INTERVIEW
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民事信託契約書の作成に携わる全ての専門家へ
xxxx弁護士が著書「民事信託の別段の定め」に込めた想い
xx民事信託法律事務所 所長 弁護士 xxxx
顧問先の高齢化に伴う相続・事業承継対策、認知症対策として注目される民事信託・家族信託には、デメリットもある。例えば、世代を超えて関係者を拘束することや遺留分請求の対象になり得ることなどだ。しかし、法律の専門家でない民事信託・家族信託の利用者が、デメリットを十分に理解しているケースはほとんどないだろう。2021年5月号で取材した、信託を専門とするxx民事信託法律事務所所長のxxxxx
月刊実務経営ニュース 2022.07
(写真)によれば、民事信託の契約条項の説明不足によって、関係者が理解不十分なまま信託契約が設定される実態があるという。さらに、こうした手続きによる信託契約であっても即座に無効となるわけではなく、後から不利益に気が付いて取り消しを求めても、裁判所に認めてもらえない可能性もあるようだ。xxxx、家族信託には現在もなお不明確な点が多いとし、xxxxや研修会を通じて専門家に慎重な対応を呼びかける。全て「家族を幸せにする信託」を普及させたい信念に基づいた行動だ。独立後、約1年が経過し、本年3月には新著「民事信託の別段の定め 実務の理論と条項例」(日本加除出版)が発刊された。事務所の近況や新著について、xxxxお話を伺った(撮影 xxxx)。
「創るお手伝い」と
「徹底的に壊すお手伝い」
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―― 本日は、信託・民事信託を専門とするxx民事信託法律事務所所長、弁護士のxx
xx先生に、会計事務所とのxxxxxxや、最新の著書「民事信託の別段の定め 実務の 理論と条項例」のお話を伺います。
まずは、近況をお伺いします。約1年前、開業当初に行った弊誌の取材(2021年5月号)において、得意業務として、民事信託
の設定や運営の支援、金融機関に対するコンサルティング業務、信託会社などに対する支援、セミナーや研修会における講演を掲げていらっしゃいました。最近の取り組みはいかがでしょうか。
xx 現在も、その4つの業務に力を入れて
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います。特に、お客様に民事信託を提供して
いる司法書士、税理士など、士業の先生方をご支援する機会を多くいただいています。
―― 先生のもとには、「信託を始めたい」というお客様の相談もあれば、「信託をやめたい」というお客様からの相談も寄せられているのでしょうか。
xx はい。例えば、家族の一部の人だけで民事信託を設定したことが原因で、委託者の死後、他の相続人とトラブルになることがあります。本来、信託は受益者のためにある制度ですが、話を聞いてみると、本来の目的から外れて設定されている場合があります。委託者の想いを尊重するのが第一ですが、そこから外れる信託が、ご家族を苦しめているのであれば、時にはその信託を壊すことも検討しなければなりません。
そのため、私は民事信託に対し「創るお手伝い」と「徹底的に壊すお手伝い」の2つのスタンスを持ち、お客様と向き合うことにしています。
―― 先生は金融機関による民事信託への取
近はいかがでしょうか。
xx 金融機関の協力は、民事信託の利用に
しんたくぐち
不可欠です。信託口口座のサービスや受託者への融資制度がなければ、契約書だけ作成しても信託をした目的は達成できません。金融機関向けの講演や信託業務のご支援をすることは、民事信託のインフラを整備することだと考えています。
ちょうど今も、信託業務の支援で金融機関からご相談をいただいているところです。
新著「民事信託の別段の定め実務の理論と条項例」について
―― 本年3月に発刊された新著「民事信託の別段の定め 実務の理論と条項例」について伺います。
xx xxは信託法に関する書籍です。民事信託の契約書作成に携わる士業の先生方や金融機関の方など、民事信託契約の専門家に向けた内容になります。
―― タイトルにある「別段の定め」とは何
xxxxの著書「民事信託の別段の定め 実務の理論と条項例」 PR動画(xxxxx://xxxx.xx/xxxxx/)
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して効力を発揮します。 書籍内では、「こうした定めを書くと、こういう効果が生じますよ」という解説を、226の条項例で詳しく解説しています。
り組みのご支援にも積極的に取り組まれています。前回の取材では、全国の信用金庫向けの研修会で登壇されたお話を伺いました。最
でしょうか。
xx 「別段の定め」とは、「特約」のことです。しかも、それを定めれば、法律に優先
―― すごい数ですね。どのくらいの期間で制作されたのでしょうか。
xx 構想から数えますと2年くらいかかり
ました。
―― 貴著に込めた想いをお聞かせください。xx 例えば、ビジネスで作成する売買契約 なら、当事者が互いに交渉し、納得したうえ で契約書を作成します。しかし、民事信託の 契約書は違います。契約の当事者であるお客 様は法律に明るくない場合がほとんどですの で、信託が何なのかをご理解いただくところ から始めなければなりません。そのような状 況ですから、契約書の中身は、専門家が考え て作成し、それをお客様に提案することにな ります。
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xxxx弁護士が著書「民事信託の別段の定め」に込めた想い
ところが、提案した内容を、お客様にきち
んと説明しないケースがあるようです。「民事信託とはこういうものです」とひな形の提示で終わらせて、それをxx証書にしてしまいます。当然ながら、お客様は契約内容を完全には理解できていませんし、それが本当にご自身やご家族に合っているのか、判断することもできません。そのような状態で民事信託を始めているのです。
問題は、こうして始まった信託であっても、簡単にやめられないケースがあることです。 信託を無効化できないとする裁判例が、既に
xxxx(xxxx・xxxx)
2つほど示されています。当事者からすれば、裁判所から「合意したのだから我慢しな
さい」と告げられるようなものです。お互い が納得して始めた契約なら仕方ありませんが、民事信託の現実はそうとも限りません。民事 信託で困る人が続くと、「信託契約は危ない らしい」という怖いイメージにつながってし まいます。
民事信託は、契約内容を提案する私たちが慎重になる必要があります。このことを専門家に発信したくて執筆しました。
会計事務所における活用方法
xx民事信託法律事務所 所長。早稲田大学法学部・駿河台大学法科大学院卒。平成22年、弁護士登録。平成24年、ほがらか信託株式会社設立に従事し、平成25年、同社法務コンプライアンス部長に就任(令和元年、同社副社長執行役員を兼務)。令和元年より、駿河台大学法学部特任准教授。著書に「新相続法と信託で解決する相続法
務・税務Q&A」(共著、日本法令)などがある。
―― xxは、会計事務所の業務にどのように役立てることができるでしょうか。
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xx 会計事務所のなかには、事務所内で契約書を作成する場合もあると思います。例えば、事務所内に司法書士や行政書士が在籍するxxxや、グループ内に別の士業法人を設立しているようなケースです。
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このように、民事信託の業務を内製化し、自社で契約書まで作成している事務所には、本書を役立てていただけると思います。ただし、節税の実務やスキームを書いたものではありません。
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―― 顧問先の依頼に基づき、契約書を事務
所内で作成している事務所にはおすすめできそうですね。
xx xxつお伝えしたいのが、民事信託業 務のマニュアル化は、まだ早いということで す。会計事務所に限った話ではありませんが、通常、契約書などの書類作成業務は、事務所 内でマニュアル化し、分業してコストを下げ ることを目指すと思います。しかし、これを 民事信託でやろうとするのは、まだ早いです。
なぜならマニュアル化ができるほど、民事信託について分かっていることは多くはないからです。今はまだ、専門の担当者が、一件一件のお客様ごとに契約内容を考え、分業せず、最初から最後までその担当者が手掛ける段階にあると思っています。本書は、そうした担当者に役立てていただけると思います。
―― 個別性の高い業務であり、お客様一人 ひとりに寄り添うことが求められるのですね。xx お客様のなかには、安く簡単に民事信 託を設定したいという方もいらっしゃると思 います。そうしたニーズには、多少合わない 契約書でも、大きな不都合がなければ、パタ ーン化したものを提供すれば足りるという考 えもあるかもしれません。
しかし、私が提供する民事信託は、その人
にぴったりフィットし、家族を幸せにする信 託です。また、信託会社に在籍し、受託者を やった経験から、信託だからこそ対応できる ニーズがあることや、信託の受託者の責任は 重く、決して容易なものではないことの両方 を分かっているつもりです。お客様によって は、民事信託の設定に向かない人もいますし、逆に、民事信託によるデメリットを考慮して も、民事信託で何とかしなければならない状 況の方もいます。できれば後者のように、民 事信託を真に必要とするお客様に活用しても らいたいですね。
―― 「家族を幸せにする信託」に対する、先生の変わらない想いを感じます。
会計事務所との今後の取り組み
―― 前回、弊誌の取材では、会計事務所とのxxxxxxによって、信託業務に付随する税務のアドバイスも行われていると伺いました。現在の取り組みはいかがでしょうか。xx xx税務に明るい税理士の先生とタッグを組んでの提案・実行もしています。税理
士の先生方は、顧問先ごとに家族の事情が違
うことをよくご存じと思います。お客様の異なる事情に寄り添いたい先生方と、今後も一緒にお仕事ができればうれしいです。
現在、税理士の先生方とのお仕事の機会は、少しずつですが増えています。一緒にお仕事 をした先生が再びご依頼をしてくださったり、知り合いの先生をお客様として紹介してくだ さったりしています。なかには、ご親族の家 族信託のご相談を私にしてくださった先生も います。信託業務を通じて信頼関係を築けた ことを、とてもうれしく感じています。
―― 今後の会計事務所との取り組みについてお聞かせください。
xx 多くの案件をこなすために規模を大き くして、業務を効率化・合理化するのがトレ ンドなのかもしれません。しかし、一件一件 手がけていくことがとくに大切な業務ですの で、一度にご支援できる人数はどうしても限 られます。それでも、私と同じ想いでお客様 の信託を考えてくださる会計事務所へのご支 援であれば、今後も続けたいと考えています。
―― 本日は、大変貴重なお話をありがとうございました。貴事務所のますますのご発展を祈念しています。