金・張法律事務所(Kim & Chang) 李時列(イ・シヨル)
韓国における商標ライセンス契約に関する留意点【その 1】
金・張法律事務所(Xxx & Xxxxx) xxx(x・xxx)
(弁護士)
金・張法律事務所(Xxx & Xxxxx)は 1973 年設立、韓国最大手の総合法律事務所である。1100 名の専門家、 1400 名のスタッフを擁し、日本のクライアント専門の部門もある。xxx(x・xxx)弁護士は、ソウル地方法院の判事を経て 2000 年に Xxx & Xxxxx に入所。日本および米国の法律事務所での勤務経験を有する。現在は主に商標を含む知財のライセンシング全般および紛争解決業務に専門的に従事している。
韓国商標のライセンス契約を締結するに際しては、ライセンス対象商標の特定、ライセンス範囲の策定、使用権登録の要否検討、ロイヤリティ料率の策定、xx取引法上の規定の考慮が必要となる。韓国における商標ライセンス契約に関する留意点について、全2回のシリーズで紹介する。
1. はじめに
企業の製品やサービスの名声が高まるにつれ、その製品等に付された商標の価値も高くなる。その結果、商標が製品やサービス、さらに企業そのものにアイデンティティを与え、競争ブランドとの差別化を引き出す機能を持つようにもなる。企業としては競争力のある商標を開発して自ら使用する一方で、第三者とライセンス契約を締結して商標の影響力を拡大および強化しながら、追加的な収益を創出する戦略も積極的に考慮する必要がある。本稿では韓国で商標ライセンス契約を締結する際に考慮しなければならない点を、ライセンサー(Licensor)の立場から詳察する。
2. 契約締結に先立ちチェックすべき事項
ライセンサーはどの商標についてライセンスを与えるのか、ライセンス対象商標をはっきりと決める必要がある。企業の商標管理戦略によって、自社だけが独自に該当商標を使用するのか、あるいは第三者にライセンスを与えるのかを決めることができる。
対象商標が決まれば、ライセンサーは当該商標がライセンス対象商品や役務と関連して韓国で登録されているかを確認したあと、もし登録されていなければ迅速に出願して権利を確保するのが望ましい。韓国ですでに広く知られている商標であれば、登録されていなくても不正競争防止および営業秘密保護に関する法律により韓国での第三者の無断使用を禁止できるが、そうでない場合は第三者が当該商標を韓国で自由に使用することができることになる。参考までに、韓国商標法上では、記号や文字、図形以外に色彩や音、匂いも商標登録が可能である(商標法第 2 条第 1
項第 1 号ロ目およびハ目)。一方、対象商標を含むインターネットドメインもライセンス範囲に含める予定であれば、ドメイン名を登録機関に登録しておくことが望ましい。
また、ライセンサーが韓国で対象商標に関する商標権を確保しているとしても、ライセンス付与に制限があるかどうかもあらかじめ確認しておく必要がある。韓国商標法によれば、共有商標権について共有者のうち一人が第三者にライセンスを付与するためには、他の共有者の同意が必要であり(商標法第 54 条第 6 項)、また第三者にすでに独占的使用権を付与した範囲ではライセンスの追加付与が制限さ れ、ライセンサーが再使用許諾権限に基づいてライセンスを付与する場合には再使用許諾権の根拠となるライセンス契約において定められた手続と制限条件を事前 に確認し遵守しなければならない。
3. 契約締結時に考慮すべき事項
当事者は原則的に自由にライセンス契約の内容を定めることができる。ただし、契約内容が不明確な場合には商標法、民法、商法などを考慮して契約内容を解釈することができ、契約内容が社会秩序や強行法規(例えば独占規制およびxx取引に関する法律、外国為替取引法、法人税法など)に違反する場合には当該約定が無効と判断されることがあるという点にも留意しなければならない。
4. ライセンス対象商標の特定
ライセンス対象商標について「AAA 商標」(およびその韓国語バージョン)などのようにライセンス契約に記載することがしばしばあるが、できるだけ登録番号や出願番号を明記し、当該商標のイメージをそのまま表示する方法で正確に記載するのが望ましい。ライセンス対象商標の中に出願中の商標が含まれている場合は、当該商標が最終的に登録拒絶となってもロイヤリティや契約当事者の責任など契 約条件には影響を及ぼさないという点を明示することもある。そのほか、ライセンサーが契約締結後に保有することになる商標も契約対象商標に含めるのか、そして含める場合、その手続をどのようにするのか(自動的に含めるのか、または、ライセンシーの書面要請に基づき協議するのか)についても、事前にライセンシーと協議する必要がある。
5. ライセンス範囲
ライセンサーは具体的なライセンス範囲についてもライセンシーと明確に協議しなければならず、契約書にはライセンシーに商標使用を許諾する商品または役務を具体的に記載しなければならない。このとき、ライセンサーはライセンス対象商品または役務と登録商標の指定商品や指定役務の範囲が一部異なる場合、ライセンス対象に含まれない指定商品などに関する登録商標は不使用による取消しのリスクがあるという点を考慮しなければならない。そのほか、ライセンス契約書には「ライセンシーが商品を製造した後これに商標を付す行為」、「ライセンサーにより既に商標が付された製品を輸入して流通、広報する行為」などライセンシーがライセンス契約によって商標を使用することができるケースを特定し、許諾された範囲外の使用は認められないことを明確にしなければならない。
ライセンシーに非独占的使用権と独占的使用権のうちどちらを付与するかも重要な問題である。特に必要な場合でなければ通常は非独占的使用権を付与するのが一般的で、独占的使用権を付与するとしても同一商標を付したライセンサー商品との衝突問題を考慮して必要な場合にはライセンサー本人は当該商標を使用することができる権利を留保するという趣旨を明確にすることが望ましい。また、ランニングロイヤリティ方式で独占的使用権を付与しようとする場合にも、ライセンシー
のライセンス対象商標の実際の使用有無やその程度にかかわらず最小限のロイヤリティ収入が保証されるように、基本ロイヤリティもともに約定する案も考慮する必要がある。そのほか、ライセンシーに再使用権付与を許諾するのか、そして許諾するのであれば再使用権許諾手続および再使用権許諾が可能な範囲を商品や対象企業などを基準に明確に特定しなければならない。契約地域については、韓国は領土が広くないため国家全域単位で設定することが一般的である。
一方、ウェブサイトの場合、韓国で管理しても全世界からアクセスできるという点を考慮して、ウェブサイトで商標を使用することもライセンス範囲に含めるかを明確にするのが望ましく、含める場合、韓国語からなるウェブサイトでの使用のみ許諾する等の具体的な条件も決定する必要がある。
6. 使用権の登録
韓国商標法上、ライセンシーの使用権は登録をしなくても当事者の約定により契約上効力が発生する。また、登録した専用使用権者は第三者に対して侵害差止請求と損害賠償請求等をできる地位を有する(商標法第 65 条、第 66 条の 2)。しかし、ライセンサーの立場では契約が中途解除となった場合は使用権登録を抹消しなければならないが、ライセンシーがこれに協力的でない場合は訴訟を経なければならない等の煩わしさがあることから、使用権の登録に対しては慎重に検討して決定する必要がある。
7. ロイヤリティ
ロイヤリティは、通常、業界の既存のロイヤリティ料率に基づいて具体的な状況を考慮して定める。ロイヤリティ算定方式は当事者間で争うことがないように簡単または明確かつ具体的に定めなければならない。例えば純売上額(値引き、返品などを控除したネットの売上高)を基準にロイヤリティを定める場合、基準価格を確定する方法、基準価格を定める時点などを明確にしなければならず、特定商品の販売数量を基準とする場合は、ライセンシーが当該商品以外に付随的に部品やサービスを販売するときはどのようにロイヤリティを算定するかも考慮しなければなら
ない。そのほか、ライセンス契約には基準通貨、為替と遅延利率も明示する必要がある。
参考までに、韓国のライセンシーが日本のライセンサーに支払うロイヤリティに対しては韓国ライセンシーに源泉徴収義務が適用され、このとき、税率は韓日租税条約に従う。
韓国における商標ライセンス契約に関する留意点【その 2】へ続く
(編集協力:日本技術貿易株式会社)