Contract
[事案 26-102] 契約無効請求
・平成 27 年 3 月 27 日 和解成立
<事案の概要>
契約時の配偶者に対する募集人の説明不十分を理由に、契約の無効および既払込保険料の返還を求めて申立てのあったもの。
<申立人の主張>
平成 16 年 5 月に終身保険に加入したが、以下の理由から、契約を無効として、払い込んだ前納保険料等を返還してほしい。
(1)本契約は、募集人が、契約内容とまったく異なる説明を自分の配偶者に対して行い、自分には全く説明をしなかったために、冷静な判断・正しい判断を狂わせたうえで契約が成立したもので、詐欺にもとづいてなされた契約である。
(2)募集人は毎月の保険料が不要な一括全額払いで、一生涯の死亡保障 750 万円と医療保障が付くとの説明をしたが、10 年後に保険料の支払いが発生することや「掛け捨てタイプ」の保険であることなどの説明はなかった。
(3)重要事項のお知らせ書面の署名は、契約後に募集人が持参して自分に書かせたものである。
<保険会社の主張>
以下の理由により、申立人の請求に応じることはできない。
(1)契約時の設計書や保険証券には更新型であることや保険期間、保険料払込期間が明示されている。また、1 年に 1 回契約現況の情報提供を行っている。
(2)「ご契約に際しての重要事項のお知らせ」の記入日が未記載であったものの、その他契約関係書類の全てに契約者本人の自署、押印がある。
<裁定の概要>
裁定審査会では、当事者から提出された申立書、答弁書等の書面および申立人、申立人の配偶者の事情聴取の内容にもとづき審理を行った。審理の結果、以下のとおり、本件は和解により解決を図るのが相当であると判断し、指定(外国)生命保険業務紛争解決機関「業務規程」第 34 条 1 項にもとづき、和解案を当事者双方に提示し、その受諾を勧告したところ、同意が得られたので、和解契約書の締結をもって解決した。
1. 申立人の主張の法的整理
(1)申立人は、本契約が一生涯の死亡保障 750 万円と医療保障が付く内容であると考えていた、
10 年後の保険料の支払いの発生や掛け捨てタイプであるとの説明がなかった、と主張し
ていることから、錯誤による無効(民法 95 条)および詐欺による取消し(民法 96 条第 1項)を求めているものと判断する。
(2)申立人の事情聴取の結果から、契約時、保険のことは一切配偶者に任せていたとの供述をしており、募集人から説明を受け、加入する保険を決定する権限を配偶者に委任していたことが認められることから、錯誤の成否等は、申立人の配偶者について判断する。
2. 以下の理由から、錯誤による無効の主張を認めることはできない。
(1)事情聴取から、申立人の配偶者は募集人から、設計書によって一通りの説明を受けたことを認めているが、同設計書には、死亡保障が 750 万円であるのは当初 10 年間だけであること、医療保障は 80 歳までであること、10 年経過後の保険料額が明確に記載されてい
る。
(2)設計書には、本契約が「更新型」であることが記載されており、10 年経過後の保険料合計額の記載があるほか、契約時の保険料額について「前納 119 回分」との記載があり、初
回保険料と合わせて 10 年分を前納するものであることが明記されている。
(3)以上から、申立人の配偶者が、募集人から、本契約が一生涯の死亡保障 750 万円と医療保障が付く、10 年後に保険料の支払いが発生しない、等の説明を受けていたと認めることは困難であり、申立人の配偶者に錯誤があったと認めることはできない。
(4)仮に申立人の配偶者に錯誤が認められたとしても、設計書に上記の記載があり、その設計書による説明を受けながら本契約の加入を決定したのであれば、申立人の配偶者は錯誤に陥ったことにつき、重大な過失があった。
3. 以下の理由から、募集人が申立人の配偶者を欺いて契約の申込みをさせたとは認められず、申立人の詐欺取消の主張を認めることはできない。
(1)上記のとおり、募集人は設計書を用いて説明を行い、同設計書を申立人の配偶者に交付していることから、通常、募集人が設計書の記載に明白に反する説明を行うことは考え難い。
(2)他に、募集人が設計書と異なる内容の説明を行ったとする具体的な主張や証拠もない。
4. 以上のとおり、申立人の主張は認められないが、本件においては、保険会社から和解の提案があったことから、早期解決の観点から、和解により解決を図ることが相当である。
【参考】
民法 95 条(錯誤)
意思表示は、法律行為の要素に錯誤があったときは、無効とする。ただし、表意者に重大な過失があったときは、表意者は、自らその無効を主張することができない。