ワット超の電力供給又は電力供給契約期間が5年以上かつ100メガワット超の電気の供給を行う者をいう(一般に,IPP事業者〔Independent Power Producer〕とも呼ばれる)。
事例10 三菱重工業㈱と㈱日立製作所の火力発電システム事業の統合
第1 本件の概要
本件は,①機器製造業等を営む会社である三菱重工業株式会社(以下「三菱重工業」という。また,三菱重工業を最終親会社とする企業結合集団を「三菱重工業G」という。)がMHパワーシステムズ株式会社(以下,本件統合前のMHパワーシステムズ株式会社を「MHパワーシステムズ」と,本件統合後の同社を「統合会社」という。)に,三菱重工業Gの火力発電システム事業を吸収分割により承継させ,②機器製造業等を営む会社である株式会社日立製作所(以下「日立製作所」という。また,日立製作所を最終親会社とする企業結合集団を「日立製作所G」という。)がMHパワーシステムズに,日立製作所Gの火力発電システム事業を吸収分割により承継させることにより,火力発電システム事業の統合を計画したものである。
なお,本件統合では,前記②について,MHパワーシステムズ及び日立製作所(以下,両社を併せて「届出会社」という。)から吸収分割に関する計画の届出があった。
関係法条は,独占禁止法第15条の2である。
(注1)火力発電システム事業とは,火力発電プラントを構成するボイラー,蒸気タービン,ガスタービン等の機器の製造販売事業等並びに火力発電プラントの設計及び建設事業の総称をいう。
第2 本件審査の経緯及び審査結果の概要
1 本件審査の経緯
当事会社は,平成25年3月以降,本件統合が競争を実質的に制限することとはならないと考える旨の意見書及び資料を自発的に当委員会に提出し,当委員会は,当事会社の求めに応じて,当事会社との間で数次にわたり会合を持った。その後,同年8月7日に届出会社から,独占禁止法第15条の2の規定に基づき,吸収分割に関する計画の届出があったので,当委員会はこれを受理し,第1次審査を開始した。当委員会は,前記届出書その他の当事会社から提出された資料,需要者及び競争事業者に対するヒアリング等を踏まえつつ,第1次審査を進めた結果,より詳細な審査が必要であると認められたことから,同年9月6日に届出会社に対し報告等の要請を行い,第
2次審査を開始するとともに,同日,第2次審査を開始したこと及び第三者からの意見書を受け付けることを公表した。
第2次審査において,当委員会は,当事会社の求めに応じて,当事会社との間で数次にわたり会合を持った。また,届出会社からxx提出された報告等のほか,需要者及び競争事業者に対するヒアリング,アンケート調査の結果等を踏まえて,本件統合が競争に与える影響について審査を進めた。
なお,届出会社に対する報告等の要請については,平成25年11月21日に提出された報告等をもって,全ての報告等が提出された。
2 審査結果の概要
本件においては,当事会社間で競合する商品・役務で競争に与える影響が大きいと考えられる「超臨界圧火力発電プラント供給事業」,「超臨界圧ボイラー」,「大型蒸気タービン」及び「大型ガスタービンコンバインドサイクル発電プラント供給事業」(以下,ガスタービンコンバインドサイクルを「GTCC」という。)の各取引分野について,本件統合が競争を実質的に制限することとはならないと判断した。また,これら以外の取引分野についても,いずれも本件統合が競争を実質的に制限することとはならないと判断した。
前記の「超臨界圧火力発電プラント供給事業」「,超臨界圧ボイラー」「,大型蒸気タービン」及び「大型GTCC発電プラント供給事業」の各取引分野に係る審査結果の詳細は,第3及び第4のとおりである。
(参考)
平成25年 8月 7日 吸収分割に関する計画の届出の受理(第1次審査の開始)
9月 6日 報告等の要請(第2次審査の開始)
11月21日 全ての報告等の受理
(事前通知期限:平成26年2月20日)
12月12日 排除措置命令を行わない旨の通知
第3 一定の取引分野
1 商品・役務の範囲
火力発電プラントには,主に,石炭等を燃焼させ,その熱によって発生させた蒸気の力で蒸気タービンを回転させて発電する汽力発電プラントと,液化天然ガス(LN G)等のガス燃料を燃焼させてガスタービンを回転させて発電した後に,その排熱を回収して発生させた蒸気の力で蒸気タービンを回転させて発電するGTCC発電プラントがある。
汽力発電プラント
汽力発電プラントは,ボイラーや蒸気タービンといった個別の機器により構成される発電プラントであり,発電プラント全体の性能は,中核となるボイラー及び蒸気タービンの性能によって左右される。
需要者が汽力発電プラントを発注する場合,ボイラーや蒸気タービンといった
個別の機器を分割して発注(以下「分割発注」という。)する場合と,ボイラーや
蒸気タービンといった個別の機器を含め汽力発電プラント全体の設計や機器調達等の役務をまとめて発注(以下「一括発注」という。)する場合とがある。分割発注の場合,各機器を連係させる業務等は需要者自らが行う必要があり,分割発注できる需要者は,汽力発電プラントに関する知見を有する需要者に限定される。
汽力発電プラントが分割発注される場合,ボイラーや蒸気タービンといった機器ごとに調達されることから,商品の範囲は機器ごとに画定されることとなる。他方,汽力発電プラントが一括発注される場合,役務の範囲は汽力発電プラントを供給する事業(以下「汽力発電プラント供給事業」という。)として画定されることとなる。
ア ボイラー(分割発注の場合)
ボイラーは,石炭,石油等の燃料が持つ化学熱を燃焼によって熱に変え,その熱を用いて高圧の水を蒸気にする機器であり,水の臨界圧力(22.064 MPa)よりも高い運転圧力となる大規模な出力を有する超臨界圧ボイラーと,臨界圧力よりも低い運転圧力となる中小規模の出力を有する亜臨界圧ボイラーに大別される。
超臨界圧ボイラーの調達を検討している需要者が,超臨界圧ボイラーの代わりに出力が小さい亜臨界圧ボイラーを複数調達することはなく,また,亜臨界圧ボイラーの調達を検討している需要者が,亜臨界圧ボイラーで足りる出力を得るために,より高価な超臨界圧ボイラーを調達することはない。
また,超臨界圧ボイラーは,亜臨界圧ボイラーよりも高度な技術により製造されるボイラーであり,超臨界圧ボイラーのメーカーと亜臨界圧ボイラーのメーカーの顔ぶれは大きく異なる。
したがって,超臨界圧ボイラーと亜臨界圧ボイラーとの間に需要者にとっての代替性及び供給者にとっての代替性は認められず,「超臨界圧ボイラー」及び
「亜臨界圧ボイラー」をそれぞれ商品の範囲として画定した。ただし,当事会社は亜臨界圧ボイラーの取引分野で競合しないことから,以下では超臨界圧ボイラーについて検討する。
イ 蒸気タービン(分割発注の場合)
蒸気タービンは,蒸気の持つ熱エネルギーを回転エネルギーに変換し,発電機を駆動させる機器であり,超臨界圧ボイラーと組み合わせて用いられる大型蒸気タービンと,亜臨界圧ボイラーと組み合わせて用いられる中小型蒸気タービンに大別される。
超臨界圧ボイラーと組み合わせて用いられる蒸気タービンとして中小型蒸気タービンが調達されることはなく,また,亜臨界圧ボイラーと組み合わせて用
いられる蒸気タービンとして大型蒸気タービンが調達されることはほとんどない。
また,大型蒸気タービンは,中小型蒸気タービンよりも高度な技術により製造されるタービンであり,大型蒸気タービンのメーカーと中小型蒸気タービンのメーカーの顔ぶれは大きく異なる。
したがって,大型蒸気タービンと中小型蒸気タービンとの間に需要者にとっての代替性及び供給者にとっての代替性は認められず,「大型蒸気タービン」及び「中小型蒸気タービン」をそれぞれ商品の範囲として画定した。ただし,当事会社は中小型蒸気タービンの取引分野で競合しないことから,以下では大型蒸気タービンについて検討する。
ウ 汽力発電プラント供給事業(一括発注の場合)
汽力発電プラントが一括発注される場合,発電プラント全体の性能を左右するボイラー又は蒸気タービンのメーカーが,汽力発電プラント供給事業を行っている(以下,プラント供給事業を行う事業者を「プラントメーカー」という。)。汽力発電プラントは,大規模な出力を有する超臨界圧ボイラー及び大型蒸気 タービンを用いた超臨界圧火力発電プラントと,中小規模の出力を有する亜臨界圧ボイラー及び中小型蒸気タービンを用いた亜臨界圧火力発電プラントに大別される。超臨界圧火力発電プラントの調達を検討している需要者が,超臨界圧火力発電プラントの代わりに出力が小さい亜臨界圧火力発電プラントを複数調達することはなく,また,亜臨界圧火力発電プラントの調達を検討している需要者が,亜臨界圧火力発電プラントで足りる出力を得るために,より高価な
超臨界圧火力発電プラントを調達することはない。
また,前記ア及びイのとおり,超臨界圧火力発電プラントで用いられる機器は,亜臨界圧火力発電プラントで用いられる機器よりも高度な技術により製造されており,発電プラント全体の設計も両プラントで大きく異なるため,それぞれの汽力発電プラント供給事業を行うに当たり求められる能力が異なる。さらに,ボイラー又は蒸気タービンのメーカーが汽力発電プラント供給事業を行っているところ,前記ア及びイのとおり,超臨界圧火力発電プラントに用いられるこれら機器のメーカーと,亜臨界圧火力発電プラントに用いられるこれら機器のメーカーとは異なる。このため,超臨界圧火力発電プラントを供給する事業(以下「超臨界圧火力発電プラント供給事業」という。)を行うプラントメーカーと,亜臨界圧火力発電プラントを供給する事業(以下「亜臨界圧火力発電プラント供給事業」という。)を行うプラントメーカーの顔ぶれは,大きく異なる。
したがって,超臨界圧火力発電プラント供給事業と亜臨界圧火力発電プラン
ト供給事業との間に需要者にとっての代替性及び供給者にとっての代替性は認められず,「超臨界圧火力発電プラント供給事業」及び「亜臨界圧火力発電プラント供給事業」をそれぞれ役務の範囲として画定した。ただし,当事会社は亜臨界圧火力発電プラント供給事業の取引分野で競合しないことから,以下では超臨界圧火力発電プラント供給事業について検討する。
GTCC発電プラント
GTCC発電プラントは,ガスタービンや蒸気タービンといった個別の機器により構成される発電プラントである。発電プラント全体の性能は,ガスタービン及び蒸気タービンによって左右され,このうち,特にガスタービンが中核となる機器であり,その性能が重視されている。
GTCC発電プラントは,常に一括発注されており,ガスタービンメーカー又は蒸気タービンメーカーが,プラントメーカーとして,GTCC発電プラントを供給する事業(以下「GTCC発電プラント供給事業」という。)を行っている。
GTCC発電プラントは,大規模な出力を有する大型ガスタービンを用いた大型GTCC発電プラントと,中小規模の出力を有する中小型ガスタービンを用いた中小型GTCC発電プラントに大別される。
大型GTCC発電プラントの調達を検討している需要者が,大型GTCC発電プラントの代わりに出力が小さい中小型GTCC発電プラントを複数調達することはなく,また,中小型GTCC発電プラントの調達を検討している需要者が,中小型GTCC発電プラントで足りる出力を得るために,より高価な大型GTC C発電プラントを調達することはない。
また,大型GTCC発電プラントで用いられる機器は,中小型GTCC発電プラントで用いられる機器よりも高度な技術により製造されており,発電プラント全体の設計も両プラントで大きく異なるため,それぞれのGTCC発電プラント供給事業を行うに当たり求められる能力が異なる。さらに,ガスタービン又は蒸気タービンのメーカーがGTCC発電プラント供給事業を行うところ,大型GT CC発電プラントに用いられるこれら機器のメーカーと,中小型GTCC発電プラントに用いられるこれら機器のメーカーとは異なる。このため,大型GTCC発電プラント供給事業を行うプラントメーカーと,中小型GTCC発電プラント供給事業を行うプラントメーカーの顔ぶれは,大きく異なる。
したがって,大型GTCC発電プラント供給事業と中小型GTCC発電プラント供給事業との間に需要者にとっての代替性及び供給者にとっての代替性は認められず,「大型GTCC発電プラント供給事業」及び「中小型GTCC発電プラント供給事業」をそれぞれ役務の範囲として画定した。ただし,当事会社の中小型 GTCC発電プラント供給事業の取引分野での競合関係は極めて限定的であるこ
とから,以下では大型GTCC発電プラント供給事業について検討する。
2 地理的範囲
超臨界圧ボイラー及び大型蒸気タービン
国内のメーカーは,国内の需要者のみならず海外の需要者にも商品を提供している。一方,国内の需要者は,調達先を選定するに当たっては,国内における過去の納入実績やメンテナンス体制の有無といった点を勘案しており,国内の需要者の要求を満たす調達先は,国内のメーカー又は国内のメーカーと提携・協力関係にある海外のメーカーに限定される。
したがって,地理的範囲は日本全国(日本全国の需要者向け市場)として画定した。
超臨界圧火力発電プラント供給事業及び大型GTCC発電プラント供給事業
国内のプラントメーカーは,国内の需要者のみならず海外の需要者にも役務を提供している。一方,国内の需要者は,調達先を選定するに当たっては,国内における過去の納入実績やメンテナンス体制の有無といった点を勘案しており,国内の需要者の要求を満たす調達先は,国内のプラントメーカーに限定される。
したがって,地理的範囲は日本全国(日本全国の需要者向け市場)として画定した。
第4 本件統合が競争に与える影響
以下,超臨界圧火力発電プラントが一括発注される場合の「超臨界圧火力発電プラント供給事業」,同発電プラントが分割発注される場合の「超臨界圧ボイラー」及び
「大型蒸気タービン」,常に一括発注される大型GTCC発電プラントに係る「大型 GTCC発電プラント供給事業」の順に検討する。
その際,超臨界圧火力発電プラント及び大型GTCC発電プラントは,従来,一般電気事業者(注2)等の大規模需要者が直接の需要者であったところ,今後,一般電気事業者が1メガワット以上の火力電源を自社で新設等しようとする場合は,火力電源調達入札(以下「IPP入札」という。)(注3)を実施することとなり,これら発電プラントは,専らIPP入札に関連して発注されると考えられることから,以下の検討では,IPP入札を前提として検討を行う。
(注2)東京電力株式会社,関西電力株式会社等10社をいう。
(注3)平成24年9月に,資源エネルギー庁が「新しい火力電源入札の運用に係る
指針」(平成25年5月17日改訂)を策定・公表し,一般電気事業者が1メ
ガワット以上の火力電源を自社で新設・増設・リプレースしようとする場合は,原則全ての火力電源について,入札を実施すべきものとされた。IPP入札とは,これを受けて行われる入札を指す。IPP入札と発電プラントの調達については,後記1の図を参照。
1 超臨界圧火力発電プラント供給事業
超臨界圧火力発電プラント供給事業を行うプラントメーカーの概要
前記第3の1ウのとおり,超臨界圧火力発電プラント供給事業は,発電プラ ント全体の性能を左右する超臨界圧ボイラー又は大型蒸気タービンのメーカーが,プラントメーカーとして行っている。プラントメーカーは,自社が製造している 機器については自社の機器を用いて超臨界圧火力発電プラント供給事業の受注を 目指すところ,当事会社はいずれも,超臨界圧ボイラー及び大型蒸気タービンを 製造している。
一方,超臨界圧ボイラー及び大型蒸気タービンのうちいずれか一方しか自社で製造していないメーカーが,プラントメーカーとして超臨界圧火力発電プラント供給事業の受注を目指す場合,個別案件ごとに,自社が製造していない機器を製造するメーカーの協力を得る必要がある。協力するメーカーは必ずしも固定されているわけではなく,案件により変わることもある。また,協力するメーカーには,国内メーカーのほか,有力な海外のメーカーも存在する。
競争事業者の状況等
過去10年間において超臨界圧火力発電プラントが一括発注された実績(超臨界圧火力発電プラント供給事業が発注された実績)は数件しかなく,従来,三菱重工業G,日立製作所G及びA社による活発な競争が行われてきたが,最近になって,B社が参入した。
本件統合により,競争単位が一つ減ることとなるが,各事業者とも供給余力を有しており,統合会社と有力な競争事業者であるA社との間で引き続き活発な競争が展開されるほか,最近参入したB社も統合会社に対する牽制力として機能するものと考えられる。
また,プラントメーカーごとに,設計する超臨界圧火力発電プラントに特徴があり,超臨界圧火力発電プラント供給事業は差別化が図られていることから,競争事業者との協調的行動がとられ難い役務であると考えられる。
IPP入札が競争に与える影響
IPP入札においては,一般電気事業者を発注者として,複数の事業者が当該一般電気事業者への電力の供給を目指して応札するところ,IPP入札において
落札できた事業者がプラントメーカーに対して,超臨界圧火力発電プラント供給事業を発注することとなる。
IPP入札に参加する事業者は,プラントメーカーに概算見積金額の提示を依頼するところ,複数の事業者が同じIPP入札に参加する場合であっても,建設を予定する超臨界圧火力発電プラントの規模は異なり,また,事業者ごとに概算見積金額の提示を依頼するプラントメーカーは異なり得る。
プラントメーカーが,IPP入札に参加する事業者に対し,高い概算見積金額を提示するなどにより,当該事業者が競争力を失えば,当該事業者は採算が取れないとしてIPP入札への応札を断念したり,IPP入札に参加しても落札できない可能性があり,その場合,結果としてプラントメーカーは,当該事業者に超臨界圧火力発電プラントを納入することはできないこととなる。
このように,IPP入札により,これまでよりも競争の形態が複雑化し,このことが,統合会社の単独行動及び競争事業者との協調的行動に対する一定の牽制力となると考えられる。
【図 IPP入札と発電プラントの調達の流れ】
一般電気事業者
①
➃
一般電気事業者,卸電気事業者(注4),卸供給事業者(注5)等
(火力発電プラントの需要者)
応札
火力電源の募集
②
概算見積金額提示依頼
③
概算見積金額提示
⑤
④で落札できた場合に正式見積依頼
⑥
見積提出
プラントメーカー等
(注4)一般電気事業者に電力を供給し,その発電設備の出力合計が2,000メガワットを超える事業者で経済産業大臣から許可を受けた者をいう。
(注5)一般電気事業者に電力を供給し,電力供給契約期間が10年以上かつ1メガ
ワット超の電力供給又は電力供給契約期間が5年以上かつ100メガワット超の電気の供給を行う者をいう(一般に,IPP事業者〔Independent Power Producer〕とも呼ばれる)。
参入圧力
前記のとおり,最近B社が参入したほか,超臨界圧火力発電プラント供給事業への参入を検討している事業者がほかにも存在することから,参入圧力が一定程度働いていると認められる。
需要者からの競争圧力
需要者は,超臨界圧火力発電プラントの発注に当たり,見積り合わせ等の方法により第一交渉権(優先交渉権)を与えるプラントメーカーを選定し,当該第一交渉権を与えたプラントメーカーとの間で更に価格交渉し,合意した価格で契約を締結している。
超臨界圧火力発電プラントを発注するのは大規模需要者であり,これら需要者は,過去の調達時の実績や他メーカーの見積金額等の情報を基に,自社が発注する発電プラントについて,適正と考える金額の水準を算定する能力を有しており,当該適正と考える金額の水準に近づけるようプラントメーカーとの間で価格交渉している。
また,超臨界圧火力発電プラントは,近年発注件数が少なく,プラントメーカーは,国内での数少ない発注案件を受注できるよう,ある程度需要者の主張を踏まえながら価格交渉等を行っており,需要者から合理的な根拠に基づく値下げ要求が行われた場合等には,当該要求に応じている状況がうかがえる。
さらに,IPP入札により,需要者は,超臨界圧火力発電プラントの調達に当たり,これまで以上にコストを重視する結果,より厳しい態度で価格交渉に臨むこととなると考えられる。
以上から,需要者からの競争圧力は強いと認められる。
独占禁止法上の評価
本件統合により,超臨界圧火力発電プラント供給事業における競争単位が一つ 減るものの,統合会社と有力な競争事業者や牽制力のある競争事業者との間で引 き続き活発な競争が展開されると考えられるほか,参入圧力が一定程度働いてい ること,需要者からの競争圧力が強く働いていること,IPP入札が競争を活発 化させる方向に作用すると考えられることから,本件統合により,統合会社の単 独行動及び競争事業者との協調的行動によって超臨界圧火力発電プラント供給事 業の取引分野における競争が実質的に制限されることとはならないと認められる。
2 超臨界圧ボイラー
競争事業者の状況等
過去10年間において超臨界圧火力発電プラントが分割発注され,超臨界圧ボイラーが発注された実績は数件しかなく,従来,三菱重工業G,日立製作所G及びC社による活発な競争が行われてきた。
本件統合により,競争単位が一つ減ることとなるが,各事業者とも供給余力を有しており,統合会社と有力な競争事業者であるC社との間で引き続き活発な競争が展開されると考えられる。
また,超臨界圧ボイラーは,メーカーごとに特徴が異なり,差別化が図られて いることから,競争事業者との協調的行動がとられ難い商品であると考えられる。さらに,分割発注だけを考えれば,本件統合後は2社による競争になるが,分 割発注に対応できる能力(前記第3の1のとおり,各機器を連係させる能力等)を有する需要者は,当然に,分割発注ではなく一括発注を選択することができ,このことが統合会社の単独行動及び競争事業者との協調的行動に対する一定の牽
制力となると考えられる。
なお,IPP入札が統合会社の単独行動及び競争事業者との協調的行動に対する一定の牽制力となり得るのは,前記1の超臨界圧火力発電プラント供給事業と同様である。
需要者からの競争圧力
前記1の超臨界圧火力発電プラント供給事業と同様の状況であり,需要者からの競争圧力は強いと認められる。
独占禁止法上の評価
本件統合により,超臨界圧ボイラーの取引分野における競争単位が一つ減るものの,統合会社と有力な競争事業者との間で引き続き活発な競争が展開されると考えられるほか,需要者からの競争圧力が強く働いていること,IPP入札が競争を活発化させる方向に作用すると考えられることから,本件統合により,統合会社の単独行動及び競争事業者との協調的行動によって超臨界圧ボイラーの取引分野における競争が実質的に制限されることとはならないと認められる。
3 大型蒸気タービン
競争事業者の状況等
過去10年間において超臨界圧火力発電プラントが分割発注され,大型蒸気タービンが発注された実績は数件しかなく,従来,三菱重工業G,日立製作所G, D社及びE社による活発な競争が行われてきた。
本件統合により,競争単位が一つ減ることとなるが,各事業者とも供給余力を有しており,統合会社と有力な競争事業者であるD社やE社との間で引き続き活発な競争が展開されると考えられる。
また,大型蒸気タービンは,メーカーごとに特徴も異なり,差別化が図られて いることから,競争事業者との協調的行動がとられ難い商品であると考えられる。さらに,需要者による一括発注の選択やIPP入札が統合会社の単独行動及び 競争事業者との協調的行動に対する一定の牽制力となり得るのは,前記2の超
臨界圧ボイラーと同様である。
需要者からの競争圧力
前記1の超臨界圧火力発電プラント供給事業と同様の状況であり,需要者からの競争圧力は強いと認められる。
独占禁止法上の評価
本件統合により,大型蒸気タービンの取引分野における競争単位が一つ減るものの,統合会社と有力な競争事業者との間で引き続き活発な競争が展開されると考えられるほか,需要者からの競争圧力が強く働いていること,IPP入札が競争を活発化させる方向に作用すると考えられることから,本件統合により,統合会社の単独行動及び競争事業者との協調的行動によって大型蒸気タービンの取引分野における競争が実質的に制限されることとはならないと認められる。
4 大型GTCC発電プラント供給事業
当事会社の地位,競争事業者の状況等
過去10年間において大型GTCC発電プラントが一括発注された実績(大型 GTCC発電プラント供給事業が発注された実績)は30件弱存在するところ,各プラントメーカーの市場シェアは,下表のとおりである。本件統合後の当事会社の合算市場シェアは約70%(第1位),HHIは約5,600,HHI増分は約1,800であり,水平型企業結合のセーフハーバー基準に該当しない。
【過去10年間の大型GTCC発電プラント供給事業における市場シェア】
順位 | 会社名 | 市場シェア |
1 | 三菱重工業G | 約50% |
2 | F社 | 約30% |
3 | 日立製作所G | 約20% |
4 | G社 | 約0-5% |
合計 | 100% |
(※)出力ベース
前記第3の1のとおり,大型GTCC発電プラントは,中核となる機器である大型ガスタービンの性能が重視されるところ,大型GTCC発電プラント供給事業においては,価格競争のほか,プラント性能を高めるための技術開発競争が活発に行われており,大型ガスタービンメーカーにより高効率のガスタービンの製品開発競争が行われている。
三菱重工業G以外のプラントメーカーは自社で大型ガスタービンを製造しておらず,海外メーカーの大型ガスタービンを調達した上で,需要者のニーズに対応した大型GTCC発電プラントを構成し,供給している。日立製作所Gは,大型ガスタービンを自社で製造していないことに加え,同社が過去に納入した機器の事故等の影響もあり,競争力は限定的である。
本件統合により,競争単位が一つ減ることとなるが,各事業者とも供給余力を有しており,市場シェア約30%を有するF社は高効率の大型GTCC発電プラント等に強みを持つなど有力な競争事業者であり,引き続き統合会社とF社との間で活発な競争が展開されると考えられる。また,G社も近年,プラントメーカーとして存在感を増してきている状況にあり,統合会社に対する牽制力として機能するものと考えられる。
また,プラントメーカーごとに,設計する大型GTCC発電プラントに特徴があり,大型GTCC発電プラント供給事業は差別化が図られていることから,競争事業者との協調的行動がとられ難いと考えられる。
さらに,IPP入札が,統合会社の単独行動及び競争事業者との協調的行動に対する一定の牽制力となり得るのは,前記1の超臨界圧火力発電プラント供給事業と同様である。
需要者からの競争圧力
前記1の超臨界圧火力発電プラント供給事業と同様の状況であり,需要者からの競争圧力は強いと認められる。
独占禁止法上の評価
本件統合により,大型GTCC発電プラント供給事業における競争単位が一つ減るものの,日立製作所Gの競争力が限定的な中で,統合会社と有力な競争事業者や牽制力のある競争事業者との間で引き続き活発な競争が展開されると考えられるほか,需要者からの競争圧力が強く働いていること,IPP入札が競争を活発化させる方向に作用すると考えられることから,本件統合により,統合会社の単独行動及び競争事業者との協調的行動によって大型GTCC発電プラント供給事業の取
引分野における競争が実質的に制限されることとはならないと認められる。