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平成16年8月2日判決言渡 同日判決原本交付 裁判所書記官平成14年(ワ)第4358号 損害賠償請求事件
(平成16年5月31日口頭弁論終結)
判 決
主 文
1 被告は,原告に対し,金352万2085円及びこれに対する平成15年1月7日から支払済みまで年6分の割合による金員を支払え。
2 原告のその余の請求を棄却する。
3 訴訟費用は,これを10分し,その9を原告の負担とし,その1を被告の負担とする。
4 この判決は,第1項に限り,仮に執行することができる。
事実
第1 当事者の求めた裁判
1 請求の趣旨
(1)被告は,原告に対し,金3434万9033円及びこれに対する平成15年1月7日から支払済みまで年6分の割合による金員を支払え。
(2)訴訟費用は被告の負担とする。
(3)この判決は,第1項に限り,仮に執行することができる。
2 請求の趣旨に対する答弁
(1)原告の請求を棄却する。
(2)訴訟費用は原告の負担とする。第2 当事者の主張
1 請求原因
(1)当事者
原告は,美容室の経営等を業とする有限会社であり,被告は,国家公務員の厚生施設として,宿泊施設,宴会及び結婚式場等を営むなどの業務をしているものである。
(2)業務委託契約
ア 原告は,平成3年7月11日,被告との間で,次の約定で,原告が,福岡市中央区ab丁目c番d号所在の被告の設置するA会館B(以下Bという。)における結婚式場用の美容販売業務を専属的継続的に営む旨の業務委託契約を締結した(以下「従前契約」という。)。
(ア)期間 平成3年7月12日から平成4年3月31日まで
(イ)自動更新 期間満了時に,当事者双方に解約の意思表示がない場合は自動的に契約を更新したものとする。その後も又同様とする。
イ 原告と被告は,平成4年3月31日から平成9年ころまで,従前契約の自動更新条項に基づき,従前契約を更新してきた。
ウ 原告と被告は,平成9年ころ,被告がBの会館を建て替えることになったために,従前契約を解約する旨の合意をした。
エ 原告は,平成11年9月1日,被告との間で,次の約定で,従前契約と同様の契約を締結した(以下「本件契約」という。)。
(ア)期間 平成11年9月1日から平成12年3月31日まで
(イ)自動更新 委託期間終了3か月前までに当事者の一方から特に申出がないときは,さらに1年間契約期間を延長するものとし,その後もまた同様とする。
オ 原告と被告は,平成12年4月1日,本件契約を更新した。
(3)被告の債務不履行
ア 被告による本件契約の更新拒絶の意思表示
被告は,平成13年10月23日,原告に対し,平成14年3月末をもって,本件契約を更新しない旨の意思表示をした(以下「本件更新拒絶」という。)。
イ 被告は,平成14年4月1日以降,他の業者に対し,Bにおける結婚式場用の美容販売業務を委託し,原告は,本件契約に基づく結婚式場用の美容販売業務を遂行することができなくなった。
(4)原告の損害
原告は,被告の上記(3)の債務不履行により,Bから退去し,そのために以下の損害を被った。
ア 社員研修費(平成9年3月から平成10年2月28日まで) 120万9250円イ 同(平成10年3月1日から平成11年2月28日まで) 17万2976円
ウ 什器備品・美容器具代金 113万3020円エ かつら代金 242万6615円
オ かんざし代金 12万5200円
カ 和装着装用物品代金 74万2670円キ 美容材料代金 110万6232円
ク 社外研修費(平成11年3月1日から平成12年2月28日まで) 244万0560円
ケ 集合研修費 1260万円
原告は,原告の従業員7名に対し,平成9年6月から平成11年10月まで2年4か月間社内研修を実施したが,研修費は,月額45万円である。
コ 逸失利益 1239万2510円
本件更新拒絶により,原告がBで営業を継続することができなくなった平成14年4月1日の直前の原告の年間営業利益は,619万6255円であり,被告の本件更新拒絶により,少なくとも今後2年間に得べかりし営業利益を失った。
サ 以上合計 3434万9033円
(5)よって,原告は,被告に対し,本件契約の債務不履行に基づく損害賠償請求として,金3434万9033円及びこれに対する訴状送達の日の翌日である平成15年1月7日から支払済みまで年6分の割合による遅延損害金の支払を求める。
2 請求原因に対する認否
(1)請求原因(1)の事実は認める。
(2)同(2)の事実のうち,従前契約及び本件契約が継続的であるとの事実は否認し,その余は認める。
(3)同(3)ア及びイの事実は認める。ただし,本件更新拒絶が被告の債務不履行となることは争う。
(4)同(4)の事実は不知。
3 抗弁ー期間満了による契約の解消
(1)更新拒絶の意思表示
本件契約には,その期間を7か月とし,契約期間終了の3か月前までに,当事者のいずれかより特に申出がない限り自動的に1年間延長する旨の約定(業務委託契約書第2条)があり,右約定にしたがって期間が経過するごとに更新されてきたところ,被告は,平成13年10月23日,原告に対し,本件更新拒絶の意思表示をした。
本件契約は,本件更新拒絶の意思表示により,平成14年3月31日の期間の満了とともに終了した。
本件契約は,単年度ごとの業務委託契約であり,継続的契約ではない。また,被告は,事業者として,自らの事業の存続のため,有害又は不用となる部門を切り捨てる権利を有し,更新拒絶に正当な理由は必要ない。
(2)更新拒絶の正当な理由の評価根拠事実
仮に,本件契約の更新拒絶に正当理由が必要であるとしても,以下のように,原告の代表取締役Cは,独善的で,顧客の要請を無視し,自己満足だけの仕事を行い,顧客の不興を買うことが多々あり,また,同人は,顧客の面前で従業員を激しく叱責するため,楽しいはずの婚礼の雰囲気が暗くなり,式が始まっても顧客の心が晴れないということも多々あり,顧客から,Bに対し,多くのクレームがつけられていたのであって,被告の本件更新拒絶には正当な理由がある。
ア 平成11年10月のBの新規オープン以来,再三にわたって,Cが,新郎新婦の前で,介添人,原告の従業員を大きな声で叱るため,顧客に介添え係に対する不安と不快感を与えた。
x Xは,顧客に対し,扇子の受渡しを間違い,自分で事を納めようとしたがかなわず,Cの言動により顧客の両親,新郎の姉を怒らせ,Bの職員が顧客を静め,当時の副支配人及び総支配人が謝罪をした。Xは,自己の判断で警察を呼び,ロビーで警察官が待機していた。
ウ 顧客が,美容の打合せの際,顧客の気に入ったヘアーピースを使用したいとCに伝えたところ,Cは,「あなたに合うヘアーピースがあるの。色も違うしこっちの色の方がいいわ。美容室のヘアーピースを使って。」と申し出た。顧客が,ヘアーピースを所持しており,また,原告のヘアーピースを使用すると金もかかることから,Cの申出を断ったところ,Cは態度を変え,新郎側の着付けには優しく対応したが,新婦側の着付けには,「勝手にやってね。」といわんばかりの対応をする等,顧客とCの関係は険悪なものとなった。
顧客は,原告の従業員とグラビアを参考に打合せを行い,髪型を決定していたにもかかわらず,前撮り当日,Cは,顧客に対し,「髪型がおかしい。こっちの方が良い。」と強引に言い張り,顧客のヘアースタイルを変更し,前撮りが行われた。
エ Cは,顧客に対し,披露宴当日に参列する人の持込みの留め袖や小物を,早く持ってくるように再三いっておきながら,いざ,顧客が,留め袖等を持ってくると,顧客に対し,素っ気ない対応をし,顧客の感情を害した。そして,顧客は,前日に留め袖や小物を持っていったにもかかわらず,披露宴当日に忘れ物があり,美容室で購入させられた。
オ Bのインターネット上のホームページに,10年前にBで披露宴を行ったと称する者から,美容室で先生という方の対応が悪く,今思い出しても悔しい限りであるとのCに対する苦情の書き込みがあった。
カ 顧客との事前の打合せが十分にできておらず,顧客が,前撮りや式の当日,親類や友人から,Cが顧客に行った化粧が下手と言われ,髪型も顧客の気に入らなかった。
キ 美容室,衣装室及び写真室間の連携が悪く,顧客に迷惑をかけた。
ク Cは,顧客の衣装の着付けを行ったが,ドレスは,「ただ着せただけ」という感じで,肩のラインが左右違っていても全く気にしていなかった。
ケ 顧客の親族が着付けをするため,美容室側から指示された時間に美容室に行ったが,親族は,1時間以上も更衣室で待たされた。
コ 原告は,顧客に対し,現金は必ずフロントに預けてきてくれと言い,顧客は指示に従ったが,更衣室のロッカーはお金を入れないと鍵がかからない構造になっていたため,顧客はフロントまで現金を取りに行かざるを得なくなった。
サ 顧客の親族が着付けをする際,下着の上にガウンを一枚羽織っただけの姿で,美容室から更衣室に行くために,人の集まるロビーを歩かされた。
シ Cは,イライラして,介添え係にあたり,顧客を不快にさせた。
ス Cは,顧客が打合せの際に伝えたことを忘れ,顧客の希望どおりの髪型にせず,また,化粧が終わってから,「これで良いですか。」と尋ね,顧客は,今更変更を申し出ることはできなかった。
セ Cは,着付け,ヘアーメイクの際,終始無言のまま作業し,また,Xと原告の従業員の仲が悪く,顧客を不安にさせた。
(3)よって,本件更新拒絶には正当な理由があり,本件契約は,平成14年3月31日に終了しており,被告に債務不履行はない。
4 抗弁に対する認否
(1)抗弁(1)の事実のうち,被告が,原告に対し,本件更新拒絶の意思表示をしたとの事実は認める。ただし,本件契約は継続的な契約であり,更新拒絶には正当な理由が必要であるところ,本件では更新拒絶をするにつき正当な理由が存在しない以上,本件更新拒絶は無効である。
(2)同(2)の事実は否認する。
5 再抗弁ー更新拒絶の正当な理由の評価障害事実
(1)Bの建て替えに際し,原告は,2年以上も休業しなければならなくなることから,被告との契約を解消することも考えたが,被告が,原告に対し,建て替え後も美容販売業務を委託する意向を示したことから,原告は,休業期間の補償を要求することもなく,リニューアルオープンに備えてきた。
その際,被告から,原告に対し,リニューアルオープンに向けて,新たな従業員を雇い入れること,従前は,被告から,備品を数多く借り受けていたが,リニューアルオープン後は,貸与する品数を大幅に減らし,原告の方で用意すること等の要請がなされた。
そこで,原告は,被告の要請に応えるために,銀行等から多額の借金をし,什器備品を買いそろえ,新たに雇い入れた従業員に研修を受けさせたりした。
その結果,原告の投下資本は,4,5年では到底回収することができないことになったので,原告は,被告に対し,契約期間について十分な補償を求めたところ, リニューアルオープン時の総支配人であったDから,「自分は後3年はいるし,その後については申し送りをするから,心配はない。」旨の言葉を聞き,これを信用し,本件契約を締結するに至った。
かかる経過からすれば,本件契約は,形式的には,その期間が1年とされているが,実質的には,原告の多額の投下資本を回収するに必要な期間継続するものであり,被告が本件契約の更新拒絶をするには,正当な理由が必要であるとこ
ろ,本件更新拒絶には,正当な理由がない。
(2)Eが,Bの総支配人に就任して間もなく,Xは,被告の従業員に対し,原告の業務に関してあら探しを命じ,その後,Xは,原告に対し,顧客の苦情を持ち出してきた。
(3)原告は,常に最先端を望む顧客のニーズや意に沿うように最善の努力,xxxを重ねてきた。原告は,Bの美容室として誇りを持って,顧客の一生に一度の晴れ姿のプロデュースの手伝いをし,多くの顧客から,お礼と感謝の言葉をもらった り,あるいは,新婚旅行からの帰りに土産をもらったりする等,顧客は,原告の美容サービスに満足している。
(4)したがって,本件更新拒絶は,正当な理由が存在せず無効である。
6 再抗弁に対する認否
再抗弁(1)ないし(4)は否認する。
理由
1 請求原因(1)の事実については当事者間に争いがない。
2(1)ア 請求原因(2)アの事実のうち,原告と被告の間で,平成3年7月11日,従前契約が締結されたことについては当事者間に争いがない。
イ 甲第23号証,第68号証及び原告代表者尋問の結果によれば,次の事実が認められる。
原告は,平成3年7月11日,被告との間で,それまでBにおいて結婚式場用の美容販売業務の委託を受けていたF美容院の代表者であるXの推薦を受け,従前契約を締結した(甲第49号証)。従前契約は,その有効期間は平成3年7月12日から同4年3月31日までとされていたが,期間満了時,当事者双方に更新拒絶の意思表示がない場合には,自動的に契約は更新される旨定められ,更新後の契約期間については定めがない
(甲第1号証)。
原告と被告は,平成9年ころまで,従前契約の更新を続けたが,Bの会館が建て替えられることとなったため,原告は,同年から約2年6か月間休業した。その際,被告の当時の総支配人であったDは,Cに対し,Bの会館建て替え後も,原告に結婚式場用の美容販売業務を委託する意向を示した。原告は,これを受けて,Bの新会館での開業に備え,Bの担当者と打合せをしたり,新たに雇い入れた従業員の研修を行ったりした。原告と被告は,平成11年9月1日,改めて本件契約を締結し(甲第2号証),原告は,平成14年3月31日まで,Bの新会館において,結婚式場用の美容販売業務を営んでいた。本件契約の期間は,平成11年9月1日から平成12年3月31日までとされていたが,期間終了3か月前までに当事者双方から更新拒絶の申出がないときは,契約は1年間延長され,その後もまた同様である。
原告の主な業務は,Bで結婚式及び披露宴を行う新婦等に化粧等をすることである。
ウ 以上からすると,原告と被告の契約は,Bの会館建て替えに伴う2年6か月の休業期間を除いても,約8年間続けられており,原告が平成9年ころから2年4か月間休業したのは,Bの会館建て替えのためであり,原告は,休業期間中も,Bの新会館での開業準備行為を行っていたというのであって,ホテルにおける結婚式場用の美容販売業務という原告の業務の性質等も考慮すると,従前契約及び本件契約は,原告が,Bにおいて,継続的に結婚式場用の美容販売業務を営む契約であったと認めることができ,これを覆すに足りる証拠はない。
(2)請求原因(2)イ及びウの事実については当事者間に争いがない。
(3)請求原因(2)エの事実のうち,原告と被告の間で,平成11年9月1日,本件契約が締結されたことについては当事者間に争いはなく,上記(1)のとおり,本件契約は,継続的な契約であったと認められる。
(4)請求原因(2)オの事実については当事者間に争いがない。
3(1)請求原因(3)ア及びイの事実については当事者間に争いがない。
(2)この点について,被告は,抗弁において,本件契約は,被告の本件更新拒絶の意思表示により,平成13年3月31日をもって終了したと主張し,原告は,再抗弁において,本件更新拒絶には正当な理由がなく,被告の本件更新拒絶は無効であると主張しているので,抗弁及び再抗弁について判断する。
(3)証拠(甲第23号証,第30号証,第31号証,第33号証,第36号証,第37号
証,第39号証,第40号証,第53号証,第61号証,第68号証,乙第9号証ないし第13号証,第14号証の1ないし10,第18号証の1ないし4,第19号証の1ないし3,第20号証,第22号証ないし第33号証,証人Hの証言,証人Eの証言,証人Iの証言及び原告代表者尋問の結果)によると,以下の事実が 認められる。
ア 本件契約の期間は,平成11年9月1日から平成12年3月31日までとし,この期間終了3か月前までに当事者双方から特に更新拒絶の申出がないときは,さらに1年間延長するものとし,その後もまた同様とする旨のいわゆ る自動更新条項がある(甲第2号証・業務委託契約書第2条)。しかし,原告は,Bの新会館建て替え後も相当長期間,被告との契約が継続するものと考えており,被告としても,1年ごとに委託業者を入れ替えることは現実的 には難しく,契約は,数年単位で継続することを前提とし,ただ,余りにも顧客からのクレームが多い等の事情があれば,入れ替えるつもりであった。
イ Bでの婚礼の件数及び部門別の売上高に占める婚礼部門の占める割合は,平成11年度が,108件,45.9%(半期)で,平成12年度が,229件,5
1.1%で,平成13年度が,231件,46.1%であった(乙第1号証)。
ウ 原告は,Bのリニューアルオープンに向けて,新たに従業員を雇い入れて,研修を受けさせ,原告の業務に必要な什器備品・美容器具を買いそろえた
(甲第16号証ないし第22号証)。
x Xは,平成12年7月,Bの総支配人に就任した。Eの前任までの総支配人は,国家公務員からのいわゆる天下りが多かったが,Eは,それまで民間
のホテル等で勤務していた経験があり,被告からBの運営改革を任された。 Eは,Bが顧客満足意識を持っていないと感じ,その体質改善のために,顧客からアンケートを取ることにし,また,人事異動,取引先・業務委託先の見直し等,業務改善に必要な改革を行ってきた(乙第23号証)。
オ Cは,Bがリニューアルオープンしてから,顧客である新郎新婦の目の前で,介添え係を叱りつけたり,イライラして介添え係にあたったりしたことがあった(乙第2号証ないし第4号証及び第9号証)。
x Xは,平成12年11月25日,xxの母に対し,同人が持参した留め袖とは別の留め袖を着させた。xxの妹が気づき,着替えさせることにしたが,新郎の母は,下着姿のままでしばらく待たされた。また,同人が持参した扇子がどれであるかわからなくなり,代用の扇子を渡し,披露宴終了後に扇子を返却することができず,その結果,新郎の父を怒らせた。Cは,事態の収拾のため警察を呼んだ。C,当時の総支配人であったE及び副支配人は,新郎の父親に対し,謝罪した(乙第5号証及び第15号証)。
キ 平成13年2月10日,顧客が,美容の打合せの際,顧客の気に入ったヘアーピースを使用したいとCに伝えたところ,Cは,「あなたに合うヘアーピースがあるの。色も違うしこっちの色の方がいいわ。美容室のヘアーピースを使って。」と申し出た。顧客が,ヘアーピースを所持しており,また,原告のヘア ーピースを使用すると金もかかることから,Cの申出を断ったところ,Cは態度を変え,新郎側の着付けにはやさしく対応したが,新婦側の着付けには,
「勝手にやってね。」といわんばかりの対応をする等,顧客とCの関係は険悪なものとなった。
同年1月,顧客は,原告の従業員とグラビアを参考に打合せを行い,髪型を決定していたにもかかわらず,前撮り当日,Cは,顧客に対し,「髪型がおかしい。こっちの方が良い。」と強引に言い張り,顧客のヘアースタイルを変更 し,前撮りが行われた(乙第6号証及び第16号証)。
ク 平成13年11月,Cは,顧客に対し,披露宴当日に参列する人の持込みの留め袖や小物を,早く持ってくるように再三いっておきながら,いざ,顧客が,留め袖等を持ってくると,顧客に対し,素っ気ない対応をした。そして,顧客は,前日に留め袖や小物を持っていったにもかかわらず,披露宴当日には忘れ物があって,美容室で購入させられた(乙第7号証及び第17号証)。
ケ Cは,顧客が打合せの際に伝えたことを忘れ,顧客の希望どおりの髪型にせず,また,化粧が終わってから,「これで良いですか。」と尋ね,顧客は,今更変更を申し出ることはできなかった(乙第9号証25頁)。
コ Cは,着付け,ヘアーメイクの際,終始無言のまま作業し,また,Xと原告の従業員の仲が悪いという印象を顧客に与え,顧客を不安にさせた(乙第9号証
25頁)。
x 原被告双方が顧客からとったアンケートには,原告の業務に対し,満足したと回答しているものもある(甲第15号証及び乙第9号証)。
(4)本件契約の業務委託契約書第2条を反対解釈すれば,契約当事者の一方から契約を更新するについて異議があれば,直ちに契約を更新しないことにもなると解する余地もありうるところである。しかし,本件契約が,一定期間継続的 に,Bにおいて,原告が結婚式場用の美容販売業務を行うという内容の契約であること,上記契約書第2条に本件契約の契約期間を7か月とした上で,双方に異議がない限り契約が自動継続するものとする旨のいわゆる自動更新条項が存在すること,原被告双方ともに,数年単位で契約が継続するものと 考えていたこと,本件契約は,Bの会館建て替えに伴う2年6か月の休業期間を挟んで,約8年間継続されたこと,原告は,Bのリニューアルオープンに向けて多額の資本を投下していること,被告は,Eを総支配人に迎え,Bの経営改革を行おうとしていたこと等の本件契約の事情からすれば,被告の本件更新拒絶の意思表示により契約終了の効果が生じるためには,契約を継続させることが当事者にとって酷であり,契約を終了させてもやむを得ない正当な理由があることを要し,正当な理由がない場合には,相当の予告期間を設けるか,または相当の損失補償をしなければならないと解すべきである。
これを本件についてみると,上記(3)のとおり,原告の業務についてのクレームがあったことは認められるが,その件数は,Bでの結婚式及び披露宴の件数が年間約200件程度あるのに比べて多いとはいえず,逆に,原告の業務に 満足したという回答も存在するのであって,また,Bにおける婚礼の件数も平成11年度から平成13年度までを比べても極端に減少している等の事情もないことからすれば,本件契約を継続させることが被告にとって酷であり,契約 を終了させてもやむを得ない正当な理由があると認めることはできない。そして,被告は,約5か月前に,原告に対し,本件更新拒絶の意思表示をしているが,結婚式場用の美容販売業務という業務の性質上,原告が次の契約の相手方を探したり,Bから退去したりする等の準備期間としては,5か月では短いのであって,被告は,相当な予告期間を設けたとはいえず,また,被告が,原告に対し損失補償をした事実も認められないから,被告の抗弁は理由がなく,原告の再抗弁は理由がある。
したがって,被告が,平成13年10月23日,原告に対し,本件更新拒絶の意思表示をし,平成14年4月1日以降,他の業者に対し,Bにおける結婚式場用の美容販売業務を委託し,原告に,本件契約に基づく結婚式場用の美容販売業務を遂行させなかったことは不当であり,債務不履行として,原告の被った損害を賠償すべき義務があるといわねばならない。
4 請求原因(4)について
(1)甲第18号証ないし第20号証によれば,原告の営業利益は,平成11年度が666万2958円,平成12年度が525万4380円,平成13年度が619万6255円であり,3年間の営業利益の平均は,603万7864円であり,1か月の平均は,5
0万3155円であることが認められる。
そして,被告は,相当な予告期間を設ければ,本件契約の更新拒絶をすることができたこと,相当な予告期間としては1年程度であること,原告が,被告から本件更新拒絶の意思表示を受けたのが,原告がBから退去する5か月前であったこと等の事情を合わせると,被告がBにおける結婚式場用の美容販売業務を遂行させなかったことにより原告が得べかりし利益を喪失したと認められるのは,平成14年4月1日から7か月間とみるのを相当とするから,原告は,結局金352 万2085円の損害を被ったものということができる。
(2)原告は,社員研修費,什器備品・美容器具代金,かつら代金等についてもその損害賠償を請求しているが,これらの費用は,原告が,美容室の経営等を業とする会社であることからすれば,原告の業務にとって必要な費用であり,Bでの結婚式場用の美容販売業務以外では意味をなさない性質のものではなく,被告が, Bでの結婚式場用の美容販売業務を遂行させなかったこととは相当因果関係がないから,上記の請求は理由がない。
5 したがって,被告は,原告に対し,金352万2085円及びこれに対する訴状送達の日の翌日である平成15年1月7日から支払済みまで商事法定利率である年6分の割合による遅延損害金を求める限度で理由がある。
6 以上のとおりであるから,原告の請求は上記の限度で理由があるから,その限度で認容し,その余は棄却することとし,訴訟費用の負担について民事訴訟法64条
本文,61条を適用し,仮執行宣言につき同法259条1項を適用して,主文のとおり判決する。
福岡地方裁判所第6民事部
裁判長裁判官 xxxx
裁判官 xxxx
裁判官 xx x