Contract
第6章 協定等の締結等(ステップ5)の手順とポイント
6.1.
第6章 協定等の締結等(ステップ5)の手順とポイント
本章では、PFI事業実施プロセス(P4)におけるステップ5「協定等の締結等」における、基本協定書案及びPFI事業契約書案の記載内容等について解説します。
協定等の締結等の流れ
6.1.
6.1.1. PFI事業契約締結までの流れ
本マニュアル 1.2.5. でも記載したように、PFI事業では、落札者が当該事業の実施のみを目的とするSPCを設立して、事業を実施することが一般的です(SPCの設立は必須ではありませんが、ここではSPCが設立されるものとして記載します。SPCの設立に関しては、6.1.2(P41)を参照してください)。
PFI事業の事業範囲は多岐に渡るため、入札の段階では、通常、複数の企業が入札参加グループを構成して入札に参加します。この段階ではまだSPCは設立されておらず、審査委員会では、入札参加グループを選定することになります。SPCは、落札者である入札参加グループが決定された後に、当該入札参加グループにより設立され、当該SPCが公立学校の設置者との間で事業契約を締結します。PFI事業者とは、その SPCのことをいいます。
まず、公立学校の設置者は、落札者を決定した後、当該落札者との間で、基本協定(P FI事業契約の締結に向けた取り決め等を定める文書)を締結します。(図 3 の2.)
SPCを設立するためには、通常、定款作成、出資金の払い込み、登記申請等の手続きに1~2ヶ月の期間を要します。(図 3 の3.)
その間、公立学校の設置者は、落札者との間で、契約内容や提案内容の確認を行い、両者が合意に達した段階で、当該SPCとの間で、PFI事業契約の仮契約を締結します。(図 3 の4.)
その仮契約は、議会の議決を経て本契約として効力を生じます。(図 3 の5.)
1.公立学校の設置者は、落札者(入札参加グループ)を決定
2.公立学校の設置者は、落札者と基本協定を締結
4.公立学校の設置者は、SPC との間で仮契約を締結
3.落札者は、新たに SPC を設立
5.公立学校の設置者は、議会議決を経て SPC との間で本契約を締結
図 3 落札者の決定からPFI事業契約締結までの流れ
6.1.2. SPCの設立意義
SPCを設立することについては、二つの意義があります。
一つは公共側にとってのメリットです。SPCは当該事業を実施することを唯一の目的として設立される会社なので、他の事業は実施しません。したがって、他の事業を実施することによる経営破綻等のリスクを回避することにより、安定的・継続的に当該事業を実施することが期待できます。
もう一つは、SPCに事業費の貸付を行う金融機関にとってのメリットです。金融機関は、SPCより融資資金の返済や利息の支払いが確実に行われるよう、事業を詳細にモニタリングする必要があります。SPCが当該事業を実施することに専念することにより、金融機関はよりモニタリングがしやすくなります。また、SPCの経営が悪化した場合においても、その業務範囲が限定されていれば、効果的な改善策を打ち出すことができます。
SPCを設立することについては、このように、公共側と金融機関の双方にメリットがあり、一般的にSPCが設立されます。ただし、比較的事業規模が小さく、維持管理業務等が非常に少なくなるような耐震化PFI事業においては、SPCを維持するための費用と手間に係る負担が相対的に大きくなるため、コンサルタント等の助言を得ながら実態に応じて決定します。なお、公立学校の設置者が、事業発注者として落札者に対し、SPCの設立を義務付ける場合は、その旨を実施方針及び入札説明書に記載します
(2.2.2. 8)(P17)参照)。
基本協定の作成・締結
6.2.
6.2.
基本協定は、落札者決定直後に、公立学校の設置者と、落札者の間で、PFI事業契約締結に向けた基本的な取り決めを定める文書です。基本協定書の一般的な構成は表 12のとおりです。
基本協定の構成や規定内容は、基本的に多くの事業において共通化されています。
※基本協定書(例)については、本マニュアルの付録資料7を参照してください。
表 12 基本協定書の一般的な構成
第 1 条 目的
第 2 条 当事者の義務
第 3 条 事業予定者の設立第 4 条 株式の譲渡
第 5 条 業務の委託、請負
第 6 条 特定事業仮契約の締結第 7 条 準備行為
第 8 条 事業契約不調の場合の処理
基本協定
その他出資者
入札参加グループ構成員
入札参加グループ構成員
入札参加グループ構成員
公立学校の設置者
(管理者等)
図 4 基本協定の契約関係
PFI事業契約の作成・締結
6.3.
6.3.1. PFI事業契約の構成
6.3.
PFI事業契約は、公立学校の設置者と、SPCの間で、特定事業の実施にかかる権利と義務について定める文書です。PFI事業契約の一般的な構成は、表 13 のとおりです。
※PFI事業契約書案(例)については、本マニュアルの付録資料8を参照してください。記載内容については、個別の事業の実情に応じて、コンサルタント等の助言を受けて、決定します。なお、解説中に記載する条文番号は、付録資料8の条文番号と統一しています。
表 13 PFI事業契約書の一般的な構成(目次例)
章 | 節 | ||
第1章 | 用語の定義 | - | |
第2章 | 総則 | - | |
第3章 | 設計 | - | |
第4章 | 工事 | 第1節第2節第3節第4節 第5節 | 総則 検査・確認工期の変更損害の発生引渡し |
第5章 | 維持管理 | 第1節 第2節 | 総則 モニタリング |
第6章 | サービス購入料の支払 | - | |
第7章 | 契約の終了 | - | |
第8章 | 雑則 | - |
直接協定
公立学校の設置者
(管理者等)
金融機関等
融資契約
SPC
個別事業契約
入札参加グループ構成員
入札参加グループ構成員
協力企業
(受託・請負企業)
図 5 PFI事業契約の契約関係
6.3.2. PFI事業契約の基本構成とポイント
以下では、PFI事業契約の記載事項及び留意点について説明します。
(1)第1章 用語の定義
本章では、「入札書類」、「サービス購入料」、「対象施設」等、基本的な用語の名称とその内容を定義します。
(2)第2章 総則
本章では、目的及び解釈(第2条)、公共性及び民間事業の趣旨の尊重(第3条)、事業日程(第4条)、事業の場所(第5条)、事業の概要(第6条)等について規定します。記載項目及び表現はほぼ定型的です。
(3)第3章 設計
本章では、設計に関する手続き等について、本件工事にかかる設計(第 10 条)、第三
者による実施(第 11 条)、基本設計(第 12 条)、実施設計(第 13 条)、設計の変更(第
14 条)、対象施設の瑕疵等(第 15 条)等を規定します。
<留意点>
○ 既存施設の隠れた瑕疵について、リスク分担の考え方を十分整理し、疑義が生じないように規定することが必要です(2.2.3. (P18)参照)。
(4)第4章 工事
本章は、PFI事業契約書案の主要部分を占める箇所となります。基本的には、工事の実施(着工から引き渡しまで)に係る手続きや、役割分担、リスクと責任の分担、その他工事の実施条件等について定めます。基本的な構成は、以下のとおりです。
表 14 「工事」に関する規定(例)
節 | 条 | ||
第1節 | 総則 | 第 16 条 第 17 条 第 18 条 第 19 条 第 20 条 第 21 条 第 22 条 第 23 条 第 24 条 第 25 条 | (本件工事の実施) (第三者による実施) (事業者の責任) (施工計画書等) (工事監理者) (本件土地等の管理) (事前調査) (本件工事に伴う近隣対策) (本件工事期間中の保険) (契約保証金) |
第2節 | 検査・確認 | 第 26 条 第 27 条 第 28 条 第 29 条 第 30 条 第 31 条 | (工事施工に関する報告) (中間確認及び建設現場立会い等) (事業者による完工検査) (完成確認報告) (市による完工確認) (完成確認) |
第3節 | 工期の変更 | 第 32 条 第 33 条 第 34 条 | (工事の一時停止) (工期の変更) (工期変更の場合の費用負担) |
第4節 | 損害の発生 | 第 35 条 第 36 条 | (第三者に対する損害) (本件施設への損害) |
第5節 引渡し | 第 37 条 (供用の開始) 第 38 条 (供用開始の遅延)第 39 条 (瑕疵修補責任) |
(5)第5章 維持管理
本章では、維持管理に関する総則(第1節)及びモニタリング(第2節)について規定します。前者については、基本的事項(第 40 条)、維持管理体制の整備(第 41 条)、
維持管理体制の確認(第 42 条)、消耗品の分担(第 43 条)、第三者による実施(第 44 条)、
年間維持管理業務計画書等の提出(第 45 条)等について定めます。また、後者について
は、業務報告書(第 50 条)、モニタリングの実施(第 51 条)、損害の発生(第 52 条)等について定めます。
(6)第6章 サービス購入料の支払
本章では、サービス購入料の支払(第 53 条)、サービス購入料の改定(第 54 条)、サ
ービス購入料の減額(第 55 条)について記載します。
長期契約であるPFI事業は、維持管理費についてサービス購入料に物価の上昇や下降を適宜反映させるため、一定の物価指標に基づいてサービス購入料の支払額を変更する手続きをPFI事業契約書に定めるのが一般的です。最近では、建設資材等の高騰を背景として、施設整備費(建設費)についても、物価変動を反映させてサービス購入料の見直しを行う規定を定める事例も出てきています。
また、モニタリングの結果、PFI事業者が提供するサービスが要求水準書等で規定した水準に達していない場合には、減額ポイントを付与し、そのポイントに応じてサービス購入料を減額することが一般的であり、この場合、これらの手続きをPFI事業契約書に定めます。ただし、サービス購入料の減額は、PFI事業者の手抜き等を回避するための方策としては有効ですが、事業の継続的かつ安定的な実施に対しては、効果的とは言えません。PFIでは、公共と民間が一体となって、事業を円滑に進める姿勢が大前提であり、パートナーシップの精神が重要です。
(7)第7章 契約の終了
本章では、契約の終了事由(契約期間の満期及び解除)や諸手続きに関する規定を定めます。具体的には、契約期間(第 56 条)、市の事由による解除(第 57 条)、事業者の
債務不履行等による解除(第 58 条)、市の債務不履行による解除等(第 59 条)、法令の
変更及び不可抗力(第 60 条)、損害賠償(第 63 条)等について定めます。
(8)第8章 雑則
本章では、その他必要な事項について定めます。具体的には、公租公課の負担(第 66
条)、協議義務(第 67 条)、金融機関等との協議(第 68 条)、財務書類の提出(第 69 条)、
秘密保持(第 70 条)、著作xx(第 71 条)、著作権の侵害防止(第 72 条)、工業所有権
(第 73 条)、株式等の発行制限(第 74 条)、権利等の譲渡制限(第 75 条)、事業者の兼
業禁止(第 76 条)、遅延利息(第 77 条)、管轄裁判所(第 78 条)、疑義に関する協議(第
79 条)等について定めます。
PFI事業契約書案例の第 68 条(金融機関等との協議)は、金融機関との直接協定
(Direct Agreement)の締結を想定した規定です。多くのPFI事業において、公立学校の設置者は、PFI事業者に対して融資を行う金融機関との間で、各種担保設定や相互連絡等に関する取り決めを行う直接協定を締結します。これにより、PFI事業者が、 PFI事業契約の履行が不能な状態になった場合、直接協定の定めに従い、金融機関が事業再建のための介入(ステップ・イン)を行うことが可能となります。
<留意点>
耐震化PFI事業では、既存施設の隠れた瑕疵が明確になった場合、公立学校の設置者がPFI事業者に支払うサービス購入料を増額しなければならないことが想定されます。これにより、債務負担行為の限度額を超えた負担が必要になった場合、当該公立学校の設置者は債務負担行為を再設定しなければならなくなることも考えられます。このような事態に備えて、公立学校施設の設置者が追加費用を負担する場合に債務負担行為を再設定することを、PFI事業契約書案に明記しておくことが有効と考えられます。
また、複数の建物が対象となる耐震化PFI事業においては、事業契約後に国庫補助申請を行うことになり、当初想定していた国庫補助額より多く、または少なく交付されることも考えられます。その際の対応について、検討しておく必要があります
(1.3(P9)参照)。必要に応じ、債務負担行為の再設定等について、PFI事業契約書案に明記しておくことも有効と考えられます。
(9)別紙
PFI事業契約書案に定めた事項のうち、より詳細に規定されるべき事項がある場合、当該事項の内容を記載した別紙を添付します。具体的には、日程表、本件土地、基本設計図書、実施設計図書、着工前の提出図書、工事期間中の提出図書、竣工時の提出図書、事業者等がxxする保険、不可抗力による損害及び追加的な費用の負担割合、保証書の
様式、業務報告書の構成及び内容、サービス購入料の支払いについて、モニタリングと減額について、法令変更による追加的な費用の負担割合、協議会設置要綱の概要等について定めます。
別紙への記載内容については、個別の事業の実情に応じて、コンサルタント等の助言を受けて、決定します。