意見を排斥する。「解除ハ煙草
・・・・・・・・・・・ ・・・
盆計リニ付テ丈ケノ解除デナイ報酬ニ付テモ解除ヲスル是ニ反シテ単ニ損
立命館法学 2004 年6号(298号)
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
害賠償トハ報酬ノ義務ハ履行シナケレバナラヌ報酬ト損害賠償トヲ相殺ス
ル丈ケノ話シデアリマスカラ理論ニ於テハ丸デ違ヒマス」。土地工作物の請負契約の目的物に瑕疵があるとして解除ができる場合には,請負人の報酬債権が消滅し,かつ,目的物の原状回復義務=除去義務が生ずる。請負人は自分がなした仕事につき報酬をもらうこともできず,にもかかわらず目的物の原状回復義務を負うことになるのである。これに対して,瑕疵修補に代わる損害賠償として建替費用相当額の賠償請求を認める場合,請負人は支払われた報酬額以上の出費をすることになろうが,そもそも634条
1項但書の反対解釈として,瑕疵が重要な場合には過分の費用がかかっても修補する必要がある,あるいは修補に代わる損害賠償が請求できると解すならば,当初から予定されている請負人の責任人と言え,とくに過酷とはいえない。
建替なくても修補が可能である場合に,それが過分の費用がかかる場合でも瑕疵修補請求やそれに代わる損害賠償が認められるということは,報酬額以上の自己負担が請負人に課されることを意味する。そもそも請負人は,仕事完成義務を負っているのだから,そのような負担を課すことは,まさに〈A判決〉がいう「契約の履行責任に応じた損害賠償責任」を課しているだけであり,不当に過酷な責任とはいえない。従って,修補ができず建替が必要な場合に,過分な費用がかかっても建替費用相当額の損害賠償請求を認めることも,これを否定する合理的な理由はないのである。
五 瑕疵担保責任に基づく損害賠償請求と請負人の帰責事由の要否
1 損害賠償についての帰責事由必要説
なお学説の一部には,請負人の瑕疵担保責任に基づく瑕疵修補については請負人に本来の履行を請求するだけだから,その帰責事由は不要だが,損害賠償請求については,債務不履行の原則に立ち返り,請負人の故意・
建築請負契約の目的物の主観的瑕疵と請負人の瑕疵担保責任(xx)
過失等の帰責事由が必要だとする議論がある66)。例えば,xxxxx売主の担保責任と同様に,「請負人の瑕疵担保責任についても,修補請求,代金減額請求および契約の解除は請負人の過失の有無を問わないが,代金減額と区別された意味での本来の損害賠償は請負人の過失を要すると解すべきことになるのであろうか。」とする67)。またxxxは,次のように述べている。「瑕疵修補請求権や報酬減額請求権,契約解除権については,学説が一般に説くように請負人の過失を要しないとしてよいであろう。しかし,損害賠償請求権については請負人の過失を必要とすると解すべきであろう。」68)その理由としては,①債務不履行にもとづく損害賠償責任が過失責任なのだから,瑕疵担保責任も過失責任として扱うのが適当である,
②ドイツ民法635条も損害賠償には請負人の過失を要求しているなどがあげられている69)。更に,この問題について精緻な議論を展開しているxxxxは,「給付の等価交換維持」の観点から,目的物の価値自体の填補のための損害賠償(修補費用の賠償,修補より建替が安価な場合は「修補費用としての建て替え費用」)は請負人の無過失でも認められるが,それ以外の「後続損害」(現有建物取り壊し費用,建替え中の代替家屋調達費用,
交通費等の増加分など)については,債務不履行の一般原則に従い請負人の過失が必要だとする70)。
請負人の瑕疵担保責任の性質についての立法者意思
xxxxは,起草者も請負人の瑕疵担保責任につき過失責任と考えていたとして,その論拠として起草者の一人であるxxxxの教科書『民法要義』での説明をあげている71)。確かに,xは636条の説明のところで,「前
・・・・・・・
二条ノ規定ハ請負人ニ完全ナル仕事ヲ為サザルノ過失アルヲ以テ之ニ其責
任ヲ負ハシムルモノナリ故ニ請負人ニ過失ナキトキハ敢テ之ヲ責ムルコトヲ得ス」と説明している72)。しかし,法典調査会では,請負人の瑕疵担保責任は過失責任なのか,無過失責任なのかという点については,正面から論じられておらず,起草趣旨を説明したxxxxの言辞にも請負人の過失は触れられていない。それどころか,法典調査会でのxxの643条(現行
立命館法学 2004 年6号(298号)
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・の636条)の提案理由は,「工作物ノ瑕疵ノ担保ニ付キマシテハ謂ハバ例外
xx申スベキ條デアリマシテ々御注文ニ依テ或ル事ヲ致シマシタ場合ニ
・・・・・・・・・・其仕事ノ結果ガ甚ダ不充分ナ場合ガアリマス夫レデ単ニ工作物ニ瑕疵ガア
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
レバ悉ク前ノ如キ責任ヲ負フト云フコトハ如何ニモ酷イコトデアリマシ
テ」として,注文者の指図やその提供した材料によって瑕疵が生じた場合に前二条の規定を適用して,請負人に瑕疵担保責任が生ずるとするのは
・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「穏デナイ」「是丈ケノハ何ウシテモ除テヤリマセネバ」と説明しているの
である73)。もし,xxxxが指摘するように,起草者が請負人の瑕疵担保責任にもとづく損害賠償責任を過失責任と考えていたのならば,注文者の指図や提供した材料によって瑕疵が生じた場合に,請負人に過失がなければ責任を負わないのは当然であるから,636条は注意規定にすぎないということになろう。つまり,636条がなくても困らないはずである。しかし,xxxxは,636条は請負人が瑕疵担保責任を負う場合の,「是丈ケノ」例外として位置づけているのであり,しかも,請負人の瑕疵担保責任についての前述のxxの説明からわかるように,この責任は請負人の過失が必要
・・・・・だとは一言もいわずに,むしろ636条がなければ,請負人は「単ニ工作物
・・・・・・・・・・・・・・・・・・
ニ瑕疵ガアレバ悉ク前ノ如キ責任ヲ負フ」ことになり,それを避けるため
に必要な例外規定だと説明されているのである。
従って,民法典施行後のxxxxの教科書での叙述はともあれ,この条文を起草したxxxx自身は,請負人の瑕疵担保責任を無過失責任として理解していたと考えるべきではないだろうか。
私 見
私見は,学説上,無過失責任であることにほぼ異論のない瑕疵修補請求や修補費用の損害賠償請求権にとどまらず,請負契約の目的物の瑕疵から生じた損害については,民法416条を根拠にして損害賠償の範囲を決定すれば足り,請負人の過失は必要でないと考える。なぜなら,請負人は仕事の完成義務を負っており,仕事の目的物に瑕疵があった場合には,それが客観的瑕疵であろうと主観的瑕疵であろうと,仕事の完成義務が不履行で
建築請負契約の目的物の主観的瑕疵と請負人の瑕疵担保責任(xx)
あったことに他ならず,つまりそこに民法416条に規定する「債務不履行」があったと評価できるからである。そもそも債務不履行とは「債務の本旨 に従った履行がないこと」(民法415条参照)であるとすれば,「債務不履 行」概念自体は,債務者の過失を前提としていない74)。そして損害賠償の 範囲を定める416条も「債務ノ不履行」によって通常生ずべき損害や特別 の事情によって生じたる損害が賠償範囲に含まれるべきことを規定してい るのであって,債務者の過失による債務の不履行により生じた損害として 限定を付しているわけではない。確かに,民法415条により,債務者が債 務不履行により損害賠償責任を負うのは,債務者に故意・過失などの帰責 事由が必要だと解されているが,それは原則であって,634条2項の請負 人の瑕疵担保責任に基づく損害賠償責任については,民法415条と異なり,請負人の過失について規定されていないのだから,無過失責任であり,し かも仕事完成義務の不履行という債務不履行なのだから416条により損害 賠償の範囲を決めれば足りると解する。従って,建物の再築の場合の現存 建物の取り壊し費用,代替家屋への引越料・賃料,建替え期間中に失った 営業上の損失なども,修補と相当因果関係のある損害として賠償範囲に含 まれる。実際に,建替費用相当額の損害賠償責任を最高裁として初めて認 めた〈A判決〉の1審,2審とも,請負人の瑕疵担保責任に基づき,建物 の再築費用だけでなく,現存建物の取壊費用や,引越費用,代替住居賃料,工事中の駐車場代金を損害とする賠償請求を認めている。他の多くの下級 審裁判例も同様である75)。
2 拡大損害の賠償
取壊費用等の上述の修補とともにする損害賠償請求は,いずれも修補にかかわる損害についての賠償である。従って,瑕疵のない仕事を完成させるべき仕事完成義務の履行責任として当然に請求できる損害賠償請求であるとも言える。
それでは,請負目的物の瑕疵によって生じた拡大損害についても,無過
立命館法学 2004 年6号(298号)
失責任が及ぶのであろうか。例えば,欠陥住宅の瑕疵により,通常の建物は倒壊しない震度4程度の地震で建物が崩壊し,注文者が負傷したような場合に,当該注文者は請負人に対して,無過失の瑕疵担保責任に基づいて負傷したことによる損害(治療費,休業損害,逸失利益など)についての賠償を請求できるのだろうか。
むろん,それほど重大な瑕疵があれば,請負人の過失があることが通常
であろうから,注文者が請負人の安全配慮義務違反による債務不履行責任 を追及して,その中で上記損害賠償を請求することも考えられよう76)。そ れ以外に請負人の過失を要件としない瑕疵担保責任によってもその追求は 可能なのか。現にxxxxxx被害の出た欠陥住宅訴訟では,請負人の債 務不履行責任や不法行為責任という法的構成以外に,請負人の瑕疵担保責 任の内容として,健康被害についての損害賠償も請求している例がある77)。従来の通説とされるxx説は,634条2項にいう「瑕疵の修補とともにす る損害賠償を請求することのできるのは,修補をしても――仕事の完成が 遅延したことや修補によっても完全なものとならないことなどにより―― なお填補されない損害があるときである。」78)とする。この「修補をして も……なお填補されない損害」の中に,ここで問題にしている拡大損害も 含まれるのかは明示されていないが,xxは他方で,「請負人の瑕疵担保 責任の内容としての損害賠償の範囲は,――信頼利益(瑕疵がないと誤信
・・・・ ・したことによって生ずる損害)に限るのではなく,常に――履行利益(瑕
・・・・・・・・・・・・・
疵があることから生ずる損害)の賠償と解するのを正当とするであろ
う。」79)としているので,この履行利益の中に拡大損害まで含ませて理解しているととれなくもない80)。
私見は,このような拡大損害についても,634条2項と416条を根拠に請負人の瑕疵担保責任に基づく無過失責任を追及できると考えている。なぜなら,このような拡大損害も目的物の瑕疵に起因して生じた損害であることに違いはなく,そして請負人は,そのような拡大損害を生じさせる瑕疵を自ら作り出したということ自体の帰責性があるからである。請負人は危
建築請負契約の目的物の主観的瑕疵と請負人の瑕疵担保責任(xx)
険を作り出したものとして(危険責任),また,瑕疵のない仕事に対する報酬を得るという点からして(報償責任),瑕疵から生じた拡大損害についても,民法416条が定める損害賠償の範囲で責任を負うべきだと考える。動産については,製造物責任法の適用により,製造者が欠陥から生じた拡大損害について「欠陥」を要件とする無過失責任が負わされている。私見によれば,不動産の場合も,請負目的物の瑕疵があるならば,注文者は民法634条により,無過失責任を追及できることになる。このことは,土地工作物の瑕疵が原因で第三者に損害が生じた場合には,土地工作物の所有者である注文者は民法717条によって無過失責任を負わされることとの均衡を考えても首肯できよう。瑕疵ある土地工作物の所有者たる注文者は第三者に無過失責任を負うのに対して,自ら土地工作物の瑕疵を作り出した請負人の注文者に対する拡大損害についての損害賠償責任が過失責任にすぎないとすれば,不xxである。また,こうした高度の責任が請負人に負わされることによって,請負人は目的物に瑕疵が生じないように仕事完成義務を履行することになる。どんな注意をしても避けられなかったような瑕疵については,無過失責任である土地工作物責任と同様に不可抗力による免責を認めることによって81),損害賠償責任が生じない場合も考えられよう。
以上の理は,拡大損害が客観的瑕疵により生じた場合はもとより,主観的瑕疵により生じた場合も,同様に妥当しよう。例えば,化学物質化敏症なので,安全な建材を利用してほしいと注文されたのに,請負人も認識せずに有害物質を排出する合成建材を使用してしまい,注文者に健康被害がでた場合には,注文者は主観的瑕疵を理由に請負人の無過失責任である瑕疵担保責任に基づき,健康被害に対する損害賠償請求をできると考えるべきである。
立命館法学 2004 年6号(298号)
六 お わ り に
本稿では,建替えるほど重大な瑕疵がある建物については,建替費用相 当額の賠償請求も認められるとする〈A判決〉と,約定の太さの柱と異な る柱を使用した,いわゆる主観的瑕疵について瑕疵修補に代える損害賠償 責任判決を認めた〈B判決〉のそれぞれの残された課題を析出した。〈A 判決〉については,建て替えが認められるほど「重大な瑕疵」の判定基準,損害賠償ではなく請負契約の解除は認められるかといった問題,〈建替費 用相当額の賠償請求の認容+居住利益控除+慰謝料否定のワンセット〉論 の是非(三),〈B判決〉については,この判決が問題としている 契約 目的の明確性, 契約内容の具体性, 当事者の意思の明確性, 契 約内容の重要性という4つの要素は,主観的瑕疵の判断要素としての必要 条件なのか,それぞれの要素の相互関連はどうかといった問題を検討した
(二)。
更に本稿では,主観的瑕疵の場合にも〈A判決〉の認める建替費用相当額の賠償請求は認められるべきなのかを,法典調査会での議論にさかのぼって検討した。その結論は立法趣旨からは否定論は明確には出てこないこと,また,〈A判決〉の「契約ノ履行責任に応じた損害賠償責任」という論理からは,主観的瑕疵の場合も建替費用相当額の賠償責任は肯定される余地があることを論じた(四)。
最後に,請負人の瑕疵担保責任に基づく損害賠償責任の性質につき,これを過失責任とする有力説があるものの,私見としては無過失責任と解すこと,また,このような無過失責任たる請負人の瑕疵担保責任に基づいて拡大損害についての損害賠償も請求できるのかという点については,私見
はこれを肯定することを論じた(五)。なお,それぞれの議論を精緻化し,また,比較法的な検討も行うなどの課題は残しつつも82),ひとまず,ここでこの拙い小論を閉じて,xx先生の退職記念に奉げさせていただくこと
建築請負契約の目的物の主観的瑕疵と請負人の瑕疵担保責任(xx)
にしたい。
* 筆者がxx先生と親しくお話させていただいた最初の機会は,今から15年ほど前に,民科法律部会機関誌の「法の科学」19号(1991)での「座談会・新現代法論を語る」にご一緒させていただいたときである。その際,「生活社会構造の変化と法」という観点から巨視的に法理論を組み立てるxx先生の大きな視野と力強い立論に,筆者も大きな感銘を受けた。欠陥住宅問題は,そうした生活社会構造の変化(政府の持家政策,大量生産の住宅商品の販売・製造)の中で生ずるきわめて深刻な消費者被害の問題でもあり,xx先生の退職記念号に掲載していただく論稿のテーマにふさわしいものと考えた次第である。xx先生の今後のますますのご活躍をお祈りしたい。
1) 近時の欠陥住宅訴訟に関する最高裁判決の動向を概観したものとして,xxxx「建築
・・・における近時の最高裁判決動向」欠陥住宅被害全国連絡協議会編『消費者のための欠陥住
・・・ ・・・
宅判例[第3集]――被害救済の新たな地平をめざして――』(民事法研究会,2004。傍点部分で省略して引用する。以下同様)494頁以下。また欠陥住宅問題を消費者問題の一環として弁護士の観点から全体として概観した近時の著作として,風呂橋誠「欠陥住宅」xxxx・xxxx編『消費者法』(大学教育出版,2003)144頁以下,xxxx「欠陥住宅」日本弁護士連合会編『消費者法講義』(日本評論社,2004)312頁以下。
2) 欠陥住宅訴訟における慰謝料の高額化については,xxxx「欠陥住宅訴訟における損害調整論・慰謝料論」立命館法学289号73頁以下(2003)参照。例えば,神戸地判 2002
(平成14)・11・29・欠陥住宅判例・第3集・296頁以下は,慰謝料900万円を認容している。
3) この判決を検討したものとして,xxx・判批・月刊法学教室283号100頁以下(2004),xxxxx・判批・民商法雑誌130巻3号194頁以下(2004),xxx「請負人の瑕疵担保責任における『瑕疵』概念について」判例タイムズ1148号4頁以下(2004)。
4) xxx『債権各論中巻一(民法講義Ⅴ2)』(岩波書店,1957)288頁。
5) xxxx『契約法』(有斐閣,1974)82頁以下。
6) xxxxx『新・判例コンメンタール民法7』(三省堂,1992)84頁。
7) xxx『民法Ⅱ契約各論』(東大出版会,1997年)132頁。
8) この点のその他の学説も含めて,xx・前掲注(3)591頁以下に関連学説の簡潔な整理 がなされているので,参照されたい。なお,xxは,「両契約当事者が当該契約において 予定した使用適性の欠如を規準に判断すべき」とすることを「主観的瑕疵概念」としつつ,
「わが国では,上記の区分で言う意味での主観的瑕疵概念が採用されていると言い切るには躊躇を覚える」として,xx説の背景には,大正年間に継受された当時のドイツ民法
(旧459条・後掲)の瑕疵の定義に依拠して570条の概念を説明するxxxx,xxxxx,xxxx依頼の支配的見解の潮流があり,これが ① 客観的瑕疵概念を原則とし,②「特別の標準」が妥当する局面を見本売買・広告による売買に限定するxx説に流れていった
立命館法学 2004 年6号(298号)
ことを指摘する(xxxx『契約各論Ⅰ』信山社,2002,216頁)。ところでドイツ民法旧 459条は,次のように規定していた。「第459 条(物の瑕疵に対する責任・Haftung fur
Xxxxxxxxxx) 物の売主は,買主に対し,危険が買主に移転した時に,物にその価値又
・・・・・・・・・・・
は通常の使用もしくは契約によって予定された使用に対する適性を(den Wert oder die
Tauglichkeit zu dem gewohnlichen oder dem nach dem Vertrage voraussetzen Gebrauch)消滅または減少させた欠点がないことについて,責めに任ずる。価値又は適性の重大でない減少(unerheblichen Minderung)は,考慮しない。 売主は,危険移転の時に,物が保証された性質(die zugesicherten Eigenschaten)を有することについても,責めに任ずる。」(訳語は,xxxx編『注釈ドイツ契約法』(三省堂,1995)46頁による。執筆担
当・xxx人)。つまり,ドイツ民法旧459条1項にある「契約によって予定された使用に対する適性」は,そもそも,当該目的物の性質が契約目的に照らして適性を有するか否かを問題にしているのだから,当該目的物の通常の性質(normale Beschaffenheit)を規準
とする客観的瑕疵概念(objektiver Fehlerbegriff)のみならず,契約に適した性質(die
vertgragsma e Beschaffenheit)を規準とする主観的瑕疵概念(subjektiver Fehlerbegriff)
・ を含んでいるし,本文に引用した大判昭和8年判決も,「特ニ保証」した場合の他に,「x
・・・・・・・・・
約上特定シタル用途ニ適セサルコト少カラサルトキ」も瑕疵概念に含めているのだから,
判例や通説が主観的瑕疵概念を認めていると整理しても不当ではないのではないだろうか。
9) xxx『債権各論中巻二(民法講義Ⅴ3)』(岩波書店,1962)631頁以下。
10) xxx『民法Ⅴ(契約法)』(青林書院新社,1982)332頁。その他,工事の瑕疵について,「契約内容に反する瑕疵」と「一般的建築基準に違反する瑕疵」とに二分する見解
(xxxx・xxxx「工事の瑕疵」xxxx編著『住宅紛争処理の実務』(判例タイムズ, 2003)125頁以下も,結局同様の出発点に立つものと言えよう。学説における瑕疵概念の 分類については,xx・前掲注(3)8頁以下に詳しい。
11) xx・前掲注(3)は,もっともこの点については,本件と同様に約定よりも細い柱を使用した建物が瑕疵にあたらないとか(神戸地判平成13・11・30下級審主要判決情報),「目的物に欠陥があり,それが契約によって明示的または目的に定められた内容どおりでない場合でも,それが契約の基準に反しないものといい得る場合には瑕疵にはならない」とする下級審判決(東京地判昭和39・9・21)も下され,「合意には反しているが,工事内容を変更しても構造上(安全上)何等問題ない場合には,瑕疵にあたらないとするものと,安全性に関わりなく合意を優先させる判決例」があったとして,「下級審の判決例がこのような中,主観的には合意内容とは異なるが,客観的な安全性面では問題がない場合に,不動産の物的瑕疵の認定における合意の意味を最高裁として初めて明らかにしたのが本判決である。」とその意義を指摘し(200頁),「本件最高裁判決の判断枠組みは従前の判例の枠組み・通説に従うものであり結論とも問題なく首肯しうる。」とする(206頁)。またxx・前掲注(3)12頁は,本判決は「通説的な見解によっても,約定違反による瑕疵が認められる事例」であり,「事例判断」であるとする。
12) xx・前掲注(3)は,「本判決も,契約との不一致をすべて瑕疵あり,とするものではなく,『特約』が『契約の重要な内容』であった点から,瑕疵を認定している。これは,建築請負分野における従来の学説に沿いつつ,『契約の重要な内容』という判断基準を創造
建築請負契約の目的物の主観的瑕疵と請負人の瑕疵担保責任(xx)
したものである,と言える。」とする(101頁)。しかし,本文で述べるように,「契約の重要な内容」という基準だけでなく,本文で述べる4つの要素の相互関係が問題であろう。またxx・前掲注(3)は,「本判決は,瑕疵に該当するとされた事例ではあるが,瑕疵該当説の外延を画する事案ではないと考えられる。したがって,『特に約定され』や『契約の重要な内容』という部分が,一般的に『瑕疵』の判断における要件を設定した趣旨と理解するのは相当ではないと考えられる。」とする(12頁)。しかし,本文で述べた4つの要素の位置づけを検討することは意味があると筆者は考えている。
13) xx・xx・前掲注(10)128頁。なお設計図書とは,建築基準法によれば「建築物,その敷地又は第八十八条第一項から第三項までに規定する工作物に関する工事用の図面(現寸図その他これに類するものを除く。)及び仕様書をいう。」(建築基準法2条12号)。
14) xx・xx・前掲注(10)は,設計図書が存在し,契約書に民間連合協定工事請負建築約款が付されている場合,約款によれば,契約書と約款のほかには,設計図書のみに基づいて請負契約を履行すればよい旨が規定されている(約款1条)ので,「したがって,特段の事情のないかぎり,契約内容は,設計図書によって確定することができる。」とする
(126-7頁)。またxxxx,「契約書又は設計図書の記載事項は,当事者の意思を反映して
いないという特段の事情のない限り,契約内容を示すものとして瑕疵の認定基準となり,これに反する施工があれば瑕疵にあたるわけです。」と指摘する(xxx「瑕疵を認定するための基準」xxxx編『建築関係紛争の法律相談』(青林書院,2004)298頁。
15) 設計の瑕疵についての建築士の責任については,xxxxx『建築家の責任と建築訴訟』(成文堂,1993),xxxx『建築家の法的責任』(日本評論社,1998)に詳しい。
16) xxは〈B判決〉を受けて,「今後,契約内容の遵守をめぐる紛争が瑕疵認定の大きな問題となっていくでしょう」と指摘する(xxxx「契約違反と瑕疵の判断」同編・前掲注(14)305頁)。
17) シックハウスについては,後掲注(76)参照。
18) 本判決についての判例批評として,xxx・判批・NBL764号68頁以下(2003),xxxxx・判批・法セミ580号112頁,xxxx・判批・都立大法学会雑誌44巻1号451頁以下(2003),xxxx・判批・法学教室272号106頁(2003),xxxx・判批・判例評論 533号(判例時報1818号)11頁(2003),xxx・判批・成城法学71号175頁以下(2004),xxxx・判批・法時75巻10号101頁以下(2003)。本文の以下の叙述は,筆者の前稿と重複する点があることをお断りしておく。
19) 神戸地判 1988(昭63)・5・30 判時 1297・109,東京地判 1991(平3)・6・14 判タ
775・178,大阪地判 1991(平3)・6・28 判時 1400・95 などがこれにあたる。欠陥注文住宅の建替費用請求の可否の問題の私見については,xxxx「欠陥住宅被害における損害論」立命館法学280号1569頁以下(2002)も参照されたい。
20) 否定説の代表的論者がxxxx裁判官である。xxx「最近の裁判例からみた請負に関する諸問題」判タ365号58頁(1978),同「請負建築建物に瑕疵がある場合の損害賠償の範囲」判タ725号8頁以下(1990)。後にxxx『請負に関する実務上の諸問題』(判例タイムズ社,1994)に所収。
21) xxxx『不動産法の常識・上巻』(日本評論社,1970)253頁,同『民法セミナーⅣ』
立命館法学 2004 年6号(298号)
(xx堂,1971)250頁以下,xxx「瑕疵担保」法時42巻9号40頁(1970),xxxx
「判批」法時61巻9号106頁(1989),xxxx「判批」私法学研究(駒沢大学)13巻15号 174頁(1990),xx・判批・判タ698号24頁以下(1989),xxxxx『債権各論・第2版』83頁(有斐閣,1995),xxxx・判批・判タ794号38頁(1992),xxxx『契約規範の構造と展開』(有斐閣,1991)252頁,xxxxx・xxxx『不完全履行と瑕疵担保責任(新版)』160頁以下(一粒社,1998)など。
22) 学説動向については,xx・前掲注(19)1577頁以下。
23) 請負人の瑕疵担保責任の中で,瑕疵修補に代わる損害賠償につき,建替しかできない場合は「建替え費用」を請求できるとする初期の判決例として(大阪高判 1983(昭58)・ 10・27,判時 1112・67,大阪地判 1984(昭59)・12・26 判タ 548・181)。熊本地判1998
・・・・・・ ・・・
(平10)・1・29(欠陥住宅被害全国連絡協議会編『消費者のための欠陥住宅判例[第1集]
――安心できる住まいを求めて』(民事法研究会,2000)228頁以下)は,「瑕疵があるこ とによる目的物の交換価値の減少に限定することは,本件のように,再築を必要とする場 合には,再築のための費用を注文者において負担することを強いることになり,甚だ不合 理な結果となるから,再築のための費用が目的物の価格相当額に当たるものとして,賠償 の対象となる損害になるものと解するのが相当である。」とする。また瑕疵の修補に代わ る費用たる再築費用を債務不履行に基づく損害として請求できるとする判決例(神戸地判 1986(昭61)・9・3 判時 1238・118)や,請負人に対する不法行為責任の追及の中で建替 費用相当額を認容する判決例も増えている(横浜地判 1985(昭60)・2・27 判タ 554・238,大阪地判 1998(平10)・7・29(『欠陥住宅判例[第1集]』6頁以下),福岡地判 1999
(平11)・10・20(『欠陥住宅判例[第1集]』174頁以下,東京地判 1999(平11)・12・24
『欠陥住宅判例[第1集]』296頁以下)など。
24) 本判決に対する判例批評(前掲注(18))の中にも,本判決の結論の妥当性に反対する論者は見当たらない。なお,〈A判決〉が出る直前に脱稿されたという現役裁判官のxx・xx・前掲注(10)の論文も,否定説は「妥当ではなかろう。民法635条但書は,瑕疵ある建物が契約目的を達せられない場合でも,いまだなんらかの効用を有することを前提として,社会経済的損失を避けるために解除と原状回復を認めなかったものとみるべきであって,建替えを要するなど当該建物にそれ以上存続させておくだけの社会的効用も認められない場合にまで,同条の趣旨を及ぼすことは妥当でないからである。」としているのが注目される。
25) この点を指摘するものとして,xx・前掲注(18)73頁。
26) xx・前掲注(18)は「解除可能性に途が開かれた」とする(107頁)。
27) 古積・前掲注(18)112頁(2003)。
28) xx・前掲注(18)18頁。
29) この問題を詳論するxxxx弁護士は,① 所有者が自らの所有権に基づいて使用しているのだから,不当な利得ではない,② 欠陥住宅に好きこのんで居住しているわけではなく,やむなく被害者はそこに居住しているのである,③ 被害者は本来ならば完成引渡し時から完全な建物を使用し得たはずである,④ 建築建物の請負人が誠意ある対応をして早期に賠償に応ずると多く支払らわねばならないという不都合が生じ,「まさに手抜き
建築請負契約の目的物の主観的瑕疵と請負人の瑕疵担保責任(xx)
業者に好都合な論理」であることを指摘する(xxxx『欠陥住宅紛争の上手な対処法』
(民事法研究会,1996)137頁以下)。また,xx・xxxx注(10)は,「建替えまでの建物 の使用利益を損益相殺する必要はまったく認められない」とする(145頁)。xx・前掲注 (18)は,「建物の所有権は完成と同時に原始的に注文者に帰属すると解されるので,建物 使用につき法律上の原因があることは当然である」,「また,建物の瑕疵は,たとえ基礎部 分・構造部分に関するものについては,しばしば容易に発見できないことがあり,さらに,代替建物が容易に得られない場合には,危険を承知でも使用し続けなけれならない事情も
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ありうるから,それを使用し続けたということをもってただちに建物に価値があったとい
・・・・・・・・ -
うことは導けないであろう」とする(72 73頁)。また,xx・前掲注(18)は,居住利益は
「本件建物の所有権にもとづくものであることを理由として否定するほうが,理論的である。」とする(201頁)。
30) xx・前掲注(2)64頁以下。
31) 居住利益控除を肯定する説として,xx・前掲注(20)『諸問題』88頁以下。xx説に対するxxxによる批判および私見については,xx・前掲注(2)67頁以下参照。なお,xx・前掲注(18)は,「取り毀して再築する以外にないような建物であっても,倒壊等の危険や不快感,嫌悪感に悩まされながらも,Xが代替家屋を借りることなく居住を続けた場
・・・・・
合は,それによって一定の利益を得たとみるのが常識に適うからである。」と指摘してい
る(18頁)。しかし,注文者は,本来,瑕疵のない住居に最初から居住する権利を有し,請負人はそれを実現する義務を負っているのである。いったい全体,瑕疵なき建物を引き渡されるべきはずの注文者が,「倒壊等の危険や不快感,嫌悪感に悩まされながらも」欠陥建物に居住していた点を,「利益」を受けているのだからその分,賠償額を減額しろと,瑕疵ある建物を建築した請負人自身が主張することを認めることは「常識に適う」のであろうか。はなはだ疑問である。
32) 前掲注(18)のxx,xxがこの2つの論理の存在と相互関係について検討しており示唆に富む。但し,〈B判決〉が出る前の判例批評なので,本稿が検討する〈B判決〉のような主観的瑕疵論との関連については,言及されていない。
33) この点の立法過程の研究としてxx「判批」判タ698号24頁以下は示唆に富む。筆者の
問題意識もこれに触発された面が大いにある。
・・・
34) 『日本近代立法資料叢書4・法典調査会議事速記録・四(復刻版)』(商事法務研究会,
1984)549頁。
35) 速記録・前掲注(34)558頁。
36) 速記録・前掲注(34)549頁。
37) 速記録・前掲注(33)550頁。
38) 速記録・前掲注(34)551頁。
39) 速記録・前掲注(34)552頁。
40) 速記録・前掲注(34)545頁。
41) 速記録・前掲注(34)552頁。 42) 速記録・前掲注(34)555-556頁。
43) 速記録・前掲注(34)556頁。
立命館法学 2004 年6号(298号)
44) 速記録・前掲注(34)556頁。
45) 速記録・前掲注(34)556-7頁。
46) 速記録・前掲注(34)553頁。
47) 速記録・前掲注(34)553頁。
48) 速記録・前掲注(34)553-4頁。
49) xは,「起草者は,瑕疵のために居住することが危険である家屋については,いかに過分の費用がかかろうとも修補請求もしくはそれに代わる損害賠償請求を認めているように思われる。」と指摘する(x・前掲注(21)25頁)。
50) xx・前掲注(18)は,建替費用の損害賠償請求を否定する判決が,これを認めると「実質的に契約解除以上のことを認める結果になる」としている点について,「これは,一方で,瑕疵があってもなお価値が残っている建物は瑕疵を修補して利用するべきなのに,注文者に建替費用を与えると(再築のために)これを取り壊してしまうであろうという考慮
であろうか。しかし,注文者が建替費用を得ると必然的に取壊しを行うというわけでもな
・・・・・・・・・・・・・
く,同時に建物に保存の価値がない場合でもあり,あまり説得的な論拠ではない。」とす
る(72頁)。
51) xxは,法典調査会での議論の検討をふまえて,「結局,請負規定は,起草者の想定した,注文者にとっては契約をなした目的を達成しえないとしても,注文者以外の者にとっては客観的に十分に価値のある建築物を対象としているのである。したがって,今日の後述のような人の生命,身体の安全性に影響を及ぼすような,また建築訴訟にみられる瑕疵ある建築物は,民法第635条但書規定の守備範囲を超えた問題であるといえよう。」とする
(xxxx「近時の裁判例にみる建築関係者の瑕疵責任」流通経済大学法学部開校記念論文集(2002)247頁。
52) 速記録・前掲注(31)551頁。
53) 速記録・前掲注(29)552頁。
54) 速記録・前掲注(29)545頁。
55) 速記録・前掲注(29)552頁。 56) 速記録・前掲注(29)555-556頁。
57) 速記録・前掲注(29)556頁。
58) 速記録・前掲注(29)556頁。
59) 速記録・前掲注(29)556-7頁。
60) 速記録・前掲注(29)549頁。
61) 速記録・前掲注(29)550頁。
62) 速記録・前掲注(29)558頁。
63) 最判 1983(昭和58)・1・20 判時 1076・56 は,「本件曳船の原判示瑕疵は比較的軽微であるのに対して,右瑕疵の修補には著しく過分の費用を要するものということができるか
・・・・・・・・・・・ら,民法六三xxx項但書の法意に照らし,上告人は本件曳船の右瑕疵の修補に代えて所
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
論改造工事費及び滞船料に相当する金員を損害賠償として請求することはできないと解す
るのが相当」であるとする。
64) xxxは,本判決の「判断は,民法六三xxx項但書の趣旨から当然に道びかれるもの
建築請負契約の目的物の主観的瑕疵と請負人の瑕疵担保責任(xx)
であるが故に,本判決はあえて民集登載の必要がないと判断されたものと思われる。」とする(本件判比・民商89巻5号(1984)714頁)。
65) xxxは,「かような重大な瑕疵がある場合にも,注文者は,前段に述べたところに
従って,その瑕疵の修補を請求することもでき(修補の可能な場合に限ることはいうまで
・・・・・・・・・・・・・・・ ・・・・・・・
もないが,過分の費用を要するときでもよい(634条1項但書参照),また修補に代わる損
・・・・・・・・・・・・・・・
害の賠償を請求することもできる。)」とする(『債権各論中巻二(民法講義Ⅴ2)』(岩波
書店,1962)639頁)。ここでxxが「修補の可能な場合に限る」としている点について,建替えざるを得ない場合は修補不能と見るのかどうかが問題となるが,xxは他方で「過分の費用を要するときでもよい」としているのであるから,建替請求を認めても矛盾しないと言えよう。
66) 比較的初期にこの問題を指摘した論稿として,xxx「工事請負契約における瑕疵担保責任の法律的性質」判例評論263号(判例時報982号)170頁。xは,「立法者は請負人の瑕疵担保責任をごく自然に債務不履行責任(不完全履行)としてとらえていたのであって,決して異なる性質をもった特別の責任とは考えていなかったのである。請負人の担保責任
を無過失責任とみる考え方などは全くここでは見当たらない。」(172頁)と指摘し,「要す
・・・るに,請負人の瑕疵担保責任については,これを債務不履行責任とは異質の特殊な担保責
・
任とみる法律構成が有力な学説によって主張され,これが通説とよばれて,現在に至って
もなお下級審判例に影響を与えているが,このように,立法者意思を曲げてまで不自然な構成をとるべき必要性は少しもなく,それは今日改めて再考されるべきではない顔いうのが本稿の結論である。」とする(180頁。傍点原著者)。しかし,本文で後述するように,立法者意思は無過失責任ではないとするこうした指摘は不正確であり,少なくともxxxxは無過失責任と考えていたと思われる。
67) xx・前掲注(5)470頁。
68) xx・前掲注(10)332頁。
69) ドイツ民法(旧)635条は,次のように規定する。「仕事の瑕疵が請負人の責めに帰すべき事由に基づくときは(Beruht der Xxxxxx des Werkes auf einem Umstande, den der Unternehmer zu vertreten hat),注文者は,解除又は減額に代えて不履行に基づく損害賠償を請求することができる。」(訳文はxx編・前掲注(8)418頁。xxxx執筆担当)。なお同634条に規定する解除と報酬減額請求権は無過失責任とされている。
70) xx・前掲注(21)246頁以下。
71) xx・前掲注(21)237頁。なお藪・前掲注(66)は,xxxxの『民法要義』と『民法修
・・・・・・・・正案理由書(第五巻)』中の請負人の瑕疵担保責任の瑕疵修補義務は,「債務履行ノ通則ニ
・・・・・・・・・・
依リ自ラ明白ナリトス」(傍点原著者)を根拠に,立法者は無過失責任と考えていなかっ
たとしているが,債権者による債務者への履行請求は債務者の帰責事由を要しないのだから,後者だけでは論拠にならないはずである。xxxx,xxxとも,法典調査会での議論を引用していないのは,片手落ちであろう。
72) xxxx『民法要義・巻之三債権編』(有斐閣,大正元年版復刻版,1984)712頁以下。
73) 速記録・前掲注(34)559頁。
74) xxは,「債務不履行は,債務者が債務の本旨に従った給付をしない,ということ」と
立命館法学 2004 年6号(298号)
しつつ,「債務不履行によって,損害賠償請求権を生ずるためには,本旨に従った履行が ないという客観的状態があるだけではたりない。更に主観的要件と客観的要件とを必要と する。」として,債務不履行による損害賠償請求権の成立のための主観的要件としての債 務者の帰責事由の必要性を指摘している(xxx『新訂債権総論(民法講義Ⅳ)』(岩波書 店,1964)99-100頁。また,xxは,「債務の本旨にかなった履行がなされていない状態」を「xxの債務不履行」,これに違法性と債務者の帰責事由が加わった場合を「狭義の債 務不履行」として整理する(xxxx『債権総論[増補版]』(悠々社,1992)122頁以下)。
75) 近時の裁判例として,大阪地判 2001(平成13)・2・15『欠陥住宅判例[第2集]』366頁以下,京都地判 2002(平成14)・7・15『欠陥住宅判例[第3集』254頁以下,京都地判 2004・2・16 xx446頁以下など。
76) なお請負人の瑕疵担保責任と別に安全配慮義務違反による債務不履行責任を認める実益として時効期間の問題がある(土地工作物の請負の場合は,引渡の時から5年ないし10年間―638条なのに対して,安全配慮義務違反の債務不履行に基づく損害賠償請求権は,権利行使可能時から10年間―166Ⅰ,167Ⅰ)(xxxx「欠陥住宅と建築者・不動産業者の責任」xxxx・xxxxx・xxxx『現代の都市と土地私法』(有斐閣,2001)310頁)。もっとも住宅品質確保促進法が適用される住宅については,引渡しの時から10年間という強行規定が適用される(同法87,88条)。
77) シックハウスの裁判例としては,横浜地判 1998(平成10)・2・25(判時1642・117。賃借人から賃貸人への債務不履行に基づく損害賠償請求),札幌地判 2002(平成14)・12・ 27(請負人から報酬債権の請求に対して,注文者が化学物質化敏症に罹患したことによる損害賠償を請求した事案),東京地判 2003(平成15)・5・20(施工業者が取り付けたシステムキッチンの修繕にかかわって塗布されたクレオソート油により化学物質化敏捷に罹患したとして,注文者が請負人に損害賠償請求をした事案)がある(いずれも予見可能性がなかったとして責任を否定)(これらの事例については,xxxx「シックハウス問題部会からの報告」欠陥住宅被害全国連絡協議会(全国ネット)機関紙・ふぉあ・すまいる12号(2004)25頁以下)。またシックハウス事例につき,xxxx編『シックハウスの防止と対策・シックハウス症候群にならないための25カ条』(日刊工業新聞社,2004)112頁以下など。
78) xx・前掲注(9)637頁。
79) xx・前掲注(9)632頁。
80) xxxは,請負人の瑕疵担保責任に基づく「賠償義務が無過失責任でかつ履行利益を超えて拡大損害にまで及ぶとすること(xx・前掲637頁)には,請負の瑕疵担保を不完全履行とする立場からは疑問がある」とする(xxx『債権法論点ノート』(日本評論社, 1990)38-9頁。
81) 民法717条には,鉱業法113条や大気汚染防止法25条の3などのようにxxで規定されているような不可抗力による免責規定はないが,「一般に不可抗力による責任の減免が承認されている。」とされている(xxxx『事務管理・不当利得・不法行為(下)』(青林書院,1985)742頁注(一))。ただ,どのような事由を土地工作物責任を免責する「不可抗力」とみるべきかが問題となろう。この点については,xxxx「『不可抗力』について」
建築請負契約の目的物の主観的瑕疵と請負人の瑕疵担保責任(xx)
同『民法ノート(上)』(有斐閣,1984)137頁以下)。
82) 本文中で参照したドイツ民法典は,周知のように時効期間の統一や消費者契約に関する規定の民法典化などを含む広範囲にわたる改正を受けた(2002年1月1日より施行)。本稿のテーマに関連する請負人の瑕疵担保責任については,次のような規定に改正されている。
「新法634条(瑕疵がある場合の注文者の権利)仕事に瑕疵があるときは,以下の規定の要件が存在し,かつ異なった合意がない限り,注文者は,
一 635条に従い追完履行(Nacherfullung)を請求し,
二 637条に従い瑕疵を自ら除去して,必要な費用の賠償を請求し,
三 636,323条及び326条5項に従って契約を解除し,または638条に従って報酬を減額し,かつ,
四 636,280,281,283条及び311条aに従って損賠賠償を,または284条に従って無駄になった費用の賠償を請求しうる。」(訳文は,xxxx『ドイツ債務法現代化法概説』(信山社,2003)508頁以下による)。
追完請求,除去費用の賠償請求,報酬減額,解除には請負人の帰責事由を要しない(た だし,解除には323条5項により重大な義務違反が必要)。それ以外の損害賠償については,義務違反による損害賠償一般の原則の適用として,帰責事由を要する(280条1項)。なお ドイツでは日本のような土地工作物の請負契約の場合の解除制限規定は最初から存在しな い。