Contract
文化芸術分野の適正な契約関係構築に向けたガイドライン(検討のまとめ)
令和4年7月27日
文化芸術分野の適正な契約関係構築に向けた検討会議
目 次
はじめに .................................................................. | ||
ガイドライン(検討のまとめ)の背景 ...................................... | ||
本ガイドラインの目的 .................................................... | ||
課題を踏まえた改善の方向性 ................................................ | ||
取引の適正化の促進 ...................................................... | ||
1 取引の適正化の促進等の観点から契約において明確にすべき基本的な項目及び考え方
............................................................................ 5
Ⅴ 適正な契約関係の構築に向けた実効性確保のための方策 10
別添
スタッフの制作や技術等に関する契約書のひな型例及び解説 12
文化芸術は、人々の創造性をはぐくみ、その表現力を高めるとともに、人々の心のつながりや相互に理解し尊重し合う土壌を提供し、多様性を受け入れることができる心豊かな社会を形成するものであり、世界の平和に寄与するものである。また、文化芸術は、それ自体が固有の意義と価値を有するとともに、それぞれの国やそれぞれの時代における国民共通のよりどころとして重要な意味を持ち、国際化が進展する中にあって、自己認識の基点となり、文化的な伝統を尊重する心を育てるものである。さらに、我が国の文化芸術は、グローバルな競争の中で新たな付加価値を創出していくための、世界に誇る最大の資産であり、xxに向けて着実に維持・継承しつつ、発展・成長させていくべきものである。
一方で、それを支える芸術家等に目を向けてみると、これまで、例えば、公演主催者等の発注者が、事前に業務内容や報酬額、支払時期等を十分に明示しないため、芸術家等の立場の弱い受注者が、不利な条件のもとで業務に従事せざるを得ないという状況が生じている。
また、今回のコロナ禍において、特に個人で活動する芸術家等が国の支援事業等に申請するに当たっても、契約内容が書面化されていないために、コロナ禍以前の報酬額からの減少や活動機会の減少等を客観的に証明することができず、支援を受けることが困難な状況も生じている。
このような状況を改善するため、「文化芸術分野の適正な契約関係構築に向けた検討会議」を開催することとし、6回の検討会議、4回のスタッフワーキンググループ及び
3回の実演家ワーキンググループ、2回の合同ワーキンググループを通じて、本ガイドライン(検討のまとめ)(以下「本ガイドライン」という。)の策定に向けた検討を行った。
文化芸術の担い手である芸術家等が契約内容を十分に理解した上で業務に従事できるよう、契約内容の明確化のための契約の書面化の推進等の改善の方向性、契約書のひな型及び解説、実効性確保のための方策等を示すことにより、文化芸術分野における適正な契約関係の構築、ひいてはプロフェッショナルの確立を目指し、安心・安全な環境での持続可能な文化芸術活動の実現を図ることを目的とする。
本ガイドラインにおいて対象とする契約関係は、文化芸術基本法(平成 13 年法律第
148 号)第 16 条の芸術家等(※)のうち、個人で活動する芸術家等(以下「芸術家等」という。)が一方当事者となって、事業者や文化芸術団体等(以下「事業者等」という。)
から依頼を受けて行う文化芸術に関する業務の契約関係を対象とする。なお、芸術家等が事務所等と契約するいわゆるマネジメント契約については、本ガイドラインにおいて言及はしていないが、契約の書面化の推進や取引の適正化の促進など参考にできるところは考慮していただきたい。
※文化芸術基本法第 16 条に定める芸術家等とは
⚫ 文化芸術に関する創造的活動を行う者
⚫ 伝統芸能の伝承者
⚫ 文化財等の保存及び活用に関する専門的知識及び技能を有する者
⚫ 文化芸術活動に関する企画又は制作を行う者
⚫ 文化芸術活動に関する技術者
⚫ 文化施設の管理及び運営を行う者その他の文化芸術を担う者
事業者等と芸術家等が取引をする際には、その取引全般に私的独占の禁止及びxx取引の確保に関する法律(昭和 22 年法律第 54 号。以下「独占禁止法」という。)が適
用される。また、取引の発注者が資本金又は出資金 1,000 万円超の法人の事業者等で
あり、かつ、取引の内容が下請代金支払遅延等防止法(昭和 31 年法律第 120 号。以下
「下請法」という。)に定める取引類型に該当する場合 1、受注者が個人の場合でも、下請法が適用される。さらに、業務の実態等から判断して芸術家等が「労働者」と認められる場合は、労働関係法令が適用されるので留意が必要である。
このような事業者等と芸術家等を含めたフリーランスとの取引については、独占禁止法、下請法、労働関係法令の適用関係や、これらの法令に基づく問題行為を明確化した「フリーランスとして安心して働ける環境を整備するためのガイドライン(令和3年
3月 26 日、内閣官房、xx取引委員会、中小企業庁、厚生労働省)」が策定されているため参照されたい。
また、文化芸術分野での取引について、「放送コンテンツの製作取引適正化に関するガイドライン(平成 21 年2月(令和2年9月末改訂)、総務省)」、「アニメーション制
作業界における下請適正取引等の推進のためのガイドライン(平成 25 年4月(令和元年8月改定)、経済産業省)」等のガイドラインがある。既にガイドラインのある分野においては、当該ガイドラインによるものであるが、本ガイドラインも参考に契約の書面化の推進や取引の適正化の促進が求められる。
なお、フリーランスと発注者等との契約等のトラブルについては、フリーランスの方が弁護士にワンストップで相談できる窓口として「フリーランス・トラブル 110 番」が設置されているため活用されたい。
1 下請法第2条第1項から第4項までに規定する①製造委託、②修理委託、③情報成果物作成委託、④役務提供委託に該当する必要がある。
文化芸術分野の関係者間においては、これまで制作者や主催者である事業者等と芸術家等との信頼関係や従来の慣習等により、口頭による契約で業務が行われることが多く、それでも業務を進めてこられたこと等が、これまで書面化が進んでこなかった大きな要因であると考えられる。
また、文化芸術分野における契約と一口に言っても、分野、職種、案件により、業務内容や契約期間は様々であるため、事業者等にとっては一つの作品や公演のために、多くの芸術家等と多様な契約を交わす必要があり、一律の対応が難しく事務的な負担も大きい。
さらに、文化芸術分野における創造活動は、業務内容が創作過程で変わることもあり、事業者等は契約時に業務内容や業務量の詳細を正確に見積もることが困難である。収支については作品・公演単位で考えられることが多いが、事業予算が収入見込みから逆算して決まることが多い一方、その収入は興行・チケットの売上等に基づくため、資金調達の見通しも立てづらい。
芸術家等は、契約や権利、個人で活動すること等について学ぶ機会がないまま働き始めることが多く、契約手続きという事務手続きに時間や手間を割くよりも、本来の活動に時間を掛けたい・専念したいという気持ちを持つ者もいる。
このように、信頼関係等に基づくこれまでの慣行に加え、契約の多様性、構造的な特性等により、これまで契約の書面化が進んでこなかったものと考えられる。
口頭での契約や、メール等を用いた受発注であっても取決め内容が不十分な場合、双方の権利と義務が不明確となり、例えば、一方的なキャンセルや報酬の減額等本来契約違反であるようなことがあってもそれを証明できなかったり、想定していなかった業務が追加されたりする等、芸術家等に予期せぬ不利益が生じることがある。特に、コロナ禍においては、芸術家等が契約書がないために、自分自身の業務や報酬額等を証明できない等の課題も生じている。
また、契約において弱い立場になりがちな芸術家等は、交渉や協議を求めたら団体や業界内で冷遇されてしまうのではないか、今後、業務の依頼が来なくなるのではないか等の不安から交渉せずに業務を受けてしまったり、そもそも交渉もせずに諦めてしまったりすることも指摘されている。
このため、契約書があっても、例えば、芸術家等の報酬や著作xxの権利が適切に保護されていなかったり、芸術家等が合理的な範囲を超えた義務を負わされたりするなど、事業者等に一方的な内容である場合に、芸術家等が不利益を被ったり、トラブルに発展したりすることもある。また、事故防止やハラスメント対策等の作業環境の整備に
関する内容が十分に盛り込まれていないとの指摘もある。
これまでの信頼関係に基づく口頭による契約慣行等により生じる不明確な契約内容によるトラブルを回避するとともに、感染症の流行等の不測の事態に備えるためにも、契約の書面化を一層推進し、これまでの口頭による契約慣行を改善していく必要がある。
また、基本的に契約書を交わしているところもあれば、これまで依頼は口約束がほとんどである分野もあること、長期間にわたる業務もあれば、前日に依頼されての短期間の業務もあることから、各分野や業界等の実情に応じて契約の書面化を推進していくことが求められる。
事業者等と芸術家等がどのような内容で取引をするかは、原則として、当事者間で自由に決められるものであるが、実際には、力関係の差や交渉力の差により、事業者等からの一方的な内容となっているような状況が指摘されている。
このような状況を改善していくためには、事業者等と芸術家等の間で業務開始前に報酬や権利等の取引条件について十分に協議・交渉が行われることが重要であり、芸術家等が協議・交渉しやすい環境を整備していくことが求められる。
また、取引に当たっては、芸術家等の自主性を尊重し、芸術家等がその才能を遺憾なく発揮して、プロフェッショナルとして創作活動に取り組めるよう、芸術家等の専門性や提供する役務に見合った報酬とするなど取引の適正化を促進していく必要がある。
Ⅳ 取引の適正化の促進等の観点から契約において明確にすべき事項等
文化芸術分野の取引は、分野、職種、案件等により、業務内容や期間等が様々であること等による契約の多様性や、曖昧な契約、不適正な契約等によって不利な立場におかれがちな芸術家等に生じている問題等を踏まえ、事業者等や芸術家等の参考となるよう取
2 下請法では、親事業者(発注者)が下請事業者(受注者)に対して、下請事業者の役務等の提供内容、下請代金の額、支払期日及び支払方法その他の事項を記載した書面を下請事業者に交付しなければならないとされていることから、下請法の規制の対象となる場合は、事業者等は下請法で定める書面を交付する必要がある。
引の適正化の促進等の観点から契約において明確にすべき基本的な項目及び考え方、留意事項等を以下に示す。
なお、本項においては、契約上の立場を明らかにする観点から、個人で活動する芸術家等を「受注者」、芸術家等に依頼を行う事業者等を「発注者」とする。
1 取引の適正化の促進等の観点から契約において明確にすべき基本的な項目及び考え方
(1)業務内容
業務内容は、発注者が何を依頼し、受注者が具体的に何をするかを規定するものであり、契約の中でも特に重要な項目である。業務内容が不明確であれば、例えば、発注者は、受注者から提供されたものが依頼した業務と違っていても、その責任を追及しづらくなったり、受注者は、想定していない業務を受けざるを得なくなったりするなどのリスクがある。このため、発注者、受注者双方が依頼内容を十分に理解し、トラブルを未然に防ぐためにも、業務内容は、可能な限り明確にしておく必要がある。
一方で、文化芸術に関する業務は、1年以上前から企画するものや、創造的な業務も多く、発注する段階で業務内容の詳細を確定させることが困難な場合や創作していく過程において内容を変更する必要が生じる場合もある。
このような場合にも、発注段階で明確にできるものは具体化しておき、明確にできないことにつき正当な理由があるものについては、その理由や内容を定めることとなる予定期日を記載するとともに、内容が定まり次第直ちに当該内容を書面化するなど、業務内容を明確化していくことが必要である。なお、発注者は、業務内容を明確に定めないことによって、受注者に追加業務の負担を強いることのないよう留意する必要がある。また、業務内容が不明確なまま受注者に対し、一方的に指示を行い、受注者に指示通り業務を行うことを求める場合には、「労働者」と認められ、労働関係法令の遵守が必要となる可能性があることに留意が必要である。
(2)報酬等
報酬の決定に当たっては、業務内容や専門性、著作xxの権利の利用許諾・譲渡・二次利用の有無、経費負担等に応じた適正な金額となるよう、発注者と受注者が十分に協議した上で決定すべきであり、不当に低い対価での取引をしないようにする必要がある。その際、受注者が業務を実施する上で必要な諸経費についても発注者と受注者が十分に協議し、それぞれが負担する経費を明確化し、契約書に記載しておく必要がある。
契約時点において具体的な報酬額を定められない正当な理由がある場合には、定められない理由、報酬が決定する予定期日を記載しておき、確定次第速やかに書面で通知する等の対応が必要である。
報酬の支払期日及び支払方法について、受注者に不当に不利益を与えないよう、あ
らかじめ契約書に記載しておく必要がある。
(3)不可抗力による公演等の中止・延期による報酬の取扱い
新型コロナウイルス感染症の影響により、数多くの文化芸術公演等が中止を余儀なくされ、多くの芸術家等が中止等に伴い報酬の支払もなく収入が激減する等不安定な状況に置かれたことを踏まえ、感染症や地震、台風などいわゆる不可抗力により公演等が中止・延期となった場合に、受注者が一方的にしわ寄せを被ることのないよう配慮すべきである。
公演等の中止・延期が不可抗力によるものかは個別の事情によって判断されるが、不可抗力により公演等が中止・延期となった場合の報酬の取扱いについて、契約段階において発注者と受注者が十分に協議し、契約書に記載しておく必要がある。
また、公演等の中止・延期決定後に、発注者と受注者が報酬の取扱いについて協議する場合には、例えば、中止・延期となった日から公演等の当日までの期間、中止・延期となった日までに受注者が実施した業務の履行割合、中止・延期により受注者が負担することとなる経費、公演等のために受注者が確保していた日数、公演等が実施されれば得られる予定であった報酬額、発注者の当該公演等に関する収入の有無、中止公演等に代わる延期公演等の実施の有無等を勘案し、決定することが望ましい。なお、公演等の実施に関する予算が一定程度確保されているような場合には、積極的な配慮が求められる。
(4)安全・衛生
発注者は、安全配慮として、受注者の身体的・精神的な健康状態に配慮することが重要であり、受注者が、高齢者や児童、未xx者、妊婦等の場合には、その年齢や学業等に応じた一層の配慮が求められる。
文化芸術の公演等においては、演出上、高所や暗所での作業や身体接触を伴う演技等危険を伴うものがあることから、事故防止など安全管理の徹底が求められる。
制作や実演の現場においては、プロデューサー、演出家、監督、照明・音響等スタッフなど様々な分野の立場の異なる専門家が関わるため、現場での関係者間の意思疎通不足や指揮命令系統や責任体制が不明確な場合には事故につながりやすいとの指摘もある。
また、制作や実演の現場において暴言等による精神的な攻撃や演出等を理由とした性的な言動などパワーハラスメントやセクシュアルハラスメントに関する問題、過多な露出、過度に扇情的に表現する行為を強要する等の問題や深夜早朝の過重業務の問題も生じている。
このため、事故防止や作業環境の整備などの観点から、現場の安全衛生に関する責任体制の確立のため、芸術家等の安全衛生管理を行う者を置くことが望ましい。また、
「芸能従事者の就業中の事故防止対策等の徹底について(令和3年3月 26 日、厚生労働省労働基準局安全衛生部安全課長他)」にあるとおり、フリーランスを含めた芸能従事者の就業中の事故防止対策等を徹底するため、現場における災害防止措置として、芸能従事者が行う資材による危険の防止、演技、撮影、照明等の作業における危険の防止の取組、安全衛生に関する対策の確立等として、制作管理者が行う安全衛生に関する責任体制の確立、安全衛生教育の実施、作業環境やトラブル・ハラスメント相談体制の整備等の取組が求められている。
また、受注者の事故等に備え、発注者において民間の保険に加入したり、受注者において、音楽、演芸その他芸能の提供の作業又はその演出若しくは企画の作業を行う場合やアニメーションの制作の作業を行う場合には、それらの作業につき労災保険に特別加入することや民間の保険等に加入したりすることが考えられ、その費用負担も含め保険に関する取扱いについて発注者と受注者が協議することが望ましい。
さらに、センシティブなシーンの実演があることや、近年、芸術家等の自殺や芸術家等が誹謗中傷を受けることが増えていることも踏まえ、受注者の身体や精神的安全を確保するため、作業環境を整えたり、精神的ケアの取組をしたりすることが求められる。
(5)権利
創作過程において生じた著作権、実演等によって生じる著作隣接権は、その創作や実演等を行った芸術家等に自動的に帰属する。
このため、受注者の著作物や実演を発注者が利用する場合には、受注者からその利用について許諾を受けたり、著作xxの譲渡を受けたりする必要があり、契約段階において発注者と受注者が協議し、明確にしておく必要がある。
利用の許諾を受ける場合は利用方法や条件について、また譲渡の場合はその範囲について、発注者と受注者が協議し、対価の決定にあたってはそれらを十分に考慮することにより、受注者の利益を不当に害さないことが求められる。
また、著作者人格権や実演家人格権といった譲渡することができない権利や、肖像権、パブリシティ権のような人格権由来とされている権利についても、その取扱いについて確認しておくことが求められる。
なお、成果物の所有権について明確にしておくことが望ましい。
(6)契約内容の変更
文化芸術に関する業務は、創造的な業務も多く、契約締結後に業務内容等の契約内容を変更する必要が生じることが考えられる。このような場合に、発注者と受注者が円滑に協議に移れるよう、あらかじめ契約書において契約の変更に関する取扱いについて記載しておく必要がある。発注者と受注者が協議し、合意した内容については、
変更後の契約内容の明確化やトラブル防止の観点から書面により明確にしておく必要がある。
また、発注者は契約内容の変更に伴い、受注者の利益を不当に害することがないよう、変更による受注者の負担の増減等を十分に勘案し、必要があれば適切に報酬等に反映するよう、受注者と十分に協議することが求められる。
(その他の項目及び契約に当たっての留意点)
上記1の項目のほか、契約に当たって必要となり得るものとして、広告宣伝に関する条項、クレジット(氏名表示)に関する条項、損害賠償責任に関する条項、暴力団排除に関する条項、契約終了後に関する条項、秘密保持等に関する条項、中途解約に関する条項、紛争解決に関する条項等がある。これらの各条項に関しても、トラブル防止の観点から書面により明確にする必要がある。その際、発注者は、受注者の利益を不当に害することがないよう受注者と十分に協議することが求められる。これらに関し、契約に当たっての留意点を以下に示す。
〇広告宣伝に関する条項
広告宣伝活動に対する芸術家等の出演や肖像等の利用が必要な場合には、出演や利用の範囲、報酬の有無、交通費・宿泊費等の費用負担の有無等について、発注者と受注者が十分に協議をした上で、広告宣伝に関する条件を決定する必要がある。
〇クレジットに関する条項
公演や映像作品等における出演者のクレジット表記については、様々な方法が考えられるため、その具体的方法を定めておく必要がある。著作権や著作隣接権を有する受注者は、人格権である氏名表示権を有しており、その表記方法は出演者の声望等に関わるものであるため、受注者の意向を可能な限り尊重することが必要となる。このため、発注者と受注者が十分に協議をした上で、クレジット表記の方法を決定する必要がある。
〇損害賠償責任に関する条項
文化芸術に関する業務は、業務に起因する損害が著しく高額になることもあるが、損害賠償額の上限を定めたり、損害の範囲を明確に定めたりするなど、受注者に過 度の損害賠償額を負担させたりすることがないよう配慮する必要がある。
〇暴力団排除に関する条項
各自治体の暴力団排除条例により、契約書において、暴力団排除条項を定めることが求められている(努力義務)。
〇契約終了後に関する条項
中途解約に関することも含めて、事後的なトラブル回避のため、引継ぎ方法、権利の取扱方法、受注者の肖像等を使用した広告制作物等の撤去時期や方法などを定
める必要がある。また、正当な理由なく、一方的に過度の義務を負わせることは避ける必要がある。
〇秘密保持義務や競業避止義務、専属義務等に関する条項
発注者が合理的に必要な範囲でこれらの義務について設定することは直ちに問題となるものではないが、合理的に必要な範囲を超えた義務を課し、正常な商習慣に照らして受注者に不当に不利益を与えることや、受注者の言動や私生活を過度に制限することとならないようにする必要がある。
〇中途解約に関する条項
中途解約は、発注者と受注者の双方に対等に定めるのがxxであり、明確に定めることが望ましい。その際、中途解約の妨げになるような著しく過大な損害賠償額を設定しないよう留意する必要がある。
〇紛争解決に関する条項
当事者間では解決できないトラブルに発展した場合に備え、訴訟をどこの裁判所で取り扱うか(管轄裁判所)、特に海外との契約においてはどの国の法律に準拠するかを定める場合には、紛争解決に要するコストを勘案して、双方で十分に協議する必要がある。
(所属事務所等が契約する場合の留意点)
芸術家等が所属する事務所等が契約当事者となって発注者と契約を締結する場合、上記の基本的な項目及び留意事項を参考にすることに加え、事務所等の変更に伴う措置に関する条項、保証に関する条項(当該所属事務所等が契約の締結・履行や芸術家等に履行をさせるのに必要な一切の法的権限を有すること)を設ける必要がある。また、芸術家等が自身の報酬や権利等について把握しトラブルを防止する観点から、所属事務所等は、発注者との契約締結前に芸術家等に対して、予め当該契約内容について、十分に説明し、協議する機会を設ける必要がある。
文化芸術分野における契約の書面化の推進や取引の適正化を促進し、関係者間の適正な契約関係の構築に資するよう、事業者等や芸術家等が契約を締結する際に活用できる契約書のひな型及び解説を示すこととした。
契約書のひな型及び解説で対象とする契約については、公演、番組、映画等の制作者や主催者である事業者等(発注者)と個人で活動する芸術家等(受注者)との契約を対象とすることとし、「スタッフ(公演、番組、映画等の制作、演出・文芸、技術等に携わる者)の制作や技術等に関する業務委託契約」及び「実演家(公演、番組、映画等に出演する者)の出演に関する業務委託契約」とした。【別添参照】
また、契約書のひな型及び解説で示す項目については、文化芸術分野における契約の
多様性等を踏まえ、分野共通的な項目や取引の適正化の観点から、Ⅳ1(1)~(6)の項目に絞って示すこととする。
これらは、契約の際に必要な基本的事項を盛り込んだ参考例であり、業務の内容等に応じて柔軟に工夫し活用していただきたい。職種によっては、スタッフと実演家双方の役割を担うことも想定されることから、そのような場合には双方のひな型や解説を参考にしていただきたい。
これまでの口頭による契約慣行等の改善、取引の適正化を促進していくためには、改善の方向性や契約書のひな型を示すだけでなく、実効性を高めていくための取組が不可欠であり、官民一体となって、中長期的に継続して取り組んでいく必要がある。
事業者等、業界団体、芸術家等には当事者として取り組むことが望まれるとともに、行政においては本ガイドラインの内容が関係者間で広く共有・活用されるよう尽力し、文化芸術分野において、適正な契約関係が構築されるための取組を推進していくことが必要である。
適正な契約関係を構築していくためには、事業者等や芸術家等の努力だけではなく、行政が主体となった継続的な取組が欠かせない。文化庁は、例えば、各分野の団体等が行う研修会の開催、文化芸術分野に特化した契約に関する相談窓口の設置、芸術系の大学や専門学校での契約に関する講座の実施への支援等に取り組んでいくとともに、これらの取組等を通じて引き続き課題を把握し、契約関係の適正化に向けた更なる検討を進めていく必要がある。
また、文化芸術分野において芸術家等が取引する際、独占禁止法や下請法、労働関係法令に違反する事実が認められる場合には、各関係行政機関において適切に対応することが必要である。
文化芸術の各分野や職種において、適正な契約関係を構築していくためには、文化芸術団体や業界団体が果たす役割は大きい。文化芸術団体や業界団体は、本ガイドラインを参考に、自らが中心となって、それぞれの実情に応じて、契約書のひな型の作成など契約に関するルール作りが行われるとともに、検討の場を設けたり、研修会を開催したりすること等により、契約の書面化及び取引の適正化が図られることが期待される。
また、事業者等は芸術家等に対して取引に関して不満がないか聞き取るなど芸術家等が協議・相談しやすい環境の整備に努めることが期待される。
芸術家等は、当事者たる意識を持ち、本ガイドラインの活用や研修会への参加などにより契約に関する知識を深め、事業者等と協議・交渉できる力、契約書を交わせる力をつけるとともに、事業者等と契約する際には、自らが提供する付加価値について正当な評価を受け、適正な報酬等が得られるよう、協議・交渉を申し入れる等の自助努力を行うことが期待される。なお、芸術家等は受注者としてだけでなく発注者として契約当事者となり得ることも認識しておく必要がある。
本検討会議においては、文化芸術分野における適正な契約関係の構築という観点から、文化芸術分野において契約の書面化が進まない理由や契約書がないことによって生じる問題などの課題を明らかにしつつ、契約内容の明確化のための契約の書面化の推進、取引の適正化の促進、契約書のひな型の作成、実効性の確保のための方策等について検討し、取りまとめを行った。
人口減少社会において、文化芸術の各分野が持続的な成長を遂げていくためには、次代 の文化芸術の担い手である若者にとって魅力ある環境を整備していくことが不可欠であり、契約の書面化の推進や芸術家等の提供する役務に見合った報酬とする等の取引の適正化を 促進することは、その基盤となるものである。また、芸術家等が役務に見合った報酬が得 られるようにするためには、分野や業界全体での取引の適正化の促進とともにチケット等 への価格転嫁について観客の理解も必要である。さらに、文化芸術への国・自治体等から の支援についての国民の理解も必要である。
今回の検討会議の議論では、多くの委員から実効性の確保が何よりも重要であるとの指摘がなされた。本検討会議の趣旨及び本ガイドラインの内容を達成するため、団体、事業者等、芸術家等や文化庁をはじめとする関係行政機関においては、文化芸術分野における適正な契約関係の構築に向けて、特にⅤの実効性の確保のための取組が進められることを期待する。
最後に、契約関係をはじめ芸術家等をとりまく環境は日々変化していくものである。文化庁においては、引き続き課題を把握しながら、芸術家等が安全・安心して活躍できる環境整備に向けて、契約に関する更なる検討など環境改善のための取組が進められることを期待する。
別添
スタッフの制作や技術等に関する契約書のひな型例及び解説
○このひな型例及び解説は、発注者(公演、番組、映画等の制作者や主催者である事業者等)と個人で活動するスタッフ(公演、番組、映画等の制作、演出・文芸、技術等に携わる者)との間の制作や技術等に関する業務委託契約に関するものです。
○文化芸術分野における取引の適正化等の観点から契約に必要な基本的事項を盛り込んでいる参考例です。文化芸術分野の取引は、分野、職種、案件等により、業務内容や期間等が様々であることから、個々の状況に合わせてご活用下さい(例えば、発注者がスタッフに継続的に業務を依頼する場合に、共通する事項を「基本契約」、公演日、場所、報酬等の個別の事項を「個別契約」(発注書)として契約する等)。
○書面は、契約書、確認書、発注書など様々なものが考えられ、交付の方法も紙による交付に加え、メールや SNS のメッセージ等の電磁的記録によるものなどが考えられます。少なくとも契約が成立したこと、業務内容や報酬等の基本的な事項に関する記録を書面により残しておくことが重要です。
○なお、xxxxxxと発注者等との契約等のトラブルについては、フリーランスの方が弁護士にワンストップで相談できる窓口として、「フリーランス・トラブル 110 番」が設置されています。
ひな型例 | 解説 |
(業務内容)第○条 1 (発注者)は、(スタッフ)に対し、次の○○○○に関する業務(以下「本業務」という。)を委託する。 (1)作品名(公演名、番組名、映画名等):○○○ (2)場所(会場、放送局等):○○○ (3)業務の内容及び期間 【公演・撮影等】※本番 ○○年○月○日から○○年○月○日まで ○○○(具体的な業務の内容を記載) 【稽古又はリハーサルがある場合】 稽古又はリハーサル開始日(時期) 【未定の事項がある場合】 ○○○(未定の事項及び未定の理由を記載) 2 本業務のうち「未定」の事項については、概ね○○年○月○日頃までに(発注者)及び(スタッフ)が協議の上、決定し、(発注者)が(スタッフ)に対し書面で通知するものとする。 | ⚫ 業務内容について記載します。 ⚫ 業務内容は、発注者及びスタッフがお互いに依頼内容を理解し、具体的に何をするのかや業務に従事する期間等が明確になるようできる限り具体的に記載します。 ⚫ 業務の内容には、公演、映画撮影等の業務に加えて、稽古、リハーサル等の業務がある場合には、契約段階においてその時期を明確化しておく必要があります。 ⚫ 具体的な業務内容を明確にできないものがある場合には、その内容が明確にならない理由や内容が明確になると見込まれる予定期日について契約書に記載し、明確にすることができる段階で、発注者とスタッフが十分な協議をした上で、速やかに業務内容を明確にできるようにしておきます。具体的な業務内容を明確にできないものがある場合について、下請法では、発注時に下請事業者の給付の内容等が定められないことにつき正当な理由があるものについては、その記載を要しないものとされていること、その場合には、親事業者は、当該事項を定められない理由、当該事項を定めることとなる予定期日を発注時の書面に記載しなければならないとされている趣旨を踏まえ、ひな型においても記載することを求めています。(未定の理由の記載例:「公演名、公演期間は決まっているが、業務の内容が具体的に決定していないため」等) ⚫ 業務内容を特定するため必要に応じて、広告に関する契約の場合には、広告主名、その他の契約の場合には、放送局名、公演主催者名等を記載することも考えられます。 ⚫ 創作物を作り上げていく中で業務内容を変更する必要が生じることも想定されます。業務内容の変更が生じた場合には、発注者と受注者が協議し、合意した変更内容について発注者が書面で通知する必要があります。 |
【参考】主な関係法令・ガイドライン等
・下請代金支払遅延等防止法(昭和 31 年法律第 120 号)第 3 条第 1 項では、「親事業者は、下請事業者に対し製造委託等をした場合は、直ちに、xx取引委員会規則で定めるところにより下請事業者の給付の内容、下請代金の額、支払期日及び支払方法その他の事項を記載した書面を下請事業者に交付しなければならない。ただし、これらの事項のうちその内容が定められないことにつき正当な理由があるものについては、その記載を要しないものとし、この場合には、親事業者は、当該事項の内容が定められた後直ちに、当該事項を記載した書面を下請事業者に交付しなければならない。」とされています。
・下請代金支払遅延等防止法(昭和 31 年法律第 120 号)第 3 条第 2 項では、下請事業者の承諾を得るなどすれば書面に記載すべき事項を書面に代えて電磁的方法によって提供することが認められており、下請取引における電磁的記録の提供に関する留意事項
(平成 13 年 3 月 30 日xx取引委員会)では、電磁的方法によって提供する場合の留意事項について示されています。
・下請代金支払遅延等防止法に関する運用基準(平成 15 年 12 月 11 日xx取引委員会事務総長通達第 18 号)第 3 の 2(2)では、
「「その内容が定められないことについて正当な理由がある」とは、取引の性質上、製造委託等をした時点では必要記載事項の内容について決定することができないと客観的に認められる理由がある場合であり、次のような場合はこれに該当する。ただし、このような場合であっても、親事業者は、特定事項がある場合には、特定事項の内容が定められない理由及び特定事項の内容を定めることとなる予定期日を当初書面に記載する必要がある。また、これらの特定事項については、下請事業者と十分な協議をした上で、速やかに定めなくてはならず、定めた後は、「直ちに」、当該特定事項を記載した補充書面を下請事業者に交付しなければならない。」とされており、上記の次のような場合の例として、「○ 広告制作物の作成委託において、委託した時点では制作物の具体的内容が決定できない等のため、「下請事業者の給付の内容」、「下請代金の額」又は「下請事業者の給付を受領する期日」が定まっていない場合」、「○ 放送番組の作成委託において、タイトル、放送時間、コンセプトについては決まっているが、委託した時点では、放送番組の具体的な内容については決定できず、「下請代金の額」が定まっていない場合」等が示されています。
・フリーランスとして安心して働ける環境を整備するためのガイドライン(令和 3 年 3 月 26 日、内閣官房、xx取引委員会、中小企業庁、厚生労働省)(7~8 頁)では、独占禁止法(優越的地位の濫用)・下請法上問題となる行為類型として、やり直しの要請について、その考え方や優越的地位の濫用として問題となり得る想定例が示されています。
ひな型例 | 解説 |
(報酬等)第○条 【著作権が発生しない場合】 1 (発注者)は、(スタッフ)に対し、本業務の報酬として、金○○○,○○○円(消費税等別)を支払う。 【著作権が発生する場合①(報酬に利用許諾又は権利譲渡の対価を含める場合)】 1 (発注者)は、(スタッフ)に対し、本業務の報酬及び第○条第 1 項で定める(利用許諾又は権利譲渡)の対価として、金 ○○○,○○○円(消費税等別)を支払う。 【著作権が発生する場合②(利用許諾又は権利譲渡の対価を報酬と分けて明示する場合)】 1 (発注者)は、(スタッフ)に対し、本業務の報酬として金 ○○○,○○○円(消費税等別)、第○条第 1 項で定める(利用許諾又は権利譲渡)の対価として金○○○,○○○円(消費税等別)を支払う。 【報酬額を定められない正当な理由がある場合】 1 (発注者)と(スタッフ)は、本業務の報酬を、概ね○○年 ○月○日頃までに、協議の上、決定し、(発注者)は、(スタッフ)に対し、決定した金額を支払う。報酬額を定められない理由は下記のとおりである。 ○○○(理由を記載) 2 ○○○、○○○の諸経費は(スタッフ)の負担とする。 3 前項に定めるもののほか、本業務に要する諸経費は、別に合意したものを除き、(発注者)の負担とする。 4 (発注者)は(スタッフ)に対し、第 1 項の報酬、前項の諸経費のうち(スタッフ)が立て替えて負担した経費を、本業務の遂行が完了した日の翌月○日に支払うものとする。ただし、支払日が金融機関の休業日である場合、支払期日は前営業日とする。 【分割払の例】 (発注者)は(スタッフ)に対し、第 1 項の報酬、前項の諸経費のうち(スタッフ)が立て替えて負担した経費を、以下の期日に支払うものとする。ただし、支払日が金融機関の休業日で | ⚫ 報酬等について記載します。 ⚫ 報酬額は、業務内容、専門性、著作xxの権利の利用許諾・譲渡・二次利用の有無、経費負担等を十分に勘案した上で適正なものとなっているか発注者とスタッフが十分に協議し決定する必要があります。また、権利の利用許諾又は譲渡がある場合には、その対価について、明確な合意がされることが望ましいです。なお、成果報酬のような形で別途追加報酬を契約上定めることもできます。 ⚫ 業務内容と同様に、報酬額を明確にできない場合について、下請法では、発注時に下請事業者の給付の内容等が定められないことにつき正当な理由があるものについては、その記載を要しないものとされていること、その場合には、親事業者は、当該事項を定められない理由、当該事項を定めることとなる予定期日を発注時の書面に記載しなければならないとされている趣旨を踏まえ、ひな型においても記載することを求めています。 ⚫ 報酬額は本来、契約時点で定めておくべきですが、定められないことについて正当な理由がある場合には、定められない理由、報酬が決定する予定期日を記載し、報酬が曖昧なままに業務を実施することを避けるようにする必要があります。 (未定の理由の記載例:「タイトル、放送時間、コンセプトについては決まっているが、放送番組の具体的な内容について決定していないため」等) ⚫ 分野や職種によっては、事業協同組合や労働組合 (ユニオン)が発注者との間で団体協約や労働協約を締結しており、その中で報酬に関する基準が定められている場合がありますので、該当する組合員の報酬決定の際にはそれらを踏まえる必要があります。 ⚫ また、団体内の報酬に関するルールによって報酬額が決まる場合もあります。 ⚫ なお、契約当初の想定を超えた著作物の利用が生じた場合に備え、契約段階においてその協議方法について明確にしておくことが望ましいです。団体協約や著作xx管理事業者による使用料の分配制度(いわゆる集中管理制度)によって、双方の手間を省きつつ、利用の対価を権利者に還元する仕組みもあります。 ⚫ 諸経費は、交通費、材料費、機材費、その他本業務に必要となる経費のうち、発注者、スタッフそれぞれが負担するものについて十分に協議した上で具体的に記載します。 ⚫ 報酬等の支払期日について、下請法では、下請事業者の給付を受領した日(役務提供委託の場合は、下請事業者がその委託を受けた役務の提供をした日)から起算して、60 日の期間内において、かつ、できる限り短い期間内において、定められなければならない、とされている趣旨を踏まえ、業務完了後可能な限り早期に支払われるよう具 体的な支払期日を契約書に記載することが望ま |
ある場合、支払期日は前営業日とする。 ①金○○○,○○○円 契約締結日の属する月の翌月末日 / ○○年○○月○○日 ②金○○○,○○○円 ○○年○○月○○日 ③残額 本業務の遂行が完了した月の翌月末日 / ○○年○○月○○日 5 前項の支払は(スタッフ)の指定する銀行口座に振り込む方法によるものとし、振込手数料は(発注者)の負担とする。 | しいです。支払期日が、金融機関の休業日に当たることがあります。ひな型では、支払遅延防止の観点から前営業日としています。翌営業日とする場合は、下請法の考え方を踏まえ順延する期間を 2 日以内とすることが望ましいです。また、業務が長期にわたる場合や制作費が報酬に含まれる場合等も想定されますので、業務の進捗状況等に応じて分割払とすることも考えられます。 ⚫ 報酬等の支払方法については、現金による直接支払、銀行振込など具体的な支払方法について記載します。なお、銀行振込の場合の振込手数料は、原則として、スタッフが負担する旨の合意がない限り発注者が負担すべきものですが、どちらが負担するか発注者とスタッフが協議の上、契約書に記載しておきます。 |
【参考】主な関係法令・ガイドライン等
・下請代金支払遅延等防止法(昭和 31 年法律第 120 号)第 3 条第 1 項では、「親事業者は、下請事業者に対し製造委託等をした場合は、直ちに、xx取引委員会規則で定めるところにより下請事業者の給付の内容、下請代金の額、支払期日及び支払方法その他の事項を記載した書面を下請事業者に交付しなければならない。ただし、これらの事項のうちその内容が定められないことにつき正当な理由があるものについては、その記載を要しないものとし、この場合には、親事業者は、当該事項の内容が定められた後直ちに、当該事項を記載した書面を下請事業者に交付しなければならない。」とされています。
・下請代金支払遅延等防止法に関する運用基準(平成 15 年 12 月 11 日xx取引委員会事務総長通達第 18 号)第 3 の 2(2)では、
「「その内容が定められないことについて正当な理由がある」とは、取引の性質上、製造委託等をした時点では必要記載事項の内容について決定することができないと客観的に認められる理由がある場合であり、次のような場合はこれに該当する。ただし、このような場合であっても、親事業者は、特定事項がある場合には、特定事項の内容が定められない理由及び特定事項の内容を定めることとなる予定期日を当初書面に記載する必要がある。また、これらの特定事項については、下請事業者と十分な協議をした上で、速やかに定めなくてはならず、定めた後は、「直ちに」、当該特定事項を記載した補充書面を下請事業者に交付しなければならない。」とされており、上記の次のような場合の例として、「○ 広告制作物の作成委託において、委託した時点では制作物の具体的内容が決定できない等のため、「下請事業者の給付の内容」、「下請代金の額」又は「下請事業者の給付を受領する期日」が定まっていない場合」、「○ 放送番組の作成委託において、タイトル、放送時間、コンセプトについては決まっているが、委託した時点では、放送番組の具体的な内容については決定できず、「下請代金の額」が定まっていない場合」等が示されています。
・フリーランスとして安心して働ける環境を整備するためのガイドライン(令和 3 年 3 月 26 日、内閣官房、xx取引委員会、中小企業庁、厚生労働省)(4~7 頁)では、独占禁止法(優越的地位の濫用)・下請法上問題となる行為類型として、報酬の支払遅延、報酬の減額、著しく低い報酬の一方的な決定について、その考え方や優越的地位の濫用として問題となり得る想定例が示されています。
・役務の委託取引における優越的地位の濫用に関する独占禁止法上の指針(平成 10 年 3 月 17 日、xx取引委員会)では、代金の支払遅延、代金の減額要請、著しく低い対価での取引の要請等について、優越的地位の濫用規制の観点からの考え方や独占禁止法上問題となる場合が示されています。
・放送同時配信等の許諾の推定規定の解釈・運用に関するガイドライン(令和 3 年 8 月 25 日策定、文化庁著作権課、総務省情報通信作品振興課)(3 頁)では、放送事業者側が許諾交渉に当たっての留意点として、「対価の支払いを伴う著作物等の利用について、放送のみを行う場合と、放送と放送同時配信等を併せて行う場合の対価の相場が異なる場合には、後者の対価を支払うこと。」とされています。
・下請代金支払遅延等防止法(昭和 31 年法律第 120 号)第 2 条の 2 第 1 項では、「下請代金の支払期日は、親事業者が下請事業者の給付の内容について検査をするかどうかを問わず、親事業者が下請事業者の給付を受領した日(役務提供委託の場合は、下請事業者がその委託を受けた役務の提供をした日。次項において同じ。)から起算して、60 日の期間内において、かつ、できる限り短い期間内において、定められなければならない。」とされています。
・下請代金支払遅延等防止法に関する運用基準(平成 15 年 12 月 11 日xx取引委員会事務総長通達第 18 号)第 4 の 2(5)では、
「次のような場合は、下請代金の支払遅延に当たる。 カ 親事業者と下請事業者との間で、支払期日が金融機関の休業日に当たった場合に、支払期日を金融機関の翌営業日に順延することについてあらかじめ書面で合意していないにもかかわらず、あらかじめ定めた支払期日までに下請代金を支払わないとき。」とされています。
・民法(明治 29 年法律第 89 号)第 485 条では、「弁済の費用について別段の意思表示がないときは、その費用は、債務者の負担とする。ただし、債権者が住所の移転その他の行為によって弁済の費用を増加させたときは、その増加額は、債権者の負担とする。」とされています。
ひな型例 | 解説 |
(不可抗力による公演等の中止・延期による報酬の取扱い)第○条 1 感染症の流行、台風、地震等の天災など当事者双方の責めに帰することができない事由により、公演等が中止・延期となり本業務ができなくなったときは、(発注者)は当該業務に関する報酬の請求を拒むことができる。ただし、(スタッフ)は、既に本業務を行った割合に応じて、報酬を請求することができる。 2 前項の規定は、(発注者)及び(スタッフ)が、報酬の支払の要否及びその額について、中止・延期となった日から公演等の当日までの期間、中止・延期となった日までに(スタッフ)が実施した業務の履行割合、中止・延期により(スタッフ)が負担することとなる経費、公演等のために(スタッフ)が確保していた予定の日数、公演等が実施されれば得られる予定であった報酬額、 (発注者)の当該公演等に関する収入の有無、中止公演等に代わる延期公演等の実施の有無等を勘案し、協議の上、決定した場合には適用しない。 | ⚫ 不可抗力による公演等の中止・延期による報酬の取扱いについて記載します。 ⚫ 当事者双方の責めに帰することができない事由や発注者の責めに帰すべき事由により業務の履行ができなくなった場合に、契約に特段の定めがなければ、基本的に民法の各規定によることとなります。 ⚫ 不可抗力により公演等が中止・延期となった場合に、スタッフが一方的にしわ寄せを被ることのないよう配慮すべきであり、契約段階において、公演等が中止・延期となった場合の報酬の取扱いについて、発注者とスタッフが十分に協議し、契約書に記載しておく必要があります。 ⚫ 公演等の中止・延期が不可抗力によるものかは個別の事情によって判断されますが、第 1 項では、民法を踏まえ、当事者双方の責めに帰することができない事由により公演等が中止・延期となり業務ができなくなったときは、発注者は当該業務に関する報酬の請求を拒むことができること、ただし、スタッフは、既に本業務を行った割合に応じて、報酬を請求することができることを定めています。なお、第 1 項のただし書きについては履行割合型の準委任契約を想定して記載しています。請負契約又は成果報酬型の準委任契約の場合には、「ただし、(スタッフ)は既にした本業務の結果のうち可分な部分において(発注者)が利益を受けるときは、その利益の割合に応じて報酬を請求することができる。」とすることも考えられます。 ⚫ 第 2 項では、不可抗力による中止・延期の場合に、発注者が当該公演等に関する収入が一切ない場合等も想定されることから、報酬の支払の要否及びその額について、協議の上、決定した場合に関する規定を定めています。発注者及びスタッフが報酬の取扱いについて協議するに当たっては、例えば、中止・延期となった日から公演等の当日までの期間、中止・延期までにスタッフが実施した業務の履行割合、中止・延期によりスタッフが負担することとなる経費、公演等のためにスタッフが確保していた日数、公演等が実施されれば得られる予定であった報酬額、発注者の当該公演等に関する収入の有無、中止公演等に代わる延期公演等の実施の有無等を勘案し、決定することが望ましいです。 ⚫ ひな型では、中止・延期となった後に、様々な要素を総合的に勘案し、報酬の取扱いを決定することとしていますが、契約段階において、例えば、業務が既に完了している場合は全額を負担する、中止・延期となった際の交通費、宿泊費や機材レンタル等のキャンセル料を負担する、公演等当日の○○日前から当日までは報酬額の○○%を負担する、公演等当日の報酬額の ○○%を負担するなど、発注者とスタッフが協議し、事前に合意できるものがある場合には、その負担額や割合等について契約書に記載し ておくことも考えられます。 |
【参考】主な関係法令・ガイドライン等
・民法(明治 29 年法律第 89 号)では以下の規定があります。
(債務者の危険負担等)
第 536 条 当事者双方の責めに帰することができない事由によって債務を履行することができなくなったときは、債権者は、反対給付の履行を拒むことができる。
2 債権者の責めに帰すべき事由によって債務を履行することができなくなったときは、債権者は、反対給付の履行を拒むことができない。この場合において、債務者は、自己の債務を免れたことによって利益を得たときは、これを債権者に償還しなければならない。
(注文者が受ける利益の割合に応じた報酬)
第 634 条 次に掲げる場合において、請負人が既にした仕事の結果のうち可分な部分の給付によって注文者が利益を受けるときは、その部分を仕事の完成とみなす。この場合において、請負人は、注文者が受ける利益の割合に応じて報酬を請求することができる。
一 注文者の責めに帰することができない事由によって仕事を完成することができなくなったとき。二 請負が仕事の完成前に解除されたとき。
(受任者の報酬)
第 648 条 受任者は、特約がなければ、委任者に対して報酬を請求することができない。
2 受任者は、報酬を受けるべき場合には、委任事務を履行した後でなければ、これを請求することができない。ただし、期間によって報酬を定めたときは、第 624 条第 2 項の規定を準用する。
3 受任者は、次に掲げる場合には、既にした履行の割合に応じて報酬を請求することができる。
一 委任者の責めに帰することができない事由によって委任事務の履行をすることができなくなったとき。二 委任が履行の中途で終了したとき。
(成果等に対する報酬)
第 648 条の 2 委任事務の履行により得られる成果に対して報酬を支払うことを約した場合において、その成果が引渡しを要するときは、報酬は、その成果の引渡しと同時に、支払わなければならない。
2 第 634 条の規定は、委任事務の履行により得られる成果に対して報酬を支払うことを約した場合について準用する。
・新型コロナウイルス感染症により影響を受ける個人事業主・xxxxxxとの取引に関する配慮について(令和 2 年 3 月 10 日、経済産業大臣、厚生労働大臣、xx取引委員会委員長)において、新型コロナウイルス感染症により影響を受ける個人事業主・フリーランスと取引を行う事業者に対して、取引上の適切な配慮を行うよう、経済産業大臣、厚生労働大臣、xx取引委員会委員長連名で関係事業者団体に対して要請が行われています。
・新型コロナウイルス感染症拡大に関連する下請取引Q&A(令和 2 年 5 月 13 日、xx取引委員会、中小企業庁)では、新型コロナウイルス感染症の拡大に伴う発注の取消し等に係る下請法の考え方として、「問1 新型コロナウイルス感染症の拡大に伴い,減産計画の策定,一部の部品の調達不能等により(中略)役務提供委託の発注の取消しをすることは下請法上,問題となりますか。」、「答(中略)役務提供委託においては,受領の概念がありませんが,発注の取消しをする場合に,発注を取り消したことにより下請事業者に生じた費用を負担しないときは,下請事業者の利益を不当に害することとなり,不当な給付内容の変更(下請法第 4 条第 2 項第 4 号)として,下請法上,問題となります。」等と示しています。
ひな型例 | 解説 |
(xx・衛生)第○条 1 (発注者)は、本業務の内容等を勘案して、(スタッフ)がその生命、身体等の安全を確保しつつ本業務を履行することができるよう、事故やハラスメントの防止等必要な配慮をするものとする。 2 (発注者)は、自らが制作責任者又は製作責任者である場合は自らが、そうでない場合は制作責任者又は製作責任者と協議の上、安全衛生管理を行う者を置き、 (スタッフ)に対し、書面により通知する。 【(発注者)が保険に加入する場合】 3 (発注者)は、本業務に係る災害補償として、(発注者)の保険料負担により、(スタッフ)を被保険者とする○○保険に加入するものとする。 【(スタッフ)が保険に加入する場合】 3 (スタッフ)は、本業務に係る災害補償として、(スタッフ)の保険料負担により、(スタッフ)を被保険者とする○○保険に加入するものとする。 | ⚫ 安全・衛生に関することについて記載します。 ⚫ 第 1 項は、スタッフが個人で業務に従事することを踏まえて、労働契約法第 5 条に準じて、発注者に対してスタッフの生命、身体等の安全配慮を求めるものです。労働契約法第 5 条の「生命・身体等の安全」には、心身の健康も含まれるものとされていますので、ひな型においてもこれに準じて心身の健康も含めて配慮を求めるものとしています。 ⚫ 第 2 項は、現場の安全衛生に関する責任体制の確立のため、スタッフの安全衛生管理を行う者を特定し、書面により通知することが望ましく、例えば「劇場等演出空間の運用および安全に関するガイドライン」では制作者が安全衛生責任を、「放送番組における出演契約ガイドライン」では放送事業者・番組製作会社が安全衛生管理、事故補償責任を負う考え方が示されています。 ⚫ ひな型では、安全衛生管理者について書面により通知することとしていますが、契約段階において安全衛生管理者が特定されている場合には、その氏名等について契約書に記載しておくことも考えられます。 ⚫ 事故防止対策等については、「芸能従事者の就業中の事故防止対策等の徹底について(令和 3 年 3 月 26 日、厚生労働省労働基準局安全衛生部安全課長他)」にあるとおり、フリーランスを含めた芸能従事者の就業中の事故防止対策等を徹底するため、現場における災害防止措置として、芸能従事者が行う資材による危険の防止、演技、撮影、照明等の作業における危険の防止の取組、安全衛生に関する対策の確立等として、制作管理者が行う安全衛生に関する責任体制の確立、安全衛生教育の実施、作業環境やトラブル・ハラスメント相談体制の整備等の取組が求められています。 ⚫ ハラスメントについては、防止措置を講じることが事業主に義務づけられており、事業主が職場におけるハラスメントを行ってはならない旨の方針の明確化等を行う際に、自ら雇用する労働者以外の他の事業主が雇用する労働者やフリーランスを含む個人事業主等に対する言動についても同様の方針を併せて示すことが望ましい取組とされています。 ⚫ 第 3 項は、スタッフの事故等に備え、保険に加入することが望ましく、発注者が保険に加入したり、スタッフが労災保険の特別加入(令和 3 年 4 月 1 日から労災保険の特別加入が拡大し、芸能関係作業従事者(芸能実演関係、芸能製作関係)、アニメーション制作作業従事者が対象となりました)や民間の保険に加入したりすることが考えられます。なお、スタッフが保険に入る場合の保険料を発注者が負担することも考えられます。このような保険の取扱いについては、契約段階においてその費用負担も含め発注者とスタッフが、十分に協議した上で契約書に記載しておくことが 望ましいです。 |
【参考】主な関係法令・ガイドライン等
・労働契約法(平成 19 年法律第 128 号)第 5 条では、「使用者は、労働契約に伴い、労働者がその生命、身体等の安全を確保しつつ労働することができるよう、必要な配慮をするものとする。」とされています。
・労働契約法の施行について(平成 30 年 12 月 28 日一部改正、厚生労働省労働基準局長)(10 頁)では、「法第 5 条の「生命、身体等の安全」には、心身の健康も含まれるものであること。」とされています。
・労働安全衛生法(昭和 47 年法律第 57 号)第 4 条では、「労働者は、労働災害を防止するため必要な事項を守るほか、事業者その他の関係者が実施する労働災害の防止に関する措置に協力するように努めなければならない。」とされています。
・ハラスメントに関する主な規定として、労働施策の総合的な推進並びに労働者の雇用の安定及び職業生活の充実等に関する法律
(昭和 41 年法律第 132 号)第 30 条の 2(職場における優越的な関係を背景とした言動に起因する問題に関する雇用管理上の措
置等)、雇用の分野における男女の均等な機会及び待遇の確保等に関する法律(昭和 47 年法律第 113 号)第 11 条(職場における性的な言動に起因する問題に関する雇用管理上の措置等)、第 11 条の 3(職場における妊娠、出産等に関する言動に起因する問題に関する雇用管理上の措置等)、育児休業、介護休業等育児又は家族介護を行う労働者の福祉に関する法律(平成 3 年法律第 76
号)第 25 条(職場における育児休業等に関する言動に起因する問題に関する雇用管理上の措置等)があります。
・事業主が職場における性的な言動に起因する問題に関して雇用管理上講ずべき措置等についての指針(平成 18 年厚生労働省告示
第 615 号)、事業主が職場における妊娠、出産等に関する言動に起因する問題に関して雇用管理上講ずべき措置等についての指針
(平成 28 年厚生労働省告示第 312 号)及び事業主が職場における優越的な関係を背景とした言動に起因する問題に関して雇用管理上講ずべき措置等についての指針(令和2年厚生労働省告示第5号)では、「事業主は、当該事業主が雇用する労働者が、他の労働者(他の事業主が雇用する労働者及び求職者を含む。)のみならず、個人事業主、インターンシップを行っている者等の労働者以外の者に対する言動についても必要な注意を払うよう配慮する」ことが望ましいとされています。
・劇場等演出空間の運用および安全に関するガイドライン(平成 29 年 11 月劇場等演出空間運用基準協議会)(20 頁)では、「制作とは、公演の企画を立案し、その実行を統括する業務である。従って、その任に当たる者は、公演制作における包括的な責任を持つ。制作者は制作事業者の指名により、統括安全衛生責任者としての任を負い、公演全体の安全衛生管理体制を整備し、労働災害防止措置を実施する必要がある。演出家、あるいは振付家、音楽監督その他、本節に列記する役割を負うにふさわしい者を選定し、彼らとともに公演制作過程における安全衛生に努める。具体的には、安全衛生管理のために次の事項を統括する。
1. 制作作業における危険、および健康障害防止措置の実施
2. 部門間の連絡および調整と、安全衛生管理に配慮した適切なスケジュール作成
3. 安全衛生管理者の選任
4. 事業者がおこなう安全衛生教育の指導および援助
5. 危機管理対策の策定
6. その他労働災害防止に必要な事項
公演制作過程全体の安全衛生のために、安全衛生管理者らがどのように役割を担うことが適切かを、自覚的に判断することが求められる。
プロデューサー、企画制作者、あるいは団体や劇場の芸術監督等が担う。」とされています。
・放送番組における出演契約ガイドライン(平成 20 年 2 月、映像コンテンツ大国を実現するための検討委員会)では、「放送事業者・番組製作会社は番組製作にあたり、実演家に危険を及ぼすことのないよう配慮し、安全衛生管理を行うことを確認する。」、また、「安全衛生管理を行う放送事業者・番組製作会社が事故補償責任を負うことを確認する。」とされています。
ひな型例 | 解説 |
(権利)第○条 【利用許諾の場合】 1 (スタッフ)は(発注者)又は(発注者)が指定する者が、本業務において生じる著作物に関して次に掲げることを行うことを許諾する。 (1)著作物の複製 (2)著作物の次に掲げる上演、演奏、上映及び口述 (ア)○○○における上演(日時:○○○) (3)著作物の原作品又は複製物の次に掲げる展示 (ア)○○○における展示(日時:○○○) (4)著作物の次に掲げる放送・有線放送及び放送同時配信等、並びにインターネット上での公衆送信 (ア)放送・有線放送(放送局名:○○○) (イ)放送同時配信等(期間:○○○、配信サイト:○○○) (ウ)インターネット上のホームページへの掲載 (期間:○○○~○○○) (5)著作物の原作品又は複製物の譲渡、貸与及び頒布 (6)著作物の翻訳、編曲、変形及び翻案 (7)前号により作成された二次的著作物の利用 2 前項において許諾された以外の利用については、(発注者)及び(スタッフ)が協議の上、決定するものとする。 【xxxxの場合】 1 (スタッフ)は(発注者)に対し、本業務から生ずる全ての著作物に係る著作権を譲渡する。 3(【権利譲渡の場合】は 2) (スタッフ)は、(発注者)に対し、本業務により生ずる著作物が、第三者の著作権、プライバシー権、名誉権、パブリシティ権その他いかなる権利をも侵害しないものであることを保証するとともに、万一、本業務により生ずる著作物に関して、第三者から権利の主張、異議、苦情、対価の請求、損害賠償請求等がなされた場合、(スタッフ)は、その責任と負担のもと、これに対処、解決するものとし、(発注者)に対して一切の迷惑をかけないものとする。 【衣装や大道具など、それ自体が財産的な価値を持つ成果物を納入するような場合】 4(【権利譲渡の場合】は 3) 成果物の所有権は、対価の完済により、 (発注者)に移転する。 | ⚫ 各権利の取扱いについて記載します。 ⚫ 創作から生じる著作権は、著作物を無断で利用されない権利(利用してよいかどうかを決定することができる権利)であり、著作者に原始的に帰属するものです。このため、スタッフの著作物の利用方法については、契約段階において発注者とスタッフが協議し、明確にしておく必要があります。 ⚫ 著作物を利用するための契約は、著作者の著作権について、著作者が「利用許諾」をするか「権利譲渡」をするかの二つに大別されます。権利者保護の観点からは各権利が権利者に残る利用許諾とすることが望ましいですが、著作物の利用の円滑化等の観点から、実務上は譲渡とすることもあります。どちらの場合であっても、報酬の設定に当たり、利用許諾や譲渡の対価を十分に考慮する必要があります。 ⚫ 利用許諾の場合は、どの権利をどの範囲で利用することを許諾するのか、明確にする必要があります。その範囲を超えた利用をする場合には、別途利用条件を協議の上、追加報酬を設定することが考えられます。 ⚫ xxxxとする場合について、ひな型では全部譲渡としていますが、権利を特定して一部を譲渡することもあり得ます。なお、著作xx第 27 条の権利(翻訳権、翻案xx)及び第 28 条の権利(二次的著作物の利用に関する原著作者の権利)については、著作権のxxxx契約がされた場合でも、xxxxの対象としての明示(「特掲」(著作xx第 61 条第 2 項)といいます。)がされていない限り、譲渡する者に留保されたものと推定されます。このため、これらの権利を含めて譲渡を受けるためには、契約書において「著作権 (著作xx第 27 条及び第 28 条の権利を含む。)」と明示しておくことが必要です。 ⚫ 権利の対価としてではなく、契約上、別途成果報酬のような形で追加報酬を定めることもできます。 ⚫ 著作xx管理事業者による使用料の分配制度(いわゆる集中管理制度)によって、双方の手間を省きつつ、利用の対価を権利者に還元する仕組みもあります。 ⚫ 著作者人格権といった譲渡することができない権利や、肖像権、パブリシティ権のような人格権由来の権利の取扱いについて確認しておくことが求められます。著作者人格権については、著作物の利用の円滑化等の観点から、例えば「(スタッフ)は、(発注者)又は(発注者)が指定する者による著作物の利用に関して、著作者人格権を行使しない。ただし、(発注者) |
又は(発注者)が指定する者が、著作物の利用に際して、(スタッフ)の名誉又は声望を害した場合はこの限りでない。」と規定することも考えられます。 ⚫ 業務により生ずる著作物が、第三者の権利を侵害しない旨をスタッフが保証することを記載しておきます。 ⚫ 衣装や大道具など、それ自体が財産的な価値を持つ成果物を納入するような場合には、トラブル防止のため、成果物の所有権について明確にしておくことが望ましいです。 |
【参考】主な関係法令・ガイドライン等
・著作xx(昭和 45 年法律第 48 号)では、関連する主な規定として、第 17 条(著作者の権利)、第 21 条(複製権)、第 22 条(上
演権及び演奏権)、第 22 条の 2(上映権)、第 23 条(公衆送信xx)、第 24 条(口述権)、第 25 条(展示権)、第 26 条(頒布権)、
第 26 条の 2(譲渡権)、第 26 条の 3(貸与権)、第 27 条(翻訳権及び翻案xx)、第 28 条(二次的著作物の利用に関する現著作者
の権利)、第 59 条(著作者人格権の一身専属性)、第 61 条(著作権の譲渡)、第 63 条(著作物の利用の許諾)があります。
・文化庁では、著作物の創作または利用を職業としない人々が簡単に著作権に関する契約書を作成できるよう「著作権契約書作成支援システム」を提供しています。
・放送同時配信等の許諾の推定規定の解釈・運用に関するガイドライン(令和 3 年 8 月 25 日策定、文化庁著作権課、総務省情報通
信作品振興課)では、著作xx第 63 条第 5 項の運用に当たって、権利者側の懸念を払拭しつつ、放送事業者が著作物等を安定的に利用することを可能とし、視聴者の利便性に資するよう解釈・運用の指針を示しています。また、同(3 頁)では、放送事業者側が許諾交渉に当たっての留意点として、「対価の支払いを伴う著作物等の利用について、放送のみを行う場合と、放送と放送同時配信等を併せて行う場合の対価の相場が異なる場合には、後者の対価を支払うこと。」とされています。
・フリーランスとして安心して働ける環境を整備するためのガイドライン(令和 3 年 3 月 26 日、内閣官房、xx取引委員会、中小企業庁、厚生労働省)(9 頁)では、独占禁止法(優越的地位の濫用)・下請法上問題となる行為類型として、役務の成果物に係る権利の一方的な取扱いについて、その考え方や優越的地位の濫用として問題となり得る想定例が示されています。
・パブリシティ権は、人格権に由来する権利と解されています(最高裁平成 24 年 2 月 2 日判決等)。
ひな型例 | 解説 |
(契約内容の変更)第○条 1 本契約の内容を変更する事由が生じた場合は、(発注者)と(スタッフ)において協議し、合意の上、変更することができるものとし、変更された内容は、(発注者)が(スタッフ)に対し、書面で通知するものとする。 2 (発注者)と(スタッフ)は、当該変更による(スタッフ)の負担の増減等を十分に勘案・協議し、必要に応じて第○条で定める報酬等について見直すものとする。 | ⚫ 契約の変更について記載します。 ⚫ 文化芸術に関する業務は、契約締結後に契約内容を変更する必要が生じることが考えられます。このような場合に、発注者とスタッフが協議ができるよう契約書に記載しておく必要があります。 ⚫ 発注者とスタッフが協議の上、合意した内容については、変更後の契約内容の明確化やトラブル防止の観点から、書面により明確にしておくことが重要です。 ⚫ 内容の変更に当たっては、変更によるスタッフの負担の増減等を十分に勘案し、必要があれば適切に報酬等に反映していくことが望ましく、発注者はスタッフと十分に協議することが求められます。 |
【参考】主な関係法令・ガイドライン等
・フリーランスとして安心して働ける環境を整備するためのガイドライン(令和 3 年 3 月 26 日、内閣官房、xx取引委員会、中小企業庁、厚生労働省)(14 頁)では、「取引上の地位が優越している発注事業者が、一方的に、取引の条件を設定し、若しくは変更し、又は取引を実施する場合に、当該フリーランスに正常な商慣習に照らして不当に不利益を与えることとなるときは、優越的地位の濫用として問題となる(独占禁止法第2条第9項第5号ハ)。」とされています。
実演家の出演に関する契約書のひな型例及び解説
○このひな型例及び解説は、発注者(公演、番組、映画等の制作者や主催者である事業者等)と個人で活動する実演家(公演、番組、映画等に出演する者)との間の出演に関する業務委託契約に関するものです。
○文化芸術分野における取引の適正化等の観点から契約に必要な基本的事項を盛り込んでいる参考例です。文化芸術分野の取引は、分野、職種、案件等により、業務内容や期間等が様々であることから、個々の状況に合わせてご活用下さい(例えば、発注者が実演家に継続的に業務を依頼する場合に、共通する事項を「基本契約」、公演日、場所、報酬等の個別の事項を「個別契約」(発注書)として契約する等)。
○書面は、契約書、確認書、発注書など様々なものが考えられ、交付の方法も紙による交付に加え、メールや SNS のメッセージ等の電磁的記録によるものなどが考えられます。少なくとも契約が成立したこと、業務内容や報酬等の基本的な事項に関する記録を書面により残しておくことが重要です。
○なお、xxxxxxと発注者等との契約等のトラブルについては、フリーランスの方が弁護士にワンストップで相談できる窓口として、「フリーランス・トラブル 110 番」が設置されています。
ひな型例 | 解説 |
(業務内容)第○条 1 (発注者)は、(実演家)に対し、次に定める出演に関する業務(以下「出演業務」という。)を委託する。 (1)作品名(公演名、番組名、映画名等):○○○ (2)場所(出演会場、放送局等):○○○ (3)業務の内容及び期間 【公演・撮影等】※本番 ○○年○月○日から○○年○月○日まで ○○○(具体的な業務の内容を記載) 【稽古又はリハーサルがある場合】 稽古又はリハーサル開始日(時期) 【未定の事項がある場合】 ○○○(未定の事項及び未定の理由を記載) 2 出演業務のうち「未定」の事項については、概ね○○年○月○日頃までに(発注者)及び(実演家)が協議の上、決定し、 (発注者)が(実演家)に対し書面で通知するものとする。 | ⚫ 業務内容について記載します。 ⚫ 業務内容は、発注者及び実演家がお互いに依頼内容を理解し、具体的に何をするのかや業務に従事する期間等が明確になるようできる限り具体的に記載します。 ⚫ 業務の内容には、公演、映画撮影等の業務に加えて、稽古、リハーサル等の業務がある場合には、契約段階においてその時期を明確化しておく必要があります。 ⚫ 具体的な業務内容を明確にできないものがある場合には、その内容が明確にならない理由や内容が明確になると見込まれる予定期日について契約書に記載し、明確にすることができる段階で、発注者と実演家が十分な協議をした上で、速やかに業務内容を明確にできるようにしておきます。具体的な業務内容を明確にできないものがある場合について、下請法では、発注時に下請事業者の給付の内容等が定められないことにつき正当な理由があるものについては、その記載を要しないものとされていること、その場合には、親事業者は、当該事項を定められない理由、当該事項を定めることとなる予定期日を発注時の書面に記載しなければならないとされている趣旨を踏まえ、ひな型においても記載することを求めています。(未定の理由の記載例:「公演名、公演期間は決まっているが、業務の内容が具体的に決定していないため」等) ⚫ 業務内容を特定するため必要に応じて、広告に関する出演契約の場合には、広告主名、その他の出演契約の場合には、放送局名、公演主催者名等を記載することも考えられます。 ⚫ 創作物を作り上げていく中で業務内容を変更する必要が生じることも想定されます。業務内容の変更が生じた場合には、発注者と実演家が協議し、合意した変更内容について発注者が書面で通知する必要があります。 |
【参考】主な関係法令・ガイドライン等
・下請代金支払遅延等防止法(昭和 31 年法律第 120 号)第 3 条第1項では、「親事業者は、下請事業者に対し製造委託等をした場合は、直ちに、xx取引委員会規則で定めるところにより下請事業者の給付の内容、下請代金の額、支払期日及び支払方法その他の事項を記載した書面を下請事業者に交付しなければならない。ただし、これらの事項のうちその内容が定められないことにつき正当な理由があるものについては、その記載を要しないものとし、この場合には、親事業者は、当該事項の内容が定められた後直ちに、当該事項を記載した書面を下請事業者に交付しなければならない。」とされています。
・下請代金支払遅延等防止法(昭和 31 年法律第 120 号)第 3 条第 2 項では、下請事業者の承諾を得るなどすれば書面に記載すべき事項を書面に代えて電磁的方法によって提供することが認められており、下請取引における電磁的記録の提供に関する留意事項
(平成 13 年 3 月 30 日xx取引委員会)では、電磁的方法によって提供する場合の留意事項について示されています。
・下請代金支払遅延等防止法に関する運用基準(平成 15 年 12 月 11 日xx取引委員会事務総長通達第 18 号)第 3 の 2(2)では、
「「その内容が定められないことについて正当な理由がある」とは、取引の性質上、製造委託等をした時点では必要記載事項の内容について決定することができないと客観的に認められる理由がある場合であり、次のような場合はこれに該当する。ただし、このような場合であっても、親事業者は、特定事項がある場合には、特定事項の内容が定められない理由及び特定事項の内容を定めることとなる予定期日を当初書面に記載する必要がある。また、これらの特定事項については、下請事業者と十分な協議をした上で、速やかに定めなくてはならず、定めた後は、「直ちに」、当該特定事項を記載した補充書面を下請事業者に交付しなければならない。」とされており、上記の次のような場合の例として、「○ 広告制作物の作成委託において、委託した時点では制作物の具体的内容が決定できない等のため、「下請事業者の給付の内容」、「下請代金の額」又は「下請事業者の給付を受領する期日」が定まっていない場合」、「○ 放送番組の作成委託において、タイトル、放送時間、コンセプトについては決まっているが、委託した時点では、放送番組の具体的な内容については決定できず、「下請代金の額」が定まっていない場合」等が示されています。
・フリーランスとして安心して働ける環境を整備するためのガイドライン(令和 3 年 3 月 26 日、内閣官房、xx取引委員会、中小企業庁、厚生労働省)(7~8 頁)では、独占禁止法(優越的地位の濫用)・下請法上問題となる行為類型として、やり直しの要請について、その考え方や優越的地位の濫用として問題となり得る想定例が示されています。
ひな型例 | 解説 |
(報酬等)第○条 【実演のみの場合】 1 (発注者)は、(実演家)に対し、出演業務の報酬として、金○○○,○○○円(消費税等別)を支払う。 【報酬に利用許諾又は権利譲渡の対価を含める場合】 1 (発注者)は、(実演家)に対し、出演業務の報酬及び第○条第 1 項で定める(利用許諾又は権利譲渡)の対価として、金○○○,○○○円(消費税等別)を支払う。 【報酬に利用許諾又は権利譲渡の対価を報酬と分けて明示する場合】 1 (発注者)は、(実演家)に対し、出演業務の報酬として金 ○○○,○○○円(消費税等別)、第○条第 1 項で定める(利用許諾又は権利譲渡)の対価として金○○○,○○○円(消費税等別)を支払う。 【報酬額を定められない正当な理由がある場合】 1 (発注者)と(実演家)は、出演業務の報酬を、概ね○○年○月○日頃までに、協議の上、決定し、(発注者)は、(実演家)に対し、決定した金額を支払う。報酬額を定められない理由は下記のとおりである。 ○○○(理由を記載) 2 ○○○、○○○の諸経費は(実演家)の負担とする。 3 前項に定めるもののほか、出演業務に要する諸経費は、別に合意したものを除き、(発注者)の負担とする。 4 (発注者)は(実演家)に対し、第 1 項の報酬、前項の諸経費のうち(実演家)が立て替えて負担した経費を、出演業務の遂行が完了した日の翌月○日に支払うものとする。ただし、支払日が金融機関の休業日である場合、支払期日は前営業日とする。 【分割払の例】 (発注者)は(実演家)に対し、第1項の報酬、前項の諸経費のうち(実演家)が立て替えて負担した経費を、以下の期日に支払うものとする。ただし、支払日が金融機関の休業日である場合、支払期日は前営業日とする。 | ⚫ 報酬等について記載します。 ⚫ 報酬額は、業務内容、専門性、著作xxの権利の利用許諾・譲渡・二次利用の有無、経費負担等を十分に勘案した上で適正なものとなっているか発注者と実演家が十分に協議し決定する必要があります。また、権利の利用許諾又は譲渡がある場合には、その対価について、明確な合意がされることが望ましいです。なお、成果報酬のような形で別途追加報酬を契約上定めることもできます。 ⚫ 業務内容と同様に、報酬額を明確にできない場合について、下請法では、発注時に下請事業者の給付の内容等が定められないことにつき正当な理由があるものについては、その記載を要しないものとされていること、その場合には、親事業者は、当該事項を定められない理由、当該事項を定めることとなる予定期日を発注時の書面に記載しなければならないとされている趣旨を踏まえ、ひな型においても記載することを求めています。 ⚫ 報酬額は本来、契約時点で定めておくべきですが、定められないことについて正当な理由がある場合には、定められない理由、報酬が決定する予定期日を記載し、報酬が曖昧なままに業務を実施することを避けるようにする必要があります。(未定の理由の記載例:「タイトル、放送時間、コンセプトについては決まっているが、放送番組の具体的な内容について決定していないため」等) ⚫ 分野や職種によっては、事業協同組合や労働組合 (ユニオン)が発注者との間で団体協約や労働協約を締結しており、その中で報酬に関する基準が定められている場合がありますので、該当する組合員の報酬決定の際にはそれらを踏まえる必要があります。 ⚫ また、団体内の報酬に関するルールによって報酬額が決まる場合もあります。 ⚫ なお、契約当初の想定を超えた実演の利用が生じた場合に備え、契約段階においてその協議方法について明確にしておくことが望ましいです。団体協約や著作xx管理事業者による使用料の分配制度(いわゆる集中管理制度)によって、双方の手間を省きつつ、利用の対価を権利者に還元する仕組みもあります。 ⚫ 諸経費は、交通費、衣装代、メイク代、その他当該出演業務に必要となる経費のうち、発注者、実演家それぞれが負担するものについて十分に協議した上で具体的に記載します。 ⚫ 報酬等の支払期日について、下請法では、下請事業者の給付を受領した日(役務提供委託の場合は、下請事業者がその委託を受けた役務の提供をした日)から起算して、60 日の期間内において、かつ、できる限り短い期間内において、定められなければならない、とされている趣旨を踏まえ、業務完了後可能な限り早期に支払われるよう具体的な支払期日を契約書に記載することが望ましいです。支払期日が、金融機関の休業日に当たることがあります。ひな型では、支払遅延防止の観点から前営業 |
①金○○○,○○○円 契約締結日の属する月の翌月末日 / ○○年○○月○○日 ②金○○○,○○○円 ○○年○○月○○日 ③残額 出演業務の遂行が完了した月の翌月末日 / ○○年○○月○○日 5 前項の支払は(実演家)の指定する銀行口座に振り込む方法によるものとし、振込手数料は(発注者)の負担とする。 | 日としています。翌営業日とする場合は、下請法の考え方を踏まえ順延する期間を 2 日以内とすることが望ましいです。また、業務が長期にわたる場合等も想定されますので、業務の進捗状況等に応じて分割払とすることも考えられます。 ⚫ 報酬等の支払方法については、現金による直接支払、銀行振込など具体的な支払方法について記載します。なお、銀行振込の場合、振込手数料は、原則として、実演家が負担する旨の合意がない限り発注者が負担すべきものですが、どちらが負担するか発注者と実演家が協議の上、契約書に記載しておきます。 |
【参考】主な関係法令・ガイドライン等
・下請代金支払遅延等防止法(昭和 31 年法律第 120 号)第 3 条第 1 項では、「親事業者は、下請事業者に対し製造委託等をした場合は、直ちに、xx取引委員会規則で定めるところにより下請事業者の給付の内容、下請代金の額、支払期日及び支払方法その他の事項を記載した書面を下請事業者に交付しなければならない。ただし、これらの事項のうちその内容が定められないことにつき正当な理由があるものについては、その記載を要しないものとし、この場合には、親事業者は、当該事項の内容が定められた後直ちに、当該事項を記載した書面を下請事業者に交付しなければならない。」とされています。
・下請代金支払遅延等防止法に関する運用基準(平成 15 年 12 月 11 日xx取引委員会事務総長通達第 18 号)第 3 の 2(2)では、
「「その内容が定められないことについて正当な理由がある」とは、取引の性質上、製造委託等をした時点では必要記載事項の内容について決定することができないと客観的に認められる理由がある場合であり、次のような場合はこれに該当する。ただし、このような場合であっても、親事業者は、特定事項がある場合には、特定事項の内容が定められない理由及び特定事項の内容を定めることとなる予定期日を当初書面に記載する必要がある。また、これらの特定事項については、下請事業者と十分な協議をした上で、速やかに定めなくてはならず、定めた後は、「直ちに」、当該特定事項を記載した補充書面を下請事業者に交付しなければならない。」とされており、上記の次のような場合の例として、「○ 広告制作物の作成委託において、委託した時点では制作物の具体的内容が決定できない等のため、「下請事業者の給付の内容」、「下請代金の額」又は「下請事業者の給付を受領する期日」が定まっていない場合」、「○ 放送番組の作成委託において、タイトル、放送時間、コンセプトについては決まっているが、委託した時点では、放送番組の具体的な内容については決定できず、「下請代金の額」が定まっていない場合」等が示されています。
・フリーランスとして安心して働ける環境を整備するためのガイドライン(令和 3 年 3 月 26 日、内閣官房、xx取引委員会、中小企業庁、厚生労働省)(4~7 頁)では、独占禁止法(優越的地位の濫用)・下請法上問題となる行為類型として、報酬の支払遅延、報酬の減額、著しく低い報酬の一方的な決定について、その考え方や優越的地位の濫用として問題となり得る想定例が示されています。
・役務の委託取引における優越的地位の濫用に関する独占禁止法上の指針(平成 10 年 3 月 17 日、xx取引委員会)では、代金の支払遅延、代金の減額要請、著しく低い対価での取引の要請等について、優越的地位の濫用規制の観点からの考え方や独占禁止法上問題となる場合が示されています。
・放送同時配信等の許諾の推定規定の解釈・運用に関するガイドライン(令和 3 年 8 月 25 日策定、文化庁著作権課、総務省情報通信作品振興課)(3 頁)では、放送事業者側が許諾交渉に当たっての留意点として、「対価の支払いを伴う著作物等の利用について、放送のみを行う場合と、放送と放送同時配信等を併せて行う場合の対価の相場が異なる場合には、後者の対価を支払うこと。」とされています。
・下請代金支払遅延等防止法(昭和 31 年法律第 120 号)第 2 条の 2 第 1 項では、「下請代金の支払期日は、親事業者が下請事業者の給付の内容について検査をするかどうかを問わず、親事業者が下請事業者の給付を受領した日(役務提供委託の場合は、下請事業者がその委託を受けた役務の提供をした日。次項において同じ。)から起算して、60 日の期間内において、かつ、できる限り短い期間内において、定められなければならない。」とされています。
・下請代金支払遅延等防止法に関する運用基準(平成 15 年 12 月 11 日xx取引委員会事務総長通達第 18 号)第 4 の 2(5)では、
「次のような場合は、下請代金の支払遅延に当たる。 カ 親事業者と下請事業者との間で、支払期日が金融機関の休業日に当たった場合に、支払期日を金融機関の翌営業日に順延することについてあらかじめ書面で合意していないにもかかわらず、あらかじめ定めた支払期日までに下請代金を支払わないとき。」とされています。
・民法(明治 29 年法律第 89 号)第 485 条では、「弁済の費用について別段の意思表示がないときは、その費用は、債務者の負担とする。ただし、債権者が住所の移転その他の行為によって弁済の費用を増加させたときは、その増加額は、債権者の負担とする。」とされています。
ひな型例 | 解説 |
(不可抗力による公演等の中止・延期による報酬の取扱い)第○条 1 感染症の流行、台風、地震等の天災など当事者双方の責めに帰することができない事由により、公演等が中止・延期となり出演業務ができなくなったときは、(発注者)は当該業務に関する報酬の請求を拒むことができる。ただし、(実演家)は、既に出演業務を行った割合に応じて、報酬を請求することができる。 2 前項の規定は、(発注者)及び(実演家)が、報酬の支払の要否及びその額について、中止・延期となった日から公演等の当日までの期間、中止・延期となった日までに(実演家)が実施した業務の履行割合、中止・延期により(実演家)が負担することとなる経費、公演等のために(実演家)が確保していた予定の日数、公演等が実施されれば得られる予定であった報酬額、(発注者)の当該公演等に関する収入の有無、中止公演等に代わる延期公演等の実施の有無等を勘案し、協議の上、決定した場合には適用しない。 | ⚫ 不可抗力による公演等の中止・延期による報酬の取扱いについて記載します。 ⚫ 当事者双方の責めに帰することができない事由や発注者の責めに帰すべき事由により出演業務の履行ができなくなった場合に、契約に特段の定めがなければ、基本的に民法の各規定によることとなります。 ⚫ 不可抗力により公演等が中止・延期となった場合に、実演家が一方的にしわ寄せを被ることのないよう配慮すべきであり、契約段階において、公演等が中止・延期となった場合の報酬の取扱いについて、発注者と実演家が十分に協議し、契約書に記載しておく必要があります。 ⚫ 公演等の中止・延期が不可抗力によるものかは個別の事情によって判断されますが、第1項では、民法を踏まえ、当事者双方の責めに帰することができない事由により公演等が中止・延期となり出演業務ができなくなったときは、発注者は当該業務に関する報酬の請求を拒むことができること、ただし、実演家は、既に出演業務を行った割合に応じて、報酬を請求することができることを定めています。なお、第 1 項のただし書きについては履行割合型の準委任契約を想定して記載しています。請負契約又は成果報酬型の準委任契約の場合には、「ただし、 (実演家)は既にした出演業務の結果のうち可分な部分において(発注者)が利益を受けるときは、その利益の割合に応じて報酬を請求することができる。」とすることも考えられます。 ⚫ 第 2 項では、不可抗力による中止・延期の場合に、発注者が当該公演等に関する収入が一切ない場合等も想定されることから、報酬の支払の要否及びその額について、協議の上、決定した場合に関する規定を定めています。発注者及び実演家が報酬の取扱いについて協議するに当たっては、例えば、中止・延期となった日から公演等の当日までの期間、中止・延期までに実演家が実施した業務の履行割合、中止・延期により実演家が負担することとなる経費、公演等のために実演家が確保していた日数、公演等が実施されれば得られる予定であった報酬額、発注者の当該公演等に関する収入の有無、中止公演等に代わる延期公演等の実施の有無等を勘案し、決定することが望ましいです。 ⚫ ひな型では、中止・延期となった後に、様々な要素を総合的に勘案し、報酬の取扱いを決定することとしていますが、契約段階において、例えば、業務が既に完了している場合は全額を負担する、中止・延期となった際の交通費、宿泊費や衣装レンタル等のキャンセル料を負担する、公演等当日の○○日前から当日までは報酬額の○○%を負担する、公演等の出演料の○ ○%を負担するなど、発注者と実演家が協議し、事前に合意できるものがある場合には、その負担額や割合等について契約書に記載して おくことも考えられます。 |
【参考】主な関係法令・ガイドライン等
・民法(明治 29 年法律第 89 号)では以下の規定があります。
(債務者の危険負担等)
第 536 条 当事者双方の責めに帰することができない事由によって債務を履行することができなくなったときは、債権者は、反対給付の履行を拒むことができる。
2 債権者の責めに帰すべき事由によって債務を履行することができなくなったときは、債権者は、反対給付の履行を拒むことができない。この場合において、債務者は、自己の債務を免れたことによって利益を得たときは、これを債権者に償還しなければならない。
(注文者が受ける利益の割合に応じた報酬)
第 634 条 次に掲げる場合において、請負人が既にした仕事の結果のうち可分な部分の給付によって注文者が利益を受けるときは、その部分を仕事の完成とみなす。この場合において、請負人は、注文者が受ける利益の割合に応じて報酬を請求することができる。
一 注文者の責めに帰することができない事由によって仕事を完成することができなくなったとき。二 請負が仕事の完成前に解除されたとき。
(受任者の報酬)
第 648 条 受任者は、特約がなければ、委任者に対して報酬を請求することができない。
2 受任者は、報酬を受けるべき場合には、委任事務を履行した後でなければ、これを請求することができない。ただし、期間によって報酬を定めたときは、第 624 条第 2 項の規定を準用する。
3 受任者は、次に掲げる場合には、既にした履行の割合に応じて報酬を請求することができる。
一 委任者の責めに帰することができない事由によって委任事務の履行をすることができなくなったとき。二 委任が履行の中途で終了したとき。
(成果等に対する報酬)
第 648 条の 2 委任事務の履行により得られる成果に対して報酬を支払うことを約した場合において、その成果が引渡しを要するときは、報酬は、その成果の引渡しと同時に、支払わなければならない。
2 第 634 条の規定は、委任事務の履行により得られる成果に対して報酬を支払うことを約した場合について準用する。
・新型コロナウイルス感染症により影響を受ける個人事業主・xxxxxxとの取引に関する配慮について(令和 2 年 3 月 10 日、経済産業大臣、厚生労働大臣、xx取引委員会委員長)において、新型コロナウイルス感染症により影響を受ける個人事業主・フリーランスと取引を行う事業者に対して、取引上の適切な配慮を行うよう、経済産業大臣、厚生労働大臣、xx取引委員会委員長連名で関係事業者団体に対して要請が行われています。
・新型コロナウイルス感染症拡大に関連する下請取引Q&A(令和 2 年 5 月 13 日、xx取引委員会、中小企業庁)では、新型コロナウイルス感染症の拡大に伴う発注の取消し等に係る下請法の考え方として、「問1 新型コロナウイルス感染症の拡大に伴い,減産計画の策定,一部の部品の調達不能等により(中略)役務提供委託の発注の取消しをすることは下請法上,問題となりますか。」、「答(中略)役務提供委託においては,受領の概念がありませんが,発注の取消しをする場合に,発注を取り消したことにより下請事業者に生じた費用を負担しないときは,下請事業者の利益を不当に害することとなり,不当な給付内容の変更(下請法第 4 条第 2 項第 4 号)として,下請法上,問題となります。」等と示しています。
ひな型例 | 解説 |
(安全・衛生)第○条 1 (発注者)は、出演業務の内容、実演家の年齢・性別等を勘案して、(実演家)がその生命、身体等の安全を確保しつつ出演業務を履行することができるよう、事故やハラスメントの防止等必要な配慮をするものとする。 2 (発注者)は、自らが制作責任者又は製作責任者である場合は自らが、そうでない場合は制作責任者又は製作責任者と協議の上、xx衛生管理を行う者を置き、(実演家)に対し、書面により通知する。 【(発注者)が保険に加入する場合】 3 (発注者)は、出演業務に係る災害補償として、(発注者)の保険料負担により、(実演家)を被保険者とする○○○保険に加入するものとする。 【(実演家)が保険に加入する場合】 3 (実演家)は、出演業務に係る災害補償として、(実演家)の保険料負担により、(実演家)を被保険者とする○○○保険に加入するものとする。 | ⚫ 安全・衛生に関することについて記載します。 ⚫ 第 1 項は、実演家が個人で出演業務に従事することを踏まえて、労働契約法第 5 条に準じて、発注者に対して実演家の生命、身体等の安全配慮を求めるものです。労働契約法第 5条の「生命・身体等の安全」には、心身の健康も含まれるものとされていますので、ひな型においてもこれに準じて心身の健康も含めて配慮を求めるものとしています。 ⚫ 第 2 項は、現場の安全衛生に関する責任体制の確立のため、実演家の安全衛生管理を行う者を特定し、書面により通知することが望ましく、例えば「劇場等演出空間の運用および安全に関するガイドライン」では制作者が安全管理責任を、「放送番組における出演契約ガイドライン」では放送事業者・番組製作会社が安全衛生管理、事故補償責任を負う考え方が示されています。 ⚫ ひな型では、安全衛生管理者について書面により通知することとしていますが、契約段階において安全衛生管理者が特定されている場合には、その氏名等について契約書に記載しておくことも考えられます。 ⚫ 事故防止対策等については、「芸能従事者の就業中の事故防止対策等の徹底について(令和 3 年 3 月 26 日、厚生労働省労働基準局安全衛生部安全課長他)」にあるとおり、フリーランスを含めた芸能従事者の就業中の事故防止対策等を徹底するため、現場における災害防止措置として、芸能従事者が行う資材による危険の防止、演技、撮影、照明等の作業における危険の防止の取組、安全衛生に関する対策の確立等として、制作管理者が行う安全衛生に関する責任体制の確立、安全衛生教育の実施、作業環境やトラブル・ハラスメント相談体制の整備等の取組が求められています。 ⚫ ハラスメントについては、防止措置を講じることが事業主に義務づけられており、事業主が職場におけるハラスメントを行ってはならない旨の方針を行う際に、自ら雇用する労働者以外に、他の事業主が雇用する労働者やフリーランスを含む個人事業主等に対しても同様の方針を併せて示すことが望ましい取組とされています。 ⚫ 第 3 項は、実演家の事故等に備え、保険に加入することが望ましく、発注者が保険に加入したり、実演家が労災保険の特別加入(令和 3 年 4 月 1 日から労災保険の特別加入が拡大し、芸能関係作業従事者(芸能実演関係、芸能製作関係)が対象となりました)や民間の保険に加入したりすることが考えられます。なお、実演家が保険に入る場合の保険料を発注者が負担することも考えられます。このような保険の取扱いについては、契約段階においてその費用負担も含め発注者と実演家が、十分に協議した上で契約書に記載しておくことが望ましいです。 |
【参考】主な関係法令・ガイドライン等
・労働契約法(平成 19 年法律第 128 号)第 5 条では、「使用者は、労働契約に伴い、労働者がその生命、身体等の安全を確保しつつ労働することができるよう、必要な配慮をするものとする。」とされています。
・労働契約法の施行について(平成 30 年 12 月 28 日一部改正、厚生労働省労働基準局長)(10 頁)では、「法第 5 条の「生命、身体等の安全」には、心身の健康も含まれるものであること。」とされています。
・ハラスメントに関する主な規定として、労働施策の総合的な推進並びに労働者の雇用の安定及び職業生活の充実等に関する法律
(昭和 41 年法律第 132 号)第 30 条の 2(職場における優越的な関係を背景とした言動に起因する問題に関する雇用管理上の措
置等)、雇用の分野における男女の均等な機会及び待遇の確保等に関する法律(昭和 47 年法律第 113 号)第 11 条(職場における性的な言動に起因する問題に関する雇用管理上の措置等)、第 11 条の 3(職場における妊娠、出産等に関する言動に起因する問題に関する雇用管理上の措置等)、育児休業、介護休業等育児又は家族介護を行う労働者の福祉に関する法律(平成 3 年法律第 76
号)第 25 条(職場における育児休業等に関する言動に起因する問題に関する雇用管理上の措置等)があります。
・事業主が職場における性的な言動に起因する問題に関して雇用管理上講ずべき措置等についての指針(平成 18 年厚生労働省告示
第 615 号)、事業主が職場における妊娠、出産等に関する言動に起因する問題に関して雇用管理上講ずべき措置等についての指針
(平成 28 年厚生労働省告示第 312 号)及び事業主が職場における優越的な関係を背景とした言動に起因する問題に関して雇用管理上講ずべき措置等についての指針(令和2年厚生労働省告示第5号)では、「事業主は、当該事業主が雇用する労働者が、他の労働者(他の事業主が雇用する労働者及び求職者を含む。)のみならず、個人事業主、インターンシップを行っている者等の労働者以外の者に対する言動についても必要な注意を払うよう配慮する」ことが望ましいとされています。
・劇場等演出空間の運用および安全に関するガイドライン(平成 29 年 11 月劇場等演出空間運用基準協議会)(20 頁)では、「制作とは、公演の企画を立案し、その実行を統括する業務である。従って、その任に当たる者は、公演制作における包括的な責任を持つ。制作者は制作事業者の指名により、統括安全衛生責任者としての任を負い、公演全体の安全衛生管理体制を整備し、労働災害防止措置を実施する必要がある。演出家、あるいは振付家、音楽監督その他、本節に列記する役割を負うにふさわしい者を選定し、彼らとともに公演制作過程における安全衛生に努める。具体的には、安全衛生管理のために次の事項を統括する。
1. 制作作業における危険、および健康障害防止措置の実施
2. 部門間の連絡および調整と、安全衛生管理に配慮した適切なスケジュール作成
3. 安全衛生管理者の選任
4. 事業者がおこなう安全衛生教育の指導および援助
5. 危機管理対策の策定
6. その他労働災害防止に必要な事項
公演制作過程全体の安全衛生のために、安全衛生管理者らがどのように役割を担うことが適切かを、自覚的に判断することが求められる。
プロデューサー、企画制作者、あるいは団体や劇場の芸術監督等が担う。」とされています。
・放送番組における出演契約ガイドライン(平成 20 年 2 月、映像コンテンツ大国を実現するための検討委員会)では、「放送事業者・番組製作会社は番組製作にあたり、実演家に危険を及ぼすことのないよう配慮し、安全衛生管理を行うことを確認する。」、また、「安全衛生管理を行う放送事業者・番組製作会社が事故補償責任を負うことを確認する。」とされています。
ひな型例 | 解説 |
(権利)第○条 【利用許諾の場合】 1 (実演家)は(発注者)又は(発注者)が指定する者が、出演業務における実演に関して次に掲げることを行うことを許諾する。 (1)実演の録音及び録画 (2)実演の次に掲げるリアルタイム利用(生中継・生配信) (ア)○○○による中継(日時:○○○) (3)実演を録音又は録画したものの、次に掲げる放送・有線放送及び放送同時配信等、並びにインターネット上での公衆送信 (ア)放送・有線放送(放送局名:○○○) (イ)放送同時配信等 (期間:○○○、配信サイト:○○○) (ウ)インターネット上のホームページへの掲載 (期間:○○○~○○○) (エ)有償又は無償での配布、販売及び貸与 (4)写真の撮影及び次に掲げる利用 (ア)印刷物への掲載 (イ)インターネット上のホームページへの掲載 (期間:○○○~○○○) 2 前項において許諾された以外の利用については、(発注者)及び(実演家)が協議の上、決定するものとする。 【xxxxの場合】 1 (実演家)は(発注者)に対し、出演業務から生ずる全ての実演及び著作物に係る著作隣接権及び著作権を譲渡する。 3(【xxxxの場合】は 2) (実演家)が出演業務において第三者が著作権を有する著作物等を利用する場合は、(発注者)が(発注者)の責任でその利用許諾を得て使用料を支払う等の必要な権利処理を行う。 | ⚫ 各権利の取扱いについて記載します。 ⚫ 出演から生じる著作隣接権や著作権は、実演や著作物を無断で利用されない権利(利用してよいかどうかを決定することができる権利)であり、実演家に原始的に帰属するものです。このため、実演家の実演の利用方法については、契約段階において発注者と実演家が協議し、明確にしておく必要があります。 ⚫ 実演を利用するための契約は、実演家の著作隣接権及び著作権について、実演家が「利用許諾」をするか「権利譲渡」をするかの二つに大別されます。権利者保護の観点からは各権利が権利者に残る利用許諾とすることが望ましいですが、作品等の利用の円滑化等の観点から、実務上は譲渡とすることもあります。どちらの場合であっても、報酬の設定に当たり、利用許諾や譲渡の対価を十分に考慮する必要があります。 ⚫ 利用許諾の場合は、どの権利をどの範囲で利用することを許諾するのか、明確にする必要があります。その範囲を超えた利用をする場合には、別途利用条件を協議の上、追加報酬を設定することが考えられます。 ⚫ xxxxとする場合について、ひな型では全部譲渡としていますが、権利を特定して一部を譲渡することもあり得ます。なお、著作xx第 27 条の権利(翻訳権、翻案xx)及び第 28 条の権利(二次的著作物の利用に関する原著作者の権利)については、著作権のxxxx契約がされた場合でも、xxxxの対象としての明示(「特掲」(著作xx第 61条第 2 項)といいます。)がされていない限り、譲渡する者に留保されたものと推定されます。このため、これらの権利を含めて譲渡を受けるためには、契約書において「著作権(著作xx第 27 条及び第 28 条の権利を含む。)」と明示しておくことが必要です。 ⚫ 著作xx管理事業者による使用料の分配制度(いわゆる集中管理制度)によって、双方の手間を省きつつ、利用の対価を権利者に還元する仕組みもあります。 ⚫ なお、実演家の了解を得て「映画の著作物」に「録音」「録画」された実演については、その後の利用について、実演家に著作隣接権は及ばなくなります(いわゆる「ワンチャンス主義」)。その場合は、その後の実演の利用までを念頭においた契約条件を決めておく必要があります。その際、権利の対価としてではなく、契約上、別途成果報酬のような形で追加報酬を定めることもできます。また、放送事業者は著作xx第 93 条(放送等のための固定)に基づいて放送番組に「録音・録画」した実演については、実演家から未だ「録音・録画の了解」を得ていないために、その後の利用について、改めて実演家の了解を得ることが必要になります。 ⚫ 実演家人格権や著作者人格権といった譲渡することができない権利や、肖像権、パブリシティ権のような人格権由来の権利の取扱いについて確認しておくことが求められます。著作者人格権について |
は、著作物の利用の円滑化等の観点から、例えば 「(実演家)は、(発注者)又は(発注者)が指定する者による著作物の利用に関して、著作者人格権を行使しない。ただし、(発注者)又は(発注者)が指定する者が、著作物の利用に際して、(実演家)の名誉又は声望を害した場合はこの限りでない。」と規定することも考えられます。 ⚫ 曲を演奏したり戯曲を演じたりするなど、実演において第三者が著作権を有する著作物等を利用する場合、誰がその権利処理を行うかを明確にしておく必要があります。一つの曲を大勢で演奏するケースなどが想定されることから、ひな型では発注者が権利処理を行うこととしています。 |
【参考】主な関係法令・ガイドライン等
・著作xx(昭和 45 年法律第 48 号)では、関連する主な規定として、第 17 条(著作者の権利)、第 59 条(著作者人格権の一身専属性)、第 61 条(著作権の譲渡)、第 63 条(著作物の利用の許諾)、第 89 条(著作隣接権)、第 91 条第 1 項(録音権及び録画権)、第 92 条第 1 項(放送権及び有線放送権)、第 92 条の 2 第 1 項(送信可能化権)、第 94 条の 2(放送される実演の有線放送)、第
95 条 1 項(商業用レコードの二次使用)、第 95 条の 2 第 1 項(譲渡権)、第 95 条の 3(商業用レコードの貸与xx)、第 101 条の
2(実演家人格権の一身専属性)があります。
・文化庁では、著作物の創作または利用を職業としない人々が簡単に著作権に関する契約書を作成できるよう「著作権契約書作成支援システム」を提供しています。
・放送同時配信等の許諾の推定規定の解釈・運用に関するガイドライン(令和 3 年 8 月 25 日策定、文化庁著作権課、総務省情報通
信作品振興課)では、著作xx第 63 条第 5 項の運用に当たって、権利者側の懸念を払拭しつつ、放送事業者が著作物等を安定的に利用することを可能とし、視聴者の利便性に資するよう解釈・運用の指針を示しています。また、同(3 頁)では、放送事業者側が許諾交渉に当たっての留意点として、「対価の支払いを伴う著作物等の利用について、放送のみを行う場合と、放送と放送同時配信等を併せて行う場合の対価の相場が異なる場合には、後者の対価を支払うこと。」とされています。
・フリーランスとして安心して働ける環境を整備するためのガイドライン(令和 3 年 3 月 26 日、内閣官房、xx取引委員会、中小企業庁、厚生労働省)(9 頁)では、独占禁止法(優越的地位の濫用)・下請法上問題となる行為類型として、役務の成果物に係る権利の一方的な取扱いについて、その考え方や優越的地位の濫用として問題となり得る想定例が示されています。
・パブリシティ権は、人格権に由来する権利と解されています(最高裁平成 24 年 2 月 2 日判決等)。
ひな型例 | 解説 |
(契約内容の変更)第○条 1 本契約の内容を変更する事由が生じた場合は、(発注者)と(実演家)において協議し、合意の上、変更することができるものとし、変更された内容は、(発注者)が(実演家)に対し、書面で通知するものとする。 2 (発注者)と(実演家)は、当該変更による(実演家)の負担の増減等を十分に勘案・協議し、必要に応じて第○条で定める報酬等について見直すものとする。 | ⚫ 契約の変更について記載します。 ⚫ 文化芸術に関する業務は、契約締結後に契約内容を変更する必要が生じることが考えられます。このような場合に、発注者と実演家が協議ができるよう契約書に記載しておく必要があります。 ⚫ 発注者と実演家が協議の上、合意した内容については、変更後の契約内容の明確化やトラブル防止の観点から、書面により明確にしておくことが重要です。 ⚫ 内容の変更に当たっては、変更による実演家の負担の増減等を十分に勘案し、必要があれば適切に報酬等に反映していくことが望ましく、発注者は実演家と十分に協議することが求められます。 |
【参考】主な関係法令・ガイドライン等
・フリーランスとして安心して働ける環境を整備するためのガイドライン(令和 3 年 3 月 26 日、内閣官房、xx取引委員会、中小企業庁、厚生労働省)(14 頁)では、「取引上の地位が優越している発注事業者が、一方的に、取引の条件を設定し、若しくは変更し、又は取引を実施する場合に、当該フリーランスに正常な商慣習に照らして不当に不利益を与えることとなるときは、優越的地位の濫用として問題となる(独占禁止法第2条第9項第5号ハ)。」とされています。