第8条(完全休養日・追加報酬) 1 発注者は、週のうち少なくとも●日(毎週●、●曜日)はスタッフの完全休養日(事務作業を含め一切の業務が行われない日)とする。 2 前項の定めにかかわらず、発注者は、業務上やむを得ない事情がある場合、少なくとも24時間より前にスタッフと合意することにより、完全休養日を変更することができ る。ただし、完全休養日の変更の間隔は7日以内とする。 3 完全休養日が月あたり●日を下回って本業務が行われた場合、発注者は、スタッフに対し、完全休養日が設けら...
映画制作スタッフ業務委託契約書ひな型例
本ひな型例は、映画制作に携わるスタッフのうち、制作会社に雇用されないフリーランスと制作会社等の間で締結されることを想定したものです。業種を限定しないスタッフ業務全般を対象としています。基本的には、文化庁が令和4年7月に公表した「文化芸術分野の適正な契約関係構築に向けたガイドライン(検討のまとめ)」の別添ひな型例に準拠した上で、一般社団法人日本映画制作適正化機構が公表している「映画制作の持続的な発展に向けた取引ガイドライン(映適取引ガイドライン)」や韓国映画界で使われている標準契約書等を参考とするほか、映画制作業界における慣行を反映させたものです。
ひな型は「何を」決めるかの枠を提示するものです。「どのように」決めるのかは、業務や人ごとに違ってきます。ひな型例にある●部分は、その都度双方協議の上、適切な文言を入れましょう。
【】でくくった部分は、記載例を複数示している部分なので、使う文言以外は消して使ってください。
具体例:【1日あたり/ 1 週あたり/ 1 か月あたり/一式】金●円→ 1日あたり金●円(第5条)
本ひな型例は、基本的には、スタッフ側から制作会社に提示することを想定したものです。他方、制作会社側から契約書が提示される場合、スタッフ側として、それとは異なる内容の契約を希望することもあるでしょう。その場合、スタッフ側の対案として、本ひな型例をベースとした新たな契約書を提示することも考えられますが、制作会社側に受け入れてもらいやすくするという現実的な観点からは、制作会社側が提示する契約書を活かしつつ、スタッフ側が求める契約内容を「特約事項」として明記することを提案し、契約書に追記してもらうという方法も考えられます。こうした配慮から、本ひな型例では、スタッフ側として追記を希望する事項を「特約事項」として追記しやすいように、契約内容ごとに条項を分けた構成としています。
スタッフのうち、従業員を使用しない個人や法人(代表者1名以外に他の役員がいないものに限る)が契約当事者となる場合には、特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律(令和5年法律第25号)(以下「フリーランス新法」といいます。)が適用されます。なお、フリーランス新法は、2024年中に施行される予定です。
発注者においてフリーランス新法違反がある場合、受注者であるxxxxxxは、xx取引委員会や中小企業庁、厚生労働省に申出をして措置を求めることができ(同法6条1項、同17条1項)、万一、発注者が、フリーランスにおいてそのような申出をしたことを理由に不利益な取扱いをした場合には、それ自体がフリーランス新法違反となります(同法6条3項、同17条3項)。
発注者は、スタッフに業務委託をした場合、直ちに、業務内容、報酬額、支払期日その他の事項をスタッフに明示しなければ、フリーランス新法(3条1項)違反となります。明示の方法は書面での交付か電磁的方法での提供のいずれかである必要があります。電磁的方法とは、電子メールや発注者のウェブサイトを用いる方法等を指しますが、電磁的方法で明示した場合には、受注者であるxxxxxxからの求めがあれば、発注者は、遅滞なく書面を交付しなければならないものとされています(同法3条2項)。口頭での契約も民法上は有効ですが、フリーランス新法が適用される取引では、契約内容の明確化を図り、契約関係上の言った言わないといったトラブルを未然に防止するため、当事者間で合意した契約内容を書面等の記録が残る形により明示することが求められます。
ひな型(案) |
コメント(解説骨子) |
●●●●(以下「発注者」という。)と●●●●(以下「スタッフ」という。)とは、発注者のスタッフに対する映画制作に関する業務の委託に関し、次のとおり契約(以下「本契約」という。)を締結する。 |
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第1条(業務内容) 1 発注者は、スタッフに対し、次の業務およびこれに付随する業務全般(以下「本業務」という。)を委託する。 ⑴ 作品名、監督、ロケーション:●●、●●、●●(以下「本作品」という。) ⑵ 所属部署、職責、担当業務:●●、●●、●● ⑶業務内容:●●、●●、●●、●●、●●、●●、●● ⑷ 業務期間:●年●月●日から●年●月●日まで
【上記事項につき未定の場合には、「未定」と記載するとともに、「未定の理由」と「決定の時期」を記載。】 2 本業務のうち「未定」の事項については、「決定の時期」記載のときまでに、発注者及びスタッフが協議の上、決定し、発注者がスタッフに対し書面等により通知するものとする。 |
・ 業務内容は、発注者及びスタッフがお互いに依頼内容を理解し、具体的に何をするのかや業務に従事する期間等が明確になるようできる限り具体的に記載します。 ・ 契約書締結時において具体的な業務内容を明確にできないものがある場合には、その内容が明確にならない理由や内容が明確になると見込まれる予定期日について契約書に記載し、明確にすることができる段階で、発注者とスタッフが十分な協議をした上で、速やかに業務内容を明確にできるようにしておきます。 |
第2条(付随業務の扱い) 本業務に含まれる付随業務として発注者がスタッフに対し依頼する業務の内容が、スタッフの所属部署、職責、担当業務に照らして本来の業務の対象に含まれないものである場合、発注者及びスタッフにて当該業務をスタッフが行うことの要否や追加の報酬等について協議の上、スタッフがその諾否を決定する。 |
・ 本条は、人手不足の状況下で、車両の運転等、スタッフが本来の業務とは異なる業務を依頼されることがあることにかんがみ、追加したものです。客観的にみて、スタッフが委託を受けた本業務に付随・関連する業務であるとしても、制作会社から依頼される業務の内容が、スタッフの本来の業務の対象に含まれないようなものである場合には、スタッフは当該業務を断ることができることを定めています。また、当該業務を実施するとしても、別途の追加報酬が必要となる場合には、制作会社とスタッフで協議の上で、その額を定めるものとしています。 |
第3条(業務の追加) 発注者が、スタッフに対し、本業務に関連して追加業務を依頼したときは、発注者及びスタッフにて追加業務の内容や追加の報酬等について協議の上、スタッフがその諾否を決定する。 |
・ 本条は、業務内容の追加が依頼された場合、スタッフにその諾否の決定権があることを定めたものです。当該追加業務を引き受ける場合も、それに伴う追加報酬の支払の要否や報酬の額について、制作会社とスタッフで協議の上で定めるものとしています。 |
第4条(業務内容の変更) 1 発注者は、本業務の内容を変更する事由が生じた場合は、発注者とスタッフにおいて協議し、合意の上、変更することができるものとし、変更された内容は、発注者がスタッフに対し、書面等により通知するものとする。 2 発注者とスタッフは、前項の変更によるスタッフの負担の増減等を十分に勘案・協議し、必要に応じて次条で定める報酬額を見直すものとする。 |
・ 作品を作り上げていく中で、業務内容を変更する必要が生じることも想定されます。業務内容の変更が生じた場合には、発注者とスタッフが協議し、合意した変更内容について発注者が書面等により通知する必要があります(第1項)。 ・ また、業務内容の変更により、スタッフに追加的な負担が生じる場合には、報酬額についても、発注者とスタッフが十分に協議をして、見直す必要があります(第2項)。 ・ 業務委託の期間が一定期間を超える場合、スタッフの責めに帰すべき理由がないのに、発注者が、スタッフの業務内容を変更することによって、スタッフの利益を不当に害することは、フリーランス新法(5条2項2号)違反となります。 |
第5条(報酬) 1 発注者は、スタッフに対し、本業務の報酬として、【1日あたり/1週あたり/1か月あたり/一式】金●円(消費税等別)を支払う。 2 前項の対価は、本契約における著作xxの取扱い(第23条)を反映したものとする。 |
・ 業務委託の期間が一定期間を超える場合、報酬額について、通常支払われる対価に対し著しく低い額を不当に定めることは、フリーランス新法(5条1項4号)違反となります。報酬額は、業務内容、専門性、発生しうる著作xxの権利の内容等を十分に勘案した上で適正なものとなっているか、発注者とスタッフが十分に協議して決定する必要があります。 ・ 労働者ではないスタッフの報酬額には最低賃金法は適用されませんが、最低賃金の上昇率等は、報酬額の協議において一つの目安として参考となるでしょう。 |
第6条(業務期間が延長された場合の追加報酬) 本契約所定(第1条第1項⑷)の業務期間が延長された場合、発注者は、スタッフに対し、日額金●円(消費税等別)を、業務期間の延長分に係る報酬として支払う。 |
・ 本条は、業務内容自体には変更や追加がない場合であっても、業務期間が延長したときには、延長期間に応じて日割りで報酬金の支払義務が生じることを定めるものです。 |
第7条(業務時間・追加報酬) 1 発注者は、スタッフが本業務に従事する時間(準備・撤収、撤収後の事務作業を含む)を、1日あたり●時間以内及び1週間あたり●●時間以内とする。1日あたりの業務時間が●時間を超える場合には、業務終了後、翌日の業務開始までに●時間以上のインターバルを設けるものとする。 2 前項の定めにかかわらず、発注者は、業務上やむを得ない事情がある場合、スタッフとの合意により、1日あたり●時間及び1週間あたり●●時間まで延長することができる。 3 第1項に定める時間を超えて業務が行われた場合、発注者は、スタッフに対し、1日あたりの超過業務時間に応じた追加報酬として、超過業務時間(1時間単位で切り上げ)に1時間あたり●●円を乗じて得た額(消費税等別)を、第5条の報酬額に加えて支払う。 |
・ 本条は、業務時間の上限やインターバル(終業時刻から次の始業時刻の間に、一定時間以上の休息時間(インターバル時間)を設けることで、映画スタッフの生活時間や睡眠時間を確保しようとするもの)を定める場合、その時間や延長方法とその上限を定めるものです。 ・ 映画制作現場の場合、職種によって、撮影前後の業務時間が異なるため、業務時間を定める場合はその点を十分考慮する必要があります。3項は、予め定めた1日の業務時間が延長したときには、延長時間に応じて報酬金の支払義務が生じることを定めるものです。
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第8条(完全休養日・追加報酬) 1 発注者は、週のうち少なくとも●日(毎週●、●曜日)はスタッフの完全休養日(事務作業を含め一切の業務が行われない日)とする。 2 前項の定めにかかわらず、発注者は、業務上やむを得ない事情がある場合、少なくとも24時間より前にスタッフと合意することにより、完全休養日を変更することができる。ただし、完全休養日の変更の間隔は7日以内とする。 3 完全休養日が月あたり●日を下回って本業務が行われた場合、発注者は、スタッフに対し、完全休養日が設けられなかった月あたりの日数に1日あたり●●円を乗じて得た額(消費税等別)を、第5条の報酬額に加えて支払う。 |
・完全休養日とは事務作業なども一切行わない、完全な休養日を想定しています。撮休日は、撮影が休みとなるが、事務作業等の業務が各自発生している日のことを指します。 ・なお、韓国映画界の「映画産業 労働標準契約書」では、「週休日は毎週( )曜日とする」と特定の曜日を定休にするひな型となっています。韓国映画振興委員会(KOFIC)が公表している2022年映画スタッフ勤労環境実態調査によると、標準契約書を使用するメリットを聞く質問(複数回答可)において、22.2%が「定期的な休日」と回答しています。 |
第9条(休憩等・追加報酬) 1 発注者は、スタッフの本業務に従事する時間(準備・撤収、撤収後の事務作業を含む)が1日に●時間以上にわたる場合、スタッフに対し、●分以上の休憩・食事を1回以上確保するものとする。 2 前項に定めに反して休憩・食事の時間が確保されなかった日があった場合、発注者は、スタッフに対し、1日当たり第6条に定める日額の●%の額(消費税等別)を追加報酬額として、第5条の報酬額に加えて支払う。 |
・なお参考ですが、雇用関係にある労働者の場合は、労働基準法第34条において、「労働時間が6時間を超え、8時間以下の場合は少なくとも45分、8時間を超える場合は、少なくとも1時間の休憩(労働から離れる時間)を与えなければならない、」と定められています。 ・また、韓国映画界の場合は、[映画産業 労働標準契約書]において、「制作会社は映画スタッフに対し、労働時間が4時以上の場合は30分以上、8時間以上の場合は1時間以上の休憩時間を労働時間の途中に与えなければならない」と定められています。 |
第10条(報酬の支払期日) 発注者は、スタッフに対し、第5条から前条までに定める報酬につき、当月分を●日〆【当/翌】月●日に、支払うものとする。 |
・ 報酬等の支払期日について、フリーランス新法( 4 条1 項)では、原則として、業務が提供された日から起算して60日の期間内において、かつ、できる限り短い期間内において定められなければならないとされています。映画制作スタッフの業務は、日々提供されていると考えられることが多いため、報酬等は、少なくとも月単位(週単位・日単位でも構いません)で、当月分の報酬が遅くとも翌月末までに支払われるように定められなければなりません。(例えば3月1日分の報酬は4月30日までに支払われなければなりません。)なお、スタッフが受託する業務が再委託によるものである場合には、発注者が元委託の代金の支払を受ける期日から起算して30日の期間内のできる限り短い期間内に定め、その場合には、発注者はスタッフに再委託である旨等を明示していなければなりません(同法4 条3 項)。 ・ 発注者がスタッフに対し支払期日までに報酬を支払わないことは、契約違反になるとともに、フリーランス新法(4条5項)違反となります。 ・ なお、業務が長期にわたる場合や制作費が報酬に含まれる場合等も想定されますので、業務の進捗状況等に応じて、以下のような形で分割払とすることも考えられます。 【記載例】発注者は、スタッフに対し、第5条から前条までに定める報酬につき、以下の期日に支払うものとする。 ①金●円【 契約締結日の属する月の翌月末日/●年●月●日】 ② 金●円 ●年●月●日 ③ 残額【本業務の遂行が完了した月の翌月末日/●年●月●日】
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第11条(諸経費の負担) 本業務に要する諸経費は、経費支払の証明(領収書等)が発注者に提出されることを条件に、発注者の負担とする。 |
・ 交通費、材料費、機材費といった諸経費につき、発注者、スタッフのいずれが負担するものかについて、手続き方法とともに明記します。 |
第12条(諸経費の支払期日) 発注者は、スタッフに対し、前条の諸経費のうちスタッフが立て替えて負担した経費につき、【当月分を●日〆【当/翌】月●日/請求後●日】に、経費支払の証明(領収書等)が発注者に提出されることを条件に、支払うものとする。 |
・ 諸経費につき、第11条で発注者が負担する旨定めるとしても、スタッフが一時的に立て替えることがあり得ます。本条は、その場合の精算期日について、定めています。 |
第13条(支払方法) 本契約に基づく発注者のスタッフに対する支払は、【スタッフの指定する金融機関の口座への振込/現金渡し】の方法によるものとする。 |
・ 報酬や立替諸経費の支払方法を定めるものです。 |
第14条(振込手数料) 本契約に基づく発注者のスタッフに対する支払に要する振込手数料は、発注者の負担とする。【第13条で口座振込を選択した場合】 |
・ 金融機関の口座振込の場合の振込手数料は、原則として、スタッフが負担する旨の合意がない限り発注者が負担すべきものですが、どちらが負担するか発注者とスタッフが協議の上、契約書に記載しておきます。 |
第15条(金融機関休業日の取扱い) 本契約に基づく発注者のスタッフに対する支払日が金融機関の休業日である場合、支払期日は前営業日とする。【第13条で口座振込を選択した場合】 |
・ 支払期日が、金融機関の休業日に当たることがあります。その場合には、ひな型例では、支払遅延防止の観点から前営業日を支払期日とする旨定めています。前営業日ではなく翌営業日とする場合は、下請法の考え方を踏まえ、順延する期間を2日以内とすることが望ましいです。 |
第16条(不可抗力による制作の中止・延期) 感染症の流行、台風、地震等の天災など当事者双方の責めに帰することができない事由により、本作品の制作が中止・延期となり本業務ができなくなったときは、発注者は当該業務に関する報酬の請求を拒むことができる。ただし、スタッフは、発注者に対し、既に本業務を行った期間に応じて、報酬を請求することができる。 |
・ 不可抗力により制作が中止・延期となった場合に、スタッフが一方的にしわ寄せを被ることのないよう配慮すべきであり、契約段階において、制作が中止・延期となった場合の報酬の取扱いについて、発注者とスタッフが十分に協議し、書面等に記載しておく必要があります。 ・ 制作の中止・延期が不可抗力によるものかは個別の事情によって判断されますが、本条では、民法を踏まえ、当事者双方の責めに帰することができない事由により制作が中止・延期となり業務ができなくなったときは、発注者は当該業務に関する報酬の請求を拒むことができること、ただし、スタッフは、既に本業務を行った割合に応じて、報酬を請求することができることを定めています。 |
第17条(スタッフの責めに帰することができない制作の中止・延期) 前条の場合を除き、スタッフの責めに帰することができない事由により、本作品の制作が中止・延期となり本業務ができなくなったときは、発注者は、スタッフに対し、既に本業務が行われた期間に応じた報酬を支払うことに加え、本業務ができなくなった日から起算して●か月分の報酬相当額を支払うものとする。 |
・ 映画制作においては、費用が集まらなかったり、キャストの怪我や降板等のために制作が中断する等、不可抗力とはいえない事情により制作が中止となることがみられることにかんがみ、補償金の支払義務を定めたものです。 |
第18条(秘密保持) 1 発注者及びスタッフは、本業務の遂行により知り得た相手方の業務上の秘密(個人情報を含む。)を、秘密として取扱い、本業務の遂行以外の目的に使用してはならず、第三者に開示又は漏洩(ソーシャルメディアにおける情報開示及び漏洩行為を含む一切の行為において)してはならない。万一発注者又はスタッフがこれに違反し、相手方が損害を被った場合、相手方に対し、これを賠償する。 2 前項の規定は、次のいずれかに該当する情報については、適用しない。 ⑴ 開示を受けたときに既に自己が保有していた情報 ⑵ 開示を受けたときに既に公知であった情報 ⑶ 開示を受けた後、秘密保持義務を負うことなく第三者から正当に入手した情報 ⑷ 開示を受けた後、相手方から開示された情報によることなく独自に取得し、又は創出した情報 ⑸ 開示を受けた後、自己の責めによらずに公知となった情報 3 本条の規定は、本契約の終了後も存続する。 |
・ 映画制作においては、作品内容や出演者等に関して秘密事項が多く存在するため、x条は、当事者双方に秘密保持義務を定めるものです。 |
第19条(xx・衛生) 1 発注者は、本業務の内容等を勘案して、スタッフがその生命、身体等の安全を確保しつつ本業務を履行することができるよう、事故やハラスメントの防止等必要な配慮をするものとする。 2 発注者は、自らが制作責任者又は製作責任者である場合は自らが、そうでない場合は制作責任者又は製作責任者と協議の上、安全衛生管理を行う者を置き、スタッフに対し、書面等により通知する。 |
・ 第1項は、スタッフが個人で業務に従事することを踏まえて、労働契約法第5条に準じて、発注者に対してスタッフの生命、身体等の安全配慮を求めるものです。労働契約法第5条の「生命・身体等の安全」には、心身の健康も含まれるものとされていますので、ひな型例においてもこれに準じて心身の健康も含めて配慮を求めるものとしています。 ・ なお、フリーランス新法では、発注者に対し、受注者であるフリーランスに行われる各種ハラスメント(パワーハラスメント、セクシュアルハラスメント、マタニティハラスメント)について、フリーランスからの相談に対応するための体制整備や、ハラスメントの防止・改善のために必要な措置を講じることを義務付けています(同法14条)。そのため、法施行後、第1項は「~事故やハラスメントの防止等必要な措置を講じるものとする。」とすることが考えられます。 ・ 第2項は、現場の安全衛生に関する責任体制の確立のため、スタッフの安全衛生管理を行う者を特定し、書面等により通知することが望ましいことから規定したものです。ひな型例では、安全衛生管理者について書面等により通知することとしていますが、契約段階において安全衛生管理者が特定されている場合には、その氏名等について明示しておくことも考えられます。 ・ 事故防止対策等については、「芸能従事者の就業中の事故防止対策等の徹底について(令和3年3月26日、厚生労働省労働基準局安全衛生部安全課長他)」にあるとおり、フリーランスを含めた芸能従事者の就業中の事故防止対策等を徹底するため、現場における災害防止措置として、芸能従事者が行う資材による危険の防止、演技・撮影・照明等の作業における危険の防止の取組、安全衛生に関する対策の確立等として、制作管理者が行う安全衛生に関する責任体制の確立、安全衛生教育の実施、作業環境やトラブル・ハラスメント相談体制の整備等の取組が求められています。 |
第20条(保険) 1 発注者は、本業務に係る災害補償として、発注者の保険料負担により、スタッフを被保険者とする●●保険に加入するものとする。 2 発注者は、スタッフに対し、前項に基づき加入する保険の内容を書面等により通知する。 |
・ 本条は、スタッフの事故等に備え、保険に加入することが望ましく、映画制作の業界では、制作会社が、制作会社の負担で、スタッフを被保険者とする保険に加入するのが一般的であり、本ひな型例でもその旨定めています(第1項)。 ・ 制作会社が加入している保険の内容について、スタッフに伝えられていなければ、スタッフにおいて保険を利用できることを知らないまま、損失を自らが負担せざるを得ないことも考えられます。そのため、保険の内容は、スタッフに明示されることが望ましく、本ひな型例においても、加入している保険の名称を契約xxxすること(第1項)に加えて、保険の内容を記載した書面等により明示することを求めています(第2項)。 ・ 明示方法は、加入した保険商品の資料をコピーして配布したり、説明の記載があるウェブサイトのURLを知らせたりする方法でもいいでしょう。 |
第21条(ハラスメントに関する方針) 1 発注者は、スタッフに対し本業務に関してハラスメントが行われることのないよう、制作現場におけるハラスメントに関する方針を策定し、スタッフに明示するものとする。 2 発注者及びスタッフは、本業務の遂行にあたり、前項のハラスメントに関する方針を遵守するものとする。 |
・ ハラスメントは、発注者の従業員からスタッフに対してなされる場合のみならず、制作現場においてスタッフ間で行われることもあり得ます。そのため、本条の第2項では、発注者のみならずスタッフもハラスメントに関する方針を遵守する旨定めています。 ・ 具体的なハラスメント対策措置としては、以下のような取組があります。 ■ハラスメントに関する方針の策定 ■相談窓口や責任者の設置と連絡先の明示 ■撮影開始前に、ハラスメント防止に関する講座の実施 ■ハラスメントの定義や事例を書面で周知 ■ハラスメント発生時の対応フローを予め書面で周知 |
第22条(育児介護等に対する配慮) 発注者は、スタッフからの申出に応じて、スタッフが妊娠、出産もしくは育児または介護と両立しつつ本業務に従事することができるよう、スタッフの育児介護等の状況に応じた必要な配慮をしなければならない。 |
・ フリーランス新法上、業務委託が一定期間以上継続して行われるものである場合、発注者は、フリーランスに対し、育児介護等と両立しつつ業務に従事できるよう、状況に応じた配慮をすることが求められています(同法13条)。 |
第23条(著作xxの取扱い) 1 スタッフが本業務において創作する全ての著作物に係る著作権(ただし、映画の中に独自の著作物として取り込まれている著作物を除く。)は、発注者又は発注者が指定する者に帰属するものとする。 2 スタッフは、発注者又は発注者が指定する者による著作物の利用に関して、著作者人格権を行使しない。ただし、発注者又は発注者が指定する者が、著作物の利用に際して、スタッフの名誉又は声望を害した場合はこの限りでない。 3 前二項の定めにかかわらず、スタッフは、本業務において自ら創作した著作物につき、発注者の許可を得た場合に限り、本作品以外で使用することができる。 |
・ 創作から生じる著作権は、著作物を無断で利用されない権利(利用してよいかどうかを決定することができる権利)であり、著作者に原始的に帰属するものです。一般的には著作物を利用するための契約は、著作者の著作権について、著作者が「利用許諾」をするか「権利譲渡」をするかの2つに大別されます。権利者保護の観点からは各権利が権利者に残る利用許諾とすることが望ましいです。他方、著作物の利用の円滑化等の観点から、実務上は譲渡とすることもあります。 ・ 映画については、著作権法上「映画の著作物」として個別にルールが決められていて、「映画の著作物」については、「プロデューサー」、「監督」、「撮影監督」、「美術監督」など、映画の著作物の「全体的形成に創作的に寄与した者」が著作者となります。原作、脚本、映画音楽など、映画の中に独自の著作物として取り込まれている著作物の著作者は、全体としての「映画」の著作者ではありません(著作xx 16 条)。映画を利用するときには、これらの独自の著作物なども同時に利用されるため、これらの人々の了解も得ることが必要です。 ・ その上で、「映画の著作物」は映画製作者が巨額の製作費を投入し、多数の関係者の参画によって完成する特殊性を踏まえ、全ての関係者に権利行使を認めると映画の円滑な流通を阻害することとなるため、「著作者の権利」のうち「財産権」については、監督等の著作者から映画会社に移ることが法定されています(同法29 条)。このため、監督等は「著作者人格権」のみを持つことになります。 ・これらを踏まえ、本ひな型例では、一般的に、映画制作のスタッフには著作権が帰属しないことを踏まえ、その旨を確認的に定めています。ただし、上記の独自の著作物が創作される場合には、著作権の取扱いについて明確にしておく必要があります。いずれにせよ、報酬の設定にあたっては、著作xxの取扱いを反映させたものとするべきであり、第5条第2項で「前項の対価は、本契約における著作xxの取扱い(第23条)を反映したものとする。」と定めています。 ・ 著作者人格権(著作者が精神的に傷つけられないようにするための権利であり、公表権、氏名表示権、同一性保持権があります)については、著作物の利用の円滑化等の観点から、権利行使しない旨を定められることがあることを踏まえ、その場合でもスタッフの名誉・声望を害された場合には抗えるような形で本ひな型例には記載しています(第2 項)。 ・ 著作権が映画会社に移れば、基本的に、スタッフは自ら創作した著作物であってもそれを別の作品等で使用することはできませんが、第3 項では、例外的に、制作会社の許可を得て、著作物を本作品以外で使用することができることを定めています。
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第24条(成果物の譲渡) スタッフが発注者に対し成果物を納入する場合、成果物の所有権は、対価の完済により、発注者に移転する。 |
・ 本条は、スタッフが、衣装や大道具など、それ自体が財産的な価値を持つ成果物を納入するような場合を想定したものであり、管理や処分に係るトラブル防止のため、成果物の所有権の移転について明確にするものです。
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第25条(クレジットの明記) 発注者又は発注者が納品した映画製作者は、完成した作品に、スタッフのクレジットタイトルにおいてスタッフの一員として、しかるべき場所に表示する。 |
・ 作品におけるスタッフのクレジット表記については、様々な方法が考えられるため、クレジット表記をするか否か、するとして、その具体的方法はどのようなものとするかについて、事前に定めておくことが望ましいでしょう。他方、本契約締結時点において、制作会社としてクレジット表記につき具体的な合意をすることが困難なことも考えられますので、本条の記載は、クレジット表記につき、ある程度の裁量を制作会社または映画製作者側に認める内容としています。 ・ スタッフとしてクレジットの記載を希望しない場合には、「発注者又は発注者が納品した映画製作者は、完成した作品に、クレジットタイトルにスタッフの名称を記載しないものとする。」といった条項を明記することも考えられます。
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第26条(契約の解除・損害賠償) 1 発注者及びスタッフは、相手方が本業務の履行を怠った場合、その他本契約に違反した場合、相手方にその是正を求め、相手方が当該是正の求めから7日以内に是正しない場合、本契約を解除することができる。 2 前項による解除の有無にかかわらず、発注者及びスタッフは、相手方による本業務の履行、本契約上の義務の不遵守により被った損害につき、相手方に対して損害賠償請求をすることができる。 |
・ 仕事を依頼し、また、仕事を引き受けた以上は、約束した事項を守る義務が生じます。例えば、スタッフが発注者に無断で仕事を怠り、それによって撮影期間が延びるといった損害が発注者に生じた場合には、スタッフは、発注者から損害賠償を請求されることがあります。また、契約が解除され、報酬の支払を受けられなくなることもあります。 |
第27条(反社会的勢力等の排除) 1 発注者及びスタッフは、現在及び将来にわたり、自己(その役員、従業員、その他所属するスタッフ、クリエイター、俳優等を含む)が、暴力団関係者その他の反社会的勢力ではなく、反社会的勢力と何らの関係も有していないこと、暴力的要求、脅迫、その他反社会的行為を行っていないことを保証する。 2 発注者及びスタッフは、相手方が前項に違反した場合、何らの催告を要することなく、直ちに本契約を解除することができる。 3 発注者及びスタッフは、前項に基づく解除の場合、解除された相手方に損害が生じても、これを賠償する一切の責任を負わない。 |
・ 反社会的勢力との関係を遮断することはコンプライアンスの基本であり、映画制作においても、反社会的勢力が関与していないことが求められます。本条は、発注者とスタッフの双方が反社会的勢力でないことを確認するものです。 |
第28条(紛争の解決) 1 発注者及びスタッフは、本契約に関して疑義が生じたときは、必要に応じて第三者が立会いの上、双方誠意をもって協議し、円満な解決を図るものとする。 2 前項によっても紛争が解決しない場合、本契約に関する紛争は、発注者が提起する場合にはスタッフの住所地を管轄する裁判所を、スタッフが提起する場合には発注者の本店所在地を管轄する裁判所を、それぞれ第xxの専属的合意管轄裁判所とする。 |
・ フリーランスからの相談に対応する体制としては、内閣官房、xx取引委員会、厚生労働省、中小企業庁が連携して、「フリーランス・トラブル110番」を運営しています。電話や対面、ビデオ通話でも相談できます。また、文化庁が開設している「文化芸術活動に関する法律相談窓口」では、文化芸術活動に関係して生じる問題やトラブル等について、専門的な知識・経験を有する弁護士が相談に対応し、法的なアドバイスを受けることができます。 ・ 第2項は、紛争解決の最終手段として、訴訟提起する場合、相手方の住所地を管轄する裁判所に訴えを提起しなければならない旨定めたものです。 |
以上、本契約の成立を証するため、本書を2通作成し、双方署名の上、各1通保有する。
●年●月●日
発注者 (住所) (氏名)
スタッフ(住所) (氏名)
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・ 契約書の末尾に当事者双方が署名することで契約の成立を確認します。 ・ 本人が署名をすれば、捺印は不要です。 |
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