Contract
第2 契約終了に基づく明渡請求
1 賃料不払による場合
<フローチャート~賃料不払による場合>
1 事実関係の確認
※賃貸借契約の内容の確定(賃料、支払条件)
※賃料の滞納額の確定
※賃料の滞納理由の確認
※賃貸借契約上の解除権の行使要件の確認
解除不可
2 法的問題点の整理
賃料を滞納しているか | ||
している | していない | |
滞納金額は契約上の解除権の要件を満たすか 満たす 満たさない |
賃料の滞納は相当額になるか | ||
なる | ならない |
賃料不払の理由に合理性があったり、賃料不払に賃貸人側に帰責性があるなどの事情はないか | |
ない |
過去に頻繁に滞納していたり、資力不足が著しいといった事情があるか | |
ある |
信頼関係の破壊あり
催告・解除権の行使
3 解決手続の検討
滞納賃料の催告 | ||
支払をしない | 相当期間内に延滞解消 | |
解除不可 |
解除通知(ただし、催告と1通の書面で送付することも可能)
任意交渉
任意の明渡しの余地なし
保全処分の要否の検討 | ||
不要 | 必要 | |
占有移転禁止の仮処分 |
明渡訴訟の提起
判 決
和 解
和解による明渡し | |
履行されない |
強制執行
1
事実関係の確認
(1) はじめに
(2) 賃貸借契約の内容の確定
(3) 未払賃料の金額の確定
(4) 解除権行使の要件の確認
(1) はじめに
賃貸借契約は、目的物の所有者が、賃借人に目的物を引き渡し、賃借人において自由に使用収益できるようにする代わりに、賃借人は賃貸人に賃料を支払うという契約です(民601)。賃貸人は、通常は目的物の所有者ですが、転貸借の場合などでは、目的物の所有者から賃借している者が、転借人に目的物を転貸する場合もあります。
いずれにせよ、賃借人は、賃貸借契約で定められた賃料を、契約で定められた条件どおりに支払う義務があります。賃借人が賃料の支払を怠ったときには、賃貸人は、賃貸借契約を解除した上で、目的物の返還(明渡し)を求めることが可能です。
ただし、賃料不払があったからといって、直ちに契約が解除できるわけではありません。賃貸人は、原則として、賃借人に対して滞納賃料の支払を催告し、相当期間にその支払がない場合に、契約の解除が可能です(民541)。また、後述のとおり、信頼関係理論によって、賃料不払がある場合でも、これが軽微なものにとどまる場合には、解除権が発生しないこともありますので、注意が必要です。
(2) 賃貸借契約の内容の確定
賃料不払を理由に不動産の明渡しを求めたいという相談を受けた場合、賃借人が具体的にどれだけの賃料を滞納しているのか、確認することが必要です。
その前提として、まずは賃貸借契約の内容を確定する必要があります。その方法とすれば、通常は、賃貸借契約書によって確認することができます。賃貸人に、賃貸借契約書を持参してもらい、その内容を確認し、①目的物、②賃料の金額、③賃料の支払条件等を確認します。
賃料の支払条件は、当事者が特に約定をしていなければ、建物や宅地の場合、1か月
分を毎月末日までに支払うものとされています(民614本文)。また、宅地以外の土地の場合は、1年分を毎年の末日までに支払うものとされています(民614本文)。もっとも、多くの賃貸借契約書では、毎月末日までに翌月分の賃料を支払うというように、前払の取決めがなされています。このような特約がある場合には、特約が優先されます。
ケーススタディ
Q
賃貸借契約書が存在しない場合には、契約内容の確定はどのようにしたらよいのでしょうか。
A
賃貸借契約の締結時期が古い場合や、賃貸人と賃借人に一定の人的関係がある場合には、賃貸借契約書が存在しないことがあります。また、賃貸人の代替わりなどによって、賃貸借契約書を紛失している場合もあります。さらに、賃貸借契約書は存在するものの、古い契約書などの場合に、契約後に賃料の改定がされているのに、その合意に関する書面がない場合もあります。
このような場合には、契約書なしに、賃貸借契約の内容を確定させる必要があります。
賃料の金額については、振込みでなされている場合には、賃料の支払がなされていた時期の通帳の記録などによって、現在の賃料の金額を確認します。賃料の支払が現金手渡しなどの場合には、領収証の控えなどによって確認します。
賃料の支払条件については、賃貸借契約書で前払の約定が確認できない場合に、
他の方法で前払の約定が確認できなければ、上記(2)の民法の原則に従って、後払いを前提に未払賃料の確認をすることになります。
(3) 未払賃料の金額の確定
賃料の金額と賃料の支払条件を確認した上で、いつから賃料が支払われていないかを確認し、現時点で、いくら未払になっているかを確認します。
ある時期までは賃料が約定どおりに支払われていたものが、突然支払が止まるケースもありますが、事案によっては、賃料が遅れながら支払われていたり、1か月分に満たない賃料の支払が複数回なされていたりする場合があります。このような場合は、過去の支払の経過を全て確認し、どの支払がいつの賃料に充当されているか(基本的
には古いものから充当されていくという理解で構いません。)を確定させて、何月分の賃料からが未払になっているのかを確定させることが必要です。
(4) 解除権行使の要件の確認
賃貸借契約の中に、賃料不払解除をするための要件が定められている場合があります。例えば、賃料の滞納が3か月分以上となった場合に、催告の上で解除ができるといった定めがある場合には、債務不履行解除に関する特約を定めたものと理解できますので、賃料の滞納が3か月分になるまでは、解除ができないと理解するべきといえます。
したがって、賃貸借契約書の中で、賃料不払解除について、何らかの定めがないかどうかを確認しておくことが必要です。
なお、契約書に賃料不払解除の要件の定めがある場合に、その要件を満たせば無条件で解除が認められるとは限りません。後述のとおり、判例上、信頼関係の法理や、無催告解除に関する制限がありますので、契約書の要件とは別に、解除ができるかどうかはさらに慎重な検討が必要です。
2
法的問題点の整理
◆信頼関係法理
契約上の債務不履行があった場合には、債権者は、債務者に対して、その履行を催告した上で、催告後相当期間内に履行がなされないときに、契約を解除できるとされています(民541)。これを前提にすると、1日でも賃料の延滞があったときには、催告の上で、賃貸借契約の解除をすることができそうです。
もっとも、賃貸借契約は継続的な契約であり、相互の信頼関係を基礎とするものです。そこで、判例上、賃料不払を理由に賃貸借契約を解除するためには、賃借人に賃料不払があった場合でも、その不払の程度や不払に至った事情によって、いまだ賃貸借契約の基礎となる相互の信頼関係を破壊したものといえない場合には、賃貸借契約の解除はできないとされています(最判昭39・7・28判時382・23)。
◆どのような場合に信頼関係が破壊されたといえるか
それでは、どのような場合に信頼関係が破壊されたとして、契約の解除が認められ
るのでしょうか。考慮要素とすれば、賃料の滞納の程度が重要ですが、過去の賃料滞納の有無、滞納の理由(資金不足なのか、あるいは賃借人として賃料を滞納している何らかの正当な理由があるのか等)、賃貸人側の帰責性等の諸般の事情が考慮されます。
通常、月額賃料の1か月分を滞納したという程度では、信頼関係が破壊されたとはいえません。また、賃料の滞納が相当程度に滞まった場合でも、例えば、賃貸人が目的物の重大な損傷について修繕義務を履行しておらず、賃借人の賃料不払を一定程度正当化できる場合や、滞納の解消に十分な誠意を見せて解消可能性が高いといえる場合などには、信頼関係が破壊されていないとされる可能性があります。
一方、賃借人が資金不足のために賃料を滞納し、他に特段の事情がない場合には、 2、3か月分の滞納で信頼関係は破壊されていると考えてよいといえます。また、過去から繰り返し滞納している場合なども、滞納の金額が比較的少額でも、信頼関係は破壊されていると解される場合があります。
そこで、賃料不払を理由に解除するかどうかを検討するに当たっては、賃料滞納の程度や経緯等について、可能な範囲で事実関係を確認し、信頼関係が破壊されていないと判断される可能性はないか、検討しておくことが必要です。
アドバイス | ||
○無催告解除の余地 賃貸借契約書の中に、賃借人が賃料の支払を怠ったときには、賃貸人は、何ら催告をせずとも、直ちに契約を解除できるといった趣旨の条項が定められている場合があります。このような無催告解除特約の効力に関して、判例では、1か月の滞納で無催告解除ができるという条項の効力について、催告することなく解除しても、不合理とは認められないような事情が存する場合には、無催告で解除権を行使することができる旨を定めた約定であると限定的に解釈されました(最判昭43・11・21判時542・48)。このような判例の理解からすると、無催告解除特約が約定されている場合でも、その契約上の要件を満たすだけでは足りず、無催告での解除が不合理とは認められないような事情が存するとの要件を満たすかどうかの検討が必要になります。仮に無催告解除権は発生していないとされた場合、解除通知を送ってもその解除は無効となってしまいますので、無催告解除特約がある場合でも、念のため、催告の上で解除をするという通常の解除の方法をとった方が無難といえます。 |
【参考書式4】訴え提起前の和解申立書
和解申立書
平成○年○月○日
○○簡易裁判所 御中
申立人代理人弁護士 ○○○○ ㊞
当事者の表示 別紙当事者目録記載のとおり即決和解申立事件
第1 請求の趣旨
申立人と相手方との間で、別紙和解条項のとおりの和解を求める。
第2 請求の原因並びに争いの実情
1 申立人は、平成○年○月○日、相手方に対し、別紙物件目録記載の建物(以下「本件建物」という。)を賃料月額○○万円、期間○年として賃貸し(以下「本件賃貸借契約」という。)、同日、相手方に引き渡した。
2 相手方は、平成○年○月分以降の本件賃貸借契約に基づく賃料の支払を怠った。そこで、申立人は、相手方に対し、平成○年○月○日到達の内容証明郵便にて、同通知到達後5日以内に、その時点での未払賃料金○○円を支払うよう催告し、同期間内に支払をしないときは、本件賃貸借契約を解除する旨の通知をした。
これに対して、相手方は、この期間内に滞納賃料の支払をしなかったことから、本件賃貸借契約は解除によって終了した。
3 申立人が相手方に対して、本件建物の明渡しを求めたところ、相手方は、明渡しに応じず、ここに紛争が生じた。
4 そこで、申立人と相手方において協議を重ねた結果、一定の時期まで明渡しを猶予するが、明渡期限には明渡しをし、また、賃料の支払をすることで、合意が成立する見込みとなった。
5 よって、別紙和解条項のとおりの和解が成立する見込みとなったため、本申立てに及ぶものである。
附 属 書 類〔省略〕
以 上
第3章 裁判外手続による解決 139
(別紙)
和解条項
1 申立人と相手方は、本件賃貸借契約が、相手方の債務不履行を原因として申立人が賃貸借契約を解除したことによって終了したことを確認する。
2 申立人は、相手方に対し、平成○年○月○日まで、本件建物の明渡しを猶予する。
3 相手方は、申立人に対し、平成○年○月○日限り、本件建物を明け渡す。
4 相手方が本件建物を明け渡した後、本件建物内に残置されている相手方所有の動産について、相手方はその所有権を放棄し、申立人がその動産を任意に処分しても異議を述べない。
5 相手方は、申立人に対し、本件賃貸借契約の未払賃料として、金○○円の支払義務があることを認め、これを、平成○年○月○日限り、申立人の指定する銀行口座に振込送金する方法によって支払う。
6 相手方が第3項に定める本件建物の明渡しを遅滞したときは、相手方は、申立人に対し、遅滞した翌日から明渡済みまで、1日金○○円の割合による金員を賃料相当損害金として支払う。
7 和解費用は各自の負担とする。
別紙 当事者目録〔省略〕別紙 物件目録〔省略〕
1
訴えの提起
(1) 訴訟提起に向けた事前準備
(2) 訴状の記載内容
(3) 訴えの提起
(1) 訴訟提起に向けた事前準備
◆手数料の確認及び準備
訴訟の提起に当たっては、訴訟物の価額(訴額)に応じた手数料を裁判所に納める必要があります。訴訟物の価額は、訴えをもって主張する利益によって算定します(民訴8①)。これは、原告の請求がそのまま認容された場合に原告が直接受ける経済的利益を客観的かつ金銭的に評価した額です。不動産の明渡訴訟において、訴訟物の価額は、土地の場合は固定資産税評価額の2分の1の価額(建物については固定資産税評価額)に明渡請求の根拠となる請求権ごとに定められた割合(所有権:2分の1、占有権: 3分の1、地上権・永xxx・賃借権:2分の1、賃貸借契約の解除等:2分の1)を乗じた額となります。
なお、不動産の明渡しに附帯して滞納賃料額を請求した場合、その額は、訴訟物の価額には算入されません(民訴9②)。
◆管轄の確認
訴訟を提起する場合、その事件を管轄する裁判所に訴訟を提起しなければなりません。地方裁判所と簡易裁判所のどちらに訴訟提起をするべきかは「訴訟の目的の価額」
(訴額)によります。訴額が140万円以下の場合(行政事件訴訟に係る請求を除きます。)には、簡易裁判所が、これを超える場合には、地方裁判所が、それぞれ管轄裁判所となります(裁所24一・33①一)。これを「事物管轄」といいます。もっとも、不動産に関する訴訟については、訴額にかかわらず、地方裁判所に訴えを提起することができます(裁所24一)。
また、所在地を異にする同種の裁判所のうち、どこの地域の裁判所に訴訟を提起すればよいかは、民事訴訟法にて区分が定められています。これを「土地管轄」といい
第5章 訴 訟 185
ます。原則として相手方の現住所を管轄する裁判所が管轄裁判所となりますが(民訴 4)、不動産の明渡し、引渡しを求めて訴訟を提起する場合には、不動産の所在地を管轄する裁判所に提起することもできます(民訴5十二)。また、賃料請求や、賃料相当損害金請求をあわせて行う場合には、原告の住所地でも訴訟提起をすることが可能となります(義務履行地(民訴5一))。
このように法律上定まる管轄の他に、当事者間の合意により、第xxに限り、管轄裁判所を定めることができます(民訴11①)。土地管轄(どこの裁判所か)だけでなく、事物管轄(簡易裁判所か地方裁判所か)についても合意することができます。賃貸借契約や借地契約においてこうした管轄の合意をしている場合には、当該合意管轄裁判所に訴訟を提起することになります。
◆その他の準備
訴状とあわせて、自らの請求を基礎付ける証拠書類があるときは、こうした証拠書類も提出することになりますが、それ以外で不動産に関する事件において訴状と一緒に提出する書類としては、登記事項証明書(民訴規55①一)があります。また、訴訟物の価額を算定するために固定資産税評価額が記載された固定資産評価証明書も提出する必要があります。原告又は被告が会社その他の法人である場合には、その代表者の資格を証明する資格証明書(代表事項証明書)が、弁護士等の代理人に訴訟を依頼する場合には、委任状が、それぞれ必要となります。
また、被告へ訴状や判決を送達するため郵券(郵便切手)を予納しなければなりませんので、その準備も必要です。予納郵券は、裁判所によって異なっています(原告・被告が各1名の場合:東京地裁 合計6,000円、大阪地裁 合計5,000円)。
(2) 訴状の記載内容
◆当事者の特定
訴状には、訴え又は訴えられることにより判決の名宛人となるべき当事者を記載しなければなりません(民訴規2一)。訴訟は、強制執行による権利の実現を見据えて提起することになるので、判決を取得後、強制執行手続で目的を達成できるように被告を選択する必要があります。
例えば、賃貸借契約に基づいて土地を賃貸し、借地人が土地上に建物を建ててこれを賃貸しているという場合に、判決に基づいて建物を収去した上で、土地の明渡しを