Contract
第 1 章
さあ契約の世界へ
第1章 さあ契約の世界へ
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第 節 契約と自治体職員
それでは早速、皆さんを契約の世界にご案内しましょう。はじめに皆さんにとって契約とはどのような意味を持つのかについて考えてみましょう。皆さんにとっては不安いっぱいのxxの世界かもしれませんが、楽しく学んでいただきたいと思います。
1 契約とはどんな意味?
契約の世界への第一歩として、まず「契約」の意味について考えてみましょう。契約という言葉自体は、日常的になじみのある言葉です。車を買う場合や家を建てる場合あるいは携帯電話の加入等、実際に契約を結んだ経験は誰にでもあるのではないでしょうか。しかし、「契約とは何か」を説明しようとするとなかなか難しいものです。そこで、ここからはできる限り身近な例を取り上げて、「契約」の意味を考えてみることにしましょう。
⒧ 契約と約束の違い ―契約と約束は守るもの?―
例えば、あなたが車を買う場面を想像してみてください。ディーラーでいろいろ交渉を重ねて、お気に入りの車を買うことになりました(売買契約の成立)。そうすると、xxxxxは、契約に従ってあなたに車を引き渡す義務(債務)を負います。一方、あなたは、ディーラーに車の代金を支払う義務(債務)を負うことになります。そして、もし一方がこの義務を履行しなければ、場合によっては裁判を起こして、車の引渡しを求めたり、あるいは代金の支払いを求めることができます。これが一般的な契約の効力です。
契約と自治体職員
次に別の例を考えてみましょう。タケシ君とxxxxは、とても仲のいい友達で、 2 人ともある女性アイドルグループの大ファンです。 2 人でそのグループのコンサートに行く約束をしていました。コンサート前日になって、xxxxが「明日行けなくなっちゃった」とxxxxに言いました。xxxxはxxxxにコンサートに行くように強制することはできるでしょうか。
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さらに、コンサートのチケットをxxxxが購入することになっていたのに、xxxx が買い忘れてしまいました。そのとき、xxxxがxxxxに「せっかく楽しみにしてた のに、約束を守らなかったんだから、慰謝料を払ってよ」ということはできるでしょうか。
第1章 さあ契約の世界へ
契約
車の売買契約
xxxx あなた
ディーラー
法的拘束力
契約は、法的に強制することができる。
約束を法的に強制することはできない。
約束を破っても法的なペナルティはない。 さらに、契約に違反すると損害賠償を求
めることができる。
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この 2 つの例で、「 xxxxがマコト君と一緒にコンサートに行くと言った」あるいは「xxxxがチケットを購入することになっていた」ということは、マコト君とxxxxの合意に基づくものです。しかし、これらはあくまで「友人間の信頼に基づく」約束であって、いわゆる法的拘束力があるものではありません。したがって、コンサートに行くように強制したり、あるいは慰謝料を払うことを法的に求めることはできないと考えられます( 図表 1 ― 1 )。
一般的に契約とは、「 複数の当事者間において締結される
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契約と約束との比較
法的拘束力を持つ合意」と定義されています。ここでのキー
約束
コンサートに行く
xxxx
図表1-1
ワードは「 合意」 と「 法的拘束力」 です。 まず、「 合意」 から考えてみましょう。 契約は、「 申込み」 と「 承諾」 を通じて、当事者が合意に達することで成立することとされています。合意という意味では約束も契約も同じです。しかし、約束と契約とでは、 法的な意味はまったく異なります。 その
xxxxxが、「法的拘束力」なのです。
約束も契約も、もちろん守らなければなりません。ただし、約束を守らないことについて、xx的に非難されることはあっても、法律的に強制されたり、罰則を科されたりすることはありません。これに対して契約は、いずれかの当事者が契約を履行しなかった場合に、相手方は裁判所に訴えることによって、履行の強制など何らかの救済を求めることができます。このような契約の効果を法的拘束力といいます。
⑵ 行政処分と契約との違い
契約と自治体職員
次に、自治体職員の皆さんが仕事で携わる「行政処分」と「契約」とを比べてみましょう。許可や認可といった行政処分も、契約と同様に法的拘束力を持ち、相手方がその義務を履行しなかった場合に、法律的な意味で強制されたり、何らかのペナルティを受けたりすることがあります。しかし、もちろん行政処分と契約とは違います。それではどのような違いがあるのでしょうか。
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法律を学び始めたばかりの人にとっては、そもそも行政処分が何かということも理解できないかもしれません。行政処分とは何かということも自治体職員にとってはとても重要なことなので、 ここで簡単に説明しておくことにします。 行政処分とは、「 行政庁が一方
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的に住民の権利義務等の法的地位を決定する行為」(最判昭和 年
月 日民集
巻 8 号
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1 8 0 9 頁)とされています。例えば、税金の賦課は、住民の同意なく行政庁(自治 体のxx)が一方的に税金を納付する義務を住民に課すもので、行政処分の一つとされています。また、食中毒を発生させた飲食店に対する営業禁止命令は、相手方である飲食店の同意なく行政庁が一方的に営業禁止を命じるもので、これも行政処分の一つです。このように行政庁が住民の同意なく義務を課したり権利を制限したりする行為等が行政処分に当たります。なお、この行政処分という用語ですが、解説書等では行政行為や処分と表現されている場合もありますが、その意味はほぼ同じだと考えてください。なお、行政庁とは、
・
行政処分について国 自治体などの意思や判断を決定し、それを外部の相手方に対して表
示する権限を有する行政機関のことです。例えば、病院を開設しようとするときは、開設
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地の都道府県知事の許可を受けなければなりません(医療法 条政庁は都道府県知事です。
項)が、その場合の行
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行政処分と契約にどのような違いがあるかといいますと、「行政処分」は、行政庁の一
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方的な判断で成立させることができます。これに対して「契約」は、当事者双方の合意に
基づいて成立します。「一方的な判断」と「合意」、これが行政処分と契約との最も大きな
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相違点です(図表 1 ― )。恋愛にたとえると、契約はお互
双方の合意で のみ法律関係を形成できる。
いの気持ちが通じ合った両思いのような感じですね。
契約
自治体
住民
契約と行政処分との比較
ただし、一点注意が必要です。行政処分は行政庁の一方的 な判断で行われるといいましたが、よくよく考えてみると、 例えば食品衛生法に基づく飲食店の営業許可は本人からの申 請に基づくものですし、公務員の任用についても本人からの 申込み(応募)を当然の前提としています。行政処分の中に は、そのように当事者の同意に基づく行政処分もあるのです。
第1節 契約と自治体職員
行政処分
行政庁
法律関係を
行政庁が一方的に形成できる。
住民
図表 1 - 2
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このような当事者の同意に基づく行政処分は、契約に似て いる側面もありますが、当事者の同意に基づく行政処分につ いては、行政庁と申請者双方の合意によって効力が生じるわ けではありません。行政処分が行われるためには、本人から の申請等がなされることが行政処分の前提となっていますが、あくまで法令等で定める要件を充足しているという行政庁の 判断に基づくものなのです。