SUPPLY AGREEMENT(以下、別添 4 契約)に基づき、ネゴ蟹 1 万杯の売買契約は正式に締結された(下記 A)ため、ブルー社はレッド社に対して 200 万米ドルの代金支払い義務を負う。それにもかかわらず、ブルー社は誤情報による注文であったため契約を取消せる、との主張をしており本件債務を履行していない(下記 B)。
蟹事件
請求Ⅰ: ブルー社はレッド社に対し、200 万米ドルを支払え、との仲裁判断を求める
第 1 レッド社とブルー社の間では、ネゴ蟹 1 万杯の売買契約が成立する
SUPPLY AGREEMENT(以下、別添 4 契約)に基づき、ネゴ蟹 1 万杯の売買契約は正式に締結された(下記 A)ため、ブルー社はレッド社に対して 200 万米ドルの代金支払い義務を負う。それにもかかわらず、ブルー社は誤情報による注文であったため契約を取消せる、との主張をしており本件債務を履行していない(下記 B)。
よって、レッド社はユニドロワ国際商事契約原則 2016(以下、UPICC)7.2.1 条に基づき、ネゴ蟹の売買契約によって生じた 200 万米ドルの金銭債務の履行を請求する。
A. レッド社とブルー社の間でネゴ蟹 1 万杯の売買契約は成立した
(a)「スマート・ブルー」を使用した取引は別添 4 契約の修正にあたる
ブルー社の「スマート・ブルー」を使用した取引は別添 4 契約の修正にあたるため、
別添 4 契約 6 条 4 項の完結条項は適用されない。
UPICC2.1.18 条注釈には、契約中に、その変更は特定の方式によるべき旨の条項があったとしても、自己の行動を相手方が信頼して合理的に行動した限度においてその援用を妨げられると規定されている。
本件において、別添 7 におけるレッド社とブルー社間の電子メールを通じたやりとりにおいて、〈グローバル・キッチン〉での取引において「スマート・ブルー」を使用することに合意がなされた。その後、当該合意を信頼してレッド社は 1 年間「スマート・ブルー」を通じてブルー社に物品の提供を行った。この「スマート・ブルー」を用いた取引は、レッド社がブルー社を信頼して合理的に行動したといえ、別添 4 契約 6 条 4 項の援用は妨げられる。
以上により、〈グローバル・キッチン〉における「スマート・ブルー」を使用した取引は別添 4 契約の修正にあたるため、有効に成立した。
(b) ネゴ蟹 1 万杯の取引において申込みと承諾がなされている
UPICC2.1.1 条において「契約は申込みに対する承諾により、または合意を示すのに十分な当事者の行為により締結することができる」と規定されている。加えて、申込みの定義として UPICC2.1.2 条では「契約締結の申入れは、それが十分確定的であり、かつ承諾があれば拘束されるという申込者の意思が示されているときに申込みとなる」とされている。
本件において、2019 年 3 月 4 日 1 時にブルー社はレッド社に対して 1 万杯のネゴ蟹を
注文した[p.5,¶14]。この行為は別添 4 契約 1 条 1 項に沿った注文であり、承諾があれ
ば拘束されるという意思のもと示されたものであるため、UPICC2.1.2 条の申込みに該当すると解される。
この点につき AI による注文がなされているため、ブルー社の意思の不存在が問題となるが、人間の関与なしに電子的作動によって自動化した契約締結においても、契約当事者が同意している場合は有効となる[UPICC2.1.1 条注釈 3]。
本件では、当事者間で覚書及びメールにて AI を用いた発注システムを用いることに合意をしているため、たとえ AI を用いた契約であってもブルー社の上記行為は申込みにあたる[別添 6,7]。
また物品の発送は行為による承諾として認められる[UPICC2.1.6 条注釈 2]。本件においてレッド社がブルー社の申込みを受け、注文通りの内容を履行すべく発送を行なったことは別添 4 契約 1 条 1 項に沿った行為であり、ブルー社の申込みに対する承諾であると言える。
よって、レッド社の上記行為はブルー社の申込みに対する承諾とみなすことができ、本件ネゴ蟹 1 万杯の売買契約は両当事者の行為によって成立した。
B. ブルー社は契約を取り消すことができない
レッド社の誤情報による錯誤を理由として契約の取消しができるとの主張は UPICC3.2.2条 2 項(a)錯誤に陥るにつき重大な過失があった、(b)錯誤が、その錯誤のリスクが錯誤当事者によって引き受けられた場合に該当するため、当方の主張に影響を与えない。
(a) 錯誤に陥るにつき重大な過失があった
リアルタイムで取引を確認できる「RB Dashboard」にはブルー社が注文する前からネゴ蟹が正常な価格で示されていたのにもかかわらず、ブルー社は確認を怠り祝日を理由にレッド社に一切連絡をしなかった[p.7,¶16]。しかし、「スマート・ブルー」は 24時間 365 日稼働するものであり[別添 7]、たとえ祝日だとしても商品の受注を管理する会社の性質上、その受注において深く注意し確認すべきであった。よって誰も本システムを管理、監視しないことが錯誤を生じさせたと言える。以上により、錯誤に陥るにつき重大な過失があったため、ブルー社は錯誤による契約の取消しを主張することができない。
(b) 錯誤が、その錯誤のリスクが錯誤当事者によって引き受けられた
ブルー社はネゴ蟹が 1 杯あたり 50 米ドルであるという情報、価値を鵜呑みにしてレッド社に対して注文したが、商取引においては通常、物品の価値についての錯誤は取消原因にならないとされている[UPICC3.2.2 条注釈 1]。
本件においてブルー社の錯誤は物品の価値によるものであることに加え、商品を受注して管理するというブルー社の事業の性質上、その価値を確かめる責任はブルー社にあった。さらに当該注文は顧客からの注文ではなく、情報をもとに AI が判断する、いわばネゴ蟹が売れるかどうかわからない投機的契約であった。その状況下においてブルー
社は、価値が正しいことをより一層確認しなければならなかった。この確認を怠ったことは、本件錯誤のリスクをブルー社が引き受けたと解される。
さらには両当事者のメールのやりとりにて、ブルー社は第三者からの情報の真正さについて、レッド社が責任を取らないことを許容した[別添 7]。つまり、AI の判断する情報に誤情報が含まれる可能性があることを認識した上で注文することにブルー社は合意している。よって別添 4 契約のもと行われる契約とは、レッド社が責任を負わない誤情報が含まれた膨大な情報の中から判断するという一定のリスクをブルー社が負うことに合意している契約であり、ネゴ蟹の売買契約においても同様である。
よって商業的な不合理さに加え、ブルー社の本売買契約における行動は UPICC3.2.2条 2 項(b)に該当するため、ブルー社は錯誤による本件契約の取消しを主張することができない。
第 2 ブルー社がレッド社に対して支払うべき代金額を減額すべき事情はない
本件において、両社間ではネゴ蟹を 1 杯あたり 200 米ドルとして正式に売買契約が締結されている。よって UPICC1.3 条に規定されているように、有効に締結された契約は当事者を拘束するため、本件においても 1 杯あたり 200 米ドル分の代金を支払うことは当然である。
なおブルー社による、レッド社にも本損害が生じた原因があることを理由とした UPICC7.4.7 条に基づく代金額の減額請求は当方の主張に影響を与えない。UPICC7.4.7 条は損害の軽減を規定している。しかし同条は損害賠償に関する条文であるため、本件のようなレッド社による支払い請求の減額を求める際に用いることは妥当ではない。
また UPICC7.4.7 条の根拠事実として、ブルー社は「レッド社は RB リンクを通じて情報提供を行う義務を負っていたのであり、誤った情報を提供したことは、当該義務の違反であ る」とし、ネゴ蟹 1 杯あたり 50 米ドルの減額を主張している[p.7,¶16]。しかし、情報系システムにレッド社が情報を入力した際には正しい情報であったため責任を果たしたと言 え、その後にブルー社のメールが原因でハッキングがなされたため意図せず誤情報となってしまった。よって、ブルー社がレッド社に対して支払うべき代金額を減額すべき事実はな く、そのような主張が認められる法的根拠もない。
以上により、UPICC7.2.1 条に基づき、ブルー社はレッド社に対し 200 万米ドルを支払えとの仲裁判断を求める。
請求Ⅱ: ブルー社の請求を棄却する、との仲裁判断を求める
第 1 ネゴ蟹 1 万杯はブルー社に帰属し、代理及び債務の移転を主張できない
ブルー社は 2019 年 3 月に締結した Contract[別添 8 契約]に基づき、グリーン社とネゴ蟹
1 万杯の売買契約を締結したため、その販売に要した費用である 50 万米ドルを負担する義
務を負う。本件において、両社間のネゴ蟹の売買契約は成立しているため、ネゴ蟹 1 万杯は
ブルー社に帰属している。よって、ブルー社は代理を主張できない(下記 A)。また、新債務者、債権者の同意という要件を満たさないため、債務の移転も主張できない(下記 B)。
A. ブルー社は代理を主張することができない
UPICC2.2.1 条に基づき、ブルー社はレッド社から代理権を授与されたため、レッド社が 50 万米ドルを支払う義務を負うと主張することはできない。
本件においてブルー社とレッド社間のネゴ蟹の売買契約は有効に成立した。よってブルー社にネゴ蟹が帰属されており、レッド社に同商品を売買する権限はない。したがって、ブルー社は代理を主張できない。
B. ブルー社は債務の移転を主張することができない
ブルー社はレッド社に債務を移転すること、その結果レッド社が 50 万米ドルを支払う義務を負うことを主張できない。金銭の支払いまたはその他の給付すべき債務は、 UPICC9.2.3 条にしたがってなされた原債務者と新債務者の間の合意[UPICC9.2.1 条(a)]が存在することで原債務者から新債務者に移転することができる。これに加えて債務の移転には、債権者の同意も必要となる[UPICC9.2.3 条注釈]。
本件ではブルー社との会話において、レッド社は債務の移転に関して同意を示していない。また、「別途解決することとしてはどうか」というブルーの発言に承諾したこと [p.8,¶17]を同意とみなす場合でも、債権者であるグリーン社の同意を得ていないため、債務の移転は成立しない。
第 2 仮にネゴ蟹がレッド社に帰属していたとしても、ブルー社の行為は無権代理である ネゴ蟹がレッド社に帰属したとしても、グリーン社との契約において授与した代理権の範
囲は、ネゴ蟹を出来るだけ高い値段で売ること[p.7,¶17]であり、本件ブルー社の行為は本件代理権の範囲を逸脱している。主張の根拠は以下のとおりである。
UPICC2.2.5 条 1 項によると、代理人が代理権なく、またはその代理権の範囲を超えて行為したときは、その行為は本人と相手方との間の法律関係に効力を生じない、と規定されている。
この無権代理か否かを判断するために、当事者の言明およびその他の行為が考慮される が、それはその意思に従って解釈する[UPICC4.2 条 1 項]。本件において、レッド社とブルー社はネゴ蟹を出来るだけ高い値段で売ることが望ましい、という点で考えが一致していた [p.7,¶17]。加えて本件グリーン社へのネゴ蟹の売却は、運送費と関税は売主が負担するという条件があった[p7,¶17]。それを鑑みると高い価格で売却することができたとしても、その他関税、運送費が高額であれば、本来の当事者の目的を逸脱する。よって、「ネゴ蟹を出来るだけ高い値段で売ること」には運送費、関税の費用を出来る限り抑えることが望ましいという意味が含まれる。それにもかかわらず、50 万米ドルの費用をかけ、グリーン社に
ネゴ蟹を売却したブルー社の行為は当初レッド社がブルー社に授与した代理権の範囲を超えている。
したがって、運送費と関税が 2 倍近くに増加した時点で、当該代理権を行使すべきではなく、行使したことは無権代理に該当する。
以上により、レッド社は売却に要した 50 万米ドルを支払う義務を負わず、ブルー社の請求を棄却する、との仲裁判断を求める。
ブルー・ホット事件
請求Ⅲ: ブルー社は、ネゴランド国内で〈ブルー・ホット〉シリーズ(以下、〈ブルー・ホット〉)の販売を行う第三者に対して〈ブルー・ホット〉を提供してはならな い、との仲裁判断を求める
第 1 ブルー社によるネゴランド国での〈ブルー・ホット〉の販売及びブラウン商事への販 売は、合弁契約 14.3 条におけるブルー社の義務に違反する
ブルー社は、2014 年 12 月に締結した“Joint Venture Agreement”(以下、合弁契
約)14.3 条においてイエロー社と競合する事業に従事しないとの義務を負っているため[別添 10]、競合事業を直接行うことのみならず、間接的に関わることも禁止されている(下記 A)。しかし、本件においてブルー社はブラウン商事に〈ブルー・ホット〉を提供し、それをネゴランド国内で販売させたことにつき、合弁契約 14.3 条に違反した(下記 B)。また、合弁契約 14.1 条においては、ブルー社はイエロー社の事業を成功させるためのxxx義務を負っている。それにもかかわらずブルー社は、ブラウン商事がネゴランド国内でも〈ブル ー・ホット〉を販売する意向を知った上で同商品を提供した。そのため、ブルー社は当該行為につき合弁契約 14.1 条に違反した(下記 C)。
A. ブルー社は合弁契約 14.3 条において、ネゴランド国内でイエロー社の商品と同種の 即席食品を販売しない、また、販売に間接的にもかかわってはいけない、との義務を負う
(a) 合弁契約 14.3 条の適用範囲はネゴランド国内である
合弁契約 14.3 条では「イエロー社の事業と競合する事業を行うこと及び従事することをしてはならない」と規定されているが、適用される地域については明記されていない。UPICC4.8 条 1 項には両当事者が双方の権利義務の確定にとって重要な条項について合意していないときは、当該状況のもとで適切な条項が補充されなければならないと規定されている。さらに、何が適切な条項であるかを判断するにあたっては他の要素とともに契約の性質及び目的を考慮されなければならない[UPICC4.8 条 2 項(b)]。
本件において、両当事者はネゴランド国内における即席食品の需要の高まりに合わせ、合弁事業を行うことに合意した[別添 9]。また、合弁契約前文においても、“ Red and Blue wish to cooperate in producing and marketing instant foods
(“Products”) in Negoland and other countries.”と、ネゴランド国における即席食品の製造・販売について特段に記されている。したがって、本契約の目的はネゴランド国内における即席食品事業の展開であることがわかる。
以上により、合弁契約 14.3 条は適用される範囲において「ネゴランド国内」と補充されるべきである。
(b) 合弁契約 14.3 条における「競合する事業」とは、ネゴランド国内でイエロー社の商品と同種の即席食品を販売すること、またはそれらの事業に従事することである
前段で述べた通り、本契約の目的はネゴランド国内における即席食品事業の展開である。したがって、合弁契約 14.3 条における「競合する事業」とは、イエロー社が展開する即席食品事業と同種の即席食品を販売する、またはそれらの事業に従事することであり、これには両当事者共通の認識があると解される[UPICC4.1 条 1 項,4.3 条(d)]。
また、合弁契約 14.3 条ではイエロー社と競合する事業を「行うこと」(“carry on”)とイエロー社と競合する事業に「従事すること」(“engage in”)をしてはならないと表現されている。つまり、ブルー社が自ら競合事業を行うこと(“carry on”)を禁じるのみならず、間接的な競合事業に関わること(“engage in”)も禁じるという両当事者の共通の意思がある[UPICC4.1 条 1 項,4.3 条(e)]。
以上により、ブルー社は合弁契約 14.3 条においてネゴランド国内でイエロー社の商品と同種の即席食品の販売を行わない、及びそれらの事業に従事してはならないとの義務を負う。
B. ブラウン商事によるネゴランド国内における〈ブルー・ホット〉の販売は、合弁契約 14.3 条におけるブルー社の義務に違反する
(a) ネゴランド国内における〈ブルー・ホット〉の販売は合弁契約 14.3 条における
「イエロー社の事業と競合する事業」にあたる
既述の通り、合弁契約 14.3 条においてブルー社は、ネゴランド国内でイエロー社の事業と競合する事業を行うこと及び従事することをしてはならないとの義務を負う。
本件において、〈イエロー・クイック〉シリーズ(以下、〈イエロー・クイック〉)は 2017 年までは順調に売上げを伸ばしていたところ、〈ブルー・ホット〉がネゴランド国内で販売開始されたことを機に、2018 年から突如売上げが半減し、1000 万米ドルとなった[p.10,¶24]。さらに両当事者が信頼できると認めているボブ・オレンジ教授からは、ネゴランド国内では消費者が〈xxx・xxx〉は〈xxxx・xxxx〉よりも優れているとの認識を持っている、との証言を得ている[別添 12]。このことから、〈xxx・xxx〉は〈xxxx・xxxx〉と競合することは明らかである。
以上により、ネゴランド国内における〈ブルー・ホット〉の販売は合弁契約 14.3 条における「ネゴランド国内でイエロー社の事業と競合する事業」にあたる。
(b) ブラウン商事によるネゴランド国内における〈ブルー・ホット〉の販売は、合弁契約 14.3 条における「イエロー社の事業と競合する事業に従事すること」にあたり、ブルー社の契約義務に違反する
B-(a)により、〈xxx・xxx〉は〈xxxx・xxxx〉と競合する商品であ る。その〈ブルー・ホット〉をネゴランド国内で販売する意図のあるブラウン商事と、ブルー社はその意図を知った上で 2018 年 1 月に取引を開始した[別添 13]。その後、ブラウン商事は実際にネゴランド国内で〈ブルー・ホット〉の販売を行い、〈イエロー・クイック〉の売上げは前年に比べ半減することとなった。そのため、ブルー社はネゴランド国内における〈ブルー・ホット〉の販売を自ら行ったわけではないにせよ、ブラウン商事による〈ブルー・ホット〉の販売に関わっていたと言える。
したがって、ブルー社がブラウン商事に〈ブルー・ホット〉を提供し、ネゴランド国内で販売させたことは合弁契約 14.3 条における「イエロー社の事業と競合する事業に従事すること(“engage in”)」にあたる。
以上により、ブラウン商事によるネゴランド国内における〈ブルー・ホット〉の販売は、合弁契約 14.3 条におけるブルー社の契約義務に違反する。
C. また、ブラウン商事による〈ブルー・ホット〉の販売は、合弁契約 14.1 条における ブルー社の義務にも違反している
合弁契約 14.1 条において、 “ Both parties shall use their best efforts and shall cooperate with each other in good faith to make the business of Yellow to be successful.”とあることから、ブルー社はイエロー社の事業の成功のためのxxx義務を負っている。
本件においてブルー社は、ブラウン商事が〈xxxx・xxxx〉との競合商品である
〈ブルー・ホット〉をネゴランド国内で販売することを知っていたにもかかわらず、ブラウン商事に提供した [別添 13]。そのため、ブルー社は〈ブルー・ホット〉をブラウン商事に販売すると、同じ即席食品である〈イエロー・クイック〉の売上げが下がる可能性は十分に理解していたといえる。
以上により、ブラウン商事にネゴランド国内で〈ブルー・ホット〉を販売を許したことは、意図的にイエロー社の事業を陥れる行為であるため、当該行為は合弁契約 14.1 条におけるブルー社のxxx義務に違反する。
第 2 ブルー社は、ネゴランド国内で〈ブルー・ホット〉の販売を行う第三者に対して〈ブ ルー・ホット〉を提供してはならない
ブルー社は合弁契約 14.3 条において、イエロー社の事業と競合する事業に従事してはならないという不作為債務を負っている。既述のとおり、〈ブルー・ホット〉をネゴランド国内で販売する第三者に提供することは契約義務違反となるため債務不履行となるが、第三者がネゴランド国内で〈ブルー・ホット〉の販売を行う意向をブルー社が知らなかったとして
も、〈ブルー・ホット〉を当該第三者に提供すれば債務不履行となる(下記 A)。当該不履行につき、ブルー社は履行を免れる事情は何ら存在しないため、UPICC7.2.2 条に基づき、ブルー社はネゴランド国内で〈ブルー・ホット〉の販売を行う第三者に対して〈ブルー・ホット〉を提供してはならない(下記 B)。
A. 仮に、ネゴランド国内で第三者が〈ブルー・ホット〉の販売を行う意向を知らなかっ たとしても、ブルー社は当該第三者に〈ブルー・ホット〉を提供してはならない
既述のとおり、合弁契約 14.3 条において第三者に対する〈ブルー・ホット〉の販売 は、イエロー社の事業に競合する事業に従事すること(“engage in”)にあたる。また、第三者が〈ブルー・ホット〉をネゴランド国内で販売する意向をブルー社が知らなかったとしても、ブルー社は当該第三者に〈ブルー・ホット〉を提供してはならない。主張の根拠は以下のとおりである。
合弁契約 14.1 条では “Both parties shall use their best efforts and shall cooperate with each other in good faith to make the business of Yellow to be successful.”とあることから、ブルー社はイエロー社の事業の成功のための最善努力義務を負っている。この点、ブルー社は即席食品事業を全世界に展開しており、即席食品の製造・販売については高度の専門性を有しているため、当該最善努力義務についてブルー社はより多くの努力が求められる。(UPICC5.1.4 条注釈 2)
本件において、〈ブルー・ホット〉が同種の即席食品である〈イエロー・クイック〉の競合商品となることは、即席食品について高い専門性を確立しているブルー社にとっては予見しておくべきことである。そのため、第三者への販売とはいえイエロー社の事業と競合する恐れがある以上、〈ブルー・ホット〉の販売は慎重に行わなければならない。したがって、ブルー社は仮に第三者が〈ブルー・ホット〉をネゴランド国内で販売する意向を知らないとしても、当該第三者と同商品をネゴランド国内で販売することを禁止する約定を交わすなどの合理的な対策を行うことが、ブルー社に求められる最善努力であると解する。
以上により、ブルー社は第三者がネゴランド国内で〈ブルー・ホット〉を販売する意向を知らない場合も、当該第三者に同商品を提供してはならない。
B. ブルー社は合弁契約 14.3 条の義務を履行する債務の不履行につき、当該債務を履行 しなければならない
ブルー社は合弁契約 14.3 条において、契約締結期間内はイエロー社と競合する事業に従事しないとする不作為債務を負っている。しかし、ブルー社はネゴランド国内で〈ブルー・ホット〉の販売を行うブラウン商事に対して〈ブルー・ホット〉を提供したため、当該債務を履行していない。したがって、ブルー社は当該不履行につき、履行を追完しなければならない[UPICC7.2.2 条]。 主張の根拠は以下のとおりである。
UPICC7.2.2 条においては、(a)〜(e)各号のいずれかに当てはまる場合、債権者は履行を債務者に請求できないとしている。しかしながら、本件において以上の要件に当てはまる事実はない。
したがって、ブルー社は合弁契約 14.3 条における債務を履行しなければならないた め、ネゴランド国内で〈ブルー・ホット〉の販売を行う第三者に同商品を提供してはならない。
請求 IV: ブルー社はレッド社に対し 40 万米ドルを支払え、との仲裁判断を求める
〈イエロー・クイック〉の売上げは 2017 年まで順調に伸びていたことから、2018 年においては少なくとも 2000 万米ドルであったことには蓋然性がある。したがって、ネゴランド
国内における〈ブルー・ホット〉の販売によるイエロー社の利益喪失分は 1000 万米ドルであり、レッド社の損害額は 40 万米ドルである(下記 A)。また、契約締結時において、ブルー社はイエロー社と競合する事業に従事しないことには、合弁契約 14.3 条を通して合意していたため、UPICC7.4.4 条における損害の予見可能性は認められる(下記 B)。さらに、本件においてレッド社が免れることのできた損害は存在しないことから、UPICC7.4.2 条に基づきレッド社は自社に生じた 40 万米ドルの損害全額の賠償をブルー社に請求する(下記 C)。
A. レッド社の 40 万米ドルの減益は、ネゴランド国内における〈ブルー・ホット〉の販売によるものである
UPICC7.4.3 条 2 項によると、機会の喪失についても、その機会の生ずる蓋然性に応じた賠償を請求できる。
本件において、ブルー社がネゴランド国内において〈ブルー・ホット〉を販売したことを境に〈イエロー・クイック〉の売上げは 1000 万米ドル減少している。よって、〈ブル
ー・ホット〉の販売によりイエロー社は 1000 万米ドルの機会喪失を被っているため、レ
ッド社の損害額は 40 万米ドルである[UPICC7.4.3 条 2 項]。主張の根拠は以下の通りである。
〈ブルー・ホット〉は、2018 年 1 月からブラウン商事によってネゴランド国で販売された。その結果、ネゴランド国内外で大ヒットを記録していた〈イエロー・クイック〉は 2018 年のネゴランド国での売上が突如 50%減少して 1000 万米ドルとなり[p.10,¶24]、イエロー社のネゴランド国での収益は 100 万米ドルの減益となった[別添 12]。ボブ・オレンジ教授の鑑定意見にもあるように、ネゴランド国での〈ブルー・ホット〉の販売は
〈イエロー・クイック〉の売上に大きな影響を与えていることは明らかである [別添 12]。 したがって、〈イエロー・クイック〉の前年の売上高 2000 万米ドルを考慮する と、〈ブルー・ホット〉が販売されなかった場合、少なくとも 2018 年も 2000 万米ドルの売上高が想定される。
以上により、イエロー社は〈ブルー・ホット〉のネゴランド国内における販売により 1000 万米ドルの機会喪失を被っているため、レッド社の損害額は 40 万米ドルである。
B. ブルー社はレッド社に損害を生じさせたことにつき、予見可能であった UPICC7.4.4 条によると、債務者は契約締結時に、不履行の結果として生ずるであろう
ことを予見しまたは合理的に予見することができた損害についてのみ賠償の責任を負う。つまり、予見できなかった損害について賠償責任を負わない。
しかしながら、本件におけるブラウン商事のような第三者に〈ブルー・ホット〉を提供することによって義務違反が生じ、イエロー社の売上げが減少する可能性については、合弁契約 14.3 条の表現に一般的に与えられる意味を考慮すると合理的に予見することは可能であった[UPICC4.1 条 2 項,4.3 条(e)]。主張の根拠は以下のとおりである。
合弁契約 14.3 条において、両当事者はイエロー社と競合する事業を行ってはならない旨に合意しているため、ブルー社は競合商品がネゴランド国内で販売された場合、イエロー社に損害が及ぼされることは想定していたはずである。また既述の通り、14.3 条の文言を “carry on”と “engage in”に分けていることから、競合事業を直接行ってはならないことのみならず、間接的にも携わってはならないことについても合理的に認識しうるものであった。
以上により、第三者(ブラウン商事)への〈ブルー・ホット〉の提供がイエロー社に損害を被らせることを、契約締結時にブルー社は予見可能であったと解する。
C. ブルー社によって生じた損害につき、レッド社が出費や損失を免れた結果得た利益は存在しない
UPICC7.4.2 条 1 項によると、債権者は被った損失および奪われた利益の双方を含む損害につき全部賠償を請求する権利を有する。しかし、債権者が出費や損失を免れた結果得た利益は控除される。
本件では、イエロー社の減益の原因である〈xxxx・xxxx〉の売上減少は、〈ブルー・ホット〉にシェアを奪われたことに起因する。すなわち、ブルー社は利益を得ているが、レッド社が出費や損失を免れた結果得た利益はない。
したがって、ブルー社によって生じた損害につき、レッド社が出費や損失を免れた結果得た利益は存在せず、自社が負担するイエロー社の減益の損害について全部賠償を請求する権利を有する。
以上 3 点より、ブルー社はレッド社に 40 万米ドルの損害賠償を支払わなければならない。
Third-party Funding の論点
請求 V: ブルー社の請求を棄却する、との仲裁判断を求める
第 1 レッド社は契約内容の開示義務を負わず、ブルー社の請求を棄却するとの仲裁判断を 求める
本件においてレッド社は第三者からの資金提供を受けており、ブルー社はレッド社にファンドとの間の仲裁費用の負担(以下、TPF)に関する契約内容の開示を求めている[別添 15]。しかし、レッド社は TPF に関する開示義務を負わない(下記 A)。 また、仮にレッド社に TPFに関する開示義務があったとしても、レッド社は資金提供者名を開示すれば足り、当該契約内容を開示する義務を負わない(下記 B)。 また、仲裁人は状況の変化があった場合、追加の開示を行わなければならない義務を負う(下記 C)。
したがって、ブルー社の請求を棄却する、との仲裁判断を求める。 A. レッド社は TPF に関する開示義務を負わない
(a) UNCITRAL 仲裁規則上、当事者は TPF に関する開示義務を追わない
UPICC1.3 条には「有効に締結された契約は当事者を拘束する」と規定されている。本件では合弁契約 20.2 条において両当事者は UPICC と UNCITRAL 仲裁規則を本仲裁に用いることに合意しており、両者はこれらにのみ拘束される。UNCITRAL 仲裁規則には 11
条から 13 条にかけて仲裁人の忌避に関する条文が存在するが、これらの規定は仲裁当事者による文書提出を求めるものではなく、仲裁人が利益が相反し得る状況を知った際にこれを開示することを意図しているものである。したがって、UNCITRAL 仲裁規則には当事者が TPF に関する開示をする義務について規定されていない。
よって本仲裁において仲裁当事者であるxxx社は TPF に関する開示義務を負わない。
(b) 当事者が TPF に関する開示をする義務は一般的な義務ではない
また、TPF に関する開示義務は一般的な義務ではない。多数の仲裁法、仲裁規則で は、当事者に資金提供に関する開示義務を課すとxxで定めていない。そのため、当事者が資金提供者との TPF に関する開示をする義務は、一般的な義務として認められるには不十分である。
本件において、レッド社は当該ファンドと仲裁人に利害関係があるとの情報は有しておらず、開示しないことが仲裁手続きのxx性を奪うとは考えられない。当事者による TPF に関する開示義務は一般的な義務ではない上、レッド社と資金提供者の間で資金提供者、仲裁費用の負担に関する契約内容を第三者に開示してはならないと合意している
ことを鑑みても[p.12,¶27]、レッド社は資金提供者、仲裁費用の負担に関する契約内容の開示をする必要はない。
したがって、レッド社は仲裁費用の負担に関する契約内容の開示義務を負わない。
B. 仮にレッド社に TPF に関する開示義務があったとしても、当該契約内容を開示するx xまでは負わない
TPF において契約内容まで開示させることは妥当でない。なぜなら契約内容の開示は当事者の秘密保持に影響を与えるのみならず、当事者に与える商業的損害も大きいためである。
実際に一方の当事者が仲裁手続の透明性と当事者のxx性確保のため、資金提供者名とその契約内容の開示を請求した判例[South American Silver Limited v. Bolivia,PCA Case No. 2013–15,Procedural Order No.10 of 11 January 2016]では、仲裁xは透明性とxx性を確保するために資金提供者名について当事者に開示するように判断を下した が、資金提供に関する契約までは開示を認めなかった。また、当事者が TPF について開示義務を負う各国の仲裁法や仲裁規則においても、その開示の範囲は資金提供の事実や資金提供者名等にとどまる。
本件では、仲裁人は一度、資金提供が何者かを知らない旨の開示を行っている [p.12,¶27]。しかし一般的にそのような場合においても、資金提供者名が判明すれば仲裁手続きの透明性、xx性は確保される。そのため、仮にレッド社に TPF に関する開示義務があったとしても、ただ資金提供者名を開示することで足り、いずれにせよ契約内容まで開示する義務を負わない。
以上により、仮にレッド社に TPF に関する開示義務があったとしてもレッド社は TPF に関する契約内容まで開示する義務を負わない。
C. 仲裁人は状況の変化があった場合、追加の開示を行わなければならない
UNCITRAL 仲裁規則 11 条によると、仲裁人は「任命のときから、また、仲裁手続きを通じて」そのxx性または独立性に関する正当化されうる疑問を生じうる状況を開示しなければならない。すなわち、仲裁開始後も状況が変化した場合には追加の開示を行わなければならない。
本件において、仲裁人は一度、資金提供者が何者かを知らない旨の開示を行っている [p.12,¶27]。しかし、仲裁判断作成までの時点で、仲裁人が資金提供者が誰であるかを知る可能性は排除できない[p.12,¶27]。そのため仲裁人は UNCITRAL 仲裁規則 11 条に基づき、今後も新たな情報が判明した場合には、自身のxx性、独立性に影響を与えうる事項につき追加の開示を行わなければならない。よって、レッド社が TPF に関する開示を行わない場合でも、仲裁人のxx性・独立性に関する疑問は解決されうる。
以上により、ブルー社の請求は棄却されるべきである。
以上