〈 事 例 〉 A市は、地域の産業振興等を目的として、A市をPRするキャラクター(ゆるキャラ・ご当
短所 | ・法的紛争が生じた場合の責任関係を予め明確にすることが困難である ・キャラクターの作成及び管理について、 市が主導する必要がある | ・行政の手続で完結するため、住民周知等を別途行う必要がある ・一定の費用負担が生じる |
16 自治体のPRキャラクターを作りたいとき
業務委託契約書
〈 事 例 〉 A市は、地域の産業振興等を目的として、A市をPRするキャラクター(ゆるキャラ・ご当
地キャラクター)の作成を検討しています。どのような準備が必要でしょうか。
・キャラクターを作成する方法としては、主に①公募、②委託の二つがあります。
・著作xxの知的財産権について、市への帰属を明確にする必要があります。
・キャラクターを作成した後の管理についても、予め検討する必要があります。
昨今では、少子高齢化や都市部への人口流出等に伴い、地方社会の活性化が喫緊の課題となっています。そのような中、地域の魅力的な商品や観光名所をPRするキャラクターを作成し、知名度の向上や産業振興を図ろうとする自治体が増加しています。
魅力的なキャラクターを作成して「まちおこし」に成功する事例がある一方で、著作権の帰属やキャラクターの使用方法をめぐる法的紛争が生じた事例もあります。キャラクターの作成及び管理に当たっては、自治体において日常的に取り扱わない著作権、商標xxの知的財産権が問題となりますので、契約条項の内容や使用許可の手続については、十分に検討する必要があります。
1 キャラクターの作成について
自治体が新たにキャラクターを作成する方法としては、大きく分けて、①公募、②委託の二つが考えられます。それぞれの特徴は、以下のとおりです。
図表16- 1 公募及び委託の比較
方法 | 公募 | 委託 |
費用 | 公募において賞金等を出す場合は、当該賞 金等の額 | 委託契約において定める委託料の額 |
長所 | ・広く市民にデザイン案を募集し、住民参加型のまちおこしを呼びかけることができる ・費用を抑えることが可能 | ・受託業者のノウハウを利用することができる ・キャラクターの作成だけでなく、デザインマニュアルや設定資料等の作成を委託 することも可能 |
キャラクターのデザイン等を公募する場合には、一般市民からデザイン案等を募集するため、募集要領において、応募作品の使用が他者の権利を侵害しない旨の確認や、採用された場合の著作権の無償譲渡や、商標xxの取扱いについて記載し、これらについて応募者が同意していることを確認する必要があります。このように応募に当たっては権利の処分を伴うことになるため、未xxが応募する場合は、その法定代理人(親権者・未xx後見人)の同意を得るようにしておく必要があります(民法5条1 項)。なお、後の紛争を防止するという観点から厳格な運用を期すのであれば、応募に当たって本人確認手続を行うことも考えられます。
キャラクターの作成を委託する場合には、デザイン業等を営んでいる事業者に委託することが一般的と考えられます。そのような事業者においては、他にも類似のデザインを手掛けている可能性がありますので、契約書において、成果物の利用が第三者の権利を侵害しない旨を表明・保証させるとともに、将来においても類似のキャラクターを創作・利用しない旨を規定する必要があります。
いずれの方法による場合も、キャラクターに関する知的財産権が確実に自治体に帰属するように、募集要項や契約の内容を検討することが重要です。具体的には、著作権について、著作xx 27条及び28条に規定する権利を含めて譲渡すること(募集要項を確認させるだけではなく、譲渡する旨を明記した申込書の提出まで求めると、著作権の譲渡等に関する承諾の意思が明確となり、後の紛争を防止することができます)、受託者が著作者人格権(同法18条から20条)を行使しないことを規定したり、商標権について、受託者が商標登録申請を行わず、自治体が行う申請に協力する旨を規定したりするなどの対応が必要です。
2 キャラクターの管理について
自治体のPRキャラクターは、できるだけ多くの人・企業に利用され、地域振興に役立つことが望ましいですが、無限定な利用を許すと、公序良俗に反する活動や特定の政治・宗教団体の支援活動等、自治体のキャラクターとして適切ではない態様で利用される可能性があります。そこで、キャラクターの取扱要綱を作成し、利用許諾の手続を定める必要があります。
また、キャラクターは、統一的な性格付けがなされることで人々から親しまれる存在となりますので、性格や出自などの設定資料を作成し、当該設定に反する利用を許諾しない運用とすることも考えられます。
さらに、許諾を受けない利用を制限するために、当該キャラクターの名称や図柄について商標登録出願を行い、商標権を取得しておく必要があります。出願には費用がかかり、10年ごとの更新も必要となりますので、どの図柄(キャラクターの向き、姿勢等)や名称(漢字、仮名、ローマ字表記等)について、どの範囲の商品・役務に関する商標登録を行うかは、予算やキャラクターの普及具合を考慮しながら検討することとなるでしょう。
なお、ブログやSNSを活用してキャラクターの普及を図る場合には、専門のマーケティング業
キャラクター作成業務委託契約書*1
A市(以下「甲」という)と●●(以下「乙」という)は、A市キャラクターのデザイン開発及びそれに付随する業務の委託につき、次のとおり業務委託契約(以下「本契約」という)を締結する。
(目的)
第 1 条 本契約は、A市キャラクターのデザイン開発等に関する業務委託について定めることを目的とする。
(業務委託契約)*2
第 2 条 甲は、乙に対し、以下の業務(以下「本業務」という)を委託し、乙はこれを受託する。
(1) A市キャラクターデザイン開発に関する業務
(2) A市キャラクターに関するデザインガイド(A市キャラクターのデザインについて、利用者が順守すべき事項をまとめた資料のこと。以下同じ)の作成業務
(3) 前 2 号に掲げる業務に付随する一切の業務
(4) 前 3 号に掲げるもののほか、甲乙が合意して定める業務
2 乙は、甲に対し、本業務によって生じた以下の成果物(以下「本件成果物」という)を提供するものとする。
(1) 本業務により作成されたキャラクターの名称、デザイン、性格設定等に関する印刷資料及び電磁的記録
(2) デザインガイドの印刷資料及び電磁的記録
(本業務の開始)
第 3 x xは、xの依頼書の送付により本業務を開始し、甲乙協議の上決定する期日までに、作成したキャラクターの案(以下「本件キャラクター案」という)を甲に 3 案以上提出する。
者等にキャラクターの運用を委託することも考えられます。この場合、当該業者等に対してキャラクターのイメージを十分に伝えるとともに、ブログやSNSにおける表現物の著作権が自治体に帰属する旨を契約に定める必要があります。また、運用の委託は(準)委任契約として構成することが考えられますが、改正民法においては、委任事務の履行により得られる成果に対して報酬を支払う契約類型(成果完成型委任契約)が明記されました(民法648条の 2 )。そのため、契約を締結する際は、事務の履行そのものに対して報酬を支払うのか、それとも何らかの成果(作成されたウェブサイト等)に対して報酬を支払うのか、契約書に明確に規定することが望ましいといえます。
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2 甲は、前項により甲から提出された本件キャラクター案のうち 1 案を採用し、採用された案(以下「本件キャラクター」という)についてその決定内容を乙に通知する。
3 乙から提出された本件キャラクター案についてxが採否決定前に修正を求めたときは、乙は、甲が指定する日までに当該案の修正を行い、再度甲に提出する。再提出後の取扱いは前項に準ずる。
4 デザインガイドの作成その他の業務の取扱いについては、第 1 項から前項を準用する。
(資料の提供)
第 4 条 甲は、乙から本業務を行うために必要な資料の提供を求められたときは、これに協力する。
2 乙は、前項に基づき甲から受領した資料について、善良な管理者の注意をもって管理する。
(業務の変更と追加)
第 5 条 甲は、本業務の変更又は追加を行う必要が生じた場合、速やかに乙に文書にて通知し、変更又は追加の内容とそれに伴う対価の変更につき乙と協議し、その内容について文書をもって確認する。
(対価及び支払方法)
第 6 条 甲は乙に対し、本業務の対価として、甲乙間で別途協議の上書面により定める金額を、当該協議において定める方法により支払う。
(知的財産xx)*3 *4 *5
第 7 条 乙は、甲に対し、本件成果物に係る所有権及び知的財産権(著作権(著作xx 27条及び28条に規定する権利を含む)、商標権、意匠権、特許権、実用新案権、特許を受ける権利、営業秘密を含むが、これらに限られない。以下同じ)の一切を譲渡する。
2 乙は、xxx甲が本件キャラクターの利用を許諾した者に対して、本件成果物に係る著作者人格権を行使しない。
3 第 1 項の譲渡の対価は、前条の本業務の対価に含まれるものとする。
4 本件成果物について、乙は、商標の登録申請を行わず、甲が当該申請を行うときは、無償で協力するものとする。ただし、その登録費用は、甲の負担とする。
5 本件成果物について、xが著作xx77条に規定する著作権登録を行う場合には、乙は、当該登録に要する手続に無償で協力するものとする。ただし、その登録費用は、甲の負担とする。
(保証等)
第 8 条 乙は、甲に対して、甲又は甲が本件キャラクターの利用を許諾した者による本件成果物の利用が第三者の知的財産権、人格権(肖像権、パブリシティ権、プライバシー権を含むが、これらに限られない)その他の権利を侵害しないことを表明し、保証する。
2 乙は、xxx甲が本件キャラクターの利用を許諾した者が本件成果物の利用について第三者から権利侵害を主張されたときは、自ら責任をもって対処し、甲、甲が本件キャ
ラクターの利用を許諾した者又は第三者に生じた損害を自らの負担によって賠償するものとする。
(再委託の禁止)
第 9 条 乙は、甲の書面による同意がない限り、本業務の全部又は一部を第三者に再委託してはならない。
(禁止事項)*4 *6
第10x xは、本件キャラクターと誤認・混同するおそれのあるキャラクターを創作し、利用し、その著作権を第三者に譲渡し、又は第三者に利用を許諾してはならない。
(秘密保持)
第11条 略
(反社会的勢力の排除)
第12条 略
(契約解除)
第13条 甲又は乙は、相手方が本契約の各条項に違反し、又は債務の履行を怠ったときは、相手方に対して相当の期間を定めてその是正を求める旨を催告し、それでもなお違反又は債務不履行が改善されないときは、本契約を直ちに解除することができるものとする。
2 前項にかかわらず、甲は、乙について次の各号のいずれかに該当する事由が生じた場合には、事前の催告及び自己の債務の履行の提供なくして、直ちに本契約を解除することができる。
(1) 手形又は小切手の不渡り、支払い停止その他財産上の悪化、又は信用不安が生じ、相手方において本契約の継続が困難と判断されたとき
(2) 財産の差押、仮差押、仮処分、競売申立、銀行取引停止処分等を受けたとき
(3) 破産、民事再生、会社更生若しくは特別清算等の手続開始の申立てを受け、又は自ら申立てを行ったとき
(4) 行政官庁から営業の全部又は一部の停止処分を受けたとき
(5) 乙又はその従業員が、甲の信用を失墜させ、又はその他の不信行為を行ったとき
(6) 代表者が後見、保佐若しくは補助開始の審判を受け、若しくは禁固以上の刑に処せられたとき、又は代表者が死亡若しくは失踪し、相手方がその営業承継者を不適当と認めたとき
(7) 解散決議があったとき
(8) 自己を消滅会社とする吸収合併の決議があったとき
(9) 自己を分割会社とする分割決議があったとき
(10) 債務処理に関する調停、仲裁等の申立があったとき
(11) 重大な過失又は背信行為により取引の継続が困難となったとき
3 前 2 項の規定による解除は、損害賠償の請求を妨げない。
(損害賠償)
第14条 乙が本契約の各条項に違反し、又は納期の遅滞等、債務の本旨に従った履行をし
なかったため甲に信用毀損、販売機会損失等の損害を生じさせた場合には、乙は、直ちにその損害を賠償しなければならない。
(契約有効期間)
第15条 本契約の有効期間は、●年●月●日から●年●月●日までとする。ただし、本契約に基づいて既に発生していた権利義務は、同期間の経過により影響を受けないものとする。
2 前項の有効期間が満了した後も、第 7 条、第 8 条、第10条、第11条、第14条、第 17条ないし第19条の規定は、効力を失わない。
(権利義務譲渡の禁止)
第16条 甲及び乙は、互いに相手方の事前の書面による同意なくして、本契約上の地位を第三者に承継させ、又は本契約から生じる権利義務の全部若しくは一部を第三者に承継しもしくは引き受けさせ若しくは担保に供してはならない。
(誠実協議)
第17条 略
(準拠法)
第18条 略
(合意管轄)
第19条 略
* 1 自治体と民間事業者とが取り交わす契約書のうち、民間事業者が保存する契約書は自治体が作成したものとみなされて非課税となり、自治体が保存する契約書は民間事業者が作成したものとみなされて課税対象となりますので(印紙税法4条5 項、 5条2 号)、自治体が保存する契約書については民間事業者に収入印紙の貼付を求めることとなります。なお、本書式の契約は、請負契約及び著作権譲渡契約としての側面があるため課税文書に該当すると考えられますが(同法別表第1第2 号及び第 1 号の 1 。なお、具体的な文書の所属の決定については、同
法別表第 1 の課税物件表の適用に関する通則 3 ロ参照)、具体的な契約の内容によって課税関係は異なりますので、適宜税務署等に確認する必要があります。
* 2 専門業者に対して、デザインガイドや設定資料の作成も併せて委託することが考えられます。
*3 著作権を譲渡する旨を規定しています。なお、著作xx61条 2 項の規定により、同法27条又は28条に規定する権利が譲渡の目的として契約書に記載されていない場合、これらの権利は譲渡した者に留保されたものと推定されるため、これらの権利を含む旨を明記する必要があります。また、著作者人格権(著作xx18条から20条までに規定する権利)は譲渡することができないため(同法59条)、自治体の利用に対して著作者人格権を行使しない旨の特約を付する必要があります。
* 4 著作物の創作によって何らの方式によることなく発生する著作権(著作xx17条 2 項)とは異なり、商標権は、登録をすることによって発生します(商標法18条 1 項)。そして、商標
権者は、登録に係る指定商品又は指定役務について、登録商標の使用をする権利を専有しますので(同法25条)、自治体がキャラクターについて商標登録することで、他者の商標登録によって自治体がキャラクターを使用できなくなったり、自治体の許諾を得ずにキャラクターを使用されたりする事態を防止することができます。
*5 著作権の帰属を明確化するため、著作権の譲渡について文化庁への登録を行うことが考えられます。登録には、著作権を譲渡した者の協力が必要ですので、委託契約において当該協力義務を規定することが考えられます。
*6 PRキャラクターの制作をデザイン業者に委託する場合、類似するデザインを他の案件に利用されてしまうことが考えられます。この場合、PRキャラクターの著作権や商標権を侵害するとまでは言えなくとも、当該キャラクターと誤認・混同のおそれのあるデザインを作成・利用されることがないように、委託契約書においてそのような行為を禁止する旨を規定する必要があります。
(xx x)
226 Ⅱ 書式解説/第3章 自治体のPRに関する契約