Contract
平成16年(ワ)第3648号 損害賠償請求事件(以下「甲事件」という。)平成18年(ワ)第1921号 損害賠償請求事件(以下「乙事件」という。)同年(ワ)第2022号 求償金請求事件(以下「丙事件」という。)
主 文
1 被告Cは,原告Aに対し,1億4451万2532円及びこれに対する平成
13年2月19日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
2 被告Cは,原告Aに対し,1724万4388円を支払え。
3 被告Cは,原告Bに対し,330万円及びこれに対する平成13年2月19日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
4 被告Cは,乙事件原告東京海上日動火災保険株式会社に対し,9093万6
290円及びこれに対する平成15年12月16日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
5 被告DことEは,丙事件原告東京海上日動火災保険株式会社に対し,200
0万円及びこれに対する平成15年12月16日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
6 原告A,原告B及び乙事件原告東京海上日動火災保険株式会社の被告Cに対するその余の請求及び被告ジャパンレンタカー株式会社,被告あいち三河農業協同組合に対する請求を棄却する。
7 訴訟費用は,甲事件原告らに生じた費用の3分の1と被告Cに生じた費用の
2分の1を被告Cの各負担とし,甲事件原告らに生じた費用の3分の2と被告ジャパンレンタカー株式会社及び被告あいち三河農業協同組合のそれぞれに生じた費用の各2分の1との合計を甲事件原告らの負担とし,補助参加に要した費用は補助参加人東京海上日動火災保険株式会社の負担とし,乙丙事件原告東京海上日動火災保険株式会社に生じた費用の4分の1と被告Cに生じた費用の
2分の1を被告Cの各負担とし,乙丙事件原告東京海上日動火災保険株式会社に生じた費用の4分の2と被告ジャパンレンタカー株式会社及び被告あいち三河農業協同組合のそれぞれに生じた費用の各2分の1との合計を乙丙事件原告東京海上日動火災保険株式会社の負担とし,乙丙事件原告東京海上日動火災保険株式会社に生じた費用の4分の1と被告DことEに生じた費用の合計を被告 DことEの負担とする。
8 この判決は,原告らの勝訴部分に限り,仮に執行することができる。事 実 及 び 理 由
第1 請求
1 甲事件
(1) 被告C,被告ジャパンレンタカー株式会社(以下「被告ジャパレン」という。)及び被告あいち三河農業協同組合(以下「被告農協」という。)は,原告Aに対し,連帯して,1億9411万4256円及びこれに対する平成
13年2月19日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
(2) 被告C,被告ジャパレン及び被告農協は,原告Aに対し,連帯して172
4万4388円を支払え。
(3) 被告C,被告ジャパレン及び被告農協は,原告Bに対し,連帯して,11
00万円及びこれに対する平成13年2月19日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
2 乙事件
被告C,被告ジャパレン及び被告農協は,連帯して,原告東京海上日動火災保険株式会社に対し,1億0460万9912円及びこれに対する平成15年
12月16日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
3 丙事件
被告DことE(以下「被告D」という。)は,原告東京海上日動火災保険株式会社に対し,2000万円及びこれに対する平成15年12月16日から支
払済みまで年5分の割合による金員を支払え。第2 事案の概要
本件は,被告Cが,被告ジャパレンが所有し,被告農協が自動車共済契約の 車両諸費用特約に基づき被告Dに代車として提供した車両(以下「本件車両」 という。)を運転中,原告Aが運転する普通乗用自動車と衝突し,原告Aに傷 害を負わせた交通事故(以下「本件事故」という。)について,原告A及びx xBが,被告Cに対し民法709条に基づき,被告ジャパレン及び被告農協に 対し自動車損害賠償保障法(以下「自賠法」という。)3条本文に基づき,損 害賠償を請求し(甲事件),本件事故によって傷害を負った原告Aに対し,人 身傷害補償特約を附帯された自動車保険契約に基づき保険金を支払った乙丙事 件原告,甲事件被告ら補助参加人東京海上日動火災株式会社(以下「原告兼補 助参加人東京海上」という。)が,保険約款または商法662条に基づく保険 代位により,被告らに対して,損害賠償請求した(乙事件及び丙事件。ただし,被告Dに対しては内金請求。)事案である。
1 前提事実(証拠を示した部分以外は争いがない。)
(1) 本件事故の発生(甲1)
ア | 日 | 時 | 平成13年2月19日午前4時25分ころ |
イ | 場 | 所 | 愛知県小牧市a町b番地先路線上 |
ウ | 加害車両 | 普通乗用自動車(尾張小牧cわd) | |
同運転者 | 被告C ( なお, 被告Cは自動車運転免許を取得していな | ||
い。) | |||
同保有者 | 被告ジャパレン | ||
同賃借人 | 被告農協 | ||
エ | 被害車両 | 普通乗用自動車(尾張小牧eせf) | |
同運転者 | 原告A | ||
オ | 事故態様 | 被告Cが運転する本件車両が,赤色信号を無視して交差点に |
(2) 責任原因
進入したところ,右方道路から同交差点に進入してきた原告 Aの運転する車両(以下「原告A車」という。)と衝突した
(甲13,14)。
被告Cは,自動車を運転するに際しては対面信号機の信号表示に留意し, 同信号に従って進行すべき注意義務があるのにこれを怠り,同信号が赤色を 表示しているのを知りながらこれを無視して交差点内に進入した過失がある。よって,被告Cは,民法709条に基づき,原告らに生じた損害を賠償する 義務を負う。
(3) 傷害
原告Aは, 本件事故により, 脳挫傷, 脳幹損傷等の傷害(以下「本件傷害」という。)を負った(甲47の14)。
(4) 治療経過
ア 原告Aは,本件傷害の治療のため次のとおり入院した。
(ア) 小牧市民病院(平成13年2月19日から平成13年7月4日まで) (イ)医療法人厚生会xx記念病院(中部療護センター)(平成13年7月
4日から平成15年11月25日まで)
(ウ) 医療法人xxxxxx病院(平成15年11月25日から平成17年
11月9日まで)
イ 原告Aは,本件傷害の治療のため,xxxxxx大学病院に平成17年
11月14日から通院している。
ウ 原告Aは,本件傷害の治療のため,医療法人xxxサンエイクリニックに平成17年11月10日から往診を受けている。
(5) 後遺障害の内容・等級
原告Aは,平成15年5月31日に症状固定と診断され,びまん性軸索損傷により,四肢麻痺,失語症,遷延性意識障害の後遺障害(以下「本件後遺
障害」という。)を負った。原告Aは,本件後遺障害について平成15年8月5日,後遺障害等級第1級3号に該当するとの認定を受けた(甲31)。
(6) 保険契約の締結
原告Bは,原告兼補助参加人東京海上との間において,本件事故当時,下 記のとおり,人身傷害補償特約を附帯された自動車保険契約を締結していた。
ア | 家庭用総合 | 自動車保険(TAP) |
証券番号 | ********** | |
保険期間 | 平成12年4月1日から1年間 | |
イ | 家庭用総合 | 自動車保険(TAP) |
証券番号 | ********** | |
保険期間 | 平成12年10月19日から1年間 |
(7) 保険金の支払及び損害賠償請求権の代位取得
ア 原告Aは,自賠責保険として3000万円の支払を受けた。
イ 原告Aは,平成13年3月22日から平成15年12月15日にかけて,上記保険契約の人身傷害補償特約に基づき,原告兼補助参加人東京海上か ら合計1億0582万9912円の支払を受けた(ただし,内2万円は臨 時費用。)。
原告兼補助参加人東京海上は,原告Aの被告らに対する損害賠償請求権 を保険代位し,自賠責保険によって120万円を回収した(甲12,17,
33の1・2)。
2 争点
(1) 被告ジャパレンの責任
(2) 被告農協の責任
(3) 被告Xの責任
(4) 過失割合
(5) 原告A及び原告Bの損害
(6) 消滅時効
(7) 保険代位の範囲
第3 争点に関する当事者の主張
1 争点(1)(被告ジャパレンの責任)
(1) 原告らの主張
被告ジャパレンは,自賠法3条本文の「自己のために自動車を運行の用に供する者」に当たるから,同条に基づき,原告らに生じた損害を賠償する義務を負う。
ア 運行供用者責任の判断要素
自賠法3条本文の運行供用者に当たるか否かの基準は,加害車両の「運行支配」の有無によって判断されるが,特に返還約束徒過後の貸主の運行供用者責任については以下の基準により判断される。
まず,「運行支配」を判断する要素として,次の8点が挙げられる。
① 貸主と借主の人的関係の希薄性
② 借主と運転手の不一致
③ 使用内容に関する欺罔行為の有無
④ 貸主の意思と現実の使用との不一致の有無,程度
⑤ 返還期限徒過後の経過時間の程度
⑥ 借主側の運行費用の負担の有無
⑦ 運行態様に対する貸主の指示とその違反の程度
⑧ 返還に対する貸主の努力の有無,程度
さらに,「運行支配」概念以外に「運行利益」概念を用いるかは別として,次の2点も判断要素となる。
⑨ 対価性の有無
⑩ 期限徒過後の対価に関する定めの有無
このうち,①ないし⑧は責任否定要素であり,⑨及び⑩は責任肯定要素
である。運行供用者責任を判断する上で最も重要な要素は④であり,その一徴表を示すものとして,②,⑤及び⑦が位置づけられる。②は④の程度を検討する上で重要であり,以下⑤,⑦の順に重要である。それ以外の要素は,⑧,③,①,⑥の順に重要である。
⑨,⑩については,これがあることが運行供用者責任を肯定する方向に影響し,他の否定要素の程度をさらに大きく要求させるものである。
イ ④貸主の意思と現実の使用との不一致の有無,程度について (ア) ②借主と運転者の不一致の有無について
本件において借主は被告農協で運転者被告Cと一致しない。しかし,この不一致は当然で,被告農協は共済契約者に対する車両保険共済金の支払いにあたって適用される車両諸費用保障特約に従い,共済契約者に対して代車を提供したに過ぎない。被告ジャパレンにとっても,被告農協とその共済契約者との間の共済契約の内容等を十分認識し,承知した上で本件車両を賃貸したのであり,被告ジャパレンは,借主である被告農協と実際の運転者が一致しないことについては,当初から認識,承諾していた。また,「代車依頼書」には,契約者として被告Dの氏名が記載されているほか,ユーザー名にはFの氏名と携帯電話番号が記載されており,被告ジャパレンは予定された運転者がFであることを知っていたが,Fに関しては,その氏名と携帯電話番号しか把握しておらず,被告Dとの詳しい関係はもちろん住所も把握していない。結局,被告ジャパレンは,被告Xから先の転借人に関する情報を重要視していたとはいえないのであり,被告D及びその転借人であるFあるいは他の転借人が本件車両を運転することを黙示に認めていたということできる。したがって,本件においては,②を責任否定要素として評価することはできない。
(イ)⑤返還期限徒過後の経過時間の程度について
本件車両の配車日は平成12年12月30日で,返還期限は平成13 年1月26日で,本件事故発生日は同年2月19日であり,返還予定期 間は28日間,返還期限の徒過期間は24日間であった。⑤の要素は, 返還予定時間あるいは期間の20倍程度で,かつ,数日程度の期間経過 が認められて初めて責任否定要素として重要性を具備するといえるから,返還予定期間28日間に対して,返還期限の徒過期間が24日間に過ぎ ない本件においては,⑤は責任否定要素として評価することはできない。
(ウ) ⑦運行に対する貸主の指示とその違反の程度について
本件においては,貸主の運行に関する指示は認められないから,⑦も責任否定要素として挙げることはできない。
(エ) まとめ
以上から,④は,その一徴表として示される各3要素が認められないから,責任否定要素として評価することはできない。
ウ ⑧返還に対する貸主の努力の有無,程度について
被告ジャパレンは,担当者らが平成13年1月31日に愛知県豊田警察 署刑事課に赴いて対応方法等について相談したというだけであり,被害届 を提出したという事実はなく,また被害届を提出しようとした事実もない。被告ジャパレンは,被告農協を通じて断行の仮処分の準備をしていたと主 張するが,被告ジャパレンから断行の仮処分の申立を働きかけたこともな ければ,被告農協が断行の仮処分の準備をしていた事実はなかった。また,民事刑事の手続きをとるための必要な情報を収集するための行動も不十分 であった。被告ジャパレン職員のGや全国共済農業協同組合連合会愛知県 西三河自動車事故査定センター(以下「全共連」という。)職員Hは,被 告DやFと電話連絡は取ろうとしたが,実際には会おうとはしておらず, F宅を訪れた際,Fの留守を確認するだけで置き手紙や名刺等を置いてく るというようなことはしていない。被告D宅を訪れた際にも,携帯電話に
はかけたが,家の中にいたかどうかの確認をしていない。Xは,Fとの電話で実際に運転している人物が被告Cであると知ったにもかかわらず,行方不明であることを確認しただけで,被告Cの実家の住所や携帯電話番号等の連絡先を聞こうともしなかった。したがって,被告ジャパレンの返還に対する対応は極めて不十分であり,⑧についても,責任否定要素として評価することはできない。
エ ③使用内容に関する欺罔行為の有無,内容について
被告農協はもちろん,被告D及びFも,被告ジャパレンに対して欺罔行為は行っていない。
オ ①貸主と借主の人的関係の希薄性
被告農協は共済契約者に対する車両諸費用保障特約の履行の場面ではもちろん,対物賠償責任共済等,あらゆる場面で被告ジャパレンに対して必要な代車の提供を依頼していることが強く推認されるのであり,貸主と借主の関係は極めて濃厚である。
カ ⑥借主側の運行費用の負担の有無について
この要素は,もともとガソリンがほとんどない車両を貸主がガソリンを入れることを条件に賃借したというような事案だけに認められる特殊な要素であり,本件のようなレンタカーの事案には該当しない。
キ ⑨対価性の有無
被告ジャパレンと被告農協との間では本件車両を1日1万円で賃貸しており,対価性を有している。
ク ⑩期限徒過後の対価に関する定めの有無について
被告農協は被告ジャパレンに対して約款上違約金支払義務が発生している。
ケ 結論
以上のとおり,被告ジャパレンの運行供用者責任を否定する要素として
評価しうるものはほとんどなく,責任を肯定する要素しかみられないから,被告ジャパレンは,運行供用者責任に基づく損害賠償責任を負う。
(2) 被告ジャパレンの認否及び反論
被告ジャパレンは,自賠法3条本文の「自己のために自動車を運行の用に供する者」に当たらないから,本件事故による責任を負わない。
ア 運行供用者責任の判断基準
運行供用者責任に当たるか否かは,最高裁平成9年11月27日判決に従い,①事故当時の自動車の運行を誰が支配していたか,誰がその運行を指示,制御しうる立場にあったか,②事故当時の自動車の運行による利益が誰に帰属していたかという観点から認定判断されるべきである。
イ 運行支配
(ア) 被告Cが本件車両を使用していたこと
本件事故当時,本件車両を使用していたのは専ら被告Cであり,被告 DやFではなかった。
(イ)本件車両にかかる法律関係
本件車両は,被告農協が被告ジャパレンから借り受けて,被告農協の顧客である被告Dに対して別件事故の事故代車として提供した車両である。法律構成としては,被告ジャパレンと被告農協との間にレンタカー貸渡約款に基づく賃貸借契約が,被告農協と被告Dとの間には自動車共済契約,同契約中の車両諸費用特約に基づく代車費用共済金支払義務,同義務の履行に代えて本件レンタカーの転貸借が存在していた。本件レンタカーの賃貸借,転貸借の期間は平成12年12月30日から平成1
3年1月26日までの約定であった。
(ウ) 本件車両は被告Cが被告Dから窃取したこと
被告Cは,本件車両の返却期限の1週間くらい前に,被告Dの自宅のあるg町の駐車場から本件車両を持ち去った。被告Xは,被告Cを若い
衆としていたIらを通じて,被告Cへ連絡を取ろうとしたが,実家の親に伝言を依頼するほかには連絡をすることも所在を確認することもできなかった。被告Cとしては,本件車両がレンタカーであることを認識しても,被告Dに返還する意思がなかったのであるから,本件車両を被告 Dの自宅から持ち去った時点で,窃取の確定的犯意を有していた。
(エ) 被告Cによる窃取及び本件車両の返却期限から長期間が経過していたこと
本件事故は平成13年2月19日に発生したが,被告Dから被告農協への本件車両の返却期限からは24日が経過し,被告Cが被告Dから本件車両を窃取してからは1か月が経過していた。
(オ) 被告ジャパレンは必要十分な対応をとっていたこと
被告ジャパレンと被告農協は,返却期限(平成13年1月26日)の前日から,再三にわたり被告Dに電話をして,本件車両の返却を要求したが,被告Dからは返却を断られ,Fが乗っているからFに確認せよと言われ,さらにFからは,若い衆が乗っていっており行方不明であると告げられた。また,本件車両を乗っていった人物が「C」であると教えられたが,xx市の人間としか分からず,連絡手段も分からない状態であった。被告ジャパレンと被告農協の各担当者は,被告D及びFの応答の不自然さから,本件が単に返却が遅れたというのではない異常事態であるとの認識を持ち,平成13年1月31日には愛知県xx警察署に相談に赴いた。被告ジャパレンと被告農協の担当者が事情を説明すると,豊田署の警察官からは,被告DもFも普通の人ではないこと,当該車両が戻ってくる可能性は薄いであろうことを教示された。豊田署警察官の教示内容から,被告ジャパレンの担当者は,被告Dらによって本件車両は横領されブラックマーケットに流されるか,海外に密輸された可能性が強いと考え,「C」の探索を,被告Xに依頼しても詮無きことと判断
し,本件車両の回収は事実上不可能と考えざるを得なかった。
(カ) 被告ジャパレンが被告Cの運行に対して指示,制御する可能性がなかったこと
以上の経緯であるから,被告Dにおいてすら被告Cに対して本件車両の運行に対して指示,制御する手段がなかったのであり,まして被告ジャパレンにおいては,被告農協を通じ,さらに被告Dを通じて被告Cにまで意思疎通を図ることなど不可能であった。
(キ) まとめ
したがって,本件事故当時,本件車両の運行を支配していたのは一人被告Cだけであり,被告ジャパレンには本件車両の運行支配を評価することができる事情は一切なかった。
ウ 運行利益
(ア) 被告Cの運行利益
被告Cによる本件車両の占有支配については被告Dによる指示や監督が及ばない状態にあり,その運行利益は,被告Cが被告Dの恐怖から逃れるところにあった。
(イ)レンタカー契約に基づく運行ではないこと
本件車両は,別件事故の事故代車として被告農協の顧客である被告Dに対して提供されたが,被告Cが被告Dのもとからこれを無断で持ち出し,本件車両がレンタカーであることを知ったにもかかわらず被告Dに返還する意思がなかったのであるから,被告Cによる本件車両の占有支配は,被告ジャパレンの本件車両に対する所有権及び本件レンタカーにかかる賃貸借契約とは全く無関係のところにある。
(ウ) レンタカー返却期限を超過していること,返却猶予等がなかったこと被告Dの被告農協への本件車両の返却期限は本件事故までに24日間 経過していたが,被告ジャパレンは,被告農協,被告D,F及び被告C
のいずれからも本件車両の返却の猶予を求められたり,超過代金等の支払を受けたり,その約束を取り交わしたりしたことはなかった。
(エ) 車両損失について損害賠償請求をしなかったこと
平成13年1月31日のxx署警察官からの説明により,本件車両の回収が不能であると被告ジャパレン及び被告農協は判断し,本件車両の借り賃及び損害賠償金について,被告ジャパレンと被告農協との間で,平成13年2月6日,協議の上,被告農協の支払う借り賃を車両諸費用特約の上限である30万円とし,それ以上の料金及び損害賠償金を被告ジャパレンは被告農協に対して請求しないこととした。
(オ) まとめ
したがって,本件事故当時,本件車両を運行することによる利益は専ら被告Cに帰属しており,被告ジャパレンには何ら運行利益は存しなかった。
エ 結論
以上のとおり,被告ジャパレンには,本件事故当時,本件車両の運行について運行支配も運行利益も認められないから,運行供用者にはあたらない。
2 争点(2)(被告農協の責任)
(1) 原告らの主張
被告農協は,自賠法3条本文の「自己のために自動車を運行の用に供する者」に当たるから,同条に基づき,原告らに生じた損害を賠償する義務を負う。
ア 同条の運行共用者に当たるか否かの基準は,加害車両の「運行支配」及び「運行利益」の有無により判断される。
イ 運行支配について
被告農協の車両諸費用特約には,代車の借入は被共済者である被告Dが
行うことと規定されているにもかかわらず,被告農協は被告ジャパレンから本件車両を借り入れて,被告農協とは何らの契約関係もないFが使用することを承知して本件車両を被告Dに貸しているから,被告農協は本件車両を貸し渡した当初から本件車両に対する運行支配可能性を放棄していたと評価すべきである。
(2) 被告農協の認否及び反論
被告農協は,自賠法3条本文の「自己のために自動車を運行の用に供する者」には当たらないから,本件事故による責任を負わない。
ア 本件車両の賃貸借について
被告農協と被告Dが締結していた自動車共済契約には車両諸費用保障特約が付されており,その特約によれば,被告農協は,被共済自動車に車両損害が生じ,その修理等のために被共済自動車が使用できなくなり代車を借りた場合にその代車費用を被告Dに支払えばよかった。ところが,被告農協は,被告Dのために便宜を図り,本来被告Dがレンタカー業者とレンタカー契約を結ぶべきところを被告Dに代わり被告ジャパレンから本件車両を借り受け,被告Dに提供したものである。すなわち,本件車両の賃貸借の実質的当事者は被告ジャパレンと被告Dというべきであり,被告農協は両者のレンタカー契約を仲介したにすぎない。実際上も,本件車両は被告ジャパレンが直接被告Dのもとに配車し,車両の回収も被告ジャパレンが行うことになっていた。また,本件レンタカー費用の負担は,車両諸費用保障特約に基づくものであり,特約上,その共済金の支払いは事故日から30日間と限定されており,同期間経過後は,被告農協に代金支払義務はないことになっていた。
このような事実関係からすれば,本件車両の賃貸借の実質的当事者は,被告ジャパレンと被告Dというべきであり,単にその仲介をして形式上レンタカーの借主となった被告農協に運行供用者責任を認めることはできな
い。
イ 運行支配の有無
(ア) 運行支配の判断基準
運行支配があるか否かについては,実質的には,貸主の運行の指示,制御可能性がどれくらいあったのかにより判断すべきである。そして,運行の指示,制御可能性を失ったか否かを判断する要素としては,①約束の時間を徒過した程度,②借主の返還意思の有無及び程度,③貸主の取戻し方法の有無が考慮される。
(イ)約束の時間を徒過した程度
被告農協と被告Dとの車両諸費用特約の共済金限度は事故日から30日間であり,配車限度日は平成13年1月26日,本件事故発生日は同年2月19日であり,本件車両返還期限から24日が経過していた。レンタカー返還期限から24日間という長期間が経過しており,被告農協の本件車両の運行支配は失われていたというべきである。
(ウ) 借主の返還意思の有無及び程度
本件車両は,被告農協が被告ジャパレンから借り受け,これを被告D に提供し,実際の管理は被告Dが行い,Fは被告Dの指示により本件車 両を受け取った。被告Cは,本件車両をFから借りたと主張するが,被 告DとFの上下関係からすると,被告Cが無断で持ち出した可能性が高 く,仮に被告Cの供述を信用するとしても,被告Cは,本件車両を被告 Dに返還することはできたはずであり,乗り逃げした段階で本件車両を 窃取したというべきである。被告Cは,本件車両がレンタカーであり返 還期限を徒過していることを知った後も,被告DやFが自分との連絡が 取れないことをよいことに車両を返還しようとはしなかったものであり,被告Cが本件車両を返還しないことの意思が強固であったことは明らか である。したがって,この点でも,被告農協の運行支配は失われていた
というべきである。
(エ) 貸主の取戻し方法の有無
被告ジャパレンは,平成13年1月26日,被告Dに対し,本件車両 の返還を求めたところ,被告Dから本件車両のことは知らないとか,車 両がない,Fが乗っているなど曖昧な説明を受けた。同月29日ころ, 被告ジャパレンが,Fに電話で連絡したところ,若い衆が乗っておりそ の者が行方不明であるとの回答を得たので,乗っている者と何とか連絡 を取るよう申し入れた。この数日後,被告農協は被告ジャパレンから本 件車両の返還がない旨の連絡を受けたが,被告農協担当者Xは直ちに共 済契約の再共済先(上部組織)である全共連に報告し,対応を協議した。全共連担当者Xは,直ちに被告ジャパレン担当者のGと連絡を取り,そ れまでの状況の報告を受け,以後の対応を協議した。同月31日,Hと Xは,xx警察署に行き,xxxxxが返還されないため困っているこ とを相談し,被告Dの素性を聞き,今後の対応について助言を求めた。 Xxは,刑事の回答から被告Dが「普通の人物ではない」という印象を 持ち,本件車両の捜索など以後の警察の協力を申し入れた。同日,Hと Gは,Fの住所地を訪れたが本件車両はなく,Fの自宅の呼び鈴を鳴ら し声を掛けたが,人の気配はなかった。さらに同日,Xxは被告Dの住 所地も訪れたが,そこにも本件車両はなく,Gがその場で被告Dの携帯 電話に電話を掛けたが,コールはしたものの切られてしまった。Hは本 件車両の回収についてGと協議し,本件車両の返還請求を文書で行う必 要があると判断し,被告ジャパレンは弁護士Kに相談した。Xは同年2 月5日付文書を被告農協に送付した。これを受け,全共連と被告農協は,同月12日ころ,本件車両の返還請求について弁護士に依頼し,弁護士 は被告Dに対し文書(同月14日付内容証明郵便)で本件車両の返還請 求をし,同文書は,同月17日に被告Dに到達したが,本件事故日であ
る同月19日に至るまで被告Dからの連絡はなかった。同月20日午後
5時ころ,被告Dから被告農協代理人弁護士に電話連絡があり,被告Dは,「レンタカーの件はジャパンレンタカーに盗難扱いにしてくれと言ってある。突然こんな請求がくるのはおかしい。」とまくし立てた。被告農協代理人弁護士が,「あなたが盗まれたというのであれば,盗難届を出したのか。ただ盗まれたというだけでは信用できない。誰が盗んだというのか。」と尋ねると,被告Xは「Cという男だ。ジャパレンの弁護士の連絡先を教えて欲しい。」と答えた。被告農協代理人弁護士は, Kの連絡先を教え,以後の処理を事実関係確認後検討すると回答した。なお,この時点で被告農協代理人弁護士は,被告Dの盗難にあったとの弁解を鵜呑みにしてはおらず,被告Dが当時から噂のあった高級車窃盗の密輸組織に関わっている可能性もあるとして,xx,小牧両警察署の捜査とも連携を取りながら,以後の対応を検討するつもりであった。
以上の次第で,被告農協としては,本件車両の取戻しのためにxxできるだけのことを行っていたものであり,その代理人弁護士も次のステップとして仮処分等の手続に移行しようとしていた矢先に本件事故が発生したものである。したがって,被告農協の本件事故までの取戻方法は十分なものであったというべきであり,それでも本件車両の回収ができなかった以上,運行支配を失っていたというべきである。
(オ) 小括
以上のとおり,本件においては,①約束の時間を徒過した程度,②借主の返還意思の有無及び程度,③貸主の取戻し方法の有無のいずれの要件をとっても被告農協の運行の指示,制御可能性を否定する要素ばかりであり,被告農協には運行支配がないことが明らかである。
ウ 運行利益の有無
被告農協は,本件車両返還期限経過後においては,本件車両の運行につ
いていかなる利益も受けない。逆に期限の徒過により被告ジャパレンに対 しレンタカー使用料の負担をすることになり,不利益を受ける立場にある。したがって,被告農協に運行利益がないことは明らかである。
エ 結論
以上より,被告農協には,本件事故当時,本件車両につき運行支配も運行利益もなく,運行供用者責任を負わない。
3 争点(3)(被告Dの責任)
(1) 原告兼補助参加人東京海上の主張
被告Dは,被告農協との間において自動車共済契約を締結していたところ,その被共済自動車が損傷したことから同契約に基づいて代車として本件車両 の提供を受けた。被告Dは,本件車両を被告Cに転貸し,その間に本件事故 が発生した。被告Dは,被告農協を介して被告ジャパレンから借りた本件車 両につき,xxの使用者としてその運行を支配していたから,自賠法3条本 文の「自己のために自動車を運行の用に供する者」に当たり,同条に基づき,原告らに生じた損害を賠償する義務を負う。
(2) 被告Dの認否及び反論
ア 運行供用者か否かの判断基準
第三者による無断運転の場合,運行供用者責任が認められるためには,
①第三者と自動車所有者の間に雇用関係等密接な関係が認められること,
②日常の自動車の運転及び管理状況からして,客観的外形的に自動車所有者等のためにする運行と認められることという2つの要件が必要である。
イ 雇用関係等密接な関係
被告Cが被告D方に出入りしていたのは,平成12年12月ころから本件車両を乗り逃げした平成13年1月上旬ころまでの1か月程度である。被告Cは,Iの若い衆(若い衆とは個人的に小遣い銭を与えて仕事等の補助者として使っている者のことである。)という立場であり,Iは被告D
の若い衆であった。すなわち,被告Dと被告Cとの間に直接の指揮命令関係はなかった。被告Cは毎日あるいは決まった日に,被告D方に来ていたわけではなく,被告D方でも決まった仕事があったわけではなく,Iから指示を受けて,車の移動,洗車等をしていたのであって,被告Dが被告Cに対し直接給与を支払うこともなかった。このように,被告Dと被告Cとの関係はIを介してのもので関係は希薄であって,到底,雇用契約等の密接な関係は認めることはできない。
ウ 客観的外形的に被告Dのための運行といえるか
被告Dは,本件車両をほとんど利用しておらず,被告Cに本件車両を使 用して仕事をするよう指図したことも,Iに対して,被告Cを使って特定 の仕事をするよう指図したこともなかった。被告Cは,平成13年1月初 めころ,被告D方でIまたは他の若い衆から本件車両の移動を頼まれ,鍵 を持って本件車両を動かしたが,どういう理由からかそのまま乗って出て 行ってしまった。被告Dは,Iらに被告Cを捜すように指示したが,被告 Cは見つからず,本件車両の返還期限がきて被告ジャパレン及び被告農協 から問い合わせがあった際,被告Cが乗り逃げした事実,被告Cの住所及 び実家の電話番号を告げ,盗難届を出してくれるように述べた。このよう に,被告Cによる本件車両の運行は,その契機においても,本件事故当時 においても,客観的,外形的に判断して被告Dの意思に沿うものではなく,被告Dのための運行とはいえない。
エ 結論
以上のとおり,被告Dと被告Cとの間に雇用関係等密接な関係はなく,また,被告Cは本件車両を被告Dから窃取したものであり,客観的外形的にみて被告Cの運行は被告Dのためのものとはいえないから,被告Dは運行共用者としての責任を負わない。
4 争点(4)(過失割合)
(1) 原告兼補助参加人東京海上,被告C及び被告農協の主張
被告Cは,本件交差点に対面信号の赤信号を無視して直進しており,この点について過失がある。しかし,被告C車が本件交差点に進入した時点では対面信号は赤色であったが,進入直後には青色に変わっているから,原告A車も対面信号が赤色で本件交差点に進入した可能性が高い。本件事故は,被告C,原告A双方とも赤色信号で本件交差点に進入した結果,発生したものである。被告Cが無免許運転であったことは,被告Cの過失の増加要素になるが,原告Aも本件事故直前に飲酒しており,原告Aの過失の増加要素になると考えられる。よって,原告らの損害額を算定するにあたっては,原告Aの過失も斟酌し,xxの見地から5割程度の過失相殺をすべきである。
(2) 原告らの反論
原告Aは青色信号で本件交差点に進入しており,原告Aに過失はないから,過失相殺の余地はない。
原告Aは飲酒していたが,ラーメン店でビール1本を3人で飲んだに過ぎ ず,この程度の量の飲酒では,運転そのものに対する影響はわずかであるし,そもそも青信号で交差点に進入して赤信号無視の車両に衝突した場合には, 何ら事故発生の原因とはいえない。したがって,この点をもって,原告Aの 過失割合を加算することは相当でない。
5 争点(5)(原告A及び原告Bの損害)
(1) 原告A及び原告Bの主張ア 原告Aの損害
(ア) 治療費 534万4637円
症状固定日(平成15年5月31日)までの治療費は,以下のとおりであり,その合計金額は534万4637円となる。
a 小牧市民病院(平成13年2月から同年7月まで)
142万7840円
b xx記念病院(中部療護センター)(平成13年7月から平成15年5月まで)
391万6797円
計算式 1,427,840+3,916,797=5,344,637
(イ)入院雑費 124万9500円
入院雑費としては日額1500円が相当であり,入院期間は833日間であるから,以下のとおり124万9500円となる。
計算式 1,500×833=1,249,500
(ウ) 付添看護料(症状固定前) 666万4000円 原告Aは,重篤な傷害を負い,そのために事故発生日から症状固定日
まで,毎日付添看護を要し,主に原告Bや原告の姉であるLらが毎日付き添っていた。入院中の付添看護料については,原告Aの傷害が極めて重篤であったことに鑑みれば,日額8000円が相当であるから,以下のとおり666万4000円となる。
計算式 8,000×833=6,664,000
(エ) 交通費 10万0675円
原告Aの転院時及び帰宅時に10万0675円を要した。
(オ) 装具代・ベッドレンタル代 24万8048円 症状固定までに要した装具代23万8548円,電動ベッドレンタル
代5500円,電動ベッドレンタル更新料4000円を要したから,合計額は以下のとおり,24万8048円となる。
計算式 238,548+5,500+4,000=248,048
(カ) 休業損害 766万5216円
原告Aの本件事故前3か月の収入は82万9200円であり,これを
90日で割った収入の日額は9213円となる。本件事故発生日から症状固定日の前日までの期間は832日間であるから,以下のとおり76
6万5216円となる。
計算式 9,213×832=7,665,216
(キ) 逸失利益 9611万8194円
原告Aは,事故当時満21歳,症状固定時満24歳と若年であり,その基礎収入としては,賃金センサス平成15年男子学歴計全年齢平均賃金547万8100円によるべきである。また,原告Aの後遺障害等級は第1級3号であり,その労働能力喪失率は100パーセントである。そして,原告Aは,本件事故がなければ満24歳から満67歳までの4
3年間就労が可能であったから,労働能力喪失期間は43年間である。中間利息を43年間のライプニッツ係数17.5459によって控除すると以下のとおり9611万8194円となる。
計算式 5,478,100×1.00×17.5459=96,118,194
(ク) 将来付添費(介護料) 1億2176万9725円 a 24時間介護の必要性
原告Aの後遺障害は,びまん性軸索損傷による四肢麻痺,遷延性意識障害と極めて重篤であり,将来にわたり,日常生活において1日2
4時間の介護の必要性がある(夜間においても一定時間ごとに体位交換,おむつ交換等の介護が必要となる。)。
b 職業介護人の必要性
将来にわたって介護にあたりうる近親者としては,主に母である原告Bしかいない。現在,主に原告Aの介護にあたっているのは原告Bであるが,すでに婚姻して別の家庭を持つLが家事や育児の合間に手伝ったり,原告Bと離婚して別居中の父親が仕事が休みの土日に手伝っている状態である。
原告Aに必要な介護作業には,仮に住宅改造や各種介護機器を揃えたとしても,車椅子への移乗や入浴作業など,同時に2人以上の介護
人を要するものも多い。また,原告Aは夜間においても一定時間(最低でも2時間に1回)の体位交換とおむつ交換が必要であり,日中夜間という24時間体制の介護を原告B1人で担当することは肉体的にも精神的にも不可能である。さらに,原告Bは,本件事故当時,一家の家計を支えるために正社員(フルタイム)として就労しており,現在は原告Aの介護をするために退職しているが,事故前と同様に就労することを希望している。
そこで,原告Bが67歳に達するまでの期間は,事故当時の原告Bの就労日(月曜日から金曜日までの年間240日間)の日中について職業介護人を依頼することとし,夜間の介護については原告Bがこれにあたる。そして,土日(年間125日間)の介護については,職業介護人の依頼を控え,原告Bが他の家族の協力も得ながらこれにあたることとする。
原告Bが67歳に達してからの期間(平成33年10月13日以降,症状固定から19年目以降の期間)については,原告Bの高齢による 体力減退等により,重労働の原告Aの介護にあたることが難しくなる ため,日中については,職業介護人1人を依頼し,夜間の介護につい ては原告Bが他の家族の協力を得ながら介護に当たる。
c 近親者による場合の介護料
近親者のみによって1日介護する場合の介護料は,原告Aが寝たきり状態で介護は重労働であることに加え,夜間の介護も含めて24時間体制であること,したがって実際には2人以上の者が交代であたるほかないこと等に鑑みれば,基準とされる8000円よりも増額すべきで,日額1万円を下ることはない。
d 職業介護人の費用
原告Aの介護には,胃瘻の処置や痰の吸引という「医行為」(医師
法第17条)が必要であり,近親者はともかく,「業として」これを行う者には医療資格(具体的には看護師資格)が必要となる。
原告らの近隣の介護業者の料金表によれば,通勤料金(午前9時から午後6時まで,ただし1時間の休憩込み)9120円,看護師の有資格料金は基本賃金の1.3倍,法定手数料は賃金の13パーセントであり,消費税5パーセントと職業介護人の往復の交通費が少なくとも1000円必要となる。
職業介護人を依頼する時間は,原告Bの事故当時の就労時間が午前
8時から午後5時までであることを前提に,通勤時間や準備時間及び介護者の引き継ぎ時間等も考慮すれば,少なくとも午前9時から午後
6時までの9時間にわたって職業介護人を依頼する必要がある。とすれば,その費用は,以下のとおり,日額1万5067円となる。
計算式 9,120×(1+0.3)×(1+0.13)×(1+0.05)+1,000= 15,067
e 職業介護人を依頼する場合の介護料
職業介護人を1日9時間にわたって依頼するとしても,その前後の時間帯についても当然介護の必要がある。この時間帯の介護は原告Bがあたるとして,その近親者介護料は,その時間のxxx夜間の介護による睡眠不足,精神的負担等に鑑みれば,日額5000円を下ることはない。
よって,職業介護人を依頼する場合の介護料は,以下のとおり2万
0067円となる。
計算式 15,067+5,000=20,067
f 結論
原告Aは,症状固定時満24歳の男性で,その平均余命は55.0
2年(平成15年簡易生命表)であり,少なくも55年にわたって介
護が必要である。55年間のライプニッツ係数は18.6334,症状固定日から原告Bが満67歳に達する平成33年10月13日までの18年間のライプニッツ係数は11.6895として中間利息を控除すると,以下のとおり1億2176万9725円となる。
計算式 (20,067×240+10,000×125)×11.6895+(20,067×36 5)×(18.6334-11.6895)=121,769,725
(ケ) 住宅改造費 1270万4578円 原告Aの介護は,本件事故以前から建て替えのために転居が決まって
いた県営住宅で在宅介護を開始したが,現在の住環境では原告Aに十分な介護を提供することができず,県営住宅であることから,住宅の改造をすることも不可能である。そこで,本件事故以前から原告Aの姉であるL一家が二世帯住宅を建築して原告Bと同居する計画を持っていたことから,原告Aも同居することとし,原告Aの介護仕様の二世帯住宅を建築することとした。よって,介護仕様の住宅と通常仕様の住宅との差額である1270万4578円については,本件事故との間に相当因果関係が認められる損害というべきである。
(コ) 介護ベッド・バス費用 670万5875円 原告Aが自宅での介護において使用するケアビリシステムの費用は2
07万5480円である。ケアビリシステムの耐用年数は,ベッドリフト部分等が7年で,その他は5年であり,少なくとも7年ごとに買い換えの必要があるから,症状固定までの1台分に加え,症状固定後は平均余命の55年間に7回買い換えることになる。中間利息を7年ごとのライプニッツ係数により控除すると,以下のとおり670万5875円となる。
計算式 2,075,480×(1+0.7106+0.5050+…+0.0915)=6,705,875
(サ) 介護リフト費用(将来分) 176万4846円
原告Aの日常生活においては,室内での移動手段として,天井走行リフトが必要であり,その費用は,本体82万円,吊金具6万8000円
(ともに消費税抜き)で,消費税込みの合計金額は93万2400円となる。介護リフトは,住宅改造費に含まれている1台分のほか,耐用年数の8年ごとに買い換える必要があり,平均余命の55年間に6回買い換えることになる。中間利息を8年ごとのライプニッツ係数により控除すると,以下のとおり176万4846円となる。
計算式 932,400×(0.6768+0.4581+…+0.0961)=1,764,846
(シ) 介護用品費(その他) 172万2930円 a 原告Aの在宅介護生活のためには,次のような介護用品が必要であ
る。
(a) エアマット(介護ベッド用)関連 21万1575円
(b) 体位交換クッション 3万2340円
(c) 吸引器関連 7万6650円
(d) 座位保持装具(座ろうくん) 7万9800円
(e) 合計 40万0365円
b これらの介護用品は,症状固定までの1台分ずつに加え,症状固定後は少なくとも5年ごとに買い換える必要があり,平均余命の55年間に少なくとも10回買い換えることになる。中間利息を5年ごとのライプニッツ係数により控除すると,以下のとおり172万2930円となる。
計算式 400,365×(1+0.7835+0.6139+…+0.0872)=1,722,930
(ス) 車椅子費用 262万8460円
原告Aの在宅介護生活のためには車椅子が当然必要であり,その1台 当たりの費用は,本体21万円に加え,座位保持装置30万5137円,車用座位保持装置9万5650円を含め,合計61万0787円となる。
車椅子の耐用年数は5年で,座位保持装置の耐用年数は3年であるから,少なくとも5年ごとに車椅子一式を買い換える必要がある。よって,症 状固定までの1台ずつ(計3台)に加え,平均余命の55年間に少なく とも10回買い換えることになる。中間利息を5年ごとのライプニッツ 係数により控除すると,以下のとおり,262万8460円となる。
計算式 610,787×(1+0.7835+0.6139+…+0.0872)=2,628,460
(セ) 車両改造費 203万5698円
原告Aの在宅介護生活における移動には,車両の改造(車椅子ごと乗車可能な改造)が当然必要であり,少なくとも,介護仕様車両の総費用
402万6870円と通常仕様車両の総費用348万0960円との差額については,本件事故と相当因果関係が認められる損害である。そして,症状固定までの1台分に加え,症状固定後は耐用年数の6年ごとに買い換える必要があり,平均余命55年間に少なくとも9回買い換えることになる。中間利息を6年ごとのライプニッツ係数によって控除すると,以下のとおり,203万5698円となる。
計算式 (4,026,870-3,480,960)×(1+0.7462+0.5568+…+0.0 717)=2,035,698
(ソ) 将来雑費 1020万1786円
原告Aの在宅介護生活においては,おむつ,お尻拭きのほか,胃瘻カテーテルといった消耗品(諸雑費)が当然必要となる。将来にわたる雑費は,入院雑費の単価である日額1500円を下ることはない。将来雑費は,平均余命の55年間にわたって必要であるから,その費用は中間利息を55年間のライプニッツ係数18.6334で控除すると,以下のとおり1020万1786円となる。
計算式 1,500×365×18.6334=10,201,786
(タ) 慰謝料 3600万円
a 傷害慰謝料 400万円
傷害が極めて重篤であったことや症状固定日までの期間が長期にわ たること等に鑑みれば,傷害慰謝料としては400万円が相当である。
b 後遺障害慰謝料 3200万円
原告Aの後遺障害は第1級3号に該当し,同じ脳外傷による傷害でも遷延性意識障害と最も重篤であること,原告Aがいまだに若年であること,加害者である被告Cの事故態様が悪質であること等からすれば3200万円が相当である。
(チ) 損害の填補 1億3580万9912円 原告Aは,自賠責保険の後遺障害分3000万円,人身障害補償保険
金1億0582万9912円を受領している。ただし,人身障害補償保険金のうち,臨時費用2万円分は損害の填補に当たらない。
計算式 30,000,000+(105,829,912-20,000)=135,809,912
(ツ) 填補後の金額 1億7711万4256円 (テ) 弁護士費用 1700万円
原告Aの法定代理人xx後見人である原告Bは,原告らの訴訟代理人 に対し,上記損害額の約10パーセントにあたる1700万円の手数料,報酬を支払う旨約した。
(ト) 損害額合計 1億9411万4256円イ 原告Bの損害
(ア) 慰謝料 1000万円
原告Bは,長男である原告Aが後遺障害等級第1級3号の後遺障害を負い,終生その看護に従事することになり,その精神的な苦痛及び肉体的負担は計り知れないものがある。これを慰謝する金額は,少なくとも
1000万円を下ることはない。
(イ)弁護士費用 100万円
原告Bは,被告らが損害賠償に応じないので,弁護士に委任して本件 訴訟を提起せざるを得なかったが,その費用は100万円が相当である。
ウ 確定遅延損害金
(ア) 自賠責保険の填補分 369万8630円 原告Aは,平成15年8月7日,自賠責保険金3000万円を受領し
たが,本件事故日から上記支払日まで民法所定の年5分の割合による遅延損害金が発生している。前記支払日までの日数は900日間であり,これに対する確定遅延損害金は,以下のとおり369万8630円となる。
計算式 30,000,000×900/365×0.05=3,698,630
(イ)人身障害補償保険金の填補分 1354万5758円 原告Aは,平成15年12月15日,人身障害補償保険金として,9
600万3922円を受領しているが,本件事故日から上記支払日まで民法所定の年5分の割合による遅延損害金が発生している。前記支払日までの日数は1030日間であり,これに対する確定遅延損害金は,以下のとおり1354万5758円となる。
計算式 96,003,922×1030/365×0.05=13,545,758
(ウ) 確定遅延損害金合計 1724万4388円
(2) 被告Cの認否及び反論
入院雑費は1100円×831日=91万4100円の範囲で認め,その余は否認する。付添看護費は,4000円×831日=332万4000円の範囲で認めその余は否認する。慰謝料は争う。その他の損害は不知。
(3) 被告ジャパレンの認否及び反論
治療費のうち一部は入院雑費に含まれているので否認する。入院雑費については,日額1300円とするのが相当であり,入院期間が3か月を超えて長期に及んでいるので適宜減額すべきである。付添看護費については,近親
者付添介護であれば,日額6000円とするのが相当である。交通費については不知。装具代,ベッドレンタル代については認める。休業損害及び逸失利益については,基礎収入は社会保険料を控除して日額8142円とするのが相当である。将来付添費(介護料)については,近親者介護料は日額60
00円,近親者の夜間付添費は2000円とするのが相当であり,原告Aの平均余命は,統計的に見て,10年とするのが相当である。傷害慰謝料40
0万円は認める。後遺障害慰謝料は,後遺障害の内容,程度からして270
0万とするのが相当である。その他の損害については否認する。
(4) 被告農協の認否及び反論
いずれも否認する。付添看護費については,小牧市民病院は,完全介護体制をとる病院であり,近親者による付添看護の必要はない。入院雑費については,入院期間が90日を超えるので適宜減額すべきである。休業損害については,所得から所得税その他の公租公課は控除されるべきであり,原告Aの収入の平均日額は7811円である。逸失利益及び将来付添費(介護料)については,その算定にあたり,原告Aの余命は統計的にみて10年とするのが相当である。
(5) 原告兼補助参加人東京海上の反論ア 将来付添費(介護料)について (ア) 職業介護人の必要性について
症状固定日から現在までの原告Aの介護は,主として母親である原告 Bによってなされており,職業介護人を利用していないこと,住宅改造や福祉器具等により介護の負担は軽減されること,公的な福祉サービスとして,住宅介護,デイサービス,入浴サービス,短期入所などを低料金で受けることができることから,原告Aの介護は,原告BあるいはLによる介護のみで十分であり,職業介護人は必要ない。
(イ)原告Aの余命について
将来の付添費については,原告Aの余命を15年を前提に積算すべきである。
イ 住宅改造費について
原告らが計画している介護仕様の住宅と通常仕様の住宅との差額は84
2万9853円である。また,住宅改造に含まれる天井走行リフトは,ケアビリシステムを利用する限り不必要なものであり,その他についても,他の同居者の便益に資するものであるから,本件事故と相当因果関係にある損害はせいぜい10から20パーセントが相当である。
ウ 介護ベッド,バス費用について
原告らは,住宅改造費,介護リフト費用(天井走行リフト)とは別にケアビリシステムの購入費用を請求しているが,このケアビリシステムの購入費用が認められるのであれば,住宅改造費,介護リフト費用,介護用品費とは重複した内容が含まれる。
6 争点(6)(消滅時効)
(1) 被告らの主張
ア 平成13年6月22日,愛知県小牧警察署M司法巡査は,原告Aの容体,今後の回復の見込み等について,担当医である小牧市民病院脳外科の医師 から聴取し,同医師は次のように回答した。
(ア) 容体
病名:脳挫傷,脳幹損傷等
容体:意識不明の重体でいわゆる植物状態である。
頭部以外の損傷:病院収容時,前記頭部の傷害以外に腹臓器挫傷,筋肉の挫滅等多発外傷があったが,骨折はなかった。前記腹臓器挫傷等により一時,急性腎不全を併発したが,透析治療により,現在は小康状態である。
(イ)今後の回復の見込み
今後,植物状態からの回復の見込みはかなり困難であり,意思表示ができない状態であることから,全面的介助が今後長期的に必要である。
イ 原告Aの容体,回復の見込みが上記のとおりであれば,上記聴取が行われた平成13年6月22日当時,原告らが損害賠償の基礎としている傷害及び後遺障害はすでに顕在化しているといえ,遅くともこの時点から,本件事故による損害賠償請求権の消滅時効は進行を始める。原告Aが負った傷害の症状固定日が平成15年5月31日であったとしても,後遺障害に基づく損害賠償請求権は,後遺障害が顕在化した時が民法724条にいう損害を知った時にあたり,その当時発生を予見しえた損害はすべてその時点から消滅時効の進行を始める。
ウ 被告ジャパレンは,平成16年12月14日の本件口頭弁論期日において,被告農協は,平成17年2月7日の本件弁論準備手続期日において,被告Cは,同年8月22日の本件弁論準備手続期日において,原告らに対し,被告らに対する本件事故に基づく損害賠償請求権の消滅時効を援用するとの意思表示をしたので,原告らの本件事故に基づく損害賠償請求権は時効により消滅した。
(2) 原告らの反論
原告Aの症状固定日は平成15年5月31日であり,消滅時効の起算日は 同日となる。後遺障害を残す事案において,症状固定日をもってその損害賠 償請求権の消滅時効の起算日とする扱いは確定した賠償実務である。原告A としては,平成15年5月31日を症状固定とする診断書の発行を受けて初 めて損害を認識しうるのであり,医療や賠償の専門家でもない原告Aがそれ 以前に損害を知ることは不可能である。消滅時効の起算日としての症状固定 日は,請求者自身にとって「損害を知った時」(民法722条)であるから,症状固定日の記載された診断書を受け取った日をもって起算日とするほかな い。
7 争点(7)(保険代位の範囲)
(1) 原告兼補助参加人東京海上の主張
人身傷害保険のコンセプトとしては,①人身傷害保険金の先行払いを可能とすることで,被害者(被保険者)への早期補償の実現と相手方(加害者)との煩わしい交渉の回避を実現することができる,②従来補償されなかった被害者(被保険者)の自己過失部分を実損害填補として補償するという手厚い補償を実現することができる,という2点を挙げることができる。もともと上記コンセプトは,保険契約者(被保険者)の①先行払いにより早期の補償を受けたい(加害者側との交渉を回避したい),②加害者への請求と人身傷害保険金(自己過失部分)を切り分けて対応したい,という2つのニーズに基づいている。この2つのニーズを実行あらしめるため,自動車保険約款の「人身傷害補償条項」上,①第5条第1項(先行払い),②第6条第4項
(自己過失部分のみを請求),という2つの請求方法を規定している。人身 傷害保険は,実損害填補型の傷害保険である。あくまで傷害保険である以上,上記2つの請求方法のいずれを選択しても,最終的な人身傷害保険金の受領 額は同一になるような商品構成としている。保険代位による求償においても,
「人傷基準比例説」を採用することにより,被保険者(被害者)の様々なニーズを実現しつつ,人身傷害保険金の最終受領額が同一となるようにしている。
すなわち,人身基準比例配分説が最も文言に整合的であり,かつ最もデメリットの少ない解釈である。訴訟基準差額説では,訴訟等で最終賠償額が確定しないと保険会社間での求償が成立せず,著しい混乱が危惧される。よって,本件においても,人傷基準比例配分説を採用すべきである。
(2) 原告A及び原告Bの主張
先に人身傷害補償保険金を受領した後に加害者に対して損害賠償請求訴訟を提起した場合の保険会社の代位取得の範囲については,人身傷害補償条項
が適用する一般条項23条1項の解釈が問題となる。すなわち,人身傷害補償保険金を支払った保険会社は,支払った保険金の金額の限度内で,被保険者が加害者に対して有する損害賠償請求権を代位取得する。ただし,そこには「被保険者の権利を害さない範囲内で」という条件が付されている(一般条項23条1項)。
この「被保険者の権利を害さない範囲内で」という文言をどのように解釈 するかについては,代表的なものとして3つ挙げることができる。1つ目は,限度主義(絶対説)と呼ばれ,保険会社が支払保険金額の範囲で優先的に損 害賠償請求権を取得するという考え方である。2つ目は, 比例主義(相対 説)と呼ばれ,支払保険金額の損害額に対する割合に従って保険会社が損害 賠償請求権を取得するという考え方である。3つ目は,損害額超過主義(差 額説)と呼ばれ,保険会社は被保険者が保険金と損害賠償請求権とを合わせ て損害の全額を回収してもなお残っている損害賠償請求権の範囲でのみ代位 取得するという考え方である。
そもそも自動車保険の一般条項23条1項は,同じく代位を定めた商法6
62条の特則(修正)と考えられており,原則となる商法662条の解釈としては,第2説(比例主義)が多数説となっており,車両保険に関する最高裁昭和62年5月29日判決(民集41巻4号723頁)がその旨を明確に判断している。ところが,一般条項23条は商法662条の特則であり,文言上は「被保険者の権利を害さない範囲内で」とされていることと,現実に契約者の過失分を填補する保険として販売されており,それに対応する保険料が付加されていること等に鑑みれば,より進んで,第3説(損害額超過主義,訴訟基準差額説)が妥当であり,現に商法の分野では第3説が多数説とされている。なお,第3説に対する批判として,人身傷害補償条項上,人身基準により算定された金額の合計額から加害者から取得した損害賠償金等を控除した金額を支払うものとされていることを挙げ,人身傷害補償保険より
も加害者からの損害賠償が先行した場合との整合が保てないと指摘されることがある。しかし,前記人身傷害補償条項はあくまで支払う保険金の額の計算根拠を定めたものに過ぎず,この規定を根拠に保険金を支払った保険会社の加害者に対する損害賠償請求権の範囲を決することはできない。したがって,第3説を採用すべきであり,過失相殺後の損害額と人身傷害補償保険金を合計し,その金額が過失相殺前の損害額を超過した場合にのみ,その超過した金額分だけ原告らの損害賠償額から減額(控除)され,かつ,原告兼補助参加人東京海上が同額について代位取得するに過ぎない。
第4 当裁判所の判断
1 前提事実,証拠(乙イ1ないし3,6の1ないし9<xx含む>,乙ロ1,
3ないし5の2<xx含む>,11ないし14,乙ハ1,証人H,証人G,被告C本人及び被告DことE本人)及び弁論の全趣旨によれば,次の事実を認めることができる。ただし,これらの証拠のうち,この認定に反する部分は採用しない。
(1) 被告Dと被告Cの関係
被告Xは,元暴力団組員であり,本件事故当時すでに暴力団組織からは抜けていたが,いわゆる堅気の人間ではなく,名古屋市h区でFやIなど4,
5人の人間を使用して,軽油の販売や自動車の販売,修理をする仕事をしていた。FやIなどは,被告Dに使われていたが,従業員というより若い衆という立場にあり,被告Dから車の修理や運転などを指示されそれを行うたびにその都度,小遣いのような形で金銭を受け取っていた。
被告Cは,本件事故当時,定職に就かず,大工見習いとして時折父親の家業を手伝うなどして暮らしをしており,実家にはほどんと帰らず,知人xx自動車内で寝泊まりをするなどの生活を送っていた。被告Cは,以前に暴走族に所属しており,その時の先輩であったIに付いてよく遊んでいたが,平成12年10月中旬ころ,Iを介して,被告D及びFと知り合うことになっ
た。そして,平成12年11月ころから,Iの手伝いをするような形で,被告Dの仕事の手伝いをするようになり,被告Dの仕事場には週に4,5回は出入りし,洗車,タイヤ交換,車の移動などを行った。被告Dと被告Cとは挨拶を交わす程度しか直接話をすることはなかったが,被告Dは,被告Cが仕事場に出入りしていることは認識しており,仕事場の人間らxxと一緒に何回か食事をすることもあった。仕事の指示は,基本的に被告DがIに出して,Iが被告Cに直接指示していたが,被告Dが被告Cに直接指示することもあり,小遣いというような形で被告Cが金銭を受け取ることもあった。
(2) 本件車両が被告ジャパレンから被告Dに引き渡された経緯
被告Dは,平成12年12月27日当時,所有している自動車のうち,妻であるN名義になっていた日産シーマ(以下「被告D車両」という。)をFに使用させていたが,Fは同日午後3時20分ころ,愛知県西加茂郡i町大字j字k先道路上でOが運転する普通乗用自動車と接触する交通事故を起こした。被告Dは,被告農協との間で,平成12年8月3日,自動車共済契約を締結しており,同年12月6日,同契約の被共済車両を被告D車両と変更し,車両諸費用補償特約を締結していた。
車両諸費用補償特約とは,被共済自動車に発生した損害に対して,車両共済金を支払う場合であって,その損害にともなって発生した,被共済自動車の代車を借り入れた費用,被共済自動車の使用不能にともなって緊急に要した宿泊費用,被共済自動車に代わる交通機関を利用して帰宅した際に要した費用あるいは被共済自動車に積載していた日常生活の用に供する動産に生じた損害などを保障するものである。約款によれば,車両諸費用保障特約によって代車費用を支払う場合には,被告農協は,被共済自動車に生じた車両損害の修理等により被共済自動車が使用できなくなったため,被共済者が代車を借り入れたことによって負担した費用について,共済書記載の代車費用共済金日額を限度として被共済者が負担した1日あたりの代車借入費用を事故
の日から30日までの期間について共済金を支払うことになっており,被告 Dとの契約においては,代車費用共済金日額は1万円となっていた。
Xは,上記事故の後,被告農協に対し,事故の報告をしたので,被告農協の当時の職員であり担当者であったJは,被告Dに対し,車両費用保障特約の適用をすることの意思確認をしたところ,被告Dは,特に代車を使用する予定があったわけではなかったが,代車を得られる権利があるのなら行使しておこうと考え,特約の適用を請求した。その際,被告Dは,被告農協に対し,被告D車はもともとFに貸していたものであるからFに提供して欲しいと要請した。
被告農協は,被告Dに車両費用保障特約に基づいて代車を提供するため,レンタカー会社である被告ジャパレンに対して,1日の料金が1万円の範囲での代車の手配を依頼した。被告ジャパレンは,1日の料金の定価が1万円である本件車両を代車として用意して,平成12年12月30日,これをDの自宅に配車し,Fに引き渡した。ただし,この際,被告農協との間では,割引をして1日の料金は8000円とすることになっていた。車両費用保障特約において,代車費用の支払の期間は事故日から30日となっていたことから,本件車両の返還期限は平成13年1月26日と定められ,被告D及び Fにも伝えられた。Fは,本件車両の提供を受け,被告Dの自宅の駐車場に駐車しておいた。
車両費用保障特約においては,本来,被共済者が代車を手配し,その費用について共済金を支払うものとされているが,被告農協は,被共済者である被告Dの便宜を図るため,被告農協が借主となって被告ジャパレンとの間で本件車両の貸渡契約を締結した。被告農協と被告ジャパレンとの間では,車両費用保障特約の場合に被告ジャパレンが被告農協と貸渡契約を締結し,代車を直接被共済者に提供し,代車費用を被告農協に請求するということは従来から行われてた。
(3) 本件車両を被告Cが使用するに至る経緯
平成12年12月31日,初詣に行くために被告Dの自宅に集合するように言われ,被告Dの自宅に集合した。集まった仲間は各自自動車を所有していたが,被告Cには運転する自動車がなかったところ,Fが被告Dの自宅の駐車場に駐車していた本件車両を,免許があるなら使用してもよい旨言ったので,被告Cは自動車運転免許を所有していなかったが,運転免許があるふりをしてそのまま本件車両を借りることにした。その際,Fから本件車両がレンタカーである旨の説明は特になく,返還の期限も決めていなかったが,被告Cは翌日くらいには返還しなければといけないと考えていた。
翌日の平成13年1月1日,被告Cは初詣のために午前9時に集合するこ とになっていたが,本件車両の中で寝過ごしてしまい,初詣に行くことがで きなかった。被告Cは,このことがきっかけで,その後被告Dの仕事場に顔 を出しづらくなったこと,本件車両を足代わり,宿代わりに使用できること から,本件車両を返還せず,被告D,Fのいずれの許可も得ずに使用し続け,連絡も一切取らなかった。
(4) 被告Cの本件車両の使用状況及び被告Dの対応
被告Dは,被告Cが本件車両を返還しないことについては,被告Cを連れていたIに被告Cを捜し出してくるように任せていた。若い衆としてIに付いていたPは,平成13年1月末ころ,被告Cの実家に電話をして,被告Cの母親に対し,被告Cが使用している本件車両はレンタカーであり,使用期限がきているので返すように被告Cに伝えるように言った。被告Cは実家に電話で連絡をした際,その旨を聞き,本件車両のダッシュボードの書類を確認して,本件車両がレンタカーであることを初めて認識した。しかし,被告 Cは,本件車両で寝起きしていたこともあり,本件車両を返還しようとは考えなかった。
他方で,被告Dは,Iから被告Cとの連絡が取れないと聞き,被告ジャパ
レンからの電話に対し,本件車両は乗り逃げされて行方不明になっているから,盗難届でもなんでも出してほしい旨伝えた。被告Xは,被告ジャパレンに対し,その旨伝えた以上は,本件車両についての処理は済んだと考え,その後,本件車両を捜索することはしなかった。
(5) 本件車両の返還に対する被告ジャパレン及び被告農協の対応
本件車両の返還期限の前日である平成13年1月25日,被告ジャパレンの担当者が被告Dに架電し,本件車両をどこに引き取りに行けばよいか問い合わせると,被告Dから返還を少し待って欲しいと言われ返還を拒まれた。そこで,被告ジャパレンの本社営業部統括部長であるGは,同月26日午 前9時40分ころ,被告Dに架電したが,被告Dは電話に出なかった。同日午後1時ころ,被告Dに架電すると,被告Dは電話に出るも,本件車両はF
が乗っているので自分は知らない旨回答した。さらに同日午後6時ころにも,被告Dに架電したが,被告Dは電話に出なかった。
平成13年1月29日午後6時ころ,GはFに対して架電し,本件車両に ついて尋ねると,Fは本件車両は使用している者が行方不明でどうなってい るかわからない旨回答した。GはFから本件車両を使用しているのが被告C であると聞いたが,被告Cがxx市の人間であるという以外に住所や連絡先 は知らない旨回答されたため,確認することができなかった。そこで,Xは,被告農協に対し,その旨連絡したところ,被告農協は,上部団体の全共連の 担当者と相談して返事をすると回答した。全共連と被告農協とは,全共連が 被告農協の共済契約を再共済しているという関係にあるが,問題が発生した 場合には,被告農協と全共連とが協力して対応することになっていた。Xは,被告Cと連絡を取るためにNTTの電話番号案内で被告Cの電話番号を問い 合わせたが,結局被告Cの電話番号を調べることはできなかった。
同月31日,G,全共連愛知西三河自動車損害調査サービスセンター次長 Q及び同センター審査役Hは3人で,愛知県xx警察署刑事課に赴き,本件
車両を被告Dに提供した経過を説明し,本件車両が被告DからもFからも返 還されずに困っていることを伝え,場合によっては横領で刑事告訴したい旨 相談した。Gらは,同署の警察官から,被告Dらは普通の人ではないので, 本件車両が戻ってくる可能性は薄いであろうと言われたことから,本件車両 は被告Dらによって横領され,取り戻すことは難しいと考えた。Xらは,被 害届を提出することも相談したが,警察から直ちに横領として被害届を受理 することはできないと言われ,その場で被害届を提出することはしなかった。
同日,Xらは,本件車両を捜索するため,Xが起こした交通事故の事故証 明書記載のFの住所地に赴いた。被告ジャパレンも被告農協も,被告Dから, Fに本件車両を提供するように指示され,本件車両をFに提供していたが, Fについては携帯電話の番号しか把握していなかった。Fの住所地には,人 が住んでいる形跡はあったが在宅者がいなかったため,Gらは周辺の捜索を することにしたが,結局,本件車両を発見することはできなかった。
さらに同日,Xらは,被告Dの住所地にも赴き,Xが携帯電話で被告Dに架電したが,ジャパンレンタカーであると名乗ったとたんに電話は切られてしまった。そこで,Xxは被告Dに会うことをあきらめ,周辺の捜索をすることにしたが,結局,ここでも本件車両を発見することはできなかった。
同日,Gらは少しでも本件車両の情報を得ようと,被告D車が修理のために搬入されているRに赴いたが,被告D車は修理を行わないままFに返還されたと回答された。
Xは,自ら本件車両を探し出すことをあきらめ,平成13年2月に入ってすぐに,弁護士Kに相談し,被告農協に対し同月5日付け文書で本件車両の返還を請求した。
同月5日,被告ジャパレンと被告農協とは協議の上,被告ジャパレンの被告農協に対する請求額を車両諸費用保障特約の上限である30万円とすることで本件を精算することを合意し,同月6日付で30万円の請求書が被告ジ
ャパレンから被告農協に対し,発行された。
被告農協は,本件車両の返還について弁護士Sに相談し,同月14日,被告Dに対し,本件車両の返還を求める催告書を内容証明郵便にて郵送し,同月17日に被告Dに配達された。
2 争点(1)(被告ジャパレンの責任)について
第4,1で認定した事実から検討するに,本件車両の貸渡契約は,自動車共済契約の車両諸費用保障特約に基づくもので,同特約の約款から貸渡期間は3
0日間と定められており,貸渡期間の延長は想定されない契約であって,本件事故が,本件車両の返還期限から24日経過後であったことから,本件事故当時,本件車両の貸渡契約が明示にも黙示にも延長継続されていたとは認められない。また,Fが本件車両の使用を被告Cに許可した際,明確な取り決めはないものの2,3日で返還することが前提となっていたが,被告CはFにも被告 Dにも無断で本件車両の使用を継続し,連絡も一切取らず,その後は本件車両の返還意思を放棄していたことが認められ,被告ジャパレンは,被告D及びFに対し,本件車両の返還を請求する他に直接被告Cと連絡をとり返還を求める方法がなかったこと,被告ジャパレンは,返還期日後,警察に相談に行き被告 D及びFの自宅周辺の捜索をするなど本件車両の回収のための努力をなしていること,そして,本件車両が返還されないことにより契約上被告ジャパレンは被告農協から延滞料を請求することが可能であったが,実際には車両諸費用保障特約の上限額の請求しかしなかったことが認められる。これらの事情からすれば,本件事故当時,被告ジャパレンは,もはや本件車両の運行を指示,制御し得る立場を失っていたとみるのが相当であり,その運行利益も帰属してなかったといえるのであって,被告ジャパレンに,運行供用者責任を認めることはできない。
3 争点(2)(被告農協の責任)について
第4,1で認定した事実から検討するに,本件車両の貸渡契約は,自動車共
済契約の車両諸費用保障特約に基づくもので,同特約の約款から貸渡期間は3
0日間と定められており,貸渡期間の延長は想定されない契約であって,本件事故が,本件車両の返還期限から24日経過後であったことから,本件事故当時,被告農協から被告Dに対する車両諸費用保障特約に基づく本件車両の貸渡契約も明示にも黙示にも延長継続されていたと考えることはできない。また, Fが本件車両の使用を被告Cに許可した際,明確な取り決めはないものの2,
3日で返還することが前提となっていたが,被告CはFにも被告Dにも無断で 本件車両の使用を継続し,連絡も一切取らず,その後は本件車両の返還意思を 放棄していたことが認められ,被告農協は,被告D及びFに対し,本件車両の 返還を請求する他に直接被告Cと連絡をとり返還を求める方法がなかったこと,被告農協は,返還期日後,警察に相談に行き被告D及びFの自宅周辺の捜索を するなど本件車両の回収のための努力をなしていることが認められる。そして,本件車両の返還がなされないことにより,被告農協は被告ジャパレンに対し当 初の賃貸料より多い額を支払うことになったことが認められる。これらの事情 からすれば,本件事故当時,被告農協は,もはや本件車両の運行を指示,制御 し得る立場を失っていたとみるのが相当であり,その運行利益も帰属してなか ったといえるのであって,被告農協に,運行供用者責任を認めることはできな い。
4 争点(3)(被告Dの責任)について
第4,1で認定した事実から検討するに,被告Cは被告Dの仕事場に出入り して被告Dの仕事の手伝いをしており,被告Dも被告Cが仕事場に出入りして いることを容認していたのであるから,被告Dは被告Cに指示監督できる立場 にあった。そして,本件車両は被告DがFに使用の許可を与え,Fが被告Cに 使用の許可を与えていたのであり,被告D自身が直接被告Cと連絡を取る方法 がなかったとしても,Fや若い衆のIなどを使うことにより被告Cとの連絡は いまだ取ることが可能であったと認められる。それにもかかわらず,被告Dは,
被告ジャパレンに対し,盗難届でもなんでも出して欲しいと伝えたに過ぎない のに,それで本件車両についての処理がついたと考えて,何ら本件車両を回収 するための手段を講じていない。とすれば,本件事故当時,被告Dはいまだ本 件車両の運行を指示,制御し得る立場を失っておらず,その運行利益も帰属し ていたとみるのが相当であるから,被告Dは,原告らに対して運行供用者とし ての責任を負うというべきであり,被告Cの損害賠償債務とは連帯責任となる。
5 争点(4)(過失割合)について
(1) 前提事実,証拠(甲13,14,47の1ないし48の11<xx含む>,
51の1ないし52の4<xx含む>,乙ロ8,乙ハ1及び被告C本人)及び弁論の全趣旨によれば,以下の事実を認めることができる。ただし,これらの証拠のうち,この認定に反する部分は採用しない。
ア 本件事故現場の状況
本件事故現場は,南北に延びる国道41号と東西に延びる国道155号とが交差するl町交差点(以下「本件交差点」という。)と呼ばれる交差点である。国道41号は,中央分離帯のある片側3車線で,本件交差点進入口では右折車線を含め4車線になっており,最高速度は時速60キロメートルである(道路交通法22条1項,道路交通法施行令11条)。国道
155号は,片側2車線で最高速度は時速50キロメートルである。信号サイクルは南北道路が,赤62秒,青35秒,黄3秒,赤・右折青矢印6秒,全赤4秒であり,東西道路が,青44秒,黄3秒,赤・右折青矢印1
0秒,全赤5秒,赤48秒である。イ 本件事故の状況
被告Cは,小牧市にあるゲームセンター「T」に行くために,被告Cの先輩であるUの運転する自動車に付いて行く形で本件車両を運転していたが,途中で見失ってしまったところ,携帯電話でUと場所の確認をしながら運転をしていた。そして,Uと連絡を取りながら,本件交差点の北約3
40メートルにあるa町北交差点をxx道路から東進して進入右折して国道41号を南進した。国道41号には本件車両の前後には他の自動車は走行しておらず,被告Cは時速50ないし70キロメートルの速度で南進を続け,本件交差点に差し掛かった。
原告Aは,本件事故当日は午前3時過ぎに仕事を終え,職場の友人であ るV1とV2と3人で,近くのラーメン店でラーメンとビールを飲食した。本件事故後,原告Aが搬送された小牧市民病院の医師が記載した入院診療 計画書の中に,アルコールをかなり飲んだ後の様子との記載があることか ら,このとき,原告Aは少なくはないある程度のビールを飲酒したと推認 される。その後,原告Aは,職場の駐車場に戻り,V1を助手席に乗せて 自動車を運転し,国道155号を東進して本件交差点に差し掛かった。
被告Cは,本件交差点に進入する際,進行方向の対面信号が赤色であることを確認したがそのまま進行したため,国道155号を東進して本件交差点に進入してきた原告A車の左側面に衝突した。
この点,被告Cは,原告Aも赤色信号を無視して本件交差点に進入してきたと主張し,それに沿う被告Cの供述調書及び供述もある。
しかし,被告Cは逮捕直後の当初の取調べにおいては,自分の対面信号が青色であったと供述し,事故後3か月以上も経過した後の取調べにおいて交差道路の信号を確認したら青色右折信号で,対面信号は交差点進入直後に青色に変わったと供述を変遷させていること,変遷の理由の中で被告 Cは,当初,交差道路の信号が黄色だったと警察官に供述したとするが,信号が黄色であることと,右折青色であることとは全く異なり見間違え記憶違いすることはあり得ないこと,被告Cは交差道路の信号が黄色だったのを見たと供述するが,信号サイクルからいって交差道路が黄色で,被告 Cの対面信号が青色に変わることはあり得ないこと,被告Cは対面信号が青色に変わるのははっきりとは見ていないと供述することからすると,被
告Cの供述は,交差道路の信号が黄色だったのか青色矢印だったのか,対面信号が赤色から青色に変わったのか,いずれもはっきりしないのであって,直ちに信用することはできない。
そして,その他に原告Aが赤色信号を無視して本件交差点に進入したと認めるに足りる証拠は認められないから,原告Aが赤色信号を無視して本件交差点に進入したと認めることはできない。
(2) 以上認定した事実から,原告Aと被告Cの過失割合を検討する。
そもそも被告Cは免許を持っておらず,本件事故は信号機による交通整理の行われている交差点で,出合い頭に衝突した交通事故であるが,被告Cの対面信号は赤色だったのだから,被告Cは信号機に従い,停止位置を越えて進行してはならない義務があった(道路交通法7条,道路交通法施行令2条
1項)にもかかわらず,被告Cは,赤色信号を認識しながら漫然とそのまま進行を続け,時速50ないし70キロメートルで本件交差点に進入したのであって,被告Cには重大な過失があったというべきである。
他方,原告Aは,酒気を帯びて車両を運転してはならない義務がある(道路交通法65条1項)にもかかわらず,本件事故直前にビールを飲酒し,酒気を帯びて原告A車を運転していたと認められるのであるから,本件交差点に進入する際に,酒気の影響から注意力が一定程度減退していたことが推認されるのであり,過失があったというべきであり,本件交差点進入時には,被告C車が本件交差点に向かって進行するのを認識することが可能であり,被害を小さくする措置をとりうる可能性も否定できず,前記過失と本件事故との間に因果関係が認められる。
とすると,本件事故は被告C及び原告A双方の過失によって発生したもの であるが,被告Cの赤色信号を無視して高速度で交差点に進入した過失は極 めて重大であり,他方,原告Aの酒気帯び運転の過失も軽微とはいえないが,本件事故は被告Cの過失に起因するものであり,原告Aの過失が本件事故に
寄与した割合は軽微であるから,双方の過失割合は,被告C9割5分,原告 A5分と認めるのが相当である。
この点,原告らは,原告Aは3人で1本のビールを飲んだに過ぎず,この程度の飲酒では運転に影響はなく,本件の事故態様に与える影響はないと主張するが,上記認定のとおり,原告Aの飲酒は3人で1本のビール程度とは認め難く,アルコールの影響が原告Aの判断に影響を与えたと認めるのが相当であるから,原告らの主張は採用できない。
6 争点(5)(原告A及び原告Bの損害)について
(1) 原告Aの損害
ア 治療費 482万1070円
証拠(甲3の1・2,4の1ないし10,18の2ないし20)によれば,症状固定日(平成15年5月31日)までの治療費は,以下のとおりであり,その合計金額は482万1070円となる(ただし,証拠の診療報酬明細書及び領収書のうち,病衣,洗濯代,紙おむつ,ティッシュぺーパー,シャンプー及びボディーソープ等は入院雑費に含まれるため除く。診断書料及び明細書料は損害賠償請求のために必要な費用で本件事故と相当因果関係にある損害と認められるが,別に項目を立てていないので,治療費に含める。)。
(ア) 小牧市民病院(平成13年2月から同年7月まで)
141万8320円 (イ)xx記念病院(中部療護センター)(平成13年7月から平成15年
5月まで)
340万2750円
計算式 1,418,320+3,402,750=4,821,070
イ 入院雑費 108万1600円
原告Aは寝たきりであり紙おむつ等が必要となるが,入院期間が長期と
なっており入院雑費は日額1300円と認めるのが相当であり,入院期間は832日間であるから,以下のとおり108万1600円となる。
計算式 1,300×832=1,081,600
ウ 付添看護料(症状固定前) 540万8000円 (ア) 前提事実,証拠(甲15,16,34,丙9の1ないし10<xx含
む>及び原告B本人)及び弁論の全趣旨によれば,原告Aの症状固定前の付添看護の状況について以下の事実が認められる。
原告Aは,平成13年2月19日,本件事故に遭い,小牧市民病院に 搬送され,当初,集中治療室で治療を受けたが,危険な状態が数日間続 いたことから,原告Bら家族は,24時間病院に待機し,面会時間には 意識を回復させるため,声を掛けたり体をさすったりした。一般病棟に 移ってからは,褥瘡ができたことから,車椅子に乗せたり,マッサージ や声掛けをする必要があり,容体が安定してからも,激しいけいれんを 度々起こし,時折呼吸が止まることもあったため,原告Bらが付き添っ ている必要があった。病院での看護師の手は十分に足りておらず,原告 Bらが原告Aの身の回りの世話をする必要があった。事故後3か月間は,原告Bが毎日,原告Aの付添をし,それ以降も原告の姉のLらが協力し て毎日付き添った。
(イ)以上の事実から検討するに,原告Bに対し,医師から付添看護の指示があったことは証拠上認められないが,入院期間中,原告Bをはじめとする近親者が付き添っていたこと,原告Aは意識が回復せずいわゆる寝たきり状態にあって,日常生活の全てにおいて介護を要することに照らすと,原告Aには近親者による付添が必要であったと認められる。
そして,原告Bらが,原告Aの日常生活の全てにおいて介護をする必要があったことからすると,日額6500円の限度で認めるのが相当である。
よって,症状固定時までに認められる付添看護費は,以下のとおり5
40万8000円となる。
計算式 6500×832=5,408,000
エ 交通費 10万0675円
証拠(甲17)によれば,原告Aの転院時及び帰宅時の交通費として1
0万0675円支払ったと認められる。
オ 装具代・ベッドレンタル代 24万8048円 証拠(甲7の1ないし3)によれば,症状固定までに装具代23万85
48円,電動ベッドレンタル代5500円,電動ベッドレンタル更新料4
000円を支払ったと認められ,合計額は以下のとおり,24万8048円となる。
計算式 238,548+5,500+4,000=248,048
カ 休業損害 765万6003円
証拠(甲8)によれば,原告Aの本件事故前3か月の収入は82万92
00円と認められ,これを90日で割ると収入の日額は9213円となる。この点,被告ジャパレンは,基礎収入は収入から社会保険料を控除すべ
きであると主張し,被告農協は,収入から所得税その他の公租公課を控除すべきであると主張する。
しかし,社会保険料はその支払いによって事故が生じた際に給付等を受 けられる関係にあり,仮に本件事故によりその支払いを免れたとしてもそ れは立法政策上の問題であるから,加害者との関係において収入から控除 すべきではない。また,所得税等の納税額の決定は立法政策上の被害者と 納税者との関係にとどまり,加害者が損害賠償法の基本理念である現状の 回復の観点から被害者の収入全額を基礎として賠償した後,被害者が取得 した損害賠償金に対して課税するかどうかも立法政策上の問題であるから,仮に現行法において損害賠償金に対して課税がされていないとしても,加
害者との関係において収入から所得税等を控除すべきではない。
本件事故発生日から症状固定日の前日までの期間は831日間であるから,以下のとおり765万6003円となる。
計算式 9,213×831=7,656,003
キ 逸失利益 9611万8194円
証拠(甲34,50)によれば,原告Aは,平成11年から株式会社メッツでアミューズメントパークで警備をする仕事のアルバイトを始め,平成12年からは,正社員として勤務し,平成12年には年間318万60
00円の収入を得ていた。原告Aは事故当時21歳,症状固定時24歳と若年であり今後昇給し,学歴計男子全年齢平均の収入を得る蓋然性が高いと認められる。そこで,逸失利益の算定のための基礎収入としては,平成
15年賃金センサス・学歴計男子全年齢平均賃金547万8100円によるのが相当である。原告Aの後遺障害等級は第1級3号で,その労働能力喪失率は100パーセントであり,労働能力喪失期間は,症状固定時24歳から67歳までの43年間と認められるから,中間利息を43年間のライプニッツ係数によって控除すると,以下のとおり,9611万8194円となる。
計算式 5,478,100×1.00×17.5459=96,118,194
ク 将来付添費(介護料) 9032万1428円 (ア) 前提事実,証拠(甲2,16,30ないし32,34,44ないし4
6,53ないし58<xx含む>,丙8の1ないし12<xx含む>及び原告B本人)及び弁論の全趣旨によれば,以下の事実が認められる。 a 原告Aの後遺障害の内容・程度
原告Aは,平成15年5月31日に症状固定と診断され,後遺症の内容は,びまん性軸索損傷による四肢麻痺,失語症,遷延性意識障害で,四肢の痙性は強く,発語は全く認められず,終日寝たきりの状態
であり,食事を摂取できず,経管栄養の状態で,尿便は失禁状態であ る。排泄,食事,整容,更衣,入浴すべてにおいて自力では不可能で,全介助を要する状態である。
b 原告Aの介護状況
(a) 排泄処理(排尿・排便)
排泄処理にはおむつを使用するが,おむつ交換は1日10回以上必要であり,2時間程度が交換の目安とされている。排便時の処理は,ほとんどの場合が軟便状態のため,お尻拭きで拭き取り,お湯で洗い流す必要がある。一度に大量に排泄した場合には,おむつから溢れ出し,ベッドのシーツから服まですべてを交換する必要があるが,これらの作業は2人以上で行う必要がある。
(b) 体位交換
褥瘡防止のために体位交換が必要であるが,体位交換は一般的に
2時間おきに行うことが必要である。体位交換は2人で行い,1人が体を持ち上げ,もう1人が体の下に枕を差し込み,左右交互に向きを変えるという方法で行う。これを1人で行う場合には,片手で体を支えながら作業をすることになるので,介護者にとって大変な労力になり,原告Aの体にも負担がかかることになる。
(c) 食事
原告Aは,自ら食事をすることができないため,必要な栄養と水 分は胃に開けた穴から胃瘻カテーテルを通して直接胃に送る方法で 摂取する。1日3回,1回あたり1時間半ほどの時間をかけて行う。途中で止まったり逆流することもあり,そばで見守っている必要が ある。
(d) 痰の吸引
原告Aは,脳外傷のため喀痰機能障害があり,痰や唾液がたまっ
ても,自力ではき出すことができないため,口や鼻から吸引チューブを差し込み,喉の奥にたまっている痰や唾液を吸い出す必要がある。
(e) 入浴
入浴は,リフトに付けた入浴ネットの上に乗ったまま浴槽に入る。入浴の際には,頭側に1人,足側に1人ついている必要があり,2 人以上で行う必要がある。入浴以外にも,洗顔,ひげそり,散髪, 爪切り,耳や鼻の掃除などの整容が必要である。
(f) 移動
移動は主に車椅子で行う。車椅子の乗り降りは,原告Aの体を持ち,吊り上げるようにして行うが,原告Aは体に力が入らず,首もすわっていないため,抱きかかえるとバランスが崩れやすく安全のために2人以上で行う必要がある。
c 原告B及び原告Aの姉の状況
原告Aの症状固定時から現在に至るまで,原告Aの介護を中心的に担っているのは,原告Bであり,その主たる内容は,排泄処理,体位交換,食事介助,入浴介助,車椅子への移乗などである。中でも,原告Bにとって負担が大きいのが,体位交換,排泄処理,入浴介助である。
原告Aの姉は,本件事故当時,仕事に就いていたが,本件事故後,退職し,原告Bの介護を手伝っている。
原告Bは,本件事故当時,xxx年から勤めていた仕事に就いてお り,事故後一時休職し,その後復帰をしたが,仕事と原告Aの介護に より肉体的,精神的に疲弊し,平成16年9月に退職した。原告Bは,原告Aの介護により腰椎椎間板ヘルニアに罹患したこともあって,一 生介護を続けることは困難と感じており,また,xx仕事と家事を両
立させた充実した生活を過ごしてきており,人生の生き甲斐を感じ,社会との関わりを持つためにも仕事に再度復帰したいと考えている。現在まで職業付添人を利用していない理由については,先のことは まだわからないので,裁判によってある程度の損害賠償を得てからで
ないと利用できないと述べている。
d 胃瘻による経管栄養及び痰の吸引行為の医行為該当性
政府及び厚生労働省は,胃瘻による経管栄養及び痰の吸引行為が,看護師資格を要する医行為であるとの明確な見解を取っていないが,厚生労働省は,医療機関以外の高齢者介護・障害者介護の現場等において判断に疑義が生じることの多い行為であって,原則として医行為でないと考えられるものとして,自己導尿を補助するためのカテーテルの準備,体位保持等を行うことを挙げている。また,政府は,在宅筋萎縮性側索硬化症患者の喀痰吸引について,その危険性を考慮すれば,医師または看護職員が行うことが原則であるが,「ALS(筋萎縮性側索硬化症)患者の在宅療養の支援について」(厚生労働省医政局長通知)で示した一定の場合には当面やむを得ない措置として認められるとしている(甲55ないし57<xxを含む>)。
医療法人xxxサンエイクリニックのW1医師は,原告Aの介護に必要な経管栄養及び適便は看護師が関わる必要があり,痰の吸引は看護職が望ましいとの見解を示し(甲44),原告らの居住地近隣の有料職業付添人派遣業者2社は,胃瘻の管理・処置についてはいずれも看護師資格が必要であると回答し,痰の吸引については,1社は看護師資格が必要であると,1社はヘルパーでも可能だが,事前の指導が必要との回答をしている(甲45,46)。
e 原告ら居住地近隣の職業付添人の料金
原告ら居住地近隣の「X看護婦・家政婦紹介所」派遣による介護者
の賃金は,原則として求人者と介護者との話し合いで決定されるが,標準の希望賃金と運用方法は,介護者の通勤料金(午前9時から午後
6時まで(休憩1時間含む))の基本賃金が9120円,看護師資格の有資格者料金は基本賃金の1.3倍,法定手数料は賃金の13パーセントであり,介護者の往復交通費は公共交通機関利用の実費を求人者が負担することとなっている(甲32)。
(イ)以上の事実から,原告Aに将来必要な介護及び介護費を検討する。 a 原告Aに将来必要な介護
前記認定の原告Aの後遺障害の内容・程度,原告Aの介護状況からすれば,排泄処理,体位交換,食事,痰の吸引,入浴,移動など,日常生活の全てにおいて介護を要し,喀痰機能障害による痰の吸引,痙性麻痺に対する適切な介助のためには,常時看視が必要であり,夜間でも,褥瘡防止のための体位交換,排泄処理を約2時間おきに行う必要がある。
b 介護の担い手(職業付添人の必要性)
(a) 症状固定日から4年間
原告Aは,本件口頭弁論終結日である平成19年6月12日まで,職業付添人を利用しておらず,原告Bら近親者のみによって介護さ れていることが認められるから,原告Aの症状固定日から4年間は,近親者のみによって介護されていると認めるのが相当である。
原告らは,症状固定日からの4年間についても240日間につき職業介護人を前提に算定すべきであると主張するが,現に職業介護人を利用しておらず,採用できない。そして,4年間につき近親者による介護であり,現実に支出されておらず,遅延損害金の起算日との均衡を考慮すると,中間利息を控除するのが相当である。
(b) 症状固定日から4年経過後から原告Bが67歳までの期間
前記認定の原告Aの後遺障害の内容・程度,原告Aの介護状況からすると原告Aの介護の負担は重く,原告Bが肉体的,精神的に疲弊していること,原告Bが本件事故以前にxx勤めている仕事があり,その職場への復帰を希望していることから,原告Bの職場復帰を前提として,職業付添を認める必要がある。
そして,その割合は,原告Bの就労日(月曜日から金曜日までの平日の年間240日間)とするのが相当であり,時間帯は,午前9時から午後5時までの8時間とするのが相当である。
(c) 原告Bが67歳から原告Aの平均余命までの期間
原告Bが67歳以降は,同人の体力低下のため,年間365日,午前9時から午後5時までの8時間,職業付添人を利用し,それ以外の時間帯は,原告Bら近親者が付添看護を行うと認めるのが相当である。
c 付添看護費の算定
(a) 近親者による付添看護が行われる場合
前記認定の原告Aの後遺障害の内容・程度,原告Aの介護状況からすれば,原告Aの介護に伴う身体的負担は極めて重いと認められるし,夜間も体位交換及び排泄処理を頻繁に行わなくてはならないことから,睡眠不足が避けられず,喀痰の吸引や痙性麻痺に対する適切な介助も必要で,常時原告Aを看視しなくてはならないことの精神的負担も極めて大きいということができる。
もっとも,後述のように,原告Aの移動の負担を軽減するための住宅改造費が認められることにより,原告Bの負担は相当程度軽減されると認められる。
よって,近親者による付添看護費は,日額8000円とするのが相当である。
(b) 職業付添人による付添看護が行われる場合
ⅰ 職業付添人のみの付添看護費
前記のとおり,原告Bが67歳に達した以降は,月曜日から金 曜日までの平日年間240日間は,原告Aには1日あたり8時間,職業付添人による介護が必要であると認められるところ,原告A の看護につき,看護師資格を有する者による介護が必要か否かに ついて検討すると,前記認定のとおり,胃瘻による経管栄養及び 痰の吸引が医行為に該当するとの厚生労働省の公式見解は存在し ないものの,原告Bが行っている胃瘻による経管栄養と痰の吸引 は,原告Aの体調及び介護者の手法の適否によっては,身体に対 する危険を有する行為と考えられ,医師が胃瘻による経管栄養に は看護師の関与が必要であり,痰の吸引は看護職が望ましいとの 見解を述べていることも併せ考えると,原告Aに必要な胃瘻によ る経管栄養と痰の吸引については適切な技術を有する者により行 われることが望ましいと考えられる。そして,原告Aが利用可能 な職業付添人の中で,かかる技術を有すると認められる者は,本 件では看護師資格を有する者以外に適切な者は見あたらないから,原告Aの看護につき,看護師資格を有する者による介護が必要で あると考えるのが相当である。
また, 単位時間当たりの付添看護費については, 前記認定の
「X看護婦・家政婦紹介所」における標準賃金を参考にすれば,午前9時から午後6時までの8時間(休憩時間1時間を含む)の基本賃金が9120円であり,看護師の資格を有する者を希望した場合には,基本賃金の3割増,紹介手数料が賃金の13パーセント,交通費として公共交通機関での実費が別途必要になるところ,賃金は求人者と介護者との話し合いで行われ,前記標準賃金
はある程度高額に定められていると推認されることから,職業付添人を午前9時から午後6時までの8時間(休憩時間1時間を含む)利用する場合の職業付添人の付添看護費は,日額1万300
0円とするのが相当である。
ⅱ 職業付添人を補完する近親者の付添看護費
職業付添人を利用する日の原告Bの付添看護費は,原告Bは,夜間においても定期的に体位交換及び排泄処理を行わなくてはならず,睡眠不足,精神的負担も無視できないことからすると,日額3000円が相当である。
ⅲ 合計
以上を合計すると,この場合の付添看護費は日額1万6000円となる。
d 介護期間
原告Aは,症状固定時24歳の男性であり,その平均余命は,平成
15年簡易生命表によれば,55.02年であるから,介護期間は5
5年間と認めるのが相当である。
この点,被告農協及び原告兼補助参加人東京海上は,寝たきり者の平均余命は統計的に短いため,介護期間を10または15年間とすべきであると主張する。
しかし,本来不確実である余命を推認し判断するにあたって簡易生命表による平均余命を用いるのは,個々人が千差万別の条件を有しているところ,余命を左右する条件設定は困難であるから,性別のみを条件とする簡易生命表を用いるのであり,原告Aが寝たきりであるということからその条件だけを取り上げて余命を推認することは妥当ではなく,被告農協らの主張は採用できない。
e 結論
よって,原告Bが67歳になるまで18年,原告Aの平均余命までを55年として,中間利息をそれぞれのライプニッツ係数によって控除すると,将来付添看護費は,以下のとおり9032万1428円となる。
計算式 8,000×365×3.5459+〔(16,000×240)+(8,000×12 5)〕×(11.6895-3.5459)+16,000×365×(18.6334-
11.6895)=90,321,428
ケ 住宅改造費 1065万7832円 (ア) 証拠(甲34ないし36,原告B本人)及び弁論の全趣旨から,以下
の事実が認められる。 a 原告らの住居
原告らが居住している住宅は,県営住宅の6階で,エレベーターは設置されているが,車椅子に乗った原告Aが入るためには,斜めにしてやっと入れる状態であり,出入りが困難であった。また,玄関に入るところから段差があり,車椅子がやっと通れる幅しかなく,賃貸住宅のため改造をすることも困難であった。
b 原告ら提出の新築住宅見積書の内容
原告Xと原告Aの姉の家族とは本件事故以前から二世帯住宅を建築する計画を立てており,本件事故により,原告Aの介護を可能とする介護仕様の二世帯住宅の建築を計画している。
Y一級建築士事務所作成のZ邸概算見積書には,敷地面積は255.
15平方メートルで,介護仕様住宅を建築した場合と通常仕様住宅を建築した場合とに分けて見積額が記載され,それぞれの見積額は,介護仕様住宅を建築した場合が4321万2579円であり,通常仕様住宅を建築した場合が3050万8001円である。
介護仕様住宅,通常仕様住宅共に,2階建てで,延床面積は,介護
住宅で184.48平方メートル(1階床面積117.61平方メー トル,2階床面積66.87平方メートル),通常仕様住宅で166.
26平方メートル(1階床面積100.42平方メートル,2階床面積65.84平方メートル)である。
(イ)以上を前提にして,原告Aに必要な住宅改造費を検討する。
前記のとおり,原告Aは,後遺障害のため寝たきり状態であり,その日常生活のためには全面的介助が必要であり,そのためには自宅改造を要すること,原告らが現在居住する住宅が県営住宅であり,改造が不可能であることは明らかである。
そこで,原告らの提出するY一級建築士事務所作成のZ邸概算見積書について検討すると,介護仕様住宅においては,介護室が介護ベッドなどの大きさを考慮すると広さ高さを大きく取る必要があり,建物規模も大きくさせる必要があるとするが,介護室の広さ高さが十分確保される必要は認められるものの,通常の住宅の建物規模と比較して著しく広大である必要は認められないのであり,とするならば,それにより通常仕様住宅より延床面積の広い住宅を建築する必要があるとまでは認めることはできない。
よって,Z邸概算見積書の見積差額内訳書のうち,建物規模を拡大したことによって生じる費用である,仮設工事,基礎,木工,屋根工事,外壁工事,外部雑,内部雑塗装,電灯コンセント,照明器具及び給排水工事の各工事の合計額204万6746円は差額工事費から除かれるのが相当である。したがって,介護仕様住宅の建築費用と通常仕様住宅の建築費用の差額である金額は,以下のとおり1065万7832円であり,住宅改造費は,1065万7832円と認めるのが相当である。
なお,介護リフトについては,後述するように,原告Aの介護に必要と認められ,他の介護設備と重複するものでないと認めるので,除外す
る必要はない。
計算式 43,212,579-30,508,001-2,046,746=10,657,832
コ 介護ベッド・バス費用 670万5875円 上記のとおり,原告Aは寝たきり状態であることから,介護用のベッド
が必要であり,証拠(甲11の1,2,42)によれば,原告Aが自宅で介護においてしようするケアビリシステムの費用は207万5480円であり,耐用年数は5年ないし7年であるから,少なくとも7年ごとに買い換えの必要がある。よって,症状固定時までに購入した1台分に加え,症状固定後は平均余命の55年間に7回買い換えることになるから,中間利息を7年ごとのライプニッツ係数により控除すると以下のとおり,670万5875円となる。
なお,原告兼補助参加人東京海上は,ケアビリシステムと住宅改造費,介護リフト費,介護用品費と重複すると主張するが,後述のとおり,ケアビリシステムと介護リフト,介護諸用品とは使用目的が異なるので,独立して損害費目として認めることができる。
計算式 2,075,480×(1+0.7106+0.5050+0.3589+0.2550+0.1812+ 0.1288+0.0915)=6,705,875
サ 介護リフト費用(将来分) 176万4846円 証拠(甲35,36,原告B本人)及び弁論の全趣旨によれば,原告A
をベッドから車椅子へ移乗させるためには原告Aの介護により腰椎椎間板 ヘルニアに罹患している原告B一人の力では重労働であり大変であること,建築予定の自宅のリハビリ室は和室であり,車椅子移動では畳を損耗させ ること,原告Bは介護リフトの設置を希望していること,リハビリシステ ムのベッドリフトはベッド内での吊り上げしかできず,室内の移動はでき ないこと,Y一級建築事務所作成のZ邸新築工事概算見積書によると,介 護リフトの費用は,本体82万円,吊金具6万8000円(ともに消費税
抜き)で,消費税込みの合計金額は93万2400円であることが認められる。
そうすると,原告Aの介護には介護リフトが必要であり,その価額は9
3万2400円,耐用年数は8年とするのが相当である。そして,住宅改造費に含まれている1台分のほか,耐用年数8年ごとに買い換える必要があり,平均余命55年間に6回買い換える必要があるから,中間利息を8年ごとのライプニッツ係数により控除すると,以下のとおり176万48
46円となる。
計算式 932,400×(0.6768+0.4581+0.3100+0.2098+0.1420+0.096 1)=1,764,846
シ 介護用品費(その他) 172万2930円 上記のとおり,原告Aは寝たきり状態であり,褥瘡を防止するための体
位交換が必要であり,姿勢を維持するために座位保持装置が必要であり,喀痰機能が低下していることから口腔ケアに際しても吸引器が必要であることがそれぞれ認められる。
そして,証拠(甲37ないし40)によれば,次の介護用品の必要性が認められる。
a | エアマット(介護ベッド用)関連 | 21万1575円 |
b | 体位交換クッション | 3万2340円 |
c | 吸引器関連 | 7万6650円 |
d | 座位保持装具(座ろうくん) | 7万9800円 |
e | 合計 | 40万0365円 |
これらの介護用品は,症状固定までの1台分に加え,症状固定後は少なくとも5年ごとに買い換える必要があるから,平均余命55年に少なくとも10回買い換える必要がある。よって,中間利息を5年ごとのライプニッツ係数によって控除すると,以下のとおり172万2930円となる。
なお,原告兼補助参加人東京海上は,ケアビリシステムとの重複を主張するが,エアマットは褥瘡防止のためであり,体位交換クッションは体位交換の補助具であり,座位保持装置は寝たきり状態の原告Aの座る姿勢を確保するための器具であり,それぞれケアビリシステムとは使用目的を異にするから,それぞれ独立に損害費目として認めることができる。
計算式 400,365×(1+0.7835+0.6139+0.4810+0.3768+0.2953+0.
2313+0.1812+0.1420+0.1112+0.0872)=1,722,930
ス 車椅子費用 262万8460円
原告Aは四肢麻痺の後遺障害があり移動には他人の介助を必要とするから,原告Aの在宅介護生活のためには車椅子が必要と認められ,その1台当たりの費用は,本体21万円に加え,座位保持装置30万5137円,車用座位保持装置9万5650円を含め,合計61万0787円と認められる(甲22ないし26)。車椅子の耐用年数は5年で,座位保持装置の耐用年数は3年であって(甲43),5年ごとに車椅子一式を買い換える必要があると認められる。よって,症状固定までに1台,平均余命の55年間に少なくとも10回買い換える必要があるから,中間利息を5年ごとのライプニッツ係数により控除すると,以下のとおり,262万8460円となる。
計算式 610,787×(1+0.7835+0.6139+0.4810+0.3768+0.2953+0.
2313+0.1812+0.1420+0.1112+0.0872)=2,628,460
セ 車両改造費 203万5698円
原告Aは四肢麻痺の後遺障害があり移動には他人の介助を必要とするから,原告Aの在宅介護生活における移動には,車両の改造(車椅子ごと乗車可能な改造)が必要と認められ,介護仕様車両の価額402万6870円と通常仕様車両の価額348万0960円との差額については,本件事故と相当因果関係がある損害と認められる(甲19ないし21<xxを含
む>)。そして,症状固定までに1台,症状固定後は耐用年数の6年ごとに買い換えが必要であり,平均余命55年間に少なくとも9回買い換えが必要であるから,中間利息を6年ごとのライプニッツ係数によって控除すると,以下のとおり,203万5698円となる。
計算式(4,026,870-3,480,960)×(1+0.7462+0.5568+0.4155+0.3 100+0.2313+0.1726+0.1288+0.0961+0.0717)=2,035,698
ソ 将来雑費 1020万1786円
証拠(甲41)によれば,平成17年12月5日から平成18年2月4日までの62日間に,原告Aの在宅介護のために必要と認められる,おむつ,お尻拭き,吸引ホース,吸引カテーテル及び栄養点滴セット等の購入のために,合計18万8022円を支出していることが認められるから,将来の雑費は,入院雑費の単価である日額1500円を下回ることはないと認められる。したがって,将来雑費は日額1500円と認めるのが相当である。将来雑費は平均余命の55年間にわたり必要であるから,その費用は中間利息を55年間のライプニッツ係数で控除すると,以下のとおり
1020万1786円となる。
計算式 1,500×365×18.6334=10,201,786
タ 慰謝料 3200万円
前提事実,証拠(甲2,47の8,33の1・2,34)及び弁論の全趣旨によれば,原告Aは脳挫傷,脳出血等の重傷を負い,症状固定日まで
27か月余の期間入院し,後遺障害等級第1級3号に該当する四肢麻痺,失語症,遷延性意識傷害という重い後遺障害を負ったこと,被告Cは本件事故直後,警察の事情聴取に対し他人の運転する車の後部座席で寝ていたと虚偽の事実を述べ現場から逃走したこと,原告Bの締結した自動車保険契約の人身傷害補償特約により原告Aに保険金が支払われているが,被告 C自身から原告らに対し一切損害の填補はなされていないことが認められ
る。
そうすると,前記事情のほか本件に現れた諸事情を考慮すると,慰謝料は,傷害慰謝料及び後遺障害慰謝料を合計して3200万円と認めるのが相当である。
チ 過失相殺前の小計 2億7347万2445円上記アからタまでの損害小計は,2億7347万2445円となる。
ツ 過失相殺後の小計 2億5979万8822円 上記チから,過失相殺として5分を減額すると,過失相殺後の小計は,
以下のとおり2億5979万8822円となる。
テ 損益相殺(自賠責保険)後の小計 2億2979万8822円 原告Aには,自賠責保険として3000万円が支払われているから,上
記ツから3000万円を差し引くと,2億2979万8822円となる。
(2) 原告Bの損害
ア 慰謝料 300万円
上記(1)タの事情のほか本件に現れた諸事情を考慮すると,原告Bの慰謝料は,300万円を認めるのが相当である。
イ 弁護士費用 30万円
本件事案の内容,審理の経過に照らすと,本件事故と相当因果関係にある弁護士費用は,30万円と認めるのが相当である。
ウ 合計 330万円
上記ア,イを合計した金額は,以下のとおり330万円となる。計算式 3,000,000+300,000=3,300,000
(3) 確定遅延損害金
ア 自賠責保険金の填補分 369万8630円 証拠(甲17)及び弁論の全趣旨によれば,原告Aは,平成15年8月
7日,自賠責保険金3000万円を受領したことが認められる。よって,
自賠責保険金の確定遅延損害金は369万8630円となる。計算式 30,000,000×900/365×0.05=3,698,630
イ 人身障害補償保険金の填補分 1354万5758円
証拠(甲33の1・2)によれば,原告Aは,平成15年12月15日,人身障害補償保険金として,9600万3922円を受領したことが認め られ,本件事故日から上記支払日まで民法所定の年5分の割合による遅延 損害金が発生している。前記支払日までの日数は1030日間であり,こ れに対する確定遅延損害金は,以下のとおり1354万5758円となる。
計算式 96,003,922×1030/365×0.05=13,545,758
ウ 確定遅延損害金合計 1724万4388円計算式 3,698,630+13,545,758=17,244,388
7 争点(6)(消滅時効)について
(1) 前提事実,証拠(甲2,47の15,丙9の1・2)及び弁論の全趣旨によれば,次の事実が認められる。
ア 平成13年2月19日,本件事故が発生し,原告Aは頭部等に重傷を負い,救急車によって小牧市民病院へ搬送された。小牧市民病院の同日付の入院診療計画書には病名及び症状に脳挫傷と記載されている。
イ 平成13年3月28日作成の小牧市民病院のZ2医師の診断書には病名に脳挫傷,脳幹損傷等と記載されている。
ウ 平成13年6月22日,愛知県小牧警察署のM司法巡査は小牧市民病院において,W2医師から原告Aの容体及び今後の回復見込みについて聴取した結果,以下のとおりの回答を得た。
病名 脳挫傷,脳幹損傷等
容体 意識不明の重体でいわゆる植物状態である
頭部以外の損傷について 病院収容時,前記頭部の傷害以外に腹臓器挫傷,
筋肉の挫滅等多発外傷があったが,骨折はなか
った。前記腹臓器挫傷等により一時,急性腎不全を併発したが,透析治療により,現在は小康状態である。
今後の回復の見込み 今後,植物状態からの回復の見込みはかなり困難で
あり,意思表示ができない状態であることから,全面的介助が今後長期的に必要である。
エ 平成15年5月31日,原告Aは,xx記念病院のW3医師に症状固定と診断され,同日作成の自動車損害賠償責任保険後遺障害診断書には,以下のとおりの記述がある。
傷病名 びまん性軸索損傷
自覚症状 四肢麻痺,失語症,遷延性意識障害
各部位の後遺障害の内容 四肢は除皮質肢位で痙性が強く,自動運動は上
肢にわずかに認められるが目的を持った動きは認められない。発語は全く認められず,終日寝たきりの状態である。食事は摂取できず経管栄養の状態で,尿便は失禁状態にある。CTでは高度の脳萎縮とこれに伴う脳質拡大を認め,M RIでは左頭頂葉に脳挫傷or軸索損傷の集積した像が認められる。
オ 平成16年10月1日,原告らは,被告C,被告ジャパレン及び被告農協に対し,本件事故に基づく損害賠償の支払いを求めて,名古屋地方裁判所に訴えを提起した。これに対し,被告らは,損害賠償請求権が民法72
4条所定の3年の時効により消滅した旨主張し,消滅時効を援用した。
(2) 以上の事実を前提に原告らの本件事故に基づく損害賠償請求権が時効により消滅したか検討する。
不法行為に基づく損害賠償請求権の消滅時効の起算点は,民法724条に
「被害者又はその法定代理人が損害及び加害者を知った時」と規定されているが,この「損害及び加害者を知った時」とは,被害者において,加害者に対する賠償請求をすることが事実上可能な状況の下に,それが可能な程度に損害及び加害者を知った時を意味し(最高裁昭和48年11月26日第二小法廷判決・民集27巻10号1374頁参照),同条にいう被害者が損害を知った時とは, 被害者が損害の発生を現実に認識した時をいうと解される
(最高裁平成14年1月29日第三小法廷判決・民集56巻1号218頁参照)。
前記認定した事実に基づけば,原告らは,平成15年5月31日にW3医師に症状固定と診断され,同日作成の自動車損害賠償責任保険後遺障害診断書を受け取った時点で,本件後遺障害の存在を現実に認識し,加害者に対する賠償請求をすることが事実上可能な状況の下に,それが可能な程度に損害の発生を知ったものというべきである。
この点,被告らは,平成13年6月22日に愛知県小牧警察署のM司法巡査が,W2医師から原告Aの容体及び今後の回復見込みについて聴取した時点で原告Aの傷害及び後遺障害は顕在化し,消滅時効は進行を始めたと主張する。
しかし,平成13年6月22日の時点では,W2医師の回答は,原告Aの状態について,植物状態であり回復の見込みはかなり困難であるとされているが,後遺障害の内容についての回答はなされておらず,原告Aの後遺障害が顕在化したとはいえないし,同回答は司法巡査に対してなされたものであって,原告らがこれらを現実に認識したかどうかは明らかでない。
また,本訴が提起された平成16年10月1日の3年前である平成13年
9月30日以前に,原告らが原告Aの後遺障害の存在を現実に認識したと認めるに足りる証拠はない。
したがって,本訴が提起された平成16年10月1日には,原告らの被告
C及び被告Dに対する本件事故に基づく損害賠償請求権の消滅時効は成立していなかったと認められるから,原告らの本件事故に基づく損害賠償請求は時効消滅したとは認められない。
8 争点(7)(保険代位の範囲)について
(1) 前提事実によれば,原告兼補助参加人東京海上が,原告Aに対し,本件人身傷害補償保険特約に基づき本件人身傷害補償保険金として1億0582万
9912円を支払ったことにより,原告兼補助参加人東京海上は,原告Aの被告Cに対する民法709条に基づく損害賠償請求権及び被告Dに対する自賠法3条の自動車供用者責任に基づく損害賠償請求を保険代位するが,原告 Aの2億2979万8822円の損害賠償請求権のうちどの部分に代位するかを検討する(ただし,保険金として支払った合計1億0582万9912円のうち,原告兼補助参加人東京海上は自賠責保険によって120万円を回収しており,臨時費用2万円は損害の填補にあたらずそもそも代位の対象にはならないから,保険代位しうるのは1億0460万9912円についてである。)。
(2) 本件人身傷害補償保険契約のうち平成12年9月以前のものについては同特約に係る人身傷害保障条項13条が,同年10月以降のものについては同特約に係る人身障害補償条項11条が適用する,一般条項23条1項は,被保険者が他人に損害賠償請求をすることができる場合には,保険会社は,その損害に対して支払った保険金の額の限度内で,かつ,被保険者の権利を害さない範囲内で,被保険者がその者に対して有する権利を取得する旨規定し
(丙18の1・2,弁論の全趣旨),原告兼補助参加人東京海上が被保険者 に対して人身傷害補償条項に基づき保険金を支払った場合には,被保険者の 損害賠償請求権を代位できる旨規定する。この一般条項23条1項が,保険 会社が代位取得する権利の範囲について,「支払った保険金の額の限度内で,かつ,被保険者の権利を害さない範囲内で」と制限しているのは,被保険者
の利益を尊重し,保険金の支払いがなされてもなお填補されない損害がある限り,被保険者が優先して損害賠償請求できるものとし,保険会社は被保険者の権利を害さない残額について損害賠償請求権を代位できるとしたものと解される。
そして,そもそも本件人身傷害補償保険特約は,支払保険金の計算方法について,人身傷害補償条項損害額基準によって算出された損害額から,賠償義務者からすでに支払われた金額や自賠責保険によって支払われた保険金等を除いた金額とされ,被保険者の過失についてはなんら規定していないことから,保険会社は被保険者の過失の有無,割合に関係なく,被保険者が被った損害を保険金額の限度で上記計算された金額を支払うことを内容とした保険であると解される。
とするならば,被保険者が人身傷害補償保険金の支払いを受けた後に,加害者に対して損害賠償請求する場合において,被保険者にも過失があるとされたときには,人身傷害補償保険金はまず損害額のうち被保険者の過失割合に対応する額に充当され,人身障害補償保険金が被保険者の過失割合に対応する額を上回る場合にはじめて,その上回った額について,被保険者の加害者に対する損害賠償請求権を代位取得できると解するのが相当である。
(3) 本件においては,前記のとおり,損害額は2億7347万2445円であ り,原告Aの過失割合は5分でその額は1367万3622円であるから, 原告兼補助参加人東京海上の代位対象額1億0460万9912円との差額 である9093万6290円について,原告兼補助参加人東京海上は原告A の被告C及び被告Dに対する損害賠償請求権について代位することができる。
したがって,原告Aは,損益相殺(自賠責保険金)後の小計2億2979万8822円と原告兼補助参加人東京海上の代位額9093万6290円との差額である1億3886万2532円について,被告Cに対して損害賠償請求権を取得する。
9 原告Aの損害額合計
(1) 原告Aの弁護士費用 565万円
本件事案の内容及び審理の経過等に照らすと,本件事故と相当因果関係にある原告Aの弁護士費用は565万円が相当である。
(2) 原告Aの損害額合計 1億4451万2532円
上記8(3)の原告Aの損害賠償請求権に,上記(1)の弁護士費用を加えた額は,1億4451万2532円となる。
第5 結論
以上によれば,原告Aの被告C,被告ジャパレン及び被告農協に対する請求は,被告Cに対し1億4451万2532円及びこれに対する本件事故の日である平成13年2月19日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金並びに1724万4388円の支払いを求める限度で理由があるからこれを認容し,その余の請求は理由がないから棄却することとし,原告Bの被告C,被告ジャパレン及び被告農協に対する請求は,被告Cに対し330万円及びこれに対する本件事故の日である平成13年2月19日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金を求める限度で理由があるからこれを認容し,その余の請求は理由がないから棄却することとし,乙丙事件原告東京海上の被告らに対する請求は,被告Cに対し9093万6290円及びこれに対する保険金支払日の翌日である平成15年12月16日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払いを求め,被告Dに対し,2
000万円及びこれに対する保険金支払日の翌日である平成15年12月16日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払いを求める限度で理由があるからこれを認容し,その余の請求は理由がないから棄却することとし,主文のとおり判決する。
名古屋地方裁判所民事第3部
裁判長裁判官 x x x x
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