第 201 回国会法律案等 NAVI
第 201 回国会法律案等 NAVI
投資協定4件(UAE、ヨルダン、モロッコ、コートジボワール)
1.投資協定の概況
投資協定とは、投資規制をできる限り無くし、投資を自由に行うことのできる環境を整え、投資家及び投資財産を保護するための協定である。WTO協定では「貿易に関連する投資措置に関する協定(TRIMs協定)」により国際投資の保護・自由化に係るルールを規律しているが、その対象は限定されたものとなっているため、各国は投資関連協定(投資協定及び投資章を含む経済連携協定(EPA))の締結を進め、2018 年末時点における有効な協定数は 2,658 件に上るとされる1。
投資協定は、①投資家による相手国での投資後に安定的な投資活動を法的に保障する「保護型」と、②「保護型」の内容に加え、投資の設立(許可)段階においても投資家が相手国の企業等と同様の条件で活動できることを保障する「自由化型」の2種類に大別される。その上で、各投資協定の規定内容等は協定ごとに異なるものの、主な規律はおおむね共通しており、一般的には、内国民待遇(自国の投資家等に与える待遇よりも不利でない待遇を与えること)、最恵国待遇(第三国の投資家等に与える待遇よりも不利でない待遇を与えること)、投資財産に対するxxな待遇・十分な保護、正当な補償等を伴わない収用(投資財産の国有化等)の禁止、投資家と投資受入国の紛争解決(ISDS)手続、投資家に対する特定措置の履行要求禁止2等に関する規定が置かれていることが多い。
日本は現在、44 件の投資関連協定(投資協定 30 件、EPA14 件)を延べ 72 の国・地域と締結しており(2020 年3月1日現在)、第 201 回国会(常会)には署名済みの投資協定
4件(アラブ首長国連邦(閣条第1号)、ヨルダン(閣条第2号)、モロッコ(閣条第4号)、コートジボワール(閣条第5号))が提出された。
2.今国会提出の投資協定4件の概要
(1)日・UAE投資協定
アラブ首長国連邦(以下、UAE)は、外国投資を積極的に誘致している首都アブダビや中東における経済的ハブであるドバイを中心に、幅広い産業が発展しており、進出日系企業数は中東アフリカ地域最多の 342 社(2018 年時点)に上る。同国は既に英国、中国、韓国等の約 50 か国との間で投資協定を締結しており、日本との間でも 2014 年1月に交渉が開始され、2018 年4月にアブダビにおいて日・UAE投資協定への署名が行われた。
1 UNCTAD『World Investment Report 2019 - Special Economic Zones』(2019.6.12)99 頁
2 なお、特定措置の履行要求については、TRIMs協定が、①原材料等の現地調達要求、②輸出入均衡要求、
③為替規制、④輸出制限を禁止しているが、各投資協定において、それよりもxxに具体的な措置の禁止を規定することも多い。
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立法と調査 2020. 4 No. 422(参議院常任委員会調査室・特別調査室)
本協定は「保護型」であるが、最恵国待遇については、投資の設立段階においても限定的に認められている。また、締約国が投資家の投資財産や投資活動に関して、契約等を通じて義務を負うこととなった場合にはその義務を遵守する旨の規定が置かれている(いわゆるアンブレラ条項)。さらに、特定措置の履行要求禁止の規定については、例えば自国区域内の法人等への技術移転要求の禁止等、TRIMs協定にはない禁止措置が定められている。なお、天然資源については、UAEの憲法が、国内の天然資源を各首長国が管轄する公的財産と定めていることから、本協定の対象とはならない旨が規定されている。
(2)日・ヨルダン投資協定
近年、安定的な経済成長を遂げるヨルダンにおいては、政府による様々な分野での開発計画が推進されており、再生可能エネルギー等の分野を中心に、日系企業による投資も増加している。同国は既に、日本を除くG7諸国や韓国等の約 50 か国との間で投資協定を締
結しており、日本との間でも 2017 年 10 月に交渉が開始され、2018 年 11 月に東京において、日・ヨルダン投資協定への署名が行われた。本協定は「保護型」である。特定措置の履行要求禁止の規定は設けられていないが、両国はWTO加盟国であるため、TRIMs協定に基づく義務を負うこととなる(脚注2を参照)。
(3)日・モロッコ投資協定
モロッコはヨーロッパとの近隣性や若年層を中心とした安価な労働力を活かして、タンジェ等の経済特区を設置するなど、積極的な外国投資の誘致を行っており、進出日系企業数も順調に増加している。同国は既に米国、英国、中国、韓国等の約 50 か国との間で投資協定を締結しており、日本との間でも 2014 年7月に交渉が開始され、2020 年1月にラバトにおいて、日・モロッコ投資協定への署名が行われた。本協定は「保護型」である。特定措置の履行要求禁止については、TRIMs協定に基づく義務がxx上再確認されている。なお、今国会においては、日・モロッコ租税条約も併せて提出されている。
(4)日・コートジボワール投資協定
2011 年の内戦終結以降、平均約8%の経済成長率を維持しているコートジボワールは、製造業を中心に外国投資の誘致を積極的に行っており、日系企業も西アフリカ市場への進出拠点として注目している。同国は既に英国等7か国との間で投資協定を締結しており、日本との間でも 2017 年1月に交渉が開始され、2020 年1月にアビジャンにおいて日・コートジボワール投資協定への署名が行われた。本協定は「自由化型」であり、自由化義務の例外とする措置や分野が附属書(留保表)に列挙されている(ネガティブ・リスト方式)。また、特定措置の履行要求禁止の規定が設けられているほか、締約国と投資家の間の投資に関する合意に基づく請求について仲裁に付託できる旨が規定されており、既述のアンブレラ条項と同様の効果を有することとなる。
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xxx・外交防衛委員会調査室)
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