( 参考答案)1. A は、C に対して、甲建物の所有権( 民法 206 条) に基づく返還請求権として、 甲建物の明渡しを請求している。所有権に基づく返還請求権の要件は 、① 請求者が当該物の所有権を有することと 、② 相手方が当該物を現在占有していることの 2 つである。 C は、現在、甲建物に居住することによりこれを占有している( ② )。 問題は、 A が甲建物の所有権を有するかである( ① )。2. C は、A の所有権を否定するために、甲建物は元々A の所有に属していたが、 A は...
第1問 (事案) 令和3 年5 月1 日、A は、B との間で、A が所有する甲建物に関する売買契約を仮装することについて合意した上で、甲建物を代金2 0 0 0 万円で売買する旨の契約を締結し、甲建物をB に引き渡した。なお、B はA に対して代金2 0 0 0 万円を支払っていない。 B は、A から甲建物の引渡しを受けたことを奇貨として、甲建物の売却代金を得たいと考えるに至った。 そこで、B は、友人であるC に対して、甲建物を代金2 0 0 0万円で買って欲しいと提案した。 C は、経済力に乏しいB が不動産を所有しているのは不自然であると感じたが、友人であるX が自分に隠し事をするはずがないと考え、B に対して特に確認をすることなく、上記提案に応じると返答した。 令和3 年6 月1 日、B は、C との間で甲建物を2 0 0 0 万円で売買する旨の契約を締結し、甲建物をC に引き渡すとともに、Cから代金2 0 0 0 万を受領した。 令和3 年7 月1 日、A は、甲建物にC が居住していることに気が付き、 Cに対して、 甲建物の明渡しを求めた。 なお、 甲建物の登記名義はA のままである。 (設問) A のC に対する甲建物の明渡請求が認められるかについて、理由を付して結論を述べなさい。 | 総まくり 2 6 頁以下 、 論証 集 1 9 頁以下 |
( 参考答案) 1. A は、C に対して、甲建物の所有権( 民法 206 条) に基づく返還請求権として、 甲建物の明渡しを請求している。 所有権に基づく返還請求権の要件は 、① 請求者が当該物の所有権を有することと 、② 相手方が当該物を現在占有していることの 2 つである。 C は、現在、甲建物に居住することによりこれを占有している ( ② )。 問題は、 A が甲建物の所有権を有するかである( ① )。 2. C は、A の所有権を否定するために、甲建物は元々A の所有に属していたが、 A は AB 間の売買契約( 555 条) により甲建物の所有権を喪失したと主張する。 もっとも、A は、B との間で甲建物の売買契約を仮装することについて合意していたのだから、AB 間の売買契約は 、「 相手方と通じてした虚偽の意思表示 」に よるものとして無効になるはずである( 94 条 1 項 )。 3 . そこで、 C は、 自分は「 善意の第三者 」( 94 条 2 項) として保護されると主張する。 (1) C は、 AB 間の甲建物に関する売買契約を前提として B との 間で甲建物に関する売買契約を締結することで、 AB 間の売買契約の有効・無効について法律上の利害関係を有するに至った第三者であるから、 94 条 2 項の「 第三者」 に当たる。 (2 )C は、友人である B が自分に隠し事をするはずがないと考えていたのだから、 AB 間の売買契約が通謀虚偽表示によるものであることについて知らないという意味で、善意である。もっとも 、C は、経済力に乏しい B が不動産を所有しているのは不自然であると感じていたにもかかわらず、B に対して特に確認をしていないから、調査確認義務違反としての過失がある。そこで、 94 条 2 項の「 善意」 が善意かつ無過失を意味するのかが問題となる。 94 条 2 項では 、「 善意」と定められているにとどまる( 96 条 3 項対照 )。 また、 94 条 2 項の趣旨は、 虚偽の外形の作出につき帰責性のある真正権利者の犠牲 におい て虚偽の外形に対する第三者の信頼を保護することで 両者間の利益調整を図ることあるところ 、通 謀までした真正権利者の帰責性は大きいから第三者に無過失まで要求するべきではない 。そ こで 、94 条 2 項の「 善意」 では無過失までは不要と解する したがって、 C は「 善意の第三者」 に当たる。 ( 3 )甲建物の登記名義が A のままであるから、C は甲建物の所有権移転登記を備えていない。そこで 、「善 意の第三者」として 保護されるための登記の要否が問題となる。 | 総まくり 2 6 頁 [ 論 点 1 ]、論証集 1 9 頁 [ 論 点 1 ] 総まくり 2 7 頁 [ 論 点 2 ]、論証集 19 頁 [ 論 点 2 ] |
「 善意の第三者 」と の関係で虚偽表示が有効と扱われる結果、権利がxx移転したことになるから、真正権利者と「 善意の第三者」とは、前主と後主の関係に立ち、二重譲渡のような対抗関係には立たない。 そこで 、「 善意の第三者」 として保護されるためには対抗要件としての登記( 177 条) は不要と解する。 また、真正権利者の帰責性の大きさから、権利保護資格要件としての登記も不要と解する。 したがって、C は、登記なくして「 善意の第三者」として保護される。 (4 ) C は 、「 善意の第三者」として保護されるため、AB 間の売買 契約の無効を対抗されないから、 甲建物 の所有権を取得 でき る。その結果、A は C との関係では甲建物の所有権を失っていることになる。 したがって、 A は甲建物の所有権を有しない ( ① )。 4 . よって、 A の C に対する請求は認められない。 以上 | 総まくり 2 7 頁 [ 論 点 3 ]、論証集 2 0 頁 [ 論 点 3 ] 総まくり 2 7 頁 [ 論 点 4 ]、論証集 2 0 頁 [ 論 点 4 ] |
第2問 (事案) B は、融資を依頼する銀行からの信用を得るために、同居している父A が所有する 甲土地 の登 記名義を一時的にB に移 転し ようと考えた。 そこで、B は、令和3 年5 月1 日、A の書斎にある机の引出しから甲土地の登記済証 、A の実印 、印 鑑登録証明書等を持ち出し、 A B 間の甲土地に関する売買契約書と委任状を偽装した上で、これらを利用して甲土地の登記名義をA からB に移した。 それから数日後 、B がA に対して事情を説明したところ 、A は、後でちゃんと登記名 義を自 分に 戻してくれるのなら構わ ない と述べ、 甲土地の登記がB 名義になっていることを放置した。 その後 、B は 、甲 土地の登記名義がB にあることを奇貨として、甲土地の売却代金を得たいと考え、令和3 年6 月1 日、甲土地を代金3 0 0 0 万円で C に売 却し 、 登記名義をB からC に 移転 した。C は、B との売買契約の際、B から示された甲土地の登記簿を見て、登記名義人であるB が甲土地の所有者であると信じていた。 令和3 年8 月1 日、A は、甲土地の登記がC 名義になっていることに気が付き、C に対して、甲土地に関するC 名義の所有権移転登記を抹消するように求めた。 (設問) A のC に対す る甲 土地に 関するC 名義の所有権移 xx 記の 抹 消登記手続請求が認められるかについて、理由を付して結論を述べなさい。 | 総まくり 2 8 頁以下 、 論 証 集 2 1 頁以下 |
( 参考答案) 1. A は、C に対して、甲土地の所有権( 民法 206 条) に基づく妨害排除請求権として、 甲土地に関する C 名義の所有権移転登記の抹消登記手続を請求している。 所有権に基づく所有権移転登記抹消登記手続請求の要件は 、①請求者が当該不動産の所有権を有することと 、② 当該不動産について相手方名義の登記が現在存在することの 2 つである。 現 在、 甲 土 地に つ いて C 名義 の 所 有権 移 xx 記が 存 在 する ( ② )。 問題は、 A が甲土地の所有権を有するかである( ① )。 2. AB 間には、 売買契約( 555 条) といった所有権喪失原因はない。また、不動産登記には公信力がないから、C が不実の B 名義 の登記を信じて B との間で売買契約を締結したことをもって、当然に C が甲土地の所有権を取得するともいえない。 さらに、 AB 間における通謀虚偽表示がないから、 C が 94 条 2 項の直接適用により甲土地の所有権を取得するともいえない。そうすると、甲土地の所有権は、元々の所有者である A に帰属したままであるのが原則である。 3. もっとも、これでは、B 名義の登記を信頼して甲土地について取引関係に入った C の取引安全が害される。そこで、C を保護するための法律構成が問題となる。 (1) 94 条 2 項の趣旨は、 虚偽の外形作出について帰責性のある真正権利者が 第三者 の信頼保護のために権利を失って もやむを得ないとする権利外観法理にある。 そこで 、㋐不実登記の存在、㋑真正権利者の帰責性及び㋒第三者の正当な信頼がある場合には、 94 条 2 項の類推適用により 、第 三者には不実登記に対応する権利取得が認められると解する。 (2 )B は甲土地の所有者ではないから、甲土地に関する B 名義の 所有権移転登記は不実登記に当たる( ㋐ )。 B 名義の登記は、B が甲土地の登記済証、A の実印及び印鑑登録証明書等を利用して作出したものだから、A が自ら積極的に作出したものではない。もっとも、A は、B 名義の不実登記の存在を認識した上で、B に対して後でちゃんと登記名義を自分に戻してくれるのなら構わないと述べ、B 名義の不実登記を放置したことにより、B 名義の不実登記の存続を承認したといえる。 したがって、 A には帰責性が認められる( ㋑ )。 本問のように真正権利者が認めた外形と第三者の信頼し た外形とが一致する場合には、 真正 権利者の帰責性が大きいから、㋒第三者の正当な信頼としては善意で足り、無過失までは 不要と解する。 | 総まくり 2 9 頁 [ 論 点 8 ]、論証集 2 1 頁 [ 論 点 8 ] 総まくり 3 0 頁[ 論 点 1 0 ]、論証集 2 1 頁 [ 論 点 10 ] |
C は、B との売買契約の際、B から示された甲土地の登記簿を見て、 登記名義人である B が甲土地の所有者であると信じていたのだから、善意である。本問では無過失までは不要であるから、C には、過失の有無にかかわらず、正当な信頼が認められる( Ⓒ )。
したがって、 94 条 2 項の類推適用により、 C は甲土地の所有権を取得する。
その結果、A は、甲土地の所有権を失うから、甲土地の所有権を有しないことになる( ① )。
4 . よって、 A の C に対する請求は認められない。 以上