Contract
最近の裁判例から
⑴−契約締結義務違反−
売買契約が締結されることを前提に費用支出をした購入希望者の所有者に対する損害賠償請求が棄却された事例
(東京地判 令 2・2・18 ウエストロー・ジャパン) xx x
借地権付建物の売買契約締結に向けた交渉中に、その契約が締結されることを前提に費用を支出した購入検討者が、その後に相手方が契約締結を拒否したことがxxx上の義務違反にあたるとして、支払った地盤調査費用等の賠償を求めた事案において、その請求が棄却された事例(東京地裁 令和2年2月18日判決 ウエストロー・ジャパン)
1 事案の概要
平成27年2月、Y(被告・個人)は、遠縁の親戚にあたるX(原告)からの借入金について、所有するxxxa区内の借地権付建物
(自宅・本物件)を売却して返済に充てることをXに伝え、XとYらは、本物件内の清掃等に着手した。そのさなかの同年5月頃、YはXに、本物件に住み続けたいので、第三者には売却したくないとの意向を示したことから、XはYに対して、本物件を1500万円で購入することを提案した。
Xは、自らが所有する本物件隣接の借地権付建物と本物件を取壊し、一体で建替えることを計画し、建築業者に有償の地盤調査や建築プラン作成を依頼する等した。また、Xは Yに対して、建替え後の建物の一部をYに賃貸する用意があること、建替え工事中は、Xが所有する賃貸中の戸建住宅(本件賃貸建物)の賃借人に立退いてもらい、これをYに月額 5万円で賃貸すること、を提案した。
同年8月、XとYは本物件の敷地(本件土地)の所有者と面談し、本物件をYがXに売
却することを報告したが、その翌月末頃、YはXに本物件の売却を拒否する申出をした。同年12月、XはYに対して、同年10月に本 件賃貸建物の賃借人を退去させたことによる空室損、地盤調査費用等31万円余の支払を求
めて提訴(別訴)した。
平成28年1月にXの請求を棄却する判決が言渡され、これを不服としたXの異議申立の後、同年3月に両者の間で和解が成立した。同年9月、XはYに対して、別訴を提起し た日以降の本件賃貸建物の空室損、及びその
改装費用の支払いを求めて提訴(本訴)した。なお、その後Xは本件賃貸建物を後継の賃借人に賃貸した平成29年2月分までの分まで請求を拡張し、請求額は、244万円余りとなった。これに対してYは、①別訴の和解条項には
「Xはその余の請求を放棄する。」旨の条項があり、別訴の既判力により排斥される、もしくは本訴の提起はxxxに反する、②Yが確定的な意思表示をしておらず、敷地所有者の同意も得られていない中、Xは独断で準備を進めたものであり、Yに契約締結準備段階におけるxxx上の注意義務違反はなかった、として争った。
2 判決の要旨
裁判所は、次のとおり判示し、Xの請求を全て棄却した。
(別訴の和解の効力) Yは、本訴は実質的には紛争の不当な蒸し
返しであって、xxxに反すると主張するが、
別訴の請求と本訴の請求は内容を異にするから、本訴の請求が別訴の既判力によって当然に排斥されることにはならない。
また、別訴の和解にある「Xはその余の請求を放棄する。」の条項は、あくまで別訴の請求内容に関するものであり、本訴の請求内容は別訴の提起後に生じたものであり、本訴は、紛争の不当な蒸し返しとは言えず、xxxに反するものでもない。
(Yの注意義務違反の存否) Xは、①Yに本物件を1500万円で購入する
提案をし、②費用を支出して地盤調査を行って建築プランを作成し、③工事期間中のYの居住先確保のために本件賃貸建物の賃借人を立退かせる、等の準備を進め、Yも特段これに異議を述べなかったことが認められる。
しかしながらXとYは、売買契約の締結時期、代金の決済時期、決済方法、所有権移転登記手続の時期等の売買契約の具体的な内容について協議をした形跡は認められないうえ、これらの準備が進められた後の平成27年 8月になって、本件土地の所有者と面談し、本物件の売却を報告したというのであるから、その時点においては、YからXに本件土地の賃借権を譲渡することにつき、その所有者の承諾を得られるか否かすら確定しない状況であったといえる。
そうすると、上記面談の前に、Xが本物件の売買契約締結に向けて種々の準備を行っていたとしても、いずれも本件土地の賃借権の譲渡につき所有者の承諾を得られると仮定して準備を行っていたにすぎず、Xに対し、本物件の売買契約が確実に成立するとの期待を抱かせるに足りるほど、契約締結のための準備が成熟していたということはできない。
また、上記の面談の後も、XとYとの間において、本件建物の売買契約の締結に向けた協議が特段進展したことをうかがわせる事情
は認められず、その後1か月程度が経過した平成27年9月末頃の時点においても、Xに対し、本物件の売買契約が確実に成立するとの期待を抱かせる状況に至っていたということはできないから、Yが同時点において本物件を売却することを拒否したとしても、契約準備段階におけるxxx上の注意義務に違反するということはできない。
(結論)
よって、Xの請求は理由がないから棄却する。
3 まとめ
売買契約締結を拒絶したことが、xxx上の義務違反にあたるかについて、拒否した時点では契約成立が確実との期待を相手方に抱かせるほどの段階に至っていなかったと判示されたものの一つとして、本事例を紹介するものである。
売買契約に関して、本事例同様、契約締結の準備が成熟した段階に至っていなかったとして請求が棄却された事例として、東京地判平26・12・25(RETIO99-60)、東京地判 平26・ 12・18(RETIO99-62)、xxx上の義務違反は認められたものの損害が認められないとされた事例として、東京地判 平21・2・19(RETIO 60-42)、東京地判 平15・6・4(RETIO44-45)が見られ、一方、xxx上の注意義務違反が認められて支出済費用の請求が認められた事例として、東京地判 平27・2・19(RETIO104-134)が見られるので、併せて参考にしていただきたい。
(調査研究部xx研究員)
最近の裁判例から
⑵−借地権売買−
借地権売買において、底地人の登記情報と住民票の不一致を理由とした買主の違約解除の主張が否定された事例
(東京地判 令 2・3・10 ウエストロー・ジャパン) xx x
借地権売買契約を締結した買主が売主に対し、底地人の住所・氏名について登記情報と住民票を合致させるための書類を交付しなかった債務不履行があり、違約により契約を解除したとして違約金等を求めた事案において、契約上、当該債務の明白な両者の合意は認められないとして棄却された事例(東京地裁 令和2年3月10日判決 ウエストロー・ジャパン)
1 事案の概要等
不動産売買業を営むⅩ(原告)は、不動産仲介業を営むY(被告)を売主として本件借地権付建物について平成30年3月10日、下記内容の売買契約を締結した。
・売買代金 9,250万円
・決裁日 平成30年4月27日
・特約 Yは決済日までに、土地所有者から借地権譲渡承諾書を得るものとし、取得できない場合、本件契約は白紙解約とする。平成30年4月25日、X及びYは以下の内容
の変更合意をした。
ア.本契約の決済日を同年5月31日までに変更する。
イ.Yは決済日までに、①土地所有者が記名押印した借地権譲渡承諾書に対する委任状及び印鑑証明書、②土地所有者が記名押印した承諾書(Xの借入先金融機関宛)及び印鑑証明書を取得することとし、これが揃わない場合には、本件契約を白紙解約し、 YはXから受領済の中間金を返還する。
ウ.Xは、Yに、中間金1,000万円を支払うその後、YはXに対し6月26日に決済を行
いたいこと、同日に残代金8,250万円の支払いがない場合には、本件契約を解除する旨を通知した。
しかし、Xは、本件土地所有者(A・B・ C・D・E5名共有)の登記簿情報と現状の相違が解消されていないから、決済条件が満たされていないと回答し、同月26日の決済は行われなかったことから、YはXとの本件契約を解除し、同月29日F社に本件借地権付建物を売却した。
Xは、本件土地所有者の登記簿と住民票の情報一致は本件契約の条件であり、Yはその義務を履行していないとして本件契約条項に基づき本契約を解除したものであり、支払い済みの中間金1,000万円および違約金925万円等の支払を求める訴訟を提起した。
2 判決の要旨
裁判所は、次の通り判示し、ⅩのYに対する請求を全て棄却した。
(Yの債務不履行の有無について)
⑴ Yが、平成27年11月25日、本件建物の前所有者Gから本件借地権付建物を買い受けた際に、Gは東京地方裁判所に対し、本件土地共有者を相手方として、本件借地権をYに譲渡することの承諾を求める借地非訟事件を申し立て、平成28年9月30日、Gと本件土地共有者との間で、本件土地共有者が本件借地権を被告に譲渡することを承諾する旨の和解が
成立した。
⑵ Xは平成30年2月2日頃、Yに対し本件借地権を総額1億円で購入する旨の借地権付き土地買付証明書を交付した。
⑶ 本件土地共有者の一人であるEは、本件土地共有者代表として、平成30年4月21日付けで、本件借地権を、譲渡承諾料942万円、建替承諾料750万円の条件でXに譲渡することを承諾する旨のY宛「借地権譲渡承諾書および建替承諾書」を作成し、Yに交付した。
⑷ 平成30年4月23日、YはXに対し、必要書類の準備ができた旨連絡。Yは仲介業者を通じて、同月27日に決済する旨の連絡を受け、 Eに対し、譲渡承諾料を支払った。Xは、Yから必要書類の準備ができた旨の連絡を受けてから、同日午後5時頃、仲介業者に対し、 Xが金融機関から融資を受けるにあたって金融機関宛の承諾書を本件土地共有者に作成してもらう必要があるとして、これが揃わない以上、決済できない旨連絡した。
⑸ 平成30年5月22日、X・Y、仲介業者が面談、XはYに対し、本件登記情報と本件住民票情報を一致させるため、Xが依頼した司法書士が必要書類の取得手続きに取り掛かっているが、本来はYが行うべきと主張、Yは、本件契約で定められた義務は全うしているという立場を示しつつ、Xのニーズを踏まえ、決済日を延長することについては、Xから願い書が提出されれば検討すると意見した。
⑹ XからYに対して、本件土地共有者から住所変更の必要書類取得を依頼する願い書を送付し、Yは本件土地共有者に書類提出を求め、Eを除く本件土地共有者4名の書類は取得できたが、Eからは取得できなかった。
以上の認定事実等から、契約書等を含めた同書面においてYがXに対してXの主張する義務を負う旨の記載はなく、交渉経過等に照らしてもYがX主張の義務を本契約上の債務
として負っていることを承諾ないし認容していたことをうかがわせるような経過はない。また、GからY、YからFに本件建物及び本件借地権の譲渡がされているが前記情報の合致が求められた形跡はなく、Xが主張するように当然にYに前記X主張の義務が生じるものと解することは困難であり、Xの主張は採用できない。
本件土地共有者からの借地権譲渡承諾書を得ることについてもYはその義務を果たしたものと認められる。
(結論)
以上のとおり、Xの主張はいずれも理由がないことから、その請求を棄却する。
3 まとめ
借地権の売買においては、第三者対抗要件は建物の登記であり、本件のような事例は少ないと思われる。しかし、登記情報と住民票の情報が合致しているかを事前に確認のうえ、情報が合致していなければ、そのまま取引をするのか、情報を修正することを条件とするのか、契約上の取り扱いを詳細に取り決めておくことがトラブル回避の観点から望ましいと思われる。
(調査研究部調査役)
最近の裁判例から
⑶−給湯設備の接地と瑕疵担保責任−
給湯設備の接地線の未設置等に関する買主の損害賠償請求について施工会社提示の補修相当額のみが認められた事例
(東京地判 令 2・3・18 ウエストロー・ジャパン) xx xx
新築マンションの買主が、売主・施工会社に対して、給湯設備に接地線が取り付けられていない、電源通信線の直径等が据付工事説明書及び内線規程に違反するなどの瑕疵があったとして損害賠償を請求したが、施工会社提示の補修相当額のみが認められた事例(東京地裁 令和2年3月18日判決 ウエストロー・ジャパン)
1 事案の概要
平成26年3月、買主X(個人)は、マンション分譲業者Y1より、Y2(工事業者)が施工する新築マンション(本件住戸)を代金 4,800万円余で購入し、平成27年11月に本件住戸の引渡しを受けた。
本件住戸のバルコニーには給湯設備(エコキュート)が設置されていたが、Y2は、エコキュートを設置するに当たり、電源線にあっては、直径2.0mm、電源通信線にあっては、直径1.6mmのケーブルを使っていた。また、電源線、電源通信線及びリモコンケーブルについて、電線管(電線やケーブルを中に入れて保護するための管)に入れずに施工し、ヒートポンプユニットについては接地接続していなかった。(アース非接続)
アース非接続を知ったXより対応を求められたYらは、給湯用xx管内にアース線を入れる補修工事をXに提案したが、Xは当該提案を拒否し、①アース非接続について電気メーカー作成のエコキュート据付工事説明書に反する、②電源通信線の心線の直径は1.6mm
であり、これは2.0mmとしている据付工事説明書及び内線規程(注)に反する、③長期に渡り虚偽の説明を受け、感電、火災等の不安を抱え精神的苦痛を被ったなどとして、電源通信線の適正なケーブルへの交換費用等89万円余、リモコンケーブル補修費用等200万円、精神的損害300万円等、合計614万円余の損害賠償請求訴訟を提起した。
(注)「電気設備に関する技術基準を定める省令(平成9年通商産業省令第52号)」(省令)、
「電気設備基準の解釈」(解釈)及び「電気設備基準の解釈の解説」(解説)を踏まえて一般社団法人日本電気協会が制定した自主的な規範。省令、解釈、解説及び内線規程は、住宅等の電気設備工事に際し広く参照されている。
2 判決の要旨
裁判所は、次のとおり判示し、Xの請求につきYらが主張する補修費用11万円余のみを認めた。
(アース非接続の瑕疵該当性等の有無)
認定事実等から、本件ヒートポンプユニットの設置個所は、「解説」にいう雨露にさらされる場所にあたるものと認められ、「省令」及び「解釈」により接地工事がされなければならないものと解される。
Y2が、ヒートポンプユニットにアース非接続の状況で住戸をXに引き渡したことは、
「省令」に反するものであり、アース非接続は瑕疵にあたる。
Y2は、上記瑕疵の補修方法として、xx管内にアース線を入れる補修方法を主張し、その補修方法をXに提案している。この補修方法は、「解釈」に規定された施工方法の要求を満たすものといえ、事故があった場合にも問題が発生する可能性は低いといえることから、瑕疵を補修する方法として相当であると認められ、補修案を施工する場合の費用は 11万円余であると認められる。
(電源通信線1.6mmに関するYらの責任) Xは、据付工事説明書は電気通信線の直径
を2.0mmと指定し、これを用いなければ漏電・火災の原因になるなどとして、電源通信線の直径が1.6mmであることは据付工事説明書に違反する旨主張する。
この据付工事説明書は、電気メーカーがエコキュートの性能及び機能を十分に発揮させ、安全を確保する目的で、施工者に適切な据付工事の情報を伝達するために作成したものであり、据付工事、配管工事、電気工事などについて、手順や必要部材を説明し、警告事項や注意事項を指摘していることが認められる。
本件において内線規程は法令に準ずる規範性を有し、契約上予定されているものと解されるところ、内線規程の許容電流値の関係においては、電源通信線の心線太さは1.6mmで足りるから、据付工事説明書が定める電源通信線の心線太さ2.0mmは、内線規程より安全側に定めたものと認められる。
このように内線規程より安全側である据付工事説明書の心線の太さの記載が、それ自体、法令や内線規程に準ずる程度の規範性を持つものとは直ちに言い難いところであり、製造業者、施工業者、使用者等との間で、規範性を持つものとして通用し、あるいは取り扱われていることを認めるに足りる証拠はない。
以上の諸事情を考慮すると本件において、
据付工事説明書の内容が売買契約の内容になるとは認められない。
(精神的損害についての賠償の要否) Xは、本件住戸の瑕疵やこれに対するYら
の対応により精神的損害を被ったと主張するが、アース非接続の瑕疵については、接地工事費用の賠償により補償されない精神的苦痛を被ったものと認めるに足りる証拠はない。
3 まとめ
住宅設備の設置・仕様については、買主から売主・施工会社に対し、種々の詳細な要求があり、売主側でも対応に苦慮し、訴訟となるケースも少なくないものと思われる。
本件では、給湯設備のアース非接続は瑕疵とされたものの、施工会社の提案した補修工事は相当であったと判断されている。また、電源通信線の直径についても据付工事説明書への違反はなかったとされている。
瑕疵に対する買主の請求について判断された事例としては、マンションの買主がエアコンの空気孔の位置が低いことが瑕疵にあたるとした請求が棄却された事例(東京地判 平 21・3・16 ウエストロー・ジャパン)、軽微な越境における擁壁の撤去・築造は過剰な対応であるとして買主業者の請求が棄却された事例(東京地判 平27・1・15 RETIO100-122)などがあり、参考にされたい。
(調査研究部次長)
最近の裁判例から
⑷−建売住宅の敷地における瑕疵−
購入目的に支障がないとして、買主が求めた建売住宅の敷地の瑕疵に基づく損害賠償請求が棄却された事例
(東京地判 令 2・7・22 ウエストロー・ジャパン) xx x
xx住宅の買主が、敷地から多量のコンクリート片等が発見されたことから、敷地には隠れた瑕疵があるとして瑕疵担保責任、または、不法行為責任に基づき、建売業者に対し、損害の支払いを求めた事案において、建物の敷地として利用することが可能であり、また、敷地を植栽等としてそのまま利用することは予定されていなかったことから、売買の目的を達することができないとはいえないため、瑕疵とは認められないとして棄却された事例
(東京地裁 令和2年7月22日判決 ウエストロー・ジャパン)
1 事案の概要
平成29年12月、買主X(原告)は建売業者 Y(被告)から、建売住宅を2075万円(税込)で買い受けた。
売買契約の特約事項として「土地に関して建物を支えることに適していることを確認していますが、植栽・農園等には適さない場合があります。また、土中には自然石を含んでおり、土の入れ替え等が必要な場合は買主の負担となります。」との定めがあった。なお、土地の地目はもともと山林であったが、平成 27年7月、宅地に変更された。
買主は、建売住宅を自宅として使用している中で、土地の庭部分からコンクリート片が検出されることに疑念を抱き、平成30年12月に調査を行い、任意の3カ所を深さ45cm ~ 60cm掘削したところ、コンクリート片、陶器片、瓦礫等が発見されたことから、Xは、
Yの瑕疵担保責任、または、不法行為責任に基づき、Yに687万円余(購入価格と、Xが廃棄物除去費用を前提として算定した市場価格の差額と弁護士費用の合計)を求めた。
Yは、①Xの行った調査は、Yの立会なしに実施され、信用性が乏しい上、調査に使用されたふるいは、1.5cmxxの極めて細かいメッシュのもので、自然石も漉し取られてしまっている。Xの調査でも、人工物はごく少量で、宅地としての利用に全く影響はない。
②特約として、本件土地の土中に自然石が含まれることは盛り込まれており、また、特約上、庭部分の利用方法について、植栽、農園等には適さない場合があるという一定の制限が課せられていることは当然の前提となっており、土の入れ替えが必要な場合にはXの負担となることも明記されており、瑕疵に該当しないとして、Xの請求を拒否した。
Yの拒否を受け、Xは提訴した。
2 判決の要旨
裁判所は、次のように判示して、Xの請求を全て棄却した。
⑴(隠れた瑕疵の有無)
本件土地は宅地としての利用を目的として売買されたものであるが、本件建物が現に建築されており、また、本件建物の敷地として使用することに支障があるとの主張もないことからすると、建物敷地としての利用に支障があるとは認められない。
特約には、本件土地は植栽・農園等に適さ
ない場合があるとされ、また、土の入れ替えが必要な場合には、買主の負担とされていることから、本件土地は、売買契約当時の状況のまま植栽や農園等に利用されることは予定されていなかったといえる。
売買の対象物である土地の地中に廃棄物があったとしても、売買の目的に従って利用することができるのであれば、当該土地に瑕疵があるとはいえないと解されるところ、本件土地は建物の敷地として利用することが可能であり、また、植栽や農園等としてそのまま利用することは予定されていなかったことからすれば、コンクリート片などの廃棄物があったとしても、宅地として利用ができないものとは認められない。
特約上、自然石の存在についてのみ指摘があり、廃棄物の存在については指摘がないが、もともと植栽や農園等としてそのまま利用することが予定されていない土地であった以上、廃棄物の存在によって、売買の目的を達することができないとはいえない。
したがって、本件土地に廃棄物が埋没していたことが瑕疵に該当するとは認められない。
⑵(Yの注意義務違反の有無)
土地の売買において、土地が使用されていた状況等から、危険物等の存在が疑われるなど土地の利用に支障があることが想定される事情がある場合は別として、一般的に地中の埋設物の調査義務があるとは認められない。本件土地はもともと山林であり、平成27年 ころに、周辺の土地とともに宅地造成された土地であると推認され、そのような来歴の土地について、土中に埋設物が存在することを
想定すべきであるとはいえない。
本件建物は、木造2階建の一般住宅であり、基礎は直接基礎であると認められ、建築に当たって本件土地の掘削の必要はほとんどなか
ったものと推認されることから、Yが、本件建物の建築にあたり、本件土地を掘削して廃棄物が埋まっていることを知っていたとも認められない。
そうすると、Yにおいて、本件売買にあたり、本件土地に廃棄物等が埋められていないかを調査すべき義務があるということはできず、また、本件土地の土中に廃棄物が存在することを知っていたとも認められないから、 Yに廃棄物の撤去義務や廃棄物の告知義務があったとは認められない。
以上によれば、Xの請求は理由がない。
3 まとめ
地中埋設物の存在が土地の瑕疵にあたるととされた裁判例としては、土地売買で、①自宅の建築には、地盤改良工事が必要となった事例(東京地判 平30・3・29 RETIO114-102)、
②マンション建築のための杭打ち込みには既存杭の除去が必要であった事例(東京地判平25・11・21 RETIO102-112) ③ 地中に深さ 6.6mのxxxの存在が判明し宅地としての利用には地盤改良工事が必要であった事例
(東京地判 平21・2・6 RETIO76-68)等がある。一方、本事例では、土地の瑕疵が認められ
なかった点は前記裁判例と異なるが、瑕疵の有無の判断について、買主が売買の目的に沿って利用できるか否か、契約の内容に適合しているかという点で判断されていることでは同じである。本件同様、瑕疵に該当しないとされた事例として、建売住宅売買におけるブロックフェンスの地中基礎の存在について瑕疵が否定された事例(東京地判 平22・4・8 RETIO83-138)もあるので参考とされたい。
(調査研究部調査役)
最近の裁判例から
⑸−電柱の説明義務−
新築マンションのサービスバルコニー前の電柱の存在の説明を怠ったとする買主の損害賠償請求が棄却された事例
(東京地判 令 2・1・29 ウエストロー・ジャパン) xx xxx
建築中の新築マンションを購入契約した買主が、引渡し後、サービスバルコニー前の電柱の存在について説明を受けていないとして、売主業者に対して損害賠償を求めた事案において、売主にその責任は認められないとして請求が棄却された事例(東京地裁 令和 2年1月29日判決 ウエストロー・ジャパン)
1 事案の概要
買主X(原告)は、売主業者Y(被告)との間で、平成29年2月26日に、建築工事中であった新築マンションの3階の一室につき売買契約を締結し、平成30年4月8日に引渡しを受けた。
本件売買契約の重要事項説明書の容認事項欄には「本マンションの周辺建物、周辺施設その他の状況及び騒音、日影等の状況、交通状況・利便並びに本マンション敷地周辺道路に設置されている電線・電柱及びその付属物、街灯等の配置・配線状況や高さ等については現地で十分ご確認ください。」との記載があった。
本件居室xxのサービスバルコニー(腰窓で日常的に人が出入りするものでなく、空調室外機を置くことを想定した小規模なもの)の前には、従前より設置されていた東京電力の電柱があった。本件売買契約当時、本件マンションは建築工事のための仮囲いが施されていたが、当該電柱の存在は道路側から容易に分かる状況であった。(本件電柱の西側 50m先にも同様の電柱があったが、本マンシ
ョン建設工事の支障になったため、施工請負会社の申出により撤去され、代わりに、高さの低いNTTの電柱が設置された経緯があった。)
Xは、本件居室の引渡しを受けた後、X自身で東京電力に対して本件電柱の撤去を交渉した結果、本件電柱に搭載されていた変圧器及び必要のない高圧電線や地中支線は撤去されたが、本件電柱本体は撤去されずにサービスバルコニー前に残ったままとなった。
Xは、本件マンションの管理組合に対し、本件電柱の撤去を申請したが、管理組合がこれを拒否したため、Xは、管理組合に対し、訴訟を提起した。しかし、当該訴訟は、申立不適当として審理されずに却下された。
このためXは、Yに対し、Yが本件電柱を撤去すべき義務、電柱の存在についての説明義務違反、瑕疵担保責任などを主張し、X自身が東京電力との交渉や管理組合との訴訟に要した費用や慰謝料、今後の当該電柱撤去に要する費用など、103万円余の賠償を求める本件訴訟を提起した。
2 判決の要旨
裁判所は、次のように判示して、Xの請求をいずれも棄却した。
(Yの本件電柱撤去義務) Xは、本件電柱により圧迫感を感じるだけ
でなく、大地震によって電柱が倒れた場合、本件居室や階下居住者に甚大な被害が生じるため、Yが本件電柱を撤去しないことが民法
717条(工作物責任)違反ないし不法行為と評価できると主張するが、独自の見解であり採用できない。
(本件電柱の存在の説明義務) Yは、重要事項説明の際、Xに本件電柱の
具体的な状況(位置や設置状況等)について説明したものではないものの、電柱の位置等についてはX自身で確認するよう説明したものであり、説明義務違反があったということはできない。
また、本件電柱は、本件マンションの完成前から存在していたものであり、Xの自宅からも徒歩数分の場所にあり、確認は容易であったことも考慮すれば、上記の説明以上に電柱の位置について詳細な説明が必要だったとも解されない。
この点、Xは、自分が電柱嫌いであり、電柱が眼前に存在する部屋は購入したくないと Yに告げた旨主張するが、これを認めるに足る的確な証拠はなく、Yが本件電柱の存在を故意に隠していたとは認められない。
本件居室xxのサービスバルコニーについては、そもそも眺望を期待することができず、 Yも特段眺望を強調したような事実もないことや、本件電柱は工事の間もxxの窓から容易に見える場所にあったことに鑑みれば、本件電柱についてXに詳細に説明すべき義務があったとまでは解されない。
(瑕疵担保責任) Xは、Yが本件電柱の存在を説明しなかっ
たため、Yは瑕疵担保責任を負う旨主張するが、本件電柱は本件居室付近の工事期間においても容易に発見できるものであったため、本件電柱の存在は隠れた瑕疵とはいえず、Xの主張は採用できない。
したがって、その余の点を判断するまでもなく、Xの請求はいずれも理由がない。
3 まとめ
本件電柱は、サービスバルコニーから約 2m弱の離れた先にあり、居室の北側面にある二つの腰窓の真ん中付近にあるため、腰窓に近づいて斜めに見ないと視界に入ってこない程度のものだったようである。
本件のように電柱等の存在の説明義務が争われ、買主の請求が棄却された事例として、バルコニーの傍に電話線等の引込柱が立っていることが防犯上問題であるとの理由により、消費者契約法(第4条1項1号・2項)による取消や錯誤無効(民法第95条)を訴えたが、引込柱が存在しないことが契約の動機として法律行為の要素となっていたとは認められないとして棄却された事例(東京地判平19・1・29ウエストロー・ジャパン)がある。
他方、契約解除が認められた事例として、居室からの眺望(オーシャンビュー)をセールスポイントにした新築マンションにおいて、電柱や送電線の眺望阻害の影響について説明義務違反があったと認定した事例(福岡地判 平18・2・2 RETIO67-76)がある。
居室の目前に存在する電柱のような構築物の存在については、トラブルになる可能性が高いことから、分かり得る限り重要事項説明書に具体的に記載し、説明しておく方が望ましいといえよう。
(調査研究部xx調整役)
最近の裁判例から
⑹−収益物件の調査説明義務−
収益物件の賃貸借契約や建物の状況に関して不正確な情報を提供した媒介業者に債務不履行責任が認められた事例
(東京地判 令 2・2・18 ウエストロー・ジャパン) xx xx
収益物件の買主が、媒介業者に対し、賃貸借契約や建物の状況の正確な情報を調査、説明をしなかったとして損害賠償を求めた事案において、媒介業者の不完全履行による買主の損害として、説明賃料と実際賃料の差額約 11ヵ月分および支払済媒介手数料の半額を認めた事例(東京地裁 令和2年2月18日判決ウエストロー・ジャパン)
1 事案の概要
共同住宅兼事務所ビル(本件土地建物)の売主Aより、媒介の依頼を受けた媒介業者Y
(被告)は、Aに賃貸借契約に係る資料や建築確認通知書、検査済証、建物図面等の提出を求めたが、Aが作成したという家賃管理表
(実際の賃料は月84万円余のところ、89万円と記載されていた)や建物図面以外は入手ができなかった。
Yは、想定月額賃料(Aの家賃管理表の賃料に、Aが自用する1・2階事務所部分のYの想定賃料を加えたもの)を133万円余とする物件概要を作成しレインズに掲載したところ、これを見た買主Ⅹ(原告・xx業者)は、本件土地建物を購入して第三者に転売した上で、本件建物のサブリース契約を結ぶことを考えた。
XはYに、賃貸借契約書や建物検査済証等の開示を求めたが、Yより、それらはないとの回答を受けた。Ⅹは、建物1階部分の内覧がAの拒否によりできなかったが、市役所にて、本件建物の建築確認通知書・検査済証の発行が確認できたことから、Xは本件土地建
物を購入することにし、平成29年12月、YをA及びXの媒介業者として、Aとの間で、売買代金1億9000万円とする売買契約を締結した。平成30年1月9日、Xは転売先Bに、本件 土地建物を売買代金2億7780万円で売却し、
同月13日に、Bを貸主、Xを借主として、月額保証賃料をY作成の賃貸状況表に記載された想定賃料と同額の133万円余、契約期間を同月22日より2年間とする賃料保証型の一括建物賃貸借契約を締結した。
同月22日にXとAの売買契約の決済が行われた。
その後、Xが依頼した建物管理会社の状況確認により、家賃管理表について、1室は本件売買契約前に退去済みであり、2室については賃料が誤っていることが判明した。また、テナントの申込みがあった1階事務所部分については、駐車場として建築確認を受けていて、事務所等への用途変更は容積率違反となることが判明し、申込みはキャンセルとなった。
Ⅹは、Yに対し、重要な事項について調査や資料の開示を行わず、不正確な情報を説明、告知したとして、Yの本件媒介手数料の全額 622万円余、Yより提示された賃貸状況表と実際賃料との差額2年分183万円、建物1階部分のテナントキャンセルにより得られなかった賃料4年分2592万円、計3397万円余の支払いを求める本件訴訟を提起した。
Yは、必要な資料や情報の収集等について売主であるAの協力が得られない一方、Xが本件売買契約の締結を急ぐ中で、調査義務及
び説明、告知義務を尽くしたから、債務不履行責任を負うことはないなどと主張した。
2 判決の要旨
裁判所は、次のとおり判示し、Xの請求について一部を認容した。
(Yの債務不履行責任について) Yは、Xに対し、本件媒介契約に基づく善
管注意義務として、Xにとって重要な事項について、自ら調査し又は売主から資料等の提供を受けるなどして、正確な情報を説明、告知すべき義務を負うと解される。
本件建物1階は、建築確認通知書や検査済証交付の時点では駐車場とされていたが、その後、店舗に改造されたため、当該用途変更により容積率超過の状況にあったにもかかわらず、Yは、本件建物1階が駐車場として建築確認等を受けていることを説明せず、本件建物の図面を交付することもなかったから、 Yには、建ぺい率及び容積率違反の有無、建築確認申請の状況、本件建物の概況に係る、説明・告知義務を果たしたとはいえず、債務不履行責任を負う。
本件建物の賃貸借契約の状況は、不動産売買契約の締結に当たり、Xにとって重要な事項であり、Yは、Xに対し、その正確な情報を説明、告知すべき義務を負うところ、Yは、裏付けとなる賃貸借契約書等の客観的資料を確認しないまま、Aが作成したという家賃管理表の内容を鵜呑みにして、何らの留保を付けることなく、事実と異なる賃貸状況表を作成し、Xに説明したものであるから、本件建物の賃貸借契約の状況に係る説明、告知義務違反により債務不履行責任を負う。
(Xの損害額について) X主張の、1階部分のテナントキャンセル
による損害については、建物1階が駐車場として建築確認を受けている旨を明らかにして
入居者を募集していたならば、そもそもテナント申込みはなかったと認められるから、Yの説明義務違反との間に因果関係を認めることはできない。
Y説明の賃料収入額と実際の賃料収入額との差額による損害については、建物の引渡し後から本件訴訟の口頭弁論終結時までの間の 143万円をもって、Yの債務不履行による損害と認めるのが相当である。
X主張の媒介手数料の損害については、本件売買契約自体の締結には至っており、本件媒介契約が解除されたわけではない。よって全額を損害と認めるのではなく、Yの本件建物の容積率違反の有無等の説明・告知義務違反の内容、程度等に鑑み、支払済媒介手数料の半額311万円余を損害と認めるのが相当である。
以上によれば、Yの債務不履行によりXが被った損害は、合計454万円余となる。
3 まとめ
収益物件の賃貸状況は、買主の購入判断に影響を与える重要な事項であり、媒介業者は、正確な情報提供を行う必要があることを認識しておく必要がある。従って、媒介業者が賃貸状況を買主に説明する場合には、売主から入手した賃貸状況表が誤っていることがありうるとの認識のもと、その裏付けとなる賃貸借契約書の提示を受け、確認を行い、提示が受けらない等により不明であった場合には、その旨の留保(リスクある旨)を付けて、その正確性を含めて賃貸状況を説明する必要がある。
なお、1階駐車場の用途変更による容積率違反事例はよく見られることから、媒介業者においては、建築確認申請図面と現状建物との確認は是非行っておきたい。
(調査研究部調査役)
最近の裁判例から
⑺−雨漏り履歴の説明義務−
売主業者が雨漏り履歴を故意に隠蔽したことは説明義務違反にあたるとして、慰謝料の支払いが命じられた事例
(東京地判 令 2・2・26 ウエストロー・ジャパン) xx xxx
中古マンションの買主が、売主業者や媒介業者が雨漏り履歴を故意に隠蔽したとして、売買契約の錯誤無効などを主張した事案において、売主業者の説明義務違反を認定し、慰謝料40万円を認容した事例(東京地裁 令和 2年2月26日判決 ウエストロー・ジャパン)
1 事案の概要
売主業者Y1(被告)は、平成27年4月、中古マンション(昭和53年築)の一室を訴外 Aから購入し、同年8月、媒介業者Y2(被告)の媒介により、買主X(原告・個人)に売買代金1,200万円で売却した。
AがY1に提出した物件状況等報告書には
「平成27年4月頃、リビングで雨漏りがあったが修理済」の旨が記載されていたが、Y1はXに提出した物件状況等報告書において
「雨漏りを発見していない」「漏水等の被害:無」「専有部分の修繕の履歴:無」と記載した。
平成27年10月、リビング天井から雨漏りが発生し、桶で水を受ける程になった。
その後の調査で、雨漏りの原因は、上階との間の共用部分にあることが判明し、その補修費用23万円余を管理組合が負担するとの対応方針が示されたが、Xは、これを拒否し、 Y1に対して、売買契約の錯誤無効などを理由とする不当利得返還請求及び損害賠償を、 Y2に対して、説明義務違反による損害賠償を、両者に連帯して1,473万円の支払いを求める訴訟を提起した。
2 判決の要旨
裁判所は、次のように判示して、Xの主張に係る請求のうち、Y1に対する慰謝料請求を認容した。
(錯誤無効)
意思表示における動機の錯誤が法律行為の要素に錯誤があるものとしてその無効を来すためには、その動機が相手方に表示され法律行為の内容となり、もし錯誤がなかったならば表意者がその意思表示をしなかったであろうと認められる場合であることを要し、動機は、たとえそれが表示されても、当事者の意思解釈上、それが法律行為の内容とされたものと認められない限り、表意者の意思表示に要素の錯誤はないと解するのが相当である
(最三判 平成28年1月12日 民集70-1-1)。
これを本件についてみると、売買契約を締結した経緯によると、Xが従前の雨漏り発生の有無を確認し、今後も雨漏り等の発生の恐れのない物件を注意して選定したとは窺えず、物件状況等報告書に雨漏り歴がないという記載をもって直ちにそれが売買契約の内容になるとは認められないから、錯誤無効を来す動機の錯誤があったということはできない。
また、本件雨漏りは、23万円程度の費用で修繕可能な軽微なもので、しかも管理組合がその費用を負担する意向を示しており、本件錯誤がなかったならば、Xのみならず通常人であっても契約しなかったと認められるほど
に客観的に重要な錯誤であったともいえない。
(詐欺取消し)
詐欺によって意思表示をした者がその意思表示を取り消すためには、①相手方を欺罔して錯誤に陥れようとする故意(第1段の故意)及び②この錯誤によって意思表示をさせようとする故意(第2段の故意)が必要である。
本件では、Y1が本件雨漏り歴を故意に隠したものと認められるものの、本件売買契約の締結に至る過程において雨漏り歴の有無が購入の意思の判断を左右するほどに重要であることを基礎づける言動がXからなされたとは窺えず、いわゆる第2段の故意があるとは認定できない。
(消費者契約法4条1項1号による取消し) Xは、雨漏り歴に関して事実と異なる告知
を受けているが、本件雨漏り歴の存否自体は、それが修繕済である限り、売買契約締結後の居住環境に直ちに影響を及ぼすものではなく、かつ、通常は修繕がなされているから、社会通念に照らし、マンションの売買契約を締結しようとする一般平均的な消費者が当該契約を締結するか否かについて、その判断を左右すると客観的に考えられるほどの基本的事項であるとまではいえず、本件雨漏り歴は
「重要事項」に該当しないので同法の適用はない。
(Y1の債務不履行による契約の解除)
本件は中古物件売買であり、債務の本旨は、引渡しをすべき時の現状において引渡すことにあり(民法483条)、雨漏りがあることをもって直ちに不完全履行に該当するものではない。
当事者が契約をなした主たる目的の達成に必須でない附随的義務の履行を怠ったにすぎないような場合には、特段の事情が存しない限り、相手方は当該契約を解除することがで
きないものと解するのが相当であるところ
(最三判 昭和36年11月21日 民集15-10-2507)、本件雨漏り歴自体は生活に直ちに影響を及ぼすものではない上、契約締結に至る経過においても、重大視され又は契約の前提とされていたことは窺えず、これを理由に本件売買契約は解除できない。
(Y1の説明義務違反による不法行為責任) Y1は、雨漏り歴を知りながら故意に隠蔽
したもので、xxxxの原則に反する。また、 Y1は、その原因が単に失念したに過ぎない旨弁解に終始しており、非常に悪質でxx業者としての信頼を著しく損なう行為である。 Xは、Y1の虚偽説明により、一部誤った情報を基に購入の判断を余儀なくされる不利益を被ったものであり、その精神的苦痛に対する慰謝料は40万円を相当と認める。
(Y2の説明義務違反) Y2は、Y1に修繕履歴を確認して雨漏り
歴がない旨の回答を得るなど、媒介業者として一応の調査を尽くしており、雨漏り歴を認識し又は認識し得たということはできないから、Y2に帰責事由又は過失は認められない。
3 まとめ
本事案は、修繕可能な軽微なものであり、売買契約の取消しや無効の主張は棄却されたが、売主業者が雨漏り履歴を知りながら故意に隠蔽したことはxxxxの原則に著しく反するとして、買主の慰謝料請求が一部認容された事例である。告知事項あるいは説明義務に係る教訓として実務上注意しておきたい。
(調査研究部xx調整役)