Contract
第3回 契約の効力(1) 売買契約を中心に(担保責任は次回)
【債務内容の確定-履行の前提】
1 合意によって発生する債務(555条)
(1) 基本的債務
・物の引渡しや不動産の場合の移転登記申請協力義務は?
(2) 基本的債務の相互関係-対価的牽連性・相互依存性
2006/10/10
xx xx
Case 03-01 XはYに使わなくなったノートパソコン甲を月末にあげると手紙で約束した。たいへんありがたく感じたYは、翌日、月末には有名なレストランAで夕ご飯をおごるとXに返信で約束した。
①Aが突然閉店してしまってYの約束は実行できなくなった場合、それでもXは約束どおり甲をYにあげる義務があるか。
②気の変わったXが、甲を中古販売店に売ってしまった場合、それでもYは約束どおり夕ご飯をおごる義務があるか。
・双務契約と片務契約
・成立上の牽連関係・履行上の牽連関係・消滅上(存続上)の牽連関係
(2) 基本的債務以外の付随的債務
Case 03-02 Yは、レストランで持ち合わせがないことに気づき、会食した友人Xから1万円を借りたが、いつ返還するかについてはとくに定めなかった。次の場合、Xはいつの時点でYから返還を請求できるか。
①Yが「財布を忘れた」と述べたのを聞いて貸してやった場合
②Yが「今月はピンチだ」と述べたのを聞いて貸してやった場合
③Yが何も言わなかったか、ぶつぶつ独り言を言っていたがXにはそれが聞き取れなかった場合(xxxx『新民法体系Ⅰ民法総則』204-205頁より)
・合意の優先と補充的契約解釈
2 合意によらなくて「も」発生する債務
(1) 基本的債務をめぐる諸義務の慣習法や任意規定による補充(91条・92条)
・例 573条・574条、591条(上記ケース③)
・任意規定の合理性と限界、典型契約の問題整序機能
(2) 付随(的)義務-契約の性質やxxxによる補充
・例 安全配慮義務、買主の目的物引取義務(→受領遅滞責任)
【債務内容の実現-履行の過程】
1 履行の調整
(1) 履行の態様:日時・場所
(2) 履行に付随する事項:売買目的物から生じた果実・代金の利息(575条)
判例
44(遅滞した売主からの同条適用の主張の可否)
2 履行の障害
(1) (客観的な)履行不能に対する救済の全体像(伝統的通説による)
契約無効 → 債権債務不発生 → 債務不履行責任なし
impossibilium nulla ogligatio est
原始的不能 例外としての担保責任;契約を有効とする処理
;解除・代金減額(=一部解除)・信頼利益(≦履行利益)賠償契約締結上の過失責任
債務者の帰責事由有→債務不履行
;現実的履行の強制・履行利益賠償後発的不能 契約有効 → 債権債務発生 ・解除
債務者の帰責事由なし→危険負担
(2) 履行の一時停止:同時履行の抗弁権(533条)
Case 03-03 2006年9月9日、XとYは、X所有の不動産甲を4000万円でYに売るとの契約を結び、YはXに手付金400万円を支払い、10月10日に残代金を支払う旨を決めた。
①10月10日になって、Xが3600万円を請求してきた場合、本契約で、甲の引渡しや移転登記手続についてとくに定めていなかったとすると、Yは、直ちに支払わないと履行遅滞の責任(412条1項、419条を参照)を負うことになるか。
②事実を少し変形して、本契約では、さらに、9月29日に甲の引渡しと移転登記申請手続を行うことが合意されていたとする。9月29日に、Yが甲の引渡しと移転登記申請手続への協力を請求してきたら、Xは残代金の支払との引換えを主張できるか。
③②の場合に、Xは、9月29日に引渡しや移転登記手続への協力をしなかったとする。10月10日を過ぎてYが請求してきたとき、Xは、残代金の支払との引換えを主張できるか。
・同時履行の抗弁権の意義と制度趣旨(準用→546・571条、類推適用→継続的供給契約)
・要件:①双務契約上の対価的債務、②相手方の債務の弁済期到来、③一方的履行請求
判例
・存在効果説 vs 行使効果説
・履行の提供の要否
12(履行拒絶が明確な場合の例外)
・効果:①履行遅滞責任からの解放-消極的・防御的な効果
②引換給付判決。反対給付提供は執行開始要件(民執31条1項)。
・留置権との異同:①対象、②双務契約関係要件、③対第三者効、④攻撃的効果
判例
・先履行義務者の保護-不安の抗弁権
(3) 危険負担
13(ピップフジモト事件)
Case 03-04 ①Yは、10月1日に、Xとの間で「10月10日のY」という自己の肖像画を20万円で描いてもらう約束をしたが、当日忘れてXのアトリエに行かないまま急死してしまった。XはYの相続人に対して20万円を請求できるか。Yが来なかったので Xが別の人の似顔絵を描いて5万円の収入を得ていたとすれば、どうなるか。
②Yは、10月1日に、X画廊から同画廊の所蔵するA画伯が昨年書いた「10月9日」という題の絵を10月10日引渡しの約定で2000万円で買ったが、10月9日に、その絵は展示会場から怪盗Bに盗まれてしまった。XのYに対する代金債権はどうなるか。
③Yは、10月1日に、X画廊からA画伯が昨年200枚制作したエッチング「10月11日」のうち、Xの所有する1枚を10月10日引渡しの約定で200万円で買ったが、10月9日に、そのエッチングはXの画廊から怪盗Bに盗まれてしまった。XのYに対する代金債権はどうなるか。
・給付危険と対価危険の意義と区別
※双務契約のどちらの当事者を「債権者」と呼ぶかについて注意
※債務者の責めに帰すべき履行不能の場合どうなるかについても注意((1)の図参照)
・危険負担の複線的な構成
(a) 双務契約一般についての債務者危険負担主義の原則(536条1項)
(b) 債権者に帰責事由がある場合の債権者危険負担主義の例外(536条2項)
判例
17(注文者防水工事拒絶事件)。労基26条の特則も参照(雇用契約で言及予定)。
(c) 売買等の場合の債権者(=買主)危険負担主義の例外(534条)
判例
14(蚊取り線香事件)、15(タール事件)
(d) 停止条件付双務契約の場合の特則(535条)
・売買の場合の買主危険負担主義の詳細
根拠:①沿革、②物の増加(89条1項参照)や価格上昇との均衡
※目的物に保険がかけられている場合など、代償請求権が生じれば、買主危険負担主義の不合理は緩和される(なお判例16をここで引くのはミスリーディング)
不合理さへの対処方法:①特約の活用、②契約解釈の活用、③不合理な場合の適用制限、
④534条そのものの制限的解釈
所有権者主義的理解(575条参照) vs 管理可能性説
※不特定物では代金債権の確保と調達義務の負担のバランスが問題になる。
・債務者主義の過酷さへの対応
(a) 請負契約の場合
(b) 危険領域説-受領不能構成
〔おまけ〕
教材指定しているxxxx・xxx『民法判例集 債権各論[第2版]』が10月末に重版されるまでの間、レジュメで引用した判例番号に該当する判例の年月日・掲載誌を一覧にしておきます。
12 最三小判昭和41年3月27日民集20巻3号468頁
13 東京地判平成2年12月20日判時1389号79頁(ピップフジモト事件)
14 最三小判昭和24年5月31日民集3巻6号226頁(蚊取り線香事件)
15 最三小判昭和30年10月18日民集9巻11号1642頁(タール事件)=百1
16 最二小判昭和41年12月23日民集20巻10号2211頁
17 最三小判昭和52年2月22日民集31巻1号79頁(注文者防水工事拒絶事件)
44 大連判大正13年9月24日民集3巻440頁=百55(xx解説は対価的不均衡の場合に
575条を適用すべきでないとする)