第6章 業務委託契約および NPO での就業に関する労働法上の問題
第6章 業務委託契約および NPO での就業に関する労働法上の問題
1.はじめに
(1)労働保護法上の「労働者」概念
現行の労働保護法(労働基準法、労働安全衛生法、最低賃金法、労災保険補償法など)において、その適用対象となるかどうかを決定するうえで重要なのは、当該労働に従事する者が「労働者」に該当するかどうかである1。「労働者」については、労働基準法において、「この法律で『労働者』とは、職業の種類を問わず、事業又は事務所……に使用される者で、賃金を支払われる者をいう」と定義されており(9 条)、これが他の労働保護法との共通の「労働者」概念となっている。ここでは、「使用従属性」と有償性(賃金が支払われること)という要素が「労働者」に該当するかどうかを判断するうえでのポイントになる。
このため、「使用従属性」がない独立的な自営業者や有償性のない労働、すなわち無償労働に従事する者は労働保護法上の保護の対象外となる2。したがって、雇用労働とは異なり、企業の指揮命令を受けずに独立して委託された仕事を遂行する業務委託契約従事者や NPO などで無償で活動する者は労働保護法の適用を受けないこととなる3。
もっとも、業務委託契約従事者は、その契約形式が民法 623 条以下の「雇傭契約」とは異なるという理由だけで、労働保護法の適用対象外となるわけではない。民法上の雇傭契約に
1 労働法においては、労働保護法と並ぶもう一つ大きな分野として、労働団体法という分野がある。業務委託契約従事者や NPO でのボランティア就業者が、その就業環境や就業条件の向上を目指して団体を結成した場合に、それが労働組合としての法的地位を取得することができるかどうかも問題となる。
労働組合法において、「労働組合」とは「労働者が主体となって自主的に労働条件の維持改善その他経済的地位の向上を図ることを主たる目的として組織する団体又は連合団体」と定義されている(2 条本文)。ただし、「共済事業その他福利事業のみを目的とするもの」は労働組合には該当しないとされている(2 条但書 3 号)。また、労働組合法上の「労働者」とは、「職業の種類を問わず、賃金、給料その他これに準ずる収入によって生活する者」と定義されている(3 条)。
労働組合法上の「労働者」概念は、後述の労働基準法上の「労働者」概念よりも広いと解されているので、業務委託契約従事者であっても、労働組合法上の「労働者」性が肯定される余地がないわけではない(プロ野球選手については、労働基準法上の「労働者」ではないと解されているが、その結成した労働組合は労働委員会により資格認定を受けている)。なお、業務委託契約従事者が純然たる事業者と判断される場合には、「労働組合」的団体を結成すると、独禁法上の問題が生じることにも注意をする必要がある。
ボランティア就業者については、無償ボランティアは労働組合法上の「労働者」には該当しないが、有償ボランティアにおいてはケースバイケースの判断となるので、「労働者」に該当する可能性もある。「労働者」に該当する場合には、その結成する団体が労働組合法上の労働組合と認められることになるであろう。その場合でも、その団体が、ボランティア就業者の労働条件の維持改善を目指すものでなく、「共済事業その他福利事業のみを
目的とするもの」であれば労働組合性は否定されることになる。
2 また、労働基準法は、同居の親族のみを使用する事業、家事使用人は、同法の適用対象外としている(116 条
2 項)。このような者の労働条件について国家で法による介入することは、困難であると同時に不適切と考えられているからである(xxxx『労働法(第 6 版)』(2003 年、弘文堂)95 頁を参照)。
3 ただし、雇用労働者以外にも労働法の保護が及ぶ例外がないわけではない。たとえば、家内労働法上、「家内
労働者」のカテゴリーに属する就業者については、労働基準法上の「労働者」には該当しないにもかかわらず、一定の保護規制(最低工賃、委託契約の条件の明示、安全衛生など)が及んでいる。また、労災保険については、一人親方などの自営業者にも特別加入制度が認められている。このほか、下請業者については、元請企業との関係で弱い立場に立つ可能性が高いため、契約内容の適正化などその保護を目的として特別法が制定されている
(下請代金遅延等防止法)。
該当しない場合(形式的には、委任契約、準委任契約その他の無名契約を締結している場合)であっても、実態として使用従属関係が認められれば、労働保護法の適用を受ける。このことは、裁判例においても、次のように述べられている。「『労働者』に当たるか否かは、雇用、請負等の法形式にかかわらず、その実態が使用従属関係の下における労務の提供と評価するにふさわしいものであるかどうかによって判断すべき」である4。したがって、労働保護法の適用を免れるだけの目的で業務委託契約が締結されているという、いわゆる「仮装自営業者」は法的には「労働者」とされることになる。
では、「労働者」性の判断基準は、具体的にはどのようなものなのであろうか。結論として、「労働者」性の判断は、さまざまな要素の総合判断であり、その判断基準は明確なものとはなっていない。たとえば、最高裁判決では、いわゆる傭車運転手のケースで、次のように判示している。「X[筆者注:労働者]は、業務用機材であるトラックを所有し、自己の危険と計算の下に運送業務に従事していたものである上、A会社は、運送という業務の性質上当然に必要とされる運送物品、運送先及び納入時刻の指示をしていた以外には、Xの業務の遂行に関し、特段の指揮監督を行っていたとはいえず、時間的、場所的な拘束の程度も、一般の従業員と比較してxxxに緩やかであり、XがA会社の指揮監督の下で労務を提供していたと評価するには足りないものといわざるを得ない。そして、報酬の支払方法、公租公課の負担等についてみても、Xが労働基準法上の労働者に該当すると解するのを相当とする事情はない。そうであれば、Xは、専属的にA会社の製品の運送業務に携わっており、同社の運送係の指示を拒否する自由はなかったこと、毎日の始業時刻及び終業時刻は、右運送係の指示内容のいかんによって事実上決定されることになること、右運賃表に定められた運賃は、トラック協会が定める運賃表による運送料よりも一割五分低い額とされていたことなど原審が適法に確定したその余の事実関係を考慮しても、Xは、労働基準法上の労働者ということはできず、労働者災害補償保険法上の労働者にも該当しないものというべきである」5。
もっとも、下級審裁判例の中には、これまでの裁判例の判断基準を集大成して、次のよう
に整理して述べたものがある。「実際の使用従属関係の有無については、業務遂行上の指揮監督関係の存否・内容、支払われる報酬の性格・額、使用者とされる者と労働者とされる者との間における具体的な仕事の依頼、業務指示等に対する諾否の自由の有無、時間的及び場所的拘束性の有無・程度、労務提供の代替性の有無、業務用機材等機械・器具の負担関係、専属性の程度、使用者の服務規律の適用の有無、公租などの公的負担関係、その他諸般の事情を総合的に考慮して判断するのが相当である」6。
4 新宿労基署長(映画撮影技師)事件・東京高判平成 14 年 7 月 11 日労判 832 号 13 頁。
5 xxx労基署長事件・最 1 小判平成 8 年 11 月 28 日労判 714 号 14 頁。このほか、過去の最高裁判例では、証
券会社の外交員について労働者性(労働契約性)を否定した例(xx証券事件・最 1 小判昭和 36 年 5 月 25 日
民集 15 巻 5 号 1322 頁)、塗料製法の指導、塗料の研究に従事する者の労働者性を肯定した例(xx製紙事件・
最 2 小判昭和 37 年 5 月 18 日民集 16 巻 5 号 1108 頁)がある。
6 新宿労基署長(映画撮影技師)事件・東京高判平成 14 年 7 月 11 日労判 832 号 13 頁。
また、1985 年に出された労働基準法研究会報告(労働基準法の「労働者」の判断基準)では、労働者性の判断基準について、①「使用従属性」に関する判断基準と②「労働者性」の判断を補強する要素とに区分し、①については、さらに、①(a)「指揮監督下の労働」に関する判断基準と(b)報酬の労務対償性に関する判断基準とに分けて、前者(①(a))については、仕事の依頼、業務従事の指示等に対する諾否の自由、業務遂行上の指揮監督の有無、拘束性の有無、代替性の有無が判断要素となるとする。②については、②(a)事業者性の有無、②(b)専属性の程度、②(c)その他に分けて、②(a)については、機械・器具の負担関係、報酬の額が判断要素となり、②(b)については、他社の業務への従事に対する制約や報酬における固定給部分の有無が判断要素となり、②(c)では、採用や委託の際の選考過程、報酬から給与所得としての源泉徴収が行われているかどうか、労働保険の適用対象となっているかどうか、服務規律、退職金、福利厚生が適用されているかどうかが判断要素となるとしている7。
これらの判例や行政の見解を参考にすると、労働者性の判断において考慮される事由は、さしあたり、次のようなものであると解することができよう。①業務遂行上の指揮監督関係の存否と内容、②報酬の性格と額、③具体的な仕事の依頼、業務指示等に対する諾否の自由の有無、④時間的拘束性および場所的拘束性の有無や程度、⑤労務提供の代替性の有無、⑥業務用の機器の負担関係、⑦専属性の程度、⑧服務規律の適用の有無、⑨公租などの公的負担関係、である。
(2)業務委託契約従事者および NPO のボランティアの労働法上の問題
業務委託契約従事者は、契約形式上は「労働者」とは異なるので、実務上は非「労働者」として扱われていると思われる。しかし、その就業実態は、必ずしも契約形式と合致しているわけではないのであり、「労働者」と類似の使用従属関係が認められる可能性もある。そして、法的には、「労働者」性の判断は実態に即して客観的に判断されるものなので、前述のように、業務委託契約従事者であっても法的には「労働者」と評価され、労働保護法の適用を受けることになる可能性もある。また、法的に「労働者」と評価されない場合でも、業務委託契約従事者の就業について、労働法上の観点からみて問題がいっさいないとは言い切れないであろう。「労働者」と非「労働者」との間の境界線はあいまいで、グレーゾーンにいる就業者は少なくなく、非「労働者」とされても、なお経済的従属性があり、その意味で要保護性があると考えられる者もいるはずである8。そこで、以下では、まず本調査の結果から、業務委託契約従事者の就業実態を明らかにして、雇用労働者と比較することをとおして、そこに何らかの労働法上の問題が生じていないかを検討することとし、さらに、業務委託契約従事者に対して「労働者」としての保護を及ぼすことの適否についても検討することとす
7 労働省労働基準局監督課編『今後の労働契約等法制のあり方について』(1993 年、日本労働研究機構)50 頁以下。
8 家内労働法の適用を受けている家内労働者は、まさに、このようなタイプの非「労働者」の典型である。
る(→2)。
NPO で活動するボランティアについては、純然たる無償ボランティアが「労働者」に該当しないことには異論はないであろう。労働基準法は、「労働者」の定義において、賃金の支払を受けていることを要件としているので、無償ボランティアは定義上、「労働者」に該当することはない。これに対し、有償ボランティアとなると、その実態に応じて異なってくる。いずれにせよ、有償ボランティアが「労働者」に該当するとして、労働保護法の適用が全面的に認められるとすると、たとえば最低賃金法のような規定が適用されることになり、有償ボランティアの活動が最低賃金法違反の違法なものとなる可能性がでてくる。このような結論が妥当かどうかは慎重な検討が必要である。そこで、以下では、ボランティアで活動する者への労働法の適用の適否についての解釈論的・立法論的議論をする前提として、これらの活動実態からみて労働法の観点からの問題点があるかどうか、また問題があるとすれば、どのような規制や保護のニーズがあるのかについて検討を行うこととする(→3)。
まず、本調査において明らかとなった業務委託契約の現状とその内容について、典型的な
「労働者」(雇用労働者)と比較して、どのような特徴と問題点があるかを具体的に検討していくこととする。
(1)契約内容の明確化
労働契約の内容(労働条件)については、それが不明確なまま契約が締結されると、使用者(企業)が一方的に契約内容を決めてしまう危険性があることから、労働基準法は、使用者(企業)に労働条件明示義務を課している。そして、明示された労働条件が事実と相違するときには労働者に即時解除権を与え、また明示義務に違反した使用者には罰則が科されることになっている(労基法 15 条、120 条)。
明示が義務づけられている労働条件は、労働基準法施行規則によると、「労働契約の期間
(1 号)、就業場所・従事すべき業務(1 の 2 号)、労働時間(2 号)、賃金(3 号)、退職
(4 号)、退職手当(4 の 2 号)、臨時に支払われる賃金(5 号)、労働者負担の食費など(6号)、安全衛生(7 号)、職業訓練(8 号)、災害補償(9 号)、表彰・制裁(10 号)、休職(11 号)」である(5 条 1 項)。そのうち、「労働契約の期間(1 号)、就業場所・従事すべき業務(1 の 2 号)、労働時間(2 号)、賃金(3 号。昇給に関する事項は除く)、退職
(4 号)」については書面の交付による明示が義務づけられている(5 条 2 項、3 項)。また、明示が義務づけられている労働条件の範囲はほぼ就業規則の必要的記載事項(労基法 89 条)と重なっており、行政解釈によると、「当該労働者に適用する部分を明確にして就業規則を労働契約の締結の際に交付することとしても差し支えない」とされている(平成 11 年 1 月
29 日基発 45 号)。
業務委託契約従業者については、これらの労働保護法上の規定は適用されず、契約法上の原則が適用されることになるが、契約法上は契約内容の明確化のための特別な法規制は存在していない。事業者と消費者との間に締結される消費者契約については、契約内容の明確化のための配慮義務が定められている(3 条 1 項)が、業務委託契約従事者は通常は消費者ではなく事業者に該当すると解されることから、業務委託契約は消費者契約には該当せず、したがって消費者契約法は適用されないことになる。
ただし、消費者契約法の規定が、業務委託契約に類推適用されることはありうるし、民法上も、企業には業務委託契約従事者に対して契約内容の明確化に努めるxxx上の義務があると解する余地は十分にある。また雇用関係なしに在宅ワークに従事する者については、「在宅ワークの適正な実施のためのガイドライン」が制定されており、そこには、契約条件の文書明示およびその保存が注文者に対して要請されている。これは、非「労働者」であっても、契約関係において実質的な対等性がない者に対しては、契約内容適正化のための環境整備をする必要があるということから定められたものであり、自営的就業者であっても、企業との契約締結過程において保護の範囲外におくことが必ずしも適切ではないということを示すものである。
ところで、本調査によると、業務委託契約の契約内容の明確に関しては、次のことが明らかとなっている。
第 1 に、業務委託契約は、書面による契約書方式で締結されるものが多い。ただし、「広告・出版・マスコミ専門職」、「デザイナー・カメラマン」については、口頭による契約が多い。
第 2 に、細かく取り決められている契約条件として、賃金、仕事の種類・範囲があげられる。また比較的細かく決められているものとして、勤務場所があげられる。勤務時間などについては、細かく決められているとする企業が比較的多いが、職種間で差がある。「労働者」については、これらの契約条件は書面での明示が求められている重要事項であるが、業務委託契約従事者においても、これらが具体的に契約段階で決められているということは、少なくとも重要な契約条件の明示・具体化は比較的よく行われているとみることができよう。
もっとも、今回の調査から、業務委託契約従事者における契約条件の明示には実務上問題が少ないという結論を出すのはやや早計であろう。たしかに、調査結果によると、契約に関するトラブルはないとなっているが、これは表面的なものにすぎない可能性もある。とくに今回の調査が企業調査であることを考慮すると、業務委託契約従事者側が契約内容に不満をもち、紛争が潜在的に存在している可能性は否定できない。労使紛争は、通常は、それが顕在化するためには、労働組合の存在や公的な紛争解決システム(個別紛争解決システムや労働委員会など)が必要となるのであるが、非「労働者」である業務委託契約従事者においては、労働組合もなければ、固有の紛争解決システムもないからである。したがって、契約条件に関するトラブルの実態については、業務委託契約従事者側の調査と照らし合わせて判断
していくことが必要である。同時に、契約におけるトラブルが少ないという調査結果から、業務委託契約における紛争解決システムが特に必要ではないという結論を導き出すことはできないということにも留意しておく必要があろう。
(2)契約終了
労働契約においては、使用者からの解雇については、30 日前の予告か、それに代わる予告手当の支払いが必要となる(労基法 20 条)。さらに、解雇は、「客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、無効とする」とされている(労基法 18 条の 2)。このように期間の定めのない契約の終了については、法律上、手続面および実体面において制限が課されている。
また、有期労働契約の反復更新後の雇い止めについては、判例上、解雇の法理が類推適用されて、正当な理由が必要と解されている(東芝xx工場事件・最 1 小判昭和 49 年 7 月 22
日民集 28 巻 5 号 927 頁などを参照)。さらに、「有期労働契約の締結、更新及び雇止めに
関する基準」(以下、基準。労基法 14 条 2 項を参照)によれば、有期労働契約が締結されて、雇入れの日から 1 年を超えて継続勤務している者に対して更新をしない場合には、解雇予告に準じて(労基法 20 条)、少なくとも期間満了の 30 日前までに予告をしなければならないと定められている(基準 2 条)。このように、有期雇用の終了についても、一定の手続的義務が課されている。
労働者の退職時において、労働者からの請求があれば、使用者は使用期間、業務の種類、その事業における地位、賃金または退職の事由(解雇理由も含む)についての証明書を遅滞なく交付しなければならない(労基法 22 条 1 項)。さらに有期労働契約の場合で更新がされなかった場合には、労働者がその理由についての証明書を請求すれば、使用者は遅滞なくこれを交付しなければならない(基準 3 条 2 項)。また、解雇予告がなされた場合には、その日から退職の日までの間において、解雇理由の証明書の請求があれば、使用者は遅滞なくこれを交付しなければならず(労基法 22 条 2 項)、同じく有期労働契約の雇止めの予告が行われた場合にも、労働者が雇止めの理由についての証明書を請求すれば、遅滞なくこれを交付しなければならない(基準 3 条 1 項)。
以上のように、労働契約の終了については、行き届いた規制があるが、一般の契約法上は、このような規制は存在していない。たとえば、委任契約については、「何時にても解除することを得」という規定があるだけで(民法 651 条 1 項)、とくに終了を規制する規定も終了時の手続規定も存在していない。
業務委託契約については、今回の調査によると、契約終了の事前予告は 81.4 パーセントの
企業で行われているとされていた。なかでも 1 カ月以上前から予告をしている企業は 62.2
パーセントもある。
なお、「在宅ワークの適正な実施のためのガイドライン」によると、「継続的な注文の打
切りの場合における事前予告」を定めており、その内容は、「同じ在宅ワーカーに、例えば 6 月を超えて毎月 1 回以上在宅ワークの仕事を注文しているなど継続的な取引関係にある注文者は、在宅ワーカーへの注文を打ち切ろうとするときは、速やかに、その旨及びその理由を予告すること」とされている。
業務委託契約においても、ある程度の継続的な契約関係となっている場合には、契約終了の事前予告だけでなく、労働契約の場合と同様の終了理由の告知もなされることが望ましいといえるであろう。
(3)仕事の遂行における裁量度
労働契約においては、労務の遂行において使用者の指揮監督を受けるという点に大きな特徴がある。このような使用従属関係の存在が、「労働者」性を基礎付ける一つの有力なメルクマールとなる。逆にいうと、このような指揮監督関係の不存在は、「労働者」ではなく、
「事業者」、「経営者」としての性格をもつことを強く推認させることになる。もっとも、
「労働者」の中でも、裁量労働制の適用を受けている者は、その定義上、「業務の遂行の手段および労働時間の配分の決定」について使用者が具体的に指示しないものとされているので(労基法 38 条の 3、38 条の 4)、使用者による労務遂行についての指揮監督や時間的拘束性は小さいとものとなる。
業務委託契約においては、今回の調査によると、仕事の進め方を個人の裁量に任せている企業は 72.1 パーセントであり、仕事の進捗報告の頻度は「毎週」というのが 29.5 パーセン
ト、「毎日」が 22.5 パーセントとなっている。これらの数字をどう評価してよいかは難問であるが、少なくとも、業務委託契約であるとしても、つねに仕事の進め方について受託者側の全面的な裁量に委ねられているわけではないし、逆に 4 分の 1 程度は、実質的には企業の指揮監督下で働いている可能性があるといえそうである。
さらに、業務委託契約従事者の定時出社の必要性がないとした企業は 76.9 パーセント、1
週間で「ほとんど出社しない」とする企業が 39.4 パーセントであり、逆にいうと、定時出社の必要性がある企業が 4 分の 1 程度あり、さらに 1 週間に何日かの出社をさせている企業も 5 割以上あることになる。就労実態のさらなる調査が必要であるが、業務委託契約従事者の中でも時間的拘束性が小さくない者が少なからず存在している可能性があるといえよう。
(4)報酬の決め方
労働契約については、賃金の決め方については最低賃金法の最低賃金を上回っている限りは、その額は自由に決定できる。ただし、「出来高払い制その他の請負制で使用する労働者については、使用者は、労働時間に応じ一定額の賃金の保障をしなければならない。」と規定されている(労基法 27 条)。また、賃金の支払方法について、全額払いの原則、通貨払
いの原則、直接払いの原則、毎月 1 回以上定期日払いの原則が定められている(労基法 24
条)。さらに、使用者の責に帰すべき事由による休業の場合には、平均賃金の 6 割以上の休業手当の支払いが使用者に義務づけられている(労基法 26 条)し、労働者の非常時の場合
の賃金の前払いに関する規定もおかれている(労基法 25 条)。
業務請負契約においては、労働契約ではない以上、最低賃金法や前記の労働基準法上の規定は適用されないし、とくに労働基準法 27 条も適用されないと解される。そのため、業務請負契約では、報酬の最低保障ということはなく、高額の報酬を得る可能性はあっても、場合によっては報酬はきわめて低額となるというハイリスク・ハイリターンとなる可能性がある。これは、事業主としての性格上、当然のことともいえるが、ただ、実際の報酬の決め方からみて、報酬が高額となる可能性がきわめて低く、その一方で報酬の最低保障はないというようなハイリスク・ローリターンとなっている場合であれば、問題が生じてくる可能性もある。
今回の調査では、報酬は企業との合意で決められている場合が 72.4 パーセントとなっており、しかも仕事の成果を報酬に反映させるところが 9 割を超していることが明らかとなった。この結果からは、成果が低い場合に、どこまで報酬額が低下するかははっきりしないので、ハイリスクといえるかどうかは、今後の調査により確認することが必要となろう。いずれにせよ、報酬額が合意により決定されているということ、その際に成果を考慮していることというだけでは、報酬がxxに決定されていることを保証するものではない。個人の業務委託契約従事者は、企業との間での情報量や交渉力に格差があり、対等な立場で交渉できる地位にない可能性があるし、また成果を反映させるとした場合でも、歩合制のような成果が明確にはかれる場合はさておき、なんらかの査定や評価がなされる場合には、その評価基準の適正さが問題となる余地があるからである。
(5)災害補償
「労働者」が業務上の災害にあった場合には、労災保険制度の適用を受ける。労災保険制度は、使用者が全額拠出する強制保険である。自営業者(一人親方、中小事業主など)に対しては、一定の要件の下に労災保険制度の特別加入制度があるにすぎない。業務委託契約従事者は、業務に関して事故にあったり、疾病にかかった場合でも、労災保険の適用を受けることはない(国民健康保険の適用対象となるが、保障程度は劣る)。この点は、「労働者」と非「労働者」との間での実務上最も重要な格差ということができる。
今回の調査では、企業内においても、業務委託契約従事者に対する、業務上のけがや事故に対する対応が十分になされていないことが明らかとなった。この点は、今後の政策上の重点課題としてとりあげる必要があるであろう。
(6)小括-「労働者」性に関して
今回の調査の対象となった業務委託契約従事者の中には、その使用従属の程度が高いもの
から低いものまで多様な就業実態の者が混在していると推察される。そして、これらの業務委託契約従事者の中には企業の指揮監督下で業務を遂行しているとみてよい者がいること、そして、それにもかかわらず、事故や災害などの面で十分な対応が行われていない者がいるということも同時に推察することができる。さらに、調査結果によると、企業と専属契約を結んでいるケースが 6 割以上であり、企業の業務体制に取り込まれている9業務委託契約従事者も多いことが明らかとなっている。
企業側においては、業務委託契約従事者を「人件費節約のため」や「景気に応じて雇用量を調節するため」というように、雇用労働者の代替として用いようとしている場合があるのであり、このような場合において業務の実態においても雇用労働者と変わらないものとなっていれば、いわゆる「仮装自営業者」の問題として規制が必要となるであろう10。
今後、業務委託契約従事者に対する労働法上の保護政策のあり方を考えていくうえでは、業務委託契約従事者の中に実質的には「労働者」にほかならない「仮装自営業者」が含まれているかどうかについての実態調査、さらに純然たる自営業者である業務委託契約従事者においても、なお何らかの労働法的な保護のニーズがあるかどうかの調査をしていくことが必要といえるであろう。
3.NPO におけるボランティア
次に、本調査において明らかとなった NPO 就業者のうちボランティアに着目して、その就業実態をふまえて、労働法上の観点からみた問題点を指摘していくこととする。前述のように、(無償)ボランティアは「労働者」には該当しないが、有償ボランティアについては、その就業の形態や実態によっては「労働者」と判断される余地がある。いずれにせよ、今後重要となるのは、立法政策論として、これらの者に「労働者」としての保護を及ぼすのが妥当であるかどうかである。この点を検討するうえでの前提として、今回の調査結果から明ら
9 このような状況を組織的従属性と呼び、「労働者」性の判断において重視する学説もある。
10 前述のように、このような業務委託契約従事者が裁判所に「労働者」としての保護を求めれば、認容される可能性は高い。
かとなったことを検討することとする。
(1)有償ボランティアの対価の性格
今回の調査によると、有償ボランティアに対しての支給内容は、「交通費などの実費支給」が最も多く、それに次いで「謝礼的金銭の支給」、「活動経費の一定額の支給」となっている。
理論的には、有償ボランティアが受け取るのが、ボランティア組織の活動を遂行するうえで必要な経費(民間企業でいう業務費に相当)の支給という内容であれば、実質的には無償ボランティアと変わらないといえるであろう(つまり、賃金は支払われておらず、「労働者」性は否定されることになる)。また、「交通費などの実費支給」を受けている場合にも、それが、ボランティア活動の経費の償還というものであれば、賃金とは認められない。もっとも、民間企業の従業員の通勤費は、その支給基準が明確であれば賃金と解されているので、
「交通費」の支給がそのようなタイプのものであれば、これらの者が「労働者」に該当する可能性が出てくる。「謝礼的金銭」となると、まさに「労働の対償」としての賃金そのものと解することができる。
もっとも、謝礼が支払われている有償ボランティアなどが当然に「労働者」に該当するということにはならない。以下にみるように、最終的な「労働者」性の判断のためには、使用従属関係の有無が検討されることになるし、さらに使用従属関係があるとしても、なお通常の民間企業の雇用関係とはかなり異なるボランティアと NPO との関係に労働法の適用を認めることが妥当かどうかという価値判断(解釈ないし政策判断)を行う余地があるからである。
(2)有償ボランティアの使用従属性
今回の調査によると、有償ボランティアの就業実態については、非xx職員と比較すると、時間的拘束性や場所的拘束性が低く、活動を遂行するうえでの指揮監督の程度も低いという結果が出ている。つまり、全体的にみると、有償ボランティアの使用従属性の程度は低いとみることができ、そのため、これに現在の裁判例の基準(上記)をあてはめると「労働者」性が否定される場合が少なくない、と推察することができる。
(3)有償ボランティアの保護の実態
今回の調査によると、有償ボランティアについては、非xx職員と比較すると、労働条件や補償についての取り決めを行っている割合が低いということが明らかになっている。
すでに業務委託契約従事者に関する分析でみたように、労働契約においては労働条件明示義務が使用者に課されているし、業務委託契約従事者も含めて、広く契約内容の明確化が要請されている。このような観点からは、ボランティアの労働条件が明確化されていないこと
は、問題であると指摘することができよう。
また、事故などの場合の補償を定めている団体が 50.1 パーセント(「明確に決めている」と「ある程度決めている」との合計)であり、事故などへの対応は不十分であるとみることができる(もっとも、非xx職員でも、61.4 パーセントとそれほど高くはない)。
(4)有償ボランティアの保護のニーズ
(3)でみたように、有償ボランティアの活動について、労働条件の明確化や補償面で不十分なところがあるとしても、ボランティアとしての就業に「労働者」としての全面的な保護を必要とする要望があるかどうかは、実際にボランティア側の調査をしてみなければはっきりしたことはいえないであろう。ただ、たとえば民間企業を休職してボランティアをやっているような人に、年次有給休暇や育児休業の権利を付与するということは想定しにくいことからもわかるように、ボランティア就業者は、民間企業の雇用労働者とはそもそも保護のニーズに違いがある可能性が高いということはできるであろう。
今回の調査では、団体側も、半数は最低賃金を守るべきであると回答している。これは、少なくとも賃金については、労働法上の保護を及ぼすことに前向きな団体が半数存在していたということを意味する。こうした団体においては、ボランティアの就業関係を、雇用関係と質的に区別せずにとらえている可能性もある。
(5)法律構成の可能性
以上をふまえて有償ボランティアと NPO の法律関係を考えていくと、いくつかの可能性が考えられる。xxxxx教授の分類にしたがうと、次の 3 つの法律構成が考えられる11。第 1 に、サービスの提供が有償で対価性があり、派遣労働かパートタイム労働に似たもの として位置づけ、ボランティアも、労働者類似のものとして、できるだけ労働法規を適用し
ていくという考え方である。
第 2 に、有償労働であるが、市場的対価性はないと判断し、シルバー人材事業の就業者と同じものと位置づける考え方である。この場合には、ボランティアとサービス提供先との間には請負関係があるということになり、労働法規は適用されないことになる。
第 3 に、ボランティアとしてのサービスの提供は、形のうえでは有償であっても、実質的には無償で対価性がなく、好意の関係であって純粋の法律関係ではないという考え方である。この考え方でも、労働法規の適用はないことになる。
当該ボランティアが、これらの 3 つのどれにあたるかは、ケースバイケースで判断されていくことになるであろうが、その際には、そのボランティア活動の分野がどのようなものであるかが重要な考慮要素となるであろう。というのは、NPO の活動分野が、民間の営利企業
11 xxxxx「NPO 活動のための法的環境整備」日本労働研究雑誌 515 号(2003 年)30 頁。
も参入している分野と重なっているという場合には、NPO に労働法規の適用を認めないと、民間企業の活動を不当に圧迫するおそれがある。他方、民間企業が参入していても、営利活動に必ずしも適したものではなく、NPO のほうが市民に安価で良質なサービスを提供できるという場合であれば、あえて NPO に労働法規の適用を認めてコストアップを課すということはしないほうがよいという考え方もありうる。具体的な線引きは難しいが、NPO への労働法の適用を考えていく際に考慮にいれておくべきことであろう。
(6)小括
有償ボランティアの「労働者」性は、使用従属関係の有無だけでなく、当該ボランティアの受け取る金銭が「賃金」といえるかどうかが重要であり、しかも、最終的な「労働者」性判断は、当該 NPO の活動の分野や実態もふまえて行わなければならないものである。
有償ボランティアを「労働者」と認める場合には、有償ボランティアが受け取る金銭は「賃金」であるということが前提となるが、最低賃金法の適用を認めるとなると、NPO にとって資金的に厳しい制約を課すことになる可能性もある。この点、今回の調査結果からは、最低賃金の緩和策として、「創設時期など、一定期間の基準を低くすべき」とする見解もあることは注目に値する。このように NPO の特殊性を考慮して、どこまで労働法規制の緩和が必要であるが、あるいは可能であるかも今後の検討課題となろう。
また、「労働者」性が否定されるケースにおいて、そのときでも、まったく労働保護法上の保護を否定してよいかも検討の余地がある。無償ボランティアも含めて、たとえばボランティア団体の指揮監督下で活動するという実態がある場合には、人的従属性に着目した労働保護法(法律や判例)の適用は認められてよいであろう。とくに、ここでも業務委託契約従事者と同様に、災害補償に対する立法措置を講じることは前向きに検討されるべき政策課題といえるであろう12。
12 xx・前掲論文 30 頁を参照。この点では、無償労働への労災保険制度の拡大を認めたイタリアの法制が参考になる(xxxx『イタリアの労働と法』(2003 年、日本労働研究機構)140 頁)。