Contract
「契約とは」基礎講座
目次
1.契約とは
2.主な契約締結の方法
3.企業が契約書を作成する理由
4.まとめ
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1.契約とは
とあるビジネスパーソンの一日
• 起床後、出社のために身支度を整えて、出社をした。
• 行きは電車に乗り、会社に向かった。
• お昼休みは、家族が作ってくれた弁当を食べた。
• 仕事の途中で喉が乾いたため、自動販売機でジュースを買って飲んだ。
• 勤務を終え帰宅する途中、スーパーで夕食のハンバーグの材料を買った。
• 家族の帰宅後、つくったハンバーグを一緒に食べ、スマホを見ながらゆっくり過ごしていたところ、気になっている有料のゲームをみつけたので、早速ダウンロードして遊んだ。
• 就寝時間が近づいたので、アラームをセットし寝た。
正解は4つ!(赤文字)
• 起床後、出社のために身支度を整えて、出社をした。
• 行きは電車に乗り、会社に向かった。
• お昼休みは、家族が作ってくれた弁当を食べた。
• 仕事の途中で喉が乾いたため、自動販売機でジュースを買って飲んだ。
• 勤務を終え帰宅する途中、スーパーで夕食のハンバーグの材料を買った。
• 家族の帰宅後、つくったハンバーグを一緒に食べ、スマホを見ながらゆっくり過ごしていたところ、気になっている有料のゲームをみつけたので、早速ダウンロードして遊んだ。
• 就寝時間が近づいたので、アラームをセットし寝た。
→ 日常生活では、意識せずとも日々、さまざまな契約が行われています。
契約とは、簡単に言うと、「権利義務を生じさせる約束」です。
契約は、当事者双方の意思表示が合致することによって成立します。
意思表示の合致とは、一方の「申込み」に対して、もう一方が「承諾」をすることです。
契約を成立させるには「意思表示の合致があればよい」ため、
契約書を作成しなくとも契約は成立し、口頭のみでも成立します(民法522条2項)。
改めて、身近な契約の例を見てみましょう。
身近な契約の例としては、スーパーでの買い物が挙げられます。
買い物をするたびに、毎回、契約書を作成するということはしませんが、法的には、
・消費者側が「買います」という申込みを行い、
・スーパー側が「売ります」と承諾することで
契約成立
契約が成立しています。なお、これとは異なる整理とする見解もあります。
意思表示の合致
スーパー
消費者
買います
(申込み)
売ります
(承諾)
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企業でよくある事例も見てみましょう。例えば、「Web記事の執筆」を外部ライターに
委託する契約が成立したとします。このとき法的には、
・自社側が「Web記事の執筆をしてください」という申込みを行い、
・外部ライター側が「分かりました」と承諾することで
契約成立
契約が成立しています。
意思表示の合致
外部ライター
自社
Web記事の執筆をしてください
(申込み)
分かりました
(承諾)
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契約が成立すると、当事者には、それぞれ権利と義務が発生し、契約当事者は契約に拘束されることになります。
※なお、法的には、権利のことを「債権」、義務のことを「債務」といいます。
買い物の例でいえば、契約が成立した場合、それぞれの立場に応じ、以下の権利と義務が発生します。
【スーパー側】 【消費者側】
・代金の支払いを求める権利 ・品物の引渡しを求める権利
・品物を引き渡す義務 ・代金を支払う義務
web記事の執筆を外部に委託する例でいえば、それぞれの立場に応じ、以下の権利と義務が発生します。
【企業側】 【外部ライター側】
・web記事の納品を求める権利 ・代金の支払いを求める権利
・執筆料を支払う義務 ・ web記事を納品する義務
相手が契約を守らなかった場合は、契約違反として、
・「契約内容を守るよう請求」したり、
・「損害賠償の請求」をしたり、
・「契約の解除」をしたりすることができます。
契約内容を守ってください!
契約違反なので、損害賠償を請求します!
この契約は、もう解除します!
裏を返せば、
・自分が契約を守らない側
・義務を果たさない側
となってしまった場合は、相手から法的責任を問われることになり、
思いがけない損害を被るリスクがあります。
自社はクリーニング業者Aと、契約終了後の競業避止義務(※)が定められた取次契約を締結。
※例えば、他のクリーニング業者の取次を禁止する義務
↓
自社はクリーニング業者Aとの契約終了後、競業避止義務が課されていたこと
を企業として把握しきれておらず、別のクリーニング業者Bと取次契約を締結。
競業避止義務に違反。
↓
競業避止義務違反を理由に違約金を支払うことに…。
自社は業者Aから再委託禁止を条件に製造委託を請け負うことに。
↓
しかし、自社の製造ラインが繫忙期で対応できなくなり、契約内容をきちんと確認せず、
顧客の承諾なく、製造業務を業者Bに再委託。
↓
その結果、
業者Aとの契約が解除されてしまい、取引先を失うことに…。
自社は健康グッズAの企画を行っていたが、自社内で製造を行うノウハウがなく、困っていた。
↓
そこで、健康グッズの製造に実績のある業者Aと製造委託契約を締結し、製造をお願いすることに。
↓
その結果、業者Aの製造ノウハウを活用できたことで、健康グッズAのクオリティを高めつつ、商品化に成功。販売も好調で、会社の売上が増加。
自社で今度発売する新商品Aは、若者をターゲットにしており、プロモーション戦略をどう展開すべきか課題があった。
↓
ネットで若者の興味関心を調査したところ、若者に人気のキャラクターを発見。新商品の広告にキャラクターAを使用したいと思い、
キャラクターのライセンスをもっている会社とライセンス契約(※)を締結。
※知的財産をもつ人が、第三者に知的財産の使用を許諾する契約
↓
キャラクターのもつ訴求力を利用できたことで、若者の間で新商品が話題に。販売も好調で、会社の売上が増加。
・有効に活用できれば「利益」をもたらす
・違反すれば「損害」をもたらす
※うっかり契約に違反してしまったといったことにならないよう、注意する必要があります。
2.主な契約締結の方法
■ 主な契約締結の方法|口頭の契約・書面上の契約・電子契約
契約は、口頭・書面(紙にした契約書)・電子契約のいずれの方法によっても締結できます。
・口頭の契約
最も簡単な契約締結方法である反面、合意内容が不明確になりやすい点が大きなデメリットです。 家族などの近しい間柄における金銭の貸し借りなどでは、口頭で契約を済ませる場合がありますが、企業間の契約においては、望ましくない締結方法です。
・書面での契約
契約書の記載によって、合意内容を明確化できるメリットがあります。
企業が当事者となる契約においては、紙の契約書を作成するのが最も一般的です。
・電子契約
電子データ(PDFファイルなど)によって契約書を作成して、全当事者が電子署名などを行うことにより、 契約を締結します。リモートでの締結が可能である点・管理がしやすい点などから、近年注目されています。コロナ等の影響もあり、各企業において、書面での契約から電子契約への移行が進みつつあります。
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3.企業が契約書を作成する理由
契約書とは、契約が締結されたことを証明した文書のことです。
契約書を作成しなくても契約は成立するというのは、最初に解説したとおりです。
しかし、ビジネスでは、時間的・人的・金銭的コストをかけてでも、
契約書を作成するのが当たり前になっています。
これは、次のように、契約書には、大きく3つの機能(役割)があるからです。
①確認機能
②紛争予防機能
③証拠機能
契約書を作成することで、契約内容が可視化されるため、取引の内容・
リスクを改めて理解し、取引するかどうかを熟考できる機会となります。
ビジネスは、利益を得ることが主な目的ですが、利益を得るためには、ときにリスクを負わなければならないことがあります。
取引では、そのようなリスクが潜んでいることがあるため、
・「この取引にはどんなリスクがあるのか?」
・「会社は、このリスクを引き受けても大丈夫なのか?」
を慎重に判断することが重要なのです。
書き起こされた文字を読むと、「この取引をして、本当に大丈夫なのか?」と慎重に考えることができるのです。
契約書を作成することで、契約内容が明らかになり、
「言った、言わない」という紛争を予防することができるようになります。
「3,000個つくってください」と
この間電話でいいましたよね!
いや「2,000個」って聞いたので、
2,000個つくって納品したんですよ!
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また、口頭では曖昧にしてしまう事項についても、契約書に記載することで、
・相手方の認識と相違がないか
・誤解がないか
を確認することができます。
契約後、相手方との間で、トラブルが発生したときは、契約書に書かれたことを拠り所として、交渉することが可能となります。
また、契約書に、あらかじめ自社にとって有利な条件を定めておくことで、自社の望む方向でのトラブル解決を図りやすくなります。
契約書は、訴訟において、もっとも重要な証拠となります。
また、ビジネス上、契約書には、署名捺印(※署名のみの場合もあり)や、記名押印がなされます。
・署名捺印|手書きのサインによって当事者名を記載し、印鑑を押すこと
・記名押印|署名以外の方法(例:PCで入力したものを印字)によって当事者名を記載し、印鑑を押すこと
※「捺印」は「押印」と同じ意味ですが、記名の場合は押印、署名の場合は捺印と使い分けます。
署名がある契約書・押印がなされた契約書は、民事訴訟法上
「真正に成立したもの」と推定されます(民事訴訟法228条4項)。
つまり、訴訟において、偽造などを示す特段の事情がない限り、
契約が有効に成立したものとして取り扱われるため、口頭のみでの契約などと比較して、
契約成立の有効性をより確実に証明することができるのです。
4.まとめ
■ 契約とは、「権利義務を生じさせる約束」のことです
■ 契約が成立すると、当事者には、それぞれ権利と義務が発生し、契約当事者は契約に拘束されます
■ 契約を有効に活用できれば、自社に「利益」をもたらしますが、逆に、契約に違反す
れば、「損害」をもたらす可能性があります
■ 企業が契約書を作成する3つの理由としては、以下が挙げられます
①確認機能|契約内容が可視化されることで、取引の内容・リスクを改めて理解できるため
②紛争予防機能|「言った、言わない」という紛争を予防することができるため
③証拠機能|訴訟に発展した際の、もっとも重要な証拠とすることができるため
• xxxほか『民法 第10版』勁草書房、2018年
• xxxx『契約法 新版』有斐閣、2021年
• xx・xx・xx法律事務所『契約書作成の実務と書式 第2版』有斐閣、2019年
• xxxxx『契約の法務』勁草書房、2015年
• xxxx『実務 契約法講義〔第4版〕』民事法研究会、2012年
• 日本組織内弁護士協会監修『〔改訂版〕契約用語 使い分け辞典』新日本法規、
2020年